説明

刺繍製品の製造方法及び当該製造方法により得られる刺繍製品

【課題】基布として組織が粗く透過性を有するレース地等を採用する刺繍製品にあっても、これまでにない多様な装飾性を得ることができ、付加価値の高い刺繍製品を得る。
【解決手段】透過性を有する基布2上に、所定形状の装飾布3が散点配置された状態で、基布2及び装飾布3に渡って刺繍を施して得ることができる刺繍製品1の製品図案を作成する製品図案作成工程と、基布2上に複数の装飾布3が留め付けられた刺繍対象布を得る一体化工程と、刺繍対象布を機械刺繍装置にセットし、製品図案に従って刺繍対象布に刺繍を施す刺繍工程を包含し、刺繍工程で施される刺繍4により、装飾布3の周部を基布2に散点留め付けする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レース地等の、密度が荒く、一定の透過性を有する基布に刺繍を施した刺繍製品の製造方法に関し、また、そのような製造方法によって製造された刺繍製品に関する。
【背景技術】
【0002】
レース地等の基布に刺繍を施した刺繍製品として、例えば、女性用下着類に使用される衣料用刺繍レースがある(例えば、特許文献1を参照)。
特許文献1の衣料用刺繍レースは、基布の裏側に対して別の生地を重ね合わせ、この状態で刺繍を施すことにより、基布と生地とが縫合されたレース製品としている。
この技術において、基布の裏側に生地を重ね合わせて刺繍を施す目的は、衣料用刺繍レースを最終製品(例えば、ブラジャー)とする場合に、裁断・縫製作業等が必要となるが、本来薄手であるレースを生地に裏打ちされたレース製品とすることで、加工作業を迅速且つ良好に行うためである。
従って、この衣料用刺繍レースでは、基布の大きさに合わせた生地が選択され、これらを重ね合わせた状態で、両者間に渡って刺繍が施される(当該明細書図2参照)。また、当該明細書の図1、図3を参照すると、この衣料用刺繍レースの装飾性は、実質的に刺繍パターンによりそのレースの装飾性が決まっている。
【0003】
【特許文献1】実開平5−10491号公報(図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、特許文献1の刺繍製品は、その装飾性が刺繍パターンによるものとなっているため装飾性に乏しい。装飾性を上げるために、当該明細書に記載の基布として、所定の装飾パターンを現出できるジャガードラッセルレースを採用できたとしても、その製品で実現できる意匠は、刺繍によるものと、レース地そのものによるものの組み合わせとなるに過ぎない。結果、多様な装飾パターンを有する刺繍製品を得たいとする目的からは、限界がある。この点、特に、女性用下着類等の刺繍製品にあっては、布地そのものの装飾性及びその多様性が非常に重要となる。
【0005】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、基布として組織が粗く透過性を有するレース地等を採用する刺繍製品にあっても、これまでにない多様な装飾性を得ることができ、付加価値の高い刺繍製品を得ることができる刺繍製品の製造方法を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成する刺繍製品の製造方法は、
透過性を有する基布上に、前記基布より小さい所定形状の複数の装飾布が散点配置された状態で、前記基布及び前記装飾布に渡って刺繍を施して得ることができる刺繍製品の製品図案を作成する製品図案作成工程と、
前記製品図案に基づいて、前記基布上に前記複数の装飾布が留め付けられた刺繍対象布を得る一体化工程と、
前記刺繍対象布を、機台幅方向に沿って整列される複数の刺繍針と、前記刺繍針それぞれに対応するシャットルボックスとを備え、前記刺繍針により刺繍表糸を前記刺繍対象布の表裏間に渡って案内するとともに、前記刺繍対象布の裏面側に設けられる前記シャットルボックスに収納されたシャットルから刺繍裏糸を送り出して、前記刺繍対象布と前記刺繍表糸との間に挿通させて刺繍表糸を刺繍対象布に留め付け、刺繍を施す機械刺繍装置にセットし、前記製品図案に従って、前記刺繍対象布に刺繍を施す刺繍工程を包含し、
