説明

分離カラムおよび液体クロマトグラフ

【課題】分離カラムにおける、モノリスロッドへの負荷を低減する。
【解決手段】本発明の分離カラムは、多孔質体で円柱形状に成形され、官能基を化学結合したモノリスロッド1と、モノリスロッド1の外周に設けられた被覆材2と、被覆材2の外部に配置されたモノリスロッド1の支持体3と、被覆材2と支持体3との間に充填された充填材4と、試料および移動相の充填材4への流入を防止する流入防止部と、分離カラム自身の両端の接続部に設けられたフェルール6及び回転しながら外側からフェルール6を締め付けるテーパ部品7とを備え、フェルール6は、支持体3に固定されている。ここで、流入防止部は、被覆材2,フェルール6,テーパ部品7にて構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分離カラムおよび液体クロマトグラフに関する。例えば、高速液体クロマトグラフ等に使用される液体試料中の成分を分離する分離カラムに関し、特に高耐圧性を有するものに好適に用いることができる。
【背景技術】
【0002】
従来の高速液体クロマトグラフ等において、一般に使用されている粒子充填型カラムで分析時間を短縮するためには、単位時間当たりの送液量を増やす必要があるが、従来同様の分離性能を維持するためには、充填する粒子径を小さくし粒子表面積を増やす必要がある。すなわち、内径4mm程度の円筒容器に直径5μm程度の粒子を充填した従来のカラムに対して、粒子直径を2μm程度に変更することで分析時間を10分の1に短縮できる。しかし、粒子径を小さくすることで流動抵抗が増加し、高圧での送液が必要となるため、分析装置本体の高耐圧化が課題である。
【0003】
この課題を解決するため、粒子充填型カラムと異なり三次元ネットワーク状の骨格とその空隙(流路,マクロポア,スルーポア)が一体となった構造を持つモノリスカラムを使用することで、表面積は増加するが、空隙率が大きく流動抵抗が増加させないカラムが可能となり、例えば、細管内に多孔質体(モノリスロッド,モノリシックシリカロッド)を組み込んだモノリス型シリカカラムで高性能化が図られている。
【0004】
また、多孔質体は、その外径の均一性,一様性を高精度に成形することが困難であるため、細管と多孔質体との間に隙間を生じやすく、カラム側面からの移動相の漏出を防止するため、多孔質体の外周面に樹脂被覆材を設けることが知られ、例えば特許文献1に記載されている。また、多孔質体の外周面に多孔質体と類似材料である溶融ガラスを被覆する方法もある。
【0005】
この特許文献1は、「多孔質体の外周面に樹脂被覆材を設けた場合、材料同士の接着力で多孔質体を支持体に支持しているので、互いに接着しやすい材料を選択する制約があり、構造的に高圧力に不向きな構成になっている。また、多孔質体の外周面に溶融ガラスを設けた場合、溶融ガラス接着時に加える高温が多孔質体を修飾する官能基を破壊し、多孔質体の分離性能を劣化させる。」という問題がある。
【0006】
この問題の解決手法として特許文献2が開示されている。より具体的には、特許文献2には、次のような分離カラムが開示されている。この分離カラムは、モノリスロッドの外周に被覆された被覆材と、被覆材で被覆されたモノリスロッドが挿入された支持体と、被覆材と支持体との間に装着あるいは充填されたロッド固定材とを備え、組み立てられた状態で流入側端部となるロッド固定材の上端面が封止されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−64314号公報
【特許文献2】特開2008−107176号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記の特許文献2に記載の分離カラムは、次の点で改善の余地がある。特許文献2では、モノリスロッドの周りにロッド固定材を配置しており、このロッド固定材としては、シリコンゴム,流動性のゴムや樹脂,熱硬化性樹脂あるいはガラスや金属を用いている。そのため、モノリスロッドと熱膨張性が異なり、分離カラムの温度変化によりモノリスロッドに対して負荷がかかるという課題がある。
【0009】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、モノリスロッドに対する負荷を減らした分離カラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明の分離カラムは、多孔質体で円柱形状に成形され、官能基を化学結合したモノリスロッドと、
前記モノリスロッドの外周に設けられた樹脂被覆材と、
前記樹脂被覆材の外部に配置された前記モノリスロッドの支持体と、
前記樹脂被覆材と支持体との間に充填された充填材と、
試料および移動相の前記充填材への流入を防止する流入防止部と、
