説明

冷却水水質の測定方法、冷却水水質の管理方法、および冷却水への水処理薬剤注入方法

【課題】水質の異なる2種以上の原水を補給水として使用している開放循環冷却水系において、補給水量や水処理薬剤の注入量の無駄を防止すると共に、冷却水系の各種障害も防止することができるように、精度良く冷却水水質を測定する方法等を提供する。
【解決手段】水質の異なる2種以上の原水を冷却水の補給水として使用している冷却水系において、各原水中に含まれる測定対象物質の濃度に対して、前記各原水中のトレーサ物質の濃度が一定比率となる添加量で、前記トレーサ物質を前記各原水に添加し、前記冷却水中の前記トレーサ物質の濃度を測定し、得られた前記トレーサ物質の濃度と前記測定対象物質に対する前記トレーサ物質の添加比率から計算して前記冷却水中の前記測定対象物質の濃度を求める冷却水水質の測定方法の構成とした。さらに、求めた測定対象物質の濃度を基に、冷却水水質の管理および冷却水へ水処理薬剤を注入することとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工場やオフィスビル等において、生産用または空調用等で使用される開放循環冷却水系の管理方法に関し、より詳しくは、水質の異なる2種以上の原水を補給水として使用している開放循環冷却水系における冷却水水質の測定方法、および該冷却水水質測定結果を基にした冷却水水質(濃縮度)の管理方法、該冷却水水質測定結果を基に制御される水処理薬剤の注入方法に関する。
【背景技術】
【0002】
開放循環冷却水系(以下、冷却水系ともいう。)では、冷却水は冷凍機等の熱交換器と冷却塔との間を循環しており、熱交換器から出た水は冷却塔によって冷却され再び熱交換器へと還流している。
【0003】
冷却塔では、冷却水を多量の空気と接触させて冷却水の一部を蒸発し、そのときの蒸発潜熱によって冷却水の温度を低下させている。このように開放循環冷却水系では、冷却水を循環使用するうちに蒸発分が減少するので、一般に、水道水、工業用水、井戸水等を原水とする水を補給水として補給することで冷却水量を一定に保っている。しかし、冷却塔では水のみが蒸発し、補給水中の溶解塩類は冷却水中に残存するので、冷却水中の溶存塩類濃度は徐々に濃縮していき、かかる濃縮された成分により冷却塔の充填材、冷凍機コンデンサチューブ等の熱交換器の熱交換部、その他配管内等に腐食、スケール、スライムといった各種障害を発生させる。
【0004】
腐食とは、主に電気化学的反応によって発生し、主な障害としては、熱交換器等の腐食による漏水がある。冷却水中の腐食因子としては、塩化物イオン、硫酸イオンが挙げられる。
【0005】
またスケールとは、冷却水中の溶解塩類が濃縮されて溶解度以上になり、析出して固着したものである。スケールは、主に炭酸カルシウムやシリカ(重合シリカ、ケイ酸マグネシウム等)が主成分であることから金属に比べ熱伝導率が小さくなっており、このことから主な障害としては、熱交換効率の低下、熱交換器チューブの閉塞、スケールの付着による2次腐食の発生などが挙げられる。
【0006】
さらにスライムとは、冷却水系内に繁殖した微生物群体に、大気中から混入するゴミ等が混じり合って形成された軟質の汚濁物であり、スケール同様、金属に比べ熱伝導率が小さい。主な障害としては、熱交換効率の低下、熱交換器チューブの閉塞、および微生物腐食やスライムの付着による2次腐食の発生などが挙げられる。
【0007】
上述した障害を防止するため、開放循環冷却水系では、冷却水の塩類濃度が予め設定した許容範囲上限を越えるのを防ぐブロー装置を設置して、冷却水の濃縮度を管理するのが一般的である。具体的には、冷却塔内に電気伝導率計を設置し、冷却水の電気伝導率を測定する。電気伝導率は溶存塩類濃度と正の相関を示すので、冷却水の濃縮度の指標となる。そして、この電気伝導率が予め設定した電気伝導率の許容上限値に達すると、冷却水の一部を強制ブローし、補給水と置換することで冷却水の濃縮度を低下させ、冷却水中の塩類濃度が許容範囲上限を上回らないようにしている。このような技術は、例えば、特許文献1、2等に開示されている。
