加速度センサ軸線傾き量測定方法および上下加速度検出方法
【課題】 上下加速度センサの軸線の傾き量を簡便に測定する。軸線の傾いた上下加速度センサによって、正確に上下加速度を検出する。
【解決手段】 ピッチ量,ロール量の異なる2つの姿勢を車体にとらせ、その各々の姿勢において、上下加速度センサ94の出力値を取得し、それら取得した出力値と、各姿勢のピッチ量,ロール量とに基づいて、当該センサの軸線SLの傾き量ρx,ρy,ρzを算出する。センサ軸線の傾き量が把握されている場合において、その傾き量と、車体の前後加速度,横加速度とに基づいて、当該センサの出力値を補正するようにして上下加速度を算出する。また、3つの上下加速度センサの出力値と、それら3つのセンサの傾き量と、車体のピッチ量,ロール量とに基づいて、その3つのセンサが取り付けられている車体の部位の上下加速度を算出する。
【解決手段】 ピッチ量,ロール量の異なる2つの姿勢を車体にとらせ、その各々の姿勢において、上下加速度センサ94の出力値を取得し、それら取得した出力値と、各姿勢のピッチ量,ロール量とに基づいて、当該センサの軸線SLの傾き量ρx,ρy,ρzを算出する。センサ軸線の傾き量が把握されている場合において、その傾き量と、車体の前後加速度,横加速度とに基づいて、当該センサの出力値を補正するようにして上下加速度を算出する。また、3つの上下加速度センサの出力値と、それら3つのセンサの傾き量と、車体のピッチ量,ロール量とに基づいて、その3つのセンサが取り付けられている車体の部位の上下加速度を算出する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体の加速度を検出するための加速度センサの軸線の傾き量を測定する方法、および、軸線の傾いた加速度センサによって車体の上下加速度を検出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年では、電磁式ショックアブソーバが設けられた車両、つまり、電磁式サスペンションシステムを装備した車両が検討されている。検討されている電磁式サスペンションシステムの多くは、4つの車輪に対応して設けられたばね上上下加速度センサ各々の検出値に基づき、各車輪に対応する電磁式ショックアブソーバの各々の作動が制御される。したがって、適切な電磁式ショックアブソーバの制御を行うためには、上下加速度センサの出力値が正確であることが望まれる。そこで、例えば、下記特許文献では、車体に取り付けられた複数の上下加速度センサから出力される出力値のバラツキを考慮して、それら上下加速度センサの出力値の補正を行う技術が記載されている。
【特許文献1】特開2000−283996号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
加速度センサが検出対象とする加速度の方向、つまり、その加速度センサによる検出が予定されている加速度の方向を、そのセンサの「予定検出方向」と定義した場合、その予定検出方向と加速度センサの軸線の方向とが一致していない状態で車体に取り付けられているときには、その加速度センサでは、予定検出方向の加速度を正確に検出することができない。本願発明者は、加速度センサの傾き量が把握できれば、その傾き量に基づいて加速度センサの出力値を補正することで、予定検出方向の加速度を正確に検出できるとの知見を得た。本発明は、その知見に基づくものであり、加速度センサの傾き量を簡便に測定するための方法を提供することを課題とし、また、把握している加速度センサの傾き量に基づいて上下加速度を正確に検出するための方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の加速度センサ軸線傾き量測定方法は、上下加速度センサとして車体に取り付けられて自身の軸線の方向の加速度を検出する加速度センサの軸線の傾き量を測定する方法であって、上記課題を解決するために、(a) 車体を第1姿勢とし、その姿勢における当該加速度センサの出力値である第1センサ出力値を取得する第1センサ出力値取得工程と、(b) 車体を、ピッチ量およびロール量において第1姿勢と異なる姿勢である第2姿勢とし、その姿勢における当該加速度センサの出力値である第2センサ出力値を取得する第2センサ出力値取得工程と、(c) 前記第1センサ出力値および前記第2センサ出力値と、前記第1姿勢および前記第2姿勢の各々におけるロール量およびピッチ量とに基づき、当該加速度センサの軸線の傾き量を算出するセンサ傾き量算出工程とを含むことを特徴とする。
【0005】
また、本発明の第1の上下加速度検出方法は、上下加速度センサとして車体に取り付けられて自身の軸線の方向の加速度を検出する加速度センサによる上下加速度の検出方法であって、上記課題を解決するために、(a) 当該加速度センサの軸線の傾き量を認識する工程と、(b) 車体に生じている前後加速度および横加速度を取得する工程と、(c) 当該加速度センサの出力値と、認識された当該加速度センサの軸線の傾き量と、取得された前後加速度および横加速度とに基づき、当該加速度センサの取り付けられている部位における上下加速度を算出する工程とを含むことを特徴とする。
【0006】
さらに、本発明の第2の上下加速度検出方法は、3以上の部位において車体に取り付けられ、それそれが軸線の方向の加速度を検出する3以上の加速度センサによって、前記3つ以上の部位の各々における上下加速度の検出方法であって、上記課題を解決するために、(a) 当該3以上の加速度センサの各々の軸線の傾き量を認識する工程と、(b) 車体のピッチ量およびロール量を取得する工程と、(c) 当該3以上の加速度センサの各々の出力値と、認識された当該3以上の加速度センサの各々の軸線の傾き量と、取得された車体のピッチ量およびロール量とに基づき、前記3以上の部位のうちの少なくとも1つの部位における上下加速度を算出する工程とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の加速度センサ軸線傾き量測定方法によれば、車体を、ピッチ量,ロール量の各々において互いに異なる2つの姿勢とし、各姿勢において加速度センサの出力値を取得するといった簡単な手段によって、車体に取り付けられた加速度センサの軸線の傾き量を測定することが可能となる。また、本発明の上下加速度検出方法によれば、上下加速度センサの軸線が傾いて車両に取り付けられている場合でも、当該加速度センサの軸線の傾き量を把握すれば、当該加速度センサの取り付けられている部位における上下加速度を適正に検出することが可能となる。
【発明の態様】
【0008】
以下に、本願において特許請求が可能と認識されている発明(以下、「請求可能発明」という場合がある)の態様をいくつか例示し、それらについて説明する。各態様は請求項と同様に、項に区分し、各項に番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。これは、あくまでも請求可能発明の理解を容易にするためであり、それらの発明を構成する構成要素の組み合わせを、以下の各項に記載されたものに限定する趣旨ではない。つまり、請求可能発明は、各項に付随する記載,実施例の記載等を参酌して解釈されるべきであり、その解釈に従う限りにおいて、各項の態様にさらに他の構成要素を付加した態様も、また、各項の態様から何某かの構成要素を削除した態様も、請求可能発明の一態様となり得るのである。なお、下記(1)項ないし(8)項の各々が、請求項1ないし請求項8の各々に相当する。
【0009】
(1)上下加速度センサとして車体に取り付けられて自身の軸線の方向の加速度を検出する加速度センサの軸線の傾き量を測定する方法であって、
車体を第1姿勢とし、その姿勢における当該加速度センサの出力値である第1センサ出力値を取得する第1センサ出力値取得工程と、
車体を、ピッチ量およびロール量において第1姿勢と異なる姿勢である第2姿勢とし、その姿勢における当該加速度センサの出力値である第2センサ出力値を取得する第2センサ出力値取得工程と、
前記第1センサ出力値および前記第2センサ出力値と、前記第1姿勢および前記第2姿勢の各々におけるロール量およびピッチ量とに基づき、当該加速度センサの軸線の傾き量を算出するセンサ傾き量算出工程と
を含む加速度センサ軸線傾き量測定方法。
【0010】
本項の加速度センサ軸線傾き量測定方法によれば、車体を、ピッチ量,ロール量の各々において互いに異なる2つの姿勢とし、各々の姿勢において加速度センサの出力値を取得するといった簡単な手段によって、上下加速度センサとして車体に取り付けられた加速度センサの軸線の傾き量を測定することが可能となる。
【0011】
本項における「加速度センサの軸線(以下、「センサ軸線」という場合がある)とは、当該加速度センサによって実際に検出される加速度の方向に延びる仮想線であり、言い換えれば、当該加速度センサが検出可能な加速度の方向を示す線と考えることができる。例えば、加速度センサが上下加速度センサとして車体に取り付けられる場合には、上下方向の加速度が検出対象となるため、加速度センサは、センサ軸線が予定検出方向としての上下方向を向く姿勢で車体に取り付けられる。
【0012】
本項における「加速度センサの軸線の傾き量」とは、当該加速度センサを車体に取り付けた場合のセンサ軸線のその車体に対する傾き量を意味する。例えば、車両が水平面上に静止している状態(以下、「標準状態」という場合がある)にある場合において、当該加速度センサの予定検出方向に対するセンサ軸線の傾き量と考えることができる。さらに言えば、この「傾き量」は、傾きの方向をも含む概念と考えることもでき、「傾き量」は、傾きの方向をも示す指標を採用することができる。例えば、車両が標準状態にある場合において、車両の前後方向に延びる車体の軸線を「前後軸線」、左右方向つまり車幅方向に延びる車体の軸線を「横軸線」、上下方向に延びる車体の軸線を「上下軸線」と定義した場合において、それら3つの軸線の各々とセンサ軸線とのなす角度(以下、それぞれ、「対前後軸線角」,「対横軸線角」,「対上下軸線角」という場合がある)をもって、加速度センサの軸線の傾き量とすることができる。このような表し方に従えば、例えば、加速度センサが上下加速度センサである場合に、その軸線が上下軸線と一致する方向で車体に取り付けられているときには、この加速度センサの軸線の傾き量は、対前後軸線角および横軸線角が90゜、対上下軸線角が0゜となる。また、そのような3つの角度をもって表すのではなく、例えば、水平面に対する加速度センサの軸線の投影線と前後軸線若しくは横軸線とのなす角度と、上下軸線とのなす角度とによって表すこともできる。つまり、加速度センサの軸線の傾き量は、実質的に傾き量を表すことのできる種々のパラメータにて表すことができるのである。なお、加速度センサの軸線の傾き量は、3次元的に表現しなくてもよく、例えば、前後軸線若しくは横軸線に垂直な平面内における上下軸線に対する角度等、2次元的に表してもよい。
