創傷被覆材用表面シートおよび創傷被覆材
【課題】湿潤環境を維持できるものでありながら、滲出液の面積が大きく広がらないように捕捉でき、しかも、使用後は剥離が容易であり、発赤や汗疹、異臭の発生もなく、様々な形状の創傷面にフィットできるようにする。
【解決手段】少なくとも透液層(1)と吸収保持層(3)との2つの層を備え、創傷部位(15)と対面するように使用される側から順に、上記の透液層(1)と吸収保持層(3)とを積層してなり、上記の透液層(1)は、上記の創傷部位(15)と対面する第1表面(11)と、これとは反対側の第2表面(12)と、両表面(11・12)間に亘って厚さ方向に貫通する多数の貫通孔(13)とを有し、上記の貫通孔(13)は上記の第1表面(11)側から第2表面(12)側への液体の透過を許容し、上記の第1表面(11)が疎水性を備えている樹脂製のシート材からなり、上記の吸収保持層(3)は、水を吸収保持可能なシート材を含有する。
【解決手段】少なくとも透液層(1)と吸収保持層(3)との2つの層を備え、創傷部位(15)と対面するように使用される側から順に、上記の透液層(1)と吸収保持層(3)とを積層してなり、上記の透液層(1)は、上記の創傷部位(15)と対面する第1表面(11)と、これとは反対側の第2表面(12)と、両表面(11・12)間に亘って厚さ方向に貫通する多数の貫通孔(13)とを有し、上記の貫通孔(13)は上記の第1表面(11)側から第2表面(12)側への液体の透過を許容し、上記の第1表面(11)が疎水性を備えている樹脂製のシート材からなり、上記の吸収保持層(3)は、水を吸収保持可能なシート材を含有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱傷、褥瘡、挫傷、切傷、擦過傷、潰瘍等の創傷の治療に好適な創傷被覆材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、創傷の治療において、創傷面を乾燥させずに湿潤環境に保つことが創傷の治癒に有効であることがわかってきた。特に、創傷部位からの滲出液に含まれる成分が創傷の治癒の促進に役立つため、消毒を行わずに、その滲出液による湿潤環境を維持しながら治療する方法(以下、「湿潤治療法」ともいう。)が有効であることがわかってきた。そのため、このような治療方法に適用される種々の創傷被覆材が開発されている。
【0003】
湿潤治療法を効果的に行うためには、滲出液が適度に保持されることで創傷面の適度な湿潤環境が保持されることが肝要であり、創傷被覆材は滲出液を速やかに吸い上げてしまうのではなく、創傷面上において滲出液が適度に保持されるようにする機能を備えていることが求められる。しかし、一方で、湿潤治療法は、湿潤環境が保たれるように創傷被覆材を肌にしっかりと固定して行うため、創傷面上に閉鎖領域が形成されることになり、滲出液が新たに滲み出してきて過剰に貯留されると、創傷面が滲出液により圧迫されて「下掘れ現象」(滲出液の圧力によって創傷部位の皮膚がえぐられる現象)を起こす。このため、創傷被覆材は創傷面上から滲出液を適度に排出する機能を備えていることも求められる。
【0004】
また、創傷部位に接する材料に通気性がなく創傷面に強く貼り付いてしまうと、創傷被覆材を剥がすときに治癒したもしくは治癒しかけた箇所を再び傷つけてしまったりするおそれがある。そのため、創傷面に強く貼り付いてしまうことがなく、使用後は剥離が容易であり、かつ、使用時は創傷の治療のための湿潤環境が維持されるように創傷部へ装着できる性質が求められる。
【0005】
従来の創傷被覆材としては、例えば、特許文献1に、親水性を有する物質が分散または被覆された多孔性フィルムを用いた被覆材が開示されている。しかし、この創傷被覆材は、親水性の多孔性フィルムを使用することにより専ら滲出液の排出性が改善されたものであり、創傷面上に滲出液を適度に保持するという目的にはそぐわない。
【0006】
また、特許文献2には、キチン・キトサンセルロース混合繊維で構成される綿、織編物または不織布等、もしくは所望によりそれらに親水性コロイド剤を塗布したものを潰瘍面に適用する創傷被覆材が開示されている。しかし、この創傷被覆材は、滲出液を吸収する機能に重きが置かれており、創傷面上に滲出液を適度に保持する機能は不十分である。さらに、親水性コロイド剤が直接皮膚に当たる状態で創傷被覆材を長時間貼り付けたままにしておくと、発赤や汗疹ができるという問題点が指摘されている。
【0007】
本発明者は、前記した従来の創傷被覆材の問題点を解決するため、創傷部位に接する透過層として、初期耐水圧の機能を発揮するシート材を配した創傷被覆材を開発し、既に国際特許出願を行った(特許文献3、4)。この創傷被覆材は、創傷からの滲出液による湿潤環境を維持しながら治療する方法に用いるものとして、優れた機能を有している。
【0008】
しかしながら、さらに改良された創傷被覆材、即ち(i)滲出液の漏れがなく、創傷面上に滲出液を適度に保持する機能を十分に有し、(ii)創傷のない正常な皮膚のかぶれの原因となる滲出液の無駄な広がりがなく、(iii)創傷面に強く貼り付いてしまうことがなく、使用後は剥離が容易であり、かつ、使用時は創傷の治療のための湿潤環境を維持して創傷部に固着することができ、(iv)発赤や汗疹の発生もなく、(v)異臭の発生もなく、(vi)薄型で柔軟な素材で構成されて、様々な形状の創傷面にフィットでき、創傷面を圧迫することがない創傷被覆材の開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平7−80020号(請求項1、段落0010、0011)
【特許文献2】特開平10−151184号(特許請求の範囲)
【特許文献3】WO2005/000372号パンフレット(要約)
【特許文献4】WO2008/004380号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、創傷からの滲出液による湿潤環境を維持しながら治療する方法に好適な、さらに改良された創傷被覆材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は上記の課題を解決するために、例えば本発明の実施の形態を示す図1から図17に基づいて説明すると、以下の発明を含むものである。
[1]創傷被覆材(5)の少なくとも創傷部位と対面する部位に配される表面シートであって、上記の創傷部位(15)と対面する第1表面(11)と、これとは反対側の第2表面(12)と、両表面(11・12)間に亘って厚さ方向に貫通する多数の貫通孔(13)とを有する、樹脂製のシート材からなり、上記の貫通孔(13)は上記の第1表面(11)側から第2表面(12)側への液体の透過を許容し、上記の第1表面(11)が疎水性を備えていることを特徴とする、創傷被覆材用表面シート。
[2]上記の第1表面(11)における生理食塩水との接触角が85度以上である、前記[1]に記載の創傷被覆材用表面シート。
[3]上記の第1表面(11)における表面張力が40dyne/cm以下である、前記[1]または[2]に記載の創傷被覆材用表面シート。
[4]上記の第1表面(11)が、シリコーン、ポリウレタン、スチレン−ブタジエン−スチレンブロックコポリマー、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレンコポリマー、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテルコポリマーおよびポリテトラフルオロエチレンからなる群から選ばれる1以上の撥水性物質により被覆してある、前記[1]〜[3]のいずれかに記載の創傷被覆材用表面シート。
[5]上記のシート材は、生理食塩水との接触角が85度以上のポリオレフィン樹脂材料を用いて形成してある、前記[1]〜[4]のいずれかに記載の創傷被覆材用表面シート。
[6]上記のシート材は、低密度ポリエチレン樹脂材料を用いて形成してある、前記[1]〜[4]のいずれかに記載の創傷被覆材用表面シート。
[7]上記の第1表面(11)と第2表面(12)との間の寸法は100〜2000μmであり、前記の貫通孔(13)は、上記の第1表面(11)での開口面積が直径280〜1400μmの円形に相当し、上記の第2表面(12)での開口面積が上記の第1表面(11)での開口面積より小であり、50〜400個/cm2の密度で存在する、前記[1]〜[6]のいずれかに記載の創傷被覆材用表面シート。
[8]少なくとも透液層(1)と吸収保持層(3)との2つの層を備えた創傷被覆材であって、創傷部位(15)と対面するように使用される側から順に、上記の透液層(1)と吸収保持層(3)とを積層してなり、上記の透液層(1)は、前記[1]〜[7]のいずれかに記載の表面シート(10)からなり、上記の吸収保持層(3)は、水を吸収保持可能なシート材を含有することを特徴とする創傷被覆材。
[9]上記の吸収保持層(3)の、上記の透液層(1)とは反対側に、第2の透液層(1a)がさらに積層してある、前記[8]に記載の創傷被覆材。
[10]上記の吸収保持層(3)の、創傷側とは反対側の表面に保護層(4)をさらに備え、この保護層(4)は、樹脂フィルム、織布、編布もしくは不織布からなる、前記[8]に記載の創傷被覆材。
[11]上記の保護層(4)は他の全ての層を覆うとともに、この他の層より広い面積に形成されて、他の層の外側にはみ出した外縁部(6)を備えており、上記の外縁部(6)は上記の他の層が積層された側の表面の少なくとも一部に粘着部(7)を有する、前記[10]に記載の創傷被覆材。
[12]上記の保護層(4)は、上記の外縁部(6)に粘着部(7)を有しない非粘着部(8)を備えている、前記[11]に記載の創傷被覆材。
[13]上記の保護層(4)は、上記の他の層の外側に、上記の外縁部(6)が形成されていない部分を備えている、前記[11]に記載の創傷被覆材。
[14]上記の保護層(4)は、上記の外縁部(6)に、スリット(9)もしくは小孔を上記の他の層の外周に沿って備えている、前記[11]に記載の創傷被覆材。
[15]上記の透液層(1・1a)と上記の吸収保持層(3)との間に透液制限層(2)が設けてあり、この透液制限層(2)は疎水性材料で形成された、微多孔質のフィルム、織布、編布または不織布からなり、この透液制限層(2)を介して上記の透液層(1)から吸収保持層(3)への液体の移動を許容する、前記[8]〜[14]のいずれかに記載の創傷被覆材。
[16]前記の透液制限層(2)はポリオレフィン系樹脂からなり、JIS L 1096に従って測定される通気度が5〜2000cm3/cm2・Sであり、JIS L 1092に従って測定される撥水度が3級以上である、前記[15]に記載の創傷被覆材。
[17]前記の透液制限層(2)が、ポリプロピレン繊維からなる不織布を用いて形成してある、前記[15]または[16]に記載の創傷被覆材。
[18]前記の吸収保持層(3)はエアレイド不織布を用いて形成してある、前記[8]〜[17]のいずれかに記載の創傷被覆材。
[19]前記の吸収保持層(3)はフラッフパルプを有する、前記[8]〜[18]のいずれかに記載の創傷被覆材。
[20]前記の吸収保持層(3)はさらに高吸収性ポリマーを有し、この高吸収性ポリマーと上記のフラッフパルプとの重量比が10:90〜25:75である、前記[19]に記載の創傷被覆材。
[21]上記の高吸収性ポリマーがポリアクリル酸ナトリウム系である、前記[20]に記載の創傷被覆材。
[22]前記の吸収保持層(3)は創傷部位側で隣接する他の層と部分的に非接合である、前記[8]〜[21]のいずれかに記載の創傷被覆材。
[23]上記の吸収保持層(3)は上記の透液層(1)と一体化されておらず、透液層(1)の第2表面(12)に沿って移動可能である、前記[22]に記載の創傷被覆材。
[24]前記の吸収保持層(3)が、少なくとも創傷部位に沿って変形可能な伸縮性を備える、前記[8]〜[23]のいずれかに記載の創傷被覆材。
[25]前記[1]〜[7]のいずれかに記載の表面シート(10)からなる透液層(1)を備えることを特徴とする、創傷被覆材。
[26]上記の表面シート(10)の第2表面(12)側に透液制限層(2)を積層してあり、この透液制限層(2)は疎水性材料で形成された、微多孔質のフィルム、織布、編布または不織布を用いて形成してあり、この透液制限層(2)はその厚さ方向に液体の通過を許容する、前記[25]に記載の創傷被覆材。
[27]前記の透液制限層(2)はポリオレフィン系樹脂からなり、JIS L 1096に従って測定される通気度が5〜2000cm3/cm2・Sであり、JIS L 1092に従って測定される撥水度が3級以上である、前記[26]に記載の創傷被覆材。
[28]前記の透液制限層(2)が、ポリプロピレン繊維からなる不織布を用いて形成してある、前記[26]または[27]に記載の創傷被覆材。
[29]前記の創傷部位(15)と対面する側とは反対側の表面に粘着層(21)を有する、前記[8]〜[28]のいずれかに記載の創傷被覆材。
[30]透液層(1)と、透液制限層(2)と吸収保持層(3)との少なくともいずれかとを備えた創傷被覆材(5)を製造するにあたり、いずれかの層の表面のうち、他の層と対面する表面にホットメルト接着剤(18)を部分的に塗布したのち、その塗布した面に上記の他の層を積層して互いに接合する工程を含むことを特徴とする、創傷被覆材の製造方法。
[31]上記の創傷被覆材(5)が前記[15]〜[17]、[26]〜[28]のいずれかに記載の創傷被覆材(5)であり、前記の透液制限層(2)の表面のうち、前記の透液層(1)と対面する表面にホットメルト接着剤(18)を部分的に塗布したのち、その塗布面に上記の透液層(1)を積層して両層(1・2)を互いに接合する工程を含む、前記[30]に記載の創傷被覆材の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明は上記の構成から、次の効果を奏する。
(1)本発明の表面シートを用いた創傷被覆材は、創傷部位を覆うように適用されると、表面シートが上記の第1表面に多数の貫通孔を備えるので、創傷から滲み出した滲出液を良好に貯留できる。しかもその第1表面が疎水性を備えるので、滲み出した滲出液を速やかに吸い上げてしまうことなく湿潤環境を維持できるものでありながら、その滲出液の面積が大きく広がらないように捕捉することができ、滲出液の漏れもない。このため、創傷部位近傍の領域に滲出液が保持されて治療効果を高める一方、創傷のない正常な皮膚のかぶれの原因となる滲出液の無駄な広がりを防止できる。したがって、本発明の表面シートを用いた創傷被覆材は、各種の創傷の治療に好適なものであり、特に褥瘡の予防および治療に最適である。
【0013】
(2)上記の表面シートは、多数の貫通孔を有する樹脂製のシート材からなるので、創傷部位に強く貼り付いてしまうことがなく、創傷被覆材の周縁部を創傷部位の周囲に確りと固着して、創傷の治療のための湿潤環境を維持することができ、しかも、使用後は剥離が容易であるため、交換処置時の疼痛を大幅に軽減することができる。
【0014】
(3)創傷部位と対面する側の表面に、樹脂製のシート材からなる表面シートが配置されるので、この表面に親水性コロイド等を配置した前記の従来技術と異なり、本発明の表面シートを用いた創傷被覆材を長時間貼り付けたままにしても、発赤や汗疹はできない。
【0015】
(4)本発明の表面シートを用いた創傷被覆材は、創傷部位と対面する側の表面が樹脂製のシート材からなるので、薄型で柔軟な素材で構成でき、様々な形状の創傷面にフィットできて、創傷面を圧迫することがない。
【0016】
(5)上記の表面シートは、創傷面との間や上記の貫通孔内などに滲出液を保持して湿潤環境を良好に維持するものでありながら、その貫通孔は上記の第1表面側から第2表面側への液体の透過を許容するので、創傷部位に過剰の滲出液を保持する虞がない。しかも表面シートは樹脂製のシート材からなるので、貫通孔を透過させた滲出液が創傷部位側へ逆流し難いことから、表面シートを通過して長時間経過した滲出液に雑菌が繁殖しても、これが創傷部位へ戻される虞がなく、創傷部の腐敗によるアンモニア臭の発生を効果的に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1実施形態の、創傷被覆材の要部を拡大した模式断面図である。
【図2】第1実施形態の、表面シートを模式的に表示した破断斜視図である。
【図3】第1実施形態の、滲出液が透液層に捕捉された状態を示す、図1相当図である。
【図4】第1実施形態の、滲出液が透液制限層に浸入している状態を示す、図1相当図である。
【図5】第1実施形態の、滲出液が透液層の第2表面に受け止められた状態を示す、図1相当図である。
【図6】第1実施形態の、表面シート側から見た創傷被覆材の、一部を破断した模式平面図である。
【図7】本発明の変形例1を示す、図6相当図である。
【図8】本発明の変形例2を示す、図6相当図である。
【図9】本発明の変形例3を示す、図6相当図である。
【図10】本発明の変形例4を示す、図6相当図である。
【図11】本発明の変形例5を示す、図6相当図である。
【図12】本発明の創傷被覆材の製造工程を例示する模式斜視図である。
【図13】本発明の第2実施形態を示す、図1相当図である。
【図14】本発明の第3実施形態を示す、図1相当図である。
【図15】本発明の第4実施形態を示す、図1相当図である。
【図16】第4実施形態をおむつに適用した状態を示す、図1相当図である。
【図17】第5実施形態を示す、創傷被覆材の一部破断斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の創傷被覆材は、創傷部位を覆うように貼付されるための被覆材であって、創傷からの滲出液による湿潤環境を維持しながら治療する方法に適用できる。本発明において「創傷」とは、皮膚が傷ついたものを広く意味し、熱傷、褥瘡、挫傷、切傷、擦過傷、潰瘍、手術創等が含まれる。また本発明において「シート材」とは、その厚さに特に限定されることなく、有孔のシート材および無孔のシート材の両方を広く意味し、例えば樹脂フィルム、布帛、不織布、ネット等が含まれる。
以下、本発明の創傷被覆材の構成について、必要に応じて図面を参照しつつ説明する。
【0019】
図1は、本発明の創傷被覆材の第1実施形態を示す模式的な断面図である。
この第1実施形態の創傷被覆材(5)は、少なくとも2つの層、即ち、表面シート(10)からなる透液層(1)と、水を吸収して保持できるシート材からなる吸収保持層(3)とを、創傷部位に接するように使用される側から順に備えている。さらに上記の創傷被覆材(5)は所望により、図1に示すように、上記の透液層(1)と吸収保持層(3)との間に透液制限層(2)を備えていてもよく、また吸収保持層(3)の透液制限層(2)側と反対側に保護層(4)を備えていてもよい。各層は互いに積層されて一体化してある。使用時には上記の透液層(1)が創傷部位に接するように使用される。
【0020】
上記の透液層(1)を構成する表面シート(10)は創傷部位と対面する部位に配され、例えば図1と図2に示すように、創傷部位と対面する第1表面(11)と、これとは反対側の第2表面(12)と、両表面(11・12)間に亘って厚さ方向に貫通している多数の貫通孔(13)とを有する、樹脂製のシート材からなる。上記の貫通孔(13)は上記の第1表面(11)側から第2表面(12)側への液体の透過を許容する。また上記の第1表面(11)は疎水性を備えている。
