説明

冷凍サイクル用ドライヤ、および冷凍サイクル

【課題】吸着剤の充填量の増加を抑制しつつ、冷媒の氷結の発生を抑制し、構成部品の内部腐食を抑制する。
【解決手段】冷凍サイクル用ドライヤを、冷媒が流れる蒸気圧縮式の冷凍サイクルに適用し、吸着剤31として、二酸化ケイ素を主成分とし、相対湿度と水分の吸収率との関係が相対湿度の上昇と伴って水分の吸着率の吸着度合いが増大する吸着特性を有する多孔質体(例えば、B型シリカゲル等)を採用する。これにより、ゼオライトに比べて水分透過速度の増加を抑制することができ、冷媒中の水分量を効率よく低下させることができ、構成部品の内部腐食を抑制することができる。そして、水との反応により包摂化合物が生成され難い特性を有する冷媒と、冷媒中の水分濃度が低い状態における吸着性能が低い吸着剤31とを組み合わせることで、吸着剤31の充填量の増加を抑制しつつ、冷媒の氷結の発生を抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸気圧縮機式の冷凍サイクルに用いられる冷凍サイクル用ドライヤ、および当該冷凍サイクル用ドライヤを備える冷凍サイクルに関する。
【背景技術】
【0002】
蒸気圧縮式の冷凍サイクルでは、冷媒中に多量の水分が含まれていると、冷媒が断熱膨張し急激に冷却されることで氷結し、冷媒を減圧する減圧手段を構成する膨張弁やキャピラリーチューブが閉鎖されることがある。また、冷凍サイクル中に水分が析出すると、構成部品の内部腐食が促進される。
【0003】
このため、冷凍サイクルには、凝縮器(コンデンサ)から流出した冷媒を気液分離して液相冷媒を溜める受液器の内部に、吸着剤を有するドライヤ(冷凍サイクル用ドライヤ)が収容されている。
【0004】
ドライヤは、吸着剤にて冷媒中の水分を吸着する吸着手段を構成している。吸着剤としては、冷媒中の水分濃度が低い状態において高い吸着性能を発揮するゼオライト(モレキュラシーブ)やA型シリカゲルが採用されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−180930号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、例えば、車両用の冷凍サイクルでは、車両走行中等において振動するため、全ての配管を金属製にすることが困難であり、配管等にゴムホースやOリングが使用されているが、このような冷凍サイクルでは、冷凍サイクルの内部に冷媒を充填するときの水の混入以外に、ゴムホースやOリングを介して水分が透過することがある。
【0007】
ここで、冷凍サイクルへ透過する水分の透過速度(以下、水分透過速度と称する。)は、冷凍サイクル内(冷媒中)の水蒸気分圧Pwinと、冷凍サイクル外部(大気)の水蒸気分圧Pwoutとの分圧差(=Pwout−Pwin)に比例する傾向がある。
【0008】
このため、ドライヤの吸着剤として冷媒中の水分濃度が低い状態において高い吸着性能を有するゼオライトやA型シリカゲルを用いる場合、冷媒中の水分濃度が低くなることで冷凍サイクル内の水蒸気分圧Pwinが低下し、水分透過速度が増加することが懸念される。なお、例えば、ドライヤの吸着剤としてゼオライトを用いる場合、ゼオライトが飽和状態となる際に、冷媒中の水蒸気分圧Pwinと、大気の水蒸気分圧Pwoutとの分圧差が小さくなり、水分透過速度が低下する。
【0009】
このように、ドライヤの吸着剤として、冷媒中の水分濃度が低い状態において高い吸着性の発揮するゼオライトやA型シリカゲルを用いる場合、水分透過速度が速いために冷媒中の水分量を効率よく低下させることができないといった課題がある。
【0010】
また、ゼオライトやA型シリカゲルといった吸着剤は、自重に対する吸水量(吸着容量)が少ないため、冷媒中の水分の吸水量を増加させる場合、吸着剤の充填量を増加させる必要がある。この場合、受液器内部における吸着剤を充填する空間の拡大等を要する。
【0011】
これに対して、ゼオライトやA型シリカゲルに比べて冷媒中の水分濃度が低い状態において吸着性能が低く、自重に対する吸着容量が多い特性を有する吸着剤を採用することが考えられる。
【0012】
しかし、現在冷凍サイクルにて使用されるR22やR134aといった冷媒は、水と反応して、冷凍サイクルにおける冷媒の氷結を促進する包摂化合物(クラスレート)が生成されることから、冷媒中の水分濃度を所定濃度以下に低下させる必要がある。
【0013】
