説明

凹凸部を有する板材並びにこれを用いた車両パネルおよび積層構造体

【課題】剛性向上効果の高い凹凸部のパターンを有する板材、およびこれを用いた積層構造体を提供すること。
【解決手段】凹凸部20を形成することによって、剛性を高めた板材1。第1基準面K1、中間基準面K3、第2基準面K2を基準とし中間基準面K3は、四角形からなる単位領域23を敷き詰めたものと仮定し、第1基準領域213と第2基準領域223の2種類に分類する。中間基準面K3上の各縦列および各横列には、第1基準領域213と第2基準領域223とを交互に配置する。第1基準領域213から第1基準面K1に向かって突出する第1領域21と、第2基準領域22から第2基準面223に向かって突出する第2領域22とからなる。第1領域21は、第1頂面211と、第1側面212とからなり、第2領域22は、第2側面222とからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凹凸部を形成することによって剛性を高めた板材、並びにこれを用いて構成した車両パネルおよび積層構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車においては、軽量化を目的として、鋼板等によって構成されている部品の材料を、アルミニウム合金板等の軽量な材料に置き換えることが検討、実施されている。この場合、軽量化の前提として、要求される剛性を確保することが必要である。
これまで、板材の板厚を厚くすることなく剛性を向上させるために、板材に凹凸模様を設けて形状的に剛性を向上させることが検討されてきた。
例えば、自動車部品の一つに、ヒートインシュレータという板材よりなる部品がある。特許文献1には、その材料として、板厚を厚くすることなく十分な剛性を確保するために、エンボス成形による多数の突部を形成したものが提案されている。また、ヒートインシュレータに限らず、様々な用途においてエンボス成形等の凹凸部を形成することによって剛性を向上させた板材が提案されている(特許文献2〜6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−136720号公報
【特許文献2】特開2000−257441号公報
【特許文献3】特開平9−254955号公報
【特許文献4】特開2000−288643号公報
【特許文献5】特開2002−307117号公報
【特許文献6】特開2002231018号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1のように、多数の凹凸部を形成した板材は、凹凸部の無いものよりも剛性が高くなることは事実である。しかしながら、板厚を厚くすることなく剛性を向上するのに最適な凹凸部形状がいかなるものであるかについては、未だ解明できているとは言えない。そして、剛性向上率をこれまで以上に高くすることは、常に要求されている。
また、自動車に限らず、様々な機械装置等において、板材からなる部分を少しでも軽量化する要求が存在する。軽量化の必要性以外にも、材料費削減の効果も期待されている。また、板材(板形状を有する材料)であれば、材質を問わず剛性向上要求は存在する。
【0005】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであり、凹凸部を設けることによって剛性を向上させた板材であって、剛性向上効果の高い凹凸部のパターンを有する板材、およびこれを用いた積層構造体を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明は、凹凸部を形成することによって剛性を高めた板材であって、
上記凹凸部は、間隔をあけて順次平行に配された仮想の3つの面である第1基準面、中間基準面および第2基準面という3つの基準面を基準とし、
上記中間基準面を仮想の四角形からなる同じ大きさの単位領域を敷き詰めたものと仮定し、上記各単位領域を第1基準領域と第2基準領域の2種類に分類し、
上記中間基準面上に配された上記単位領域がなす各縦列および各横列には、1つの上記単位領域からなる上記第1基準領域と1つの上記単位領域からなる上記第2基準領域とを交互に配置し、
