出荷鋼板の材質情報提供方法及び出荷鋼板の材質情報利用方法
【課題】出荷鋼板について出荷鋼板の全長にわたる幅方向材質データを時間と労力をかけずに得て、その大量の材質情報を計算機およびネットワーク経由でユーザーに提供し、ユーザーにて利用する方法を提供する。
【解決手段】連続焼鈍ラインまたは亜鉛めっき設備の出側に鋼板幅方向に複数に分割されたバックアップロールを装備する調質圧延機を配置し、この調質圧延機における圧延実績に基づいて調質圧延鋼板の幅方向材質予測を行い、得られた材質予測結果を上位計算機およびネットワーク経由で鋼板の出荷先のユーザーに提供する。ユーザーは得られた材質情報により、材質不良部分を除去したり、鋼板のプレス条件を変更することができ、ユーザーから鋼板製造元に情報をフィードバックすることもできる。
【解決手段】連続焼鈍ラインまたは亜鉛めっき設備の出側に鋼板幅方向に複数に分割されたバックアップロールを装備する調質圧延機を配置し、この調質圧延機における圧延実績に基づいて調質圧延鋼板の幅方向材質予測を行い、得られた材質予測結果を上位計算機およびネットワーク経由で鋼板の出荷先のユーザーに提供する。ユーザーは得られた材質情報により、材質不良部分を除去したり、鋼板のプレス条件を変更することができ、ユーザーから鋼板製造元に情報をフィードバックすることもできる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、出荷鋼板の材質情報提供方法およびそれの利用方法に係り、より詳細には鋼板の調質圧延機の圧延実績から鋼板の幅方向材質を予測し、その結果を計算機およびネットワーク経由でユーザーに提供する方法およびその情報の利用方法に関するものである。
【0002】
鋼板メーカーでは、従来から出荷された鋼板の一部分の材質試験結果を材質情報としてユーザーに提供している。しかし鋼板の幅方向については、鋼板のセンター部1点またはセンターと両サイドの3点程度で、それがサンプルの数だけ材質試験されるのみである。
【0003】
一方鋼板の疵などの品質情報は、例えば特許文献1のように疵の検査結果を画像も含めて鋼板の長手方向の情報として計算機経由で電子情報でユーザーに提供するシステムの開示がある。
【特許文献1】特開2003−215052公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら鋼板の材質情報は、通常鋼板サンプルをとり、オフラインの材質試験機で材質試験を実施して得るため、出荷鋼板の一部であるサンプル採取部分の材質結果のみしか得られない。出荷鋼板の材質情報を増やそうとすると、材質試験用のサンプルを多数採取しなければならず、このため鋼板が細切れに分割され、ユーザーから指定されている所定の出荷重量を満たすことができなくなる。また仮に多数鋼板サンプルを採取しても材質試験に多大な時間と労力がかかり現実的でない。さらに幅方向の材質試験値となると、幅方向に必要とされる分だけ倍数的に測定点と作業付加が増える。
【0005】
一方、鋼板の表面疵などの品質情報は、鋼板製造ラインに設置された表面疵検出装置によって検出され、鋼板サンプル採取位置以外の部分または全長でも、計算機によって集約されネットワーク経由でユーザーに提供できるものの、降伏強度、引張強度などの材質値については鋼板サンプルを採取して材質試験する以外に材質値を測定する手段がなく、実現不可能であった。
【0006】
また一部に、非破壊で磁束密度測定によるr値検出装置が、鋼板製造ラインに設置されたこともあったが、軟質鋼板や高強度鋼板などの品種毎に調整が必要で、かつ特定材質値しか測定できず汎用性がなかった。
【0007】
本発明は前記のような課題を解決し、出荷鋼板について材質試験用サンプル採取以上、あるいは出荷鋼板全長にわたる材質データを時間と労力をかけずに得て、その大量の材質情報を計算機およびネットワーク経由でユーザーに提供し、ユーザーにて利用する方法を提供するものである。また本発明の他の目的は、ユーザーから鋼板材質に関する情報を鋼板製造元にフィードバックし、鋼板製造ラインの生産性を高める出荷鋼板の材質情報利用方法を提供することである。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、連続焼鈍ラインまたは亜鉛めっき設備の出側に鋼板幅方向に複数に分割されたバックアップロールを装備する調質圧延機を配置し、この調質圧延機における圧延実績に基づいて鋼板の幅方向の材質予測が精度よく実施できることに着目し、その予測データを有効活用すればユーザーに材質データを今以上に大量に提供できることを見出して完成されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の知見に基づいてなされた請求項1の調質圧延鋼板の幅方向材質予測方法を利用した出荷鋼板の材質情報提供方法は、連続焼鈍ラインまたは亜鉛めっき設備の出側に鋼板幅方向に複数に分割されたバックアップロールを装備する調質圧延機を配置し、この調質圧延機における圧延実績に基づいて調質圧延鋼板の幅方向の材質予測を行い、得られた材質予測結果を上位計算機およびネットワーク経由で鋼板の出荷先のユーザーに提供することを特徴とするものである。
【0010】
また請求項2の発明は、請求項1の発明において、連続焼鈍ラインまたは亜鉛めっき設備の出側に鋼板幅方向に複数に分割されたバックアップロールを装備する調質圧延機を配置し、この調質圧延機における伸び率、張力、圧延荷重の値と、鋼板の板厚、板巾を測定または上位計算機より入手し、これらの値に基づいて調質圧延鋼板の幅方向の材質予測を行い、得られた材質予測結果を計算機およびネットワーク経由で鋼板の出荷先のユーザーに提供することを特徴とするものである。
【0011】
また請求項3の発明は、前記伸び率、張力、圧延荷重の値と、鋼板の板厚、板巾を鋼板の全長にわたり連続的に測定または上位計算機より入手し、これらの値に基づいて調質圧延鋼板の全長の幅方向の材質予測を行い、得られた幅方向材質予測結果を計算機およびネットワーク経由で鋼板の出荷先のユーザーに提供することを特徴とするものである。
【0012】
なお請求項4のように、調質圧延鋼板の幅方向の材質予測を、調質圧延機における伸び率、張力、圧延荷重の値と、鋼板の板厚、板巾から鋼板の降伏点を算出する予測式を用いて行うことが好ましい。
【0013】
請求項5の出荷鋼板の材質情報利用方法の発明は、請求項1乃至4のいずれか1項の材質情報提供方法によって得られた材質情報により、ユーザーが材質不良部分を除去することを特徴とするものである。