このため、冷媒中の水分濃度が低い状態における吸着性能が低い吸着剤を採用すると、冷媒中の水分濃度を充分に低下させることができず、冷凍サイクルにおいて冷媒が氷結する虞がある。つまり、単に冷媒中の水分濃度が低い状態における吸着性能が低い吸着剤を採用したとしても、冷媒の氷結を避けるためには、吸着剤の充填量を増加して冷媒中の水分濃度が低い状態における吸着性能を向上させる必要があり、ゼオライトやA型シリカゲルといった吸着剤を用いる場合と同様に、受液器内部における吸着剤を充填する空間の拡大等を要する。
【0014】
本発明は上記点に鑑みて、吸着剤の充填量の増加を抑制しつつ、冷媒の氷結の発生を抑制し、かつ、冷凍サイクル中に水分が析出することによる構成部品の内部腐食を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上述する目的を達成するために鋭意検討を重ねた。この結果、冷媒中の水分濃度が低い状態における吸着性能が低い吸着剤を有するドライヤを、水との反応により包摂化合物が生成され難い構造を有する有機化合物を冷媒とした冷凍サイクルに適用することが有効であることを見出した。
【0016】
すなわち、本発明の請求項1に記載の発明では、冷媒中に含まれる水分を吸着する吸着剤(31)を有する冷凍サイクル用ドライヤであって、分子式C(m=1〜5、およびn=1〜5、かつ、m+n=6)で示されると共に、分子構造中に1つの二重結合を有する冷媒が流れる蒸気圧縮式の冷凍サイクルに適用され、吸着剤(31)は、二酸化ケイ素を主成分とし、相対湿度と水分の吸着率との関係が、相対湿度の増加に伴って水分の吸着率の吸着度合いが増加する吸着特性を有する多孔質体で構成されていることを特徴とする。
【0017】
これによれば、吸着剤(31)を冷媒中の水分濃度が低い状態において吸着性能が低い特性を有する多孔質体で構成しているので、ゼオライトやA型シリカゲルに比べて水分透過速度の増加が抑制される。この結果、ゼオライトやA型シリカゲルに比べて冷媒中の水分量を効率よく低下させることができる。
【0018】
また、Cで示されると共に分子構造中に1つの二重結合を有する冷媒は、水との反応により包摂化合物が生成され難い特性を有しているので、冷媒中の水分濃度が低い状態における吸着性能が低い吸着剤を用いたとしても、吸着剤(31)の充填量を増加させることなく、冷媒の氷結の発生を抑制することができる。
【0019】
従って、本発明によれば、吸着剤の充填量の増加を抑制しつつ、冷媒の氷結の発生を抑制し、かつ、冷凍サイクル中に水分が析出することによる構成部品の内部腐食を抑制することが可能となる。
【0020】
具体的には、請求項2に記載の発明のように、請求項1に記載の冷凍サイクルドライヤにおいて、平均細孔径が3.5nm以上の多孔質体で構成された吸着剤(31)を採用することができる。
【0021】
また、請求項3に記載の発明のように、請求項1または2に記載の冷凍サイクルドライヤにおいて、冷媒をHFO−1234yfとすることができる。
【0022】
また、請求項4に記載の発明では、冷媒を凝縮させる凝縮器(1)、凝縮器(1)から流出した冷媒を気液分離して液相冷媒を導出する受液器(2)、および冷媒中の水分を吸着する吸着剤(31)を有するドライヤ(3)を含んで構成される蒸気圧縮式の冷凍サイクルにおいて、冷媒は、分子式C(m=1〜5、およびn=1〜5、かつ、m+n=6)で示されると共に、分子構造中に1つの二重結合を有し、吸着剤(31)は、二酸化ケイ素を主成分とし、相対湿度と水分の吸着率との関係が、相対湿度の増加に伴って水分の吸着率の吸着度合いが増加する吸着特性を有する多孔質体で構成されていることを特徴とする。
【0023】
このように、Cで示されると共に分子構造中に1つの二重結合を有する冷媒が流れる冷凍サイクルにおいて、ドライヤ(3)の吸着剤(31)を、二酸化ケイ素を主成分とし、相対湿度と水分の吸収率との関係が相対湿度の上昇と共に水分の吸着率の吸着度合いが増大する吸着特性を有する多孔質体で構成することで、吸着剤(31)の充填量の増加を抑制しつつ、冷媒の氷結の発生を抑制することができ、かつ、構成部品の内部腐食を抑制することができる。また、ゼオライトやA型シリカゲルに比べて水分透過速度の増加が抑制されるので、ゼオライトやA型シリカゲルに比べて冷媒中の水分量を効率よく低下させることができる。
【0024】
