説明

分子末端にオキセタンを有するポリカーボネート及びその製造方法

【課題】 本発明の課題は、分子末端にオキセタンを有する新規なポリカーボネートを提供すると共に、その簡便な製造方法を提供することにある。
【解決手段】 本発明の課題は、一般式(1)で示される分子末端にオキセタンを有するポリカーボネートにて解決することができる。なお、下記一般式(1)において、Rは炭素原子数1〜4の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を示す。Rは、直鎖状又は分岐鎖状の炭素原子数3〜12のアルキレン基を示し、当該アルキレン基は、不飽和炭化水素基、芳香族炭化水素基、脂環式炭化水素基又はヘテロ原子を有していても良い。nは、アルキレンカーボネート構造の繰り返し単位の平均数を表し、1〜30の実数を示す。なお、nが1を超える場合は、それぞれのRが異なるものであってもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分子末端に重合性のオキセタンを有する新規なポリカーボネート及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
オキセタンを有する化合物は、例えば、耐熱性、機械特性、密着性等に優れた硬化性樹脂化合物のモノマーとして使用できることが知られている。そして、この化合物から誘導されるポリマーは、例えば、ポリカーボネート等の難密着性基材に対する、コート材や接着剤等を目的として利用されている(例えば、特許文献1、及び特許文献2参照)。
【0003】
これまで、分子末端にオキセタンを有する化合物としては、例えば、特許文献2に下記一般式(A)で示される化合物が記載されている。更に、この一般式(A)のRとしては、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基等の線状或いは分枝状の炭素原子数1〜20のアルキレン基、ポリ(エチレンオキシ)基、ポリ(プロピレンオキシ)基等の線状或いは分枝状の炭素原子数1〜12のポリ(アルキレンオキシ)基等、いくつかのアルキレン基が挙げられている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
【化1】

【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−212965号公報
【特許文献2】特開2002−124546号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2においては、一般式(A)で示される具体的な化合物として上記式(B)の末端にオキセタンを有するポリカーボネートが記載されているのみで、Rが、アルキレン基、及びポリアルキレン基の化合物については、一切開示されていない。
そこで、本発明の課題は、分子末端にオキセタンを有する新規なポリカーボネート及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の課題は、
[1] 一般式(1)で示される分子末端にオキセタンを有するポリカーボネート。
【0008】
【化2】

【0009】
(式中、Rは炭素原子数1〜4の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を示す。Rは、直鎖状又は分岐鎖状の炭素原子数3〜12のアルキレン基を示し、当該アルキレン基は、不飽和炭化水素基、芳香族炭化水素基、脂環式炭化水素基又はヘテロ原子を有していても良い。nは、アルキレンカーボネート構造の繰り返し単位の平均数を表し、1〜30の実数を示す。なお、nが1を超える場合は、それぞれのRが異なるものであってもよい)
により解決される。
【0010】
更に、本発明は、上記[1]に関連する下記[2]から[6]によって、より具体的に解決される。
【0011】
[2] Rが、直鎖状又は分岐鎖状の炭素原子数3〜12のアルキレン基を示し、かつ、nが1〜15の実数である前記[1]に記載の分子末端にオキセタンを有するポリカーボネート。
[3] Rが、直鎖状又は分岐鎖状の炭素原子数3〜6のアルキレン基を示し、かつnが1〜5の実数である前記[1]に記載の分子末端にオキセタンを有するポリカーボネート。
[4] オキセタン導入率が90%以上である、前記[1]から[3]のいずれか一つに記載の分子末端にオキセタンを有するポリカーボネート。
[5] 一般式(2)で示されるポリカーボネート化合物と一般式(3)で示される(3−アルキルオキセタン−3−イル)メタノールを反応させる、前記[1]に記載の分子末端にオキセタンを有するポリカーボネートの製造方法。
【0012】
【化3】

【0013】
(式中、Rは、直鎖状又は分岐鎖状の炭素原子数3〜12のアルキレン基を示し、当該アルキレン基は、不飽和炭化水素基、芳香族炭化水素基、脂環式炭化水素基又はヘテロ原子を有していても良い。Rは炭素原子数1〜4の直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキル基又はフェニル基を示し、mは、アルキレンカーボネート構造の繰り返し単位の平均数を示し、1〜30の実数を示す。なお、mが1を超える場合は、それぞれのRが同一であっても、又は異なるものであっても良い)
【0014】
【化4】

【0015】
(式中、Rは炭素原子数1〜4の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を示す)
[6] 一般式(4)で示されるジオール、一般式(5)で示されるカーボネート、及び一般式(3)で示される(3−アルキルオキセタン−3−イル)メタノールを反応させる、請求項1に記載の分子末端にオキセタンを有するポリカーボネートの製造方法。
【0016】
【化5】

【0017】
(式中、Rは、直鎖状又は分岐鎖状の炭素原子数3〜12のアルキレン基を示し、当該アルキレン基は、不飽和炭化水素基、芳香族炭化水素基、脂環式炭化水素基又はヘテロ原子を有していても良い)
【0018】
【化6】

【0019】
(式中、Rは炭素原子数1〜4の直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキル基、又はフェニル基を示す)
【0020】
【化7】

【0021】
(式中、Rは炭素原子数1〜4の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を示す)
【発明の効果】
【0022】
本発明の製造方法より、分子末端に重合性のオキセタン基を有する新規なポリカーボネートを得ることができる。更に、本発明で得られた一般式(1)で示されるポリカーボネートは、そのオキセタン部位を開環重合させることにより、硬化性樹脂化合物を製造することが出来る。その際、重合性基であるオキセタン環は、歪みが小さい分子構造であるため、重合時の硬化収縮を抑えることができる。そこで、本発明の一般式(1)で示されるポリカーボネートは、例えば、光硬化性又は熱硬化性樹脂化合物のモノマーとして、耐熱レジスト、コート材、接着剤等の原料、あるいは粉体塗料の架橋剤、改質剤等に利用することが可能である。
更に、得られた硬化性樹脂化合物については、例えば、優れた透明性、耐衝撃性、耐熱性、耐加水分解性等のカーボネート構造に特有の物性と併せ、オキセタン部位の重合により新たに形成した架橋部位がエーテル結合であるため、例えば、低吸湿性による優れた電気特性等といったエーテル結合に特有の物性が新たに付与された高性能な硬化性樹脂化合物となる。従って、本発明の一般式(1)で示されるポリカーボネートは、更に重合して硬化性樹脂化合物とすることで、例えば、航空機・自動車等の輸送機器、電気電子・光学・医療機器等の様々な分野における成型品等としても使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
<本発明の一般式(1)で示される分子末端にオキセタンを有するポリカーボネート>
本発明のポリカーボネートは、下記一般式(1)の構造を有する。
【0024】
【化8】

