説明

分散性タンパク質組成物

本明細書で説明される内容は、水性液体に容易に分散され得るタンパク質濃度の高い組成物に関する。該組成物は、タンパク質、及び水性液体に組成物を容易に分散させるのを補助する水酸化レシチンなどの界面活性剤を含む。界面活性剤を含む水溶液を用いてタンパク質を噴霧することを含む、組成物を製造する方法が開示される。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
タンパク質は生命の基礎となる複雑な高分子である。植物および動物の細胞内容物の多くがタンパク質であり、代謝はタンパク質の酵素に依存している。タンパク質が生物において果たす基本的な役割のため、タンパク質はその天然源を補うためにしばしば食物および動物飼料(すなわち食用材料)に添加される。タンパク質を食用材料に添加することにより、更に筋肉量の増加を補助するなどの多くの望ましい効果が提供される。
【0002】
様々な適切なタンパク質を食用材料に添加することができるが、ダイズなどの広く利用可能な源から得られるタンパク質が最もよく使われる。ダイズタンパク質は低価格で、量が多く、高品質のため、特に望ましい。加工および取扱の目的では、しばしば、液状ダイズタンパク質、例えば豆乳よりも、粉末状ダイズタンパク質が好ましい。ダイズタンパク質の粉末は、タンパク質添加食用材料を作るために様々な食用材料に添加され得る。
【0003】
残念なことに、ダイズタンパク質の粉末の使用には多くの欠点がある。例えば、ダイズタンパク質の粉末は、液体(例えば水、水性液体、高極性の食用液体など)に容易に分散しない。ダイズタンパク質の粉末を液体に添加すると、しばしば、水和した外層と乾燥した内層を有する塊(clump、lump、mass)を形成する。これらの塊は、一般的に「魚眼」と呼ばれることがある。場合によっては、ダイズタンパク質の粉末と液体を勢いよく攪拌または混合した後でも塊が残る。塊が除去されないと、摂取したいとあまり思わないような食用液体材料になる。また、塊が混合によって除去できる場合であっても、長い混合時間は処理効率を下げ、その結果、得られた食用材料の全体的なコストを上げる。
【0004】
界面活性剤、例えばレシチンが、ダイズタンパク質の粉末の分散性を上げようとするときに使用されている。低極性、疎水性、油性のレシチン材料の使用は、ダイズタンパク質の粉末に最も適した分散特性を付与すると一般的に考えられている。レシチンをダイズタンパク質の粉末に適用するときには、粉末化されたレシチンの担体として油(例えば植物油)が使用される。油は、油性のレシチン材料のHLB値を低くする働きもする。油性のレシチン材料を使用すると、タンパク質の粒子上に留まる油層が作られる。その留まっている油は、ダイズタンパク質の粉末が自由に流動するのを妨害する可能性がある。また、留まっている油は、酸化されやすく、しばしば、高品質の食用材料に適さない悪臭および風味の発生をもたらす。多くの場合、レシチンと非レシチン成分(例えば炭水化物、シリカタイプの流動化剤など)を混ぜることは好ましくない。これらの成分はタンパク質成分を希釈して、曇り/濁りを加え、また、栄養(熱量/血糖)値だけでなく全体的な味/嗜好性にも悪影響を与え得るからである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、易流動性、酸化的分解に対する安定性、乳化/起泡特性、及び水または他の極性材料(例えば極性の食用材料)などの液体にもっと容易に分散する能力などの1つ以上の望ましい特性を有する、改善されたタンパク質組成物を提供することが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本出願は、水性液体に容易に分散され得る、タンパク質濃度の高い組成物に関する。本明細書において、少なくとも約80重量%(本明細書で言及される全てのパーセンテージは、他に記載がない限り、乾燥固体を基準とする)のタンパク質および界面活性剤を含み、かつ約30秒以下の分散性指数を有する分散性タンパク質組成物が開示される。分散性タンパク質組成物は、一般的には、約0.7重量%以下の粗繊維、または、望ましくは約0.5重量%以下の粗繊維を含む。1つの例では、分散性タンパク質組成物は、パイルの頂角が少なくとも約93度、または望ましくは少なくとも約95度である。別の例では、分散性タンパク質組成物は、パイルの広がった直径が少なくとも約87mm、または望ましくは少なくとも約90mmである。
【0007】
適切なタンパク質の例として、乳清タンパク質、ダイズタンパク質、コムギタンパク質、ルーピン(lupin)、トウモロコシのグルテン及び/又はこれらの混合物が挙げられる。一般的に、タンパク質は粒子の形状、例えば、平均粒径が約10ミクロン〜500ミクロン、または望ましくは約25ミクロン〜500ミクロンの微粒子状タンパク質材料として、用いられる。かなり一般的には、タンパク質材料の平均粒径は、約50ミクロン〜400ミクロンである。1つの実施形態では、タンパク質は、少なくとも75重量%の、乳清タンパク質、ダイズタンパク質、コムギタンパク質、ルーピン、トウモロコシのグルテン及びこれらの混合物を含む。
【0008】
界面活性剤は、食べられる又は食品用の多くの界面活性剤から選択することができる。例えば、界面活性剤としてレシチン材料を挙げることができる。また、界面活性剤として水酸化レシチンも挙げることができる。界面活性剤は、最高酸化発熱指数が少なくとも約12分、または少なくとも約15分が望ましい。また、界面活性剤は、表面張力指数が少なくとも約300μN/cm(約30ダイン/cm)、または少なくとも約350μN/cm(約35ダイン/cm)が望ましい。本明細書で使用されるように、用語「表面張力指数」は、2重量%の界面活性剤の水溶液を用いて実施例1に従って測定される表面張力をいう。さらに、界面活性剤は、HLB値が少なくとも約9であり得る。更に、界面活性剤は、約8重量%以下の油、または約5重量%以下の油を含むことが望ましい。
【0009】
また本明細書において、分散性タンパク質組成物の調製方法が説明される。この方法は、微粒子状タンパク質材料を流動化する工程、微粒子状タンパク質材料を界面活性剤液を用いて噴霧して湿ったタンパク質組成物を得る工程、湿ったタンパク質組成物を乾燥させて中間のタンパク質組成物を得る工程、および中間のタンパク質組成物を流動化して分散性タンパク質組成物を得る工程の1つ以上を含み得る。微粒子状タンパク質材料の温度は、約40℃以下、または望ましくは35℃以下に維持し得る。界面活性剤液は、少なくとも約5重量%の界面活性剤を含む水溶液であり得る。流動化された微粒子状タンパク質材料の含水率は、少なくとも約8重量%であり得る。