【0021】
前記の吸収保持層(3)は、創傷部位側に隣接している他の層、即ちこの第1実施形態では上記の透液制限層(2)と全面的に接合されていてもよいが、部分的に接合されていてもよく、例えば周縁部のみで接合され、中心部等は透液層(1)や透液制限層(2)と非接着であってもよい。
【0022】
なお本発明の被覆材において、上記の各層が「積層され一体化してなる」構成とは、互いに積層された層間で少なくとも部分的に接合されていればよく、強制的に剥離させる外力を加えない限り、通常の使用状態では各層が分離しないで積層された状態を保つことを意味する。この一体化のための接合手段としては、特に限定されるものではないが、例えばホットメルト接着剤等の接着剤による接着の他、ヒートシール等による融着、エンボス加工等による接合などが挙げられる。
【0023】
以下、上記の各層について具体的に詳細に説明する。
【0024】
(透液層)
創傷の治癒においては、本来は創傷部位近傍の領域に滲出液が保持されていれば足り、該領域を超えて滲出液が創傷部位の周囲に広がることは好ましくない。そのように滲出液が広がった部分において、創傷のない正常な皮膚がかぶれて、新たに創傷部位が拡大したりして治癒を遅らせることがあるためである。
上記の透液層(1)は、滲出液が創傷から滲み出した箇所において、滲出液を速やかに吸い上げてしまうことなく湿潤環境を維持する一方で、滲み出した滲出液の面積が大きく広がらないように捕捉することを主な目的として設けてあり、これによって創傷の治癒を速やかならしめる効果を奏する。
【0025】
上記の透液層(1)は、樹脂製のシート材からなる表面シート(10)で構成されており、第1表面(11)と第2表面(12)との間に亘って厚さ方向に貫通する貫通孔(13)を多数有する。この貫通孔(13)は、それぞれが互いに独立していることが好ましく、透液層(1)の内部には、面内方向に通水する経路が存在しないことが好ましい。透液層(1)の第1表面(11)には、上記の多数の貫通孔(13)が開口しているため、この透液層(1)が創傷部位に強く貼り付いてしまうことを防止できる。
【0026】
なお、図1と図2に示すように、上記の透液層(1)を構成するシート材は凹凸状に形成してあり、上記の第1表面(11)とは、創傷部位側において平面と接する透液層(1)の表面をいい、上記の第2表面(12)とは、創傷部位と反対側において平面と接する透液層(1)の表面をいう。
【0027】
上記の貫通孔(13)は、円筒状、樽状、鼓状等、任意の形状を採用することができるが、例えば図1と図2に示すように、第1表面(11)側から第2表面(12)に向かって徐々に孔径が小さくなる「傾斜孔」であると好ましい。
【0028】
上記の貫通孔(13)の孔径としては、創傷部位と対面する上記の第1表面(11)での開口面積が、直径280〜1400μmの円形に相当することが好ましい。直径280μm未満の円形に相当したのでは、滲出液が第2表面(12)側へ通過するのを阻害する傾向にあるので好ましくない。一方、直径1400μmを超える円形に相当したのでは、第2表面(12)側に積層した他の層が、この貫通孔(13)を介して創傷部位の皮膚と接触する虞があり、そのために創傷被覆材(5)を創傷部位から剥がしにくくなったり、適度な容積の滲出液貯留空間を確保できなくなったりする虞があるので好ましくない。
【0029】
上記の貫通孔(13)は傾斜孔であるので、上記の第2表面(12)での開口面積は上記の第1表面(11)での開口面積より小さい。開口面積に相当する円形の直径(以下「開孔径」という。)で比較すると、この第1表面(11)での開孔径は、第2表面(12)での開孔径の1.1〜1.8倍であることが好ましく、1.2〜1.5倍であることがより好ましい。
【0030】
また上記の貫通孔(13)は、50〜400個/cm2の密度で存在することが好ましく、60〜325個/cm2の密度で存在することがより好ましい。さらに、第1表面(11)における貫通孔(13)の開孔率としては、15〜60%であることが好ましい。
【0031】
上記の貫通孔(13)の深さ、即ち透液層(1)の厚さでもある第1表面(11)と第2表面(12)との間の寸法としては、概ね100〜2000μmが好ましく、概ね250〜500μmがより好ましい。
【0032】
上記の貫通孔(13)の密度、開孔率および深さを、それぞれ上記の好ましい範囲とすることによって、創傷部位と上記の第2表面(12)との間に適度な貯留空間(14)を形成でき、創傷部位上に適量の滲出液を保持するとともに、滲出液が創傷部位の表面内方向に広がることを防止できる。
【0033】
なお、上記の貫通孔(13)内に形成される貯留空間(14)の容量としては、貫通孔1個当り0.015〜0.55μLであることが好ましく、0.030〜0.45μLであることがより好ましく、0.040〜0.35μLであることが特に好ましい。この貯留空間(14)の容量が貫通孔1個当り0.015μL未満では、創傷部位の表面上に滲出液を保持するのが困難になる傾向にあるうえ、その表面内方向への拡散を防止することも困難になる傾向にあるため好ましくない。一方、貯留空間(14)の容量が貫通孔1個当り0.55μLを超えると、透液制限層(2)や吸収保持層(3)による滲出液の吸収速度が大きくなり、創傷部位を滲出液で適度な湿潤環境に保つことが困難になる傾向にあるので、好ましくない。
【0034】
上記の透液層(1)は少なくとも第1表面(11)が疎水性であることから、この透液層(1)が創傷部位に過剰に強く貼り付くことを防止できるうえ、使用後の創傷部位からの剥離を容易にできる。また、上記の貫通孔(13)は上記の第1表面(11)側から第2表面(12)側への液体の透過を許容するが、少なくとも第1表面(11)が疎水性であることから、この貫通孔(13)を通しての、吸水性(吸液性)を有する吸収保持層(3)への滲出液の移動を制限でき、透液層(1)と創傷部位との間に滲出液を良好に保持して、創傷の治療を促進することができる。
【0035】
上記の透液層(1)は、少なくとも創傷部位と対面する上記の第1表面(11)が疎水性であればよく、特定の材質等のものに限定されない。
しかし、治療に必要な滲出液を創傷部位と透液層(1)との間に保ち、且つ使用後に創傷被覆材(5)を容易に剥がせるという観点から、少なくとも上記の第1表面(11)は、生理食塩水との動的接触角(以下、単に「接触角」ともいう。)が85度以上であると好ましく、さらに使用後に創傷被覆材(5)が一層簡単に剥がれ易いという点から、生理食塩水との接触角が95度以上であるとさらに好ましく、100度以上であると特に好ましい。なお、本発明で用いる「接触角」は、θ/2法によって測定した値を意味する。
【0036】
上記の「接触角」は、例えばJIS K 2396に従って測定される。具体的には、例えば以下のように測定する。試料のシート材を1.5〜2cm四方に切り取り、接触角測定装置(商品名:FTA−100、First Ten Angstrom社製)の測定部位に配置する。前記装置に設置されたシリンジから標準液滴基準サンプル1.5μLを試料片に接触させ、液滴法により、1,3,5,10分経過後の各動的接触角を測定し(液滴供給スピード:0.5μL/秒、滴下量:1.5μL)、前記接触角測定装置により解析する。
【0037】
上記の透液層(1)は、創傷の治療に必要な滲出液の保持が行える程度に創傷被覆材(5)を創傷部位に保持でき、かつ、使用後に創傷部位から創傷被覆材(5)を剥がし易いという点から、動的表面張力(以下、単に「表面張力」ともいう。)が40dyne/cm以下の材料で形成されていると好ましく、35dyne/cm以下のものがより好ましく、使用後の剥がし易さが特に良好であるため、32dyne/cm以下のものが特に好ましい。上記の表面張力が40dyne/cmを超える場合は、透液層(1)と創傷部位との固着が低減されず、使用後に創傷被覆材(5)を剥がしにくいことから、円滑な交換処置ができない虞があり、好ましくない。また、上記の表面張力は、公知の添加物の添加や、コロナ処理若しくはプラズマ等の表面処理によって40dyne/cm以下となるように調整してもよい。
【0038】
上記の「表面張力」は、具体的には、例えば次の手順に従って測定する。試料のシート材を1.5〜2cm四方に切り取り、接触角測定装置(商品名:FTA−100、First Ten Angstrom社製)の測定部位に配置する。前記装置に設置されたシリンジから試験用混合液を1.5μL押し出し、懸滴法により、表面張力を測定し、前記接触角測定装置により解析する。
【0039】
上記の透液層(1)を構成する表面シート(10)としては、樹脂フィルムが好ましく、さらに詳しくは、樹脂フィルムに多数の穿孔が施された有孔フィルムが好ましい。この表面シート(10)を形成する樹脂材料としては、本発明の効果を妨げない限り特定の材料に限定されないが、創傷部位と創傷被覆材(5)との間の空間に、例えば5μL/cm2以上等、適量の水分を残留させて、創傷部位が乾燥しないようにするため、生理食塩水との接触角が85度以上の樹脂、例えばポリオレフィン樹脂、シリコーン樹脂、ポリテトラフロロエチレン樹脂、ポリウレタン系樹脂などが好ましく、中でも、生理食塩水との接触角が91度であるポリプロピレン樹脂が特に好ましい。即ち上記の透液層(1)を構成する表面シート(10)は、生理食塩水との接触角が85度以上のポリオレフィン樹脂性の有孔フィルムがより好ましく、ポリプロピレン樹脂製の有孔フィルムが特に好ましい。このフィルムが有する貫通孔(13)は、前述のように傾斜孔であると好ましい。
なお、上記の透液層(1)の表面は、界面活性剤処理を施すと接触角が小さくなるため、界面活性剤で処理していないものが好ましい。また、ポリエチレンテレフタレート樹脂やポリ塩化ビニリデン樹脂は、表面張力が40dyne/cmを超えるため、透液層(1)を構成する表面シート(10)の材料としては、好ましくない。
【0040】
上記の透液層(1)は、前述のように少なくとも第1表面(11)が疎水性を備えるが、この疎水性は、材料の樹脂の性質にのみ基づくものである必要はなく、必要に応じて撥水処理を施すことにより疎水性を発揮したものであっても良い。
例えば、生理食塩水との接触角が85度未満のポリオレフィン樹脂(例えば、ポリエチレン樹脂)や、ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド系樹脂、ポリスチレン樹脂(生理食塩水との接触角:84度)などであっても、適切な撥水処理を施すことにより、所望の疎水性を発揮させることができる。
この場合、高密度ポリエチレン樹脂(密度範囲:930〜970kg/m3)や低密度ポリエチレン樹脂(密度範囲:910〜930kg/m3)が好ましく採用され、中でも、特に低密度ポリエチレン樹脂が好ましい。創傷部位の形状・起伏に応じて、柔軟に閉鎖領域を形成できる上、貫通孔の形成や撥水処理を行いやすく、所望の接触角を得やすいからである。
【0041】
上記の撥水処理は特定の処理方法に限定されず、例えば、公知の撥水性物質を含む撥水剤を、公知のコーティング方法(例えばスピンコート法、ディップコート法、蒸着法、CVD法等)によりコーティングする方法や、第1表面等をフッ素プラズマにより処理する方法、第1表面等に細かな凹凸を形成する方法等が挙げることができる。
上記の撥水性物質としては、特に限定されないが、シリコーン、ポリウレタン、スチレン−ブタジエン−スチレンブロックコポリマー、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレンコポリマー、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテルコポリマー、ポリテトラフルオロエチレン等が挙げられる。これらの撥水性物質は、単独で使用してもよく、二以上を併用してもよい。
【0042】
上記の透液層(1)は、上記の貫通孔(13)を介して滲出液を第2表面(12)側へ透過させ得るものでありながら、上記の疎水性により、その滲出液の透過を制限できればよく、加圧により液体が透過可能となる性質を有していることが好ましい。ここで、本発明において「加圧により液体が透過可能となる」とは、透液層(1)に加わる液圧が所定の圧力に達するまでは液体が透過せず、その所定の圧力を超えると、液体が透過可能となることを意味する。
【0043】
上記の「加圧により液体が透過可能となる」特性は、上記の透液層(1)の第1表面(11)が疎水性である場合に具現されやすく、また、上記の貫通孔(13)が傾斜孔である場合に具現されやすい。さらに、上記の性質は、上記の貫通孔(13)が50〜400個/cm2の密度で存在する場合に具現されやすく、この貫通孔(13)の開孔率が15〜60%である場合に具現されやすい。
【0044】
上記の透液層(1)において、好ましくは加圧により液体が上記の貫通孔(13)を通じて透過する。したがって、この透液層(1)は、貫通孔(13)以外の部分では、実質的に液体が透過しないことが好ましい。
【0045】
上記の透液層(1)において、加圧前における液体不透過性は、例えば以下の方法で確認することができる。透液層(1)を構成する表面シート(10)を、金属製の枠等を利用して空中で一定の高さに水平に保持し、その上から上記の表面シート(10)の同じ箇所に水をピペットで徐々に滴下する。このとき、初期には水がその表面シート(10)の下方に落下せず、滴下量が増すにつれ、水の自重による圧力が生じることで、水が表面シート(10)の下方に落下するようになる。従って、所定の滴下量までは下方に落下しないことで、所望の液体不透過性を備えていることが確認される。
【0046】
上記の透液層(1)は、疎水性を備えるため、創傷から滲み出す滲出液が創傷部位の表面方向に広がるのを防ぐ作用をする。
例えば図3に示すように、本発明の創傷被覆材(5)が創傷部位(15)に装着されてからあまり時間が経過しておらず、創傷部位(15)から滲出液(16)が滲み出した初期の段階(滲出液に圧力が生じる前の段階)では、上記の貫通孔(13)の中途まで滲出液(16)が侵入する。透液層(1)の第1表面は疎水性を備えるため、滲出液(16)は貫通孔(13)によって捕捉された状態となり、創傷部位(15)の表面方向にその面積を大きく広げることがなく、創傷部位(15)と透液層(1)との間で保持され、これにより創傷部位(15)が湿潤環境下に保たれる。このような、滲出液(16)の面積を大きく広げることなく湿潤環境を保つ効果を奏するうえで、上記の透液層(1)は、疎水性を有することが好ましく、貫通孔(13)が傾斜孔であることが好ましく、貫通孔(13)内の貯留空間の容量が貫通孔1個当り0.015〜0.55μLであると好ましい。
【0047】
次の段階において、上記の創傷部位(15)から滲出液(16)がさらに滲み出して、その圧力が増すと、図4に示すように、滲出液(16)は透液層(1)の貫通孔(13)を透過して透液制限層(2)の表面に到達し、その後、この透液制限層(2)を通過してさらに吸収保持層(3)へと進むことになる。このとき、上記の滲出液(16)は上記の貫通孔(13)を通じて逆戻りしないことが好ましい。特に、透液制限層(2)を透過した滲出液(16)は、滲出後長時間経過しているので雑菌が繁殖している虞がある。例えば外力により創傷被覆材(5)が圧迫された際に滲出液(16)が創傷部位にまで逆戻りすると、これらの雑菌が創傷部位(15)で繁殖する虞もでてくる。そのような滲出液の逆戻りを防ぐうえでも、上記の貫通孔(13)は傾斜孔であることが好ましい。
【0048】
また上記の透液層(1)は、例えば図5に示すように、第2表面(12)が凹凸状に形成してあると、透液制限層(2)に到達した滲出液(16)がこの第2表面(12)の凹部(17)に捕捉される。この結果、上記の滲出液(16)は、創傷部位(15)の表面方向に広がることが一層良好に防止されて好ましい。
【0049】
(透液制限層)
図1に示すように、上記の創傷被覆材(5)は、透液層(1)と吸収保持層(3)の間に透液制限層(2)を備えている。この透液制限層(2)は、創傷被覆材(5)を創傷部位に貼り付けたのち滲出液が創傷部位から滲み出す初期の段階では、滲出液による圧力に耐えて滲出液の透過を阻止する前記の特性を備えるとともに、滲出液の液量が増加して液圧が所定圧力を超えると滲出液の透過を許容する機能を有する。
【0050】
このため上記の透液制限層(2)は、適度の通気度と撥水度を備えると好ましい。この通気度は、例えばJIS L 1096に記載のA法(フラジール形法)に基づき、例えばフラジール型の繊維通気度試験機を用いて測定される。具体的には、前記フラジール型試験機に試験片をとりつけた後、加減抵抗器によって傾斜型気圧計が125Paの圧力を示すように吸込ファンを調整し、そのときの垂直形気圧計の示す圧力と、使用した空気孔の種類とから、前記試験機に付属の表によって試験片を通過する空気量〔cm3/cm2・S〕を求めることにより、通気度が測定される。なお、通気度は5回の測定値の算術平均により求められる。上記の透液制限層(2)の通気度は、5〜2000cm3/cm2・Sであると好ましい。
【0051】
また上記の撥水度は、例えばJIS L 1092に記載の撥水度試験(スプレー試験)に基づき、所定の能力(水250mLを25〜30秒で散布できる能力)を有するスプレーノズルを備えた撥水度試験装置を用いて測定される。具体的には、(1)約20cm×20cmの試験片を前記撥水度試験装置の試験片保持枠に取り付け、該試験片上に前記スプレーノズルにより水250mLを所要時間25〜30秒で散布し、(2)前記保持枠を前記撥水度試験装置の台上から外し、所定の操作を行って試験片の余分の水滴を落とした後、(3)保持枠に取り付けられた試験片の濡れた状態を所定の湿潤状態の比較見本と比較して採点することにより、撥水度が測定される。前記(2)における所定の操作とは、前記保持枠の一端を水平に保持して、試験片の表側を下向きにして前記保持枠の他端を固い物に軽く当てた状態で、前記試験片を180度回転させる操作をいう。なお、撥水度試験時の温度は摂氏20±2度に設定され、測定使用される水としては、蒸留水又はイオン交換水が用いられる。上記の透液制限層(2)の撥水度は、3級以上であると好ましい。
【0052】
上記の透液制限層(2)を構成するシート材としては、例えばポリオレフィン系樹脂(例えばポリプロピレン、ポリエチレン等)、ポリエステル系樹脂(例えばポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート等)、ポリアミド系樹脂(例えばナイロン6、ナイロン66等)、ポリウレタン系樹脂等の疎水性材料で構成された、不織布や微多孔質のフィルム、織編物等が用いられ得る。このなかでも不織布が好ましく、ポリオレフィン系繊維からなる不織布がより好ましく、ポリプロピレン繊維からなる不織布が特に好ましい。
【0053】