【0014】
また請求項6の出荷鋼板の材質情報利用方法の発明は、請求項1乃至4のいずれか1項の材質情報提供方法により得られた幅方向材質情報により、ユーザーが鋼板のプレス条件を変更することを特徴とするものである。
【0015】
また請求項7の出荷鋼板の材質情報利用方法の発明は、請求項5の発明において、ユーザーにて材質不良として除去された材質条件および鋼板の部位の情報を計算機およびネットワーク経由で鋼板製造元にフィードバックすることを特徴とするものである。
【0016】
また請求項8の発明は、請求項6の発明において、ユーザーにて鋼板のプレス条件を変更された材質条件および鋼板の部位の情報を計算機およびネットワーク経由で鋼板製造元にフィードバックすることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、鋼板製造元は出荷鋼板の大量の幅方向材質データまたは全長にわたる幅方向材質データをユーザーに提供することができ、ユーザーはこの材質情報を活用して鋼板の材質不良部分を除去したり、鋼板のプレス条件を変更したりして、生産ラインにおける不良品の発生を防止することができる。さらにはユーザーにて材質不良として除去された材質条件および鋼板の部位の情報を鋼板製造元にフィードバックできるようになる。このように鋼板製造元とユーザーとの間で鋼板の材質情報を共有することにより双方の生産性を高めることが可能となり、その意義は極めて大きい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の大きな特徴の一つは、連続焼鈍ラインまたは亜鉛めっき設備の出側に鋼板幅方向に複数に分割されたバックアップロールを装備する調質圧延機を配置し、その調質圧延機における圧延実績に基づいて調質圧延鋼板の幅方向の材質予測を行い、得られた幅方向材質予測結果を出荷鋼板の材質値として上位計算機およびネットワーク経由で鋼板の出荷先のユーザーに提供することである。もちろん出荷鋼板の帳票には、従来どおり出荷鋼板の一部から採取された鋼板サンプルを用いて材質試験した結果も添付される。
【0019】
しかしながら本発明では、予測値ながら精度よい幅方向材質値を、採取された鋼板サンプル以外の部分においても出荷先のユーザーに提供で切る点が大きな特徴である。幅方向材質予測は連続焼鈍ラインまたは亜鉛めっき設備の出側に配置された調質圧延機における圧延実績に基づいて調質圧延鋼板の材質予測を行う。
【0020】
まず以下にその材質予測方法について、連続焼鈍ライン出側または亜鉛めっき設備の出側に設置された鋼板幅方向に複数に分割されたバックアップロールを装備する調質圧延機の例でもって図面を参照しつつ本発明の好ましい実施の形態を示す。尚、亜鉛めっき設備の場合は焼鈍炉と調質圧延機の間に亜鉛めっき設備があるものと考えればよく、連続焼鈍炉ラインの場合を例にとって説明する。
【0021】
図1は鋼板の連続焼鈍ラインを模式的に示した図であり、1は連続焼鈍炉、2はその出側に配置された調質圧延機である。連続焼鈍炉1は昇温炉3、一次均熱炉4、二次均熱炉5、冷却炉6に大別されている。払出しリール7から払い出された鋼板はこれらの昇温炉3、一次均熱炉4、二次均熱炉5を順次走行する間に鋼板の材質に適した温度に加熱焼鈍されたうえ、二次均熱炉5の出口温度から冷却炉6で焼入れされ、調質圧延機2で調質圧延されたうえで巻き取りリール8に巻き取られる。なお、冷却炉6と調質圧延機2との間に過時効炉や冷却炉、表面処理鋼板を製造するための溶融メッキ設備、合金化設備、電気メッキ設備などの表面処理設備を付設してもよい。以上の構成は従来と変わるところはなく、各部分の板温は前記したように高精度の制御が行われている。
【0022】
調質圧延機2では軽圧下による調質圧延が行われるが、本発明では調質圧延機2として図2に示すように鋼板幅方向に複数に分割されたバックアップロール9を装備する調質圧延機9を装備する調質圧延機2を用いる。分割されたバックアップロール9には圧延荷重計10が設けられており、ワークロール11が鋼板を調質圧延する際の圧延荷重を、鋼板幅方向の複数点で測定する。
【0023】
図2ではバックアップロール9の分割個数は5であるが、分割数をより多くすることもできる。またテンションメーターロール12によってトータル張力値を測定することができ、調質圧延機2の出側に設置された板厚計13と板幅計14によって調質圧延鋼板の板厚と板幅を測定できる。なお圧延張力はトータル張力値を、板厚、板幅で除した単位断面積あたりの値を使用する。
【0024】
本発明では鋼板の幅方向材質予測を正確に行うべく、調質圧延機2の張力、伸び率のみならず、調質圧延機2の鋼板幅方向の圧延荷重も取り入れて材質予測をする。図3及び図4にハイテン鋼板の場合での圧延荷重とハイテン鋼板との降伏点との相関を示す。すなわち実績データによれば、図3及び図4に示されるように、伸び率が同じであれば圧延荷重、張力が増加すると鋼板の降伏点(YP)が増加し、また図5及び図6に示すように抗張力(TS)も増加している。また圧延荷重もしくは張力が一定であっても、伸び率が低い方が降伏点(YP)及び抗張力(TS)が大きくなる。このことから、圧延荷重、張力、伸び率、調質圧延鋼板の材質(YP、TS)との間には強い相関があることが分る。
【0025】
そこで過去の操業実績に基づいて、調質圧延鋼板の材質予測式を作成した。調質圧延の理論式として知られるROBERTSの式には、材質(YP、TS)、伸び率、張力、摩擦係数、厚み、圧延速度、ロール径などの多くの影響因子が含まれており、これらの因子を精度よく用いることで、高精度な材質予測が可能になることから、本発明の一例として、下記の材質予測式を作成した。影響因子としては、調質圧延機の伸び率(%)、調質圧延機の張力(MPa)、鋼板の板厚(mm)、調質圧延機の圧延荷重と鋼板の板巾から算出される線荷重(ton/m)を用いている。
YP=a*伸び率(%)+b*(平均張力MPa)+c*(鋼板の板厚mm*線荷重ton/m)+d
【0026】
この式中、YPは降伏点であって単位はMPa、SPM%は伸び率、線荷重は圧延荷重を鋼板の幅で割った値である。この式に含まれる係数は重回帰分析により定めるが、前記式のa、b、c、dの具体的な数値や式の形態は各ラインの特性や通板される鋼板の強度によって定められるものであり、上記に限定されるものではないことはいうまでもない。
【0027】
ちなみに軟鋼板でよく実施される圧延荷重を一定とした調質圧延を、例えば780MPa以上の高張力鋼板に実施した場合、鋼板の高張力ゆえ設備仕様の限界に近い過度な圧延荷重と張力バランスでの調質圧延となり、圧延そのものが極めて不安定になり、最悪、板破断などのトラブルを発生させることもあり得る。
