説明

分散形電源の運転状態検出方法、運転状態検出装置及び運転状態検出プログラム

【課題】需要家内に設置された分散形電源に対して計測装置を直接設置することなく分散形電源の運転状態を判別することができるようにする。
【解決手段】受電点有効電力の計測値及び受電点無効電力の計測値データの入力を受け(S1)、有効電力の計測値を判別関数に代入して無効電力の計算値を算出し(S2)、該無効電力の計算値と無効電力の計測値との大きさを比較して分散形電源の運転状態を判別する(S3)ようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分散形電源の運転状態検出方法、運転状態検出装置及び運転状態検出プログラムに関する。さらに詳述すると、本発明は、配電系統に連系している需要家内の回路に接続されている分散形電源の運転の状態を判別する技術に関する。
【0002】
本明細書において、分散形電源とは、配電系統(若しくは送電系統)に連系している(高圧)需要家の自家発電設備等の電源を意味する。また、分散形電源が運転して発電している状態を運転ありと呼び、分散形電源が停止して発電していない状態を運転なしと呼ぶ。
【背景技術】
【0003】
配電系統に分散形電源が連系している場合、供給電圧の逸脱や配電線事故復旧後(特に直後)の過負荷が懸念され、これらを防止して配電系統を適切に運用するためには区分開閉器によって区分される配電系統の各区間の負荷や電力潮流(電流)をおおまかに算出することが必要とされ、そのためには配電系統運用者側で各分散形電源の運転状態を常時把握することが必要とされる。
【0004】
配電系統に分散形電源が連系している場合の区分開閉器によって区分される配電系統の各区間の負荷を算出する従来の技術としては、例えば、配電線の区間負荷算出装置がある(特許文献1)。この装置は、変電所で測定される配電線の送出し電力と、配電系統に連系する各分散形電源に設置された分散形電源出力計測手段によって計測される計測値であって変電所における送出し電力の測定時刻と同時刻の分散形電源から配電系統に対して供給される電流の計測値に基づいて各区間の実際の負荷を算出し、これによって各区間の電力潮流を把握するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−61247号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の配電線の区間負荷算出装置では、需要家内の各分散形電源に対して計測装置を直接設置して計測を行う必要がある。したがって、全ての需要家に対して計測装置の設置を要請し承諾をしてもらわなければならず、現実には非常に困難である。
【0007】
そこで、本発明は、需要家内に設置された分散形電源に対して計測装置を直接設置することなく分散形電源の運転状態を判別することができる分散形電源の運転状態検出方法、運転状態検出装置及び運転状態検出プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、分散形電源の運転状態を検出するための種々の検討を行う中で、需要家内の回路への力率改善用コンデンサの投入(設置)の影響による受電点における有効電力・無効電力の挙動に着目することによって分散形電源の運転状態を判別することが可能であることを知見した。
【0009】
具体的には、まず、図1に示すように、分散形電源1を有し受電点3を介して配電系統5に連系している需要家について、同図に示すように力率改善用コンデンサ4を有する需要家を想定する。なお、図1において、符号2は需要家内の負荷を表す。なお、力率改善用コンデンサとは、需要家内の負荷2の遅れ力率を補償するためのものである。
【0010】
図1に示す需要家内の回路を流れる電力を以下のようにおく。
P:受電点における有効電力〔kW〕
(以下、受電点有効電力という)
Q:受電点における無効電力〔kVar〕
(以下、受電点無効電力という)
G:需要家内に設置された分散形電源1の接続点における有効電力〔kW〕
(以下、分散形電源有効電力という)
G:需要家内に設置された分散形電源1の接続点における無効電力〔kVar〕
(以下、分散形電源無効電力という)
C:需要家内に設置された力率改善用コンデンサの容量〔kVA〕
【0011】
