説明

制御システムの制御装置及びエレベータシステム

【課題】制御システムを構成する制御機器に異常が発生する前に異常が発生しそうである異常予兆を検出して制御機器を含む制御システムのトラブルを回避する制御システムの制御装置を提供する。
【解決手段】制御システムが正常なときの正常制御信号と実際の制御信号とを評価する評価手段と、評価手段によって正常制御信号と実際の制御信号の間に所定の関連度があるとその制御信号に関係する制御機器が異常要因或いは故障要因を含んでいると判定する判定手段とを備えるようにした。これによって、異常の予兆を検出することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は建築物に備えられるエレベータシステム、発電プラントシステム、上下水道システム等に代表されるような制御システムに使用される制御装置に係り、特に制御システムの異常や故障が生じる前にこれらを診断する予兆診断機能を備えた制御システムの制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
制御システムに使用される制御機器(例えば、電動機、流量制御弁等の作動量調節機構)を保護して安全であるように維持する、いわゆる制御機器の保全のために制御機器の故障や異常(以下、異常という。)を検知する技術の開発が推進されている。
【0003】
例えば、動作情報検出センサの動作情報に基づいて作動量調節機構を駆動・制御して制御システムを動作させる制御装置において、従来の異常検知方法は制御機器の駆動・制御の結果において生じる制御システムの動作情報から制御システムを診断するものが多く提案されている。
【0004】
また、制御機器の設計値や初期状態等の正常に動作していると思われる状態時の駆動・制御の結果において生じる動作情報を記憶しておき、現在の駆動・制御の結果において生じる動作情報と比較することで異常を検出する方法も提案されている。
【0005】
このような、異常検知方法の代表的な例として、特開平6−1556号公報(特許文献1)、特開平6−167591号公報(特許文献2)、特開平9−6432号公報(特許文献3)及び特開2003−95561号公報(特許文献4)等が知られている。
【0006】
特許文献1に記載の技術は、エレベータにおいて制御機器の動作情報を収集して予め記憶しておいた過去の動作情報と比較することで異常動作を検出しているものである。
【0007】
特許文献2に記載の技術は、原子力プラントの正常時の各種センサのセンサ情報を予め記憶装置に記憶しておき、診断したいセンサ情報と比較することで原子力プラントの異常を検出しているものである。
【0008】
特許文献3に記載の技術は、加工機の実際の位置情報または速度情報を内部モデルによる内部状態の計算値と比較することで異常を検出しているものである。
【0009】
特許文献4に記載の技術は、エレベータドアのリモート診断に関するもので、調整前後のドア開閉パターン電圧およびドア開閉電流のデータを比較して異常を検出しているものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平6−1556号公報
【特許文献2】特開平6−167591号公報
【特許文献3】特開平9−6432号公報
【特許文献4】特開2003−95561号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1では、エレベータの実際の動作情報と予め記憶しておいた過去の動作情報と比較することで異常動作を検出しているため、動作情報に異常が現われるまでは異常を検知できなくなり、正常動作している間は異常が進行していても検出することができない。
【0012】
また、特許文献2では、原子力プラントが正常な時のセンサ情報と診断したいセンサ情報と比較してプラントの異常を検出しているため、異常検知の精度や確度がセンサの種類、数に依存するので高精度な動作情報を収集しようとするとデータ収集の処理負荷やデータ量が膨大な量になる虞がある。
【0013】
また、特許文献3では、実際の位置情報または速度情報とモデルによる内部状態の計算値とを比較することで異常を検出知するため、内部状態モデルを構築できて内部状態を測定できるものしか適用できず汎用性に乏しい。
【0014】
特許文献4では、調整前後のドア開閉パターン電圧およびドア開閉電流のデータを比較して異常を検知しているが、実際のドアの動きの変化を比較しているためドアの動きに現れない異常は検知できない。
【0015】
