説明

加熱殺菌済みパスタソース

【課題】バジルを配合した加熱殺菌済みパスタソースにおいて、加熱殺菌を行っているにも拘わらず、バジルの香気を保持することのできる加熱殺菌済みパスタソースを提供する。
【解決手段】バジルを配合した加熱殺菌済みパスタソースにおいて、卵殻粉を配合する加熱殺菌済みパスタソース。さらに、前記卵殻粉の平均粒径が1μm以下であることが好ましく、また、前記卵殻粉の配合量が、製品に対して0.01〜5%であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バジルを配合した加熱殺菌済みパスタソースにおいて、卵殻粉を用いることで加熱殺菌を行っているにも拘わらず、バジルの香気を保持することができる加熱殺菌済みパスタソースに関する。
【0002】
バジルは、シソ科に属するインド原産の一年草であり、バジル独特の好ましい香気を有する。バジル独特の好ましい香気を活かした食品として、バジルの葉の部分を細断したバジルペーストを配合した、パスタソースが知られている。
【0003】
ところで、バジルの葉は、収穫直後は独自の好ましい香りを呈しているが、バジルを配合したパスタソースを工業規模で生産する場合、保存性を付与するために加熱殺菌する必要があるが、この加熱殺菌処理を行うと、バジルの香りが消失してしまい、バジルの香気を保持したパスタソースが得られないという問題があった。
【0004】
ハーブの風味が良く付くハーブ含有ソース類の製造方法としては、例えば、特開2001−352949号公報(特許文献1)には、炊き上げたソースを70℃以下に冷却後にハーブを添加し、その後加熱殺菌する方法が開示されている。しかしながら、特許文献1の製造方法では、ある程度バジルの香気が残るものの、満足できるものとは言い難いものであった。
【0005】
【特許文献1】特開2001−352949号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、バジルを配合した加熱殺菌済みパスタソースにおいて、加熱殺菌を行っているにも拘わらず、バジルの香気を保持することができる加熱殺菌済みパスタソースを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成すべく、配合原料について鋭意研究を重ねた結果、卵殻粉を配合するならば、意外にも、加熱殺菌を行っているにも拘わらず、バジルの香気を保持できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、
(1)バジルを配合した加熱殺菌済みパスタソースにおいて、卵殻粉を配合する加熱殺菌済みパスタソース、
(2)前記卵殻粉の平均粒径が1μm以下である(1)の加熱殺菌済みパスタソース、
(3)前記卵殻粉の配合量が、製品に対して0.01〜5%である(1)または(2)の加熱殺菌済みパスタソース、
である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、バジルを配合した加熱殺菌済みパスタソースにおいて、卵殻粉を配合することにより、加熱殺菌を行っているにも拘わらず、バジルの香気を保持できる加熱殺菌済みパスタソースを提供できる。これにより、卵殻粉の有効利用、およびバジルソースの需要の拡大が期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、本発明において「%」は「質量%」を意味する。
【0011】
本発明におけるバジルとは、シソ科に属するインド原産の1年草のことであり、生バジル、加熱処理バジル、冷凍処理バジル等かを問わず、また、食用油や食塩、砂糖、食酢等の調味料と混合した油漬加工品、加塩加工品、加糖加工品や酢漬加工品、さらにこれらの加熱処理品や冷凍処理品等を用いることができる。
【0012】
本発明は、上記バジルを配合した加熱殺菌済みパスタソースにおいて、卵殻粉を配合することを特徴とする。本発明に用いる卵殻粉とは、鳥類の卵、望ましくは鶏卵の卵殻を粉砕したものをいう。卵殻は、その主成分が炭酸カルシウムであり、2%程度のタンパク質を含む。このタンパク質の存在が、バジルの香気の保持に大きく寄与するものと考えられる。
