説明

加工密着性に優れた有機樹脂被覆用表面処理鋼板の製造方法

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、加工密着性に優れた有機樹脂被覆用表面処理鋼板の製造方法に関する。より詳細には、絞り再絞り缶、絞り加工後、ストレッチ加工を施す薄肉化深絞り缶など厳しい加工密着性が要求される缶用材料に適した有機樹脂被覆用表面処理鋼板の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】食缶あるいは飲料缶に用いられる金属缶は缶胴、缶蓋、底蓋の三つの部分からなる3ピース缶と缶胴と底蓋が一体となった缶体、缶蓋の二つの部分からなる2ピース缶に大別される。さらに、3ピース缶は缶胴の接合方法によりはんだ缶、接着缶および溶接缶に分けられる。また、2ピース缶は成形加工方法により絞り缶、絞り再絞り缶(DRD缶)、絞りしごき缶(DI缶)および最近開発された絞り加工後、ストレッチ加工を施す薄肉化深絞り缶などに分けられる。これらの金属缶用材料には加工後塗装されるDI缶を除き、一回あるいは数回の塗装が施されたぶりきおよび電解クロム酸処理鋼板(Tin Free Steel、以下TFSと略す)が主に用いられている。製缶方法およびその用途などにより用いられる缶用材料も異なるが、それぞれの缶用材料のもつ特性を生かして用いられている。本発明の目的である厳しい加工後の有機樹脂被覆層の密着性が要求される用途には、優れた有機樹脂被覆層の加工密着性をもつTFSが用いられている。比較的絞り比の小さい浅絞り缶用には錫めっき後、重クロム酸ソーダ溶液中で電解処理を施し、錫層の表面にクロム水和酸化物層を形成させた通常のぶりきが用いられている。この通常のぶりきはさらに加工度を上げると、塗膜が剥離することがあり、この塗膜の加工密着性を向上させるため、めっきされた錫層上に下層が金属クロム、上層がクロム水和酸化物の二層皮膜、いわゆるTFS処理皮膜を形成させる方法が昭60−34637号、特公昭60−35440号および特公昭60−39159号に開示されている。これらの方法で得られたぶりきは確かに通常のぶりきより塗膜の加工密着性は優れているが、めっきされた錫層上に適量の金属クロム量およびクロム水和酸化物量の二層皮膜を形成させるため、クロム酸浴中の助剤の量、電解条件など厳密なコントロールが要求される。また、得られたぶりきも黒味を帯び、缶外面に施される印刷に用いられる印刷インクの調色にも厳密な管理が要求される。さらに、このぶりきを本発明の目的である優れた有機樹脂被覆層の加工密着性が要求されるDRD缶、薄肉化深絞り缶用などに用いると、有機樹脂被覆層が剥離することがある。このTFS処理皮膜を形成させたぶりきは塗料をキュアーさせるための加熱時に、鉄錫合金の成長が著しく早く、特に錫めっき量が少ない場合に、厳しい加工で塗膜が容易に剥離する。したがって、これらの缶を連続的に安定した状態で生産することはできない。このようにTFS処理皮膜を形成させたぶりきは上記のような欠点をもっている。
【0003】最近、塗装に代わりポリエステル樹脂フィルムなどの熱可塑性樹脂フィルムをTFS、ぶりきなどに積層した金属板を、厳しい加工密着性、加工耐食性が要求される薄肉化深絞り缶用に用いる方法(特開平2−269647号、特開平2−263523号)が提案されている。ポリエステル樹脂フィルムを積層したTFSを薄肉化絞り缶用に用いる場合、厳しい加工によって積層されたポリエステル樹脂フィルムが剥離したり、このフィルムにクラックがはいることを防止するため、ポリエステル樹脂フィルム自体の加工性を改良することが必要であり、特開昭64−22530号、特開平1−249331号、特開平2−57339号に示される方法が提案されている。しかしながら、TFSにこれらのポリエステル樹脂フィルムを積層する工程、あるいは絞り、再絞り加工を施す工程などで、ごみなどの異物が混入することがあり、その異物が混入した部分を起点として、絞り再絞り加工時に積層されたポリエステル樹脂フィルムに微小のクラックがはいることがある。例えば、この薄肉化深絞り缶に炭酸飲料あるいはスポーツ飲料などを充填し、室温で約1ヶ月貯蔵すると、この微小クラックから孔食を起こすことがある。したがって、これらの工程を厳重に管理しなければならないという欠点をもっている。
