説明

分岐器床板

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、基本レールを載置固定するベース板と、このベース板に固定され基本レールに離接するトングレールを摺動支持する摺動板とを備える分岐器床板に関する。
【0002】
【従来の技術】図4及び図5を参照して、摺動板を備えた従来の分岐器床板について説明すると、1は車輪、3は基本レール、5はトングレール、7は分岐器床板、9はレール固定金具を示し、分岐器床板7はベース板11と摺動板13とで構成されている。ベース板11には、基本レール3を載置する基本レール用載置部1101と、摺動板13を載置する摺動板用載置部1103が設けられ、ベース板11の端部寄りの上面には、図5に示すように、ベース板11の幅方向に沿って傾斜しつつ延出する斜溝15が形成され、ベース板11の四隅には該ベース板取付用孔17が貫設されている。
【0003】前記基本レール用載置部1101は、摺動板用載置部1103側に至るにつれて低くなるテーパ状の載置面1101Aで形成され、摺動板用載置部1103は水平状の載置面1103Aで形成され、両載置面1101A,1103Aの境には段部1105が形成されている。
【0004】基本レール3は前記載置面1101Aに、該基本レール3の底部を構成する足の一端3B側端部を該ベース板11の段部1105に当接させて載置され、レール固定金具9と摺動板13とにより載置面1101A上に固定される。レール固定金具9はその端部9Aを前記斜溝15に係合させつつ図5に矢印で示す方向、すなわちベース板11の幅方向の一端11Aから他端11Bに向けてスライドさせることによりクサビ作用を生じ、該クサビ作用により基本レールの足の一端3A端部を段部1105側に押圧し、その状態でボルト19A、ナット19Bにより基本レール3をベース板3の載置面1101A上に固定する。
【0005】摺動板13には、その長手方向の一端下面側に係合部1301が形成されており、摺動板13はこの係合部1301を段部1105から突出させ、係合部1301を載置面1101A上に固定された基本レール3の一端3B端部上に係合させて載置面1103A上に載置され、その二辺13A、13Aがすみ肉溶接されることで該載置面1103A上に固定される。このように構成された分岐器床板7の摺動板13上にトングレール5が載置され、ポイント切替え時、トングレール5の底部が該摺動板13上を摺動して移動する。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】上述した分岐器床板7において、車両走行時には図4に示すように基本レール3に矢印A方向の力(以下「上揚力」という)が作用する。そして、当該上揚力に対しては基本レール3をベース板11側に固定するレール固定金具9と基本レール3の底部を構成する足の一端3B側に係合する摺動板13の係合部1301とで負担することになる。
【0007】摺動板13の係合部1301に作用する上揚力は当該摺動板13を該摺動板13が固定されたベース板11から剥離させるように作用し、とくに係合部1301近傍の溶接部位に剥離を生起するという問題がある。この摺動板13の剥離の問題は、該摺動板13上を摺動案内されるトングレール5の円滑な摺動を妨げる結果となり、大きな事故につながるという問題を含んでいる。
【0008】このような問題点に対処するべく、従来の分岐器床板7においては摺動板13をベース板11に溶接固定するにあたり、すみ肉溶接の脚長を大きく取っているが、上記問題点を完全に克服した解決策とは言い難い。
【0009】
【課題を解決するための手段】本発明は上述した問題点に鑑みなされたもので、基本レールに作用する上揚力を負担する役割とトングレールを摺動案内する役割とを課せられていた摺動板に摺動板本来のトングレールを摺動案内する役割だけを負担させ、基本レールに作用する上揚力を該摺動板とは別部材で負担させることにより、上述した問題を一挙に解決させることができたものである。