【0025】
(式中、R及びR、並びにnは、前記と同じである)
【0026】
一般式(1)において、Rは、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等の炭素原子数1〜4の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を示す。なお、これらのアルキル基は各種異性体を含む。Rのアルキル基として、好ましくはメチル基又はエチル基、より好ましくはエチル基である。
【0027】
一般式(1)において、Rは、直鎖状又は分岐鎖状の炭素原子数3〜12のアルキレン基を示す。なお、これらのアルキレン基は各種異性体を含む。更に、前記アルキレン基は、アルキレン基中に不飽和炭化水素基、芳香族炭化水素基、脂環式炭化水素基又はヘテロ原子を有していても良い。
【0028】
前記Rにおける、直鎖状又は分岐鎖状の炭素原子数3〜12のアルキレン基としては、例えば、プロピレン基、ブチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、2−メチルペンタメチレン基、3−メチルペンタメチレン基等が挙げられる。なお、これらのアルキレン基は各種異性体を含む。
【0029】
前記Rにおける、不飽和炭化水素基を有するアルキレン基としては、例えば、2−ブテニレン基、2,4−ヘキサジエニレン基、メチルブテニレン基等が挙げられる。なお、これらのアルキレン基は各種異性体を含む。
【0030】
前記Rにおける、芳香族炭化水素基を有するアルキレン基としては、例えば、キシリレン基、ナフタレン−2,6−ジメチレン基、ビフェニル−4,4’−ジメチレン基等が挙げられる。なお、これらのアルキレン基は各種異性体を含む。
【0031】
前記Rにおける、脂環式炭化水素基を有するアルキレン基としては、例えば、シクロプロピレン−1,2−ジメチレン基、シクロブチレン−1,3−ジメチレン基、シクロペンタメチレン−1,3−ジメチレン基、シクロヘキサン−1,4−ジメチレン基等が挙げられる。なお、これらのアルキレン基は各種異性体を含む。
【0032】
前記Rにおける、ヘテロ原子を有するアルキレン基としては、例えば、ヘテロ原子が酸素原子、又は硫黄原子の場合、エーテル結合を有するアルキレン基、又はチオエーテル結合を有するアルキレン基がそれぞれ挙げられる。
【0033】
nは、アルキレンカーボネート構造の繰り返し単位の平均数を表し、1〜30の実数を示す。なお、nが1を超える場合は、それぞれRが異なるものであってもよく、例えば、Rが複数種類混在していてもよい。
【0034】
前記nとして、好ましくは1〜15、更に好ましくは1〜10、より好ましくは1〜5、特に好ましくは1〜3である。
【0035】
従って、上記より、本発明の一般式(1)で示される分子末端にオキセタンを有するポリカーボネートとして、具体的に、好ましくはRが、直鎖状又は分岐鎖状の炭素原子数3〜12のアルキレン基を示し、かつnが1〜15の実数である前記分子末端にオキセタンを有するポリカーボネート;更に好ましくはRが、直鎖状又は分岐鎖状の炭素原子数3〜6のアルキレン基を示し、かつnが1〜10の実数である前記分子末端にオキセタンを有するポリカーボネート;より好ましくはRが、直鎖状又は分岐鎖状の炭素原子数3〜6のアルキレン基を示し、かつnが1〜5の実数である前記分子末端にオキセタンを有するポリカーボネート;特に好ましくはRが、直鎖状又は分岐鎖状の炭素原子数3〜6のアルキレン基を示し、かつnが1〜3の実数である前記分子末端にオキセタンを有するポリカーボネートである。
【0036】
本発明の一般式(1)で示される分子末端にオキセタンを有するポリカーボネートは、例えば、硬化性樹脂化合物のモノマーとして良好な溶解性を有し、更にその硬化性樹脂化合物は、例えば、航空機・自動車等の輸送機器、電気電子・光学・医療機器等の様々な分野における成型品等への使用に対して、十分な硬度を示すことが期待できる。
【0037】
本発明の反応において、反応部位である2つの分子末端は、反応終了後、(a)オキセタン部位に修飾された分子末端、(b)水酸基となった分子末端、及び(c)Rを有するカーボネート基が未反応で残ったままの分子末端の3つの中のいずれか一つの分子末端を形成していることが考えられる。そこで、生成物である一般式(1)で示されるポリカーボネートについて、その分子末端がオキセタン部位で修飾された置換基導入率を、「オキセタン導入率(%)」と称して算出することとした。
このオキセタン導入率(%)の算出方法は、H−NMRスペクトルの測定結果より、分子末端に導入されたオキセタン部位のメチレン基の積分値(A)、分子末端が水酸基となったときに観測される水酸基が結合したメチレン基の積分値(B)、及び未反応の一般式(2)で示されるポリカーボネートのRとの積分値(C)から、後述の実施例に記載の方法で算出される。
【0038】
本発明の方法で製造される一般式(1)で示されるポリカーボネートのオキセタン導入率(%)は、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、特に好ましくは97%以上である。本発明のオキセタン導入率(%)が90%以上の一般式(1)で示されるポリカーボネートは、これを樹脂材料のモノマーとして使用した場合、十分な硬度の硬化性樹脂化合物を与えることが期待できる。
【0039】
本発明の方法で製造される一般式(1)で示されるポリカーボネートの数平均分子量は、特に制限されないが、好ましくは300〜40,000、更に好ましくは300〜20,000、より好ましくは300〜10,000、特に好ましくは300〜3,000である。なお、数平均分子量は、H−NMRスペクトルの積分値計算により算出される。
また、上記の数平均分子量であって、更に前記のオキセタン導入率である本発明の一般式(1)で示される分子末端にオキセタンを有するポリカーボネートは、室温下でも液状又はワックス状であることが多いため、前記同様、例えば、硬化性樹脂化合物等のモノマーとして、ハンドリングよく使用することができる。
【0040】
<一般式(1)で示される分子末端にオキセタンを有するポリカーボネートの製造方法>
本発明の一般式(1)で示される分子末端にオキセタンを有するポリカーボネートは、一般式(2)で示されるポリカーボネートと一般式(3)で示される(3−アルキルオキセタン−3−イル)メタノールとをエステル交換反応させる下記反応式<1>又は反応式<2>の方法にて製造される。
【0041】
【化9】