【0004】また、ぶりきにポリエステル樹脂フィルムを積層する方法として、ポリエステル樹脂フィルムを錫の融点以下の温度で仮接着、錫の融点以上の温度に加熱し、本接着させる方法(特公昭61−3676号)、ポリエステル樹脂の融点以上の温度に加熱したTFS、ぶりきなどの金属板にポリエステル樹脂フィルムを積層し、急冷する方法(特公昭60−47103号)、共重合ポリエステル樹脂の融点±50℃に加熱されたTFS、ぶりきなどの金属板に特定の接着剤を塗布した共重合ポリエステル樹脂フィルムを積層する方法(特開平1−249331号)などが開示されている。これらの開示された方法で得られたポリエステル樹脂フィルム積層錫めっき鋼板は、同様な方法で得られたポリエステル樹脂フィルム積層TFSに比較し、ポリエステル樹脂フィルムの加工密着性が劣り、厳しい加工密着性、加工耐食性が要求される薄肉化深絞り缶用などに用いることは不可能である。このTFSのもつ優れた有機樹脂層に対する加工密着性、ぶりきのもつ優れた加工耐食性を兼ね備えた缶用材料を開発するため、種々の方法が検討されている。一例として、ポリエステル樹脂フィルムを特定組成の錫めっき液を用い、鋼板表面に鋼板露出部が多く、かつ電着した錫が散在した錫めっきを施し、ついで上層がクロム水和酸化物、下層が金属クロムからなる二層皮膜を形成させた表面処理鋼板、いわゆる、ぶりきとTFSの複合的な表面処理鋼板に積層する方法(特願平2−33811号)が提案されている。この方法で得られたポリエステル樹詣フィルム積層鋼板を薄肉化深絞り缶用に用いた場合、積層されたポリエステル樹脂フィルムは剥離することはなく、かつポリエステル樹脂積層TFSに比較し加工耐食性は優れている。しかしながら、この表面処理鋼板の製造工程は複雑であり、かつ鋼板露出部を特定範囲にコントロールする錫めっき条件の管理がむずかしく、さらに薄肉化深絞り缶に加工した時、TFSと同様に缶胴部の外観がやや黒味をおび、商品価値を低下させるという欠点をもっている。
【0005】
【本発明が解決しようとする課題】このように厳しい加工密着性、加工耐食性が要求される有機樹脂被覆に適した缶用材料を単純な工程で、かつ高速で製造する方法は得られていない。本発明は優れた加工密着性および加工耐食性を兼ね備え、有機樹脂被覆に適した表面処理鋼板を単純な工程で製造可能な方法を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明は、種々検討の結果、錫めっきを施した鋼板、あるいは錫めっき後、さらにその上層に少量のニッケルめっきを施した鋼板(以下、一括して錫めっき鋼板と略す)にハロゲン基あるいはカルボキシル基を含む酸性水溶液を塗布、乾燥するだけで、加工密着性に優れた有機樹脂被覆に適した表面処理鋼板が得られることを見出した。