【0013】
本項における「ピッチ量」,「ロール量」は、典型的には、それぞれ、上記前後軸線,横軸線と水平面とのなす角度、つまり、ロール角,ピッチ角として表すことが可能である。ピッチ角は、例えば、前輪側,後輪側の各々の車体車輪間距離(ばね上ばね下間距離)の差と、ホイールベースとに基づいて算出した値を、ロール角は、左輪側,右輪側の各々の車体車輪間距離(ばね上ばね下間距離)の差と、トレッドとに基づいて算出した値を、それぞれ採用することが可能である。なお、ピッチ角,ロール角に限定されるものではなく、他のパラメータ、例えば、前輪側,後輪側の各々の車体車輪間距離の差、左輪側,右輪側の各々の車体車輪間距離の差をもってして、ピッチ量,ロール量とすることもできる。
【0014】
本項における「第1姿勢」,「第2姿勢」は、互いに、ピッチ量およびロール量の異なる2つの姿勢であるが、第1姿勢,第2姿勢との一方が、ピッチとロールとの少なくとも一方をしていない姿勢であってもよい。つまり、ピッチ量とロール量との少なくとも一方が0である場合も含まれるのである。なお、第1姿勢,第2姿勢を実現する手段としては、後述する接近離間力発生装置等の車両に備えられた装置を利用するものであってもよく、また、車両外部から力を付与する装置を利用するものであってもよい。例えば、車両を何らかの台に載置させ、その台を傾けることによって車両ごと傾けるような装置によって車体を傾斜させてもよいのである。
【0015】
センサ軸線の傾き量の算出の手法は、それの具体的な態様が特に限定されるものではない。例えば、前述のように、当該傾き量が対前後軸線角、対横軸線角、および対上下軸線角によって表される場合には、これら3つの角度を変数(未知数)とした3つの方程式を作成すれば、それらを連立方程式として解くことにより、それら3つの角度、すなわち、センサ軸線の傾き量を算出することができる。より具体的には、例えば、車体が走行していない場合には車体に作用する加速度は重力加速度だけであるとみなすことができため、第1姿勢,第2姿勢の各々における上下加速度センサの出力値についての2つの方程式を作成することが可能である。詳しく言えば、それぞれの姿勢におけるピッチ量およびロール量を加味した2つの方程式を作成することが可能である。その2つの方程式と、三平方の定理に基づく方程式、つまり、上記3つの角度の余弦の2乗の和が1であるという方程式とを、連立方程式として解くことにより、その3つの角度、すなわち、加速度センサの傾き量を算出することが可能である。
【0016】
なお、複数の加速度センサが、それぞれ上下加速度センサとして、車体に取り付けられている場合には、それぞれの加速度センサについて、上記手法によって、センサ軸線の傾き量を算出することで、複数の加速度センサのすべてについて、センサ軸線の傾き量を検出することが可能である。
【0017】
(2)前記第1姿勢と前記第2姿勢との一方が、車体がピッチしかつロールしていない姿勢であり、前記第1姿勢と前記第2姿勢との他方が、車体がロールしかつピッチしていない姿勢である(1)項に記載の加速度センサ軸線傾き量測定方法。
【0018】
本項の態様によれば、第1姿勢および第2姿勢において、ピッチ方向とロール方向との一方にしか傾斜していないため、加速度センサの出力値を取得する際の車体の傾斜を、簡便に行うことができる。
【0019】
(3)当該加速度センサが車体に取り付けられた車両が、前後左右4つの車輪に対応して設けられ車輪と車体とを接近・離間させる力を発生させる4つの接近離間力発生装置を有しており、
前記第1センサ出力値取得工程および前記第2センサ出力値取得工程が、前記4つの接近離間力発生装置の作動によって車体を傾斜させて、前記第1センサ出力値および前記第2センサ出力値を取得する工程である(1)項または(2)項に記載の加速度センサ軸線傾き量測定方法。
【0020】
本項の態様によれば、車体を傾斜させる際に、車両に装備されている装置以外の装置を必要としないことから、加速度センサの軸線の傾き量を測定する方法を、実用的なものとすることができる。具体的には、例えば、前輪側の車体車輪間距離と後輪側の車体車輪間距離とが互いに異なる距離となるように4つの接近離間力発生装置を作動させることで、車体をピッチした姿勢とすることができ、また、左輪側の車体車輪間距離と左輪側の車体車輪間距離とが互いに異なる距離となるように4つの接近離間力発生装置を作動させることで、車体をロールした姿勢とすることができる。なお、本項の態様における「接近離間力発生装置」は、それの具体的な構成が特に限定されるものではない。例えば、液圧式の懸架シリンダを主体とするような装置であってもよく、後に説明する電磁式ショックアブソーバ等、電力によって作動するアクチュエータを主体とする装置であってもよい。
【0021】
(4)前記4つの接近離間力発生装置の各々が、電磁モータを有し、その電磁モータの力に依拠して車輪と車体との接近・離間に対する抵抗力を発生させる電磁式ショックアブソーバである(3)項に記載の加速度センサ軸線傾き量測定方法。
【0022】
現在検討されている電磁式ショックアブソーバを備えたサスペンションシステムは、各車輪に対応して車体に取り付けられたばね上上下加速度センサの検出値に基づいて、各電磁式ショックアブソーバが制御されるようになっている。したがって、そのようなサスペンションシステムでは、既に車両に配備されている装置によって、車体に第1姿勢,第2姿勢をとらせることができるため、車両に特別な装置を配備することなく、それら加速度センサの軸線の傾き量を測定することが可能となる。
【0023】
(5)上下加速度センサとして車体に取り付けられて自身の軸線の方向の加速度を検出する加速度センサによる上下加速度の検出方法であって、
当該加速度センサの軸線の傾き量を認識する工程と、
車体に生じている前後加速度および横加速度を取得する工程と、
当該加速度センサの出力値と、認識された当該加速度センサの軸線の傾き量と、取得された前後加速度および横加速度とに基づき、当該加速度センサの取り付けられている部位における上下加速度を算出する工程と
を含む上下加速度検出方法。
【0024】
前述したとおり、上下加速度センサは、それのセンサ軸線と上下軸線とが一致するように車体に取り付けられないと、予定検出方向である上下方向の加速度を正確に検出することができない。また、車両の走行中においては、車両の加減速に起因する前後加速度,車両の旋回に起因する横加速度も生じるため、上下加速度センサの軸線が傾いている場合には、それら前後加速度,横加速度も、上下加速度センサの検出値に影響を与えることになる。本項の態様の上下加速度の検出方法によれば、上下加速度センサの軸線が傾いていたとしても、その傾き量を把握していれば、その傾き量と、前後加速度,上下加速度に基づくことにより、上下加速度を正確に検出することが可能となる。
【0025】
なお、本項にいう「加速度センサの軸線の傾き量を認識する」とは、センサ軸線の傾き量を測定するという狭い概念ではなく、広く解釈するものとする。つまり、既に測定してあるセンサ軸線の傾き量を、上下加速度の算出において利用可能な状態にすること等をも含む概念である。また、本項にいう「前後加速度および横加速度を取得する」とは、例えば、前後加速度センサ,横加速度センサ等を用いて検出すること、前後加速度,横加速度を推定可能なパラメータを検出し、そのパラメータに基づいて前後加速度,横加速度を推定すること等を意味する。
【0026】
本項の態様における上下加速度の算出手法は、それの具体的な態様が特に限定されるものではない。例えば、上下加速度センサが取付けられている車体の部位に上下加速度が、車体に前後加速度,横加速度が、それぞれ生じている場合に、加速度センサが傾いているときには、加速度センサの軸線の延びる方向(以下、「センサ軸線方向」という場合がある)におけるそれら加速度の成分(以下、「センサ軸線方向成分」という場合がある)を合わせたものが、当該加速度センサの検出値となる。そのことに鑑み、上下加速度センサの出力値から、センサ軸線が傾くことによって生じる前後加速度と横加速度のセンサ軸線方向成分を差し引き、その差し引いた後の値をセンサ軸線の傾き量に基づいて補正するという手法を、採用することができる。
【0027】
(6)当該上限加速度検出方法が、さらに、車体のピッチ量およびロール量を取得する工程を含み、
前記上下加速度を算出する工程が、さらに、取得された車体のピッチ量およびロール量に基づき、当該加速度センサの取り付けられている部位における上下加速度を算出するものである(5) 項に記載の上下加速度検出方法。
【0028】
車両の走行中には、車体がピッチしたり、ロールしたりする。車体がピッチ,ロールすれば、上下加速度センサの検出値は、それらピッチ,ロールによる当該加速度センサのセンサ軸線の傾きの影響を受けることになる。本項の態様によれば、さらに車体のピッチ量,ロール量を加味して上下加速度が算出されるため、上下加速度がさらに正確に検出できることになる。
【0029】
本項の態様における上下加速度の算出手法は、それの具体的な態様が特に限定されるものではない。例えば、上下加速度センサの出力値から、センサ軸線の傾き量と車体のピッチ量とに基づいて得られた前後加速度のセンサ軸線方向成分と、センサ軸線の傾き量と車体のロール量とに基づいて得られた横加速度のセンサ軸線方向成分とを差し引き、その差し引いた後の値を、センサ軸線の傾き量,ピッチ量,ロール量に基づいて補正するという手法を、採用することができる。
【0030】
(7)3以上の部位において車体に取り付けられ、それそれが軸線の方向の加速度を検出する3以上の加速度センサによって、前記3つ以上の部位の各々における上下加速度の検出方法であって、
当該3以上の加速度センサの各々の軸線の傾き量を認識する工程と、
車体のピッチ量およびロール量を取得する工程と、
当該3以上の加速度センサの各々の出力値と、認識された当該3以上の加速度センサの各々の軸線の傾き量と、取得された車体のピッチ量およびロール量とに基づき、前記3つ以上の部位のうちの少なくとも1つの部位における上下加速度を算出する工程と
を含む上下加速度検出方法。
【0031】
本項の態様は、車体の3以上の部位の各々に上下加速度センサが取り付けられている場合において、その3以上の部位のうちのいずれかの部位における上下加速度を検出する方法である。各加速度センサが傾いていたとしても、その傾き量が把握されていれば、その傾き量と車体のピッチ量,ロール量とに基づき、いずれかのセンサが取り付けてられている車体の部位の上下加速度を、正確に検出することができる。本項の態様において上下加速度を算出する手法は、それの具体的な態様が特に限定されるものではないが、例えば、以下のような手法を採用することができる。
