説明

切削加工装置

【課題】被加工物に対して加工工具を加工工具の軸線方向に沿って変位させる工具変位機構における信頼性およびメンテナンス性を向上させることができる切削加工装置を提供する。
【解決手段】切削加工装置100は、筐体101内の一部を領域遮断壁体105で仕切って閉じた空間とした加工領域WFが形成されている。加工領域WF内には、被加工物WKを保持するワーク保持部106が設けられている。ワーク保持部106の上方には、領域遮断壁体105の一部を構成する工具案内壁体118を貫通した状態で加工工具110を着脱自在に保持する工具保持体111が設けられている。工具保持体111は、工具案内壁体118に形成された貫通孔118aに摺動可能に嵌合するスリーブ体119に摺動可能に嵌合するとともに同スリーブ体119をスプリング120で引っ張った状態で、加工ヘッド内部領域HFに配置された加工ヘッド112の可動ベース113に支持されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被加工物に対して加工工具を接触させることにより被加工物を所望する3次元形状に切削加工する切削加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ワーク保持部に保持させた被加工物に対して加工工具を接触させて相対変位させることにより被加工物に切削加工を行う切削加工装置がある。例えば、下記特許文献1には、金,プラチナ,真鍮,アルミニウム,ステンレス鋼および酸化ジルコニウムなどの比較的塑性変形し易い被加工物にドリルやエンドミルなどの加工工具を接触させながら変位させることにより所望する3次元形状を成形する切削加工装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−248212号公報
【0004】
一般的に、このような切削加工装置は、加工工具を保持する加工ヘッドが工具変位機構によって加工工具の軸線方向に沿って変位可能に支持された状態で被加工物を切削加工する加工領域内に設けられている。これにより、切削加工装置は、加工領域内において加工工具を同切削工具の軸線方向に沿った方向に変位させることにより被加工物に対して接触および離隔させることができる。
【0005】
しかしながら、このような切削加工装置においては、加工ヘッドを変位させる工具変位機構が加工領域内で露出または簡易なカバー体で覆われた状態で設けられているため、切削加工によって生じた切削屑が工具変位機構に付着することがある。このため、従来の切削加工装置においては、切削屑や切削油などの飛散物の付着による工具変位機構の不具合が生じ易いとともに工具変位機構のメンテナンスが煩雑であるという問題あった。特に、切削屑の発生量が多いとともに切削屑の大きさが細かい被加工物、例えば、酸化ジルコニアからなる被加工物の切削加工時においては、工具変位機構のメンテナンスが極めて煩雑となる。
【0006】
本発明は上記問題に対処するためなされたもので、その目的は、被加工物に対して加工工具を加工工具の軸線方向に沿って変位させる工具変位機構における信頼性およびメンテナンス性を向上させることができる切削加工装置を提供することにある。
【発明の概要】
【0007】
上記目的を達成するため、請求項1に係る本発明の特徴は、被加工物を着脱自在に保持するワーク保持部と、被加工物を回転駆動により切削加工する加工工具を保持する工具保持体を有する加工ヘッドとを備えた切削加工装置において、工具保持体を加工工具の軸線方向に沿って変位させることにより同加工工具を被加工物に対して接近および離隔させる工具変位機構と、ワーク保持部によって保持された被加工物の周囲の加工領域と加工ヘッドおよび工具変位機構が配置された加工ヘッド内部領域とを遮断する領域遮断壁部と、領域遮断壁部の少なくとも一部を構成するとともに加工領域と加工ヘッド内部領域との間を貫通する貫通孔を有する工具案内壁体と、工具案内壁体における前記貫通孔に対して加工ヘッド内部領域側に突出して設けられて工具保持体が常に摺動可能に嵌合するスリーブ部とを備えることにある。
【0008】
このように構成した請求項1に係る本発明の特徴によれば、切削加工装置は、被加工物の切削加工を行う加工領域と加工ヘッドおよび工具変位機構がそれぞれ配置された加工ヘッド内部領域とが遮断壁部によって遮断されている。これにより、切削加工装置は、被加工物の切削加工時に生じる切削屑や切削油などの飛散物が加工ヘッドや工具変位機構に付着することが防止される。また、切削加工装置は、領域遮断壁部の少なくとも一部を構成する工具案内壁体に形成された貫通孔に工具保持体が摺動するスリーブ部が設けられている。この場合、スリーブ部は、工具案内壁体の表面から加工ヘッド内部領域側に突出して形成されている。このため、工具保持体によって保持された加工工具を被加工物から離隔させる際、工具保持体とスリーブ部とが摺動接触する範囲で工具保持体を被加工物から離隔することができる。すなわち、切削加工装置は、工具案内壁体を貫通して変位する加工工具を工具案内壁体の厚さに関係なくスリーブ部の長さに応じた量で変位させることができる。これにより、切削加工装置は、加工領域内の飛散物の加工ヘッド内部領域側への侵入を防止しながら加工工具の加工領域内からの退避量を多くすることができるため、加工領域内における加工工具の張出量を少なくすることができ、加工領域内における加工工具の移動および被加工物のセッティング作業が行い易くなる。