【0010】
本明細書に記載されたタンパク質組成物の使用により、液体(例えば水溶液)中への追加したタンパク質の適時な分散を容易にすることができる。更にまた、様々な実施形態により、易流動性及び酸化耐性のある分散性タンパク質組成物が説明される。これにより、分散性タンパク質組成物をより長期間保存でき、より簡単に取り扱い、運搬できるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
一般的に、本明細書に記載される内容は、容易に分散できるタンパク質の粉末およびその製造方法に関する。一般的に、分散性タンパク質組成物は、タンパク質、及びタンパク質組成物の望ましい分散特性を付与するのを補助する界面活性剤を含む。
【0012】
本組成物に使用されるタンパク質として、動物及び/又は植物のタンパク質が挙げられる。特に、本発明で使用されるタンパク質は、乳清、コムギ、ダイズまたは他の植物性源あるいは動物性源などのどんな可溶性タンパク質源に由来してもよい。タンパク質の単離についての様々な方法を使用することができる。しかしながら、タンパク質の特定のタイプについては(例えば乳清タンパク質、ダイズタンパク質、コムギタンパク質など)、その源(例えば、植物など)に存在する未改変の形態のタンパク質、およびタンパク質を単離して加工する過程で分画され、加水分解され、あるいは他の改変がなされている可能性があるタンパク質の両方について、言及されると理解されるべきである。多くの場合、水溶性及び/又は分散性タンパク質を使用することが望ましい。水溶性/分散性タンパク質は、本質的に水溶性/分散性であってもよいし、あるいは界面活性剤の添加によって水溶性/分散性になるものでもよい。
【0013】
1つの実施形態では、分散性タンパク質組成物用のタンパク質として、乳清タンパク質、ダイズタンパク質、コムギタンパク質、ルーピン、トウモロコシのグルテン、カゼインナトリウムまたはそれらの混合物が挙げられる。1つの実施形態では、分散性タンパク質組成物のタンパク質は、少なくとも約50重量%、または望ましくは75重量%の、乳清タンパク質、ダイズタンパク質、コムギタンパク質、ルーピン、トウモロコシのグルテン、カゼインナトリウムまたはこれらの混合物を含むことができる。別の実施形態では、タンパク質はダイズタンパク質を含む(例えば全タンパク質の少なくとも約75重量%がダイズタンパク質)。ダイズタンパク質の使用は、しばしば、入手可能性およびコストの面から好ましい。更に別の実施形態では、タンパク質は、ダイズタンパク質単離物(すなわち、タンパク質含有量が少なくとも90重量%である、ダイズ由来のタンパク質)から得てもよい。
【0014】
分散性タンパク質組成物に用いられる界面活性剤または乳化剤は、多くの適切な界面活性剤のどれであってもよい。界面活性剤の特徴の1つは、界面活性剤は水の表面張力を低くし、そのため、水をより薄い層により速く広げることができることである。界面活性剤が固体の粒子を覆うと、水は、それらの粒子の表面をより速く水和できる。1つの実施形態では、界面活性剤は、本明細書に記載されたレベルで重大な不都合な副作用を起こすことなく消化に適するよう、食用である。使用できる界面活性剤の例として、レシチン材料、ソルビタンエステル、プロピレングリコールエステル、糖エステル、モノグリセリド、ジグリセリド、ポリグリセロールエステル、ポリソルベート、ステアロイル乳酸ナトリウム、親水コロイド/ゴム、セルロース誘導体、マルトデキストリンおよびこれらの混合物が挙げられる。
【0015】
分散性タンパク質組成物の起泡/乳化特性は、その組成物に使用される界面活性剤の表面張力を操作することによって調節することができる。様々な実施形態において、界面活性剤の表面張力指数は、少なくとも約300μN/cm(約30ダイン/cm)、または望ましくは少なくとも約350μN/cm(約35ダイン/cm)、あるいは好適には少なくとも約370μN/cm(約37ダイン/cm)である。また更なる実施形態では、界面活性剤の表面張力指数は、約300μN/cm(約30ダイン/cm)〜約700μN/cm(約70ダイン/cm)、または望ましくは約300μN/cm(約30ダイン/cm)〜約500μN/cm(約50ダイン/cm)の値であり得る。
【0016】
また、界面活性剤は、親水−親油バランス(HLB)数についても説明され得る。HLB数は、水における界面活性剤の溶解度とおおむね相関し、一般的に、より水溶性の材料はより高いHLB値を有する。1つの実施形態では、界面活性剤は約5重量%以下の油を含み、HLB数は少なくとも約9、または望ましくは少なくとも約10である。
【0017】
界面活性剤の酸化安定性は、界面活性剤が酸化に対してどのくらい影響を受けやすいかの指標を得るのに参照することができる。実施例9に関して、1つの実施形態では、約5重量%以下の油を含む適切な界面活性剤の酸化的誘導指数は、少なくとも約10分、または望ましくは少なくとも約12分、あるいは好適には少なくとも約15分である。別の実施形態では、約5重量%以下の油を含む界面活性剤の最高酸化発熱指数は、少なくとも約15分、または望ましくは少なくとも約18分、あるいは好適には少なくとも約20分である。
【0018】
コスト及び市販に関する理由のため、植物性源に由来するレシチン材料は、界面活性剤の特に適切な源である。本明細書で使用される「レシチン材料」は、植物性油の精製での副生成物として得られる中性脂質及び極性脂質の混合物と類似の組成を有する、ホスファチジルエステル及び/又はホスファチジン酸の粗製および精製された混合物をいう。少なくとも50重量%のアセトン不溶性リン脂質を含むほか、レシチン材料は、様々な量のトリグリセリド、脂肪酸及び炭水化物も含み得る。本明細書で使用される用語「レシチン材料」は、特定の源から得られるリン脂質に限定されず、また、化合物のホスファチジルコリンを具体的に指すことを意味しない。分散性タンパク質組成物に使用するのに適切なレシチン材料の例として、ダイズ、綿実、トウモロコシ、キャノーラ、ヒマワリ、亜麻の種子、ラッカセイ、ヤシ、パーム核およびこれらの混合物に由来するレシチン材料が挙げられる。用語レシチン材料は、未改変のまたは標準的なレシチン、標準的な流動グレードのレシチン(例えば少なくとも約35重量%の油)、脱油されたレシチン(例えば約5〜8重量%以下の油)、改変されたレシチン(例えばアセチル化、水酸化、アセチル化/水酸化、スルホン化、エポキシ化、リン酸化などの方法で化学的に改変されたレシチン、酵素で改変されたレシチンなど)などを含むことが意図されるが、これらに限定されない。1つの実施形態において、レシチン材料は、約5重量%以下の油を含む。
