説明

切り花用鮮度保持剤

【課題】切り花、特にバラ切り花を長期間新鮮な状態で維持することができ、薬害のない切り花鮮度保持剤を提供する。
【解決手段】本発明は、2,2−ジブロモ−2−ニトロエタノールを有効成分として含有する切り花用鮮度保持剤、および該切り花用鮮度保持剤を生け水中に存在させることを特徴とする、切り花の鮮度保持方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切り花用鮮度保持剤および切り花の鮮度保持方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、切り花の消費は、業務用、家庭用等を問わず増加傾向にあり、それに伴い、生産業者から小売業者、および、小売業者から消費者に到るまで、更に、消費者段階での切り花の鮮度保持の重要性は益々高まっている。切り花の老化メカニズムとしては、微生物や水の汚濁による水揚げの低下、エネルギー源の枯渇による植物体内成分の合成量低下、植物ホルモンであるエチレンの作用等が知られている。これらを背景として、これまでに各種の切り花用鮮度保持剤が提案されている。
【0003】
例えば、非特許文献1では、エチレン作用阻害剤であるチオ硫酸銀錯塩(STS)水溶液が、切り花の延命効果を有することが報告された。その後、日本においても、STS剤として各種市販され、エチレン感受性の高い切り花、例えば、カーネーション、スイートピー、デルフィニウム、カスミソウ等を対象に広く使用されているが、銀による環境汚染が心配され、バラ、キク、ガーベラ等特定の花には効果が薄いという問題があった。
【0004】
特許文献1ではアブシジン酸、硫酸アルミニウムおよび糖類を有効成分として含有するバラ切り花用の鮮度保持剤が提案されている。該公報によれば、アブシジン酸の添加は開花を抑制することにより延命を図る目的で行われる。
【0005】
特許文献2では、2−ブロモ−2−ニトロ−1,3−プロパンジオールなどのアルコール系殺菌剤を有効成分とする切り花用鮮度保持剤が報告されている。しかし、その鮮度保持効果は満足すべきものではない。特許文献3には、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンや2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン等のイソチアゾリン系殺菌剤等を有効成分とする切り花の鮮度保持剤について記載されている。しかし、イソチアゾリン系殺菌剤は時間の経過とともに分解してしまい、長期間にわたって殺菌効果を維持することができない。また、イソチアゾリン系殺菌剤は、切り花を長期間新鮮な状態に維持できるような濃度で生け水に添加すると、花に対して悪影響を及ぼすという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平2−108601号
【特許文献2】特許第2938223号
【特許文献3】特開2002−53402号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】H. Veen and S. C. Van de Geijn, Planta 140, 93-96 (1978)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、切り花、特にバラ切り花を長期間新鮮な状態で維持することができ、薬害のない切り花鮮度保持剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、2,2−ジブロモ−2−ニトロエタノール(DBNE)が切り花の鮮度保持効果を有することを見出した。また、本発明者らは、抗菌剤である5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン(CMT)と2,2−ジブロモ−2−ニトロエタノールを組み合わせることにより、希釈水溶液中で分解しやすい5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンを長期間安定化でき、それにより薬害を低減できるとともに優れた切り花の鮮度保持効果が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
(1)2,2−ジブロモ−2−ニトロエタノールを有効成分として含有する切り花用鮮度保持剤。
(2)さらに、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンを含有する、(1)記載の鮮度保持剤。
(3)バラ切り花用である、(1)または(2)記載の鮮度保持剤。