上記中間基準面上において定められた上記第1基準領域から上記第1基準面に向かって突出する第1領域と、上記中間基準面上において定められた上記第2基準領域から上記第2基準面に向かって突出する第2領域とを設け、
上記第1領域は、上記第1基準領域を上記第1基準面上に等倍または縮小して投影した第1頂面と、該第1頂面の輪郭と上記第1基準領域の輪郭とをつなぐ第1側面とからなり、
上記第2領域は、上記第2基準領域を上記第2基準面上に等倍または縮小して投影した第2頂面と、該第2頂面の輪郭と上記第2基準領域の輪郭とをつなぐ第2側面とからなる
よう構成したことを特徴とする凹凸部を有する板材にある(請求項1)。
【0007】
第2の発明は、複数の板材を積層してなる積層構造体であって、上記板材の少なくとも1枚は上記第1の発明の凹凸部を有する板材であることを特徴とする積層構造体にある(請求項10)。
【0008】
第3の発明は、アウターパネルと該アウターパネルの裏面に接合されたインナーパネルとを有する車両パネルであって、上記インナーパネルが上記第1の発明の凹凸部を有する板材よりなることを特徴とする車両パネルにある(請求項11)。
【発明の効果】
【0009】
第1の発明における上記凹凸部を有する板材は、上記特殊な形状の凹凸部を有している。上記凹凸部は、上記のごとく、上記中間基準面上において定められた上記第1基準領域から上記第1基準面に向かって突出する上記第1領域と、上記中間基準面上において定められた上記第2基準領域から上記第2基準面に向かって突出する上記第2領域とを設けてなる。そして上記第1領域は、上記第1頂面と、該第1頂面の輪郭と上記第1基準領域の輪郭とをつなぐ上記第1側面とからなり、上記第2領域は、上記第2頂面と、該第2頂面の輪郭と上記第2基準領域の輪郭とをつなぐ上記第2側面とからなる。
尚、上記第1頂面および上記第2頂面は、それぞれ上記第1基準面および上記第2基準面がなす平面によって構成するか、あるいは単なる平面ではなく、上記第1基準面および上記第2基準面から上記中間基準面とは逆の方向に突出した部位によって構成することができる。突出した部位の形状例としては、ドーム形状、錐形状等があるがこれに限定するものではない。
【0010】
このような構造を有しているので、本発明の上記板材は曲げ剛性および面剛性に優れると共に、エネルギー吸収特性に優れた板材となる。
剛性が向上する理由は、次のように考えられる。即ち、上記第1領域と上記第2領域は、板材の厚さ方向に離れた位置に配置した上記第1頂面および上記第2頂面と、板材の厚さ方向に交差した上記第1側面および上記第2側面とからなり、中立面から離れた位置に多くの材料を配置できる。そのため、多くの材料を強度部材として効果的に使用することができ、剛性向上効果を高めることができる。
【0011】
また、上記第1基準領域と上記第2基準領域とがなす面積を略同一としている。そのため、上記板材の表裏に突出する上記第1領域と上記第2領域の面積も略同一となる。したがって、より効果的に剛性を向上させることができる。また、剛性の向上に伴い、制振性および遮音性の向上効果を得ることができる。
【0012】
このように、本発明によれば、剛性向上の効果が高く、衝撃エネルギー吸収特性に優れた凹凸部のパターンを有する板材を得ることができる。
【0013】
第2の発明においては、上記のごとく剛性に優れた凹凸部を有する板材を積層構造の一部として用いることによって、剛性が高く、衝撃エネルギー吸収特性に優れた積層構造体を容易に得ることができる。また、剛性向上に伴う制振性、遮音性の向上効果と、空気層を包容することにより吸音性の向上効果を得ることができる。
【0014】
第3の発明においては、上記のごとく剛性の高い凹凸部を有する板材をインナーパネルとして用いることによって、非常に剛性が高く、エネルギー吸収特性に優れた車両パネルを容易に得ることができる。また、剛性向上に伴う制振性、遮音性の向上効果と、空気層を包容することにより吸音性の向上効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例1における(a)凹凸部を有する板材の部分平面図、(b)A−A線矢視断面の部分拡大図。
【図2】実施例1における凹凸部を有する板材の部分斜視図。
【図3】実施例1における中間基準面上の第1領域および第2領域の配置を示す説明図。
【図4】実施例2における正方形からなる単位領域と大きさの異なる単位領域とを組み合わせた凹凸部を有する板材の中間基準面を示す説明図。