【0019】
本明細書で使用される「水酸化レシチン材料」は、前もってまたは後で改変されたレシチン材料(例えばアセチル化/水酸化または加水分解/水酸化レシチン材料など)を含む、脂質の側鎖が水酸化されたリン脂質を含む、レシチン材料をいう。また、本明細書で使用される用語「レシチン」はリン脂質をいい、用語「水酸化レシチン」は、前もってまたは後で改変されたレシチン(例えばアセチル化/水酸化レシチンなど)を含む、側鎖が水酸化されたレシチンをいう。
【0020】
一般的に、レシチン材料のリン脂質は、両親媒性の性質を示す化合物群である。両親媒性の挙動は、親水性(水を「好む」)材料及び疎水性(水を「嫌う」)材料の双方と安定的な相互作用を形成できる材料を説明するのに用いられる。リン脂質において、ホスファチジルエステルは、親水的相互作用に関与し、残りのジグリセリド骨格は、疎水的相互作用に関与し得る。この混ざった挙動の結果として、レシチン材料は、水性(親水性)及び油性(疎水性)材料の間の境界に位置付けされることができる。
【0021】
より具体的には、レシチン材料は多くの形態で得ることができる。約12種類の一般的な天然の形態のレシチン材料が観察されている。商業的には、ダイズレシチン材料のような製品は、取り得る形態の3つまたは4つを基本的に含み、未分画の混合物として一般的に販売される。異なる源から得られるレシチン材料は、異なる混合物を含み得る。これらの混合物の特性は、最終的に意図される使用に望まれる親水性−疎水性バランスを変化させるため、化学的及び/又は酵素的処理で改変することができる。このような改変の1つの例は、酸素による酸化であり、最終的に、ジグリセリド部分の脂質側鎖にヒドロキシル基を含むレシチンを生じさせる。これにより、レシチンの疎水性が低くなり、分子の全体的な極性が上がる。
【0022】
1つの実施形態では、分散性タンパク質組成物に使用されるレシチン材料は、高い極性、高い水溶性、低いせん断粘度、及び/又は高い表面張力を有することを特徴とすることができる。このような材料の例として、水酸化レシチン材料、アセチル化レシチン材料などが挙げられる。これらの特徴を有するレシチン材料は、レシチン材料を改変する1種類以上の公知の方法(例えば物理的、化学的、酵素的、照射など)を含む工程で作ることができる。物理的改変とは、所望の生じる特徴を付与するために、異なる特徴のレシチン材料を混合するか同時押出することをいう。また、コバルト−60γ線、X線及び電子線などの高エネルギー電離放射線に対する暴露、または光線感作物質および酸素もしくは他の雰囲気の存在下での紫外線に対する暴露も、高い極性、高い水溶性、低い低せん断粘度及び高い表面張力を特徴とする新しいレシチン材料を作るのに使用できる。
【0023】
1つの実施形態では、レシチン材料は、水酸化ダイズレシチン材料でもよい。理論に縛られたくないが、水酸化レシチン材料で適切に被覆されたタンパク質は、未改変の市販のダイズレシチン材料と比べて脂質部分の低減した不飽和のため、着色が少なく、酸化的に分解しにくいであろう。また、水酸化レシチン材料は、水素結合を介した、水や他の極性食物成分(糖、親水コロイドなど)とのより強い相互作用に役立ち、それにより極性液体に迅速に分散する能力を持つ分散性タンパク質組成物を得ることができると予想され得る。
【0024】
分散性タンパク質組成物は、様々な成分を含むことができる。例えば、1つの実施形態では、分散性タンパク質組成物は、少なくとも約80重量%のタンパク質、または望ましくは少なくとも約85重量%のタンパク質、あるいは好適には少なくとも約90重量%のタンパク質を含むことができる。別の実施形態では、分散性タンパク質組成物は、約10重量%以下のレシチン材料、または望ましくは約5重量%以下のレシチン材料、あるいは好適には約3重量%以下のレシチン材料を含む。更に別の実施形態では、分散性タンパク質組成物は、約0.7重量%以下の粗繊維、または望ましくは約0.5重量%以下の粗繊維を含むことができる。一般的に、分散性タンパク質組成物は、約0.5重量%以下の容易に消化できない炭水化物を含むことができる。
【0025】
タンパク質組成物の分散性は、実施例3に記載されるように、分散性指数について測定することができる。水および他の液体にもっと容易に分散できるタンパク質組成物を提供することにより、処理時間が減って、タンパク質組成物を組み込む食用材料を調製する工程に関するコストを下げることができる。分散性タンパク質組成物は、タンパク質と界面活性剤の特定の組み合わせに基づいて多様に変化する分散性指数を有する。例えば、タンパク質組成物は、約50秒以下、または望ましくは約30秒以下、あるいは好適には約12秒以下の分散性指数を有し得る。別の実施形態では、タンパク質組成物は、約1秒〜約50秒の間のいずれかの分散性指数を有し得る。
【0026】
また、分散性タンパク質組成物の流動特性は、パイルの広がった直径及びパイルの頂角を基準にして説明することができる(実施例10)。1つの実施形態では、分散性タンパク質組成物のパイルの広がった直径が、少なくとも約87mm、または望ましくは少なくとも約90mm、あるいは好適には少なくとも約92mmであり得る。別の実施形態では、分散性タンパク質組成物のパイルの頂角が、少なくとも約93度、または望ましくは少なくとも約95度、あるいは好適には少なくとも約98度であり得る。更に、分散性タンパク質組成物の平均粒径は、少なくとも約50ミクロン、または望ましくは少なくとも約100ミクロンであり得る。分散性タンパク質組成物の平均粒径は、約10ミクロン〜約1000ミクロン、または望ましくは約25ミクロン〜約500ミクロン、または好適には約50ミクロン〜約400ミクロン、より好適には約25ミクロン〜約250ミクロンであり得る。
【0027】
分散性タンパク質組成物は、例えば流動床を用いる噴霧被覆などの従来技術により作製することができる。流動床は、ガス流中に微粒子状タンパク質材料の懸濁状態を作る。タンパク質材料をこの方法で懸濁する場合、界面活性剤を含む水溶液を、タンパク質材料の粒子に噴霧する。所望の量の界面活性剤を適用したら、得られたタンパク質組成物を乾燥させる。
【0028】
