説明

冷却装置の温度制御方法

【課題】負荷の影響による温度特性(検出温度)のドリフトを解消し、被冷却物に対する正確かつ安定した温度制御を行う。
【解決手段】設定温度(正規設定温度Ts)に対して上限温度Thと下限温度Tbを設定するとともに、被冷却物Wの温度(検出温度Td)を検出してディファレンシャル制御を行うに際し、検出温度Tdの相前後する最小値Tminと最大値Tmaxを検出し、最小値Tminと最大値Tmaxの平均値に基づいて当該平均値を正規設定温度Tsに一致させるための補正値Tcを算出するとともに、当該補正値Tcにより設定温度Tsnを補正する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は設定温度に対して上限温度と下限温度を設定してディファレンシャル制御を行う冷却装置の温度制御方法に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、設定温度に対して上限温度と下限温度を設定するとともに、被冷却物の温度を検出してディファレンシャル制御を行う冷却装置の温度制御方法は、特開昭63−161357号公報等で知られている。
【0003】図5は、従来の温度制御方法により、冷却装置を用いて冷却液(被冷却物)を温度制御した際における冷却液(検出温度Td)の温度特性である。同図において、Tsは設定温度,Th及びTbは当該設定温度Tsに対して設定したディファレンシャル制御上の上限温度及び下限温度をそれぞれ示す。このような設定により、冷却装置では冷却液の検出温度Tdが上限温度Thよりも上昇したなら冷却運転を行うとともに、検出温度Tdが下限温度Tbよりも下降したなら加熱運転を行う。なお、二点鎖線Mh,Mbは、冷却液に要求される温度変動に対する許容範囲である。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】ところで、上述した従来の温度制御方法では、冷却液及び冷却装置に制御上及び構造上の応答遅れが存在するため、検出温度Tdが上限温度Thよりも上昇したことにより冷却運転を行っても、検出温度Tdは上限温度Thを大きく越えてしまう。例えば、設定温度Tsを20℃,上限温度Thを20.25℃に設定しても、検出温度Tdは21℃付近まで上昇(オーバシュート)する。このことは検出温度Tdが下限温度Tbよりも下降したことにより加熱運転を行っても同様であり、検出温度Tdは下限温度Tbを大きく越えてしまう。
【0005】また、冷却液の温度特性(検出温度Td)は、負荷の大きさにも大きく影響され、図5に示すように負荷が大きくなれば高温側にドリフトするとともに、負荷が小さくなれば低温側にドリフトする。この結果、検出温度Tdは冷却液の温度変動に対する前記許容範囲Mh,Mbを越えてしまうことになり、冷却液に対する正確かつ安定した温度制御を行うことができない問題があった。
【0006】本発明はこのような従来の技術に存在する課題を解決したものであり、負荷の影響による温度特性(検出温度)のドリフトを解消し、被冷却物に対する正確かつ安定した温度制御を行うことができる冷却装置の温度制御方法の提供を目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段及び実施の形態】本発明に係る冷却装置の温度制御方法は、設定温度(正規設定温度Ts)に対して上限温度Thと下限温度Tbを設定するとともに、冷却液W等の被冷却物の温度(検出温度Td)を検出してディファレンシャル制御を行うに際し、検出温度Tdの相前後する最小値Tminと最大値Tmaxを検出し、最小値Tminと最大値Tmaxの平均値に基づいて当該平均値を正規設定温度Tsに一致させるための補正値Tcを算出するとともに、算出した補正値Tcにより設定温度Tsnを補正するようにしたことを特徴とする。これにより、負荷の影響によって検出温度Tdにドリフトが発生しても、ドリフトを解消する方向に設定温度Tsnが補正される。
