説明

分散性の改善された乳由来のタンパク組成物

【課題】 簡便に粉末タンパクの水分散性の改善された乳由来のタンパク組成物を提供すること。
【解決手段】 微結晶セルロース、粉末セルロース等のセルロース類や炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の粉末状非凝固性不溶解物を乳由来のタンパクに1〜50質量%混合する。フラクトオリゴ糖、乳果オリゴ糖等の難消化性糖類をさらに含有すると、さらに分散性が改善される。乳由来のタンパクまたはタンパク組成物を顆粒状にすると分散性がさらに向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水に対する分散性が悪く、飲食品に添加した際、「ままこ」を生じ、均一分散の困難な乳由来の粉末タンパクの分散性の改善に関する。
【背景技術】
【0002】
乳由来の粉末タンパクはタンパク質を補給するための栄養補助食品として、主にスポーツ選手や運動負荷の高い人向けに商品化されている。特に、乳清タンパクはアミノ酸の配列が人乳に近く栄養価に富み、必須アミノ酸をすべて含み、吸収率が非常によく、また、分岐鎖アミノ酸の含有率も高いため、好んで用いられている。
【0003】
乳清タンパクには原料の生乳に由来する抗体が残存しているものもある。抗体は、消化管において疾病の原因となる細菌やウイルスによる病気の治療と予防に有効であることや、消化管内の微生物バランスを健常に保ち、健康増進に役立つことが報告されている(非特許文献1参照)。成人は毎日1000mgを超える免疫抗体を消化管に分泌しているが、中年を過ぎると加齢とともに抗体の分泌量が減るため、高齢者にとって抗体の含まれた乳清タンパクを摂取して抗体を補給することは健康維持に非常に有益である。
【0004】
しかし、乳由来の粉末タンパクの多くは、水に分散・溶解させようとしても、水中で「だま」を生じやすく、均一に分散させることは困難である。すなわち、「ままこ」を生じやすく難分散性であり、これを均一に分散させるには強く、そして長時間の撹拌が必要とされる。
【0005】
水分散性の改善方法として、難分散性食品を単糖類、二糖類または糖アルコールの水溶液で練合し、あるいは噴霧したあとに乾燥して、表面にこれらの糖類を被覆する方法が提案されているが(特許文献1)、上記糖液を被覆すると乾燥に長時間を要する。また、これらの糖類には吸湿性の強いものもあり、保存上好ましくないなどの種々の課題があった。
【0006】
また、難分散性食品に、粒径が149μm篩下のエリスリトール結晶を混合して、水分散性を改善するという方法も提案されているが(特許文献2)、このような微粉のエリスリトールは固結を生じやすくて取り扱いが難しく、分散性の改善効果も十分に満足できるものではなかった。特許文献3には糖アルコール粉末との粉体混合物にすると乳清タンパクの分散溶解性が改良されることが記載されているが、この混合物も分散性の改善効果は不十分である。
【0007】
さらに、本発明者らは乳清タンパクを水と混合したときの「ままこ」状態を短時間で解消させるために、乳清タンパクと難消化性糖類を混合することを提案したが、その効果も十分に満足できるものではなかった(特許文献4)。
【非特許文献1】Korhonen H. et al. Bovine milk antibodies for health, British J. Nutrition,84,suppl.1,S135-S146 (2000)
【特許文献1】特開昭61−134319号公報
【特許文献2】特開平11−18698号公報
【特許文献3】特開平11−123053号公報
【特許文献4】特願2004−316332
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、より簡便に水に対する分散性の改善された乳由来のタンパクを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題解決のため、鋭意検討した結果、乳由来の粉末もしくは顆粒状のタンパクに粉末状非凝固性不溶解物を混合することで粉末タンパクの水分散性が改善され、さらに難消化性糖類を混合することで、分散性がさらに改善されることを見出し、本発明に到達した。
【0010】
すなわち、本発明は下記のとおりである。