【0028】
なお前記張力について、実操業では調質圧延機の入側と出側の張力があるが、両者は概ね比例関係にあり、材質予測に用いる値は入側もしくは出側を用いるが、両者を平均化して用いるのが好ましい。鋼板の板厚、板巾についても、調質圧延機の入側での値または出側での値のいずれを測定もしくは上位計算機より入手して用いても構わないが、焼鈍炉内での鋼板の伸びの影響から調質圧延機出側での値を用いることが好ましい。
【0029】
調質圧延鋼板、特に780MPa以上のTSを持つハイテン鋼板の材質予測が調質圧延機の圧延荷重を影響因子として採用した場合に後述のようにTSを極めて正確に予測できる理由は以下の理由が考えられる。
【0030】
一般的な軟質鋼板では鋼鈑が軟質ゆえと、その軟質な鋼板に対して調質圧延機の圧延荷重、張力の設備能力に余裕があることから、圧延荷重、張力のいずれか一方(例えば圧延荷重)が変動した場合、調質圧延機の圧延制御により伸び率一定とすべく他の一方(例えば張力)が制御できてしまい、張力のみを影響因子としても大きな差支えがない。
【0031】
ところが780MPa以上のTSを持つハイテン鋼板では、その高強度の鋼板に対し、調質圧延機の圧延荷重、張力の設備能力に余裕がなく、それぞれの設備能力限界で操業することが多い。圧延荷重、張力のいずれか一方が変動した場合、他の一方で吸収できない場合もあり、圧延荷重、張力のいずれか一方だけでは予測精度を向上させることができず、張力、圧延荷重(前述式の線荷重を算出)、伸び率から複合的に予測しなければならないものと思われる。
【0032】
さらに材質を予測するための影響因子として、調質圧延機ワークロール径、調質圧延機ワークロールと鋼板との間の摩擦係数、調質圧延機圧延速度のうち1種以上を考慮して精度向上を図ることも好ましい。調質圧延機ワークロール径、調質圧延機ワークロールと鋼板との間の摩擦係数は鋼板圧延中に決定することが困難な場合、予め測定または決めておいた値を用いても構わない。調質圧延機圧延速度は調質圧延機の入側での値または出側での値の何れを用いても構わない。
【0033】
この式により予測されたYPは図7に示すとおり実績YPとよく一致する(重相関係数0.925)ことが確認された。また調質圧延鋼板のYPとTSとの間には図8に示すとおり強い相関があるので、この図8に示されたTS=e*YP+fの関係を利用してTSを予測し、実績TSとの関係を確認すると図9のようになり、上記の材質予測式によって調質圧延鋼板の材質を正確に予測できることが確認された。
【0034】
上記したように、調質圧延機2における伸び率、張力、圧延荷重と、鋼板の板厚、板幅とに基づいて調質圧延鋼板の材質予測を行うことができるが、本発明では図2に示したように分割されたバックアップロール9を装備する調質圧延機2を用いるため、鋼板幅方向の分割されたバックアップロール毎の圧延荷重の値を測定することができる。これにより前述の式を分割されたバックアップロール毎に計算し、鋼板幅方向の材質予測が可能となる。
【0035】
尚、前述の式のa,b,c,d,e,fの具体的な数値や式の形態は分割されたバックアップロール毎に同じでも異なっても構わない。また当業者には自明であるが、TSとYPとの関係も鋼種によって変化するため、鋼種に応じた式、例えば高次の式や各種関数を用いた式を用いても構わず、前記式の形態に限定されない。また前記の式のa,b,c,d,e,fは各ラインの特性や鋼種によって定められるもので特に限定されない。
【0036】
また図2では鋼板幅方向の圧延荷重の値を測定したが、図10に示すようにテンションメーターロール12の胴長方向に圧電素子15を多数配置し接触圧の大小により形状を検出し、その形状情報から張力の幅方向分布を推測し、分割されたバックアップロール9の各位置毎に張力値及び単位断面積当りの張力を求めれば、後半幅方向の材質予測をさらに精度よく行うことが可能となる。
【0037】
本発明の一例では、調質圧延機2において連続的に検出された鋼板幅方向の圧延荷重、張力、伸び率と、調質圧延機2の後方に位置する板厚計13、板巾計14において連続的に検出された板厚、板巾は図1に示すプロセスコンピュータ16に入力され、プロセスコンピュータ16に入力されている調質圧延鋼板のYP算出式、TS算出式に代入されて計算され、リアルタイムで現在圧延中の鋼板の材質を把握することができる。なお、板厚、板巾の値はプロセスコンピュータ16の上位計算機であるビジコン17より入手しても構わない。
【0038】
このため演算された調質圧延鋼板のYPやTSに変動が生じた場合には直ちに異常発生の警報を出すことができ、従来のように大量の規格外れ品を発生させることがない。また異常発生の原因が、鋼板成分変動などの前工程起因のバラツキである場合にも、圧延荷重、張力、伸び率の変動として現れるので、直ちに異常発生を把握することができる。このように調質圧延機2を材質変動のモニターとして利用するのは、従来に例を見ない新規な技術である。
【0039】
さらに材質予測精度を向上させるために、前記調質圧延機ワークロール径、調質圧延機ワークロールと鋼板との間の摩擦係数、調質圧延機圧延速度のうち1種以上を追加した調質圧延鋼板のYP算出式、TS算出式を用いても構わない。前記調質圧延機ワークロール径、調質圧延機ワークロールと鋼板との間の摩擦係数の値はオペレータによるプロセスコンピュータ9への直接入力あるいは事前入力され、調質圧延機圧延速度は調質圧延機ワークロール回転速度または図示されていない調質圧延機前後に設置されたブライドルロール回転速度など、調質圧延機内またはその近傍で回転速度を検出可能なロールから検出し、プロセスコンピュータ16に入力すればよい。
【0040】
次に得られた幅方向材質予測値を出荷先のユーザーに提供し、活用し、鋼板製造元にもフィードバックする場合の実施形態を図11に示す。
【0041】
本発明においては、連続焼鈍ラインまたは亜鉛めっき設備の出側に配置された鋼板幅方向に複数に分割されたバックアップロールを装備する調質圧延機における圧延実績に基づいて行われる調質圧延鋼板の精度よい材質予測値を材質値として用いるので、鋼板の幅方向の材質値について長手方向の任意の位置もしくは全長を出荷先のユーザーに提供することが可能である。ここでいう全長とは、長手方向に細かく前記材質予測を繰り返すことで、計算機能力やユーザーからの要望に応じて、例えば1m間隔や10cm間隔で材質を予測、蓄積することになる。
【0042】
