説明

冷凍サイクル装置及び温水生成装置

【課題】二元冷凍サイクルにおける高温側圧縮機内のオイル流出を防止し、省エネルギー性に優れ、かつ、圧縮機の信頼性が高い冷凍サイクル装置を提供すること。
【解決手段】水媒体の温度が、高温側圧縮機31のシェル温度より、所定の温度差以上高くなる運転開始時において、高温側圧縮機31を起動した後に、低温側圧縮機21を起動することにより、高温側圧縮機31の吐出圧力上昇が抑制された状態で、高温側圧縮機31のシェル温度が上昇するので、圧縮機シェル内部での冷媒凝縮が抑制され、オイル吐出量が低減される。したがって、停止圧縮機のシェルをヒーターで加温する待機電力消費を抑制しながら、圧縮機の損傷を防止することが可能となり、機器の省エネルギー性信頼性が確保できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低温側冷媒回路と高温側冷媒回路とがカスケード熱交換器を介して接続される二元冷凍サイクルからなる冷凍サイクル装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の冷凍サイクル装置は、高温の温風または温水を生成することを目的のひとつとして、二元冷凍サイクルが利用されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
図5は、特許文献1に記載された従来の冷凍サイクル装置を示すものである。図5に示すように、冷凍サイクル装置100は、低温側冷媒を循環させる低温側冷媒回路110と、高温側冷媒を循環させる高温側冷媒回路120と、温水を循環させる温水回路130とを備えている。低温側冷媒回路110は、低温側圧縮機111、高温側冷媒と熱交換し凝縮器として機能するカスケード熱交換器112、低温側膨張弁113および蒸発器114が配管により環状に接続されて構成されている。
【0004】
また、高温側冷媒回路120は、高温側圧縮機121、温水と熱交換し凝縮器として機能する高温側熱交換器122、高温側膨張弁123、および低温側冷媒と熱交換し蒸発器として機能するカスケード熱交換器112が配管により環状に接続されて構成されている。
【0005】
一方、温水回路130は、循環ポンプ131、高温側冷媒と熱交換し温水を生成する高温側熱交換器122および例えば貯湯タンクやファンコンベクターのような放熱器132が配管により環状に接続されて構成されている。
【0006】
さらに、冷凍サイクル装置100は、圧縮機111から吐出される冷媒の圧力(圧縮機吐出圧力)Pdを検出する圧力センサ151と、低温側圧縮機111および高温側圧縮機121が停止した状態から起動する場合に、まず低温側圧縮機111を起動し、圧力センサ151で検出された吐出圧力Pdが所定の圧力以上となった後に、高温側圧縮機121を起動するように圧縮機を制御する、圧縮機制御部141とから構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−196951号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前記従来の構成では、長時間の運転停止状態の後、貯湯タンク等での蓄熱により、高温側冷媒で加熱される温水の温度が高い状態において、高圧シェル型の圧縮機を起動する場合は、高温側熱交換器における凝縮温度が高く、かつ、低温側圧縮機の先行運転によりカスケード熱交換器における蒸発温度が高い状態であるため、高温側圧縮機の起動とともに高温側の吐出圧力が急激に上昇する。
【0009】
一方、高温側圧縮機のシェル温度は、長時間の停止により温度低下した状態から徐々に温度上昇する。その為、高温側圧縮機のシェル内部で吐出冷媒が凝縮して液冷媒となり、圧縮機シェル内部のオイルと混合された状態で圧縮機からシステム内に大量に吐出される。その結果、圧縮機のオイル量不足が発生し、最悪の場合、圧縮機が損傷する可能性があり、機器の信頼性が確保できないという課題を有していた。
【0010】
また、圧縮機シェル内部での冷媒凝縮による起動時のオイル吐出を防止するために、停止中の圧縮機シェルをヒーターで加熱して、圧縮機シェル温度を予め高く維持する場合は、非常に大きな待機電力を消費することとなり、省エネルギー性が欠如するという課題を有していた。
【0011】
