説明

分配型燃料噴射ポンプ

【目的】 インナカム方式の燃料噴射ポンプにおいて、発熱しやすいローラ周囲の冷却を効率よく行う。併せて、カムジャンプの低減、進角と燃料噴射量との独立制御、燃料の吸入効率の向上を図る。
【構成】 燃料流入口26からフィードポンプ4にかけて形成される低圧側燃料経路27と、燃料の流出入ポート31に連通可能なチャンバ8とをハウジング内に画成し、低圧側燃料経路27にカムリング、シュー、ローラを配してローラ周囲に低圧低温燃料を導く。シューの背面には上流側で低圧側燃料経路27と絞りなく連通する空間28が形成され、カムリングとコントロールスリーブ34は低圧側燃料経路とチャンバとの境に設けられるアダプタ25によって位相が固定されている。アダプタ25に吸入ポートと連通する吸入通路を形成して吸入経路を短縮してもよい。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、ディーゼルエンジン等の機関に燃料を供給するために利用されるインナカム方式の分配型燃料噴射ポンプ、即ち、機関に同期する回転部材にその径方向でプランジャを往復動させる形式の燃料噴射ポンプに関する。
【0002】
【従来の技術】インナカム方式の分配型燃料噴射ポンプは、例えば、特開昭59−110835号公報の第2頁、第4頁、第1図、第7図に示されるようなものが公知となっている。即ち、燃料室121(チャンバ)内において、燃料分配回転部材4(回転部材)の周囲に同心状のインナカムリング1を配置し、このインナカムリング1の内側に形成されたカム面に転動体23、24(ローラ)、シュー25、26を介して圧送プランジャ21、22があてがわれ、この圧送プランジャ21、22が燃料分配回転部材4の径方向に往復動されるようになっている。燃料分配回転部材4には、圧送プランジャ21、22により容積が変化するポンプ室2(圧縮室)と、吸入工程時にポンプ室2へ燃料を吸入する吸入孔51乃至54、圧送工程時にポンプ室2で加圧された燃料を送出する分配ポート6、および燃料送出をカットオフする溢流ポート71乃至74が形成され、溢流ポート71乃至74を覆うようにリング状部材7(コントロールスリーブ)が油密に外嵌されている。このリング状部材7の内面には、カットオフ用の斜めリード溝部10が形成され、リング状部材7の軸方向への位置をリニアソレノイド81によって調節することで、圧送工程時のカットオフ時期(溢流ポートが斜めリード溝部に開口して圧縮燃料が燃料室121に流出する時期)を変更し燃料噴射量を可変できるようになっている(第1従来技術)。
【0003】さらに、特開昭59−65523号公報の第1図には、インナカム方式の分配型噴射ポンプにおいて、フィードポンプによって吸入された燃料が絞り23によって減圧されて低圧燃料溜24(チャンバ)に導かれ、低圧燃料溜24には、プランジャ3の基端に設けられたシュー4、このシュー4に支持されたローラ5、このローラが当接するカムリング6が配置され、低圧燃料溜24の燃料を回転部材1の吸入ポート20に供給できるようにすると共にカムリング6と回転部材1とで囲まれた空間にも供給する点が開示されている(第2従来技術)。このような構成にあっても、圧送工程時には、ロータ1内に閉じ込められた燃料を圧縮するが、この圧縮された燃料がバイパスポート36から流出されると噴射がカットオフされるようになっている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上述の噴射ポンプのように、カットオフ時に燃料が流出する空間と、ローラ周囲の空間が連通している場合には、例え第2従来技術のように絞り23によって燃料圧を減圧したとしても、圧送工程で圧縮された高温高圧燃料のチャンバへの流出によって、チャンバ内の温度が上昇し、摩擦熱の生じやすいカムリングとローラとの接触部分、ローラとシューとの接触部分等の冷却が十分に行えなくなる。
【0005】そこで、この発明においては、発熱しやすいローラ周囲の接触部分の冷却を効率よく行うことを主な課題としている。
【0006】この目的を達成するために、ローラ周囲の空間と、燃料の流出入ポートに連通するチャンバとを画成することが考えられるが、単に画成した場合には、ローラ周囲の燃料がよどむ虞れもあり、特に高速回転時には、ローラ周囲にこもる熱量が多くなるのでローラ周囲の潤滑に携わる燃料の油膜切れが発生し易くなり、磨耗が助長されてしまうことが懸念されるので、この点を配慮する必要がある。