【0008】また、好適な実施の形態により、最大値Tmaxは最小値Tminよりも後に検出するとともに、補正は当該最大値Tmaxを検出した直後において検出温度Tdが上限温度Thに達した時点Phで行う。一方、補正値Tcは、Tc=Ts−(Tmax+Tmin)/2により求めることができる。この場合、最大補正値Tcmを設定することにより最大補正値Tcm以上の補正は行わない。
【0009】
【実施例】次に、本発明に係る最適な実施例を挙げ、図面に基づき詳細に説明する。
【0010】まず、本発明に係る温度制御方法を実施するための冷却装置1について、図2を参照して説明する。
【0011】Uは、例えば、工場F内に設置された発熱を伴う工作機械(レーザ加工機等)である。
【0012】一方、1は屋外に設置した冷却装置(ユニットクーラ)である。冷却装置1は冷却液W(被冷却物)を収容した冷却液タンク2を備え、この冷却液タンク2の給出口2sは冷却装置1に内蔵する循環ポンプ3の吸入口に接続するとともに、冷却液タンク2の戻り口2rは冷却装置1に内蔵する、例えば、冷凍機を用いた冷却器4の流出口に接続する。また、循環ポンプ3の吐出口と冷却器4の流入口は工作機械Uを通る冷却管5cを含む配管5により接続する。
【0013】他方、循環ポンプ3の吐出口に近い配管5には、冷却液Wの温度を検出する温度センサ6を付設し、この温度センサ6は制御部7に接続するとともに、この制御部7により循環ポンプ3及び冷却器4を制御する。
【0014】よって、冷却器4を作動させるとともに、循環ポンプ3を運転すれば、冷却液タンク2の冷却液Wは循環ポンプ3により配管5に供給され、冷却液Wは冷却管5cを通って冷却器4に至り、この際、工作機械Uは冷却液Wにより冷却(熱交換)される。また、冷却器4に流入する冷却液Wは温められているため、当該冷却器4により冷却された後、冷却液タンク3に戻される。したがって、冷却液タンク3から、循環ポンプ3,冷却管5cを含む配管5及び冷却器4を通り、冷却液タンク3に戻る経路が冷却液Wの循環経路となる。
【0015】次に、このような冷却装置1を用いた本発明に係る温度制御方法について、図1に示すフローチャート及び図2〜図4を参照して説明する。
【0016】まず、図3に示すように、制御部7には正規設定温度Tsを設定するとともに、正規設定温度Tsに対するディファレンシャル制御上の上限温度Thと下限温度Tbを設定する。そして、冷却装置1の運転を開始する。この際、例えば、冷却液Wの検出温度Tdが下限温度Tbよりも高い場合には冷却運転を行う。これにより、検出温度Tdは下降するため、検出温度Tdが下限温度Tbよりも下降したなら加熱運転を行う(ステップS1,S2)。加熱運転中は検出温度Tdを監視し、Tdが最小値Tminになったら、当該最小値Tminを記憶する(ステップS3,S4,S5)。一方、検出温度Tdは最小値Tminになった後に上昇するため、検出温度Tdが上限温度Thよりも上昇したなら冷却運転を行う(ステップS6,S7)。冷却運転中は検出温度Tdを監視し、Tdが最大値Tmaxになったら、当該最大値Tmaxを記憶する(ステップS8,S9,S10)。
【0017】そして、最小値Tminと最大値Tmaxが得られたなら、最小値Tminと最大値Tmaxの平均値に基づいて当該平均値を正規設定温度Tsに一致させるための補正値Tcを算出する(ステップS11)。即ち、補正値Tcは、Tc=Ts−(Tmax+Tmin)/2により算出(演算)する。また、補正値Tcが得られたなら、当該最大値Tmaxを検出した直後における検出温度Tdが上限温度Thに達した時点Phにおいて、設定温度Tsを補正値Tcにより補正する。この場合、補正前の設定温度をTsn,補正後の設定温度をTsn+1とすれば、補正後の設定温度Tsn+1は、Tsn+1=Tsn+Tc=Tsn+Ts−(Tmax+Tmin)/2となる(ステップS12)。なお、このような補正処理は制御部7のコンピュータ機能部に備えるソフトウェアプログラムにより実行する。また、最大補正値Tcmを設定し、最大補正値Tcm以上の補正は行わない。
