説明

創傷部用被覆ネット

【課題】患部の湿潤環境を保持して治療環境を保持することができる創傷部用被覆ネットを提供する。
【解決手段】創傷部に当接させて創傷部からの滲出液を取り込む創傷部用被覆ネット1を疎水性を有するポリエステル極細糸2により丸編み成形した2層構造のメッシュシートとし、滲出液をメッシュシートの編み目4内に保持させるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は創傷部治療用ネットに関し、更に詳しく言えば、創傷や褥瘡(床ずれ)等の創傷部に貯留する滲出液を取り込んで創傷部の治癒を促進する創傷部用被覆ネットに関する。
【背景技術】
【0002】
感染、壊死組織を除去し創傷部を清浄化することで他の組織への影響を防ぐ外科的処置(デブリードマン)の一つとして、創傷部の異物(滲出液)や壊死組織を吸収するドレッシング材(創傷部被覆材)が用いられている。
【0003】
ドレッシング材は、創傷部の深さ、滲出液、大きさ、炎症・感染、肉芽組織、壊死組織、ポケット等の状態を観察して選択され、その創傷部の状態に適する湿潤状態を保持することにより細胞遊走を助け、壊死組織の自己融解・排除を促進するようになっている。
【0004】
このようなドレッシング材として、ハイドロコロイド、ポリウレタンフォーム等のシート状ドレッシング材、アルギン酸カルシウム繊維からなる不織布状ドレッシング材やポリウレタンフィルム等のドレッシング材がある。
【0005】
このうち、ハイドロコロイド材料を用いたドレッシング材は、ハイドロポリマーが疎水性ポリマーの中に親水性の物質の粒子が分散しているため、親水性ポリマーが過剰な滲出液を吸収し、適切な湿潤性を保持して創傷部の湿潤環境を保持することができるようになっている。
【0006】
ポリウレタンフォーム、アルギン酸カルシウム繊維からなるドレッシング材は、水分吸収力に優れているため、創傷部からの余分や滲出液を吸収し、かつ、滲出液を保持する機能を持つため、特に、深さのある創傷部に充填することで過剰な滲出液を吸収することができるようになっている。
【0007】
ポリウレタンフィルムは、水蒸気や酸素等の気体の透過性があるため、創傷部の湿潤環境を保持するとともに、体内からの発汗や不感蒸泄を妨げることがないため、創傷部付近の皮膚は浸軟せず、皮膚にバリア機能を持たせることができる。また、液体、細菌を透過させないため、創傷部を最近や汚染から保護することもできる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−078730号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、ハイドロコロイド、ポリウレタンフォーム、アルギン酸カルシウム繊維からなるドレッシング材は、滲出液の吸収性に優れているため、当初は創傷部からの滲出液を良く吸収する。しかし、吸収した滲出液が次第に固化してしまうため、ドレッシング材の滲出液の吸収性が低下するという問題がある。
【0010】
そのため、創傷部に被覆したドレッシング材が創傷部からの滲出液を封じ込める結果となり、汚染された滲出液が創傷部に貯留され、かえって雑菌繁殖の温床となり、創傷部の治癒を遅延させる原因となっていた。
【0011】
また、滲出液で固化したドレッシング材は創傷部に付着して固化してしまうため、その交換時には無理矢理引き剥がさなければならない。そのため、治癒しかけた創傷部を傷つけるという問題もあった。
【0012】
一方、ポリウレタンフィルムからなるドレッシング材や上記特許文献1に記載の創傷部分にあてるパッドは、創傷部からの滲出液をほとんど吸収せず透過させるので、滲出液によりドレッシング材が固化することが少なく、レッシング材やパッドが創傷部に付着するというおそれは少ない。しかし、その透過性は必ずしも十分とはいえないため、ドレッシング材やパッドが付着する場合がないと断言することはできない。
【0013】
したがって、本発明の課題は、創傷部からの滲出液を吸収しても固化させることがなく、その交換時にも組織損傷をさせることなく、創傷部の治癒を促進することができる創傷部用被覆ネットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するため、請求項1に係る発明は、被覆材を創傷部に当接させて創傷部からの滲出液を吸収する創傷部用被覆ネットにおいて、上記被覆材は、疎水性を有するモノフィラメントを丸編み成形した2層構造のメッシュシートからなることを特徴としている。