【0009】
また、請求項2に係る本発明の他の特徴は、前記切削加工装置において、工具保持体は、スリーブ部を押圧する押圧部を有し、スリーブ部は、押圧部による押圧力を受ける受圧部を有するとともに、加工ヘッド内部領域側に変位させるための力を受けた状態で工具案内壁体における前記貫通孔に常に摺動可能に嵌合した状態で設けられることにある。
【0010】
このように構成した請求項2に係る本発明の他の特徴によれば、切削加工装置は、スリーブ部が加工ヘッド内部領域側に変位させるための力を受けた状態で工具案内壁体における貫通孔に対して摺動可能な状態で嵌合している。また、スリーブ部は、工具保持体に押圧される受圧部を有している。このため、切削加工装置は、工具保持体が被加工物に接近する方向に変位した場合、工具保持体がスリーブ部を押圧することによりスリーブ部を工具案内壁体の貫通孔内を摺動変位させる。すなわち、スリーブ部は、工具保持体に押圧されることにより工具保持体の変位方向に工具保持体とともに変位する。これにより、切削加工装置は、スリーブ部の位置が固定されている場合に比べて工具保持体におけるスリーブ部の端面から突出する部分の長さを短くすることができるため、装置構成をコンパクトに構成することができる。
【0011】
また、請求項3に係る本発明の他の特徴は、前記切削加工装置において、さらに、スリーブ部に対して加工ヘッド内部領域側に変位させるための力を付与するスリーブ部復位手段を備えることにある。
【0012】
このように構成した請求項3に係る本発明の他の特徴によれば、切削加工装置は、スリーブ部に対して加工ヘッド内部領域側に変位させるための力を付与するスリーブ部復位手段を備えて構成されている。このため、切削加工装置は、スリーブ部に対して強制的に力を付与することができ、スリーブ部を精度良く加工ヘッド内部領域側に変位させることができる。
【0013】
また、請求項4に係る本発明の他の特徴は、前記除去加工装置において、スリーブ部復位手段は、工具保持体とスリーブ部との間に架設されたスプリングであることにある。
【0014】
このように構成した請求項4に係る本発明の他の特徴によれば、切削加工装置は、スリーブ部復位手段が工具保持体とスリーブ部との間に架設されたスプリングで構成されている。この場合、スプリングには、コイル状や板状に形成されたものを用いることができる。これによれば、切削加工装置は、簡易かつ単純な構成のスリーブ部復位手段によってスリーブ部に力を付与することができる。
【0015】
また、請求項5に係る本発明の他の特徴は、切削加工装置において、加工領域は、ワーク保持部によって保持された被加工物の周囲が領域遮断壁部を含む壁部によって囲まれた閉じられた空間であることにある。
【0016】
このように構成した請求項5に係る本発明の他の特徴によれば、切削加工装置は、加工領域がワーク保持部によって保持された被加工物の周囲が遮断壁部を含む壁部によって囲まれた閉じられた空間となっている。これにより、切削加工装置は、被加工物の切削加工によって生じる飛散物の加工領域外への拡散を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態に係る切削加工装置の全体構成の概略を斜め下方から見た状態で示す外観斜視図である。
【図2】図1に示す切削加工装置の作動を制御するための制御システムのブロック図である。
【図3】図1に示す切削加工装置における加工ヘッドが最上部に位置した状態を模式的に示す一部破断拡大断面図である。
【図4】図1に示す切削加工装置における加工ヘッドの下降過程の一状態を模式的に示す一部破断拡大断面図である。
【図5】図1に示す切削加工装置における加工ヘッドが最下部に位置した状態を模式的に示す一部破断拡大断面図である。
【図6】本発明の変形例に係る切削加工装置における加工ヘッドが最上部に位置した状態を模式的に示す一部破断拡大断面図である。
