説明

分子相互作用パラメータの決定のための方法及びシステム

【課題】固体支持体表面に固定されたリガンドと溶液中のリガンドに対する結合パートナーとの間の可逆的分子相互作用についての反応速度論的パラメーターを決定する方法を提供する。
【解決手段】固定化リガンドの途中での再生又は更新を行わずに、固体支持体表面を、順次、種々の既知濃度の結合パートナーを含有する複数の流体体積に暴露して、結合パートナーを固定化リガンドに結合させる工程と、時間及び結合パートナーの溶液濃度に関して、固体支持体表面に結合した結合パートナーの経時的な量をモニタリングして、結合データを収集する工程と、結合パートナーと固定化リガンドとの間の相互作用に関する所定の結合相互作用モデルを、収集した結合データに全体的にフィットさせることによって反応速度論的パラメーターを求める工程とを含む方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分子相互作用のための反応速度論的パラメーターの決定に関し、より詳細には、固体支持体表面に固定化された分子と、溶液中の分子への結合パートナーとの間の相互作用のための反応速度論的パラメーターを決定するための方法に関する。本発明はまた、この方法を実行するための分析システム、コンピュータプログラム製品、及びコンピュータシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
リアルタイムで生体分子などの分子間の相互作用をモニタリングし得る分析センサーシステムは、関心が高まりつつある。通常相互作用分析センサーシステム又は生物特異的相互作用分析センサーシステムと呼ばれるこれらのセンサーシステムは、しばしば光学的生物センサー及び親和性分析に基づき、かつ相互作用を行う分子を標識する必要とせずに、とりわけ平衡常数及び速度定数をリアルタイムで決定するための迅速な方法を提供する。これらは、タンパク質、核酸、脂質、及び炭水化物を含む種々の生体分子の研究において使用されてきた。これらのシステムにおいて、それに固定化された分子反応物の1つを有するセンサー表面は、センサー表面を通り過ぎる溶液の流れを与えることによって、又はキュベットなどの中においてのいずれかで他の反応物を含む溶液と接触され、表面での結合相互作用が検出される。
【0003】
従来、例えば、2つの相互作用する分子の間の相互作用についての結合常数及び解離定数(それぞれKa及びKd)を決定するために、1つの分子(しばしばリガンドと呼ばれる)をセンサー表面に固定化し、かつ他の分子(しばしば分析物と呼ばれる)がいくつかの既知の濃度の溶液で供給される。次いで、各濃度の分析物又はサンプルが、センサー表面を通り過ぎた層流中で、又はキュベットなどの中でセンサー表面と接触され、センサー表面への分析物の結合を可能にする。サンプルがセンサー表面と接触させられるようになった後で、この表面は分析物を含まない溶液(通常は緩衝液)を接触されて、固定化リガンドからの分析物の解離を可能にする。これらの結合フェーズ及び解離フェーズの間、表面への分析物の結合の量を連続的に検出し、結合データを収集する。新たな分析物濃度の試料とセンサー表面に接触される前に、リガンド表面は、リガンドを破壊しないようにしながら、結合した分析物のいかなるものをも除去することが可能な再生溶液で表面を処理することによって、回復又は「再生」が行われる。このような方法において、すべての異なるサンプルは、リガンド密度に関係する限り、本質的に1つでありかつ同じであるリガンド表面に接触する。次いで、結合定数及び解離定数が、異なる式の型における相互作用モデルの数学的記述にデータをフィットさせることによって、収集された結合データから得られ得る。通常、サンプルについての結合データすべてが同じフィットにおいて使用され、これはグローバルフィッティングと呼ばれる手順である。相互作用についての決定された結合速度定数及び解離速度定数Ka及びKd、平衡定数KD、及び親和性定数KA(KA=1/KD)が次に計算することができる。代替的には、結合フェーズの間に相互作用が定常状態に達するという条件で、平衡定数は、フィッティングなしで結合データから直接的に得られ得る。
【0004】
しかし、リガンドがセンサー表面に共有結合的に固定化され、かつ適切な再生条件を見出すことが困難である場合に問題が生じ得る。次いで、新たな各分析物濃度との接触の前に、固定化された捕捉剤を介する更新されたリガンドの結合が代替的であり得るが、決定のために大量のリガンドを消費する欠点を有する。
【0005】
固定化リガンドの再生のための要件を必要としない滴定手順による平衡定数の決定は、Schuck,P.ら(1998)Anal.Biochem.265,79−91によって記載されている。サンプルは、市販の表面プラズモン共鳴バイオセンサーの2つのセンサースポットに対して密封したループ中で連続的に循環させる。センサースポットの1つは試料中の可溶性分析物のための固定化リガンドで官能化され、他方のセンサースポットは参照表面として働く。相互作用分子のための結合等温線は、循環しているループへの分析物の段階的平衡滴定によって得られ、すなわち、センサースポットに、各濃度について平衡が得られるまで段階的な濃度増加の分析物を順次接触させる。この平衡滴定は、高親和性システムにおける結合定数の決定のために特に有用であると言われている。なぜなら、これは、結合の反応速度論の解釈の必要性、及びそれによって物質移動制限から生じ得る問題を除外するからである。
【0006】
同様の段階的な平衡滴定手順は、Hall,D.R.及びWinzor,D.J.(1997)Anal.Biochem.244,152−160においてキュベットベースのバイオセンサー設計のために記載されている。
【0007】
Myszka,D.G.ら(1998)Anal.Biochem.265,326−330は、表面プラズモン共鳴に基づくバイオセンサーを使用する高親和性相互作用の平衡分析を開示している。このアプローチにおいて、結合フェーズのデータを収集するために利用可能な時間は、ランニング緩衝液に分析物を直接的に配置することによって増加される。完全な平衡結合プロフィールは、分析物の濃度を変化させること、及び表面反応が再平衡化することを可能にすることによって、再生なしで生成された。分析物濃度もまた、結合反応が完全に可逆的であることを実証するために減少させられた。このようにして、非常に高い親和性の相互作用についての平衡解離定数が決定することができる。
【0008】
Shank−Retzlaff,M.L.及びSligar,S.G.(2000)Anal.Chem.72.4212−4220は、表面再生のための必要を取り除く、分析物勾配表面プラズモン共鳴SPR(AG−SPR)と呼ばれる技術によって反応速度論的速度及び平衡結合親和性を決定するための1段階方法を記載している。分析物の勾配は、連続流条件下でセンサー表面に対して通過され、その結果、分析物の濃度が経時的に直線的に増加する。分析物がセンサー表面上の固定化リガンドに結合する速度は、分析物濃度が増加するにつれて表面プラズモン共鳴の変化をモニタリングすることによって確認される。反応速度論的速度は、物質移動制限の下でのシステムについてもまた使用を可能にする、分子的相互作用のためのコンパートメントモデル2つにデータをフィットさせることによって決定される。
【0009】
結合能力及び再生条件を決定するための滴定手順は、Karlsson,R.ら、Biasymposium 1998,Edinburgh 2−4 September 1998,5th Biasymposium in Japan,Tokyo,November 5−6,1998によって提案されている。
【0010】
米国特許出願公開第2003/0143565号には、分析物と、センサー表面に固定化されたリガンドとの間の速度定数を含む相互作用パラメーターを決定するための方法が開示されており、測定は、連続して数回、例えばキュベット中で、各回の分析物濃度の段階的な修飾を伴って実行することができる。測定は、平衡まで完了される必要はないが、より初期に中断してもよく、かつ分析物の濃度はより高くてもよいし、低くてもよい。各分析物濃度に対応する曲線部分を結合するための別々のフィッティングは、それぞれの最初の結合速度を決定するために使用され、次いで、そこから相互作用の結合定数及び解離定数が決定される。
【0011】
このように、平衡結合親和性を決定するための、バイオセンサー及び親和性分析を組み合わせた滴定手順は当該分野においてそれ自体公知であるが、反応速度論的速度定数を決定するための複数の滴定の使用は、上記に言及した刊行物、Shank−Retzlaff,M.L.及びSligar,S.G.(2000)及び米国特許出願公開第2003/0143565号においてのみ開示されているようである。Shank−Retzlaff,M.L.及びSligar,S.G.(2000)に従う方法は、これが分析物の連続勾配の使用を必要とするという制限に遭遇しており、他方、最初の結合速度がしばしば輸送の制限に起因して反応速度論的結合速度よりも低く、これが反応速度論的分析において信頼性の低い最初の結合速度を生じるという点では不利である。さらに、この型の評価は、分析物濃度の注入の順番を制限する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