【0007】以下、本発明の内容について詳細に説明する。まず、本発明における鋼板上への錫めっきにはぶりきの製造に用いられる公知の錫めっき浴、例えばフェロスタン浴、ハロゲン浴を用い、公知の錫めっき条件で行えばよい。錫めっき量は1.0g/m以上であればよい。一般に、錫めっき量が少ないと、塗装した塗料をキュアーさせる時、あるいは熱可塑性樹脂フィルムを積層する時の加熱によって、めっきされた錫の大部分が鉄錫合金となり、厳しい深絞り加工を施した時、この鉄錫合金層が破壊され、結果的に塗膜あるいは積層された熱可塑性樹脂フィルムは剥離する。しかしながら、錫めっき鋼板を本発明の酸性水溶液中で浸漬処理すると、原因はよくわからないが、この加熱による鉄錫合金の成長が抑制され、金属錫の残存量が増加する。この現象が本発明における有機樹脂被覆層の加工密着性が向上する一因と考えられる。また、本発明の酸性水溶液による処理は錫あるいはニッケルが存在しなければ効果はないので、塗膜あるいは樹脂フィルムの加工密着性に悪影響を与えるこれらの酸化物の加熱時の成長を抑制することも加工密着性が向上する一因と考えられる。錫めっき量の上限はあえて限定する必要はないが、経済性の観点より7.4g/m程度に限定される。また、本発明の処理は錫めっき後、あるいは錫めっき、さらにその上層にニッケルめっきを施した後、通常のぶりきで行われている錫の溶融処理後に施しても、特に本発明の目的とする効果に支障をきたすことはない。
【0008】図1は本発明の処理、すなわち、1g/1塩酸水溶液に室温で1秒浸漬後、ロールで絞り乾燥させた錫めっき鋼板を220℃で30分加熱した後、グロー放電分光分析装置(以下、GDSという)を用いて、表層から内層にいたる断面方向における錫および鉄の強度を測定した結果を示す。図2は錫めっき鋼板を220℃で30分加熱した後、図1の場合と同様に錫および鉄の強度を測定した結果である。両者ともに錫の強度には金属錫による第1のピークと鉄錫合金を主体とした第2のピークの二つのピークが観察されるが、鉄は錫の第2のピーク附近より検出される。しかし、本発明の処理を施した場合(図1)の鉄の強度は本発明の処理を施さないの場合(図2)に比較し小さいことがわかる。グロー放電によって測定試料が加熱され、鉄錫合金が多少成長することも考慮しなければならないが、本発明の処理を施した場合、加熱によって鉄錫合金が成長しにくいことが理解される。
【0009】錫めっき後、ニッケルめっきを施す場合、ニッケルめっきには公知のニッケルめっき浴、すなわち、ワット浴、スルファミン酸浴を用い、公知のめっき条件で行えばよい。錫上にめっきされたニッケルは室温で放置しても、あるいは塗装された塗料をキュアーさせる時、あるいは熱可塑性樹脂フィルムを積層する時の加熱によっても容易に錫と合金化するので、塗膜あるいは積層される熱可塑性樹脂フィルムなどの有機樹脂被覆層の加工密着性を改良する効果がある。ニッケルめっき量0.005g/m以下では、その効果はほとんどない。また、ニッケルめっき量の増加は、錫めっき量に関係なく有機樹脂被覆層の加工密着性に支障をきたさないが、錫めっき量が少ない場合には、錫−ニッケル合金の生成により、金属錫量が減少し、有機樹脂層で被覆した表面処理鋼板の加工耐食性が低下する危険性があり好ましくない。金属錫は加工によって有機樹脂被覆層に微細なクラックが入った時、露出した鋼板を電気化学的に防食する効果があるので、本発明においては、加工後の耐食性の観点から、塗装された塗料のキュアーあるいは熱可塑性樹脂フィルム積層時の加熱後においても、金属錫が残存することが不可欠である。本発明における錫めっき量の適性範囲を考慮すると、ニッケルめっき量は0.005〜0.20g/mの範囲が好ましい。錫めっき後に施されるニッケルめっきは上記のように有機樹脂被覆層の加工密着性をさらに改良する効果があり、製造工程の増加にもかかわらず、加工密着性、加工耐食性ともに優れた有機樹脂被覆用鋼板を連続的に、かつ安定した状態で製造することが可能である。
