説明

加熱調理用食用油脂およびその製造方法

【課題】トコフェロールとリン脂質との共存により、臭気の発生や品質劣化をより有効に低減しつつ、さらに保存安定性を向上させた加熱調理用食用油脂およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明の加熱調理用食用油脂は、トコフェロール類が50〜2700ppmの量で添加された加熱調理用食用油脂であって、前記加熱調理用食用油脂が、リン脂質を0.5〜65ppmの量で含有し、前記トコフェロール類が、トコフェロール類中にδ−トコフェロールを27質量%以上の量で含有することを特徴とし、また前記トコフェロール類は、α−トコフェロールを25質量%以下の量で含有するものであってもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、臭気の発生や品質劣化を有効に低減しつつ、優れた加熱調理時の加水分解安定性および保存安定性を有する加熱調理用食用油脂およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食品の品質に対する関心がますます向上しつつあり、揚げ物等の加工食品に活用されている食用油脂についても例外ではない。食用油は、一般的に熱と光により劣化する。この時、水分の存在により加水分解劣化が、また、酸素の存在により酸化劣化が起こる。これら、加水分解劣化は酸価として、酸化劣化は過酸化物価として、食用油の劣化の指標として用いられている。特に、水分を多く含むフライなどの加熱調理を行う場合には、加水分解劣化を抑えることが重要となる。
【0003】
食用油脂は、通常、原料である粗油を用い、主に脱ガム工程、乾燥工程、脱色工程、脱臭工程を経て精製することにより得られるものである。これらの工程を経ることにより、粗油に含まれていた塵や粕の微粉等の不純物、酸化促進や着色の原因となる各種金属塩、風味や安定性に影響する成分、および残留農薬等のほか、トコフェロールやリン脂質も除去される。
【0004】
このように精製することにより得られる食用油脂は、一般に密封された容器に格納したまま冷暗所にて保管すれば、品質を保持したまま長期間保存することができる。しかしながら、開封後に長時間にわたって空気と接触したり高温で加熱したりすると、油脂の酸化が進行して、香りの変化や臭気の発生、色の変化、毒性物の発現等種々の変化が生じ、有効成分の活性も損なわれて品質の低下につながることとなる。
【0005】
一方、精製工程中に除去されるトコフェロールは天然の抗酸化作用を奏するものである。また、同様に除去されるリン脂質についても過剰に残存していると、加熱によって激しく着色したり、フライ時における泡立ちの発生原因となったりするおそれがあるものの、適度な残存量であれば、通常の精製工程を経た精製油脂よりもかえって加熱時の着色を抑制し、また加熱安定性が向上する傾向にある。
【0006】
こうしたトコフェロールの抗酸化作用を活用すべく、特許文献1には食用油脂にd−α−トコフェロールを添加する技術が開示されており、かかる食用油脂は酸素による劣化抑制を実現し得るものである。また、特許文献2〜3には精製油脂中にリン脂質を適度な量で存在させる技術が開示されており、かかる油脂は特に加熱着色や加熱臭を低減し得るものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−54669号公報
【特許文献2】特許第4095111号公報
【特許文献3】特許第4159102号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記技術は、数種類存在し得るトコフェロール異性体のうち、特にα−トコフェロールのみに着目するにすぎないものである一方、トコフェロールとリン脂質とが共存することにより油脂に与え得る影響、特に加熱調理における加水分解安定性に関して何ら検討がなされていない。
【0009】
そこで、本発明は、トコフェロールとリン脂質との共存により、加熱調理における加水分解を低減しつつ、さらに臭気の発生や品質劣化をより有効に低減するなどの保存安定性を向上させた加熱調理用食用油脂およびその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決すべく、特定量のリン脂質を含有しつつ、さらにトコフェロール類中にδ−トコフェロールを特定量で含有するトコフェロール類が添加されてなる加熱調理用食用油脂を見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明の加熱調理用食用油脂は、
トコフェロール類が50〜2700ppmの量で添加された加熱調理用食用油脂であって、
前記加熱調理用食用油脂が、リン脂質を0.5〜65ppmの量で含有し、
前記トコフェロール類が、トコフェロール類中にδ−トコフェロールを27質量%以上の量で含有することを特徴とする。
前記トコフェロール類は、トコフェロール類中にα−トコフェロールを25質量%以下の量で含有するものであってもよい。
【0011】
さらに、前記加熱調理用食用油脂がフライ用油脂であってもよく、また原料油脂として菜種油を用いてもよい。
【0012】
本発明の加熱調理用食用油脂の製造方法は、
加熱調理用食用油脂中に、リン脂質を0.5〜65ppm、トコフェロール類を50〜2700ppmの量で添加する工程を含み、