【0042】
(式中、RからR、並びにn及びmは、前記と同じである)
【0043】
まず、上記反応式<1>の製造方法について説明する。本発明の反応式<1>の方法は、エステル交換触媒の存在下、一般式(2)で示されるポリカーボネートと一般式(3)で示される(3−アルキルオキセタン−3−イル)メタノールとを反応させる方法である。
【0044】
本発明の反応式<1>の方法で使用される、下記一般式(2)で示されるポリカーボネートにおいて、Rは炭素原子数1〜4の直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキル基、又はフェニル基を示す。
ここで、Rにおける炭素原子数1〜4の直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、シクロプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、iso−ブチル基、tert-ブチル基、又はシクロブチル基が挙げられる。なお、式中、Rとして、好ましくはメチル基、エチル基、iso−プロピル基、tert-ブチル基;より好ましくはメチル基、エチル基;特に好ましくはメチル基である。
【0045】
下記一般式(2)において、mはアルキレンカーボネート構造の繰り返し単位の平均数を表し1〜30の実数を示す。mが1を超える場合は、それぞれのRが同一であっても、又は異なるものであっても良く、例えば、mが1を超える場合はRが複数種類混在していてもよい。Rは、前記一般式(1)におけるRの定義と同じである。
【0046】
【化10】

【0047】
本発明の反応式<1>の方法で使用される一般式(2)で示されるポリカーボネートは、市販品があればそれをそのまま使用してもよいが、例えば、上記一般式(4)のジオールと上記一般式(5)の炭酸ジエステルとの重合反応よって別途合成して使用しても良い。
【0048】
次に、本発明の反応式<1>の方法で使用される一般式(3)で示される(3−アルキルオキセタン−3−イル)メタノールについて説明する。一般式(3)で示される(3−アルキルオキセタン−3−イル)メタノールおいて、式中、Rは、前記一般式(1)におけるRの定義と同じであり、好ましくはメチル基又はエチル基、より好ましくはエチル基である。
【0049】
【化11】