【図7】本発明の他の変形例に係る切削加工装置における加工ヘッドが最上部に位置した状態を模式的に示す一部破断拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る切削加工装置の一実施形態について図面を参照しながら説明する。図1は、本発明に係る切削加工装置100の外観構成を概略的に示す斜視図である。また、図2は、同切削加工装置100の作動を制御するための制御システムのブロック図である。なお、本明細書において参照する各図は、本発明の理解を容易にするために一部の構成要素を誇張して表わすなど模式的に表している。このため、各構成要素間の寸法や比率などは異なっていることがある。また、本実施形態においては、切削加工装置100の前後方向をY軸方向とし、切削加工装置100の左右方向をX軸方向とし、切削加工装置100の上下方向をZ軸方向とする。この切削加工装置100は、軽金属材、石膏材、樹脂材およびセラミック材などからなる被加工物WKに対してドリルやエンドミルなどの切削工具を用いて3次元切削加工を行う所謂工作機械である。例えば、本実施形態に係る加工装置100は、セラミック材(例えば、酸化ジルコニウム)を切削加工にして人の骨や歯などの3次元形状を成形する。
【0019】
(切削加工装置100の構成)
この加工装置100は、筐体101を備えている。筐体101は、切削加工装置100の機械的および電気的な構成要素をそれぞれ収める収容体であり、前面の一部が開放された中空の箱型に形成されている。筐体101の前面における開放された部分である開口部102には、同開口部102を開放および閉塞するための前面カバー103が開閉自在に設けられている。この前面カバー103は、筐体101の前面と面一となる平板部分が透明な樹脂製の板状体で形成されており、筺体101内での被加工物WKの加工状態が外部から視認できるようになっている。また、筐体101の前面における前面カバー103の図示左側には、切削加工装置100の作動を制御する制御装置である後述するコントローラ130に指示を与えるための操作パネル104が設けられている。
【0020】
この筐体101の内部には、開口部102を介して筐体101の外部と連通した状態で加工領域WFが形成されている。加工領域WFは、筐体101の内部において被加工物WKの切削加工を行うための領域であり、筐体101の内部の一部を前記前面カバー103および領域遮断壁部105によって仕切ることにより閉じた空間として形成される。この場合、加工領域WFにおける閉じた空間とは、被加工物WKの切削加工時に生じる切削屑が加工領域WFの外に拡散しない程度に閉塞した空間であることを意味する。
【0021】
領域遮断壁部105は、筐体101内の一部を仕切って加工領域WFを形成する壁部材であり、主として鋼板材によって構成されている。より具体的には、領域遮断壁部105は、開口部102に面した筐体101の内部空間における図示上下側および図示左右側にそれぞれ水平方向および垂直方向に沿って配置されて加工領域WFを形成する。この加工領域WFを形成する領域遮断壁部105のうち、図示左側面および図示上面をそれぞれ構成する領域遮断壁部105の一部には、図示Y軸方向および図示X軸方向に沿って方形状の開口部105a,105bが形成されており、各開口部105a,105bからワーク保持部106および工具保持体111に保持された加工工具110がそれぞれ加工領域WF内に張り出した状態で設けられている。
【0022】
ワーク保持部106は、切削加工装置100の加工対象である被加工物WKを着脱自在に保持するクランプ装置であり、主として、被加工物WKを図示上下方向から挟む一対の爪部106aとこれら一対の爪部106aをそれぞれ支持する爪部支持部106bとで構成されている。これらのうち一対の爪部106aは、ユーザが図示しないナットを回転操作することにより開閉して被加工物WKを着脱することができる。また、爪部支持部106bは、領域遮断壁部105に形成された開口部105aを貫通して同加工領域WFの外側に配置された図示しない送りネジ機構によって支持されている。この場合、領域遮断壁部105に形成された開口部105aは、爪部支持部106bの両側が蛇腹によって構成された可動壁部108によって閉塞されている。
【0023】
爪部支持部106bを支持する送りネジ機構は、軸体(図示せず)の外周面に雄ネジ(図示せず)が形成されたネジ軸(図示せず)が筐体101における図示しない内壁面に固定されるとともに、このネジ軸に噛み合う雌ネジ(図示せず)が形成された可動体(図示せず)が爪部支持部106bに固定されて構成された機械装置である。そして、この送りネジ機構は、前記ネジ軸に連結されたY軸方向駆動モータ107の回転駆動によって爪部支持部106bを図示Y軸方向に変位させる。
【0024】
Y軸方向駆動モータ107は、後述するコントローラ130によって作動が制御されて爪部支持部106bを図示Y軸方向に沿って変位させるアクチュエータであり、筐体101内における加工領域WKの外側に固定的に設けられている。すなわち、ワーク保持部106は、Y軸方向駆動モータ107の回転駆動によって図示Y軸方向に往復変位可能な状態で設けられている。この場合、領域遮断壁部105の開口部105aに設けられた可動壁部108は、爪部支持ベース106bの変位に応じて伸縮しながら同開口部105aを塞ぐ。なお、ワーク保持部106は、被加工物WKを着脱可能に保持できれば、他の形態、例えば、被加工物WKを載置するテーブル状に形成されていてもよい。
【0025】