また、請求項5に記載の発明では、請求項4に記載の冷凍サイクルにおいて、受液器(2)は、上下方向に延びると共に、下端側に開口部(21a)が形成された有底筒状のタンク部(21)、および開口部(21a)を閉塞する蓋部(22)を有して構成されており、タンク部(21)は、上端側から下端側へ冷媒が流れるように冷媒の導入口(132)が導出口(133)よりも上端側に設けられており、ドライヤ(3)は、タンク部(21)の内部における下端側に配置されていることを特徴とする。
【0025】
このように、ドライヤ(3)を受液器(2)におけるタンク部(21)内の下端側に配置することで、受液器(2)の内部に存する液相冷媒に含まれる水分を効率よく吸着することができる。
【0026】
また、請求項6に記載の発明のように、請求項4または5に記載の冷凍サイクルにおいて、冷媒が流通する冷媒配管の一部が、水分透過性を有する材料で構成されるものに適用することが極めて有効である。
【0027】
なお、この欄および特許請求の範囲で記載した各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】実施形態に係る受液器一体型凝縮器の要部を示す部分断面正面図である。
【図2】ドライヤが一体化されたキャップの正面図である。
【図3】冷媒の氷結発生の確認試験を説明するための説明図である。
【図4】冷媒配管の内部への水分透過を説明する説明図である。
【図5】実施形態に係る吸着剤の吸着特性を示す特性図である。
【図6】ゼオライトおよびA型シリカゲルの吸着特性を示す特性図である。
【図7】吸着剤としてゼオライトを用いた場合の水分透過挙動を説明する説明図である。
【図8】吸着剤としてB型シリカゲルを用いた場合の水分透過挙動を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の一実施形態について図1〜図8に基づいて説明する。図1は、第1実施形態に係る受液器一体型凝縮器の要部を示す部分断面正面図を示し、図2は、ドライヤが一体化されたキャップの正面図である。なお、図1における上下を示す矢印は、車両搭載時の方向を示している。
【0030】
本実施形態の蒸気圧縮式の冷凍サイクルは、車両用空調装置に適用されている。冷凍サイクルは、周知の如く、冷媒を圧縮して吐出する圧縮機(図示略)、圧縮機から吐出された冷媒を凝縮する凝縮器1、凝縮器1から流出した冷媒を減圧する温度式膨張弁(減圧手段)、温度式膨張弁にて減圧された冷媒を蒸発させる蒸発器等を冷媒配管により順次接続した閉回路により構成されている。
【0031】
本実施形態の冷媒配管は、少なくとも一部が水分透過性を有する材料で構成されている。例えば、冷媒配管は、一部が車両における振動を吸収するために、水分透過性を有するゴムホースで構成され、配管同士の継ぎ目などに水分透過性を有するOリング等が設けられている。
【0032】
本実施形態の冷凍サイクルでは、分子式C(m=1〜5およびn=1〜5、かつ、m+n=6)で示されると共に分子構造中に1つの二重結合を有する冷媒を採用している。Cで示される冷媒は、一般に冷凍サイクルにて使用されるR22やR134aに比べて、水との反応により包摂化合物が生成され難い構造を有している。なお、包摂化合物は、冷媒の氷結を促進する物質であり、包摂化合物が生成されることで、温度式膨張弁等において冷媒の氷結が生じ易くなる傾向がある。
【0033】
冷凍サイクルの冷媒をHFC−22やHFC−134aとする場合には、冷媒の氷結を避けるために、冷媒中の水分濃度をできるだけ低下させて包摂化合物が生成されないようにすることが重要なる。
【0034】
これに対して、冷凍サイクルの冷媒をCで示される冷媒とする場合には、冷媒中の水分濃度が高くとも、包摂化合物が生成され難いため、HFC−22やHFC−134aに比べて、冷媒の氷結が生じ難くなる。
【0035】
具体的には、本実施形態では、Cで示される冷媒として温暖化係数(GWP)が低いHFO−1234yf(C:CFCF=CH)を採用している。なお、冷媒としては、HFO−1234yf単体の冷媒に限らず、HFO−1234yfを含む混合冷媒を採用してもよい。
【0036】
ここで、本発明者らは、冷媒としてHFC−134aを用いた冷凍サイクル、およびHFO−1234yfを用いた冷凍サイクルを用いて、冷媒の氷結の発生を確認する試験を行った。なお、当該試験では、同じ構成機器で構成した各冷凍サイクルに対して、同量の水分を投入して冷媒の氷結発生の有無を確認した。
【0037】
図3は、冷媒の氷結発生の確認試験を説明するための説明図である。図3に示すように、HFC−134aを用いた冷凍サイクルでは、水分の投入量が2.0g以上で冷媒の氷結が確認された。これに対して、HFO−1234yfを用いた冷凍サイクルでは、水分の投入量が20g以上としても冷媒の氷結が確認されなかった。