【図5】実施例2における長方形からなる単位領域を同じ姿勢で上下左右に連続配置した凹凸部を有する板材の中間基準面を示す説明図。
【図6】実施例2における同じ形状の台形からなる単位領域を左右方向には辺に対称な形状を連続配置し、上下方向には隣接する台形の内角の和が180°となるように配置した凹凸部を有する板材の中間基準面を示す説明図。
【図7】実施例3における凹凸部を有する円筒材を示す説明図。
【図8】実施例4における積層構造体の展開説明図。
【図9】実施例5における車両パネルの展開説明図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明において、四角形等の形状の表現は、いずれも幾何学上の狭義の概念に止まらず、一般的に上記の形状と認識できる形状を含むものであり、各辺が若干曲線となったり、角部や面に成形上必要な丸み等が生じるいわゆるフィレットRといわれる曲面を設けたりすることも当然に許容される。
また、本発明において、平行な面の表現は、幾何学上の狭義の概念に止まらず、一般的に平行な面と認識できるものも含むものである。例えば、2つの面においては、一方の面上における任意の点と、その点における法線と他方の面とが交わる点とのなす距離が、どの部分においてもほぼ同じとなる関係にある当該2つの面は平行であるとする。
【0017】
また、本発明において、上記第1頂面および上記第2頂面は、それぞれ上記第1基準面および上記第2基準面がなす平面によって構成するか、あるいは単なる平面ではなく、上記第1基準面および上記第2基準面から上記中間基準面とは逆の方向に突出した部位によって構成することができる。突出した部位の形状例としては、ドーム形状、錐形状等があるがこれに限定するものではない。
【0018】
また、請求項1に記載の凹凸部を有する板材において、上記単位領域は、正方形からなることが好ましい(請求項2)。
この場合には、剛性の異方性が少ない優れた凹凸部を有する板材を得ることができる。
【0019】
また、上記凹凸部を有する板材において、上記単位領域は、複数の大きさからなるものとすることができる(請求項3)。
この場合には、用途に合わせて様々な大きさの凹凸部形状を適用することができ、デザイン性を向上させることができる。
【0020】
また、上記凹凸部を有する板材において、上記中間基準面に対する上記第1側面の傾斜角度θ1と、上記中間基準面に対する上記第2側面の傾斜角度θ2とは、10°〜60°の範囲にあることが好ましい(請求項4)。
上記第1側面の傾斜角度θ1と上記中間基準面に対する上記第2側面の傾斜角度θ2とが、10°〜60°の範囲にある場合、成形性を確保しつつ、優れた剛性向上率を有する凹凸部形状を得ることができる。
【0021】
上記第1側面の傾斜角度θ1および上記第2側面の傾斜角度θ2が10°未満の場合には、上記第1領域と上記第2領域の突出高さを大きくすることが難しくなり、剛性向上率が低下する。また、上記第1側面の傾斜角度θ1および上記第2側面の傾斜角度θ2が60°を超えることは凹凸部形成上困難であり、必要のない領域である。
また、上記第1側面および上記第2側面は複数の面により構成されるが、それらの面が全て同じ傾斜角度である必要はなく、部位によって傾斜角度を変えてもよい。但し、いずれの面においても、上記好ましい傾斜角度の範囲内とすることが好ましい。
【0022】
また、上記凹凸部を有する板材において、順次配された上記第1基準面、上記中間基準面および上記第2基準面の少なくとも一部をそれぞれ平行な曲面とすることができる(請求項5)。
この場合には、高い剛性を有する優れた上記凹凸部を有する板材を様々な形状に変形させることができ、用途を拡大することができる。
【0023】
また、上記凹凸部を有する板材において、上記板材は金属板をプレス成形することにより上記凹凸部を形成したものであることが好ましい(請求項6)。
金属板は、エンボス成形等のプレス成形あるいはロール成形等の塑性加工を施すことによって、容易に凹凸部を形成することができる。そのため、金属板の場合には、上記の優れた凹凸部形状を適用することが比較的容易にできる。金属板の材質としては、アルミニウム合金、鋼、銅合金などの塑性加工が可能な種々のものを適用できる。
【0024】
