説明

刺激唾液分泌量を測定する口腔乾燥症診断キット

【課題】口腔乾燥症の簡便な検査キットを提供する。
【解決手段】ペーパークロマトグラフイーの濾紙の特定位置にヨウ素とデンプンを一定量スポットして、さらに濾紙先端部にニコチンあるいはカプサイシンの唾液分泌刺激剤を塗布した口腔乾燥症診断用濾紙を作成し、被験者の口に入れて唾液吸収させ、その後、過酸化水素水で呈色するスポットの位置から刺激唾液分泌量を測定する。あるいは、呈色剤として予め塩化鉄(III)を濾紙に塗布しておくこと。試験濾紙先端部に唾液分泌刺激作用のあるカプサイシンあるいはニコチンを塗布することによって刺激分泌唾液量を測定して口腔乾燥症をより確実に診断することができる。また、呈色剤として過酸化水素溶液に替えて塩化鉄(III)を用いることによって、唾液の吸収と同時に呈色が進行するので判定が迅速容易になった。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口腔乾燥症の程度を判定する診断において、被験者の唾液分泌量を簡便に測定することのできる検査キットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
口腔乾燥症は唾液腺の器質的障害、分泌神経の障害、全身の代謝性疾患などにより唾液分泌量が低下し、口腔粘膜の乾燥症状を呈する疾病である。その結果、口内疼痛、灼熱感、味覚異常、嚥下障害、義歯不適合、睡眠障害、会話障害、口臭、ウ蝕、歯周疾患、口角糜爛、口腔カンジダ症などの併発を惹起する。平成13年度の厚生労働省の長寿科学総合研究事業「高齢者の口腔乾燥症と唾液物性の研究」による調査では、高齢者の27.7%は常に口腔乾燥感を自覚しており、軽度の乾燥自覚者を含めると56.7%の高率であった。また、65歳未満の若年層においても、常時乾燥感自覚者が10.5%、軽度を含めると35.1%で、年齢に関わりなく口腔乾燥症が多く認められている(非特許文献1)。一方、Fieldら(非特許文献2)は人口の10%以上が口腔乾燥症であると報告している。
【0003】
口腔乾燥症の早期発見および診断は全身並びに口腔の健康維持にとって重要である。しかしながら、その診断法として唾液分泌量の測定や唾液腺造影などが行われているが、操作の煩雑性などから必ずしも十分に活用されていない。
【0004】
我々はペーパークロマトグラフイーの原理とヨードデンプン反応を組み合わせた簡便な診断濾紙を作成し、局方過酸化水素水(オキシドール)あるいはヨウ素デンプン反応を呈色することのできる試薬の滴下による青色あるいは褐色の呈色反応によるって識別する口腔乾燥症の診断キットを考案した(特許文献1)。ここにおいては、可溶性デンプン、ヨウ化カリウム(関東化学株式会社)、クロマトグラフィー用濾紙(長さ70mm、幅21.0mm、厚さ0.7mm、Advantec、No.526、東洋濾紙会社)を用いて口腔乾燥症診断用濾紙を調製した。すなわち、1%デンプン溶液3容量と0.3Mヨウ化カリウム溶液1容量を混合した検出用試薬4mlを、マイクロピペットを用いてクロマトグラフィー用濾紙に3から5箇所スポットした。口腔乾燥症の判定は口腔乾燥症診断濾紙を口腔の舌下口底部に挿入した後、呈色液添加により呈色したスポットの数より判定した。一般に口腔乾燥症の検査は安静時唾液量の低下より判定されるが、より正確な唾液分泌機能を評価するには刺激唾液量を並行して測定する必要がある。刺激唾液量の評価法にはガム法やガーゼの咀嚼によるサクソン法など既に確立されているが、測定時間、器具の準備など煩雑な測定操作に問題がある(非特許文献3、4、5、6)。