前記トコフェロール類が、トコフェロール類中にδ−トコフェロールを27質量%以上の量で含有するトコフェロール類であることを特徴とする。
また、本発明の加熱調理用食用油脂の製造方法は、
リン脂質を0.5〜65ppmの量で含有する加熱調理用食用油脂中に、トコフェロール類を50〜2700ppmの量で添加する工程を含み、
前記トコフェロール類が、トコフェロール類中にδ−トコフェロールを27質量%以上の量で含有するトコフェロール類であることを特徴とするものであってもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の加熱調理用食用油脂によれば、特定量のリン脂質を含有しつつ、さらにトコフェロール類中にδ−トコフェロールを特定量で含有するトコフェロール類の効果で、加熱調理における加水分解安定性を高め、従来より長時間加熱調理を行うことができる。また、リン脂質が本来有する加熱後の着色抑制効果を充分に際立たせることができるとともに、トコフェロール類のうちδ−トコフェロールに起因する抗酸化作用をより充分に発揮させることができるので、保存期間が長期にわたっても良好な風味を保持するとともに加熱臭の発生をも抑制し、酸化や加水分解による油脂の劣化を有効に低減し得る。
したがって、本発明の製造方法によれば、極めて高品質で利用価値の高い加熱調理用食用油脂を容易に得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。
[加熱調理用食用油脂]
本発明の加熱調理用食用油脂は、
トコフェロール類が50〜2700ppmの量で添加された加熱調理用食用油脂であって、
前記加熱調理用食用油脂が、リン脂質を0.5〜65ppmの量で含有し、
前記トコフェロール類が、トコフェロール類中にδ−トコフェロールを27質量%以上の量で含有することを特徴としている。
【0015】
なお、本明細書において油脂中のリン脂質含有量は、基準油脂分析試験法(2.4.11−1996 リン脂質)に準拠して測定した値を意味する。また、上記リン脂質とは、卵黄レシチン、植物レシチン(大豆レシチン、菜種レシチンなど)またはこれらの分画レシチン、水素添加レシチンのほか、ホスファチジルコリン(PC)、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルイノシトール(PI)を主成分とし、その他ホスファチジルセリン(PS)、これらの加水分解物であるホスファチジン酸(PA)、ホスファチジルグリセリン(PG)、リゾホスファチジルコリン(LPC)、リゾホスファチジルエタノールアミン(LPE)、スフィンゴミエリン(SPH)、およびこれらの混合物を含むものであり、各々の成分組成は元となる原料によって変動する。
【0016】
また、トコフェロール類とは、α−トコフェロール、β−トコフェロール、γ−トコフェロールおよびδ−トコフェロールの4種類のトコフェロールを意味し、油脂中におけるこれらの含有量は、基準油脂分析試験法(2.4.10−1996 トコフェロール:蛍光検出器−高速液体クロマトグラフ法)に準拠して測定することができる。
さらに、アスコルビン酸パルミテートの油脂中の含有量は、「食品衛生検査指針 食品添加物編2003」(社団法人 日本食品衛生協会)に準拠して測定することができる。
【0017】
本発明に係る加熱調理用食用油脂には、リン脂質のほか、後述する添加されるトコフェロール類を含む該加熱調理用食用油脂全量100質量%中、前記リン脂質が0.5〜65ppm、好ましくは1〜60ppm、より好ましくは5〜50ppmの量で含有されてなる。
【0018】
一般に、リン脂質は、製品中に必要以上に存在すると、加熱によって着色したり、フライ時に泡立ちが発生したりするおそれがある。そのため、精製工程を経ていく中で除去される。すなわち、水や酸により自己組織体を形成するリン脂質の性質を利用し、脱ガム工程においては水または蒸気を使用することで水溶性ガムとして除去し(水脱ガム)、さらにリン酸、酢酸、クエン酸、シュウ酸、マレイン酸、タンニン酸等の酸を使用することで、油溶性リン脂質を除去する。続いてその後の脱酸工程においても、パルミチン酸やオレイン酸等の遊離脂肪酸、有臭成分等とともに除去する。したがって、通常、精製された油脂にはリン脂質が全く含まれないか、或いは極めて微量(例えば、精製菜種油では0.4ppm以下程度)に含まれるにすぎない。
【0019】
しかしながら、本発明では上記範囲の量のリン脂質を含有する加熱調理用食用油脂を用いることにより、後述するトコフェロールの抗酸化作用とも相まって、加熱処理後における加水分解安定性を高める効果も充分に発揮させることができる。さらに、加熱の際に必要以上に油脂が着色するのを回避しつつ、リン脂質自体が本来有する、加熱時での過剰な着色を効果的に抑制する作用を際立たせることが可能となる。リン脂質および添加されるトコフェロール類を含む該加熱調理用食用油脂全量100質量%中におけるリン脂質の含有量が0.5ppm未満であると、着色抑制効果を充分に発揮させることができず、上記リン脂質の含有量が65ppmを超えると逆に必要以上に着色するおそれがあるとともに、フライ時における泡立ちも抑制しにくく、また加熱後の品質劣化に寄与するトコフェロールとの相乗効果が充分に発揮されないおそれがある。
【0020】