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、圧縮機を適切に起動することで、圧縮機のオイル量不足を防止し、省エネルギーでかつ信頼性の高い冷凍サイクル装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記従来の課題を解決するために、本発明の冷凍サイクル装置は、低温側冷媒を圧縮する低温側圧縮機、低温側冷媒の放熱器として機能するカスケード熱交換器、低温側膨張手段、低温側冷媒の蒸発器として機能する低温側熱交換器を有する低温側冷媒回路と、高温側冷媒を圧縮する高温側圧縮機、高温側冷媒の放熱器として機能する高温側熱交換器と、高温側膨張手段、低温側冷媒の放熱によって高温側冷媒の蒸発器として機能する前記カスケード熱交換器を有する高温側冷媒回路と、前記高温側圧縮機の温度または前記高温側熱交換器に至る高圧側冷媒配管の温度を検出する第1温度センサと、前記高温側熱交換器において高温側冷媒と熱交換される熱媒体の温度を検出する第2温度センサと、制御装置とを備え、前記制御装置は、前記第2温度センサで検出される温度が前記第1温度センサで検出される温度より所定の温度差以上高い場合、前記高温側圧縮機を起動させた後に、前記低温側圧縮機を起動させることを特徴とするものである。
【0013】
これによって、運転開始時において、低温側冷凍サイクルが停止されているので、カスケード熱交換器において、高温側冷凍サイクルの吸熱源が供給されなくなり、前記高温側圧縮機の吸入圧力が低下して、高温側冷凍サイクルの冷媒循環量が減少する。
【0014】
したがって、高温側圧縮機の吐出圧力上昇が抑制された状態で、圧縮機のシェル温度が上昇するので、圧縮機シェル内部での冷媒凝縮が抑制され、オイル吐出量が低減される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、圧縮機を適切に起動することで、圧縮機のオイル量不足を防止し、省エネルギーでかつ信頼性の高い冷凍サイクル装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態1における冷凍サイクル装置の概略構成図
【図2】従来の冷凍サイクル装置の運転開始時の冷凍サイクル経時変化を表す図
【図3】本発明の実施の形態1における冷凍サイクル装置の運転開始時の冷凍サイクル経時変化を表す図
【図4】本発明の実施の形態1における冷凍サイクル装置の運転制御のフローチャート
【図5】従来の冷凍サイクル装置の概略構成図
【発明を実施するための形態】
【0017】
第1の発明は、低温側冷媒を圧縮する低温側圧縮機、低温側冷媒の放熱器として機能するカスケード熱交換器、低温側膨張手段、低温側冷媒の蒸発器として機能する低温側熱交換器を有する低温側冷媒回路と、高温側冷媒を圧縮する高温側圧縮機、高温側冷媒の放熱器として機能する高温側熱交換器と、高温側膨張手段、低温側冷媒の放熱によって高温側冷媒の蒸発器として機能する前記カスケード熱交換器を有する高温側冷媒回路と、前記高温側圧縮機の温度または前記高温側熱交換器に至る高圧側冷媒配管の温度を検出する第1
温度センサと、前記高温側熱交換器において高温側冷媒と熱交換される熱媒体の温度を検出する第2温度センサと、制御装置とを備え、前記制御装置は、前記第2温度センサで検出される温度が前記第1温度センサで検出される温度より所定の温度差以上高い場合、前記高温側圧縮機を起動させた後に、前記低温側圧縮機を起動させることを特徴とする冷凍サイクル装置である。
【0018】
これにより、運転開始時において、低温側冷媒回路における冷凍サイクルが停止されているので、カスケード熱交換器において、高温側冷媒回路における冷凍サイクルの吸熱源が供給されなくなり、前記高温側圧縮機の吸入圧力が低下して、高温側冷媒回路の冷媒循環量が減少する。
【0019】
これにより、高温側圧縮機の吐出圧力上昇が抑制された状態で、高温側圧縮機のシェル温度が上昇するので、圧縮機シェル内部での冷媒凝縮が抑制され、オイル吐出量が低減される。
【0020】
したがって、圧縮機内のオイル量低下による圧縮機の損傷を防止することが可能となり、停止圧縮機のシェルをヒーターで加温する待機電力消費を抑制しながら、機器の信頼性が確保できる。
【0021】