上記の透液制限層(2)に用いることができる不織布は、特定の種類に限定されず、各種の湿式不織布や乾式不織布を用いることができ、例えばサーマルボンド不織布、ニードルパンチ不織布、スパンレース不織布、スパンボンド不織布、メルトブロー式不織布、フラッシュ紡糸式不織布、或いはこれら不織布の複合タイプ等が用いられ得る。上記の複合タイプの不織布としては、例えば、メルトブロー式不織布とスパンボンド不織布とを複合した、所謂、SMS不織布やSMMS不織布などを挙げることができる。またこれらの不織布は疎水性の合成繊維で形成したものに限定されず、例えば、コットンやレーヨン等の親水性を有する繊維で形成したものに撥水処理を施した不織布であってもよい。
【0054】
しかし上記の透液制限層(2)に用いられる不織布としては、メルトブロー法により得られる不織布や、フラッシュ紡糸法により得られる不織布が特に好ましい。メルトブロー式不織布やフラッシュ紡糸式不織布は、例えば繊維径が20μm以下程度の、極細繊維で構成されているため、スパンボンド法など他の製造法により得られる不織布に比べて、目付け(坪量)が同じであっても、繊維間に生じる空隙を小さくすることができる。この結果、創傷部位からの滲出液を閉鎖空間内に効率よく保持でき、前記の「加圧により液体が透過可能となる」特性を容易に発揮できる。
【0055】
簡単に述べると、メルトブロー式不織布とは、紡糸ノズルの出口に高温かつ高圧の空気を噴出して、繊維を延伸および解繊して得られるものであって、連続状の極細繊維により構成されている。なお、メルトブロー式不織布は、スパンボンド不織布と組み合わせて層状に積層した、前記のSMS不織布やSMMS不織布等として透液制限層(2)に用いられてもよい。
【0056】
また、フラッシュ紡糸式不織布とは、繊維形成ポリマーを高温かつ高圧下で低沸点溶剤に均一に溶解した溶液とした後、該溶液をノズルから吐出させ、前記溶剤のみを急激にガス化、膨張させることにより繊維形成ポリマーを延伸させながら固化させて得られる、極細繊維からなる網状の不織布である。
【0057】
上記の透液制限層(2)に用いられる不織布は、カレンダー加工されていてもよい。このカレンダー加工とは、融点以下の温度に調整されたカレンダーロールやエンボスロールを用い、不織布を加圧処理する加工をいう。カレンダー加工により、不織布を構成する繊維の一部が熱融着し、かつ、繊維間に形成された空隙が目潰しされ、創傷部位からの滲出液を閉鎖空間内に保持するのが容易となる。
【0058】
(吸収保持層)
前記の吸収保持層(3)は、創傷部位から滲み出して前記透液層(1)と透液制限層(2)を順に透過した滲出液(16)を吸収するための層である。したがって、吸収保持層(3)は、水を吸収保持可能なシート材からなる。ここで「水を吸収保持可能な」性質とは、水などの液体に接して自然に吸収し、吸収した水の少なくとも一部を重力に抗してシート材内の空隙間に保持できることをいう。したがって、水を吸収したシート材を持ち上げたときに、吸収した水の一部が落下せずに保持されていれば、水を吸収保持可能なシート材ということができる。好ましくは、毛細管現象により水を吸い上げることのできるシート材が用いられるが、高吸収性ポリマー等、水と結びついて保持する材料を備えたもの等であってもよい。
【0059】
上記の吸収保持層(3)に用いられる、水を吸収保持可能なシート材としては、スポンジ状のシート材でもよいが、コットン等の親水性の繊維、或いは親水化処理された繊維で構成されたシート材が好ましい。かかるシート材としては、例えば、親水化処理された不織布、フラッフパルプ、エアレイド不織布等が好ましく用いられ、任意の複数の材料を組み合わせて用いても良い。
【0060】
上記の吸収保持層(3)が繊維で構成されている場合、創傷被覆材(5)をカットした際に切り口から繊維屑や他の副材料等が脱落しない程度に、構成繊維が、バインダー(接着剤)や圧縮、融着などにより互いに連結されていることが好ましい。したがって、上記の構成繊維の少なくとも一部に熱融着性の繊維を用いることも好ましい。
【0061】
上記の吸収保持層(3)としては、エアレイド不織布が特に好ましい。エアレイド不織布とは、空気中に原料パルプ繊維や短繊維を均一に分繊し、回転式多孔シリンダーまたは移動式スクリーンベルトに繊維を沈着させると共に、水溶性の接着剤を噴霧して繊維間接着を行なって得られる不織布である。パルプ繊維を主成分としたエアレイド不織布を用いると、滲出液が吸収され易いのでとりわけ好ましく、パルプ繊維の含有量が60〜95重量%程度のエアレイド不織布が特に好ましい。かかる不織布の製造方法としては、DAN−WEB法や本州製紙法等が用いられ得る。
【0062】
また上記のエアレイド不織布は、滲出液を吸収した状態でも所望の強度を保持するように、湿潤時における強力低下が少ない合成繊維、具体的にはナイロン6、ナイロン66等のポリアミド繊維、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル繊維、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン繊維など、任意の合成繊維を含んでいることが好ましい。
【0063】
また、エアレイド不織布はバインダー繊維を含んでもよい。バインダー繊維とは、繊維の全体および一部が、温度条件により、溶融、凝固の状態変化を示すことで、接着力を発現する繊維のことをいう。具体的なバインダー繊維としては、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂等の低融点樹脂、ポリオレフィン系樹脂等から単独で構成される全融性の繊維、ポリエチレン樹脂/ポリプロピレン樹脂、低融点ポリエステル系樹脂/ポリプロピレン樹脂等の融点に差を有する2樹脂からなる芯鞘型の複合繊維、或いは、サイドバイサイド型の複合繊維等が挙げられる。
【0064】
上記の吸収保持層(3)には、滲出液の吸収、保持力をより高めるために高い吸水性を有する樹脂粉末や粉砕パルプ(フラッフパルプ)等の吸収材が含まれていてもよい。これらの吸収材としては、粉末状、粒状のものだけでなく繊維状のものも用いられ得る。また、この吸収材は、カルシウム塩で処理することにより創傷部位の止血効果を付与することもできる。
【0065】
なお、上記の吸収材を含ませた吸収保持層(3)を備える創傷被覆材(5)は、これをカットして用いた場合等にその切断端面から上記の吸収材が脱落する虞がある。しかし上記の吸収保持層(3)がエアレイド不織布を用いた場合は、不織布を構成する繊維等の要素同士が加圧状態において接着剤で接着されているので、創傷被覆材(5)をカットしても、高い吸水性を有する樹脂粉末や粉砕パルプ(フラッフパルプ)等が脱落し難く、好ましい。
【0066】
上記の吸収材とは、液体と接触すると短時間に吸収、膨潤し、ゲル化する材料をいう。この吸収材としては、公知のものを使用することができ、例えば、ポリアクリル酸塩系、ポリスルホン酸塩系、でんぷん系、カルボキシメチルセルロース系、ポリビニルアルコール系、無水マレイン酸塩系、ポリアクリルアミド系、ポリエチレンオキサイド系の、いわゆる高吸水性樹脂(Super Absorbent Polymer;以下SAPと略称することがある。)や、アルギン酸、デキストラン等の高い吸水性能を有する天然多糖類等が好ましく用いられる。上記のSAPとフラッフパルプを混合する場合は、重量比をSAP:フラッフパルプ=10:90〜25:75程度とすることが好ましい。SAPをこの割合で用いることにより、創傷部位からの滲出液の悪臭を抑え、かつ滲出液が多い場合でも、創傷被覆材からの滲出液の漏れを防ぐことができる。
【0067】
上記のポリアクリル酸系SAPとしては、アクリル酸、アクリル酸ナトリウムおよび架橋性モノマーを共重合して得られるポリアクリル酸ナトリウム系SAPが好ましく挙げられる。前記架橋性モノマーとしては、例えば、アリルメタクリレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアネート、エチレングリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジアリルエーテル、ジビニルベンゼン、ジエチレングリコールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタアクリレート等の分子内に2個以上の不飽和結合を持つモノマーが挙げられる。前記架橋性モノマーは通常0.1〜10重量%の範囲で使用され、0.3〜7重量%が好ましい。重合方法は特に限定されず、公知の方法(例えば、断熱式重合、ベルト式重合等の水溶液重合法、バッチ式重合等の逆相懸濁重合法)を採用することができる。水溶液重合法では、溶媒は水が好適に使用され、重合触媒はレドックス系、過硫酸塩系、アゾ系等の公知の触媒が使用され、重合時のモノマー濃度は20〜50質量%が好適である。得られるポリアクリル酸ナトリウム系ポリマーが高分子量で吸水性がより高くなる点から、重合液の初期pHを6以下とすることが好ましく、pH4以下が特に好ましい。ポリアクリル酸ナトリウム系ポリマーは、モノマー濃度:0.5mol/L、触媒濃度:2.85×10−3mol/L、重合温度:50±0.1℃の条件で測定した極限粘度が、0.10以上が好ましい。
【0068】
上記の吸収保持層(3)を構成するシート材は、上記の高吸水性樹脂(SAP)と同等の吸水機能を有する高吸水性繊維を含んでいてもよく、実質的にこの高吸水繊維のみで吸収保持層(3)を構成してもよい。
実質的に高吸水性繊維のみで構成した吸収保持層(3)は、粉末状の高吸水性樹脂を用いた場合と比べ、創傷被覆材をカットした場合に高吸水性樹脂が脱落する虞がない。また、吸収保持層(3)が粉末状の樹脂粉末を含む場合は、その樹脂粉末が滲出液を吸収して膨潤すると吸収保持層(3)に凹凸が生じ、創傷被覆材の層間が剥離し易くなる虞がある。しかし、上記の吸収保持層(3)が実質的に高吸水性繊維のみで構成されていると、この高吸水性繊維が滲出液を吸収してもかかる凹凸は生じにくいため、層間の剥離が防止される。このような高吸水性繊維の具体例としては、例えば東洋紡績株式会社製「ランシール(登録商標)F」が挙げられる。
【0069】
上記の吸収保持層(3)としてのエアレイド不織布は、滲出液を吸収するとパルプ繊維間の水素結合が解かれるとともに、水溶性バインダーが溶出して湿潤時の繊維間接合が低下する。特にこのエアレイド不織布が、上記の高吸収性樹脂を含む場合は、この樹脂が滲出液を吸収してゲル化すると、強度が低下するほか、ゲル化に伴う樹脂の容積の増大により構成する繊維同士の絡まりや結合が物理的に断裂されるので、エアレイド不織布の湿潤強度が顕著に低下する虞もある。
【0070】
そこでこのような強度低下を防止するため、上記のエアレイド不織布は、高吸収性樹脂を含む場合は特に、前述のように水不溶性の長繊維やバインダー繊維を含むことが好ましい。これにより、吸収保持層(3)として必要な繊維間接合を保持して、湿潤時の強度低下を抑制することができ、滲出液を吸収しても強度低下や創傷被覆材の吸収保持層からの剥離を防止できるので、創傷被覆材を創傷面から容易にかつ美しく剥がすことができる。
【0071】
上記の吸収保持層(3)は、少なくとも創傷部位(15)に沿って変形可能な伸縮性を備えると、様々な形状の創傷面に対し容易にフィットできて好ましい。このため、上記の吸収保持層(3)としてのエアレイド不織布は、例えばパーフォレートなど、間歇的に切り込みを入れることにより、柔軟性や伸縮性が付与されていてもよい。ここで「パーフォレート」とは、不織布に多数の孔を空ける加工をいう。エアレイド不織布は、接着剤で繊維間が接合されているので、布の剛性が大きくなりやすく、柔軟性が損なわれる場合がある。しかし、上記のパーフォレート加工を施すと、エアレイド不織布が柔らかくなるので創傷被覆材を創傷部位の表面に沿わせることが容易にできて好ましい。また、パーフォレート加工を施した不織布は、孔の内面を介しても滲出液を吸収し得るので、一旦、滲出液を吸収し始めると、吸収速度が大きくなる利点もある。上記のパーフォレートにより生じる孔は、特定の断面形状のものに限定されず、また、不織布を貫通していてもよいし、貫通していなくてもよい。
【0072】
また上記の吸収保持層(3)としては、シート状の複合体が用いられてもよい。このシート状の複合体としては、例えば、不織布にアクリル酸モノマーを含浸させた後に重合および架橋反応させることによって得られる。或いは、別のシート状の複合体として、例えば有機触媒と水とからなる混合溶媒に、強い水和性を示す繊維状物(例えば、ミクロフィブリル等)と水膨潤性を有する固状体(例えば、種々の多糖類、凝集剤、前記の高吸収性樹脂等)とを分散させ、この分散液を不織布等のシート状支持体に流延したのち、当該分散液を乾燥させることにより得ることができる。
【0073】
上記の吸収保持層(3)の厚さは、特定の寸法に限定されるものではないが、滲出液を吸収するキャパシティを考慮すれば、0.4〜0.8mm程度が好ましい。また吸収保持層(3)の目付けとしては、特定の値に限定されないが、例えば60〜170g/m2程度が好ましい。
【0074】
なお上記の吸収保持層(3)は、創傷部位(15)側に隣接する他の層、即ちこの第1実施形態では前記の透液制限層(2)と全面的に接合されていてもよいが、例えば、その周縁部のみで、接着剤やヒートシール等により接合され、中心部等は透液制限層(2)と接合されていない場合は、滲出液が吸収保持層(3)へ移動することを制限できて、創傷部位と透液層(1)との間に滲出液を良好に保持できるので好ましい。しかもこの場合、吸収保持層(3)と創傷部位(15)側に隣接する他の層との間でズレを生じ易いので、創傷被覆材(5)全体が柔軟となって肌触りを良好にでき、しかも創傷被覆材(5)と創傷部位(15)との間のズレ応力が吸収されるので、創傷に加わる応力を緩和でき、例えば褥瘡の発生を防止できる効果もある。
【0075】
(保護層)
上記の保護層(4)は、上記の吸収保持層(3)に吸収された滲出液が外部に移ることを防ぐ目的で設けられる。なお、本発明の創傷被覆材(5)は必ずしもこの保護層を有していなくてもよい。しかしこの場合には、吸収保持層(3)に吸収された滲出液が外部に移って、例えば衣服や寝具等を汚すことを防ぐために、別途の保護用シート材を併用することが好ましい。
【0076】
上記の保護層(4)は、創傷部位に沿うように柔軟な材質で形成され、樹脂フィルム、布帛もしくは不織布を用いることが好ましく、また、それらを組み合わせて用いてもよい。中でも樹脂フィルムが、柔軟性や伸縮性と液体の通過を阻止する観点とから、保護層として特に好ましい。
【0077】
上記の樹脂フィルムとしては、液体の透過を阻止する樹脂フィルムが好ましく、例えばオレフィン系樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、ポリエステル系樹脂、ナイロン系樹脂等で形成された樹脂フィルムが挙げられる。また、ポリウレタン系樹脂等で形成された伸縮性を有する樹脂フィルムも好ましく用いられる。伸縮性を有する樹脂フィルムを用いることにより、創傷被覆材の皮膚へのフィット性を高めることができる。樹脂フィルムの厚さとしては、特に限定されるものではなく、強度、柔軟性等を考慮して適宜設定すればよい。
【0078】
上記の保護層(4)として液体の透過を防止する樹脂フィルムを用いた場合には、滲出液が創傷被覆材(5)の外部に移ることを効果的に防止できるとともに、外部から水や汚れが浸入することを防止するうえでも効果的である。また、滲出液の蒸発を防いで湿潤環境をより効果的に維持する利点もある。
【0079】
上記の樹脂フィルムには、後述するように、必要に応じて、液体の透過を防止する樹脂フィルムの一部にスリット等を設けてもよい。この場合はこのスリットが液体の通路となりうるが、このような場合でもこのスリット以外は液体の透過を防止するので、特に断らない限り、このような態様で用いられていても「液体の透過を防止する樹脂フィルム」であることに変わりはない。
【0080】
上記の保護層(4)は、所望により着色や模様等を外表面に施すことができ、例えば、皮膚の色に似せた着色を施して目立たないものとすることができる。逆に、その外表面には積極的に目立つような模様、イラスト、写真印刷等を施して、遊び心を満足させるようなファッション性を付与してもよい。また上記の保護層(4)は透視可能であってもよく、この場合は、内部の層における滲出液の状態を目視することが可能となり、創傷被覆材(5)の交換時期が分かりやすくなる利点がある。
【0081】
本発明の創傷被覆材は、積層シート状であるため、例えば長尺のロールとして供給し、使用時に所望の大きさにカットして使用するようにしてもよい。この場合は、上記の保護層(4)が他の層(1・2・3)と同じ面積にカットされるので、創傷被覆材は絆創膏等を使用して創傷部位に貼り付けられる。
【0082】
本発明の創傷被覆材は、予め使いやすい大きさにカットされて供給されてもよい。この場合は、上記の保護層(4)で他の全ての層(1・2・3)を覆うとともに、この保護層(4)を他の層(1・2・3)より広い面積に形成して、他の層(1・2・3)の外側にはみ出した外縁部(6)を備えるとともに、この外縁部(6)の創傷部位側の表面の少なくとも一部に粘着部(7)を有すると好ましい。より具体的に説明すると、例えば図6に示すように、透液層(1)と透液制限層(2)と吸収保持層(3)とが同一形状で重なっていて、それらの外周において前記保護層(4)の外縁部(6)が外側にはみ出ており、そのはみ出た外縁部(6)の表面に粘着部(7)が形成してある。
【0083】
上記の粘着部(7)は、創傷被覆材(5)を創傷部位(15)の周囲の皮膚に固定する目的で設けられる。このためこの粘着部(7)は、患者の皮膚に創傷被覆材(5)を固定でき、かつ、容易にその皮膚から剥がせるものが好ましい。さらにこの粘着部(7)に塗布されている粘着剤は、肌に接してもかぶれ難い、低刺激性の粘着剤が好ましく、具体的には、例えばアクリル系やシリコーン系等の粘着剤が好ましく用いられる。また上記の粘着部(7)は、公知の救急絆創膏等(例:「バンドエイド(登録商標)」)に用いられている粘着部を採用することができる。
【0084】
(変形例)
上記の第1実施形態では、上記の外縁部(6)の全域に亘って上記の粘着部(7)を形成してある。しかし本発明では、例えば図7に示す変形例1や図8に示す変形例2のように、この粘着部(7)を外縁部(6)の一部にのみ設け、他の層(1・2・3)の外周に沿った一部で粘着部(7)を省略したものであっても良い。
【0085】
即ち上記の変形例1では、他の層(1・2・3)の外周と保護層(4)の外周とに亘って上記の外縁部(6)を横断する状態に、粘着部(7)を省略した非粘着部(8)が形成してある。この変形例1では、この非粘着部(8)が皮膚に粘着せず、開放領域が形成されるので、この開放領域を通じて空気が創傷部位の周囲に供給され、嫌気性菌の増殖を抑止し、感染を防止するので好ましい。なお上記の保護層(4)は、不織布等の通気性シート材を用いて形成されていてもよいが、例えば無孔の樹脂フィルムなど、通気性に乏しいシート材を用いて形成したものであってもよく、この場合は前述のとおり、滲出液の移動や蒸発を防ぐ観点からより好ましい。
【0086】
一方、図8に示す上記の変形例2では、非粘着部(8)が保護層(4)の外周にまで及んでいない。この場合は、上記の保護層(4)に、例えば不織布など通気性を備えたシート材が用いられ、これにより、保護層(4)と非粘着部(8)とを順に介して空気が創傷部位の周囲に供給され、嫌気性菌の増殖が抑止され、感染が防止される。