タンパク質材料に噴霧される液体は、様々な濃度の界面活性剤を含むことができる。1つの実施形態では、液体は水溶液である。しかしながら別の実施形態では、液体は、界面活性剤(例えばレシチン材料)に適切な担体または溶媒を含むことができる。1つの実施形態では、液体は、約0.25重量%〜約35重量%の界面活性剤を含む水溶液である。別の実施形態では、液体は、約5重量%〜約25重量%の界面活性剤、または望ましくは約5重量%〜約15重量%の界面活性剤を含む水溶液である。さらに別の実施形態では、液体は、少なくとも約1重量%、2重量%、5重量%または10重量%の界面活性剤を含むことができる。
【0029】
ある実施形態では、比較的高濃度の界面活性剤を含む界面活性剤液を使用することにより、所望の分散性指数を有したまま、使用される液体の量を減らすことが望ましい。例えば、水酸化レシチン材料を含む水溶液を、望ましい低レベルの低せん断粘度になるように、30重量%まで、または望ましくは25重量%の濃度で使用すればよい。このようにすることは、微粒子状タンパク質材料を被覆するのに用いられる工程が流動床の被覆工程であって特に液体をコーティング管から蠕動ポンプまたは他のポンプを通してスプレーガンに送り込むときにせん断速度が非常に低くなる場合に望ましい。この例では、水酸化レシチン材料の使用により加工時間を短縮でき、溶媒(及びエネルギーコスト)を削減でき、操作を簡素化できる。1つの実施形態において、適切な高極性レシチン材料を、所望の低レベルの低せん断粘度にするために使用することができる。
【0030】
理論に縛られたくないが、タンパク質組成物の低い分散性は、タンパク質粒子または凝集物上の空気の存在に影響を受けることがあると考えられる。粒子表面上の空気の厚い層の存在は、親水性/疎水性の界面化学の多少変化する寄与を低くすることがあり、タンパク質組成物を冷水に添加した場合に、水の浸透に対するバリアとして機能する。従って、界面活性剤の適用中に、タンパク質組成物の粒子を脱気し、湿らせることが望ましいであろうと考えられる。
【0031】
空気を界面活性剤で置換するため、空気/水の界面の表面張力を通常の値の約700μN/cm(約70ダイン/cm)から低くすることが望ましいが、驚くべきことに、タンパク質組成物の望ましくない流動特性及び水和力(hydratability)をもたらし得るような、以前に示唆された、低レベルの表面張力(例えば約150〜250μN/cm(約15〜25ダイン/cm)(油/水の界面))に低くする必要はない、ということがわかった。表面張力を、炭化水素/水の界面に一般的に観察される、約350μN/cm(約35ダイン/cm)〜約500μN/cm(約50ダイン/cm)に下げれば十分であろう。そのため、実施例1に従って測定される表面張力が少なくとも約300μN/cm(約30ダイン/cm)である界面活性剤を用いてタンパク質を表面被覆することにより、向上した分散性を、他の製品特性に大きな影響を与えることなく得ることができる。
【0032】
好ましい物理的特性を有する高タンパク質含有材料を製造するのはもっと難しいであろう。それ自体が湿っているダイズタンパク質および他の食物の粉末を製造するために用いられる方法は、流動床の被覆工程の条件(温度、空気流、液体噴霧速度など)があまりわかっていない/制御されていないか、または加工時間が液体濃度/噴霧速度を上げることにより短縮されすぎたか、あるいは流動化されたタンパク質粉末が能率的に混ざらなかった/流れなかった場合に、材料の分散特性に影響を与え得る。再度、理論に縛られたくないが、特定のタンパク質材料をある条件下で被覆した場合、許容できる粒径を超えた早すぎる粒状化、および大きな凝集粒に空気の取り込みが生じ得る。空気は、被覆が微粒子状タンパク質材料に接近するのを妨害し、微粒子状タンパク質材料と被覆の間に取り込まれ得る。得られたタンパク質組成物を冷水に穏やかに攪拌すると、空気の閉じ込められた層が粒子の速い分散を妨げるので、タンパク質組成物は粒状化されるけれども、塊または魚眼を形成すると考えられる。
【0033】
1つの実施形態では、分散性タンパク質組成物を、微粒子状タンパク質材料を流動化することにより作製することができる。一般的に、微粒子状タンパク質材料の含水量は約6%であり得る。空気流およびサンプル量を固定するなどの加工条件は、タンパク質粒子の性質(大きさ、密度、湿度、微粉/粉塵など)におけるロット間変動による変化に対応するように調節され得る。微粒子状タンパク質材料の大きく粗い凝集塊は、効果的な混合だけでなく乱流によっても壊すことができる。1つの実施形態では、微粒子状タンパク質材料の粒径は、約10ミクロン〜約700ミクロン、または約25ミクロン〜約500ミクロンが望ましい。他の実施形態では、微粒子状タンパク質材料の粒径は、少なくとも約50ミクロン、または少なくとも約100ミクロンが望ましい。
【0034】
微粒子状タンパク質材料を流動化したら、界面活性剤液を用いて噴霧被覆する。液体を噴霧被覆する速度はバッチサイズに依存する。噴霧被覆中、入ってくる空気の温度は、微粒子状タンパク質材料の温度が約10℃〜約50℃、または望ましくは約15℃〜約40℃、あるいは好適には約20℃〜約30℃になるように、約70℃よりも低く、または約60℃より低いことが望ましい。流動化された微粒子状タンパク質粉末の製造過程の含水量は、約5重量%〜約20重量%、または望ましくは約10重量%〜約15重量%である。タンパク質組成物を流動化して適切に混合することを確実にするために、定期的に、加工条件の幾つかを調整することは有用であろう。タンパク質組成物に塊が多く見られ、あまり流れない場合は、液体の噴霧を停止してもよく、製品に流動/混合の問題がないようにすべきである。このようにすることは、空気を移動させて微粒子状タンパク質材料を界面活性剤で均一に被覆するために望ましいであろう。過剰な粒状化を避けることが望ましいであろう。
【0035】
微粒子状タンパク質材料を被覆したら、以下のようにタンパク質組成物を乾燥することができる。空気流の吸気温度を、約50℃〜約70℃、または望ましくは約60℃〜約65℃に上げ得る。タンパク質組成物の温度を、約30℃〜約40℃、または望ましくは約35℃に上昇させ得る。この温度を、湿度が特定の値(例えば6%(出発原料))に下がるまで、数分間このレベルに維持し得る。含水レベルが所望のレベルに到達したら、次にタンパク質組成物を、吸気加熱を止めて更に数分間流動化して、回収し得る。当業者であれば、タンパク質組成物を調製するのに使用できる、他の手法、方法及び装置を認識し得ると理解されるべきである。
【0036】