なお、本発明において、受電点とは、配電系統5と需要家との連系点の配電系統側のことをいう。そして、受電点有効電力とは配電系統側の給電線から需要家側に供給される有効電力のことであり、受電点無効電力とは配電系統側の給電線から需要家側に供給される無効電力のことであり、それぞれ受電点において計測されるものである。
【0012】
また、本発明では、各分散形電源の力率は分散形電源毎に一定であり時間的に不変であるとする。
【0013】
そして、図2に示すように、力率改善用コンデンサ4を有する需要家においては、時点毎の受電点有効電力Pと受電点無効電力Qとの組み合わせデータのプロットの分布は、力率改善用コンデンサ4の効果を考えない且つ分散形電源1が運転していない場合の分布領域6に対し、力率改善用コンデンサ4の投入容量Cの分だけ受電点無効電力Qが減少するので分布領域6cにシフトし、その上で分散形電源1が運転している場合には分散形電源有効電力PGの分だけ受電点有効電力Pが減少し且つ分散形電源無効電力QGの分だけ受電点無効電力Qが減少するので分布領域6cgにシフトする。
【0014】
そして、本発明者らは、図2に示すように、分散形電源1の運転なしの分布領域6,6cと運転ありの分布領域6cgとの境界線を、需要家内の負荷2の力率に基づく係数aを傾きとすると共に需要家内の力率改善用コンデンサの投入容量C〔kVA〕に基づく定数cを切片とする直線7(以下、判別関数という;数式1)によって表すことができることを知見した。
【0015】
(数1) Q=a×P−c
ここに、P:受電点有効電力〔kW〕,
Q:受電点無効電力〔kVar〕,
a:需要家内の負荷の力率に基づく係数,
c:需要家内の力率改善用コンデンサの投入容量に基づく定数
をそれぞれ表す。
【0016】
上述の知見を確認するため、分散形電源1としての発電機及び力率改善用コンデンサが需要家内の回路に接続されている需要家を対象とし、受電点3における時点毎の有効電力の計測値と無効電力の計測値との組み合わせデータを、これら電力の計測時の発電機接続点における有効電力(前述の受電点3における計測とは別に計測)に基づいて分散形電源1の運転ありと運転なしとを区別してプロットすると図3に示すようになった。
【0017】
そして、判別関数は図中の直線7で示されるようになった。判別関数(直線7)の決定は具体的には、まず、時点毎の受電点有効電力と受電点無効電力との組み合わせデータのうち需要家内の分散形電源1が運転していない時間帯における組み合わせデータのみを用いて当該組み合わせデータの近似直線8を求めて数式2が得られた(図4)。
(数2) (受電点無効電力)=1.0143×(受電点有効電力)−1370
【0018】
数式2の傾きは分散形電源1が運転していない場合の受電点有効電力の計測値と受電点無効電力の計測値との間の関係を表す近似直線の傾きであり、当該傾きの値(=1.0143)は有効電力と無効電力とから導き出される力率に換算すると0.7に相当する値であった。そして、分散形電源1が運転している場合における受電点有効電力及び受電点無効電力の減少(即ち、組み合わせデータのプロットにおける分布範囲のシフト)を考慮するため(図2参照)、力率0.7から0.05を引いて(即ち、力率差し引き量=0.05)力率0.65に相当する傾きを直線7の傾き(数式1の係数a)として決定した(図5)。また、数式2の切片は需要家内の回路への力率改善用コンデンサ4の投入容量(の近似値)であり、当該切片の値(=-1370)をそのまま直線7の切片(数式1の定数c)とした。
【0019】
ここで、力率差し引き量は、0.05に限られるものではなく、例えば受電点有効電力と受電点無効電力との組み合わせデータのプロットの分布の傾向(即ち実際の挙動)の分析なども踏まえて0.05〜0.15程度の範囲のいずれかの値に設定することが考えられた。また、分散形電源が運転していない場合の受電点有効電力の計測値と受電点無効電力の計測値との間の関係を表す近似直線の傾きは、需要家内の負荷2の力率によって決定されるものであるので、需要家内の負荷に関する情報に基づいて決定するようにしても良いと考えられた。すなわち、判別関数の傾き(数式1の係数a)は、分散形電源が運転していない場合の受電点有効電力の計測値と受電点無効電力の計測値との間の関係を表す近似直線を求めて当該近似直線の傾きから決定するようにしても良いし、需要家内の負荷に関する情報から決定するようにしても良いし、さらに、受電点有効電力の計測値と受電点無効電力の計測値との組み合わせデータのプロットにおける分布範囲の上縁部を通る直線として例えば手作業によって適宜設定する(この場合には切片は以下に述べる方法のいずれかによって決定されたものに固定しておく)ようにしても良いと考えられた。