本発明の加熱調理用食用油脂は、上記リン脂質を含有しつつ、該リン脂質および添加されるトコフェロール類を含む加熱調理用食用油脂全量100質量%中に、トコフェロール類を50〜2700ppm、好ましくは100〜2700ppm、より好ましくは500〜2700ppm、さらに好ましくは800〜2700ppm、最も好ましくは800〜1500ppmの量で添加されてなり、かかるトコフェロール類100質量%中には、δ−トコフェロールが27質量%以上、好ましくは27〜100質量%、より好ましくは80〜100質量%、さらに好ましくは85〜95質量%の量で含有される。
【0021】
トコフェロール類とは、α−トコフェロール、β−トコフェロール、γ−トコフェロールおよびδ−トコフェロールの4種類のトコフェロールを意味するものであり、これらは、自らが安定なフェノキシラジカルとなることによって活性酸素等による過酸化反応を抑制する抗酸化作用を有する。トコフェロール類のうち、α−トコフェロールはビタミンE活性や抗酸化作用に影響を及ぼすものであることは知られているものの、特にδ−トコフェロールが油脂の酸化だけでなく加水分解をも抑制するのに大きく寄与することは知られておらず、かかるδ−トコフェロールの活性によって、蒸気と接触しながら高温加熱に晒されるような過酷な使用環境下でも、油脂の加水分解を効果的に抑制して劣化の進行を阻止することができる。α−トコフェロールがトリメチル体のトコール誘導体であるのに対し、δ−トコフェロールはモノメチル体のトコール誘導体であるが、こうした立体構造の相違等何らかの要因がこれらの活性に影響を及ぼすものと推定される。
【0022】
しかしながら、通常、精製工程を経ていく中で油脂中のトコフェロール類が除去されてしまう。すなわち、活性白土等の吸着剤を用いる脱色工程において、着色成分や脱酸工程後の残留物、各種金属塩等とともに吸着によって除去される。続いてその後の脱臭工程においては、有臭成分や脂肪酸、不けん化物等の揮発性成分とともに残留するかなりのトコフェロール類が除去される。したがって、通常、精製された油脂にはトコフェロール類が微量(400ppm程度)含まれているが、本発明の効果を得るには不充分な量である。
【0023】
そこで、本発明は、δ−トコフェロールを上記範囲の量で含有するトコフェロール類を用い、これを上記範囲の量で油脂に添加することにより、得られる加熱調理用食用油脂中に適切な量のδ−トコフェロールを在中させて、抗酸化作用をより効果的に発揮させるとともに、リン脂質との相乗効果をも充分に確保して、加熱処理後での酸化や加水分解により引き起こされる品質劣化をより効果的に抑制する加熱調理用食用油脂を実現するものである。かかる加熱調理用食用油脂中に含まれる添加されたトコフェロール類の量が50ppm未満であると、充分な加水分解抑制効果や抗酸化作用を発揮しにくい上に着色が促進されるおそれがある。また、2700ppmを超えると、風味が低下する傾向にあるとともに、特に加熱時に臭気が発生するおそれがある。さらに、トコフェロール類100質量%中に含まれるδ−トコフェロールの量が27質量%未満であると、加水分解抑制効果や、δ−トコフェロールに起因する、油脂の抗酸化作用を充分に発現させることができないおそれがある。
【0024】
上記添加されるトコフェロール類100質量%中には、さらに、α−トコフェロールが25質量%以下、好ましくは0〜10質量%、より好ましくは0〜5質量%の量で含有されるのが望ましい。トコフェロール類がδ−トコフェロールの含有量よりも少ない、かかる範囲の量のα−トコフェロールを含有することで、δ−トコフェロールとα−トコフェロールとが相互的にバランスよく作用し、加水分解抑制効果や、抗酸化活性をより効果的に発現させることが可能となる。α−トコフェロールの含有量が25質量%以下であると、加水分解抑制効果や、δ−トコフェロールに起因する抗酸化作用をより充分に発現させることでき、δ−トコフェロールとリン脂質との相乗効果を高めることが期待できる。
【0025】
上記トコフェロール類を油脂に添加するにあたり、通常、トコフェロール濃縮物を用いる。かかるトコフェロール濃縮物は主に天然物から採取され、油脂の精製工程中で採取される脱臭工程の留出物からも抽出され得るものであり、これらの中には上記トコフェロール類のほか、α−トコトリエノール、β−トコトリエノール、γ−トコトリエノールおよびδ−トコトリエノール等のトコトリエノール類、その他のトコール誘導体等が含まれている。また、上記トコフェロール濃縮物として、化学的手法により合成されたものを使用してもよい。
【0026】
加熱調理用食用油脂は、さらにアスコルビン酸パルミテートが添加されてなるものであってもよく、上記トコフェロール類およびアスコルビン酸パルミテートが添加された、リン脂質を含有してなる加熱調理用食用油脂全量100質量%中に、前記アスコルビン酸パルミテートを0.25〜200ppm、好ましくは3〜110ppm、より好ましくは7〜110ppm、最も好ましくは40〜110ppmの量で含有するのが望ましい。
【0027】
アスコルビン酸パルミテートはアスコルビン酸脂肪酸エステルの一種であり、油脂に対する溶解性が高く、抗酸化作用を奏する、いわゆるビタミンCのエステル体であり、リン脂質との相溶性にも優れる。こうした良好な相溶性の助力もあって、リン脂質の有する加熱時の着色抑制効果や品質劣化を低減する効果を阻害するおそれがなく、δ−トコフェロールやα−トコフェロールの抗酸化活性をさらに強化する相乗効果を発揮することができる。