【0087】
上記の第1実施形態では、他の層(1・2・3)の外周の全部に亘って上記の外縁部(6)が形成してある。しかし本発明では、例えば図9に示す第3変形例や図10に示す第4変形例のように、上記の保護層(4)が、他の各層の外周の一部において、上記の外縁部(6)を省略したものであってもよい。これらの場合は、外縁部(6)が省略された部位に開放領域が形成されることから、この開放領域を通じて空気が創傷部位の周囲に供給され、嫌気性菌の増殖が抑止され、感染が防止されるので、外縁部(6)の全域に粘着部(7)が形成してあってもよい。
【0088】
図11に示す第5変形例では、上記の保護層(4)のうち、他の各層(1・2・3)の外周に沿って、スリット(9)が形成してある。このスリット(9)は開放領域を形成するので、上記の変形例1〜4と同様、この開放領域を通じて空気が創傷部位の周囲に供給され、嫌気性菌の増殖が抑止され、感染が防止される。
上記の変形例5において、上記のスリット(9)は保護層(4)の内外を連通する通気路を備えておればよく、小孔などであってもよい。このスリット(9)や小孔の大きさと数は、空気の供給によるメリットと、滲出液が外部に移ることのデメリットを勘案して適宜設定すればよい。
なお、前記スリット(9)もしくは小孔を塞がずに、かつスリット(9)もしくは小孔が外側から見て隠れるように外側にさらにシート材を設けることは、滲出液で衣服や寝具を汚すのを防ぐうえで効果的である。
【0089】
上記の第1実施形態や各変形例では、上記の保護層(4)が、図示しない接着剤で吸収保持層(3)に固定してある。しかし本発明では、上記の粘着部(7)を、上記の保護層(4)の表面のうちの、上記の外縁部(6)より内側にも形成して、この粘着部(7)によりこの保護層(4)を上記の吸収保持層(3)へ一体的に固定してもよい。
【0090】
(製造方法)
上記の創傷被覆材(5)を製造する方法としては、上記の各層が積層されて一体化した構造を形成できる製造方法であればよく、本発明の目的を阻害しない限り特定の製造方法に限定されるものではなく、公知の製造方法を適宜採用すればよい。したがって、上記の各層は、同時に積層して一体化してもよく、特定の層同士を互いに積層して接合したのち、この積層体に他の層を積層して一体化してもよい。
【0091】
ただし上記の創傷被覆材(5)を製造するにあたり、上記の透液層(1)と透液制限層(2)とを積層して一体化する場合や、透液制限層(2)と吸収保持層(3)とを積層して一体化する場合、一方の層の表面のうち、他の層と対面する表面にホットメルト接着剤を部分的に塗布したのち、その塗布した面に上記の他の層を積層して互いに接合すると好ましい。
即ち具体的には、例えば透液層(1)と透液制限層(2)とを積層する場合、例えば図12に示すように、透液制限層(2)にホットメルト接着剤(18)を部分的に塗布したのち、上記の透液層(1)をその塗布面に積層して両層(1・2)を互いに接合する。
【0092】
上記のように接着剤(18)を部分的に塗布すると、この接着剤(18)を塗布した部分では、両層間での滲出液の移動が阻止されるが、塗布していない部分を介して、一方の層から他方の層への滲出液の移動が許容される。
なお、上記の接着剤(18)を部分的に塗布する塗布パターンとしては、特に限定されず、種々の塗布パターンを採用しうる。例えばドット状、ストライプ状、格子状等、塗布された部分と塗布されない部分が交互に現れるようなパターンが好ましく、特に好ましい塗布パターンは、例えば図12に示されるようなスパイラル状の塗布パターンである。このスパイラル状の塗布パターンは、シート材を走行させつつ、その上方で吐出ノズル(19)からホットメルト接着剤(18)をスパイラル状に吐出させることにより容易に実現できるので、生産性に優れるとともに良好な接合状態をもたらすことができる。
【0093】
以上のようにして製造された本発明の創傷被覆材(5)は、滲出液(16)が創傷部位(15)から滲み出した箇所において、滲出液(16)を速やかに吸い上げてしまうことなく湿潤環境を維持する一方で、滲み出した滲出液(16)の面積が大きく広がらないように捕捉することができる。このため、創傷部位(15)近傍の領域に滲出液(16)が保持されて治療効果を高める一方、創傷のない正常な皮膚のかぶれの原因となる滲出液(16)の無駄な広がりを防止することができる。
【0094】
(第2実施形態)
上記の第1実施形態では、透液層(1)と吸収保持層(3)との間に、透液制限層(2)を備える場合について説明した。しかし本発明では、例えば図13に示す第2実施形態のように、上記の透液制限層を省略したものであってもよい。
即ち、この第2実施形態では、上記の第1実施形態と異なって、透液制限層が省略してあり、透液層(1)の第2表面(12)に吸収保持層(3)が直接積層してある。この第2実施形態では透液制限層を省略してあるので、簡便に製造でき安価に実施できて好ましい。またこの第2実施形態では透液制限層を省略してあるが、上記の透液層(1)に疎水性の高い材料を使用することにより、例えば、好適には生理食塩水との接触角が85度以上の材料を使用することにより、透液制限層を有する場合と同様の効果を奏することができる。
【0095】
(第3実施形態)
また、本発明の創傷被覆材(5)は、例えば図14に示す第3実施形態のように、創傷部位側から順に、透液層(1)と吸収保持層(3)と第2の透液層(1a)とが積層されて一体化したものであってもよい。この場合、上記の第2透液層(1a)は、前述した透液層に用いられる材料から選択でき、上記の両透液層(1・1a)は互いに同一材料であってもよいし、異なる材料としてもよい。
【0096】
この第3実施形態の創傷被覆材(5)は、吸収保持層(3)の創傷部位とは反対側に第2透液層(1a)を備えるので、通気性がよくなり、創傷部位(15)以外の肌のムレを防止できる利点があり、特にトビヒの治療に対して好適である。またこの第3実施形態では、特に両透液層(1・1a)を互いに同一材料で構成した場合、どちらの透液層を創傷部位に対面させてもよいので、創傷被覆材(5)としては表裏を考慮する必要がなく、患者への適用を簡略にすることができる利点もある。
なお、この第3実施形態では、上記の透液層(1・1a)と上記の吸収保持層(3)とを互いに直接接合してある。しかし本発明では、上記の第1実施形態で用いたと同様の透液制限層を、上記のいずれか一方または両透液層(1・1a)と上記の吸収保持層(3)との間に設けたものであってもよい。
【0097】
(第4実施形態)
図15は本発明の創傷被覆材(5)の第4実施形態を示す。
この第4実施形態では、上記の第1実施形態と異なり、吸収保持層(3)と保護層(4)とが省略されており、創傷部位に接するように使用される側から順に、透液層(1)と透液制限層(2)とが積層され一体化してある。
【0098】
この第4実施形態の創傷被覆材(5)は、例えば図16に示すように、紙おむつ等の吸収性物品(20)の吸収面に透液制限層(2)を貼り付けて使用される。例えば長期間に亘ってベッド上に寝たきりとなった患者等には、褥瘡を生じる場合があるが、この第4実施形態の創傷被覆材(5)を貼り付けた紙おむつ(20)を装着することで、創傷部位(15)を創傷被覆材(5)で容易に保護することができて好ましい。
【0099】
このため、上記の透液制限層(2)には、図15と図16に示すように、創傷部位とは反対側の表面に粘着層(21)を有することが好ましい。この粘着層(21)に用いる粘着剤としては、アクリル系粘着剤や天然ゴム系粘着剤、合成ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ビニルエーテル系粘着剤、ポリエステル系粘着剤等の粘着剤が挙げられ、粘着剤の品質の安定性、粘着特性の制御容易性、粘着特性の長期安定性、皮膚に対する無刺激性等の点からアクリル系粘着剤が好ましい。アクリル系粘着剤としては、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主成分単量体として、これに共重合性の単量体を共重合させてなる共重合体を用いることが好ましい。
なお、上記の粘着層を有しない場合は、サージカルテープ等により、上記の吸収性物品(20)に固定することができる。
【0100】
上記の第4実施形態においても、上記の透液層(1)が優れた疎水性を備える場合は、前記の第2実施形態のように、透液制限層(2)を省略することができ、この場合は安価に実施することができる。しかしこの第4実施形態のように、上記の透液制限層(2)を備えると、滲出液の過吸収を抑制できるうえ、創傷被覆材(5)に剛性(所謂、「コシ」)を持たせることができ、扱い易くなるので好ましい。
【0101】
上記の、創傷部位とは反対側の表面に粘着層(21)を有する構成は、この第4実施形態のものに限定されず、本発明では、例えば前記の第1実施形態や第2、第3実施形態のように、吸収保持層(3)を備える場合であっても適用することができる。例えば、吸収保持層(3)の吸収性能に対し、創傷部位からの浸出液が過剰に多い場合は、創傷被覆材の、創傷部位とは反対側の表面に、上記の粘着層(21)を介して紙おむつのような吸収性物品を取り付けることで、浸出液を充分に吸収することができ、好ましい。
また、上記の粘着層(21)で固定する対象は、紙おむつなどの吸収性物品に限定されず、例えば日焼けなど創傷部位からの浸出液が少ない場合などは特に、患者の肌に直接接する肌着等の衣類などであってもよい。この場合、上記の第4実施形態のように吸収保持層を省略したり、或いは吸収保持層を薄肉に形成してあると、創傷部位を保護する創傷被覆材全体を薄肉にでき、患者の動作を拘束する虞がないので好ましい。
【0102】
(第5実施形態)
図17は本発明の創傷被覆材(5)の第5実施形態を示す。
この第5実施形態では、上記の第1実施形態と異なり、吸収保持層(3)が他の層と一体化されていない。即ちこの第5実施形態の創傷被覆材(5)は、表面シート(10)からなる透液層(1)の第2表面(12)に、保護層(4)が周縁部(22)で溶着等により一体化されており、袋状に形成されている。そして、この透液層(1)と保護層(4)との間に、吸収保持層(3)が両層(1・4)とは固定しない状態で挿入してある。
【0103】
この第5実施形態では、上記の吸収保持層(3)が、透液層(1)や保護層(4)に接着剤等で固定されていないため、吸収保持層(3)による積極的な吸収が生じにくく、滲出液が透液層(1)から吸収保持層(3)へ移動することを制限でき、創傷部位と透液層(1)との間に滲出液を良好に保持できるので好ましい。しかも吸収保持層(3)は、透液層(1)と保護層(4)との間で、透液層(1)の第2表面(12)に沿って移動することができるので、吸収保持層(3)など創傷被覆材(5)の一部にずれ応力が作用しても、上記の移動により創傷部位との間でそのずれ応力を吸収でき、創傷部位に加わる応力を緩和できる。この結果、表面シート(10)からなる透液層(1)は創傷部位に対して相対的な位置ずれを生じにくく、例えば褥瘡の治癒や予防にきわめて好適である。また吸収保持層(3)が透液層(1)や保護層(4)に対し相対移動できるので、創傷被覆材(5)全体が柔軟となって、肌触りを良好にできる利点もある。
【0104】
なおこの第5実施形態では、上記の透液層(1)と保護層(4)との間に吸収保持層(3)を配置した。しかし本発明では、透液層(1)の第2表面(12)と、これに対面する吸収保持層(3)の表面の、少なくともいずれかに透液制限層(2)を一体に積層したものであってもよい。また上記の第5実施形態において、上記の吸収保持層(3)は、上記の透液層(1)に固定されていなければよく、上記の保護層(4)には固定されていてもよい。この場合は、透液層(1)から吸収保持層(3)への滲出液の移動を制限できるうえ、創傷部位に対し吸収保持層(3)を所定位置に維持できるので、好ましい。
【実施例】
【0105】
以下、上記の透液層に用いる表面シートについて、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0106】
[実施例1〜3および比較例1〜2]
表面シートを構成する樹脂シート材として、実施例1ではポリエチレン製シート材を用い、実施例2ではポリ塩化ビニル製シート材を用い、実施例3ではポリビニルアルコール製シート材を用いた。また、比較例1ではナイロン6製シート材を用い、比較例2では界面活性油剤で表面処理したポリエチレン製シート材を用いた。なお、この比較例2の「界面活性油剤で表面処理したポリエチレン製シート材」としては、具体的には、市販品の生理用ナプキンの表面材として一般的に使用されているものを使用した。
【0107】
各実施例と各比較例の、それぞれの所定材料からなる樹脂シート材に多数の貫通孔を形成して、第1表面と第2表面との間の距離(厚さ)を480μmとしたメッシュシート材とし、このメッシュシート材の第2表面に、パルプとポリオレフィン系バインダー繊維とからなるエアレイド不織布を積層して一体化したものを試料とした。なお、上記のメッシュシート材とエアレイド不織布との一体化は、合成ゴム系のホットメルト接着剤を用い、目付け3g/m2でドット状に塗布しておこなった。
上記の貫通孔は、第1表面側の開孔径が615μmであり、その開孔径が第2表面側に比べて1.25倍である傾斜孔であり、開孔密度200個/cm2で、シート材全体に対する開孔率が42%となっており、1個の貫通孔当りの貯留空間が0.1μLとなっている。
【0108】
上記の実施例1〜3と比較例1、2の各試料について、それぞれJIS K 2396に従って生理食塩水との接触角を測定した。その測定結果を表1に示す。
【0109】
【表1】
【0110】
[比較試験]
内径50mmの円筒管を実施例1〜3および比較例1、2の各試料の表面に当接させた後、円筒管の開口側より生理食塩水10mLを静かに注入し、試料に生理食塩水を吸収させた。生理食塩水の注入後、10分間静置したのち、上記の円筒管を除去し、生理食塩水を吸収させた部位の上に濾紙を置いた。この濾紙の上から直径90mm、2.5kgfの荷重を加え、2分間静置して、試料表面のメッシュシート貯留空間とメッシュシート表面に残留した水分を濾紙に吸収させた。次に、上記の濾紙の重量増加分を測定することにより、濾紙に吸収された水分量、即ちメッシュシート貯留空間およびメッシュシート表面に残留していた水分量を計測し、面積当りの残留水分量を算出した。その測定結果を表2に示す。なお、この比較試験や上記の接触角の測定に用いた生理食塩水としては、イオン交換水1L中に、塩化ナトリウム(NaCl):8.30g/L(ナトリウムイオン:142mmol)、塩化カルシウム二水和物(CaCl2・2H2O):0.37g/L(カルシウムイオン:2.5mmol)を溶解させたものを使用した。
【0111】
【表2】
【0112】
上記の測定の結果から、比較例1や比較例2では、メッシュシート上に水分が十分に貯留しなかったが、本発明の実施例1〜3では、いずれもメッシュシート上に水分が十分に貯留されることが明らかとなった。従って、上記の比較例1や比較例2を創傷被覆材として使用した場合は、創傷部位が乾燥することになり、創傷部位を湿潤状態に保てない虞がある。これに対し、本発明の実施例1〜3のいずれかを創傷被覆材として創傷部位に使用すると、その創傷部位を湿潤状態に保つことができ、被覆材が創傷部位に固着する虞がない。
【0113】
上記の各実施形態や変形例で説明した創傷被覆材は、本発明の技術的思想を具体化するために例示したものであり、材質や積層構成、形状、寸法、用法などを、これらの実施形態や変形例のものに限定するものではなく、本発明の特許請求の範囲内において種々の変更を加え得るものである。
【0114】
例えば上記の創傷被覆材は、各層が薄層である場合は、取扱いを容易にするため補強層を備えていてもよい。また、創傷被覆材の外面は、例えば創傷部位と接する面を清浄に維持するためや、粘着層を保護するために、剥離紙などからなる剥離層を備えたものであってもよい。これらの補強層や剥離層は、創傷被覆材を創傷部位へ適用したのち除去するものであってもよい。
【0115】
また上記の各実施形態では、上記の透液層の第2表面を凹凸状に形成した。しかし本発明はこの第2表面を平滑面に形成したものであってもよい。また上記の第1実施形態や各変形例では、いずれも保護層の外縁部に粘着部を形成した場合について説明した。しかし本発明ではこの粘着部を省略して、絆創膏などにより創傷部位に固定することも可能である。上記の貫通孔が傾斜孔に限定されないことは、言うまでもない。
【0116】
また上記の各実施形態では、いずれも通常の創傷被覆材として用いる場合について説明した。しかし本発明の創傷被覆材や表面シートは、表面シートの第1表面が創傷部位に対面するように使用されればよく、特定の用法に限定されない。
例えば創傷部分をドレッシング材で覆って閉鎖領域を形成し、この閉鎖領域内を吸引手段で陰圧にする、いわゆる陰圧閉鎖療法において、本発明の創傷被覆材や表面シートを用いることができる。陰圧閉鎖療法にあっては、創傷部位において肉芽が吸引されることを防ぐため、創傷部位と吸引手段の間に、例えばポリウレタンフォーム等のスクリーン手段が配置される場合がある。本発明の創傷被覆材や表面シートは、このスクリーン手段の創傷部位側に配置して、表面シートの第1表面を創傷部位に対面させることができる。さらに本発明の創傷被覆材や表面シートは、上記のスクリーン手段として用いることも可能である。いずれの場合も、創傷部位からの滲出液の適量が創傷部位と表面シートとの間に保持されるので、吸引手段による滲出液の過剰な吸引を防止でき、また、表面シートの貫通孔を通過した滲出液が創傷部位側へ逆戻りすることを防止できるので、好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0117】
本発明の表面シートを用いた創傷被覆材は、湿潤環境を維持できるものでありながら、その滲出液の面積が大きく広がらないように捕捉することができ、しかも、使用後は剥離が容易であり、発赤や汗疹、異臭の発生もなく、様々な形状の創傷面にフィットできるので、各種の創傷の治療に好適なものであり、特に褥瘡の予防および治療に最適である。
【符号の説明】
【0118】
1…透液層
1a…第2透液層
2…透液制限層
3…吸収保持層
4…保護層
5…創傷被覆材
6…保護層(4)の外縁部
7…粘着部
8…非粘着部
9…スリット
10…表面シート
11…第1表面
12…第2表面
13…貫通孔
14…貯留空間
15…創傷部位
16…滲出液
17…凹部
18…ホットメルト接着剤
19…吐出ノズル
20…吸収性物品(紙おむつ)
21…粘着層
22…透液層(1)の周縁部
【技術分野】
【0001】
本発明は熱傷、褥瘡、挫傷、切傷、擦過傷、潰瘍等の創傷の治療に好適な創傷被覆材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、創傷の治療において、創傷面を乾燥させずに湿潤環境に保つことが創傷の治癒に有効であることがわかってきた。特に、創傷部位からの滲出液に含まれる成分が創傷の治癒の促進に役立つため、消毒を行わずに、その滲出液による湿潤環境を維持しながら治療する方法(以下、「湿潤治療法」ともいう。)が有効であることがわかってきた。そのため、このような治療方法に適用される種々の創傷被覆材が開発されている。