【0032】
車体には、それを並進移動させようとする加速度(以下、「並進運動加速度」という場合がある)が生じる。この並進運動加速度の前後方向,左右方向,上下方向の各成分は、車体の部位の位置によらず、どこの位置においても同じ大きさとなる。一方、車体の各部位には、ピッチ,ロールする場合には、そのピッチ,ロールさせようとする力に依存した加速度(以下、「ピッチ・ロール依存加速度」という場合がある)が生じる。この加速度の前後方向,左右方向,上下方向の各成分は、車体の部位の位置に依存した大きさとなる。つまり、上下加速度センサが取り付けられている部位には、それら並進運動加速度とピッチ・ロール依存加速度とが生じており、それらの各々の上下方向成分を合計したものが、その加速度センサによって検出されるべき上下加速度と考えることができる。
【0033】
上記のような考えの下、まず、取得されたピッチ量,ロール量、詳しくは、それらピッチ量,ロール量の変化に基づいてピッチ・ロール依存加速度の前後方向,左右方向,上下方向の各成分を、3つ以上の上下加速度センサの各々が取り付けられている部位ごとに算出する。次いで、並進運動加速度の前後方向成分,左右方向成分,上下方向成分の各々を変数(未知数)として設定し、それら並進運動加速度の各成分および算出されたピッチ・ロール依存加速度の各成分のセンサ軸線方向成分、つまり、それら各成分から傾き量,車体のピッチ量,ロール量に基づいて導出されるセンサ軸線方向成分を合計したものが、上下加速度センサの出力値に等しいという方程式を、3つ以上の上下加速度センサの各々についてたてる。そして、その3つ以上の方程式を連立方程式として解くことによって、未知数の1つである並進運動加速度の上下方向成分を求め、求められた並進運動加速度の上下方向成分と、各部位ごとに先に算出されているピッチ・ロール依存加速度の上下方向成分を足し合わせることで、各部位のうちの1以上の部位において検出されるべき上下加速度を算出する。このような手法によって、正確に、上下加速度を算出することができるのである。
【0034】
なお、本項にいう「加速度センサの軸線の傾き量を認識する」とは、先の態様と同様、センサ軸線の傾き量を測定するという狭い概念ではなく、広く解釈するものとする。つまり、既に測定してあるセンサ軸線の傾き量を、上下加速度の算出において利用可能な状態にすること等をも含む概念である。また、本項にいう「車体のピッチ量およびロール量を取得する」とは、例えば、車体傾斜計等を用いてピッチ量,ロール量を検出すること、各車輪についての車体車輪間距離等、ピッチ量,ロール量を推定可能なパラメータを検出し、そのパラメータに基づいてピッチ量,ロール量を推定すること等を意味する。
【0035】
(8)前記上下加速度を算出する工程が、
当該3以上の加速度センサの各々の出力値と、認識された当該3以上の加速度センサの各々の軸線の傾き量と、取得された車体のピッチ量およびロール量とに基づき、前記3つ以上の部位のうちの少なくとも1つの部位における上下加速度とともに、車体の前後加速度と横加速度との少なくとも一方をも算出する工程である(7)項に記載の上下加速度の検出方法。
【0036】
本項の態様は、上下加速度センサの軸線が傾いていることを利用して、車体の前後加速度,横加速度をも検出する態様である。各上下加速度センサの軸線の傾き量を把握することによって、本項の態様によれば、前後加速度センサ,横加速度センサを備えていない車両においても、車体の前後加速度,横加速度を検出することが可能である。
【0037】
本項の態様において、前後加速度,横加速度を算出する手法は、それの具体的な態様が特に限定されるものではない。例えば、先に説明した上下加速度の具体的算出手法、つまり、並進運動加速度,ピッチ・ロール依拠加速度に基づく算出手法を採用する場合には、未知数として設定されている前述の並進運動加速度の前後方向成分,左右方向成分が、それぞれ、車体の前後加速度,横加速度に相当するため、前述の3つ以上の連立方程式を解くことによって、前後加速度,横加速度を算出することができる。
【実施例】
【0038】
以下、請求可能発明が特定の車両用サスペンションシステムに適用された場合の例を、請求可能発明の実施例として、図を参照しつつ詳しく説明する。なお、請求可能発明は、下記実施例の他、前記〔発明の態様〕に記載された態様を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した種々の態様で実施することができる。
【0039】
≪車両用サスペンションシステムの構成≫
図1に、請求可能発明が適用される車両用サスペンションシステム10を模式的に示す。本サスペンションシステム10は、前後左右の車輪12の各々に対応して、独立懸架式の4つのサスペンション装置を備えており、それらサスペンション装置の各々は、サスペンションスプリングとショックアブソーバとが一体化されたスプリング・アブソーバAssy20を有している。車輪12,スプリング・アブソーバAssy20は総称であり、4つの車輪のいずれに対応するものであるかを明確にする必要のある場合には、図に示すように、車輪位置を示す添え字として、左前輪,右前輪,左後輪,右後輪の各々に対応するものにFL,FR,RL,RRを付す場合がある。
【0040】
スプリング・アブソーバAssy20は、図2に示すように、車輪12を保持する車輪保持部材としてのサスペンションロアアーム22と車体に設けられたマウント部24との間に、それらを連結するようにして配設されており、電磁式ショックアブソーバとして機能する電磁式のアクチュエータ26と、それと並列的に設けられたサスペンションスプリングとしてのコイルスプリング28とを備えている。アクチュエータ26は、後に詳しく説明するが、自身が発生する力によって車輪12と車体とを接近・離間させることができるため、接近離間力発生装置としても機能する。
【0041】
アクチュエータ26は、アウターチューブ30と、そのアウターチューブ30に嵌入してアウターチューブ30の上端部から上方に突出するインナチューブ32とを含んで構成されている。アウターチューブ30は、それの下端部に設けられた取付部材34を介してロアアーム22に連結され、一方、インナチューブ32は、それの上端部に形成されたフランジ部36においてマウント部24に連結されている。アウターチューブ30には、その内壁面にアクチュエータ26の軸線の延びる方向(以下、「アクチュエータ軸線方向」という場合がある)に延びるようにして1対のガイド溝38が設けられるとともに、それらのガイド溝38の各々には、インナチューブ32の下端部に付設された1対のキー40の各々が嵌まるようにされており、それらガイド溝38およびキー40によって、アウターチューブ30とインナチューブ32とが、相対回転不能、軸線方向に相対移動可能とされている。
【0042】
また、アクチュエータ26は、ねじ溝が形成されたねじロッド50と、ベアリングボールを保持してそのねじロッド50と螺合するナット52とを含んで構成されたボールねじ機構と、電磁モータ54(3相のDCブラシレスモータであり、以下、単に「モータ54」という場合がある)とを備えている。モータ54はモータケース56に固定して収容されるとともに、そのモータケース56の鍔部がマウント部24の上面側に固定されており、モータケース56の鍔部にインナチューブ32のフランジ部36が固定されていることで、インナーチューブ32は、モータケース56を介してマウント部24に連結されている。モータ54の回転軸であるモータ軸58は、ねじロッド50の上端部と一体的に接続されている。つまり、ねじロッド50は、モータ軸58を延長する状態でインナチューブ32内に配設され、モータ54によって回転させられる。一方、ナット52は、ねじロッド50と螺合させられた状態で、アウタチューブ30の内底部に付設されたナット支持筒60の上端部に、固定支持されている。なお、アウターチューブ30には、その外周部に環状の下部リテーナ62が設けられており、コイルスプリング28は、この下部リテーナ62と、マウント部24の下面側に付設された防振ゴム64を介して設けられた環状の上部リテーナ66とによって挟まれる状態で、配設されている。
【0043】
車体と車輪12とが接近・離間する場合、アウターチューブ30とインナチューブ32とは、アクチュエータ軸線方向に相対運動する。その相対運動に伴って、ねじロッド50とナット52とが軸線方向に相対運動するとともに、ねじロッド50がナット52に対して回転する。モータ54は、ねじロッド50に回転トルクを付与可能とされ、この回転トルクによって、車体と車輪12との接近・離間に対して、その接近・離間を阻止する方向の抵抗力を発生させることが可能とされている。この抵抗力が、車輪12および車体のそれらの接近・離間方向における振動を減衰する減衰力となることで、アクチュエータ26は、ショックアブソーバとして機能する。すなわち、アクチュエータ26は、自身の発生させる力であるアクチュエータ力を、減衰力として作用させることが可能とされているのである。また、アクチュエータ26は、アクチュエータ力によって、車体と車輪12とを接近・離間させる機能をも有している。この機能により、車両旋回時の車体のロール、車両加減速時の車体のピッチ等による車体の姿勢変化を効果的に抑制することが可能とされている。つまり、アクチュエータ力を車体の姿勢を制御する力である姿勢制御力として発揮させることも可能とされているのである。
【0044】
図1に示すように、本サスペンションシステム10には、アクチュエータ26の作動、つまり、アクチュエータ力を制御する制御装置として、アクチュエータ電子制御ユニット(ECU)80が設けられている。このECU80は、CPU,ROM,RAM等を備えたコンピュータを主体として構成されているコントローラ82(図1では、「CONT」と表されている)と、各アクチュエータ26が有するモータ54の駆動回路である4つのインバータ84(図1では、「INV」と表されている)とを有している。各モータ54は、対応するインバータ84を介して、電源としてのバッテリ86(図1では、「BAT」と表されている)に接続されている。また、コントローラ82は、各インバータ84に接続されており、各インバータ84がコントローラ82の指令に従ってモータ54の通電電流を制御することとで、各アクチュエータ26は、モータ54の通電電流に応じた大きさのアクチュエータ力を発生させる。
【0045】