【0005】
【特許文献1】特願2008-116506
【非特許文献1】柿木保明、岩木悦央:口腔乾燥感と口腔乾燥度に関する研究―高齢者の口腔乾燥症と唾液物性に関する研究、平成14年度厚生科学研究費研究報告書、2003年22−26頁
【非特許文献2】EA Field et al. Age and medication aresignificant risk factors for xerostomia in an English population, attendinggeneral dental practice. Gerodontology, 18, 21-24 (2001)
【非特許文献3】W.Sakamoto etal. : Simple screening for dry mouth. J Nutrition,Health & Aging 13,Supplement 1, S216 (2009)
【非特許文献4】T.Kanehira,W.Sakamoto et al. : A pilot study of a simple screening technique forestimation of salivary flow. Oral Surg Oral Med Oral Pathol Oral Radiol, 108,389-393 (2009)
【非特許文献5】磯村 治男、坂本 亘ら. 新規の口腔乾燥症診断濾紙の開発とその応用.日本口腔検査学会抄録集(10月4日)、p52 , 2009.
【非特許文献6】Wang SL et al. : Investigation ofthe clinical value of total saliva flow rates. Arch Oral Biol., 43, 39-43(1998)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
解決しようとする課題は、口腔乾燥症の診断において、刺激唾液分泌量を簡便でかつ信頼できる測定方法を作ることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、溶液が、定量的にしみこんで展開されるというペーパークロマトグラフイーの原理とヨードデンプン反応を組み合わせた診断濾紙を作成し、それに加えてカプサイシンやニコチンなどの唾液分泌刺激物質を追加して塗布し、乾燥させた試験紙として作成する。それを被験者の口に一定時間含ませた後、呈色薬の滴下あるいは予め塗布することなどによる呈色を行うことを主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の口腔乾燥症診断キットは、被験者が、一定時間、当該診断濾紙を口に含んだ後、カプサイシンあるいはニコチンの刺激により確実かつ短時間に唾液が分泌され当該診断濾紙に速やかに吸収されることを特徴としている。当該診断濾紙を口から取り出し呈色薬である局方過酸化水素水(オキシドール)などの呈色薬の滴下、あるいは、予め配合した塩化鉄(III)などで反応させることによって明瞭な呈色を得ることより、肉眼的に簡単に結果を判定できるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
クロマトグラフィー用の濾紙を短冊状に切り、その端から一定位置にデンプンとヨウ化カリウムを含ませた部分を作る。濾紙の口に直接つける末端部分にカプサイシンあるいはニコチンを一定量、塗布または吸収させておく。被験者の唾液を吸収させた後、呈色液を滴下して青色あるいは褐色に呈色することによって、最小の仕掛けで、定量的に刺激唾液の分泌量の測定を実現した。あるいは、濾紙に予め塩化鉄(III)を一定量吸収させておくことにより、唾液の吸収と同時に呈色が起こり判定を行うことができる。

【0010】
カプサイシンによる唾液分泌刺激効果は、以下のようにすでに知られている事実である。即ち、カプサイシンはクエン酸など他の味覚刺激剤と同様に、味覚反射すなわち三叉神経―副交感神経反射を介して唾液分泌を刺激する(非特許文献7、8)。そしてその刺激効果は極めて短く(2秒)、刺激開始直後より唾液分泌を惹起した(非特許文献9)。
【非特許文献7】Duner-Engstrom M et al. Autonomic mechanism underlying capsaicininduced oral sensations and salivation in man. J Physiol, 373, 87−96(1986)
【非特許文献8】Nasrawi CW and Pangborn RM. Temporalgustatory and salivary responses to capsaicin upon related stimulation. PhysiolBehav, 47, 611−615 (1990)
【非特許文献9】桑沢隆補 同時記録による左右両側および耳下腺―顎下腺の味覚反射性唾液分泌の電気生理学的研究 東女医大誌、63、400−408(1993)
【0011】
ニコチンによる唾液分泌刺激効果は、以下のようにすでに知られている事実である。即ち、ニコチンはニコチン受容体を介して副交感神経を刺激して唾液分泌を亢進させる。事実、Duner-Engstrom Mら、およびKhan GJらは、ニコチン溶液を口腔内に含ませることにより唾液分泌が亢進することを報告している(非特許文献7、10)。

