説明

冷凍機用シリンダ、及び、その製作方法

【課題】溶接やロウ付け、ハンダ付けを用いること無く、冷凍機用シリンダを製作可能とする。
【解決手段】冷媒により膨張冷却を行なうディスプレーサ20を内部で往復動作させるための冷凍機用シリンダ22を製作する際に、駆動部16を固定するフランジ部22Aと、ディスプレーサが内部を往復する胴部22Bとを、接合を行なうことなく、一体物で形成すると共に、被冷却物24が取り付けられる熱負荷部22Cと、熱負荷部側(22F)が閉じられた前記胴部を、異種材料の熱膨張率の違いを利用した嵌め合いにより接合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷媒により膨張冷却を行なうディスプレーサを内部で往復動作させるための冷凍機用シリンダ、及び、その製作方法に係り、特に、極低温冷凍に用いられるギフォード・マクマホンサイクルあるいはスターリングサイクル等の冷凍機に用いるのに好適な、冷凍機用シリンダ、及び、その製作方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図1に例示する如く、圧縮部10で圧縮したヘリウム等の冷媒を管路12Aから膨張冷却部14に供給し、該膨張冷却部14で膨張した冷媒を管路12Bから圧縮部10に戻し、再び圧縮部10で加圧して管路12Aから供給する、圧縮系と膨張系を組み合わせた冷凍機が、例えば特許文献1に記載されている。
【0003】
そして、膨張冷却部14は、例えば電動クランク機構等の往復駆動部16に、膨張冷却作用を行なうための往復動作部18を組み付けて形成されている。往復動作部18は、ディスプレーサ20をシリンダ22の中に収納して構成されており、このディスプレーサ20を往復駆動部16のクランク等によって往復動作している。
【0004】
図において、22Aは、往復駆動部16を固定するための、例えばステンレス製のフランジ部、22Bは、ディスプレーサ20が内部を往復する、例えばステンレス製の胴部、22Cは、被冷却物24が取り付けられる、例えば無酸素銅製の熱負荷部である。
【0005】
ここで、前記シリンダ22を製作する際に、従来は、特許文献2に記載されているように、図2に例示する如く、部品取付けは、TIG溶接や真空ロウ付けにより行なっていた。図2において、22Dは、フランジ部22Aと胴部22BのTIG溶接部、22Eは、胴部22Bと熱負荷部22Cのロウ付け部である。
【0006】
又、特許文献3には、焼き嵌めとガスリーク防止用の溶接を併用することが記載され、特許文献4には、熱負荷部をロウ付け部とねじ部の併用構造により固定することが記載されている。
【0007】
【特許文献1】特開平3−158661号公報
【特許文献2】特開平6−18110号公報
【特許文献3】特開平11−173696号公報
【特許文献4】特開平11−281178号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、技術が必要な溶接やロウ付けが不良であると、熱伝達効率を落とす。特に、胴部22Bのフランジ部22Aに近い部分は強度が必要であり、3〜4mm位の厚物であることが望ましい一方、他の部分は熱伝導を減らすために1.5〜2mm位の薄肉である方が望ましいため、フランジ部22Aと胴部22Bの溶接が不良であると、冷媒が溶接点よりリークしてしまうことがある。又、熱負荷部22Cと胴部22Bの間にロウ材や半田材が入るため、熱伝達効率を落とす。更に、溶接やロウ付け時の熱により、シリンダに変形が生じる。又、歪みや変形で垂直度を出すのが困難である。更に、熱によるシリンダの変形を見込んだ一次加工と、仕上の最終加工が必要である。又、溶接場所の残留ガスが真空度を悪くする。更に、胴を真空ロウ付けにする場合、無酸素銅しか使用できず、材料選択の自由度が無い等の問題点を有していた。
【0009】
このような問題点は、特に図3(A)に示すような多段式(図は3段式)のシリンダにおいて顕著であり、図3(B)に示す如く、ロウ付けにより、傾きが出てしまったり、傾きが出なくても回転してしまうことがある。
【0010】
本発明は、前記従来の問題点を解決するべくなされたもので、溶接やロウ付け、半田付けを行なうことなく、シリンダを製作可能とすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、冷媒により膨張冷却を行なうディスプレーサを内部で往復動作させるための冷凍機用シリンダにおいて、少なくとも、駆動部を固定するフランジ部と、ディスプレーサが内部を往復する胴部とを、接合を行なわない一体物とすることにより、前記課題を解決したものである。
【0012】