【0007】また、プランジャの往復動に伴ってローラやシューがジャンプ(カムジャンプ)すると、安定した噴射特性が得られなくなるので、このようなカムジャンプを抑える必要があるが、カムジャンプを抑えるためにはローラやシューをカムリング側に付勢する力が予想以上に必要であり、少しでもカムジャンプの低減を図るようにした構造が望まれる。
【0008】さらには、第1従来技術のように、コントロールスリーブを回転部材の軸方向に位置調節して燃料噴射量を制御する場合には、タイマの進角量に同期した位置決めを行う必要があるが、ローラ周囲とチャンバとを画成する場合には、これをどう処理するかが問題となる。コントロールスリーブの進角補正を、コントロールスリーブの位置センサとタイマ位置センサとのそれぞれの出力を比較考量して補正量を設定する方法も考えられるが、各センサの精度にばらつきがあることから制御精度上問題である。
【0009】加えて、圧縮室から圧送される燃料量が多くなると、吸入工程で吸入しなければならない燃料の吸入量も多くなるので、特に高送油時にあっては、吸入効率のよい吸入経路を確保する必要があること、エレクトリックガバナが故障してコントロールスリーブがカットオフを遅らす方向へ必要以上に移動した場合には、圧力の異常な上昇によってポンプ内部やポンプを駆動しているエンジン部品等が破損してしまうこと等を考慮する必要がある。
【0010】したがって、付随的な目的としては、カムジャンプを低減して安定した燃料特性を得ること、タイマの動きに合わせたコントロールスリーブの位置決めを精度よく行い、タイマ制御と燃料噴射量制御とを独立させて一方の制御を行う場合に他方の制御を考慮しなくても済む分配型燃料噴射ポンプを提供することにある。
【0011】更に他の目的としては、燃料の吸入効率を高めると共に、エレクトリックガバナの故障時においてもポンプ等の破損を防ぐことにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】本発明者は、インナカム方式の燃料噴射装置について種々研究した結果、ローラとの接触部分をチャンバの外に配置する構成とするのが良く、そのために生じる上記種々の不都合を解決する観点から本願発明を完成するに至った。
【0013】即ち、本願発明の分配型燃料噴射ポンプは、機関と同期して回転する回転部材と、前記回転部材の径方向に設けられ、前記回転部材に形成された圧縮室の容積を可変するプランジャと、前記回転部材の周囲に同心状に設けられたカムリングと、前記プランジャの基部に設けれたシューと、このシューと前記カムリングとの間に設けられたローラとをハウジング内に備え、前記圧縮室に連通して燃料を吸入、送出、カットオフするポートが前記回転部材に形成されている分配型燃料噴射ポンプにおいて、前記ハウジング内を燃料流入口からフィードポンプの上流側にかけて形成される低圧側燃料経路と、前記フィードポンプによって加圧された燃料が導かれて前記燃料を吸入、カットオフするポートに連通可能なチャンバとに画成し、前記低圧側燃料経路に前記カムリング、シュー、及びローラを配したことにある(請求項1)。
【0014】低圧側燃料経路とチャンバとを画成するには、回転部材の軸方向に燃料流入口、フィードポンプ、チャンバが順次配置される構成ではフィードポンプによって画成できるが、燃料流入口とフィードポンプとの間にチャンバが配置される構成では、ハウジング内にチャンバを構成するための隔壁を設けるようにすればよい。
【0015】ここで、シューの背面と回転部材との間に空間を設け、この空間と低圧側燃料経路とを燃料流入口側において絞り無く連通させることが望ましく(請求項2)、また、回転部材に、燃料をカットオフするポートに連通可能なカットオフ孔が少なくとも形成されているコントロールスリーブを油密に外嵌すると共に、カムリングと同期するリング状のアダプタを油密に外嵌し、前記アダプタを低圧側燃料経路とチャンバとを画成する部材の一部として、コントロールスリーブをこのアダプタに対して位置決めするのが望ましい(請求項3)。
【0016】さらには、燃料吸入ポートをアダプタによって覆われた部位に形成し、低圧側燃料経路とチャンバとを画成する部材の一部をなすアダプタに、チャンバと燃料吸入ポートとを連通可能とする吸入通路を形成するのが望ましい(請求項4)。尚、この吸入通路は、許容できる最大有効ストロークを設定する観点から、圧縮工程において所定リフト以上になった場合に燃料吸入ポートとチャンバとを連通するようなものであってもよい。
【0017】