【0009】本発明の方法は錫めっき後、あるいは錫めっき後、さらにニッケルめっきを施し、通常のぶりきの後処理として施されている電解クロム酸処理などに代わり、特定の酸性水溶液を塗布、乾燥することを特徴としている。種々検討した結果、ハロゲン基あるいはカルボキシル基を含む化合物の水溶液を錫めっきを施した表面、あるいは錫めっき後、その上層に少量のニッケルめっきを施した表面に塗布することによって、その表面に形成される有機樹脂被覆層の加工密着性が著しく改良されることを見出した。本発明の方法で用いられるハロゲン基を含む化合物として、フッ化水素酸、ケイフッ化水素酸、ホウフッ化水素酸、塩酸、次亜塩素酸、これらのアンモニウム塩、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、錫、ニッケル、亜鉛などの金属塩があげられる。カルボキシル基を含む化合物として、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、しゅう酸、くえん酸、酒石酸、リンゴ酸、安息香酸、サリチル酸などの脂肪族、芳香族カルボン酸およびこれらのアンモニウム塩、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、錫、ニッケル、亜鉛などの金属塩があげられる。これらのハロゲン基あるいはカルボキシル基を含む化合物を1種、あるいは2種以上混合して用いることは可能であるが、その水溶液がアルカリ性を示す場合、上記の酸を添加することによって酸性にすることが本発明において不可欠である。もし、用いられる水溶液がアルカリ性であると、錫めっき鋼板の表面に残るアルカリ性物質が塗膜あるいは熱可塑性樹脂フィルムの加工密着性、特に温水などに浸漬された状態で経時された時の有機樹脂被覆層の密着性の劣化が著しく、好ましくない。
【0010】本発明の方法において、用いる酸性水溶液中のハロゲン基あるいはカルボキシル基を含む化合物の濃度は0.01〜20g/lの範囲が好ましく、より好ましくは0.1〜10g/lである。その濃度が0.01g/l以下であると、錫めっき鋼板に塗布しても塗膜あるいは熱可塑性樹脂フィルムの加工密着性にほとんど効果がない。また、その濃度が20g/l以上であると、めっきされた錫面に残存する化合物の量も増加し、塗膜あるいは熱可塑性樹脂フィルムの加工密着性を悪くする危険性がある。特に、この酸性水溶液のpHが著しく低い場合、めっきされた錫が溶解する危険性も大であり、好ましくない。すなわち、本発明の方法においては、上記の化合物を適性範囲の濃度に維持し、かつpH1〜5程度にコントロールした酸性水溶液を用いることがより好ましい。この酸性水溶液を錫めっき鋼板に塗布する方法として、錫めっき鋼板にこの水溶液をスプレーする方法、錫めっき鋼板をこの水溶液に浸漬し、ロールで絞る方法、塗料のようにロールで塗布する方法など種々の方法があるが、特に限定するものでない。浸漬し、ロールで絞る方法においても本発明の酸性溶液中に長時間浸潰する必要はない。特に用いる酸性水溶液のpHが著しく低い場合、すでに記したようにめっきされた錫が溶解するので、好ましくない。また、この酸性水溶液の温度も室温で十分で、特に加熱する必要もない。
【0011】本発明の方法で得られた錫めっき鋼板に塗布される塗料には缶用塗料として広く用いられている公知の種々の塗料があるが、本発明の方法で得られた錫めっき鋼板はこれらの塗料に対して優れた加工密着性をもっている。特にエポキシ・フェノール系、エポキシ・ユリア系、塩化ビニルオルガノゾル系塗料に対して優れた効果を発揮する。また、本発明の方法で得られた錫めっき鋼板に積層される熱可塑性樹脂フィルムにはポリオレフィン樹脂フィルム、ポリエステル樹脂フィルム、ポリアミド樹脂フィルムなどがあるが、これらの種々の樹脂フィルムに対しても優れた加工密着性をもっている。特に、本発明の目的である厳しい加工密着性、加工耐食性が要求される用途には、本発明の方法で得られた錫めっき鋼板を熱硬化性塗料で被覆するより、有機樹脂層自体の加工性の優れた熱可塑性樹脂フィルムで被覆することがより好ましい。例えば、特開平1−249331号などで開示されている加工性の優れた共重合ポリエステル樹脂フィルムの使用が本発明の用途に適している。