【0020】
また、分散形電源が運転していない場合の受電点有効電力の計測値と受電点無効電力の計測値との間の関係を表す近似直線の切片は、需要家内の力率改善用コンデンサの投入容量によって決定されるものであるので、需要家内の力率改善用コンデンサに関する情報に基づいて決定するようにしても良いと考えられた。すなわち、判別関数の切片(数式1の定数c)は、分散形電源が運転していない場合の受電点有効電力の計測値と受電点無効電力の計測値との間の関係を表す近似直線を求めて当該近似直線の切片から決定するようにしても良いし、需要家内に実際に設置されている力率改善用コンデンサの容量から決定するようにしても良いと考えられた。なお、需要家内に力率改善用コンデンサが複数設置されている場合にはそれらの容量の合計値が用いられる。
【0021】
そして、図3に示す結果からも、数式1のように表される判別関数によって分散形電源の運転状態の判別が可能であることが確認される。
【0022】
本発明は、上述の知見に基づくものであり、請求項1記載の分散形電源の運転状態検出方法は、配電系統と分散形電源及び力率改善用コンデンサを有する需要家との連系点の配電系統側における有効電力及び無効電力を計測し、有効電力の計測値Pmを数式3に代入して無効電力の計算値Qcを算出し、該無効電力の計算値Qcと無効電力の計測値との大きさを比較して無効電力の計測値が無効電力の計算値Qc以上の場合には分散形電源の運転ありと判断すると共に無効電力の計測値が無効電力の計算値Qcよりも小さい場合には分散形電源の運転なしと判断するようにしている。
【0023】
(数3) Qc=a×Pm−c
ここに、Qc:無効電力の計算値〔kVar〕,
Pm:有効電力の計測値〔kW〕,
a :需要家内の負荷の力率に基づく係数,
c :需要家内の力率改善用コンデンサの容量に基づく定数
をそれぞれ表す。
【0024】
また、請求項4記載の分散形電源の運転状態検出装置は、配電系統と分散形電源及び力率改善用コンデンサを有する需要家との連系点の配電系統側における有効電力の計測値及び無効電力の計測値のデータを読み込む手段と、有効電力の計測値Pmを数式3に代入して無効電力の計算値Qcを算出する手段と、該無効電力の計算値Qcと無効電力の計測値との大きさを比較して無効電力の計測値が無効電力の計算値Qc以上の場合には分散形電源の運転ありと判断すると共に無効電力の計測値が無効電力の計算値Qcよりも小さい場合には分散形電源の運転なしと判断する手段とを有するようにしている。
【0025】
また、請求項7記載の分散形電源の運転状態検出プログラムは、配電系統と分散形電源及び力率改善用コンデンサを有する需要家との連系点の配電系統側における有効電力の計測値及び無効電力の計測値のデータを読み込む手段、有効電力の計測値Pmを数式3に代入して無効電力の計算値Qcを算出する手段、該無効電力の計算値Qcと無効電力の計測値との大きさを比較して無効電力の計測値が無効電力の計算値Qc以上の場合には分散形電源の運転ありと判断すると共に無効電力の計測値が無効電力の計算値Qcよりも小さい場合には分散形電源の運転なしと判断する手段としてコンピュータを機能させるようにしている。
【0026】
そして、これら分散形電源の運転状態検出方法、運転状態検出装置及び運転状態検出プログラムでは、受電点有効電力の計測値と受電点無効電力の計測値との組み合わせに基づいて需要家内に設置された分散形電源の運転状態を判別するようにしているので、計測装置を分散形電源に直接取り付けることなく需要家内に設置された分散形電源の運転状態を検出することができる。
【0027】
また、これら分散形電源の運転状態検出方法、運転状態検出装置及び運転状態検出プログラムでは、複雑な数値分析等の数学的な処理を用いていないので、分散形電源の運転状態を簡易に判別することができる。
【0028】