尚、成形方法においては、ロール成形等の塑性加工の他、鋳造、切削等を採用することも可能である。
また、上記板材は、上記凹凸部を有する限り、金属以外の材料においても有効であり、例えば、樹脂板等とすることもできる。樹脂材料等であれば射出成形あるいはホットプレス等によって凹凸部を形成することができる。樹脂材料においては、金属材料の場合よりも成形状の制約を受けにくく、設計の自由度もより広くなる。
【0025】
また、上記凹凸部を有する板材において、上記金属板の成形前の板厚tが0.05mm〜6.0mmであることが好ましい(請求項7)。
金属板の板厚が0.05mm未満の場合および6.0mmを超える場合には、用途的に剛性を向上させる必要性が少ない。
【0026】
また、上記凹凸部を有する板材において、上記単位領域の対角線の長さDと、上記金属板の板厚tとの比D/tは10〜2000であることが好ましい(請求項8)。
上記比D/tが10未満の場合には成形が困難となるおそれがあり、一方、上記比D/tが2000を超える場合には、十分な凹凸部形状を形成できなくなり、剛性が低下するという問題が生じるおそれがある。
【0027】
また、上記凹凸部を有する板材において、上記第1領域の突出高さH1(mm)と上記板厚t(mm)との比H1/tと、上記第1側面と上記中間基準面とがなす最も大きい傾斜角θ1とは、1≦(H1/t)≦−4θ1+242の関係にあり、上記第2領域の突出高さH2と上記板厚tとの比H2/tと、上記第2側面と上記中間基準面とがなす最も大きい傾斜角θ2とは、1≦(H2/t)≦−4θ2+242の関係にあることが好ましい(請求項9)。
【0028】
上記比H1/tが1未満の場合には、第1領域を形成することによる剛性向上項効果が十分に得られないという問題が生じる恐れがある。一方、上記比H1/tが−4θ1+242を超える場合には成形が困難になるという問題が生じる恐れがある。また同様に、上記比H2/tが1未満の場合には、第1領域を形成することによる剛性向上項効果が十分に得られないという問題が生じる恐れがある。一方、上記比H2/tが−4θ2+242を超える場合には成形が困難になるという問題が生じる恐れがある。
【0029】
また、第2の発明の積層構造体においては、上記凹凸部を有する板材を1枚のコア材として、その両面に配設された1枚ずつの平坦な面板よりなる三層構造の積層体とすることができる。また、このような基本構造を繰り返した構造、つまり、複数枚の上記凹凸部を有する板材を1枚ごとに平坦な面板を介して積層してなる多層構造を有することもできる。
また、複数枚の凹凸部を有する板材を直接積層してコア材とし、その片側又は両側の表面に平坦な面板を接合してなる構造を取ることもできる。
また、複数枚の凹凸部を有する板材を直接積層しただけの状態の積層構造体とすることもできる。
上記板材の積層枚数としては、用途および要求特性に応じて変更することができる。
【実施例】
【0030】
(実施例1)
第1の発明の実施例にかかる凹凸部20を有する板材1につき、図1〜図3を用いて説明する。
図1には、凹凸部20について一部の範囲の平面図を示す。同図には中間基準面K3における第1領域21と第2領域22の輪郭であって、外形線としては現れない部分を破線により示した(後述の図2、図8も同様である)。
また、図3は、板材1の凹凸部20の形状を中間基準面K3における第1基準領域213と第2基準領域223の配置によって表したものである(後述の図4〜図6も同様である)。
【0031】
本例の凹凸部20を有する板材1は、図1〜図3に示すごとく、凹凸部20を形成することによって、剛性を高めた板材である。
凹凸部20は、次のように構成される。
凹凸部20は、図1(b)に示すごとく、間隔をあけて順次平行に配された仮想の3つの面である第1基準面K1、中間基準面K3および第2基準面K2という3つの基準面を基準とする。中間基準面K3は、仮想の四角形からなる同じ大きさの単位領域23を敷き詰めたものと仮定し、各単位領域23を第1基準領域213と第2基準領域223の2種類に分類する。
【0032】
中間基準面K3上に配された単位領域23がなす各縦列および各横列には、1つの単位領域23からなる第1基準領域213と1つの単位領域23からなる第2基準領域223とを交互に配置する。そして、中間基準面K3において定められた第1基準領域213から第1基準面K1に向かって突出する第1領域21と、中間基準面K3上において定められた第2基準領域223から第2基準面K2に向かって突出する第2領域22とを形成している。