【非特許文献10】Khan GJ et al. Effects of long-term use oftobacco on taste receptors and salivary secretion. J Ayub Med Coll Abbottabad,15, 37−39 (2003)
【0012】
塩化鉄(III)によるヨードデンプン反応の呈色については、以下のようにすでに知られた事実である。即ち、塩化鉄(III)は、酸化剤の一つである(非特許文献11)、それゆえにヨウ化カリウム溶液に塩化鉄(III)が加わるとヨウ素が生じる。その結果、デンプンが存在するとヨードデンプン反応により青色に呈色する。
【非特許文献11】Pradyot Patnaik. Handbook of InorganicChemicals. McGraw-Hill, 2002, ISBN 0070494398
【0013】
口の中へ入れることによって唾液に分泌を促す物質や食品は、よく知られている。しかし、本願で用いることのできるものは、限られている。即ち、口腔乾燥症診断用濾紙の限られた面積に塗布することができて、その分量で唾液腺刺激効果があり、しかもその効果が即時的反応に基づかなければならないことが実験によって明らかになった。この観点から、本願の進歩性と有用性があると言える。種々の試験の結果、口腔乾燥症診断用濾紙の先端に塗布して目的を達成できるのは、カプサイシンとニコチンであることが判った。

【実施例1】
【0014】
カプサイシンの吸着バンドの作成とその効果
検出用試薬組成物とは、予め濾紙に塗布しておく試薬を呼ぶ。検出用試薬組成物は、可溶性デンプン(関東化学株式会社)及びヨウ化カリウム(関東化学株式会社)を用いて下記のように調製した。すなわち、デンプン溶液は、可溶性デンプン1gを0.1M Tris-塩酸緩衝液(pH7.3)99mlに溶解して1%溶液を作成した。ヨウ化カリウム溶液は、ヨウ化カリウム4.97gを0.1M Tris-塩酸緩衝液(pH7.3)100mlに溶解して0.3Mヨウ化カリウム溶液を作成した。次に、作成したデンプン溶液3mlとヨウ化カリウム溶液1mlを混合して、検出用試薬組成物を調製した。次に、この検出用試薬4mlをクロマトグラフィー用濾紙(長さ70mm、幅21.0mm、厚さ0.7mm、Advantec、No.526、東洋濾紙会社)に4あるいは5箇所滴下し、暗所下で乾燥させて検出用試薬組成物を作製した。そして次にその濾紙にカプサイシン溶液を塗布し、自然乾燥させてカプサイシン含有の刺激唾液測定用濾紙を作製した。すなわち、カプサイシン溶液(0.04mg/ml〜0.133mg/ml)はカプサイシン(和光純薬・一級)をエタノール(関東化学・特級)に溶解して調整し、その60mlを安静時唾液測定用濾紙(特許文献1)の先端部より浸透させ、自然乾燥させた。

【0015】
口腔乾燥診断用濾紙にカプサイシン溶液を塗布し、乾燥させることにより簡単に刺激唾液量を評価することが可能となった。カプサイシン溶液はカプサイシン(和光純薬、一級)をエタノール(関東化学・特級)に溶解した。そして濾紙の先端部より60mlのカプサイシン溶液を浸透させ、自然乾燥させた。その結果、塗布面積10.8×21.0 mmを有するカプサイシン含有の口腔乾燥診断用濾紙が作成できた。

