説明

分離剤及びその製造方法

【課題】高い選択性でセシウム及びストロンチウムの両方を選択的に吸着分離することができる分離剤を提供する。また、該分離剤の製造方法を提供する。
【解決手段】キレート樹脂に不溶性フェロシアン化物を担持した分離剤。また、該分離剤の製造方法であって、キレート樹脂に金属イオンをキレート反応により吸着させた後、更に水溶性フェロシアン化物水溶液と接触させ、不溶性フェロシアン化物として該樹脂に担持させることを特徴とする分離剤の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は分離剤とその製造方法に関するものである。詳しくは、本発明は、塩(電解質)を多量に含む溶液から、セシウム及びストロンチウムを選択的に分離除去する際に好適な分離剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
原子力の発電利用においては、常に放射性物質含有廃水の処理が問題となる。使用済み燃料の再処理施設などからは硝酸ナトリウム等を含む、高塩濃度の低レベル放射性廃液が発生するが、この中には放射性セシウム及び放射性ストロンチウムが比較的多く含まれており、処分上問題となっている。また2011年3月に発生した東日本大震災に端を発した原子力発電所の事故においてもその処理に際しては、放射性セシウム及び放射性ストロンチウムの除去が問題となっている。両者に共通するのは、塩(電解質)を多量に含む溶液から、放射性セシウム及び放射性ストロンチウムを選択的に分離除去しなければならない点である。
【0003】
従来からセシウムの分離濃縮に関しては、無機物系吸着剤が盛んに検討されており、特に不溶性フェロシアン化物がセシウムの選択的分離に対して高い選択性をもつことが知られている。不溶性フェロシアン化物は通常結晶性微粉末としてしか得られないことから賦形化技術に関しても盛んに検討がなされており、例えば特許文献1には、水に難溶なフェロシアン化物をゼオライトに担持する方法、特許文献2には陰イオン交換樹脂にヘキサシアノ鉄(II)酸の不溶性銅塩を担持する方法、特許文献3及び4には多孔性担体にヘキサシアノ鉄(II)酸銅を担持する方法、非特許文献1にはヘキサシアノニッケル(II)鉄(II)酸カリウムをシリカゲルに担持する方法がそれぞれ開示されている。
【0004】
また、ゼオライトを用いたセシウム及びストロンチウムの選択的吸着についても検討がなされており、セシウムにはモルデナイト及びチャバサイト、ストロンチウムにはA型ゼオライトが高い選択性を持つことが非特許文献2に報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭56−111041号公報
【特許文献2】特開平07−308590号公報
【特許文献3】特開平09−173832号公報
【特許文献4】特開平11−076807号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】東北大学素材工学研究所報 第54巻 第1、2号 1−8頁 1998年発行
【非特許文献2】日本イオン交換学会誌 Vol.22 No.3 96−108頁 2011年発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、これら従来の技術においては、セシウムとストロンチウムはそれぞれに対して選択性の高い分離剤が異なっており、1種類の分離剤でセシウム及びストロンチウムを同時に吸着除去することは困難であった。
【0008】
更に、従来の技術においては、セシウムやストロンチウムに対して選択性の高い分離剤は無機物系吸着剤であるため使用済み吸着剤の減容化が困難であり、放射性物質含有廃棄物となる使用済み吸着剤の処理が問題となってきた。有機物系吸着剤を用いることができれば使用済み吸着剤は焼却による減容化が可能となり、また吸着能力に関わる官能基などの分子設計や造粒などの成形加工も容易となることから、有機物系吸着剤で、かつセシウム及びストロンチウムに対して選択性の高い分離剤を開発することが求められる。
【0009】