第2の発明は、第1の発明において、前記高温側冷媒回路における低圧側の冷媒温度を検出する第3温度センサを備え、前記制御装置は、前記第3温度センサで検出される温度が所定の温度以下となった場合に、前記低温側圧縮機を起動させることを特徴とするものである。
【0022】
これにより、高温側冷媒回路における冷凍サイクルの蒸発温度が、所定温度以下に低下したと判断されて、低温側冷媒回路における冷凍サイクルが運転開始されるので、カスケード熱交換器において、高温側冷媒回路における冷凍サイクルの吸熱源が供給され、高温側圧縮機の吸入圧力が、過度に低下することが抑制される。
【0023】
したがって、高温側圧縮機が圧力使用範囲を逸脱して運転することを防止することができ、上記第1の発明の効果に加え、圧縮機の信頼性がさらに向上する。
【0024】
第3の発明は、第1または第2の発明において、前記高温側冷媒回路において、前記高温側圧縮機から吐出される冷媒の過熱度を検出する第1過熱度検出手段を備え、前記制御装置は、前記第1過熱度検出手段で検出される過熱度が所定の第1過熱度を超えるまでの間、前記高温側冷媒の循環量を所定値以下にして運転させることを特徴とするものである。
【0025】
これにより、圧縮機シェル内部での吐出冷媒凝縮が終了したと判断できる高温側圧縮機の吐出冷媒が過熱状態となるまで、高温側冷媒の循環量が少ない状態で運転されるので、高温側圧縮機シェル内部の凝縮液冷媒と混合されたオイルの吐出量がさらに低減される。
【0026】
したがって、上記第1または第2の発明の効果に加え、配管長が長い場合などの多様な設置条件においても信頼性が確保できる。
【0027】
第4の発明は、第1〜3のいずれか1つの発明において、前記高温側冷媒回路において、前記カスケード熱交換器から流出する冷媒の過熱度を検出する第2過熱度検出手段を備え、前記制御装置は、前記第2過熱度検出手段で検出される過熱度が所定の第2過熱度となるように、前記高温側膨張手段を流れる前記高温側冷媒の流量を制御することを特徴とするものである。
【0028】
これにより、高温側冷媒回路における冷凍サイクルの蒸発器出口過熱度が、所定の過熱度(例えば10degのように大きめの過熱度)となるように膨張弁を制御するので、高温側圧縮機の吸入冷媒は過熱状態となる。
【0029】
したがって、高温側圧縮機のシェル温度上昇が速くなり、シェル内部での凝縮によるオイル吐出現象が短時間で終了する。よって、上記第1〜3のいずれか1つの発明の効果に加え、さらに、冷凍サイクルが迅速に立ち上がることで、快適性が向上する。
【0030】
第5の発明は、第1〜4のいずれか1つの発明の熱媒体は、水または不凍液であり、前記高温側熱交換器により加温された前記水または不凍液を、給湯と暖房の少なくとも一方に利用することを特徴とする温水生成装置であることを特徴とするものである。
【0031】
これにより、放熱器は、冷媒−水熱交換器でも冷媒−不凍液熱交換器でもよい。したがって、高温側熱交換器により加温された熱媒体を、暖房機器(温風機、ラジエータ、床暖房パネル等)や給湯機器などに幅広く使用することができる。
【0032】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、この実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
【0033】
(実施の形態1)
図1は、本発明の第1の実施の形態における冷凍サイクル装置および温水生成装置の概略構成図を示すものである。図1において、冷凍サイクル装置1Aは、低温側冷媒を循環させる低温側冷媒回路2と、高温側冷媒を循環させる高温側冷媒回路3と、を備えている。冷媒としては、例えば、R407C等の非共沸混合冷媒、R410A等の擬似共沸混合冷媒、またはR134a等の単一冷媒等を用いることができる。
【0034】
低温側冷媒回路2は、高圧シェル型の低温側圧縮機21、高温側冷媒と熱交換し凝縮器として機能するカスケード熱交換器22、低温側膨張弁(低温側膨張手段)23および蒸発器として機能する低温側熱交換器24が配管により環状に接続されて構成されている。本実施の形態では、低温側冷媒回路2に、通常運転とデフロスト運転を切り換えるための四方弁25が設けられている。
【0035】