コントローラ82には、車両走行速度(以下、「車速」と略す場合がある)を検出するための車速センサ88,ステアリングホイールの操作角を検出するための操作角センサ90,車体に実際に発生する横加速度である実横加速度を検出するための横加速度センサ92,各車輪12に対応する車体の各マウント部24の上下加速度(ばね上部上下加速度)を検出するための4つの上下加速度センサ94,車体に実際に発生する前後加速度である実前後加速度を検出するための前後加速度センサ98,各スプリング・アブソーバAssy20において車輪と車体との離間距離を計測するための4つのストロークセンサ100も接続されている。(図1では、それぞれ、「v」,「δ」,「Gy」,「Gz」,「Gx」,「St」と表されている)。さらに、車室内には、運転者によって操作されるセンサ傾き量側処理開始スイッチ102(図1では、「Sw」と表されている)が設けられており、このスイッチ102もコントローラ82に接続されている。なお、コントローラ82のコンピュータが備えるROMには、後に説明するところのアクチュエータ制御プログラム,上下加速度センサ軸線傾き量測定プログラム,各種のデータ等が記憶されている。
【0046】
≪サスペンションシステムの制御≫
本サスペンションシステム10では、4つのアクチュエータ26をそれぞれ独立して制御することが可能となっている。つまり、アクチュエータ力が、それぞれ、独立して制御されて、車輪および車体の振動を減衰する制御(以下、「振動減衰制御」という場合がある),車体のロールを抑制する制御(以下「ロール抑制制御」という場合がある),車体のピッチを抑制する制御(以下、「ピッチ抑制制御」という場合がある)が実行される。上記振動減衰制御,ロール抑制制御,ピッチ抑制制御は、アクチュエータ力を、それぞれ、減衰力,ロール抑制力,ピッチ抑制力として作用させることによって実行される。詳しく言えば、振動減衰制御,ロール抑制制御,ピッチ抑制制御の各制御ごとのアクチュエータ力である減衰アクチュエータ力成分,ロール抑制アクチュエータ力成分,ピッチ抑制アクチュエータ力成分を合計した目標アクチュエータ力を決定し、アクチュエータ26が、その目標アクチュエータ力を発揮するように制御されることで、通常、一元的に実行される。以下に、振動減衰制御,ロール抑制制御,ピッチ抑制制御の各々を、それら各々におけるアクチュエータ力成分の決定方法を中心に詳しく説明するとともに、アクチュエータ力を制御するためのモータ54の作動制御を詳しく説明する。
【0047】
i)振動減衰制御
振動減衰制御では、車輪および車体の振動を減衰するために車輪および車体の振動の速度に応じた大きさのアクチュエータ力を発揮させるべく、減衰アクチュエータ力成分FGが決定される。車体のマウント部24の上下方向の動作速度、いわゆる、ばね上速度(ばね上絶対速度)VUに基づいて、次式に従って、減衰アクチュエータ力成分FGが演算される。
FG=CU・VU
ここで、CUは、車体のマウント部24の上下方向の動作速度に応じた減衰力を発揮させるためのゲイン、つまり、いわゆる減衰係数である。上記式から解るように、本振動減衰制御は、スカイフックダンパ理論に基づく制御を行うようにされているのである。なお、上記ばね上速度VUは、上下加速度センサ94の出力値に基づいて検出されたばね上上下加速度Gzに基づき、算出される。このばね上上下加速度Gzの検出については、後述する。
【0048】
ii)ロール抑制制御
ロール抑制制御では、車両の旋回時において、その旋回に起因するロールモーメントに応じて、旋回内輪側のアクチュエータ26にバウンド方向のアクチュエータ力を、旋回外輪側のアクチュエータ26にリバウンド方向のアクチュエータ力を、それぞれ、ロール抑制力として発揮させる。具体的に言えば、まず、車体が受けるロールモーメントを指標する横加速度として、ステアリングホイールの操舵角δと車両走行速度vとに基づいて推定された推定横加速度Gycと、実際に生じている車体の横加速度である実横加速度Gyrとに基づいて、制御に利用される横加速度である制御横加速度Gy*が、次式に従って決定され、
Gy*=KA・Gyc+KB・Gyr (KA,KBはゲイン)
そのように決定された制御横加速度Gy*に基づいて、ロール抑制アクチュエータ力成分FRが決定される。コントローラ82内には制御横加速度Gy*をパラメータとするロール抑制アクチュエータ力成分FRのマップデータが格納されており、そのマップデータを参照して、ロール抑制アクチュエータ力成分FRが決定される。なお、上記実横加速度Gyrは、横加速度センサ92の出力値に基づいて検出されるものであってもよく、後に説明するように、上下加速度センサ94の出力値、当該センサのセンサ軸線の傾き量、取得されたピッチ量およびロール量に基づいて算出されることによって検出されるものであってもよい。
【0049】
iii)ピッチ抑制制御
ピッチ抑制制御では、車体の制動時等に発生する車体のノーズダイブに対しては、そのノーズダイブを生じさせるピッチモーメントに応じて、前輪側のアクチュエータ26FL,FRにリバウンド方向のアクチュエータ力を、後輪側のアクチュエータ26RL,RRにバウンド方向のアクチュエータ力をそれぞれピッチ抑制力として発揮させることで、そのノーズダイブが抑制され、車体の加速時等に発生する車体のスクワットに対しては、そのスクワットを生じさせるピッチモーメントに応じて、後輪側のアクチュエータ26RL,RRにリバウンド方向のアクチュエータ力を、前輪側のアクチュエータ26FL,FRにバウンド方向のアクチュエータ力をピッチ抑制力として発揮させることで、そのスクワットが抑制される。具体的には、車体が受けるピッチモーメントを指標する前後加速度として、実際に生じている車体の前後加速度である実前後加速度Gxが採用され、その実前後加速度Gxに基づいて、ピッチ抑制アクチュエータ力成分FPが、次式に従って決定される。
FP=KC・Gx (KCはゲイン)
なお、上記実前後加速度Gxは、前後加速度センサ98の出力値に基づいて検出されるものであってもよく、後に説明するように、上下加速度センサ94の出力値、当該センサのセンサ軸線の傾き量、取得されたピッチ量およびロール量に基づいて算出されることによって検出されるものであってもよい。
【0050】
iv)アクチュエータ力とモータの作動制御
上述のように減衰アクチュエータ力成分FG,ロール抑制アクチュエータ力成分FR,ピッチ抑制アクチュエータ力成分FPが決定されると、次式に従って目標アクチュエータ力FAが決定され、
FA=FG+FR+FP
決定された目標アクチュエータ力FAを発揮するようにアクチュエータ26が制御される。目標アクチュエータ力FAを発揮させるためのモータ54の作動制御は、インバータ84によって行われる。詳しく言えば、決定された目標アクチュエータ力FAを発生させるためのモータ54の通電電流についての指令が、インバータ84に発令される。
【0051】
v)アクチュエータ制御プログラム
上述のようなアクチュエータ26の制御は、図3にフローチャートを示すアクチュエータ制御プログラムが、イグニッションスイッチがON状態とされている間、短い時間間隔(例えば、数msec)をおいてコントローラ82により繰り返し実行されることによって行われる。以下に、その制御のフローを、図に示すフローチャートを参照しつつ、簡単に説明する。
【0052】
アクチュエータ制御プログラムは、4つの車輪12にそれぞれ設けられたスプリング・アブソーバAssy20のアクチュエータ26それぞれに対して実行される。以降の説明においては、説明の簡略化に配慮して、1つのアクチュエータ26に対しての本プログラムによる処理について説明するが、いずれのアクチュエータに対する処理であるかを明確にする必要のある場合には、車輪位置を示す添え字を付して説明する場合がある。
【0053】
本プログラムに従う処理では、まず、ステップ1(以下、単に「S1」と略す。他のステップについても同様とする)において、ステアリングホイールの操舵角δと車両走行速度vとに基づいて上述した推定横加速度Gycが推定される。次いで、S2において、上述したばね上上下加速度Gz,実横加速度Gyr,実前後加速度Gxが検出される。それらの加速度の検出は、加速度検出サブルーチンが実行されることによって行われる。各加速度の検出に関する手法,具体的なプロセスについては、後に詳しく説明する。
【0054】
次に、上述した振動減衰制御を実行するため、S3において、S2で検出されたばね上上下加速度Gzに基づいて、ばね上速度VUが算出され、S4において、そのばね上速度VUに基づいて上記減衰アクチュエータ力成分FGが決定される。続いて、ロール抑制制御を実行するため、S5において、S1で推定された推定横加速度Gycと、S2で検出された実横加速度Gyrとに基づいて、上記制御横加速度Gy*が算出され、S6において、その算出された制御横加速度Gy*に基づいて、上記ロール抑制アクチュエータ力成分FRが決定される。さらに、ピッチ抑制制御を実行するため、S7において、S2で検出された実前後加速度Gxに基づいて、上記ピッチ抑制アクチュエータ力成分FPが決定される。
【0055】
続いて、S8において、S4で決定された減衰アクチュエータ力成分FG,S6で決定されたロール抑制アクチュエータ力成分FR,S7で決定されたピッチ抑制アクチュエータ力成分FPが合計されて、上記目標アクチュエータ力FAが決定される。目標アクチュエータ力FAが決定された後に、S9において、決定された目標アクチュエータ力FAに対応する制御信号が、インバータ84に送られ、インバータ84によりモータ54が制御される。それらの処理により、アクチュエータ26は、決定された目標アクチュエータ力FAを発生するように作動制御される。
【0056】
≪上下加速度センサの構造と軸線の傾きによる影響≫
本システムで使用されている上下加速度センサ94は、図4に示すような外観をなしており、前後左右4つの車輪に対応して、車体に4つ取り付けられている。上下加速度センサ94の内部構造は、図5に模式的に示すようになっている。具体的には、上下加速度センサ94は、下端が開口する箱状の上部ケース110と、上端が開口する箱状の下部ケース112とが合わさったケース体114を有し、ケース体114は、上部ケース110と下部ケース112とが、図における上下方向に相対移動可能とされていることで、伸縮可能とされている。下部ケース112の内部には、それの底部に錘116が固着されており、また、上部ケース110には、それの天井部に、1対の電極118とそれらに挟まれた圧電素子120とからなる圧電素子ユニット122が、固着されている。ケース体114の内部には、1対の引張コイルスプリング124が、ケース体114を上下方向に収縮させる方向に弾性力を発揮する状態で配設されており、それらスプリング124の弾性力によって、錘116は圧電素子ユニット122に押し付けられている。なお、この上下加速度センサ94は、上部ケース110に設けられた1対のブラケット126において、車体に取り付けられる。
