説明

冷凍機及び温度調整装置、もしくはこれらの制御方法

【課題】冷凍機での液バックを防止しつつ、室内温度を設定温度に速やかに到達させて保持することのできる温度調整装置を提供する。
【解決手段】温度調整装置10は冷凍機と電気ヒータ31とを備え、温調演算部45は室内温度センサ11で測定した室内温度を設定温度に近づけるための温度調整装置(冷凍機とヒータ31をあわせたもの)の出力の目標値を求める。弁開度抑制演算部44は蒸発器入口温度センサ12および蒸発器出口温度センサ13から蒸発器の過熱度を測定し、該過熱度と予め定めた設定過熱度とに基づいて、冷凍機の電子膨張弁23の弁開度を抑制するための出力の抑制値を求める。制御出力演算部46は冷凍機の出力が抑制値を超えない範囲で温度調整装置の出力が目標値に近づくように、電子膨張弁23の弁開度とヒータ31の出力とを制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、室内の温度を調整する冷凍機や温度調整装置もしくはこれらの制御方法に係わり、特に、冷凍機の液バックを防止しつつ、室内温度を設定温度に制御するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
温度試験庫などの室内温度を、所望の設定温度にするための温度調整装置は、室内を冷却するための冷凍機と、室内を加熱するためのヒータとを備え、室内温度が設定温度になるように、冷凍機の出力とヒータの出力とをそれぞれ制御するようになっている。
【0003】
冷凍機は、圧縮機、凝縮器、膨張弁、蒸発器を配管で環状に接続し、その中で冷媒を循環させることにより冷凍サイクルを実現する装置である。冷媒は圧縮機で圧縮されて高温高圧のガスになり、凝縮器で潜熱を放出して液体となり、膨張弁を通る過程で低圧の液体になり、蒸発器で周囲から熱を吸収して蒸発して気化し、再び圧縮機で圧縮されるというように循環する。蒸発器は室内の空気を循環させる空調機内に設置されており、蒸発器で冷媒が気化する際に室内の冷却が行なわれる。
【0004】
このような冷凍機では、室内の温度が低いにもかかわらず、蒸発器に流す冷媒の流量が多い場合には、蒸発器で冷媒が気化しきれずに一部が液体のまま圧縮機に戻ってしまう、所謂、液バック現象が生じてしまう。液バックの有無は、蒸発器の出口温度と入口温度との差である過熱度を測定することにより判断することができる。すなわち、蒸発器で冷媒の気化が不完全な場合は蒸発器の入口温度に対して出口温度の上昇はなく、冷媒が完全に気化し、さらに吸熱した場合は蒸発器の出口温度が入口温度より上昇する。そこで、測定された過熱度に基づいて冷凍機の制御が行なわれる。
【0005】
たとえば、蒸発器の出口及び入口に装着した温度センサからの信号に基づいて算出された測定過熱度と、予め設定された設定過熱度とを比較し、冷凍機の電子膨脹弁の第1弁開度を算出すると共に、室内に装着した温度センサからの信号に基づいて検出された室内温度と予め設定された室内温度と比較して電子膨脹弁の第2弁開度を算出し、測定過熱度と設定過熱度の差分が所定の範囲内で、かつ、第2弁開度が所定の範囲内である場合には第2弁開度を、それ以外の場合は第1弁開度を電子膨脹弁に出力するように制御する方法が知られている(たとえば、特許文献1参照。)。
【0006】
【特許文献1】特開2004−125243号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のような制御では、蒸発器の過熱度に基づく制御と、室内温度に基づく制御とを所定の条件により切り替えて使用するので、過熱度に基づく制御を選択している時間帯は、室内温度が制御に反映されなくなり、室内の温度はなりゆきになって乱れてしまうという問題があった。
【0008】
これに対し、過熱度に基づく制御を行なわないで室内温度に基づく制御のみとした場合は、室内の温度の乱れという問題点は解決されるが、室内温度と設定温度のみで弁開度を決めてしまうと、設定温度が変更されたときや、庫内の負荷が急激に増えた場合などは弁を急激に開くように制御され、液バックが発生して冷凍機が故障してしまう。
【0009】
また、インバータ方式の圧縮機を用いた冷凍機では、運転周波数による容量の制御範囲に制限があるので、運転周波数を最小にしたにもかかわらず室内の温度が設定温度を下回るという問題点も発生する。