【0008】
また、冷却水の濃縮度の管理以外に、腐食防止剤や、スケール防止剤、スライムコントロール剤等の水処理薬剤を冷却水に添加して腐食、スケール、スライムの発生を抑えることが知られている。
【0009】
ところで近年、資源の有効活用、節水の観点から、冷却水系の補給水として各種排水の再利用水、備蓄した雨水等を利用するようになってきた。このような技術は、例えば、特許文献3、4に開示されている。
【0010】
これらの再利用水は、その水源によって水質が極端に異なる。例えば、半導体の洗浄排水の場合、殆ど純水に近い水質であったり、純水に近い水質ではあるがシリカ等の特定の成分だけが突出して高濃度で含まれていたりする。また、排水の種類によっては、再利用水の塩類濃度が極端に高い場合もある。
【0011】
一方、これらの再利用水は工場の稼働率等により水量が変動するため、冷却水系の補給水としては安定したものとは言えず、再利用水が不足した際には水道水、工業用水、井戸水等の安定水源の水を冷却水系の補給水として併用するのが一般的である。また、再利用水を補給水としない場合でも、水道代節約の観点から、井戸水と水道水、工業用水と水道水など2種以上の水を安価なものから補給水として使用し、不足分を高価な水で補うという方式を採っている冷却水系もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平09−138094号公報
【特許文献2】特開平11−248394号公報
【特許文献3】特開2000−167568号公報
【特許文献4】特開2002−206765号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上述のように、2種以上の原水を冷却水系の補給水として使用している冷却水系では、従来から行われている電気伝導率による冷却水の濃縮度管理では不具合が生じることがある。例えば、シリカ濃度が高い以外は純水に近い水質の半導体洗浄排水と水道水とを冷却水系の補給水として併用している水系では、電気伝導率は一定でも、半導体洗浄排水を主たる補給水としているときには冷却水中のシリカ濃度は高く、水道水を主たる補給水としているときには冷却水中のシリカ濃度は低くなる。
【0014】
従って、冷却水系でシリカスケールの析出を防止する為には、電気伝導率の上限値を半導体洗浄排水が主たる補給水となった場合でも冷却水中のシリカ濃度が上昇しないように低めに設定する必要があり、結果として、半導体洗浄排水が不足して水道水が主たる補給水となった場合に過剰にブローを行って補給水が無駄になる。
【0015】
同様の現象は、例えばカルシウムイオン濃度や塩化物イオン濃度が極端に異なる2水源(井戸水と水道水など)を補給水とした場合も同様で、冷却水系の障害を避けるためには、ブローの為の電気伝導率の上限値を前記イオン濃度の高い水源に合わせて低めに設定せざるを得なかった。
【0016】
そこで、本発明は、水質の異なる2種以上の原水を補給水として使用している開放循環冷却水系において、補給水量や水処理薬剤の注入量の無駄を防止すると共に、冷却水系の各種障害も防止することができるように、精度良く冷却水水質を測定する方法を提供し、さらにその測定値を基にした冷却水水質(濃縮度)の管理方法および冷却水への水処理薬剤の注入方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、上記課題を解決するため、水質の異なる2種以上の原水を冷却水の補給水として使用している冷却水系における冷却水水質の測定方法であって、各原水中に含まれる測定対象物質の濃度に対して、前記各原水中のトレーサ物質の濃度が一定比率となる添加量で、前記トレーサ物質を前記各原水に添加し、前記冷却水中の前記トレーサ物質の濃度を測定し、得られた前記トレーサ物質の濃度と前記測定対象物質に対する前記トレーサ物質の添加比率から計算して前記冷却水中の前記測定対象物質の濃度を求めることを特徴とする冷却水水質の測定方法の構成とした。