本発明は、セシウム及びストロンチウムを同時に除去する分離剤(有機物系吸着剤)、及びその製造方法を提供するものである。更に、本発明は、廃水処理等プラントでの実使用に十分耐え得る性状及び強度を併せ持ち、かつ使用済み吸着剤の廃棄処理において焼却減容化が可能である吸着剤、及びその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を鑑みて鋭意検討した結果、本発明を完成した。即ち、本発明の要旨は下記[1]〜[8]に存する。
【0011】
[1] キレート樹脂に不溶性フェロシアン化物を担持した分離剤。
[2] キレート樹脂がイミノジ酢酸型キレート樹脂、ポリアミン型キレート樹脂、リン酸型キレート樹脂、アミノリン酸型キレート樹脂、チオール型キレート樹脂、ジチオカルバミン酸型キレート樹脂、アミドキシム型キレート樹脂、グルカミン型キレート樹脂からなる群のうちの少なくとも一種である、[1]に記載の分離剤。
[3] キレート樹脂が平均粒径100〜1000μmの粒子である、[1]又は[2]に記載の分離剤。
[4] 不溶性フェロシアン化物が一般式M[Fe(CN)]で示され、該一般式におけるMが長周期型周期表第4周期の2価の遷移金属である、[1]乃至[3]のいずれか1つに記載の分離剤。
[5] 不溶性フェロシアン化物が、ヘキサシアノ鉄(II)酸化合物、ヘキサシアノニッケル(II)鉄(II)酸化合物、ヘキサシアノ銅(II)鉄(II)酸化合物、ヘキサシアノコバルト(II)鉄(II)酸化合物からなる群のうちの少なくとも1種である、[1]乃至[3]のいずれか1つに記載の分離剤。
【0012】
[6] [1]乃至[5]のいずれか1つに記載の分離剤の製造方法であって、キレート樹脂に金属イオンをキレート反応により吸着させた後、更に水溶性フェロシアン化物水溶液と接触させ、不溶性フェロシアン化物として該樹脂に担持させることを特徴とする分離剤の製造方法。
[7] キレート樹脂に吸着させる金属イオンが鉄(II)、ニッケル(II)、銅(II)及びコバルト(II)からなる群のうちの少なくとも1種である、[6]に記載の分離剤の製造方法。
[8] 前記水溶性フェロシアン化物水溶液が、フェロシアン化カリウム水溶液及び/又はフェロシアン化ナトリウム水溶液である、[6]又は[7]に記載の分離剤の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、セシウム及びストロンチウムの両方の吸着効果に優れた分離剤、及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の説明に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。なお、本明細書において、「〜」を用いてその前後に数値又は物性値を挟んで表現する場合、その
前後の値を含むものとして用いることとする。
【0015】
本発明の分離剤は、キレート樹脂に不溶性フェロシアン化物を担持したものである。本発明の分離剤は、塩(電解質)を多量に含む溶液から高い選択性でセシウム及びストロンチウムを吸着分離することができるという特長を有する。
【0016】
<キレート樹脂>
本発明において、前記架橋された高分子基体にキレート形成能をもつ配位基を官能基として導入したものを意味する(「イオン交換」 講談社サイエンティフィック(1996年8月20日発行)第43頁)。
【0017】
本発明において、キレート樹脂とは、架橋された架橋された高分子基体は、モノビニル芳香族モノマーと架橋性芳香族モノマーとの混合物(以下「モノマー混合物」と称す場合がある。)を共重合させて得られる架橋高分子である。また、この架橋された高分子基体は、多孔性であっても構わない。
【0018】
モノビニル芳香族モノマーとしては、スチレン、メチルスチレン、エチルスチレン等のアルキル置換スチレン類、ブロモスチレン等のハロゲン置換スチレン類が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。モノビニル芳香族モノマーとしては、中でも、スチレン又はスチレンを主体とするモノマーが好ましい。なお、本発明において、「モノビニル芳香族モノマー」とはビニル基を1つ有し、かつ芳香族炭化水素基を有するモノマーを意味し、また、「架橋性芳香族モノマー」とはビニル基を少なくとも1つと、架橋構造を形成し得る反応性の官能基(ここでいう「反応性の官能