【0013】
前記卵殻粉の平均粒径は、ソースに配合したときザラつかない程度の大きさ(具体的には、20μm以下)であれば良いが、好ましくは1μm以下、より好ましくは0.01〜0.6μmとなるまで微粉砕化した卵殻粉(以下、微粉砕化卵殻粉とする)を用いることにより、卵殻中に含まれるタンパク質が卵殻粉の表面に効率的に露出し、バジルの香気を保持することができる。ここで、微粉砕化卵殻粉の平均粒径が0.01μm未満であると、凝集しやすく、分散性に劣る場合があり、一方、1μmを超えると、バジルの香気を保持しにくくなる傾向が見られる。
【0014】
前述した微粉砕化卵殻粉は、例えば、振動ミル、ボールミル、シェカーやハンマーミル、ターボミル、ファインミル、ジェットミル、バンタムミル、グラインダーミル、カッターミル、ビーズミルなどの粉砕機を使用する機械的粉砕により得ることができ、これらの粉砕機を単独もしくは2つ以上組み合わせて使用することができる。
【0015】
平均粒径が1μm以下であり、かつ、粒度分布が狭い微粉砕化卵殻粉を得ることができる点で、微粉砕化卵殻粉は特に、ビーズミルによる湿式粉砕にて粉砕されたものであることが好ましい。ビーズミルとしては、例えば、スターミルLMZ(アシザワ・ファインテック株式会社製)、OBミル(ターボ工業株式会社製)、スーパーアペックスミル(寿工業株式会社製)等が挙げられる。
【0016】
ビーズミルを使用して卵殻粉の平均粒径を、好ましくは1μm以下(より好ましくは0.01〜0.6μm)に湿式粉砕することにより、クリーム状の微粉砕化卵殻粉含有スラリーが得られる。上記スラリーをそのまま食品等に添加することにより、微粉砕化卵殻粉の凝集を防止したまま使用することができる。
【0017】
また、上記スラリーを乾燥させて得られた微粉砕化卵殻粉を使用してもよい。乾燥方法としては特に限定されるものではなく、噴霧乾燥や凍結乾燥など、一般的に行われる方法で実施することができる。また、デキストリン等の賦形剤や、ショ糖脂肪酸エステル等の乳化剤を、上記スラリーに適宜添加してから乾燥を行ってもよい。
【0018】
微粉砕化卵殻粉の粒度分布は、粒径1μm以下の割合が50%以上であり、かつ、粒径10μm以上の割合が5%以下であることが好ましく、バジルの香気を保持できる点で、粒径0.5μm以下の割合が50%以上であり、かつ、粒径2μm以上の割合が5%以下であることがより好ましい。
【0019】
また、微粉砕化卵殻粉の粒度の分布状態を示す変動係数は0.1〜0.8であるのが好ましく、0.1〜0.7であるのがより好ましい。微粉砕化卵殻粉の変動係数が0.1〜0.8であることにより、凝集しにくくなるため分散性に優れ、かつ、バジルの香気を保持できる。
【0020】
卵殻粉の配合量は、バジルの香気を保持するためには、製品に対して0.01〜5%が好ましく、0.05〜3%がより好ましい。卵殻粉の配合量が前記範囲より少なくなると、バジルの香気を保持する効果が十分に得られ難く、一方、前記範囲より多くなると、これに応じたバジルの香気を保持する効果が得られ難く経済的でないばかりか、卵殻粉の風味がしてしまう傾向が見られる。
【0021】
なお、本発明の加熱殺菌済みパスタソースには、上述した原料の他に、菜種油、コーン油、綿実油、サフラワー油、オリーブ油、紅花油、大豆油、パーム油、魚油、卵黄油等の動植物油又はこれらの精製油(サラダ油)、あるいはMCT(中鎖脂肪酸トリグリセリド)、ジグリセリド、硬化油、エステル交換油等のような化学的、酵素的処理等を施して得られる油脂、あるいは各種スパイスオイル等調味油等の食用油脂、食酢、食塩、醤油、味噌、味醂、アミノ酸、核酸系旨味調味料等の各種調味料、砂糖、水飴、還元デキストリン、ソルビトール、オリゴ糖等の糖類、クエン酸、リンゴ酸、柑橘果汁等の酸材、香辛料、香料、アスコルビン酸、ビタミンE等の酸化防止剤、色素、キサンタンガム、タマリンドシードガム、加工澱粉、ペクチン、ゼラチン、小麦粉等の増粘材、卵黄、ホスフォリパーゼA処理卵黄、レシチン、リゾレシチン、モノグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル等の乳化材等、牛乳、クリーム、チーズ、ニンニク、松の実、カシューナッツ等のナッツ類等の具材等の原料を、本発明の効果を損なわれない範囲で適宜選択して配合することができる。