【作用】したがって、この発明によれば、ハウジング内がフィードポンプを境に低圧側燃料経路とチャンバとに画成され、しかも低圧側燃料通路にカムリング、シュー、及びローラが配されるので、燃料流入口から流入された低温低圧燃料はカムリング、シュー、ローラ間の隙間を通ってフィードポンプに導かれるので、ローラ周囲の摩擦熱を生じやすい部分の冷却が促進される。
【0018】特に請求項2のように、シューの背面と回転部材との間に空間を設け、この空間と低圧側燃料経路とを燃料流入口側において絞り無く連通させれば、カムリング、シュー、ローラ間は通路抵抗のために燃料圧が低下するので、シューのカムリング側とシューの回転部材側との間には差圧が形成され、この差圧をもってローラやシューをカムリング側に付勢することができる。
【0019】また、請求項3のような構成にすれば、燃料をカットオフするタイミングを制御するコントロールスリーブと、カムリングとの位相を固定することができるので、カムリングを回動させて進角が変更されると、コントロールスリーブも同様に回動されることになり、噴射量を進角の変更によって補正する必要がなくなり、進角、噴射量の一方の制御を他方の制御に関係なく独立におこなうことができる。
【0020】さらに請求項4のような構成にすれば、アダプタに形成された吸入通路とアダプタで覆われた燃料吸入ポートを介してチャンバ内の燃料が圧縮室に導かれるので、チャンバ中程から燃料を吸入する場合に比べて吸入経路を短くすることができ、そのため、上記課題を達成することができる。
【0021】
【実施例】以下、この発明の実施例を図面により説明する。
【0022】図1において、インナカム方式の分配型燃料噴射ポンプが示され、分配型燃料噴射ポンプ1は、ポンプハウジング2に駆動軸3が挿入され、この駆動軸3の一端はポンプハウジング2の外部に突出し、図示しない機関からの駆動トルクを受け、機関と同期して回転するようになっている。駆動軸3の他端は、ポンプハウジング2内に延びており、その駆動軸3には、フィードポンプ4が連結され、このフィードポンプ4により後述する低圧側燃料経路を介して供給される燃料をチャンバ8へ供給するようになっている。
【0023】ここで、ポンプハウジング2は、駆動軸が挿通されたハウジング部材2aと、このハウジング部材2aに組付けられ、送出弁10が設けられたハウジング部材2bと、さらにこのハウジング部材2bの開口端部を閉塞するハウジング部材2cとからなり、前記チャンバ8は、ポンプハウジング内に固定された隔壁体9と後述するアダプタ25とによって囲まれた空間によって形成されている。隔壁体9は、後述するエレクトリックガバナ12のシャフト13を覆うような空間を有し、この空間がガバナハウジング6によって画成されるガバナ収納室14に連通するようポンプハウジング2にO−リングを介して密に接合されている。また、この隔壁体9は、側部に一体形成された嵌合突設部9aを有し、送出弁を有するハウジング部材2bの回転部材挿入部15にこの嵌合突設部9aが挿嵌されている。
【0024】回転部材16は、隔壁体9を挿通して先端部近傍が嵌合突設部9aに形成された挿通部9bに油密よく且つ回転自在に支持されており、基端部がカップリング17を介して駆動軸3に連結され、駆動軸3の回動に伴って回転のみが許されるようになっている。また、回転部材16の先端部に形成されたスプリング受け18とハウジング部材2cとの間に設けられたスプリング19によって、回転部材16をカップリング側へ付勢し、軸方向への遊びをなくすようにしている。
【0025】回転部材16の基端部には、径方向(放射方向)にプランジャ20が摺動自在に挿入されている。この実施例においては、図2にも示されるように、同一平面上に例えば90度の間隔をおいて4つのプランジャ20が設けられており、それぞれのプランジャ20の先端は、回転部材16の基端部中央に設けられた圧縮室21を閉塞するように臨み、該プランジャ20の基端は、シュー22及びローラ23を介してリング状のカムリング24の内面を摺接するようになっている。このカムリング24は、回転部材16の周囲に同心状に設けられると共に、機関の気筒数に対応したカム面24aが内側に形成され、回転部材16が回転すると、各プランジャ20が回転部材16の径方向(放射方向)に往復動し、圧縮室21の容積を可変するようになっている。
【0026】即ち、カムリング24は、例えば4気筒に対応して形成されているものであれば、カムリング24の内側に凸面が90度毎に形成されており、したがって、4つのプランジャ20は、圧縮室21を挟み付ける形で同時に圧縮するように移動し、またカムリング24の中心から同時に遠ざかるようになっている。