【0057】
このような構造から、上下加速度センサ94は、当該上下加速度センサ94に上下方向の加速度が生じている場合に、その加速度の大きさに応じて、錘116が圧電素子ユニット122を押し付ける力が変化し、その変化によって、圧電素子120の変形が変化し、その変化に応じた電圧が1対の電極118の間に生じることになる。この電圧が、すなわち、当該上下加速度センサ94の出力値であり、その電圧に基づいて、上下加速度を検出することができるのである。ちなみに、車両が静止しているときには、上下加速度センサは、重力加速度に応じた出力値を出力することになり、この重力加速度を除いた加速度が、車体の運動に依拠して生じる上下加速度となる。
【0058】
図5に示す1点鎖線は、上下加速度センサ94の軸線、つまり、センサ軸線SLであり、図の上下方向に延びている。このセンサ軸線SLの延びる方向がセンサ軸線方向であり、上下加速度センサ94は、この方向の加速度を出力値として出力するようになっている。ところが、上下加速度センサ94は、必ずしも車体に対して正確な向きにに取り付けらるとは限らず、不可避的に、取り付け誤差が発生することも考えられる。
【0059】
例えば、図4に示すように、上下加速度センサ94が傾いて取り付けられているとする。図に示すベクトルは、センサ軸線の延びる方向を示すセンサ軸線方向ベクトルSである。ここで、上下加速度センサ94の傾き量を規定するために、図に示すところの互いに直交する3つの軸、x軸,y軸,z軸を定義する。ちなみに、それらの軸の軸線は、車両が水平な面上に静止している標準状態において、それぞれ、車両の前後方向,左右方向,上下方向に延びる軸線であり、それぞれ、車体の前後軸線,横軸線,上下軸線と呼ばれるものである。以下の説明では、上下加速度センサ94の傾き量は、上記x軸,y軸,z軸を基準に考え、それぞれの軸線に対してセンサ方向ベクトルSがなす角度、つまり、対前後軸線角ρx,対横軸線角ρy,対上下軸線角ρzと規定することとする。
【0060】
上下加速度センサ94は、上下方向の加速度を検出することを目的とするセンサであり、言い換えれば、予定検出方向を上下方向とするセンサである。ところが、図4に示すようにセンサ軸線SLが傾いている場合には、上下加速度センサ94は、上下方向の加速度を正確に出力しないことになる。詳しく言えば、ある大きさの加速度が上下方向に生じている場合でも、センサ軸線方向に沿った成分、つまり、センサ軸線方向成分に応じた出力値しか出力されないことになる。また、前後方向,左右方向に加速度が生じている場合には、それらの加速度のセンサ軸線方向成分に応じた大きさの出力がされることになる。このような場合、上下加速度センサ94の出力値に基づく上記振動減衰制御は、適切に行われないことになる。
【0061】
なお、車体がピッチする場合には、車体がy軸回りに回転することで、x軸,z軸自体が傾き、車体がロールする場合には、車体がx軸回りに回転することで、y軸,z軸自体が傾くことになる。これらの場合も、上下加速度センサ94のセンサ軸線SLも傾き、やはり、同様に、上下方向の加速度に対して、正確な出力が得られないことになる。つまり、上下加速度センサ94の出力値は、センサ軸線SLの車体の軸線に対する傾きの影響をうけるだけてなく、車体のピッチ,ロールによる影響をも受けることになるのである。
【0062】
ちなみに、以下の説明では、図4に示すように、ピッチ量は、x軸線の水平面に対する傾き角であるピッチ角θpとして,ロール量は、y軸線の水平面に対する傾き角であるロール角θrとして、それぞれ規定するものとする。
【0063】
≪上下加速度センサの軸線の傾き量の測定≫
本車両用サスペンションシステム10では、上下加速度センサ94により、上下方向の加速度を正確に検出するため、上下加速度センサ94の傾き量を測定するようなっている。以下に、その方法を説明する。
【0064】
車両が停止状態にある場合、上下加速度センサ94の取り付けられている車体の部位には重力しか作用していないと考えることができる。その場合、上下加速度センサ94の出力値Gs(以下、出力値は加速度換算されたものとして扱う)は、重力加速度gとなるべきである。ところが、上下加速度センサ94のセンサ軸線SLが、車体の3つの軸線に対して、対前後軸線角ρx,対横軸線角ρy,対上下軸線角ρzだけ傾いており、かつ、車体が、ピッチ角θp,ロール角θrとなるように傾斜した姿勢にある場合、出力値Gsと重力加速度gとの関係は、下記式(1)のようになる。
【数1】
一方、対前後軸線角ρx,対横軸線角ρy,対上下軸線角ρzは、三平方の定理から、下記式(2)の関係が成立する。
【数2】
したがって、ピッチ量とロール量との両方において互いに異なる2つの姿勢、つまり、第1姿勢と第2姿勢とのそれぞれについての上記式(1)と、上記式(2)とからなる3つの連立方程式を解けば、対前後軸線角ρx,対横軸線角ρy,対上下軸線角ρzを算出することができるのである。なお、上下加速度センサが上下逆さに取り付けられるような場合はないと考え、対前後軸線角ρx,対横軸線角ρy,対上下軸線角ρzは、それぞれ、0≦ρx、ρy≦π、0≦ρz≦π/2となることを前提として、連立方程式を解けばよい。
【0065】
なお、車体がピッチだけをしている姿勢にある場合には、ロール角θrが0であることから、上記式(1)は、下記式(3)のように、また、車体がロールだけをしている姿勢にある場合には、上記式(1)は、下記式(4)のように、それぞれ、簡素化できる。
【数3】
【数4】
【0066】
このような考えの下、本サスペンションシステム10では、車両が標準状態にある場合の車体姿勢、つまり、傾斜していない姿勢(以下、「水平姿勢」という場合がある)から、まず、図6(a)に示すように、第1姿勢として、車体がピッチだけをしている姿勢とする。この第1姿勢は、水平姿勢から、前輪側の2つのアクチュエータ26に、互いに同じ方向のアクチュエータ力を発生させ、かつ、後輪側の2つのアクチュエータ26に、前輪側のアクチュエータ26とは反対の方向にアクチュエータ力を発生させることによって実現される。ちなみに、図では、前輪側がバウンドし後輪側がリバウンドするようにして、車体をピッチさせている。
【0067】
この第1姿勢を維持した状態で、各上下加速度センサ94の出力値Gs、つまり、第1センサ出力値Gs1を取得する。それとともに、前輪側の2つのストロークセンサ100の出力値の平均から、水平姿勢からの車体前輪側の上下方向の変位量である前輪側変位量Stfrを取得し、また、後輪側の2つのストロークセンサ100の出力値の平均との差から、標準状態からの車体後輪側の上下方向の変位量である後輪側変位量Streを取得する。そして、予め把握されているホイールベースLに基づき、下記式(5)に基づいて算出することにより、車体のピッチ角θpを取得する。
【数5】
【0068】
次いで、第1姿勢から、図6(b)に示すように、第2姿勢として、車体がロールだけをしている姿勢とする。この第2姿勢は、右輪側の2つのアクチュエータ26に、互いに同じ方向にアクチュエータ力を発生させ、かつ、左輪側の2つのアクチュエータ26に、右輪側のアクチュエータ26とは反対の方向にアクチュエータ力を発生させることによって実現される。ちなみに、図では、右輪側がバウンドし左輪側がリバウンドするようにして、車体をロールさせている。
【0069】
この第2姿勢を維持した状態で、各上下加速度センサ94の出力値Gs、つまり、第2センサ出力値Gs2を取得する。それとともに、右輪側の2つのストロークセンサ100の出力値の平均から、標準状態からの車体右輪側の上下方向の変位量である右輪側変位量Striを取得し、また、左輪側の2つのストロークセンサ100の出力値の平均との差から、標準状態からの車体左輪側の上下方向の変位量である左輪側変位量Stleを取得する。そして、予め把握されているトレッドTに基づき、下記式(6)に基づいて算出することにより、車体のロール角θrを取得する。
【数6】
【0070】
上述のようにして取得された第1センサ出力値Gs1とピッチ角θpとに基づき、上記式(3)に従う第1方程式を立て、第2センサ出力値Gs2とロール角θrとに基づき、上記式(4)に従う第2方程式を立て、それら2つの方程式と上記(2)式との連立方程式を解くようにして、各上下加速度センサ94についての対前後軸線角ρx,対横軸線角ρy,対上下軸線角ρzが算出される。このようにして、各上下加速度センサ94のセンサ軸線SLの傾き量が測定されるのである。
【0071】
なお、本システム10では、上述のようにして、各上下加速度センサ94のセンサ軸線SLの傾き量を測定するようにしているが、例えば、車体に、第1姿勢,第2姿勢をそれぞれ複数回ずつとらせ、各回ごとに各上下加速度センサ94の出力値Gsを取得し、それらを平均処理等することによって、各上下加速度センサ94のセンサ軸線SLの傾き量を測定してもよい。また、第1姿勢,第2姿勢とはピッチ量,ロール量において異なる1以上の姿勢をさらにとらせ、それらの姿勢ごとに、各上下加速度センサ94の出力値Gsを取得し、各上下加速度センサ94のセンサ軸線SLの傾き量を測定してもよい。このように、各上下加速度センサ94の出力値Gsの取得回数を増やせば、より精度のよい測定が可能となる。さらに、上記第1姿勢,第2姿勢は、それぞれ、ピッチのみ,ロールのみしている姿勢であるが、ピッチもロールもしているような姿勢であってもよい。
【0072】
本システム10において、上述した上下加速度センサ軸線傾き量の測定は、運転者によるセンサ傾き量側処理開始スイッチ102の操作をトリガとして、コントローラ82が、図7にフローチャートを示すセンサ軸線傾き量測定プログラムを実行することによって行われる。以下に、このプログラムに従う処理を、説明する。
【0073】
まず、S21において、4つのストロークセンサ100の出力値をモニタしつつ、4つのアクチュエータ26のアクチュエータ力を制御して、車体を水平姿勢にする。次いで、S22において、4つのアクチュエータ26に所定のアクチュエータ力を付加することによって、車体を上記第1姿勢とする。第1姿勢が実現された後、S23において、上述のようにしてピッチ角θpが取得され、続く、S24において、各上下加速度センサ94の出力値Gsを、第1センサ出力値Gs1として取得する。次いで、S25において、車体を水平姿勢に戻した後、4つのアクチュエータ26に所定のアクチュエータ力を付加することによって、車体を上記第2姿勢とする。第2姿勢が実現された後、S26において、上述のようにしてロール角θrが取得され、続く、S27において、各上下加速度センサ94の出力値Gsを、第2センサ出力値Gs2として取得する。その後、S28において、取得したピッチ角θp,ロール角θr,第1センサ出力値Gs1,第2センサ出力値Gs2に基づき、上述した算出手法に従って、対前後軸線角ρx,対横軸線角ρy,対上下軸線角ρzが算出される。算出の後、S29において、測定されて得られた対前後軸線角ρx,対横軸線角ρy,対上下軸線角ρzは、コントローラ82のROM,RAM等の記憶領域に記憶される。そして、S30において、各アクチュエータ26のアクチュエータ力が解除され、本プログラムに従う処理が終了する。
