説明

冷媒ディストリビュータ

【課題】ろう材の廻り過ぎによる冷媒分配配管の詰まりや、ろう材の廻り不足による冷媒漏れの発生等を確実に防止し、冷媒分配配管のろう付けを安定化することができる簡素な構成の冷媒ディストリビュータを提供することを目的とする。
【解決手段】冷媒供給配管と接続され、該冷媒供給配管から供給される冷媒を複数の冷媒分配配管に分配するディストリビュータ本体2と、該ディストリビュータ本体2に穿設されている複数の冷媒分配孔3と、該冷媒分配孔3に一端が挿入され、ディストリビュータ本体2にろう付け接合される複数の冷媒分配配管と、を備え、冷媒分配孔3は、冷媒分配配管の一端が嵌め合いにより挿入される小径部11と、該冷媒分配孔3の配管挿入側に形成され、小径部11よりも所定寸法だけ径が大きくされた大径部12とからなる段付孔とされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば多サーキットのフィン&チューブ形熱交換器等に対して、冷媒を分配して供給する冷媒ディストリビュータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
空気調和機や各種冷凍機等に組み込まれる多サーキットのフィン&チューブ形熱交換器においては、各々のサーキットに対して冷媒を均一に分配して供給する必要があり、このため、冷媒ディストリビュータが用いられている。このような冷媒ディストリビュータとして、冷媒供給配管が接続されるディストリビュータ本体に複数の冷媒分配孔を設け、該冷媒分配孔に対して複数の冷媒分配配管(キャピラリチューブ)の一端を挿入してろう付け接合したものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この特許文献1に示された冷媒ディストリビュータは、ディストリビュータ本体に設けられた複数の冷媒分配孔に対し、冷媒分配配管の一端を挿入してろう付けした場合、余剰のろう材が冷媒分配配管やディストリビュータ本体内に設けられているオリフィスに詰まる虞があるので、それを防止するために、オリフィスを別部材として冷媒分配孔内に挿入設置するとともに、そのオリフィスに配管接続側に突出する凸形状部を設け、該凸形状部の外周面と冷媒分配配管の内周面との間にろう溜まりを形成したものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−21733号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に示されるように、ディストリビュータ本体の冷媒分配孔内にオリフィス部材を挿入し、そのオリフィス部材に設けた凸形状部と冷媒分配配管の内周面との間にろう溜まりを形成したものでは、オリフィスを別部材として構成し、それを冷媒分配孔内に挿入設置しなければならず、部品点数が増加して構造が複雑化するとともに、組み立て工数が増加し、ひいてはコストアップを招く等の課題があった。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、ろう材の廻り過ぎによる冷媒分配配管の詰まりや、ろう材の廻り不足による冷媒漏れの発生等を確実に防止し、冷媒分配配管のろう付けを安定化することができる簡素な構成の冷媒ディストリビュータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した課題を解決するために、本発明の冷媒ディストリビュータは、以下の手段を採用する。
すなわち、本発明にかかる冷媒ディストリビュータは、冷媒供給配管と接続され、該冷媒供給配管から供給される冷媒を複数の冷媒分配配管に分配するディストリビュータ本体と、該ディストリビュータ本体に穿設されている複数の冷媒分配孔と、該冷媒分配孔に一端が挿入され、前記ディストリビュータ本体にろう付け接合される複数の前記冷媒分配配管と、を備え、前記冷媒分配孔は、前記冷媒分配配管の一端が嵌め合いにより挿入される小径部と、該冷媒分配孔の配管挿入側に形成され、前記小径部よりも所定寸法だけ径が大きくされた大径部とからなる段付孔とされていることを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、ディストリビュータ本体に穿設され、冷媒分配配管の一端が挿入されてろう付け接合される複数の冷媒分配孔が、冷媒分配配管の一端が嵌め合いにより挿入される小径部と、該冷媒分配孔の配管挿入側に形成され、小径部よりも所定寸法だけ径が大きくされた大径部とからなる段付孔とされているため、冷媒分配配管の一端を冷媒分配孔に挿入してろう付け接合する際、冷媒分配孔の小径部および大径部において、その段部を境に小径部側に対してろう材を廻り難くし、大径部に対してろう材を廻り易くすることができる。従って、ろう材の廻り過ぎによる冷媒分配配管の詰まりや、ろう材の廻り不足が原因で発生する隙間からの冷媒漏れ等を確実に防止し、冷媒分配配管のろう付け接合を安定化することができる簡素な構成のディストリビュータを提供することができる。