上記で説明した種々の異常検知方法を総括すると、作動量調節機構の動作に異常が発生しなければ異常等を検出することができず、異常前に異常の進行度合いを検知することは難しいという課題があった。
【0016】
つまり、動作情報センサの動作情報に基づいて作動量調節機構を駆動・制御しているため、制御の流れとしては動作情報に応じて所定の演算手法で求められた制御量(作動量)でそのまま作動量調節機構を駆動・動作させていることになる。言い換えると、動作情報に含まれる作動量調節機構等の制御機器の異常要因(実際にはまだ異常として発現しない)の予兆を吸収してしまうことになる。
【0017】
そのため、動作情報に異常があると診断されるまでは作動量調節機構は正常なものとして動作するので、いざ異常が発生すると最悪の場合では制御システムが緊急停止してしまうという恐れがあった。
【0018】
したがって、異常発生前に異常が発生しそうであること、いわゆる異常予兆を検出できれば実際の異常発生によって制御機器、しいては制御システムが停止してしまうという重大なトラブルを回避できるため保全技術として大変有効である。
【0019】
本発明の目的は、制御システムを構成する制御機器に異常が発生する前に異常が発生しそうである異常予兆を検出して制御機器を含む制御システムのトラブルを回避する制御システムの制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の特徴は、制御システムの動作情報等を検出するセンサの出力に基づいて制御システムの制御機器の作動量を演算して制御機器に制御信号として出力する制御システムの制御装置において、制御システムが正常なときの正常制御信号と実際の制御信号との関連性を評価する評価手段と、評価手段によって正常制御信号と実際の制御信号の間に所定の関連度があるとその制御信号に関係する制御機器が異常要因或いは故障要因を含んでいると判定する判定手段とを備えた制御システムの制御装置、にある。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、制御システムが正常に動作していても、制御システムに異常が発生しそうだという予兆を検出すことができるので、制御システムの緊急停止といったトラブルが発生する前に異常を事前に把握できるようになって制御システムの稼働安定性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施例(実施例1)になるプラントシステムのブロック図である。
【図2】図1に示す制御信号収集装置のブロック図である。
【図3】図1に示す異常予兆検出装置のブロック図である。
【図4】本発明の他の実施例(実施例2)になるプラントシステムのブロック図である。
【図5】図4に示す比較信号記憶装置のブロック図である。
【図6】本発明の他の実施例(実施例3)になるプラントシステムのブロック図である。
【図7】図6に示す異常予兆検出装置のブロック図である。
【図8】本発明の他の実施例(実施例4)になるエレベータシステムのブロック図である。
【図9】図8に示すエレベータシステムの具体的な診断フローチャート図である。
【図10】図8に示すエレベータシステムであるエレベータの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の複数の実施例を図面に従い説明するが、第1の実施例は制御システムの一つであるプラントシステムの概略を示している。
【実施例1】
【0024】
図1は異常予兆診断機能を有するプラントシステムのブロック図であり、プラントシステムは概ね制御信号生成装置11と、この制御信号生成装置11の制御信号によってプラントを運行、或いは稼動(以下、稼動という)するプラント機器12と、プラントの環境及びプラントの稼動の結果によって生じるプラントの動作状況を検出するセンサ群13とから構成されている。
【0025】
制御信号生成装置11は入出力部、記憶部、演算部等からなる計算機から構成されており、プラント機器12を稼動させるための制御信号Sg11を計算して出力する機能を備えている。
【0026】
この制御信号Sg11はプラントの環境情報や稼動状態によって変動する動作情報をセンサ群13によって検出して制御信号生成装置11に入力することによって求められるものである。センサ群13は具体的には、温度、速度、重量、位置、濃度等に代表されるような環境パラメータやプラントを稼動した時の内部状態パラメータを検出しており、これらをまとめて動作情報と定義する。
【0027】