【0003】
湿潤治療法を効果的に行うためには、滲出液が適度に保持されることで創傷面の適度な湿潤環境が保持されることが肝要であり、創傷被覆材は滲出液を速やかに吸い上げてしまうのではなく、創傷面上において滲出液が適度に保持されるようにする機能を備えていることが求められる。しかし、一方で、湿潤治療法は、湿潤環境が保たれるように創傷被覆材を肌にしっかりと固定して行うため、創傷面上に閉鎖領域が形成されることになり、滲出液が新たに滲み出してきて過剰に貯留されると、創傷面が滲出液により圧迫されて「下掘れ現象」(滲出液の圧力によって創傷部位の皮膚がえぐられる現象)を起こす。このため、創傷被覆材は創傷面上から滲出液を適度に排出する機能を備えていることも求められる。
【0004】
また、創傷部位に接する材料に通気性がなく創傷面に強く貼り付いてしまうと、創傷被覆材を剥がすときに治癒したもしくは治癒しかけた箇所を再び傷つけてしまったりするおそれがある。そのため、創傷面に強く貼り付いてしまうことがなく、使用後は剥離が容易であり、かつ、使用時は創傷の治療のための湿潤環境が維持されるように創傷部へ装着できる性質が求められる。
【0005】
従来の創傷被覆材としては、例えば、特許文献1に、親水性を有する物質が分散または被覆された多孔性フィルムを用いた被覆材が開示されている。しかし、この創傷被覆材は、親水性の多孔性フィルムを使用することにより専ら滲出液の排出性が改善されたものであり、創傷面上に滲出液を適度に保持するという目的にはそぐわない。
【0006】
また、特許文献2には、キチン・キトサンセルロース混合繊維で構成される綿、織編物または不織布等、もしくは所望によりそれらに親水性コロイド剤を塗布したものを潰瘍面に適用する創傷被覆材が開示されている。しかし、この創傷被覆材は、滲出液を吸収する機能に重きが置かれており、創傷面上に滲出液を適度に保持する機能は不十分である。さらに、親水性コロイド剤が直接皮膚に当たる状態で創傷被覆材を長時間貼り付けたままにしておくと、発赤や汗疹ができるという問題点が指摘されている。
【0007】
本発明者は、前記した従来の創傷被覆材の問題点を解決するため、創傷部位に接する透過層として、初期耐水圧の機能を発揮するシート材を配した創傷被覆材を開発し、既に国際特許出願を行った(特許文献3、4)。この創傷被覆材は、創傷からの滲出液による湿潤環境を維持しながら治療する方法に用いるものとして、優れた機能を有している。
【0008】
しかしながら、さらに改良された創傷被覆材、即ち(i)滲出液の漏れがなく、創傷面上に滲出液を適度に保持する機能を十分に有し、(ii)創傷のない正常な皮膚のかぶれの原因となる滲出液の無駄な広がりがなく、(iii)創傷面に強く貼り付いてしまうことがなく、使用後は剥離が容易であり、かつ、使用時は創傷の治療のための湿潤環境を維持して創傷部に固着することができ、(iv)発赤や汗疹の発生もなく、(v)異臭の発生もなく、(vi)薄型で柔軟な素材で構成されて、様々な形状の創傷面にフィットでき、創傷面を圧迫することがない創傷被覆材の開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平7−80020号(請求項1、段落0010、0011)
【特許文献2】特開平10−151184号(特許請求の範囲)
【特許文献3】WO2005/000372号パンフレット(要約)
【特許文献4】WO2008/004380号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、創傷からの滲出液による湿潤環境を維持しながら治療する方法に好適な、さらに改良された創傷被覆材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は上記の課題を解決するために、例えば本発明の実施の形態を示す図1から図17に基づいて説明すると、以下の発明を含むものである。
[1]創傷被覆材(5)の少なくとも創傷部位と対面する部位に配される表面シートであって、上記の創傷部位(15)と対面する第1表面(11)と、これとは反対側の第2表面(12)と、両表面(11・12)間に亘って厚さ方向に貫通する多数の貫通孔(13)とを有する、樹脂製のシート材からなり、上記の貫通孔(13)は上記の第1表面(11)側から第2表面(12)側への液体の透過を許容し、上記の第1表面(11)が疎水性を備えていることを特徴とする、創傷被覆材用表面シート。
[2]上記の第1表面(11)における生理食塩水との接触角が85度以上である、前記[1]に記載の創傷被覆材用表面シート。
[3]上記の第1表面(11)における表面張力が40dyne/cm以下である、前記[1]または[2]に記載の創傷被覆材用表面シート。
[4]上記の第1表面(11)が、シリコーン、ポリウレタン、スチレン−ブタジエン−スチレンブロックコポリマー、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレンコポリマー、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテルコポリマーおよびポリテトラフルオロエチレンからなる群から選ばれる1以上の撥水性物質により被覆してある、前記[1]〜[3]のいずれかに記載の創傷被覆材用表面シート。
[5]上記のシート材は、生理食塩水との接触角が85度以上のポリオレフィン樹脂材料を用いて形成してある、前記[1]〜[4]のいずれかに記載の創傷被覆材用表面シート。
[6]上記のシート材は、低密度ポリエチレン樹脂材料を用いて形成してある、前記[1]〜[4]のいずれかに記載の創傷被覆材用表面シート。
[7]上記の第1表面(11)と第2表面(12)との間の寸法は100〜2000μmであり、前記の貫通孔(13)は、上記の第1表面(11)での開口面積が直径280〜1400μmの円形に相当し、上記の第2表面(12)での開口面積が上記の第1表面(11)での開口面積より小であり、50〜400個/cm2の密度で存在する、前記[1]〜[6]のいずれかに記載の創傷被覆材用表面シート。
[8]少なくとも透液層(1)と吸収保持層(3)との2つの層を備えた創傷被覆材であって、創傷部位(15)と対面するように使用される側から順に、上記の透液層(1)と吸収保持層(3)とを積層してなり、上記の透液層(1)は、前記[1]〜[7]のいずれかに記載の表面シート(10)からなり、上記の吸収保持層(3)は、水を吸収保持可能なシート材を含有することを特徴とする創傷被覆材。
[9]上記の吸収保持層(3)の、上記の透液層(1)とは反対側に、第2の透液層(1a)がさらに積層してある、前記[8]に記載の創傷被覆材。
[10]上記の吸収保持層(3)の、創傷側とは反対側の表面に保護層(4)をさらに備え、この保護層(4)は、樹脂フィルム、織布、編布もしくは不織布からなる、前記[8]に記載の創傷被覆材。
[11]上記の保護層(4)は他の全ての層を覆うとともに、この他の層より広い面積に形成されて、他の層の外側にはみ出した外縁部(6)を備えており、上記の外縁部(6)は上記の他の層が積層された側の表面の少なくとも一部に粘着部(7)を有する、前記[10]に記載の創傷被覆材。
[12]上記の保護層(4)は、上記の外縁部(6)に粘着部(7)を有しない非粘着部(8)を備えている、前記[11]に記載の創傷被覆材。
[13]上記の保護層(4)は、上記の他の層の外側に、上記の外縁部(6)が形成されていない部分を備えている、前記[11]に記載の創傷被覆材。
[14]上記の保護層(4)は、上記の外縁部(6)に、スリット(9)もしくは小孔を上記の他の層の外周に沿って備えている、前記[11]に記載の創傷被覆材。
[15]上記の透液層(1・1a)と上記の吸収保持層(3)との間に透液制限層(2)が設けてあり、この透液制限層(2)は疎水性材料で形成された、微多孔質のフィルム、織布、編布または不織布からなり、この透液制限層(2)を介して上記の透液層(1)から吸収保持層(3)への液体の移動を許容する、前記[8]〜[14]のいずれかに記載の創傷被覆材。
[16]前記の透液制限層(2)はポリオレフィン系樹脂からなり、JIS L 1096に従って測定される通気度が5〜2000cm3/cm2・Sであり、JIS L 1092に従って測定される撥水度が3級以上である、前記[15]に記載の創傷被覆材。
[17]前記の透液制限層(2)が、ポリプロピレン繊維からなる不織布を用いて形成してある、前記[15]または[16]に記載の創傷被覆材。
[18]前記の吸収保持層(3)はエアレイド不織布を用いて形成してある、前記[8]〜[17]のいずれかに記載の創傷被覆材。
[19]前記の吸収保持層(3)はフラッフパルプを有する、前記[8]〜[18]のいずれかに記載の創傷被覆材。
[20]前記の吸収保持層(3)はさらに高吸収性ポリマーを有し、この高吸収性ポリマーと上記のフラッフパルプとの重量比が10:90〜25:75である、前記[19]に記載の創傷被覆材。
[21]上記の高吸収性ポリマーがポリアクリル酸ナトリウム系である、前記[20]に記載の創傷被覆材。
[22]前記の吸収保持層(3)は創傷部位側で隣接する他の層と部分的に非接合である、前記[8]〜[21]のいずれかに記載の創傷被覆材。
[23]上記の吸収保持層(3)は上記の透液層(1)と一体化されておらず、透液層(1)の第2表面(12)に沿って移動可能である、前記[22]に記載の創傷被覆材。
[24]前記の吸収保持層(3)が、少なくとも創傷部位に沿って変形可能な伸縮性を備える、前記[8]〜[23]のいずれかに記載の創傷被覆材。
[25]前記[1]〜[7]のいずれかに記載の表面シート(10)からなる透液層(1)を備えることを特徴とする、創傷被覆材。
[26]上記の表面シート(10)の第2表面(12)側に透液制限層(2)を積層してあり、この透液制限層(2)は疎水性材料で形成された、微多孔質のフィルム、織布、編布または不織布を用いて形成してあり、この透液制限層(2)はその厚さ方向に液体の通過を許容する、前記[25]に記載の創傷被覆材。
[27]前記の透液制限層(2)はポリオレフィン系樹脂からなり、JIS L 1096に従って測定される通気度が5〜2000cm3/cm2・Sであり、JIS L 1092に従って測定される撥水度が3級以上である、前記[26]に記載の創傷被覆材。
[28]前記の透液制限層(2)が、ポリプロピレン繊維からなる不織布を用いて形成してある、前記[26]または[27]に記載の創傷被覆材。
[29]前記の創傷部位(15)と対面する側とは反対側の表面に粘着層(21)を有する、前記[8]〜[28]のいずれかに記載の創傷被覆材。
[30]透液層(1)と、透液制限層(2)と吸収保持層(3)との少なくともいずれかとを備えた創傷被覆材(5)を製造するにあたり、いずれかの層の表面のうち、他の層と対面する表面にホットメルト接着剤(18)を部分的に塗布したのち、その塗布した面に上記の他の層を積層して互いに接合する工程を含むことを特徴とする、創傷被覆材の製造方法。
[31]上記の創傷被覆材(5)が前記[15]〜[17]、[26]〜[28]のいずれかに記載の創傷被覆材(5)であり、前記の透液制限層(2)の表面のうち、前記の透液層(1)と対面する表面にホットメルト接着剤(18)を部分的に塗布したのち、その塗布面に上記の透液層(1)を積層して両層(1・2)を互いに接合する工程を含む、前記[30]に記載の創傷被覆材の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明は上記の構成から、次の効果を奏する。
(1)本発明の表面シートを用いた創傷被覆材は、創傷部位を覆うように適用されると、表面シートが上記の第1表面に多数の貫通孔を備えるので、創傷から滲み出した滲出液を良好に貯留できる。しかもその第1表面が疎水性を備えるので、滲み出した滲出液を速やかに吸い上げてしまうことなく湿潤環境を維持できるものでありながら、その滲出液の面積が大きく広がらないように捕捉することができ、滲出液の漏れもない。このため、創傷部位近傍の領域に滲出液が保持されて治療効果を高める一方、創傷のない正常な皮膚のかぶれの原因となる滲出液の無駄な広がりを防止できる。したがって、本発明の表面シートを用いた創傷被覆材は、各種の創傷の治療に好適なものであり、特に褥瘡の予防および治療に最適である。
【0013】
(2)上記の表面シートは、多数の貫通孔を有する樹脂製のシート材からなるので、創傷部位に強く貼り付いてしまうことがなく、創傷被覆材の周縁部を創傷部位の周囲に確りと固着して、創傷の治療のための湿潤環境を維持することができ、しかも、使用後は剥離が容易であるため、交換処置時の疼痛を大幅に軽減することができる。
【0014】
(3)創傷部位と対面する側の表面に、樹脂製のシート材からなる表面シートが配置されるので、この表面に親水性コロイド等を配置した前記の従来技術と異なり、本発明の表面シートを用いた創傷被覆材を長時間貼り付けたままにしても、発赤や汗疹はできない。
【0015】
(4)本発明の表面シートを用いた創傷被覆材は、創傷部位と対面する側の表面が樹脂製のシート材からなるので、薄型で柔軟な素材で構成でき、様々な形状の創傷面にフィットできて、創傷面を圧迫することがない。
【0016】
(5)上記の表面シートは、創傷面との間や上記の貫通孔内などに滲出液を保持して湿潤環境を良好に維持するものでありながら、その貫通孔は上記の第1表面側から第2表面側への液体の透過を許容するので、創傷部位に過剰の滲出液を保持する虞がない。しかも表面シートは樹脂製のシート材からなるので、貫通孔を透過させた滲出液が創傷部位側へ逆流し難いことから、表面シートを通過して長時間経過した滲出液に雑菌が繁殖しても、これが創傷部位へ戻される虞がなく、創傷部の腐敗によるアンモニア臭の発生を効果的に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1実施形態の、創傷被覆材の要部を拡大した模式断面図である。
【図2】第1実施形態の、表面シートを模式的に表示した破断斜視図である。
【図3】第1実施形態の、滲出液が透液層に捕捉された状態を示す、図1相当図である。
【図4】第1実施形態の、滲出液が透液制限層に浸入している状態を示す、図1相当図である。
【図5】第1実施形態の、滲出液が透液層の第2表面に受け止められた状態を示す、図1相当図である。
【図6】第1実施形態の、表面シート側から見た創傷被覆材の、一部を破断した模式平面図である。
【図7】本発明の変形例1を示す、図6相当図である。
【図8】本発明の変形例2を示す、図6相当図である。
【図9】本発明の変形例3を示す、図6相当図である。
【図10】本発明の変形例4を示す、図6相当図である。
【図11】本発明の変形例5を示す、図6相当図である。
【図12】本発明の創傷被覆材の製造工程を例示する模式斜視図である。
【図13】本発明の第2実施形態を示す、図1相当図である。
【図14】本発明の第3実施形態を示す、図1相当図である。
【図15】本発明の第4実施形態を示す、図1相当図である。
【図16】第4実施形態をおむつに適用した状態を示す、図1相当図である。
【図17】第5実施形態を示す、創傷被覆材の一部破断斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の創傷被覆材は、創傷部位を覆うように貼付されるための被覆材であって、創傷からの滲出液による湿潤環境を維持しながら治療する方法に適用できる。本発明において「創傷」とは、皮膚が傷ついたものを広く意味し、熱傷、褥瘡、挫傷、切傷、擦過傷、潰瘍、手術創等が含まれる。また本発明において「シート材」とは、その厚さに特に限定されることなく、有孔のシート材および無孔のシート材の両方を広く意味し、例えば樹脂フィルム、布帛、不織布、ネット等が含まれる。
以下、本発明の創傷被覆材の構成について、必要に応じて図面を参照しつつ説明する。
【0019】
図1は、本発明の創傷被覆材の第1実施形態を示す模式的な断面図である。
この第1実施形態の創傷被覆材(5)は、少なくとも2つの層、即ち、表面シート(10)からなる透液層(1)と、水を吸収して保持できるシート材からなる吸収保持層(3)とを、創傷部位に接するように使用される側から順に備えている。さらに上記の創傷被覆材(5)は所望により、図1に示すように、上記の透液層(1)と吸収保持層(3)との間に透液制限層(2)を備えていてもよく、また吸収保持層(3)の透液制限層(2)側と反対側に保護層(4)を備えていてもよい。各層は互いに積層されて一体化してある。使用時には上記の透液層(1)が創傷部位に接するように使用される。
【0020】
上記の透液層(1)を構成する表面シート(10)は創傷部位と対面する部位に配され、例えば図1と図2に示すように、創傷部位と対面する第1表面(11)と、これとは反対側の第2表面(12)と、両表面(11・12)間に亘って厚さ方向に貫通している多数の貫通孔(13)とを有する、樹脂製のシート材からなる。上記の貫通孔(13)は上記の第1表面(11)側から第2表面(12)側への液体の透過を許容する。また上記の第1表面(11)は疎水性を備えている。
【0021】
前記の吸収保持層(3)は、創傷部位側に隣接している他の層、即ちこの第1実施形態では上記の透液制限層(2)と全面的に接合されていてもよいが、部分的に接合されていてもよく、例えば周縁部のみで接合され、中心部等は透液層(1)や透液制限層(2)と非接着であってもよい。
【0022】
なお本発明の被覆材において、上記の各層が「積層され一体化してなる」構成とは、互いに積層された層間で少なくとも部分的に接合されていればよく、強制的に剥離させる外力を加えない限り、通常の使用状態では各層が分離しないで積層された状態を保つことを意味する。この一体化のための接合手段としては、特に限定されるものではないが、例えばホットメルト接着剤等の接着剤による接着の他、ヒートシール等による融着、エンボス加工等による接合などが挙げられる。
【0023】
以下、上記の各層について具体的に詳細に説明する。
【0024】
(透液層)
創傷の治癒においては、本来は創傷部位近傍の領域に滲出液が保持されていれば足り、該領域を超えて滲出液が創傷部位の周囲に広がることは好ましくない。そのように滲出液が広がった部分において、創傷のない正常な皮膚がかぶれて、新たに創傷部位が拡大したりして治癒を遅らせることがあるためである。
上記の透液層(1)は、滲出液が創傷から滲み出した箇所において、滲出液を速やかに吸い上げてしまうことなく湿潤環境を維持する一方で、滲み出した滲出液の面積が大きく広がらないように捕捉することを主な目的として設けてあり、これによって創傷の治癒を速やかならしめる効果を奏する。
【0025】
上記の透液層(1)は、樹脂製のシート材からなる表面シート(10)で構成されており、第1表面(11)と第2表面(12)との間に亘って厚さ方向に貫通する貫通孔(13)を多数有する。この貫通孔(13)は、それぞれが互いに独立していることが好ましく、透液層(1)の内部には、面内方向に通水する経路が存在しないことが好ましい。透液層(1)の第1表面(11)には、上記の多数の貫通孔(13)が開口しているため、この透液層(1)が創傷部位に強く貼り付いてしまうことを防止できる。