前記刺繍工程で施される刺繍により、少なくとも前記装飾布の周部を前記基布に散点留め付けすることにある。
【0007】
この刺繍製品の製造方法では、製品図案作成工程で、基布上に複数の装飾布が散点配置された刺繍対象布に対して、刺繍を施す製品図案を作成する。ここで、本願にあっては、散点配置される装飾布の周部が刺繍により散点留め付けされることとする。従って、本願に係る刺繍製品では、少なくとも刺繍によって装飾布は基布にその周部で散点留め付けされる。
従って、本願の刺繍製品は、基布が有する装飾パターン上に、別個の装飾性を装飾布によって付与し、さらに刺繍により装飾性を出したものとなる。ここで、装飾布による装飾性の付与は、装飾布の散点配置、装飾布の外形形状及び装飾布自体が備える装飾性(例えば、レース柄)で得ることができる。
さらに、この刺繍製品(最終製品)では、装飾布を刺繍で留め付けるため、装飾布を別途刺繍とは別の手段で留め付ける必要は、必ずしもなくなる。
【0008】
さて、その製造に際しては、製品図案作成工程、一体化工程を経て、機械刺繍装置(エンブロイダーリレース機)で刺繍を施すため、スムーズに作業を進めることができる。
【0009】
上記の刺繍製品の製造方法において、前記製品図案作成工程と、前記一体化工程との間で、少なくとも、前記基布上に散点配置される前記複数の装飾布の前記基布上での位置が示された装飾布位置図案を作成する位置図案作成工程を実行し、
当該位置図案作成工程において、前記装飾布位置図案として、前記基布、前記装飾布及び前記複数の装飾布の前記基布上での散点位置に関して、実寸大の装飾布位置図案を作成し、
前記一体化工程において、前記装飾布位置図案及び前記基布を重ね合わせた状態で、前記装飾布を前記装飾布位置図案上における各装飾布の図案位置にあわせて一体化することが、好ましい。
【0010】
この作業手順を採用することで、製品図案が比較的複雑となり、基布における装飾布の位置が明確に確認し難い場合にも、装飾布位置図案を使用して迅速に作業を進めることができる。
さらに、装飾布位置図案として、実寸大のものを製作し、使用することで、容易に作業を進めることができる。
【0011】
さらに、前記一体化工程において、
前記装飾布位置図案と前記基布との間に透明板状部材を介装するとともに、
前記基布の端部間に張力を付与し、前記装飾布を前記装飾布位置図案上における各装飾布の図案位置にあわせて一体化することが好ましい。
これにより、作業者は、基布、透明板状部材を介して、装飾布位置図案上で装飾布の位置を上から確認することができる。また、装飾布位置図案と基布との直接接触をさけながら基布を汚すことなく、基布が充分に張った状態で、基布上への装飾布の一体化を行える。
【0012】
また、前記一体化工程において前記基布に前記装飾布を留め付けるに、粘着テープ、待ち針、ステープル、及び接着剤からなる群から選択される少なくとも一つを使用して留め付ける又は、前記基布に前記装飾布を縫い付けることも好ましい。
簡単、確実、且つ低コストで、基布と装飾布とを一体化することができる。
【0013】
前記一体化工程は、前記基布に前記装飾布を溶解除去可能な材料で留め付ける工程であり、前記刺繍工程の終了後に、前記溶解除去可能な材料を溶解除去することが好ましい。
この手法を採用すると、比較的簡単、確実に、基布と装飾布とを一体化することができる。また、刺繍工程の終了後に、溶解除去可能な材料を溶解除去することにより、本来、不要な一体化のための材料を除くことができ、必要とされる装飾性を発揮できる部位のみを残した製品とできる。また、製品が硬くなる等の問題は発生しない。
【0014】
さらに、前記一体化工程は、前記基布又は装飾布の構成材料を溶融させて、前記基布に前記装飾布を留め付ける工程であることがこの好ましい。