高温側冷媒回路3は、高圧シェル型の高温側圧縮機31、凝縮器として機能する高温側熱交換器32、高温側膨張弁(高温側膨張手段)33および低温側冷媒と熱交換し蒸発器として機能するカスケード熱交換器22が配管により環状に接続されて構成されている。本実施の形態では、高温側冷媒回路3に、通常運転とデフロスト運転を切り換えるための四方弁35が設けられている。
【0036】
本実施の形態では、冷凍サイクル装置1Aが、加熱手段により生成した温水を給湯や暖房に利用する温水生成装置の加熱手段を構成しており、高温側熱交換器32が、高温側冷媒と水との間で熱交換を行わせて水を加熱する熱交換器となっている。
【0037】
具体的には、高温側熱交換器32と、水ポンプ71と、例えば貯湯タンクやファンコンベクター等の放熱器72とが配管により環状に接続されている温水回路7が備えられており、高温側熱交換器32で加熱された温水が放熱器72で放熱され、蓄熱や暖房が行われる。
【0038】
通常運転では、低温側冷媒回路2は、低温側圧縮機21から吐出された冷媒が四方弁25を介してカスケード熱交換器22に送られ、高温側冷媒回路3は、高温側圧縮機31か
ら吐出された冷媒が四方弁35を介して高温側熱交換器32に送られる。一方、デフロスト運転では、低温側冷媒回路2は、低温側圧縮機21から吐出された冷媒が四方弁25を介して低温側熱交換器24に送られ、高温側冷媒回路3は、高温側圧縮機31から吐出された冷媒が四方弁35を介してカスケード熱交換器22に送られる。図1では、通常運転時の冷媒の流れ方向を矢印で示している。以下、通常運転における冷媒の状態変化を説明する。
【0039】
低温側冷媒回路2において、低温側圧縮機21から吐出された高圧の低温側冷媒は、カスケード熱交換器22に流入し、高温側冷媒回路3を循環する冷凍サイクルにおける低圧の高温側冷媒と熱交換して放熱する。
【0040】
カスケード熱交換器22から流出した高圧の低温側冷媒は、低温側膨張弁23によって減圧されて膨張した後に、低温側熱交換器24に流入する。低温側熱交換器24に流入した低圧の低温側冷媒は、ここで空気から吸熱し蒸発する。低温側熱交換器24において蒸発した低圧の低温側冷媒は、再度、低温側圧縮機21に吸入される。
【0041】
一方、高温側冷媒回路3においては、カスケード熱交換器22における低温側冷媒の放熱によって、高温側冷媒回路3を循環する冷凍サイクルにおける低圧の高温側冷媒が加熱されて蒸発する。カスケード熱交換器22において蒸発した低圧の高温側冷媒は、高温側圧縮機31に吸入され、冷凍サイクルにおける高圧まで圧縮された後に、吐出される。
【0042】
高温側圧縮機31から吐出された高圧の高温側冷媒は、高温側熱交換器32に流入し、循環ポンプ71によって温水回路7を循環する水媒体と熱交換して放熱する。高温側熱交換器32から流出した高圧の高温側冷媒は、高温側膨張弁33によって減圧されて膨張した後に、再び、カスケード熱交換器22に流入する。
【0043】
本実施の形態の冷凍サイクル装置1Aの構成は、上述のように、高温側冷媒回路3を循環する低圧の高温側冷媒が、低温側冷媒回路2を循環する高圧の低温側冷媒の放熱によって加熱されるようになっているので、高温側冷媒回路3における冷凍サイクルの凝縮温度は、低温側冷媒回路2における冷凍サイクルの凝縮温度よりも高温にすることができる。したがって、高温側熱交換器32における高温側冷媒の放熱によって、高温の水媒体を得ることができるようになっている。
【0044】
しかしながら、水媒体温度が高温側圧縮機31のシェル温度より高く、温度差が大きい状態(例えば、冷凍サイクル装置1Aにより、水媒体が高温状態となる加熱運転が実施され、サーモオフなどにより停止された後、高温側圧縮機31のシェル温度が周囲温度付近まで低下した状態)で、加熱運転が開始された場合に、高温側圧縮機31内のオイルが大量に吐出されて、圧縮機内部の給油不良により、圧縮機が損傷するといった問題もある。
【0045】
これは、上述した環境条件において、加熱運転開始により低温側圧縮機21と高温側圧縮機31を運転すると、高温側熱交換器32において、放熱する水媒体の温度が高温であることと、カスケード熱交換器22において、低温側冷媒回路2を循環する高圧の低温側冷媒により十分に吸熱源が供給されていることにより、高温側圧縮機31の吐出圧力が急激に上昇する。
【0046】