【0012】本発明の方法で得られた錫めっき鋼板に上記塗料を塗装する方法、キュアー方法も特に限定するものでなく、公知の方法で十分である。また、熱可塑性樹脂フィルムを積層する方法も公知の方法で十分である。例えば、熱可塑性樹脂フィルムの融解温度以下の温度に加熱した鋼板に仮接着させ、その後、該樹脂の融解温度以上に加熱し、本接着させる方法、熱可塑性樹脂フィルムをその融解温度以上に加熱した鋼板に積層し、鋼板表面と接触する該フィルムの一部あるいは全部を溶融させる方法、予め公知の接着剤を塗布した熱可塑性樹脂フィルムをその融解温度前後に加熱した鋼板に積層する方法、鋼板の表面に公知の接着剤を塗布した後、加熱し、熱可塑性樹脂フィルムを積層する方法など種々の方法があるが、いずれの方法も本発明の方法で得られた錫めっき鋼板に適用できる。
【0013】
【実施例】以下、本発明の実施例および比較例について説明する。
【0014】実施例1板厚0.18mm、テンパー度DR−10の冷延鋼板の両面に公知の方法で脱脂、酸洗を施し、水洗後、(1)に示す条件で錫めっきを施し、水洗後、20℃の2g/l塩酸水溶液に1秒浸漬し、ロールで絞り、そのまま乾燥した。得られた錫めっき鋼板の両面に(2)に示す条件でポリエステル樹脂フィルムを積層した。積層後、210℃で1分加熱した。
(1)錫めっき条件浴組成硫酸錫: 80g/lフェノールスルフォン酸(酸度を硫酸に換算): 15g/lエトキシ化αナフトール: 10g/l浴温: 45℃陰極電流密度: 20A/dm錫めっき量: 1.8g/m(2)ポリエステル樹脂フィルムの積層条件A.フィルムの特性組成: テレフタル酸88モル%、イソフタル酸12モル%、エチレングリコール100モル%の重合で得られた二軸延伸共重合ポリエステル樹脂フィルム厚さ : 25μm融点 : 230℃B.フィルムへの接着剤の塗布接着剤組成: エポキシ樹脂 80部パラクレゾール系レゾール 20部塗布量 : 0.25g/m(乾燥重量)
乾燥温度 : 100℃C.フィルム積層条件フィルム積層直前の錫めっき鋼板の温度: 245℃積層速度: 30m/分
【0015】実施例2実施例1に用いた冷延鋼板の両面に実施例1の(1)に示した錫めっき条件で錫めっき量5.6g/mの錫めっきを施し、水洗後、35℃のフッ化アンモニウム15g/l、フッ化水素酸3g/lの水溶液に3秒浸漬し、ロールで絞り、そのまま乾燥した。ついで、得られた錫めっき鋼板の両面に、実施例1で用いた同じ組成のフィルムを接着剤を塗布せずに、実施例1の(1)に示す条件で積層した。
【0016】実施例3実施例1に用いた冷延鋼板の両面に実施例1の(1)に示した錫めっき条件で錫めっき量2.8g/mの錫めっきを施し、水洗後、(1)に示す条件でニッケルめっきを施した。水洗後、さらに40℃の0.5g/lくえん酸水溶液を2秒スプレー塗布し、ロールで絞り、そのまま乾燥した。ついで、得られた錫めっき鋼板の両面に、塩化ビニルオルガノゾル系塗料を120mg/dm塗布し、205℃で10分間キュアーさせた。
(1)ニッケルめっき条件浴組成硫酸ニッケル: 250g/l塩化ニッケル: 30g/lホウ酸: 30g/lpH: 3〜4浴温度: 50℃陰極電流密度: 5A/dmニッケルめっき量: 0.02g/m
【0017】実施例4実施例1に用いた冷延鋼板の両面に実施例1の(1)に示した錫めっき条件で錫めっき量3.6g/mの錫めっきを施し、水洗後、25℃の5g/l塩酸、5g/1塩化錫の水溶液に1秒浸漬し、ロールで絞り、そのまま乾燥した。得られた錫めっき鋼板の両面に、(1)に示す条件でポリアミド樹脂フィルムを積層し、その後、210℃で1分間加熱した。