それゆえに、先行技術から、(i)分析物の連続的勾配が使用されるものではない限り、又は最初の結合速度が物質移動制限を含まないシステムにおいて決定されるのではない限り、バイオセンサー及び親和性分析に基づくシステムを使用する分子相互作用についての反応速度論的速度を決定するために、センサー表面を異なる濃度の分析物と接触させる前に固定化リガンドを再生し、それによって各分析物濃度に対して本質的に1つでありかつ同じリガンド表面を提示することが必要となることが結論付けられ得る。
【0013】
本発明の1つの目的は、段階的滴定によって、反応速度論的速度定数を含む化学的な相互作用パラメーターを決定するためのセンサーに基づく方法を提供することであり、その方法は、物質移動制限下での測定を可能にしながら、再生手順を取り除く。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に従って、上記その他の目的が化学的相互作用パラメーターを決定するための親和性センサーに基づく方法によって達成できるという予想外の知見が得られ、この方法は、1つの同じ実験的サイクルにおいて、センサー表面の途中での再生を行わずに、分析物濃度の段階的変化を実行する工程、及び物質移動制限を考慮した分子相互作用のための反応速度論的モデル(例えば、2コンパートメントモデルなど)に関して検出された結合データのセットすべての全体的分析を使用して相互作用パラメーターを決定する工程を包含する。従って、このようにして、反応速度論的データは分子の移動制限に関わらず得られ得、かつ異なる分析物濃度を任意の順序で使用することができる。
【0015】
それゆえに、1つの態様では、本発明は、センサー表面に固定化されたリガンドと溶液中のリガンドに対する結合パートナー(分析物)との間の可逆的分子相互作用についての反応速度論的パラメーターを決定する方法を提供するが、この方法は、以下の工程:
a)上記固定化リガンドの途中での再生又は更新を行わずに、上記固体支持体表面に、順次、種々の既知濃度の上記結合パートナーを含む複数の流体体積を流して、上記固定化リガンドに結合パートナーを結合させる工程と、
b)上記固体支持体表面に対して結合パートナーを含まない1つの流体体積を流して、上記リガンドから結合パートナーを解離させる工程と、
c)工程a)及びb)の際に、時間及び結合パートナーの溶液濃度に関連して、上記固体支持体表面に結合した上記結合パートナーの経時的な量をモニタリングして、結合データを収集する工程と、
d)上記結合剤と固定化リガンドとの間の相互作用についての所定の反応速度論的モデルを、収集された結合データに対して、好ましくは全体的にフィットさせることによって反応速度論的パラメーターを決定する工程であって、このモデルが固体支持体表面での物質移動制限を考慮したものである、工程と
を含む。
【0016】
改良方法において、異なる濃度の結合パートナーは、結合パートナーの勾配を生成する工程、及び結合パートナーを含まない液体のセグメントと勾配のセグメントを交差させる工程によって得られる。
【0017】
別の態様では、それゆえに本発明は、センサー表面に固定化されたリガンドと溶液中のリガンドに対する結合パートナー(分析物)との間の可逆的分子相互作用についての反応速度論的パラメーターを決定する方法を提供するが、この方法は、以下の工程:
a)上記固定化リガンドの途中での再生又は更新を行わずに、上記固体支持体表面に、順次、種々の濃度の結合パートナーを含む複数の流体体積を流して、固定化リガンドに結合パートナーを結合させる工程であって、結合パートナーを含む流体体積が、結合パートナーを含まない液体のセグメントによって分離された結合パートナーの濃度勾配の不連続なセグメントである、工程と、
b)工程a)の際に、時間及び結合パートナーの溶液濃度に関連して、上記固体支持体表面に結合した上記結合パートナーの経時的な量をモニタリングして、結合データを収集する工程と、
c)各結合パートナーと固定化されたリガンドとの間の相互作用についての所定の反応速度論的モデルを、収集された結合データに対してフィットさせることによって反応速度論的パラメーターを決定する工程
を含む。
【0018】
好ましくは、上記モデルは固体支持体表面での物質移動制限を考慮したものである。
【0019】
すべての勾配セグメントの濃度が未知である場合、未知の濃度は見積もられ得る。これは、例えば、局所的フィッティングの濃度を含む工程d)におけるフィッティングを有することによってなし得る。
【0020】
固体支持体表面は、好ましくはセンサー表面であり、すなわち、表面において結合相互作用に応答して検出可能なシグナルを産生するものである。
【0021】
用語「モニタリングする」とは、本明細書中で使用される場合、検出が工程a)及びb)の間に複数回、好ましくは多数回実行されることを意味する。
【0022】
別の態様では、本発明は、複数の結合パートナーを含有するサンプル中で結合パートナーの濃度を決定するための方法を提供する。
【0023】
なお別の態様では、本発明は、複数の異なる結合パートナーについての反応速度論的パラメーターを決定するための方法を提供する。
【0024】
別の態様では、本発明は、分子相互作用を研究するための分析システムを提供し、このシステムは、少なくとも1つの方法を実行するためのデータ処理手段を備える。
【0025】
さらに別の態様では、本発明は、少なくとも本発明の1つの方法を実行するためのプログラムコード手段を備えるコンピュータプログラムを提供する。
【0026】
なお別の態様では、本発明は、少なくとも1つの本発明の方法を実行するために、コンピュータ読み取り可能な媒体上に保存されるか、又は電子的シグナルもしくは光学的シグナルで伝達されるプログラムコード手段を備えるコンピュータプログラム製品を提供する。
【0027】
別の態様では、本発明は、少なくとも1つの本発明の方法を実行するために、プログラムコード手段を備えるコンピュータプログラムを備えるコンピュータシステムを提供する。
【0028】
他の特徴、新たな特徴、及び本発明の目的は、添付の図面と合わせて考慮される場合に、以下の発明の詳細な説明から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】図1は、表面プラズモン共鳴(SPR)に基づくバイオセンサーシステムの模式側面図である。
【図2】図2は、結合フェーズ及び解離フェーズを有する結合曲線を伴う代表的なセンサグラムである。
【図3】図3は、本発明の方法に従う、固定化キナーゼを有する表面に対するキナーゼインヒビター(スタウロスポリン)の順次注入によって得られる代表的なセンサグラムである。
【図4】図4は、グローバルフィッティングから得られる、その上に重ね合わせ表示された結合曲線を有する図3のセンサグラムである。
【図5】図5は、パルス濃度勾配についてのシステムの概略図である。
【図6】図6は、パルス濃度勾配を作製するための代替的なシステムの概略図である。
【図7】図7は、固定化炭酸脱水酵素を有する表面に対する炭酸脱水酵素インヒビター(アセタゾレミド)の順次注入についての観察されたデータ及びフィットされた結合データの重ね合わせ表示プロットである。
【図8】図8は、別の炭酸脱水酵素インヒビター(アゾスルファミド)の順次注入についての図7と図8のそれと同様の重ね合わせ表示である。
【図9】図9は、さらに別の炭酸脱水酵素インヒビター(ベンゼンスルホンアミド)の順次注入についての図7のそれと同様の重ね合わせ表示である。
【図10】図10は、固定化トロンビンを有する表面に対するトロンビンインヒビター(メラガトラン)の順次注入についての観察されたデータ及びフィットされた結合データの重ね合わせ表示のプロットである。
【図11】図11は、4つの結合曲線及びフィットされた重ね合わせ表示プロットであり、3つの曲線(左側)は分析物の単回注入でのセンサグラムを表し、1つの曲線(右側)は分析物の順次注入についてのセンサグラムを表す。
【図12】図12は、固定化リゾチームを有する表面に対して、ラクダ抗体(SGS)のパルス注入によって得られたセンサグラムである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
他に定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術的用語及び科学的用語は、本発明が関係する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。また、単数形(「a」、「an」、及び「the」)は、別段言及されない限り、複数形への言及を含むことを意味する。
