説明

加熱炉操業条件の決定方法

【課題】操業状態に関らず、内壁面に高放射性塗料を塗布した加熱炉の炉効率を向上させ、原単位の減少を図ることが可能な加熱炉操業条件の決定方法を提供する。
【解決手段】炉の内壁面に高放射性塗料を塗布した加熱炉の炉効率を向上させるための加熱炉操業条件の決定方法であって、加熱炉の昇温速度を、高放射性塗料を塗布する前の昇温速度と比較して、所定量上昇させながら炉効率の算出を行い、この算出された炉効率が最大となる昇温速度を最適昇温速度として決定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内壁面に高放射性塗料を塗布した加熱炉の炉効率を向上させるための加熱炉操業条件の決定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製鋼工程で製造されたスラブは、加熱炉で所定温度に加熱された後、圧延工程において種々の寸法の鋼帯に圧延される。スラブを加熱する加熱炉としては、バッチ式の加熱炉や連続式の加熱炉が用いられている。
【0003】
加熱炉でスラブを加熱する際のスラブへの入熱要因としては、主として炉壁からの輻射熱、炉内ガスからの放射熱、対流熱等がある。ここで、特に、炉壁からの輻射熱の占める割合が大きい。
【0004】
加熱炉において、炉壁からの輻射率を増大させる方法として、加熱炉の内壁面に酸化チタン(TiO)を含有する高放射性塗料を塗布する方法がある(特許文献1参照)。ここでは、塗料に酸化チタンを含有させることで、一般的な耐火煉瓦等と比べて近赤外線(0.8〜4μm)での熱吸収率を向上させる。このような塗料を加熱炉の内壁面に塗布することで炉壁の熱吸収率を向上させ、その結果として炉壁からの輻射率を増大させる、というものである。
【0005】
このように、炉壁からの輻射率を増大させることで、加熱炉内のスラブへの入熱量を増大させ、加熱炉における炉効率を向上させて原単位の減少を図るものである。
【特許文献1】国際公開第02/040601号(WO2002/040601)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記酸化チタン(TiO)を含有する高放射性塗料を内壁面に塗布した加熱炉の操業において、必ずしも原単位が減少せず、反対に、かえって原単位が悪化する場合があることがわかった。特に、加熱炉内にスラブを低量装入した場合に、原単位の悪化傾向が顕著に見られた。
【0007】
そこで、本発明は、操業状態に関らず、内壁面に高放射性塗料を塗布した加熱炉の炉効率を向上させ、原単位の減少を図ることが可能な加熱炉操業条件の決定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、高放射性塗料を内壁面に塗布した加熱炉の操業において、原単位が悪化した場合について、その原因について鋭意検討を行った。その結果、原因は高放射性塗料の塗布による炉壁温度上昇による炉体放散熱の増大にあると考えた。但し、炉体放散熱の増大の防止に関しての解決策は、現時点では見つけられなかった。そこで、炉壁の単位時間当りの熱吸収量は増加しているはずである点に着目して検討を行った。その結果、炉の昇温カーブを炉壁の熱吸収率の上昇に応じて変更した場合に、炉体放散熱のマイナス要因を上回るプラスの効果が得られる可能性があるとの知見を得るに至った。
【0009】
本発明は、上記知見に基づきなされたもので、以下のような特徴を有する。
[1]炉の内壁面に高放射性塗料を塗布した加熱炉の炉効率を向上させるための加熱炉操業条件の決定方法であって、
加熱炉の昇温速度を、高放射性塗料を塗布する前の昇温速度と比較して、所定量上昇させながら炉効率の算出を行い、該算出された炉効率が最大となる昇温速度を最適昇温速度として決定することを特徴とする加熱炉操業条件の決定方法。
[2]上記[1]において、高放射性塗料の塗布前後における炉体の熱吸収率の増加量に基づいて、上昇させる昇温速度の所定量の値を決定することを特徴とする加熱炉操業条件の決定方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、内壁面に高放射性塗料を塗布した加熱炉の炉効率を向上させ、原単位の減少を図ることが可能な加熱炉操業条件の決定方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための最良の形態の一例を説明する。
【0012】
図1は、本発明に係る加熱炉操業条件の決定方法が適用される加熱炉における熱の出入りを模式的に示した図である。なお、図1に示す加熱炉1は、バッチ式の加熱炉の場合を示しているが、本発明はバッチ式に限られず、連続式の加熱炉においても同様に適用可能である。