【0022】
また、本発明の加熱殺菌済みパスタソースの製造方法は、本発明の必須原料であるバジルおよび卵殻粉を任意の時期に配合させる以外は、常法に則り製すればよい。
【0023】
保存性を付与するために行う加熱殺菌方法は、100℃以下で行う低温殺菌法、100℃超で行う高温殺菌法のいずれにおいても行えるが、バジルの香気を保持する点で、100℃以下で行う低温殺菌法が好ましい。さらに本発明は、前記加熱殺菌を施した後、冷凍保管をしてもよい。
【実施例】
【0024】
次に、本発明を以下の実施例に基づき、さらに詳細に説明する。なお、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0025】
1.微粉砕化卵殻粉の調製
本実施例においては、以下の条件にて所定の平均粒径および粒度分布を有するように微粉砕された微粉砕化卵殻粉を調製した。より具体的には、精製水に卵殻粉(以下、微粉砕化卵殻粉と区別するために、「原料卵殻粉」と表記する。)を分散させた原料卵殻粉分散液(スラリー)について、以下の条件で湿式ビーズミルを使用して、原料卵殻粉を湿式粉砕した。
【0026】
1−1.原料
(1)原料卵殻粉(平均粒径:11.0μm((株)全農・キユーピー・エツグステーシヨン製))
(2)精製水
【0027】
1−2.粉砕(湿式粉砕)条件
湿式ビーズミル:スターミルLMZ2(アシザワ・ファインテック(株)製)
ビーズ:ジルコニア製、Φ0.3mm
ビーズ充填率:85%(粉砕室容量に対し);空間率49%
ローター周速:12m/s
【0028】
1−3.微粉砕化卵殻粉の調製方法
精製水8kgをビーズミルに連結したミキシングタンクに仕込み、原料卵殻粉2kgを投入して、湿式ビーズミルの循環運転(ミルで粉砕されたスラリーをタンクにリターン)を行うことにより、微粉砕化卵殻粉含有スラリーを調製した。
【0029】
湿式ビーズミルによる粉砕処理を、5分間、15分間、60分間行うことにより、粒径の異なる3種類の微粉砕化卵殻粉含有スラリーを得た。
【0030】
次に、得られた粒径の異なる3種類の微粉砕化卵殻粉含有スラリーを500ml容ナスフラスコにそれぞれ250g量り取り、−35℃位に設定したエタノールバス(PSL−50、東京理化器械(株))中で1時間程度凍結させた。凍結させた微粉砕化卵殻粉含有スラリーをナスフラスコごと凍結乾燥機(EYELA FD−80、東京理化器械(株))にかけ凍結乾燥後、粉砕機(ミルサー600DG、岩谷産業(株))に30秒間かけ微粉砕化卵殻粉(微粉砕化卵殻粉1〜3)を得た。
【0031】
1−4.平均粒径および粒度分布測定
試料(微粉砕化卵殻粉)0.06gを精製水0.24gに分散させ、この分散液0.3gを精製水10gに分散させて1分間超音波を照射した後、粒度分布計に供した。分散剤を添加する際は超音波照射前に2滴滴下した。
【0032】
また、原料卵殻粉の場合、まず、原料卵殻粉0.1gを精製水10gに分散させ、この分散液4gを精製水20gに分散させた後、超音波を照射して供試検体とした。
【0033】
粒度分布測定は、装置内蔵の超音波照射機(3分間、40W)を使用して行った。なお、平均粒径はメジアン径とした。粒度分布測定における測定装置および測定条件は以下の通りである。
粒度分布計:マイクロトラックMT3300EXII(日機装(株));レーザ回折式
屈折率:1.68(重炭酸カルシウムの文献値);水(分散媒)1.33
分散剤:アロンA−6330(ポリカルボン酸系重合体、東亜合成(株)製)
微粉砕化卵殻粉1〜3の平均粒径はそれぞれ、0.12μm(粒径の実測範囲:0.03〜0.58μm)、0.59μm(粒径の実測範囲:0.19〜7.78μm)、0.94μm(粒径の実測範囲:0.45〜7.78μm)であり、これらの変動係数(CV)はそれぞれ0.70、0.67、0.57であった。
【0034】