加工工具110は、被加工物WKを切削加工するための刃物であり、ドリルやエンドミルなどの切削工具によって構成されている。この加工工具110は、工具保持体111に着脱自在に保持される。工具保持体111は、詳しくは図3〜図5に示すように、加工工具110を着脱自在かつ回転可能に保持する筒状の部材であり、加工ヘッド112の一部を構成する。この工具保持体111は、円筒状の胴部111a内に加工工具110を保持するチャック111bを回転自在に備えるとともに同胴部111aにおける図示上部側に同胴部111aの外表面から張り出した直方体状の支持部111cが形成されて構成されている。そして、この工具保持体111は、図示Z軸方向に沿った姿勢で加工ヘッド112の一部を構成する可動ベース113上に支持部111cを介して固定されている。また、この場合、工具保持体111は、支持部111cが工具案内壁体118に設けられたスリーブ体119に対してスプリング120を介して連結される。
【0026】
加工ヘッド112は、加工領域WFの外側に配置されて加工工具110を工具保持体111を介して支持するとともに支持した加工工具110を回転駆動する機械装置であり、主として、可動ベース113上に前記工具保持体111の他にスピンドル駆動モータ115を備えて構成されている。可動ベース113は、工具保持体111およびスピンドル駆動モータ115をそれぞれ支持するとともに加工ヘッド112を構成する図示しない他の構成部品を支持する鋼板製の板状部材である。この可動ベース113は、可動ベース113の背面に設けられる壁体支持ベース116に図示しない送りネジ機構を介して支持されている。
【0027】
この場合、可動ベース113を支持する送りネジ機構は、前記爪部支持部106bを支持する送りネジ機構と同様に構成されている。すなわち、軸体の外周面に雄ネジが形成されたネジ軸が壁体支持ベースに固定されるとともに、このネジ軸に噛み合う雌ネジが形成された可動体が可動ベース113の背面に固定されてされた機械装置である。そして、この送りネジ機構は、ネジ軸に連結されたZ軸方向駆動モータ114の回転駆動によって可動ベース113を図示Z軸方向に変位させる。
【0028】
Z軸方向駆動モータ114は、コントローラ130によって作動が制御されて可動ベース113を図示Z軸方向に沿って変位させるアクチュエータであり、筐体101内における加工領域WKの外側に固定的に設けられている。これにより、工具保持体111に保持された加工工具110は、Z軸方向駆動モータ114の回転駆動によって加工ヘッド112の変位を介して図示Z軸方向に沿って被加工物WKに対して接近および離隔する方向に往復変位する。すなわち、これらの送りネジ機構およびZ軸方向駆動モータ114が、本発明に係る工具変位手段に相当する。
【0029】
スピンドル駆動モータ115は、コントローラ130によって作動が制御されて加工工具110を回転駆動するアクチュエータであり、可動ベース113上に固定的に設けられている。この場合、スピンドル駆動モータ115は、工具保持体111のチャック111bにおける図示上端部に駆動ベルト115aを介して連結される。
【0030】
壁体支持ベース116は、加工ヘッド112および工具案内壁体118を支持する鋼板製の板状体であり、筐体101における図示しない内壁面に図示しない送りネジ機構を介して支持されている。この場合、壁体支持ベース116を支持する送りネジ機構は、前記可動ベース113および可動ベース113を支持する送りネジ機構と同様に構成されている。すなわち、送りネジ機構は、軸体の外周面に雄ネジが形成されたネジ軸が筐体101における図示しない内壁面に固定されるとともに、このネジ軸に噛み合う雌ネジが形成された可動体が壁体支持ベース116の背面に固定されて構成された機械装置である。そして、この送りネジ機構は、ネジ軸に連結されたX軸方向駆動モータ117の回転駆動によって壁体支持ベース116を図示X軸方向に変位させる。
【0031】
X軸方向駆動モータ117は、コントローラ130によって作動が制御されて壁体支持ベース116を図示X軸方向に沿って変位させるアクチュエータであり、筐体101内における加工領域WKの外側に固定的に設けられている。すなわち、壁体支持ベース116は、X軸方向駆動モータ117の回転駆動によって図示X軸方向に往復変位可能な状態で設けられている。
【0032】
この壁体支持ベース116の図示下端部には、工具案内壁体118が固定的に設けられている。工具案内壁体118は、領域遮断壁部105に形成された開口部105bを可動壁部122とともに塞ぎつつスリーブ体119を介して工具保持体111を案内するアルミニウム製の板状体であり、開口部105b内に位置した状態で壁体支持ベース116に支持されている。この工具案内壁体118には、略中央部に上面視で略方形の貫通孔118aが形成されており、この貫通孔118aにスリーブ体119が摺動可能な状態で貫通して設けられている。
【0033】