【0050】
本発明の反応式<1>の方法における一般式(3)で示される(3−アルキルオキセタン−3−イル)メタノールの使用量は、一般式(2)で表されるポリカーボネート1モル(分子量は前記数平均分子量を使用)に対して、好ましくは1.8〜10モル、より好ましくは1.8〜5.0モル、特に好ましくは1.9〜2.5モルである。
【0051】
本発明の反応式<1>の方法におけるエステル交換触媒としては、通常使用されているものであれば特に制限されない。エステル交換触媒の具体例としては、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、アルミニウム化合物、亜鉛化合物、マンガン化合物、ニッケル化合物、アンチモン化合物、ジルコニウム化合物、チタン化合物、有機スズ化合物等が使用される。更により詳しくは、下記のエステル交換触媒が挙げられる。
【0052】
アルカリ金属化合物としては、アルカリ金属の水酸化物(水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等)、アルカリ金属の炭酸塩(炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等)、アルカリ金属のカルボン酸塩(酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム等)、アルカリ金属アルコキシド(リチウムメトキシド、ナトリウムメトキシド、カリウムt−ブトキシド等)などが挙げられ、アルカリ土類金属化合物としては、アルカリ土類金属の水酸化物(水酸化マグネシウム等)、アルカリ土類金属アルコキシド(マグネシウムメトキシド等)などが挙げられる。
【0053】
アルミニウム化合物としては、例えば、アルミニウムアルコキシド(アルミニウムエトキシド、アルミニウムイソプロポキシド、アルミニウムsec−ブトキシド等)、アルミニウムアセチルアセトナート等のアルミニウム化合物等が挙げられる。
【0054】
亜鉛化合物としては、例えば、亜鉛のカルボン酸塩(酢酸亜鉛等)、亜鉛アセチルアセトナート等が挙げられ、マンガン化合物としては、例えば、マンガンのカルボン酸塩(酢酸マンガン等)、マンガンアセチルアセトナート等が挙げられ、ニッケル化合物としては、ニッケルのカルボン酸塩(酢酸ニッケル等)、ニッケルアセチルアセトナート等が挙げられる。
【0055】
アンチモン化合物としては、例えば、アンチモンのカルボン酸塩(酢酸アンチモン等)、アンチモンアルコキシド等が挙げられ、ジルコニウム化合物としては、例えば、ジルコニウムアルコキシド(ジルコニウムプロポキシド、ジルコニウムブトキシド等)、ジルコニウムアセチルアセトナート等が挙げられる。
【0056】
チタン化合物としては、例えば、チタンアルコキシド(チタンテトラエトキシド、チタンテトラプロポキシド、チタンテトラブトキシド、テトラシクロヘキシルチタネート、テトラベンジルチタネート等)、チタンアシレート(トリブトキシチタンステアレート、イソプロポキシステアレート等)、チタンキレート(ジイソプロポキシチタンビスアセチルアセトネート、ジヒドロキシ・ビスラクタトチタン等)などが挙げられる。
【0057】
有機スズ化合物としては、例えば、ジブチルチンオキシド、ジブチルチンジアセテート、ジブチルチンジラウレート等が挙げられる。
【0058】
なお、上記のエステル交換触媒において、各カルボン酸塩の炭素原子数は、好ましくは炭素原子数2〜30、より好ましくは炭素原子数2〜18のものが使用され、各アルコキシドにおけるアルコキシ基の炭素原子数は、好ましくは1〜30、より好ましくは2〜18のものが使用される。
【0059】
また、上記エステル交換触媒は、単独又は二種以上混合して使用してもよい。更に、これらのエステル交換触媒は、例えば、後述の反応溶媒を用いて調整された調製溶液又はスラリー溶液等として使用してもよい。
【0060】
上記より、本発明の反応式<1>の方法におけるエステル交換触媒として、好ましくは亜鉛化合物、チタン化合物、及び有機スズ化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種のエステル交換触媒;より好ましくは亜鉛のカルボン酸塩、チタンアルコキシド、ジブチルチンオキシド、及びジブチルチンジアセテートからなる群より選ばれる少なくとも一種のエステル交換触媒;特に好ましくは、酢酸亜鉛、又はチタンアルコキシドである。なお、チタンアルコキシドの中では、好ましくはチタンテトラエトキシド、チタンテトラプロポキシド、チタンテトライソプロポキシド、及びチタンテトラブトキシドからなる群より選ばれる少なくとも一種のエステル交換触媒;より好ましくチタンテトラエトキシド、チタンテトラプロポキシド、チタンテトライソプロポキシド又はチタンテトラブトキシド;特に好ましくはチタンテトライソプロポキシド又はチタンテトラブトキシドである。
【0061】
本発明の反応式<1>の方法におけるエステル交換触媒の使用量は、一般式(2)で示されるポリカーボネート1gに対して、好ましくは0.000001〜0.1質量%(0.01〜1000ppm)、更に好ましくは0.00001〜0.05質量%(0.1〜500ppm)、より好ましくは0.0001〜0.03質量%(1ppm〜300ppm)、特に好ましくは0.001〜0.03質量%(10ppm〜300ppm)使用される。
【0062】
本発明の反応式<1>の方法では、一般式(2)で示されるポリカーボネート、一般式(3)で示される(3−アルキルオキセタン−3−イル)メタノール、及びエステル交換触媒を上記の使用量を用いて製造することにより、例えば、硬化性樹脂化合物のモノマーとして良好な、前記アルキレンカーボネート構造の繰り返し単位の平均数:n、オキセタン導入率、数平均分子量を有する一般式(1)で示される分子末端にオキセタンを有するポリカーボネートを得ることができる。
【0063】
本発明の反応式<1>の方法は、例えば、一般式(2)で示されるポリカーボネート、一般式(3)で示される(3−アルキルオキセタン−3−イル)メタノール、及びエステル交換触媒を、震とう、撹拌等の操作により混合して反応させる方法等によって行われる。
【0064】
本発明の反応式<1>の方法における反応温度及び反応圧力は、好ましくは100〜200℃であって、更に反応圧力が0.01〜102kPa(絶対圧);より好ましくは120〜150℃であって、更に反応圧力が、0.01〜20kPa(絶対圧)である。また、本発明の反応は、一般式(2)で示されるポリカーボネートと一般式(3)で示される(3−アルキルオキセタン−3−イル)メタノールとの反応でアルコール類が副生する反応であるが、その反応形式は、反応系と生成系との間に化学平衡がある平衡反応である。従って、本発明の反応式<1>の製造方法では、前記副生するアルコール類の留出が、150℃以下の反応温度で止まった段階で反応圧力を更に減圧にすることにより、反応をより促進させることができる。
【0065】
本発明の反応式<1>の方法では、その反応系内(反応環境)が、非水条件下であることが望ましく、また使用される一般式(2)で示されるポリカーボネート、一般式(3)で示される(3−アルキルオキセタン−3−イル)メタノール及びエステル交換触媒の含有水分量についても1000ppm以下であることが望ましい。
【0066】
次に、上記反応式<2>の製造方法について説明する。本発明の反応式<2>の方法は、エステル交換触媒の存在下、一般式(3)で示される(3−アルキルオキセタン−3−イル)メタノール、一般式(4)で示されるジオール、及び一般式(5)で示されるカーボネートを反応させて、前記一般式(1)で示される分子末端にオキセタンを有するポリカーボネートの製造方法である。
【0067】
本発明の反応式<2>の方法で使用される一般式(4)のジオールにおいて、Rは、前記一般式(2)で示されるポリカーボネートにおけるRの定義と同じである。従って、例えば、好ましいRの範囲等についても同じである。
【0068】
【化12】

【0069】
本発明の反応式<2>の方法で使用される一般式(4)で示されるジオールは、市販品をそのまま使用してもよいが、例えば、ジカルボン酸の還元等によって、別途合成して使用してもよい。
【0070】
次に、本発明の反応式<2>の方法で使用される一般式(5)で示されるカーボネートについて説明する。一般式(5)で示されるカーボネートおいて、Rは炭素原子数1〜4の直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキル基、又はフェニル基を示す。ここで、炭素原子数1〜4の直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、シクロプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、iso−ブチル基、tert-ブチル基、シクロブチル基が挙げられる。なお、前記アルキル基は、各種異性体を含む。なお、式中、Rとして、好ましくはメチル基、エチル基、iso−プロピル基、tert-ブチル基;より好ましくはメチル基、エチル基;特に好ましくはメチル基である。
【0071】
【化13】