制御信号Sg11は制御信号生成装置11によってセンサ郡13から得られた動作情報をそのプラントを稼動させるための所定の演算を実行して生成されており、具体的にはフィードフォワード演算やフィードバック演算等の手法によって制御信号Sg11が生成されている。
【0028】
制御信号生成装置11によって求められた実際の制御信号Sg11はプラント機器12に送られるが、プラント機器12はプラントを稼動するための物理的な作動量を調節するための機器であり、具体的には電動機や流量制御弁等の調節機構である。したがって、制御信号Sg11はこれらの調節機構を作動させるための作動量を表しており、具体的には電流、電圧の大きさやパルスの時間的長さによって調節機構の作動量を制御し、これによって調節機構を駆動している。
【0029】
そして、これらの制御信号生成装置11とプラント機器12及びセンサ群13とから構成されたプラントシステムはその目的に沿って稼動されるものである。
【0030】
ところで、この種のプラントシステムでは冒頭で説明したように異常状態を早期に検知してプラントシステムの緊急停止といった重大なトラブルを事前に回避することが重要である。
【0031】
このためには異常が発生した後ではなく、異常が発生する前に異常が発生しそうだといったことを事前に検知できればシステムを正常に維持する上で大きなメリットになる。
【0032】
以下、この点について詳細に説明すると、図1においてプラントシステムは制御信号収集装置14と、異常検出装置15と、異常指示装置16とを新たに備えている。
【0033】
制御信号収集装置14と異常検出装置15には制御信号生成装置11からの制御信号Sg11が入力されるように構成されており、制御信号収集装置14の出力と制御信号Sg11が異常検出装置15で比較されて、少なくともその制御信号に関係した制御機器の異常予兆状態が判断される。この判断によって異常が発生しそうだと判断されると異常指示装置16によってこの状態は作業員等のオペレータに報知される。
【0034】
制御信号収集装置14は図2に示すように制御信号データベース21、カウンタ22及び正常制御信号生成部23より構成されており、制御信号Sg11は制御信号データベース21及びカウンタ22に入力されている。
【0035】
制御信号収集装置14の機能は正常な状態の時の正常制御信号Sg14を生成することであり、このため、本実施例ではプラント機器12の初期状態の制御信号を制御信号データベース21に記憶するようになっている。
【0036】
制御信号データベース21は制御信号生成装置11からの制御信号Sg11が到来する毎に所定のアドレスに順番に記憶される。このとき、カウンタ22は制御信号Sg11が到来する毎にカウントアップされ、予め定めた閾値回数まで制御信号データベース21に制御信号Sg11が記憶されると、この閾値以上の制御信号Sg11の記憶を停止する。
【0037】
つまり、カウンタ22は制御信号Sg11の入力の到来を検出しており、入力回数をカウントして制御データベース21への記憶の許可/不許可トリガーを出力するものである。カウントした入力回数が予め決められた所定の閾値回数以下の場合は記憶を許可する許可トリガーを制御信号データベース21に送り、閾値回数以上の場合は記憶を許可しない不許可トリガーを制御信号データベース21に送って記憶の管理を行っている。
【0038】
これによって、制御機器の初期状態(システムの通常稼動前の正常状態)は終了して正常状態の制御信号を採取できたと判断している。この初期状態は、例えばプラントシステム据え付け後の試験稼動や、正規稼動の初期の状態の制御信号を使用することで十分である。
【0039】
制御信号データベース21は制御信号Sg11とカウンタ22の許可/不許可トリガーを入力とし、記憶を許可する許可トリガーがある場合は制御信号Sg11を所定アドレスに記憶し、一方、記憶を許可しない不許可トリガーがある場合は制御信号Sg11を記憶しないものである。したがって、許可トリガーがある間は制御信号データベース21に制御信号Sg11が順次記憶されて蓄積されていくものである。
【0040】
ここで、制御信号Sg11は作動調節機構の種類に応じて使い分けることができるものであり、電動機であれば電動機の制御信号(例えば、電流値や電圧値等)を用い、流量調節弁等であれば電磁弁の制御信号(例えば、通電時間等)を用いれば良いものである。単独の制御信号Sg11で制御システムの異常予兆を検出できれば良いが、単独の制御信号Sg11で異常予兆が検出できない場合は複数の作動調整機構の制御信号Sg11を用いて異常予兆を検出することもできる。