【0038】
このように、HFO−1234yfを用いた冷凍サイクルでは、HFC−134aを用いた冷凍サイクルに比べて、冷媒の氷結が生じ難くい傾向がある。従って、冷媒中の水分を吸着する吸着剤として、冷媒中の水分濃度が低い状態における吸着性能が低い特性を有するものを用いたとしても、冷媒の氷結の発生を抑制することが可能となる。
【0039】
図1に戻り、冷凍サイクルにおける凝縮器1は、車両のエンジンルーム内のうち、走行風を受けやすい場所(通常は、エンジン冷却水を冷却するラジエータの前方側)に位置するように取付部材(図示略)にて車体に取り付けられている。
【0040】
本実施形態の凝縮器1は、凝縮器1から流出した冷媒の気液分離して、分離された液相冷媒を温度式膨張弁へと導出する受液器2が一体化された受液器一体型凝縮器で構成されている。
【0041】
また、本実施形態の凝縮器1は、圧縮機から吐出された高温高圧のガス冷媒を熱交換部10にて室外空気と熱交換させることで、凝縮、および過冷却させるサブクールコンデンサであり、熱交換部10における冷媒流れの上流側を構成する凝縮部11と、冷媒流れの下流側を構成する過冷却部12とが一体に構成されている。
【0042】
より具体的には、本実施形態の凝縮器1は、熱交換部10における上方側に凝縮部11が配置され、下方側に過冷却部12が配置されている。これら凝縮部11および過冷却部12それぞれは、水平方向に延びる複数本のチューブ101とコルゲートフィン102からなり、それぞれろう付けにより接合されている。
【0043】
複数のチューブ101は、アルミニウム等の金属材料を押し出し加工することで断面形状が扁平な長円形状に形成されており、その内部に冷媒が流通する冷媒流路が形成されている。
【0044】
熱交換部10におけるチューブ101の長手方向の一端部(図中左側の端部)には、円筒状の第1ヘッダタンク13が接続されている。この第1ヘッダタンク13は、上下方向に延びると共に、チューブ101における一端部が挿嵌されている。なお、図示しないが、チューブ101の長手方向の他端部には、円筒状の第2ヘッダタンクが接続されており、この第2ヘッダタンクは、上下方向に延びると共に、チューブ101における他端側の端部が挿嵌されている。
【0045】
第1ヘッダタンク13は、その内部に仕切り板131が配置されており、当該仕切り板131によりヘッダタンク13の内部空間が上下方向に仕切られている。熱交換部10における凝縮部11は、仕切り板131よりも上方側に位置するように配置され、過冷却部12は、仕切り板131よりも下方側に位置するように配置されている。
【0046】
同様に、図示しない第2ヘッダタンクにも、その内部に仕切り板(図示略)が配置されており、当該仕切り板により第2ヘッダタンクの内部空間が上下方向に仕切られている。なお、第2ヘッダタンク内の仕切り板は、上下方向において、第1ヘッダタンク13内の仕切り板131と同様の位置に配置されている。
【0047】
第1ヘッダタンク13は、仕切り板131の直ぐ上方の部位に、第1連通穴132が形成されており、この第1連通穴132によって、凝縮部11のチューブ101が、第1ヘッダタンク13を介して後述する受液器2の内部と連通する。なお、図1中の矢印Aで示すように、冷媒は、凝縮部11から第1連通穴132を通って受液器2の内部に導入される。
【0048】
また、第1ヘッダタンク13は、仕切り板131の直ぐ下方の部位に、第2連通穴133が形成されており、この第2連通穴133によって、過冷却部12のチューブ101が、第1ヘッダタンク13を介して後述する受液器2の内部と連通する。なお、本実施形態では、第1連通穴132が受液器2に冷媒を導入する冷媒導入口を構成し、第2連通穴133が受液器2から冷媒を導出する冷媒導出口を構成している。
【0049】
受液器2は、内部に導入された冷媒を気相冷媒(ガス冷媒)と液相冷媒とに分離して、液相冷媒を過冷却部12側に導出する気液分離手段として機能する。
【0050】
本実施形態の受液器2は、上下方向に延びると共に、下端側に開口部21aが形成された有底筒状のタンク部21、およびタンク部21の開口部21aを閉塞するタンクキャップ(蓋部)22を有して構成されている。
【0051】
