説明

冷陰極放電ランプ

【課題】 電極とインナーリードを溶接してなる電極マウントにエミッタを塗布した冷陰極放電ランプにおいて、寿命特性を改善した冷陰極放電ランプを提供することである。
【解決手段】
本発明の冷陰極放電ランプは、内部に放電空間11が形成されたガラスバルブ1と、インナーリード31と、インナーリード31に接続された電極33と、電極33の内表面に形成されたエミッタ35とを備え、電極33が放電空間11内に配置されるように、ガラスバルブ1に封着された電極マウント3とを具備する冷陰極放電ランプであって、インナーリード31は少なくとも鉄を含む材料で構成され、インナーリード31と電極33とは溶接により接続され、それらの間には溶融層36が形成されており、溶融層36の少なくとも一部は電極33の内表面に露出しており、エミッタ35は溶融層36を避けた電極33の内表面に形成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶テレビやノートパソコンのバックライトの光源などに用いられる冷陰極放電ランプに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、バックライトに用いられる光源は、冷陰極放電ランプが主流である。冷陰極放電ランプは、ガラスバルブの端部に、電極とリードからなる電極マウントが封着されてなる構造になっている。
【0003】
電子放出性を高めて、陰極降下電圧を下げるために、例えば、特許文献1や特許文献2のように、エミッタを電極内表面に塗布することがある。電極内表面にエミッタを塗布する場合、点灯により塗布されたエミッタの量が少なくなるが、エミッタが消失してしまうと電子放出性が低下して寿命中に陰極降下電圧が急上昇してしまうため、その消失時間を遅延すべく、従来は電極内表面のできるだけ広範囲にエミッタを形成するのが一般的であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−355971号公報
【特許文献2】特開2002−175775号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特定の電極マウントの仕様においては、電極内表面全体にエミッタを塗布すると、むしろ寿命が低下してしまうことがわかった。
【0006】
本発明の目的は、電極とインナーリードを溶接してなる電極マウントにエミッタを塗布した冷陰極放電ランプにおいて、寿命特性を改善した冷陰極放電ランプを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の冷陰極放電ランプは、内部に放電空間が形成されたガラスバルブと、インナーリードと、前記インナーリードに接続された電極と、前記電極の内表面に形成されたエミッタとを備え、前記電極が前記放電空間内に配置されるように、前記ガラスバルブに封着された電極マウントとを具備する冷陰極放電ランプであって、前記インナーリードは少なくとも鉄を含む材料で構成され、前記インナーリードと前記電極とは溶接により接続され、それらの間には溶融層が形成されており、前記溶融層の少なくとも一部は前記電極の内表面に露出しており、前記エミッタは前記溶融層を避けた前記電極の内表面に形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、電極とインナーリードを溶接してなる電極マウントにエミッタを塗布した冷陰極放電ランプにおいて、寿命特性を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の第1の実施の形態の冷陰極放電ランプについて説明するための全体図。
【図2】図1の一点鎖線で囲ったXの範囲について説明するための図。
【図3】従来例と実施例の輝度維持率について説明するための図。
【図4】本発明の第2の実施の形態の冷陰極放電ランプについて説明するための全体図。
【図5】インナーリードの変形例について説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(第1の実施の形態)
以下、本発明の実施の形態の冷陰極放電ランプについて図面を参照して説明する。図1は本発明の第1の実施の形態の冷陰極放電ランプについて説明するための図、図2は図1の一点鎖線で囲ったXの範囲について説明するための図である。
【0011】
冷陰極放電ランプの容器は、硬質ガラスや軟質ガラスからなるガラスバルブ1で構成されている。ガラスバルブ1は両端部が密閉された細長い筒型の形状であり、その内部には放電空間11が形成されている。放電空間11には、水銀および希ガスからなる放電媒体が封入されている。希ガスとしてはネオン、アルゴン、キセノン、クリプトンなどの単体または混合ガスを用いることができる。ガラスバルブ1の内面には、少なくともランプの光放出領域を覆う範囲にRGBの3波長蛍光体からなる蛍光体層2が形成されている。