(4)(1)〜(3)のいずれか1項に記載の鮮度保持剤を生け水中に存在させることを特徴とする、切り花の鮮度保持方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、優れた切り花用鮮度保持剤を提供することができる。また、抗菌剤である5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンと2,2−ジブロモ−2−ニトロエタノールを組み合わせることにより、皮膚刺激性が低くかつ抗菌力の持続性の高い切り花用鮮度保持剤を提供することができる。本発明により、切り花の鑑賞期間を延長し、また水の汚濁を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】糖を添加した試験液において、DBNE濃度がバラ生体重変化に及ぼす影響を示したグラフである。
【図2】CMTとDBNEの組合せ、ならびにCMTと、BNP、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、または銅塩との組合せについて、バラ切り花の鮮度保持効果を比較した結果を示したグラフである。
【図3】DBNEを添加することによる生け水中のCMT安定性維持効果を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の切り花用鮮度保持剤は、2,2−ジブロモ−2−ニトロエタノール(DBNE)を有効成分として含有することを特徴とする。DBNEとしては、特に制限されないが、例えば、DBNEの20%水溶液として販売されているバイオダンG(ケイ・アイ化成社製)などを使用できる。
【0014】
本発明の切り花用鮮度保持剤は、DBNEに加えて、抗菌剤であるイソチアゾリン化合物、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン(CMT)を含むことが好ましい。CMTとしては、特に制限されないが、CMT(11.5%)と2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン(1.3%)の混合物であるバイオエースF(ケイ・アイ化成社製)などを使用できる。CMTを含む薬剤には、副成物として2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン(MIT)が必然的に含まれるため、CMTのみを含む薬剤を入手することはほぼ不可能である。本発明の切り花用鮮度保持剤は、CMTとともにMITを含んでいてもよいが、MITは必須の成分ではない。
【0015】
本発明者らは、DBNEがCMTを安定化し、CMTの分解を防止することで、CMTの抗菌効果を長期間にわたって維持することができ、これらを組み合わせることにより優れた切り花鮮度保持効果が得られることを見出した。CMTの安定化剤としては多くのものが知られており、例えば、2−ニトロ−2−ブロモ−1,3−プロパンジオール(BNP)、2−ブロモ−2−ニトロ−1,3−ジアセトキシプロパン、2−ブロモ−2−ニトロ−1,3−ジホルミルオキシプロパン、1,1−ジブロモ−1−ニトロ−2−プロパノール、2,2−ジブロモ−3−ニトリロプロピオンアミド、トリブロモニトロメタン、1,2−ジブロモ−2,4−ジシアノブテン、β−ブロモ−β−ニトロスチレン、5−ブロモ−5−ニトロ−1,3−ジオキサン、5−ブロモ−2−メチル−5−ニトロ−1,3−ジオキサン等、ならびに銅剤、硝酸マグネシウム、および塩化マグネシウム等が知られており、DBNEもCMTの安定化剤の1つとして知られている。しかし、本発明者らは、切り花用鮮度保持剤として使用する場合、CMTの安定化剤のうちDBNEが特に優れたCMTの安定化効果、ひいては切り花用鮮度保持効果をもたらすことを見出した(試験例3)。切り花用鮮度保持剤には、通常、植物に対する栄養分として作用する糖、特に異性化糖が添加されるが、DBNEは糖の存在下でも安定であり、優れたCMTの安定化効果を有する。また、DBNEによりCMTが安定化されることから、切り花用鮮度保持剤におけるCMT濃度を低く抑えることができ、薬害を低減し、安全性に優れた切り花用鮮度保持剤とすることができる。
【0016】
本発明の切り花用鮮度保持剤は、目的に応じ、所定濃度の水溶液剤、顆粒剤、錠剤等の形態に製剤するか、または、ろ紙等の担体に含浸し、これを切り花の生け水に溶解させるか、または溶出させることにより使用することができるが、剤型としては、水溶液剤が好ましい。本発明の切り花用鮮度保持剤は、DBNEの生け水における濃度が、質量基準で、0.1〜60ppm、好ましくは1.0〜25ppmの範囲となるように使用される。
【0017】
DBNEとCMTを含む切り花用鮮度保持剤において、CMTは、生け水における濃度が、質量基準で、1.0〜30ppm、好ましくは1.5〜10ppmの範囲となるように使用される。
【0018】