1つの実施形態によれば、分散性タンパク質組成物は、乳清タンパク質、ダイズタンパク質、コムギタンパク質、ルーピン、トウモロコシのグルテンおよびこれらの混合物からなる群から選択される少なくとも約85重量%のタンパク質、レシチン材料、及び約0.5重量%以下の粗繊維を含む。組成物の分散性指数は約12秒以下である。
【0037】
別の実施形態によれば、分散性タンパク質組成物は、乳清タンパク質、ダイズタンパク質、コムギタンパク質、ルーピン、トウモロコシのグルテン及びこれらの混合物からなる群から選択される少なくとも約85重量%のタンパク質、及び水酸化レシチンを含む。組成物の分散性指数は約30秒以下である。
【0038】
別の実施形態によれば、分散性タンパク質組成物は、乳清タンパク質、ダイズタンパク質、コムギタンパク質、ルーピン、トウモロコシのグルテン及びこれらの混合物からなる群から選択される少なくとも約85重量%のタンパク質、及びレシチン材料を含む。組成物の分散性指数は約12秒以下であり、組成物のパイルの頂角は少なくとも約95度である。
【0039】
別の実施形態によれば、分散性タンパク質の組成物は、乳清タンパク質、ダイズタンパク質、コムギタンパク質、ルーピン、トウモロコシのグルテンおよびこれらの混合物からなる群から選択される少なくとも約85重量%のタンパク質、及び約5重量%以下の油を含むレシチン材料を含み、最高酸化発熱指数は少なくとも約15分、及びHLB値は少なくとも約9である。組成物の分散性指数は約10秒以下である。
【0040】
別の実施形態によれば、分散性タンパク質組成物は、少なくとも約90重量%のダイズタンパク質及び約5重量%以下の油を含むレシチン材料を含み、最高酸化発熱指数は少なくとも約15分であり、HLB値は少なくとも約9である。組成物の分散性指数は約30秒以下である。
【0041】
別の実施形態によれば、分散性タンパク質組成物は、少なくとも約90重量%のダイズタンパク質および水酸化レシチンを含む。組成物の分散性指数は約30秒以下である。
【0042】
別の実施形態によれば、分散性タンパク質組成物を調製する方法は、レシチン材料を含む水溶液を中間物の微粒子状タンパク質材料に噴霧し、湿ったタンパク質組成物を作製する工程を含む。微粒子状タンパク質材料は、乳清タンパク質、ダイズタンパク質、コムギタンパク質、ルーピン、トウモロコシのグルテンおよびこれらの混合物からなる群から選択される。微粒子状タンパク質組成物は、約0.5重量%以下の粗繊維を含む。水溶液は、少なくとも約5重量%のレシチン材料を含む。微粒子状タンパク質組成物を流動化して中間物の微粒子状タンパク質組成物を得ることができる。湿ったタンパク質組成物を乾燥して中間物のタンパク質組成物を得ることができる。中間物のタンパク質組成物を流動化して分散性タンパク質組成物を得ることができる。
【0043】
別の実施形態によれば、分散性タンパク質組成物を調製する方法は、水酸化レシチンを含む水溶液を微粒子状タンパク質材料に噴霧し、湿ったタンパク質組成物を作製する工程を含む。微粒子状タンパク質材料は、乳清タンパク質、ダイズタンパク質、コムギタンパク質、ルーピン、トウモロコシのグルテン及びこれらの混合物から選択される。組成物の分散性指数は約30秒以下である。
【0044】
別の実施形態によれば、分散性タンパク質組成物を調製する工程は、水酸化レシチンを含む水溶液を用いて微粒子状タンパク質材料を噴霧することを含む。微粒子状タンパク質材料は、少なくとも約90重量%のタンパク質を含み、タンパク質として、乳清タンパク質、ダイズタンパク質、コムギタンパク質、ルーピン、トウモロコシのグルテンまたはこれらの混合物が挙げられる。また、微粒子状タンパク質材料は、少なくとも約75重量%のタンパク質を含んでもよく、タンパク質として、乳清タンパク質、ダイズタンパク質、コムギタンパク質、ルーピン、トウモロコシのグルテンまたはこれらの混合物が挙げられる。
【0045】
本明細書に記載される発明は、以下の実施例を参照することにより更に説明される。これらの実施例は、本明細書に記載された発明の特定の態様を説明することを意図し、特許請求の範囲または本明細書に規定された他の発明の範囲または解釈を限定するために使用されるべきではない。
【0046】
以下の実施例において、使用及び/又は試験したレシチン材料は、特に記載がない限り、ダイズレシチン材料であった。
【実施例1】
【0047】
本実施例では、2重量%のレシチン材料を含む多くの水溶液(レシチン材料を60℃で溶解して調製した)の表面張力を測定した。更に、1つのタイプのレシチン材料について、表面張力を、2重量%だけでなく0.5重量%及び4重量%の濃度についても測定した。レシチン材料は全て、約5重量%以下の油を含んでいた(「脱油レシチン材料」)。表面張力をウィルヘルミ(Wilhelmy)法およびプラチナのプレートを24℃で用いるデジタル張力計(Kruss,Model K10ST)を用いて測定した。ウィルヘルミ法の説明は、「The Colloidal Domain」D.F.EvansおよびH.Wennerstrom,VCH Publishers Inc.,New York,1994、52頁にある。周囲長が分かっている垂直板を計りに取り付けて、湿度による力を測定した。汚染を避けるため、プラチナのプレートを各溶液について試験する前に炎を用いてきれいにした。表1は、各溶液についての結果を示す。
【表1】

【実施例2】
【0048】
本実施例では、20kgのダイズタンパク質単離物(5.1重量%の水分)を、FluidAir Model 150流動床塗装機/乾燥機に導入した。最初の加工条件は以下のようにセットした。吸気温度:50〜60℃、気流:標準的な条件で約8.5〜約9.9m/分(300〜350立方フィート/分(SCFM))、製品温度:25〜30℃。
【0049】
水で10重量%の濃度にした、(化学的または酵素的に)未改変のレシチン材料の溶液4kgを、流動化したダイズタンパク質単離物の粉末に噴霧被覆した。未改変のレシチン材料は、約5重量%以下の油を含んでいた。噴霧被覆は以下の条件で行った。吸気温度:60℃、気流:約9.9m/分(350SCFM)、噴霧空気圧:約310kPa(45psi)、溶液噴霧速度:200〜230g/分、製品温度:25〜30℃、平衡含水率:10〜13%。
【0050】
得られたタンパク質組成物の全乾燥重量に基づいて1重量%のレシチン材料を堆積させた後に少量のサンプルを採取した。溶液を全部堆積させ、即ち得られたタンパク質組成物の全乾燥重量に基づいて2重量%のレシチン材料を堆積させた後、その含水率は、11.1重量%と測定された。タンパク質組成物を、組成物の温度が35℃に上昇するまで60〜65℃の吸気温度で乾燥させた。タンパク質組成物の温度を35℃に維持した後、サンプルを採取し、その含水率は6重量%と測定された。組成物を、吸気ヒーターを切って2分間流動化し、流動床容器から取り出した。