【0027】回転部材16の先端部と基端部との間には、環状のアダプタ25が油密よく回動自在に外嵌され、このアダプタ25は、周縁の一部が前記カムリング24に係止されて回動を束縛され、カムリング24に対し位置決めされている。また、アダプタ25は、回転部材16の先端部側に突設された筒状部25aが隔壁体9に形成された嵌合孔9cに油密よく回動自在に挿嵌している。
【0028】送出弁10が設けられたハウジング部材2bには、さらに燃料タンクに通じる燃料流入口26が形成され、この燃料流入口26から流入される燃料は、ポンプハウジング内の隔壁体9及びアダプタ25の周囲に形成された空間27a、カムリング24と回転部材16との間に形成された空間27b、カップリング17の周囲に形成された通路27c等を介してフィードポンプ4の吸引側に導かれるようになっており、これら空間や通路によって、燃料流入口26からフィードポンプ4にかけて低圧側燃料経路27(図5において黒く塗りつぶされた部分)が形成されている。
【0029】また、フィードポンプ4によって圧縮された燃料は、ポンプハウジング上部に形成される通路5、及びポンプハウジング2とこれに組付られるガバナハウジング6との間に形成される隙間7を介してチャンバ8に導かれると共にガバナ収納室14を介してオーバーフローバルブ46へ導かれ、更には隔壁体9の嵌合突設部9aに形成された挿通部9bを介して回転部材16の先端部周囲及び回転部材16に形成された均圧ポート47に導かれており、全体として図6において黒く塗りつぶされた高圧側燃料経路29が形成されている。
【0030】ところで、シュー22の背面には、該シュー22と回転部材16とで囲まれた空間28が形成され、この空間28は低圧側燃料経路27と燃料流入口26に近い側(上流側)において絞り無く連通されている。この空間28は、どのような断面形状に形成されるものでもよいが、シュー22にカムリング24側に向う背圧が均等に付加されるようにすることが好ましい。そのような空間としては、各プランジャ20の両脇を回転部材16の軸方向に穿設して設けるとよい。
【0031】回転部材16には、その軸方向に形成されて圧縮室21に通じる縦孔30、この縦孔30に連通し、回転部材16の周面に開口する流出入ポート31、及び、隔壁体9及びハウジング部材2bに形成された分配通路32と前記縦孔30とを連通可能とする分配ポート33が形成されている。この流出入ポート31は、回転部材16の表面において開口する部分が長孔に形成され、その長孔の延設方向は、回転部材16の軸方向に対して所定の角度に傾斜している。そして、回転部材16には、コントロールスリーブ34が流出入ポート31を覆うように摺動自在に外嵌されている。
【0032】このコントロールスリーブ34には、流出入ポート31と連通可能な吸入孔35とカットオフ孔36とが形成されている。これら吸入孔35とカットオフ孔36とは、回転部材16の軸方向に対して流出入ポート31と同様の角度に傾斜した長孔で構成され、流出入ポート31に対して平行になるように設けられている。
【0033】しかして、回転部材16が回転すると、流出入ポート31はコントロールスリーブ34の吸入孔35とカットオフ孔36とに順次連通されることになり、前記プランジャ20がカムリング24の中心から遠ざかる方向へ移動する吸入工程にあっては、流出入ポート31と吸入孔35とが整合して、チャンバ8内の燃料が圧縮室21に吸入される。
【0034】その後、プランジャ20がカムリング24の中心に向かって移動する圧送工程に入ると、流出入ポート31と吸入孔35との連通が断たれ、分配ポート33と分配通路32の1つとが整合し、圧縮された燃料がこの分配通路32を介して送出弁10へ供給されるようになっている。
【0035】尚、送出弁10から送出された燃料は、図示しない噴射管を介して噴射ノズルへ送られ、この噴射ノズルから機関の気筒内へ噴射するようになっている。
【0036】そして、圧送工程の途中で、流出入ポート31とカットオフ孔36とが整合すると、圧縮された燃料がチャンバ8に流出し、噴射ノズルへの送出は停止し、噴射が終了する。
【0037】ここで、流出入ポート31がカットオフ孔36と整合するタイミングは、コントロールスリーブ34の位置によって可変することから、コントロールスリーブ34の位置調整によって噴射終わり、即ち噴射量を調節でき、コントロールスリーブ34を図中左方(回転部材16の基端部側)へ移動するほど噴射量を減少させ、右方(回転部材16の先端部側)へ移動するほど噴射量を増加させることができる。
