説明

切創試験用刃物

【課題】本考案は、耐切創抵抗性能を適格に評価する際、刃物の取換えの手間がなく、従って安全性の優れた長寿命に試験に実用できる刃物を提供せんとするものである。
【解決手段】本考案の切創試験用刃物は、JIS Z−2244に基づいて測定されるビッカース硬さ試験方法による硬度が1000Hv以上であり、かつ、材質がセラミックスであることを特徴とするものである。

【考案の詳細な説明】
【0001】
【考案の属する技術分野】
本考案は、人体を切創等の外圧から守るのに使用する安全手袋や、その他の防護資材の刃物に対する防護性能を評価する耐切創試験に使用する切創試験用刃物に関する。
【0002】
【従来の技術】
刃物やガラス、金属等を取扱う作業や山林での作業等では刃物や金属、木や石の鋭角部分に接触して手を切創することから防護するため、アラミド繊維などのハイテク繊維と呼ばれる耐切創性に優れた防護衣類や手袋類が数多く開発されて脚光を浴びている。
【0003】
しかし、これらの防護資材の評価をする方法については何ら術がなく、当該業界からかかる評価方法の出現が強く望まれており、実公平07−023729などにみられるような装置においてカッター刃、カミソリ刃が使用されてきたが、刃物による測定値のバラツキが大きい、刃物製造ロット間の切れ味が変動する、測定毎に刃物の交換が必要等の問題があった。
【0004】
【考案が解決しようとする課題】
本考案は、かかる技術背景を鑑みて考案されたものであり、切創しにくい防護資材などに使用される糸、コード類、編織物およびフェルト類などの布帛類およびフィルム、ゴム類等からなる材料の耐切創抵抗性能を適格に評価する際、刃物の取換えの手間がなく、従って安全性の優れた長寿命に試験に実用できる刃物を提供せんとするものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本考案は、かかる目的を達成するために、次のような刃物を採用する。
【0006】
すなわち、本考案の切創試験用刃物は、JIS Z−2244に基づいて測定されるビッカース硬さ試験方法による硬度が1000Hv以上であり、かつ、材質がセラミックスであることを特徴とするものである。
【0007】
【考案の実施の形態】
本考案の切創試験用刃物は、セラミックス製で、かつ、刃物の刃の形がV字形状で、V字角度は内角に鋭角であるものが好ましく使用される。
【0008】
すなわち、切創の機構は、試料と刃物が滑りつつ圧縮応力を増加させながら切創されるものである。したがって、刃のV字角が鈍角である場合は、刃物が滑らず、押し切り機構に近似してくるので、それだけ大きな応力を必要とし、適切な切創抵抗値が得られない傾向がある。また、逆に内角が小さすぎると、刃物が滑りすぎて、圧縮応力が増加しにくいばかりか、刃渡りを長くしなければ抵抗値が出ないという傾向がある。
【0009】
本考案において、好ましく使用される刃物のV字角度は、内角に30〜90度、さらに好ましくは50〜70度を有するものである。
【0010】
これまで切創試験用に使用されてきた刃物は、一般に市販されているカミソリ刃、または、工作等に使用されるカッター刃であった。これらの刃物は2枚重ねてV字形にする必要があり、カミソリ刃の角度が90度であるため、2枚重ねてV字にできる内角角度は90度が限界である。カッター刃は先端が60度にカットされているため、30〜90度に変更することができる。そのため、実公平07−023729号公報に記載されている切創試験機などに使用されてきたものである。
【0011】
しかし、2枚重ねてV字にすると、V字の先端に隙間ができるので、V字先端の該隙間に試料が引掛かり、正常な切創抵抗値が測定できない等の問題がある。
そこで引掛かりを防ぐため、試料の準備段階で、該試料に穴をあける等の前処理加工が必要であった。
【0012】
本考案において、好ましく使用される刃物は、1枚物のV字刃でV字の先端まで刃物になっているため試料に穴をあけるなどの前処理が不要となるという利点がある。
【0013】
また、刃物の硬度は硬い方が耐摩耗性に優れていることから、同じ刃物で何回測定しても抵抗値の変動が少なく、刃物の交換が不要となることから、試料の交換する作業のみとなるため、同じ刃で試料間の差を正確に比較評価することができるという利点がある。すなわち、刃の硬度が柔らかいと刃の耐摩耗性が劣るため、同じ刃で何回も測定すると抵抗値が増加する。そのため測定毎に刃の交換が必要となる上に、得られたデーターについても、たとえばバラツキがあったとしても、それが刃のバラツキなのか、試料の差なのか正確な判断ができず、正しい評価結果の出しにくいものであった。
【0014】
一般に市販されているカッター刃物は、カーボン鋼および、ステンレス鋼であるがカーボン鋼のJIS Z−2244に基づいて測定される硬度はビッカース硬さ試験方法で900Hv以下であり、アラミド繊維のような超高強力の布帛を切創した場合等に、刃物の摩耗劣化を起こすため切創試験回数毎に抵抗値が増加し、試料の適正な切創抵抗値が得られないなどの問題が発生する。
【0015】
本考案において、好ましく使用される刃物の材質は、一般に市販されているカーボン鋼、ステンレス鋼などより硬度の大きいセラミックス製の刃物が使用される。かかるセラミックスとしては、ジルコニア系でも炭化ケイ素系でもよい。
【0016】
かかる刃の研磨は、片面でも、両面でもよいが、研磨角度は、好ましくは20〜60度、厚さは0.5〜1.5mm、幅は10〜20mmとするのが好ましい。さらに好ましくは特許第1622526号に登録記載されているジルコニア系セラミックスからなる刃物がよい。