【実施例3】
【0051】
実施例2に記載したように調製した、1重量%のレシチン材料を有するタンパク質組成物及び2重量%のレシチン材料を有するタンパク質組成物の分散性指数を、以下のようにして測定した。ティースプーン1杯分の粉末にしたタンパク質組成物を、250mlビーカーに入った200mlの水の表面上に落とした。スプーンを使ってその混合物を、時計回りに5回、続いて反時計回りに5回のリズムで穏やかに攪拌し、粉末が水に完全に分散して塊が水面に浮かばなくなるまで繰返した。攪拌を始めてから完全な分散までの時間を測定し、記録した。この手順による2回の試験の平均が、本明細書において「分散性指数」といわれるものである。実施例2のタンパク質組成物について、比較を表2に示す。完全に分散する前に時間が120秒を超えて過ぎた場合、120+と記録し、これは非常に低い分散性材料と考えられる。
【表2】

【実施例4】
【0052】
本実施例では、実施例2の未改変レシチン材料を水酸化レシチン材料(商標Precept 8120,Central Soya,Fort Wayne,Indianaから入手)と置換し、同じ手順に従った。水酸化レシチン材料は、約5重量%以下の油を含んでいた。タンパク質組成物のサンプルを、得られたタンパク質組成物の全重量を基準にして、0.5重量%、1.0重量%及び1.5重量%の水酸化レシチン材料でダイズタンパク質単離物を被覆した後に、採取した。最終タンパク質組成物を、2重量%の水酸化レシチン材料でダイズタンパク質単離物を被覆した後に、回収した。各サンプルの分散性指数を表3に示す。
【表3】

【実施例5】
【0053】
50gのダイズタンパク質単離物を流動化し、ダイズタンパク質単離物の粒子に均一な膜を形成するため、ボトムスプレー式Wursterカラムを備えたVector MFL−01 Laboratory流動床塗装機を用いて、10重量%の水酸化レシチン材料を有する水溶液で被覆した。水酸化レシチン材料は、約5重量%以下の油を含んでいた。水溶液の温度は約80℃であり、吸気及び排気温度はそれぞれ90℃及び32℃であり、流速(空気及び液体噴霧)をほぼ最高にセットした。1分あたり約1.5〜2.0gの液体の被覆速度で、過度の凝集を起こすことなく液体で十分に覆った。1重量%及び2重量%の水酸化レシチン材料を有するタンパク質組成物のサンプルを、分散性試験用に取得した。得られたタンパク質組成物の粉末は乾燥しており、自由に流動し、微粉は無かった。また、従来の技術及び配合によるレシチン材料で被覆された7種類の市販のダイズタンパク質単離物製品も、実施例3に記載した手順を用いて分散性について試験した。結果を表4に示す。
【表4】

【実施例6】
【0054】
本実施例では、3つのタンパク質組成物のサンプルを、実施例5のサンプルを調製した日と異なる日に、実施例5に従って調製した。3つの追加のサンプルのそれぞれ(サンプル6A〜6C)を、2重量%の水酸化レシチン材料で被覆した。実施例3に従った分散性試験の結果を表5に示す。
【表5】

【実施例7】
【0055】
4つの追加のサンプルについて、これら4つのサンプルを調製するために使用したダイズタンパク質単離物が、実施例6ではバルク密度が34.2g/100mLに対して26.3g/100mLであり、実施例6では平均粒径が250ミクロンに対して77ミクロンであった以外は、実施例6に記載した手順に従って調製した。ダイズタンパク質単離物の粒径を、Cilas U.S.,Inc.,11420 Fortune Circle Suite I−14,Wellington,FL 33414から入手可能なCilas 1064レーザー粒径分析器を用いて測定した。4つのサンプルのうち2つについて、実施例6で使用した水酸化レシチンを、一方のサンプルについて約5重量%以下の油を含む未改変のレシチン材料(「脱油レシチン材料」)と置換し、もう一方のサンプルについて少なくとも約35重量%の油を含む未改変のレシチン材料(「流動グレードレシチン材料」)と置換した。4つのサンプルの分散性試験の結果を表6に示す。
【表6】

【実施例8】
【0056】
本実施例では、1つのサンプルを実施例6に従って調製した。2つの追加のサンプルを、一方のサンプルについてダイズタンパク質単離物を乳清タンパク質単離物と置換し、もう一方のサンプルについてダイズタンパク質単離物をカゼイン酸ナトリウムで置換した以外は、実施例6に従って調製した。3つのサンプルの分散性試験の結果を表7に示す。
【表7】

【実施例9】
【0057】
様々なレシチン材料の酸化安定性を、ASTM法「D6186−98-圧力示差走査熱量測定法による潤滑油の酸化誘導時間の標準試験法(Standard Test Method for Oxidation Induction Time of Lubricating Oils by Pressure Differential Scanning Calorimetry(PDSC)」を用いて測定した。本試験では、レシチン材料を、酸化事象を起こす原因となる純粋酸素雰囲気中で上昇させた温度(140℃)及び圧力(約345kPa(500psi))にさらした。酸化事象は発熱性であり、示差走査熱量計により検出できる。本明細書でいう「酸化誘導指数」は、PDSCセルが特定の条件に到達した後、発熱事象の開始まで、どのくらい時間がかかるかにより決定される。用語「最高酸化発熱指数」は、上記条件下で酸化発熱曲線の最高点に到達するのにどれくらい時間がかかるかにより決定される。
【0058】
多くの異なるレシチン材料を試験した。本実施例で試験した様々なレシチン材料は全部、約5重量%以下の油を含んでいた(「脱油レシチン材料」)。2つのレシチン材料の結果を図1に示し、また追加の5つのレシチン材料の結果を表8に示す。
【0059】
図1に示した結果は、未改変のレシチン材料(サンプル9A)及び水酸化レシチン材料(サンプル9B)についてである。試験を、各レシチン材料について2回行った。理論に縛られたくないが、水酸化レシチン材料は、材料での2重結合が少ないために、より酸化的に安定していると予想される。もちろん、他のパラメーターも、酸化安定性に影響し得る(例えば貯蔵期間、抗酸化剤、金属イオン捕捉剤などの添加剤/安定剤など)。
【0060】