【0041】
この蓄積された制御信号Sg11は所定のタイミングで正常制御新号生成部23に送られ、正常制御新号生成部23は所定の演算手法で正常制御信号Sg14を生成する。この所定の演算手法で得られる正常制御信号Sg14としては、例えば蓄積された複数の制御信号を加算して平均化した平均値や、複数の制御信号の中心値を用いることができるが、これ以外にも種々の演算方法で求めることは可能である。要は、正常制御信号として用いられれば良いものである。
正常制御信号生成部23は前述の所定のタイミングでその都度正常制御信号Sg14を演算してもよいが、一度演算した正常制御信号Sg14を記憶素子に記憶しておき、後述の異常予兆検出装置15の比較タイミングで読み出して異常予兆検出装置15で使用することも可能である。
【0042】
次に、正常制御信号生成部14で得られた正常制御信号Sg14は異常予兆検出装置15に送られ、この異常予兆検出装置15に入力されてくる制御信号Sg11とその関連度が評価されて異常が発生しそうな予兆があるかどうかが判断される。
【0043】
異常予兆検出装置15は図3に示すように、比較手段31と判定手段32とから構成されており、比較手段31は制御信号Sg11と正常制御信号Sg14の大小関係や相関関係等から両信号の関連度(相違)を評価する機能を有するもので評価手段としての機能を有し、更に判定手段32はこの評価に基づいて異常の予兆度合いを判定する機能を有している。
【0044】
比較手段31には制御信号生成装置11が出力した制御信号Sg11と制御信号収集装置14が出力した正常制御信号Sg14が入力され、ここで制御信号Sg11と正常制御信号Sg14の比較、或いは評価が行われ、その評価値が求められる。
【0045】
この場合の評価値としては、n次元ベクトル間の距離を計算するユークリッド距離やハミング距離などを用いた類似度や、主成分分析のような信号間の相関係数から得られるが、これ以外にも制御システムに合わせて適切に評価方法を選択して実行すればよいものである。
【0046】
比較手段31で得られた評価値は次段の判定手段32に送られ、この判定手段32によって異常が発生しそうかどうかを判定し、異常が発生しそうである予兆が得られると異常予兆信号Sg15を出力する。つまり、少なくとも対象とする制御信号に関係する制御機器に異常要因、或いは故障要因を含んでいると判断するものである。
【0047】
この判定手段32は例えば、入力された評価値に対して予め決められた判定閾値と比較して評価値が判定閾値より大きいか、あるいは小さいかによって異常が発生しそうであるかどうかを判定している。もちろん、この閾判定値を複数個準備しておき、各判定閾値に対してランク付けを行って、例えばランクが高いほど(1)異常発生が逼迫している、(2)異常発生が近いうちにおこる、(3)異常発生まで余裕がある等の意味付けを行って異常予兆を実行することができる。
【0048】
異常予兆信号Sg15は異常予兆報知装置16に送られ、ここでオペレータ等の作業者に異常が発生しそうであるというメッセージを知らせるため、システムの表示画面に異常予兆を表示したり、音声によって報知したりする。これによってオペレータは異常予兆を把握することができるようになる。
【0049】
尚、正常制御信号Sg11と制御信号Sg11を比較する場合は制御システムの稼働状態をそろえておくことが大切である。すなわち、正常信号生成部23で生成される正常制御信号が得られる稼働状態とほぼ同じ稼働状態での制御信号Sg11を比較して評価することが重要である。
【0050】
このように、本実施例によれば制御システムの初期の制御信号Sg11から正常制御信号Sg14を作成し、制御システムの稼働に伴って生成される制御信号Sg11を正常制御信号Sg14と比較して評価、判定することによって制御システムに異常が発生しそうだという予兆を検出すことができるので、制御システムの緊急停止といったトラブルが発生する前に異常を事前に把握できるようになって制御システムの稼働安定性を向上することができる効果が期待できる。
【実施例2】
【0051】
次に、本発明の第2の実施例について図4及び図5を用いて説明するが、図4は異常予兆診断機能を有するプラントシステムのブロック図であり、このプラントシステムは概ね図1に示すプラントシステムと同様の構成を採用しているが、異なる点は正常制御信号の作成方法である。
【0052】
図4に示す比較信号記憶装置41は図5にある通り教師信号データベース51によって構成されており、この教師信号データベース51に記憶されている教師信号は制御信号生成装置11から到来する制御信号Sg11の到来タイミングに同期して読み出されて異常予兆検出装置15に送られるものである。