【0028】
トコフェロール類およびアスコルビン酸パルミテートが添加された、リン脂質を含有してなる加熱調理用食用油脂全量100質量%中におけるアスコルビン酸パルミテートの含有量が0.25ppm以上であると、加水分解安定性および抗酸化作用の相乗効果がより期待できる。また、上記アスコルビン酸パルミテートの含有量が200ppm以下であると、抗酸化作用の相乗効果のバランスがより良好であり、着色を充分に回避しやすい上、風味の低下や加熱時の臭気発生を充分に抑制しやすい。
【0029】
なお、上記アスコルビン酸パルミテートを添加するにあたり、上記範囲内の含有量を実現するには、上記トコフェロール類の添加量100質量部に対するアスコルビン酸パルミテートの添加量を0.2〜15質量部、好ましくは0.2〜10質量部、さらに好ましくは0.5〜7質量部の量とするのが望ましい。これらアルコルビン酸パルミテートとして、市販の製剤等を用いてもよい。
【0030】
本発明に係る加熱調理用食用油脂は、一般の食用油脂と同様、植物の種子又は果実から搾油された粗油を出発原料として用い、順に、必要に応じて、脱ガム工程、脱酸工程、脱色工程を経て、さらに必要に応じて脱ろう工程を介した後、脱臭工程を経た精製により得られるものである。上記脱ガム工程、脱酸工程、および脱ろう工程は、採油される前の油糧原料に応じて変動し得る粗油の性状に応じて適宜選択される。
【0031】
粗油が採油される前の油糧原料としては、特に限定されるものではないが、例えば、アマニ、エゴマ、シソ、カポック、コプラ、ゴマ、コメ糠、サフラワー、シアナット、大豆、茶、トウモロコシ、ナタネ、ニガー、ババス、パーム、パーム核、ヤシ、ヒマワリ、綿実、落花生、ぶどう、小麦、オリーブ、アボガド等が挙げられる。
【0032】
かかる加熱調理用食用油脂を得るのに使用できる原料油脂は、特に制限されるものではないが、例えば、サフラワー油、ぶどう油、大豆油、ひまわり油、小麦はい芽油、とうもろこし油、綿実油、ごま油、菜種油、米油、落花生油、フラックス油、エゴマ油、オリーブ油、パーム油、ヤシ油、これら2種以上を混合した調合油、または、これらを分別したパームオレイン、パームステアリン、パームスーパーオレイン、パームミッドフラクション等の食用分別油、これらの水素添加油、エステル交換油等のほか、中鎖脂肪酸トリグリセリドのような直接エステル化反応により製造された食用油、さらに香味原料等を添加した香味食用油等が挙げられ、フライ調理、炒め調理、焼き調理等のように、通常140〜240℃程度の使用温度におかれる加熱処理に適している。これら原料油脂のなかでも、菜種油または大豆油が好ましく、菜種油がより好ましい。また、かかる品質保持性に加え、特にフライ時における泡立ち発生の低減効果を充分に発揮させる観点から、上記加熱調理用食用油脂は、通常160〜200℃程度の使用温度におかれるフライ調理に適したフライ用油脂であるのが好ましい。
【0033】
[加熱調理用食用油脂の製造方法]
本発明の加熱調理用食用油脂の製造方法は、
リン脂質を0.5〜65ppm、好ましくは1〜60ppm、より好ましくは5〜50ppmの量で、また、トコフェロール類を50〜2700ppm、好ましくは100〜2700ppm、より好ましくは500〜2700ppm、さらに好ましくは800〜2700ppp、最も好ましくは800〜1500ppmの量で添加する工程を含み、
前記トコフェロール類が、トコフェロール類中にδ−トコフェロールを27質量%以上、好ましくは27〜100質量%、より好ましくは80〜100質量%、さらに好ましくは85〜95質量%の量で含有するトコフェロール類であることを特徴とする。
また、本発明の加熱調理用食用油脂の製造方法は、
リン脂質を0.5〜65ppm、好ましくは1〜60ppm、より好ましくは5〜50ppmの量で含有する加熱調理用食用油脂中に、トコフェロール類を50〜2700ppm、好ましくは100〜2700ppm、より好ましくは500〜2700ppm、さらに好ましくは800〜2700ppp、最も好ましくは800〜1500ppmの量で添加する工程を含み、
前記トコフェロール類が、トコフェロール類中にδ−トコフェロールを27質量%以上、好ましくは27〜100質量%、より好ましくは80〜100質量%、さらに好ましくは85〜95質量%の量で含有することを特徴とするものであってもよい。
【0034】
ここで、上記範囲の量のリン脂質を含有した油脂を得るには、脱ガム工程や脱酸工程において使用する水や酸の量を調整した脱ガム油を用いてもよい。他の除去すべき不純物の残存量に及ぼす影響や工程条件選定の煩雑化を回避し得る等の観点から、脱ガム工程で採取される水脱ガム油を脱色、脱臭した精製油を用いることができる。また、脱ガム工程で採取される脱ガム油滓や、脱ガム油滓に分離や精製等の処理を施したもの、または市販のリン脂質製品等を用いて、上記量に対応するリン脂質を添加するのが望ましい。市販のリン脂質製品としては、着色をより回避し得るよう操作された環境下、例えば、酸素濃度の低い環境下で製造されたものを採用するのが好ましい。
【0035】