【0018】
また、前記各原水の補給水量を測定する流量計と、前記各原水にトレーサ物質を添加する定量ポンプとを有し、前記各原水中に含まれる測定対象物質の濃度を予め測定しておくとともに、前記測定対象物質に対する前記トレーサ物質の添加比率から、前記各原水の単位補給水量に対する前記トレーサ物質の添加量を予め決定しておき、前記流量計で測定される前記各原水の補給水量に応じて、前記予め決定した前記各原水の単位補給水量に対する前記トレーサ物質の添加量に従って、前記トレーサ物質を前記各原水に前記定量ポンプで添加することを特徴とする前記記載の冷却水水質の測定方法の構成、前記流量計がパルス発信式流量計であり、前記定量ポンプが前記パルス発信式流量計で前記各原水の補給水量に応じて生成されるパルス信号によって運転制御されるパルス信号入力型定量ポンプであることを特徴とする前記記載の冷却水水質の測定方法の構成とした。
【0019】
さらに、前記測定対象物質が、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、シリカ、塩化物イオン、硫酸イオンの内から選ばれる何れか1種であることを特徴とする前記何れかに記載の冷却水水質の測定方法の構成、前記トレーサ物質が、リチウムイオン、カリウムイオン、蛍光物質の内から選ばれる何れか1種であることを特徴とする前記何れかに記載の冷却水水質の測定方法の構成とした。
【0020】
そして、前記何れかに記載の冷却水水質の測定方法によって得られた前記測定対象物質の濃度に応じて、前記冷却水のブロー装置の駆動を制御することを特徴とする冷却水水質の管理方法の構成、前記何れかに記載の冷却水水質の測定方法によって得られた前記測定対象物質の濃度に応じて、前記冷却水への水処理薬剤の注入量を制御することを特徴とする冷却水への水処理薬剤の注入方法の構成とした。
【発明の効果】
【0021】
水質の異なる2種以上の原水を冷却水の補給水とする冷却水系において、冷却水の濃縮度管理を電気伝導率によって行った場合、腐食、スケール、スライム等の障害リスクを回避するためには、上述のように補給水の無駄、注入される水処理薬剤の無駄を伴っていた。本発明である冷却水水質の測定方法によれば、冷却水中の測定対象物質の濃度をトレーサ物質を用いて測定することで、前記障害リスクを正確に評価することができ、該測定値を利用することで、補給水の無駄、注入される水処理薬剤の無駄のない、冷却水水質の管理方法、冷却水への水処理薬剤の注入方法を可能にする。
【0022】
各原水中に含まれる測定対象物質の濃度を予め測定し、測定対象物質に対するトレーサ物質の添加比率から各原水の単位補給水量に対するトレーサ物質の添加量を決定しておき、流量計によって補給水量を測定し、測定した補給水量に応じて予め決定した添加量に従ってトレーサ物質を定量ポンプで各原水に添加することで、簡易かつ低コストで精度の良いトレーサ物質の添加、測定対象物質の濃度測定が可能になる。
【0023】
さらに、前記流量計をパルス発信式流量計とし、前記定量ポンプをパルス信号入力型定量ポンプとすることで、パルス発信式流量計で各原水の補給水量を測定し、補給水量に応じたパルス信号をパルス信号入力型定量ポンプに送ることで、パルス信号入力型定量ポンプの運転制御、即ちトレーサ物質の添加量を制御できる。その結果、補給水量に応じ定量ポンプの運転を制御する装置を必要とせず、より一層、簡易かつ低コストで精度の良いトレーサ物質の添加、測定対象物質の濃度測定が可能になる。
【0024】
前記測定対象物質として、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、シリカ、塩化物イオン、硫酸イオンの内から選ばれる何れか1種であれば、スケール障害(カルシウムイオン、マグネシウムイオン、シリカ)、腐食障害(塩化物イオン、硫酸イオン)のリスクを適切に把握することができる。
【0025】