【0010】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、液バックを防止しつつ、室内温度を設定温度に速やかに到達させて保持することのできる冷凍機及び温度調整装置もしくはこれらの制御方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
かかる目的を達成するための本発明の要旨とするところは、次の各項の発明に存する。
【0012】
[1]電子膨張弁を備えた冷凍機の制御方法において、
前記冷凍機で冷却される室内の温度を測定し、該室内の温度を設定温度に近づけるための前記冷凍機の出力の目標値を求めるステップと、
空調機内の蒸発器の過熱度を測定し、該過熱度と予め定めた設定過熱度とに基づいて、前記電子膨張弁の弁開度を抑制するための抑制値を求めるステップと、
前記抑制値を超えない範囲で前記冷凍機の出力が前記目標値に近づくように前記電子膨張弁の弁開度を制御するステップと
を有する
ことを特徴とする冷凍機の制御方法。
【0013】
上記発明では、測定した室内温度と設定温度とから室内温度を設定温度に近づけるための冷凍機の出力の目標値を求めると共に、過熱度と設定過熱度とから電子膨張弁の弁開度を抑制するための抑制値を求め、該抑制値を超えない範囲で冷凍機の出力が目標値に近づくように電子膨張弁の弁開度を制御する。すなわち、基本的には室内温度が設定温度に近づくように電子膨張弁の弁開度を制御するが、抑制値を超えるような急激な弁開度の増大は制限する。これにより、液バックを防止しつつ、室内温度を設定温度に向けて、あるいは設定温度に保持するように制御することができる。なお、抑制値で制限するのは、電子膨張弁を開く場合のみでよく、電子膨張弁を絞るときは制限しなくてよい。
【0014】
[2]室内を冷却する冷凍機と前記室内を加熱するヒータとを備えた温度調整装置の制御方法において、
前記室内の温度を測定し、該室内の温度を設定温度に近づけるための前記温度調整装置の出力の目標値を求めるステップと、
空調機内の蒸発器の過熱度を測定し、該過熱度と予め定めた設定過熱度とに基づいて、前記冷凍機の電子膨張弁の弁開度を抑制するための抑制値を求めるステップと、
前記冷凍機の出力が前記抑制値を超えない範囲で前記温度調整装置の出力が前記目標値に近づくように、前記電子膨張弁の弁開度と前記ヒータの出力とを制御するステップと
を有する
ことを特徴とする温度調整装置の制御方法。
【0015】
上記発明では、測定した室内温度と設定温度とから室内温度を設定温度に近づけるための温度調整装置(冷凍機とヒータの双方を合わせたもの)の出力の目標値を求めると共に、過熱度と設定過熱度とから、電子膨張弁の弁開度を抑制するための抑制値を求め、冷凍機の出力が該抑制値を超えない範囲で温度調整装置全体としての出力が目標値に近づくように電子膨張弁の弁開度とヒータの出力とを制御する。すなわち、基本的には室内温度が設定温度に近づくように電子膨張弁の弁開度とヒータの出力とを制御するが、急激な弁開度の増大は抑制される。なお、抑制値で制限するのは、電子膨張弁の弁開度を増大させる場合のみでよく、電子膨張弁を絞るときは制限しなくてよい。
【0016】
[3]前記冷凍機の出力を、該冷凍機の最小出力未満にしたい場合は、前記冷凍機のホットガスヒート回路の電磁弁を開くように制御する
ことを特徴とする[1]に記載の冷凍機の制御方法または請求項2に記載の温度調整装置の制御方法。
【0017】
上記発明では、インバータ方式の圧縮機などを用いた出力可変の冷凍機では、予め定められた最小出力以下に出力を下げることはできないので、該最小出力以下に冷凍機の出力を下げたい場合は、過冷却となる分を、冷凍機のホットガスヒート回路の電磁弁を開き、高温の冷媒をホットガスヒート回路に流すことで相殺する。
【0018】
[4]電子膨張弁を備えた冷凍機と、
前記冷凍機で冷却される室内の温度を検出する第1温度センサと、
前記第1温度センサによって検出された室内の温度と、設定温度とを比較して、前記室内の温度を前記設定温度に近づけるための前記冷凍機の出力の目標値を求める温調演算部と、
空調機内の蒸発器の出口の温度を検出する第2温度センサと、
前記蒸発器の入口の温度を検出する第3温度センサと、