水溶液剤は、水性溶媒、好ましくは水に有効成分の所定量を溶解させて製造することができる。もっとも、本発明の切り花用鮮度保持剤は、流通、保存の便宜のため、上記の生け水における使用濃度の1〜10000倍(好ましくは20〜500倍)の有効成分を配合して製剤、包装し、使用時に水で希釈して規定濃度として用いることもできる。本発明の切り花用鮮度保持剤を保存のための濃縮水溶液剤として製剤する場合、DBNEの濃度は、通常10〜5000mg/l、好ましくは100〜2000mg/lであり、CMTの濃度は、通常50〜3000mg/l、好ましくは100〜500mg/lである。
【0019】
本発明の鮮度保持剤には、本発明の効果を損なわない範囲で、pH調整剤、糖類、植物成長調整剤、リン酸カルシウム系化合物、ホスホン酸、エチレン合成阻害剤、各種ビタミン、無機栄養成分、水溶性ミネラル、有機溶媒、界面活性剤等を併用することができる。
【0020】
pH調整剤としては、酢酸、クエン酸、コハク酸、リンゴ酸、酒石酸、乳酸などの有機酸またはその塩、リン酸などの無機酸またはその塩が挙げられ、これらのうちの1種以上を使用することができる。
【0021】
また、糖類としては、ブドウ糖、果糖、ガラクトース、麦芽糖、ショ糖、トレハロース、乳糖などが挙げられ、異性化糖が好ましい。これらは、植物に対する栄養分として作用する。本発明の切り花用鮮度保持剤において、糖類の濃度は、通常生け水中の濃度として0.1〜10質量%、好ましくは0.2〜2.0質量%である。本発明の切り花用鮮度保持剤を保存のための濃縮水溶液剤として製剤する場合、糖類の濃度は、通常10〜60質量%、好ましくは30〜50質量%である。
【0022】
無機栄養成分としては、硝酸アルミニウム、硝酸カリウム、硝酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸アルミニウム、塩化マグネシウム、リン酸、尿素などが挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を用いることができる。
【0023】
水溶性ミネラルとしては、植物種子、例えば、桃、杏、クルミなどと卵殻を混合して発酵させ、そのエキスを抽出して得られる水溶性イオン化ミネラルが挙げられ、これは主として、水の分子集団を細分化する作用を有する。これらのうちの1種または2種以上を用いることができる。
【0024】
エチレン合成阻害剤としては、シスプロペニルホスホン酸、STS剤(チオ硫酸、AIB(2−アミノイソ酪酸)、AOA(アミノオキシ酢酸)、AVG(アミノエトキシビニルグリシン)など)等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を用いることができる。
【0025】
リン酸カルシウム系化合物としては、Ca/P比が1.5〜2.0であるリン酸カルシウム系化合物、例えば、リン酸三カルシウム、リン酸四カルシウム、ハイドロキシアパタイト等を用いることができ、リン酸カルシウム系化合物中のリン酸は、栄養源となり、また花の成長活動に寄与する。
【0026】
界面活性剤としては、ケファリン、レシチン、フォスファチジン酸等のリン脂質、ソフォロリピッド等のグリコリピドなどが挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を用いることができ、界面活性剤は、本発明の切り花用鮮度保持剤に含まれる各種成分の分散性を高めるとともに、花の水揚げを促進する。
【0027】
有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコールが挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を用いることができる。
【0028】
植物成長調整剤としては、6−ベンジルアミノプリン(BA)、ジベレリン、アブシジン酸、ナフチルフタル酸、オ−キシン、サイトカイニン、ブラシノリドなどが挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を用いることができる。
【0029】
切り花用鮮度保持剤としては、その使用段階により大きく2種類に分けられる。すなわち生産者が収穫直後水揚げの際に使用する前処理剤、および、小売り、消費者段階にて生け水(花をさす水)に加えて使用する後処理剤とがある。本発明の鮮度保持剤は、収穫後のいずれの時期に用いても鮮度保持効果を発揮し得るが、後処理剤としての使用、すなわち、鑑賞段階での使用が最も効果的である。また、各種の前処理剤、例えばチオ硫酸銀(STS)、高濃度糖類、殺菌剤等で処理された切り花にも有効である。
【0030】
本発明の鮮度保持剤の対象となる切り花は、特に制限されず、バラ、カスミソウ、カーネーション、キク、トルコギキョウ、ガーベラ、アジサイ等各種の花卉類に効果を有するが、特にバラに対する効果が極めて優れている。