本発明は、又、冷媒により膨張冷却を行なうディスプレーサを内部で往復動作させるための冷凍機用シリンダにおいて、少なくとも、被冷却物が取り付けられる熱負荷部と、ディスプレーサが内部を往復する、熱負荷部側が閉じられた胴部とを、異種材料の熱膨張率の違いを利用した嵌め合いにより接合するようにして、同じく前記課題を解決したものである。
【0013】
本発明は、又、冷媒により膨張冷却を行なうディスプレーサを内部で往復動作させるための冷凍機用シリンダにおいて、駆動部を固定するフランジ部と、ディスプレーサが内部を往復する胴部とを、接合を行なわない一体物とすると共に、被冷却物が取り付けられる熱負荷部とを、熱負荷部側が閉じられた前記胴部とを、異種材料の熱膨張率の違いを利用した嵌め合いにより接合することにより、同じく前記課題を解決したものである。
【0014】
本発明は、又、冷媒により膨張冷却を行なうディスプレーサを内部で往復動作させるための冷凍機用シリンダを製作する際に、少なくとも、駆動部を固定するフランジ部と、ディスプレーサが内部を往復する胴部とを、接合を行なうことなく、一体物で形成するようにして、同じく前記課題を解決したものである。
【0015】
本発明は、又、冷媒により膨張冷却を行なうディスプレーサを内部で往復動作させるための冷凍機用シリンダを製作する際に、少なくとも、被冷却物が取り付けられる熱負荷部と、ディスプレーサが内部を往復する、熱負荷部側が閉じられた胴部とを、異種材料の熱膨張率の違いを利用した嵌め合いにより接合するようにして、同じく前記課題を解決したものである。
【0016】
本発明は、又、冷媒により膨張冷却を行なうディスプレーサを内部で往復動作させるための冷凍機用シリンダを製作する際に、駆動部を固定するフランジ部と、ディスプレーサが内部を往復する胴部を、接合を行なうことなく、一体物で形成すると共に、被冷却物が取り付けられる熱負荷部と、熱負荷部側が閉じられた前記胴部とを、異種材料の熱膨張率の違いを利用した嵌め合いにより接合するようにして、同じく前記課題を解決したものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、溶接や真空ロウ付け、ハンダ付けを行なうことなくシリンダを製作することができる。従って、TIG溶接やロウ付け不良による冷媒のリークを防ぐことができる。又、溶接やロウ付け、ハンダ付け時の熱によるシリンダの変形や歪みを防ぐことができる。従って、熱によるシリンダの変形を見込んだ一次加工と、仕上の最終加工が不要となり、高度の寸法管理を行なって、垂直度を向上すると共に、工数を低減して、コストダウンを図ることができる。又、熱負荷部と胴部の間にロウ材や半田材が入るため、熱伝達効率の低下や、溶接場所の残留ガスによる真空度の悪化を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下図面を参照して、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0019】
本実施形態は、図4に示す如く、駆動部を固定するフランジ部22Aと、ディスプレーサが内部を往復する胴部22Bと、該胴部22Bの下端面とを、例えば旋盤による一体加工により、断面がU字状の一体物で形成すると共に、前記胴部22Bと被冷却物が取り付けられる熱負荷部22Cとを、例えばステンレス製の胴部22Bと銅製の熱負荷部22Cの図5に示すような熱膨張率の違いを利用して、焼き嵌めにより接合するようにしたものである。
【0020】
このようにして、フランジ部22Aと胴部22Bを溶接を行なわない一体物とすることで、変形や歪み、垂直度の低下、冷媒のリーク等を防ぐことができる。
【0021】
又、前記熱負荷部22Cと胴部22Bを焼き嵌めにより接合することで、ロウ付けによるシリンダの変形を防ぐことができる。
【0022】
図5に主な金属の熱膨張の違いを示す。外側となる部材(ここでは熱負荷部22C)の方が熱膨張率が大であれば、どのような組合せを用いることもできる。
【0023】
又、嵌める部材以外温度を上げないので、約900℃程度のロウ付けよりも低い300℃以下の温度(実施例では約100℃)で作業を行なうことができ、焼鈍しにより胴部の材料強度が低下しない。即ち、シリンダ22は内圧を受けるので、銅も高い強度が要求されるが、ロウ付けを実施すると、材料が高温に加熱されるため、事前処理によって強度を高めていた銅は、ロウ付けによって焼鈍され、軟化してしまう。ロウ付け等の溶融金属を接合に用いない一体物は、この軟化が無い。
【0024】
又、歪みを考えなくて良いので、機械加工により寸法管理ができる。又、熱負荷部22Cの素材に銅を使用することができ、低温にしたときに熱収縮で胴部22Bとの嵌め合いが強くなる。又、ロウ材や半田材等の不純物が介在せず、熱負荷部22Cが胴部22Bを直接締め付けるので、熱伝達効率を落とすことが無い。更に、真空ロウ付けを行なわないので、熱負荷部22Cには、無酸素銅以外の材料を使用し、熱伝導率を変えて、熱負荷部の温度を変えることもできる。