【0074】
なお、上記センサ軸線傾き量測定プログラムの実行による処理は、S22,S24における処理が、車体を第1姿勢とし、その姿勢における当該加速度センサの出力値である第1センサ出力値を取得する第1センサ出力値取得工程に相当し、S25,S27における処理が、車体をピッチ量およびロール量において第1姿勢と異なる姿勢である第2姿勢とし、その姿勢における当該加速度センサの出力値である第2センサ出力値を取得する第2センサ出力値取得工程に相当し、S28における処理が、第1センサ出力値および第2センサ出力値と、第1姿勢および第2姿勢の各々におけるロール量およびピッチ量とに基づき、当該加速度センサの軸線の傾き量を算出するセンサ傾き量算出工程に相当するものとなっている。
【0075】
≪傾斜量に基づくばね上上下加速度の検出≫
先に説明したように、アクチュエータ26の制御において、ばね上上下加速度Gz,実横加速度Gyr,実前後加速度Gxが検出され、それらに基づいてアクチュエータ力が決定される。本車両用サスペンションシステム10では、ばね上上下加速度Gzは、上下加速度センサ94の出力値と、上述のようにして測定された上下加速度センサ94の傾き量等に基づいて算出される。この算出の手法については、後述する3つの手法が採用可能である。以下に、それぞれの手法に基づく検出処理ついて説明する。なお、ばね上上下加速度Gz,実横加速度Gyr,実前後加速度Gxの検出は、アクチュエータ制御プログラムのS2において行われるため、そのS2を構成する加速度検出サブルーチンの説明をも合わせて行う。
【0076】
i)センサ軸線の傾き量に基づく上下加速度の検出処理1
本検出処理では、取得されている実横加速度Gyr,実前後加速度Gxを利用してばね上上下加速度Gz(以下、単に、「上下加速度Gz」という場合がある)が算出される。具体的には、各上下加速度センサ94が取り付けられている部位の上下加速度Gzは、各上下加速度センサ94の出力値を、Gsとすれば、下記式(7)に従って算出される。
【数7】
上記式に従う算出手法は、簡単に言えば、上下加速度センサ94のセンサ軸線SLが傾くことによって生じる実前後加速度Gxのセンサ軸線方向成分,実横加速度Gyrのセンサ軸線方向成分を、それぞれ、対前後軸線角ρx,対横軸線角ρyに基づいて認定し、その認定された各センサ軸線方向成分を、上下加速度センサ94の出力値Gsから差し引き、その差し引いた後の値を、対上下軸線角ρzに基づいて補正するというものである。
【0077】
本検出処理は、図8にフローチチャートを示す第1加速度検出サブルーチンが実行されることによって行われる。このサブルーチンに従う処理では、まず、S41において、対前後軸線角ρx,対横軸線角ρy,対上下軸線角ρzが、上述した記憶領域に記憶されている値が読み出されることによって認識される。次いで、S42において、前後加速度センサ98の出力値に基づいて、実前後加速度Gxが取得され、S43において、横加速度センサ92の出力値に基づいて、実横加速度Gyrが取得される。続いて、S44において、上下加速度センサ94の出力値Gsが取得される。そして、S45において、認識された対前後軸線角ρx,対横軸線角ρy,対上下軸線角ρz、取得された実前後加速度Gx,実横加速度Gyr、取得された上下加速度センサ94の出力値Gsに基づいて、上記式に従って、上下加速度センサ94の取り付けられている部位の上下加速度Gzが算出される。このS45の処理を実行して、当該第1加速度検出サブルーチンによる処理が終了する。
【0078】
ii)センサ軸線の傾き量に基づく上下加速度の検出処理2
本検出処理では、取得されている実横加速度Gyr,実前後加速度Gxを利用し、さらに、車体のピッチ角θp,ロール角θrをも利用して、上下加速度Gzが算出される。具体的には、各上下加速度センサ94が取り付けられている部位の上下加速度Gzは、各上下加速度センサ94の出力値を、Gsとすれば、下記式(8)に従って算出される。
【数8】
上記式に従う算出手法は、簡単に言えば、上下加速度センサ94のセンサ軸線SLが傾くことによって生じる実前後加速度Gxのセンサ軸線方向成分,実横加速度Gyrのセンサ軸線方向成分を、それぞれ、対前後軸線角ρx,対横軸線角ρy,対上下軸線角ρz,ピッチ角θp,ロール角θrに基づいて認定し、その認定された各センサ軸線方向成分を、上下加速度センサ94の出力値Gsから差し引き、その差し引いた後の値を、対前後軸線角ρx,対横軸線角ρy,対上下軸線角ρz,ピッチ角θp,ロール角θrに基づいて補正するというものである。式としては、複雑になるが、ピッチ角θp,ロール角θrの影響も加味して算出されるため、上下加速度Gzをより正確に検出することが可能である。
【0079】
なお、ピッチ角θpは、先に説明した前輪側変位量Stfr,後輪側変位量Streに基づき、上記式(5)に従って算出されることにより取得される。また、ロール角θrは、先に説明した右輪側変位量Stri,左輪側変位量Stleに基づき、上記式(6)に従って算出されることにより取得される。
【0080】
本検出処理は、図9にフローチチャートを示す第2加速度検出サブルーチンが実行されることによって行われる。このサブルーチンに従う処理では、まず、S51において、対前後軸線角ρx,対横軸線角ρy,対上下軸線角ρzが、上述した記憶領域に記憶されている値が読み出されることによって認識される。次いで、S52において、前後加速度センサ98の出力値に基づいて、実前後加速度Gxが取得され、S53において、横加速度センサ92の出力値に基づいて、実横加速度Gyrが取得される。さらに、S54において、4つのストロークセンサ100の出力値に基づいて、ピッチ角θpが取得され、S55において、4つのストロークセンサ100の出力値に基づいて、ロール角θrが取得される。続いて、S56において、上下加速度センサ94の出力値Gsが取得される。そして、S57において、認識された対前後軸線角ρx,対横軸線角ρy,対上下軸線角ρz、取得された実前後加速度Gx,実横加速度Gyr,ピッチ角θp,ロール角θr、取得された上下加速度センサ94の出力値Gsに基づいて、上記式に従って、上下加速度センサ94の取り付けられている部位の上下加速度Gzが算出される。このS57の処理を実行して、当該第2加速度検出サブルーチンによる処理が終了する。
【0081】
iii)センサ軸線の傾き量に基づく上下加速度の検出処理3
絶対空間における車両の前後方向軸をX軸,左右方向軸をY軸,上下方向軸をZ軸とし、車両が標準状態にある場合の絶対空間における上下加速度センサ94の取付位置を、u0=(x0、y0、z0)とした場合、車体がピッチ角θp,ロール角θrだけピッチ,ロール動作をしたときには、その上下加速度センサ94の位置は、u=(x、y、z)となると考える。そのuは、変換行列R(θr、θp)を用いて、下記式(9)のように表すことができる。なお、X軸,Y軸,Z軸は、車両が標準状態にある場合において、上述の車体のx軸,y軸,z軸と一致する。また、x0、y0、z0の値は、車両設計に関する諸元であり、既知の値である。
【数9】
また、車体のピッチ,ロール動作時において、上下加速度センサ94が取り付けられている車体の部位に生じている加速度は、上記式(9)を時間に関して2階微分することによって、下記式(10)のようなベクトルの形式で表すことができる。ちなみに、「・・」は、時間に関する2階微分を行ったものを表している。
【数10】
【0082】
上記式(10)に示される加速度のX軸方向,Y軸方向,Z軸方向の成分は、下記式(11),(12),(13)のように表すことができる。ちなみに、「・」は、時間に関する1階微分を行ったものを表している。
【数11】
【数12】
【数13】
なお、ピッチ角θp,ロール角θrは、上述のように、4つのストロークセンサ100の出力値に基づいて取得することができ、また、それらピッチ角θp,ロール角θrは、短い時間間隔をおいて取得されるため、時間に関するそれらの1階微分値つまりピッチ角速度,ロール角速度、2階微分値つまりピッチ角加速度,ロール角加速度も、それらの変動の様子から取得することが可能である。したがって、上記式(11),(12),(13)で示される加速度のX軸方向,Y軸方向,Z軸方向の成分は、算出することが可能である。
【0083】
上記式(10)で示される加速度は、車体のピッチ,ロール動作させようとする力に依存した加速度であり、ピッチ・ロール依存加速度と考えることができる。その一方で、走行中の車両において、車体には、車両の加減速,車両の旋回等に起因して、車体を並進移動させようとする加速度、つまり、並進運動加速度が生じている。したがって、上下加速度センサ94が取り付けられている車体の部位に生じている加速度をGとすれば、その加速度Gは、ベクトルの形式として、下記式(14)のように表すことができる。ちなみに、G0は、並進運動加速度である。
【数14】
【0084】
上記式(14)に示すの加速度Gのうち、上下加速度センサ94の出力値となる成分、つまり、センサ軸線方向成分を、Gsとすれば、センサ軸線方向成分Gsは、センサ軸線SLの傾き量が上述の対前後軸線角ρx,対横軸線角ρy,対上下軸線角ρzとなっている場合、下記式(15)のように表すことができる。
【数15】
ちなみに、GX0、GY0、GZ0は、それぞれ、並進運動加速度G0のX軸方向成分,Y軸方向成分,Z軸方向成分である。
【0085】
ここで、車体には、前後左右の車輪に対応して、4つの上下加速度センサ94が取り付けられている。そこで、それら4つの上下加速度センサ94のうちの3つについて、上記センサ軸線方向成分Gsを式で表せば、各上下加速度センサ94のセンサ軸線方向成分Gsは、下記式(16),(17),(18)のようになる。ちなみに、添え字「1」,「2」,「3」は、3つの上下加速度センサ94の各々のものであることを示している。
【数16】
【数17】
【数18】
【0086】
