説明

加速ポンプ機構

【課題】エンジンの燃料供給システムに設けられる加速ポンプ機構について、エンジン停止から再始動時直前までの間、加速ノズルから燃料が吸気通路に流出しないようにして、良好なエンジン再始動性を確保する。
【解決手段】定燃料室3から加速用の燃料を導入して貯留する加速燃料室20aとエンジン加速操作に連動して加速燃料室内20aの燃料を加圧する燃料加圧手段と加圧された燃料を吸気通路4の加速ノズル23まで送る加速燃料通路29とを備え、エンジン加速時に加速用の燃料を追加してエンジンに供給するための加速ポンプ機構1Aにおいて、エンジン停止時に閉弁して燃料の流通を封止する遮断弁130が加速燃料通路29に設けられて、少なくともエンジン停止から再始動時直前までの間は、加速ノズル23から燃料が吸気通路内4への流出を回避する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加速ポンプ機構に関し、殊に、エンジン停止時に加速ノズルから燃料が吸気通路内に流出することによるエンジン再始動時のオーバーリッチを回避する機能を備えた加速ポンプ機構に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料の供給に気化器を使用する汎用エンジン等においては、急なスロットルの開動作を伴う加速時において、気化器からの供給燃料が不足してエンジンの運転性が損なわれることがある。この燃料不足を解消するために、実開平6−1754号公報に記載され、図4に示すような加速ポンプ機構2Bが広く採用されている。
【0003】
この加速ポンプ機構2Bは、スロットルバルブ5を開く操作によりこれに付設したレバー6を回し、ロッド7、リンクレバー27でロッド21を下向きに摺動させてプランジャ22を押し下げる。これにより、弁バネ24bを圧縮して弁体24aでシートさせ、逆止弁24でフロート室3からの導入口を塞ぐ構成である。
【0004】
そして、本体ボディ20の内側でプランジャ22の下方に形成された加圧燃料室20内に貯留した燃料は、プランジャ22の下降動作により加圧され、矢印に沿って加速燃料通路29を通り弁体25aと弁シート25cからなる逆止弁25を通過し、吸気通路4内に開口した加速ノズル23からインテークマニホルドに向かって燃料を噴射するようになっている。
【0005】
このような構成の加速ポンプ機構2Bを配設した燃料供給システムでは、エンジン停止後に逆止弁24,25により加速燃料室20aの入口側と出口側が閉鎖され、その間に燃料が封入された状態となる。ところが、この付近はエンジン停止後にエンジンの余熱で加熱されるため、内部に貯留した燃料が膨張・気化を始める。
【0006】
そして、加速燃料通路29の逆止弁25手前まで満たされている燃料は、圧力上昇に伴い、弁体25aを押し開いて加速ノズル23から吸気通路4内に流出するようになる。そのため、エンジン再始動時に吸気通路4内に溜まった燃料が余分に燃焼室内に入ることになり、供給燃料のオーバーリッチ化を招いてエンジン再始動性を悪化させる結果となる。
【特許文献1】実開平6−1754号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記のような問題点を解決しようとするものであり、エンジンの燃料供給システムに設けられる加速ポンプ機構について、エンジン停止から再始動時直前までの間、加速ノズルから燃料が吸気通路に流出しないようにして、良好なエンジン再始動性を確保できるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、本発明は、定燃料室から加速用の燃料を導入して貯留する加速燃料室とエンジン加速操作に連動して前記加速燃料室内の燃料を加圧する燃料加圧手段と加圧された燃料を吸気通路の加速ノズルまで送る加速燃料通路とを備えてエンジン加速時に加速用の燃料を追加して供給するための加速ポンプ機構において、エンジン停止時に閉弁して燃料の流通を封止する遮断弁が前記加速燃料通路に設けられており、少なくともエンジン停止から再始動時直前までの間、前記加速ノズルから燃料が前記吸気通路内に流出することを回避することとした。
【0009】
このように、エンジン停止時に加速燃料通路を閉鎖するようにしたことで、エンジン再始動時直前までの間に加速ノズルから燃料が吸気通路内に流出することを回避することが可能となり、その後のエンジン再始動におけるオーバーリッチ化を確実に防止することができる。