一方、高温側圧縮機31のシェル温度は、圧縮運転により加熱されるが、圧縮機自体の熱容量により、周囲温度付近から徐々に温度上昇していく。そのため、図2中a−b区間のように、高温側圧縮機31のシェル温度が、吐出圧力の飽和温度を下回る状態となり、高温側圧縮機31の内部において、吐出された高温側冷媒が高温側圧縮機31のシェルと熱交換することによって凝縮される。
【0047】
そして、凝縮により液冷媒となった高温側冷媒は、高温側圧縮機31内のオイルと混合され、シェル内部のオイルを希釈しながら、液面(オイル+液冷媒)の上昇によって圧縮機から大量に吐出される。その後、図2中b以降のように、高温側圧縮機31のシェル温度が、吐出圧力飽和温度より高くなると、希釈されたオイル中の冷媒成分が蒸発するために、液面は一気に低下し、給油可能な液面高さを下回ることとなる。
【0048】
また、上述した環境条件において、高温側圧縮機31内のオイルが大量に吐出されることを防止するために、ヒーター等の加熱源を用いて、停止中の圧縮機シェルを加熱する場合は、待機電力が大きくなり、省エネルギー性を損なうことになる。
【0049】
高温の水媒体を生成し、幅広い用途や環境条件で活用し、省エネルギー性と機器の信頼性を確保するためには、この起動時のオイル吐出を抑制することが、重要である。
【0050】
本実施の形態では、詳しくは後述するが、制御装置4は、水媒体の温度が高温側圧縮機31のシェル温度より、所定の温度差以上高い状態において、加熱運転を開始する場合に、低温側圧縮機21を停止させた状態で、高温側圧縮機31のみを起動させ、高温側冷媒の循環量が所定の循環量以下となるように回転数を低下させて運転する。
【0051】
また、制御装置4は、高温側膨張弁33を、高温側冷媒回路3におけるカスケード熱交換器22から流出する冷媒の過熱度が、所定の過熱度となるように制御する。これにより、図3中a−b区間のように、カスケード熱交換器22において、低温側冷媒回路2から吸熱源が供給されないために、高温側圧縮機31の吸入圧力が低下し、かつ、高温側圧縮機31が低回転数で運転し循環量が低下することで、吐出圧力の上昇速度が低下する。
【0052】
一方、高温側圧縮機31が過熱状態の冷媒を吸入することで、高温側圧縮機31のシェル温度上昇速度が上昇する。よって、高温側圧縮機31のシェル内部における吐出冷媒の凝縮現象は短時間で終了することとなり、凝縮液冷媒と混合されてシステム内に流出するオイル量は、大幅に低減されることとなる。
【0053】
さらに、制御装置4は、高温側冷媒回路3における高温側冷媒が気液二相状態となるカスケード熱交換器22入口の温度(蒸発温度)を検出し、高温側圧縮機31の吸入圧力が、圧縮機の圧力使用範囲を逸脱しないレベルで設定された所定の温度まで蒸発温度が低下した時に、低温側圧縮機21を起動して、カスケード熱交換器22において、低温側圧縮機21から吐出される高圧高温の低温側冷媒から、高温側冷媒に吸熱源を供給して、吸入圧力を適正な圧力まで上昇させる。
【0054】
したがって、圧縮機シェルの加熱用ヒーター等を使用することなく、起動時の圧縮機内のオイル量が保持されるので、冷凍サイクル装置1Aの省エネルギー性と信頼性が確保されることとなる。
【0055】
以下、運転制御の動作について説明する。高温側冷媒回路3には、高温側圧縮機31のシェル温度(シェル温度)Tdを検出する第1温度センサ51と、高温側圧縮機31から吐出される冷媒の過熱度(高温側吐出過熱度)SHdを検出する第1過熱度検出手段61と、カスケード熱交換器22に流入する冷媒の温度(高温側蒸発温度)Teiを検出する第3温度センサ53と、カスケード熱交換器22から流出する冷媒の過熱度(高温側吸入過熱度)SHeを検出する第2過熱度検出手段62とが設けられている。
【0056】
一方、温水回路7には、高温側熱交換器32に流入する水媒体の温度(温水温度)Twを検出する第2温度センサ52が設けられている。本実施の形態では、第1過熱度検出手
段61は、高温側圧縮機31から吐出される冷媒の圧力を検出し、その圧力の飽和温度(吐出圧力飽和温度)STdを冷媒物性式から算出する。
【0057】
そして、高温側吐出過熱度SHdを、SHd=Td−STdにより算出する構成となっている。また、第2過熱度検出手段62は、カスケード熱交換器22から流出する冷媒の温度Teoを検出し、高温側吸入過熱度SHeを、SHe=Teo―Teiにより算出する構成となっている。
