説明

写真要素

本発明により、支持体と、写真乳剤層と、ハレーション防止アンダーレイヤーおよび/またはペロイド層とを備える写真要素であって、ハレーション防止アンダーレイヤーおよび/またはペロイド層が1g/m2以下の量存在しており、ビヒクルと固体粒子染料とを含んでいる写真要素を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、写真要素に関するものであり、その中でも特にハレーション防止アンダーレイヤー(AHU)および/またはペロイド層を有する写真要素に関する。本発明は、ハレーション防止アンダーレイヤーを有する写真要素の製造方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
フィルムなどの写真要素の表面に捕獲された画像において、ハレーションは、フィルム支持体の背面からの反射光によって明るい物体の画像を取り囲む望ましくない露光である。望ましくない反射光を吸収するAHUをフィルム内に設けることでハレーションの影響を減らすことが知られている。
【0003】
現代の高速コーティング設備での要求を満たすため、AHUの厚みを増して、優れた品質のコーティングであることを保証するとともに、反射光をすべて吸収する染料を坦持している。プリント回路板(PCB)市場のために製造される片面フィルムには、そのようなAHUを有することができる。一般に、AHUは固体粒子染料を含んでおり、特に古いフィルムにおける“スポッティング”のリスクを減らすために、鉄や銅と錯体を形成し、金属イオン封鎖剤のような他の写真用添加物も含むことができる。通常はゼラチンとラテックス・コポリマー混合物からなる材料によるそのようなAHUの乾燥被覆量の典型値は、約2g/m2である。いわゆる“ペロイド”層(乳剤が提供されているのとは反対側のベースに設けたハレーション防止層)ではなくAHUを用いると、従来の両面製品よりも材料の全体的被覆量が少ないコーティングが可能になるために湿度膨張係数(HEC)が小さくなる結果として、片面フィルムの寸法安定性を改善することができる。
【0004】
AHUを有する片面フィルムによって湿度膨張係数が小さくなる結果として寸法安定性が改善されるとはいえ、AHUの厚みによって、望ましくない事態、例えば、湿度によるカールや、相対的に多くの量の材料を必要とするために高い製造コストが発生する可能性がある。
【0005】
米国特許第5,910,398号(Schmidt他)には、ハレーション防止層を有する写真用ガラス・プレートの製造方法が開示されている。米国特許第4,957,856号(Suematsu他)には、感光性ハロゲン化銀乳剤層と、染料を含む下塗り層とを有するハロゲン化銀写真材料が開示されている。米国特許第5,015,562号(Toya他)には、少なくとも一つの感光性ハロゲン化銀乳剤層が載った支持体を含む感光材料が開示されている。媒染剤または染料を含む少なくとも一つの層も提示されている。
【0006】
グラフィック・アーツやPCBの製造で使用するための写真フィルムの一つの問題点は、ペロイド層とハレーション防止層の一方または両方が使用されているかどうかに関係なく、温度および/または湿度に伴ってある程度の寸法不安定性が残ることである。これは、例えばPCBの製造で多層組み立て体を作ろうとするときに各層が不揃いになる可能性があるため特に問題である。
【0007】
一般に、顧客は、フィルムを周囲条件(例えば相対湿度50%、21℃)で保管し、使用するのが好ましいことをアドバイスされる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の問題に対処できる写真要素を提供できると望ましいであろう。特に、寸法安定性が向上していて(すなわち湿度膨張係数および/または温度膨張係数が小さくて)優れたハレーション防止特性を提供する写真要素が望まれる。より詳細には、あまり厳密に制御されていない条件下で運搬、保管、使用する際、温度および/または湿度によって寸法が不安定になりにくい写真要素が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の態様によれば、 グラフィック・アーツまたはPCBの製造で使用する写真要素であって、支持体と;写真乳剤層と;ハレーション防止アンダーレイヤーとペロイド層のうちの少なくとも一方とを備え、当該ハレーション防止アンダーレイヤーおよびペロイド層のそれぞれは、1g/m2以下の量で存在していて、ビヒクルと固体粒子染料とを含んでいる、写真要素が提供される。