本構成の刺繍製品の製造方法によれば、基布又は装飾布の構成材料を溶融させて、基布に装飾布を留めることができるため、基布と装飾布とを一体化するための専用の材料は不要である。従って、本来不要な一体化のための材料が残るのを避けることができる。
【0015】
さて、装飾布としては、レース機により所定幅を有して製造されるレース地から、所定外形形状の装飾モチーフ部位を型抜きして得られるレース地部分であることが好ましい。レース地の持つ装飾性を利用することができるとともに、その型抜き形状からも独特の装飾性を与えることができる。
【0016】
本願に係る刺繍製品の基布はとしては、レース地を含む編地、織布からなる群から選択されるものを使用することで、様々な趣の刺繍製品を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態および図面に記載される構成に限定されるものではなく、本発明と均等な構成も含む。
【0018】
a 刺繍製品の構造
図6に、本願の刺繍製品の製造方法により製造された刺繍製品1を示した。
同図に示すように、本願に係る刺繍製品1は、基布2上に、所定の外形形状に型抜きされた装飾布3が散点配置されて構成されており、基布2と装飾布3とに渡って刺繍4が施されて構成されている。本願にあっては、図5に示すように、基布2上に複数の装飾布3が留め付けられた布地(仮留めされた布地)を機械刺繍装置5を使用して刺繍を施す刺繍対象布50とする。ここで、上記の留め付けは、装飾布3が基布2に製品レベルまで完全に留め付けられることを意味するものではなく、機械刺繍装置5において刺繍を施せる程度に、装飾布3が基布2に留め付けられていることを意味する。したがって、この段階の留め付けは、仮留めと呼べる。そして、本願に係る刺繍製品1では、刺繍は、少なくとも装飾布3の周部を基布2に散点留め付けするように行う。このようにすることで、少なくとも、基布2と装飾布3にわたる刺繍4により、或いは刺繍4と先に説明した仮留めとの両方により、装飾布3を基布2上に確実に留め付けられる。従って、刺繍4を終えることで、装飾布3は基布2に製品レベルで本留めされる。
【0019】
図6に示す例は、基布2にオーガンジーと呼ばれる薄手の透過性の織布を、装飾布3にリバーレースと呼ばれるリバーレースから所定の装飾モチーフ部位を型抜きした(当該所定の装飾モチーフ部位のみを切り取った)ものを使用している。
基布2としては、オーガンジーを使用できる他、マーキゼット、シャー等と呼ばれる目が粗く、透過性のある布地を採用することもできる。さらに、所定の透孔を備えたレース地(ラッセルレース地、刺繍レース地等)を含む比較的組織の粗い編地も採用することができる。レース地の場合、編組織としては、チュール組織が実用上、その美観、保形性の上で好ましい。本願にあっては、所定量以上の製造を効率的に行うことを目的とするため、基布2、装飾布3ともに、織機、編機を使用して機械的製造手法を用いて得られる布地を使用する。
【0020】
さて、刺繍に関しては、機台幅方向に沿って整列される複数の刺繍針51と、刺繍針51それぞれに対応するシャットルボックス52とを備え、前記刺繍針51により刺繍表糸40を刺繍対象布50の表裏間に渡って案内するとともに、刺繍対象布50の裏面側に設けられる前記シャットルボックス52に収納されたシャットル(図示省略)から刺繍裏糸(図示省略)を送り出して、前記刺繍対象布50と前記刺繍表糸40との間に挿通させて刺繍表糸40を刺繍対象布50に留め付け、刺繍を施す機械刺繍装置5を使用する。具体的には、機械刺繍装置5として、エンブロイダリーレース機を使用する。図6に示す例では、刺繍表糸として所定の色(具体的には金)に染色された合成繊維糸を、刺繍裏糸として棉糸を使用している。
【0021】
刺繍糸の種類としては、例えば、綿糸、絹糸、羊毛糸等の天然繊維由来の糸の他、ナイロン糸、ポリエステル糸、レーヨン糸等の合成繊維由来の糸を採用することができる。また、基布2、装飾布3、及び刺繍糸は、それぞれ先染めしたものであってもよいし、刺繍製品1が完成してから後染めしてもよい。あるいは、染色を行わないものであっても構わない。さらに、染色された合成フィルムを短冊状に切断して得られる糸状体を使用してもよい。