図1に示したように、未改変レシチン材料(サンプル9A)の第1及び第2実験の酸化誘導指数は、それぞれ約8.5分及び約7.4分であった。水酸化レシチン材料(サンプル9B)の第1及び第2実験の酸化誘導指数は、それぞれ約17.8分及び約16.9分であった。未改変レシチン材料(サンプル9A)の第1及び第2実験の最高酸化発熱指数は、それぞれ約10.8分及び約9.7分であった。水酸化レシチン材料(サンプル9B)の第1及び第2実験の最高酸化発熱指数は、それぞれ約22.0分及び約21.8分であった。
【0061】
5つの他のレシチン材料を、本方法に従って試験した。試験の結果を表8に示す。
【表8】

【実施例10】
【0062】
実施例5に従って調製したタンパク質組成物の流動性を、Supro 670の流動性と比較した。各サンプルの流動性を以下のようにして2重に測定した。
【0063】
10gの各サンプルを、ゴム栓でふさがれた14mmの穴を有する145mmのポリエチレンの漏斗に入れた。サンプルの表面を平らにするため、漏斗を数回たたき、それから栓をはずした。サンプルの流れを円滑するために穏やかにたたきながら、紙の清潔なシートの上にサンプルが落ちるようにした。漏斗の底から表面までの距離は90mmであった。パイルの両側の紙の上に印をつけた。印間の距離を、後で定規で測定した。本明細書で使用される用語「パイルの広がった直径」は、本実施例で説明した手順に従って得られた印間の距離をいう。
【0064】
パイルを紙の上に置いたままにしておき、パイルの写真を、表面に対して相対的に平らな角度(表面に対しほぼ平行)から撮った。写真をプリントし、プリントした写真の上に、パイルの上半分にパイルに対する接線19(図2及び図3)を引いた。接線間の角度(符号21を用いる図2及び図3を参照)を、分度器を用いて測定した。本明細書で使用される、用語「パイルの頂角」は、本実施例で説明された手順に従って測定される角をいう。
【0065】
図2に、実施例5で説明された手順に従って調製されたタンパク質組成物を用いて、本手順に従って作ったパイルの1つの例を示す。望ましくは、パイルは実質的に均一な円錐形であり、大きさが実質的に類似の多数の粒子から成る。パイルの広がった直径は95mmであり、パイルの頂角は102度であった。
【0066】
対照に、上記手順に従って調製したSupro 670のパイルの1つの例を図3に示す。図3に示されるパイルは、多くの塊を含み、もっと高く積もる傾向がある。パイルの広がった直径は82mmであり、パイルの頂角は90度であった。
【0067】
本明細書及び特許請求の範囲で使用される「有する」、「有している」、「含む」及び「含んでいる」などの用語は、用語「から成る」及び「から成っている」と同義的であると解釈されるべきである。また、別に指示がなければ、本明細書で使用される全ての数または表現、例えば寸法、物理的特性などを表す数または表現は、全ての場合において用語「約」で修飾されていると理解される。特許請求の範囲に対する均等論の適用を制限しようとするわけではないが、最低限、用語「約」により修飾された明細書または特許請求の範囲に列挙されたそれぞれの数値のパラメーターは、少なくとも、列挙された有効数字の数の観点から及び通常、数値を丸める方法を適用することにより、解釈されるべきである。更に、本明細書で開示される全ての範囲は、その中に包含される、あらゆる全ての部分的な範囲も含まれると理解されるべきである。例えば「1〜10」という範囲は、最小値の1と最高値の10の間およびそれを含めた、あらゆる全ての部分的な範囲、すなわち、最小値の1またはそれより上で始まって、最高値の10またはそれより下で終わる、全ての部分的な範囲(例えば5.5〜10)を含むと考えられるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】未改変のレシチン材料および水酸化レシチン材料のサンプルにおける酸化発熱を示すグラフである。
【図2】分散性タンパク質材料の一実施形態のパイルの図である。
【図3】市販のSupro670のパイルの図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも約85重量%のタンパク質、ここで該タンパク質は、少なくとも約75重量%の、乳清タンパク質、ダイズタンパク質、コムギタンパク質、ルーピン、トウモロコシのグルテンまたはこれらの混合物を含み、
レシチン材料、及び
約0.5重量%以下の粗繊維、
含み、分散性指数が約12秒以下である、分散性タンパク質組成物。
【請求項2】
前記レシチン材料が水酸化レシチンから成る、請求項1に記載の分散性タンパク質組成物。
【請求項3】
少なくとも約90重量%のタンパク質を含む、請求項1に記載の分散性タンパク質組成物。
【請求項4】
前記タンパク質がダイズタンパク質を含む、請求項1に記載の分散性タンパク質組成物。
【請求項5】
前記レシチン材料が約5重量%以下の油を含む、請求項1に記載の分散性タンパク質組成物。
【請求項6】
前記レシチン材料の最高酸化発熱指数が少なくとも約18分である、請求項5に記載の分散性タンパク質組成物。
【請求項7】
前記レシチン材料のHLB値が少なくとも約9である、請求項5に記載の分散性タンパク質組成物。
【請求項8】
前記レシチン材料の表面張力指数が少なくとも約300μN/cm(約30ダイン/cm)である、請求項1に記載の分散性タンパク質組成物。
【請求項9】
パイルの頂角が少なくとも約95度である、請求項1に記載の分散性タンパク質組成物。
【請求項10】
パイルの広がった直径が少なくとも約90mmである、請求項1に記載の分散性タンパク質組成物。
【請求項11】
約0.5%以下の容易に消化できない炭水化物を含む、請求項1に記載の分散性タンパク質組成物。
【請求項12】
平均粒径が約25ミクロン〜約500ミクロンである、請求項1に記載の分散性タンパク質組成物。
【請求項13】
約0.5重量%〜5重量%の水酸化レシチンを含む、請求項1に記載の分散性タンパク質組成物。
【請求項14】
少なくとも約85重量%のタンパク質、ここで該タンパク質は、少なくとも約75重量%の、乳清タンパク質、ダイズタンパク質、コムギタンパク質、ルーピン、トウモロコシのグルテンまたはこれらの混合物を含み、及び
水酸化レシチン、
を含み、分散性指数が約30秒以下である、分散性タンパク質組成物。
【請求項15】
分散性指数が約10秒以下である、請求項14に記載の分散性タンパク質組成物。
【請求項16】
前記タンパク質がダイズタンパク質を含む、請求項14に記載の分散性タンパク質。
【請求項17】
パイルの頂角が少なくとも約95度である、請求項14に記載の分散性タンパク質組成物。
【請求項18】
少なくとも約90重量%のタンパク質を含む、請求項14に記載の分散性タンパク質組成物。