スリーブ体119は、加工領域WFの閉塞性を維持した状態で工具案内壁体118に形成された貫通孔118a内に工具保持体111を往復可能に貫通させるための部材であり、鋼材を筒状に形成して構成されている。より具体的には、スリーブ体119は、工具案内壁体118の貫通孔118aに常に密着しつつ摺動可能な外形に形成されるとともに工具保持体111の胴部111aに常に密着しつつ摺動可能な内形に形成されている。また、スリーブ体119は、工具案内壁体118における加工ヘッド112側の面(図示上面)から突出する長さに形成されている。本実施形態においては、スリーブ体119は、工具案内壁体118の厚さより長く形成されている。
【0034】
また、スリーブ体119の外周面には、上端部に工具保持体111の支持部111cから延びるスプリング120の端部が引っ掛けられているとともに、同外周面の下端部に同外表面からフランジ状に張り出した状態で鍔部119aが形成されている。スプリング120は、縮む方向に力を発生させるコイル状のバネ体である。したがって、スリーブ体119は、工具案内壁体118の貫通孔118aに嵌合した状態において、スプリング120によって加工ヘッド112側に引張力を受けることにより鍔部119aが工具案内壁体118の図示下面に引っ掛かる状態まで図示上側に変位した状態で静止している。
【0035】
可動壁部121は、領域遮断壁部105に設けられた開口部105bを工具案内壁体118とともに塞ぐ部材であり、蛇腹によって構成されている。この可動壁部121は、工具案内壁体118の両側にそれぞれ設けられている。これにより、可動壁部121は、開口部105b内を図示X軸方向に変位する工具案内壁体118に応じて伸縮しながら同開口部105bを塞ぐ。そして、加工ヘッド112、Z軸方向駆動モータ114および壁体支持ベース116が配置されて領域遮断壁部105、工具案内壁体118および可動壁部121によって仕切られた加工領域WFの外側の領域が加工ヘッド内部領域HFである。
【0036】
コントローラ130は、CPU、ROM、RAMなどからなるマイクロコンピュータによって構成されており、インターフェース131を介して接続される外部コンピュータ装置200からの指示および筐体101の前面に設けられる操作パネル104からの入力操作に従って切削加工装置100の全体の作動を総合的に制御する。本実施形態においては、コントローラ130は、少なくともY軸方向駆動モータ107、Z軸方向駆動モータ114、スピンドル駆動モータ115およびX軸方向駆動モータ117の作動をそれぞれ制御する。
【0037】
外部コンピュータ装置200は、CPU、ROM、RAM、ハードディスクなどからなるマイクロコンピュータによって構成されており、キーボードおよびマウスからなる入力装置201および液晶ディスプレイからなる表示装置202を備えるパーソナルコンピュータ(所謂パソコン)であり、図示しない加工プログラムを実行することにより切削加工装置100の作動を制御する。この場合、加工プログラムは、ユーザにより予め前記ハードディスクに記憶されている。なお、外部コンピュータ装置200は、切削加工装置100の作動を制御することができれば、どのような形式のコンピュータ装置であってもよい。
【0038】
(切削加工装置100の作動)
次に、このように構成した切削加工装置100の作動について説明する。まず、ユーザは、外部コンピュータ装置200と切削加工装置100とをインターフェース131を介して接続し、外部コンピュータ装置200および切削加工装置100の電源をそれぞれONにする。これにより、外部コンピュータ装置200は、図示しない所定の制御プログラムを実行することによりユーザからの指令の入力を待つ待機状態となる。
【0039】
また、切削加工装置100は、コントローラ130内のROMに予め記憶されている図示しない所定の制御プログラムを実行することにより、ワーク保持部106および加工ヘッド112をそれぞれ原点復帰させた後、外部コンピュータ装置200からの指示を待つ待機状態となる。なお、この場合、ワーク保持部106における原点とは、図示Y軸方向における移動可能範囲内の一方の移動可能限界位置(切削加工装置100において最前面位置)である。また、加工ヘッド112における原点とは、加工ヘッド112の図示X軸方向および図示Z軸方向における各移動可能範囲内の一方の移動可能限界位置(図示最左端、図示最上端)である。
【0040】
この加工ヘッド112が原点位置に位置している場合においては、加工ヘッド112が図示Z軸方向における図示最上端位置に位置しているため、工具案内壁体118の貫通孔118aに嵌合するスリーブ体119は工具保持体111に繋がるスプリング120に引っ張られて鍔部119aが工具案内壁体118の下面に接触する位置まで上昇する。この場合、加工ヘッド112に固定された工具保持体111における図示下端部は工具案内壁体118における図示上面より上方に位置する。しかし、この場合、工具保持体111が嵌合するスリーブ体119は、工具案内壁体118における図示上面より突出する長さに形成されているため、工具保持体111の胴部111aがスリーブ体119から外れることはない。