【0072】
本発明の反応式<2>の方法における一般式(5)で示されるカーボネートの使用量は、一般式(4)で示されるジオール1モルに対して、好ましくは2〜6.5モル、更に好ましくは2〜5モル、より好ましくは2〜4モル、特に好ましくは2〜3モル使用される。
【0073】
本発明の反応式<2>の方法おいて、一般式(3)で示される(3−アルキルオキセタン−3−イル)メタノールの使用量は、一般式(4)で示されるジオール1モルに対して、好ましくは1.8〜10モル、より好ましくは1.8〜5.0モル、特に好ましくは1.9〜2.5モルである。
【0074】
本発明の反応式<2>の製造方法で使用されるエステル交換触媒は、前記反応式<1>と同じく、例えば、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、アルミニウム化合物、亜鉛化合物、マンガン化合物、ニッケル化合物、アンチモン化合物、ジルコニウム化合物、チタン化合物、有機スズ化合物等のエステル交換触媒が使用できる。従って、好ましいエステル交換触媒、より好ましいエステル交換触媒及び特に好ましいエステル交換触媒、並びに好ましいチタンアルコキシド及びより好ましいチタンアルコキシドについても、前記反応式<1>に記載のものと同じである。
【0075】
本発明の反応式<2>の方法におけるエステル交換触媒の使用量は、一般式(2)で示されるポリカーボネート1gに対して、好ましくは0.000001〜0.1質量%(0.01〜1000ppm)、更に好ましくは0.00001〜0.05質量%(0.1〜500ppm)、より好ましくは0.0001〜0.03質量%(1ppm〜300ppm)、特に好ましくは0.001〜0.03質量%(10ppm〜300ppm)使用される。
【0076】
本発明の反応式<2>の方法では、一般式(3)で示される(3−アルキルオキセタン−3−イル)メタノール、一般式(4)で示されるジオール、一般式(5)で示されるカーボネート、及びエステル交換触媒を上記の使用量を用いて製造することにより、例えば、硬化性樹脂化合物のモノマーとして良好な、前記アルキレンカーボネート構造の繰り返し単位の平均数:n、オキセタン導入率、数平均分子量を有する一般式(1)で示される分子末端にオキセタンを有するポリカーボネートを得ることができる。
【0077】
本発明の反応式<2>の方法は、例えば、一般式(3)で示される(3−アルキルオキセタン−3−イル)メタノール、一般式(4)で示されるジオール、一般式(5)で示されるカーボネート、及びエステル交換触媒を、震とう、撹拌等の操作により混合して反応させる方法等によって行われる。
【0078】
本発明の反応式<2>の方法における反応温度及び反応圧力は、好ましくは100〜200℃であって、更に反応圧力が0.01〜102kPa(絶対圧);より好ましくは120〜150℃であって、更に反応圧力が、0.01〜20kPa(絶対圧)である。また、本発明の反応は、一般式(3)で示される(3−アルキルオキセタン−3−イル)メタノール、一般式(4)で示されるジオール、及び一般式(5)で示されるカーボネートとの反応でアルコール類が副生する反応であるが、その反応形式は、反応系と生成系との間に化学平衡がある平衡反応である。従って、本発明の反応式<2>の製造方法では、前記副生するアルコール類の留出が、150℃以下の反応温度で止まった段階で反応圧力を更に減圧にすることにより、反応をより促進させることができる。
【0079】
本発明の反応式<1>及び反応式<2>の製造方法は、別途反応溶媒を使用して反応を行うことも、又は無溶媒にて反応を行うこともできる。使用される反応溶媒は、反応を阻害するものでなければ、特に制限されない。このような溶媒としては、例えば、ジクロロメタン、クロロホルム等の含ハロゲン系溶媒;テトラヒドロフラン、イソプロピルエーテル、t−ブチルメチルエーテル等のエーテル系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒;アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル系溶媒;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン(NMP)等のアミド系溶媒等が挙げられる。なおこの反応溶媒は単独でも2種以上混合して使用してもよい。また、反応溶媒の使用量は、反応の進行を遅くしたり、停止させたりする量でなければ特に制限されず、必要に応じて適宜決められる。しかしながら、反応終了後の処理等を考慮した場合、本発明の製造方法は、無溶媒にて反応を行うことが望ましい。
【0080】
また、本発明の反応式<1>及び反応式<2>の製造方法は、反応系内(反応環境)は非水条件下であることが望ましく、また使用される一般式(3)で示される(3−アルキルオキセタン−3−イル)メタノール、一般式(4)で示されるジオール、一般式(5)で示されるカーボネート、及びエステル交換触媒1g中の含有水分量についても、0.1質量%以下(1000ppm以下)であることが望ましい。
【0081】
以上のようにして、得られた本発明の一般式(1)で示される分子末端にオキセタンを有するポリカーボネートは、カチオン重合が可能であり、公知の方法により、公知のオキセタン化合物と同様に重合することができる。そこで、本発明の一般式(1)で示される分子末端にオキセタンを有するポリカーボネートは、例えば、光硬化性又は熱硬化性樹脂化合物のモノマーとして、例えば、耐熱レジスト、コート材、接着剤等の原料、又は粉体塗料の架橋剤、改質剤等として利用することが可能である。
【実施例】
【0082】
次に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
なお、末端にオキセタンを有するポリカーボネート中のオキセタン導入率及び数平均分子量(Mn)は、下記に示すH−NMRスペクトルの積分値計算により決定した。
【0083】
<本発明の分子末端にオキセタンを有するポリカーボネートの数平均分子量>
H−NMRの測定)
本発明で得られた分子末端にオキセタンを有するポリカーボネートは、それぞれ、重クロロホルムに溶解してNMR測定用サンプルを調整し、H−NMRスペクトル測定(ブルカー・バイオスピン社製「AVANCE500型」)をノンデカップリングで行った。
【0084】
(繰り返し単位の分子構造の平均数の算出)
得られたスペクトルデータより、分子末端のオキセタンに隣接するメチレン部位の水素原子(H−NMRでの化学シフトの値;δ(ppm):4.20〜4.40)の積分値を1とした場合における、ポリカーボネート主鎖中のカーボネート基に隣接するメチレン部位の水素原子(H−NMRでの化学シフトの値;δ(ppm):4.00〜4.20)の積分値との比を、前記一般式(1)中に示される繰り返し単位の分子構造の平均数である、nとして示した。
【0085】
(数平均分子量の算出)
本発明で得られた分子末端にオキセタンを有するポリカーボネートの数平均分子量は、前記にて算出された繰り返し単位の分子構造の平均数nと繰り返し単位の構造の分子量の積に末端の分子量を加味して算出した。
【0086】
(オキセタン導入率の算出)
得られたスペクトルデータより、分子末端のオキセタンに隣接するメチレン部位の水素原子(H−NMRでの化学シフトの値;δ(ppm):4.20〜4.40)の積分値をX、分子末端の水酸基に隣接するメチレン部位の水素原子(H−NMRでの化学シフトの値;δ(ppm):3.50〜3.70)の積分値をY、分子末端のメチルカーボネート基のメチル基部位の水素原子(H−NMRでの化学シフトの値:3.65〜3.85ppm)の積分値をZとし、オキセタン導入率(%)を[(X/2)/{(X/2)+(Y/2)+(Z/3)}]*100(%)として算出した。
【0087】
実施例1
撹拌装置、加熱装置、蒸留装置、及び温度計を備えた内容積300mlのガラス製フラスコにポリカーボネートジオール(「ETERNACOLL(登録商標) UH−200」、宇部興産(株)製;1,6−ヘキサンジオールと炭酸ジメチルとを反応させて得られたポリカーボネートジオール:平均分子量2000)96.99g(0.048mol)、ジメチルカーボネート26.21g(0.29mol)およびテトラブトキシチタン9.5mgを加え、常圧下、アルゴン気流下、内温を徐々に昇温させながら、90〜180℃で5時間加熱撹拌した。その後、反応液に(3−エチルオキセタン−3−イル)メタノール22.53g(0.19mol)を加え、内温150℃で、反応容器内を徐々に減圧し、メタノールを留去させながら、36時間加熱撹拌し、目的とする末端にオキセタンを有するポリカーボネートを黄白色ワックス状固体として、66.67gを得た。
【0088】
得られた分子末端にオキセタンを有するポリカーボネート(ポリヘキサメチレンカーボネートの末端ジオキセタン化合物)は、H−NMRより、オキセタン導入率95.9%、数平均分子量1522、繰り返し単位の平均数:nは、8.77であった。また、得られた分子末端にオキセタンを有するポリカーボネートの熱物性について、DSC220C型(セイコー電子工業社製)を用いて測定したところ、融点:42℃、ガラス転移点:−59.0℃であった。
【0089】
実施例2
撹拌装置、加熱装置、蒸留装置、及び温度計を備えた内容積200mlのガラス製フラスコにポリカーボネートジオール(「ETERNACOLL(登録商標) UH−200」、宇部興産(株)製;1,6−ヘキサンジオールと炭酸ジメチルとを反応させて得られたポリカーボネートジオール:平均分子量2000)101.95g(0.051mol)、ジメチルカーボネート26.53g(0.29mol)およびテトラブトキシチタン9.5mgを加え、常圧下、アルゴン気流下、内温を徐々に昇温させながら、90〜180℃で22時間加熱撹拌した。この間、メタノールを含む液を蒸留で留去させた。その後、反応液に(3−エチルオキセタン−3−イル)メタノール16.60g(0.14mol)を加え、内温150℃で、反応容器内を徐々に減圧し、メタノールを留去させながら、100時間加熱撹拌し、目的とする末端にオキセタンを有するポリカーボネートを黄白色ワックス状固体として、107.69g得た。
【0090】
得られた分子末端にオキセタンを有するポリカーボネートは、H−NMRより、オキセタン導入率98.9%、数平均分子量2015、繰り返し単位の平均数:nは、12.44であった。また、得られた分子末端にオキセタンを有するポリカーボネートの熱物性について、DSC220C型(セイコー電子工業社製)を用いて測定したところ、融点:43℃、ガラス転移点:−56.3℃であった。
【0091】
実施例3
撹拌装置、加熱装置、蒸留装置、及び温度計を備えた内容積500mlのガラス製フラスコに1,6−ヘキサンジオール95.51g(0.81mol)、ジメチルカーボネート291.23g(3.23mol)およびテトラブトキシチタン9.5mgを加え、常圧下、アルゴン気流下、内温を徐々に昇温させながら、90〜150℃で17時間、その後、内温150℃、10kPaで5時間加熱撹拌した。この間、メタノールを含む液を蒸留で留去させた。その後、更に132℃、0.30kPa下にて蒸留し、数平均分子量236のポリカーボネート95.2gを得た。
次に、撹拌装置、加熱装置、蒸留装置、及び温度計を備えた内容積200mlのガラス製フラスコに上記で合成したポリカーボネート70.13g(0.30mol)、(3−エチルオキセタン−3−イル)メタノール69.55g(0.60mol)およびテトラブトキシチタン7.0mgを入れ、常圧下、アルゴン気流下、内温を徐々に昇温させながら、150℃まで昇温させた。その後、内温150℃で、反応容器内を徐々に減圧し、メタノールを留去させながら、64時間加熱撹拌し、目的とする末端にオキセタンを有するポリカーボネートを黄色粘性液体として、103.28g得た。
【0092】
得られた分子末端にオキセタンを有するポリカーボネートは、H−NMRより、オキセタン導入率99.5%、数平均分子量447、繰り返し単位の平均数:nは、1.31であった。また、得られた分子末端にオキセタンを有するポリカーボネートの熱物性について、DSC220C型(セイコー電子工業社製)を用いて測定したところ、ガラス転移点:−63.0℃であった。
【0093】
実施例4
撹拌装置、加熱装置、蒸留装置、及び温度計を備えた内容積200mlのガラス製フラスコに1,4−ブタンジオール50.0g(0.55mol)、ジメチルカーボネート99.96g(1.11mol)および酢酸亜鉛50mgを加え、常圧下、アルゴン気流下、内温を徐々に昇温させながら、90〜150℃で15時間、その後、内温150℃、5kPa下にて2時間加熱撹拌した。この間、メタノールを含む液を蒸留で留去させた。その後、更に反応液に(3−エチルオキセタン−3−イル)メタノール23.31g(0.20mol)を加え、内温150℃にて、反応容器内を徐々に減圧してメタノールを留去させながら、100時間加熱撹拌し、目的とする末端にオキセタンを有するポリカーボネートを黄白色ワックス状固体として、72.47g得た。
【0094】
得られた分子末端にオキセタンを有するポリカーボネートは、H−NMRより、オキセタン導入率97.9%、数平均分子量1292、繰り返し単位の平均数nは、8.94であった。また、得られた分子末端にオキセタンを有するポリカーボネートの熱物性について、DSC220C型(セイコー電子工業社製)を用いて測定したところ、ガラス転移点:−46.0℃であった。
【0095】
実施例5
撹拌装置、加熱装置、蒸留装置、及び温度計を備えた内容積200mlのガラス製フラスコに1,4−シクロヘキサンジメタノール55.6g(0.39mol)、ジメチルカーボネート138.95g(1.54mol)およびテトラブトキシチタン9.5mgを加え、常圧下、アルゴン気流下、内温を徐々に昇温させながら、90〜150℃で9時間、その後、内温180℃、10kPa下にて2時間加熱撹拌した。この間、メタノールを含む液を蒸留で留去させた。その後、更に反応液に(3−エチルオキセタン−3−イル)メタノール51.39g(0.44mol)を加え、内温150℃で、反応容器内を徐々に減圧してメタノールを留去させながら、100時間加熱撹拌し、目的とする末端にオキセタンを有するポリカーボネートを淡黄色ワックス状固体として、72.37gを得た。
【0096】
得られた分子末端にオキセタンを有するポリカーボネートは、H−NMRより、オキセタン導入率95.5%、数平均分子量636、繰り返し単位の平均数:nは、2.22であった。また、得られた分子末端にオキセタンを有するポリカーボネートの熱物性について、DSC220C型(セイコー電子工業社製)を用いて測定したところ、ガラス転移点:−28.5℃であった。
【0097】
比較例1(分子末端にエポキシ基を有するポリカーボネートの合成)
撹拌装置、加熱装置、蒸留装置、及び温度計を備えた内容積100mlのガラス製フラスコに実施例3と同様の方法で得られた数平均分子量234のポリカーボネート36.2g(0.15mol)、グリシドール25.2g(0.34mol)及びテトラブトキシチタン9.5mgを加え、常圧下、アルゴン気流下、120℃で6時間加熱撹拌した。その後、更に内温150℃、50〜30kPa下にて6時間加熱撹拌したところ、溶媒に不溶な白色固体の生成により撹拌が困難になったので反応を停止した。得られた白色固体を濾過し、赤外吸収スペクトル(「FTS7000e型」、Agilent Technologies社製)の測定を行ったところ、3383.1cm−1(O−H伸縮振動に関する吸収)、2874.5cm−1(C−H伸縮振動に関する吸収)、1074.8cm−1(エーテル、又はエポキシド部位に関する吸収)が確認されたが、炭酸エステル部位(C=O伸縮振動)に関する吸収は確認されなかった。また、得られた濾液を濃縮し、H−NMRスペクトルの測定も行ってみたが、原料のポリカーボネートであった。
【0098】
上記より、実施例3で使用した4員環のエーテル化合物(オキセタン化合物)である3−エチルオキセタン−3−イル)メタノールを、比較例1では3員環のエーテル化合物(エポキシ化合物)であるグリシドールに代えて、実施例3と同様の方法で、エステル交換反応を行ってみたが、目的とする分子末端にエポキシ基を有するポリカーボネートは、全く生成していないことが確認された。
【0099】
実施例6(耐(酸性)加水分解性試験)
撹拌装置を備えた内容積20mlのガラス製フラスコに実施例3で得た末端にオキセタンを有するポリカーボネート(オキセタン導入率99.5%、数平均分子量447)1.00g、t−ブチルアルコール5.00g、および0.5mol/L硫酸水溶液0.50gを入れ試験溶液を調整し、これを、常圧下、室温にて120時間撹拌した。その際、前記ポリカーボネートのカーボネート部分が加水分解された割合の経時変化を測定するため、適宜サンプリングして、H-NMRスペクトル分析を行い、加水分解率(%)を下記に示す方法で算出した。その結果を表1に示す。
【0100】
<加水分解率(%)の算出方法>
H−NMRの測定)
耐加水分解性試験を行った分子末端にオキセタンを有するポリカーボネートを含む反応溶液を重アセトニトリルに溶解してNMR測定用サンプルを調整し、これをNMR(「AVANCE500型」、ブルカー・バイオスピン社製)を用いて、H−NMRスペクトルの測定をノンデカップリングで行った。
【0101】
(加水分解率(%)の算出)
得られたスペクトルデータより、分子末端の水酸基に隣接するメチレン部位の水素原子(H−NMRでの化学シフトの値;δ(ppm):3.40〜3.60)の積分値をA、ポリカーボネート主鎖中のカーボネート基に隣接するメチレン部位の水素原子(H−NMRでの化学シフトの値;δ(ppm):4.00〜4.20)の積分値をBとし、加水分解率(%)を{A/(A+B)}*100(%)として算出した。
【0102】
【表1】