【0010】
また、この場合、その遮断弁を、導入している吸気管圧力の変動で膜部材が変位して作動するダイヤフラム装置により開閉されるものとして、エンジン停止中は閉弁状態を維持し、エンジンの回転により吸気管圧力が所定レベルを超えている状況で開弁状態を維持するものとすれば、少なくともエンジン停止中は加速燃料通路を確実に閉鎖して燃料の流出を有効に防止することができる。
【0011】
或いは、その遮断弁を、電気的弁駆動手段により開閉されるものとして、エンジン電源OFFで閉弁状態を維持し、エンジン電源ONで開弁状態を維持するものとしても、上記同様に吸気通路内への燃料の流出を有効に防止することができる。
【0012】
さらに、上述した加速ポンプ機構を一体的に備えていることを特徴とする気化器とすれば、これをエンジンの燃料供給システムに配設するだけで、省スペースの要求に対応しながら、気化器機能・加速ポンプ機能に加えてエンジン再始動時のオーバーリッチ防止機能を発揮することができる。
【発明の効果】
【0013】
エンジン停止中に加速燃料通路を閉鎖するものとした本発明により、エンジン停止から再始動時直前まで燃料が加速ノズルから吸気通路に流出することを回避して、良好なエンジン再始動性を確保することができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、図面を参照しながら本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0015】
図1は、エンジンの燃料供給システムにおいて、本実施の形態の加速ポンプ機構2Aを中心とした部分の縦断面図を示している。尚、本実施の形態において、加速ポンプ機構2Aは、図示しない気化器に一体的に設けられた状態でエンジンの燃料供給システムに配設されたものとする。
【0016】
この加速ポンプ機構2Aは、シリンダを構成する筒状の本体ボディ20内にプランジャ22を上下に摺動可能に配設して、その下側空間に加速燃料室20aを形成している。この加速燃料室20aには、定燃料室3からの燃料配管が接続されており、その入口部分にはボール状の弁体24aを弁バネ24bで弁シート24cに押圧される逆止弁24が設けられている。
【0017】
また、この加速燃料室20aからは、加速燃料通路24が吸気通路4に開口する加速ノズル23まで延設されており、この加速燃料通路29の途中にも、ボール状の弁体25aを弁バネ25bで弁シート25cに押圧してなる逆止弁25が設けられており、この逆止弁25と逆止弁24との間に加速燃料を保持するようになっている。
【0018】
さらに、加速燃料室20aの頂壁を構成するプランジャ22は、スロットルバルブ5からレバー6、ロッド7、リンクレバー27の順に連結された下向きのロッド21が連結されて、スロットルバルブ5の動作に連動して上下に摺動可能であり、これらで燃料加圧手段を構成している。
【0019】
このような構成の加速ポンプ機構2Aは、スロットルバルブ5を開く操作に連動してプランジャ22が押し下げられ、弁バネ24bを圧縮して逆止弁24でフロート室3からの導入口を塞ぎながら加速燃料室20a内の燃料を加圧し、加速燃料通路29を通り逆止弁25を通過させて、吸気通路4に開口した加速ノズル23からインテークマニホルドに向かって燃料を噴射する。尚、以上の構成は、図4に示した従来の加速ポンプ機構2Bと共通している。
【0020】
そして、本実施の形態においては、加速燃料通路29途中の逆止弁25の下流側に、エンジン停止中は閉弁して燃料の流通を封止する遮断弁130を中心として拡大した図2を参照して、このような機能を発揮する遮断弁130は、弁シート132及びこれに密着して通路を塞ぐ弁体131を備えている。
【0021】
また、遮断弁130は膜部材(ダイヤフラム)133で区画された背圧室側に吸気管圧力を導入するための配管135が接続されてなるダイヤフラム装置13から延設された弁ロッド134で弁体131を上下動させることにより開閉操作される。即ち、エンジンの回転がなく吸気管負圧のかからない通常時は、弁体131を弁シート132に押しつけた状態にして遮断弁130は閉弁状態とされ、エンジンが始動して吸気管圧力(負圧)が所定レベルを超えることで膜部材133が変位し、弁ロッド134を介して弁体131を持ち上げ、開弁する。
【0022】