【0031】
上述のように、本発明は、好ましくは、分子相互作用を研究するため、及び相互作用が進行するにつれて結果をリアルタイムで提示するためのセンサーに基づく技術を組み合わせた、新規な滴定型方法によって、固体支持体表面に固定化された分子と、溶液中の分子に対する結合パートナーとの間の相互作用についての反応速度論的定数を含む分子相互作用パラメーターの決定に関する。しかし、本発明をより詳細に記載する前に、本発明が使用される一般的背景が記載される。
【0032】
化学センサー又はバイオセンサーは、代表的には、センサー表面の特性(例えば、質量、屈折率、又は固定化された層の厚さなど)の変化を検出する、標識を含まない技術に基づくが、ある種の標識化に依存するセンサーもまた存在する。代表的なセンサー検出技術には、質量検出方法(例えば、光学的、熱光学的、及び圧電性)又は音波(表面音波(SAW)及び水晶振動子マイクロバランス(QCM)を含む)方法、電気化学的方法(例えば、電位測定法、導電率測定法、電流測定法、及び静電容量/インピーダンス法など)が含まれるがこれらに限定されない。光学的検出方法に関して、代表的な方法には以下のものが含まれる:物質表面濃度を検出するもの、例えば、反射−光学的方法(外部反射法と内部反射法の両方を含む)、角度、波長、偏光、又は分解されたフェーズを検出するもの、例えば、エバネセント波偏光解析法及びエバネセント波スペクトル分析法(EWS、又は内部反射スペクトル分析)が含まれ、両方が、表面プラズモン共鳴(SPR)、Brewster角度屈折測定、臨界角度屈折測定、フラストレイテッド全反射(FTR)、分散全内部反射(STIR)、これは、分散増強レベル、光学的波動ガイドセンサー;外部反射画像解析、エバネセント波ベースの画像処理、例えば、臨界角度分解画像解析、Brewster角度分解画像解析、SPR−角度分解画像解析などを含み得る。さらに、光度測定的方法及び画像処理/顕微鏡的方法が、「それ自体」、又は例えば、表面増強Ramanスペクトル測定(SERS)、表面増強共鳴Ramanスペクトル測定(SERRS)、エバネセント波蛍光(TIRF)及びリン光に基づく反射方法と組み合わせて、導波管干渉計、導波管リーキングモードスペクトル測定、反射干渉スペクトル測定(RIfS)、透過干渉計、ホログラフィックスペクトル測定、及び原子間力顕微鏡(AFR)と同様に言及することができる。
【0033】
市販のバイオセンサーには、Biacore AB,Uppsala,Swedenによって製造及び市販されているBIACORE(登録商標)システム機器が含まれ、これは、表面プラズモン共鳴(SPR)に基づき、かつ目的の結合リガンドと分析物との間でリアルタイムでの表面結合相互作用のモニタリングを可能にする。
【0034】
以下の詳細な説明及び実施例おいて、本発明は、SPRスペクトル測定の状況において、より詳細にはBIACORE(登録商標)において例証されているが、本発明はこの検出手段に限定されるものではないことが理解されるべきである。むしろ、その上に固定されたリガンドへの分析物の結合を定量的に示すセンサー表面での変化が測定できるという条件で、分析物がセンサー表面上に固定されたリガンドに結合するという親和性に基づく、任意の検出方法を利用することができる。
【0035】
SPRの現象は周知であり、SPRは、光が特定の条件下で異なる反射指数の2つの媒体間の界面において反射するときに生じることを言うためには十分であり、その界面は金属フィルム、代表的には銀又は金によってコートされる。BIACORE(登録商標)機器において、媒体はサンプル及びセンサーチップのガラス(これは流体フロー系によってサンプルと接触される)である。金属フィルムは、チップ表面上の金の薄層である。SPRは特定の角度の反射における反射光の強度の減少を引き起こす。最小の反射光強度のこの角度は、BIACORE(登録商標)システムサンプル側において、反射光からの反対側の表面に近い屈折率に伴って変化する。
【0036】
BIACORE(登録商標)システムの概略図は図1に示される。センサーチップ1はフローチャネル5を通して分析物4(例えば、抗原)を有するサンプルの流れに暴露される金フィルム2支持捕捉分子3(例えば、抗体)を有する。光源7(LED)からの単色性p−偏光6はプリズム8によってガラス/金属界面9に連結され、ここで光が全体的に反射される。反射光ビーム10の強度は光学的検出ユニット(光検出器アレイ)11によって検出される。
【0037】
BIACORE(登録商標)機器の技術的局面及びSPRの現象の詳細な説明は、米国特許第5,313,264号に見出すことができる。バイオセンサーセンサー表面についてのマトリックスコーティングについてのより詳細な説明は、例えば、米国特許第5,242,828号及び同第5,436,161号において与えられる。さらに、BIACORE(登録商標)機器と接続して使用されるバイオセンサーチップの技術的局面の詳細な説明は、米国特許第5,492,840号に見出すことができる。上述の米国特許の完全な開示は、参照として本明細書に援用される。
【0038】
サンプル中の分子がセンサーチップ表面上の捕捉分子に結合するときに、濃度、及びそれゆえに表面での屈折率が変化し、SPR応答が検出される。相互作用の過程の間の時間に対する応答をプロットすることは、相互作用の進行の定量的な尺度を提供する。このようなプロットは通常センサグラムと呼ばれている。BIACORE(登録商標)システムにおいては、SPR応答値は共鳴単位(RU)として表現される。1Ruは最小反射光強度の角度における0.0001°の変化を表し、これは、大部分のタンパク質及び他の生体分子については、センサー表面上の約1pg/mm2の濃度変化に対応する。分析物を含むサンプルがセンサー表面に接触するにつれて、センサー表面に結合したリガンドが、「結合」と呼ばれる工程において分析物と相互作用する。この工程は、サンプルが最初にセンサー表面と接触されるので、RUの増加によってセンサグラム上で示される。逆に、「解離」は、通常、サンプル流が、例えば、緩衝液流によって置き換えられるときに起こる。この工程は、分析物が表面結合リガンドから解離するにつれて時間に対するRUの低下によってセンサグラム上で示される。
【0039】
センサーチップ表面での可逆的相互作用についての代表的なセンサグラム(結合曲線)は図2に提示され、センサー表面は固定化された捕捉分子、すなわちリガンド(例えば、抗体)を有し、サンプル中のそれについての結合パートナー、すなわち分析物と相互作用する(上述の他の検出原理に基づいてバイオセンサーシステムによって産生された検出曲線、又はセンサグラムは同様の外見を呈する)。y軸は応答を示し(ここでは共鳴単位、RUで)、及びx軸は時間を示す(ここでは秒で)。最初に、緩衝液がセンサー表面に対して通過され、これによりセンサグラムにおけるベースライン応答Aが与えられる。サンプル注入の間、分析物の結合に起因するシグナルの増加が観察される。結合曲線のこのB部分は、通常「結合フェーズ」と呼ばれる。最終的に、定常状態条件に達し、ここでは、共鳴シグナルはCにおいてプラトーに達する(しかし、この状態は常に達成されなくてもよい)。サンプル注入の最後には、サンプルは連続的な緩衝液の流れで置き換えられ、かつシグナルの減少は、表面からの分析物の解離又は放出を反映する。結合曲線のD部分は、通常「解離フェーズ」と呼ばれる。分析は、再生工程によって終了され、ここでは、(理想的には)リガンドの活性を維持しながら、結合した分析物を表面から取り除くことが可能である溶液が、センサー表面に対して注入される。これは、センサグラムのE部分において示される。緩衝液の注入はベースラインAを回復し、表面はここで新たな分析のために準備可能である。
【0040】
結合及び解離のフェーズB及びDそれぞれより、結合及び解離の反応速度論的関係に関する情報が得られ、共鳴シグナルの高さは表面濃度を表す(すなわち、相互作用から生じる応答は表面上の物質濃度の変化と関連する)。このことは、以下により詳細に説明される。
【0041】
分析物Aと表面結合(固定化)捕捉分子、すなわちBとの間の可逆的反応を仮定し、これは、拡散又は制限された物質移動ではなく、偽一次反応速度論に従う。
【0042】
A+B⇔AB
この相互作用モデル(通常、Langmuirモデルと呼ばれる)は、分析物(A)が一価でありかつ均質であることの両方であること、及びリガンド(B)が均質であること、及びすべての結合事象が独立であることを仮定しており、実際、非常に多くの場合において適用可能である。
【0043】
分析物注入の間の分析物Aの表面濃度の変化の速度(=形成された複合体ABの濃度の変化の速度)は、分析物Aが進行する速度及び進行しない速度の合計である。
【0044】
【数1】