(1)ポリアミド樹脂フィルムの積層条件A.フィルムの特性組成: ナイロン6厚さ: 25μm融点: 225℃B.フィルムへの接着剤の塗布接着剤組成: 実施例1で用いられた接着剤組成と同一塗 布 量: 0.25g/m(乾燥重量)
乾燥温度 : 100℃C.フィルム積層条件フィルム積層直前の錫めっき鋼板の温度; 258℃積層速度: 10m/分
【0018】比較例1実施例1に用いた冷延鋼板の両面に実施例1の(1)に示した錫めっき条件で錫めっき量1.8g/mの錫めっきを施した後、水洗し、50℃の無水クロム酸30g/l、硫酸0.3g/lの水溶液中で、陰極電流密度50A/dmの条件で電解し、めっきされた錫上に上層がクロム量として14mg/mのクロム水和酸化物、下層が40mg/mの金属クロムからなる二層皮膜を形成させ、水洗乾燥した。さらに、実施例1の(2)に示す条件でポリエステル樹脂フィルムを積層した。
【0019】比較例2実施例1の(1)に示した条件で錫めっき量2.8g/mの錫めっきを施した後、水洗し、比較例1に示した条件で電解クロム酸処理を施し、同様な二層皮膜を形成させ、水洗乾燥した。さらに、実施例3で用いた塩化ビニルオルガノゾル系塗料を120mg/m塗布し、205℃で10分間キュアーさせた。
【0020】比較例3実施例1に用いた冷延鋼板の両面に実施例1の(1)に示した錫めっき条件で錫めっき量2.8g/mの錫めっきを施し、水洗後、45℃の30g/l重クロム酸ソーダ水溶液中で陰極電流密度20A/dmの条件で電解し、めっきされた錫上にクロム量として5mg/mのクロム水和酸化物皮膜を形成させ、水洗乾燥した。得られた錫めっき鋼板の両面に、実施例1で用いた同じ組成のポリエステル樹脂フィルムを接着剤を塗布せずに、実施例1の(1)に示す条件で積層した。
【0021】比較例4実施例1に用いた冷延鋼板の両面に(1)に示す条件で電解クロム酸処理を施し、下層が金属クロム、上層がクロム水和酸化物からなる二層皮膜、いわゆるTFS皮膜を形成させ、湯洗乾燥後、実施例2の(1)の条件でポリエステル樹脂フィルムを積層した。
(1)電解クロム酸処理条件浴組成無水クロム酸: 30g/lフッ化ナトリウム: 1.2g/l浴温度: 45℃陰極電流密度: 40A/dm金属クロム量: 104mg/mクロム水和酸化物量: 16mg/m(クロムとして)
【0022】実施例1〜4および比較例1〜4で得られた有機樹脂被覆鋼板を下記に示す条件で薄肉化深絞り缶へ加工した。各加工工程における有機樹脂被覆層の剥離状況を肉眼で観察した。さらに、得られた薄肉化深絞り缶50個に1.5%クエン酸水溶液を充填し、37.5℃の恒温室に3ヶ月貯蔵し、溶出鉄量を原子吸光法で測定するとともに、孔食による漏れ缶の発生率を求め、その結果を表1に示した。なお、溶出鉄量は50缶の平均値で示した。なお、比較例1、および比較例3で得られた有機樹脂被覆鋼板は薄肉化深絞り缶へ加工する工程で、表1に示すように積層したポリエステル樹脂フィルムが剥離したので、クエン酸溶液を充填しなかった。
〔薄肉化深絞り缶への加工条件〕
A.絞り工程ブランク径:187mm絞り比:1.50B.再絞り工程第1次再絞り比:1.29第2次再絞り比:1.24第3次再絞り比:1.20再絞り工程におけるダイスのコーナーブ部の曲率半径:0.4mm再絞り工程におけるしわ押え荷重:6000kgC.缶胴部の平均薄肉化率:成形前の鋼板厚さに対し−20%
【0023】
【表1】


【0024】