【0058】
制御装置4は、各種のセンサ51、52、53、61、62で検出される検出値等に基づいて、低温側圧縮機21および高温側圧縮機31の回転数、低温側四方弁25および高温側四方弁35の切り換え、ならびに低温側膨張弁23および高温側膨張弁33の開度を動作させる。
【0059】
本実施の形態では、制御装置4は、温水温度Twがシェル温度Tdより、所定の温度差Tx以上高い場合に、高温側圧縮機31を起動した後に、低温側圧縮機21を起動させる。
【0060】
また、制御装置4は、高温側蒸発温度Teiが、所定の温度Tx以下となった場合に、低温側圧縮機21を起動させる。
【0061】
また、制御装置4は、高温側吐出過熱度SHdが、所定の第1過熱度SHxを超えるまでの間、高温側圧縮機31の回転数を所定値以下にして運転させる。
【0062】
また、制御装置4は、高温側吸入過熱度SHeが、所定の第2過熱度SHyとなるように高温側膨張弁33の弁開度を動作させる。
【0063】
次に、通常運転時の制御装置4の制御を図4に示すフローチャートを参照して詳細に説明する。
【0064】
まず、制御装置4は、リモコン等により入力される暖房運転開始指示を受信し(ステップS1)、温水ポンプ71を運転する(ステップS2)。次に、第2温度センサ52で温水温度Twを検出するとともに、第1温度センサ51でシェル温度Tdを検出して(ステップS3)、温水温度Twとシェル温度Tdとの温度差Taを、Ta=Tw−Tdにより算出する(ステップS4)。
【0065】
ついで、制御装置4は、温度差Taと所定の温度差Txを比較し、TaがTx以上か否かを判断する(ステップS5)。温度差Taが所定の温度差Tx未満の場合には(ステップS5でNO)、高温側圧縮機31のシェル内部において、高温側の吐出冷媒が凝縮されにくいと判断し、本起動制御を終了する。
【0066】
一方、温度差Taが所定の温度差Tx以上の場合には(ステップS5でYES)、高温側圧縮機31のシェル内部において、高温側の吐出冷媒が凝縮されやすいと判断し、高温側圧縮機31のみを起動させる(ステップS6)。
【0067】
その後、制御装置4は、第3温度センサ53で高温側蒸発温度Teiを検出し(ステップS7)、所定の温度Txと比較して、TeiがTx以下か否かを判断するとともに、低温側圧縮機21が停止中か否かを判断する(ステップS8)。
【0068】
高温側蒸発温度Teiが所定の温度Tx以下で、かつ、低温側圧縮機21が停止中の場合には(ステップS8でYES)、高温側圧縮機31の吸入圧力が、圧縮機の圧力使用範
囲の下限付近であると判断し、低温側圧縮機21を起動させて、カスケード熱交換器22に高温高圧の低温側冷媒を吸熱源として供給する(ステップS9)。
【0069】
一方、高温側蒸発温度Teiが所定の温度Txより高い場合や低温側圧縮機21が運転中の場合には(ステップS8でNO)、ステップS10に進む。
【0070】
次に、制御装置4は、第1過熱度検出手段61で高温側吐出過熱度SHdを、第2過熱度検出手段62で高温側吸入過熱度SHeを検出する(ステップS10)。
【0071】
そして、高温側吐出過熱度SHdと所定の第1過熱度SHxとを比較して、SHdがSHx以下か否かを判断する(ステップS11)。高温側吐出過熱度SHdが所定の第1過熱度SHxより大きい場合には(ステップS11でNO)、高温側圧縮機31のシェル内部における、高温側吐出冷媒の凝縮は終了したと判断し、本起動制御を終了する。
【0072】
一方、高温側吐出過熱度SHdが所定の第1過熱度SHx以下の場合には(ステップS11でYES)、高温側圧縮機31のシェル内部の冷媒凝縮を防止する必要があると判断し、高温側圧縮機31の回転数を高温側冷媒回路3における冷媒循環量が所定値以下になるように低下させて運転する(ステップS12)とともに、高温側吸入過熱度SHeが所定の第2過熱度SHyに等しくなるように高温側膨張弁33の開度を調整する(ステップS13)。そして、ステップS7に戻る。
【0073】
