説明

加熱硬化処理法、平面スピーカ用振動板及び平面スピーカ

【課題】平坦性が良好で外観不良もない振動板を形成するための加熱硬化処理法、該加熱硬化処理法を用いて形成された平面スピーカ用振動板、及び平面スピーカを提供する。
【解決手段】本発明の平面スピーカ用振動板の加熱硬化処理法では、第1回目の加熱硬化処理によって完全硬化の直前(50%以上、95%以下の硬化率)まで硬化し、第二回目の加熱硬化処理で前記シートを用いることにより、優れた平坦性を有しかつディンプルが形成されていない良好な外観の平面スピーカ用振動板10を形成することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平坦性が優れ外観不良のない平面スピーカ用振動板を形成するための加熱硬化処理法、平面スピーカ用振動板、及び平面スピーカに関する。
【背景技術】
【0002】
平面スピーカ用振動板の従来例を図3に示す。図3に示す振動板は、特許文献1で開示されたものであり、ボイスコイルを粘着層上に形成するのに、特許文献2で開示された布線技術を用いている。
【0003】
特許文献2で開示された布線技術は、少なくとも一方の面に粘着層を有するシート状基材(以下、粘着性シートと称する)の表面に沿って、相対的に移動可能な布線ヘッドを前記粘着性シートの表面上に間欠的に点接触させながら線状導体を繰り出すことで、前記粘着性シートの表面上に前記線状導体を順次貼付けていくという手法である。
【0004】
前記布線技術を用いて前記粘着性シートの粘着層上に渦巻状ボイスコイルを設け、該ボイスコイルを保護する目的で別のシート状基材を覆うように貼付することで振動板を形成している。特許文献1に記載の平面スピーカは、上記のように形成された振動板と、前記ボイスコイルに対向する位置に設けられた磁石とから構成されている。
【0005】
上記の通り形成された振動板の粘着層を硬化させる方法が、例えば特許文献3に開示されている。ここでは、例えば粘着層にエポキシ系樹脂を用い、1回の加熱処理(加圧下で180℃、20分間保持)で硬化させるようにしている。
【特許文献1】WO2003/073787
【特許文献2】特開平11−255856号公報
【特許文献3】特開2003−217921号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の平面スピーカは、前記粘着層上に渦巻状のボイスコイルが配置されている位置と配置されていない位置では振動板の厚みが異なっている。
この振動板を、例えば、2枚の平板で挟んだ状態で加熱硬化を行った場合、前記振動板の厚みが小さい位置に対しては、前記2枚の平板で平坦に成形することができない。そのため、ボイスコイルと前記粘着層、および、基材との密着性が部分的に悪くなり、該振動板を用いた平面スピーカから異音を発する原因となっていた。
【0007】
一方、例えば特許文献3と同様に、厚さ2mmのシリコーンラバーで振動板を挟み込み、1回の加熱硬化処理で前記粘着層を硬化させた場合、振動板の厚みの違いに起因するボイスコイル層と前記粘着層、および、基材との密着性は良くなるものの、振動板全体としての平坦性が悪化してしまうといった問題があった。
【0008】
すなわち、前記加熱硬化処理は、前記粘着層を2枚の平板で挟んだ状態、あるいは、シリコーンラバーを介在させて挟んだ状態で加熱硬化を行っても、密着性や平坦性の悪い振動板が形成され、該振動板を用いた平面スピーカの音響特性が不安定となっていた。
【0009】
また、硬化前の前記粘着層を平板上に載置し、剥離と粘着が可能なシート等で密着させ、その状態で前記加熱硬化処理を行うことで前記粘着層の平坦性を確保しようとすると、前記シートと前記粘着層との間に取り込まれた空気が原因で、前記粘着層表面にディンプルが発生して外観不良になるといった問題があった。
【0010】