しかしながら、材質値毎に幅方向はもちろん、長手方向全長、例えばYPについて全長、TSについて全長となると、そのデータ量は膨大なものになる。このため、計算機を用いて材質予測データを蓄積、整理し、必要に応じて圧縮ソフトにより圧縮してネットワーク経由で出荷先ユーザーに提供されることが好ましい。
【0043】
鋼板の出荷先のユーザーでは、ネットワーク経由で得られた幅方向材質値を、ユーザーでのブランキングライン20での不良部リジェクトに活用される。この際に表面疵などの品質情報も併用して不良部を判断しリジェクトするとより好ましい。さらに不良部をリジェクトしないまでも、ユーザーでのプレスライン21でプレス条件を調節すればプレス可能な程度の材質の変動ならば、鋼板の出荷先のユーザーでネットワーク経由で得られた幅方向材質値に応じ、プレス荷重や押さえ荷重などのプレス条件を変更してプレスを実施すれば、スクラップ発生を最小限にして歩留りのよいプレスを実施することができる。
【0044】
鋼板製造元へのフィードバックデータも場合によっては膨大となることが予想されるため、計算機からネットワーク経由で鋼板製造元にフィードバックされることが好ましい。
【0045】
更に好ましくは、鋼板の出荷先のユーザーにて材質不良としてリジェクトされた場合の材質条件や、プレス条件を変更された場合の材質条件を、ネットワーク経由で鋼板製造元にフィードバックされれば、鋼板製造元では速やかに原因究明、材質改善に材質でき、以降の出荷鋼板については材質値が改善されたものが製造、出荷できる。
【0046】
例えば図11のように、ユーザーでのリジェクト、プレス条件変更実績とその材質値をユーザーからネットワークサーバ22経由で鋼板製造元にフィードバックし、鋼板製造元ではそれを解析して原因究明、対策を検討し、改善策を製造ラインへフィードバックする。鋼板製造元におけるフィードバックデータの解析は、例えばネットワークサーバ22経由で個々のパソコンに落とし込み検討してもよいし、鋼板製造元のビジコン17またはプロコン16で解析しても構わない。解析した結果による改善策は、鋼板製造元のビジコン17またはプロコン16経由で鋼板製造ラインに操業条件としてフィードバックされる。フィードバック先の鋼板製造ラインは単数または複数の場合もある。
【0047】
このように本発明によれば、鋼板製造元とユーザーとの間で鋼板の幅方向の幅方向材質情報を鋼板の全長にわたり共有することにより双方の生産性を高めることが可能となり、特に自動車メーカーからのハイテン材(高強度鋼板)の材質バラツキ低減の要求にも応えることが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】連続焼鈍ラインの模式図である。
【図2】幅方向材質予測方法を示す斜視図である。
【図3】圧延荷重とYPとの相関を示すグラフである。
【図4】圧延張力とYPとの相関を示すグラフである。
【図5】圧延荷重とTSとの相関を示すグラフである。
【図6】圧延張力とTSとの相関を示すグラフである。
【図7】予測YPと実績YPとの相関を示すグラフである。
【図8】YPとTSの関係を示すグラフである。
【図9】予測TSと実績TSとの相関を示すグラフである。
【図10】幅方向材質予測方法の他の形態を示す斜視図である。
【図11】本発明の実施形態を示す模式図である。
【符号の説明】
【0049】
1 連続焼鈍炉
2 調質圧延機
3 昇温炉
4 均熱炉
5 冷却炉
6 急冷炉
7 払出しリール
8 巻き取りリール
9 分割されたバックアップロール
10 圧延荷重計
11 ワークロール
12 テンションメーターロール
13 板厚計
14 板幅計
15 圧電素子
16 プロセスコンピュータ
17 ビジコン
20 ブランキングライン
21 プレスライン
22 ネットワークサーバ
【技術分野】
【0001】
本発明は、出荷鋼板の材質情報提供方法およびそれの利用方法に係り、より詳細には鋼板の調質圧延機の圧延実績から鋼板の幅方向材質を予測し、その結果を計算機およびネットワーク経由でユーザーに提供する方法およびその情報の利用方法に関するものである。
【0002】
鋼板メーカーでは、従来から出荷された鋼板の一部分の材質試験結果を材質情報としてユーザーに提供している。しかし鋼板の幅方向については、鋼板のセンター部1点またはセンターと両サイドの3点程度で、それがサンプルの数だけ材質試験されるのみである。
【0003】
一方鋼板の疵などの品質情報は、例えば特許文献1のように疵の検査結果を画像も含めて鋼板の長手方向の情報として計算機経由で電子情報でユーザーに提供するシステムの開示がある。
【特許文献1】特開2003−215052公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら鋼板の材質情報は、通常鋼板サンプルをとり、オフラインの材質試験機で材質試験を実施して得るため、出荷鋼板の一部であるサンプル採取部分の材質結果のみしか得られない。出荷鋼板の材質情報を増やそうとすると、材質試験用のサンプルを多数採取しなければならず、このため鋼板が細切れに分割され、ユーザーから指定されている所定の出荷重量を満たすことができなくなる。また仮に多数鋼板サンプルを採取しても材質試験に多大な時間と労力がかかり現実的でない。さらに幅方向の材質試験値となると、幅方向に必要とされる分だけ倍数的に測定点と作業付加が増える。
【0005】
一方、鋼板の表面疵などの品質情報は、鋼板製造ラインに設置された表面疵検出装置によって検出され、鋼板サンプル採取位置以外の部分または全長でも、計算機によって集約されネットワーク経由でユーザーに提供できるものの、降伏強度、引張強度などの材質値については鋼板サンプルを採取して材質試験する以外に材質値を測定する手段がなく、実現不可能であった。
【0006】
また一部に、非破壊で磁束密度測定によるr値検出装置が、鋼板製造ラインに設置されたこともあったが、軟質鋼板や高強度鋼板などの品種毎に調整が必要で、かつ特定材質値しか測定できず汎用性がなかった。
【0007】