【0009】
また、本発明の冷媒ディストリビュータは、上記の冷媒ディストリビュータにおいて、前記冷媒分配孔における前記小径部および前記大径部の長さ方向寸法は、前記小径部の方が前記大径部に比べて数倍長くされていることを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、冷媒分配孔における小径部および大径部の長さ方向寸法が、小径部の方が大径部に比べて数倍長くされているため、ろう付け時に、小径部側に対してろう材をより廻り難くし、そのろう材を大径部側に集中的に廻してろう付けすることができる。従って、ろう材の廻り過ぎによる配管詰まりや、ろう材の廻り不足が原因で発生する隙間からの冷媒漏れ等を確実に防止することができ、ディストリビュータの品質と信頼性の向上を図ることができる。
【0011】
さらに、本発明の冷媒ディストリビュータは、上述のいずれかの冷媒ディストリビュータにおいて、前記冷媒分配孔の前記小径部の先端部位に、オリフィス部が設けられていることを特徴とする。
【0012】
本発明によれば、冷媒分配孔の小径部の先端部位に、オリフィス部が設けられているため、冷媒供給配管からディストリビュータ本体に供給された冷媒を、ディストリビュータ本体に接続されている複数の冷媒分配配管に対して、オリフィス部を介在させることによって均等圧力で分配することができる。従って、複数の冷媒分配配管に対する冷媒の分配を均一化することができる。
【0013】
さらに、本発明の冷媒ディストリビュータは、上述のいずれかの冷媒ディストリビュータにおいて、前記冷媒分配孔は、前記ディストリビュータ本体の外周領域に沿って円周上等間隔で複数個穿設されており、その中心領域に円筒状の凹部が設けられていることを特徴とする。
【0014】
本発明によれば、冷媒分配孔が、ディストリビュータ本体の外周領域に沿って円周上等間隔で複数個穿設されており、その中心領域に円筒状の凹部が設けられているため、ディストリビュータ本体の中心領域に円筒状の凹部を設けることにより、冷媒分配孔の外側領域の肉厚と内側領域の肉厚とを略同等とし、冷媒分配配管の一端を冷媒分配孔に挿入してろう付け接合する際、各冷媒分配孔の廻りを全周に亘り略均一にバランスよく加熱し、ろう付けすることができる。従って、ろう付け性の向上、安定化を図ることができるとともに、真鍮等によって構成されるディストリビュータ本体の使用材料量を低減し、コスト低減を図ることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によると、冷媒分配配管の一端を冷媒分配孔に挿入してろう付け接合する際、冷媒分配孔の小径部および大径部において、その段部を境に小径部側に対してろう材を廻り難くし、大径部に対してろう材を廻り易くすることができるため、ろう材の廻り過ぎによる冷媒分配配管の詰まりや、ろう材の廻り不足が原因で発生する隙間からの冷媒漏れ等を確実に防止し、冷媒分配配管のろう付け接合を安定化することができる簡素な構成のディストリビュータを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態に係る冷媒ディストリビュータの外観図である。
【図2】図1に示す冷媒ディストリビュータの縦断面図である。
【図3】図2に示すディストリビュータ本体の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の一実施形態について、図1ないし図3を参照して説明する。
図1には、本発明の一実施形態に係る冷媒ディストリビュータの外観図が示され、図2には、その縦断面図、図3には、ディストリビュータ本体の縦断面図が示されている。
冷媒ディストリビュータ1は、例えば、多サーキットのフィン&チューブ形熱交換器等の各サーキットに対して、冷媒を均一に分配して供給するためのものであり、複数の冷媒分配孔3が穿設されているディストリビュータ本体2と、該ディストリビュータ本体2を収容保持するケース部材4と、ディストリビュータ本体2の複数の冷媒分配孔3にろう付け接合される複数本の冷媒分配配管(キャピラリチューブ)5とから構成されている。
【0018】