また、これら微粉砕化卵殻粉の粒度分布はいずれも、粒径1μm以下の割合が50%以上であり、かつ、粒径10μm以上の割合が5%以下であった。なかでも、微粉砕化卵殻粉の平均粒径が0.12μmである微粉砕化卵殻粉の粒度分布は、粒径0.5μm以下の割合が50%以上であり、かつ、粒径2μm以上の割合が5%以下であった。
【0035】
以下、平均粒径が0.12μmの微粉砕化卵殻粉を卵殻粉1とし、平均粒径が0.59μmの微粉砕化卵殻粉を卵殻粉2とし、平均粒径が0.94μmの微粉砕化卵殻粉を卵殻粉3、平均粒径が11.0μmの原料卵殻粉を卵殻粉4とする。
【0036】
2.バジルを配合した加熱殺菌済みパスタソースの製造方法
2−1.[実施例1〜4]
以下の工程により、実施例1〜4に係る加熱殺菌済みパスタソースを製造した。
ニーダーに、下記配合割合の原料を入れ、加熱撹拌した。90℃に達温後、加熱撹拌を停止させ、直ちに、パウチに20gずつホットパック充填後に密封し、加熱殺菌済みパスタソースを製した。なお、実施例1〜4において用いた卵殻粉1〜4は、表1に示すとおりである。
【0037】
<配合割合>
オリゴ糖 20%
みじん切りにしたバジルの葉(バジルミンチ) 15%
食塩 8%
卵殻粉 0.7%
キサンタンガム 0.5%
オリーブ油 残余
―――――――――――――――――――――――――――――――
合計 100%
【0038】
2−2.[比較例1、2]
実施例1〜4において用いた卵殻粉にかえて、比較例1では炭酸カルシウムを用い、比較例2では、卵殻粉を除した以外は、実施例1〜4と同様に加熱殺菌済みパスタソースを製した。
【0039】
2−3.[試験例1]
実施例1〜4および比較例1、2で得られた加熱殺菌済みパスタソースを常温(20℃)で1ヵ月間保存し、バジルの風味について評価した。評価結果を表1に示す。
【0040】
【表1】

【0041】
表1より、卵殻粉を配合した実施例1〜4は、炭酸カルシウムを配合した比較例1および卵殻粉を配合しなかった比較例2と比較し、加熱殺菌を行っているにも拘わらず、バジルの香気が保持されることが理解される。特に、平均粒径1μm以下の微粉砕化卵殻粉を配合した実施例1〜3(より好ましくは平均粒径0.6μm以下の微粉砕化卵殻粉を配合した実施例1、2)は、バジルの香気を著しく保持されることが理解される。
【0042】
2−4.[実施例5〜7]
実施例1において用いた卵殻粉1の配合量をそれぞれ、0.01%、0.05%、3%とした以外は、実施例1と同様の方法で加熱殺菌済みパスタソースを製した。
【0043】
2−5.[試験例2]
実施例1および実施例5〜7、ならびに比較例2得られた加熱殺菌済みパスタソースを常温(20℃)で1ヵ月間保存し、バジルの風味について評価した。評価結果を表2に示す。なお、表中の評価記号は、試験例1と同じものである。
【0044】
【表2】

【0045】
表2より、卵殻粉の配合量を、製品に対して0.01%以上とすることによって、加熱殺菌を行っているにも拘わらず、バジルの香気が保持されることが確認された。特に、卵殻粉の配合量を製品に対して0.05%以上とすることによって、バジルの香気が著しく保持されることが理解される。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
バジルを配合した加熱殺菌済みパスタソースにおいて、卵殻粉を配合することを特徴とする加熱殺菌済みパスタソース。
【請求項2】
前記卵殻粉の平均粒径が1μm以下である請求項1記載の加熱殺菌済みパスタソース。
【請求項3】
前記卵殻粉の配合量が、製品に対して0.01〜5%である請求項1または2記載の加熱殺菌済みパスタソース。


【公開番号】特開2009−89679(P2009−89679A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−265092(P2007−265092)
【出願日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【出願人】(000001421)キユーピー株式会社 (657)
【Fターム(参考)】