前記第2温度センサによって検出された温度と前記第3温度センサによって検出された温度とから前記蒸発器の過熱度を求め、該過熱度と予め定めた設定過熱度とに基づいて、前記電子膨張弁の弁開度を抑制するための抑制値を求める弁開度抑制演算部と、
前記抑制値を超えない範囲で前記冷凍機の出力が前記目標値に近づくように前記電子膨張弁の弁開度を制御する出力制御部と
を有する
ことを特徴とする温度調整装置。
【0019】
上記発明では、温調演算部は、室内に設置した第1温度センサで測定した室内温度と、操作部などで設定された設定温度とに基づき、室内温度を設定温度に近づけるための冷凍機の出力の目標値を求める。弁開度抑制演算部は、蒸発器の出口に設けた第2温度センサの検出する温度と蒸発器の入口に設けた第3温度センサの検出する温度との差から蒸発器の過熱度を求め、該過熱度と設定過熱度とから電子膨張弁の弁開度を抑制するための抑制値を求める。出力制御部は、この抑制値を超えない範囲で冷凍機の出力が目標値に近づくように電子膨張弁の弁開度を制御する。すなわち、制御部は、基本的には室内温度が設定温度に近づくように電子膨張弁の弁開度を制御するが、急激な弁開度の増大は抑制値により制限する。
【0020】
[5]室内を冷却する冷凍機と前記室内を加熱するヒータとを備えた加熱冷却部と、
前記室内の温度を検出する第1温度センサと、
前記第1温度センサによって検出された室内温度と、設定温度とを比較して、前記室内の温度を前記設定温度に近づけるための前記加熱冷却部の出力の目標値を求める温調演算部と、
空調機が有する蒸発器の出口の温度を検出する第2温度センサと、
前記蒸発器の入口の温度を検出する第3温度センサと、
前記第2温度センサによって検出された温度と前記第3温度センサによって検出された温度とから前記蒸発器の過熱度を求め、該過熱度と予め定めた設定過熱度とに基づいて、前記冷凍機の電子膨張弁の弁開度を抑制するための抑制値を求める弁開度抑制演算部と、
前記冷凍機の出力が前記抑制値を超えない範囲で前記加熱冷却部の出力が前記目標値に近づくように、前記電子膨張弁の弁開度と前記ヒータの出力とを制御する出力制御部と
を有する
ことを特徴とする温度調整装置。
【0021】
上記発明では、温調演算部は、室内に設置した第1温度センサで測定した室内温度と設定温度とから、室内温度を設定温度に近づけるための温度調整装置の出力(冷凍機とヒータとを合わせた全体としての出力)目標値を求め、弁開度抑制演算部は、第2温度センサおよび第3温度センサで検出された蒸発器の出口温度と入口温度との差から蒸発器の過熱度を求め、該過熱度と設定過熱度とから電子膨張弁の弁開度を抑制するための抑制値とを求める。出力制御部は、冷凍機の出力が該抑制値を超えない範囲で、温度調整装置全体としての出力が目標値に近づくように、電子膨張弁の弁開度とヒータの出力とを制御する。すなわち、基本的には室内温度が設定温度に近づくように電子膨張弁の弁開度とヒータの出力とを制御するが、急激な弁開度の増大は、抑制値により制限される。
【0022】
[6]前記冷凍機の出力を、該冷凍機の最小出力未満にしたい場合は、前記冷凍機のホットガスヒート回路の電磁弁を開くように制御する
ことを特徴とする[4]または[5]に記載の温度調整装置。
【0023】
上記発明では、冷凍機の出力をその最小出力以下に下げたい場合は、過冷却となる分を、冷凍機のホットガスヒート回路の電磁弁を開くことで相殺する。
【0024】
[7]前記冷凍機の出力の値は、前記電子膨張弁の弁開度として求める
ことを特徴とする[4]乃至[6]のいずれかに記載の温度調整装置。
【0025】
上記発明では、冷凍機の出力は電子膨張弁の弁開度として求める。たとえば、弁開度抑制演算部は、過熱度と設定過熱度とに基づいて電子膨張弁の弁開度の抑制値を求め、出力制御部は、この抑制値が示す弁開度を超えない範囲で電子膨張弁の弁開度を制御する。
【発明の効果】
【0026】
本発明に係わる冷凍機および温度調整装置もしくはこれらの制御方法によれば、冷凍機の出力が蒸発器の過熱度に基づく抑制値を超えないように制限しつつ、冷凍機もしくは温度調整装置の出力が目標値に近づくように、電子膨張弁の弁開度もしくは電子膨張弁の弁開度とヒータの出力とを制御するので、液バックを防止しつつ、室内の温度を速やかに設定温度に到達させて保持することができる。
【0027】