【0012】
ガラスバルブ1の両端には、電極マウント3が封着されている。この電極マウント3は、インナーリード31、アウターリード32、電極33、ビーズ34およびエミッタ35で構成されている。
【0013】
インナーリード31は、ガラスバルブ1に封着され、その一端は放電空間11に、他端はガラスバルブ1の外部の空間に導出されている。インナーリード31としては、例えば、コバール(ニッケルNi、鉄Fe、コバルトCoなどを含む合金)や、鉄−ニッケル合金など、少なくとも鉄を含む材料を用いることができる。
【0014】
アウターリード32は、ランプ軸に沿って外部空間方向に延出するように、インナーリード31に接続されている。
【0015】
電極33は、底部331と側部332を備えた有底開口状(カップ状)であり、その開口がガラスバルブ1の中央側になるように放電空間11の両側に対向配置され、その底部がインナーリード31と接続されている。この電極33としては、例えば、ニッケル、モリブデンなどのスパッタしにくい金属を使用することができる。
【0016】
ビーズ34は、インナーリード31の軸部材に形成されたガラスバルブ1と同じ材料からなるガラス玉であり、ガラスバルブ1の両端部に気密封着されている。
【0017】
エミッタ35は、セシウム、バリウム、マグネシウムなどの電子放出性に優れた材料からなり、電極33の内表面に塗布されている。
【0018】
ここで、電極マウント3付近の構造について、図2を参照してさらに詳しく説明する。
【0019】
インナーリード31と電極33とは、例えば抵抗溶接により接続されており、それらの間には溶融層36が形成されている。この溶融層36は、互いの材料が混ざった状態であり、その少なくとも一部は電極33の内表面に露出している。このような溶融層36は、電極33の融点が、インナーリード31の融点と同等か、それよりも低い関係であるときに形成しやすい。エミッタ35は、側部332のみに形成されており、すなわち溶融層36を回避した電極33の内表面に形成されている。なお、エミッタ35の電極33への塗布は、例えば、電極マウント3を電極33の底部331が下、かつマウント軸が斜めになるように配置した状態で、硫酸セシウムと例えば0.5wt%の水を混合してなるエミッタ溶媒を電極33の側部332の内側に開口側から垂らし、その後乾燥させることにより行っている。この方法であれば、所定の箇所にエミッタ35を形成できるとともに、もし塗布工程でエミッタ35が底部331側に垂れても、溶融層36と接触することを抑制することができる。
【0020】
下記に本実施の形態の冷陰極放電ランプの一実施例を示す。
【0021】
(実施例)
ガラスバルブ1;硼珪酸ガラス製、全長=833.5mm、外径=4.0mm、内径=3.0mm、肉厚=0.5mm、
放電媒体;水銀、ネオン80%とアルゴン20%の混合ガス=30torr、
蛍光体層2;RGB蛍光体で構成、
インナーリード31;コバール製、直径=0.8mm、
アウターリード32;ジュメット製、直径=0.6mm、
電極33;ニッケル製、管軸方向長さ=10mm、底部厚み=0.12mm、側部332の外径=2.7mm、内径=2.5mmのカップ状、
エミッタ35;硫酸セシウムを側部332の先端側の一部領域にのみ形成。塗布量=30μg、
溶融層36;ニッケル−コバール製、電極33の内表面にその一部が露出。
【0022】
この実施例のランプと、塗布量は実施例と同じ30μgだが、エミッタ塗布工程でエミッタ溶液が垂れるように形成することで、側部332および溶融層36の電極33の内面側にエミッタ35を形成した従来例のランプについて、寿命特性を比較した。その結果を、図3に示す。
【0023】
図3の結果から、実施例のランプも従来例のランプも点灯時間が経過するにつれて輝度維持率が低下しており、その低下の割合はどちらもほぼ同程度である。しかし、従来例のランプは約10000時間で不点灯に至ったのに対し、実施例のランプは約15000時間まで点灯を維持できており、実施例のランプは従来例のランプよりも1.5倍程度の長寿命化を実現している。
【0024】
これは、従来例のランプでは、エミッタ35を溶融層36にも塗布したことにより、そのエミッタ溶液に含まれる水などの成分と溶融層36の表面に析出した鉄とが反応して溶融層36の表面に酸化鉄を含む錆が形成されたことが関係している。現に、従来例のランプでは、電極33内側の溶融部36は赤褐色に変色しており、その変色部分の成分分析では多くの鉄や酸素などが検出されている。このように溶融層36に形成された錆は、点灯中にスパッタしてガラスバルブ1の内壁面に付着し、最終的には酸化鉄の酸素と放電空間中の水銀とが反応して酸化水銀が形成される。酸化水銀に変化した水銀は、点灯に寄与することができなくなるため、溶融層36にはエミッタ35を形成しなかった実施例のランプよりも、従来例のランプの方が寿命が短くなったと推測される。