【0103】
比較例2(耐(酸性)加水分解性試験;ジオキセタンアジペート)
撹拌装置を備えた内容積20mlのガラス製フラスコにジオキセタンアジペート(数平均分子量342)1.00g、t−ブチルアルコール5.00g、および0.5mol/L硫酸水溶液0.50gを入れ、試験溶液を調整し、これを、常圧下、室温で120時間撹拌した。その際、ジオキセタンアジペートのエステル部分が加水分解された割合の経時変化を測定するため、適宜サンプリングして、H-NMRスペクトル分析を行い、加水分解率(%)を算出した。その結果を表2に示す。
【0104】
<加水分解率(%)の算出方法>
H−NMRの測定)
耐加水分解性試験を行ったジオキセタンアジペートを含む反応溶液を重アセトニトリルに溶解してNMR測定用サンプルを調整し、これをNMR(「AVANCE500型」、ブルカー・バイオスピン社製)を用いて、H−NMRスペクトルの測定をノンデカップリングで行った。
【0105】
(加水分解率(%)の算出)
得られたスペクトルデータより、加水分解され生成する(3−アルキルオキセタン−3−イル)メタノールの水酸基に隣接するメチレン部位の水素原子(H−NMRでの化学シフトの値;δ(ppm):3.50〜3.70)の積分値をA、エステル結合基とオキセタンに挟まれたメチレン部位の水素原子(H−NMR法での化学シフトの値;δ(ppm):4.10〜4.30)の積分値をBとし、加水分解率(%)を{A/(A+B)}*100(%)として算出した。
【0106】
【表2】