【0016】
濾紙上のカプサイシン分布:カプサイシンはフェノール化合物の一つであるため塩化鉄(III)溶液を加えると紫系に呈色する(非特許文献2)。それゆえに濾紙上のカプサイシン分布は1%塩化鉄(III)水溶液による呈色反応より確認した(非特許文献12)。その結果、カプサイシンの塗布面積は一様で10.8±0.3×21.0mm (n=8)であった(図1、2)。この結果から上述の方法を用いればカプサイシンを一定濃度で濾紙先端部分に塗布できることが明確になった。
【非特許文献12】Furnell, B.S.; et al. (1989). Vogel's Textbook of PracticalOrganic Chemistry (5th ed.). New York: Longman/Wiley.
【実施例2】
【0017】
実施例1で作成したカプサイシン含有の口腔乾燥診断用濾紙を用いて、健常人を被検者とした試験を実施した。試験では、濾紙に塗布するカプサイシン量を種々変化させて最適な量を探した。塗布したカプサイシン量は、1枚当たりの試験濾紙における重さで表現した(表1)。

【0018】
表1.カプサイシン含有濾紙における健常人唾液採取(1分間)とスポット呈色反応


+:スポット全体が青色に呈色
±:スポットの一部が青色に呈色
−:スポット全体が呈色せず

【0019】
唾液分泌の刺激効果はカプサイシンの塗布量に依存した。しかしながら、カプサイシンが1.4mg以上ではその刺激効果は一定で、むしろ濃度に依存して強い痛みを感じた。そのため刺激濃度として1.4mg〜2.0 mgのカプサイシン量が適切であることが判った。興味あることにカプサイシンは味覚反射で起こる唾液分泌(三叉神経―副交感神経反射)であるので、瞬時にその効果を発揮した。また、エタノールに可溶のため、濾紙への塗布、乾燥が容易であった。

【実施例3】
【0020】
クエン酸、メントールおよびピロカルピンによる唾液分泌刺激作用。
カプサイシンに替えて多くの物資での唾液分泌刺激効果を調べた。クエン酸もカプサイシンと同じように即効的な唾液分泌の刺激効果が認められたが、その刺激効果は、高濃度(2000mg)が必要であることが判り(表2)、濾紙に塗布してその後の乾燥時間に問題が生じ、また呈色反応を妨害し、正しい判定を下すことができなかった。カプサイシン、クエン酸以外に刺激剤としてピロカルピン、メントールなどが考えられたが、これらの刺激効果は短時間ではほとんど観察できなかった(表3,4)。特にピロカルピンは唾液分泌刺激剤の薬として使用されているが、その作用はムスカリン受容体を介するためピロカルピンの浸潤に時間がかかり、その刺激効果は遅延性であると考えた。さらに、ピロカルピンは副交感神経を興奮させることから、心臓機能を抑制することが報告されている(非特許文献13)。
【非特許文献13】DJ Aframian et al. Pilocarpine treatment in a mixed cohort ofxerostomic patients. Oral Diseases, 13, 88−92 (2007)
【0021】
表2.クエン酸含有濾紙における健常人唾液採取(1分間)とスポット呈色反応


+:スポット全体が青色に呈色
±:スポットの一部が青色に呈色
−:スポット全体が呈色せず

【0022】
表3.メントール含有濾紙における健常人唾液採取(1分間)とスポット呈色反応


+:スポット全体が青色に呈色
±:スポットの一部が青色に呈色
−:スポット全体が呈色せず

【0023】
表4.ピロカルピン含有濾紙における健常人唾液採取(1分間)とスポット呈色反応


+:スポット全体が青色に呈色
±:スポットの一部が青色に呈色
−:スポット全体が呈色せず

【実施例4】
【0024】
正常および口腔乾燥症の被験者を用いた試験。
実際の唾液分泌量と呈色したスポットの数と位置関係を調べた。In vitro実験において、プールされたヒト混合唾液を用いて唾液量とスポット呈色反応の関係について調べたところ、表5に示すように唾液量と呈色したスポット数の間に負の相関が見られた。呈色したスポットの位置(Spot No.)を知ることによって唾液の分泌量を定量的に知ることができることが判る。