【0038】より詳しく説明すると、コントロールスリーブ34と回転軸16との位置関係が図3の■であるときに、コントロールスリーブ34を右方へ移動させて■の状態にすると、流出入ポート31が吸入孔35及びカットオフ孔36と連通するタイミングが早められて、カムリング24の圧送工程時でのカム面の使用領域がリフト初期の領域(低カム速度領域)に以降し、回転部材16の回転数を同一とすれば、噴射期間は同じであるが噴射量が減少する。逆に、コントロールスリーブ34と回転軸16との位置関係が図3の■であるときに、コントロールスリーブ34を左方へ移動させて■の状態にすると、流出入ポート31が吸入孔35及びカットオフ孔36と連通するタイミングが遅められて、カムリング24の圧送工程時での使用領域が高カム速度領域側に以降し、噴射量が増加する。
【0039】ここで、コントロールスリーブ34には、上部表面の周方向に所定角度の範囲で形成された係合溝37が形成され、エレクトリックガバナ12のロータ38に取り付けられたシャフト13の先端に形成されているボール39がこの係合溝37に係合されている。このボール39は、シャフト13に対して偏心して設けられており、外部からの信号によってロータ38が回転されると、コントロールスリーブ34が回転部材16の軸方向に移動されるようになっている。
【0040】また、コントロールスリーブ34には、軸方向に延びる溝34aが形成され、この溝34aに前記アダプタ25の筒状部25aの一部が挿入されて、アダプタ25とコントロールスリーブ34との位相が常に一定に保たれるようになっている。
【0041】タイマ装置40は、ポンプハウジング2の下部に設けられたシリンダに摺動自在にタイマピストン41を収納し、このタイマピストン41をレバー42を介してカムリング24に連結し、タイマピストン41の動きをカムリング24の回動に変換して噴射時期を調節できるようになっている。
【0042】タイマピストン41の一端には、チャンバ8内の高圧燃料が導入される高圧室が、また他端には、低圧側燃料経路27と連通する低圧室が形成されている。さらに、低圧室には、タイマスプリングが弾装され、このタイマスプリングによりタイマピストン41が常時高圧室側に付勢されている。したがって、タイマピストン41は、タイマスプリングのスプリング圧と高圧室内の燃料圧とが釣り合った位置で停止し、高圧室圧が高くなると、タイマピストン41がタイマスプリングに抗して低圧室側に移動し、カムリング24が噴射時期を進角する方向に回動させられ、噴射時期が早くなる。また、高圧室圧が低くなると、タイマピストン41が高圧室側に移動し、カムリング24が噴射時期を遅角する方向に回動させられ、噴射時期が遅くなる。
【0043】即ち、コントロールスリーブ34と回転部材16との位置関係が図4の■であるときに、タイマピストン41が低圧側に移動してカムリング24が噴射時期を進角する方向に回動すると、カムリング24の回動に伴って、コントロールスリーブ34はアダプタ25を介して同方向に同じ角度だけ回動され、流出入ポート31が吸入孔35及びカットオフ孔36と連通するタイミングが早められる(図4の■の状態)。したがって、圧送工程時でのカムリング24の使用領域には変化はないが、カムリング24が回動したことによってカムリフトの特性線が、図4に示されるように、全体として噴射タイミングを早くする方向へシフトする。
【0044】逆に、コントロールスリーブ34と回転部材16との位置関係が図4の■であるときに、タイマピストン41が高圧側に移動してカムリング24が噴射時期を遅角する方向に回動すると、カムリング24の回動に伴って、コントロールスリーブ34はアダプタ25を介して同方向に同じ角度だけ回動され、流出入ポート31が吸入孔35及びカットオフ孔36と連通するタイミングが遅められる(図4の■の状態)。したがって、圧送工程時でのカムリング24の使用領域には変化はないが、カムリング24が回動したことによってカムリフトの特性線が全体として噴射タイミングを遅くする方向へシフトする。
【0045】尚、タイマの高圧室の圧力は、要求されるタイマ進角が得られるようタイミングコントロールバルブ(TCV)43で調節される。このタイミングコントロールバルブ43には、チャンバ8に通じると共にタイマピストン41の高圧室側に通じる入口部が側部に形成され、またタイマピストン41の低圧室側に通じる出口部が先端部にそれぞれ形成され、内部には、入口部と出口部との間を開閉するニードル44が収納されている。このニードル44は、入口部と出口部との連通を遮断する方向にスプリングで常時付勢されており、ソレノイド45への通電によってスプリングに抗して引き寄せられると入口部と出口部とが連通して高圧室と低圧室とが連通されるようになっている。