【0107】
表1及び表2の結果から、分子末端にオキセタンを有するポリカーボネートは、分子末端にオキセタンを有するエステルよりも耐加水分解性(耐酸性)に優れる特長を有する。
【0108】
参考例1(硬化性樹脂化合物の製造)
実施例1で得られたヘキサメチレンポリカーボネートジオキセタン(数平均分子量1522)2.0036gにテトラヒドロフラン1.02g添加し均一な溶液にした後、熱カチオン重合開始剤(「サンエイド SI−150L」、三新化学工業社製)0.0389gを添加し、硬化性組成物を調製した。この硬化性組成物を直径4cmの円形の容器に充填し、オーブンで110〜130℃で6時間加熱することで、目的とする硬化性樹脂化合物を得た。
【0109】
硬化性樹脂化合物の熱物性について、DSC220C型(セイコー電子工業社製)を用いて測定したところ、ガラス転移点:−51.1℃であった。
【0110】
硬化性樹脂化合物の赤外吸収スペクトル(「Varian3100」、VARIAN社製)の測定を行ったところ、1741.7cm−1、1259.5cm−1(炭酸エステル部位に関する吸収)が確認された。
【0111】
上記参考例1より、本発明の一般式(1)で示される分子末端にオキセタンを有するポリカーボネートを用いて、硬化性樹脂化合物を実際に製造することができた。得られた硬化性樹脂化合物は、例えば、優れた透明性、耐衝撃性、耐熱性、耐加水分解性等のカーボネート構造に特有の物性と併せ、オキセタン部位の重合により新たに形成した架橋部位がエーテル結合であるため、例えば、低吸湿性で優れた電気特性等の特徴が期待される。そこで、この硬化性樹脂化合物の特徴を利用して、本発明の一般式(1)で示されるポリカーボネートから得られた硬化性樹脂化合物を、例えば、航空機・自動車等の輸送機器、電気電子・光学・医療機器等の様々な分野における成型品等に使用することが期待できる。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明の製造方法により、分子末端に重合性のオキセタン基を有する、新規なポリカーボネートを提供することができる。更に、本発明の前記ポリカーボネートは、ポリカーボネート自体が有する、優れた透明性、耐衝撃性、耐熱性、耐加水分解性等の物性を保持しつつ、オキセタン部位の開環重合により、硬化性樹脂化合物となることを利用して、例えば、航空機・自動車等の輸送機器、電気電子・光学・医療機器等の様々な分野での成型品、耐熱レジスト剤、コート剤又は接着剤等の原料、或いは粉体塗料の架橋剤又は改質剤等として使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で示される分子末端にオキセタンを有するポリカーボネート。
【化1】