基」にはビニル基も含まれ、架橋性芳香族モノマーとしてはビニル基を複数もつものであってもよい。) を少なくとも1つ有し、かつ芳香族炭化水素基を有するモノマーを意味する。
【0019】
また、架橋性芳香族モノマーとしては、ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン、ジビニルトルエン、ジビニルナフタレン、ジビニルキシレン、ジビニルビフェニル、ビス(ビニルフェニル)メタン、ビス(ビニルフェニル)エタン、ビス(ビニルフェニル)プロパン、ビス(ビニルフェニル)ブタン等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。架橋性芳香族モノマーとしては、中でも、ジビニルベンゼンが好ましい。
【0020】
また、多孔性を有する架橋された高分子基体の製造方法としては、一般に、懸濁重合の際にモノマー混合物に不活性な物質(以下「多孔化剤」と称す。)を添加しておき、重合後にこれを除去する方法が採用されている。この多孔化剤としては、トルエン、ペンタノール、s−ブタノール、ヘプタン、イソオクタン等の有機溶媒、あるいは線状重合体の希釈物、具体的にはポリスチレンを溶解したトルエン等が挙げられる。
【0021】
本発明において、キレート樹脂の配位基の種類は限定されないが、工業上実用化されているキレート樹脂としてはイミノジ酢酸型キレート樹脂、ポリアミン型キレート樹脂、リン酸型キレート樹脂、アミノリン酸型キレート樹脂、チオール型キレート樹脂、ジチオカルバミン酸型キレート樹脂、アミドキシム型キレート樹脂、グルカミン型等のキレート樹脂が挙げられる(「イオン交換」 講談社サイエンティフィック(1996年8月20日発行) 第47頁)。本発明の分離剤においては、キレート樹脂の配位基が2価の遷移金属とキレートを形成することが効率よく不溶性フェロシアン化物をキレート樹脂に担持させるために好ましく、このことからイミノジ酢酸型キレート樹脂、ポリアミン型キレート樹脂、リン酸型キレート樹脂、アミノリン酸型キレート樹脂、アミドキシム型キレート樹脂がより好ましい。以上に挙げた配位基を有するキレート樹脂は1種のみでも複数種を組
み合わせて使用してもよい。
【0022】
これらのキレート樹脂は市販品として入手することができる。例えば、イミノジ酢酸型キレート樹脂としては、三菱化学株式会社製 ダイヤイオン(登録商標)CR11等、ポリアミン型キレート樹脂としては、ダイヤイオン(登録商標)CR20等、アミノリン酸型キレート樹脂としては、ミヨシ油脂株式会社製エポラス(登録商標)K−1等、アミドキシム型キレート樹脂としては、ダイヤイオン(登録商標)CR50等が挙げられる。
【0023】
<キレート樹脂の平均粒径>
本発明の分離剤は、廃水処理等プラントでの実使用、特にカラムでの通水に耐えうる形状であることが好ましい。このために、本発明の分離剤に用いるキレート樹脂は、平均粒径として、好ましくは100μm以上、より好ましくは300μm以上の粒子であり、一方、好ましくは1000μm以下、より好ましくは800μm以下の粒子である。キレート樹脂の平均粒径が前記下限値以上であることにより、分離剤としたときにカラム法(カラムに分離剤を充填して通水する)における分離剤充填層の通水時の圧力損失が小さくなり実用上有利である。一方、前記上限値以下であると、分離剤としたときの平均粒径が大き過ぎず、体積あたりの表面積が大きくなることでイオン交換の反応速度が速くなるという利点がある。
【0024】
本発明におけるキレート樹脂の平均粒径は、既知の方法で測定することができる。例えば、画像処理法(シャーレにキレート樹脂を広げデジタルカメラを接続した顕微鏡でキレート樹脂の画像を撮影した後、画像の外形を画像処理して粒径を求める。)やJIS標準ふるいを使用した篩別法(三菱化学株式会社イオン交換樹脂事業部編ダイヤイオン(登録商標)(イオン交換樹脂・合成吸着剤マニュアル1)改訂4版第3刷(平成22年2月26日発行)第140〜142頁に記載される方法)などで測定することができる。
【0025】