タンク部21には、その上端側から下端側へと冷媒が流れるように第1連通穴132(冷媒の導入口)が第2連通穴133(冷媒の導出口)よりも上端側に形成されている。また、タンク部21の開口部21aには、後述するタンクキャップ22の外周に形成された雄ネジ部221と螺合する雌ネジ部が形成されている。タンク部21は、開口部21aにタンクキャップ22が接合されることで、その内部が密閉される。
【0052】
タンクキャップ22は、図2に示すように、雄ネジ部221の上方側に、側面にフィルタ222を保持する枠が形成されたフィルタ保持部223が形成されている。なお、フィルタ222は、冷媒中に含まれる塵等の異物を除去するものである。なお、図1中の矢印Bに示すように、受液器2の内部の液相冷媒は、フィルタ222を介して、第2連通穴133→過冷却部12へと導出される。
【0053】
また、受液器2には、その内部に冷媒中の水分を吸着する吸着剤31を有するドライヤ(冷凍サイクル用ドライヤ)3が配置されている。このドライヤ3は、前述の吸着剤31、吸着剤31を収容する収容袋32にて構成されている。
【0054】
ドライヤ3は、冷媒中の水分を効率よく吸着するために、受液器2における液相冷媒が流れる部位、すなわち受液器2の下端側に配置されている。また、ドライヤ3は、受液器2に液相冷媒が多量に存在する場合に、液相冷媒の液面に浮いてしまう虞がある。このため、ドライヤ3は、タンクキャップ22におけるフィルタ保持部223の上部に一体に構成されている。
【0055】
ところで、上述のように、本実施形態の冷凍サイクルは、冷媒配管の一部に水分透過性を有する部材(例えば、ゴムホースやOリング)を使用しているため、当該部材を介して外部から水分が透過することがある(図4参照)。つまり、冷凍サイクルの内部に冷媒を封入した後にも、冷媒中の水分濃度が徐々に上昇することがある。なお、図4は、冷媒配管の内部への水分透過を説明する説明図である。
【0056】
冷凍サイクルへの透過する水分の透過速度Wは、以下の数式F1、数式F2に示すように、冷媒中の水蒸気分圧Pwinと大気の水蒸気分圧Pwoutとの分圧差(=Pwout−Pwin)に比例する傾向がある。
【0057】
=k×L×(Pwout−Pwin)・・・(F1)
但し、kは水分透過係数、Lは水分が透過する配管の長さである。
【0058】
冷媒中の水蒸気分圧Pwinは、冷媒中の水分濃度Xと比例関係(X∝Pwin)があり、冷媒中の水分濃度Xが低いと冷媒中の水蒸気分圧Pwinと大気の水蒸気分圧Pwoutとの分圧差が増加する。これにより、水分透過速度Wが増加して外部から透過する水分量が増大を招くこととなる。
【0059】
本発明者らは、上述の水分透過速度の変化に着眼し、ドライヤ3の吸着剤として、相対湿度の低下に伴って水分の吸着率の低下度合いが増大する吸着特性、換言すれば、相対湿度と冷媒中の水分の吸収率との関係が相対湿度の上昇に伴って、水分の吸着率の吸着度合い(傾き)が増大する吸着特性を有する吸着剤が好適であることを発見した。
【0060】
そこで、本実施形態では、二酸化ケイ素を主成分とし、相対湿度と前記水分の吸着率との関係が、相対湿度の増加に伴って前記水分の吸着率の吸着度合いが増加する吸着特性を有する多孔質体で構成された吸着剤31を採用している。
【0061】
具体的には、本実施形態では、A型シリカゲルよりも細孔径が大きい、すなわち平均細孔径が3.5nm以上となる多孔質体であるB型シリカゲル、ID型シリカゲル、およびメソポーラスシリカ(FSM)のいずれかを吸着剤31として用いる。なお、メソポーラスシリカは、ハニカム形状であり、その細孔径がB型シリカゲルやID型シリカゲルよりもバラツキが小さい構造となっている。
【0062】
B型シリカゲル、ID型シリカゲル、およびメソポーラスシリカ(FSM)それぞれは、図5に示すように、相対湿度が60%から90%との範囲において、相対湿度の上昇に伴って、水分の吸着率の吸着度合い(傾き)が急激に増大する吸着特性を有する。より具体的には、B型シリカゲル、ID型シリカゲル、メソポーラスシリカ(FSM)それぞれは、相対湿度が100%における水分の吸着率が、相対湿度が60%における水分の吸着率に対して、3倍以上となる吸着特性を有する。なお、図5は、B型シリカゲル(平均細孔径:6nm)、ID型シリカゲル(平均細孔径:12nm)、メソポーラスシリカ(平均細孔径:4nm)の吸着特性(25℃、空気中の特性)を示す特性図であり、図5における実線がB型シリカゲル、一点鎖線がID型シリカゲル、二点鎖線がメソポーラスシリカの吸着特性を示している。
【0063】