本発明は前記のような課題を解決し、出荷鋼板について材質試験用サンプル採取以上、あるいは出荷鋼板全長にわたる材質データを時間と労力をかけずに得て、その大量の材質情報を計算機およびネットワーク経由でユーザーに提供し、ユーザーにて利用する方法を提供するものである。また本発明の他の目的は、ユーザーから鋼板材質に関する情報を鋼板製造元にフィードバックし、鋼板製造ラインの生産性を高める出荷鋼板の材質情報利用方法を提供することである。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、連続焼鈍ラインまたは亜鉛めっき設備の出側に鋼板幅方向に複数に分割されたバックアップロールを装備する調質圧延機を配置し、この調質圧延機における圧延実績に基づいて鋼板の幅方向の材質予測が精度よく実施できることに着目し、その予測データを有効活用すればユーザーに材質データを今以上に大量に提供できることを見出して完成されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の知見に基づいてなされた請求項1の調質圧延鋼板の幅方向材質予測方法を利用した出荷鋼板の材質情報提供方法は、連続焼鈍ラインまたは亜鉛めっき設備の出側に鋼板幅方向に複数に分割されたバックアップロールを装備する調質圧延機を配置し、この調質圧延機における圧延実績に基づいて調質圧延鋼板の幅方向の材質予測を行い、得られた材質予測結果を上位計算機およびネットワーク経由で鋼板の出荷先のユーザーに提供することを特徴とするものである。
【0010】
また請求項2の発明は、請求項1の発明において、連続焼鈍ラインまたは亜鉛めっき設備の出側に鋼板幅方向に複数に分割されたバックアップロールを装備する調質圧延機を配置し、この調質圧延機における伸び率、張力、圧延荷重の値と、鋼板の板厚、板巾を測定または上位計算機より入手し、これらの値に基づいて調質圧延鋼板の幅方向の材質予測を行い、得られた材質予測結果を計算機およびネットワーク経由で鋼板の出荷先のユーザーに提供することを特徴とするものである。
【0011】
また請求項3の発明は、前記伸び率、張力、圧延荷重の値と、鋼板の板厚、板巾を鋼板の全長にわたり連続的に測定または上位計算機より入手し、これらの値に基づいて調質圧延鋼板の全長の幅方向の材質予測を行い、得られた幅方向材質予測結果を計算機およびネットワーク経由で鋼板の出荷先のユーザーに提供することを特徴とするものである。
【0012】
なお請求項4のように、調質圧延鋼板の幅方向の材質予測を、調質圧延機における伸び率、張力、圧延荷重の値と、鋼板の板厚、板巾から鋼板の降伏点を算出する予測式を用いて行うことが好ましい。
【0013】
請求項5の出荷鋼板の材質情報利用方法の発明は、請求項1乃至4のいずれか1項の材質情報提供方法によって得られた材質情報により、ユーザーが材質不良部分を除去することを特徴とするものである。
【0014】
また請求項6の出荷鋼板の材質情報利用方法の発明は、請求項1乃至4のいずれか1項の材質情報提供方法により得られた幅方向材質情報により、ユーザーが鋼板のプレス条件を変更することを特徴とするものである。
【0015】
また請求項7の出荷鋼板の材質情報利用方法の発明は、請求項5の発明において、ユーザーにて材質不良として除去された材質条件および鋼板の部位の情報を計算機およびネットワーク経由で鋼板製造元にフィードバックすることを特徴とするものである。
【0016】
また請求項8の発明は、請求項6の発明において、ユーザーにて鋼板のプレス条件を変更された材質条件および鋼板の部位の情報を計算機およびネットワーク経由で鋼板製造元にフィードバックすることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、鋼板製造元は出荷鋼板の大量の幅方向材質データまたは全長にわたる幅方向材質データをユーザーに提供することができ、ユーザーはこの材質情報を活用して鋼板の材質不良部分を除去したり、鋼板のプレス条件を変更したりして、生産ラインにおける不良品の発生を防止することができる。さらにはユーザーにて材質不良として除去された材質条件および鋼板の部位の情報を鋼板製造元にフィードバックできるようになる。このように鋼板製造元とユーザーとの間で鋼板の材質情報を共有することにより双方の生産性を高めることが可能となり、その意義は極めて大きい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の大きな特徴の一つは、連続焼鈍ラインまたは亜鉛めっき設備の出側に鋼板幅方向に複数に分割されたバックアップロールを装備する調質圧延機を配置し、その調質圧延機における圧延実績に基づいて調質圧延鋼板の幅方向の材質予測を行い、得られた幅方向材質予測結果を出荷鋼板の材質値として上位計算機およびネットワーク経由で鋼板の出荷先のユーザーに提供することである。もちろん出荷鋼板の帳票には、従来どおり出荷鋼板の一部から採取された鋼板サンプルを用いて材質試験した結果も添付される。
【0019】
しかしながら本発明では、予測値ながら精度よい幅方向材質値を、採取された鋼板サンプル以外の部分においても出荷先のユーザーに提供で切る点が大きな特徴である。幅方向材質予測は連続焼鈍ラインまたは亜鉛めっき設備の出側に配置された調質圧延機における圧延実績に基づいて調質圧延鋼板の材質予測を行う。
【0020】
まず以下にその材質予測方法について、連続焼鈍ライン出側または亜鉛めっき設備の出側に設置された鋼板幅方向に複数に分割されたバックアップロールを装備する調質圧延機の例でもって図面を参照しつつ本発明の好ましい実施の形態を示す。尚、亜鉛めっき設備の場合は焼鈍炉と調質圧延機の間に亜鉛めっき設備があるものと考えればよく、連続焼鈍炉ラインの場合を例にとって説明する。
【0021】
図1は鋼板の連続焼鈍ラインを模式的に示した図であり、1は連続焼鈍炉、2はその出側に配置された調質圧延機である。連続焼鈍炉1は昇温炉3、一次均熱炉4、二次均熱炉5、冷却炉6に大別されている。払出しリール7から払い出された鋼板はこれらの昇温炉3、一次均熱炉4、二次均熱炉5を順次走行する間に鋼板の材質に適した温度に加熱焼鈍されたうえ、二次均熱炉5の出口温度から冷却炉6で焼入れされ、調質圧延機2で調質圧延されたうえで巻き取りリール8に巻き取られる。なお、冷却炉6と調質圧延機2との間に過時効炉や冷却炉、表面処理鋼板を製造するための溶融メッキ設備、合金化設備、電気メッキ設備などの表面処理設備を付設してもよい。以上の構成は従来と変わるところはなく、各部分の板温は前記したように高精度の制御が行われている。
【0022】
調質圧延機2では軽圧下による調質圧延が行われるが、本発明では調質圧延機2として図2に示すように鋼板幅方向に複数に分割されたバックアップロール9を装備する調質圧延機9を装備する調質圧延機2を用いる。分割されたバックアップロール9には圧延荷重計10が設けられており、ワークロール11が鋼板を調質圧延する際の圧延荷重を、鋼板幅方向の複数点で測定する。
【0023】