【0010】
本発明の第2の態様によれば、グラフィック・アーツまたはPCBの製造で使用する写真要素を製造する方法であって、支持体を1g/m2以下の量のハレーション防止アンダーレイヤーでコーティングし、当該ハレーション防止アンダーレイヤーはビヒクルと固体粒子染料とを含み;そして前記ハレーション防止アンダーレイヤーを少なくとも一つの写真乳剤層でコーティングすることを含み、前記ハレーション防止アンダーレイヤーと前記少なくとも一つの写真乳剤層とが別々に塗布される製造方法が提供される。
【0011】
本発明の第3の態様によれば、グラフィック・アーツまたはPCBの製造で使用する写真要素を製造する方法であって、支持体を1g/m2以下の量のハレーション防止アンダーレイヤーでコーティングし、当該ハレーション防止アンダーレイヤーはビヒクルと固体粒子染料と当該ビヒクルと適合性のある増粘剤を含み;そして前記ハレーション防止アンダーレイヤーを少なくとも一つの写真乳剤層でコーティングすることを含み、前記ハレーション防止アンダーレイヤーと前記少なくとも一つの写真乳剤層(又は複数)とが多層コーティング系において実質的に同時に塗布される製造方法が提供される。
【0012】
本発明の第4の態様によれば、ハレーション防止アンダーレイヤーとして用いる材料の粘性を制御するための増粘剤の使用方法あって、前記材料が、当該材料の湿潤被覆能(wet coverage ability)とは無関係にビヒクルと固体粒子染料を含み、それにより、1g/m2以下の量で前記材料のコーティングを、その上に塗布される少なくとも一つの写真乳剤層と同時に支持体に適用することができる方法が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、従来のハレーション防止アンダーレイヤーよりも薄くて1平方メートル当たりの質量が小さいハレーション防止アンダーレイヤーおよび/またはペロイド層を用いることで優れたハレーション防止特性を有する写真要素が提供される。本発明の写真要素では、ハレーション防止アンダーレイヤーを用いるだけで、ペロイド層を用いることはせずにハレーション防止特性を維持し、片面フィルムで実現される利点が可能になることが好ましい。
【0014】
本発明の一典型例では、従来のフィルムと比較し、1平方メートルにつき減らす量をゼラチンは最大0.9g、固体ラテックス・コポリマーは最大1.0gにすることが可能である。ビヒクルの質量がこのように減ることで、多数の利点がもたらされる。例えば、1平方メートル当たりのハレーション防止層の質量が小さくなることによって厚さが薄くなるため、寸法安定性が改善される。これらの利点によって写真要素の全湿度膨張係数へのハレーション防止層からの寄与が減るため、寸法安定性の温度依存性と湿度依存性の両方が改善される。優れた寸法安定性を得る試みは、特にプリント回路板(PCB)用フィルムで努力されている。そのため本発明の写真要素は、このような用途に特に適している。
【0015】
ハレーション防止アンダーレイヤーを有する従来の写真要素と比較すると、使用するビヒクルの量が少なくなっている。そのため製造単価も低くなる。
【0016】
支持体の一方の面だけがコーティングされた要素においてコーティングに用いるビヒクルの量が少なくなると、コーティングされた片面の全搭載量も少なくなる。すると湿度によるカールが従来のフィルムと比べて少なくなる。たいていのPCB用フィルムは相対湿度50±3%で取り扱われ、片面製品はこの湿度ではカールしない。しかし相対湿度がよく制御されていない条件(特に低い相対湿度)でユーザーが使用する場合には、本発明の写真要素は、従来のPCB用フィルムよりもカールが少ない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明により、グラフィック・アーツまたはPCBの製造で使用される写真要素で、薄いハレーション防止アンダーレイヤーおよび/またはペロイド層を備えているものが提供される。この写真要素は、ポリ(エチレンテレフタレート)、アセテート、反射紙、アルミニウムなどの支持体材料の表面に形成される。写真要素の支持体は、透明でも反射性でもよい(例えば紙製支持体)。そのような支持体としては、ポリマー・フィルム(例えばセルロース・エステルである三酢酸セルロースや二酢酸セルロース)、二塩基性芳香族カルボン酸と二価アルコールのポリエステル(例えばポリ(エチレンテレフタレート)、ポリ(エチレンナフタレート))、紙、ポリマーコート紙などが挙げられる。支持体は、グラフィック・アーツまたはPCBの製造での使用に適した透明なフィルムであることが好ましい。