【0041】
また、この場合、スリーブ体119の下端部に形成された鍔部119aが工具案内壁体118の図示下面に引っ掛かるため、スリーブ体119が工具案内壁体118の貫通孔118aから外れることもない。これらにより、加工領域WFと加工ヘッド内部領域HFとが、工具保持体111とスリーブ体119との間、および工具案内壁体118とスリーブ体119との間を介して連通、すなわち、加工領域WFの閉塞性が損なわれることはない。また、工具保持部111の胴部111aを工具案内壁体118のよりも図示上方に位置させることができるため、加工領域WF内における加工工具110の張出量を少なくすることができ、加工領域WF内における加工工具110の移動および被加工物WKのセッティング作業が行い易くなる。
【0042】
次に、ユーザは、切削加工装置100のワーク保持部106に被加工物WKを保持させるとともに、加工ヘッド112の工具保持体111に加工工具110を保持させる。そして、ユーザは、前面カバー103を閉じる。これにより、筐体101内における加工領域WFは、完全に閉じられた空間となる。次に、ユーザは、外部コンピュータ装置200の入力装置201を操作して、外部コンピュータ装置200に図示しない加工プログラムの実行を指示する。この加工プログラムは、ユーザが所望する3次元形状を被加工物WKに形成するために、同3次元形状を表す3次元形状データに基づいて加工工具110の移動経路を表す加工データ(NCデータ)を生成して切削加工装置100に出力するプログラムである。
【0043】
この指示に応答して、外部コンピュータ装置200は、加工プログラムの実行を開始して加工データを生成する。この場合、外部コンピュータ装置200は、ユーザによって入力された3次元形状を表わす3次元形状データに基づいて加工データを生成する。そして、外部コンピュータ装置200は、生成した加工データを切削加工装置100のコントローラ130に出力する。加工データを入力した切削加工装置100のコントローラ130は、スピンドル駆動モータ115の作動を制御して加工工具110を所定の回転数で回転させた状態で、Y軸方向駆動モータ107、Z軸方向駆動モータ114およびX軸方向駆動モータ117の各作動を制御することにより被加工物WKに対する加工ヘッド112が保持する加工工具110の先端部(刃先)の位置を変化させる。これにより、ワーク保持部106上に保持された被加工物WKは、加工工具110によって3次元的に切削加工される。
【0044】
この被加工物WKの切削加工時においては、加工ヘッド112がZ軸方向駆動モータ114の駆動によって図示Z軸方向における図示下方に変位する。このため、加工ヘッド112に固定された工具保持体111は、図4に示すように、スリーブ体119内を図示下方に摺動しながら変位する。これにより、工具保持体111に保持された加工工具110は、図示下方に変位する。この場合、スリーブ体119は、工具保持体111に連結されたスプリング120の引張力によって工具案内壁体118の図示下面に押し付けられた状態を維持する。
【0045】
そして、加工ヘッド112が更に図示下方に変位することにより、図5に示すように、工具保持部111の支持部111cがスリーブ体119の図示上面に接触して押圧する。これにより、スリーブ体119は、図5に示すように、下降する工具保持体111の支持部111cに押されて工具案内壁体118の貫通孔118a内を摺動しながら図示下方に変位する。これにより、工具保持体111に保持された加工工具110が更に図示下方に変位して被加工物WKに対する切削加工が行われる。すなわち、工具保持体111における支持部111cが、本発明に係る押圧部に相当するとともに、スリーブ体119の図示上端面が、本発明に係る受圧部に相当する。
【0046】
この場合においても、工具保持体111の胴部111aがスリーブ体119の内周面と密着するとともに、工具案内壁体118の貫通孔118aの内周面にスリーブ体119が密着している。これにより、加工領域WFと加工ヘッド内部領域HFとが、工具保持体111とスリーブ体119との間、および工具案内壁体118とスリーブ体119との間を介して連通、すなわち、加工領域WFの閉塞性が損なわれることはない。すなわち、工具保持体111が最も被加工物WKに接近した場合においても、加工領域WFの閉塞性が損なわれることはない。
【0047】
そして、加工工具110が被加工物WKを切削加工する間、スリーブ体110は工具保持部111に押されて図示下方に変位、またはスプリング120の引張力によって図示上方に変位する。しかし、この加工工具110による被加工物WKの切削加工の間において、切削加工装置100は、工具保持体111の図示Z軸方向上の位置に関わらず被加工物WKの切削加工によって生じた切削屑などの飛散物が加工領域WFから加工ヘッド内部領域HFに侵入することを防止することができる。