さらに、冷凍機の出力を、該冷凍機の最小出力未満にしたい場合はホットガスヒート回路の電磁弁を開くように制御するものでは、冷却能力の余剰分を電気ヒータで補う必要がなくなると共に、室内負荷にあわせた冷却容量制御が行なえるため、省エネルギでかつ高精度の温度制御が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、図面に基づき本発明の実施の形態を説明する。
【0029】
図1は、本発明の実施の形態に係わる温度調整装置10の概略構成を示している。温度調整装置10は、温度試験庫5の室内5aを冷却する冷凍機と室内5aを加熱するヒータ31とを備えた加熱冷却部と、該加熱冷却部の出力を制御する制御部40とを備えている。
【0030】
冷凍機は、運転周波数により容量を可変に制御される圧縮機21と、凝縮器22と、電子膨張弁23と、蒸発器24とを配管で環状に接続し、冷媒をその中で循環させて冷凍サイクルを実現するように構成されている。蒸発器24は、温度試験庫5の室内5aに設置された空調機6の中に配置され、冷凍機を構成する他の部分は温度試験庫5の室外に配置されている。空調機6の中にはさらに、電気ヒータ31と、ホットガスヒート回路32の放熱器をなす加熱コイル33と、ファン8とが配置されている。空調機6はファン8を作動させることで、室内5aから取り入れた空気を加熱コイル33及び蒸発器24、電気ヒータ31を通過させた後、室内5aへ送り出して循環させる機能を果たす。
【0031】
ホットガスヒート回路32は、圧縮機21の吐出側で冷凍機の配管から分岐(図中のA地点)し、電磁弁34および加熱コイル33を経由して凝縮器22の下流(図中のB地点)で冷凍機の配管に合流するように構成された回路であり、電磁弁34を開くことで、圧縮機21から吐出される高温高圧のガス(冷媒)が加熱コイル33内を流れて放熱するようになっている。
【0032】
室内5aには、室内5aの温度を検出する室内温度センサ11(第1温度センサ)が設置されている。さらに蒸発器24の入口には、蒸発器24の入口温度を検出する蒸発器入口温度センサ12(第2温度センサ)が設置され、蒸発器24の出口には、蒸発器24の出口温度を検出する蒸発器出口温度センサ13(第3温度センサ)が設置されている。
【0033】
制御部40には、室内温度センサ11、蒸発器入口温度センサ12、蒸発器出口温度センサ13からの信号が入力される。また電子膨張弁23および電磁弁34には、弁開度を制御するための制御信号が制御部40から入力される。さらに電気ヒータ31には、ヒータの出力を制御するための制御信号が制御部40から入力される。
【0034】
図2は、制御部40の構成を示すブロック図である。制御部40は、室内温度センサ11及び蒸発器入口温度センサ12、蒸発器出口温度センサ13からのアナログ電気信号を温度情報を示すデジタル信号に変換して出力するA/D(analog to digital)変換部41、42、43と、弁開度抑制演算部44と、温調演算部45と、制御出力演算部46とを備えている。
【0035】
温調演算部45は、A/D変換部43から入力される温度情報が示す室内温度と、図示省略の操作部で設定された設定温度とを比較して、室内5aの温度を設定温度に近づけるための冷凍機の出力の目標値である温調出力値を算出する機能を果たす。
【0036】
弁開度抑制演算部44は、A/D変換部42から入力される温度情報が示す蒸発器24の出口温度とA/D変換部41から入力される温度情報が示す蒸発器24の入口温度とから蒸発器24の過熱度(測定過熱度)を求め、該測定過熱度と予め定めた設定過熱度とに基づいて、電子膨張弁23の弁開度を抑制するための抑制値(弁開度抑制値)を求める機能を果たす。
【0037】
制御出力演算部46は、冷凍機の出力が弁開度抑制演算部44の求めた弁開度抑制値を超えない範囲で、加熱冷却部の出力が温調演算部45の求めた温調出力値に近づくように、電子膨張弁23の弁開度と、電気ヒータ31の出力と、電磁弁34の弁開度とを制御する機能を果たす。
【0038】
なお、制御部40は、CPU(Central Processing Unit)とROM(Read Only Memory)とRAM(Random Access Memory)とを主要部として構成されており、ROMに格納されたプログラムCPUが実行することにより、弁開度抑制演算部44及び温調演算部45、制御出力演算部46としての機能を実現するようになっている。