また、請求項2記載の発明は、請求項1記載の分散形電源の運転状態検出方法において、需要家内の負荷の力率に基づく係数aを、分散形電源が運転していない場合の有効電力の計測値Pmと無効電力の計測値との間の関係を表す近似直線の傾きに相当する力率から力率差し引き量を引いた力率に相当する傾きの値に設定するようにしている。また、請求項5記載の発明は、請求項4記載の分散形電源の運転状態検出装置において、需要家内の負荷の力率に基づく係数aが、分散形電源が運転していない場合の有効電力の計測値Pmと無効電力の計測値との間の関係を表す近似直線の傾きに相当する力率から力率差し引き量を引いた力率に相当する傾きの値に設定されるようにしている。また、請求項8記載の発明は、請求項7記載の分散形電源の運転状態検出プログラムにおいて、需要家内の負荷の力率に基づく係数aが、分散形電源が運転していない場合の有効電力の計測値Pmと無効電力の計測値との間の関係を表す近似直線の傾きに相当する力率から力率差し引き量を引いた力率に相当する傾きの値に設定されるようにしている。これらの場合には、判別関数である数式3の係数aが適切に設定される。
【0029】
また、請求項3記載の発明は、請求項2記載の分散形電源の運転状態検出方法において、力率差し引き量を0.05〜0.15の範囲で設定するようにしている。また、請求項6記載の発明は、請求項5記載の分散形電源の運転状態検出装置において、力率差し引き量が0.05〜0.15の範囲で設定されるようにしている。また、請求項9記載の発明は、請求項8記載の分散形電源の運転状態検出プログラムにおいて、力率差し引き量が0.05〜0.15の範囲で設定されるようにしている。これらの場合には、判別関数である数式3の係数aがより一層適切に設定される。
【発明の効果】
【0030】
本発明の分散形電源の運転状態検出方法、運転状態検出装置及び運転状態検出プログラムによれば、計測装置を分散形電源に直接取り付けることなく需要家内に設置された分散形電源の運転状態を検出することができるので、需要家内に設置された分散形電源の運転状態の検出の仕組みを容易に構築することが可能になる。
【0031】
また、本発明の分散形電源の運転状態検出方法、運転状態検出装置及び運転状態検出プログラムによれば、分散形電源の運転状態を簡易に判別することができるので、需要家内に設置された分散形電源の運転状態の検出の仕組みとしての汎用性の向上を図ることが可能になる。
【0032】
また、請求項2,3,5,6,8,9記載の分散形電源の運転状態検出方法、運転状態検出装置及び運転状態検出プログラムによれば、判別関数である数式3の係数aを適切に設定することができるので、需要家内に設置された分散形電源の運転状態の検出の仕組みとしての汎用性の更なる向上と信頼性の向上とを図ることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明における分散形電源の運転状態を判別する原理の説明のための、分散形電源及び力率改善用コンデンサを有する需要家内の回路の概要図である。
【図2】力率改善用コンデンサの有無及び分散形電源の運転状態によって需要家の受電点における有効電力と無効電力との組合せデータの取り得る領域が異なることを示す概念図であり、分散形電源及び力率改善用コンデンサを有する需要家の場合の分散形電源の運転状態別の有効電力と無効電力との組み合わせデータの取り得る領域を説明する図である。
【図3】力率改善用コンデンサを有する需要家の場合の分散形電源の運転状態別の有効電力と無効電力との実際の組み合わせデータの分布状況並びに判別関数を説明する図である。
【図4】力率改善用コンデンサを有する需要家における分散形電源の運転なしの場合の有効電力と無効電力との実際の組み合わせデータの分布状況並びに近似直線を説明する図である。
【図5】分散形電源が運転している場合における受電点有効電力及び受電点無効電力の減少(プロット分布範囲のシフト)を考慮するための近似直線の傾きの決定を説明する図である。
【図6】本発明の分散形電源の運転状態検出方法及び運転状態検出プログラムの実施形態の一例を説明するフローチャートである。
【図7】実施形態の分散形電源の運転状態検出方法をプログラムを用いて実施する場合の分散形電源の運転状態検出装置の機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の構成を図面に示す形態に基づいて詳細に説明する。
【0035】
図6及び図7に、本発明の分散形電源の運転状態検出方法、運転状態検出装置及び運転状態検出プログラムの実施形態を示す。この分散形電源の運転状態検出方法は、配電系統と分散形電源及び力率改善用コンデンサを有する需要家との連系点の配電系統側における有効電力及び無効電力を計測し、有効電力の計測値Pmを数式4に代入して無効電力の計算値Qcを算出し、該無効電力の計算値Qcと無効電力の計測値との大きさを比較して無効電力の計測値が無効電力の計算値Qc以上の場合には分散形電源の運転ありと判断すると共に無効電力の計測値が無効電力の計算値Qcよりも小さい場合には分散形電源の運転なしと判断するようにしている。