そこで、本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、平坦性が良好で外観不良もない振動板を形成するための加熱硬化処理法、該加熱硬化処理法を用いて形成された平面スピーカ用振動板、及び平面スピーカを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の実施形態は、線状導体を巻き回して形成されたボイスコイルを1以上平面状に配列したボイスコイル層と、前記ボイスコイル層を接着固定する接着層とを少なくとも備えた平面スピーカ用振動板の加熱硬化処理法であって、前記ボイスコイル層と前記接着層を密着固定する工程と、第1回目の加熱で完全硬化直前の所定の硬化率まで硬化させる工程と、第2回目の加熱で前記平面スピーカ用振動板を形状矯正させる工程とからなることを特徴とする加熱硬化処理法である。
【0012】
第2の実施形態は、前記第1回目の加熱における前記所定の硬化率が、50%以上、95%以下であることを特徴とする加熱硬化処理法である。
【0013】
第3の実施形態は、前記形状矯正工程が、前記振動板の一方の面を平板上に載置し、前記振動板を所定のシートで覆い、前記シートと前記平板との間にある内部のエアー抜きを行うことで前記振動板を前記一方の平板上に密着させることを特徴とする加熱硬化処理法である。
【0014】
第4の実施形態は、前記接着層が、エポキシ系樹脂を含有する成分とすることを特徴とする加熱硬化処理法である。
【0015】
第5の実施形態は、前記ボイスコイル層が、2枚の前記接着層で挟まれて接着されていることを特徴とする加熱硬化処理法である。
【0016】
第6の実施形態は、線状導体を巻き回して形成されたボイスコイルを1以上平面状に配列したボイスコイル層と、前記ボイスコイル層を接着固定する接着層とを少なくとも備えた平面スピーカ用振動板であって、前記ボイスコイル層を接着した前記接着層をプレスすることで密着固定し、第1回目の加熱で完全硬化直前の所定の硬化率まで硬化し、前記平板の一方の面上に前記振動板を固定して平坦化処理され、第2回目の加熱で形状矯正されていることを特徴とする平面スピーカ用振動板である。
【0017】
第7の実施形態は、第6の実施形態に記載の平面スピーカ用振動板を備えることを特徴とする平面スピーカである。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように本発明によれば、ボイスコイルを接着した接着層の加熱硬化処理を、2回に分けて行うようにすることにより、平坦性が良好で外観不良もない振動板が形成可能な加熱硬化処理法を提供することができる。特に、第2回目の加熱処理でシートを用いて平板上に密着させるようにしたことにより、平坦性に優れかつ前記接着層にディンプルが形成されない振動板を形成することが可能となる。
【0019】
また、本発明の加熱硬化処理法を適用して形成された平面スピーカ用振動板を用いることにより、音響特性が安定した平面スピーカを提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
図面を参照して本発明の好ましい実施の形態における平面スピーカ用振動板の加熱硬化処理法、及び該加熱硬化処理法を用いて形成された平面スピーカ用振動板と平面スピーカについて詳細に説明する。なお、同一機能を有する各構成部については、図示及び説明簡略化のため、同一符号を付して示す。
【0021】
図2は、本発明の実施の形態に係る平面スピーカ用振動板の構成を示す模式図である。図2(a)は平面スピーカ用振動板10の平面図であり、図2(b)は平面スピーカ用振動板10の断面図である。平面スピーカ用振動板10は、渦巻状に形成されたボイスコイル層11と、該ボイスコイル層11を挟んで接着された2層の接着層12と、接着層12のボイスコイル層11とは反対側(外側)に接着された基材13とから形成されている。
【0022】
ボイスコイル層11は、渦巻状のボイスコイルが平面状に1以上(図2では8個)形成されている。また、接着層12は、接着性の優れたエポキシ系樹脂を含有する成分とするのが好ましく、本実施形態では2層の接着層12の間にボイスコイル層11を挟んで接着させている。接着層12は、必ずしも2層用いる必要はなく、1層の接着層12にボイスコイル層11を接着させた構造としてもよい。
【0023】