【0048】
そして、切削加工装置100のコントローラ130は、加工データに基づく加工がすべて終了した場合には、ワーク保持部106および加工ヘッド112をそれぞれ原点復帰させる。一方、外部コンピュータ装置200は、この加工プログラムの実行を終了して再び待機状態となる。これにより、切削加工装置100も再び待機状態となる。次いで、ユーザは、ワーク保持部106から被加工物WKを取り外して切削加工装置100による被加工物WKの切削加工を終了する。そして、ユーザは、他の被加工物WKに対して切削加工を行う場合には、前記と同様にして他の被加工物WKをワーク保持部106にセットした後、加工プログラムを実行する。一方、ユーザは、他の被加工物WKの切削加工を行わない場合には、外部コンピュータ装置200および切削加工装置100の電源をそれぞれOFFにする。これにより、ユーザは、被加工物WKの切削加工作業を終了する。
【0049】
上記作動説明からも理解できるように、上記実施形態によれば、切削加工装置100は、被加工物WKの切削加工を行う加工領域WFと加工ヘッド112および加工ヘッド112を図示Z軸方向に変位させる工具変位機構がそれぞれ配置された加工ヘッド内部領域HFとが領域遮断壁部105によって遮断されている。これにより、切削加工装置100は、被加工物WKの切削加工時に生じる切削屑などの飛散物が加工ヘッド112や工具変位機構に付着することが防止される。また、切削加工装置100は、領域遮断壁部105の少なくとも一部を構成する工具案内壁体118に形成された貫通孔118aに工具保持体111が摺動するスリーブ体119が設けられている。この場合、スリーブ体119は、工具案内壁体118の表面から加工ヘッド内部領域HF側に突出して形成されている。このため、工具保持体111によって保持された加工工具110を被加工物WKから離隔させる際、工具保持体111とスリーブ体119とが摺動接触する範囲で工具保持体111を被加工物WKから離隔することができる。すなわち、切削加工装置100は、工具案内壁体118を貫通して変位する加工工具110を工具案内壁体118の厚さに関係なくスリーブ体119の長さに応じた量で変位させることができる。これにより、切削加工装置100は、加工領域WF内の飛散物の加工ヘッド内部領域HF側への侵入を防止しながら加工工具110の加工領域WF内からの退避量を多くすることができるため、加工領域WF内における加工工具110の張出量を少なくすることができ、加工領域WF内における加工工具110の移動および被加工物のセッティング作業が行い易くなる。
【0050】
さらに、本発明の実施にあたっては、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。なお、下記変形例の説明においては、参照する各図における上記実施形態と同様の構成部分に同じ符号または対応する符号を付して、その説明も省略する。
【0051】
例えば、上記実施形態においては、スリーブ体119は、工具案内壁部118の貫通孔118aに対して常に摺動可能な状態で嵌合するように構成されている。しかし、スリーブ体119は、工具案内壁部118の貫通孔118aに対して加工ヘッド内部領域HF側に突出して形成されるとともに工具保持体111を常に摺動可能に嵌合する筒状体であれば、必ずしも上記実施形態に限定されるものではない。例えば、スリーブ体119は、図6に示すように、工具案内壁体118の貫通孔118aに対して一体的に形成されていてもよい。この場合、スリーブ体110は、工具案内壁体118に対して摺動変位せず一体的に形成されているため、スプリング120は不要である。すなわち、スリーブ体119が、本発明に係るスリーブ部に相当する。
【0052】
また、上記実施形態においては、スプリング120は、スリーブ体119と工具保持体111の支持部111cとの間に架設されてスリーブ体119を加工ヘッド内部領域HF側に常に引っ張るようにした。すなわち、スプリング120が、本発明に係るスリーブ部復位手段に相当する。しかし、スプリング120は、スリーブ体119に対して加工ヘッド内部領域HF側に変位させるための力を常に付与するものであれば、必ずしも上記実施形態に限定されるものではない。例えば、スプリング120は、図7に示すように、工具案内壁体118とスリーブ体119との間に設けることにより、スリーブ体119を押圧力によって加工ヘッド内部領域HF側に押すように構成することができる。また、スプリング120は、コイルバネの他に板バネによって構成することもできる。また、スリーブ部復位手段は、スプリング120に代えてまたは加えて磁石による磁力によってスリーブ体119を変位させるように構成することもできる。
【0053】