【0013】
図1に示すバッチ式の加熱炉1内でスラブ2が加熱されている状態において、熱の出入りに関しては、下式(1)の関係が成り立っている。
投入熱Qt=輻射熱Qr+ガス保有熱Qg+スラブ受熱量Qs+炉体保有熱Qb+炉体放散熱Qd+排出ガス顕熱Qc ・・・(1)
ここで、まず、炉の内壁面に酸化チタン(TiO)を含有する高放射性塗料が塗布されていない加熱炉について、スラブを加熱する場合について考える。なお、加熱炉の内壁を、一般的な耐火煉瓦により構成した場合には、炉壁の輻射率は、0.7程度である。
【0014】
図1において、バーナー等の加熱手段により炉内に投入された投入熱Qtは、炉内ガスの温度を上昇させるとともに炉壁から吸収され、炉体の温度を上昇させる。そして、炉体の温度の上昇に伴い炉壁からの輻射熱Qrの量が増大してくる。
【0015】
図1に示す加熱炉1内のスラブ2は、炉壁からの輻射熱Qr、炉内ガスからの放射熱、対流熱等により加熱される。ここで、スラブの加熱への寄与度としては、前記輻射熱Qrの影響が最も大きい。そのため、スラブを加熱するためには、投入熱Qtを増やし、炉壁に吸収させる熱量を多くして、炉体の温度を高温として、輻射熱Qrの量を増やすことが有効と考えられる。
【0016】
ただし、炉体の温度を上昇させるために投入熱Qtをむやみに増やしても、炉内ガスや炉体等に吸収されきれなかった熱は、図1に示す排出ガス顕熱Qcとして外部に放出される。この外部に放出される排出ガス顕熱Qcの増加は、炉効率を悪化させる原因となる。
【0017】
また、投入熱Qtを増やして炉体の温度が高くなれば、図1に示す炉体放散熱Qdの量も増大してくる。この炉体放散熱Qdによる投入熱Qtの損失は、時間の経過とともに増大して、これも炉効率を悪化させる原因となる。
【0018】
このような状況において、操業状態にある加熱炉においては、炉効率の悪化を防止するために、炉内ガスや炉体等に吸収されきらずに放出される排出ガス顕熱Qcがゼロとなるように、さらに、炉体放散熱Qdによる損失があまり増大しないように、炉壁の熱吸収率に合わせて投入熱Qtの量、つまり炉の昇温速度が調整されている。
【0019】
次に、加熱炉の内壁面に高放射性塗料を塗布した加熱炉においてスラブを加熱する場合を考える。高放射性塗料として、例えば、酸化チタン(TiO)を含有する高放射性塗料を塗布することで、炉壁の輻射率は、0.9程度になる。
【0020】
ここで、内壁面に高放射性塗料を塗布した加熱炉に対して、高放射性塗料を塗布していない加熱炉と同じ昇温速度でスラブの加熱を行った場合を考える。
【0021】
内壁面に高放射性塗料を塗布することで炉壁の熱吸収率は上昇する。熱吸収率が上昇することで、同じ投入熱Qtでも炉体の温度上昇速度は速くなる。この場合、スラブに必要な加熱を行う間において、炉体が高温となっている時間が高放射性塗料を塗布していない加熱炉と比較して長くなる。
【0022】
一方、炉体放散熱Qdとして外部に放出される熱量は、炉体が高温となっている時間に比例して増大する。そのため、高放射性塗料を塗布した加熱炉においては、スラブに必要な加熱を行う間、炉体が高温となっている時間が長いため、炉体放散熱Qdとして放出される熱量が増え、その分だけ炉効率が悪化する。
【0023】
つまり、高放射性塗料を塗布した加熱炉においては、高放射性塗料を塗布していない加熱炉と同じ昇温速度でスラブの加熱を行ったのでは、炉体放散熱Qdとして放出される熱量が増え、その分だけ炉効率が悪化する。このような状態においては、炉体放散熱Qdが炉壁からの輻射熱Qrを上回る状態となっている。
【0024】
そこで、炉の内壁面に高放射性塗料を塗布した加熱炉においては、加熱炉の昇温速度を、高放射性塗料を塗布する前の昇温速度と比較して、所定量上昇させながら炉効率の算出を行い、この算出された炉効率が最大となる昇温速度を最適昇温速度として決定する。
【0025】
前記炉体の炉効率は、下式(2)により表すことができる。
【0026】
炉効率=スラブ受熱量/(Mガス熱量+燃焼空気熱量) ・・・(2)
ここで、Mガス熱量とは、Mガスと燃焼空気の発熱量をいう。また、燃焼空気熱量とは、Mガスの燃焼に使われる空気の熱量をいう。
【0027】
前記上昇させる昇温速度の所定量としては、高放射性塗料の塗布前後における炉体の熱吸収率の増加量に基づいて決定することが好ましい。
【0028】
ここで、高放射性塗料の塗布後における適切な昇温カーブが上記方法にて決定できれば、炉体が十分に熱を吸収でき、炉内ガスや炉体等に吸収されきれずに外部に放出される排出ガス顕熱Qcの増大は防止できる。