また、本発明におけるキレート樹脂の均一係数に特に制限はないが、1.6以下であることが好ましい。なおカラム法で使用する場合、体積あたりの吸着容量を高めるという目的においては、カラムに分離剤を充填する際密に充填できるという利点のある、均一係数1.2以上1.6以下のキレート樹脂が好ましい。一方、高流速で通水するという目的においては、圧力損失が小さくなるという利点がある均一係数1.2以下の、均一性の高いキレート樹脂が好ましい。
【0026】
キレート樹脂の均一係数は、次のようにして求めることができる。前記の方法により求められた平均粒径から粒径分布図を得る。その粒径分布図より、平均粒径の大きい粒子から体積分率で、40%の点を「40%残留径」、90%の点を「有効径」として求める。そして、均一係数を下記式により算出する。
(均一係数)=(40%残留径(mm))/(有効径(mm))
【0027】
<不溶性フェロシアン化物>
本発明の分離剤においてキレート樹脂に担持する不溶性フェロシアン化物は、一般式M[Fe(CN)]で表される(ただし、Mは2価の遷移金属である。また、Mの一部が1価の陽イオンで置換されていてもよい。更に、前記一般式を構成する一部の鉄がMで置換されていても構わず、結晶水を含んでいてもよい)。ここで、本発明において「不溶性フェロシアン化物」という語における「不溶性」とは水に対する不溶性を意味する。一般式M[Fe(CN)]におけるMとしては、銅(II)、ニッケル(II)、鉄(II)、コバルト(II)等の長周期型周期表第4周期の2価の遷移金属が、セシウム及びストロンチウムの吸着分離性を高める上で好ましく、その中でも銅(II)、ニッケル(II)、コバルト(II)が好ましい。一般式M[Fe(CN)]における2個のMは同一であっても異なるものであってもよい。
【0028】
<分離剤の製造方法>
本発明の分離剤の製造方法は、本発明で規定される不溶性フェロシアン化物を担持したキレート樹脂を製造することができる方法であればよく、特に制限はないが、その好ましい一例は以下の通りである。
【0029】
本発明の分離剤を製造するにあたり、母体として前記したキレート樹脂を使用する。該キレート樹脂に金属イオンをキレート反応により吸着させた後、更に水溶性フェロシアン化物水溶液と接触させ、不溶性フェロシアン化物として該キレート樹脂に担持させればよい。
【0030】
キレート樹脂に金属イオンを吸着させる方法としては、金属塩の水溶液中にキレート樹脂を添加し十分攪拌する等して、十分に金属塩の水溶液とキレート樹脂とを接触させればよい。例えば、ヘキサシアノニッケル(II)鉄(II)酸塩をイミノジ酢酸型キレート樹脂に担持させる場合は、後述の通り、まず、ダイヤイオン(登録商標)CR11のような市販のイミノジ酢酸型キレート樹脂にニッケル(II)を担持させるが、その場合は硝酸ニッケル(II)水溶液や塩化ニッケル(II)水溶液等とキレート樹脂とを混合し攪拌すればよい。
【0031】
金属塩の水溶液中の金属塩濃度としては、特に制限はなく、希薄濃度から飽和濃度まで広い範囲で選択することができるが、通常は0.1mol/L〜2mol/Lである。
【0032】
また、キレート樹脂と接触させる金属塩の水溶液の量は、キレート樹脂の金属に対する静的吸着容量を参考に決定することができる。静的吸着容量の0.5〜5倍に相当する金属を含有するような金属塩の水溶液を添加することが好ましく、更に0.8〜2.5倍に相当する金属を含有するような金属塩の水溶液を添加することがより好ましい。この金属塩の水溶液の添加量が少なすぎると、キレート樹脂中の配位基に十分に目的の金属イオンを吸着させることができなかったり、逆に多すぎると、後工程で水溶性フェロシアン化物水溶液と接触させた際、副生沈殿物が多く発生するおそれがある。
【0033】
なお、キレート樹脂の金属イオンに対する静的吸着容量は下記1)〜3)の手順で測定することができる。
1)水に浸漬したキレート樹脂適量をメスシリンダーで量りとり、水切り後三角フラスコに入れる。
2)目的金属イオンを含有する金属塩水溶液を適量加え、振盪する。
3)振盪後の水溶液中の金属濃度を測定し、吸着量を求める。
【0034】