また、加工ヘッド112をワーク保持部106の図示下方に配置することにより加工工具110を図示下方から被加工物WKに接近して切削加工するように構成することもできる。これによれば、スリーブ体119は、工具保持体111によって押圧されていない場合においては、自重により自然落下して加工ヘッド112側に変位するためスプリング120を省略することができる。
【0054】
また、上記実施形態においては、領域遮断壁部105は、開口部102に面した筐体101の内部空間における図示上下側および図示左右側にそれぞれ水平方向および垂直方向に沿って配置されて加工領域WFを形成した。しかし、領域遮断壁部105は、加工領域WFと加工ヘッド内部領域HFとを遮断するように構成されていればよい。例えば、領域遮断壁部105は、加工ヘッド112と加工ヘッド112を図示Z軸方向に変位させる工具変位機構とを囲んだ所謂加工ヘッドカバーを構成してもよい。すなわち、領域遮断壁部105は、必ずしも加工領域WFを閉じた空間に形成する必要はなく、被加工物WKの切削加工により生じた飛散物が加工ヘッド内部領域HFに侵入しないように加工領域WFと加工ヘッド内部領域HFとを遮断するように設けられていればよい。また、領域遮断壁部105は、少なくとも加工領域WFと加工ヘッド内部領域HFとを遮断すればよいため、加工領域WFを形成する際、領域遮断壁部105に加えて他の壁部、すなわち、加工領域WFに対して加工ヘッド内部領域HF以外の領域を仕切る他の壁体を用いて加工領域WFを形成することもできる。
【符号の説明】
【0055】
WK…被加工物、WF…加工領域、HF…加工ヘッド内部領域、
100…切削加工装置、101…筺体、102…開口部、103…前面カバー、104…操作パネル、105…領域遮断壁部、105a,105b…開口部、106…ワーク保持部、106a…爪部、106b…爪部支持部、107…Y軸方向駆動モータ、108…可動壁部、
110…加工工具、111…工具保持体、111a…胴部、111b…チャック、111c…支持部、112…加工ヘッド、113…可動ベース、114…Z軸方向駆動モータ、115…スピンドル駆動モータ、116…壁体支持ベース、117…X軸方向駆動モータ、118…工具案内壁体、118a…貫通孔、119…スリーブ体、119a…鍔部、120…スプリング、121…可動壁部、
130…コントローラ、131…インターフェース、
200…外部コンピュータ装置、201…入力装置、202…表示装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物を着脱自在に保持するワーク保持部と、
前記被加工物を回転駆動により切削加工する加工工具を保持する工具保持体を有する加工ヘッドとを備えた切削加工装置において、
前記工具保持体を前記加工工具の軸線方向に沿って変位させることにより同加工工具を前記被加工物に対して接近および離隔させる工具変位機構と、
前記ワーク保持部によって保持された前記被加工物の周囲の加工領域と前記加工ヘッドおよび前記工具変位機構が配置された加工ヘッド内部領域とを遮断する領域遮断壁部と、
前記領域遮断壁部の少なくとも一部を構成するとともに前記加工領域と前記加工ヘッド内部領域との間を貫通する貫通孔を有する工具案内壁体と、
前記工具案内壁体における前記貫通孔に対して前記加工ヘッド内部領域側に突出して設けられて前記工具保持体が常に摺動可能に嵌合するスリーブ部とを備えることを特徴とする切削加工装置。
【請求項2】
請求項1に記載した切削加工装置において、
前記工具保持体は、前記スリーブ部を押圧する押圧部を有し、
前記スリーブ部は、前記押圧部による押圧力を受ける受圧部を有するとともに、前記加工ヘッド内部領域側に変位させるための力を受けた状態で前記工具案内壁体における前記貫通孔に常に摺動可能に嵌合した状態で設けられることを特徴とする切削加工装置。
【請求項3】
請求項2に記載した切削加工装置において、さらに、
前記スリーブ部に対して前記加工ヘッド内部領域側に変位させるための力を付与するスリーブ部復位手段を備えることを特徴とする切削加工装置。
【請求項4】
請求項3に記載した除去加工装置において、
前記スリーブ部復位手段は、前記工具保持体と前記スリーブ部との間に架設されたスプリングであることを特徴とする切削加工装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のうちのいずれか1つに記載した切削加工装置において、
前記加工領域は、前記ワーク保持部によって保持された前記被加工物の周囲が前記領域遮断壁部を含む壁部によって囲まれた閉じられた空間であることを特徴とする除去加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−39633(P2013−39633A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−177108(P2011−177108)
【出願日】平成23年8月12日(2011.8.12)
【出願人】(000116057)ローランドディー.ジー.株式会社 (163)
【Fターム(参考)】