【0026】
なお、図1と図2に示すように、上記の透液層(1)を構成するシート材は凹凸状に形成してあり、上記の第1表面(11)とは、創傷部位側において平面と接する透液層(1)の表面をいい、上記の第2表面(12)とは、創傷部位と反対側において平面と接する透液層(1)の表面をいう。
【0027】
上記の貫通孔(13)は、円筒状、樽状、鼓状等、任意の形状を採用することができるが、例えば図1と図2に示すように、第1表面(11)側から第2表面(12)に向かって徐々に孔径が小さくなる「傾斜孔」であると好ましい。
【0028】
上記の貫通孔(13)の孔径としては、創傷部位と対面する上記の第1表面(11)での開口面積が、直径280〜1400μmの円形に相当することが好ましい。直径280μm未満の円形に相当したのでは、滲出液が第2表面(12)側へ通過するのを阻害する傾向にあるので好ましくない。一方、直径1400μmを超える円形に相当したのでは、第2表面(12)側に積層した他の層が、この貫通孔(13)を介して創傷部位の皮膚と接触する虞があり、そのために創傷被覆材(5)を創傷部位から剥がしにくくなったり、適度な容積の滲出液貯留空間を確保できなくなったりする虞があるので好ましくない。
【0029】
上記の貫通孔(13)は傾斜孔であるので、上記の第2表面(12)での開口面積は上記の第1表面(11)での開口面積より小さい。開口面積に相当する円形の直径(以下「開孔径」という。)で比較すると、この第1表面(11)での開孔径は、第2表面(12)での開孔径の1.1〜1.8倍であることが好ましく、1.2〜1.5倍であることがより好ましい。
【0030】
また上記の貫通孔(13)は、50〜400個/cm2の密度で存在することが好ましく、60〜325個/cm2の密度で存在することがより好ましい。さらに、第1表面(11)における貫通孔(13)の開孔率としては、15〜60%であることが好ましい。
【0031】
上記の貫通孔(13)の深さ、即ち透液層(1)の厚さでもある第1表面(11)と第2表面(12)との間の寸法としては、概ね100〜2000μmが好ましく、概ね250〜500μmがより好ましい。
【0032】
上記の貫通孔(13)の密度、開孔率および深さを、それぞれ上記の好ましい範囲とすることによって、創傷部位と上記の第2表面(12)との間に適度な貯留空間(14)を形成でき、創傷部位上に適量の滲出液を保持するとともに、滲出液が創傷部位の表面内方向に広がることを防止できる。
【0033】
なお、上記の貫通孔(13)内に形成される貯留空間(14)の容量としては、貫通孔1個当り0.015〜0.55μLであることが好ましく、0.030〜0.45μLであることがより好ましく、0.040〜0.35μLであることが特に好ましい。この貯留空間(14)の容量が貫通孔1個当り0.015μL未満では、創傷部位の表面上に滲出液を保持するのが困難になる傾向にあるうえ、その表面内方向への拡散を防止することも困難になる傾向にあるため好ましくない。一方、貯留空間(14)の容量が貫通孔1個当り0.55μLを超えると、透液制限層(2)や吸収保持層(3)による滲出液の吸収速度が大きくなり、創傷部位を滲出液で適度な湿潤環境に保つことが困難になる傾向にあるので、好ましくない。
【0034】
上記の透液層(1)は少なくとも第1表面(11)が疎水性であることから、この透液層(1)が創傷部位に過剰に強く貼り付くことを防止できるうえ、使用後の創傷部位からの剥離を容易にできる。また、上記の貫通孔(13)は上記の第1表面(11)側から第2表面(12)側への液体の透過を許容するが、少なくとも第1表面(11)が疎水性であることから、この貫通孔(13)を通しての、吸水性(吸液性)を有する吸収保持層(3)への滲出液の移動を制限でき、透液層(1)と創傷部位との間に滲出液を良好に保持して、創傷の治療を促進することができる。
【0035】
上記の透液層(1)は、少なくとも創傷部位と対面する上記の第1表面(11)が疎水性であればよく、特定の材質等のものに限定されない。
しかし、治療に必要な滲出液を創傷部位と透液層(1)との間に保ち、且つ使用後に創傷被覆材(5)を容易に剥がせるという観点から、少なくとも上記の第1表面(11)は、生理食塩水との動的接触角(以下、単に「接触角」ともいう。)が85度以上であると好ましく、さらに使用後に創傷被覆材(5)が一層簡単に剥がれ易いという点から、生理食塩水との接触角が95度以上であるとさらに好ましく、100度以上であると特に好ましい。なお、本発明で用いる「接触角」は、θ/2法によって測定した値を意味する。
【0036】
上記の「接触角」は、例えばJIS K 2396に従って測定される。具体的には、例えば以下のように測定する。試料のシート材を1.5〜2cm四方に切り取り、接触角測定装置(商品名:FTA−100、First Ten Angstrom社製)の測定部位に配置する。前記装置に設置されたシリンジから標準液滴基準サンプル1.5μLを試料片に接触させ、液滴法により、1,3,5,10分経過後の各動的接触角を測定し(液滴供給スピード:0.5μL/秒、滴下量:1.5μL)、前記接触角測定装置により解析する。
【0037】
上記の透液層(1)は、創傷の治療に必要な滲出液の保持が行える程度に創傷被覆材(5)を創傷部位に保持でき、かつ、使用後に創傷部位から創傷被覆材(5)を剥がし易いという点から、動的表面張力(以下、単に「表面張力」ともいう。)が40dyne/cm以下の材料で形成されていると好ましく、35dyne/cm以下のものがより好ましく、使用後の剥がし易さが特に良好であるため、32dyne/cm以下のものが特に好ましい。上記の表面張力が40dyne/cmを超える場合は、透液層(1)と創傷部位との固着が低減されず、使用後に創傷被覆材(5)を剥がしにくいことから、円滑な交換処置ができない虞があり、好ましくない。また、上記の表面張力は、公知の添加物の添加や、コロナ処理若しくはプラズマ等の表面処理によって40dyne/cm以下となるように調整してもよい。
【0038】
上記の「表面張力」は、具体的には、例えば次の手順に従って測定する。試料のシート材を1.5〜2cm四方に切り取り、接触角測定装置(商品名:FTA−100、First Ten Angstrom社製)の測定部位に配置する。前記装置に設置されたシリンジから試験用混合液を1.5μL押し出し、懸滴法により、表面張力を測定し、前記接触角測定装置により解析する。
【0039】
上記の透液層(1)を構成する表面シート(10)としては、樹脂フィルムが好ましく、さらに詳しくは、樹脂フィルムに多数の穿孔が施された有孔フィルムが好ましい。この表面シート(10)を形成する樹脂材料としては、本発明の効果を妨げない限り特定の材料に限定されないが、創傷部位と創傷被覆材(5)との間の空間に、例えば5μL/cm2以上等、適量の水分を残留させて、創傷部位が乾燥しないようにするため、生理食塩水との接触角が85度以上の樹脂、例えばポリオレフィン樹脂、シリコーン樹脂、ポリテトラフロロエチレン樹脂、ポリウレタン系樹脂などが好ましく、中でも、生理食塩水との接触角が91度であるポリプロピレン樹脂が特に好ましい。即ち上記の透液層(1)を構成する表面シート(10)は、生理食塩水との接触角が85度以上のポリオレフィン樹脂性の有孔フィルムがより好ましく、ポリプロピレン樹脂製の有孔フィルムが特に好ましい。このフィルムが有する貫通孔(13)は、前述のように傾斜孔であると好ましい。
なお、上記の透液層(1)の表面は、界面活性剤処理を施すと接触角が小さくなるため、界面活性剤で処理していないものが好ましい。また、ポリエチレンテレフタレート樹脂やポリ塩化ビニリデン樹脂は、表面張力が40dyne/cmを超えるため、透液層(1)を構成する表面シート(10)の材料としては、好ましくない。
【0040】
上記の透液層(1)は、前述のように少なくとも第1表面(11)が疎水性を備えるが、この疎水性は、材料の樹脂の性質にのみ基づくものである必要はなく、必要に応じて撥水処理を施すことにより疎水性を発揮したものであっても良い。
例えば、生理食塩水との接触角が85度未満のポリオレフィン樹脂(例えば、ポリエチレン樹脂)や、ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド系樹脂、ポリスチレン樹脂(生理食塩水との接触角:84度)などであっても、適切な撥水処理を施すことにより、所望の疎水性を発揮させることができる。
この場合、高密度ポリエチレン樹脂(密度範囲:930〜970kg/m3)や低密度ポリエチレン樹脂(密度範囲:910〜930kg/m3)が好ましく採用され、中でも、特に低密度ポリエチレン樹脂が好ましい。創傷部位の形状・起伏に応じて、柔軟に閉鎖領域を形成できる上、貫通孔の形成や撥水処理を行いやすく、所望の接触角を得やすいからである。
【0041】
上記の撥水処理は特定の処理方法に限定されず、例えば、公知の撥水性物質を含む撥水剤を、公知のコーティング方法(例えばスピンコート法、ディップコート法、蒸着法、CVD法等)によりコーティングする方法や、第1表面等をフッ素プラズマにより処理する方法、第1表面等に細かな凹凸を形成する方法等が挙げることができる。
上記の撥水性物質としては、特に限定されないが、シリコーン、ポリウレタン、スチレン−ブタジエン−スチレンブロックコポリマー、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレンコポリマー、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテルコポリマー、ポリテトラフルオロエチレン等が挙げられる。これらの撥水性物質は、単独で使用してもよく、二以上を併用してもよい。
【0042】
上記の透液層(1)は、上記の貫通孔(13)を介して滲出液を第2表面(12)側へ透過させ得るものでありながら、上記の疎水性により、その滲出液の透過を制限できればよく、加圧により液体が透過可能となる性質を有していることが好ましい。ここで、本発明において「加圧により液体が透過可能となる」とは、透液層(1)に加わる液圧が所定の圧力に達するまでは液体が透過せず、その所定の圧力を超えると、液体が透過可能となることを意味する。
【0043】
上記の「加圧により液体が透過可能となる」特性は、上記の透液層(1)の第1表面(11)が疎水性である場合に具現されやすく、また、上記の貫通孔(13)が傾斜孔である場合に具現されやすい。さらに、上記の性質は、上記の貫通孔(13)が50〜400個/cm2の密度で存在する場合に具現されやすく、この貫通孔(13)の開孔率が15〜60%である場合に具現されやすい。
【0044】
上記の透液層(1)において、好ましくは加圧により液体が上記の貫通孔(13)を通じて透過する。したがって、この透液層(1)は、貫通孔(13)以外の部分では、実質的に液体が透過しないことが好ましい。
【0045】
上記の透液層(1)において、加圧前における液体不透過性は、例えば以下の方法で確認することができる。透液層(1)を構成する表面シート(10)を、金属製の枠等を利用して空中で一定の高さに水平に保持し、その上から上記の表面シート(10)の同じ箇所に水をピペットで徐々に滴下する。このとき、初期には水がその表面シート(10)の下方に落下せず、滴下量が増すにつれ、水の自重による圧力が生じることで、水が表面シート(10)の下方に落下するようになる。従って、所定の滴下量までは下方に落下しないことで、所望の液体不透過性を備えていることが確認される。
【0046】
上記の透液層(1)は、疎水性を備えるため、創傷から滲み出す滲出液が創傷部位の表面方向に広がるのを防ぐ作用をする。
例えば図3に示すように、本発明の創傷被覆材(5)が創傷部位(15)に装着されてからあまり時間が経過しておらず、創傷部位(15)から滲出液(16)が滲み出した初期の段階(滲出液に圧力が生じる前の段階)では、上記の貫通孔(13)の中途まで滲出液(16)が侵入する。透液層(1)の第1表面は疎水性を備えるため、滲出液(16)は貫通孔(13)によって捕捉された状態となり、創傷部位(15)の表面方向にその面積を大きく広げることがなく、創傷部位(15)と透液層(1)との間で保持され、これにより創傷部位(15)が湿潤環境下に保たれる。このような、滲出液(16)の面積を大きく広げることなく湿潤環境を保つ効果を奏するうえで、上記の透液層(1)は、疎水性を有することが好ましく、貫通孔(13)が傾斜孔であることが好ましく、貫通孔(13)内の貯留空間の容量が貫通孔1個当り0.015〜0.55μLであると好ましい。
【0047】
次の段階において、上記の創傷部位(15)から滲出液(16)がさらに滲み出して、その圧力が増すと、図4に示すように、滲出液(16)は透液層(1)の貫通孔(13)を透過して透液制限層(2)の表面に到達し、その後、この透液制限層(2)を通過してさらに吸収保持層(3)へと進むことになる。このとき、上記の滲出液(16)は上記の貫通孔(13)を通じて逆戻りしないことが好ましい。特に、透液制限層(2)を透過した滲出液(16)は、滲出後長時間経過しているので雑菌が繁殖している虞がある。例えば外力により創傷被覆材(5)が圧迫された際に滲出液(16)が創傷部位にまで逆戻りすると、これらの雑菌が創傷部位(15)で繁殖する虞もでてくる。そのような滲出液の逆戻りを防ぐうえでも、上記の貫通孔(13)は傾斜孔であることが好ましい。
【0048】
また上記の透液層(1)は、例えば図5に示すように、第2表面(12)が凹凸状に形成してあると、透液制限層(2)に到達した滲出液(16)がこの第2表面(12)の凹部(17)に捕捉される。この結果、上記の滲出液(16)は、創傷部位(15)の表面方向に広がることが一層良好に防止されて好ましい。
【0049】
(透液制限層)
図1に示すように、上記の創傷被覆材(5)は、透液層(1)と吸収保持層(3)の間に透液制限層(2)を備えている。この透液制限層(2)は、創傷被覆材(5)を創傷部位に貼り付けたのち滲出液が創傷部位から滲み出す初期の段階では、滲出液による圧力に耐えて滲出液の透過を阻止する前記の特性を備えるとともに、滲出液の液量が増加して液圧が所定圧力を超えると滲出液の透過を許容する機能を有する。
【0050】
このため上記の透液制限層(2)は、適度の通気度と撥水度を備えると好ましい。この通気度は、例えばJIS L 1096に記載のA法(フラジール形法)に基づき、例えばフラジール型の繊維通気度試験機を用いて測定される。具体的には、前記フラジール型試験機に試験片をとりつけた後、加減抵抗器によって傾斜型気圧計が125Paの圧力を示すように吸込ファンを調整し、そのときの垂直形気圧計の示す圧力と、使用した空気孔の種類とから、前記試験機に付属の表によって試験片を通過する空気量〔cm3/cm2・S〕を求めることにより、通気度が測定される。なお、通気度は5回の測定値の算術平均により求められる。上記の透液制限層(2)の通気度は、5〜2000cm3/cm2・Sであると好ましい。
【0051】
また上記の撥水度は、例えばJIS L 1092に記載の撥水度試験(スプレー試験)に基づき、所定の能力(水250mLを25〜30秒で散布できる能力)を有するスプレーノズルを備えた撥水度試験装置を用いて測定される。具体的には、(1)約20cm×20cmの試験片を前記撥水度試験装置の試験片保持枠に取り付け、該試験片上に前記スプレーノズルにより水250mLを所要時間25〜30秒で散布し、(2)前記保持枠を前記撥水度試験装置の台上から外し、所定の操作を行って試験片の余分の水滴を落とした後、(3)保持枠に取り付けられた試験片の濡れた状態を所定の湿潤状態の比較見本と比較して採点することにより、撥水度が測定される。前記(2)における所定の操作とは、前記保持枠の一端を水平に保持して、試験片の表側を下向きにして前記保持枠の他端を固い物に軽く当てた状態で、前記試験片を180度回転させる操作をいう。なお、撥水度試験時の温度は摂氏20±2度に設定され、測定使用される水としては、蒸留水又はイオン交換水が用いられる。上記の透液制限層(2)の撥水度は、3級以上であると好ましい。
【0052】
上記の透液制限層(2)を構成するシート材としては、例えばポリオレフィン系樹脂(例えばポリプロピレン、ポリエチレン等)、ポリエステル系樹脂(例えばポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート等)、ポリアミド系樹脂(例えばナイロン6、ナイロン66等)、ポリウレタン系樹脂等の疎水性材料で構成された、不織布や微多孔質のフィルム、織編物等が用いられ得る。このなかでも不織布が好ましく、ポリオレフィン系繊維からなる不織布がより好ましく、ポリプロピレン繊維からなる不織布が特に好ましい。
【0053】
上記の透液制限層(2)に用いることができる不織布は、特定の種類に限定されず、各種の湿式不織布や乾式不織布を用いることができ、例えばサーマルボンド不織布、ニードルパンチ不織布、スパンレース不織布、スパンボンド不織布、メルトブロー式不織布、フラッシュ紡糸式不織布、或いはこれら不織布の複合タイプ等が用いられ得る。上記の複合タイプの不織布としては、例えば、メルトブロー式不織布とスパンボンド不織布とを複合した、所謂、SMS不織布やSMMS不織布などを挙げることができる。またこれらの不織布は疎水性の合成繊維で形成したものに限定されず、例えば、コットンやレーヨン等の親水性を有する繊維で形成したものに撥水処理を施した不織布であってもよい。
【0054】
しかし上記の透液制限層(2)に用いられる不織布としては、メルトブロー法により得られる不織布や、フラッシュ紡糸法により得られる不織布が特に好ましい。メルトブロー式不織布やフラッシュ紡糸式不織布は、例えば繊維径が20μm以下程度の、極細繊維で構成されているため、スパンボンド法など他の製造法により得られる不織布に比べて、目付け(坪量)が同じであっても、繊維間に生じる空隙を小さくすることができる。この結果、創傷部位からの滲出液を閉鎖空間内に効率よく保持でき、前記の「加圧により液体が透過可能となる」特性を容易に発揮できる。
【0055】
簡単に述べると、メルトブロー式不織布とは、紡糸ノズルの出口に高温かつ高圧の空気を噴出して、繊維を延伸および解繊して得られるものであって、連続状の極細繊維により構成されている。なお、メルトブロー式不織布は、スパンボンド不織布と組み合わせて層状に積層した、前記のSMS不織布やSMMS不織布等として透液制限層(2)に用いられてもよい。
【0056】
また、フラッシュ紡糸式不織布とは、繊維形成ポリマーを高温かつ高圧下で低沸点溶剤に均一に溶解した溶液とした後、該溶液をノズルから吐出させ、前記溶剤のみを急激にガス化、膨張させることにより繊維形成ポリマーを延伸させながら固化させて得られる、極細繊維からなる網状の不織布である。
【0057】
上記の透液制限層(2)に用いられる不織布は、カレンダー加工されていてもよい。このカレンダー加工とは、融点以下の温度に調整されたカレンダーロールやエンボスロールを用い、不織布を加圧処理する加工をいう。カレンダー加工により、不織布を構成する繊維の一部が熱融着し、かつ、繊維間に形成された空隙が目潰しされ、創傷部位からの滲出液を閉鎖空間内に保持するのが容易となる。