【0036】
(数4) Qc=a×Pm−c
ここに、Qc:無効電力の計算値〔kVar〕,
Pm:有効電力の計測値〔kW〕,
a :需要家内の負荷の力率に基づく係数,
c :需要家内の力率改善用コンデンサの容量に基づく定数
をそれぞれ表す。
【0037】
また、上記分散形電源の運転状態検出方法は、本発明の分散形電源の運転状態検出装置として実現される。この分散形電源の運転状態検出装置は、配電系統と分散形電源及び力率改善用コンデンサを有する需要家との連系点の配電系統側における有効電力の計測値及び無効電力の計測値のデータを読み込む手段と、有効電力の計測値Pmを数式4に代入して無効電力の計算値Qcを算出する手段と、該無効電力の計算値Qcと無効電力の計測値との大きさを比較して無効電力の計測値が無効電力の計算値Qc以上の場合には分散形電源の運転ありと判断すると共に無効電力の計測値が無効電力の計算値Qcよりも小さい場合には分散形電源の運転なしと判断する手段とを備えている。
【0038】
上述の分散形電源の運転状態検出方法及び分散形電源の運転状態検出装置は、本発明の分散形電源の運転状態検出プログラムをコンピュータ上で実行することによっても実現される。本実施形態では、分散形電源の運転状態検出プログラムをコンピュータ上で実行する場合を例に挙げて説明する。
【0039】
分散形電源の運転状態検出プログラム17を実行するためのコンピュータ10(即ち分散形電源の運転状態検出装置10)の全体構成を図7に示す。この分散形電源の運転状態検出装置10は、制御部11、記憶部12、入力部13、表示部14及びメモリ15を備え相互にバス等の信号回線により接続されている。
【0040】
また、本実施形態の分散形電源の運転状態検出装置10には受信装置16がバス等の信号回線等により接続されている。そして、本実施形態では、配電系統と分散形電源及び力率改善用コンデンサを有する需要家との連系点の配電系統側(即ち、受電点)に設置された計測器によって計測された有効電力及び無効電力の計測値データが、受信装置16を介して分散形電源の運転状態検出装置10に入力される。なお、受電点に設置された計測器と受信装置16との間の通信方法は特定の方式に限定されるものではなく、有線でも良いし無線でも良い。
【0041】
制御部11は記憶部12に記憶されている分散形電源の運転状態検出プログラム17によって分散形電源の運転状態検出装置10全体の制御並びに分散形電源の運転状態の検出等に係る演算を行うものであり、例えばCPU(中央演算処理装置)である。記憶部12は少なくともデータやプログラムを記憶可能な装置であり、例えばハードディスクである。メモリ15は制御部11が各種制御や演算を実行する際の作業領域であるメモリ空間となるものであり、例えばRAM(Random Access Memory の略)である。
【0042】
入力部13は少なくとも作業者の命令を制御部11に与えるためのインターフェイスであり、例えばキーボードである。
【0043】
表示部14は制御部11の制御により文字や図形等の描画・表示を行うものであり、例えばディスプレイである。
【0044】
そして、分散形電源の運転状態検出装置10の制御部11には、分散形電源の運転状態検出プログラム17を実行することにより、配電系統と分散形電源及び力率改善用コンデンサを有する需要家との連系点の配電系統側における有効電力の計測値及び無効電力の計測値のデータを読み込む手段としてのデータ受け部11a、有効電力の計測値Pmを数式4に代入して無効電力の計測値Qcを算出する手段としての算出部11b、無効電力の計算値Qcと無効電力の計測値との大きさを比較して無効電力の計測値が無効電力の計算値Qc以上の場合には分散形電源の運転ありと判断すると共に無効電力の計測値が無効電力の計算値Qcよりも小さい場合には分散形電源の運転なしと判断する手段としての判別部11cが構成される。
【0045】
本実施形態の分散形電源の運転状態検出方法の実行にあたっては、まず、制御部11のデータ受け部11aが、受電点に設置された計測器によって計測された受電点有効電力の計測値Pm及び受電点無効電力の計測値Qmの入力を受ける(S1)。
【0046】