【発明の効果】本発明の方法で得られた有機樹脂被覆用表面処理鋼板は、その上に被覆される有機樹脂層の加工密着性に優れ、かつ加工耐食性に優れ、厳しい加工密着性、加工耐食性が要求されるDRD缶用、薄肉化深絞り缶用だけでなく、缶蓋、王冠、スクリュウキャップなど容器用材料として広く適用できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の処理を施した錫めっき鋼板を220℃で30分間加熱後、表層より内層方向に錫および鉄の強度をGDSで測定した結果を示す図である。
【図2】本発明の処理を施さない錫めっき鋼板を220℃で30分間加熱後、表層より内層方向に錫および鉄の強度をGDSで測定した結果を示す図である。
【符号の説明】
1 錫の強度変化
2 鉄の強度変化

【特許請求の範囲】
【請求項1】鋼板の両面に錫めっきをし、水洗し、次の(a)〜(f)の一種以上の水溶液で処理し、乾燥することを特徴とする加工密着性に優れた有機樹脂被覆用表面処理鋼板の製造方法。
(a)フッ化水素酸、ケイフッ化水素酸、ホウフッ化水素酸、塩酸又は次亜塩素酸の一種以上、(b)上記(a)のアンモニウム塩、アルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩の一種以上、(c)上記(a)の錫塩、ニッケル塩又は亜鉛塩の一種以上、(d)蟻酸、酢酸、プロピオン酸、しゅう酸、くえん酸、酒石酸、リンゴ酸、安息香酸又はサリチル酸の一種以上、(e)上記(d)のアンモニウム塩、アルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩の一種以上、(f)上記(d)の錫塩、ニッケル塩又は亜鉛塩の一種以上
【請求項2】鋼板の両面に錫めっきをした後ニッケルめっきを施し、水洗し、次の(a)〜(f)の一種以上の水溶液で処理し、乾燥することを特徴とする加工密着性に優れた有機樹脂被覆用表面処理鋼板の製造方法。
(a)フッ化水素酸、ケイフッ化水素酸、ホウフッ化水素酸、塩酸又は次亜塩素酸の一種以上、(b)上記(a)のアンモニウム塩、アルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩の一種以上、(c)上記(a)の錫塩、ニッケル塩又は亜鉛塩の一種以上、(d)蟻酸、酢酸、プロピオン酸、しゅう酸、くえん酸、酒石酸、リンゴ酸、安息香酸又はサリチル酸の一種以上、(e)上記(d)のアンモニウム塩、アルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩の一種以上、(f)上記(d)の錫塩、ニッケル塩又は亜鉛塩の一種以上
【請求項3】上記水溶液の濃度が0.01〜20g/lである請求項1又は2記載の表面処理鋼板の製造方法。
【請求項4】請求項2又は3において、錫めっきを施すめっき量が1.0〜7.4g/mであり、ニッケルめっきを施すめっき量が、0.005g/mを越えて且つ錫−ニッケル合金を形成する際に金属錫が全て合金化するのに要する量未満である表面処理鋼板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【特許番号】第2696729号
【登録日】平成9年(1997)9月19日
【発行日】平成10年(1998)1月14日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−133721
【出願日】平成3年(1991)3月29日
【公開番号】特開平5−93279
【公開日】平成5年(1993)4月16日
【出願人】(390003193)東洋鋼鈑株式会社 (265)
【参考文献】
【文献】特開 昭59−83775(JP,A)
【文献】特開 昭57−16175(JP,A)
【文献】特開 昭61−210184(JP,A)
【文献】特開 昭54−68734(JP,A)
【文献】特開 昭49−123941(JP,A)
【文献】特開 昭48−8317(JP,A)