【0039】
次に、制御部40の各部が行なう演算および制御処理について説明する。
【0040】
次の段落に示す各式は、弁開度抑制演算部44による演算内容を示している。蒸発器入口温度センサ12及び蒸発器出口温度センサ13からの温度情報に基づいて算出された測定過熱度をΔTとし、予め設定された設定過熱度をTsvとする。また、冷凍機の運転を起動させるための予め定められた定数をMVR(冷却ON設定値)とする。式(1)では設定過熱度Tsvと測定過熱度ΔTとの差分を求め、これを過熱度偏差Teとする。また予め設定された百分率の定数を過熱度偏差比例帯Tpeとし、式(2)では過熱度偏差Teを設定過熱度Tsvと過熱度偏差比例帯Tpeとで除して得た値と定数1との差分を取り、これに冷却ON設定値MVRを乗じたものを弁開度抑制制御値ΔMVEとして求めている。但し、ΔMVEは、−MVRとMVRの間に収まるものとする。弁開度抑制制御値ΔMVEは、液バックが生じないようにするための、冷凍機の出力の増加量の抑制値(制限値)になっており、予め定められたサイクルタイム毎に算出される。なお、ΔMVEは、冷凍能力を増大させる場合には負の値になる。
【0041】
【数1】

【0042】
また、次の段落に示す各式は、温調演算部45による演算内容を示している。温調演算部45は、室内温度センサ11によって検出された室内温度と設定温度との差分により、予め定められたサイクルタイムで温調出力値を演算する。この温調出力値をMVnとし、前回の温調出力値をMVn-1とする。式(11)ではMVnとMVn-1との差分を求め、これを温調出力変化量ΔMVnとして求めている。なお、ΔMVnは、冷凍能力を増大させる場合は負の値になる。温調出力値は、室内温度が設定温度に近づくようにするための出力値であり、PID(Proportinal、Integral、Differential)制御により求めている。PDI制御を用いることで、素早く目標値に収束させることができる。
【0043】
【数2】

【0044】
図3は、制御部40が行なう制御処理の流れを示している。図中の破線で囲った部分は制御出力演算部46により行なわれる。前述したように、蒸発器入口温度センサ12および蒸発器出口温度センサ13により蒸発器24の出口温度および入口温度を測定し(S11)、弁開度抑制演算部44により弁開度抑制値ΔMVEを算出する(S12)。また、これと並行して室内温度センサ11により室内温度を測定し(ステップS21)、温調演算部45により温調出力値MVnおよび温調出力変化量ΔMVnを求める(ステップS22)。
【0045】
制御出力演算部46は、冷凍機の運転を起動させるための予め定められた定数をMVR(冷却ON設定値)とし、温調演算部45により求められた温調出力値MVnと比較して、冷却ON設定値MVRの値が大きい時は(ステップS101;Y)、冷凍機による冷却動作を要と判断し、電子膨張弁23の弁開度を制御するための制御出力値MVcを算出する(ステップS102〜S105)。
【0046】
また、温調出力値MVnが定数50以上の場合は(ステップS201;Y)、電気ヒータ31の制御出力値MVHを算出する(ステップS202)。なお、MVnは0〜100の範囲の値をとり、図4に示すように、50以上は加熱の出力値を、MVR以下は冷却の出力値を示している。温調出力値MVnが定数50以上の場合は電気ヒータ31による加熱が必要なケースになる。
【0047】
さらにホットガスヒート回路32の電磁弁34の制御を開始させるための予め定められた定数をMVhh(電磁弁制御開始設定値)とし、温調演算部45より求められた温調出力値MVnと比較して、電磁弁制御開始設定値MVhhの値が小さかった時は(ステップS301;Y)、ホットガスヒート回路32の電磁弁制御出力値MVHGを算出する(ステップS302)。
【0048】
電子膨張弁23の制御出力値を算出する場合は(ステップS101;Y)、制御出力演算部46は温調演算部45で算出された温調出力変化量ΔMVnと弁開度抑制演算部44で算出された弁開度抑制値ΔMVEとを比較し(ステップS102)、温調出力変化量ΔMVnの値が弁開度抑制値ΔMVEを超える場合は(ステップS102;Y)、温調出力値MVnは、図中の式(21)「MVn=MVn-1+ΔMVn」により、前回の温調出力値MVnに弁開度抑制値ΔMVnを加算した値として求める。(ステップS103)。