ここで[A]は分析物Aの濃度であり、[B]はリガンドBの濃度であり、[AB]は反応複合体ABの濃度であり、kaは結合速度定数であり、kdは解離速度定数である。
【0045】
時間tの後、表面での未結合リガンドBの濃度は[BT]−[AB]であり、ここで[BT]は全体又は最大の、リガンドBの濃度である。式(1)への挿入は以下を与える。
【0046】
【数2】

検出器応答単位によって(ABが検出される)、これは以下のように表現される。
【0047】
【数3】

ここでRは共鳴単位(RU)における時間tでの応答であり、Cは、溶液中における初期の、又はバルクの、遊離の分析物(A)の濃度であり、Rmaxは、分析物(A)が表面上のすべてのリガンド(B)に結合した場合に得られる応答(RUで)である。式(3)の再配列は以下を与える。
【0048】
【数4】

ここでRは共鳴単位(RU)における応答である。積分型において、式は以下の通りである。
【0049】
【数5】

ここで、式(4)に従うと、dR/dtが結合した分析物濃度Rに対してプロットされる場合、傾きはkaC+kdであり、垂直方向の切片はkamaxCとなる。バルク濃度Cが既知でありかつRmaxが決定されている場合(例えば、大幅に過剰となった分析物で表面を飽和することによって)、結合速度定数ka及び解離速度定数kdを計算することができる。しかし、より便利な方法は、積分関数(5)のフィッティング、又は数値計算及び微分方程式(4)のフィッティングであり、好ましくは以下に記載されるようなコンピュータプログラムによってである。
【0050】
解離の速度は以下のように表すことができる。
【0051】
【数6】

また、積分型では以下の通りである。
【0052】
【数7】

ここで、R0は解離フェーズの開始(表面の緩衝液洗浄を開始するとき)における応答である。
【0053】
方程式(6)は以下の通り線形化することができ、
【0054】
【数8】

ln[R/R0]対tのプロットは傾き=−kdを有する直線を生じる。しかし、より便利には、解離速度定数kdは指数関数的速度方程式(7)をフィッティングすることによって決定される。
【0055】
親和性は結合定数KA=ka/kd、又は解離定数(平衡定数とも呼ばれる)KD=kd/kaによって表現される。
【0056】
解離定数KAは、代替的には方程式(3)から決定することができ、ここで平衡においてdR/dt=0であり以下を与える。
【0057】
【数9】

ここでReqは平衡における検出器応答である。ka/kd=KAであるので、方程式(9)における挿入及び再配列は以下を与える。
【0058】
【数10】

結合反応が複数の濃度で実行される場合、データをフィットさせるか、又はReq/CをReqに対してプロットし、これが傾き=−KAを与える。このような平衡分析は、結合及び解離の速度が速すぎて正確に測定できない場合に実行することができる。
【0059】
信頼性を有する反応速度論的定数を得るために、上記の分析は、通常、多数の異なる分析物濃度について、適切に、センサー表面での少なくとも1つの他のリガンド密度で繰り返す。
【0060】
反応速度論的又は他のバイオセンサーデータの分析のためのソフトウェアは市販されている。従って、例えば、BIACORE(登録商標)機器によって生じた反応速度論的データの評価は、通常、専用のBIAevaluationソフトウェア(Biacore AB,Uppsala,Sweden)を用いて、平方した残差の和を最小まで減少させる最も密接なフィットを与える変数についての値を見出すことによって、微分速度方程式及び非線形回帰を計算して反応速度論的パラメーターをフィットさせるための数値積分を使用して実行される。残差は、各点において計算された曲線と実験的な曲線の間の違いであり、平方残差は、実験的曲線の上又は下に偏差を等しく重み付けするために使用される。平方残差の和は方程式(11)によって表現される。
【0061】
【数11】

ここでSは平方残差の和であり、rfは所定の点においてフィットされた値であり、rxは同じ点における実験値である。
【0062】
例えば、上記の分子相互作用については、このようなソフトウェア補助データ分析が、バックグラウンドノイズを減算後に、上記の式(5)及び(7)によって表現されるような上述の単純1:1Langmuir結合モデルをフィットさせる試みを行うことによって実行される。
【0063】
通常、結合モデルは、異なる分析物濃度Cを用いて(及び/又は異なるレベルの表面誘導体化Rmaxを用いて)得られた複数の結合曲線に同時にフィットされる。これは、「グローバルフィッティング」と呼ばれ、センサグラムデータに基づき、このようなグローバルフィッティングは、単一のka又はkdがすべてのデータに良好なフィットを提供するか否かを確立する。完了したフィットの結果は、操作者に画像として提示され、これは、もともとのセンサグラム上に重ね合わせ表示されたフィットされた曲線を示す。フィットの密接度はまた、標準的な統計学的尺度であるカイ二乗(χ2)値によって提示される。良好なフィッティングのために、カイ2乗値は、RU2におけるノイズと同じ規模である。選択的に、「残余プロット」がまた提供され、これは、いかにして実験データがフィットされた曲線から逸脱しているかのグラフ表示を与え、各曲線についての実験的データとフィットされたデータの間の違いを示す。次いで、操作者は、十分に良好であるか否かを決定する。十分でない場合、最も乏しいフィットを示すセンサグラム(1つ又は複数)が除外され、フィッティング手順が、減少されたセットのセンサグラムを用いて再度実行される。この手順は、フィットが満足なものになるまで繰り返す。
【0064】
場合により、上述の1:1結合反応モデルは有効ではなく、これは1つ以上の他の反応モデルを使用してデータセットが再分析されることが必要である。このような代替的なモデルには、例えば、物質移動(物質輸送)、2パラレル独立1対1反応、2競合反応、及び2状態反応が含まれ得る。パラレル反応は、固定化リガンドが不均一である場合に起こり得るのに対して、不均一な分析物は競合反応を生じ得る。2状態反応は、リガンドと分析物の間のより安定な複合体に次第に導く高次構造の変化を示す。これらの代替的な反応モデルを反映する微分速度方程式については、これは、例えば、Karlsson,R.及びFalt,A.(1997)J.Immunol.Methods 200,121−133(この開示は参照として本明細書に援用される)を参照できる。BIACORE(登録商標)システムに関する曲線フィッティングのより包括的な記載については、これは、例えば、BIAevaluation Software Handbook(Biacore AB,Uppsala,Sweden)(この開示は参照として本明細書に援用される)を参照することができる。
【0065】
物質移動に関して、移動の効果は、反応度九度が移動の速度と比較して速い場合に結合の反応速度論に影響を与える。分析物(A)が固定化リガンド(B)に結合する反応について、物質移動制限を有する結合は以下の反応式によって表すことができる。
【0066】
solution⇔Asurface+B⇔AB
それゆえに、結合相互作用を記載する微分方程式は、表面への分析物の物質移動についての用語を含む。フローセルについては、一連の対になった通常の微分方程式のセットからなり、かつ、とりわけMyszka,D.G.ら(1998)Biophys.J.75,583−594、並びにShank−Retzlaff,M.L.及びSligar,S.G.(2000)前出(これらの開示は参照として本明細書に援用される)において記載される「2コンパートメント」モデルが、データが物質移動によって影響される場合に、結合反応速度論の合理的な説明を与えるために考慮される。このモデルにおいて、フローセルは、2つのコンパートメントに分けられると仮定され、1つは分析物の濃度が一定であり、センサー表面の近傍の第2のものは、分析物濃度が物質移動速度、リガンドの表面密度、及び反応速度定数に依存する。
【0067】
固定化一価リガンド(B)と反応する一価分析物(A)の相互作用については、このモデルは、以下の2つの微分方程式(12)及び(13)によって表すことができる。
【0068】
【数12】