なお、上述のようにリン脂質を添加する場合、精製工程中のどの段階でこのリン脂質を添加する工程を経るかについては、特に制限されないが、脱ガム工程および脱酸工程を経た後、脱臭工程を経る前であるのが望ましく、脱ガム工程および脱酸工程を経て脱色工程をも経た後、脱臭工程を経る直前であるのがより望ましい。脱臭工程を経る前であれば、リン脂質由来の風味を脱臭工程により改善でき、脱臭効果をそのまま製品化に至るまで持続させやすい上に、精製油自体の風味を損なうおそれもなく、また、リン脂質が本来有する、加熱時での過剰な着色を抑制する作用や加熱処理後における品質劣化を低減する効果を充分に際立たせることが可能となる。
【0036】
本発明の製造方法は、上記範囲の量のリン脂質を含有する、或いは添加されてなる油脂に、トコフェノール類を添加する工程を含む。精製工程中のどの段階で上記トコフェロール類を添加する工程を経るかについては、特に制限されないが、上記リン脂質と同様、脱ガム工程および脱酸工程を経た後、脱臭工程を経る前でも可能であるが、脱臭工程の後であるのがより好ましい。リン脂質の添加と同時にトコフェロール類を添加することは、製造工程をより簡略化することが可能であり好ましい。
【0037】
なお、本発明に係る加熱調理用食用油脂は、リン脂質、トコフェロールおよび油脂以外の成分として、例えば、一般的な食用油に用いられる成分(食品添加物など)を添加させることができる。これらの成分としては、例えば、乳化剤、酸化・劣化防止剤、結晶調整剤等が挙げられ、脱臭後から充填前に添加されることが好ましい。乳化剤として、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングルコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルおよび有機酸モノグリセリド等が挙げられる。酸化・劣化防止剤としては、例えば、フラボン誘導体、コウジ酸、没食子酸誘導体、カテキンおよびそのエステル、フキ酸、ゴシポール、セサモール、テルペン類、シリコーン等が挙げられる。結晶調整剤としては、例えば、トリアシルグリセロール、ジアシルグルセロール、ワックス類、ステロールエステル類等が挙げられる。また、香辛料や着色成分等も添加することができる。香辛料としては、例えば、カプサイシン、アネトール、オイゲノール、シネオール、ジンゲロン等が挙げられる。着色成分としては、例えば、カロテン、アスタキサンチン等が挙げられる。
【実施例】
【0038】
以下、本発明について、実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0039】
[実施例1−1〜実施例5−1]
原料油脂として菜種サラダ油(精製菜種油:日清オイリオグループ(株)製、酸価=0.04、色度=1.4、TPM値7.0、リン脂質含有量0ppm、トコフェロール類含有量440ppm、アスコルビン酸パルミテート含有量0ppm)を用い、表1−1に示す量で含有されるようにリン脂質を添加した後、表1−1に従ってトコフェロール製剤を添加し、加熱調理用食用油脂を得た。得られた加熱調理用食用油脂を用い、下記に従って各評価を行った。結果を表1−1に示す。
【0040】
[比較例1−1]
原料油脂として実施例1−1と同じ菜種サラダ油を用い、リン脂質およびトコフェロール製剤を一切添加せず、上記と同様にして加熱調理用食用油脂を得て、各評価を行った。結果を表1−1に示す。
【0041】
[比較例2−1]
原料油脂として実施例1−1と同じ菜種サラダ油を用い、表1−1に示す量で含有されるようにリン脂質を添加した後、トコフェロール製剤を添加せず、上記と同様にして加熱調理用食用油脂を得て、各評価を行った。結果を表1−1に示す。
【0042】
[比較例3−1〜比較例4−1]
原料油脂として実施例1−1と同じ菜種サラダ油を用い、表1−1に示す量で含有されるようにリン脂質を添加した後、表1−1に従ってトコフェロール製剤を添加し、上記と同様にして加熱調理用食用油脂を得て、各評価を行った。結果を表1−1に示す。
【0043】
[実施例2−2〜実施例4−2、比較例1−2〜比較例2−2]
原料油脂として大豆油(大豆サラダ油:日清オイリオグループ(株)製、酸価=0.05、色度=1.4、TPM値7.5、リン脂質含有量0ppm、トコフェロール類含有量1050ppm、アスコルビン酸パルミテート含有量0ppm)を用い、実施例2−1〜実施例4−1および比較例1−1〜比較例2−1に準じ、表1−2に従って上記と同様にして加熱調理用食用油脂を得て、各評価を行った。結果を表1−2に示す。
【0044】
[実施例2−3〜実施例4−3、比較例1−3〜比較例2−3]
原料油脂としてパームスーパーオレイン(日清オイリオグループ(株)製、ヨウ素価=60、酸価=0.05、色度=3.7、TPM値8.5、リン脂質含有量0ppm、トコフェロール類含有量550ppm、アスコルビン酸パルミテート含有量0ppm)を用い、実施例2−1〜実施例4−1および比較例1−1〜比較例2−1に準じ、表1−3に従って上記と同様にして加熱調理用食用油脂を得て、各評価を行った。結果を表1−3に示す。
【0045】
[実施例6〜9、比較例5〜7]
原料油脂として実施例1−1と同じ菜種サラダ油を用い、トコフェロール製剤の種類および添加量をかえ、表2に従って上記と同様にして加熱調理用食用油脂を得て、各評価を行った。結果を表2に示す。
【0046】
[実施例10−1〜実施例13−1、比較例8−1〜比較例9−1]