【0022】
b 刺繍製品の製造
以下、本願に係る刺繍製品1の製造工程を図面に基づいて説明する。
(1) 製品図案作成工程
透過性を有する基布2上に、この基布2より小さい所定形状の複数の装飾布3が散点配置された状態で、基布2及び装飾布3に渡って刺繍を施して得ることができる刺繍製品1の製品図案6を作成する。図1に、上記図6に示した刺繍製品の製品図案6を簡略化して示した。ここでいう製品図案6は、所謂、デザイン画といったレベルのものではなく、基布2上に散点配置される装飾布3の基布2上での位置、装飾布3の外形形状が明確に判るものであり、さらに、両者が一体化された刺繍対象布50に対する刺繍位置が明確に判るものである。従って、この製品図案に基づいて、刺繍工程まで完了することができる。図1では、装飾布3の位置を影付部13で、刺繍4の位置を実線14で示している。さらに、装飾布3としては、外形形状が異なる2種の装飾布3a,3bを使用するが、これらの位置を13a,13bで示している。図2、図3でも同じである。
この製品図案の作成段階で、基布2、装飾布3、刺繍表糸40及び裏糸の仕様は確定される。さらに、先に示したように、本願にあっては装飾布3として、リバーレース地の所定外形形状部分である装飾モチーフ部分を型抜きして使用するが、製造すべきリバーレースの仕様、及び型抜きの対象となる装飾モチーフ部位のリバーレースにおける型抜き部位の位置も決まることとなる。
【0023】
(2)装飾布の位置図案作成工程
この工程は、前記製品図案作成工程と、刺繍工程との間で、必要な場合に、前記基布2上に散点配置される前記複数の装飾布3の前記基布2上での位置が示された装飾布位置図案7を作成する工程である。基布2が比較的複雑な模様パターンを含んでおり、基布2の模様パターン、装飾布3の外形形状、模様パターン、さらには刺繍パターンを全て含む製品図案6を、基布2上での装飾布3の位置決めに使用するのが困難を伴う場合、基布2を図面上無地(無模様)のものとし、その上に装飾布3の外形形状とその散点位置を描いた装飾布位置図案7を作成する。この図案は、図1に示す製品図案6に対して、実質的に刺繍パターンを除いたものとなる。図1では、型抜きされた装飾布3の基布2上の位置及びその形状が影付きの部位13で示されており、刺繍パターンが実線14で示されている。
この図案の作成に関しては、本願で説明する例では、少なくとも基布2、装飾布3及び複数の装飾布の基布上での散点位置に関して、実寸大の装飾布位置図案7を作成する。
【0024】
(3)装飾布準備工程
先にも示したように、装飾布3は、リバーレース地の所定部位を型抜きしたものであるため、仕様に従って、リバーレース機を使用して装飾布用のリバーレースを製造するとともに、当該リバーレースの装飾布3として使用する模様パターン部位を型抜きして、複数の装飾布3を用意しておく。図1に示す例では、外形形状が異なった2種の装飾布3a,3bを用いる。
別途、基布2、刺繍表糸40及び刺繍裏糸も、その仕様に従って準備される。
【0025】
(4) 一体化工程
前記製品図案6に基づいて(上記の装飾布位置図案7を作成した場合は、装飾布位置図案7に基づいて)、基布2上に複数の装飾布3が留め付けられた刺繍対象布50を得る。先に説明した、装飾布3の基布2への仮留めを実行するのである。以下の説明では、装飾布位置図案7が得られているものとして、これを利用する場合について説明する。この一体化工程を、図2、図3に模式的に示した。
【0026】
この一体化工程においては、装飾布位置図案7及び基布2を重ね合わせた状態で、装飾布3を装飾布位置図案7上における各装飾布3の図案位置にあわせて一体化する。