【0053】
教師信号データベース51の教師信号は制御信号Sg11に関係する設計基準値、或いは仕様書で規定されている制御基準値に対応しており、この基準値が正常制御信号Sg41として読み出されて使用されるようになっている。
【0054】
尚、上述しているが正常制御信号Sg41と制御信号Sg11を比較する場合は制御システムの稼働状態をそろえておくことが大切である。すなわち、教師信号である基準値が定められる稼働状態とほぼ同じ稼働状態での制御信号を比較して評価することが重要である。
【0055】
そして、制御信号Sg11の到来よって教師信号データベース51から読み出された正常制御信号Sg41は異常予兆検出装置15に送られ、この異常予兆検出装置15で制御信号生成装置11からの制御信号Sg11と比較されて評価値が求められるものである。
【0056】
この異常予兆検出装置15の機能、作用等は図1に示す異常予兆検出装置15と同様であるのでここではその説明は省略する。
【0057】
次に、異常予兆信号Sg15は異常予兆報知装置16に送られ、ここでオペレータ等の作業者に異常が発生しそうであるというメッセージを知らせて制御しステムの表示画面に表示したり、音声によって報知したりする。これによってオペレータは異常予兆を把握することができるようになる。
【0058】
ここで、教師信号データベース51は制御システムの実際の稼働状態に対応した複数の教師信号を記憶していても良いものである。具体的には、或る動作状態パラメータの変化とこれに対応する教師信号(基準値)がテーブルとして記憶されており、センサよって検出された動作状態パラメータの大きさに対応する教師信号をテーブルから読み出し、これを教師信号として異常予兆検出装置15で比較判断するものである。
【0059】
更に、これとは別に制御システムの稼働時間をパラメータとして、同じ稼働状態での教師信号を経過時間変化に合わせて複数予め求めておき、これを教師信号として用いることもできる。具体的には制御信号の到来回数を積算するとか、経過時間を測定することによってこれに対応した教師信号を読み出し、この読み出した信号を教師信号とするものである。
【0060】
このように、本実施例によれば予め求めた教師信号から正常制御信号Sg41を作成し、制御システムの稼働に伴って生成される実際の制御信号Sg11を正常制御信号Sg41と比較して評価、判定することによって制御システムに異常が発生しそうだという予兆を検出すことができるので、制御システムの緊急停止といったトラブルが発生する前に異常を事前に把握できるようになって制御システムの稼働安定性を向上することができる効果が期待できる。
【実施例3】
【0061】
次に、本発明の第3の実施例について図6及び図7を用いて説明するが、図6は異常予兆診断機能を有するプラントシステムのブロック図であり、このプラントシステムは概ね図1に示すプラントシステムと同様の構成を採用しているが、異なる点は異常予兆検出装置の構成である。
【0062】
図6において異常予兆検出装置61は図7に示すように、比較手段71と異常度算出手段72とより構成され、異常度信号Sg61を出力するように構成されている。ここで、比較手段71の機能、作用等は図1に示す比較手段14と同様であるのでその説明は省略する。
【0063】
比較手段71での評価値は異常度算出手段72に送られ、この評価値に基づいて制御信号の異常度を算出する。この制御信号の異常度は評価値によって変わるものであり、具体的には正常制御信号Sg14と制御信号Sg11のユークリッド距離やハミング距離などを用いた類似度によって評価される。例えば、制御信号Sg11の到来毎に制御信号Sg11と正常制御信号Sg14の差分を演算し、この差分を所定個数加算して累積値を求めて所定の閾値とどの程度ずれているかによって異常度を求めることや、制御信号Sg11の到来毎に制御信号Sg11が正常な状態か、あるいは異常な状態かを判断し、所定の判断回数にわたって正常或いは異常の個数を加算して所定の閾値回数とどの程度ずれているかによって異常度を求めることができる。
【0064】
異常度算出手段72によって算出された異常度は異常予兆放置装置16に送られ、ここでオペレータ等の作業者に異常が発生しそうであるというメッセージを知らせてステムの表示画面に表示したり、音声によって報知したりする。これによってオペレータは異常予兆を把握することができるようになる。
【0065】