前記トレーサ物質として、リチウムイオン、カリウムイオン、蛍光物質の内から選ばれる何れか1種であれば、冷却水系のオンサイトでトレーサ物質の濃度測定が可能であり、簡易かつ確実に水質の異なる2種以上の原水を混合した冷却水水質の測定が可能になる。
【0026】
本発明である冷却水水質の管理方法は、本発明である冷却水水質の測定方法によって求められた測定対象物質の濃度を基に、冷却水のブロー装置の駆動を制御するので、水質の異なる2種以上の原水を補給水として使用する冷却水系であっても、冷却水中の測定対象物質の濃度が管理基準値をオーバーしたり、過剰ブローにより補給水に無駄が生じたりすることがない。
【0027】
本発明である冷却水への水処理薬剤の注入方法は、本発明である冷却水水質の測定方法によって求められた測定対象物質の濃度を基に、冷却水への水処理薬剤の注入量を制御するので、冷却水系のその時点での障害リスクに合致した、適切な水処理薬剤の注入管理が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】水質の異なる2種以上の原水を使用する冷却水水質の測定方法及び冷却水水質の管理方法の説明図である。
【図2】水質の異なる2種以上の原水を使用する冷却水への水処理薬剤の注入方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下に、添付図面に基づいて本発明について詳細に説明する。
【実施例1】
【0030】
図1に示すように、本発明が適用される一実施形態の冷却水系1は、冷却塔2と、補給ライン3と、トレーサ添加ライン4と、蛍光光度測定装置5とからなる。なお、冷却水2aを熱交換器へ送り冷却塔2に戻す循環ラインは省略した。図2においても同じ。
【0031】
冷却塔2は、底部の下部受水槽に冷却水2aを溜め、冷凍機等の熱交換器で熱交換された冷却水2aを冷却する装置である。一般的な冷却塔2では、冷却塔2上部に熱交換を経た冷却水2aを散水するために散水槽を備え、ファン2gによる風によって散水した冷却水2aを冷却し、下部受水槽に冷却水2aを溜める。
【0032】
さらに、冷却塔2にはオーバーフロー配管2cが設置され、過剰な冷却水2aはオーバーフロー水2bとして系外に排出される。また、冷却塔2の底部にはブロー配管2eが設けられており、ブロー弁2fを開放することで冷却水2aをブロー水2dとして系外に排水することができる。
【0033】
補給ライン3は、冷却塔2で冷却水2aとして使用される補給水を冷却塔2に送水するラインである。ここでは、第1原水補給配管3b及び第2原水補給配管3fと、原水タンク3jと、補給水配管3uと、強制補給配管3rとした。
【0034】
第1原水補給配管3b及び第2原水補給配管3fは、水質の異なる2種の原水である第1原水3a及び第2原水3eをそれぞれ別個に送水するとともに、各原水の送水量を測定する流量計3c、3gをそれぞれ備える。流量計3c、3gで測定された各原水の送水量は、後述の蛍光物質4aを第1原水3a及び第2原水3eにそれぞれ添加するポンプ4c、4dの運転を制御するデータとなる。なお、原水を2種でなくさらに採用する場合には、各原水に図1同様、原水送水量を測定する流量計及びトレーサ物質を添加するポンプを備えることで、実施例1同様に本発明を実施することが可能である。
【0035】
原水タンク3jは、第1原水3a及び第2原水3eを混合した混合原水3iを一時貯留する。従って、ここでは混合原水3iが補給水3kとなる。なお、原水タンク3jを備えることなく、第1、第2原水補給配管3b、3fを補給水配管3uに直結してもよく、また、第1、第2原水3a、3eの冷却塔2への補給ラインを全く別々に備えても構わない。
【0036】
補給水配管3uは、原水タンク3jから冷却塔2内に接続し、先端にボールタップ3pを備え、混合原水3iを補給水3kとしてポンプ3nで送水する。冷却塔2内の冷却水2aが、蒸発に伴って減少し水位が低下すると、ボールタップ3pが下降して補給水配管3uから補給水3kを冷却水2aとして冷却塔2に供給する。その結果、冷却塔2内の冷却水2a水位は一定に保たれる。