原料油脂として実施例1−1と同じ菜種サラダ油を用い、トコフェロール製剤の添加量をかえ、表3−1に従って上記と同様にして加熱調理用食用油脂を得て、各評価を行った。結果を表3−1に示す。
【0047】
[実施例11−2〜実施例13−2]
原料油脂として実施例2−2と同じ大豆油を用い、トコフェロール製剤の添加量をかえ、実施例11−1〜実施例13−1に準じ、表3−2に従って上記と同様にして加熱調理用食用油脂を得て、各評価を行った。結果を表3−2に示す。
【0048】
[実施例11−3〜実施例12−3]
原料油脂として実施例2−3と同じパームスーパーオレインを用い、トコフェロール製剤の添加量をかえ、実施例11−1〜実施例12−1に準じ、表3−3に従って上記と同様にして加熱調理用食用油脂を得て、各評価を行った。結果を表3−3に示す。
【0049】
[実施例14−1〜実施例19−1、比較例10−1]
原料油脂として実施例1−1と同じ菜種サラダ油を用い、表4−1に示す量で含有されるようにリン脂質を添加した後、表4−1に従ってトコフェロール製剤およびアスコルビン酸パルミテートを添加し、加熱調理用食用油脂を得た。得られた加熱調理用食用油脂を用い、上記と同様に各評価を行った。結果を表4−1に示す。
【0050】
[実施例15−2〜実施例17−2]
原料油脂として実施例2−2と同じ大豆油を用い、実施例15−1〜実施例17−1に準じ、表4−2に従って上記と同様にして加熱調理用食用油脂を得て、各評価を行った。結果を表4−2に示す。
【0051】
[実施例15−3〜実施例17−3]
原料油脂として実施例2−3と同じパームスーパーオレインを用い、実施例15−1〜実施例17−1に準じ、表4−3に従って上記と同様にして加熱調理用食用油脂を得て、各評価を行った。結果を表4−3に示す。
【0052】
[実施例20−1〜実施例24−1、比較例11−1〜比較例12−1]
原料油脂として実施例1−1と同じ菜種サラダ油を用い、表5−1に示す量で含有されるようにリン脂質を添加した後、表5−1に従ってトコフェロール製剤およびアスコルビン酸パルミテートを添加し、加熱調理用食用油脂を得た。得られた加熱調理用食用油脂を用い、上記と同様に各評価を行った。結果を表5−1に示す。
【0053】
[実施例21−2〜実施例24−2]
原料油脂として実施例2−2と同じ大豆油を用い、実施例21−1〜実施例24−1に準じ、表5−2に従って上記と同様にして加熱調理用食用油脂を得て、各評価を行った。結果を表5−2に示す。
【0054】
[実施例21−3〜実施例24−3]
原料油脂として実施例2−3と同じパームスーパーオレインを用い、実施例21−1〜実施例24−1に準じ、表5−3に従って上記と同様にして加熱調理用食用油脂を得て、各評価を行った。結果を表5−3に示す。
【0055】
[実施例25〜29]
原料油脂として実施例1−1と同じ菜種サラダ油を用い、表6に示す量で含有されるようにリン脂質を添加した後、表6に従ってトコフェロール製剤およびアスコルビン酸パルミテートを添加し、加熱調理用食用油脂を得た。得られた加熱調理用食用油脂を用い、上記と同様に各評価を行った。結果を表6に示す。
【0056】
なお、上記実施例1−1〜実施例29および比較例1−1〜比較例12−1における各評価項目については、以下の基準および方法に従った。
【0057】
[水噴霧試験]
加熱用ステンレスビーカーに得られた加熱調理用食用油脂500gを入れ、マグネティックスターラーによって攪拌しながら180℃に加熱した後、油脂の表面に60mL/hの速度で水を噴霧した。これを1日7時間継続して行い、同じ作業を3日間繰り返した(噴霧時間=計21時間)。かかる水噴霧試験後の加熱調理用食用油脂について、下記に示す酸価、色度およびTPM値を評価した。
【0058】
《酸価》
基準油脂分析試験法(2.3.1−1996 酸価)に従って測定した。数値が大きいほど、加水分解が進んでおり好ましくない。
【0059】
《色度》
ロビボンド比色計(ロビボンド比色計E型計測器、ティントメーター社製)により、1/2インチセルを使用して測定し、Y+10Rとして指数化した値を色度として評価した(Y:黄色、R:赤)。数値が大きいほど、着色しており好ましくない。
【0060】
《TPM値》
デジタル食用油テスター(testo265、株式会社テストー製)を用い、極性化合物量の値(TPM値)を測定した。数値が大きいほど、極性化合物量が多く好ましくない。
【0061】
[保存試験]
製造直後の加熱調理用食用油脂400gを500mL缶に入れて蓋をして密閉した。該缶を60℃の暗所に6週間保存し、かかる保存後の加熱調理用食用油脂について、下記に示す風味評価および加熱臭評価を行った。
【0062】
《風味評価》
油脂の一部(常温)を抽出して口に含み、パネラー10名によって風味を下記の4段階で評価し、各評価の平均を求めた。
◎:無味無臭で風味が極めて良好である
○:若干のニオイ等があるが良好である
△:ニオイがあるが賞味可能である(菜種由来とは異なる異質な風味有り)
×:風味が悪く食用として好ましくない
【0063】
《加熱臭評価》
加熱調理用食用油脂40gを100mlビーカー中に取り、180℃に加熱した際の臭気について、パネラー10名によって下記の3段階で評価し、各評価の平均を求めた。
A:原料特有の臭いはあるが、戻り臭を感じない
B:原料特有の臭いのほか、戻り臭も感じる
C:戻り臭を強く感じる(菜種由来とは異なる異質な匂い有り)
【0064】
【表1−1】