【0018】
この写真要素は、支持体と少なくとも一つの写真乳剤層の間に位置するハレーション防止アンダーレイヤーを備えること、または支持体の少なくとも一つの写真乳剤層が載っているのとは反対側に位置するペロイド層を備えること、またはその両方を備えることができる。ペロイド層は、支持体が透明なフィルムである場合に特に役に立つ。しかし写真要素は、ハレーション防止アンダーレイヤーを備えているが、ペロイド層は備えていないことが好ましい。
【0019】
本発明による写真要素のハレーション防止アンダーレイヤーおよび/またはペロイド層において有用なビヒクルとしては、天然の物質と合成ビヒクルの両方が挙げられる。天然の物質としては、例えば、タンパク質、タンパク質誘導体、セルロース誘導体(セルロース・エステルなど)、ゼラチン(例えばアルカリ処理したゼラチン(家畜の骨ゼラチン、獣皮ゼラチン)や、酸処理したゼラチン(ブタ皮ゼラチンなど))がある。ゼラチン誘導体であるアシル化ゼラチン、フタル化ゼラチン、酸化ゼラチン、ジアミン誘導化ゼラチンなども使用できよう。
【0020】
ビヒクルまたはビヒクル増量剤としては、親水性の透水性コロイドも有用である。合成ポリマー解膠剤、キャリア、結合剤も有用であり、具体的には、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(ビニルラクタム)、アクリルアミドポリマー、ポリビニルアセタール、アルキルアクリレートのポリマー、スルホアルキルアクリレートのポリマー、アルキルメタクリレートのポリマー、スルホアルキルメタクリレートのポリマー、加水分解されたポリ酢酸ビニル、ポリアミド、ポリビニルピロリドン、メタクリルアミド・コポリマー、ラテックス・コポリマーなどのほか、セルロース誘導体(例えばカルボキシメチル・セルロース)がある。これら物質の任意の2つ以上の混合物もビヒクルとして使用できよう。
【0021】
本発明で使用するビヒクルは、ラテックス・コポリマー混合物をさらに含むことができる。ビヒクルは、例えばゼラチンとラテックス・コポリマー混合物とを含むことができる。あるいはビヒクルは、例えばゼラチンだけを含むこともできる。
【0022】
一般に、ハレーション防止アンダーレイヤーおよび/またはペロイド層は、AHU1平方メートルにつき一般に2gであるビヒクルの代わりに、ビヒクル、例えばゼラチン(例えば1平方メートル当たり0.1gのゼラチン)などのキャリア極薄層からなる。このビヒクル層はゼラチンと共に、染料(例えば固体粒子染料)だけを含有する。
【0023】
本発明の写真要素は、ハレーション防止アンダーレイヤーの表面にコーティングされた一つまたはそれ以上のハロゲン化銀写真乳剤層を含んでなり、ペロイド層だけを有する要素を形成する場合には、支持体のハレーション防止ペロイド層とは反対側にコーティングされた一つまたはそれ以上のハロゲン化銀写真乳剤層を含んでなる。
【0024】
AHUには固体粒子染料が好ましい。なぜなら、可溶性染料を使用すると、再湿潤化段階で乳剤層が汚染される危険性があるからである。適切な固体粒子染料としては、例えば、一般式1または一般式2の構造を有する染料が挙げられる。
【0025】
【化1】

【0026】
【化2】

【0027】
保護用スーパーコートは、一つもしくはそれ以上のハロゲン化銀写真乳剤層の頂部に同時に、あるいは順番に(好ましくは同時に)コーティングすることができる。
【0028】
本発明の写真要素は、増粘剤(例えばポリスチレンスルファミン酸ナトリウム)をさらに含んでいてもよい。増粘剤は、ハレーション防止アンダーレイヤー(またはペロイド層)として使用するための、ビヒクルと染料とを含む材料の粘性を制御するのに用いることができ、それにより、この材料の1g/m2以下の量のコーティングを、ハレーション防止アンダーレイヤーとして、支持体にコーティングし、その上に塗布される少なくとも一つの写真乳剤層と一緒に同時に適用することができる。選択する増粘剤は、もちろん、使用するビヒクル(例えば特定のゼラチンまたはゼラチン由来のビヒクル)に適合したものであることが好ましい。
【0029】
次に説明するように、適切な任意のコーティング系を用いて写真要素のハレーション防止アンダーレイヤーおよび/またはペロイド層と、残った層とをコーティングすることができる。例えばカーテン・コーティング系を利用することや、ビード・コーティング系を利用することができよう。