【0037】
強制補給配管3rは、補給水配管3uから分岐し、冷却水2aの濃縮度を低下させるために、混合原水3iを強制補給水3qとしてポンプ3nで冷却塔2に送水する。所定の水位以上の冷却水2aは、オーバーフロー水2bとしてオーバーフロー配管2cから系外に排出される。このようにして、冷却水2aの濃縮度が所定の値に維持されるとともに、冷却塔2内の冷却水2aの水位も一定に保たれる。
【0038】
そして、強制補給配管3rは送水止水を制御する電動弁3sを備える。電動弁3sとしては電磁弁などがある。電動弁3sは、本発明である冷却水水質の測定方法によって求められた測定対象物質の濃度に応じて、後述の開閉信号5dで開閉制御される。
【0039】
トレーサ添加ライン4は、各原水中に含まれる測定対象物質の濃度に対して、各原水中のトレーサ物質の濃度が一定比率となる添加量で、トレーサ物質を各原水に添加する装置である。
【0040】
トレーサ添加ライン4は、ここでは蛍光物質4aを貯留するトレーサタンク4bと、トレーサタンク4bと第1原水補給配管3b、第2原水補給配管3fに分岐して接続する配管と、各配管に設置され第1原水3a、第2原水3eの送水量に比例して蛍光物質4aを添加するよう運転するポンプ4c、4dからなる。
【0041】
各原水中に含まれる測定対象物質の濃度に対して、各原水中のトレーサ物質の濃度が一定比率となる添加量で、トレーサ物質を各原水に添加する方法としては、各原水中に含まれる測定対象物質の濃度を予め測定し、測定対象物質に対するトレーサ物質の添加比率から、各原水の単位補給水量(例えば1リットルなど)に対するトレーサ物質の添加量を予め決定しておく。そして、流量計3c、3gで測定される第1原水3a、第2原水3eの送水量(補給水量)に応じて、予め決定した各原水の単位補給水量に対するトレーサ物質の添加量に従って、トレーサ物質を各原水に定量ポンプ4c、4dで添加する。
【0042】
流量計3c、3gをパルス発信式流量計とし、定量ポンプ4c、4dをパルス信号入力型定量ポンプとすれば、パルス発信式流量計で第1原水3a、第2原水3eの送水量を測定し、送水量に応じたパルス信号3d、3hをパルス信号入力型定量ポンプに送ることで、パルス信号入力型定量ポンプの運転制御、即ち蛍光物質4aの添加量の制御ができる。即ち、各原水中に含まれる測定対象物質の濃度に対して、各原水中のトレーサ物質の濃度が予め決められた一定比率となる添加量で、トレーサ物質を各原水に添加することができる。
【0043】
なお、パルス発信式流量計とは、液体の流量を測定し、測定した流量に比例するパルス信号を生成し、出力する流量計である。
【0044】
また、パルス信号入力型定量ポンプとは、外部からのパルス信号を受けてポンプの吐出量(ストローク数)を制御することができる(単位パルス当たりのストローク数を設定することができる。)流体などの物質を送液する定量ポンプである。パルス信号入力型定量ポンプの1ストローク当たりの吐出量は定まっているので、各原水中に含まれる測定対象物質の濃度に対して、各原水中のトレーサ物質の濃度が予め決められた一定比率となる添加量で、トレーサ物質を各原水に添加する場合は、各原水の送水量に比例するパルス信号に応じて、駆動させるポンプのストローク数をパルス信号入力型定量ポンプに適宜設定しておけばよい。
【0045】
測定対象物質としては、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、シリカ、塩化物イオン、硫酸イオンなど冷却水系1に各種障害をきたす物質とすると、同時に障害リスクも把握できるため好ましい。
【0046】
トレーサ物質としては、オンサイトで測定可能なリチウムイオン、カリウムイオン、蛍光物質等を用いる。リチウムイオン、カリウムイオンはイオン電極で、蛍光物質は蛍光光度測定装置5でオンサイト濃度測定が可能である。
【0047】