1)乳由来の粉末もしくは顆粒状のタンパクおよび粉末状非凝固性不溶解物を含有することを特徴とする水分散性に優れたタンパク組成物、
2)前記粉末状非凝固性不溶解物がセルロース類である前記1)に記載のタンパク組成物、
3)前記乳由来の粉末もしくは顆粒状のタンパクが乳清タンパクである前記1)または2)に記載のタンパク組成物、
4)難消化性糖類をさらに含有する前記1)〜3)のいずれか1項に記載のタンパク組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、乳由来の粉末もしくは顆粒状のタンパクを水やジュース、コーヒー等に容易に分散させることができ、さらに、ヨーグルト等のペースト状食品に添加するときも混合、分散が容易になる。また、粉末状非凝固性不溶解物は食物繊維としての作用を持つものも多く、整腸作用や便秘改善効果も期待できる。難消化性糖類をされに含有すると、分散性の改善に寄与するだけでなく、整腸作用、ミネラル吸収促進作用、抗う蝕作用、血中コレステロール上昇抑制作用、肝機能改善作用等の機能が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明に用いる粉末状非凝固性不溶解物としては、おから、小麦ふすま、脱脂大豆、セルロース等の植物由来のものの他、キトサン、シリカゲル、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等が挙げられるが、これらに制限されるものではない。特に市販されているアビセル(旭化成工業社製)のような微結晶セルロースやKCフロック(日本製紙ケミカル社製)のような粉末セルロース等のセルロース類を用いると高い効果が得られる。
【0013】
本発明に用いる乳由来の粉末もしくは顆粒状のタンパクに制限はないが、例えば、脱脂粉乳、全脂粉乳、ホエー粉末、乳タンパク、乳清タンパク、カゼイン等が挙げられる。特に、乳清タンパクはアミノ酸の配列が人乳に近く栄養価に富み、必須アミノ酸をすべて含み、吸収率が非常によく、また、分岐鎖アミノ酸の含有率も高いため、より好ましい。乳清タンパクとしては、市販の乳清タンパクを用いることができ、例えば、ホエータンパク濃縮物(WPC)、ホエータンパク単離物(WPI)、脱塩ホエー粉等を挙げることができる。
【0014】
粉末状非凝固性不溶解物はタンパク組成物中に1〜50質量%混合させることが好ましい。1質量%より少ないと分散性の改善効果が十分でなく、50質量%より多いと相対的にタンパク含量が減少してしまい、粉末タンパクとしての価値が薄れてしまう。
【0015】
本発明のタンパク組成物は、難消化性糖類をさらに含有すると水に対する分散性がさらに改善される。難消化性糖類としては、食品として使用できる難消化性糖類であれば、いずれの糖類も用いることができる。例えば、フラクトオリゴ糖、乳果オリゴ糖(ラクトスクロース)、ラクチュロース、イソマルトオリゴ糖、大豆オリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、大豆オリゴ糖、キシロオリゴ糖、ラフィノース、パラチノースオリゴ糖、ニゲロオリゴ糖、ゲンチオオリゴ糖、トレハロース、カップリングシュガー、ペクチン、シクロデキストリン等のオリゴ糖;ソルビトール、マルチトール、エリスリトール、還元パラチノース、ラクチトール、マンニトール、キシリトール等の糖アルコール;イヌリン;難消化性デキストリン;レジスタントスターチ等を挙げることができる。これらの糖質は通常の市販されているものを用いることができる。本発明において難消化性糖類とは、体内の消化酵素で消化されにくい糖類をいうので、ゼイン、グリアジン等のプロミランや硬化油脂で被覆された易消化性糖類も、ここでいう難消化性糖類として用いることができる。
【0016】
難消化性糖類を添加することにより、分散性改善ばかりでなく、整腸作用、ミネラル吸収促進作用、抗う蝕作用、血中コレステロール上昇抑制作用、肝機能改善作用等の機能も期待できる。また、乳由来の粉末もしくは顆粒状のタンパクとして乳清タンパクを選択すれば、乳清タンパク中の抗体は受身免疫を増強させ、一方、難消化性糖類は腸内ビフィズス菌の増殖因子となり、そのビフィズス菌が消化管免疫系に作用して能動免疫を活性化させるため、乳清タンパクと難消化性糖類を共に摂取することにより、受身免疫と能動免疫が共に賦活され、強い免疫賦活作用が期待できる。
【0017】