【0025】
本実施形態においては、フランジ部22Aと胴部22Bだけでなく、胴部22Bの熱負荷部22C側端面(以下、下端面と称する)22Fまで、一体物としているので、胴部22Bと熱負荷部22C間の冷媒のリークを確実に防止することができる。なお、胴部22Bの下端面22Fを閉じる方法は、一体形成に限定されない。
【0026】
前記実施形態においては、焼き嵌めが用いられていたが、胴部22Bと熱負荷部22Cを接合する方法は、これに限定されず、冷やし嵌めを用いることもできる。
【0027】
又、前記実施形態においては、胴部22Bのフランジ部22A側が一体物、熱負荷部22C側が焼き嵌め(又は冷やし嵌め)とされていたが、組合せは、これに限定されない。
【0028】
又、前記説明においては、簡単のため1段式のシリンダを例にとって説明していたが、本発明の適用対象はこれに限定されず、2段式や3段式等の多段式のシリンダにも同様に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】冷凍機用シリンダを含む冷凍機の構成を示す断面図
【図2】従来の冷凍機シリンダの一例の構成を示す断面図
【図3】3段式シリンダの構成(A)及び問題点(B)を示す断面図
【図4】1段式シリンダに適用した本発明の実施形態の構成を示す断面図
【図5】焼き嵌め又は冷やし嵌めに利用可能な主な金属の熱膨張率を比較して示す線図
【符号の説明】
【0030】
10…圧縮部
14…膨張冷却部
16…往復駆動部
18…往復動作部
20…ディスプレーサ
22…シリンダ
22A…フランジ部
22B…胴部
22C…熱負荷部
22F…熱負荷部側端面(下端面)
24…被冷却物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒により膨張冷却を行なうディスプレーサを内部で往復動作させるための冷凍機用シリンダにおいて、
少なくとも、駆動部を固定するフランジ部と、ディスプレーサが内部を往復する胴部とが、接合を行なわない一体物とされていることを特徴とする冷凍機用シリンダ。
【請求項2】
冷媒により膨張冷却を行なうディスプレーサを内部で往復動作させるための冷凍機用シリンダにおいて、
少なくとも、被冷却物が取り付けられる熱負荷部と、ディスプレーサが内部を往復する、熱負荷部側が閉じられた胴部とが、異種材料の熱膨張率の違いを利用した嵌め合いにより接合されていることを特徴とする冷凍機用シリンダ。
【請求項3】
冷媒により膨張冷却を行なうディスプレーサを内部で往復動作させるための冷凍機用シリンダにおいて、
駆動部を固定するフランジ部と、ディスプレーサが内部を往復する胴部とが、接合を行なわない一体物とされると共に、
被冷却物が取り付けられる熱負荷部と、熱負荷部側が閉じられた前記胴部とが、異種材料の熱膨張率の違いを利用した嵌め合いにより接合されていることを特徴とする冷凍機用シリンダ。
【請求項4】
冷媒により膨張冷却を行なうディスプレーサを内部で往復動作させるための冷凍機用シリンダを製作する際に、
少なくとも、駆動部を固定するフランジ部と、ディスプレーサが内部を往復する胴部とを、接合を行なうことなく、一体物で形成することを特徴とする冷凍機用シリンダの製作方法。
【請求項5】
冷媒により膨張冷却を行なうディスプレーサを内部で往復動作させるための冷凍機用シリンダを製作する際に、
少なくとも、被冷却物が取り付けられる熱負荷部と、ディスプレーサが内部を往復する、熱負荷部側が閉じられた胴部とを、異種材料の熱膨張率の違いを利用した嵌め合いにより接合することを特徴とする冷凍機用シリンダの製作方法。
【請求項6】
冷媒により膨張冷却を行なうディスプレーサを内部で往復動作させるための冷凍機用シリンダを製作する際に、
駆動部を固定するフランジ部と、ディスプレーサが内部を往復する胴部を、接合を行なうことなく、一体物で形成すると共に、
被冷却物が取り付けられる熱負荷部と、熱負荷部側が閉じられた前記胴部とを、異種材料の熱膨張率の違いを利用した嵌め合いにより接合することを特徴とする冷凍機用シリンダの製作方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−29636(P2006−29636A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−206308(P2004−206308)
【出願日】平成16年7月13日(2004.7.13)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)