【0025】
なお、溶融層36は、電極材料との合金であるため、特開2001−118497号公報、特開2001−338607号公報のように、インナーリードが電極内表面にそのまま露出したような電極よりも、耐スパッタ性に優れ、寿命的に優れている。しかし、上述のような錆の発生は、溶融層36のような溶接等を経た結晶状態において発生しやすく、インナーリードがそのまま露出した電極では発生しにくい。つまり、本発明は、インナーリード31と電極33を溶接により接合した電極マウント3において、特に有効な発明である。
【0026】
したがって、本実施の形態では、コバールからなるインナーリード31と電極33を溶接して、電極33の内表面に少なくとも一部は露出するように溶融層36を形成したランプにおいて、溶融層36を避けた電極33の内表面にエミッタ35を形成したことにより、エミッタ35と溶融層36の反応による錆の発生を抑制し、長寿命な冷陰極放電ランプを実現することができる。
【0027】
(第2の実施の形態)
図4は、本発明の第2の実施の形態の冷陰極放電ランプについて説明するための図である。これ以降の実施の形態の各部については、第1の実施の形態の各部と同一部分は同一符号で示し、その説明を省略する。
【0028】
第2の実施の形態では、電極33の側部332の内面のほぼ全域にエミッタ35を塗布している。エミッタ35の塗布面積が増すと、陰極降下電圧が低下するため、第1の実施の形態と同様の効果を得つつ、さらに良好なランプ特性を実現することができる。
【0029】
なお、本発明の実施の形態は上記に限られるわけではなく、例えば次のように変更してもよい。
【0030】
インナーリード31は、1パーツに限らず、例えば図5のように、ガラスバルブ1に封着するための封着線311と、電極33と溶接するための介装部材312で構成するなど、複数パーツで構成しても良い。図5の場合、封着線311と電極33の融点の差が大きいために溶接しにくいケースでも、互いを溶接しやすくなるというメリットがある。
【0031】
電極33の形状は、カップ状に限らず、板状等、インナーリード31と溶接し、その溶融部分が放電に曝される形状であればよい。
【0032】
インナーリード31と電極33との溶接は、抵抗溶接に限らず、レーザー溶接等でもよく、要は両金属材料が溶融して溶融層36が形成可能な溶接方法であれば良い。また、溶接箇所は、電極33の底部331に限らず、側部332であってもよい。
【符号の説明】
【0033】
1 ガラスバルブ
11 放電空間
2 蛍光体層
3 電極マウント
31 インナーリード
32 アウターリード
33 電極
34 ビーズ
35 エミッタ
36 溶融層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に放電空間が形成されたガラスバルブと、
インナーリードと、前記インナーリードに接続された電極と、前記電極の内表面に形成されたエミッタとを備え、前記電極が前記放電空間内に配置されるように、前記ガラスバルブに封着された電極マウントとを具備する冷陰極放電ランプであって、
前記インナーリードは少なくとも鉄を含む材料で構成され、前記インナーリードと前記電極とは溶接により接続され、それらの間には溶融層が形成されており、
前記溶融層の少なくとも一部は前記電極の内表面に露出しており、前記エミッタは前記溶融層を避けた前記電極の内表面に形成されていることを特徴とする冷陰極放電ランプ。
【請求項2】
前記エミッタは、電子放出性物質と水とを含むエミッタ溶媒を乾燥させて形成してなることを特徴とする請求項1に記載の冷陰極放電ランプ。
【請求項3】
前記電極の融点は、前記インナーリードの融点と同等か、それよりも低いことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の冷陰極放電ランプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−232060(P2010−232060A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−79483(P2009−79483)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(000111672)ハリソン東芝ライティング株式会社 (995)
【Fターム(参考)】