また、本発明のタンパク組成物は、高甘度甘味料、酸味料、香料、乳化剤、増粘多糖類等の通常、食品に添加される食品原料や食品添加物原料を含有することができる。
【0018】
粉末タンパクと粉末状非凝固性不溶解物や難消化性糖類等の混合方法としては、通常の粉体混合で用いる方法、例えば、V型、水平円筒型、垂直スクリュー型、二重円錐型混合機等による混合方法が挙げられる。
【0019】
本発明のタンパク組成物は粉末の組成物であってもよいが、顆粒状であるとより分散性を向上させることができる。予め粉末タンパクを顆粒化して得られた顆粒状のタンパクを粉末状非凝固性不溶解物や難消化性糖類等と混合してもよく、粉末タンパクと粉末状非凝固性不溶解物や難消化性糖類等を混合した後、顆粒化することもできる。また、粉末タンパクと粉末状非凝固性不溶解物や難消化性糖類等を混合し、顆粒化した後に、さらに、粉末タンパク、粉末状非凝固性不溶解物、難消化性糖類等を混合した組成物とすることもできる。
【実施例】
【0020】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。実施例中、分散性の測定は次の方法によった。
【0021】
(分散性の測定法)
15℃の水を200mlガラスビーカーに入れ、マグネチックスターラー(アドバンテック社製SR200)を用いて、目盛3で撹拌しながら試料を添加し、試料添加後から試料が均一に分散するまでの時間を測定した。
【0022】
[実施例1〜5、比較例1]
下記表1に示す配合(数値は質量比)で5種類の粉末タンパク組成物を作製した。表1中、乳清タンパク(WPC)はJames Farrell & Co.製のProliant8000を用いた。また、アビセルRC−30は旭化成工業社製の微結晶セルロース、KCフロックW−10MGは日本製紙ケミカル社製の粉末セルロース、メイオリゴCRは明治フードマテリア社製の結晶フラクトオリゴ糖である。
【0023】
(分散性の測定)
上記方法にしたがって、実施例1〜5、比較例1で作製した粉末タンパク組成物の分散性を測定した結果を表2に示した。組成物の添加量はタンパクとしての量が同等になるように調整した。分散時間からわかるように、実施例1〜5はそれぞれ比較例1と比較していずれも分散性が改善されていた。
【0024】
(表1)
実施例1 実施例2 実施例3 実施例4 実施例5 比較例1
乳清タンパク(WPC) 90 80 80 80 50 100
KCフロックW−10MG 10 - 10 - 50 -
アビセルRC−30 - 20 - 1 - -
メイオリゴCR - - 10 19 - -
【0025】
(表2)
実施例1 実施例2 実施例3 実施例4 実施例5 比較例1
組成物添加量(g) 1.1 1.1 1.2 1.2 2.0 1.0
分散時間(分'秒) 2'40 2'20 2'30 3'10 2'10 18'00
【0026】
[実施例6](顆粒化1)
実施例1の配合で乳清タンパク(WPC、粉末)とKCフロックW−10MGを混合した後に、噴霧造粒法にて顆粒状とし、同様に分散性の測定を行ったところ、分散時間は2分00秒となり、より分散性が改善されていた。
【0027】
[実施例7](顆粒化2)
噴霧造粒法にて顆粒状とした乳清タンパク(WPC)を用いて、実施例1の配合(KCフロックW−10MGは粉末)でタンパク組成物を作製し、同様に分散性の測定を行ったところ、分散時間は1分50秒となり、さらに分散性が改善されていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳由来の粉末もしくは顆粒状のタンパクおよび粉末状非凝固性不溶解物を含有することを特徴とする水分散性に優れたタンパク組成物。
【請求項2】
前記粉末状非凝固性不溶解物がセルロース類である請求項1に記載のタンパク組成物。
【請求項3】
前記乳由来の粉末もしくは顆粒状のタンパクが乳清タンパクである請求項1または2に記載のタンパク組成物。
【請求項4】
難消化性糖類をさらに含有する請求項1〜3のいずれか1項に記載のタンパク組成物。


【公開番号】特開2006−230346(P2006−230346A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−53074(P2005−53074)
【出願日】平成17年2月28日(2005.2.28)
【出願人】(000101215)アサマ化成株式会社 (37)