【実施例】
【0031】
以下の実施例で使用した薬剤は以下のとおりである:
・バイオダンG:2,2−ジブロモ−2−ニトロエタノール(DBNE)20%水溶液(ケイ・アイ化成社製)
・バイオエースF:5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン(CMT)11.5%を含む水溶液(ケイ・アイ化成社製)
・バイオエース:2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン(MIT)3.7%、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン(CMT)10.6%、硝酸マグネシウム15%、塩化マグネシウム9%水溶液(ケイ・アイ化成社製)
・2−ブロモ−2−ニトロ−1,3−プロパンジオール(BNP)
【0032】
(試験例1)バラ切り花鮮度保持試験
DBNE(バイオダンG:20mg/l〜100mg/l)によるバラ切り花の日持ち効果の確認とCMT(バイオエースF:48mg/l)とDBNE(バイオダンG:20mg/l〜60mg/l)の組み合わせによるバラ切り花の日持ち効果の確認をおこなった。比較例として水道水、CMT単独(バイオエースF:48mg/l)、BNP単独(40mg/l)、ならびにCMT(バイオエースF:48mg/l)とBNP(40mg/l)の組み合わせについての試験も実施した。各試験液の組成を表1に示す。
【0033】
【表1】

【0034】
バラ(ローテローゼ)を市場で購入後、5cmの長さで水切りを行い、各試験液1000mlにバラ5本を生け、照度1000Lxで12時間照明、室温25℃、湿度60%、の条件下で切り花のベントネックの本数と平均日持ち日数を測定した。なお、ベントネックとは、花弁から数センチ下の花梗部がしなり、花が首を垂れたような形になることをさす。
【0035】
表2に、バラ切り花の経過日数と実施例1〜6、比較例1〜4の試験液に生けたバラ切り花のベントネックの本数を示す。またそれぞれの切り花の日持ち日数については、切り花の外観より調査し5本の平均日持ち日数で示す。
【0036】
【表2】

【0037】
表2から、実施例1〜6の試験液に浸漬した切り花は、比較例1〜4の試験液に浸漬したものに比べてベントネックしにくいことがわかる。特に実施例2、3および5の試験液は、日持ち日数の延長効果が高かった。
【0038】
(試験例2)DBNEの添加濃度による切り花の日持ちに及ぼす効果
糖の存在下で、DBNEの添加濃度を変えて、バラ切り花の日持ちに及ぼす影響を確認した。実施例として異性化糖の存在下、CMT(バイオエースF)にDBNE(バイオダンG:10mg/l〜120mg/l)を添加した場合の効果を確認した。比較例として水道水のみ、CMT(バイオエースFおよびバイオエース)の試験例を示した。用いた試験液の組成を表3に示す。
【0039】
【表3】

【0040】
バラ(ローテローゼ)を市場で購入後、5cmの長さで水切りを行い、各試験液1000mlにバラ5本を生け、照度1000Lxで12時間照明、室温25℃、湿度60%、の条件下で、切り花の生体重を測定した。生体重変化率は、試験開始時に測定した生体重を100%とし、測定時の生体重を試験開始時の生体重で除した値を重量%として示した。結果を図1に示す。
【0041】
図1は、糖を1%添加した試験液でDBNE濃度がバラ生体重変化に及ぼす影響を示したグラフである。実施例では、切り花を生けてから約7日目から8日目まで生体重が上昇しているため、切り花が薬害や微生物の浸入なく充分に水分を吸収する状態であることがわかる。8日目以降の切り花の生体重の減少も緩やかであり、したがって切り花の鑑賞期間が延長されることがわかる。
【0042】
比較例5は水道水であり、生け水に微生物が繁殖することにより水揚げが低下したため、4日目以降に生体重が急激に減少した。また比較例6、7はDBNEを含まない場合であり、CMTが分解しやすいため、微生物が繁殖し、切り花の生体重が減少したと考えられる。
【0043】
(試験例3)CMT+DBNEの組合せとCMT+他の補助剤の組合せとの比較試験
糖およびCMTの存在下、DBNEの添加がバラ切り花日持ちに及ぼす影響を確認した。異性化糖およびCMTの存在下でDBNE(バイオダンG:10mg/l〜120mg/l)を添加した場合の効果を確認した。また、イソチアゾリン化合物に補助剤としてよく添加してあるBNP、銅剤、硝酸マグネシウム、塩化マグネシウムとCMTの組み合わせについても比較試験を実施した。
【0044】
すなわち、CMT(バイオエースF)とDBNE(バイオダンG)の組合せ、ならびにCMT(バイオエースF)とBNP、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、または銅塩の組合せについて、バラ切り花の鮮度保持効果の比較試験をおこなった。試験液の組成を以下の表4に示す。