図2ではバックアップロール9の分割個数は5であるが、分割数をより多くすることもできる。またテンションメーターロール12によってトータル張力値を測定することができ、調質圧延機2の出側に設置された板厚計13と板幅計14によって調質圧延鋼板の板厚と板幅を測定できる。なお圧延張力はトータル張力値を、板厚、板幅で除した単位断面積あたりの値を使用する。
【0024】
本発明では鋼板の幅方向材質予測を正確に行うべく、調質圧延機2の張力、伸び率のみならず、調質圧延機2の鋼板幅方向の圧延荷重も取り入れて材質予測をする。図3及び図4にハイテン鋼板の場合での圧延荷重とハイテン鋼板との降伏点との相関を示す。すなわち実績データによれば、図3及び図4に示されるように、伸び率が同じであれば圧延荷重、張力が増加すると鋼板の降伏点(YP)が増加し、また図5及び図6に示すように抗張力(TS)も増加している。また圧延荷重もしくは張力が一定であっても、伸び率が低い方が降伏点(YP)及び抗張力(TS)が大きくなる。このことから、圧延荷重、張力、伸び率、調質圧延鋼板の材質(YP、TS)との間には強い相関があることが分る。
【0025】
そこで過去の操業実績に基づいて、調質圧延鋼板の材質予測式を作成した。調質圧延の理論式として知られるROBERTSの式には、材質(YP、TS)、伸び率、張力、摩擦係数、厚み、圧延速度、ロール径などの多くの影響因子が含まれており、これらの因子を精度よく用いることで、高精度な材質予測が可能になることから、本発明の一例として、下記の材質予測式を作成した。影響因子としては、調質圧延機の伸び率(%)、調質圧延機の張力(MPa)、鋼板の板厚(mm)、調質圧延機の圧延荷重と鋼板の板巾から算出される線荷重(ton/m)を用いている。
YP=a*伸び率(%)+b*(平均張力MPa)+c*(鋼板の板厚mm*線荷重ton/m)+d
【0026】
この式中、YPは降伏点であって単位はMPa、SPM%は伸び率、線荷重は圧延荷重を鋼板の幅で割った値である。この式に含まれる係数は重回帰分析により定めるが、前記式のa、b、c、dの具体的な数値や式の形態は各ラインの特性や通板される鋼板の強度によって定められるものであり、上記に限定されるものではないことはいうまでもない。
【0027】
ちなみに軟鋼板でよく実施される圧延荷重を一定とした調質圧延を、例えば780MPa以上の高張力鋼板に実施した場合、鋼板の高張力ゆえ設備仕様の限界に近い過度な圧延荷重と張力バランスでの調質圧延となり、圧延そのものが極めて不安定になり、最悪、板破断などのトラブルを発生させることもあり得る。
【0028】
なお前記張力について、実操業では調質圧延機の入側と出側の張力があるが、両者は概ね比例関係にあり、材質予測に用いる値は入側もしくは出側を用いるが、両者を平均化して用いるのが好ましい。鋼板の板厚、板巾についても、調質圧延機の入側での値または出側での値のいずれを測定もしくは上位計算機より入手して用いても構わないが、焼鈍炉内での鋼板の伸びの影響から調質圧延機出側での値を用いることが好ましい。
【0029】
調質圧延鋼板、特に780MPa以上のTSを持つハイテン鋼板の材質予測が調質圧延機の圧延荷重を影響因子として採用した場合に後述のようにTSを極めて正確に予測できる理由は以下の理由が考えられる。
【0030】
一般的な軟質鋼板では鋼鈑が軟質ゆえと、その軟質な鋼板に対して調質圧延機の圧延荷重、張力の設備能力に余裕があることから、圧延荷重、張力のいずれか一方(例えば圧延荷重)が変動した場合、調質圧延機の圧延制御により伸び率一定とすべく他の一方(例えば張力)が制御できてしまい、張力のみを影響因子としても大きな差支えがない。
【0031】
ところが780MPa以上のTSを持つハイテン鋼板では、その高強度の鋼板に対し、調質圧延機の圧延荷重、張力の設備能力に余裕がなく、それぞれの設備能力限界で操業することが多い。圧延荷重、張力のいずれか一方が変動した場合、他の一方で吸収できない場合もあり、圧延荷重、張力のいずれか一方だけでは予測精度を向上させることができず、張力、圧延荷重(前述式の線荷重を算出)、伸び率から複合的に予測しなければならないものと思われる。
【0032】
さらに材質を予測するための影響因子として、調質圧延機ワークロール径、調質圧延機ワークロールと鋼板との間の摩擦係数、調質圧延機圧延速度のうち1種以上を考慮して精度向上を図ることも好ましい。調質圧延機ワークロール径、調質圧延機ワークロールと鋼板との間の摩擦係数は鋼板圧延中に決定することが困難な場合、予め測定または決めておいた値を用いても構わない。調質圧延機圧延速度は調質圧延機の入側での値または出側での値の何れを用いても構わない。
【0033】
この式により予測されたYPは図7に示すとおり実績YPとよく一致する(重相関係数0.925)ことが確認された。また調質圧延鋼板のYPとTSとの間には図8に示すとおり強い相関があるので、この図8に示されたTS=e*YP+fの関係を利用してTSを予測し、実績TSとの関係を確認すると図9のようになり、上記の材質予測式によって調質圧延鋼板の材質を正確に予測できることが確認された。
【0034】
上記したように、調質圧延機2における伸び率、張力、圧延荷重と、鋼板の板厚、板幅とに基づいて調質圧延鋼板の材質予測を行うことができるが、本発明では図2に示したように分割されたバックアップロール9を装備する調質圧延機2を用いるため、鋼板幅方向の分割されたバックアップロール毎の圧延荷重の値を測定することができる。これにより前述の式を分割されたバックアップロール毎に計算し、鋼板幅方向の材質予測が可能となる。
【0035】
尚、前述の式のa,b,c,d,e,fの具体的な数値や式の形態は分割されたバックアップロール毎に同じでも異なっても構わない。また当業者には自明であるが、TSとYPとの関係も鋼種によって変化するため、鋼種に応じた式、例えば高次の式や各種関数を用いた式を用いても構わず、前記式の形態に限定されない。また前記の式のa,b,c,d,e,fは各ラインの特性や鋼種によって定められるもので特に限定されない。
【0036】
また図2では鋼板幅方向の圧延荷重の値を測定したが、図10に示すようにテンションメーターロール12の胴長方向に圧電素子15を多数配置し接触圧の大小により形状を検出し、その形状情報から張力の幅方向分布を推測し、分割されたバックアップロール9の各位置毎に張力値及び単位断面積当りの張力を求めれば、後半幅方向の材質予測をさらに精度よく行うことが可能となる。
【0037】