このように、本実施例によれば制御システムの初期の制御信号Sg11から正常制御信号Sg14を作成し、制御システムの稼働に伴って生成される制御信号Sg11を正常制御信号Sg14と比較して評価、判定することによって制御システムに異常が発生しそうだという予兆を検出すことができるので、制御システムの緊急停止といったトラブルが発生する前に異常を事前に把握できるようになって制御システムの稼働安定性を向上することができる効果が期待できる。
【0066】
また、本実施例では異常度を求めているので、制御システムの異常がどの程度まで進行しているかという異常度合いを事前に求めることができるので細かい保守管理が可能となる効果が期待できる。
【実施例4】
【0067】
次に、本発明の第4の実施例について図8乃至図10を用いて説明するが、図8は異常予兆診断機能を有するエレベータシステムのブロック図であり、特にエレベータ用乗りかごの開閉ドアの異常予兆診断に適用した例を示している。
【0068】
このエレベータシステムは図10にあるように、基本的には昇降路(図示せず)内に配置された乗りかご101をこれも昇降路に設けた制御盤102によって運行管理するものであり、周知のシステム構成となっている。
【0069】
乗りかご101は2枚のエレベータ開閉ドア103、104を有し、このエレベータ開閉ドア103、104は乗りかご101の上部に取り付けたレール105上を案内車106によって移動できるようになっている。エレベータ開閉ドア103,104には連結帯107によってベルト機構108に連結されており、ベルト機構108よってそれぞれエレベータ開閉ドア103、104は開き方向或いは閉じ方向に駆動されるようになっている。更にベルト機構108は電動機109によって駆動されるようになっており、電動機109は駆動回路110によって制御されるようになっている。駆動回路110は昇降路に設けられている。
【0070】
また、駆動回路110は制御盤102によってその作動量が決められるようになっており、制御盤102には種々のセンサ出力が入力される構成となっている。
【0071】
制御盤102は更に通信網111を介して情報監視センタ112と情報をやり取りできるように繋がれており、情報監視センタ112では図8に示した制御信号収集装置84や異常予兆検出装置85の機能を備えた制御信号異常出力(=異常予兆)検出装置113及び制御信号異常出力検出装置113の検出結果を表示したり報知したりするディスプレイ115が備えられている。また、情報監視センタ112に制御信号異常出力(=異常予兆検出信号)データベース114を有することで、制御信号異常出力検出装置113の異常予兆検出結果出力を記憶しておけば、実際に故障が起こった際の原因究明に利用できる。
【0072】
ここで、制御信号異常出力検出装置113は情報監視センタ112に備えるようにしたが、制御盤102に備えるようにして異常予兆検出結果を通信網111を介して情報監視センタ112に送る構成としても良い。通常はこの構成を採用することが制御盤102の保守、点検の観点から合理的である。
【0073】
このようなエレベータシステムにおいて、再び図8に戻り実施例の詳細を説明すると、エレベータ開閉ドア82(図9のドア103、104に該当する)の作動状態を検出する動作情報センサ83として開閉ドア位置センサ、速度センサ、トルクセンサが使用されている。
【0074】
開閉ドア位置センサはエレベータ開閉ドアの位置を検出するものであり、周知の抵抗式センサを用いて検出することができる。速度センサは電動機109の回転速度を検出するものであり、周知の磁気抵抗式の回転センサを用いて検出することができる。トルクセンサは電動機109の回転トルクを検出するものであり、これも周知の電流センサを用いて検出することができる。
【0075】
制御信号生成装置81(図9での制御盤102に該当する)には開閉ドア位置センサ、速度センサ、トルクセンサの信号が入力され、制御信号としてエレベータ開閉ドア103、104を駆動する電動機制御信号が出力される。
【0076】
この電動機制御信号は制御信号収集装置84に送られ、例えば図1に示す実施例に倣うならばエレベータシステムが建築物に設置された時の初期の電動機制御信号である。そしてこの初期の電動機制御信号は図1に示すように制御信号の到来に同期して制御データベース21に複数個蓄積され、正常制御信号生成部22にて平均値演算等を実行して正常制御信号が生成される。
【0077】