【0046】従って、ソレノイド45に電流が流れていないときには、高圧室と低圧室は完全に遮断されるが、電流が流れているときには、高圧室と低圧室はつながり、高圧室の圧力が低下する。このように、高圧室圧の変動に伴い、タイマピストン41は、タイマスプリングのばね力とバランスする位置まで移動し、これによりカムリング14が回動して噴射時期が変更される。尚、タイミングコントロールバルブ43の制御は、デューティ比制御で行うようにするとよい。
【0047】上記構成において、ポンプハウジング2内は、燃料流入口26から流入される低圧低温燃料が満たされた低圧側燃料経路27と、フィードポンプ4で圧縮されて幾分高圧に保たれた燃料が満たされる高圧側燃料経路29とに画成されており、低圧側燃料経路27を流れる低圧低温燃料は、カムリング24、シュー22、ローラ23間の隙間を通ってフィードポンプ4に送られるので、回転部材16の回転に伴って摩擦熱を持ちやすいカムリング24とローラ23との接触部分、ローラ23とシュー22との接触部分の冷却を促進すると共に、ローラ周囲の潤滑を促進して滑らかな動きを保証する。
【0048】また、回転部材16のシュー22の背後に形成された空間28には燃料流入口側から低圧低温燃料が絞り無く流入されるので、カムリング24、シュー22、ローラ23間(空間27b)を通過する燃料のように、通路抵抗による燃料圧の低下はなく、空間28の燃料圧は空間27bの燃料圧に対して相対的に高くなる。このため、シュー22のプランジャ側とシュー22のカムリング側との間には、カムリング側へシュー22を付勢する圧力差が形成されるので、ローラ23やシュー22のジャンプを低減し、燃料噴射特性の乱れを緩和することができる。
【0049】さらに、コントロールスリーブ34はアダプタ25、カムリング24を介してタイマピストン41の動きと同期しているので、タイマ制御を行った際に、噴射量をタイマピストン41の動きを考慮して調整する必要がなく、タイマ制御と噴射量制御とを独立させることができる。また、このようにコントロールスリーブのタイマピストン41との連結は隔壁体9を隔てて行われるものであるが、アダプタ25は隔壁体9に油密よく挿嵌されているので、低圧側燃料経路27とチャンバ8との差圧は維持される。
【0050】尚、カムリング24、シュー22、ローラ23の冷却を促進する構成としては、図7に示されるように、燃料流入口26がフィードポンプ4より駆動軸側に設けら、燃料流入口26から駆動軸3の周囲を通ってカップリング17、カムリング24、シュー22、ローラ23間の隙間を通過し、フィードポンプ4に至るよう低圧側燃料経路27を構成してもよい。この場合には、燃料流入口26からフィードポンプ4にかけて形成される低圧側燃料経路27と、フィードポンプ4によって加圧された燃料が導かれ、燃料を吸入、カットオフするポートに連通可能なチャンバ8とがフィードポンプ4自体によって区画される。
【0051】このような構成においても、カムリング24、シュー22、ローラ23間の隙間とは別にローラ背面と回転部材16との間に燃料流入口側(上流側)を絞ることなく低圧側燃料経路27と連通する空間28を設け、燃料圧をシュー22の背面に作用させてプランジャ20のジャンピングを抑えるようにすることも、また、コントロールスリーブ34とカムリング24との位相ずれをなくすために、カムリング24に連結するアダプタ25をコントロールスリーブ34に形成される溝34aに係止させる構成としてもよい。
【0052】図8に分配型燃料噴射ポンプの他の構成例が示され、以下異なる点を主として説明し、同様の構成については、同一箇所に同一番号を付して説明を省略する。
【0053】分配型燃料噴射ポンプの駆動軸3に連結された回転部材16には、基端部の径方向(放射方向)にプランジャ20が摺動自在に挿入されているが、この実施例においては、図9にも示されるように、180度位相の異なる対向する2つのプランジャ20を回転部材16の軸方向にずらして2組設け、それぞれの組を90度位相をずらしたものとしている。前記実施例の場合においては、圧縮室21に臨む4つのプランジャが干渉しないように配慮する必要があったが、この実施例の構成によれば、対向する2つのプランジャ間の干渉を考慮すればよいので、圧縮効率を向上させることができると共に、カム形状の設計自由度が大きくなるメリットもある。