【0058】
(吸収保持層)
前記の吸収保持層(3)は、創傷部位から滲み出して前記透液層(1)と透液制限層(2)を順に透過した滲出液(16)を吸収するための層である。したがって、吸収保持層(3)は、水を吸収保持可能なシート材からなる。ここで「水を吸収保持可能な」性質とは、水などの液体に接して自然に吸収し、吸収した水の少なくとも一部を重力に抗してシート材内の空隙間に保持できることをいう。したがって、水を吸収したシート材を持ち上げたときに、吸収した水の一部が落下せずに保持されていれば、水を吸収保持可能なシート材ということができる。好ましくは、毛細管現象により水を吸い上げることのできるシート材が用いられるが、高吸収性ポリマー等、水と結びついて保持する材料を備えたもの等であってもよい。
【0059】
上記の吸収保持層(3)に用いられる、水を吸収保持可能なシート材としては、スポンジ状のシート材でもよいが、コットン等の親水性の繊維、或いは親水化処理された繊維で構成されたシート材が好ましい。かかるシート材としては、例えば、親水化処理された不織布、フラッフパルプ、エアレイド不織布等が好ましく用いられ、任意の複数の材料を組み合わせて用いても良い。
【0060】
上記の吸収保持層(3)が繊維で構成されている場合、創傷被覆材(5)をカットした際に切り口から繊維屑や他の副材料等が脱落しない程度に、構成繊維が、バインダー(接着剤)や圧縮、融着などにより互いに連結されていることが好ましい。したがって、上記の構成繊維の少なくとも一部に熱融着性の繊維を用いることも好ましい。
【0061】
上記の吸収保持層(3)としては、エアレイド不織布が特に好ましい。エアレイド不織布とは、空気中に原料パルプ繊維や短繊維を均一に分繊し、回転式多孔シリンダーまたは移動式スクリーンベルトに繊維を沈着させると共に、水溶性の接着剤を噴霧して繊維間接着を行なって得られる不織布である。パルプ繊維を主成分としたエアレイド不織布を用いると、滲出液が吸収され易いのでとりわけ好ましく、パルプ繊維の含有量が60〜95重量%程度のエアレイド不織布が特に好ましい。かかる不織布の製造方法としては、DAN−WEB法や本州製紙法等が用いられ得る。
【0062】
また上記のエアレイド不織布は、滲出液を吸収した状態でも所望の強度を保持するように、湿潤時における強力低下が少ない合成繊維、具体的にはナイロン6、ナイロン66等のポリアミド繊維、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル繊維、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン繊維など、任意の合成繊維を含んでいることが好ましい。
【0063】
また、エアレイド不織布はバインダー繊維を含んでもよい。バインダー繊維とは、繊維の全体および一部が、温度条件により、溶融、凝固の状態変化を示すことで、接着力を発現する繊維のことをいう。具体的なバインダー繊維としては、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂等の低融点樹脂、ポリオレフィン系樹脂等から単独で構成される全融性の繊維、ポリエチレン樹脂/ポリプロピレン樹脂、低融点ポリエステル系樹脂/ポリプロピレン樹脂等の融点に差を有する2樹脂からなる芯鞘型の複合繊維、或いは、サイドバイサイド型の複合繊維等が挙げられる。
【0064】
上記の吸収保持層(3)には、滲出液の吸収、保持力をより高めるために高い吸水性を有する樹脂粉末や粉砕パルプ(フラッフパルプ)等の吸収材が含まれていてもよい。これらの吸収材としては、粉末状、粒状のものだけでなく繊維状のものも用いられ得る。また、この吸収材は、カルシウム塩で処理することにより創傷部位の止血効果を付与することもできる。
【0065】
なお、上記の吸収材を含ませた吸収保持層(3)を備える創傷被覆材(5)は、これをカットして用いた場合等にその切断端面から上記の吸収材が脱落する虞がある。しかし上記の吸収保持層(3)がエアレイド不織布を用いた場合は、不織布を構成する繊維等の要素同士が加圧状態において接着剤で接着されているので、創傷被覆材(5)をカットしても、高い吸水性を有する樹脂粉末や粉砕パルプ(フラッフパルプ)等が脱落し難く、好ましい。
【0066】
上記の吸収材とは、液体と接触すると短時間に吸収、膨潤し、ゲル化する材料をいう。この吸収材としては、公知のものを使用することができ、例えば、ポリアクリル酸塩系、ポリスルホン酸塩系、でんぷん系、カルボキシメチルセルロース系、ポリビニルアルコール系、無水マレイン酸塩系、ポリアクリルアミド系、ポリエチレンオキサイド系の、いわゆる高吸水性樹脂(Super Absorbent Polymer;以下SAPと略称することがある。)や、アルギン酸、デキストラン等の高い吸水性能を有する天然多糖類等が好ましく用いられる。上記のSAPとフラッフパルプを混合する場合は、重量比をSAP:フラッフパルプ=10:90〜25:75程度とすることが好ましい。SAPをこの割合で用いることにより、創傷部位からの滲出液の悪臭を抑え、かつ滲出液が多い場合でも、創傷被覆材からの滲出液の漏れを防ぐことができる。
【0067】
上記のポリアクリル酸系SAPとしては、アクリル酸、アクリル酸ナトリウムおよび架橋性モノマーを共重合して得られるポリアクリル酸ナトリウム系SAPが好ましく挙げられる。前記架橋性モノマーとしては、例えば、アリルメタクリレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアネート、エチレングリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジアリルエーテル、ジビニルベンゼン、ジエチレングリコールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタアクリレート等の分子内に2個以上の不飽和結合を持つモノマーが挙げられる。前記架橋性モノマーは通常0.1〜10重量%の範囲で使用され、0.3〜7重量%が好ましい。重合方法は特に限定されず、公知の方法(例えば、断熱式重合、ベルト式重合等の水溶液重合法、バッチ式重合等の逆相懸濁重合法)を採用することができる。水溶液重合法では、溶媒は水が好適に使用され、重合触媒はレドックス系、過硫酸塩系、アゾ系等の公知の触媒が使用され、重合時のモノマー濃度は20〜50質量%が好適である。得られるポリアクリル酸ナトリウム系ポリマーが高分子量で吸水性がより高くなる点から、重合液の初期pHを6以下とすることが好ましく、pH4以下が特に好ましい。ポリアクリル酸ナトリウム系ポリマーは、モノマー濃度:0.5mol/L、触媒濃度:2.85×10−3mol/L、重合温度:50±0.1℃の条件で測定した極限粘度が、0.10以上が好ましい。
【0068】
上記の吸収保持層(3)を構成するシート材は、上記の高吸水性樹脂(SAP)と同等の吸水機能を有する高吸水性繊維を含んでいてもよく、実質的にこの高吸水繊維のみで吸収保持層(3)を構成してもよい。
実質的に高吸水性繊維のみで構成した吸収保持層(3)は、粉末状の高吸水性樹脂を用いた場合と比べ、創傷被覆材をカットした場合に高吸水性樹脂が脱落する虞がない。また、吸収保持層(3)が粉末状の樹脂粉末を含む場合は、その樹脂粉末が滲出液を吸収して膨潤すると吸収保持層(3)に凹凸が生じ、創傷被覆材の層間が剥離し易くなる虞がある。しかし、上記の吸収保持層(3)が実質的に高吸水性繊維のみで構成されていると、この高吸水性繊維が滲出液を吸収してもかかる凹凸は生じにくいため、層間の剥離が防止される。このような高吸水性繊維の具体例としては、例えば東洋紡績株式会社製「ランシール(登録商標)F」が挙げられる。
【0069】
上記の吸収保持層(3)としてのエアレイド不織布は、滲出液を吸収するとパルプ繊維間の水素結合が解かれるとともに、水溶性バインダーが溶出して湿潤時の繊維間接合が低下する。特にこのエアレイド不織布が、上記の高吸収性樹脂を含む場合は、この樹脂が滲出液を吸収してゲル化すると、強度が低下するほか、ゲル化に伴う樹脂の容積の増大により構成する繊維同士の絡まりや結合が物理的に断裂されるので、エアレイド不織布の湿潤強度が顕著に低下する虞もある。
【0070】
そこでこのような強度低下を防止するため、上記のエアレイド不織布は、高吸収性樹脂を含む場合は特に、前述のように水不溶性の長繊維やバインダー繊維を含むことが好ましい。これにより、吸収保持層(3)として必要な繊維間接合を保持して、湿潤時の強度低下を抑制することができ、滲出液を吸収しても強度低下や創傷被覆材の吸収保持層からの剥離を防止できるので、創傷被覆材を創傷面から容易にかつ美しく剥がすことができる。
【0071】
上記の吸収保持層(3)は、少なくとも創傷部位(15)に沿って変形可能な伸縮性を備えると、様々な形状の創傷面に対し容易にフィットできて好ましい。このため、上記の吸収保持層(3)としてのエアレイド不織布は、例えばパーフォレートなど、間歇的に切り込みを入れることにより、柔軟性や伸縮性が付与されていてもよい。ここで「パーフォレート」とは、不織布に多数の孔を空ける加工をいう。エアレイド不織布は、接着剤で繊維間が接合されているので、布の剛性が大きくなりやすく、柔軟性が損なわれる場合がある。しかし、上記のパーフォレート加工を施すと、エアレイド不織布が柔らかくなるので創傷被覆材を創傷部位の表面に沿わせることが容易にできて好ましい。また、パーフォレート加工を施した不織布は、孔の内面を介しても滲出液を吸収し得るので、一旦、滲出液を吸収し始めると、吸収速度が大きくなる利点もある。上記のパーフォレートにより生じる孔は、特定の断面形状のものに限定されず、また、不織布を貫通していてもよいし、貫通していなくてもよい。
【0072】
また上記の吸収保持層(3)としては、シート状の複合体が用いられてもよい。このシート状の複合体としては、例えば、不織布にアクリル酸モノマーを含浸させた後に重合および架橋反応させることによって得られる。或いは、別のシート状の複合体として、例えば有機触媒と水とからなる混合溶媒に、強い水和性を示す繊維状物(例えば、ミクロフィブリル等)と水膨潤性を有する固状体(例えば、種々の多糖類、凝集剤、前記の高吸収性樹脂等)とを分散させ、この分散液を不織布等のシート状支持体に流延したのち、当該分散液を乾燥させることにより得ることができる。
【0073】
上記の吸収保持層(3)の厚さは、特定の寸法に限定されるものではないが、滲出液を吸収するキャパシティを考慮すれば、0.4〜0.8mm程度が好ましい。また吸収保持層(3)の目付けとしては、特定の値に限定されないが、例えば60〜170g/m2程度が好ましい。
【0074】
なお上記の吸収保持層(3)は、創傷部位(15)側に隣接する他の層、即ちこの第1実施形態では前記の透液制限層(2)と全面的に接合されていてもよいが、例えば、その周縁部のみで、接着剤やヒートシール等により接合され、中心部等は透液制限層(2)と接合されていない場合は、滲出液が吸収保持層(3)へ移動することを制限できて、創傷部位と透液層(1)との間に滲出液を良好に保持できるので好ましい。しかもこの場合、吸収保持層(3)と創傷部位(15)側に隣接する他の層との間でズレを生じ易いので、創傷被覆材(5)全体が柔軟となって肌触りを良好にでき、しかも創傷被覆材(5)と創傷部位(15)との間のズレ応力が吸収されるので、創傷に加わる応力を緩和でき、例えば褥瘡の発生を防止できる効果もある。
【0075】
(保護層)
上記の保護層(4)は、上記の吸収保持層(3)に吸収された滲出液が外部に移ることを防ぐ目的で設けられる。なお、本発明の創傷被覆材(5)は必ずしもこの保護層を有していなくてもよい。しかしこの場合には、吸収保持層(3)に吸収された滲出液が外部に移って、例えば衣服や寝具等を汚すことを防ぐために、別途の保護用シート材を併用することが好ましい。
【0076】
上記の保護層(4)は、創傷部位に沿うように柔軟な材質で形成され、樹脂フィルム、布帛もしくは不織布を用いることが好ましく、また、それらを組み合わせて用いてもよい。中でも樹脂フィルムが、柔軟性や伸縮性と液体の通過を阻止する観点とから、保護層として特に好ましい。
【0077】
上記の樹脂フィルムとしては、液体の透過を阻止する樹脂フィルムが好ましく、例えばオレフィン系樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、ポリエステル系樹脂、ナイロン系樹脂等で形成された樹脂フィルムが挙げられる。また、ポリウレタン系樹脂等で形成された伸縮性を有する樹脂フィルムも好ましく用いられる。伸縮性を有する樹脂フィルムを用いることにより、創傷被覆材の皮膚へのフィット性を高めることができる。樹脂フィルムの厚さとしては、特に限定されるものではなく、強度、柔軟性等を考慮して適宜設定すればよい。
【0078】
上記の保護層(4)として液体の透過を防止する樹脂フィルムを用いた場合には、滲出液が創傷被覆材(5)の外部に移ることを効果的に防止できるとともに、外部から水や汚れが浸入することを防止するうえでも効果的である。また、滲出液の蒸発を防いで湿潤環境をより効果的に維持する利点もある。
【0079】
上記の樹脂フィルムには、後述するように、必要に応じて、液体の透過を防止する樹脂フィルムの一部にスリット等を設けてもよい。この場合はこのスリットが液体の通路となりうるが、このような場合でもこのスリット以外は液体の透過を防止するので、特に断らない限り、このような態様で用いられていても「液体の透過を防止する樹脂フィルム」であることに変わりはない。
【0080】
上記の保護層(4)は、所望により着色や模様等を外表面に施すことができ、例えば、皮膚の色に似せた着色を施して目立たないものとすることができる。逆に、その外表面には積極的に目立つような模様、イラスト、写真印刷等を施して、遊び心を満足させるようなファッション性を付与してもよい。また上記の保護層(4)は透視可能であってもよく、この場合は、内部の層における滲出液の状態を目視することが可能となり、創傷被覆材(5)の交換時期が分かりやすくなる利点がある。
【0081】
本発明の創傷被覆材は、積層シート状であるため、例えば長尺のロールとして供給し、使用時に所望の大きさにカットして使用するようにしてもよい。この場合は、上記の保護層(4)が他の層(1・2・3)と同じ面積にカットされるので、創傷被覆材は絆創膏等を使用して創傷部位に貼り付けられる。
【0082】
本発明の創傷被覆材は、予め使いやすい大きさにカットされて供給されてもよい。この場合は、上記の保護層(4)で他の全ての層(1・2・3)を覆うとともに、この保護層(4)を他の層(1・2・3)より広い面積に形成して、他の層(1・2・3)の外側にはみ出した外縁部(6)を備えるとともに、この外縁部(6)の創傷部位側の表面の少なくとも一部に粘着部(7)を有すると好ましい。より具体的に説明すると、例えば図6に示すように、透液層(1)と透液制限層(2)と吸収保持層(3)とが同一形状で重なっていて、それらの外周において前記保護層(4)の外縁部(6)が外側にはみ出ており、そのはみ出た外縁部(6)の表面に粘着部(7)が形成してある。
【0083】
上記の粘着部(7)は、創傷被覆材(5)を創傷部位(15)の周囲の皮膚に固定する目的で設けられる。このためこの粘着部(7)は、患者の皮膚に創傷被覆材(5)を固定でき、かつ、容易にその皮膚から剥がせるものが好ましい。さらにこの粘着部(7)に塗布されている粘着剤は、肌に接してもかぶれ難い、低刺激性の粘着剤が好ましく、具体的には、例えばアクリル系やシリコーン系等の粘着剤が好ましく用いられる。また上記の粘着部(7)は、公知の救急絆創膏等(例:「バンドエイド(登録商標)」)に用いられている粘着部を採用することができる。
【0084】
(変形例)
上記の第1実施形態では、上記の外縁部(6)の全域に亘って上記の粘着部(7)を形成してある。しかし本発明では、例えば図7に示す変形例1や図8に示す変形例2のように、この粘着部(7)を外縁部(6)の一部にのみ設け、他の層(1・2・3)の外周に沿った一部で粘着部(7)を省略したものであっても良い。
【0085】
即ち上記の変形例1では、他の層(1・2・3)の外周と保護層(4)の外周とに亘って上記の外縁部(6)を横断する状態に、粘着部(7)を省略した非粘着部(8)が形成してある。この変形例1では、この非粘着部(8)が皮膚に粘着せず、開放領域が形成されるので、この開放領域を通じて空気が創傷部位の周囲に供給され、嫌気性菌の増殖を抑止し、感染を防止するので好ましい。なお上記の保護層(4)は、不織布等の通気性シート材を用いて形成されていてもよいが、例えば無孔の樹脂フィルムなど、通気性に乏しいシート材を用いて形成したものであってもよく、この場合は前述のとおり、滲出液の移動や蒸発を防ぐ観点からより好ましい。
【0086】
一方、図8に示す上記の変形例2では、非粘着部(8)が保護層(4)の外周にまで及んでいない。この場合は、上記の保護層(4)に、例えば不織布など通気性を備えたシート材が用いられ、これにより、保護層(4)と非粘着部(8)とを順に介して空気が創傷部位の周囲に供給され、嫌気性菌の増殖が抑止され、感染が防止される。
【0087】
上記の第1実施形態では、他の層(1・2・3)の外周の全部に亘って上記の外縁部(6)が形成してある。しかし本発明では、例えば図9に示す第3変形例や図10に示す第4変形例のように、上記の保護層(4)が、他の各層の外周の一部において、上記の外縁部(6)を省略したものであってもよい。これらの場合は、外縁部(6)が省略された部位に開放領域が形成されることから、この開放領域を通じて空気が創傷部位の周囲に供給され、嫌気性菌の増殖が抑止され、感染が防止されるので、外縁部(6)の全域に粘着部(7)が形成してあってもよい。
【0088】
図11に示す第5変形例では、上記の保護層(4)のうち、他の各層(1・2・3)の外周に沿って、スリット(9)が形成してある。このスリット(9)は開放領域を形成するので、上記の変形例1〜4と同様、この開放領域を通じて空気が創傷部位の周囲に供給され、嫌気性菌の増殖が抑止され、感染が防止される。
上記の変形例5において、上記のスリット(9)は保護層(4)の内外を連通する通気路を備えておればよく、小孔などであってもよい。このスリット(9)や小孔の大きさと数は、空気の供給によるメリットと、滲出液が外部に移ることのデメリットを勘案して適宜設定すればよい。
なお、前記スリット(9)もしくは小孔を塞がずに、かつスリット(9)もしくは小孔が外側から見て隠れるように外側にさらにシート材を設けることは、滲出液で衣服や寝具を汚すのを防ぐうえで効果的である。
【0089】
上記の第1実施形態や各変形例では、上記の保護層(4)が、図示しない接着剤で吸収保持層(3)に固定してある。しかし本発明では、上記の粘着部(7)を、上記の保護層(4)の表面のうちの、上記の外縁部(6)より内側にも形成して、この粘着部(7)によりこの保護層(4)を上記の吸収保持層(3)へ一体的に固定してもよい。
【0090】
(製造方法)
上記の創傷被覆材(5)を製造する方法としては、上記の各層が積層されて一体化した構造を形成できる製造方法であればよく、本発明の目的を阻害しない限り特定の製造方法に限定されるものではなく、公知の製造方法を適宜採用すればよい。したがって、上記の各層は、同時に積層して一体化してもよく、特定の層同士を互いに積層して接合したのち、この積層体に他の層を積層して一体化してもよい。