一方、エレベータシステムの稼働状態が時間的に進行していく過程で、例えば、エレベータ開閉ドア103、104を開閉する動作において、種々の原因でエレベータ開閉ドア103,104の位置が正常位置まで戻っていなかった場合に、これを是正して次のエレベータ開閉ドア103,104の開閉動作を正常に動かす必要がある。
【0078】
このため、制御信号生成装置81はエレベータ開閉ドア103,104を開閉する動作を正常に動かすために電動機制御信号を補正して初期の正常制御信号と異なる電動機制御信号を生成してエレベータ開閉ドア103、104を正常に動作するように電動機109を駆動する。
【0079】
したがって、エレベータ開閉ドア103、104の動作は一見正常に動作しており異常が発現していないが、実際には異常が発生する危険性を有しているわけである。
【0080】
これに対して、エレベータシステムとしては一見正常に動いていても、本実施例においては電動機109を駆動する制御信号と正常制御信号を異常予兆検出装置85に入力することによって、電動機の異常(制御機器である電動機109の作動に関係する異常等)を検出できるようになり、機器が正常に動作している場合でも、異常の予兆を検知することが可能である。
【0081】
上述したが、図8において制御信号収集装置84、異常予兆検出装置85は図10に示す制御盤102に備えていても良いし、情報監視センタ112に備えられていても良いものである。いずれにしても異常予兆検出信号は情報監視センタ112において確認することができる。
【0082】
したがって、エレベータ開閉ドア103,104の異常予兆は遠隔診断ができるので、エレベータの保守作業員は情報監視センタ112からの指示でエレベータ開閉ドア103,104の異常が発生する前に保守、保全ができるようになり、エレベータシステムの緊急停止といったトラブルを事前に回避することが可能となる。
【0083】
ここで、図8に示した構成は機能的なブロックで説明したが、実際には計算機によってその診断制御が実施されるものであり、エレベータシステムの場合の異常予兆診断について図9に示すフローチャートで再度説明する。
【0084】
図9において、ステップ91(以下“ステップ”を“S”と表記する。)において、開閉ドア位置センサ、速度センサ、トルクセンサからそれぞれドア位置、速度、トルクを検出し、続くS92でこれらのドア位置、速度、トルクからエレベータ開閉ドアを駆動する電動機の制御信号を生成する。
【0085】
一方、S93で電動機の教師制御信号を作成し、続くS94でクラスタリング(学習)を実施する。このクラスタリングは統計学的な手法であって、制御信号収集装置14に記憶しておいた教師制御信号、つまり正常制御信号を用いて学習をおこなうものである。具体的には教師制御信号の統計的特徴量を計算することによって求めることができる。
【0086】
次にS95に進んで、診断のためのクラスタリングを実施する。このステップにおいては、ドア駆動用の電動機制御信号の統計的特徴量を計算し、更にS94で求めた教師制御信号の統計的特徴量との差分を計算する。
【0087】
S95で差分が計算されるとS96に進み、このS96で統計的特徴量の差分が閾値以上であると判断されると異常であるのでS97に進んで制御信号の異常を出力し、統計的特徴量の差分が閾値以下であると判断されると正常状態であるのでS98に進んでそのまま診断を終了する。
【0088】
このように、本実施例によればエレベータシステムの乗りかごの開閉ドアを制御するシステムにおいて、エレベータ開閉ドアを駆動する電動機の制御信号から正常制御信号を作成し、エレベータの稼働に伴って生成される電動機の制御信号を正常制御信号と比較して評価、判定することによってエレベータ開閉ドアに異常が発生しそうだという予兆を検出すことができるので、エレベータ開閉ドアの乗客の閉じ込めトラブルといった緊急事態が発生する前に異常を事前に把握できるようになってエレベータシステムの稼働安定性を向上することができる効果が期待できる。
【符号の説明】
【0089】
11…制御信号生成装置、12…プラント機器、13…センサ、14…制御信号収集装置、15…異常予兆検出装置、16…異常指示装置、21…制御信号データベース、23…正常信号生成部、24…カウンタ、31…比較手段、32…判定手段、41…比較信号記憶装置、51…教師信号データベース、71…比較手段、72…異常度算出手段、101…乗りかご、103,104…エレベータ開閉ドア、109…電動機、110…駆動回路、112…情報監視センタ、114…表示画面、113…制御信号異常出力データベース。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御システムの動作情報等を検出するセンサの出力に基づいて前記制御システムの制御機器の作動量を演算し、前記作動量を前記制御機器に制御信号として出力する制御システムの制御装置において、