【0049】
一方、制御出力変化量ΔMVnの値が弁開度抑制値ΔMVEより小さかった場合は(ステップS102;N)、温調出力値MVnは、式(22)「MVn=MVn-1+ΔMVE」より、前回の温調出力値MVn-1に温調出力変化量ΔMVEを加算した値として求める(ステップS104)。なお、冷凍能力を増大させる場合、ΔMVn、ΔMVEは負の値になるので、温調出力変化量ΔMVnの値が弁開度抑制値ΔMVEより小さい場合は、ΔMVnの示す冷凍能力の増大量がΔMVEの示す冷凍能力増大量より大きい場合であり、弁開度抑制値ΔMVEにより冷凍能力の増大量を制限している。さらに、このようにしてステップS103またはS104で求めたMVnの値を基に、該MVn値に対応する電子膨張弁23の弁開度の制御出力値MVcを、図中の式(23)「MVc=100−MVn/MVR×100 」により求める(ステップS105)。ただし、電子膨張弁23の制御出力値MVcの範囲は、予め定められた定数である冷却出力最小値Mvcminと定数100との間に収まるものとする。制御出力演算部46は、こうして求めた制御出力値MVcを電子膨張弁23に出力してその弁開度を制御する(ステップS106)。
【0050】
なお、電子膨張弁23の弁開度の制御出力値MVcは、冷凍機の出力が抑制値を超えない範囲で温調出力値MVnに近づくように調整された弁開度の制御出力値である。すなわち、弁開度抑制値ΔMVEは、冷凍機の出力の現在値に対する、出力の増大量の抑制値(制限値)を表わしており、温調出力変化量ΔMVnは、室内温度を設定温度に近づけるための温調制御で求めた冷凍機の出力の増大量に対応している。温調制御による冷凍機の出力の増大量が抑制値(冷凍機の出力の抑制値)より少ない場合は、温調制御に従って電子膨張弁23の弁開度を制御し、温調制御による冷凍機の出力の増大量が抑制値より大きい場合は、電子膨張弁23の弁開度の増大量は抑制値に制限される。
【0051】
このように、急激な冷却能力の増大に制限をかけつつ、冷凍機の出力を温調制御に基づいて制御するので、液バックすることなく、室内温度を設定温度に速やかに到達させることができると共に、室内温度を設定温度に保持することが可能になる。
【0052】
電気ヒータ31の制御出力値を算出する場合は(ステップS201;Y)、制御出力演算部46は温調演算部45で算出された温調出力値MVnを基に、図中の式(24)「MVH=(MVn−50)×2 」より電気ヒータ31の制御出力値MVHを算出する(ステップS202)。ただし、電気ヒータ31の制御出力値MVHの範囲は定数0から定数100の間に収まるものとする。制御出力演算部46は、こうして求めた制御出力値MVHを電気ヒータ31に出力して電気ヒータ31の出力(加熱量)を制御する(ステップS203)。
【0053】
ホットガスヒート回路32の電磁弁制御出力値を算出する場合は(ステップS301;Y)、制御出力演算部46は温調演算部45で算出された温調出力値MVnと電磁弁制御開始設定値MVhhと冷却ON設定値MVRとを基に、式(25)「MVHG=(MVn−MVhh/MVR−MVhh×100)」により、電磁弁制御出力値MVHGを算出する(ステップS302)。ただし、電磁弁制御開始設定値MVhhの範囲は定数0から定数100の間に収まるものとする。制御出力演算部46は、こうして求めた制御出力値MVHGを電磁弁34に出力してその弁開度を制御する(ステップS303)。
【0054】
図4は、温度調整装置10における制御方法を示す。MVnが50%以上の領域は加熱領域であり、温調演算部45で算出された温調出力値MVnが50%より高い場合は電気ヒータ31の制御を行ない、電気ヒータ31に対して制御出力値MVHを出力する。MVnが冷却ON設定値MVRより小さい領域は冷却を要する冷却領域であり、MVnが冷却ON設定値MVRより小さい場合は電子膨張弁23の制御を行ない、電子膨張弁23に対して制御出力値MVcを出力する。また、MVnが電磁弁制御開始設定値MVhhより大きい場合は電磁弁34の制御を行ない、電磁弁34に対して制御出力値MVHGを出力する。
【0055】