各上下加速度センサ94のセンサ軸線方向成分Gs1,Gs2,Gs3は、各上下加速度センサ94の各々の出力値であるため、したがって、上記式(16),(17),(18)を連立方程式として解くことにより、並進運動加速度G0のX軸方向成分GX0,Y軸方向成分GY0,Z軸方向成分GZ0を算出することができる。それらのうちのZ軸方向成分GZ0と、上記式(13)に基づいて算出される各上下加速度センサ94についてのピッチ・ロール依存加速度のZ軸方向成分とを加算することにより、下記式(19),(20),(21)のように、各上下加速度センサ94が取り付けられている車体の部位の上下加速度Gz1,Gz2,Gz3が算出される。
【数19】
【数20】
【数21】
【0087】
本システム10では、4つの上下加速度センサ94が設けられており、それら4つのうちの1つ対象センサとし、その対象センサと隣り合う位置にある2つセンサ(対角位置にないセンサ)とによって、対象センサが取り付けられている部位の上下加速度Gzを検出するようにしている。そして対象センサを変更することにより、4つの上下加速度センサ94の各々が取り付けられているすべての部位の上下加速度Gzを検出するようにしている。
【0088】
なお、上述のようにして算出された並進運動加速度G0のX軸方向成分GX0,Y軸方向成分GY0は、それぞれ、上述した実前後加速度Gx,実横加速度Gyrに相当するものであることから、本検出処理によれば、前後加速度センサ98,横加速度センサ92によらずとも、実前後加速度Gx,実横加速度Gyrを検出することが可能なのである。
【0089】
本検出処理は、図10にフローチチャートを示す第3加速度検出サブルーチンが実行されることによって行われる。このサブルーチンに従う処理では、まず、S61において、対象となる上下加速度センサ94および他の2つの上下加速度センサ94についての対前後軸線角ρx,対横軸線角ρy,対上下軸線角ρzが、上述した記憶領域に記憶されている値が読み出されることによって認識される。次いで、S62において、4つのストロークセンサ100の出力値に基づいて、ピッチ角θpが取得され、S63において、4つのストロークセンサ100の出力値に基づいて、ロール角θrが取得される。続くS64において、ピッチ角速度,ロール角速度,ピッチ角加速度,ロール角加速度が、算出されることにより取得される。そして、S65において、検出対象となる上下加速度センサ94および他の2つの上下加速度センサ94の出力値Gsが取得される。続くS66において、認識された対前後軸線角ρx,対横軸線角ρy,対上下軸線角ρz、取得されたピッチ角θp,ロール角θr,ピッチ角速度,ロール角速度,ピッチ角加速度,ロール角加速度、取得された上下加速度センサ94の出力値Gsに基づいて、上記算出手法に従って、対象となる上下加速度センサ94が取り付けられている車体の部位の上下加速度Gz,実前後加速度Gx,実横加速度Gyrが算出され、さらに、θp,S56において、上下加速度センサ94の出力値Gsが取得される。このS66の処理を実行して、当該第3加速度検出サブルーチンによる処理が終了する。
【0090】
≪コントローラの機能構成≫
上述のアクチュエータ制御プログラムが実行されて機能する本サスペンションシステム10のコントローラ82は、その実行処理に依拠すれば、制御ブロック図である図11に示すような機能構成を有するものと考えることができる。その図から解るように、コントローラ82は、S3,S4の処理を実行する機能部、つまり、減衰アクチュエータ力成分FGを決定する機能部として、減衰力決定部150を、S5,S6の処理を実行する機能部、つまり、ロール抑制アクチュエータ力成分FRを決定する機能部として、ロール抑制力決定部152を、S7の処理を実行する機能部、つまり、ピッチ抑制アクチュエータ力成分FPを決定する機能部として、ピッチ抑制力決定部154を、それぞれ有している。そして、S8の処理を実行する機能部、つまり、それら減衰アクチュエータ力成分FG,ロール抑制アクチュエータ力成分FR,ピッチ抑制アクチュエータ力成分FPを合計して目標アクチュエータ力FAを決定する機能部として、目標アクチュエータ力決定部156を有している。
【0091】
また、コントローラ82は、S2の処理を実行する機能部、つまり、各上下加速度センサ94が取り付けられている車体の部位のばね上上下加速度Gz,車体の実横加速度Gyr,車体の実前後加速度Gxを検出する機能部を有している。この機能部は、上下加速度センサ94のセンサ軸線SLの傾き量、つまり、対前後軸線角ρx,対横軸線角ρy,対上下軸線角ρzに基づいて、各上下加速度センサ94が取り付けられている車体の部位のばね上上下加速度Gzを検出する機能部であることから、コントローラ82は、センサ軸線傾き量依拠上下加速度検出部158を有しているのである。さらに、コントローラ82は、上述のセンサ傾き量測定プログラムをも実行することから、そのプログラムに従う処理を実行する機能部として、センサ軸線傾き量測定部160を有しているのである。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】請求可能発明が適用される車両用サスペンションシステムの全体構成を示す模式図である。
【図2】図1の車両用サスペンションシステムが備えるスプリング・アブソーバAssyを示す正面断面図である。
【図3】図1の車両用サスペンションシステムにおいて実行されるアクチュエータ制御プログラムを示すフローチャートである。
【図4】図1の車両用サスペンションシステムに配備されている上下加速度センサの外観およびそれのセンサ軸線の傾きを示す概念図である。
【図5】図4の上下加速度センサの内部構造を示す模式図である。
【図6】図4の上下加速度センサのセンサ軸線の傾きを測定する際の車体の姿勢を示す模式図である。
【図7】図1の車両用サスペンションシステムにおいて図4の上下加速度センサのセンサ軸線の傾きを測定するために実行されるセンサ軸線傾き量測定プログラムを示すフローチャートである。
【図8】図3のアクチュエータ制御プログラムにおいて上下加速度を検出するために実行される第1加速度検出サブルーチンを示すフローチャートである。
【図9】図3のアクチュエータ制御プログラムにおいて上下加速度を検出するために実行される第2加速度検出サブルーチンを示すフローチャートである。
【図10】図3のアクチュエータ制御プログラムにおいて上下加速度を検出するために実行される第3加速度検出サブルーチンを示すフローチャートである。
【図11】図1の車両用サスペンションシステムの制御を司るアクチュエータ電子制御装置の機能を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0093】
10:車両用サスペンションシステム 20:スプリング・アブソーバAssy 26:アクチュエータ 54:電磁モータ 80:アクチュエータ電子制御ユニット(ECU) 82:コントローラ 88:車速センサ 90:操作角センサ 92:横加速度センサ 94:上下加速度センサ 98:前後加速度センサ 100:ストロークセンサ 102:傾き量側処理開始スイッチ 150:減衰力決定部 152:ロール抑制力決定部 154:ピッチ抑制力決定部 156:目標アクチュエータ力決定部 158:センサ軸線傾き量依拠上下加速度検出部 160:センサ軸線傾き量測定部
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体の加速度を検出するための加速度センサの軸線の傾き量を測定する方法、および、軸線の傾いた加速度センサによって車体の上下加速度を検出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年では、電磁式ショックアブソーバが設けられた車両、つまり、電磁式サスペンションシステムを装備した車両が検討されている。検討されている電磁式サスペンションシステムの多くは、4つの車輪に対応して設けられたばね上上下加速度センサ各々の検出値に基づき、各車輪に対応する電磁式ショックアブソーバの各々の作動が制御される。したがって、適切な電磁式ショックアブソーバの制御を行うためには、上下加速度センサの出力値が正確であることが望まれる。そこで、例えば、下記特許文献では、車体に取り付けられた複数の上下加速度センサから出力される出力値のバラツキを考慮して、それら上下加速度センサの出力値の補正を行う技術が記載されている。
【特許文献1】特開2000−283996号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
加速度センサが検出対象とする加速度の方向、つまり、その加速度センサによる検出が予定されている加速度の方向を、そのセンサの「予定検出方向」と定義した場合、その予定検出方向と加速度センサの軸線の方向とが一致していない状態で車体に取り付けられているときには、その加速度センサでは、予定検出方向の加速度を正確に検出することができない。本願発明者は、加速度センサの傾き量が把握できれば、その傾き量に基づいて加速度センサの出力値を補正することで、予定検出方向の加速度を正確に検出できるとの知見を得た。本発明は、その知見に基づくものであり、加速度センサの傾き量を簡便に測定するための方法を提供することを課題とし、また、把握している加速度センサの傾き量に基づいて上下加速度を正確に検出するための方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の加速度センサ軸線傾き量測定方法は、上下加速度センサとして車体に取り付けられて自身の軸線の方向の加速度を検出する加速度センサの軸線の傾き量を測定する方法であって、上記課題を解決するために、(a) 車体を第1姿勢とし、その姿勢における当該加速度センサの出力値である第1センサ出力値を取得する第1センサ出力値取得工程と、(b) 車体を、ピッチ量およびロール量において第1姿勢と異なる姿勢である第2姿勢とし、その姿勢における当該加速度センサの出力値である第2センサ出力値を取得する第2センサ出力値取得工程と、(c) 前記第1センサ出力値および前記第2センサ出力値と、前記第1姿勢および前記第2姿勢の各々におけるロール量およびピッチ量とに基づき、当該加速度センサの軸線の傾き量を算出するセンサ傾き量算出工程とを含むことを特徴とする。
【0005】
また、本発明の第1の上下加速度検出方法は、上下加速度センサとして車体に取り付けられて自身の軸線の方向の加速度を検出する加速度センサによる上下加速度の検出方法であって、上記課題を解決するために、(a) 当該加速度センサの軸線の傾き量を認識する工程と、(b) 車体に生じている前後加速度および横加速度を取得する工程と、(c) 当該加速度センサの出力値と、認識された当該加速度センサの軸線の傾き量と、取得された前後加速度および横加速度とに基づき、当該加速度センサの取り付けられている部位における上下加速度を算出する工程とを含むことを特徴とする。