【0030】
このように薄いハレーション防止アンダーレイヤー(すなわち1g/m2未満)と少なくとも一つの写真乳剤層とをコーティングするためには、ハレーション防止アンダーレイヤーを、その上に載っている写真乳剤層とは別にコーティングするか、あるいはハレーション防止アンダーレイヤーの粘性を制御して写真乳剤層(又は複数)と同時にコーティングできるようにする必要がある。ハレーション防止アンダーレイヤーを少なくとも一つの写真乳剤層と同時にコーティングする場合には、ハレーション防止アンダーレイヤーの粘性を制御し、ハレーション防止アンダーレイヤーが平坦な優れたコーティングを形成する一方で、ハレーション防止アンダーレイヤーの湿潤被覆量が維持されるようにする必要がある。そうするための一つの方法は、使用するビヒクルに合った増粘剤(例えばポリスチレンスルファミン酸ナトリウム)を含むハレーション防止アンダーレイヤーを用いることである。このようにして粘度を増大させて湿潤被覆量を十分に大きなレベルに維持することで、ハレーション防止アンダーレイヤーを少なくとも一つの写真乳剤層と同時にコーティングすることが可能になる。ハレーション防止アンダーレイヤーを少なくとも一つの写真乳剤層とは別にコーティングする場合には、ハレーション防止アンダーレイヤーを例えば2ステーション・コーティング系の第1ステーションにおいてコーティングし、写真乳剤層を第2ステーションにおいてコーティングすること、あるいは単一ステーション・コーティング系を最初に通過させるときにハレーション防止アンダーレイヤーをコーティングし、2回目に通過させるときに写真乳剤層をコーティングすることができる。
【0031】
ハレーション防止アンダーレイヤーおよび/またはペロイド層と、写真乳剤層(複数可)とを、一般に、水性媒体中でコーティングし、その後乾燥させるとそれぞれの層が支持体の上に形成される。
【0032】
一つの例では、2コーティング・ステーション・トラックの塗工機1において極薄AHUをコーティングして乾燥させた後、残りの従来層を塗工機2においてコーティングする。確かに、2塗工マシンの塗工機1を用いることにより、塗工機2ですべての層をコーティングする場合と比較すると、フィルムの従来層を適用させるためにフィルム支持体を塗工機2に運ぶ前にフィルム支持体に電荷が誘導される傾向が少なくなるであろう。
【0033】
極薄AHUは、通常は、支持体上で一つまたはそれ以上の写真乳剤層と同じ側で、支持体と一つまたはそれ以上の写真乳剤層に挟まれた位置に形成される。ペロイド層を設けるために、ハレーション防止層を、支持体の一つまたはそれ以上の写真乳剤層が形成されているのとは反対側に形成することも可能であることが理解されよう。このようなペロイド層を極めて薄く提供するので、写真要素は、寸法安定性に関してやはり片側写真要素であるかのように機能する。
【0034】
塗工機1でのコーティングに用いる水性溶液は、ゼラチンと、固体粒子染料と、可能であれば1種類以上の増粘剤と、ラテックス・ポリマーと、塗工機2における再湿潤化プロセスとの適合性がある界面活性剤(例えばエーロゾルOT(商標))とを含むことになろう。極薄AHUの乾燥ゼラチン被覆量0.1g/m2という値は、ポリ(ポリエチレンテレフタレート)フィルム・ベースを製造する際に通常適用されるいわゆるゼラチン下塗り層においてより一般的な値である。このことは、可溶性染料または写真用添加物が低ゼラチン環境で結晶化しないこととは異なり、ビヒクルの中に固体粒子染料が組み込まれた本発明の写真要素に用いられる異常に薄いハレーション防止層を具体的に示している。
【0035】
従来のAHUに通常存在している添加物(例えば金属イオン封鎖剤)は、一つまたはそれ以上の他の層(例えば乳剤層、保護被覆層(スーパーコートとしても知られる)、これらの任意の層に挟まれた位置にある中間層)の中に移すことができる。
【0036】
本発明の写真要素に含まれるハレーション防止アンダーレイヤーおよび/またはペロイド層は、0.4g/m2以下の量で存在していることが好ましい。より好ましいのは、0.4g/m2以下かつ0.05g/m2以上の量であり、さらに好ましいのは、0.35g/m2以下かつ0.05g/m2以上の量であり、最も好ましいのは、0.3g/m2以下かつ0.1g/m2以上の量(例えば約0.1g/m2または約0.2g/m2)である。
【0037】