【0054】このような軸方向に前後する2組のプラジャ20は、シュー22、ローラ23を介してリング状の共通のカムリング24の内面を摺接するようになっている。このカムリング24は、回転部材16の周囲に同心状に設けられると共に、機関の気筒数に対応したカム面24aが内側に形成され、例えば4気筒に対応して形成されているものであれば、カムリング24の内側に凸面が90度毎に形成されており、したがって、4つのプランジャ20は、圧縮室21を挟み付ける形で同時に圧縮するように移動し、またカムリング24の中心から同時に遠ざかるようになっている。
【0055】また、回転部材26の先端部と基端部との間には、環状のアダプタ25が油密よく摺動自在に外嵌され、このアダプタ25は、周縁の一部が前記カムリング24に形成された溝に係止される等してカムリング24と同期して回動するようになっている。そして、前記実施例と同様に回転軸16の先端部側へ延設された筒状部25aが隔壁体9に形成された嵌合孔9cに油密よく摺動可能に挿嵌され、筒状部に設けられた位置決部材48がコントロールスリーブ16に形成される溝34aに挿入されて、アダプタ25とコントロールスリーブ34との位相が常に一定に保たれるようになっている。
【0056】尚、タイマ装置40は、カムリング24の下方に設けられて、タイマピストン41はレバー42を介してカムリング24に直接連結されている。
【0057】このような構成においても、プランジャ20の配置が異なることによるメリットを除いて、前述した実施例と同様の作用効果を奏するものである。
【0058】図8に示す分配型燃料噴射ポンプの変形例としては、図10に示されるものが考えられ、この分配型燃料噴射ポンプにおいては、流出入ポート31がカットオフポートとしてのみ用いられ、コントロールスリーブ34にはカットオフ孔36のみが形成されている点と、回転部材16には、吸入ポート50がカットオフポートより基端部側であってアダプター25に覆われた部分に形成され、アダプター25には、一端が吸入ポート50に連通可能であり、他端がチャンバ8に開口する吸入通路51が形成されている点が異なっている。
【0059】そして、吸入ポート50と吸入通路51とは、図11に示されるように、カムリフトが増大する所定の位置から連通し始め、次の圧縮工程が始まるよりも前において連通が断たれるようになっており、したがって、カムリフトが開始されてから吸入ポートがチャンバに開口するまでの区間が圧送可能な許容最大有効ストロークとなる。
【0060】このような構成にあっては、コントロールスリーブよりもより近い位置からチャンバ8内の燃料が圧縮室21へ吸入されるので、燃料の吸入効率が良くなり、また、吸入ポート50を所定のカムリフト以上になった場合にはチャンバに開口させるようにしたので、エレクトリックガバナが故障してカットオフ時期が大幅に遅れた場合でも、所定のカムリフト以上になれば吸入ポート50と吸入通路51を介して圧縮燃料がチャンバにリークしてカットオフされるので、回転部材内の燃料圧が異常に上昇することがなくなる。
【0061】
【発明の効果】以上述べたように、請求項1にかかる発明によれば、ハウジング内にチャンバから区分けされた低圧側燃料経路を形成し、この低圧側燃料通路にカムリング、シュー、及びローラを配したので、燃料流入口から流入された低温低圧燃料によってカムリング、シュー、ローラの冷却を効率よくおこなうことができ、また、これらカムリング、シュー、ローラ間に導かれる燃料によって潤滑も促進され、部品の磨耗を低減することができる。
【0062】請求項2にかかる発明によれば、さらにシューと回転部材との間に空間を設け、この空間と低圧側燃料経路とを燃料流入口側において絞り無く連通させたので、ローラやシューのジャンプが抑えられ、安定した燃料特性を得ることができる。また、カム下り方向への付勢力が増加するので、燃料の吸入効率が良くなり、高回転でも安定したポンプの運転が可能となる。
【0063】請求項3にかかる発明によれば、コントロールスリーブと、カムリングとの位相がアダプタによって固定されているので、噴射量制御と進角制御とを独立させることができる。しかも、アダプタは低圧側燃料経路とチャンバとを画成する部材の一部をなしているので、低圧側燃料経路とチャンバとの差圧を維持することができ、吸入工程で必要となるチャンバ内の圧力を確保できて、高回転域までの運転を保証する。