また、キレート樹脂に金属を吸着させた後、キレート樹脂表面に金属イオンを安定化させる目的で金属イオンを吸着したキレート樹脂を乾燥させることもできる。乾燥は室温でも構わないが、迅速に水分を乾燥させる目的で、加熱することも可能である。金属イオンを吸着したキレート樹脂をあまりに高温で乾燥すると、母体であるキレート樹脂が分解してしまうおそれがあるため、40℃〜150℃で乾燥させることが好ましく、70〜120℃で乾燥させることがより好ましい。
【0035】
次に、金属イオンを吸着したキレート樹脂と、水溶性フェロシアン化物水溶液とを十分に接触させる。水溶性フェロシアン化物水溶液としては、ヘキサシアノ鉄(II)酸カリウム水溶液又はヘキサシアノ鉄(II)酸ナトリウム水溶液が好ましい。キレート樹脂と、水溶性フェロシアン化物水溶液とを接触させることにより、キレート樹脂表面に吸着した金属イオンのフェロシアン化が進行し、キレート樹脂表面に不溶性フェロシアン化物が担持され、本発明の分離剤を得ることができる。例えば、ヘキサシアノニッケル(II)
鉄(II)酸塩をイミノジ酢酸型キレート樹脂に担持させる場合は、前述の通り、まず、ダイヤイオン(登録商標)CR11のような市販のイミノジ酢酸型キレート樹脂にニッケル(II)を担持させ、更にフェロシアン化カリウム水溶液中にニッケル(II)を担持したイミノジ酢酸型キレート樹脂を添加し攪拌すればよい。
【0036】
更にキレート樹脂表面に不溶性フェロシアン化物を担持させた後、キレート樹脂表面に不溶性フェロシアン化物を安定化させる目的で分離剤を乾燥させることが好ましい。乾燥は室温でも構わないが、迅速に水分を乾燥させる目的で、加熱することも可能である。あまり高温で樹脂を乾燥すると、母体であるキレート樹脂が分解してしまうおそれがあるため、40℃〜150℃で乾燥させることが好ましく、70〜120℃で乾燥させることがより好ましい。また、この乾燥工程において、キレート樹脂に担持されなかった不溶性フェロシアン化物が副生物として少量発生してしまう場合がある。この場合は該キレート樹脂を水洗し、デカンテーションで目的樹脂を回収することで、副生物を除去することが可能である。デカンテーションを行う際には、不溶性フェロシアン化物が残った上澄みがなくなるまで行うと良い。
【0037】
また、前述の不溶性フェロシアン化物のキレート樹脂への担持操作は、1回のみでもよいし、フェロシアン化物の担持量を上げる目的で繰り返し行っても構わない。
【0038】
<分離剤の使用形態>
本発明の分離剤の使用形態は特に限定されず、バッチ法でもカラム法でも使用することができる。また単独使用のみならず、他のイオン交換樹脂と複床形態又は混床形態で使用しても構わない。複床形態又は混床形態においては、陽イオン交換樹脂、陰イオン交換樹脂、キレート樹脂等のイオン交換樹脂の1種または複数の組み合わせ、いずれでも使用できる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例を用いて本発明の内容を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例によって限定されるものではない。以下の実施例における各種の製造条件や評価結果の値は、本発明の実施態様における上限または下限の好ましい値としての意味をもつものであり、好ましい範囲は前記した上限または下限の値と、下記実施例の値または実施例同士の値との組み合わせで規定される範囲であってもよい。
【0040】
<実施例1>
[サンプルA(ヘキサシアノニッケル(II)鉄(II)酸カリウム担持イミノジ酢酸型キレート樹脂)の合成]
三菱化学株式会社製ダイヤイオン(登録商標)CR11(イミノジ酢酸型キレート樹脂、平均粒径550μm)50gに、1mol/Lに調整した硝酸ニッケル水溶液100mLを添加し、エバポレーターで減圧下水分を除去後105℃で1時間以上乾燥を行った。続いて、0.5mol/Lに調整したヘキサシアノ鉄(II)酸カリウム水溶液を100mL添加し、同様にエバポレーターで減圧下水分を除去後105℃で1時間以上乾燥を行った。得られた樹脂を回収し、上澄みが濁らなくなるまでデカンテーションで水洗を繰り返し行った。水洗後の樹脂を回収し、更に105℃で1時間以上乾燥を行い、目的の分離剤を得た。この分離剤はヘキサシアノニッケル(II)鉄(II)酸カリウムの色である緑黄色を呈していた。得られた分離剤について、下記に示す方法で吸着試験を実施した。