受電点に設置された計測器からは、連続的に若しくは所定の時間間隔でデータ受け部11aに対して同時に計測された受電点有効電力の計測値Pm及び受電点無効電力の計測値Qmのデータが入力される。本実施形態の場合には、計測値Pm,Qmのデータは受信装置16を介してデータ受け部11aに送られる。そして、本実施形態の場合には、データ受け部11aに計測値のデータが入力されることをトリガーとしてS1以降の処理が実行される。
【0047】
なお、分散形電源を有する需要家が配電系統に複数連系している場合でこれら複数の需要家を分散形電源の運転状態の検出対象としている場合には、計測器は、例えば需要家毎に付与されたID番号などと計測値とを対応づけてデータ受け部11aに送る。
【0048】
そして、データ受け部11aは、入力された受電点有効電力の計測値Pm及び受電点無効電力の計測値Qmをメモリ15に記憶させる。
【0049】
次に、制御部11の算出部11bは、受電点有効電力の計測値と判別関数とを用いて無効電力の計算値を算出する(S2)。
【0050】
具体的には、算出部11bは、S1の処理においてメモリ15に記憶された受電点有効電力の計測値Pmをメモリ15から読み込み、当該計測値Pmを数式4で表される判別関数に代入して無効電力の計算値Qcを算出する。
【0051】
なお、数式4は,係数a及び定数cの値を含めて分散形電源の運転状態検出プログラム17内に予め規定される。この際、複数の需要家を分散形電源の運転状態の検出対象としている場合には、例えば需要家毎に付与されたID番号などと、需要家毎に係数a及び定数cを設定した数式4とを対応づけてプログラム内に規定する。
【0052】
なお、数式4の係数aの値は、例えば、分散形電源が運転していない場合の受電点有効電力の計測値Pmと受電点無効電力の計測値Qmとの間の関係を表す近似直線を求めると共に当該近似直線の傾きに相当する力率を求め、当該力率から力率差し引き量として0.05〜0.15を引いた力率に相当する傾きの値に設定する。
【0053】
或いは、数式4の係数aの値は、需要家内の負荷に関する情報から決定するようにしても良いし、さらに、受電点有効電力の計測値と受電点無効電力の計測値との組み合わせデータのプロットにおける分布範囲の上縁部を通る直線として適宜設定するようにしても良い。
【0054】
また、数式4の定数cの値は、分散形電源が運転していない場合の受電点有効電力の計測値Pmと受電点無効電力の計測値Qmとの間の関係を表す近似直線を求めて当該近似直線の切片の値に設定するようにしても良いし、需要家内に実際に設置されている力率改善用コンデンサの容量に設定するようにしても良い。
【0055】
そして、算出部11bは、算出された無効電力の計算値Qcをメモリ15に記憶させる。
【0056】
次に、制御部11の判別部11cは、受電点無効電力の計測値Qmと無効電力の計算値とを用いて需要家内に設置された分散形電源の運転状態を判別する(S3)。
【0057】
具体的には、判別部11cは、S1の処理においてメモリ15に記憶された受電点無効電力の計測値Qmをメモリ15から読み込むと共に、S2の処理においてメモリ15に記憶された無効電力の計算値Qcをメモリ15から読み込む。
【0058】
そして、受電点無効電力の計測値Qmが無効電力の計算値Qc以上の場合には分散形電源の運転ありと判断し、受電点無効電力の計測値Qmが無効電力の計算値Qcよりも小さい場合には分散形電源の運転なしと判断する。
【0059】
そして、判別部11cは、分散形電源の運転状態の判別結果を例えば表示部14に表示させたり記憶部12に保存させたりする。
【0060】
なお、分散形電源を有する需要家が配電系統に複数連系している場合でこれら複数の需要家を分散形電源の運転状態の検出対象としている場合には、計測器は、例えば需要家毎に付与されたID番号などに基づいて需要家毎に判別ステップ(S3)の処理を行い、分散形電源の運転状態の判別結果を当該ID番号と共に表示部14に表示させたり、当該ID番号と対応づけて記憶部12に保存させたりする。
【0061】
そして、制御部11は、S1の処理において入力された計測値に対する分散形電源の運転状態の判別の処理を終了する(END)。
【0062】
以上によって需要家毎に判別された分散形電源の運転状態は、例えば、区分開閉器で区分される配電系統の区間毎の電力潮流及び需要家毎の実際の負荷電力値を推定し、当該推定値に基づいて、電圧が規定値の範囲を超えて低下又は上昇するような不都合を回避する配電系統の制御に活用される。
【0063】