【0033】
第1領域21は、第1基準領域213を第1基準面K1上に等倍または縮小して投影した第1頂面211と、第1頂面211の輪郭と第1基準領域213の輪郭とをつなぐ第1側面212とからなり、第2領域22は、同様に、第2基準領域223を第2基準面K2上に等倍または縮小して投影した第2頂面221と、第2頂面221の輪郭と第2基準領域223の輪郭とをつなぐ第2側面222とからなるよう構成されている。
【0034】
本例における第1基準面K1、中間基準面K3および第2基準面K2の3つの基準面は、図1(b)に示すように、それぞれ平行な平面である。また、第1頂面211は、その板厚中心が第1基準面K1と重なるように構成され、第2頂面221は、その板厚中心が第2基準面K2と重なるように構成されている。そして第1基準面K1と中間基準面K3とがなす距離を突出高さH1とし、第2基準面K2と中間基準面K3とがなす距離を突出高さH2とする。
また、本例においては、第1領域21と第2領域22とは形状および寸法が同じであり、突出方向のみが異なっている。第1領域21の突出高さH1と第2領域22の突出高さH2は、いずれも1.0mmとした。
【0035】
また、本例の凹凸部20を有する板材1は、成形前の元板が板厚t=0.3mmの1000系のアルミニウム板からなり、一対の金型を用いたプレス成形により形成される。尚、この成形方法は、表面に所望の凹凸形状を付けた一対の成形ロールによって成形するロール成形等の他の塑性加工方法を採用することも可能である。
【0036】
また、図1(b)に示すように、中間基準面K3に対する第1側面212の傾斜角度θ1および中間基準面K3に対する第2側面222の傾斜角度θ2は共に45°であり、第1側面212と第2側面222とは、折れ曲がり部を有することなく、一平面により連続して形成される。
また、図3に示すように、本例においては、中間基準面K3をなす仮想の単位領域23は正方形からなり、その対角線の長さD=14.14mmである。
また、単位形状23をなす正方形の対角線の長さD(mm)と、板厚t(mm)との比D/tは47.13である。
【0037】
また、第1領域21の突出高さH1(mm)と上記板厚t(mm)との比H1/tは、3.33である。また、第1側面212と中間基準面K3とがなす傾斜角θ1=45°であり、−4θ1+242=62である。したがって、1≦H1/t≦62の関係を満たしている。同様に、第2領域22の突出高さH2(mm)と上記板厚t(mm)との比H2/tは、3.33である。また、第2側面222と中間基準面K3とがなす傾斜角θ2=45°であり、−4θ2+242=62である。したがって、1≦H2/t≦62の関係を満たしている。
【0038】
このような構造を有しているので、本例の凹凸部20を有する板材1は曲げ剛性に優れると共に、エネルギー吸収特性に優れた板材となる。
剛性が向上する理由は、次のように考えられる。即ち、第1領域21と第2領域22は、板材1の厚さ方向に離れた位置に配置した第1頂面211および第2頂面221と、板材1の厚さ方向に交差した第1側面212および第2側面222とからなり、中立面から離れた位置に多くの材料を配置できる。そのため、多くの材料を強度部材として効果的に使用することができ、剛性向上効果を高めることができる。
また、剛性の向上に伴い、制振性および遮音性の向上効果を得ることができる。
【0039】
実施例1の板材1の剛性向上効果を定量的に判断するために、FEM解析を用いた片持ち梁による曲げ剛性評価を行った。
【0040】
(FEM解析)
<片持ち梁による曲げ剛性評価>
片持ち梁のFEM解析では、図1に示すように、凹凸部20のみからなる試験片の一端Z1を固定し、他端Z2を自由端とし、自由端の中央部に1Nの荷重をかけた際のたわみ量を求める。
試験片の形状は、本例に示す凹凸部20のみからなる100mm×100mmの矩形形状を有している。また、表面積の増加割合から、板成形後の板厚t=0.261mmとした。
評価は、凹凸部20を形成していない平板状の元板について、同様のFEM解析を行い得られたたわみ量と比較することで行った。
【0041】