【0041】
また、次に示す金属分析を実施した。即ち、調製したサンプルを湿式分解法(サンプルに硫酸を添加し加熱分解させ、更に硝酸を添加し加熱分解させ、定容する。)にて分解した後、ICP−AES(VARIAN社製VISTA−PRO)にて金属分析を実施した。その結果、Fe 5.3重量%、Ni 12.0重量%、K 5.3重量%であり、こ
れら成分を足し合わせた22.6重量%をCR11に担持された不溶性フェロシアン化物(ヘキサシアノニッケル(II)鉄(II)酸カリウム)量とした。
【0042】
[吸着試験]
(模擬液の調整)
水道水を採取し塩化ナトリウム、塩化ストロンチウム、及び塩化セシウムを溶解させ、ストロンチウムとして約8重量ppm、セシウムとして約1重量ppm含有する、3%塩化ナトリウム水溶液を調整した(模擬液a)。同様に、水道水を採取し塩化ストロンチウム、及び塩化セシウムを溶解させ、ストロンチウムとして約1重量ppm、セシウムとして約1重量ppm含有する、0.3%塩化ナトリウム水溶液を調整した(模擬液b)。調整した模擬液中に実際に含まれるストロンチウム及びセシウムの濃度は、ICP−MS(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製ELEMENT2)にて測定した。
【0043】
(吸着評価)
分離剤1gを200mL三角フラスコに秤量し、更に模擬液をそれぞれ100mLずつ仕込んだ。フラスコをWATER BATH SHAKER MM−10(TAITEC社製)にセットし、水温35℃、100spmで24時間振盪した。上澄み液を回収し、ストロンチウム及びセシウムの濃度をICP−MS(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製ELEMENT2)にて測定した。ストロンチウム及びセシウムの吸着率の測定結果を表−1に示す。
【0044】
なお、サンプルへの吸着率及び分配係数(K)は下記式に従って求めた。なお結果(表−1)において、ストロンチウムの分配係数はKSr、セシウムの分配係数はKCsと表記した。
【0045】
【数1】

【0046】
<実施例2>
[サンプルB(ヘキサシアノニッケル(II)鉄(II)酸カリウム担持イミノジ酢酸型キレート樹脂)]
三菱化学株式会社製ダイヤイオン(登録商標)CR11 50gに、1mol/Lに調整した硝酸ニッケル水溶液40mLを添加し、エバポレーターで減圧下水分を除去後105℃で1時間以上乾燥を行った。続いて、0.5mol/Lに調整したヘキサシアノ鉄(II)酸カリウム水溶液を40mL添加し、同様にエバポレーターで減圧下水分を除去後105℃で1時間以上乾燥を行った。乾燥後の樹脂を回収し、上澄みが濁らなくなるまでデカンテーションで水洗を繰り返し行った。水洗後の樹脂を回収し、更に105℃で1時間以上乾燥を行い、目的の分離剤を得た。この分離剤はヘキサシアノニッケル(II)鉄(II)酸カリウムの色である緑黄色を呈していた。得られた分離剤について、実施例1と同様の方法で吸着試験を実施した。
【0047】
また、サンプルAと同様の方法で金属分析を実施したところ、Fe 3.8重量%、Ni 7.6重量%、K 6.1重量%であり、これら成分を足し合わせた17.5重量%をCR11に担持された不溶性フェロシアン化物(ヘキサシアノニッケル(II)鉄(II)酸カリウム)量とした。
【0048】
<比較例1>
[サンプルC(ヘキサシアノニッケル(II)鉄(II)酸カリウム担持スチレン−ジビニルベンゼン共重合体)の合成]
三菱化学株式会社製ダイヤイオン(登録商標)HP20(スチレン−ジビニルベンゼン共重合体の合成吸着剤)30gに、1mol/Lに調整した硝酸ニッケル水溶液200mLを添加し、エバポレーターで減圧下水分を除去後105℃で1時間以上乾燥を行った。続いて、0.5mol/Lに調整したヘキサシアノ鉄(II)酸カリウム水溶液を200mL添加し、同様にエバポレーターで減圧下水分を除去後105℃で1時間以上乾燥を行った。乾燥後の樹脂を回収し、デカンテーションで水洗を繰り返し行ったところ、水洗後の樹脂は白色(母体であるHP20由来の色)のままであり、HP20にヘキサシアノニッケル(II)鉄(II)酸カリウムは担持できないことがわかった。目的の分離剤が得られなかったため、金属分析は実施せず、吸着試験も実施しなかった。