以上のように構成された本発明の分散形電源の運転状態検出方法、運転状態検出装置及び運転状態検出プログラムによれば、計測装置を分散形電源に直接取り付けることなく需要家内に設置された分散形電源の運転状態を検出することができる。このため、需要家内に設置された分散形電源の運転状態の検出の仕組みを容易に構築することが可能になる。また、複雑な数値分析等の数学的な処理を用いていないので、分散形電源の運転状態を簡易に判別することができ、需要家内に設置された分散形電源の運転状態の検出の仕組みとしての汎用性の向上を図ることが可能になる。
【0064】
なお、上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、上述の実施形態では、受電点に設置された計測器は受電点有効電力及び受電点無効電力を計測して計測値Pm,Qmを別に設置された分散形電源の運転状態検出装置10に送信するものとして構成されているが、場合によっては、当該計測器が需要家内に設置された分散形電源の運転状態を判別するようにしても良い。この場合には、分散形電源を有する需要家が配電系統に多数連系している場合に特に、分散形電源の運転状態の判別の処理にかかる負荷を分散してより迅速な処理をすることができるという効果がある。
【実施例1】
【0065】
本発明の分散形電源の運転状態検出方法、運転状態検出装置及び運転状態検出プログラムを実際の需要家における分散形電源の運転状態の判別に適用した実施例について説明する。
【0066】
本実施例では、分散形電源1としての発電機及び力率改善用コンデンサが需要家内の回路に接続されている3つの需要家を対象とし、まず、受電点3における時点毎の有効電力の計測値と無効電力の計測値との組み合わせデータを、これら電力の計測時の発電機接続点における有効電力(前述の受電点3における計測とは別に計測)に基づいて分散形電源1の運転ありと運転なしとを区別して収集した。
【0067】
そして、3つの需要家毎に、分散形電源1が運転していない場合の受電点有効電力の計測値と受電点無効電力の計測値との間の関係を表す近似直線を求め、当該近似直線の切片の値を判別関数(数式4)の定数cの値として設定した。
【0068】
また、3つの需要家毎に、上記近似直線の傾きの値に相当する力率を求め、当該力率の値から力率差し引き量として0.05,0.10,0.15を引いた力率に相当する傾きの値をそれぞれ求めた。そして、3つの需要家毎に、前記により求められた傾きの値を判別関数(数式4)の係数aの値として設定した。以上により、3種類の力率差し引き量のそれぞれについて、3つの需要家毎の判別関数を設定した。
【0069】
そして、上記の判別関数を用いて分散形電源の運転状態の判別処理を行うと共に実績として得られている分散形電源の運転有無と対比し、運転状態の正答率を3種類の力率差し引き量別・3つの需要家毎に整理して表1(力率差し引き量=0.05),表2(力率差し引き量=0.10),表3(力率差し引き量=0.15)に示す結果が得られた。
【表1】

【表2】

【表3】

【0070】
表1,表2,表3に示す結果から、本発明の分散形電源の運転状態検出方法、運転状態検出装置及び運転状態検出プログラムによれば、分散形電源の運転状態を簡易に判別することができることが確認された。
【0071】
また、判別係数である数式4の係数aを、分散形電源が運転していない場合の有効電力の計測値と無効電力の計測値との間の関係を表す近似直線の傾きに相当する力率から力率差し引き量を引いた力率に相当する傾きの値に設定することにより、判別関数である数式4の係数aが適切に設定され得ることが確認された。さらに、力率差し引き量を0.05〜0.15の範囲で設定することにより、判別関数である数式4の係数aが適切に設定され得ることが確認された。
【符号の説明】
【0072】
10 分散形電源の運転状態検出装置
11 制御部
11a データ受け部
11b 算出部
11c 判別部
17 分散形電源の運転状態検出プログラム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配電系統と分散形電源及び力率改善用コンデンサを有する需要家との連系点の配電系統側における有効電力及び無効電力を計測し、前記有効電力の計測値Pmを数式1に代入して無効電力の計算値Qcを算出し、該無効電力の計算値Qcと前記無効電力の計測値との大きさを比較して前記無効電力の計測値が前記無効電力の計算値Qc以上の場合には前記分散形電源の運転ありと判断すると共に前記無効電力の計測値が前記無効電力の計算値Qcよりも小さい場合には前記分散形電源の運転なしと判断することを特徴とする分散形電源の運転状態検出方法。