試験片は、単位領域23の一辺に対して平行となる方向に、その辺を設けてある。
実施例1の凹凸部20を有する板材1は、平板状の元板と比べて、曲げ剛性が2.65倍に向上することが分かった。
【0042】
(実施例2)
本例は、図4〜図6に示すように、実施例1の凹凸部20を有する板材1の変形例である。本例においては、図4〜図6に示す第1基準領域213および第2基準領域223から、第1基準面K1および第2基準面K2に対して突出する凹凸部20を形成する。
図4に示す中間基準面からなる板材1は、正方形からなる単位領域23と、単位領域23の2倍の大きさからなる単位領域233とを組み合わせて配置した例である。
図5に示す中間基準面からなる板材1は、長方形からなる単位領域23を同じ姿勢で上下左右に連続して配置した例である。
図6に示す板材1は、同じ形状の台形からなる単位領域を左右方向には辺に対称な形状を連続配置し、上下方向には隣接する台形の内角の和が180°となるように配置した例である。
その他の構成は、実施例1と同様である。
【0043】
本例においては、用途に合わせて様々な大きさや四角形形状を有する凹凸部形状を適用することができ、デザイン性を向上させることができる。
その他、実施例1と同様の作用効果を有する。
【0044】
(実施例3)
本例は、図7に示すように、凹凸部20を円筒材11に設けた例である。本例においては、第1基準面K1、中間基準面K3、第2基準面K2は順次平行に配された円筒状の曲面からなる。凹凸部20の単位形状は、実施例1に示す単位形状23を、中間基準面K3がなす曲面に沿わせ、中間基準面K3に投影したものである。その他の構成は、実施例1と同様である。
本例に示すように、高い剛性を有する優れた上記凹凸部20を有する板材1を様々な形状に変形させることができ、用途を拡大することができる。その他、実施例1と同様の作用効果を有する。
【0045】
(実施例4)
本例は、図8に示すように、実施例1の凹凸部20を有する板材1をコア材として用いて積層構造体5を構成した例である。
即ち、積層構造体5は、凹凸部20を有する1枚の板材1よりなるコア材の両側の表面に面板42、43を接合してなる。
面板42、43は、材質3000系、板厚1.0mmのアルミニウム合金板よりなる。
【0046】
本例の積層構造体5は、上述したような優れた剛性を有する凹凸部20を有する板材1をコア材として用い、その第1領域21の第1頂面211と第2領域22の第2頂面221に対して面板42、43を接着、ろう付け等により接合することによって、凹凸部20を有する板材1単体の場合よりも格段に剛性が高い積層構造体5が得られる。また、剛性向上に伴う制振性、遮音性の向上効果と、空気層を包容することにより吸音性の向上効果を得ることができる。
しかも、板材1も面板42、43もアルミニウム合金板よりなるため、軽量化することができる。
なお、上記面板としては、アルミニウム合金以外の金属の板、たとえば、鋼板やチタン板等や、樹脂板等を適用することも可能である。
【0047】
(実施例5)
本例は、図9に示すごとく、実施例1および実施例2に記載の板材1をインナーパネルとして用い、第1領域21の第1頂面211をアウターパネル61の裏面側に向けて配置して構成する車両パネル6の例である。なお、インナーパネルは、その外周部においてアウターパネル61とヘム加工等により接合されている。
【0048】
本例の車両パネル6は、そのインナーパネルを構成する凹凸部20を有する板材1が、上記のごとく剛性向上効果に優れているので、歩行者が衝突した際の一次衝突のエネルギー及び二次衝突のエネルギーを吸収する特性に優れたものとなる。また、剛性向上に伴う制振性、遮音性の向上効果と、空気層を包容することにより吸音性の向上効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0049】
1 凹凸部を有する板材
20 凹凸部
21 第1領域
211 第1頂面
212 第1側面
213 第1基準領域
22 第2領域
221 第2頂面
222 第2側面
223 第2基準領域
23 単位領域
5 積層構造体
6 車両パネル
K1 第1基準面
K2 第2基準面
K3 中間基準面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