上記構成の平面スピーカ用振動板10は、加熱硬化処理によりエポキシ系樹脂を硬化させることで、好ましい強度の振動板として形成される。従来は、前記加熱硬化処理を1回のみ実施していた。その結果、接着層12を2枚の平板に挟んで前記加熱硬化処理を行ったときに平坦性が悪化したり、シートで平坦化処理した場合には接着層12の表面にディンプルが発生して外観不良になってしまうといった問題があった。
【0024】
そこで、本発明の平面スピーカ用振動板の加熱硬化処理法では、前記加熱硬化処理を2回に分けて実施するようにしている。以下では、本発明の平面スピーカ用振動板の加熱硬化処理法を用いて、図2に示す本実施形態の平面スピーカ用振動板10を加熱硬化させる方法を、図1を用いて以下に説明する。図1(a)は第1回目の加熱硬化処理を説明する断面図であり、図1(b)は第2回目の加熱硬化処理を説明する断面図である。
【0025】
まず、第1回目の加熱硬化処理では、平面スピーカ用振動板10を図1(a)に示す2枚の平板21、22でプレスし、ボイスコイル層11と接着層12とが密着して固定した状態で加熱する。この第1回目の加熱は、接着層12が完全硬化する直前の所定の硬化率に達したところで終了する。ここで、前記所定の硬化率は、50%以上、95%以下とするのがよい。
【0026】
上記第1回目の加熱硬化処理では、平面スピーカ用振動板10を2枚の平板21、22でプレスして固定していることから、接着層12の平板21、22に接する面は平坦な状態で硬化される。しかしながら、接着層12は、内部にボイスコイル層11の各ボイスコイルが配置されている位置と配置されていない位置とで厚みが異なっている。そのため、前記ボイスコイルが配置されていない厚みの小さい位置に対しては、2枚の平板21、22で十分にプレスすることができない。
【0027】
上記の通り、第1回目の加熱硬化処理では、前記ボイスコイルが配置されていない厚みの小さい位置が十分に平坦化できないまま加熱硬化されることになる。特に、前記ボイスコイルが配置されていない接着層12の周辺部においては、前記2枚の平板21、22でプレスされず上下に遊びが生じている。その結果、平面スピーカ用振動板10の周辺部の平坦化が不十分となってしまう。
【0028】
本実施形態の平面スピーカ用振動板10を用いた平面スピーカは、ボイスコイル層11の各ボイスコイルに対向する位置に磁石を配置した構造を有している。
特に、平面スピーカ用振動板10の周辺部の平坦化が不十分なまま硬化されてしまうと、前記磁石とボイスコイル層11との距離が不安定となって安定した音響特性が得られなくなってしまう。平面スピーカ用振動板10の周辺部の平坦化が不十分であると、振動膜の平坦性が確保できず、スピーカとしての特性を安定させることができなかった。
【0029】
そこで、本発明の平面スピーカ用振動板の加熱硬化処理法では、第1回目の加熱硬化処理で完全硬化する直前の所定の硬化率まで硬化された平面スピーカ用振動板10に対し、図1(b)に示すように、所定の平坦化処理を施して第2回目の加熱硬化処理を行う。
前記所定の平坦化処理は、平板21、22のいずれか一方(図1(b)では平板22)に平面スピーカ用振動板10を載置し、平面スピーカ用振動板10全体をシート23で覆った後、さらに、シート側からシリコーンゴムを緩衝材として真空プレスすることで、シート23の内部に残された空気を除去、エアー抜きを行う。これにより、平面スピーカ用振動板10の厚さの小さい部分及び周辺部が平板22に密着されて平坦に固定される。このように平坦化処理された平板22、振動板10、および、シート23が一体となった状態で、2回目の加熱硬化処理を行って振動板を平坦に形状矯正させる。
【0030】
本発明の平面スピーカ用振動板の加熱硬化処理法では、第1回目の加熱硬化処理によって完全硬化の直前(50%以上、95%以下の硬化率)まで硬化されていることから、前記平坦化処理のエアー抜きで前記シートと振動板10との間に空気が残ったとしても、加熱硬化により接着層が十分固くなり、前記残った空気が振動板10の表面に転写され、ディンプルが形成されることはない。
【0031】