【0025】
表5.唾液量とスポット呈色反応の関係



+:スポット全体が青色に呈色
±:スポットの一部が青色に呈色
−:スポット全体が呈色せず

【0026】
カプサイシン含有量(2.0mg)の試験濾紙における唾液採取(2分間)とスポット呈色反応の関係を調べた。
一般に口腔乾燥症の検査は安静時唾液量の低下より判定されるが、より正確に評価するには刺激唾液量を並行して測定する必要がある(非特許文献6)。表6に示すように口腔乾燥を訴える患者に対して、濾紙法における安静時唾液量および刺激唾液量は、ともに有意に低下していることが分かった。また、まれに安静時唾液量が低下していると判定された正常群ではカプサイシン含有濾紙法で検査することにより口腔乾燥症でないことを明確に判定することができた。

【0027】
表6.カプサイシン含有(2.0mg)濾紙における唾液採取(2分間)とスポット呈色反応


+:スポット全体が青色に呈色
±:スポットの一部が青色に呈色
−:スポット全体が呈色せず

【0028】
カプサイシン含有(1.4mg)の試験濾紙における唾液採取(2分間)とスポット呈色反応の関係を調べた。
カプサイシン1.4 mgを含有する口腔乾燥診断用濾紙において、その刺激効果は2.0mg含有カプサイシンと同様にほぼ同じ結果が得られた。すなわち、口腔乾燥症患者において、両カプサイシン量による刺激唾液は共に安静時唾液を反映して健常人に比して唾液分泌量が低いことがわかった。従って、刺激剤として1.4 mg〜2.0 mg のカプサイシン量が口腔乾燥症の判定に適量であることが裏付けられた。

【0029】
表7.カプサイシン含有(1.4mg)濾紙における唾液採取(2分間)とスポット呈色反応

+:スポット全体が青色に呈色
±:スポットの一部が青色に呈色
−:スポット全体が呈色せず

【実施例5】
【0030】
ニコチン吸収バンドによる唾液分泌刺激効果
ニコチン含有濾紙の作製
ニコチン(Sigma-Aldrich Co., MO, USA)をエタノール(関東化学株式会社・特級、東京)に溶解した。そして濾紙の先端部より60mlのニコチン溶液を浸透させ、自然乾燥させた。浸透させるニコチン溶液の濃度を種々変化させて、濾紙上の最終重量をゼロから480mgの試験用濾紙を作成した(表8)。これを用いて健常人で唾液吸収試験を行った。ニコチンによる唾液分泌の刺激効果は、ニコチンに依存した。しかしながら、240mg以上ではその刺激効果は一定で、むしろ量に依存して強い痛みを感じた。そのため刺激量として濾紙上の最終重量としてニコチン60mg〜120mgが、適当であることが判った。尚、ニコチンはニコチン受容体を介して瞬時に唾液分泌を亢進させることが報告されている(非特許文献7)。

【0031】
表8.ニコチン含有濾紙における健常人唾液採取(1分間)とスポット呈色反応


+:スポット全体が青色に呈色
±:スポットの一部が青色に呈色
−:スポット全体が呈色せず

【実施例6】
【0032】
塩化鉄(III) 量とヨードデンプン反応
ヨードデンプン反応の至適塩化鉄(III)量を調べるために、種々の濃度(0.125%〜8%)の塩化鉄(III)溶液を調製し、濾紙先端部に30 ml塗布した。1%デンプン溶液3 mlと0.3Mヨウ化カリウム溶液1mlよりなる検出用試薬組成物において、ヨードデンプン反応は31.6mg以上の塩化鉄(III)で呈色が目視され、塩化鉄(III)量の上昇と共に強く反応した(表9)。塩化鉄(III)濃度が、126.4mg以上による呈色反応は、ほぼ一定で最高値に達していた。それゆえに126.4mg塩化鉄(III)の呈色反応を100%として表記した。尚、呈色は分光色差計(NF333;日本電色工業株式会社)を用いて反射波長620nmで測定した。
しかしながら他の塩化物溶液(塩化鉄(II)、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム)は126.4mgにおいてまったく呈色しなかった。塩化鉄(III)は、過酸化水素に代替できる呈色剤であり、さらに有用なことに唾液採取中に呈色する。即ち唾液採取後に過酸化水素を添加する必要が無くなる。