凹凸部を形成することによって剛性を高めた板材であって、
上記凹凸部は、間隔をあけて順次平行に配された仮想の3つの面である第1基準面、中間基準面および第2基準面という3つの基準面を基準とし、
上記中間基準面を仮想の四角形からなる同じ大きさの単位領域を敷き詰めたものと仮定し、上記各単位領域を第1基準領域と第2基準領域の2種類に分類し、
上記中間基準面上に配された上記単位領域がなす各縦列および各横列には、1つの上記単位領域からなる上記第1基準領域と1つの上記単位領域からなる上記第2基準領域とを交互に配置し、
上記中間基準面上において定められた上記第1基準領域から上記第1基準面に向かって突出する第1領域と、上記中間基準面上において定められた上記第2基準領域から上記第2基準面に向かって突出する第2領域とを設け、
上記第1領域は、上記第1基準領域を上記第1基準面上に等倍または縮小して投影した第1頂面と、該第1頂面の輪郭と上記第1基準領域の輪郭とをつなぐ第1側面とからなり、
上記第2領域は、上記第2基準領域を上記第2基準面上に等倍または縮小して投影した第2頂面と、該第2頂面の輪郭と上記第2基準領域の輪郭とをつなぐ第2側面とからなる
よう構成したことを特徴とする凹凸部を有する板材。
【請求項2】
請求項1に記載の凹凸部を有する板材において、上記単位領域は、正方形からなることを特徴とする凹凸部を有する板材。
【請求項3】
請求項1または2に記載の凹凸部を有する板材において、上記単位領域は、複数の大きさのものからなることを特徴とする凹凸部を有する板材。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の凹凸部を有する板材において、上記中間基準面に対する上記第1側面の傾斜角度θ1と上記中間基準面に対する上記第2側面の傾斜角度θ2とは、10°〜60°の範囲にあることを特徴とする凹凸部を有する板材。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の凹凸部を有する板材において、順次配された上記第1基準面、上記中間基準面および上記第2基準面の少なくとも一部がそれぞれ平行な曲面からなることを特徴とする凹凸部を有する板材。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の凹凸部を有する板材において、上記板材は金属板をプレス成形することにより上記凹凸部を形成したものであることを特徴とする凹凸部を有する板材。
【請求項7】
請求項6に記載の凹凸部を有する板材において、上記金属板の成形前の板厚tが0.05〜6.0mmであることを特徴とする凹凸部を有する板材。
【請求項8】
請求項6または7に記載の凹凸部を有する板材において、上記単位形状をなす四角形の対角線の長さD(mm)と、上記板厚t(mm)との比D/tは10〜2000であることを特徴とする凹凸部を有する板材。
【請求項9】
請求項6〜8に記載の凹凸部を有する板材において、上記第1領域の突出高さH1(mm)と上記板厚t(mm)との比H1/tと、上記第1側面と上記中間基準面とがなす最も大きい傾斜角θ1とは、1≦(H1/t)≦−4θ1+242の関係にあり、上記第2領域の突出高さH2と上記板厚tとの比H2/tと、上記第2側面と上記中間基準面とがなす最も大きい傾斜角θ2とは、1≦(H2/t)≦−4θ2+242の関係にあることを特徴とする凹凸部を有する板材。
【請求項10】
複数の板材を積層してなる積層構造体であって、上記板材の少なくとも1枚は請求項1〜9のいずれか1項に記載の凹凸部を有する板材であることを特徴とする積層構造体。
【請求項11】
アウターパネルと該アウターパネルの裏面に接合されたインナーパネルとを有する両パネルであって、上記インナーパネルが請求項1〜9のいずれか1項に記載の凹凸部を有する板材よりなることを特徴とする車両パネル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−30261(P2012−30261A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−173275(P2010−173275)
【出願日】平成22年8月2日(2010.8.2)
【出願人】(000002277)住友軽金属工業株式会社 (552)