本発明の一例では、調質圧延機2において連続的に検出された鋼板幅方向の圧延荷重、張力、伸び率と、調質圧延機2の後方に位置する板厚計13、板巾計14において連続的に検出された板厚、板巾は図1に示すプロセスコンピュータ16に入力され、プロセスコンピュータ16に入力されている調質圧延鋼板のYP算出式、TS算出式に代入されて計算され、リアルタイムで現在圧延中の鋼板の材質を把握することができる。なお、板厚、板巾の値はプロセスコンピュータ16の上位計算機であるビジコン17より入手しても構わない。
【0038】
このため演算された調質圧延鋼板のYPやTSに変動が生じた場合には直ちに異常発生の警報を出すことができ、従来のように大量の規格外れ品を発生させることがない。また異常発生の原因が、鋼板成分変動などの前工程起因のバラツキである場合にも、圧延荷重、張力、伸び率の変動として現れるので、直ちに異常発生を把握することができる。このように調質圧延機2を材質変動のモニターとして利用するのは、従来に例を見ない新規な技術である。
【0039】
さらに材質予測精度を向上させるために、前記調質圧延機ワークロール径、調質圧延機ワークロールと鋼板との間の摩擦係数、調質圧延機圧延速度のうち1種以上を追加した調質圧延鋼板のYP算出式、TS算出式を用いても構わない。前記調質圧延機ワークロール径、調質圧延機ワークロールと鋼板との間の摩擦係数の値はオペレータによるプロセスコンピュータ9への直接入力あるいは事前入力され、調質圧延機圧延速度は調質圧延機ワークロール回転速度または図示されていない調質圧延機前後に設置されたブライドルロール回転速度など、調質圧延機内またはその近傍で回転速度を検出可能なロールから検出し、プロセスコンピュータ16に入力すればよい。
【0040】
次に得られた幅方向材質予測値を出荷先のユーザーに提供し、活用し、鋼板製造元にもフィードバックする場合の実施形態を図11に示す。
【0041】
本発明においては、連続焼鈍ラインまたは亜鉛めっき設備の出側に配置された鋼板幅方向に複数に分割されたバックアップロールを装備する調質圧延機における圧延実績に基づいて行われる調質圧延鋼板の精度よい材質予測値を材質値として用いるので、鋼板の幅方向の材質値について長手方向の任意の位置もしくは全長を出荷先のユーザーに提供することが可能である。ここでいう全長とは、長手方向に細かく前記材質予測を繰り返すことで、計算機能力やユーザーからの要望に応じて、例えば1m間隔や10cm間隔で材質を予測、蓄積することになる。
【0042】
しかしながら、材質値毎に幅方向はもちろん、長手方向全長、例えばYPについて全長、TSについて全長となると、そのデータ量は膨大なものになる。このため、計算機を用いて材質予測データを蓄積、整理し、必要に応じて圧縮ソフトにより圧縮してネットワーク経由で出荷先ユーザーに提供されることが好ましい。
【0043】
鋼板の出荷先のユーザーでは、ネットワーク経由で得られた幅方向材質値を、ユーザーでのブランキングライン20での不良部リジェクトに活用される。この際に表面疵などの品質情報も併用して不良部を判断しリジェクトするとより好ましい。さらに不良部をリジェクトしないまでも、ユーザーでのプレスライン21でプレス条件を調節すればプレス可能な程度の材質の変動ならば、鋼板の出荷先のユーザーでネットワーク経由で得られた幅方向材質値に応じ、プレス荷重や押さえ荷重などのプレス条件を変更してプレスを実施すれば、スクラップ発生を最小限にして歩留りのよいプレスを実施することができる。
【0044】
鋼板製造元へのフィードバックデータも場合によっては膨大となることが予想されるため、計算機からネットワーク経由で鋼板製造元にフィードバックされることが好ましい。
【0045】
更に好ましくは、鋼板の出荷先のユーザーにて材質不良としてリジェクトされた場合の材質条件や、プレス条件を変更された場合の材質条件を、ネットワーク経由で鋼板製造元にフィードバックされれば、鋼板製造元では速やかに原因究明、材質改善に材質でき、以降の出荷鋼板については材質値が改善されたものが製造、出荷できる。
【0046】
例えば図11のように、ユーザーでのリジェクト、プレス条件変更実績とその材質値をユーザーからネットワークサーバ22経由で鋼板製造元にフィードバックし、鋼板製造元ではそれを解析して原因究明、対策を検討し、改善策を製造ラインへフィードバックする。鋼板製造元におけるフィードバックデータの解析は、例えばネットワークサーバ22経由で個々のパソコンに落とし込み検討してもよいし、鋼板製造元のビジコン17またはプロコン16で解析しても構わない。解析した結果による改善策は、鋼板製造元のビジコン17またはプロコン16経由で鋼板製造ラインに操業条件としてフィードバックされる。フィードバック先の鋼板製造ラインは単数または複数の場合もある。
【0047】
このように本発明によれば、鋼板製造元とユーザーとの間で鋼板の幅方向の幅方向材質情報を鋼板の全長にわたり共有することにより双方の生産性を高めることが可能となり、特に自動車メーカーからのハイテン材(高強度鋼板)の材質バラツキ低減の要求にも応えることが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】連続焼鈍ラインの模式図である。
【図2】幅方向材質予測方法を示す斜視図である。
【図3】圧延荷重とYPとの相関を示すグラフである。
【図4】圧延張力とYPとの相関を示すグラフである。
【図5】圧延荷重とTSとの相関を示すグラフである。
【図6】圧延張力とTSとの相関を示すグラフである。
【図7】予測YPと実績YPとの相関を示すグラフである。
【図8】YPとTSの関係を示すグラフである。
【図9】予測TSと実績TSとの相関を示すグラフである。
【図10】幅方向材質予測方法の他の形態を示す斜視図である。
【図11】本発明の実施形態を示す模式図である。
【符号の説明】
【0049】
1 連続焼鈍炉
2 調質圧延機
3 昇温炉
4 均熱炉
5 冷却炉
6 急冷炉
7 払出しリール
8 巻き取りリール
9 分割されたバックアップロール
10 圧延荷重計
11 ワークロール
12 テンションメーターロール
13 板厚計
14 板幅計
15 圧電素子
16 プロセスコンピュータ
17 ビジコン
20 ブランキングライン
21 プレスライン
22 ネットワークサーバ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続焼鈍ラインまたは亜鉛めっき設備の出側に鋼板幅方向に複数に分割されたバックアップロールを装備する調質圧延機を配置し、この調質圧延機における圧延実績に基づいて調質圧延鋼板の幅方向の材質予測を行い、得られた材質予測結果を上位計算機およびネットワーク経由で鋼板の出荷先のユーザーに提供することを特徴とする調質圧延鋼板の幅方向材質予測方法を利用した出荷鋼板の材質情報提供方法。