具体的には、図2(a)(b)に示すように、作業台(図示省略)上に、装飾布位置図案7を広げ、その上に透明板状部材8としてのガラス板、透明のアクリル板等を載置する。そしてその上に基布2を載置する。このようにすることで、基布2、透明板状部材8を介して、作業者は、装飾布3の位置を上から確認することできる。このとき、装飾布位置図案7と基布2との直接接触が避けられるので、基布2が汚れない。基布2の両端部間には張力を付与することで、基布2が弛むのを防止することができる。そして、装飾布3を装飾布位置図案7上における各装飾布3の図案位置にあわせて一体化する作業を容易に進めることができる。
【0027】
図3(c)(d)に示すように、一体化(仮留め)に際しては、超音波融着装置9を使用して、基布2又は装飾布3あるいはそれらの両方の材料を溶融させて、基布2に装飾布3を留め付ける。図3(d)に示す例では、日本ヒューチャア株式会社製の超音波融着装置9(商品名:まっちくん)を使用して一体化を行っている状態を示している。この手法は、必ずしも、この手法のみで、確実に装飾布3を基布2に完全に製品レベルで留め付けるという程度の効果を得られるものではない。従って、本願では、不可避的に刺繍工程での刺繍4を、基布2と装飾布3との間で実行する必要がある。
【0028】
(5) 刺繍工程
以上のようにして得られる刺繍対象布50を機械刺繍装置5にセットして、刺繍をおこなう。機械刺繍装置5は、図5に示すように、機台の幅方向に沿って二段整列される複数の刺繍針51と、刺繍針51それぞれに対応するシャットルボックス52とを備えて構成される。この機械刺繍装置5によれば、刺繍針51により刺繍表糸40を刺繍対象布50の表裏間に渡って案内するとともに、刺繍対象布50の裏面側に設けられるシャットルボックス52に収納されたシャットル(図示省略)を移動させて刺繍裏糸(図示省略)を送り出して、刺繍対象布50と刺繍表糸40との間に挿通させて刺繍表糸40を刺繍対象布50に留め付け、所定の刺繍パターンを形成する。機械刺繍装置5の種類としては、例えば、カードに記録した柄模様の情報を読み取って糸を制御するジャカード装置付きの刺繍装置や、コンピュータ制御によるサーボモータ仕様の刺繍装置等を採用することができる。刺繍針51は、刺繍パターンに従って、群分けして出退制御される。
【0029】
図4(a)は、上下に位置されるロールに、刺繍対象布50を巻き付けた状態における、刺繍前の刺繍針51に対する刺繍対象布50の相対位置関係を示す説明図であり、図1に示す製品図案6に基づいて、機械刺繍装置5における刺繍開始位置に対する刺繍対象布50の縦方向位置(図における上下方向位置)及び横方向位置(図における左右方向位置)を調整して、刺繍対象布50を機械5にセットする。
同図には、図上、上側に刺繍針51の位置を示し、その下側に刺繍予定位置を一点鎖線で示している。さらに装飾布3を実線で示している。この図からも判明するように、刺繍予定位置は、装飾布3の周部に散点的に存在することとなるように配設されている。
このようにしたセット後、製品図案6に示される刺繍パターンに従って刺繍4を自動的に進めることで、所定外形形状の装飾布が刺繍により基布に留め付けられた刺繍製品1を得ることができる(図4(b))。
【0030】
[別実施形態]
(1)本発明の刺繍製品1においては、所定形状に型抜きした複数の装飾布3を、基布2に一体化するにおいて、複数の装飾布3を基布2の表側、裏側或いはそれらの両方に配設することができる。
さらに、これまで説明してきた装飾布3は、レース機から所定の幅を有して製造されるレースから型抜きしたものとしたが、このような装飾布に加えて、例えば、一定幅の装飾テープ、細幅レース等を型抜きした複数の装飾布の他に追加することもできる。この場合、型抜きして得られる装飾布の位置(表側若しくは裏側)とは反対側(裏側若しくは表側)に、これら装飾テープ、細幅レースを帯状に配設することが好ましい。このようにして製造される刺繍製品の機械刺繍装置5上における刺繍工程の状態を図7に示した。このようにして得られる刺繍製品は、図6に示す例とは異なった趣を呈することとなる。