【0091】
ただし上記の創傷被覆材(5)を製造するにあたり、上記の透液層(1)と透液制限層(2)とを積層して一体化する場合や、透液制限層(2)と吸収保持層(3)とを積層して一体化する場合、一方の層の表面のうち、他の層と対面する表面にホットメルト接着剤を部分的に塗布したのち、その塗布した面に上記の他の層を積層して互いに接合すると好ましい。
即ち具体的には、例えば透液層(1)と透液制限層(2)とを積層する場合、例えば図12に示すように、透液制限層(2)にホットメルト接着剤(18)を部分的に塗布したのち、上記の透液層(1)をその塗布面に積層して両層(1・2)を互いに接合する。
【0092】
上記のように接着剤(18)を部分的に塗布すると、この接着剤(18)を塗布した部分では、両層間での滲出液の移動が阻止されるが、塗布していない部分を介して、一方の層から他方の層への滲出液の移動が許容される。
なお、上記の接着剤(18)を部分的に塗布する塗布パターンとしては、特に限定されず、種々の塗布パターンを採用しうる。例えばドット状、ストライプ状、格子状等、塗布された部分と塗布されない部分が交互に現れるようなパターンが好ましく、特に好ましい塗布パターンは、例えば図12に示されるようなスパイラル状の塗布パターンである。このスパイラル状の塗布パターンは、シート材を走行させつつ、その上方で吐出ノズル(19)からホットメルト接着剤(18)をスパイラル状に吐出させることにより容易に実現できるので、生産性に優れるとともに良好な接合状態をもたらすことができる。
【0093】
以上のようにして製造された本発明の創傷被覆材(5)は、滲出液(16)が創傷部位(15)から滲み出した箇所において、滲出液(16)を速やかに吸い上げてしまうことなく湿潤環境を維持する一方で、滲み出した滲出液(16)の面積が大きく広がらないように捕捉することができる。このため、創傷部位(15)近傍の領域に滲出液(16)が保持されて治療効果を高める一方、創傷のない正常な皮膚のかぶれの原因となる滲出液(16)の無駄な広がりを防止することができる。
【0094】
(第2実施形態)
上記の第1実施形態では、透液層(1)と吸収保持層(3)との間に、透液制限層(2)を備える場合について説明した。しかし本発明では、例えば図13に示す第2実施形態のように、上記の透液制限層を省略したものであってもよい。
即ち、この第2実施形態では、上記の第1実施形態と異なって、透液制限層が省略してあり、透液層(1)の第2表面(12)に吸収保持層(3)が直接積層してある。この第2実施形態では透液制限層を省略してあるので、簡便に製造でき安価に実施できて好ましい。またこの第2実施形態では透液制限層を省略してあるが、上記の透液層(1)に疎水性の高い材料を使用することにより、例えば、好適には生理食塩水との接触角が85度以上の材料を使用することにより、透液制限層を有する場合と同様の効果を奏することができる。
【0095】
(第3実施形態)
また、本発明の創傷被覆材(5)は、例えば図14に示す第3実施形態のように、創傷部位側から順に、透液層(1)と吸収保持層(3)と第2の透液層(1a)とが積層されて一体化したものであってもよい。この場合、上記の第2透液層(1a)は、前述した透液層に用いられる材料から選択でき、上記の両透液層(1・1a)は互いに同一材料であってもよいし、異なる材料としてもよい。
【0096】
この第3実施形態の創傷被覆材(5)は、吸収保持層(3)の創傷部位とは反対側に第2透液層(1a)を備えるので、通気性がよくなり、創傷部位(15)以外の肌のムレを防止できる利点があり、特にトビヒの治療に対して好適である。またこの第3実施形態では、特に両透液層(1・1a)を互いに同一材料で構成した場合、どちらの透液層を創傷部位に対面させてもよいので、創傷被覆材(5)としては表裏を考慮する必要がなく、患者への適用を簡略にすることができる利点もある。
なお、この第3実施形態では、上記の透液層(1・1a)と上記の吸収保持層(3)とを互いに直接接合してある。しかし本発明では、上記の第1実施形態で用いたと同様の透液制限層を、上記のいずれか一方または両透液層(1・1a)と上記の吸収保持層(3)との間に設けたものであってもよい。
【0097】
(第4実施形態)
図15は本発明の創傷被覆材(5)の第4実施形態を示す。
この第4実施形態では、上記の第1実施形態と異なり、吸収保持層(3)と保護層(4)とが省略されており、創傷部位に接するように使用される側から順に、透液層(1)と透液制限層(2)とが積層され一体化してある。
【0098】
この第4実施形態の創傷被覆材(5)は、例えば図16に示すように、紙おむつ等の吸収性物品(20)の吸収面に透液制限層(2)を貼り付けて使用される。例えば長期間に亘ってベッド上に寝たきりとなった患者等には、褥瘡を生じる場合があるが、この第4実施形態の創傷被覆材(5)を貼り付けた紙おむつ(20)を装着することで、創傷部位(15)を創傷被覆材(5)で容易に保護することができて好ましい。
【0099】
このため、上記の透液制限層(2)には、図15と図16に示すように、創傷部位とは反対側の表面に粘着層(21)を有することが好ましい。この粘着層(21)に用いる粘着剤としては、アクリル系粘着剤や天然ゴム系粘着剤、合成ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ビニルエーテル系粘着剤、ポリエステル系粘着剤等の粘着剤が挙げられ、粘着剤の品質の安定性、粘着特性の制御容易性、粘着特性の長期安定性、皮膚に対する無刺激性等の点からアクリル系粘着剤が好ましい。アクリル系粘着剤としては、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主成分単量体として、これに共重合性の単量体を共重合させてなる共重合体を用いることが好ましい。
なお、上記の粘着層を有しない場合は、サージカルテープ等により、上記の吸収性物品(20)に固定することができる。
【0100】
上記の第4実施形態においても、上記の透液層(1)が優れた疎水性を備える場合は、前記の第2実施形態のように、透液制限層(2)を省略することができ、この場合は安価に実施することができる。しかしこの第4実施形態のように、上記の透液制限層(2)を備えると、滲出液の過吸収を抑制できるうえ、創傷被覆材(5)に剛性(所謂、「コシ」)を持たせることができ、扱い易くなるので好ましい。
【0101】
上記の、創傷部位とは反対側の表面に粘着層(21)を有する構成は、この第4実施形態のものに限定されず、本発明では、例えば前記の第1実施形態や第2、第3実施形態のように、吸収保持層(3)を備える場合であっても適用することができる。例えば、吸収保持層(3)の吸収性能に対し、創傷部位からの浸出液が過剰に多い場合は、創傷被覆材の、創傷部位とは反対側の表面に、上記の粘着層(21)を介して紙おむつのような吸収性物品を取り付けることで、浸出液を充分に吸収することができ、好ましい。
また、上記の粘着層(21)で固定する対象は、紙おむつなどの吸収性物品に限定されず、例えば日焼けなど創傷部位からの浸出液が少ない場合などは特に、患者の肌に直接接する肌着等の衣類などであってもよい。この場合、上記の第4実施形態のように吸収保持層を省略したり、或いは吸収保持層を薄肉に形成してあると、創傷部位を保護する創傷被覆材全体を薄肉にでき、患者の動作を拘束する虞がないので好ましい。
【0102】
(第5実施形態)
図17は本発明の創傷被覆材(5)の第5実施形態を示す。
この第5実施形態では、上記の第1実施形態と異なり、吸収保持層(3)が他の層と一体化されていない。即ちこの第5実施形態の創傷被覆材(5)は、表面シート(10)からなる透液層(1)の第2表面(12)に、保護層(4)が周縁部(22)で溶着等により一体化されており、袋状に形成されている。そして、この透液層(1)と保護層(4)との間に、吸収保持層(3)が両層(1・4)とは固定しない状態で挿入してある。
【0103】
この第5実施形態では、上記の吸収保持層(3)が、透液層(1)や保護層(4)に接着剤等で固定されていないため、吸収保持層(3)による積極的な吸収が生じにくく、滲出液が透液層(1)から吸収保持層(3)へ移動することを制限でき、創傷部位と透液層(1)との間に滲出液を良好に保持できるので好ましい。しかも吸収保持層(3)は、透液層(1)と保護層(4)との間で、透液層(1)の第2表面(12)に沿って移動することができるので、吸収保持層(3)など創傷被覆材(5)の一部にずれ応力が作用しても、上記の移動により創傷部位との間でそのずれ応力を吸収でき、創傷部位に加わる応力を緩和できる。この結果、表面シート(10)からなる透液層(1)は創傷部位に対して相対的な位置ずれを生じにくく、例えば褥瘡の治癒や予防にきわめて好適である。また吸収保持層(3)が透液層(1)や保護層(4)に対し相対移動できるので、創傷被覆材(5)全体が柔軟となって、肌触りを良好にできる利点もある。
【0104】
なおこの第5実施形態では、上記の透液層(1)と保護層(4)との間に吸収保持層(3)を配置した。しかし本発明では、透液層(1)の第2表面(12)と、これに対面する吸収保持層(3)の表面の、少なくともいずれかに透液制限層(2)を一体に積層したものであってもよい。また上記の第5実施形態において、上記の吸収保持層(3)は、上記の透液層(1)に固定されていなければよく、上記の保護層(4)には固定されていてもよい。この場合は、透液層(1)から吸収保持層(3)への滲出液の移動を制限できるうえ、創傷部位に対し吸収保持層(3)を所定位置に維持できるので、好ましい。
【実施例】
【0105】
以下、上記の透液層に用いる表面シートについて、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0106】
[実施例1〜3および比較例1〜2]
表面シートを構成する樹脂シート材として、実施例1ではポリエチレン製シート材を用い、実施例2ではポリ塩化ビニル製シート材を用い、実施例3ではポリビニルアルコール製シート材を用いた。また、比較例1ではナイロン6製シート材を用い、比較例2では界面活性油剤で表面処理したポリエチレン製シート材を用いた。なお、この比較例2の「界面活性油剤で表面処理したポリエチレン製シート材」としては、具体的には、市販品の生理用ナプキンの表面材として一般的に使用されているものを使用した。
【0107】
各実施例と各比較例の、それぞれの所定材料からなる樹脂シート材に多数の貫通孔を形成して、第1表面と第2表面との間の距離(厚さ)を480μmとしたメッシュシート材とし、このメッシュシート材の第2表面に、パルプとポリオレフィン系バインダー繊維とからなるエアレイド不織布を積層して一体化したものを試料とした。なお、上記のメッシュシート材とエアレイド不織布との一体化は、合成ゴム系のホットメルト接着剤を用い、目付け3g/m2でドット状に塗布しておこなった。
上記の貫通孔は、第1表面側の開孔径が615μmであり、その開孔径が第2表面側に比べて1.25倍である傾斜孔であり、開孔密度200個/cm2で、シート材全体に対する開孔率が42%となっており、1個の貫通孔当りの貯留空間が0.1μLとなっている。
【0108】
上記の実施例1〜3と比較例1、2の各試料について、それぞれJIS K 2396に従って生理食塩水との接触角を測定した。その測定結果を表1に示す。
【0109】
【表1】
【0110】
[比較試験]
内径50mmの円筒管を実施例1〜3および比較例1、2の各試料の表面に当接させた後、円筒管の開口側より生理食塩水10mLを静かに注入し、試料に生理食塩水を吸収させた。生理食塩水の注入後、10分間静置したのち、上記の円筒管を除去し、生理食塩水を吸収させた部位の上に濾紙を置いた。この濾紙の上から直径90mm、2.5kgfの荷重を加え、2分間静置して、試料表面のメッシュシート貯留空間とメッシュシート表面に残留した水分を濾紙に吸収させた。次に、上記の濾紙の重量増加分を測定することにより、濾紙に吸収された水分量、即ちメッシュシート貯留空間およびメッシュシート表面に残留していた水分量を計測し、面積当りの残留水分量を算出した。その測定結果を表2に示す。なお、この比較試験や上記の接触角の測定に用いた生理食塩水としては、イオン交換水1L中に、塩化ナトリウム(NaCl):8.30g/L(ナトリウムイオン:142mmol)、塩化カルシウム二水和物(CaCl2・2H2O):0.37g/L(カルシウムイオン:2.5mmol)を溶解させたものを使用した。
【0111】
【表2】
【0112】
上記の測定の結果から、比較例1や比較例2では、メッシュシート上に水分が十分に貯留しなかったが、本発明の実施例1〜3では、いずれもメッシュシート上に水分が十分に貯留されることが明らかとなった。従って、上記の比較例1や比較例2を創傷被覆材として使用した場合は、創傷部位が乾燥することになり、創傷部位を湿潤状態に保てない虞がある。これに対し、本発明の実施例1〜3のいずれかを創傷被覆材として創傷部位に使用すると、その創傷部位を湿潤状態に保つことができ、被覆材が創傷部位に固着する虞がない。
【0113】
上記の各実施形態や変形例で説明した創傷被覆材は、本発明の技術的思想を具体化するために例示したものであり、材質や積層構成、形状、寸法、用法などを、これらの実施形態や変形例のものに限定するものではなく、本発明の特許請求の範囲内において種々の変更を加え得るものである。
【0114】
例えば上記の創傷被覆材は、各層が薄層である場合は、取扱いを容易にするため補強層を備えていてもよい。また、創傷被覆材の外面は、例えば創傷部位と接する面を清浄に維持するためや、粘着層を保護するために、剥離紙などからなる剥離層を備えたものであってもよい。これらの補強層や剥離層は、創傷被覆材を創傷部位へ適用したのち除去するものであってもよい。
【0115】
また上記の各実施形態では、上記の透液層の第2表面を凹凸状に形成した。しかし本発明はこの第2表面を平滑面に形成したものであってもよい。また上記の第1実施形態や各変形例では、いずれも保護層の外縁部に粘着部を形成した場合について説明した。しかし本発明ではこの粘着部を省略して、絆創膏などにより創傷部位に固定することも可能である。上記の貫通孔が傾斜孔に限定されないことは、言うまでもない。
【0116】
また上記の各実施形態では、いずれも通常の創傷被覆材として用いる場合について説明した。しかし本発明の創傷被覆材や表面シートは、表面シートの第1表面が創傷部位に対面するように使用されればよく、特定の用法に限定されない。
例えば創傷部分をドレッシング材で覆って閉鎖領域を形成し、この閉鎖領域内を吸引手段で陰圧にする、いわゆる陰圧閉鎖療法において、本発明の創傷被覆材や表面シートを用いることができる。陰圧閉鎖療法にあっては、創傷部位において肉芽が吸引されることを防ぐため、創傷部位と吸引手段の間に、例えばポリウレタンフォーム等のスクリーン手段が配置される場合がある。本発明の創傷被覆材や表面シートは、このスクリーン手段の創傷部位側に配置して、表面シートの第1表面を創傷部位に対面させることができる。さらに本発明の創傷被覆材や表面シートは、上記のスクリーン手段として用いることも可能である。いずれの場合も、創傷部位からの滲出液の適量が創傷部位と表面シートとの間に保持されるので、吸引手段による滲出液の過剰な吸引を防止でき、また、表面シートの貫通孔を通過した滲出液が創傷部位側へ逆戻りすることを防止できるので、好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0117】
本発明の表面シートを用いた創傷被覆材は、湿潤環境を維持できるものでありながら、その滲出液の面積が大きく広がらないように捕捉することができ、しかも、使用後は剥離が容易であり、発赤や汗疹、異臭の発生もなく、様々な形状の創傷面にフィットできるので、各種の創傷の治療に好適なものであり、特に褥瘡の予防および治療に最適である。
【符号の説明】
【0118】
1…透液層
1a…第2透液層
2…透液制限層
3…吸収保持層
4…保護層
5…創傷被覆材
6…保護層(4)の外縁部
7…粘着部
8…非粘着部
9…スリット
10…表面シート
11…第1表面
12…第2表面
13…貫通孔
14…貯留空間
15…創傷部位
16…滲出液
17…凹部
18…ホットメルト接着剤
19…吐出ノズル
20…吸収性物品(紙おむつ)
21…粘着層
22…透液層(1)の周縁部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも透液層(1)と吸収保持層(3)との2つの層を備えた創傷被覆材であって、
創傷部位(15)と対面するように使用される側から順に、上記の透液層(1)と吸収保持層(3)とを積層してなり、
上記の透液層(1)は、上記の創傷部位(15)と対面する第1表面(11)と、これとは反対側の第2表面(12)と、両表面(11・12)間に亘って厚さ方向に貫通する多数の貫通孔(13)とを有し、
上記の貫通孔(13)は上記の第1表面(11)側から第2表面(12)側への液体の透過を許容し、
上記の第1表面(11)が疎水性を備えている樹脂製のシート材からなり、
上記の吸収保持層(3)は、水を吸収保持可能なシート材を含有することを特徴とする創傷被覆材。
【請求項1】
少なくとも透液層(1)と吸収保持層(3)との2つの層を備えた創傷被覆材であって、
創傷部位(15)と対面するように使用される側から順に、上記の透液層(1)と吸収保持層(3)とを積層してなり、
上記の透液層(1)は、上記の創傷部位(15)と対面する第1表面(11)と、これとは反対側の第2表面(12)と、両表面(11・12)間に亘って厚さ方向に貫通する多数の貫通孔(13)とを有し、
上記の貫通孔(13)は上記の第1表面(11)側から第2表面(12)側への液体の透過を許容し、
上記の第1表面(11)が疎水性を備えている樹脂製のシート材からなり、
上記の吸収保持層(3)は、水を吸収保持可能なシート材を含有することを特徴とする創傷被覆材。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2013−13804(P2013−13804A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−234412(P2012−234412)
【出願日】平成24年10月24日(2012.10.24)
【分割の表示】特願2012−518387(P2012−518387)の分割
【原出願日】平成23年5月31日(2011.5.31)
【出願人】(591040708)株式会社瑞光 (78)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年10月24日(2012.10.24)
【分割の表示】特願2012−518387(P2012−518387)の分割
【原出願日】平成23年5月31日(2011.5.31)
【出願人】(591040708)株式会社瑞光 (78)
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