【0015】
請求項2に係る発明は、請求項1において、上記メッシュシートがポリエステル系繊維100%であることを特徴としている。
【0016】
請求項3に係る発明は、請求項1または請求項2において、上記メッシュシートの目付量が3.2g±0.8g/mであることを特徴としている。
【0017】
請求項4に係る発明は、請求項1ないし請求項3のいずれか1項において、上記メッシュシートがクリンプ編み機による丸編み成形であることを特徴としている。
【0018】
請求項5に係る発明は、請求項1ないし請求項4のいずれか1項において、上記メッシュシートが連続高温での精錬加工による洗浄処理がなされていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0019】
創傷部に当接させる被覆材を、疎水性を有するモノフィラメントを丸編みした2重構造のメッシュシートとしたことにより、その編み目内に創傷部からの滲出液を保持することができるため、汚染した滲出液が創傷部付近に癒着することがなく、創傷部を清潔な状態に保つことができる。
【0020】
また、モノフィラメント自体は疎水性で、かつ微細な構造においても平滑性が保持されている。交換に際しても、新生組織に対して治癒の後退を招くような物理的なダメージを与えることなく除去が可能である。
【0021】
したがって、創傷部が滲出液とともに固まって固着してしまうということがなく、被覆材を交換時に無理矢理引き剥がして治癒しかけた創傷部を再び傷つけるということもない。
【0022】
さらに、メッシュ布地をモノフィラメントの丸編みにより形成して弾力性、柔軟性を備えさせたことにより、創傷部に対する外部からの刺激を緩和することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係る創傷部用被覆ネットの一例を示す平面図。
【図2】図1におけるA−A線断面図。
【図3】本発明に係る創傷部用被覆ネットの編み目構造の一例を示す模式図。
【図4】本発明に係る創傷部用被覆ネットの使用態様の一例を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照して本発明に係る創傷部用被覆ネットについて説明する。この創傷部用被覆ネット1は、ポリエステル系繊維100%のポリエステル極細糸2(ポリエステル22T)を、例えばクリンプ編み機により丸編みして成形しており、図2に示すような2層構造とされている。
【0025】
なお、本発明において、丸編み成形されるモノフィラメントとして、疎水性、伸縮性、強度、熱、酸・アルカリ等の影響を考慮してポリエステル系繊維100%のポリエステル極細糸2が好ましく用いられるが、これ以外にもポリアミド系繊維、アラミド繊維、炭素繊維、フッ素繊維等としてもよい。
【0026】
次に、本発明における創傷部用被覆ネット1の製造工程について説明する。上記したように、本発明における創傷部用被覆ネット1は、ポリエステル極細糸2をクリンプ編み機にて丸編み成形されるが、その後、連続高温での精錬加工を施される。
【0027】
そして、汚れ、異物、傷等の外観検査を行ながらロール状に巻き取った後、所定の長さにカッティングされる。カッティングサイズは、特に制限はされない。例えば、創傷部の大きさに適合させる大きさにカットしたり、適宜の大きさにカットした後、創傷部の面積深さに応じて任意の大きさに畳んだり、必要に応じて追加積層することができる。
【0028】
なお、この製法により成形されたポリエステル系繊維シートの目付け量は、3.2g±0.8g/mである。
【0029】
また、図1および図2に示すように、この創傷部用被覆ネット1には、カッティング後のカット端のカーリングを防ぐため、その両端にポリエステル糸によるかがり縫いが施された封口部3,3が設けられている。
【0030】
また、この例において、本発明の創傷部用被覆ネット1は、図3に示すように、丸編みの編み目として、天竺編により成形されているが、滲出液を編み目4内に保持できる構造であればよく、これ以外の丸編みの編み目、例えば、フライス編、スムース編のいずれであってもよい。
【0031】