前記制御システムが正常なときの正常制御信号と実際の制御信号とを評価する評価手段と、
前記評価手段によって前記正常制御信号と実際の制御信号の間に所定の関連度が無いと少なくともその制御信号に関係する制御機器が異常要因或いは故障要因を含んでいると判定する判定手段と
を備えていること特徴とする制御システムの制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の制御システムの制御装置において、
前記制御装置は、複数の前記制御信号を所定の演算を実行して前記正常制御信号を求める制御信号収集手段を備えていること特徴とする制御システムの制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載の制御システムの制御装置において、
前記制御装置は、前記制御システムの初期の複数の制御信号を所定の演算を実行して前記正常制御信号を求める制御信号収集手段を備えていること特徴とする制御システムの制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載の制御システムの制御装置において、
前記制御信号収集手段は所定の数の制御信号を記憶する記憶手段と、前記記憶手段に記憶された
前記所定の数の前記制御信号を所定の演算を実行して前記正常制御信号を求める正常信号生成手段とよりなることを特徴とする制御システムの制御装置。
【請求項5】
請求項1に記載の制御システムの制御装置において、
前記制御装置は、前記正常制御信号として前記制御信号の基準値となる教師信号を記憶した教師信号記憶手段を備えていること特徴とする制御システムの制御装置。
【請求項6】
請求項5に記載の制御システムの制御装置において、
前記教師信号は前記制御信号に関係する設計基準値であること特徴とする制御システムの制御装置。
【請求項7】
請求項1に記載の制御システムの制御装置において、
前記正常制御信号と前記実際の制御信号は前記制御システムが同じ稼動状態の時に前記評価手段と
前記判定手段によって評価されることを特徴とする制御システムの制御装置。
【請求項8】
請求項1に記載の制御システムの制御装置において、
前記評価手段は前記正常制御信号と前記実際の制御信号の間の関連度の大きさを評価する機能を有しており、前記評価手段による関連度に応じて前記判定手段は前記異常要因或いは故障要因の度合いを判定する機能を有していることを特徴とする制御システムの制御装置。
【請求項9】
乗りかごに設けたエレベータ開閉ドアと、前記エレベータ開閉ドアを駆動する電動機と、少なくとも前記電動機の速度とトルク及び前記エレベータ開閉ドア位置から前記電動機の制御信号を求める制御装置とからなるエレベータシステムにおいて、
前記制御装置は前記電動機制御信号から正常電動機制御信号を求める正常電動機制御信号生成手段と、前記正常電動機制御信号と実際の電動機制御信号とを評価する評価手段と、前記評価手段によって前記正常電動機制御信号と実際の電動機制御信号の間に所定の関連度が無いと少なくとも前記電動機が異常要因或いは故障要因を含んでいると判定する判定手段とを備えていること特徴とするエレベータシステム。
【請求項10】
請求項9に記載のエレベータシステムにおいて、
前記制御装置は通信網を介して情報監視センタとつながれており、少なくとも前記評価手段と前記判定手段及び前記判定手段の判定結果を表示する表示手段を前記情報監視センタに設置したことを特徴とするエレベータシステム。
【請求項11】
請求項9に記載のエレベータシステムにおいて、
前記制御装置は通信網を介して情報監視センタとつながれており、少なくとも前記評価手段と前記判定手段は前記乗りかごが配置される昇降路に設けられ、前記判定手段の判定結果を表示する表示手段を前記情報監視センタに設置したことを特徴とするエレベータシステム。
【請求項12】
請求項11に記載のエレベータシステムにおいて、
前記情報監視センタには前記判定手段によって出力された異常予兆検出信号を記憶しておく異常予兆記憶手段が設けられていることを特徴とするエレベータシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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