次に、この加速ポンプ機構2Aの機能を詳細に説明する。上述したように、エンジンの停止後は、エンジンの余熱で気化器周辺は高温となるため、加速ポンプ機構2Aの加速燃料室20aから逆止弁25までの間に封入された燃料は、温度が上昇するに伴って膨張・気化し、圧力が上昇する。
【0023】
このとき、エンジンは停止中で吸気通路4内圧力は大気圧と変わらず、吸気管からの負圧がかかっていないことからダイヤフラム装置13は開弁方向に作動しない。そのため、遮断弁130は閉弁状態を維持して加速燃料通路29を塞いだままであり、少なくともエンジン停止から再始動時直前までの間、加速ノズル23から燃料が吸気通路4内に流出することを阻止し、供給燃料のオーバーリッチ化を回避して良好なエンジン再始動性を確保する。
【0024】
図3は本実施の形態の応用例を示している。前述した遮断弁130を、吸気管圧力を導入するダイヤフラム装置13で開閉操作する代わりに、電気的弁駆動手段としてのソレノイド14を加速燃料通路29に配置することにより、ソレノイド14の動作でエンジン停止中は閉弁状態を維持し、エンジン始動操作に連動して開弁状態とするようにした場合を示している。
【0025】
即ち、図示しないバッテリからの電力配線を接続された電磁駆動式のソレノイド14は、エンジン電源がOFFの時に弁ロッド134が突出した状態にして弁体131を弁シート132に押圧し遮断弁130の閉弁状態を維持する。そして、始動のためにエンジン電源ON状態にすると、ソレノイド14が通電により作動し、弁ロッド134を引き込んで弁体131を持ち上げ、遮断弁130を開弁状態とする。このような動作を行うことにより、前記同様にエンジン停止から再始動時直前までの間、加速ノズル23から燃料が吸気通路4内に流出することを阻止してオーバーリッチ化を回避し、良好なエンジン再始動性を確保する。
【0026】
以上、述べたように、エンジンの燃料供給システムに設けられる加速ポンプ機構について、本発明により、少なくともエンジン停止から再始動時直前までの間に燃料が加速ノズルから吸気通路に流出しないものとして、良好なエンジン再始動性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施の形態を示す縦断面図。
【図2】図1の加速燃料通路部分を中心とした拡大部分図。
【図3】図2の応用例を示す拡大部分図。
【図4】従来例を示す縦断面図。
【符号の説明】
【0028】
2A 加速ポンプ機構、4 吸気通路、5 スロットルバルブ、13 ダイヤフラム装置、14 ソレノイド、20 本体ボディ、20a 加速燃料室、22 プランジャ、23 加速ノズル、24,25 逆止弁、130 遮断弁、24a,25a,131 弁体、24b,25b,132 弁シート、134 弁ロッド


【特許請求の範囲】
【請求項1】
定燃料室から加速用の燃料を導入して貯留する加速燃料室とエンジン加速操作に連動して前記加速燃料室内の燃料を加圧する燃料加圧手段と加圧された燃料を吸気通路の加速ノズルまで送る加速燃料通路とを備えてエンジン加速時に加速用の燃料を追加して供給するための加速ポンプ機構において、エンジン停止時に閉弁して燃料の流通を封止する遮断弁が前記加速燃料通路に設けられており、少なくともエンジン停止から再始動時直前までの間、前記加速ノズルから燃料が前記吸気通路内に流出することを回避することを特徴とする加速ポンプ機構。
【請求項2】
前記遮断弁は、導入している吸気管圧力の変動で膜部材が変位して作動するダイヤフラム装置により開閉されるものであり、エンジン停止中は閉弁状態を維持し、エンジンの回転により前記吸気管圧力が所定レベルを超えている状況で開弁状態を維持することを特徴とする請求項1に記載した加速ポンプ機構。
【請求項3】
前記遮断弁は、電気的弁駆動手段により開閉されるものであり、エンジン電源OFFで閉弁状態を維持し、エンジン電源ONで開弁状態を維持することを特徴とする請求項1に記載した加速ポンプ機構。
【請求項4】
請求項1,2または3に記載した加速ポンプ機構を一体的に備えている、ことを特徴とする気化器。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−215975(P2009−215975A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−60468(P2008−60468)
【出願日】平成20年3月11日(2008.3.11)
【出願人】(000153122)株式会社ニッキ (296)