【0064】請求項4にかかる発明によれば、アダプタに形成された吸入通路と、アダプタに覆われた燃料吸入ポートとを介してチャンバ内の燃料を圧縮室に導くようにしたので、圧縮室に近い位置から燃料を吸入することができ、燃料の吸入効率を高めることができる。また、圧縮工程で所定リフト以上になった場合に燃料吸入ポートとチャンバとが連通するよう吸入通路と燃料吸入ポートが形成されれば、エレクトリックガバナが故障してカットオフ時期が大幅に遅れるような設定になっても、所定リフト以上になると、吸入通路と燃料吸入ポートを介して圧縮燃料がリークされるので、燃料圧の異常な上昇は抑えられ、ポンプ等の破損を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、この発明に係る分配型燃料噴射ポンプを示す断面図である。
【図2】図2は、図1に示すカムリングとその内側の部材とを回転部材の軸方向から見た図である。
【図3】図3は、コントロールスリーブを回転部材の軸方向に移動させた場合の噴射量変化を説明する図である。
【図4】図4は、コントロールスリーブを回転部材の周方向に回動させた場合の進角変化を説明する図である。
【図5】図5は、図1の分配型燃料噴射ポンプにおける低圧側燃料経路を説明する図である。
【図6】図6は、図1の分配型燃料噴射ポンプにおける高圧側燃料経路を説明する図である。
【図7】図7は、分配型燃料噴射ポンプの他の例を示す概略構成図である。
【図8】図8は、この発明に係る分配型燃料噴射ポンプの更に他の例を示す断面図である。
【図9】図9は、図8に示すカムリングとその内側の部材とを回転部材の軸方向から見た図である。
【図10】図10は、この発明に係る分配型燃料噴射ポンプの更に他の例を示す要部を拡大した断面図である。
【図11】図11は、図10で示す分配型燃料噴射ポンプの吸入ポートがチャンバと連通する区間を説明する線図である。
【符号の説明】
2 ポンプハウジング
4 フィードポンプ
8 チャンバ
16 回転部材
20 プランジャ
21 圧縮室
22 シュー
23 ローラ
24 カムリング
25 アダプタ
26 燃料流入口
27 低圧側燃料経路
28 空間
31 流出入ポート
33 分配ポート
34 コントロールスリーブ
35 吸入孔
36 カットオフ孔
50 吸入ポート
51 吸入通路

【特許請求の範囲】
【請求項1】 機関と同期して回転する回転部材と、前記回転部材の径方向に設けられ、前記回転部材に形成された圧縮室の容積を可変するプランジャと、前記回転部材の周囲に同心状に設けられたカムリングと、前記プランジャの基部に設けれたシューと、このシューと前記カムリングとの間に設けられたローラとをハウジング内に備え、前記圧縮室に連通して燃料を吸入、送出、カットオフするポートが前記回転部材に形成されている分配型燃料噴射ポンプにおいて、前記ハウジング内を燃料流入口からフィードポンプの上流側にかけて形成される低圧側燃料経路と、前記フィードポンプによって加圧された燃料が導かれて前記燃料を吸入、カットオフするポートに連通可能なチャンバとに画成し、前記低圧側燃料経路に前記カムリング、シュー、及びローラを配したことを特徴とする分配型燃料噴射ポンプ。
【請求項2】 前記シューの背面と前記回転部材との間に空間を設け、この空間と前記低圧側燃料経路とを燃料流入口側において絞り無く連通させたことを特徴とする請求項1記載の分配型燃料噴射ポンプ。
【請求項3】 前記燃料をカットオフするポートに連通可能なカットオフ孔が少なくとも形成されているコントロールスリーブと、前記カムリングと同期するリング状のアダプタとが前記回転部材に油密に外嵌され、このアダプタは前記低圧側燃料経路と前記チャンバとを画成する部材の一部をなしており、前記コントロールスリーブは前記アダプタに対して位置決めされていることを特徴とする請求項1記載の分配型燃料噴射ポンプ。
【請求項4】 前記燃料を吸入するポートが前記アダプタによって覆われた部位に形成され、前記アダプタには前記チャンバと前記燃料を吸入するポートとの連通を可能にする吸入通路が形成されていることを特徴とする請求項3記載の分配型燃料噴射ポンプ。

【図1】
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【図9】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図10】
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【図11】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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