【0065】
【表1−2】

【0066】
【表1−3】

【0067】
【表2】

【0068】
【表3−1】

【0069】
【表3−2】

【0070】
【表3−3】

【0071】
【表4−1】

【0072】
【表4−2】

【0073】
【表4−3】

【0074】
【表5−1】

【0075】
【表5−2】

【0076】
【表5−3】

【0077】
【表6】

【0078】
※1:加熱調理用食用油脂(添加されたトコフェロール製剤を含む)中における添加されたトコフェロール製剤の量
※2:加熱調理用食用油脂(添加されたトコフェロール製剤を含む)中における添加されたトコフェロール類の量
※3:トコフェロール製剤に含まれるトコフェロール類中の、α−トコフェロール含有量
※4:トコフェロール製剤に含まれるトコフェロール類中の、δ−トコフェロール含有量
※5:イーミックスD(トコフェロール類含有量:97質量%)、エーザイ(株)製
※6:理研E−オイルスーパー60(トコフェロール類含有量:60質量%)、理研ビタミン(株)製
※7:理研Eオイル600(トコフェロール類含有量:60質量%)、理研ビタミン(株)製
※8:トコフェロール80(トコフェロール類含有量:80質量%)、日清オイリオグループ(株)製
※9:トコフェロール55(トコフェロール類含有量:50質量%)、日清オイリオグループ(株)製
※10:トコフェロール98M(トコフェロール類含有量:90質量%)、日清オイリオグループ(株)製
※11:L−アルコルビン酸パルミテート、三菱化学フーズ(株)製
※12:添加されたトコフェロール製剤およびアルコルビン酸パルミテートを含む。
【0079】
表1−1の結果より、リン脂質およびトコフェロール製剤を一切添加しない比較例1−1、およびリン脂質は含有するがトコフェロール製剤を添加しない比較例2−1に比して、実施例1−1〜実施例5−1は保存後における品質(風味、加熱臭)を良好に保持しつつ、加熱調理を想定した水噴霧試験評価時の劣化耐性(加水分解抑制、着色抑制、極性化合物の増加抑制)に優れることがわかる。また、比較例3−1〜比較例4−1と比すれば、含有されるリン脂質は0.5〜65ppmの量でなければこれらの効果が充分に発揮されないことも明らかである。
【0080】
このことは、表1−2〜表1−3における実施例2−2〜実施例4−2および実施例2−3〜実施例4−3について、各々比較例1−2〜比較例2−2および比較例1−3〜比較例2−3と比した場合にも同様のことがいえる。なお、原料油脂に菜種油を用いた実施例1−1〜実施例5−1、および大豆油を用いた実施例2−2〜実施例4−2は、パームスーパーオレインを用いた実施例2−3〜実施例4−3よりも、総じて良好な結果を示すことがわかり、特に菜種油を用いた場合は好適であることがわかる。また、表3−1の実施例10−1〜実施例13−1、表3−2の実施例11−2〜13−2、および表3−3の実施例11−3〜実施例12−3を比較した場合にも、原料油脂として菜種油・大豆油が好適であり、特に菜種油が好適であることがわかる。
【0081】
さらに、表2の結果により、上記実施例に加え、実施例6〜9と比較例5〜7とを比すれば、トコフェロール類中に含まれるδ−トコフェロールは27質量%以上であることを要する点も明らかである。そして、表3−1の比較例8−1〜比較例9−1により、トコフェロール類の添加量は50〜2700ppmの範囲でなければ、加熱調理を想定した水噴霧試験評価時の劣化耐性が低下するばかりでなく、加熱臭の発生や風味悪化を招くおそれがあることがわかる。
【0082】
表4−1〜表6の結果より、アルコルビン酸パルミテートを添加する場合においても、トコフェロール類が上記特定の添加量である実施例14−1〜実施例29は、比較例10−1または比較例11−1〜比較例12−1と比して、保存後における品質を良好に保持しつつ、加熱調理を想定した水噴霧試験評価時の劣化耐性に優れることがわかる。なお、ここでも、原料油脂に菜種油を用いた表4−1の実施例14−1〜実施例19−1は、その他の原料油脂を用いた表4−2の実施例15−2〜実施例17−2、および表4−3の実施例15−3〜実施例17−3よりも、総じて良好な結果を示すことがわかり、表4−2の実施例15−2〜実施例17−2は、表4−3の実施例15−3〜実施例17−3よりも総じて良好な結果を示している。表5−1の実施例20−1〜実施例24−1、表5−2の実施例21−2〜実施例24−2、および表5−3の実施例21−3〜実施例24−3を比較した場合にも、原料油脂として菜種油・大豆油が好適であることがわかり、特に菜種油が好適であることがわかる。
【0083】
[実施例30]
原料油脂として菜種脱色油(常法により脱ガム工程から脱色工程まで経て、脱臭工程を経る前の菜種脱色油:リン脂質含有量0ppm、日清オイリオグループ(株)社製)を用い、リン脂質添加後の原料油脂全量100質量%中における、添加されたリン脂質量が表7に示す量となるように、リン脂質製剤を添加した。
【0084】
次いで、常法に従って脱臭工程(240〜250℃、90分、減圧、吹込み水蒸気量対油2%)を経て、上記原料油脂から加熱調理用食用油脂を得た。得られた加熱調理用食用油脂を用い、精製直後の油脂として、下記に従って酸価、色度、TPM値、加熱臭および風味評価を行った。結果を表7に示す。
【0085】
また、得られた精製油脂300gを2Lステンレスジョッキに入れ、油浴中にて180℃で60時間加熱し、かかる加熱処理後の油脂について、下記に従って酸価、色度、TPM値について評価した。結果を表7に示す。
【0086】
[実施例31]
実施例30で用いた菜種脱色油(日清オイリオグループ(株)社製)を常法に従って脱臭処理(240〜250℃、90分、減圧、吹込み水蒸気量対油2%)し、リン脂質添加後の原料油脂全量100質量%中における、添加されたリン脂質量が表7に示す量となるように、リン脂質製剤を添加した。
次いで、実施例30と同様にして、精製直後の油脂および加熱処理後の油脂について各評価を行った。結果を表7に示す。
【0087】
なお、上記実施例30〜31における各評価項目については、以下の基準および方法に従った。
【0088】
《酸価》
上記実施例1−1〜実施例29および比較例1−1〜比較例12−1と同様にして測定した。
【0089】
《色度(I)〜(II)》
ロビボンド比色計(ロビボンド比色計E型計測器、ティントメーター社製)により、製造直後の油脂については5+1/4インチセルを使用して色度(I)を測定し、加熱処理後の油脂については1/2インチセルを使用して測定し、Y+10Rとして指数化した値を色度(II)として評価した(Y:黄色、R:赤)。
【0090】
《TPM値》
上記実施例1−1〜実施例29および比較例1−1〜比較例12−1と同様にして測定した。
【0091】
《風味評価》
製造直後(未加熱処理)の油脂の一部(25℃)を抽出して口に含み、パネラー10名によって実施例1〜29および比較例1〜12と同様にして評価した。
【0092】
《加熱臭評価》
製造直後(未加熱処理)の油脂40gを100mlビーカー中に取り、180℃に加熱した際の臭気について、実施例1〜29および比較例1〜12と同様にして評価した。
【0093】
【表7】