【0010】すなわち、本発明は、基本レールを載置固定するベース板と、このベース板に固定され前記基本レールに離接するトングレールを摺動支持する摺動板とを備える分岐器床板において、ベース板は、基本レール用載置部と、摺動板用載置部と、これら両載置部の境部分に設けられた凹部を備え、前記凹部には上揚力受け部材が嵌入固定され、前記上揚力受け部材は、前記凹部に嵌合される基部と、該基部から上方に突出し前記基本レールの底部の足の一端部に係合する係合部が形成された突部とを備え、前記摺動板用載置部には前記摺動板がその表面を前記上揚力受け部材の突部表面と面一にして固定されていることを特徴とする分岐器床板を提供するものである。また、本発明は、前記基本レール用載置部がテーパ状の載置面を備え、前記摺動板用載置部が水平状の載置面を備え、前記上揚力受け部材が、前記係合部側の基部表面が前記基本レール用載置部の載置面と、前記係合部と反対側の基部表面が前記摺動板用載置部の載置面と夫々面一にして嵌入固定されている分岐器床板を提供するものである。
【0011】
【作用】上述した構成からなる分岐器床板において、車両走行時には基本レールに上揚力が作用すると、当該上揚力に対して、摺動板とは別部材である上揚力受け部材が負担する。
【0012】
【実施例】以下、本発明の実施例を図面を参照して説明する。図1は基本レールとトングレールと分岐器床板の関係を示す断面正面図、図2(A)は分岐器床板の平面図、図2(B)は同正面図で、従来と同一の部材、箇所には同一の符号を付して説明する。3は基本レール、5はトングレール、9はレール固定金具、20は分岐器床板を示し、分岐器床板20はベース板21と上揚力受け部材27と摺動板29からなる。ベース板21には、テーパ状の載置面2101Aを備えた基本レール用載置部2101と水平状の摺動板用載置部2103が設けられ、該両載置部2101、2103の境部分には凹部25が設けられている。また、ベース板21の一方の端部寄りの上面には、斜溝15が形成され、ベース板21の四隅には該ベース板取付用孔17が貫設されている。
【0013】図3(A)、図3(B)、図3(C)は夫々前記凹部25に嵌入固定される上揚力受け部材27の平面図、正面図、側面図を示すものである。上揚力受け部材27は圧延鋼板で形成され、基部2701と該基部2701から上方に突出する突部2703と該突部の一方の側に形成された係合部2703Aとから構成されている。該突部2703の幅は、図3(A)、(B)に示すように、基部2701の幅よりも狭く形成されている。基部2701の係合部2703A側に位置する部分の表面は、前記ベース板21のテーパ状載置面2101Aと連続するべくテーパ面2701Aに形成され、また基部2701の係合部2703Aと反対側に位置する部分の表面は、ベース板21の水平状の載置面2103Aと連続する水平面2701Bに形成されている。
【0014】上揚力受け部材27のベース板21への取付けは、図2(B)に示すように、凹部25に基部2701を嵌込み、基部2701の二辺をベース板21にV型溶接することで行う。このように上揚力受け部材27をベース板21の凹部25に嵌入固定すると、基部2701の係合部2703A側に位置する部分の表面はテーパ面2701Aに形成されているので、該テーパ面2701Aは基本レール用載置部2101のテーパ状載置面2101Aと面一となり、基本レール3の載置部となる。
【0015】基本レール3はテーパ状載置面2101Aとテーパ面2701Aとの載置面に載置され、前記ベース板21に形成された斜溝15に係合するレール固定金具9によるクサビ作用により上揚力受け部材27側に押圧され、該レールの底部を構成する足の一端3Bが該上揚力受け部材27の係合部2703Aに強固に係合し、この状態で該レール固定金具9をボルト、ナットにより固定することにより、該基本レール3はベース板21の載置部に固定される。
【0016】摺動板29は、その表面2903Aを前記上揚力受け部材27を構成する突部2703の表面2703Bと面一にして、ベース板21の摺動板用載置部2103ならびに該摺動板用載置部2103の載置面2103Aと連続する上揚力受け部材27の水平面2701B上に両側部29A,29Aをすみ肉溶接して固定される。