【請求項19】
少なくとも約85重量%のタンパク質、ここで該タンパク質は、少なくとも約75重量%の、乳清タンパク質、ダイズタンパク質、コムギタンパク質、ルーピン、トウモロコシのグルテンまたはこれらの混合物を含み、及び
レシチン材料、
を含み、分散性指数が約10秒以下であり、パイルの頂角が少なくとも約95度である、分散性タンパク質組成物。
【請求項20】
パイルの広がった直径が少なくとも約90mmである、請求項19に記載の分散性タンパク質組成物。
【請求項21】
前記レシチン材料が水酸化レシチンから成る、請求項19に記載の分散性タンパク質組成物。
【請求項22】
約0.5重量%〜5重量%のレシチン材料を含む、請求項19に記載の分散性タンパク質組成物。
【請求項23】
前記レシチン材料の最高酸化発熱指数が少なくとも約15分である、請求項22に記載の分散性タンパク質組成物。
【請求項24】
前記レシチン材料の表面張力指数が少なくとも約300μN/cm(約30ダイン/cm)である、請求項19に記載の分散性タンパク質組成物。
【請求項25】
平均粒径が約25ミクロン〜500ミクロンである、請求項19に記載の分散性タンパク質組成物。
【請求項26】
少なくとも約85重量%のタンパク質、ここで該タンパク質は、少なくとも約75重量%の、乳清タンパク質、ダイズタンパク質、コムギタンパク質、ルーピン、トウモロコシのグルテンまたはこれらの混合物を含み、及び
約5重量%以下の油を含み、最高酸化発熱指数が少なくとも約15分であり、及びHLB値が少なくとも約9であるレシチン材料、
を含み、分散性指数が約10秒以下である、分散性タンパク質組成物。
【請求項27】
前記レシチン材料が水酸化レシチンから成る、請求項26に記載の分散性タンパク質組成物。
【請求項28】
パイルの頂角が少なくとも約95度である、請求項26に記載の分散性タンパク質組成物。
【請求項29】
前記レシチン材料の表面張力指数が少なくとも約300μN/cm(約30ダイン/cm)である、請求項26に記載の分散性タンパク質組成物。
【請求項30】
少なくとも約90重量%のダイズタンパク質、及び
最高酸化発熱指数が少なくとも約15分であり、及び表面張力指数が少なくとも約300μN/cm(約30ダイン/cm)であるレシチン材料、
を含み、分散性指数が約30秒以下である、分散性タンパク質組成物。
【請求項31】
分散性指数が約10秒以下である、請求項30に記載の分散性タンパク質組成物。
【請求項32】
約0.5重量%以下の粗繊維を含む、請求項30に記載の分散性タンパク質組成物。
【請求項33】
パイルの頂角が少なくとも約95度である、請求項30に記載の分散性タンパク質組成物。
【請求項34】
前記レシチン材料が水酸化レシチンから成る、請求項30に記載の分散性タンパク質組成物。
【請求項35】
前記レシチン材料のHLB値が少なくとも約9である、請求項30に記載の分散性タンパク質組成物。
【請求項36】
前記レシチン材料の最高酸化発熱指数が少なくとも約20分である、請求項30に記載の分散性タンパク質組成物。
【請求項37】
微粒子状タンパク質材料に、レシチン材料を含む水溶液を噴霧して、湿ったタンパク質材料を作製することを含む、分散性タンパク質組成物を調製する方法であって、
該微粒子状タンパク質材料は、少なくとも約75重量%の、乳清タンパク質、ダイズタンパク質、コムギタンパク質、ルーピン、トウモロコシのグルテンまたはこれらの混合物を含み、及び約0.5重量%以下の粗繊維を含み、前記水溶液は、少なくとも約5重量%のレシチン材料を含む、前記方法。
【請求項38】
前記微粒子状タンパク質材料を流動化することを更に含む、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記湿ったタンパク質材料を乾燥させて、乾燥したレシチン処理したタンパク質材料を得ることを更に含む、請求項37に記載の方法。
【請求項40】
前記湿ったタンパク質材料を約40℃以下の温度で乾燥させることを含む、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記微粒子状タンパク質材料が少なくとも約90重量%のタンパク質を含む、請求項37に記載の方法。
【請求項42】
前記レシチン材料が水酸化レシチンから成る、請求項37に記載の方法。
【請求項43】
微粒子状タンパク質材料に、水酸化レシチンを含む水溶液を噴霧し、湿ったタンパク質材料を作製することを含む、分散性タンパク質組成物を調製する方法であって、
前記微粒子状タンパク質材料は、少なくとも約75重量%の、乳清タンパク質、ダイズタンパク質、コムギタンパク質、ルーピン、トウモロコシのグルテンまたはこれらの混合物を含み、前記分散性タンパク質組成物の分散性指数が約30秒以下である、前記方法。
【請求項44】
前記水溶液が少なくとも約5重量%の水酸化レシチンを含む、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
前記微粒子状タンパク質材料を流動化することを更に含む、請求項43に記載の方法。
【請求項46】
前記湿ったタンパク質材料を乾燥させて、乾燥した水酸化レシチン処理したタンパク質材料を得ることを含む、請求項43に記載の方法。
【請求項47】
前記乾燥した水酸化レシチン処理したタンパク質材料を流動化することを更に含む、請求項46に記載の方法。
【請求項48】
微粒子状タンパク質材料に、水酸化レシチンを含む水溶液を噴霧することを含む方法で調製される、分散性タンパク質組成物であって、
前記微粒子状タンパク質材料は、少なくとも約90重量%のタンパク質を含み、該タンパク質は、乳清タンパク質、ダイズタンパク質、コムギタンパク質、ルーピン、トウモロコシのグルテンまたはこれらの混合物を含む、前記組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2007−531524(P2007−531524A)
【公表日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−506494(P2007−506494)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【国際出願番号】PCT/US2005/010620
【国際公開番号】WO2005/096835
【国際公開日】平成17年10月20日(2005.10.20)
【出願人】(397058666)カーギル インコーポレイテッド (60)