以上のように、本実施の形態においては、制御装置4と、高温側冷媒回路3において、高温側圧縮機31のシェル温度を検出する第1温度センサ51と、高温側圧縮機から吐出される冷媒の過熱度を検出する第1過熱度検出手段61と、カスケード熱交換器22に流入する冷媒の温度を検出する第3温度センサ53と、カスケード熱交換器22から流出する冷媒の過熱度を検出する第2過熱度検出手段62と、温水回路7において、高温側熱交換器32に流入する水媒体の温度Twを検出する第2温度センサ52とを備えた構成であり、制御装置4は、第2温度センサ52で検出される温度が第1温度センサ51で検出される温度より、所定の温度差以上高くなる運転開始時において、高温側圧縮機31を起動させた後に、低温側圧縮機21を起動させるように制御する。
【0074】
これによって、運転開始時において、低温側冷媒回路2における冷凍サイクルが停止されているので、カスケード熱交換器22において、高温側冷媒回路3における冷凍サイクルの吸熱源が供給されなくなり、高温側圧縮機31の吸入圧力が低下して、高温側冷媒回路3の冷媒循環量が減少する。
【0075】
これにより、高温側圧縮機31の吐出圧力上昇が抑制された状態で、高温側圧縮機31のシェル温度が上昇するので、圧縮機シェル内部での冷媒凝縮が抑制され、オイル吐出量が低減される。
【0076】
したがって、圧縮機内のオイル量低下による圧縮機の損傷を防止することが可能となり、停止圧縮機のシェルをヒーターで加温する待機電力消費を抑制しながら、機器の信頼性が確保できる。
【0077】
また、制御装置4は、第3温度センサ53で検出される温度が、所定の温度以下となった場合に、低温側圧縮機21を起動させるように制御する。
【0078】
これによって、高温側冷媒回路3における冷凍サイクルの蒸発温度が、所定温度以下に低下したと判断されて、低温側冷媒回路2における冷凍サイクルが運転開始されるので、カスケード熱交換器22において、高温側冷媒回路3における冷凍サイクルの吸熱源が供
給され、高温側圧縮機31の吸入圧力が、過度に低下することが抑制される。
【0079】
したがって、高温側圧縮機31が圧力使用範囲を逸脱して運転することを防止することができ、圧縮機の信頼性がさらに向上する。
【0080】
また、制御装置4は、第1過熱度検出手段61で検出される過熱度が、所定の第1過熱度を超えるまでの間、高温側冷媒の循環量を所定値以下になるように運転制御する。
【0081】
これによって、圧縮機シェル内部での吐出冷媒凝縮が終了したと判断できる高温側圧縮機31の吐出冷媒が過熱状態となるまで、高温側冷媒の循環量が少ない状態で運転されるので、高温側圧縮機31シェル内部の凝縮液冷媒と混合されたオイルの吐出量が、さらに低減される。したがって、配管長が長い場合などの多様な設置条件においても信頼性が確保できる。
【0082】
さらに、制御装置4は、第2過熱度検出手段で検出される過熱度が、所定の第2過熱度となるように高温側膨張弁33の開度を調整して制御する。
【0083】
これによって、高温側冷媒回路3における冷凍サイクルの蒸発器出口冷媒が、所定の過熱度となるので、高温側圧縮機31の吸入冷媒は過熱状態となる。したがって、高温側圧縮機31のシェル温度上昇が速くなり、シェル内部での凝縮によるオイル吐出現象が短時間で終了する。よって、冷凍サイクルが迅速に立ち上がり、快適性が向上する。
【0084】
なお、図1では、第1温度センサ51が高温側圧縮機31のシェルに設けられているが、第1温度センサ51は、高温側圧縮機31と高温側熱交換器32の間の吐出冷媒が流れる配管上であればどの位置に設けられていてもよい。
【0085】
また、図1では、第2温度センサが温水回路7における高温側熱交換器32の入り口側に設けられているが、第2温度センサは、温水回路7のどの位置に設けられていてもよい。
【0086】
また、図1では、第3温度センサが高温側冷媒回路3におけるカスケード熱交換器22の入り口側に設けられているが、第3温度センサは、高温側冷媒回路における高温側膨張弁33の下流側で、高温側冷媒が常に二相状態となる位置であれば、どの位置に設けられていてもよい。
【0087】
あるいは、第3温度センサは、圧力センサで代用してもよい。この場合は、冷媒物性式を用いて、圧力センサの検知値から飽和温度を算出すればよい。
【0088】
また、本実施の形態では、第1過熱度検出手段61が第1温度センサの検知値を用いて吐出過熱度SHdを算出しているが、高温側吐出冷媒の圧力と温度をそれぞれ検知して、吐出過熱度SHdを算出する構成でもよい。
【0089】