【0045】
【表4】

【0046】
バラ(ローテローゼ)を市場で購入後、5cmの長さで水切りを行い、各試験液1000mlにバラ5本を生け、照度1000Lxで12時間照明、室温25℃、湿度60%、の条件下で切り花の生体重を測定した。生体重変化率は、試験開始時に測定した生体重を100%とし、測定時の生体重を試験開始時の生体重で除した値を重量%として示した。結果を図2に示す。
【0047】
鮮度保持効果は、バラ切り花の生体重の増加率と関係が深く、一般的に100%のラインより下がる経過日数が、バラ切り花の日持ち終了に近い状態である。DBNE+CMTの組み合わせである実施例12〜16では12日目でも生体重増加率が116%〜124%を維持しているのに対して比較例8〜13では89%〜106%となっている。特にCMT+BNP(比較例8および9)では切り花生体重の減少がひどく、約10日目で100%以下になっている。これはBNP添加によるバラ切り花の薬害が原因と考えられる。CMT+DBNEの組合せは、切り花に対する薬害もなく、切り花の鮮度保持期間を飛躍的に伸ばすことがわかった。
【0048】
(試験例4)DBNE添加による生け水中のCMTの安定化
切り花の生け水の抗菌力と切り花鮮度保持効果には重要な関係がある。切り花鮮度保持剤に使用されているCMTの安定性を保つことにより、長期の抗菌力を維持できる。DBNEを添加することによる生け水中のCMT安定性維持効果を確認した。
【0049】
CMT(バイオエースF:48ppm)に1%異性化糖を添加し、DBNEを、それぞれ2ppm(バイオダンG:10ppm)、4ppm(バイオダンG:20ppm)、8ppm(バイオダンG:40ppm)、12ppm(バイオダンG:60ppm)添加した(濃度は質量基準)。試験液の組成を表5に示す。
【0050】
【表5】

【0051】
バラ切り花を2Lにつき5本生け込み、7日目と10日目の生け水中のCMTの残存率を求めた。結果を図3に示す。
【0052】
DBNEを添加しない場合は、7日目でCMTの残存率は10%となり、DBNEを添加した場のCMTの残存率は、75%〜92%であった。また9日目になるとDBNEの濃度が高い程CMTの残存率が高く、特にDBNEを12ppm添加した試験液(バイオダンG:60ppm)では、91.7%と高率で残存していた。このことから切り花の生け水中のCMTは、DBNEを添加することにより安定化されることがわかった。
【0053】
(試験例5)切り花鮮度保持剤の原液の一次皮膚刺激性試験
切り花の鮮度保持剤は、使用時に希釈して使用する場合がほとんどである。通常、鮮度保持剤の原液(濃縮水溶液剤)を30倍〜100倍程度に水に希釈して使用する。
【0054】
消費者向け切り花鮮度保持剤は、希釈液のレベルで抗菌効果が出るように設計してあるため、原液における抗菌剤の量は、30倍〜100倍程度になる。したがって、原液には多量の抗菌剤を添加することになるが、消費者が、原液を手につける場合や、誤飲する場合に備えて安全性も検討する必要がある。CMTなどのイソチアゾリン系抗菌剤は、400mg/l以上添加すると一次皮膚刺激性が軽度に出ることが報告されている。そこで、CMTにDBNEを添加した場合と添加しない場合について皮膚一次刺激性試験を実施した。結果を表6に示す。
【0055】
【表6】

【0056】
バラの鮮度保持効果は、試験液1のレベルと試験液3のレベルが同程度であり、皮膚刺激性の高いバイオエースF濃度を11.2g/lから2.4g/lまで低減できた。すなわち、DBNEを添加することにより生け水中のCMTを長期に安定化できるため、CMTの添加量をかなり低減できる。そのことにより原液のCMT量を低減することで一次皮膚刺激性を低減できることがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2,2−ジブロモ−2−ニトロエタノールを有効成分として含有する切り花用鮮度保持剤。
【請求項2】
さらに、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンを含有する、請求項1記載の鮮度保持剤。
【請求項3】
バラ切り花用である、請求項1または2記載の鮮度保持剤。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の鮮度保持剤を生け水中に存在させることを特徴とする、切り花の鮮度保持方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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