上に説明したように、適切な任意のコーティング系を用いて本発明の写真要素を作ることができる。一般に、ハレーション防止アンダーレイヤーは、単一の層としてコーティングすることができ、その上に写真要素の残りの層(例えばハロゲン化銀乳剤層(複数可)、スーパーコートなど)を同時に、あるいは別々の層としてコーティングすることができる。あるいは写真要素は、多層を塗布することによって製造すること、すなわち単一のコーティング操作でハレーション防止アンダーレイヤーと写真要素の残りの層を同時に塗布することによって製造することもできる。
【0038】
ハレーション防止アンダーレイヤーを単一の層としてコーティングするためには、いろいろなコーティング法を利用できる。例えば、ビード・コーティング、押し出しコーティング、カーテン・コーティングなどである。
【0039】
ビード・コーティングでは、ギャップの狭い従来のビード・コーティング・ホッパーを用いることができよう。湿潤被覆量は、15〜45ml/m2の範囲になることが予想される。ゲルとラテックス・コポリマーの被覆量は小さいため、溶融粘度は、単一の層をビード・コーティングするための一般的な範囲よりも小さくなる(3〜10cP)。そこで優れた品質のコーティングにするために溶液の粘度を許容可能なレベルまで大きくすると同時に、乾燥の乱れを避けるために乾燥機の冷却部分の硬化を改善しようとすると、ゲル増粘剤が必要とされよう。AHU溶液は高剪断粘度が小さい傾向があるため、通り抜け(コーティング溶液が、排出するための吸引システムを通じて失われる)を回避するためには比較的弱いホッパー吸引装置(0.2〜1.0インチ水柱)が必要とされよう。
【0040】
より小さな湿潤被覆量(10〜30ml/m2)の押し出しコーティングも実現可能な選択肢であろう。この場合にも増粘剤を用いるが、利用可能な粘度の範囲は1〜30cPになろう。比較的普通の状態に近い乾燥条件を利用できるようにするには、冷却硬化するのを助けるポリマーも必要とされる可能性がある。あるいはコーティングをプリセット乾燥法(すなわち溶液硬化なしでの乾燥)を利用して乾燥させることもできよう。この場合には、コーティングされた溶液の表面が乾燥によって乱されないようにする必要がある。別の選択肢は、ビード・ホッパーの底部部材を押し出しブレードで置換したスライド・オーバー押し出しシステムであろう。この場合には、同様の粘度と湿潤被覆量が適用されよう。
【0041】
この単一の層をコーティングするには、より伝統的なコーティング法も利用することができよう。例えばエアナイフを用いたローラー・コーティングで被覆量を制御することができよう。すると、特により小さな湿潤被覆量(1〜10ml/m2)では、成分の濃度が増大するにつれて増粘剤の必要性が低下する。この方法は、小さな湿潤被覆量にするのにしばしば利用される。
【0042】
単一層コーティングを利用する場合には、写真要素の残りの層は、上に説明した第2の塗工機において、例えばビード・コーティング、カーテン・コーティング、スライド・オーバー押し出しコーティングによって従来のようにコーティングすることができる。どの場合にも、優れた品質のAHUを実現すると同時に、続く層をその上に容易にコーティングできるようにするには、低レベルの容易に再湿潤化できる界面活性剤が有益である。
【0043】
多層パックのアンダーレイヤーとしてAHUをコーティングするための選択肢としては、特に、ビード・コーティング、スライド・オーバー押し出しコーティング、カーテン・コーティングなどがある。
【0044】
ビード・コーティングでは、ギャップの狭い従来のビード・コーティング・ホッパーを用いることができよう。湿潤被覆量は、5〜45ml/m2の範囲になることが予想される。ゲルとラテックス・コポリマーの被覆量は小さいため、溶融粘度は、単一の層をビード・コーティングするための一般的な範囲よりも低くなる(3〜10cP)。そこで優れた品質のコーティングにするために溶液の粘度を許容可能なレベルまで大きくするには、ゲル増粘剤が必要とされよう。湿潤被覆量の範囲の下端の値を利用する場合には、AHUの上にある、ゲル濃度がより大きな層に水が移動するため、増粘剤の必要性が低下するとともに、硬化を改善されることが予想される。この場合には、AHU層のために界面活性剤を添加する必要性は必ずしもないであろう。
【0045】
スライド・オーバー押し出しシステム(ビード・ホッパーの底部部材を押し出しブレードで置換してある)もやはり一つの選択肢であり、湿潤被覆量は5〜45ml/m2の範囲に限定され、粘度は1〜30cPの範囲になる。この場合にも、AHU層のために界面活性剤を添加は必ずしも必要ではない。