一方、図6に示すように、ゼオライトやA型シリカゲルは、相対湿度の低下に伴って水分の吸着率の増加度合い(傾き)が増大する吸着特性を有している。つまり、従来まで使用されていたゼオライトやA型シリカゲルを用いる吸着剤は、冷媒中の水分濃度が低い状態において高い吸着性能を有するのに対して、B型シリカゲル、ID型シリカゲル、メソポーラスシリカを用いる吸着剤は、冷媒中の水分濃度が低い状態において吸着性能が低い。なお、図6は、ゼオライトおよびA型シリカゲルの吸着特性(25℃、空気中の特性)を示す特性図であり、図6における実線がB型シリカゲル、一点鎖線がゼオライト(モレキュラシーブ)、二点鎖線がA型シリカゲル(平均細孔径:2.4nm)の吸着特性を示している。
【0064】
このように、B型シリカゲル、ID型シリカゲル、メソポーラスシリカを吸着剤31として採用することで、ゼオライトやA型シリカゲルを採用する場合に比べて、水分透過速度Wの増加が抑制され、外部から透過する水分量の増大を抑制することが可能となる。
【0065】
また、B型シリカゲル、ID型シリカゲル、メソポーラスシリカは、高湿度での吸着容量がゼオライトやA型シリカゲルに比べて大きく、自重の400倍近い水分を吸着可能(実際の冷媒中でも自重の10倍以上)であるため、ドライヤ3への充填量を増大させることなく、冷媒中の水分を吸着することが可能となる。
【0066】
ドライヤの収容袋32は、例えば、ポリアミド合成繊維からなり、冷媒中の水分を透過可能にメッシュ状とされている。この収容袋32は、吸着剤31を収容するための開口がヒートシール等にて閉塞されている。
【0067】
次に、本実施形態の作動について説明する。車両用空調装置の運転が開始されると、圧縮機が作動して、圧縮された冷媒が吐出される。圧縮機から吐出された高温高圧の冷媒は、凝縮器1の第2ヘッダタンクを介して熱交換部10における凝縮部11に流入する。凝縮部11に流入した冷媒は、車室外空気と熱交換して冷却されて凝縮し、気相冷媒を一部に含む飽和液冷媒となる。この飽和液冷媒は、第1ヘッダタンク13から第1連通穴132を介して受液器2の内部に導入され、受液器2にて気液が分離されると共に、ドライヤ3の吸着剤31により冷媒中の水分が吸着される。
【0068】
その後、受液器2の内部で分離された液冷媒は、フィルタ222にて異物が除去された後、第2連通穴33を介して第1ヘッダタンク13から過冷却部12へ導出されて、再び冷却(過冷却)される。そして、凝縮器1の過冷却部12にて過冷却された冷媒は、温度式膨張弁にて減圧された後、蒸発器に流入する。蒸発器に流入した冷媒は、車室内に吹き出す空気から吸熱して蒸発し、蒸発した冷媒が再び圧縮機に吸入されて圧縮される。
【0069】
ここで、ドライヤ3の吸着剤31として、B型シリカゲルを用いた場合の効果について、従来まで吸着剤として用いられていたゼオライトと比較して説明する。なお、本例では、吸着容量が自重の1倍となるB型シリカゲル10g(最大吸着容量:10g)を吸着剤としたときと、吸着容量が自重の0.2倍となるゼオライト40g(最大吸着容量:8g)を吸着剤としたときとを比較する。なお、一般的に車両用の冷凍サイクルでは、40g手程度のゼオライトが使用されている。
【0070】
図7は、吸着剤としてゼオライトを用いた場合の水分透過挙動を説明する説明図であり、図7の(a)が冷媒中の水蒸気分圧の時間変化を示し、(b)が水分透過量の経年変化を示している。また、図8は、吸着剤としてB型シリカゲルを用いた場合の水分透過挙動を説明する説明図であり、図8の(a)が冷媒中の水蒸気分圧の経年変化を示し、(b)が水分透過量の時間変化を示している。
【0071】
図7に示すように、吸着剤としてゼオライトを用いた場合、水分透過量が最大吸着容量(8g)を上回る前は、ゼオライトにて冷媒中の水分が吸着されるので、初期段階での冷媒中の水蒸気分圧が低くなる。この結果、冷凍サイクル内に透過する水分の水分透過速度が速くなり、水分透過量が増大する。また、水分透過量が最大吸着容量(8g)を上回ると、ゼオライトにて冷媒中の水分が吸着されず、冷媒中の水蒸気分圧が高くなる。この結果、冷媒中の水蒸気分圧が高くなって水分透過速度が遅くなる。そして、水分透過量がゼオライトの吸着容量(8g)を上回ると、冷凍サイクル内に溶解していた水分が析出されて、析出された水分が冷凍サイクル内に残存して、冷凍サイクル内における冷媒の氷結が生じ易くなる。
【0072】
これに対して、図8に示すように、吸着剤としてB型シリカゲルを用いた場合、ゼオライトに比べて冷媒中の水分濃度が低い状態における吸着性能が低いので、初期段階での冷媒中の水蒸気分圧が高くなる。この結果、冷凍サイクル内に透過する水分の水分透過速度が遅く、水分透過量の増大が抑制される。