なお、トレーサ物質の添加箇所は、図1に記す第1原水補給配管3b及び第2原水補給配管3fに限定されず、補給ライン3の他の箇所、例えば、原水タンク3jであってもよい。なお、原水タンク3jを採用せず、各原水が補給水配管3uに直結している場合や、第1、第2原水3a、3eの冷却塔2への補給ラインを全く別々に備えている場合には、トレーサ物質の添加箇所は、補給水配管3u、冷却塔2内、冷却水2aの循環ライン等であっても構わない。即ち、各原水から冷却水系1に補給される測定対象物質の量と冷却水系1に添加されるトレーサ物質の量の比例関係が保たれる場所であれば、冷却水系1のどのような箇所であっても本発明の効果を得ることができる。
【0048】
なお、原水タンク3j以降の冷却水系1aに、トレーサ物質を添加する場合には、各原水中に含まれる測定対象物質の濃度と、各パルス発信式流量計から得られるパルス信号3d、3hから計算した各原水の送水量(補給水量)とを乗じて、冷却水系1に補給される測定対象物質量の総和を演算し、該測定対象物質量の総和に対して一定比率のトレーサ物質を冷却水系1aに添加すれば、トレーサ物質を送液するポンプを一台で済ませることもできる。
【0049】
また、お互いの測定に影響を与えない2種以上のトレーサ物質を使用することで、トレーサ物質と同数の測定対象物質の濃度測定が可能である。例えば、シリカ濃度に比例した蛍光物質と、塩化物イオン濃度に比例したリチウムイオンを添加することで、冷却水2a中のシリカ濃度と塩化物イオン濃度の両方のオンサイト測定が可能となる。或いは、励起波長及び/又は発光波長が異なり、お互いの測定に影響を与えない物質であれば、2種以上の蛍光物質をトレーサ物質として使用することもできる。
【0050】
蛍光光度測定装置5は、センサ5aと演算制御部5cとからなる。センサ5aは、冷却水2a中に浸漬され、冷却水2a中の蛍光物質4aの蛍光強度(濃度)に対応した測定信号5bを生成する。測定信号5bは電気信号などである。なお、センサ5aは冷却塔2内でなく、循環ライン中に設置してもよい。
【0051】
演算制御部5cは、センサ5aから送られた測定信号5bを基に蛍光物質4aの冷却水2a中での濃度を計算し、蛍光物質4aに対応した測定対象物質の濃度を求める。そして、求められた測定対象物質の濃度を予め演算制御部5cに格納された管理基準値と比較する。
【0052】
さらに、演算制御部5cは、求められた測定対象物質の濃度が、管理基準値を超えた場合には強制補給配管3rに設置された電動弁3sを開放し、管理基準値を下回った場合には電動弁3sを閉止する開閉信号5dを電動弁3sに送る。
【0053】
なお、トレーサ物質として、蛍光物質4aでなく、リチウムイオン或いはカリウムイオンを採用した場合には、イオン電極で冷却水2a中のリチウムイオン或いはカリウムイオン濃度を測定する。求められたリチウムイオン、カリウムイオンの濃度は、他の演算制御装置によって冷却水2a中の測定対象物質濃度の管理基準値と比較され、その濃度が管理基準値を越えた場合には、他の演算制御装置が強制補給配管3rの電動弁3sを開放する信号を生成し電動弁3sに送る。そして、強制補給水3qを冷却塔2に補給する。また、その濃度が管理基準値を下回った場合には、他の演算制御装置が電動弁3sを閉止する信号を生成し電動弁3sに送る。
【0054】
本発明である冷却水水質の管理方法は、このようにしてなる冷却水系1aにおいて、蛍光物質4aをトレーサ物質として用いて得られた冷却水2a中の測定対象物質の濃度、即ち冷却水水質の測定方法によって得られた測定対象物質の濃度に応じて、ブロー装置の駆動を制御する。
【0055】
なお、ブロー装置とは、測定された冷却水系1に添加されたトレーサ物質の濃度に対応する冷却水2a中の測定対象物質の濃度と、測定対象物質濃度の管理基準値との対比に基づいて、電動弁3sの開閉を制御する機構、或いはブロー弁2fの開閉を制御し補給水3kを補給する機構などである。
【0056】