【0046】
カーテン・コーティングでは、AHU層のために粘度がより大きな値(5cP超)になっている必要があるため、ハレーション防止アンダーレイヤーのコーティング品質を向上させるのに界面活性剤を添加するとよい。適切な支持体の表面に薄いハレーション防止アンダーレイヤーをコーティングすることのできる適切な任意のコーティング法が利用可能であることがわかるであろう。特に、上記の態様では、単一コーティング・ステーション式塗工機を最初に通過させるときに極薄AHUをコーティングし、2回目の通過で従来の写真乳剤層をコーティングすることもできよう。
【実施例】
【0047】
本発明を以下の例によって具体的に説明する。
例1
赤感受性PCBフィルムのためのハレーション防止アンダーレイヤーを調製した。
【0048】
新田ゼラチン株式会社が製造した乾燥した骨ゼラチン(10.0g)を脱イオン水(3666.4g)に添加した。得られたゲルを25℃にて20分間にわたって膨潤させた後、40℃で撹拌しながら溶融させた。pHは5.1±0.05に調節した。エーロゾルOT(商標)界面活性剤(溶液1kgの中に13.33g)の溶液(8.0ml)を添加し、この界面活性剤溶液が最終コーティング溶液の0.2%w/wとなるようにした。次に、染料分散液(110.0g)を添加した。染料は、一般式1の構造であり、水中に10%w/w含まれていた。
【0049】
【化3】

【0050】
最後に、コーティング溶液の重量が4000.0gになるまで脱イオン水を添加した。この溶液を、湿潤被覆量が40ml/m2となるよう、従来のようにスライド・ホッパー法によってポリ(エチレンテレフタレート)フィルム支持体の表面にコーティングした。すると乾燥被覆量が1m2当たりゼラチン100mg、染料110mgになる。
【0051】
例2
青感受性PCBフィルムのためのハレーション防止アンダーレイヤーを調製した。
【0052】
新田ゼラチン株式会社が製造した乾燥した骨ゼラチン(10.0g)を脱イオン水(3666.4g)に添加した。得られたゲルを25℃にて20分間にわたって膨潤させた後、40℃で撹拌しながら溶融させた。pHは5.1±0.05に調節した。エーロゾルOT(商標)界面活性剤(溶液1kgの中に13.33g)の溶液(8.0ml)を添加し、この界面活性剤溶液が最終コーティング溶液の0.2%w/wとなるようにした。次に、染料分散液(107.6g)を添加した。染料は、一般式2の構造であり、水中に10%w/w含まれていた。
【0053】
【化4】

【0054】
最後に、コーティング溶液の重量が4000.0gになるまで脱イオン水を添加した。この溶液を、湿潤被覆量が40ml/m2となるよう、従来のようにスライド・ホッパー法によってポリ(エチレンテレフタレート)フィルム支持体の表面にコーティングした。すると乾燥被覆量が、1m2当たりゼラチン100mg、染料107.6mgになる。
【0055】
両方の例において、適切な感光性写真乳剤層をその後AHUの上にコーティングすることができた。
【0056】
湿度による膨張
下に示す表1には、2つのコーティングAとBのそれぞれに対して行なった湿度膨張テストの結果を示してある。コーティングAが本発明によるコーティングであり、通常の厚いアンダーレイヤーが除かれ薄いAHUのみと置き換えられている。コーティングBは比較例であり、通常のアンダーレイヤーを備えている。これらの層の乾燥被覆量を表2に示す。
【0057】
表1には、相対湿度(RH)が1%変化したときのサイズの変化(%)を示してある。それぞれのフィルムについて8回の読み取りを行ない、平均値と標準偏差を計算した。
【0058】
本発明が有利であることが明らかに見られる。
【0059】
【表1】

【0060】
以下の表2には、それぞれのコーティングにおける個々の層のゼラチンとラテックス・コポリマーの被覆量が示してある。コーティングは、ポリ(エチレンテレフタレート)フィルム・ベースの表面に支持されていた。このフィルム・ベースは、相対湿度が1%変化したときのサイズ変化の平均値が0.0008%であることがわかっている。したがって相対湿度が1%変化したときのコーティングが原因となる追加のサイズ変化は、本発明では0.0002であり、従来のコーティングでは0.0003であった。したがって本発明により、このパラメータが約33%改善される。本発明を適用できる可能性のある多くのフィルムは大きなシート(例えば24インチ×30インチ)で提供されるため、相対湿度が1%変化したときのサイズ変化の改善は大きなものになることができる。