この種の所定幅を有する、第二の装飾布10の仮止めは、先に示したように、機械刺繍装置5に刺繍対象布50をセットする前に行えるほか、機械刺繍装置5に刺繍対象布50をセットした状態で、機械幅方向に一段整列された刺繍針51の上面を基準に第二の装飾布10を位置決めして粘着テープ、待針等を利用して行うこともできる。このように、所定長を有する第二の装飾布10を仮止めする場合に、機台上でその作業を行うことで、第二の装飾布10の長手方向を、機械刺繍装置5の幅方向(刺繍針51の整列方向)に確実に合わせることができ、第二の装飾布10の模様パターンと刺繍パターンとの縦横方向を良好に一致させることができる。
(2)上記の実施形態では、複数の装飾布3として比較的複雑な模様パターンに型抜き装飾布を取り付けた刺繍製品の例を説明したが、装飾布として任意の形状ものとすることが可能である。例えば、円形、三角形、星型、雲形等の装飾布を使用できる。
【0031】
(3)上記の実施形態では、基布2と複数の型抜きした装飾布3との一体化工程(仮留め)において、基布2に装飾布3を留める際に、基布2或いは装飾布3の何れかの構成材料を溶融させる融着手法を採用したが、例えば、粘着テープ及び待ち針を使用して一体化工程を実行することも可能である。以下、その例について幾つか説明する。
例えば、仮固定手段として、ステープル、接着剤等を使用することもできる。これらの仮固定手段は、上記の実施形態で使用した融着手法と任意に組み合わせて使用可能である。
基布2と装飾布3との一体化工程を、基布2に装飾布3を溶解除去可能な材料で留めることで実行してもよい。溶解除去可能な材料の例としては、水溶性糸や水溶性糊が挙げられる。刺繍工程の終了後に、溶解除去可能な材料を溶解除去すれば、趣の異なるデザインの刺繍製品とすることができる。
基布2と装飾布3との一体化工程を、基布2に装飾布3を縫い付けることで実行してもよい。
これらの一体化工程は、簡単、確実、且つ低コストで、基布と装飾布とを一体化することができる。
(4)上記の実施形態では、基布2として織布であるオーガンジ、装飾布3として型抜きされたリバーレース地を夫々採用したが、基布は、レース地を含む編地、織布、及び不織布からなる群から選択することができる。また、これら布地に水溶性シート(水溶性繊維からなる不織布)を重ね合わせたものを「基布」として用いてもよい。
装飾布は、所定形状に型抜きされたレース地を含む編地、織布、又は不織布からなる群から選択される少なくとも一つとすることができる。
(5)これまでに説明した実施例のように、本願にあっては、装飾布の周部が基布に刺繍により装飾布の過半が基布からめくれあがらないようにし散点留め付けされておればよい。即ち、必ずしも、周部の全てを刺繍により周部に沿って留め付けする必要はない。刺繍が、周部から装飾布の内部に及んでいてもよい。刺繍により装飾布の周部を散点留め付けすることで、装飾布を基布に確実に保持でき、装飾布が基布から外れたり、めくれあがる等の問題を避けることができる。散点留め付けでは、装飾布の周方向の三方或は四方(例えば左右端及び上下端)が少なくとも留め付けられているのが好ましい。
このように、本発明の刺繍製品の製造方法によれば、様々な素材で種々の刺繍製品を得ることができる。
また、本発明の刺繍製品の製造方法により製造された刺繍製品は、基布と装飾布と刺繍パターンとが一体となった美しい外観を呈する刺繍製品となる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の刺繍製品を製造するための製品図案の構造を示す説明図
【図2】本発明の刺繍製品の製造方法における一体化工程を説明するための模式図
【図3】本発明の刺繍製品の製造方法における一体化工程を説明するための模式図
【図4】本発明の刺繍製品の製造方法における刺繍工程を説明するための模式図
【図5】本発明の刺繍製品を製造するための機械刺繍装置の要部を示す斜視図
【図6】本発明の刺繍製品の製造方法によって製造した刺繍製品の例
【図7】本発明の刺繍製品の製造方法によって製造する刺繍製品の刺繍工程を示す図
【符号の説明】