【0073】
また、B型シリカゲルは、自重に対する吸着容量が多く、冷凍サイクル内に溶解していた水分が析出したとしても、析出した水分を吸着するため、冷凍サイクル内における冷媒の氷結の発生を抑制し、かつ、冷凍サイクル中に水分が析出することによる冷凍サイクルにおける構成部品の内部腐食の促進を抑制することができる。
【0074】
さらに、吸着剤としてB型シリカゲルを用いた場合、ゼオライトに比べて自重に対する吸着容量が多いため、受液器2の内部において占める容積を小さくすることができ、受液器2における体格増大の抑制を図ることができる。
【0075】
例えば、ゼオライト(40g)を吸着剤31とするドライヤ3を受液器2の内部に配置する場合、受液器3の内部に吸着剤31を収容するスペースとして40cc程度の容積を確保する必要がある。これに対して、B型シリカゲル(10g)を吸着剤31とするドライヤ3を受液器2の内部に配置する場合、受液器3の内部に吸着剤31を収容するスペースとして10cc程度の容積を確保すればよいこととなる。
【0076】
なお、ID型シリカゲルやメソポーラスシリカを吸着剤として用いた場合も、上述のB型シリカゲルを吸着剤として用いた場合と同様の作用効果を奏する。
【0077】
以上説明した本実施形態によれば、冷媒としてHFO−1234yf(C3H2F4)が流れる冷凍サイクルにおいて、ドライヤ3の吸着剤31として、B型シリカゲル、ID型シリカゲル、メソポーラスシリカといった、二酸化ケイ素を主成分とし、相対湿度と水分の吸収率との関係が相対湿度の上昇と共に水分の吸着率の吸着度合いが増大する吸着特性を有する多孔質体を適用することで、ドライヤ3への吸着剤31の充填量の増加を抑制しつつ、冷媒の氷結の発生を抑制することができる。また、従来まで吸着剤として用いられていたゼオライトおよびA型シリカゲルに比べて水分透過速度の増加が抑制されるので、ゼオライトおよびA型シリカゲルに比べて冷媒中の水分量を効率よく低下させることができる。
【0078】
また、本実施形態のドライヤ3は、吸着剤31をメッシュ状の収容袋32に収容する構成としているので、吸着剤31を構成する多孔質体が冷凍サイクル内を循環してしまうことを抑制することができる。
【0079】
また、本実施形態では、受液器2のタンク部21の下端側(タンクキャップ22におけるフィルタ保持部321の上部)にドライヤ3を配置する構成としているので、受液器2の内部に存する液相冷媒に含まれる水分を効率よく吸着することができる。
【0080】
また、本実施形態のように、B型シリカゲル、ID型シリカゲル、メソポーラスシリカといった多孔質体を吸着剤31として用いるドライヤ3は、冷媒が流通する冷媒配管の一部が水分透過性を有する材料(例えば、ゴムホース)で構成される車両用空調装置に適用することが極めて有効である。すなわち、冷媒配管の一部が水分透過性を有する材料で構成される場合、冷凍サイクルの内部に透過する水分量(水分透過量)が多く、水分透過量を考慮して吸着剤31の選定を行う必要があるからである。
【0081】
(他の実施形態)
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、各請求項に記載した範囲を逸脱しない限り、各請求項の記載文言に限定されず、当業者がそれらから容易に置き換えられる範囲にも及び、かつ、当業者が通常有する知識に基づく改良を適宜付加することができる。例えば、以下のように種々変形可能である。
【0082】
(1)上述の各実施形態では、ドライヤ3の吸着剤31を、B型シリカゲル、ID型シリカゲル、メソポーラスシリカといった多孔質体で構成する例について説明したが、他にも、二酸化ケイ素を主成分とし、相対湿度と水分の吸収率との関係が相対湿度の上昇と共に水分の吸着率の吸着度合いが増大する吸着特性を有する多孔質体であれば適用することが可能である。
【0083】
(2)上述の各実施形態では、冷凍サイクルの冷媒としてHFO−1234yfを採用した例について説明したが、これに限定されない。例えば、HFO−1234yfと同様に水との反応により包摂化合物が生成され難い構造を有するHFO−1234ze(C:CFCH=CHF)を冷凍サイクルの冷媒として採用してもよい。また、HFO−1234yfとHFO−1234zeとを混合させた混合冷媒を採用してもよい。
【0084】