(数1) Qc=a×Pm−c
ここに、Qc:無効電力の計算値〔kVar〕,
Pm:有効電力の計測値〔kW〕,
a :需要家内の負荷の力率に基づく係数,
c :需要家内の力率改善用コンデンサの容量に基づく定数
をそれぞれ表す。
【請求項2】
前記需要家内の負荷の力率に基づく係数aを、前記分散形電源が運転していない場合の前記有効電力の計測値Pmと前記無効電力の計測値との間の関係を表す近似直線の傾きに相当する力率から力率差し引き量を引いた力率に相当する傾きの値に設定することを特徴とする請求項1記載の分散形電源の運転状態検出方法。
【請求項3】
前記力率差し引き量を0.05〜0.15の範囲で設定することを特徴とする請求項2記載の分散形電源の運転状態検出方法。
【請求項4】
配電系統と分散形電源及び力率改善用コンデンサを有する需要家との連系点の配電系統側における有効電力の計測値及び無効電力の計測値のデータを読み込む手段と、前記有効電力の計測値Pmを数式2に代入して無効電力の計算値Qcを算出する手段と、該無効電力の計算値Qcと前記無効電力の計測値との大きさを比較して前記無効電力の計測値が前記無効電力の計算値Qc以上の場合には前記分散形電源の運転ありと判断すると共に前記無効電力の計測値が前記無効電力の計算値Qcよりも小さい場合には前記分散形電源の運転なしと判断する手段とを有することを特徴とする分散形電源の運転状態検出装置。
(数2) Qc=a×Pm−c
ここに、Qc:無効電力の計算値〔kVar〕,
Pm:有効電力の計測値〔kW〕,
a :需要家内の負荷の力率に基づく係数,
c :需要家内の力率改善用コンデンサの容量に基づく定数
をそれぞれ表す。
【請求項5】
前記需要家内の負荷の力率に基づく係数aが、前記分散形電源が運転していない場合の前記有効電力の計測値Pmと前記無効電力の計測値との間の関係を表す近似直線の傾きに相当する力率から力率差し引き量を引いた力率に相当する傾きの値に設定されることを特徴とする請求項4記載の分散形電源の運転状態検出装置。
【請求項6】
前記力率差し引き量が0.05〜0.15の範囲で設定されることを特徴とする請求項5記載の分散形電源の運転状態検出装置。
【請求項7】
配電系統と分散形電源及び力率改善用コンデンサを有する需要家との連系点の配電系統側における有効電力の計測値及び無効電力の計測値のデータを読み込む手段、前記有効電力の計測値Pmを数式3に代入して無効電力の計算値Qcを算出する手段、該無効電力の計算値Qcと前記無効電力の計測値との大きさを比較して前記無効電力の計測値が前記無効電力の計算値Qc以上の場合には前記分散形電源の運転ありと判断すると共に前記無効電力の計測値が前記無効電力の計算値Qcよりも小さい場合には前記分散形電源の運転なしと判断する手段としてコンピュータを機能させるための分散形電源の運転状態検出プログラム。
(数3) Qc=a×Pm−c
ここに、Qc:無効電力の計算値〔kVar〕,
Pm:有効電力の計測値〔kW〕,
a :需要家内の負荷の力率に基づく係数,
c :需要家内の力率改善用コンデンサの容量に基づく定数
をそれぞれ表す。
【請求項8】
前記需要家内の負荷の力率に基づく係数aが、前記分散形電源が運転していない場合の前記有効電力の計測値Pmと前記無効電力の計測値との間の関係を表す近似直線の傾きに相当する力率から力率差し引き量を引いた力率に相当する傾きの値に設定されることを特徴とする請求項7記載の分散形電源の運転状態検出プログラム。
【請求項9】
前記力率差し引き量が0.05〜0.15の範囲で設定されることを特徴とする請求項8記載の分散形電源の運転状態検出プログラム。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−55061(P2012−55061A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−194670(P2010−194670)
【出願日】平成22年8月31日(2010.8.31)
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【出願人】(000222037)東北電力株式会社 (228)
【Fターム(参考)】