図4には、本発明における創傷部用被覆ネット1の使用態様を示すもので、図4(a)創傷部用被覆ネット1を患部表面5に被覆した状態を、図4(b)は創傷部用被覆ネット1を患部内6に充填した状態を示している。
【0032】
このように、本発明の創傷部用被覆ネット1は、直接患部5,6に当接させて使用され、汚染された滲出液を編み目4内に保持するのであるが、ポリエステル極細糸2自体は実質的に滲出液を吸収することがないため、患部5,6と創傷部用被覆ネット1とが固着することがない。
【0033】
したがって、創傷部用被覆ネット1の交換時に、患部5,6から無理矢理引き剥がして創傷部を傷つけるということはい。
【0034】
また、患部5,6と創傷部用被覆ネット1とが固着しないことにより、滲出液の排出を妨げることがなく、患部5,6の湿潤環境を保つことができるため、細胞遊走を助け、壊死組織の自己融解・排除を促進することができる。
【0035】
さらに、本発明の創傷部用ネット1は、ポリエステル極細糸2等のモノフィラメントを丸編みしたメッシュ布地からなり、柔軟性、弾力性に富んでいるため、患部5,6に対する刺激を緩和しつつその汚染を防止することができる。
【0036】
次に、治験例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらによって制限されるものではない。
【0037】
創傷部用被覆ネット1として、ポリエステル極細糸2(ポリエステル22T)を、クランプ編み機にて丸編み成形し、連続高温での精錬加工を施し、汚れ、異物、傷等の外観検査を行ながらロール状に巻き取った。
【0038】
成形したメッシュシートの目付け量は3.2g±0.8g/mであるが、巻き取り後、幅12.5cm×長さ25cm〜30cmにカットし、カット端をポリエステル糸にてかがり縫いして封口部3,3を設け、図1および図2に示す創傷部用被覆ネット1を得た。
【0039】
〈治験例〉
ベッドに寝たきりの45歳の男性患者の坐骨結節部の4度褥瘡(40mm×20mm×100mm(深さ))部の壊死組織を切除した後、創傷部用被覆ネット1を褥瘡内に当接させ、フィブラストスプレーを噴霧し、25mHgの持続吸引(ポリウレタンフィルムで密閉)し、3日に1回交換した。
創傷部用被覆ネット1は、創傷部からの滲出液を良く保持しているとともに、創傷部に付着することもなく、6日後には良性の肉芽の増殖が確認された。
【0040】
上記のように、本発明の創傷部用ネット1によれば、ポリエステル極細糸2自体が浸出液を吸収することがないため、創傷部からの滲出液を編み目4内に固化しない状態で保持することができるとともに、患部と創傷部用ネット1とを固着させない状態を維持することができる。
【0041】
したがって、滲出液の排出を妨げずに創傷部の湿潤環境を保つことができるとともに、創傷部を傷つけることもなく、創傷部の治療環境を保持することができる。
【符号の説明】
【0042】
1 創傷部用ネット
2 ポリエステル極細糸
3 封口部
4 編み目
5,6 患部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被覆材を創傷部に当接させて創傷部からの滲出液を吸収する創傷部用被覆ネットにおいて、
上記被覆材は、疎水性を有するモノフィラメントを丸編み成形した2層構造のメッシュシートからなることを特徴とする創傷部用被覆ネット。
【請求項2】
上記メッシュシートがポリエステル系繊維100%であることを特徴とする請求項1に記載の創傷部用被覆ネット。
【請求項3】
上記メッシュシートの目付量が3.2g±0.8g/mであることを特徴とする請求項1または2に記載の創傷部用被覆ネット。
【請求項4】
上記メッシュシートはクリンプ編み機による丸編み成形である請求項1ないし3のいずれか1項に記載の創傷部用被覆ネット。
【請求項5】
上記メッシュシートは連続高温での精錬加工による洗浄処理がなされている請求項1ないし4のいずれか1項に記載の創傷部用被覆ネット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−388(P2013−388A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−135044(P2011−135044)
【出願日】平成23年6月17日(2011.6.17)
【出願人】(000150084)株式会社竹虎 (12)