上記説明の通り、本発明の平面スピーカ用振動板の加熱硬化処理法によれば、平面スピーカ用振動板10の加熱硬化処理を2回に分けて行うようにし、第二回目の加熱硬化処理で前記シートを用いることにより、優れた平坦性を有しかつディンプルが形成されていない良好な外観の平面スピーカ用振動板10を形成することが可能となる。このように形成された平面スピーカ用振動板10を用いた平面スピーカでは、平面スピーカ用振動板10と前記磁石との距離が安定しているため、優れた音響特性が得られることになる。
【0032】
なお、本実施の形態における記述は、本発明に係る加熱硬化処理法、平面スピーカ用振動板及び平面スピーカの一例を示すものであり、これに限定されるものではない。本実施の形態における加熱硬化処理法、平面スピーカ用振動板及び平面スピーカの細部構成及び詳細な動作等に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の平面スピーカ用振動板を加熱硬化させる方法を示す模式図である。図1(a)は第1回目の加熱硬化処理を説明する模式図であり、図1(b)は第2回目の加熱硬化処理を説明する模式図である。
【図2】図2は、本発明の平面スピーカ用振動板の構成を示す模式図である。図2(a)は平面スピーカ用振動板の平面図であり、図2(b)は平面スピーカ用振動板の断面図である。
【図3】従来の平面スピーカ用振動板の例を示す平面図である。
【符号の説明】
【0034】
10・・・平面スピーカ用振動板
11・・・ボイスコイル層
12・・・接着層
13・・・基材
21、22・・・平板
23・・・シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
線状導体を巻き回して形成されたボイスコイルを1以上平面状に配列したボイスコイル層と、前記ボイスコイル層を接着固定する接着層とを少なくとも備えた平面スピーカ用振動板の加熱硬化処理法であって、
前記ボイスコイル層と前記接着層とを密着固定する工程と、
第1回目の加熱で完全硬化直前の所定の硬化率まで硬化させる工程と、
第2回目の加熱で前記平面スピーカ用振動板を形状矯正させる工程と、
からなることを特徴とする加熱硬化処理法。
【請求項2】
前記第1回目の加熱における前記所定の硬化率は、50%以上、95%以下である
ことを特徴とする請求項1に記載の加熱硬化処理法。
【請求項3】
前記形状矯正工程は、前記振動板の一方の面を平板上に載置し、前記振動板を所定のシートで覆い、前記シートと前記平板との間にある内部のエアー抜きを行うことで前記振動板を前記一方の平板上に密着させる
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の加熱硬化処理法。
【請求項4】
前記接着層は、エポキシ系樹脂を含有する成分とする
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の加熱硬化処理法。
【請求項5】
前記ボイスコイル層は、2枚の前記接着層で挟まれて接着されている
ことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の加熱硬化処理法。
【請求項6】
線状導体を巻き回して形成されたボイスコイルを1以上平面状に配列したボイスコイル層と、前記ボイスコイル層を接着固定する接着層とを少なくとも備えた平面スピーカ用振動板であって、
前記ボイスコイル層を接着した前記接着層をプレスすることで密着固定し、第1回目の加熱で完全硬化直前の所定の硬化率まで硬化し、前記平板の一方の面上に前記振動板を固定して平坦化処理され、第2回目以後の加熱で形状矯正されている
ことを特徴とする平面スピーカ用振動板。
【請求項7】
請求項6に記載の平面スピーカ用振動板を備えることを特徴とする平面スピーカ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−267236(P2007−267236A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−91849(P2006−91849)
【出願日】平成18年3月29日(2006.3.29)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】