【0061】
【表2】

【0062】
湿潤接着力
本発明の材料で湿潤接着特性をテストした。1m2につきゼラチンが0.15gである薄いAHU層(1m2につき固体染料を0.11gと、ラテックス・コポリマーを0.15g含む)をPETベース上にコーティングした。硬膜剤を含む従来の写真乳剤層をその上にコーティングした。硬膜反応が完了したことを確認した後、優れた湿潤接着力が観察された。これは、コーティングを50℃にて7日間にわたってインキュベートさせることによって、あるいは湿潤剤(例えばグリコール)をコーティングの中に組み込むことによって実現された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グラフィック・アーツまたはPCBの製造で使用する写真要素であって、
支持体と;
写真乳剤層と;
ハレーション防止アンダーレイヤーとペロイド層のうちの少なくとも一方とを備え、
当該ハレーション防止アンダーレイヤーおよびペロイド層のそれぞれは、1g/m2以下の量で存在していて、ビヒクルと固体粒子染料とを含んでいる、写真要素。
【請求項2】
それぞれのハレーション防止アンダーレイヤーおよび/またはペロイド層が、0.4g/m2以下の量存在している、請求項1に記載の写真要素。
【請求項3】
それぞれのハレーション防止アンダーレイヤーおよび/またはペロイド層が、0.35g/m2以下かつ0.05g/m2以上の量存在している、請求項1または2に記載の写真要素。
【請求項4】
それぞれのハレーション防止アンダーレイヤーおよび/またはペロイド層が、0.3g/m2以下かつ0.1g/m2以上の量存在している、請求項1〜3のいずれか一項に記載の写真要素。
【請求項5】
ハレーション防止アンダーレイヤーまたはペロイド層を含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の写真要素。
【請求項6】
ハレーション防止アンダーレイヤーを含む、請求項5に記載の写真要素。
【請求項7】
ビヒクルが、ゼラチンとラテックス・コポリマー混合物とを含んでいる、請求項1〜6のいずれか一項に記載の写真要素。
【請求項8】
ビヒクルがゼラチンである、請求項1〜6のいずれか一項に記載の写真要素。
【請求項9】
ゼラチンが、アルカリ処理したゼラチン、家畜の骨ゼラチン、家畜の皮ゼラチン、酸処理したゼラチン、ブタ皮ゼラチンからなる群より選択されるか、あるいはアシル化ゼラチン、フタル化ゼラチン、酸化ゼラチン、ジアミン誘導化ゼラチンからなるゼラチン誘導体からなる群より選択される、請求項7または8に記載の写真要素。
【請求項10】
ビヒクルが、親水性の透水性コロイドである、請求項1〜6のいずれか一項に記載の写真要素。
【請求項11】
ビヒクルが、合成ポリマー解膠剤、キャリア、結合剤からなる群、具体的には、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(ビニルラクタム)、アクリルアミドポリマー、ポリビニルアセタール、アルキルアクリレートのポリマー、スルホアルキルアクリレートのポリマー、アルキルメタクリレートのポリマー、スルホアルキルメタクリレートのポリマー、加水分解されたポリ酢酸ビニル、ポリアミド、ポリビニルピロリドン、メタクリルアミド・コポリマーなど、ラテックス・コポリマーまたはカルボキシメチル・セルロースのようなセルロース誘導体からなる群の中から選択された一つまたはそれ以上の材料を含んでいる、請求項10に記載の写真要素。
【請求項12】
ハレーション防止アンダーレイヤーおよび/またはペロイド層が、増粘剤を含んでいる、請求項1〜11のいずれか一項に記載の写真要素。
【請求項13】
増粘剤がポリスチレンスルファミン酸ナトリウムである、請求項12に記載の写真要素。
【請求項14】
支持体が、アセテート、反射紙、アルミニウム、ポリマー・フィルム、セルロース・エステル、三酢酸セルロース、二酢酸セルロース、二塩基性芳香族カルボン酸と二価アルコールとのポリエステル、ポリ(エチレンテレフタレート)、ポリ(エチレンナフタレート)、紙、ポリマーコート紙からなる群の中から選択された材料でできている、請求項1〜13のいずれか一項に記載の写真要素。
【請求項15】
染料が以下の構造:
【化1】

を有する、請求項1〜14のいずれか一項に記載の写真要素。
【請求項16】
染料が以下の構造:
【化2】