【請求項2】
連続焼鈍ラインまたは亜鉛めっき設備の出側に鋼板幅方向に複数に分割されたバックアップロールを装備する調質圧延機を配置し、この調質圧延機における伸び率、張力、圧延荷重の値と、鋼板の板厚、板巾を測定または上位計算機より入手し、これらの値に基づいて調質圧延鋼板の幅方向の材質予測を行い、得られた材質予測結果を計算機およびネットワーク経由で鋼板の出荷先のユーザーに提供することを特徴とする請求項1に記載の調質圧延鋼板の幅方向材質予測方法を利用した出荷鋼板の材質情報提供方法。
【請求項3】
前記伸び率、張力、圧延荷重の値と、鋼板の板厚、板巾を鋼板の全長にわたり連続的に測定または上位計算機より入手し、これらの値に基づいて調質圧延鋼板の幅方向の材質予測を全長にわたり行い、得られた幅方向材質予測結果を計算機およびネットワーク経由で鋼板の出荷先のユーザーに提供することを特徴とする請求項1または2に記載の調質圧延鋼板の幅方向材質予測方法を利用した出荷鋼板の材質情報提供方法。
【請求項4】
調質圧延鋼板の幅方向の材質予測を、調質圧延機における伸び率、張力、圧延荷重の値と、鋼板の板厚、板巾から鋼板の降伏点を算出する予測式を用いて行うことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の調質圧延鋼板の幅方向材質予測方法を利用した出荷鋼板の材質情報提供方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項の材質情報提供方法によって得られた材質情報により、ユーザーが材質不良部分を除去することを特徴とする調質圧延鋼板の幅方向材質予測方法を利用した出荷鋼板の材質情報利用方法。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれか1項の材質情報提供方法により得られた幅方向材質情報により、ユーザーが鋼板のプレス条件を変更することを特徴とする調質圧延鋼板の幅方向材質予測方法を利用した出荷鋼板の材質情報利用方法。
【請求項7】
ユーザーにて材質不良として除去された材質条件および鋼板の部位の情報を計算機およびネットワーク経由で鋼板製造元にフィードバックすることを特徴とする請求項5に記載の調質圧延鋼板の幅方向材質予測方法を利用した出荷鋼板の材質情報利用方法。
【請求項8】
ユーザーにて鋼板のプレス条件を変更された材質条件および鋼板の部位の情報を計算機およびネットワーク経由で鋼板製造元にフィードバックすることを特徴とする請求項6に記載の調質圧延鋼板の幅方向材質予測方法を利用した出荷鋼板の材質情報利用方法。
【請求項1】
連続焼鈍ラインまたは亜鉛めっき設備の出側に鋼板幅方向に複数に分割されたバックアップロールを装備する調質圧延機を配置し、この調質圧延機における圧延実績に基づいて調質圧延鋼板の幅方向の材質予測を行い、得られた材質予測結果を上位計算機およびネットワーク経由で鋼板の出荷先のユーザーに提供することを特徴とする調質圧延鋼板の幅方向材質予測方法を利用した出荷鋼板の材質情報提供方法。
【請求項2】
連続焼鈍ラインまたは亜鉛めっき設備の出側に鋼板幅方向に複数に分割されたバックアップロールを装備する調質圧延機を配置し、この調質圧延機における伸び率、張力、圧延荷重の値と、鋼板の板厚、板巾を測定または上位計算機より入手し、これらの値に基づいて調質圧延鋼板の幅方向の材質予測を行い、得られた材質予測結果を計算機およびネットワーク経由で鋼板の出荷先のユーザーに提供することを特徴とする請求項1に記載の調質圧延鋼板の幅方向材質予測方法を利用した出荷鋼板の材質情報提供方法。
【請求項3】
前記伸び率、張力、圧延荷重の値と、鋼板の板厚、板巾を鋼板の全長にわたり連続的に測定または上位計算機より入手し、これらの値に基づいて調質圧延鋼板の幅方向の材質予測を全長にわたり行い、得られた幅方向材質予測結果を計算機およびネットワーク経由で鋼板の出荷先のユーザーに提供することを特徴とする請求項1または2に記載の調質圧延鋼板の幅方向材質予測方法を利用した出荷鋼板の材質情報提供方法。
【請求項4】
調質圧延鋼板の幅方向の材質予測を、調質圧延機における伸び率、張力、圧延荷重の値と、鋼板の板厚、板巾から鋼板の降伏点を算出する予測式を用いて行うことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の調質圧延鋼板の幅方向材質予測方法を利用した出荷鋼板の材質情報提供方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項の材質情報提供方法によって得られた材質情報により、ユーザーが材質不良部分を除去することを特徴とする調質圧延鋼板の幅方向材質予測方法を利用した出荷鋼板の材質情報利用方法。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれか1項の材質情報提供方法により得られた幅方向材質情報により、ユーザーが鋼板のプレス条件を変更することを特徴とする調質圧延鋼板の幅方向材質予測方法を利用した出荷鋼板の材質情報利用方法。
【請求項7】
ユーザーにて材質不良として除去された材質条件および鋼板の部位の情報を計算機およびネットワーク経由で鋼板製造元にフィードバックすることを特徴とする請求項5に記載の調質圧延鋼板の幅方向材質予測方法を利用した出荷鋼板の材質情報利用方法。
【請求項8】
ユーザーにて鋼板のプレス条件を変更された材質条件および鋼板の部位の情報を計算機およびネットワーク経由で鋼板製造元にフィードバックすることを特徴とする請求項6に記載の調質圧延鋼板の幅方向材質予測方法を利用した出荷鋼板の材質情報利用方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2009−47506(P2009−47506A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−212763(P2007−212763)
【出願日】平成19年8月17日(2007.8.17)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年8月17日(2007.8.17)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】
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