また、第2過熱度検出手段62が、高温側冷媒回路3におけるカスケード熱交換器22の入口冷媒温度と出口冷媒温度の温度差で吸入過熱度SHeを算出しているが、第2過熱度検出手段62は、高温側冷媒回路3における低圧側冷媒の圧力と、カスケード熱交換器22の出口と高温側圧縮機31の冷媒吸入配管の間における低圧側冷媒の温度とを検出し、検出した低圧側冷媒の温度から、冷媒物性式によって算出した圧力飽和温度を差し引いて、吸入過熱度SHeを求める構成でもよい。
【0090】
さらに、本発明の実施の形態では、高温側冷媒回路3における冷凍サイクルによって、
水媒体が加熱されるが、加熱される媒体は、ブラインや、空気であってもよいし、放熱器72は、温風機やラジエータ、床暖房パネルでもよい。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明は、冷凍サイクル装置によって温水を生成し、その温水を給湯や暖房に利用する温水生成装置に特に有用である。
【符号の説明】
【0092】
1A 冷凍サイクル装置
2 低温側冷媒回路
3 高温側冷媒回路
4 制御装置
21 低温側圧縮機
22 カスケード熱交換器
23 低温側膨張弁(低温側膨張手段)
24 低温側熱交換器
31 高温側圧縮機
32 高温側熱交換器
33 高温側膨張弁(高温側膨張手段)
51 第1温度センサ
52 第2温度センサ
53 第3温度センサ
61 第1過熱度検出手段
62 第2過熱度検出手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
低温側冷媒を圧縮する低温側圧縮機、低温側冷媒の放熱器として機能するカスケード熱交換器、低温側膨張手段、低温側冷媒の蒸発器として機能する低温側熱交換器を有する低温側冷媒回路と、高温側冷媒を圧縮する高温側圧縮機、高温側冷媒の放熱器として機能する高温側熱交換器と、高温側膨張手段、低温側冷媒の放熱によって高温側冷媒の蒸発器として機能する前記カスケード熱交換器を有する高温側冷媒回路と、前記高温側圧縮機の温度または前記高温側熱交換器に至る高圧側冷媒配管の温度を検出する第1温度センサと、前記高温側熱交換器において高温側冷媒と熱交換される熱媒体の温度を検出する第2温度センサと、制御装置とを備え、前記制御装置は、前記第2温度センサで検出される温度が前記第1温度センサで検出される温度より所定の温度差以上高い場合、前記高温側圧縮機を起動させた後に、前記低温側圧縮機を起動させることを特徴とする冷凍サイクル装置。
【請求項2】
前記高温側冷媒回路における低圧側の冷媒温度を検出する第3温度センサを備え、前記制御装置は、前記第3温度センサで検出される温度が所定の温度以下となった場合に、前記低温側圧縮機を起動させることを特徴とする請求項1に記載の冷凍サイクル装置。
【請求項3】
前記高温側冷媒回路において、前記高温側圧縮機から吐出される冷媒の過熱度を検出する第1過熱度検出手段を備え、前記制御装置は、前記第1過熱度検出手段で検出される過熱度が所定の第1過熱度を超えるまでの間、前記高温側冷媒の循環量を所定値以下にして運転させることを特徴とする請求項1または2に記載の冷凍サイクル装置。
【請求項4】
前記高温側冷媒回路において、前記カスケード熱交換器から流出する冷媒の過熱度を検出する第2過熱度検出手段を備え、前記制御装置は、前記第2過熱度検出手段で検出される過熱度が所定の第2過熱度となるように、前記高温側膨張手段を流れる前記高温側冷媒の流量を制御することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の冷凍サイクル装置。
【請求項5】
前記請求項1〜4のいずれか1項に記載の熱媒体は、水または不凍液であり、前記高温側熱交換器により加温された前記水または不凍液を、給湯と暖房の少なくとも一方に利用することを特徴とする温水生成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−104624(P2013−104624A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−249264(P2011−249264)
【出願日】平成23年11月15日(2011.11.15)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)