【0017】本実施例は上述したように構成されているので、車両走行時に、基本レール3に上揚力が作用した場合、当該上揚力に対しては該基本レール3をベース板21に固定したレール固定金具9と基本レール3の底部を構成する足の一端3B側に係合する上揚力受け部材27の係合部2703Aとで負担する。したがって、トングレール5を摺動支持する摺動板29には当該上揚力は作用しないので、摺動板29には摺動板本来のトングレール5の摺動支持する役割を分担することになる。このことは、摺動板29をベース板21ならびに上揚力受け部材27の水平面2103A,2701Bに溶接固定するにあたり、すみ肉溶接の脚長を短くすることができるという利点につながる。具体的には、従来の溶接の脚長が10mmであるのに対し、本実施例では5mmで十分となる。
【0018】また、本実施例は摺動板29に基本レール3に作用する上揚力を負担させない構成であり、かつ摺動板29をベース板21に溶接固定するにあたり、すみ肉溶接の脚長を短くすることができることから、摺動板29として、例えば本出願人が特願平2−27677号(特開平3−232905号)として先に提案した複層燒結摺動部材を使用することにより、トングレール5の円滑な摺動支持を長期にわたって維持することができる。
【0019】
【発明の効果】以上の説明で明らかなように本発明によれば、ベース板と摺動板とで構成される分岐器床板において、基本レールに作用する上揚力に対して上揚力受け部材が負担するようにしたので、従来、問題とされていた摺動板のベース板からの剥離という問題は生じることがない。また、トングレールを摺動支持する摺動板には当該上揚力は作用しないので、摺動板には摺動板本来のトングレールの摺動支持する役割だけを分担することになり、摺動板をベース板に溶接固定するにあたり、すみ肉溶接の脚長を短くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】基本レールとトングレールと分岐器床板の関係を示す断面正面図である。
【図2】図2(A)は分岐器床板の平面図、図2(B)は同正面図である。
【図3】図3(A)は上揚力受け部材の平面図、図3(B)は同正面図、図3(C)は同側面図である。
【図4】基本レールとトングレールと従来の分岐器床板の関係を示す断面正面図である。
【図5】基本レールと従来の分岐器床板の関係を示す平面図である。
【符号の説明】
3 基本レール
5 トングレール
9 レール固定金具
20 分岐器床板
21 ベース板
27 上揚力受け部材
29 摺動板

【特許請求の範囲】
【請求項1】 基本レールを載置固定するベース板と、このベース板に固定され前記基本レールに離接するトングレールを摺動支持する摺動板とを備える分岐器床板において、ベース板は、基本レール用載置部と、摺動板用載置部と、これら両載置部の境部分に設けられた凹部を備え、前記凹部には上揚力受け部材が嵌入固定され、前記上揚力受け部材は、前記凹部に嵌合される基部と、該基部から上方に突出し前記基本レールの底部の足の一端部に係合する係合部が形成された突部とを備え、前記摺動板用載置部には前記摺動板がその表面を前記上揚力受け部材の突部表面と面一にして固定されている、ことを特徴とする分岐器床板。
【請求項2】 前記基本レール用載置部はテーパ状の載置面を備え、前記摺動板用載置部は水平状の載置面を備え、前記上揚力受け部材は、前記係合部側の基部表面が前記基本レール用載置部の載置面と、前記係合部と反対側の基部表面が前記摺動板用載置部の載置面と夫々面一にして嵌入固定されている、ことを特徴とする請求項1記載の分岐器床板。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図3】
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【特許番号】第2949677号
【登録日】平成11年(1999)7月9日
【発行日】平成11年(1999)9月20日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−73430
【出願日】平成4年(1992)2月24日
【公開番号】特開平5−230801
【公開日】平成5年(1993)9月7日
【審査請求日】平成10年(1998)11月19日
【出願人】(000103644)オイレス工業株式会社 (384)
【参考文献】
【文献】実開 昭48−83503(JP,U)