分離カラム自身の両端の接続部に設けられたフェルールおよび回転しながら外側から前記フェルールを締め付けるテーパ部品とを備え、
前記フェルールは、前記支持体に固定されていることを特徴としている。
【0011】
上記構成によれば、モノリスロッドの周りに、充填材を配置している。そのため、モノリスロッドの材料(シリカ)と熱膨張率が近い材料を充填材として用いることができる。それゆえ、モノリスロッドと充填材との熱膨張率を、(モノリスロッドと特許文献2に記載のロッド固定材との熱膨張率よりも)近づけることができ、モノリスロッドへの負荷を低減することができる。
【0012】
さらに、上記構成によれば、分離カラムは、試料および移動相の前記充填材への流入を防止する流入防止部を備えている。そのため、充填材への試料および移動相の流入を防止することができる。したがって、次の2つの効果がある。(a)モノリスロッドに対する充填材の体積がクロマトグラムに与える影響が無く、充填材の充填量を予め低減しておく必要が無い。それゆえ、充填材の充填量の制限が無く、充填材の充填作業が容易になる。(b)試料および移動相がモノリスロッドのみに流入し、充填材へは流入しないため、充填材の再配置や流出が起きない。それゆえ、分離カラムの両端に充填材の流出を防ぐフリットが不要であり、デッドボリュームが低減でき、良好なクロマトグラムを得ることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、モノリスロッドへの負荷を低減した分離カラムを提供することができる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1の実施例を示す分離カラムの構成図である。
【図2】本発明の第2の実施例を示す分離カラムの構成図である。
【図3】本発明の第3の実施例を示す分離カラムの構成図である。
【図4】本発明の第4の実施例を示す分離カラムの構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0016】
図1に、本発明の第1の実施例である分離カラムの構造を示す。図1の分離カラムは、中央の円柱形状の分離カラム部と、分離カラム部の外側にあり、分離カラム部を保持する保持部と、分離カラム部の上流と下流にそれぞれ存在する上流側接続部および下流側接続部から構成されている。また、図1の分離カラムは、上下対称、すなわち、流入側と流出側が同じ構造をしているため、流入側のみを図示している。
【0017】
分離カラム部は、中心から順に、モノリスロッド1と、モノリスロッド1の外周に被覆された被覆材2と、を備えている。
【0018】
モノリスロッド1は、多孔質体で円柱形状に成形されている。また、モノリスロッド1にはオクタデシル基などの官能基が化学結合しており、液体クロマトグラフの分離カラムとして用いることができる。モノリスロッド1は、直径が1.2〜2.8mmで、長さが、30〜200mmであることが望ましい。
【0019】
被覆材2は円筒形状であり、モノリスロッド1の外周を被覆している。被覆材2の長さはモノリスロッド1の長さよりも長い。そのため、被覆後はモノリスロッド1の両端に被覆材2が突出した状態となる。被覆材2には熱収縮性の樹脂を用い、モノリスロッド1の官能基が破壊されない程度の温度で熱収縮させることにより、モノリスロッド1への被覆を行う。
【0020】
保持部は、外側から、支持体3と、充填材4と、から構成されている。
【0021】
支持体3は円筒形状であり、ステンレス材によって構成されている。内径は分離カラム部の外形よりも太く、長さはモノリスロッド1と同程度であり、被覆材2よりも短い。そのため、支持体3の上下端から被覆材2のみが突出するように、分離カラム部を支持することができる。
【0022】
充填材4は、支持体3の内部に被覆材2によって被覆されたモノリスロッド1が挿入された状態で、被覆材2と支持体3の隙間に充填されたものである。充填材4は、粒子径が数マイクロメートルのビーズであり、球状、もしくは破砕型のビーズを使用することができる。また、充填材として、シリカ,ガラス,石英,ステンレス,テフロン(登録商標),ダイフロン(登録商標),ジルコニア,セラミック,PEEK,ベスペル(登録商標),サファイア,ルビー,ダイアモンド,アルミナ,チタンおよびUHMWポリエチレンのうちいずれかまたは複数から成るものを用いることができる。
【0023】
充填材4は、パッカーを用いて徐々に圧力を上げながら充填される。充填材4が被覆材2を外周全体から内側に押し付けることにより、被覆材2、および被覆材2によって被覆されたモノリスロッド1が支持体3内に保持される。
【0024】
本実施例では、上記のようにモノリスロッド1の周囲に充填材4が存在する構造となっている。モノリスロッド1の材料(シリカ)の熱膨張率に近い熱膨張率を持つ材料を、充填材4の材料として使用することにより、温度変化が生じた際にモノリスロッド1に加わる負荷を低減することが可能となっている。