ディストリビュータ本体2を収容保持するケース部材4は、冷媒供給配管6がろう付け接続される配管接続部7と、該配管接続部7に連続する外径が急拡大されたディストリビュータ本体2を収容保持する大径の収容部8とが一体形成された筒状の部材であり、配管接続部7に対して冷媒供給配管6がろう付け接続されるとともに、大径の収容部8の内周にディストリビュータ本体2の外周部が嵌合挿入され、ろう付け等によって密着シールされるように構成されている。
【0019】
ディストリビュータ本体2は、例えば、真鍮等の円筒状筒体9で構成されており、その外周領域には、円周上に等間隔で複数個(例えば、12個)の冷媒分配孔3が穿設されている。冷媒分配孔3は、貫通孔であり、その一端部位には、オリフィス部10が設けられている。更に、この冷媒分配孔3は、オリフィス部10に連続して、冷媒分配配管(キャピラリチューブ)5が嵌め合いにより挿入可能とされた小径部11と、該冷媒分配孔3の配管挿入側に形成され、小径部11よりも所定寸法だけ径が大きくされた大径部12とからなる段付孔とされている。
【0020】
また、上記冷媒分配孔3において、小径部11と大径部12との長さ方向寸法(孔軸線方向寸法)は、大径部12の長さに対して、小径部11の長さの方が数倍(例えば、5〜6倍)長くされた構成とされており、冷媒分配配管5の一端部を挿入してろう付け接合する際、ろう材が大径部12と冷媒分配配管5の外周とで形成される隙間に集中し、冷媒分配配管5の先端側に廻り難い構成とされている。
【0021】
なお、冷媒分配孔3の大径部12と冷媒分配配管5の外周とで形成される隙間は、概ね0.3mm程度とされ、全周にろう材が廻り易い隙間とされている。また、小径部11と大径部12とからなる段付孔とされた冷媒分配孔3のオリフィス部10を除く孔軸線方向長さは、例えば20mm程度とされている。その中で小径部11の長さが17mm、大径部12の長さが3mmとされており、この大径部12において全周にろう材を廻してろう付けすることにより、十分にガス漏れを阻止することができる。
【0022】
さらに、ディストリビュータ本体2には、外周側領域に、円周上等間隔で複数個(本実施形態の場合は、12個)の冷媒分配孔3を穿設しているが、その中心側領域に、円筒状の凹部13を設けた構成としている。これによって、図3に示されるように、冷媒分配孔3の外側領域の肉厚と内側領域の肉厚とが略同等の肉厚とされるようにしている。
【0023】
冷媒分配配管5は、キャピラリチューブと称されている細管であり、それぞれ12本の細管の一端部が、ディストリビュータ本体2の冷媒分配孔3の小径部11の先端まで挿入され、冷媒分配孔3の大径部12位置において、全周がディストリビュータ本体2に対してろう付け接合されるようになっている。この冷媒分配配管5の他端部は、多サーキットのフィン&チューブ形熱交換器の各サーキットの冷媒配管に接続され、これにより各サーキットに対して冷媒を均一に分配して供給する機能を担っている。
【0024】
以上に説明の構成により、本実施形態によれば、以下の作用効果を奏する。
上記の冷媒ディストリビュータ1において、冷媒供給配管6からケース部材4内に供給された冷媒は、ケース部材4に収容保持されているディストリビュータ本体2に穿設されている複数の冷媒分配孔3を介して、各冷媒分配孔3に接続されている複数本の冷媒分配配管5に分配され、該冷媒分配配管5を通して多サーキットのフィン&チューブ形熱交換器の各サーキットへと供給される。
【0025】
複数の冷媒分配孔3に対する冷媒の分配に際して、各冷媒分配孔3の入口部にオリフィス部10が設けられているため、このオリフィス部10を介在させることによって各冷媒分配孔3に均等圧力で冷媒を分配することができる。従って、複数本の冷媒分配配管5に対して冷媒を均一に分配することができる。
【0026】
一方、ディストリビュータ本体2に接続されている複数本の冷媒分配配管5は、一端を冷媒分配孔3に挿入し、ろう付け接合することによって接続されるが、このろう付けの際に注意すべき点は、ろう材が廻り過ぎることによって冷媒分配配管5の先端やオリフィス部10に詰まったり、あるいはろう材の廻り不足によって微小隙間が生じ、ガス漏れが発生したりすることである。
【0027】
しかるに、本実施形態では、冷媒分配配管5の一端が挿入されてろう付け接合される冷媒分配孔3を、冷媒分配配管5の一端が嵌め合いにより挿入される小径部11と、冷媒分配孔3の配管挿入側に形成され、小径部11よりも所定寸法だけ径が大きくされた大径部12とからなる段付孔としている。このため、冷媒分配配管5の一端を冷媒分配孔3に挿入してろう付け接合する際、冷媒分配孔3の小径部11および大径部12において、その段部を境に小径部11側に対してろう材を廻り難くし、大径部12に対してろう材を廻り易くすることができる。