【0094】
※1〜5、※12については表1−1〜表6と同義である。
※13:日清レシチンDX(日清オイリオグループ(株)製、リン脂質含有量:63質量%)
※14:脱臭工程を経る前に添加したリン脂質含有物の、リン脂質含有物添加後における原料油脂全量中における添加量。
※15:脱臭工程を経た後に添加したリン脂質含有物の、リン脂質含有物添加後における原料油脂全量中における添加量。
※16:リン脂質を添加する前に含まれていたリン脂質および添加されたリン脂質の双方を含む。
※17:リン脂質を添加する前に含まれていたリン脂質および添加されたリン脂質の双方、および添加されたトコフェロール製剤を含む加熱調理用食用油脂中におけるリン脂質総含有量。
【0095】
表7の結果より、脱臭工程を経る前の原料油脂にリン脂質を添加して加熱調理用食用油脂を得た実施例30は、脱臭後の原料油脂にリン脂質を添加して加熱調理用食用油脂を得た実施例31よりも、精製直後の品質がより高く、より良好な風味を呈するとともに加熱臭の低減効果にも優れることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トコフェロール類が50〜2700ppmの量で添加された加熱調理用食用油脂であって、
前記加熱調理用食用油脂が、リン脂質を0.5〜65ppmの量で含有し、
前記トコフェロール類が、トコフェロール類中にδ−トコフェロールを27質量%以上の量で含有することを特徴とする加熱調理用食用油脂。
【請求項2】
前記トコフェロール類が、トコフェロール類中にα−トコフェロールを25質量%以下の量で含有することを特徴とする請求項1に記載の加熱調理用食用油脂。
【請求項3】
前記加熱調理用食用油脂がフライ用油脂であることを特徴とする請求項1または2に記載の加熱調理用食用油脂。
【請求項4】
原料油脂として菜種油を用いることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の加熱調理用食用油脂。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の加熱調理用食用油脂の製造方法であって、
加熱調理用食用油脂中に、リン脂質を0.5〜65ppm、トコフェロール類を50〜2700ppmの量で添加する工程を含み、
前記トコフェロール類が、トコフェロール類中にδ−トコフェロールを27質量%以上の量で含有するトコフェロール類であることを特徴とする加熱調理用食用油脂の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載の加熱調理用食用油脂の製造方法であって、
リン脂質を0.5〜65ppmの量で含有する加熱調理用食用油脂中に、トコフェロール類を50〜2700ppmの量で添加する工程を含み、
前記トコフェロール類が、トコフェロール類中にδ−トコフェロールを27質量%以上の量で含有するトコフェロール類であることを特徴とする加熱調理用食用油脂の製造方法。

【公開番号】特開2011−55825(P2011−55825A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−107701(P2010−107701)
【出願日】平成22年5月7日(2010.5.7)
【分割の表示】特願2010−517226(P2010−517226)の分割
【原出願日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【出願人】(000227009)日清オイリオグループ株式会社 (251)
【Fターム(参考)】