【0025】
接続部は、上記分離カラム部と保持部の上流および下流に配置されており、上流と下流のどちらも同様の構造になっている。以下、上流側接続部に関して記す。接続部は、流路を備えた流路部品5と、流路部品5を固定するフェルール6と、フェルール6を変形させるためのテーパ部品7と、これらの部品を支持体3に対して固定するための固定部品8から構成されている。
【0026】
流路部品5は、分離カラム部の、支持体3の上端から被覆材2がはみ出した部分に挿入され、流路部品5の下端と、モノリスロッド1の上端が接触するように固定されている。流路部品の外径は、モノリスロッド1の外径と同程度である。
【0027】
フェルール6は、円錐形状の部品であり、その中央部に貫通孔を有している。貫通孔の径は、分離カラム部よりも大きく、支持体3の内径よりも小さい。また、フェルール6の高さは、支持体3から被覆材2がはみ出している長さよりも低い。フェルール6は、支持体3からはみ出した被覆材2と、その内部に挿入された流路部品5と、を取り巻くように配置される。このとき、フェルール6の上端から被覆材2がはみ出す。また、フェルール6の下端は支持体3に接している。なお、フェルール6の下端とは円錐の底面を指し、フェルール6の上端とは先が細くなっている部分を指す。つまり、フェルール6は、端部へいくほど細くなっている。
【0028】
テーパ部品7は、円筒にテーパ状の貫通孔を有する部品である。テーパ上の貫通孔のテーパ角は、フェルール6の角度と同等、またはフェルール6の角度よりも大きくなっている。テーパ部品7は、テーパ穴の径が大きい側をフェルール6に向けて、テーパ部品7の内面がフェルール6の上端に接するように配置される。
【0029】
固定部品8は、流路部品5と、フェルール6と、テーパ部品7と、を支持体3に対して固定するための部品である。固定部品8の内側と支持体3の外側にはネジ部9がある。固定部品8と支持体3を締結していくと、固定部品8と支持体3の間の距離が徐々に縮まっていく。このとき、固定部品8とテーパ部品7の摩擦により、テーパ部品7は回転しながらフェルール6を押し付けていく。フェルール6がテーパ部品7に接触し押し込まれて、フェルール6の塑性変形が発生する。このとき、フェルール6の先端が被覆材2の外周に食い込んでいく。
【0030】
フェルール6と支持体3には、互いを固定するための凹凸部10がある。フェルール6の下端に凸部を形成しておき、この凸部に対応した凹部を支持体3に形成しておく。フェルール6を配置する際に、フェルール6の凸部が支持体3の凹部にはまるように取り付け、フェルール6を支持体3に対して固定する。そうすることで、固定部品8の締結に伴ってテーパ部品7が回転しても、フェルール6が回転することなく、フェルール6の塑性変形を引き起こすことができる。
【0031】
一方、分離カラム部は、充填材4により支持体3内に固定されている。フェルール6が支持体3に対して固定されているため、テーパ部品7の回転がフェルール6に伝達されないので、被覆材2がねじれることも無く、また、被覆材2のねじれによりモノリスロッド1が破壊されることも防止できる。また、フェルール6によって被覆材2内が封止されているので、被覆材2の外側に、試料および移動相が流出することはない。
【0032】
本実施例において、フェルール6を均一に塑性変形させ、被覆材2と流路部品5を密着させることができるため、デッドボリュームを低減し、良好なクロマトグラフを得ることが可能である。
【実施例2】
【0033】
図2に、本発明の第2の実施例の構造について示す。
【0034】
図1では、フェルール6と支持体3とを凹凸をはめ合わせることで固定していたのに対し、フェルール6と支持体3を接着材11によって接着することによっても、実施例5とほぼ同様の効果が得られる。本発明では、被覆材2の外部への試料および移動相の流出は発生しないので、接着材11は移動相に接液することはない。そのため、液体クロマトグラムの移動相として一般的に用いられるような溶媒によって侵食される成分を含有する接着材でも、本発明では使用可能である。
【0035】
接着材11は、充填材4の層を封止する機能も果たしている。充填材4の層に液体が存在している場合、経時的に液体が蒸発し、充填材4の層の空隙率が上昇することが考えられる。接着剤11によって充填材4の層を封止することで、この問題を解決することができる。
【実施例3】
【0036】
図3に、本発明の第3の実施例の構造について示す。
【0037】
実施例5では、固定部品8の締結力によって、テーパ部品7をフェルール6に押し付け、フェルール6の塑性変形を生じさせていたのに対し、実施例7では、イモネジ12の締結力によってテーパ部品7をフェルール6に押し付け、フェルール6の塑性変形を生じさせるような構造となっている。