【0029】
以下、高放射性塗料を塗布していなかった加熱炉に高放射性塗料を塗布した場合における最適昇温速度の決定方法の一例を説明する。
【0030】
(イ)加熱炉の昇温速度を、高放射性塗料を塗布する前の昇温速度と同一条件にして、高放射性塗料塗布前後における炉効率を、上式(2)により求めて比較する。
【0031】
(ロ)高放射性塗料塗布後の炉効率の方が塗布前の炉効率よりも悪い場合、上記(イ)での昇温速度を、上げて、塗布後の炉効率の方が塗布前の炉効率よりもよくなることを確認し、スラブの材質に影響しない範囲で、さらに所定量ずつ昇温速度を上げて行き、炉効率の最も高い上限昇熱速度を決定する。
【0032】
(ハ)高放射性塗料塗布後の炉効率の方が塗布前の炉効率よりも良い場合、上記(イ)での昇温速度を、高放射性塗料の塗布前後における炉体の熱吸収率の増加量に基づいて決定された所定量だけ上げて、塗布後の炉効率の方が塗布前の炉効率よりも、さらによくなるようであれば、スラブの材質に影響しない範囲で、さらに所定量ずつ昇温速度を上げて行き、炉効率の最も高い上限昇熱速度を決定する。
【0033】
(ニ)上記(ロ)または(ハ)で決定した昇熱速度で、高放射性塗料を塗布した後の加熱炉の昇熱を行う。
【0034】
つまり、昇温速度としては、増えた炉体の熱吸収率の分をカバーできるぎりぎりの昇温速度が最適昇温速度となる。なお、最適昇温速度とすることで、塗料塗布により増加した炉壁からの輻射熱ΔQrは、同じく増加した炉体放散熱ΔQdより常に大きい状態を維持し、炉効率としては良好な状態を維持している。
【0035】
以上説明したように、本発明に係る加熱炉操業条件の決定方法により決定された最適昇温速度で加熱することで、内壁面に高放射性塗料を塗布した加熱炉の炉効率を向上させ、原単位の減少を図ることが可能となる。
【実施例1】
【0036】
以下、図1に示すようなバッチ式の加熱炉において、酸化チタン(TiO)を含有する高放射性塗料を塗布する前後における、上式(2)で示す炉効率を比較した結果を示す。
【0037】
ここで、高放射性塗料を塗布する前の加熱炉の昇温温度は150℃/hが最適昇温速度であった。これに対し、高放射性塗料を塗布した後の加熱炉に対して、本発明に係る加熱炉操業条件の決定方法を適用して昇温速度を求めた結果、200℃/hが最適昇温速度として決定された。
【0038】
この結果により、以下のような加熱条件で高放射性塗料を塗布する前後における炉効率を比較した。
[適用材]
鋼種:40K、一般鋼
スラブ寸法:215mm×1620mm×2700mm
[加熱条件]
<塗布前>
昇温速度: 〜900℃まで150℃/h
冷却速度:900℃〜抽出設定温度まで100℃/h
<塗布後>
昇温速度: 〜900℃まで200℃/h
冷却速度:900℃〜抽出設定温度まで120℃/h
[結果]
同鋼材使用時において、
加熱時間:塗布前240分から塗布後210分に短縮
炉効率:塗布前を1として、塗布後1.06まで上昇
以上、内壁面に高放射性塗料を塗布した加熱炉の炉効率を向上でき、原単位の減少を図ることが可能であることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明に係る加熱炉操業条件の決定方法が適用される加熱炉における熱の出入りを模式的に示した図である。
【符号の説明】
【0040】
1 加熱炉
2 スラブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炉の内壁面に高放射性塗料を塗布した加熱炉の炉効率を向上させるための加熱炉操業条件の決定方法であって、
加熱炉の昇温速度を、高放射性塗料を塗布する前の昇温速度と比較して、所定量上昇させながら炉効率の算出を行い、該算出された炉効率が最大となる昇温速度を最適昇温速度として決定することを特徴とする加熱炉操業条件の決定方法。
【請求項2】
高放射性塗料の塗布前後における炉体の熱吸収率の増加量に基づいて、上昇させる昇温速度の所定量の値を決定することを特徴とする請求項1に記載の加熱炉操業条件の決定方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−19242(P2009−19242A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−183139(P2007−183139)
【出願日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】