【0049】
<比較例2〜4>
三菱化学株式会社製ダイヤイオン(登録商標)CR11(イミノジ酢酸型キレート樹脂)、SK110(ゲル型強酸性陽イオン交換樹脂、平均粒径730μm)、ヘキサシアノニッケル(II)鉄(II)酸カリウム(以下、KNiFCと略記する。)について、実施例1と同様に吸着評価を実施した結果をあわせて表−1に示す。
【0050】
なお、KNiFCについては、1mol/Lに調整した硝酸ニッケル水溶液10mLと0.5mol/Lに調整したヘキサシアノ鉄(III)カリウム水溶液を10mL混合後、生じた沈殿をろ別し、105℃で1時間以上乾燥を行うことで得た。得られた固体は粉末状であった。
【0051】
【表1】

【0052】
<結果の評価>
表−1からわかるように、実施例1及び2はセシウム及びストロンチウムの吸着率が30%以上(分配係数が1×10以上)であり、球状粒子状でかつ有機系吸着剤でありながらセシウム及びストロンチウムを高い選択性で吸着分離することが可能であった。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の分離剤はセシウム及びストロンチウムの両方の吸着効果に優れている。また、本発明の好ましい態様にあっては、特に、球状粒子状でかつ強度も高いため、廃水処理等プラントでの実使用等に利用することができる。また、本発明の分離剤は、有機系吸着剤であるため、使用済み吸着剤の焼却による減容化も可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キレート樹脂に不溶性フェロシアン化物を担持した分離剤。
【請求項2】
キレート樹脂がイミノジ酢酸型キレート樹脂、ポリアミン型キレート樹脂、リン酸型キレート樹脂、アミノリン酸型キレート樹脂、チオール型キレート樹脂、ジチオカルバミン酸型キレート樹脂、アミドキシム型キレート樹脂、グルカミン型キレート樹脂からなる群のうちの少なくとも一種である、請求項1に記載の分離剤。
【請求項3】
キレート樹脂が平均粒径100〜1000μmの粒子である、請求項1又は2に記載の分離剤。
【請求項4】
不溶性フェロシアン化物が一般式M[Fe(CN)]で示され、該一般式におけるMが長周期型周期表第4周期の2価の遷移金属である、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の分離剤。
【請求項5】
不溶性フェロシアン化物が、ヘキサシアノ鉄(II)酸化合物、ヘキサシアノニッケル(II)鉄(II)酸化合物、ヘキサシアノ銅(II)鉄(II)酸化合物、ヘキサシアノコバルト(II)鉄(II)酸化合物からなる群のうちの少なくとも1種である、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の分離剤。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の分離剤の製造方法であって、キレート樹脂に金属イオンをキレート反応により吸着させた後、更に水溶性フェロシアン化物水溶液と接触させ、不溶性フェロシアン化物として該樹脂に担持させることを特徴とする分離剤の製造方法。
【請求項7】
キレート樹脂に吸着させる金属イオンが鉄(II)、ニッケル(II)、銅(II)及びコバルト(II)からなる群のうちの少なくとも1種である、請求項6に記載の分離剤の製造方法。
【請求項8】
前記水溶性フェロシアン化物水溶液が、フェロシアン化カリウム水溶液及び/又はフェロシアン化ナトリウム水溶液である、請求項6又は7に記載の分離剤の製造方法。

【公開番号】特開2013−107051(P2013−107051A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−255064(P2011−255064)
【出願日】平成23年11月22日(2011.11.22)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】