ここでktはコンパートメント間の分析物の拡散的移動を説明する移動係数であり、BTは全体のリガンド濃度であり、Aは遊離の分析物のバルク濃度であり、Cは注入(すなわち、最初の)分析物濃度である。ABは複合体ABの濃度であり(=結合分析物の表面密度)、ka及びkdは、それぞれ、結合速度定数及び解離速度定数である。
【0069】
反応速度論を全体的に分析するこの2コンパートメントモデルの使用は、BIACORE(登録商標)のような機器を用いて決定できる反応速度の範囲を拡張すること、及びこれはまた、上述のBIAevaluation分析ソフトウェア(Biacore AB,Uppsala,Swedenから利用可能)において援用されていることが理解される。
【0070】
異なる相互作用モデルについての理論的相互作用は、シミュレータ、例えば、上記のBIAevaluation分析ソフトウェアに組み込まれているシミュレータを使用してシミュレーションすることができる。このようにして、種々の実験的パラメーターが利用され、それによって、どの相互作用条件が代替的な反応速度論モデル間を区別する際に決定的であり得るかを決定するために補助となり得る。
【0071】
本発明
上述のように、例えば、BIACORE(登録商標)機器を使用して反応速度論的パラメーターを決定することは、慣用的に、新たな反応物濃度を用いる各測定の前に、固定化リガンドの再生又は更新を伴って、複数の異なる分析物濃度について、固定化リガンドとの分析物の相互作用をモニタリングする工程を含む。次いで、相互作用についての反応速度論的モデルは、収集された結合データに対して全体的にフィットされ(通常はセンサグラムの形態)、反応速度論的パラメーターを与える。
【0072】
本発明に従うと、反応速度論的パラメーターを決定するためのこのようなフローセルに基づく分析は実質的に改善することができ、かつ滴定の型又は「順次注入」手順によってスピードアップが図られ、リガンド支持表面が、1つのかつ同じ分析的サイクルにおいて、異なる分析物濃度と連続的に接触されて、連続的なセンサグラムを産生する。次いで、物質移動制限を考慮した反応速度論的相互作用モデル(例えば、上述の2コンパートメントモデルなど)が、全体のセンサグラムに対して全体的にフィットされて、反応速度論的パラメーターを計算する。顕著に時間がかからないことに加えて、この滴定型の方法は、評価される実験データの量を減少し、固定化リガンドを破壊する再生条件のリスクを取り除く。
【0073】
異なる分析物濃度を導入する順序は、本発明の手順の成功のためには重要ではない。むしろ、分析物濃度は、実際のところ、任意の順序で導入することができる。例えば、分析物濃度は連続的に増加されてもよく、連続的に減少されてもよく、又は交互により高く、より低くてもよい、などである。さらに、同じ濃度の分析物は、所望される場合、反復して導入することができる。
【0074】
BIACORE(登録商標)又は同様の機器のための分析物の注入(好ましくは短くあり得る)(例えば、30〜60秒間の規模)は、増加した反応物濃度が、増加した応答をかろうじてもたらすのみである場合には中断してもよい。これは、いわゆる適合ソフトウェアを使用すればよい。次いで、形成された複合体は、好ましくは、より長い時間の間、例えば、約5分間から約60分間、BIACORE(登録商標)又は同様の機器の状況において、反応速度論的評価のための十分な解離データを加えるために、解離させた。このような解離時間は、選択的に、代替的に、又は付加的に、サイクル中の任意の2つの分析物注入の間で実行することができる。
【0075】
上述のBIACORE(登録商標)機器の設計は、例えば、各分析物の注入にランニング緩衝液の注入が続き、次の濃度の分析物が注入される前に結合した分析物の部分的解離を可能にすることが注目されるべきである。例えば、約1分の間隔でのこのような交互の分析物を含まない量が、上述の(好ましくはより長い)解離期間によって得られるものに対して解離データを加えることが理解される。十分な解離データがこれらの分析物を含まない液体の交互の注入によって得られるならば、より長い解離期間でさえもがなしで済ますことができる。途中での緩衝液注入はまた、たとえセンサー機器の設計自体によって、注入間の緩衝液注入なしで連続的な分析物の注入が可能であったとしても、当然、使用できる。
【0076】
少なくともある適用のために、流れは、全体の実験的サイクルの間に実質的に一定であることが好ましい。
【0077】
順次注入手順は、選択的に、少なくとも1回、同一又は別の分析物濃度の順序を用いて繰り返してもよく、次いで、収集されたすべての結合データが、反応速度論的モデルに同時にフィットさせることができる。
【0078】
必要に応じて、異なる反応物濃度を含む流体体積は、分析物の濃度勾配の異なる量のセグメントであり得る。減少する(又は増加する)分析物勾配のセグメントの順次注入のための方法は、「Method and apparatus for characterization of interactions」という表題の本発明者らの同時係属PCT出願(この開示は参照として本明細書に援用される)において記載されている。
【0079】
この「パルス注入」法において、各注入は、分析物含有サンプル、及び別の液体(例えば、緩衝液)の交互の流れによって生じる一連の短いサンプルパルス、適切には、4又は5から40パルスまで、好ましくは15〜30パルス、より好ましくは約20パルスからなる。各パルスは、好ましくは、1〜40μl、好ましくは10〜40μl、より好ましくは15〜25μl、適切には約20μlの量を有する。パルスの持続時間、すなわち、溶液の各セグメントは、8〜20秒長、好ましくは約10〜15秒長、適切には12秒長であり得、フローセルを通してのサンプル液体の流速は、50〜200μl/分、好ましくは80〜120μl/分、適切には100μl/分であり得る。
【0080】
このようにして、いくつかの濃度レベルからの情報は、各注入のパルスが原理的には1つの濃度を構成するという点で、単回注入を通して生成される。選択的に、注入の間のいくつかのパルスは破棄してもよく、それによって破棄されたパルスはセンサーを通して通過されない。代替的には、いくつかの液体のアリコートは、分離したセグメントを作製するために、交互の緩衝液注入を実行する前でさえ破棄してもよい。
【0081】
濃度勾配がどのように調製されるかに依存して、すべてのセグメントは既知であってもよく、又は既知でなくてもよい。すべての濃度が既知である場合、反応速度論的パラメーターは、上記のグローバルフィッティングによって決定することができる。他方、例えば、エッジセグメントの濃度のみが既知である場合、例えば、「分散勾配」の場合において、フィッティングは分析物濃度の局所的フィッティングを含まなければならないことがある。
【0082】
所望により、上記のように実行される1つ以上の連続的実験からの結合データは、1つ以上の従来型の単一濃度実験からの結合データを合わせてもよく、次いで、その合わせたデータは反応速度論的相互作用モデルにフィットされる。従って、一般的に、反応速度論的相互作用モデルに全体的にフィットされる全体のデータセットは、1つ以上の「連続的」結合曲線及び1つ以上の単一濃度結合曲線を含む、結合曲線の任意の組み合わせを含み得る。
【0083】
本発明の理解を容易にするために、ここで図3を参照した場合、固定化リガンド(B)と反応し、複合体(AB)(これが検出されるSPR応答を生じる)を形成する分析物(A)の連続的に増加する濃度を用いる滴定のための例示的なセンサグラムを示す(上述のBIACORE(登録商標)機器を用いて得られるようなもの)。この滴定は、以下の実施例1においてより詳細に記載される。このセンサグラムを参照すると、分析物濃度80nMは404〜464秒の間に注入され、240nMは523〜583秒の間、730nMが642〜702秒の間、及び2200nMが760〜820秒の間に注入された。
【0084】
結合曲線を分析する前に、分析物の各注入のための開始時間及び終了時間が示されベースラインがゼロレベルに調される。次いで、一般的に、結合曲線は、時間依存的な分析物濃度に基づく相互作用モデルを使用して物質移動制限を考慮して分析できる(例えば、上述の2コンパートメントモデル)。必要である場合、このモデルは、他の相互作用メカニズム、例えば、高次構造変化(A+B⇔AB⇔AB*)、競合反応(A1+B⇔A1B;A2+B⇔A2B)、パラレル反応(A+B1⇔AB1;A+B2⇔AB2)又は二価分析物(A+B⇔AB;AB+B⇔AB2)などに適合させることができる。このようなモデルは、例えば、BIAevaluation Software Handbookにおいてより詳細に記載されている。
【0085】
例えば、1:1結合を仮定すると、以下の微分方程式が、固定化リガンドBに結合可能な分析物Aの時間依存性濃度を表し得る。
【0086】
【数13】

ここでAは遊離の分析物Aの表面濃度であり、ktは移動係数であり、C1からCnは異なるバルク濃度の分析物であり、Bは固定化リガンドの濃度(リガンド密度)であり、ABは形成した複合体の濃度(=結合した分析物)であり、ka及びkdはそれぞれ結合速度定数及び解離速度定数である。
【0087】
実験の開始において、表面での分析物濃度Aが0であると仮定され、リガンドの濃度BはRmaxであると仮定され、かつ形成された複合体ABの濃度が0であると仮定される場合、上述のBIAevaluationソフトウェアと適合可能な形態でここで書かれている以下の関数が、相互作用システムを説明している。
【0088】
【数14】

上述のモデルにおいて、サイン関数$1から$4(1又は0である)は、特定の分析物濃度が注入されるときを示す(tOn1は、分析物濃度1が注入される時間であり、tOff1は分析物濃度1が停止する時間、などである)。関数$5及び$6は、ともに時間に対する分析物の表面濃度の変化を説明し、$6は、リガンド密度及び複合体が時間とともにどのように変化するかを説明している。最初の行の関数は、各注入の間に存在する、結合しているAB及びバルク効果からのシグナルの全体の変化に対応する。これらの方程式の数値積分及び図3における全体のセンサグラムのすべてのデータ点に対するグローバルフィッティングによって、例えば、本発明に適合されたBIAevaluationソフトウェア(Biacore AB,Uppsala,Sweden)を使用して、反応速度論的速度定数ka及びkbが得られ得る。他の相互作用メカニズムについての数学的モデルは、当業者によって容易に考案し得る。
【0089】
フィットの結果が図4において示され、実線の「波状でない線」は80から2200nMの濃度範囲についての最良のフィットのための適合した曲線を示し、ka及びkdは、以下の実施例1に記載されるように単一の値、それぞれ1.0*105-1-1及び6.6*10-4-1に制約される。
【0090】
上記のモデルを用いて、反応速度論的データ及び親和性データは、移動制限にも関わらず、このように得られ得る。上述のように、本発明は分析物の注入順序に感受性ではないので、比較的低濃度の分析物濃度の分析は、結合が飽和に近づいているか、又は平衡応答よりも上である場合に実行され、それによって、移動効果が小さい場合に、センサグラム中の反応速度論的情報を最小化する。
【0091】
2つ以上の異なるリガンド密度における結合分析からのデータは、有利に同時にフィットさせることができる。
【0092】
反応速度論的速度定数と同時の濃度の測定は、移動係数ktが既知でありかつ一定に保たれるという条件下で、上記の滴定手順及びデータフィッティングを使用して実行することができる。好ましくは、少なくとも2つからの結合データ、及び好ましくは、次いでより多くの密度が使用される。
【0093】
上記のものと類似の滴定型アプローチもまた、同じリガンド(同じか又は異なる既知の濃度)に結合する複数の異なる分析物についての反応速度論的速度定数を決定する(少なくとも概算する)ために使用することができる。この場合において、異なる分析物は、異なる分析物濃度ではなく、センサー表面に対して連続的に通過される。結合データの評価は、得られる全体の結合曲線に対する異なる速度定数のフィッティングを可能にするように修飾される。このような手順は、例えば、最良の結合剤、例えば、レセプターなどの薬物標的に結合する薬物候補を迅速に見出すためにリガンドに対する異なる結合パートナーをスクリーニングに使用することができる。選択的に、このアプローチは、異なる分析物の使用と組み合わすことができる。
【0094】
上述のように、分析物注入は「パルス注入」アプローチによって実行することができる。BIACORE(登録商標)3000機器(Biacore AB,Uppsala,Sweden)に基づくこのようなパルス注入を実行するための例示的なシステムは、図5において模式的に図示されている。
【0095】
図5において見られ得るように、サンプル(20)及び緩衝液(21)をそれぞれ含む2つの容器(例えば、試験管)20及び21が提供される。試験管から液体を吸引するための手段22もまた提供され、下方に試験管まで伸びている垂直線を用いて示される。この手段22は、適切には針であり得、同じ針が両方の液体のために使用されるので、サンプル管20において示される針は破線で示される。この針は、これによって、液体の吸引のために連続して試験管の間を物理的に移動される。当然、吸引手段を考案する他の可能性が存在し、示されたものは例示に過ぎない。
【0096】
システム緩衝液サプライもまた提供される。最初に全体のシステムが緩衝液で満たされ、すなわち、すべてのチュービングがこの緩衝液を含む。チュービング23のそれぞれのセグメント(それぞれサンプル及びシステム緩衝液)がマイクロ流体デバイス24に接続され(Integrated Fluidic Cartridge−IFCと呼ばれるBIACORE(登録商標)機器中で)、これは1つ以上のフローセル(図示された場合においては4つのフローセル、25aから25d)への制御された液体送達を可能にする。各フローセルはセンサー表面を有し、1つ以上の適切な標的がそこに固定化される。それぞれの液体の流れを制御するためのマイクロ流体デバイス24における多数のバルブv1からv4もまた提供される。バルブv2及びv3はフローセルへの液体の供給を制御するのに対して、バルブv1及びv4は各々廃棄に接続されている。バルブv1からv4は制御ユニット26によって制御されている。代替的には、種々のライン中での流れは正確なポンプによって制御することができ、それによって、実際の流速が単調に制御することができ、0の流れから必要とされる最大の流速までの範囲にわたり、又はそれらの組み合わせである所望の流速を供給する。
【0097】
この手順における第1の工程は、針22に少量の緩衝液を吸引することであり、すなわち、緩衝液試験管21に針を浸漬すること、及び針に適切な量を吸引することである。しかし、吸引によって針に緩衝液を満たすことは厳密に必要となるわけではない。確かに、針は、一方の末端からの緩衝液で、すなわち、システム緩衝液サプライから、全体のシステムを緩衝液で満たすことによって充填することができる。次いで、針は、サンプル試験管に移動し、適切な量として約500μlのサンプルが吸引される。しかし、実際の容量は、適用及びサンプルの種類に依存し得、広範な限界内で変化し得、例えば、1μlと4mlの間である。
【0098】
サンプルの吸引は、分散によってサンプル及び緩衝液の混合をもたらし、それによってチュービング中の勾配を生じる。この場合は、勾配は、チュービングを通して動く減少する勾配(針から見て)である。増加勾配が必要とされる場合、試料吸引の後で緩衝液を吸引し、かつ、非分散サンプルトレイリングエッジが最初の吸引によって提供され、針中にすでに存在する液体からサンプル、第2にサンプル、及び第3に緩衝液セグメントを保護することを保証しなくてはならない。吸引の手順は、常に1つ又は数個の空気泡の吸引で終了し、マイクロ流体デバイス24にすでに存在している液体から勾配を保護する。
【0099】
第1の工程の前に、連続的な空気及びサンプルのセグメントを提供し、かつマイクロ流体デバイス24にそれらを注入するために、空気及びサンプルの数回の交互の吸引を実行することが好ましい。このようにして、サンプルは、マイクロ流体デバイス中でランニング緩衝液との望ましくない分散から保護され、すなわち、吸引されたサンプル液のリーディングフロントが名目上の(最大の)濃度を示す。
【0100】
勾配が確立されたとき、これはマイクロ流体デバイスに針を介して注入され、サンプル及び緩衝液流ライン中のバルブv1及びv2はプログラムされた手順に従って開閉して、サンプル(チュービングの長軸方向の勾配を示す)と緩衝液のパルスが交互にフローセルに供給されることを可能にし、その結果、サンプル液流が少なくとも1回、好ましくは複数回、さらなる液体(この場合はシステム緩衝液によって表される)によって交差される。この交差は、液体の少なくとも2つの別々のセグメントを作製する。しかし、システム緩衝液以外のさらなる他の液体、例えば、純粋な溶媒、他の目的の種を含む溶液などが当然可能である。
【0101】
こうして、減少するサンプル勾配流のリーディングエッジは、最初の濃度を表す。最も頻繁には、リーディングエッジにおける濃度は名目上と非常に密接であり、既知の濃度を表すと見なすことができる。しかし、サンプル流の主要な部分は勾配を示し、従って、作製されるこのセグメントの大部分は、サンプルに関して異なる濃度を有する。
【0102】
サンプル勾配流の所定の量がフローセルに流された後で、バルブv2は閉じられかつバルブv3は開かれて、それによってサンプル流の後ろのラインに緩衝液を注入する。その上に固定化された標的を有するセンサー表面に対する分析物含有サンプルの通過の間、分析物は標的と結合する。サンプルの量は、好ましくは、平衡に達することを可能にするのに十分であるべきである。しかし、平衡に達したが、平衡レベルが対応する結合曲線グラフ(応答対時間)から計算し得ることが必ずしも必要であるわけではない。関係する時間のフレームは、サンプル特異的結合及び移動の特性、流速、温度、フローセルの寸法などに依存する。
【0103】
試料が十分に長時間注入されたとき、緩衝液は、バルブv3を開くこと、及びバルブv2を閉じることによって注入される。表面に対する緩衝液の通過の間、分析物は解離する。このプロセスは、吸引したサンプルが注入されるまで繰り返す。
【0104】
フローセルに完全な勾配を注入することは必ずしも必要ではない。緩衝液注入の間(v3開く、v2閉じる)、バルブ1は勾配の小セグメントを廃棄するために開かれ得る。これは、産生されるパルスの数を減少し、かつ完全な注入のために必要とされる時間を減少する。
【0105】
バルブのないシステムが使用される代替的な実施形態において、結合フェーズの間、すなわち、サンプルがセンサーセルを通して通過する時間の間、緩衝液流は非常に低い値、規則的な流の5%未満、例えば、約1%に設定される。これは厳密に必要なわけではないが、緩衝液ラインへの漏れからサンプル溶液を保護する。次いで、特定の、所定の量のサンプルが、特定の速度でマイクロ流体デバイスに注入される。次いで、緩衝液流は、規則的な速度に再設定される。セルを通しての緩衝液の通過の間、センサー表面上の標的に結合したサンプル化合物は、適切な時間の期間の間、解離されることが可能である。
【0106】
図6において、図5におけるマイクロ流体デバイスを使用する勾配を作製する代替的な方法が示される。これは、既知の濃度のサンプルセグメントを吸引すること、またそれを、接続c1及びチュービングセグメントm1を使用して、マイクロ流体デバイス中で緩衝液で希釈することによってなされる。このことは、緩衝液及びサンプルが、フローセルと接触する前に均質な混合物を形成することを可能にする。パルスは、以前に記載されたように、すなわち、例えば、交互のポンプ又はバルブv2及びv3を使用することによって生成される。接続c1は単純なT接続であり得、その結果、勾配中のサンプルの濃度は、[流速(緩衝液)]及び[流速(サンプル)]の比率が時間とともにどの程度変化するかによって制御される。別の可能性は、接続c1として2方向バルブを有することであり得る。サンプルの濃度は、注入口を、緩衝液とサンプルの間のm1に切り換えることによって制御され、これは、2方向バルブを有し、サンプルについて開いているのとは異なる場合に緩衝液について開く。チュービングセグメントm1において、別個の接続されたサンプル及び緩衝液のセグメントは、分散に起因して均質な混合物を形成する。この方法は、すべての時点で既知の濃度のサンプルを有する勾配を産生することを可能にし、これは最初の少ないパルスのみが既知の化合物濃度を有する分散濃度勾配と対照的である。この後者の場合において、反応速度論的パラメーターをフィットさせることと同時に、局所的に濃度をフィットさせることが必要である。これは、以下に、より詳細に記載される。
【0107】
いわゆる標識を含まない検出方法(SPRなどの上記に言及されたものを含む)を使用することが現在好ましいが、すでに上記に言及した他の検出技術(例えば、標識、例えば、放射性標識、蛍光団(表面蛍光を含む)、発色団、化学発光団、散乱光についてのマーカー、電気化学的活性マーカー、熱活性マーカーなど)もまた、当然意図される。
【0108】
滴定(すなわち、連続的分析物注入)及び時間依存性の分析物濃度を用いる評価を含む本発明の方法は、すでに上記で言及したように、手順の異なる工程を実行するコンピュータシステム実行ソフトウェアの形態で、実施されることが適切に低減される。好ましくは、滴定は、上記に言及されたように適合可能である。本発明はまた、コンピュータプログラム、特に、本発明の滴定手順を実施させるために適合された、キャリア上又はキャリアのコンピュータプログラムに拡張される。キャリアは、プログラムを伝送することが可能な任意の実体又はデバイスであり得る。例えば、キャリアは、ROM、CD ROM、もしくは半導体ROM、又は磁気記録媒体、例えば、フロッピー(登録商標)ディスクもしくはハードディスクなどの保存媒体を含み得る、キャリアはまた、例えば、電気的もしくは光学的なケーブルを介して、又は無線通信もしくは他の手段によって伝達し得る、電気的又は光学的シグナルなどの伝導性キャリアであり得る。代替的には、キャリアは、プログラムが埋め込まれた集積回路であり得る。
【0109】
上記に概略を述べたソフトウェアはまた、従来からの単一の注入分析手順について上記でさらに記載されたのと同様に、異なる相互作用モデルのための理論的相互作用曲線を生成するために使用することができる。複合体モデル(例えば、高次構造変化モデル)についてのデータを生成することによって、注入時間及び分析物濃度などのパラメーターを変化させること、次いで、このデータを1:1結合モデル及び高次構造変化モデルの量にフィットさせることによって、残差が反応速度論的実験の最適な設計のための条件を同定し得る。
【0110】
以下の実施例において、本発明の種々の局面が開示され、より詳細には例示目的であって限定的な目的ではない。
【実施例】
【0111】
機器
BIACORE(登録商標)(Biacore AB,Uppsala,Sweden)を以下の実施例1から4において使用した。この機器はY型フローセルを有し、これは、センサーチップ表面の上で二重の液体の流れを可能にし、これはいわゆる流体力学アドレッシングであり、例えば、EP−B1−1021703(この開示は参照として本明細書に援用される)において記載されている。この機器は、センサーチップ上で3つのパラレル検出スポットを使用する。
【0112】
BIACORE(登録商標)(Biacore AB,Uppsala,Sweden)を以下の実施例5において使用した。この機器においては、マイクロ流体システムが、4つの個別に検出されるフローセル(1つずつ又はシリーズで)を通してサンプル及びランニング緩衝液を通過させる。
【0113】
センサーチップとして、Series S Sensor Chip CM5(Biacore AB,Uppsala,Sweden)を使用した。これは、金コートされた表面を有し、共有結合されたカルボキシメチル修飾デキストランポリマーハイドロゲルを有する。
【0114】
機器制御ソフトウェアを介する機器からのアウトプットは、「センサグラム」であり、これは、時間の関数としての検出器応答(「共鳴単位」で測定される)のプロットである。1000RUの増加は、約1ng/mm2のセンサー表面上の物質の増加に対応する。実施例1から4において、評価は、BIAevaluationソフトウェア、バージョン3.1(Biacore AB,Uppsala,Sweden)を使用して実行され、上記のような反応速度論的モデルに適合した。実施例5において、評価は、BIAevaluationソフトウェア、バージョン3.1(Biacore AB,Uppsala,Sweden)、Matlabバージョン5.3(The MathWorks,Inc.Natick,MA,U.S.A.)及びExcel 97(Microsoft Corp.,Redmond,WA,U.S.A.)を使用して実行した。
【0115】
実施例1
固定化キナーゼへのキナーゼインヒビターの結合
抗ヒスチジン抗体(Qiagen 34660;Qiagen,Venlo,Netherlands)を10mM 酢酸緩衝液、pH 5.0中で20μg/mlまで希釈し、13000RUの抗体を、製造業者の指示書に従ってアミンカップリングを使用して(Amine Coupling Kit−Biacore AB,Uppsala,Sweden)、Series S Sensor Chip CM5に固定化した。流速は10μl/分であった。次いで、3分間、10mM PBS中の30μg/mlのキナーゼ、次いで表面上のキナーゼを安定化するために、2.5分間のEDC/NHS及びエタノールアミンを注入することによって、ヒスチジンタグ化キナーゼ(独自製品)を捕捉しかつセンサーチップ表面に架橋した。この手順を用いて、4000RUのキナーゼが固定化された。
【0116】
キナーゼインヒビター、スタウロスポリンを、30μl/分の流速で80、240、730、及び2200nMの濃度で注入した。アッセイ緩衝液は、50mM Tris pH 7.5、150mM NaCl、10mM MgCl2及び3%DMSOであった。注入手順についての観察されたデータ及びフィットされたデータの重ね合わせ表示プロットを図3(観察)及び図4(観察プラスフィット)に実証している。結合速度定数は、1,0*105-1-1と計算され、解離速度定数kdは6,6*10-4-1と計算された。
【0117】
実施例2
固定化炭酸脱水酵素への一連の炭酸脱水酵素インヒビターの結合
炭酸脱水酵素(Sigma C3640)、10mM 酢酸緩衝液pH5.0中20μg/mlを、製造業者の指示書に従ってアミンカップリングを使用して(流速10μl/分)Series S Sensor Chip CM5に固定化し、約2000RU及び700RUの固定化された炭酸脱水酵素を有するセンサー表面をそれぞれ得た。反応速度論的分析を、0.005% P20及び5% DMSOを有する10mM PBS緩衝液中のインヒビターを30μl/分の流速で注入することによって実行した。インヒビターは、アセタゾラミド(Sigma A6011)、アゾスルファミド(Sigma A2759)、及びベンゼンスルホンアミド(Aldrich 10,814−6)であった。2つのリガンド密度についての観察されたデータ及びフィットされたデータを実証する重ね合わせプロットを図7(アセタゾラミド)、図8(アゾスルファミド)、及び図9(ベンゼンスルホンアミド)において提示する。図7において、データは、各リガンド密度に対する2つの反復を表し、kaは1,8*106-1-1と計算され、kdは4,0*10-2-1と計算された。図8において、kaは2,9*104-1-1と計算され、kdは8.1*10-3-1と計算され、図9において、kaは1,6*105-1-1と計算され、kdは1.4*10-1-1と計算された。
【0118】
実施例3
固定化トロンビンへの高親和性インヒビターの結合
トロンビン(Sigma T1063)、10mM 酢酸緩衝液pH5.0中20μg/mlを、製造業者の指示書に従ってアミンカップリングを使用して(流速10μl/分)Series S Sensor Chip CM5に固定化し、約2300RU及び600RUの固定化された炭酸脱水酵素を有するセンサー表面をそれぞれ得た。反応速度論的分析を、0.005% P20、5% DMSO及び3.4mM
EDTAを有する10mM PBS緩衝液中の高親和性トロンビンインヒビター、メラガトラン(Johanna Deinum,AstraZeneca,Molndal,Sweden)を注入することによって実行した。観察されたデータ及びフィットされたデータを実証する重ね合わせプロットを図10において提示する。計算されたkaは2,0*107-1-1であり、kdは1.8*10-2-1であった。
【0119】
上記の実施例1から3は、広範な速度定数が順次注入手順を用いて実証できることを実証する。これらの実施例において、ka値は2,9*104から2,0*107-1-1の範囲であり、かつkd値は0.14から6.6*10-4-1-1の範囲である。これらの実施例はまた、反応速度論的データが1つ又は2つのリガンド密度を使用して得られ得ること、及び注入順序を混合してもよく、かつ低濃度から高濃度までの順序のみではないことを例証する。
【0120】
実施例4
連続的及び単回の注入の組み合わせ
図11において、順次注入及び単回注入を表すシミュレートしたデータは、評価において合わされて、ここですべての結合曲線が相似にフィットされる。左の3つの曲線は、51200nMにおける単回注入でのセンサグラムを表すが、種々の注入時間、10s、30s、及び500sを伴うのに対して、右の曲線は、800〜12800nMの分析物の順次注入を表す。これは、種々の数の注入及び注入時間を伴うセンサグラムが分析できることを例証する。
【0121】
実施例5
相互作用速度定数の見積もり
リゾチームに結合するラクダ由来の重鎖3重変異体単鎖ドメイン抗体(cAb−Lys3:s SGS)(Department of Ultrastructure,Vrije Universiteit,Brussels,Belgiumから入手)の反応速度論を、上記の「パルス注入法」を用いて研究した。すべての実験を30℃で実行した。190RU(チップ1)及び280RU(チップ2)のリゾチームを、標準的なアミンカップリング法を使用して固定化した。2分間の活性化に際して、リゾチーム(10mM Na2HPO4 pH7.0中8μg/ml)を、3分間(チップ1)及び4分30秒(チップ2)の間、注入した。10mM Na2HPO4 pH7.0(流速5μl/分)を、固定化の間のランニング緩衝液として使用した。SGSを、異なる初期濃度で注入した(HBS−EP中、0.5、1.0、及び2.0μM)。結果を図12に示す。
【0122】
サンプル溶液中のバルクエラーを、参照フローセルシグナルの減算によって補正した。個々のパルスをMATLABを用いて分離及び整列させ、その結果、各パルスは1つの結合曲線に対応した。BIAソフトウェアを使用して曲線を重ね合わせた。15パルスをすべてのフィットにおいて使用した。最初の2つのパルスを初期濃度と仮定した。ka、kd及びRmaxのグローバル開始値は第2のパルス(パルス番号1はその不規則な形状のために除外した)にフィットした。なぜなら、その濃度が既知であったからである。次いで、これらの値を使用して、すべてのパルスの濃度にフィットさせた。ka、kd及びRmaxの見積もりを、新規な濃度の情報を使用して純化させた。プロセスを、すべてのパラメーターが集中するまで反復した。各パルス注入を別々に評価した。濃度のフィッティングは、部分的に線状の濃度勾配を示した。パルス注入法を用いて得られた反応速度論的データは、以下の表1において平均値及び標準偏差ともに提示している。
【0123】
(表1:ラクダ抗体SGS及びリゾチームを用いるパルス注入アッセイからの結果)
【0124】
【表1】