【0038】
本実施例では、イモネジ12を締結していく際に、テーパ部品7を回転させる力が発生しないので、フェルール6を支持体3に対して固定する構造が不要となる。このため、支持体3の形状を図1よりも単純にすることができ、充填材4の充填後の、分離カラム組立作業の簡便化が実現できる。
【実施例4】
【0039】
図4に、本発明の第4の実施例の構造について示す。
【0040】
実施例1〜3では、支持体3に対してフェルール6が動かない構造となっていたが、本実施例では、テーパ部品7が支持体3に固定され、さらに、フェルール6がテーパ部品7に対して回転しない構造となっている。
【0041】
本実施例では、フェルール6が塑性変形し被覆材2に食い込む封止位置13が、実施例5よりもモノリスロッド1に近くなるため、デッドボリュームを低減することができ、良好なクロマトグラムを得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の分離カラムは、液体クロマトグラフに用いることができる。
【符号の説明】
【0043】
1 モノリスロッド
2 被覆材
3 支持体
4 充填材
5 流路部品
6 フェルール
7 テーパ部品
8 固定部品
9 ネジ部
10 凹凸部
11 接着材
12 イモネジ
13 封止位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質体で円柱形状に成形され、官能基を化学結合したモノリスロッドと、
前記モノリスロッドの外周に設けられた樹脂被覆材と、
前記樹脂被覆材の外部に配置された前記モノリスロッドの支持体と、
前記樹脂被覆材と支持体との間に充填された充填材と、
試料および移動相の前記充填材への流入を防止する流入防止部と、
分離カラム自身の両端の接続部に設けられたフェルール及び回転しながら外側から前記フェルールを締め付けるテーパ部品とを備え、
前記フェルールは、前記支持体に固定されていることを特徴とする、分離カラム。
【請求項2】
前記フェルールと前記支持体との固定は、一方に凹部を設け他方に凸部を設け両者をかみ合わせることにより行うことを特徴とする、請求項1に記載の分離カラム。
【請求項3】
前記フェルールと前記支持体との固定は、接着剤により行うことを特徴とする、請求項1または2に記載の分離カラム。
【請求項4】
多孔質体で円柱形状に成形され、官能基を化学結合したモノリスロッドと、
前記モノリスロッドの外周に設けられた樹脂被覆材と、
前記樹脂被覆材の外部に配置された前記モノリスロッドの支持体と、
前記樹脂被覆材と支持体との間に充填された充填材と、
試料および移動相の前記充填材への流入を防止する流入防止部と、
分離カラム自身の両端の接続部に設けられた、フェルール及びテーパ部材と、
これらフェルールとテーパ部材をイモネジにより固定されていることを特徴とする、分離カラム。
【請求項5】
請求項1に記載の分離カラムにおいて、
前記モノリスロッドは、直径が1.2〜2.8mmであり、長さが30〜200mmであることを特徴とする、分離カラム。
【請求項6】
請求項1に記載の分離カラムにおいて、
前記充填材は、シリカ,ステンレス,テフロン(登録商標),ダイフロン(登録商標),ジルコニア,セラミック,PEEK,べスペル(登録商標),サファイア,ルビー,ダイアモンド,アルミナ,ガラス,石英,チタン、およびUHMWポリエチレンのうちいずれか1または複数から成ることを特徴とする分離カラム。
【請求項7】
請求項1に記載の分離カラムにおいて、
前記充填材の大きさは1〜5μmであることを特徴とする分離カラム。
【請求項8】
請求項1に記載の分離カラムにおいて、
前記樹脂被覆材の長さは、前記モノリスロッドの長さよりも長いことを特徴とする、分離カラム。
【請求項9】
請求項1に記載の分離カラムにおいて、
前記充填材は、球状のビーズであることを特徴とする、分離カラム。
【請求項10】
請求項1に記載の分離カラムにおいて、
前記充填材は、破砕型のビーズであることを特徴とする、分離カラム。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか1項に記載の分離カラムを備えたことを特徴とする液体クロマトグラフ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2011−13166(P2011−13166A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−159401(P2009−159401)
【出願日】平成21年7月6日(2009.7.6)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)