【0033】
1 刺繍製品
2 オーガンジー(基布)
3 型抜きされたリバーレース地の部分(装飾布)
4 刺繍
5 機械刺繍装置
51 刺繍針
52 シャットルケース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透過性を有する基布上に、前記基布より小さい所定形状の複数の装飾布が散点配置された状態で、前記基布及び前記装飾布に渡って刺繍を施して得ることができる刺繍製品の製品図案を作成する製品図案作成工程と、
前記製品図案に基づいて、前記基布上に前記複数の装飾布が留め付けられた刺繍対象布を得る一体化工程と、
前記刺繍対象布を、機台幅方向に沿って整列される複数の刺繍針と、前記刺繍針それぞれに対応するシャットルボックスとを備え、前記刺繍針により刺繍表糸を前記刺繍対象布の表裏間に渡って案内するとともに、前記刺繍対象布の裏面側に設けられる前記シャットルボックスに収納されたシャットルから刺繍裏糸を送り出して、前記刺繍対象布と前記刺繍表糸との間に挿通させて刺繍表糸を刺繍対象布に留め付け、刺繍を施す機械刺繍装置にセットし、前記製品図案に従って、前記刺繍対象布に刺繍を施す刺繍工程を包含し、
前記刺繍工程で施される刺繍により、前記装飾布の周部を前記基布に散点留め付けする刺繍製品の製造方法。
【請求項2】
前記製品図案作成工程と、前記一体化工程との間で、前記基布上に散点配置される前記複数の装飾布の前記基布上での位置が示された装飾布位置図案を作成する位置図案作成工程を実行し、
当該位置図案作成工程において、前記装飾布位置図案として、少なくとも前記基布、前記装飾布及び前記複数の装飾布の前記基布上での散点位置に関して、実寸大の装飾布位置図案を作成し、
前記一体化工程において、前記装飾布位置図案及び前記基布を重ね合わせた状態で、前記装飾布を前記装飾布位置図案上における各装飾布の図案位置にあわせて一体化する請求項1記載の刺繍製品の製造方法。
【請求項3】
前記一体化工程において、
前記装飾布位置図案と前記基布との間に透明板状部材を介装するとともに、
前記基布の端部間に張力を付与し、前記装飾布を前記装飾布位置図案上における各装飾布の図案位置にあわせて一体化する請求項2記載の刺繍製品の製造装置。
【請求項4】
前記一体化工程において前記基布に前記装飾布を留め付けるに、粘着テープ、待ち針、ステープル、及び接着剤からなる群から選択される少なくとも一つを使用して留め付ける又は、前記基布に前記装飾布を縫い付ける請求項1〜3の何れか一項に記載の刺繍製品の製造方法。
【請求項5】
前記一体化工程は、前記基布に前記装飾布を溶解除去可能な材料で留め付ける工程であり、
前記刺繍工程の終了後に、前記溶解除去可能な材料を溶解除去する請求項1〜3の何れか一項記載の刺繍製品の製造方法。
【請求項6】
前記一体化工程は、前記基布又は装飾布の構成材料を溶融させて、前記基布に前記装飾布を留め付ける工程である請求項1〜3の何れか一項記載の刺繍製品の製造方法。
【請求項7】
前記装飾布は、レース機により所定幅を有して製造されるレース地から、所定外形形状の装飾モチーフ部位を型抜きして得られるレース地部分である請求項1〜6の何れか一項記載の刺繍製品の製造方法。
【請求項8】
前記基布は、レース地を含む編地又は織布からなる請求項1〜7の何れか一項に記載の刺繍製品の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8の何れか一項に記載の刺繍製品の製造方法により製造された刺繍製品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−174096(P2009−174096A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−15051(P2008−15051)
【出願日】平成20年1月25日(2008.1.25)
【出願人】(504074271)宮城レース株式会社 (6)
【Fターム(参考)】