具体的には、測定対象物質の許容上限濃度を、例えば演算制御部5c、他の演算制御装置に設定しておき、冷却水2a中の測定対象物質の濃度が許容上限値に達したらブロー装置を駆動し、冷却水2aの一部を系外に排出し、混合原水3iと置換することで冷却水2aの濃縮度を低下させる。一方、冷却水2a中の測定対象物質の濃度が許容上限値を下回ったらブロー装置の駆動を止め、混合原水3iの供給を止める。
【0057】
或いは、測定対象物質の濃度に上限値、下限値を設定しておき、冷却水2a中の測定対象物質の濃度が上限値に達したらブロー装置を駆動し混合原水3iを冷却塔2に補給し、冷却水2a中の測定対象物質の濃度が下限値を下回ったらブロー装置の駆動を止め、混合原水3iの供給を止める。
【0058】
このようなブロー制御を行うことで、冷却水2a中の測定対象物質の濃度を常に一定範囲内に保つことができ、冷却水系1の障害を防止することができるとともに、冷却水2aを効率的に使用し、節水にも寄与する。
【実施例2】
【0059】
図2に示すように、本発明が適用される他の実施形態の冷却水系1aは、冷却塔2と、補給ライン3と、トレーサ添加ライン4と、蛍光光度測定装置5と、薬注装置6とからなる。
【0060】
なお、蛍光光度測定装置5は、実施例1における開閉信号5dを運転信号5eに変更した以外は同じである。運転信号5eは、演算制御部5cにおいてセンサ5aで取得された測定信号5bを基に演算、生成される薬注ポンプ6cの運転を制御する信号である。例えば、ON/OFF信号などがある。
【0061】
薬注装置6は、薬剤タンク6bに貯留されている水処理薬剤6aを薬注ポンプ6cの運転により薬注配管6dを通じ冷却水2aに注入する装置である。なお、水処理薬剤6aの注入箇所は、循環ラインであってもよい。
【0062】
薬注ポンプ6cは、各原水中に含まれる測定対象物質の濃度に対して、各原水中の蛍光物質4aの濃度が一定比率となる添加量で、各原水に添加された蛍光物質4aの冷却水中の濃度から求められる冷却水2a中の測定対象物質の濃度に基づき、運転が制御される。ここでは、演算制御部5cが測定対象物質の濃度を求め、それに基づき必要な運転信号5eを薬注ポンプ6cに送り、薬注ポンプ6cの運転を制御する。
【0063】
その他、冷却塔2、補給ライン3は実施例1と同様であるが、補給ライン3の電動弁3sは、開閉信号3tによって開閉される。開閉信号3tは、実施例1のように、蛍光光度測定装置5の演算制御部5cによって生成される開閉信号5dであっても、他の制御装置によって生成、送信される電動弁3sの開閉を制御する信号であってもよい。
【0064】
このようにしてなる冷却水系1aにおいて、蛍光物質4aをトレーサ物質として用いて得られた冷却水2a中の測定対象物質の濃度に応じて、冷却水2aへの水処理薬剤6aの注入量を制御することができる。
【0065】
例えば、測定対象物質であるカルシウムイオンやシリカ濃度が急減に増加した場合には、スケール防止剤の注入量を増やす。また、測定対象物質である塩化物イオンや硫酸イオンの濃度が急激に増加した場合には、防食剤の濃度を増加させる。これにより冷却水系の障害を防止することができる。
【0066】
一方、演算制御部5cが、センサ5aからの測定信号5bを基に、冷却水2a中の各種測定対象物質の濃度の低下を、例えば、測定対象物質の管理基準濃度との比較から把握したときは、冷却水系1aの障害リスクが低減することになるため、演算制御部5cが薬注ポンプ6cの運転を制御する運転信号5eを生成し、水処理薬剤6aの注入量を減らしたり、一時的に注入を停止したりする制御を行う。これにより、水処理薬剤6aの過剰注入を防止し、水処理薬剤6aの無駄も省くことができる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明である冷却水水質の測定方法によれば、冷却水中の測定対象物質の濃度をトレーサ物質を用いて測定するため、前記障害リスクを正確に評価することができ、該測定値を利用することで、補給水の無駄、注入される水処理薬剤の無駄のない、冷却水水質の管理方法、冷却水への水処理薬剤の注入方法を可能にする。従って、冷却水系の障害リスクに適切に対処でき、水質の異なる2種以上の原水を冷却水の補給水として使用している冷却水系であっても効率的な水利用が可能となるので、水処理技術に大きく貢献する。