を有する、請求項1〜14のいずれか一項に記載の写真要素。
【請求項17】
グラフィック・アーツまたはPCBの製造で使用する写真要素を製造する方法であって、
支持体を1g/m2以下の量のハレーション防止アンダーレイヤーでコーティングし、当該ハレーション防止アンダーレイヤーはビヒクルと固体粒子染料とを含み;そして
前記ハレーション防止アンダーレイヤーを少なくとも一つの写真乳剤層でコーティングすることを含み、
前記ハレーション防止アンダーレイヤーと前記少なくとも一つの写真乳剤層とが別々に塗布される製造方法。
【請求項18】
ハレーション防止アンダーレイヤーが2ステーション・コーティング系の第1ステーションにおいてコーティングされ、少なくとも一つの写真乳剤層が当該2ステーション・コーティング系の第2ステーションにおいてコーティングされる、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
ハレーション防止アンダーレイヤーが単一コーティング系を最初に通過する際にコーティングされ、少なくとも一つの写真乳剤層が当該単一コーティング系を2回目に通過する際にコーティングされる、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
グラフィック・アーツまたはPCBの製造で使用する写真要素を製造する方法であって、
支持体を1g/m2以下の量のハレーション防止アンダーレイヤーでコーティングし、当該ハレーション防止アンダーレイヤーはビヒクルと固体粒子染料と当該ビヒクルと適合性のある増粘剤を含み;そして
前記ハレーション防止アンダーレイヤーを少なくとも一つの写真乳剤層でコーティングすることを含み、
前記ハレーション防止アンダーレイヤーと前記少なくとも一つの写真乳剤層(又は複数)とが多層コーティング系において実質的に同時に塗布される製造方法。
【請求項21】
増粘剤がポリスチレンスルファミン酸ナトリウムである、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
ハレーション防止アンダーレイヤーが、0.4g/m2以下の量存在している、請求項17〜21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
ハレーション防止アンダーレイヤーが、0.3g/m2以下かつ0.1g/m2以上の量存在している、請求項17〜21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
ビヒクルが、ゼラチンとラテックス・コポリマー混合物とを含んでいる、請求項17〜23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
ビヒクルがゼラチンである、請求項17〜23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
ビヒクルが、親水性の透水性コロイドである、請求項17〜23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
染料が以下の構造:
【化3】

を有する、請求項17〜26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
染料が以下の構造:
【化4】

を有する、請求項17〜26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
ハレーション防止アンダーレイヤーとして用いる材料の粘性を制御するための増粘剤の使用方法あって、前記材料が、当該材料の湿潤被覆能とは無関係にビヒクルと固体粒子染料を含み、それにより、1g/m2以下の量で前記材料のコーティングを、その上に塗布される少なくとも一つの写真乳剤層と同時に支持体に適用することができる方法。

【公表番号】特表2006−527404(P2006−527404A)
【公表日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−516364(P2006−516364)
【出願日】平成16年4月30日(2004.4.30)
【国際出願番号】PCT/GB2004/001893
【国際公開番号】WO2004/109394
【国際公開日】平成16年12月16日(2004.12.16)
【出願人】(590000846)イーストマン コダック カンパニー (1,594)
【Fターム(参考)】