(式中、Rは炭素原子数1〜4の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を示す。Rは、直鎖状又は分岐鎖状の炭素原子数3〜12のアルキレン基を示し、当該アルキレン基は、不飽和炭化水素基、芳香族炭化水素基、脂環式炭化水素基又はヘテロ原子を有していても良い。nは、アルキレンカーボネート構造の繰り返し単位の平均数を表し、1〜30の実数を示す。なお、nが1を超える場合は、それぞれのRが異なるものであってもよい)
【請求項2】
が、直鎖状又は分岐鎖状の炭素原子数3〜12のアルキレン基を示し、かつnが1〜15の実数である、請求項1に記載の分子末端にオキセタンを有するポリカーボネート。
【請求項3】
が、直鎖状又は分岐鎖状の炭素原子数3〜6のアルキレン基を示し、かつnが1〜5の実数である、請求項1に記載の分子末端にオキセタンを有するポリカーボネート。
【請求項4】
オキセタン導入率が90%以上である、請求項1から請求項3のいずれか一つに記載の分子末端にオキセタンを有するポリカーボネート。
【請求項5】
一般式(2)で示されるポリカーボネート化合物と一般式(3)で示される(3−アルキルオキセタン−3−イル)メタノールを反応させる、請求項1に記載の分子末端にオキセタンを有するポリカーボネートの製造方法。
【化2】

(式中、Rは、直鎖状又は分岐鎖状の炭素原子数3〜12のアルキレン基を示し、当該アルキレン基は、不飽和炭化水素基、芳香族炭化水素基、脂環式炭化水素基又はヘテロ原子を有していても良い。Rは炭素原子数1〜4の直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキル基又はフェニル基を示し、mは、アルキレンカーボネート構造の繰り返し単位の平均数を示し、1〜30の実数を示す。なお、mが1を超える場合は、それぞれのRが同一であっても、又は異なるものであっても良い)
【化3】

(式中、Rは炭素原子数1〜4の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を示す)
【請求項6】
一般式(4)で示されるジオール、一般式(5)で示されるカーボネート、及び一般式(3)で示される(3−アルキルオキセタン−3−イル)メタノールを反応させる、請求項1に記載の分子末端にオキセタンを有するポリカーボネートの製造方法。
【化4】

(式中、Rは、直鎖状又は分岐鎖状の炭素原子数3〜12のアルキレン基を示し、当該アルキレン基は、不飽和炭化水素基、芳香族炭化水素基、脂環式炭化水素基又はヘテロ原子を有していても良い)
【化5】

(式中、Rは炭素原子数1〜4の直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキル基、又はフェニル基を示す)
【化6】

(式中、Rは炭素原子数1〜4の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を示す)

【公開番号】特開2011−219750(P2011−219750A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−66409(P2011−66409)
【出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】