【符号の説明】
【0068】
1 冷却水系
1a 冷却水系
2 冷却塔
2a 冷却水
2b オーバーフロー水
2c オーバーフロー配管
2d ブロー水
2e ブロー配管
2f ブロー弁
2g ファン
3 補給ライン
3a 第1原水
3b 第1原水補給配管
3c 流量計
3d パルス信号
3e 第2原水
3f 第2原水補給配管
3g 流量計
3h パルス信号
3i 混合原水
3j 原水タンク
3k 補給水
3n ポンプ
3p ボールタップ
3q 強制補給水
3r 強制補給配管
3s 電動弁
3t 開閉信号
3u 補給水配管
4 トレーサ添加ライン
4a 蛍光物質
4b トレーサタンク
4c ポンプ
4d ポンプ
5 蛍光光度測定装置
5a センサ
5b 測定信号
5c 演算制御部
5d 開閉信号
5e 運転信号
6 薬注装置
6a 水処理薬剤
6b 薬剤タンク
6c 薬注ポンプ
6d 薬注配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水質の異なる2種以上の原水を冷却水の補給水として使用している冷却水系における冷却水水質の測定方法であって、
各原水中に含まれる測定対象物質の濃度に対して、前記各原水中のトレーサ物質の濃度が一定比率となる添加量で、前記トレーサ物質を前記各原水に添加し、前記冷却水中の前記トレーサ物質の濃度を測定し、得られた前記トレーサ物質の濃度と前記測定対象物質に対する前記トレーサ物質の添加比率から計算して前記冷却水中の前記測定対象物質の濃度を求めることを特徴とする冷却水水質の測定方法。
【請求項2】
前記各原水の補給水量を測定する流量計と、前記各原水にトレーサ物質を添加する定量ポンプとを有し、
前記各原水中に含まれる測定対象物質の濃度を予め測定しておくとともに、前記測定対象物質に対する前記トレーサ物質の添加比率から、前記各原水の単位補給水量に対する前記トレーサ物質の添加量を予め決定しておき、前記流量計で測定される前記各原水の補給水量に応じて、前記予め決定した前記各原水の単位補給水量に対する前記トレーサ物質の添加量に従って、前記トレーサ物質を前記各原水に前記定量ポンプで添加することを特徴とする請求項1に記載の冷却水水質の測定方法。
【請求項3】
前記流量計がパルス発信式流量計であり、前記定量ポンプが前記パルス発信式流量計で前記各原水の補給水量に応じて生成されるパルス信号によって運転制御されるパルス信号入力型定量ポンプであることを特徴とする請求項2に記載の冷却水水質の測定方法。
【請求項4】
前記測定対象物質が、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、シリカ、塩化物イオン、硫酸イオンの内から選ばれる何れか1種であることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の冷却水水質の測定方法。
【請求項5】
前記トレーサ物質が、リチウムイオン、カリウムイオン、蛍光物質の内から選ばれる何れか1種であることを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載の冷却水水質の測定方法。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5の何れか1項に記載の冷却水水質の測定方法によって得られた前記測定対象物質の濃度に応じて、前記冷却水のブロー装置の駆動を制御することを特徴とする冷却水水質の管理方法。
【請求項7】
請求項1乃至請求項5の何れか1項に記載の冷却水水質の測定方法によって得られた前記測定対象物質の濃度に応じて、前記冷却水への水処理薬剤の注入量を制御することを特徴とする冷却水への水処理薬剤の注入方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate