説明

分子間相互作用分析用の架橋試薬

本発明は、超分子標的−リガンド−複合体の架橋反応のための、反応性基として1−ヒドロキシベンゾトリアゾール又は1−ヒドロキシ−7−アザベンゾトリアゾール基を含有する特定の架橋試薬の使用を記載している。生じる架橋生成物は、質量分析法、ゲル又は蛍光ベースの方法、X線結晶学法、NMR法又は他の分析法を用いて直接分析することができる。High-Mass MALDI質量分析法を用いる本方法は、抗体の特性決定、創薬、及び自動又は高処理量の応用を包含するタンパク質複合体分析のような、種々の生物学的応用を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、分子間相互作用分析用の、架橋反応の効率及び反応速度特性を改善するために特別に設計された架橋試薬及び架橋混合物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
多タンパク質複合体は、最も重要な細胞過程を担っている。タンパク質複合体の研究は、細胞機構の解明のための重要な要素である。化学架橋は、20年以上の間タンパク質相互作用を分析するために利用されてきており(Mattson et al., 1993, Mol. Biol. Rep. 17:167-183)、これらの脆弱な超分子構造の安定化を可能にしている。しかし、これらの化学試薬の使用には幾つかの欠点が伴う。例えば、架橋反応の効率は、標的とするタンパク質複合体の四次構造、例えば、架橋反応に関与するアミノ酸の空間位置に依存する。この効率はまた、インキュベーション時間の非共有結合性相互作用の崩壊のリスクを最小限に抑える、架橋試薬の高速反応にも依存する。現在の技術水準の典型的な架橋試薬が必要とする長時間のインキュベーション中の、タンパク質の表面での求核性側鎖の実質的な修飾(リシンのアシル化など)は、構造不安定化に起因する人為的な結末の懸念を上昇させる。現在の技術水準の架橋剤の使用はまた、遅い反応速度、低い効率、安定性の欠如、及び特異性の欠如を包含する、多くの他の問題の主題である。更に、多数の架橋剤は有機溶媒にだけ可溶性であるため、弱いタンパク質相互作用の化合物を含有する水性試料と混合すると反応させるのが困難になる。
【0003】
化学架橋は、様々な分析手法と組合せて長年利用されてきた。ゲル電気泳動法は、架橋化学法と組合せて大いに使用されており、比較的単純なプロトコールで非共有結合性相互作用の特性決定が可能になっている。最近の研究では、ゲル電気泳動法は、インビボ架橋タンパク質相互作用を分析するために使用されている(Nowak et al., 2005, Biotechniques 39:715-725; Suchenek et al., 2005, Nat. Methods 2(4):261-267)。ゲル電気泳動法は、架橋生成物を分析するための標準法であるが、この手法の分解能の低さ及び高分子量タンパク質相互作用を特性決定する困難さから、生体関連タンパク質複合体の大部分にはその使用が限定されている。
【0004】
質量分析法もまた、タンパク質複合体試料から架橋生成物を分析するために使用されてきた。質量分析法を利用する研究の多くは、相互作用領域のトポロジー解析に集中している。この方法は、生成する架橋ペプチドの酵素的タンパク質分解及び高分解能質量分析法を利用している(Sinz, A., 2003, J. Mass Spectrom. 38:1225-1237; Dihazi, G.H. et al., 2003, Rapid Commun. Mass Spectrom. 2005-2014)。質量分析法はまた、架橋により安定化された完全なタンパク質複合体を特性決定するために利用されてきた。質量分析法の利用により、完全な架橋タンパク質複合体のより早くより正確な特性決定が可能になり、ゲルに基づく手法に比較して高分解能の本手法から恩恵を受けている。本方法は、元々は90年代の初めにCaprioli et al.により開発され、250kDa以下のホモ多量体の直接分析を可能にした(Farmer, T.B. et al., 1991, Biol Mass Spectrom. 20:796)。有望ではあったが、高濃度及び比較的低分子量(250kDa未満)であることを必要とするため、本方法は少数の例外的タンパク質複合体に限定された。最近になって、High-Mass MALDI法及び架橋試薬の最適混合物の両方を利用することにより、大幅な改善が導入された(WO 2006/116893; Nazabal et al., 2006, Anal. Chem. 78(11):3562-3570)。High-Mass MALDI法により、最大1200kDaまで高感度でのホモ;ヘテロ又は複雑な架橋タンパク質複合体の高感度測定が可能になる。
【0005】
完全なタンパク質複合体の特性決定のためにHigh-Mass MALDI質量分析法を利用する方法の重要な要素は、使用される架橋試薬の混合物である。架橋反応の効率を増大させるために、様々なスペーサー長を有する試薬が使用された(WO 2006/116893)。複数長の混合物の使用により、2種の相互作用タンパク質を共有結合させる確率が高まり、次いで完全な複合体の検出感度が高まる。
【0006】
架橋反応の効率及び反応速度を改善して、完全なタンパク質複合体及びタンパク質相互作用を更によく検出できるようにする、架橋試薬の開発に対する更なるニーズが存在している。
【0007】
発明の要約
本発明は、タンパク質及び/又はアミノ官能基を持つ他の化合物を架橋させる方法であって、このタンパク質又は他の化合物又はこれらの混合物を、下記:
【0008】
【化1】


1,1’−(スベロイルジオキシ)ビスベンゾトリアゾール(SBBT)(オクタン二酸ジ(1H−ベンゾ[d][1,2,3]トリアゾール−1−イル))、
【0009】
【化2】


1,1’−(スベロイルジオキシ)ビスアザベンゾトリアゾール(SBAT)(オクタン二酸ジ(3H−[1,2,3]トリアゾロ[4,5−b]ピリジン−3−イル))、
及びこのような架橋剤相互の又は更に別の架橋剤との混合物から選択される架橋剤と一緒にインキュベートする方法に関する。
【0010】
更に、本発明は、新規な化合物:1,1’−(スベロイルジオキシ)ビスベンゾトリアゾール(SBBT)及び直鎖アルカン二酸7−アザベンゾトリアゾール−1−イルジエステル(nBAT):
【0011】
【化3】


[式中、nは、3及び6〜18の間である]、特に1,1’−(スベロイルジオキシ)ビスアザベンゾトリアゾール(SBAT)それ自体に関する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】グルタチオンS−トランスフェラーゼ(GST)のHigh-Mass MALDI質量スペクトル。A.架橋なしの対照実験。B.スベリン酸ジスクシンイミジル(DSS)架橋剤との2分間のインキュベーション時間後のHigh-Mass MALDIスペクトル。C.SBAT架橋剤との2分間のインキュベーション時間後のHigh-Mass MALDIスペクトル(実施例5)。RI=相対強度。
【図2】架橋剤SBATの特異性の試験。架橋剤SBATとの120分間のインキュベーション時間後のグルタチオンS−トランスフェラーゼ(GST)とユビキチン(U)の混合物のHigh-Mass MALDI分析(実施例6)。RI=相対強度、GST=GST二量体。
【図3】単一架橋剤の比較反応速度試験。架橋剤の1,1’−(スベロイルジオキシ)ビスアザベンゾトリアゾール(SBAT、◆)、スベリン酸ジスクシンイミジル(DSS、▲)、ジチオビス[スクシンイミジルプロピオナート](DSP、■)及びエチレングリコールビス[スクシンイミジルスクシナート](EGS、●)は、グルタチオンS−トランスフェラーゼの相互作用分析に関して比較する(実施例3)。検出されるGST二量体(GST)の百分率は、様々な架橋剤の0〜10分間(図3A)又は0〜240分間(図3B)のインキュベーション後のHigh-Mass MALDIスペクトルから直接求める。
【図4−1】反応性基として1−ヒドロキシ−7−アザベンゾトリアゾール基を有する架橋剤の混合物の比較反応速度試験。Mix1(1、▲)は、グルタロイルジオキシビスアザベンゾトリアゾール(GBAT)、1,1’−スベロイルジオキシビスアザベンゾトリアゾール(SBAT)及びデカノイルジオキシビスアザベンゾトリアゾール(DBAT)の混合物である。Mix2(2、◆)は、スベリン酸ジスクシンイミジル(DSS)、ジチオビス[スクシンイミジルプロピオナート](DSP)及びエチレングリコールビス[スクシンイミジルスクシナート](EGS)の混合物である。各混合物は、グルタチオンS−トランスフェラーゼ(図4A、B)の相互作用分析及び免疫複合体[6H4・2bPrP](図4C、D)について試験する。検出されるGST二量体(GST)又は[6H4・2bPrP]免疫複合体の百分率は、0〜10分間(図4A、C)又は0〜240分間(図4B、D)のインキュベーション後のHigh-Mass MALDIスペクトルから直接求める(実施例8)。
【図4−2】反応性基として1−ヒドロキシ−7−アザベンゾトリアゾール基を有する架橋剤の混合物の比較反応速度試験。Mix1(1、▲)は、グルタロイルジオキシビスアザベンゾトリアゾール(GBAT)、1,1’−スベロイルジオキシビスアザベンゾトリアゾール(SBAT)及びデカノイルジオキシビスアザベンゾトリアゾール(DBAT)の混合物である。Mix2(2、◆)は、スベリン酸ジスクシンイミジル(DSS)、ジチオビス[スクシンイミジルプロピオナート](DSP)及びエチレングリコールビス[スクシンイミジルスクシナート](EGS)の混合物である。各混合物は、グルタチオンS−トランスフェラーゼ(図4A、B)の相互作用分析及び免疫複合体[6H4・2bPrP](図4C、D)について試験する。検出されるGST二量体(GST)又は[6H4・2bPrP]免疫複合体の百分率は、0〜10分間(図4A、C)又は0〜240分間(図4B、D)のインキュベーション後のHigh-Mass MALDIスペクトルから直接求める(実施例8)。
【図5】架橋効率の比較。1,1’−(スベロイルジオキシ)ビスアザベンゾトリアゾール(SBAT)、スベリン酸ジスクシンイミジル(DSS)、ジチオビス[スクシンイミジルプロピオナート](DSP)及びエチレングリコールビス[スクシンイミジルスクシナート](EGS)(図5A、C)の、並びにMix1(1)及びMix2(2)(図5B、D)の架橋効率を比較する。各架橋試薬は、グルタチオンS−トランスフェラーゼの相互作用分析(図5A、B)について、及び免疫複合体[6H4・2bPrP](図5C、D)について試験する。検出されるGST二量体(GST)又は[6H4・2bPrP]免疫複合体の百分率は、180分後架橋反応の終了後のHigh-Mass MALDIスペクトルから直接求める(実施例9)。
【0013】
発明の詳細な説明
本発明は、タンパク質及び/又はアミノ官能基を持つ他の化合物を架橋させる方法であって、このタンパク質又は他の化合物又はこれらの混合物を、下記:
【0014】
【化4】


1,1’−(スベロイルジオキシ)ビスベンゾトリアゾール(SBBT)(オクタン二酸ジ(1H−ベンゾ[d][1,2,3]トリアゾール−1−イル))、
【0015】
【化5】


1,1’−(スベロイルジオキシ)ビスアザベンゾトリアゾール(SBAT)(オクタン二酸ジ(3H−[1,2,3]トリアゾロ[4,5−b]ピリジン−3−イル))、
及びこのような架橋剤相互の又は更に別の架橋剤との混合物から選択される架橋剤と一緒にインキュベートする方法に関する。
【0016】
特定の実施態様において、本発明は、架橋剤のSBBT又はSBATが同位体で標識されている上記方法に関する。考慮される同位体標識の例は、H(重水素)、H(トリチウム)、13C、14C、又は15Nである。好ましい同位体標識は、Hである。架橋剤の任意の水素原子を重水素により置換することができる。特定の例は、エステルカルボニル官能基に隣接する炭素原子が重水素化されている架橋剤である。
【0017】
更に、本発明は、新規な化合物:1,1’−(スベロイルジオキシ)ビスベンゾトリアゾール(SBBT)並びに直鎖C−及びC−C20−アルカン二酸7−アザベンゾトリアゾール−1−イルジエステル(nBAT):
【0018】
【化6】


[式中、nは、3及び6〜18の間である]、特に1,1’−(スベロイルジオキシ)ビスアザベンゾトリアゾール(SBAT、n=6)それ自体、並びに同位体標識SBBT及びnBATに関する。
【0019】
本発明の1つの目的は、質量分析法又は任意の他の分析手法(例えば、ゲル電気泳動法、X線結晶学法、NMR法、又は任意の種類の顕微鏡的若しくは蛍光ベースの方法)のいずれかによる検出のための、精製された多成分試料又は不均一な生体マトリックスのいずれか中の超分子標的−リガンド−複合体の分析に関して、より優れた効率及び反応速度特性を提示する架橋試薬を提供することである。特に本発明は、超分子標的−リガンド−複合体の分析の方法であって、例えば、精製された多成分試料又は不均一な生体マトリックス中の該複合体を、水溶液中又は有機溶媒中で、SBBT若しくはSBAT又はこのような架橋剤相互の若しくは更に別の架橋剤との混合物と一緒にインキュベートし、そしてこの生成物を反応混合物中で又は単離後に分析する方法に関する。特に本発明は、架橋生成物を、単離なしにHigh-Mass MALDI質量分析法により分析する、このような方法に関する。
【0020】
特に、本発明の1つの目的は、架橋試薬SBBT又はSBATの少なくとも1種と更に別の架橋試薬との混合物を使用することである。
【0021】
好ましい混合物は、下記式:
【0022】
【化7】


[式中、nは、3及び6〜18の間、好ましくは6〜14の間、そして特に3、6及び8である]で示される、種々のスペーサー長、例えば、3〜30Åの、反応性基として1−ヒドロキシ−7−アザベンゾトリアゾール基を持つ架橋剤を含む。好ましい混合物の特定の例は、SBAT(8C、n=6)、対応する5C反応性架橋剤の1,1’−(グルタロイルジオキシ)ビスアザベンゾトリアゾール(GBAT、グルタル酸ジ(3H−[1,2,3]トリアゾロ[4,5−b]ピリジン−3−イル)、n=3)及び対応する10C反応性架橋剤の1,1’−(デカノイルジオキシ)ビスアザベンゾトリアゾール(DBAT、デカン二酸ジ(3H−[1,2,3]トリアゾロ[4,5−b]ピリジン−3−イル)、n=8)を含む架橋剤の混合物である。
【0023】
好ましい混合物は、SBAT、GBAT及びDBAT;SBAT及びSBBT;SBAT及びDBAT;並びにSBAT、SBBT及びDBATよりなる。
【0024】
このような混合物は、タンパク質−タンパク質及びタンパク質−核酸相互作用で形成される一時的な複合体及び凝集体を架橋するのに、そして次にタンパク質凝集体を包含する架橋タンパク質複合体をHigh-Mass MALDI質量分析法を用いて検出するのに有用である。
【0025】
ある具体的な実施態様において、この新しく開発された架橋試薬は、精製された多成分試料又は不均一な生体マトリックスのいずれかに使用される。
【0026】
更に別の具体的な実施態様において、超分子標的−リガンド−複合体は、標的分子とそのリガンドとの複合体を表すが、ここで該標的分子及び/又はリガンドは、1つの特定の又は複数のタンパク質(例えば、抗体、受容体、酵素、凝集体)、核酸、アミノ官能基を持つ合成有機化合物(例えば、薬物、ポリマー)、又はこのようなアミノ官能基を持つ粒子(例えば、ウイルス粒子)などであってよい。即ち、形成される複合体は、タンパク質−薬物、タンパク質−核酸、タンパク質−ウイルス粒子、又はタンパク質−タンパク質相互作用、例えば、抗体−抗原、酵素−基質相互作用などににより生じる。
【0027】
本発明の更に別の目的は、この新しく開発された架橋試薬を、抗体−抗原相互作用の生化学的特性決定(例えば、抗体スクリーニング、エピトープマッピング、反応速度論)、治療用タンパク質の開発及び品質管理(タンパク質−PEG分析;タンパク質凝集体分析)、細胞シグナル伝達経路マッピング、更には薬剤スクリーニング(例えば、餌のタンパク質を利用するか又は競合アッセイにおける直接標的釣り)、インビトロ薬物結合アッセイ、ストレスをかけた際のタンパク質−タンパク質相互作用のマッピングによる薬物プロファイリングのような創薬の応用、更には自動及び高処理量の応用を包含するコンプレキソミクス(complexomics)のような、種々の生化学及び分子/細胞生物学の応用において使用することである。
【0028】
本発明の架橋試薬は、完全な超分子標的−リガンド複合体の直接分析に関する効率及び反応速度特性を向上させるため、これらの性質の信頼性の高い特性決定が可能になる。
【0029】
本発明はそれ自体、本発明の好ましい実施態様の以下の説明から最もよく理解されよう。当然のことながら、当業者であれば、本明細書に示され説明される具体的な実施態様への修飾及び/又は変法を着想できるだろう。本説明の範囲に含まれる任意のこのような修飾又は変法は、同様に本説明に包含されるものとする。本出願の出願時点で出願人が知る本発明の好ましい実施態様及び最良の態様の説明が提示されており、そしてこの説明は例証及び説明を目的とするものである。これは、本発明を網羅するものでなく、又は開示される正確な形に本発明を限定するものでもなく、そして上記の教示に照らせば多くの修飾及び変法が可能である。実施態様は、本発明の原理及びその実際的応用を実証しており、そしてこのため、他の当業者は、種々の実施態様において、そして意図される特定の用途に適切であるように種々の修飾を加えて、本発明を最もよく利用することができる。
【0030】
本明細書及び請求の範囲に使用される幾つかの用語及び句の意味は以下に提供される。特に断りない限り、本明細書に使用される全ての技術用語及び科学用語は、対象が属する分野の当業者により普通に理解される意味と同じ意味を有する。
【0031】
本発明の架橋試薬により、質量分析法又は他の分析手法(例えば、ゲル又は蛍光ベースの手法、NMR法、X線結晶学法など)のいずれかによる、より高速かつ高感度な、例えば、精製された多成分試料又は不均一な生体マトリックスのいずれかからの、完全な超分子標的−リガンド−複合体の検出、同定又は特性決定が可能になる。
【0032】
本発明は、架橋試薬のSBBT及びSBATが、例えば、精製された多成分試料又は不均一な生体マトリックスのいずれか中の、非共有結合で形成された超分子標的−リガンド−複合体の分析用の現在の技術水準の市販架橋試薬よりも、効率が高く、かつ高速で反応するという知見に基づく。
【0033】
本発明は、1,1’−(スベロイルジオキシ)ビスベンゾトリアゾール又はオクタン二酸ジ(1H−ベンゾ[d][1,2,3]トリアゾール−1−イル)と称される、下記式:
【0034】
【化8】


で示されるSBBTに関する。これは、スベリン酸又はスベリン酸誘導体と1−ヒドロキシベンゾトリアゾールとの、カルボン酸官能基を活性化し、かつカルボン酸エステル形成用の当該分野において知られている試薬の存在下での反応によって入手することができる。特に本化合物は、スベリン酸二塩化物と1−ヒドロキシベンゾトリアゾールとの、アミン塩基、例えば、トリエチルアミンの存在下での反応により入手することができる。
【0035】
本発明は更に、同位体標識SBBTに関するが、ここで同位体標識は、例えば、H(重水素)、H(トリチウム)、13C、14C、又は15Nである。好ましい同位体標識は、Hである。SBBTの任意の水素原子を重水素により置換することができる。特定の例は、エステルカルボニル官能基に隣接する炭素原子が重水素化されているSBBTである。
【0036】
本発明は更に、1,1’−(アルカノイルジオキシ)ビスアザベンゾトリアゾール又はアルカン二酸ジ(3H−[1,2,3]トリアゾロ[4,5−b]ピリジン−3−イル)、特にグルタル酸(n=3)、スベリン酸(n=6)、アゼライン酸(n=7)、セバシン酸(n=8)、ウンデカン二酸(n=9)、ドデカン二酸(n=10)、トリデカン二酸(n=11)、テトラデカン二酸(n=12)、ペンタデカン二酸(n=13)、ヘキサデカン二酸(n=14)、ヘプタデカン二酸(n=15)、オクタデカン二酸(n=16)、ノナデカン二酸(n=17)、及びイコサン二酸(n=18)エステルと称される、下記式:
【0037】
【化9】


[式中、nは、3又は6〜18の間、好ましくは6〜14の間である]で示される、直鎖C−C20−アルカン二酸7−アザベンゾトリアゾール−1−イルジエステルのnBATに関する。これらのエステルは、対応するジカルボン酸又は酸誘導体と1−ヒドロキシ−7−アザベンゾトリアゾールとの、カルボン酸官能基を活性化し、かつカルボン酸エステル形成用の当該分野において知られている試薬の存在下での反応によって入手することができる。特に本化合物は、対応するジカルボン酸二塩化物と1−ヒドロキシ−7−アザベンゾトリアゾールとの、アミン塩基、例えば、トリエチルアミンの存在下での反応により入手することができる。
【0038】
特に好ましいのは、1,1’−(グルタロイルジオキシ)ビスアザベンゾトリアゾール(GBAT、グルタル酸ジ(3H−[1,2,3]トリアゾロ[4,5−b]ピリジン−3−イル)、n=3)、1,1’−(スベロイルジオキシ)ビスアザベンゾトリアゾール(SBAT、スベリン酸(又はオクタン二酸)ジ(3H−[1,2,3]トリアゾロ[4,5−b]ピリジン−3−イル)、n=6)、及び1,1’−(デカノイルジオキシ)ビスベンゾトリアゾール(DBAT、デカン二酸(又はセバシン酸)ジ(3H−[1,2,3]トリアゾロ[4,5−b]ピリジン−3−イル)、n=8)である。
【0039】
本発明は更に、同位体標識nBATに関するが、ここで同位体標識は、例えば、H(重水素)、H(トリチウム)、13C、14C、又は15Nである。好ましい同位体標識は、Hである。nBATの任意の水素原子を重水素により置換することができる。特定の例は、エステルカルボニル官能基に隣接する炭素原子が重水素化されている、好ましいGBAT、SBAT又はDBATのような、nBATである。
【0040】
本明細書において使用されるとき、「架橋剤」という用語は、タンパク質に存在するアミノ官能基と、特にタンパク質表面に提示されるアミノ官能基と、及び他の容易に接近可能なアミノ官能基と、効率的かつ選択的に反応できる、2個以上、好ましくは2個の官能基を持つ、1500ダルトン未満の分子量の低分子のことをいう。
【0041】
本発明の意味での架橋剤は、例えば、S.S. Wong, Chemistry of Protein Conjugation and Cross-Linking (CRC Press 1991)に記述されている。架橋剤は、ホモ−及びヘテロ多官能基架橋剤の両方を包含し、そしてイミドエステル、N−ヒドロキシスクシンイミド−エステル(NHS−エステル)、マレイミド、ハロアセチル、ピリジルジスルフィド、ヒドラジド、カルボジイミド、アリールアジド、イソシアナート、ビニルスルホンなどを包含する。考慮される普通のホモ二官能基架橋剤は、例えば、α1−酸性糖タンパク質、3−[(2−アミノエチル)ジチオ]プロピオン酸・HCl、ビス−[β−(4−アジドサリチルアミド)エチル]ジスルフィド、1,4−ビス−マレイミドブタン、1,4−ビス−マレイミジル−2,3−ジヒドロキシ−ブタン、ビス−マレイミドヘキサン、ビス−マレイミドエタン、1,8−ビス−マレイミドジエチレングリコール、1,11−ビス−マレイミドトリエチレングリコール、スベリン酸ビス[スルホスクシンイミジル]、ビス[2−(スクシンイミドオキシカルボニルオキシ)エチル]スルホン、1,5−ジフルオロ−2,4−ジニトロベンゼン、アジプイミド酸ジメチル・2HCl、ピメルイミド酸ジメチル・2HCl、スベルイミド酸ジメチル・2HCl、1,4−ジ−[3’−(2’−ピリジルジチオ)−プロピオンアミド]ブタン、グルタル酸ジスクシンイミジル、ジチオビス[スクシンイミジルプロピオナート]、スベリン酸ジスクシンイミジル、酒石酸ジスクシンイミジル、3,3’−ジチオビス−プロピオンイミド酸ジメチル・2HCl、ジチオ−ビス−マレイミドエタン、3,3’−ジチオビス[スルホスクシンイミジルプロピオナート]、エチレングリコールビス[スクシンイミジルスクシナート]、1,6−ヘキサン−ビス−ビニルスルホン、エチレングリコールビス[スルホスクシンイミジルスクシナート]、p−アジドベンゾイルヒドラジド、N−(α−マレイミドアセトキシ)スクシンイミドエステル、N−5−アジド−2−ニトロベンゾイルオキシスクシンイミド、N−[4−(p−アジドサリチルアミド)ブチル]−3’−(2’−ピリジルジチオ)プロピオンアミド、4−[p−アジドサリチルアミド]ブチルアミン、N−[β−マレイミドプロピオン酸]、N−[β−マレイミドプロピオン酸]ヒドラジド・TFA、N−[β−マレイミドプロピルオキシ]スクシンイミドエステル、1−エチル−3−[3−ジメチルアミノプロピル]カルボジイミド・HCl、N−ε−マレイミドカプロン酸、[N−ε−マレイミドカプロン酸]ヒドラジド、[N−ε−マレイミドカプロイルオキシ]スクシンイミドエステル、N−[κ−マレイミドウンデカン酸]、N−[κ−マレイミドウンデカン酸]ヒドラジド、N−[γ−マレイミドブチリルオキシ]スクシンイミドエステル、4−[N−マレイミドメチル]シクロヘキサン−1−カルボキシ−[6−アミドカプロン酸]スクシンイミジル、6−(3−[2−ピリジルジチオ]−プロピオンアミド)ヘキサン酸スクシンイミジル、m−マレイミドベンゾイル−N−ヒドロキシスクシンイミドエステル、4−(4−N−マレイミドフェニル)酪酸ヒドラジド・HCl、N−スクシンイミジルアジピン酸メチル、N−ヒドロキシスクシンイミジル−4−アジドサリチル酸、3−(2−ピリジルジチオ)プロピオニルヒドラジド、イソシアン酸N−[p−マレイミドフェニル]、(4−アジドフェニル)−1,3’−ジチオプロピオン酸N−スクシンイミジル、N−スクシンイミジル−6−[4’−アジド−2’−ニトロフェニルアミノ]ヘキサノアート、N−スルホスクシンイミジル−6−[4’−アジド−2’−ニトロフェニルアミノ]ヘキサノアート、N−スクシンイミジル−S−アセチルチオアセタート、N−スクシンイミジル−S−アセチルチオプロピオナート、3−[ブロモアセトアミド]プロピオン酸スクシンイミジル、ヨード酢酸N−スクシンイミジル、[4−ヨードアセチル]−アミノ安息香酸N−スクシンイミジル、4−[N−マレイミドメチル]シクロヘキサン−1−カルボン酸スクシンイミジル、4−[p−マレイミドフェニル]酪酸スクシンイミジル、スクシンイミジル−6−[β−マレイミドプロピオンアミド]ヘキサノアート、4−スクシンイミジルオキシカルボニル−メチル−α−[2−ピリジルジチオ]トルエン、N−スクシンイミジル−3−[2−ピリジルジチオ]−プロピオンアミド、[N−ε−マレイミドカプロイルオキシ]スルホスクシンイミドエステル、N−[γ−マレイミドブチリルオキシ]スルホスクシンイミドエステル、N−ヒドロキシ−スルホスクシンイミジル−4−アジドベンゾアート、N−[κ−マレイミドウンデカノイルオキシ]スルホスクシンイミドエステル、6−(3−[2−ピリジルジチオ]−プロピオンアミド)ヘキサン酸スルホスクシンイミジル、m−マレイミドベンゾイル−N−ヒドロキシスルホスクシンイミドエステル、[4−アジドサリチルアミド]ヘキサン酸スルホスクシンイミジル、(4−アジドフェニル)−1,3’−ジチオプロピオン酸N−スルホスクシンイミジル、2−[7−アミノ−4−メチルクマリン−3−アセトアミド]エチル−1,3’−ジチオプロピオン酸スルホスクシンイミジル、2−[m−アジド−o−ニトロベンズアミド]−エチル−1,3’−ジチオプロピオン酸スルホスクシンイミジル、スルホスクシンイミジル−2−[p−アジドサリチルアミド]エチル−1,3’−ジチオプロピオナート、スルホスクシンイミジル−[ペルフルオロアジドベンズアミド]エチル−1,3’−ジチオプロピオナート、[4−ヨードアセチル]アミノ安息香酸N−スルホスクシンイミジル、4−[N−マレイミドメチル]シクロヘキサン−1−カルボン酸スクシンイミジル、4−[p−マレイミドフェニル]酪酸スルホスクシンイミジル、4−スルホスクシンイミジル−6−メチル−α−(2−ピリジルジチオ)トルアミド]−ヘキサノアート、N−[ε−トリフルオロアセチルカプロイルオキシ]スクシンイミドエステル、スルホスクシンイミジル−2−[6−ビオチンアミド−2−p−アジドベンズアミドヘキサノイルアミド]エチル−1,3’−ジチオプロピオナート、β−[トリス(ヒドロキシメチル)ホスフィノ]プロピオン酸、(トリス[2−マレイミドエチル]アミン)、及びアミノ三酢酸トリス−スクシンイミジルである。考慮される更に別の架橋剤は、ホルムアルデヒド、グルタルアルデヒド、又はグリオキサルである。
【0042】
本明細書において使用されるとき、「より高い(higher)効率」という用語は、架橋反応後に架橋超分子標的−リガンド−複合体の量を増大させる、新しく開発された架橋剤の特性のことをいう。
【0043】
本明細書において使用されるとき、「より高速の(faster)反応」とは、短時間、例えば、1〜30分間のインキュベーションで架橋する超分子標的−リガンド−複合体の速度を増大させる、新しく開発された架橋剤の特性のことをいう。
【0044】
本明細書において使用されるとき、「スペーサー長」という用語は、二官能性架橋分子の2つの反応性基を隔てる炭素鎖の長さ(Å)のことをいう。
【0045】
本明細書において使用されるとき、「超分子標的−リガンド−複合体」という用語は、標的分子とその結合リガンドとの特異結合により生じる複合体のことをいうが、ここで、該標的分子及び/又は結合リガンドは、1つの特定の又は複数のタンパク質(例えば、抗体、受容体、酵素又はタンパク質凝集体)、核酸、合成有機化合物(例えば、薬物、ポリマー)又は粒子(例えば、ウイルス粒子)などであってよく、タンパク質−タンパク質、タンパク質−核酸、タンパク質−薬物、タンパク質−ウイルス粒子、抗体−抗原、基質−酵素複合体などのような該超分子標的−リガンド−複合体を形成する。
【0046】
本明細書において使用されるとき、「標的」又は「標的分子」という用語は、典型的には生物源中に見い出されるが、また天然分子に基づくか、又はそれに由来する合成分子であってもよい高質量分子のことをいい、そして特にタンパク質(抗体及び非抗体タンパク質の両方)、ポリペプチド、糖ポリペプチド、ホスホポリペプチド、ペプチドグリカン、多糖類、ペプチド模倣物質、脂質、炭水化物、ポリヌクレオチド及び他の天然又は合成高分子を、好ましくはタンパク質、ポリペプチド、多糖類、ペプチド模倣物質、脂質、炭水化物、及びポリヌクレオチドを、更に好ましくはタンパク質、ポリペプチド、ペプチド模倣物質、及びポリヌクレオチドを包含する。標的は、天然源に由来しても、又は化学合成してもよい。
【0047】
本明細書において使用されるとき、「リガンド」(又は「結合リガンド」)という用語は、抗体に対する抗原、酵素に対する基質、エピトープに対するポリペプチド、又はタンパク質若しくは1群のタンパク質に対するタンパク質のような、それの標的に特異的に結合することができる分子のことをいう。リガンドと標的として記述される分子は、互換的に使用することができる。即ち、リガンドとは、低分子薬物、ペプチド又はポリペプチド、タンパク質、核酸又はオリゴヌクレオチド、オリゴ糖のような炭水化物、ウイルス粒子、あるいは任意の他の低分子有機化合物及び合成高分子のような、本質的に任意のタイプの分子であってよい。リガンドは、天然源に由来しても、又は化学合成してもよい。
【0048】
本明細書において使用されるとき、「精製された多成分試料」という用語は、部分的に又は完全に精製されている、タンパク質、ポリペプチド、糖ポリペプチド、ホスホポリペプチド、ペプチドグリカン、多糖類、ペプチド模倣物質、脂質、炭水化物、ポリヌクレオチド又は有機化合物の不均一又は均一な混合物を含有する任意の試料のことをいう。
【0049】
本明細書において使用されるとき、「不均一な生体マトリックス」という用語は、組織、細胞、又は細胞ペレットのような固形物;尿、血液、唾液、羊水、又は感染若しくは炎症部位からの滲出液のような体液;細胞抽出物、又は生検試料の溶解により得られる混合物;あるいは生体源、例えば、ヒト若しくは他の哺乳動物のような動物、植物、細菌、真菌又はウイルスから得られる混合物を包含する、任意の粗反応混合物のことをいう。
【0050】
上で定義された「精製された多成分試料」及び「不均一な生体マトリックス」という用語はまた、一連の可能性ある結合リガンドを標的分子と接触させることにより合成的に得られる混合物のことをいう。
【0051】
本明細書において使用されるとき、「分析する」という用語は、完全なイオンとして共有結合的に安定化された超分子標的−リガンド−複合体の存在、非存在又は変化を特定又は検出すること、あるいはこれらを同定することを意味する。
【0052】
本発明の架橋試薬は、より高速かつ効率的な架橋反応を必要とする、弱いタンパク質相互作用の分析が可能であるため、特に非常に有用である。
【0053】
更に、本明細書に開示されている架橋剤は、医薬開発及び診断法において非常に重要である、種々の分析応用において重要な手段を与える。これらの分析応用は、試薬開発及び抗体医薬最適化において重要な主題である、抗体−抗原相互作用の特性決定(特にその相互作用の特異性、交差反応性、結合強度、反応速度論及び化学量論に関して);基礎的分子生物学研究及び試薬開発において重要な、エピトープマッピング;シグナル伝達経路マッピングにおいて重要な、タンパク質の酵素誘導重合又は切断、更には相互作用タンパク質の翻訳後修飾、例えば、リン酸化、脱リン酸化、グリコシル化、アセチル化、メチル化、ユビキチン化など;創薬において重要な、リード化合物発見アッセイ、例えば、餌のタンパク質又は競合アッセイを用いるリガンド釣り;バイオマーカーの発見、検証及び早期薬剤プロファイリングにおいて重要な、薬剤プロファイリングアッセイ、例えば、薬剤又は他のストレス要因の適用による細胞内のタンパク質複合体形成のマッピング;タンパク質−タンパク質相互作用の高処理量の直接分析法−コンプレキソミクス、インタラクトミクス(interactmics)又はシステム生物学;インビトロ又はインビボのいずれかの成分の結合反応速度論、結合部位、同定又は化学量論のような特性を決定するための任意の自動又は高処理量分析法;複数の細胞株(その幾つかは、超分子複合体を有してもよく、そしてこれらが、発現するか、刺激されるか又は摂動を受けていることにより、同定されているか、又は未知の複合体の存在を識別できる)の比較;これらの方法を用いる、プロテインキナーゼのような、リン酸化/脱リン酸化部位の任意の検出;並びに細胞、又は細胞の一部を通してのように、別の実体を通じてのタンパク質輸送の測定を包含する。
【0054】
実施例
架橋剤の合成
【0055】
実施例1
1,1’−(スベロイルジオキシ)ビスベンゾトリアゾール、SBBT(オクタン二酸ジ(1H−ベンゾ[d][1,2,3]トリアゾール−1−イル))
【0056】
【化10】

【0057】
スベリン酸塩化物と1−ヒドロキシベンゾトリアゾールの間のカップリングは、塩化アジポイルについて報告された方法と同様に行った(Ueda et al., Journal of Polymer Science, Part a, Polymer Chemistry 1974, 14(11):2665-2673)。無水THF(5mL)中の1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(1.0g;7mmol)及びトリエチルアミン(1.2mL;9mmol)の溶液をスベリン酸塩化物(0.6mL;4mmol)と0℃で滴下により混合した。次にこの溶液を30分間撹拌して、HO 200mL中に注ぎ入れた。沈殿物を濾過して乾燥した。
【0058】
実施例2
1,1’−(スベロイルジオキシ)ビスアザベンゾトリアゾール、SBAT(オクタン二酸ジ(3H−[1,2,3]トリアゾロ[4,5−b]ピリジン−3−イル))
【0059】
【化11】

【0060】
無水THF(5mL)中の3H−[1,2,3]トリアゾロ[4,5−b]ピリジン−3−オール(1.08g;8mmol)及びトリエチルアミン(1.2mL;9mmol)の溶液をスベリン酸塩化物(0.6mL;4mmol)で処理して、0℃で30分間撹拌した。この溶液をHO中に注ぎ入れて、沈殿物を濾過した。
【0061】
実施例1及び2の化合物は、Varian Mercury 300又はVarian Gemini装置でH NMRにより分析した。質量分析による特性決定には、自動チップを用いたnanoESIシステム(Nanomate 100, Advion Biosciences, Ithaca, NY, 米国)を取り付けた四重極飛行時間型質量分析計(Q-ToF ULTIMA, Waters, Manchester, 英国)でスペクトルを入手した。
【0062】
実施例3
試料調製
安定化すべきタンパク質複合体は、10μLの総容量で過剰の架橋混合物により架橋した。各架橋剤は、2mg/mLでジメチルホルムアミド(DMF)中で新たに可溶化して、タンパク質又はペプチド溶液のアリコートに50倍モル過剰で加えた。この試料及び架橋剤を2〜180分間室温でインキュベートした。架橋後、タンパク質複合体を含有する試料1μLを、マトリックス溶液1μLと直接混合した。新たに作ったこのマトリックス溶液は、0.1%(v/v)トリフルオロ酢酸(TFA)で酸性にしたアセトニトリル:水(1:1、v/v)中にシナピン酸(10mg/mL)を含有する。混合後、MALDI-MS分析のために試料プレートに試料1μLを載せた。
【0063】
タンパク質複合体と架橋剤の間の結合の特異性は、ユビキチン(5μL、30μM)をグルタチオンS−トランスフェラーゼ(GST)溶液(5μL、15μM)に加えて、この混合物を合成架橋剤の1つと共に室温で120分間インキュベートすることにより試験した。
【0064】
反応速度試験では、試料のアリコートをマトリックスと急速に混合して、MALDIプレート上にスポットすることにより、架橋反応を様々なインキュベーション時間で25℃で分析した。マトリックスとの結晶化は、結合反応を停止させると仮定した。
【0065】
実施例4
質量分析
MALDI質量スペクトルは、High-Mass検出系(HM1, CovalX AG, Zurich, スイス)を取り付けた飛行時間型質量分析計(Reflex IV, Bruker Daltonics GmbH, Bremen, ドイツ)で入手した。この高質量検出系は、最大>1MDaの高質量範囲において低飽和度で高感度を提供する。典型的な加速電圧は、20kV、HV2とし、検出器の電圧利得は、2.8kVに設定し、そして遅延引き出し時間(delayed extraction time)は、選択質量範囲によって装置のソフトウェアにより自動的に適応させた。スペクトルは、試料の様々な配置での300以上のレーザーショットを平均した。反応速度試験には、スペクトルを最初にバックグラウンド減算して、ソフトウェアのComplexTracker 1.0(CovalX AG, Zuerich, スイス)で平滑化した。
【0066】
実施例5
2分間のインキュベーション時間後にスベリン酸ジスクシンイミジル(DSS)又は1,1’−(スベロイルジオキシ)ビスアザベンゾトリアゾール(SBAT)で架橋した、非共有結合性(GST二量体)タンパク質−タンパク質相互作用のHigh-Mass MALDI質量スペクトル分析。
本実施例では、グルタチオンS−トランスフェラーゼ(GST)二量体のHigh-Mass MALDI分析であって、本タンパク質の非架橋条件下(図2A)及び架橋剤DSS(図2B)又はSBAT(図2C)との2分間のインキュベーション後の分析を明らかにした。この架橋反応には、DSS(DMF中50μM)又はSBAT(DMF中50μM)の溶液1μLと反応する1μMのGST 10μLを関与させた。分析は、High-Mass検出系(HM1, CovalX AG, Zurich, スイス)を取り付けたMALDI質量分析計(Reflex IV, Bruker Daltonics GmbH, Bremen, ドイツ)を使用して実施した。試料は、シナピン酸(70%アセトニトリル:30%水:0.1%トリフルオロ酢酸中10mg/mL)1μLと混合した架橋GST 1μLを用いて調製して、乾燥液滴法を利用して1μLをスポットした。
【0067】
【化12】

【0068】
実施例6
特異性分析:120分間のインキュベーション時間後に1,1’−(スベロイルジオキシ)ビスアザベンゾトリアゾール(SBAT)で架橋した、グルタチオンS−トランスフェラーゼ(GST)及びユビキチンの混合物のHigh-Mass MALDI質量スペクトル分析。
本実施例では、市販の架橋試薬であるスベリン酸ジスクシンイミジル(DSS、オクタン二酸ビス(2,5−ジオキソピロリジン−1−イル))、ジチオビススクシンイミジルプロピオナート(DSP、3,3’−ジスルファンジイルジプロパン酸ビス(2,5−ジオキソピロリジン−1−イル))及びエチレングリコールビススクシンイミジルスクシナート(EGS、二コハク酸ビス(2,5−ジオキソピロリジン−1−イル)−エタン−1,2−ジイル)と比較した、架橋剤SBATのより高速の反応速度特性を実証した。グルタチオンS−トランスフェラーゼ(GST)及びユビキチンの混合物のHigh-Mass MALDI分析は、SBATでの120分間の架橋反応後に実施した(図3)。この架橋反応には、2μMのユビキチンと混合し、そしてSBATの溶液(DMF中50μM)1μLと反応する1μMのGST 10μLを関与させた。分析は、High-Mass検出系(HM1, CovalX AG, Zurich, スイス)を取り付けたMALDI質量分析計(Reflex IV, Bruker Daltonics GmbH, Bremen, ドイツ)を使用して実施した。試料は、シナピン酸(70%アセトニトリル:30%水:0.1%トリフルオロ酢酸中10mg/mL)1μLと混合した架橋生成物1μLを用いて調製して、乾燥液滴法を利用して1μLをスポットした。
【0069】
【化13】

【0070】
実施例7
1,1’−(スベロイルジオキシ)ビスアザベンゾトリアゾール(SBAT)、スベリン酸ジスクシンイミジル(DSS)、ジチオビス[スクシンイミジルプロピオナート](DSP)、及びエチレングリコールビス[スクシンイミジルスクシナート](EGS)の間の反応速度特性の比較試験。
本実施例では、市販の架橋試薬であるスベリン酸ジスクシンイミジル(DSS、オクタン二酸ビス(2,5−ジオキソピロリジン−1−イル))、ジチオビス[スクシンイミジルプロピオナート](DSP、3,3’−ジスルファンジイルジプロパン酸ビス(2,5−ジオキソピロリジン−1−イル))及びエチレングリコール[ビススクシンイミジルスクシナート](EGS、二コハク酸ビス(2,5−ジオキソピロリジン−1−イル)−エタン−1,2−ジイル)と比較した、架橋剤SBATのより高速の反応速度特性を実証した。グルタチオンS−トランスフェラーゼ(GST)のHigh-Mass MALDI質量スペクトル分析は、様々な架橋剤、DSS、DSP、EGS、及びSBATでの0〜10分間(図4A)及び0〜240分間(図4B)の様々なインキュベーション時間後に実施した。各インキュベーション後、試料は、High-Mass MALDI質量分析法により分析して、GST二量体の%は、質量スペクトルのピークの積分により直接求めた。この架橋反応には、DSS(DMF中50μM)、DSP(DMF中50μM)、EGS(DMF中50μM)又はSBAT(DMF中50μM)の溶液5μLと反応するGST(1μM)50μLを関与させた。各インキュベーション後、架橋試料1μLをシナピン酸(70%アセトニトリル:30%水:0.1%トリフルオロ酢酸中10mg/mL)1μLと混合した。乾燥液滴法を利用して1μLをスポットした。分析は、High-Mass検出系(HM1, CovalX AG, Zurich, スイス)を取り付けたMALDI質量分析計(Reflex IV, Bruker Daltonics GmbH, Bremen, ドイツ)を使用して実施した。
【0071】
実施例8
反応性基として1−ヒドロキシ−7−アザベンゾトリアゾール基を有する複数長の架橋混合物及び市販の架橋剤の複数長の架橋混合物に関する反応速度特性の比較試験。
本実施例では、スベリン酸ジスクシンイミジル(DSS、オクタン二酸ビス(2,5−ジオキソピロリジン−1−イル))、ジチオビス[スクシンイミジルプロピオナート](DSP、3,3’−ジスルファンジイルジプロパン酸ビス(2,5−ジオキソピロリジン−1−イル))及びエチレングリコールビス[スクシンイミジルスクシナート](EGS、二コハク酸ビス(2,5−ジオキソピロリジン−1−イル)−エタン−1,2−ジイル)を含有する混合物(Mix2)と比較した、1,1’−(スベロイルジオキシ)ビスアザベンゾトリアゾール(SBAT、オクタン二酸ジ(3H−[1,2,3]トリアゾロ[4,5−b]ピリジン−3−イル))、グルタロイルジオキシビスアザベンゾトリアゾール(GBAT、グルタル酸ジ(3H−[1,2,3]トリアゾロ[4,5−b]ピリジン−3−イル))及びデカノイルジオキシビスアザベンゾトリアゾール(DBAT、デカン二酸ジ(3H−[1,2,3]トリアゾロ[4,5−b]ピリジン−3−イル))を含有する混合物(Mix1)のより高速の反応速度特性を実証した。この実験では、反応性基を隔てる3種の異なるスペーサー長(GBAT:8.8Å;SBAT:13.2Å;DBAT:16.1Å)を得るために、反応性基として1−ヒドロキシ−7−アザベンゾトリアゾール基を有する3種の異なる架橋剤を合成して、等モル比で混合した。異なるスペーサー長(11.4〜16.1Å)を有する市販の3種の異なる架橋剤(DSS、DSP及びEGS)の混合物もまた、等モル比で調製した。グルタチオンS−トランスフェラーゼ(GST)又は[3E7・2bPrP]免疫複合体のHigh-Mass MALDI質量スペクトル分析は、Mix1又はMix2での様々なインキュベーション時間(0〜10分、図5A及びC、並びに0〜180分、図5B及びD)後に実施した。各インキュベーション時間後、架橋反応の効率を評価するために、GST二量体又は[3E7・2bPrP]に相当するピークの積分を求めた。この架橋反応には、Mix1(DMF中50μM)又はMix2(DMF中50μM)を含有する溶液5μLと反応する、GST(1μM)50μL、又は2μMのモノクローナル抗体6H4及び4μMの抗原bPrPを含有するタンパク質溶液50μLを関与させた。各インキュベーション後、架橋試料1μLをシナピン酸(70%アセトニトリル:30%水:0.1%トリフルオロ酢酸中10mg/mL)1μLと混合した。乾燥液滴法を利用して1μLをスポットした。分析は、High-Mass検出系(HM1, CovalX AG, Zurich, スイス)を取り付けたMALDI質量分析計(Reflex IV, Bruker Daltonics GmbH, Bremen, ドイツ)を使用して実施した。
【0072】
【化14】

【0073】
実施例9
架橋反応の効率
本実施例では、市販の架橋剤と比較した、新しく開発された架橋試薬のより高い効率を実証した。新しく開発された架橋剤の効率を評価するために、タンパク質複合体(GST及び1E7−bPrP)を含有する2種の溶液を試験した。GST(1μM)10μL、又は2μMのモノクローナル抗体1E7及び4μMの抗原bPrPを含有するタンパク質溶液10μLは、DSS(DMF中50μM)、DSP(DMF中50μM)、EGS(DMF中50μM)、SBAT(DMF中50μM)、Mix1(DMF中50μM)又はMix2(DMF中50μM)を含有する溶液1μLと混合した。この架橋剤は、完全な架橋反応を保証するために、タンパク質試料と一緒に180分間インキュベートした。インキュベーション後、架橋試料1μLをシナピン酸(70%アセトニトリル:30%水:0.1%トリフルオロ酢酸中10mg/mL)1μLと混合した。乾燥液滴法を利用して1μLをスポットした。分析は、High-Mass検出系(HM1, CovalX AG, Zurich, スイス)を取り付けたMALDI質量分析計(Reflex IV, Bruker Daltonics GmbH, Bremen, ドイツ)を使用して実施した。各タンパク質溶液及び各架橋試薬について、架橋効率を評価するために、質量スペクトル上の架橋タンパク質複合体に相当するピークを積分した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質及び/又はアミノ官能基を持つ他の化合物を架橋させる方法であって、このタンパク質又は他の化合物又はこれらの混合物を、下記:
【化15】


及びこのような架橋剤相互の又は更に別の架橋剤との混合物から選択される架橋剤と一緒にインキュベートする方法。
【請求項2】
精製された多成分試料又は不均一な生体マトリックス中のいずれかの超分子標的−リガンド−複合体の分析の方法であって、この試料又はマトリックスを、水溶液中又は有機溶媒中で、下記:
【化16】


及びこのような架橋剤相互の又は更に別の架橋剤との混合物から選択される架橋剤と一緒にインキュベートし、そしてこの生成物を反応混合物中で又は単離後に分析する方法。
【請求項3】
選択される架橋剤が、同位体で標識される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
架橋生成物を、質量分析法、ゲル電気泳動法、蛍光ベースの方法、NMR法、X線結晶学法又は顕微鏡法により分析する、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
架橋生成物を、単離なしにHigh-Mass MALDI質量分析法により分析する、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項6】
架橋剤SBBT又はSBAT相互の又は更に別の架橋剤との混合物が使用される、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
混合物が、1−ヒドロキシ−7−アザベンゾトリアゾール基を持つ1種以上の架橋剤を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
混合物が、1,1’−(スベロイルジオキシ)ビスアザベンゾトリアゾール(SBAT)、1,1’−(グルタロイルジオキシ)ビスアザベンゾトリアゾール(GBAT)、及び1,1’−(デカノイルジオキシ)ビスアザベンゾトリアゾール(DBAT)を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
混合物が、1,1’−(スベロイルジオキシ)ビスアザベンゾトリアゾール(SBAT)及び1,1’−(デカノイルジオキシ)ビスアザベンゾトリアゾール(DBAT)を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
混合物が、1,1’−(スベロイルジオキシ)ビスアザベンゾトリアゾール(SBAT)、1,1’−(スベロイルジオキシ)ビスベンゾトリアゾール(SBBT)、及び1,1’−(デカノイルジオキシ)ビスアザベンゾトリアゾール(DBAT)を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項11】
下記式:
【化17】


で示される、1,1’−(スベロイルジオキシ)ビスベンゾトリアゾール(SBBT)。
【請求項12】
下記式:
【化18】


[式中、nは、3又は6〜18の間である]で示される直鎖アルカン二酸7−アザベンゾトリアゾール−1−イルジエステル。
【請求項13】
下記式:
【化19】


で示される、請求項12に記載の1,1’−(スベロイルジオキシ)ビスアザベンゾトリアゾール(SBAT)。
【請求項14】
下記式:
【化20】


で示される、請求項12に記載の1,1’−(グルタロイルジオキシ)ビスアザベンゾトリアゾール(GBAT)。
【請求項15】
下記式:
【化21】


で示される、請求項12に記載の1,1’−(デカノイルジオキシ)ビスアザベンゾトリアゾール(DBAT)。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4−1】
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【図4−2】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図5D】
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【公表番号】特表2012−528119(P2012−528119A)
【公表日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−512382(P2012−512382)
【出願日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際出願番号】PCT/EP2010/057350
【国際公開番号】WO2010/136539
【国際公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【出願人】(509172712)コヴァルクス・アーゲー (3)
【氏名又は名称原語表記】COVALX AG
【出願人】(508139000)
【氏名又は名称原語表記】ETH Zurich
【Fターム(参考)】