(3)上述の各実施形態で説明したように、ドライヤ3を受液器2の内部に配置することが好ましいが、ドライヤ3の配置は受液器2の内部に限定されず、冷凍サイクルにおける冷媒が流通する部位に配置してもよい。
【0085】
(4)上述の各実施形態で説明したように、ドライヤ3は、吸着剤31を収容袋32に収容することが望ましいが、吸着剤31を収容袋32に収容することなく、冷媒配管の内部に配置するようにしてもよい。
【0086】
(5)また、吸着剤31を収容する収容袋32は、ヒートシール以外の方法により閉じる構成としてもよい。さらに、収容袋32としては、例えば、冷媒流れの上流側が開口し、下流側が閉塞されているものを用いてもよい。
【0087】
(6)上述の各実施形態では、本発明のドライヤ3を凝縮器1と受液器2とが一体化された受液器一体型凝縮器に適用した例を説明したが、凝縮器1と受液器2とを別体とする構成に適用してもよい。
【0088】
(7)上述の各実施形態では、本発明のドライヤ3を、熱交換部10、凝縮部11および過冷却部12を有するサブクールコンデンサに適用する例について説明したが、これに限定されず、熱交換部10に凝縮部11を有するコンデンサに適用してもよい。
【0089】
(8)上述の各実施形態では、車両用空調装置の冷凍サイクルに本発明のドライヤ3を適用した例を説明したが、これに限定されず、例えば、車両用の暖房装置、定置式の給湯機や室内暖房装置に用いられる冷凍サイクル(ヒートポンプサイクル)に適用してもよい。
【符号の説明】
【0090】
1 凝縮器
2 受液器
21 タンク部
21a 開口部
22 タンクキャップ(蓋部)
3 ドライヤ(冷凍サイクル用ドライヤ)
31 吸着剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒中に含まれる水分を吸着する吸着剤(31)を有する冷凍サイクル用ドライヤであって、
分子式C(m=1〜5、およびn=1〜5、かつ、m+n=6)で示されると共に、分子構造中に1つの二重結合を有する冷媒が流れる蒸気圧縮式の冷凍サイクルに適用され、
前記吸着剤(31)は、二酸化ケイ素を主成分とし、相対湿度と前記水分の吸着率との関係が、相対湿度の増加に伴って前記水分の吸着率の吸着度合いが増加する吸着特性を有する多孔質体で構成されていることを特徴とする冷凍サイクル用ドライヤ。
【請求項2】
前記吸着剤(31)は、平均細孔径が3.5nm以上の前記多孔質体で構成されていることを特徴とする請求項1に記載の冷凍サイクル用ドライヤ。
【請求項3】
前記冷媒は、HFO−1234yfであることを特徴とする請求項1または2に記載の冷凍サイクル用ドライヤ。
【請求項4】
冷媒を凝縮させる凝縮器(1)、前記凝縮器(1)から流出した前記冷媒を気液分離して液相冷媒を導出する受液器(2)、および前記冷媒中の水分を吸着する吸着剤(31)を有するドライヤ(3)を含んで構成される蒸気圧縮式の冷凍サイクルにおいて、
前記冷媒は、分子式C(m=1〜5、およびn=1〜5、かつ、m+n=6)で示されると共に、分子構造中に1つの二重結合を有し、
前記吸着剤(31)は、二酸化ケイ素を主成分とし、相対湿度と前記水分の吸着率との関係が、相対湿度の増加に伴って前記水分の吸着率の吸着度合いが増加する吸着特性を有する多孔質体で構成されていることを特徴とする冷凍サイクル。
【請求項5】
前記受液器(2)は、上下方向に延びると共に、下端側に開口部(21a)が形成された有底筒状のタンク部(21)、および前記開口部(21a)を閉塞する蓋部(22)を有して構成されており、
前記タンク部(21)は、上端側から下端側へ前記冷媒が流れるように前記冷媒の導入口(132)が導出口(133)よりも上端側に設けられており、
前記ドライヤ(3)は、前記タンク部(21)の内部における下端側に配置されていることを特徴とする請求項4に記載の冷凍サイクル。
【請求項6】
前記冷媒が流通する冷媒配管の少なくとも一部が、水分透過性を有する材料で構成されていることを特徴とする請求項4または5に記載の冷凍サイクル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−7529(P2013−7529A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−140709(P2011−140709)
【出願日】平成23年6月24日(2011.6.24)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】