本実施の形態で使用している圧縮機21は、インバータ方式を用いた出力可変の圧縮機であり、吸入圧力が一定範囲に収まるように 運転周波数を自動制御するようになっている。したがって、電子膨張弁23の弁開度を変化させると、それに伴って運転周波数が変化し、冷凍機としての出力を調整できるようになっている。しかし、運転周波数の範囲には下限があり、それ以下に出力を下げる場合は圧縮機21を停止させなければならない。また、圧縮機21の発停を繰り返すことは、きめ細かい温度制御を困難にすると共に、圧縮機21の劣化を早める。
【0056】
そこで、本実施の形態では、最小出力で圧縮機21を動かし続け、これによる余剰の冷却分をホットガスヒート回路32による放熱で補うようになっている。ここでは、MVhhを調整可能な冷凍機の最小出力とし、冷凍機の出力を最小出力MVhh以下に制御したい場合(図4のグラフではMVnがMVhhより大きくなる領域)は、制御したい出力値とMVhhとの差分だけ、ホットガスヒート回路32の加熱コイル33で放熱が行なわれるように制御出力値MVHGを出力して電磁弁34を開き、高温の冷媒を加熱コイル33に流すように制御している。言い換えると、圧縮機21の運転周波数を最小にしたにもかかわらず室内温度が低下したとき、ホットガスヒート回路32の電磁弁34を開いて、蒸発器24での冷却能力余剰分を相殺させ、室内温度を設定温度に維持するようになっている。これにより、冷却能力余剰分を電気ヒータ31で補う必要がなくなり、室内負荷に合せた冷却容量制御が行なえるため、省エネルギかつ高精度の温度制御が可能となる。
【0057】
なお、MVhhの定数値は、圧縮機21の出力を最小にしても、なお室温が下がる状態と、下がらない状態との境界に対応して設定される。また、図4では、常時、冷凍機を作動し続けるようにしたが、MVnがある値以上になったとき(たとえば、70パーセント)は、圧縮機21を停止させるように制御してもよい。加熱領域での制御が長く続くと想定される場合は圧縮機21(冷凍機)を停止させても頻繁な発停にならないので、圧縮機21を劣化させることなく省エネルギを図ることができる。
【0058】
以上、本発明の実施の形態を図面によって説明してきたが、具体的な構成は実施の形態に示したものに限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
【0059】
たとえば、実施の形態では、冷却能力余剰分をホットガスヒート回路32で相殺するようにしたが、電気ヒータ31など別途の加熱装置で補填するようにしてもよい。また、制御すべき温度範囲が低温領域に限定されるような場合には、電気ヒータ31を設けなくてもよい。
【0060】
また、実施の形態では、弁開度の抑制値として、冷凍機の出力の増加量の抑制値ΔMVEを求め、これと温調出力変化量ΔMVnとを比較した結果に基づいて電子膨張弁23の弁開度を抑制するようにしたが、増大量や変化量に代えて、たとえば、冷凍機の出力の温調制御による目標値(S103で求める値MVn-1+ΔMVn)と過熱度制御による抑制値(S104で求める値MVn-1+ΔMVE)とを比較してもよし、電子膨張弁23の弁開度の目標値(S105において、MVn-1+ΔMVnをMVnとした場合に求まるMVc)と弁開度の抑制値(S105において、MVn-1+ΔMVEをMVnとした場合に求まるから求まるMVc)とを求め、これらを比較してもよい。要するに、電子膨張弁23の弁開度が、液バックを防止するための弁開度を超えない範囲で、温調制御に基づく弁開度に近づくように制御されればよい。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の実施の形態に係わる温度調整装置の概略構成を示す系統図である。
【図2】本発明の実施の形態に係わる温度調整装置の制御部の構成を示すブロック図である。
【図3】制御部が行なう制御処理の流れを示すフローチャートである。
【図4】本発明の実施の形態に係わる温度調整装置の制御方法を示す説明図である。
【符号の説明】
【0062】
5…温度試験庫
5a…室内
6…空調機
8…ファン
10…温度調整装置
11…室内温度センサ
12…蒸発器入口温度センサ
13…蒸発器出口温度センサ
21…圧縮機
22…凝縮器
23…電子膨張弁
24…蒸発器
31…電気ヒータ
32…ホットガスヒート回路
33…加熱コイル
34…電磁弁
40…制御部
41、42、43…A/D変換部
44…弁開度抑制演算部
45…温調演算部