【0033】
表9. 塩化鉄(III)による呈色


(*)%呈色度(塩化鉄(III)126.4mgの呈色度(A620)を100%)

【産業上の利用可能性】
【0034】
被験者の口に含ませ刺激唾液を吸収させた濾紙においてヨードデンプン反応を行うことによって簡単な操作で口腔乾燥症の診断を行うことができる。

【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】口腔乾燥診断用濾紙のサイズ例構内へ入れる先端部分(図では右端)にカプサイシンまたはニコチンを塗布した。
【図2】カプサイシンの塗布帯の確認試験左は、カプサイシンを浸透させていない濾紙、右は、カプサイシンを浸透させたもの。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
口腔乾燥症を診断するために、ヨウ化カリウムとデンプンを予め浸透させておいた濾紙を製造し、その一端を口に入れて唾液を吸収させ、一定時間後に口から出して、呈色試薬として局方過酸化水素水(オキシドール)を塗布して、青色の呈色によって唾液の分泌量を測定する方法および口腔乾燥症診断用キット(特願2008-116506)において、唾液の分泌を刺激して出る「刺激唾液」量を測定するために濾紙の唾液吸収側にカプサイシンを濾紙の先端部の約1cmに予め塗布した唾液分泌量を測定する口腔乾燥症診断用キット。

【請求項2】
請求項1において、濾紙の先端部の約1cmに予め塗布するカプサイシンの量は、0.5mg以上が好ましく、より好適なのは1.4〜2.0mgである刺激唾液分泌量を測定する口腔乾燥症診断用キット。

【請求項3】
口腔乾燥症を診断するために、ヨウ化カリウムとデンプンを予め浸透させておいた濾紙を製造し、その一端を口に入れて唾液を吸収させ、一定時間後に口から出して、呈色試薬として局方過酸化水素水(オキシドール)を塗布して、青色の呈色によって唾液の分泌量を測定する方法および口腔乾燥症診断用キット(特願2008-116506)および請求項1において、検出用試薬組成物の組成を、過酸化水素水やアルコール類に換えて、塩化鉄(III)溶液を予め濾紙先端部に塗布することによって、より明瞭な呈色が得られる刺激唾液分泌量を測定する口腔乾燥症診断用キット。

【請求項4】
請求項3において、濾紙先端部に予め塗布する塩化鉄(III)の量は、15mg以上が好ましく、より好ましくは、30mg〜160mgである刺激唾液分泌量を測定する口腔乾燥症診断用キット。

【請求項5】
口腔乾燥症を診断するために、ヨウ化カリウムとデンプンを予め浸透させておいた濾紙を製造し、その一端を口に入れて唾液を吸収させ、一定時間後に口から出して、呈色試薬として局方過酸化水素水(オキシドール)を塗布して、青色の呈色によって唾液の分泌量を測定する方法および口腔乾燥症診断用キット(特願2008-116506)および請求項3において、唾液の分泌を刺激するために濾紙の唾液吸収側にニコチンを濾紙の先端部の約1cmに予め塗布した刺激唾液分泌量を測定する口腔乾燥症診断用キット。

【請求項6】
請求項5において、濾紙の先端部の約1cmに予め塗布するニコチンの量は、30mg以上が好ましく、より好適なのは60〜120mgである刺激唾液分泌量を測定する口腔乾燥症診断用キット。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−99677(P2011−99677A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−252535(P2009−252535)
【出願日】平成21年11月3日(2009.11.3)
【出願人】(593013074)
【出願人】(506185665)
【出願人】(509322454)
【Fターム(参考)】