【0017】
本考案を、さらに図面により説明する。
【0018】
すなわち、図1は、本考案の切創試験用刃物の一実施例の平面図(イ)、(ロ)側面図、(ハ)A−A部の断面図である。このセラミックスV字形刃は、刃物のV字角度Cは60度、刃の研磨Bは片面であって、その研磨角度Dは30度にしたが、研磨後刃先Eのみは40度に、さらに研磨加工した。この刃物の厚さFは1mm、幅Gは12.7mm、長さHは64.5mmのものを使用した。
【0019】
なお、図2および図3は、実施例2および比較例1での1回使用毎における切創抵抗(g)を示すグラフである。かかる切創試験用刃物は、図4に示す切創試験機の切創刃物取付具1に取付けて使用されるものである。この切創試験機には、該切創刃11は刃物取付具1で両面から薄板によって挾むように取り付けられており、刃物取付具1の上部に圧縮応力検知検知器3が具備されており、これらは一体に垂直に、好ましくは定速度で下降するものである。
【0020】
一方、試料保持台2には、スリット23を有する2枚の試料挾み板22によって試料が保持されており、この試料を切創刃11で切創しながらスリット23に嵌入する。そのときの圧縮応力すなわち切創抵抗を検知器3で検知し、記録して測定する。
【0021】
本考案の切創試験用刃物によれば、刃物の劣化もなく、安定した切れ味で適確に切創抵抗値を測定することができる。
【0022】
【実施例】
次に実施例により、本考案をさらに詳しく説明する。
実施例1 図1のようなセラミックスV字形刃からなる切創試験用刃物を使用した。この刃物は、ジルコニア系セラミックスからなるビッカース硬度1300Hvであり、該刃物のV字角度は60度、刃の研磨は片面で、その研磨角度は30度に研磨後刃先のみ40度に加工したもので、厚さは1mm、幅は12.7mm、長さは64.5mmに加工したものである。
【0023】
この刃物を図4に示すように切創性試験機に取付けた。試料は、アラミド繊維(ケブラー製)から成る20番手の紡績糸の合撚糸2本を5本引き揃えて7ゲージで編成した軍手と、木綿繊維から成る10番手の紡績糸を5本引き揃えて7ゲージで編成された市販の軍手の2種を用意した。これらの試料について耐切創性を測定した。
【0024】
該切創性試験機には、容量が50Kgの検知器を用い、試料の挟み板は鉄製で、幅10mmのスリットを開けたものを用い、滑り止めに耐水研磨紙#240番を張り付けた。また、刃物の下降速度は500mm/分(定速)とした。
【0025】
かかる切創条件で上述軍手を切創したところ、アラミド繊維軍手の切創抵抗は1088gで、木綿繊維軍手は552gであった。
実施例2 さらに、上述アラミド繊維製軍手を、上述実施例1のセラミックスV字刃で100回以上連続に測定したところ、測定N数5の平均であるが、図2のグラフに示されるように100回以上測定後も刃の劣化は見られず、切創抵抗値が変動しなかった。
比較例1 ピッカーズ硬度870Hvのカーボン鋼製カッター刃2枚をV字形60度に取付け、アラミド繊維(ケブラー製)から成る20番手の紡績糸の合撚糸2本を5本引き揃えて7ゲージで編成された軍手を、実施例1の条件で測定した。
【0026】
その結果、このカーボン鋼製刃物は、図3に示されるように1回目測定値より2、3回目目の測定値が増加し、刃の切れ味が低下摩耗していることが認められた。
【0027】
【考案の効果】
本考案によれば、100回以上の連続測定でも刃の交換が不要で、かつ、安全で、簡単な操作で安定した正確な切創抵抗が測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この図は、本考案の切創試験用刃物の一例を示す平面図(イ)、(ロ)側面図、(ハ)A−A部の断面図である。
【図2】この図は、実施例2の刃物による切創試験1回使用毎における切創抵抗(g)を示すグラフである。
【図3】この図は、比較例1の刃物による1回使用毎における切創抵抗(g)を示すグラフである。
【図4】この図は、本考案のセラミックス刃を使用して測定する耐切創性試験機の概略図である。
【符号の説明】
B:研磨面
C:V字角度
D:研磨角度D
E:刃先
F:厚さ
G:幅
H:長さ
1:切創試験用刃物取付具
2:試料保持台
3:圧縮応力検知器
11:切創試験用刃物
22:試料挾み板
23:スリット

【実用新案登録請求の範囲】
【請求項1】 JIS Z−2244に基づいて測定されるビッカース硬さ試験方法による硬度が1000Hv以上であり、かつ、材質がセラミックスであることを特徴とする切創試験用刃物。
【請求項2】 該セラミックスが、ジルコニア系または炭化ケイ素系である請求項1記載の切創試験用刃物。
【請求項3】 該刃物の刃が、V字形である請求項1記載の切創試験用刃物。
【請求項4】 該刃物の刃が、1枚物である請求項1記載の切創試験用刃物。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図2】
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【登録番号】第3030945号
【登録日】平成8年(1996)8月28日
【発行日】平成8年(1996)11月12日
【考案の名称】切創試験用刃物
【国際特許分類】
【評価書の請求】未請求
【出願番号】実願平8−3196
【出願日】平成8年(1996)3月27日
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【出願人】(591253135)デュポン・東レ・ケブラー株式会社 (2)