【0028】
これによって、ろう材が廻り過ぎることによる冷媒分配配管5やオリフィス部10の詰まりや、ろう材の廻り不足が原因で発生する隙間からの冷媒漏れ等を確実に防止し、冷媒分配配管5のろう付け接合を安定化することができるとともに、冷媒分配孔3を段付孔とするだけでよく、新たな部品等の追加することなく、ろう付けを安定化できる簡素な構成の冷媒ディストリビュータ1を提供することができる。
【0029】
また、上記冷媒分配孔3における小径部11および大径部12の長さ方向寸法を、小径部11の方の長さを大径部12の長さに比べて数倍長くした構成としているため、ろう付け時に、小径部11側に対してろう材をより廻り難くし、そのろう材を大径部12側に集中的に廻してろう付けすることができる。これにより、ろう材の廻り過ぎによる配管あるいはオリフィス部の詰まりや、ろう材の廻り不足が原因で発生する隙間からの冷媒漏れ等をより確実に防止することが可能となり、冷媒ディストリビュータ1の品質と信頼性を一段と向上することができる。
【0030】
さらに、本実施形態においては、冷媒分配孔3をディストリビュータ本体2の外周領域に沿って円周上等間隔で複数個穿設し、その中心領域に円筒状の凹部13を設けた構成としている。このように、ディストリビュータ本体2の中心領域に円筒状の凹部13を設けることによって、冷媒分配孔3の外側領域の肉厚と内側領域の肉厚とを略同等とし、冷媒分配配管5の一端を冷媒分配孔3に挿入してろう付け接合する際、各冷媒分配孔3の廻りを全周に亘り略均一にバランスよく加熱し、ろう付けすることができる。
【0031】
このため、冷媒分配配管5を接合する際のろう付け性の更なる向上、安定化を図ることができるとともに、真鍮等によって構成されるディストリビュータ本体2の使用材料量を低減し、コスト低減を図ることができる。
【0032】
なお、本発明は、上記実施形態にかかる発明に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において、適宜変形が可能である。例えば、上記実施形態では、ディストリビュータ本体2とケース部材4とを別体とした例について説明したが、両者を一体化した構成のディストリビュータ本体を用いたものとしてもよい。また、冷媒分配孔3の数や冷媒分配配管5の本数は、適宜変更されることは云うまでもない。
【符号の説明】
【0033】
1 冷媒ディストリビュータ
2 ディストリビュータ本体
3 冷媒分配孔
5 冷媒分配配管
6 冷媒供給配管
10 オリフィス部
11 小径部
12 大径部
13 凹部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒供給配管と接続され、該冷媒供給配管から供給される冷媒を複数の冷媒分配配管に分配するディストリビュータ本体と、
該ディストリビュータ本体に穿設されている複数の冷媒分配孔と、
該冷媒分配孔に一端が挿入され、前記ディストリビュータ本体にろう付け接合される複数の前記冷媒分配配管と、を備え、
前記冷媒分配孔は、前記冷媒分配配管の一端が嵌め合いにより挿入される小径部と、該冷媒分配孔の配管挿入側に形成され、前記小径部よりも所定寸法だけ径が大きくされた大径部とからなる段付孔とされていることを特徴とする冷媒ディストリビュータ。
【請求項2】
前記冷媒分配孔における前記小径部および前記大径部の長さ方向寸法は、前記小径部の方が前記大径部に比べて数倍長くされていることを特徴とする請求項1に記載の冷媒ディストリビュータ。
【請求項3】
前記冷媒分配孔の前記小径部の先端部位に、オリフィス部が設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の冷媒ディストリビュータ。
【請求項4】
前記冷媒分配孔は、前記ディストリビュータ本体の外周領域に沿って円周上等間隔で複数個穿設されており、その中心領域に円筒状の凹部が設けられていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の冷媒ディストリビュータ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−113557(P2013−113557A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−262440(P2011−262440)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)