【0018】図3は負荷が大きくなった場合、即ち、冷却液タンク2の冷却液Wの温度が比較的高くなり、検出温度Tdが高温側にドリフトした場合に補正した温度特性、図4は負荷が小さくなった場合、即ち、冷却液タンク2の冷却液Wの温度が比較的低くなり、検出温度Tdが低温側にドリフトした場合に補正した温度特性をそれぞれ示す。
【0019】このような実施例に係る温度制御方法により、負荷の影響によって検出温度Tdにドリフトが発生しても、ドリフトを解消する方向に設定温度Tsnが補正されるため、検出温度Tdの温度特性は、常に、冷却液Wの温度変動に対する許容範囲Mh,Mbに収まり、冷却液Wに対する正確かつ安定した温度制御を行うことができる。
【0020】以上、実施例について詳細に説明したが、本発明はこのような実施例に限定されるものではない。例えば、最大値は最小値よりも後に検出した場合を例示したが、最小値よりも前に検出する場合を妨げるものではない。また、補正は、最大値を検出した直後において検出温度が上限温度に達した時点で行う場合を例示したが、必ずしもこの時点に限定されるものではない。その他、細部の構成,手法,数値等において、本発明の精神を逸脱しない範囲で任意に変更できる。
【0021】
【発明の効果】このように、本発明に係る冷却装置の温度制御方法は、設定温度(正規設定温度)に対して上限温度と下限温度を設定するとともに、被冷却物の温度(検出温度)を検出してディファレンシャル制御を行うに際し、検出温度の相前後する最小値と最大値を検出し、最小値と最大値の平均値に基づいて当該平均値を正規設定温度に一致させるための補正値を算出するとともに、当該補正値により設定温度を補正するようにしたため、負荷の影響による温度特性(検出温度)のドリフトを解消し、被冷却物に対する正確かつ安定した温度制御を行うことができるという顕著な効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る温度制御方法の処理手順を示すフローチャート、
【図2】同温度制御方法を実施する冷却装置のブロック構成図、
【図3】同温度制御方法を実施した際の検出温度の温度特性図、
【図4】同温度制御方法を実施した際の検出温度の他の温度特性図、
【図5】従来の技術に係る温度制御方法を実施した際の検出温度の温度特性図、
【符号の説明】
W 冷却液(被冷却物)
Ts 設定温度(正規設定温度)
Th 上限温度
Tb 下限温度
min 最小値
max 最大値
Tsn 設定温度
Td 検出温度

【特許請求の範囲】
【請求項1】 設定温度(正規設定温度)に対して上限温度と下限温度を設定するとともに、被冷却物の温度(検出温度)を検出してディファレンシャル制御を行う冷却装置の温度制御方法において、前記検出温度の相前後する最小値と最大値を検出し、前記最小値と前記最大値の平均値に基づいて当該平均値を前記正規設定温度に一致させるための補正値を算出するとともに、当該補正値により設定温度を補正することを特徴とする冷却装置の温度制御方法。
【請求項2】 前記最大値は、前記最小値よりも後に検出することを特徴とする請求項1記載の冷却装置の温度制御方法。
【請求項3】 前記補正は、前記最大値を検出した直後において前記検出温度が前記上限温度に達した時点で行うことを特徴とする請求項1又は2記載の冷却装置の温度制御方法。
【請求項4】 前記補正値Tcは、前記正規設定温度をTs,前記最小値をTmin及び前記最大値をTmaxとした場合、Tc=Ts−(Tmax+Tmin)/2により求めることを特徴とする請求項1記載の冷却装置の温度制御方法。
【請求項5】 最大補正値を設定することにより前記最大補正値以上の補正は行わないことを特徴とする請求項1記載の冷却装置の温度制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開平9−134220
【公開日】平成9年(1997)5月20日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平7−314647
【出願日】平成7年(1995)11月7日
【出願人】(000103921)オリオン機械株式会社 (450)