*C0は名目上のSGSの濃度である。
**χ2はフィットの質の統計学的尺度である。
【0125】
本発明は、上記の本発明の特定の実施形態に限定されないが、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によって確立されることが理解されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体支持体表面に固定化されたリガンドと溶液中のリガンドに対する結合パートナーとの間の可逆的分子相互作用の結合相互作用パラメーターを求める方法であって、当該方法が、
a)上記固定化リガンドの途中での再生又は更新を行わずに、上記固体支持体表面を、順次、種々の既知濃度の上記結合パートナーを含有する複数の流体体積に暴露して、上記結合パートナーを上記固定化リガンドに結合させる工程と、
b)時間及び結合パートナーの溶液濃度に関して、上記固体支持体表面に結合した上記結合パートナーの経時的な量をモニタリングして、結合データを収集する工程と、
c)上記結合パートナーと上記固定化リガンドとの間の相互作用に関する所定の結合相互作用モデルを、収集した結合データに全体的にフィットさせることによって反応速度論的パラメーターを求める工程と
を含む方法。
【請求項2】
a2)前記固体支持体表面を、結合パートナーを含まない流体体積に暴露して、上記リガンドから結合パートナーを解離させる工程をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
工程a)〜b)を同一又は別の順序の結合パートナー濃度で少なくとも1回繰り返し、前記収集した結合データのすべてを工程c)で反応速度論的モデルに同時にフィットさせる、請求項1記載の方法。
【請求項4】
工程a)〜b)で得られた一連の結合データを単一濃度の結合パートナーについての少なくとも1組の結合データと組み合わせ、組み合わせた結合データを工程c)で前記反応速度論的モデルにフィットさせる、請求項1記載の方法。
【請求項5】
工程a2)が、結合パートナーを含む最後の流体体積を前記表面に流した後で実施される、請求項2記載の方法。
【請求項6】
工程a2)が、結合パートナーを含む2つの流体体積の間で実施される、請求項2記載の方法。
【請求項7】
結合パートナーを含む各体積の後に、結合パートナーを含まない流体体積が続く、請求項2記載の方法。
【請求項8】
結合パートナーを含まない流体体積のうちの1つが、結合パートナーを含まない他の流体体積よりも長時間にわたって前記固体支持体表面に暴露される、請求項7記載の方法。
【請求項9】
結合パートナーを含まない流体体積のうちの最後のものが、結合パートナーを含まない他の流体体積よりも長時間にわたって前記固体支持体表面に暴露される、請求項8記載の方法。
【請求項10】
結合パートナーを含む複数の流体体積が同じ濃度の結合パートナーを有する流体体積を含む、請求項2記載の方法。
【請求項11】
結合パートナーの濃度を増加したときに、センサー表面に結合した結合パートナーの量の増加が所定の限度内に収まったときに、工程a)を停止する、請求項2記載の方法。
【請求項12】
前記反応速度論的モデルが2コンパートメントモデルである、請求項2記載の方法。
【請求項13】
前記反応速度論的モデルが1:1結合、パラレル反応、競合反応、高次構造変化及び二価分析物から選択される相互作用機構に適合される、請求項2記載の方法。
【請求項14】
工程a)が前記固体支持体表面における少なくとも1つの別のリガンド密度で実施される、請求項2記載の方法。
【請求項15】
前記固体支持体表面への前記流体体積の暴露が、前記固体支持体表面に前記流体体積をに流すことによって実施される、請求項2記載の方法。
【請求項16】
前記固体支持体表面での流速が一定に維持される、請求項15記載の方法。
【請求項17】
前記固体支持体表面がセンサ表面である、請求項2記載の方法。
【請求項18】
前記固体支持体表面での検出がエバネセント波に基づく検出である、請求項2記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−33053(P2013−33053A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−198281(P2012−198281)
【出願日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【分割の表示】特願2006−508577(P2006−508577)の分割
【原出願日】平成16年6月4日(2004.6.4)
【出願人】(597064713)ジーイー・ヘルスケア・バイオサイエンス・アクチボラグ (109)