46…制御出力演算部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子膨張弁を備えた冷凍機の制御方法において、
前記冷凍機で冷却される室内の温度を測定し、該室内の温度を設定温度に近づけるための前記冷凍機の出力の目標値を求めるステップと、
空調機内の蒸発器の過熱度を測定し、該過熱度と予め定めた設定過熱度とに基づいて、前記電子膨張弁の弁開度を抑制するための抑制値を求めるステップと、
前記抑制値を超えない範囲で前記冷凍機の出力が前記目標値に近づくように前記電子膨張弁の弁開度を制御するステップと
を有する
ことを特徴とする冷凍機の制御方法。
【請求項2】
室内を冷却する冷凍機と前記室内を加熱するヒータとを備えた温度調整装置の制御方法において、
前記室内の温度を測定し、該室内の温度を設定温度に近づけるための前記温度調整装置の出力の目標値を求めるステップと、
空調機内の蒸発器の過熱度を測定し、該過熱度と予め定めた設定過熱度とに基づいて、前記冷凍機の電子膨張弁の弁開度を抑制するための抑制値を求めるステップと、
前記冷凍機の出力が前記抑制値を超えない範囲で前記温度調整装置の出力が前記目標値に近づくように、前記電子膨張弁の弁開度と前記ヒータの出力とを制御するステップと
を有する
ことを特徴とする温度調整装置の制御方法。
【請求項3】
前記冷凍機の出力を、該冷凍機の最小出力未満にしたい場合は、前記冷凍機のホットガスヒート回路の電磁弁を開くように制御する
ことを特徴とする請求項1に記載の冷凍機の制御方法または請求項2に記載の温度調整装置の制御方法。
【請求項4】
電子膨張弁を備えた冷凍機と、
前記冷凍機で冷却される室内の温度を検出する第1温度センサと、
前記第1温度センサによって検出された室内の温度と、設定温度とを比較して、前記室内の温度を前記設定温度に近づけるための前記冷凍機の出力の目標値を求める温調演算部と、
空調機内の蒸発器の出口の温度を検出する第2温度センサと、
前記蒸発器の入口の温度を検出する第3温度センサと、
前記第2温度センサによって検出された温度と前記第3温度センサによって検出された温度とから前記蒸発器の過熱度を求め、該過熱度と予め定めた設定過熱度とに基づいて、前記電子膨張弁の弁開度を抑制するための抑制値を求める弁開度抑制演算部と、
前記抑制値を超えない範囲で前記冷凍機の出力が前記目標値に近づくように前記電子膨張弁の弁開度を制御する出力制御部と
を有する
ことを特徴とする温度調整装置。
【請求項5】
室内を冷却する冷凍機と前記室内を加熱するヒータとを備えた加熱冷却部と、
前記室内の温度を検出する第1温度センサと、
前記第1温度センサによって検出された室内温度と、設定温度とを比較して、前記室内の温度を前記設定温度に近づけるための前記加熱冷却部の出力の目標値を求める温調演算部と、
空調機が有する蒸発器の出口の温度を検出する第2温度センサと、
前記蒸発器の入口の温度を検出する第3温度センサと、
前記第2温度センサによって検出された温度と前記第3温度センサによって検出された温度とから前記蒸発器の過熱度を求め、該過熱度と予め定めた設定過熱度とに基づいて、前記冷凍機の電子膨張弁の弁開度を抑制するための抑制値を求める弁開度抑制演算部と、
前記冷凍機の出力が前記抑制値を超えない範囲で前記加熱冷却部の出力が前記目標値に近づくように、前記電子膨張弁の弁開度と前記ヒータの出力とを制御する出力制御部と
を有する
ことを特徴とする温度調整装置。
【請求項6】
前記冷凍機の出力を、該冷凍機の最小出力未満にしたい場合は、前記冷凍機のホットガスヒート回路の電磁弁を開くように制御する
ことを特徴とする請求項4または5に記載の温度調整装置。
【請求項7】
前記冷凍機の出力の値は、前記電子膨張弁の弁開度として求める
ことを特徴とする請求項4乃至6のいずれかに記載の温度調整装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−32285(P2008−32285A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−204679(P2006−204679)
【出願日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【出願人】(390010054)小糸工業株式会社 (136)