【0006】
さらに、本発明の第2の上下加速度検出方法は、3以上の部位において車体に取り付けられ、それそれが軸線の方向の加速度を検出する3以上の加速度センサによって、前記3つ以上の部位の各々における上下加速度の検出方法であって、上記課題を解決するために、(a) 当該3以上の加速度センサの各々の軸線の傾き量を認識する工程と、(b) 車体のピッチ量およびロール量を取得する工程と、(c) 当該3以上の加速度センサの各々の出力値と、認識された当該3以上の加速度センサの各々の軸線の傾き量と、取得された車体のピッチ量およびロール量とに基づき、前記3以上の部位のうちの少なくとも1つの部位における上下加速度を算出する工程とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の加速度センサ軸線傾き量測定方法によれば、車体を、ピッチ量,ロール量の各々において互いに異なる2つの姿勢とし、各姿勢において加速度センサの出力値を取得するといった簡単な手段によって、車体に取り付けられた加速度センサの軸線の傾き量を測定することが可能となる。また、本発明の上下加速度検出方法によれば、上下加速度センサの軸線が傾いて車両に取り付けられている場合でも、当該加速度センサの軸線の傾き量を把握すれば、当該加速度センサの取り付けられている部位における上下加速度を適正に検出することが可能となる。
【発明の態様】
【0008】
以下に、本願において特許請求が可能と認識されている発明(以下、「請求可能発明」という場合がある)の態様をいくつか例示し、それらについて説明する。各態様は請求項と同様に、項に区分し、各項に番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。これは、あくまでも請求可能発明の理解を容易にするためであり、それらの発明を構成する構成要素の組み合わせを、以下の各項に記載されたものに限定する趣旨ではない。つまり、請求可能発明は、各項に付随する記載,実施例の記載等を参酌して解釈されるべきであり、その解釈に従う限りにおいて、各項の態様にさらに他の構成要素を付加した態様も、また、各項の態様から何某かの構成要素を削除した態様も、請求可能発明の一態様となり得るのである。なお、下記(1)項ないし(8)項の各々が、請求項1ないし請求項8の各々に相当する。
【0009】
(1)上下加速度センサとして車体に取り付けられて自身の軸線の方向の加速度を検出する加速度センサの軸線の傾き量を測定する方法であって、
車体を第1姿勢とし、その姿勢における当該加速度センサの出力値である第1センサ出力値を取得する第1センサ出力値取得工程と、
車体を、ピッチ量およびロール量において第1姿勢と異なる姿勢である第2姿勢とし、その姿勢における当該加速度センサの出力値である第2センサ出力値を取得する第2センサ出力値取得工程と、
前記第1センサ出力値および前記第2センサ出力値と、前記第1姿勢および前記第2姿勢の各々におけるロール量およびピッチ量とに基づき、当該加速度センサの軸線の傾き量を算出するセンサ傾き量算出工程と
を含む加速度センサ軸線傾き量測定方法。
【0010】
本項の加速度センサ軸線傾き量測定方法によれば、車体を、ピッチ量,ロール量の各々において互いに異なる2つの姿勢とし、各々の姿勢において加速度センサの出力値を取得するといった簡単な手段によって、上下加速度センサとして車体に取り付けられた加速度センサの軸線の傾き量を測定することが可能となる。
【0011】
本項における「加速度センサの軸線(以下、「センサ軸線」という場合がある)とは、当該加速度センサによって実際に検出される加速度の方向に延びる仮想線であり、言い換えれば、当該加速度センサが検出可能な加速度の方向を示す線と考えることができる。例えば、加速度センサが上下加速度センサとして車体に取り付けられる場合には、上下方向の加速度が検出対象となるため、加速度センサは、センサ軸線が予定検出方向としての上下方向を向く姿勢で車体に取り付けられる。
【0012】
本項における「加速度センサの軸線の傾き量」とは、当該加速度センサを車体に取り付けた場合のセンサ軸線のその車体に対する傾き量を意味する。例えば、車両が水平面上に静止している状態(以下、「標準状態」という場合がある)にある場合において、当該加速度センサの予定検出方向に対するセンサ軸線の傾き量と考えることができる。さらに言えば、この「傾き量」は、傾きの方向をも含む概念と考えることもでき、「傾き量」は、傾きの方向をも示す指標を採用することができる。例えば、車両が標準状態にある場合において、車両の前後方向に延びる車体の軸線を「前後軸線」、左右方向つまり車幅方向に延びる車体の軸線を「横軸線」、上下方向に延びる車体の軸線を「上下軸線」と定義した場合において、それら3つの軸線の各々とセンサ軸線とのなす角度(以下、それぞれ、「対前後軸線角」,「対横軸線角」,「対上下軸線角」という場合がある)をもって、加速度センサの軸線の傾き量とすることができる。このような表し方に従えば、例えば、加速度センサが上下加速度センサである場合に、その軸線が上下軸線と一致する方向で車体に取り付けられているときには、この加速度センサの軸線の傾き量は、対前後軸線角および横軸線角が90゜、対上下軸線角が0゜となる。また、そのような3つの角度をもって表すのではなく、例えば、水平面に対する加速度センサの軸線の投影線と前後軸線若しくは横軸線とのなす角度と、上下軸線とのなす角度とによって表すこともできる。つまり、加速度センサの軸線の傾き量は、実質的に傾き量を表すことのできる種々のパラメータにて表すことができるのである。なお、加速度センサの軸線の傾き量は、3次元的に表現しなくてもよく、例えば、前後軸線若しくは横軸線に垂直な平面内における上下軸線に対する角度等、2次元的に表してもよい。
【0013】
本項における「ピッチ量」,「ロール量」は、典型的には、それぞれ、上記前後軸線,横軸線と水平面とのなす角度、つまり、ロール角,ピッチ角として表すことが可能である。ピッチ角は、例えば、前輪側,後輪側の各々の車体車輪間距離(ばね上ばね下間距離)の差と、ホイールベースとに基づいて算出した値を、ロール角は、左輪側,右輪側の各々の車体車輪間距離(ばね上ばね下間距離)の差と、トレッドとに基づいて算出した値を、それぞれ採用することが可能である。なお、ピッチ角,ロール角に限定されるものではなく、他のパラメータ、例えば、前輪側,後輪側の各々の車体車輪間距離の差、左輪側,右輪側の各々の車体車輪間距離の差をもってして、ピッチ量,ロール量とすることもできる。
【0014】
本項における「第1姿勢」,「第2姿勢」は、互いに、ピッチ量およびロール量の異なる2つの姿勢であるが、第1姿勢,第2姿勢との一方が、ピッチとロールとの少なくとも一方をしていない姿勢であってもよい。つまり、ピッチ量とロール量との少なくとも一方が0である場合も含まれるのである。なお、第1姿勢,第2姿勢を実現する手段としては、後述する接近離間力発生装置等の車両に備えられた装置を利用するものであってもよく、また、車両外部から力を付与する装置を利用するものであってもよい。例えば、車両を何らかの台に載置させ、その台を傾けることによって車両ごと傾けるような装置によって車体を傾斜させてもよいのである。
【0015】
センサ軸線の傾き量の算出の手法は、それの具体的な態様が特に限定されるものではない。例えば、前述のように、当該傾き量が対前後軸線角、対横軸線角、および対上下軸線角によって表される場合には、これら3つの角度を変数(未知数)とした3つの方程式を作成すれば、それらを連立方程式として解くことにより、それら3つの角度、すなわち、センサ軸線の傾き量を算出することができる。より具体的には、例えば、車体が走行していない場合には車体に作用する加速度は重力加速度だけであるとみなすことができため、第1姿勢,第2姿勢の各々における上下加速度センサの出力値についての2つの方程式を作成することが可能である。詳しく言えば、それぞれの姿勢におけるピッチ量およびロール量を加味した2つの方程式を作成することが可能である。その2つの方程式と、三平方の定理に基づく方程式、つまり、上記3つの角度の余弦の2乗の和が1であるという方程式とを、連立方程式として解くことにより、その3つの角度、すなわち、加速度センサの傾き量を算出することが可能である。
【0016】
なお、複数の加速度センサが、それぞれ上下加速度センサとして、車体に取り付けられている場合には、それぞれの加速度センサについて、上記手法によって、センサ軸線の傾き量を算出することで、複数の加速度センサのすべてについて、センサ軸線の傾き量を検出することが可能である。
【0017】
(2)前記第1姿勢と前記第2姿勢との一方が、車体がピッチしかつロールしていない姿勢であり、前記第1姿勢と前記第2姿勢との他方が、車体がロールしかつピッチしていない姿勢である(1)項に記載の加速度センサ軸線傾き量測定方法。
【0018】
本項の態様によれば、第1姿勢および第2姿勢において、ピッチ方向とロール方向との一方にしか傾斜していないため、加速度センサの出力値を取得する際の車体の傾斜を、簡便に行うことができる。
【0019】
(3)当該加速度センサが車体に取り付けられた車両が、前後左右4つの車輪に対応して設けられ車輪と車体とを接近・離間させる力を発生させる4つの接近離間力発生装置を有しており、
前記第1センサ出力値取得工程および前記第2センサ出力値取得工程が、前記4つの接近離間力発生装置の作動によって車体を傾斜させて、前記第1センサ出力値および前記第2センサ出力値を取得する工程である(1)項または(2)項に記載の加速度センサ軸線傾き量測定方法。
【0020】
本項の態様によれば、車体を傾斜させる際に、車両に装備されている装置以外の装置を必要としないことから、加速度センサの軸線の傾き量を測定する方法を、実用的なものとすることができる。具体的には、例えば、前輪側の車体車輪間距離と後輪側の車体車輪間距離とが互いに異なる距離となるように4つの接近離間力発生装置を作動させることで、車体をピッチした姿勢とすることができ、また、左輪側の車体車輪間距離と左輪側の車体車輪間距離とが互いに異なる距離となるように4つの接近離間力発生装置を作動させることで、車体をロールした姿勢とすることができる。なお、本項の態様における「接近離間力発生装置」は、それの具体的な構成が特に限定されるものではない。例えば、液圧式の懸架シリンダを主体とするような装置であってもよく、後に説明する電磁式ショックアブソーバ等、電力によって作動するアクチュエータを主体とする装置であってもよい。
【0021】
(4)前記4つの接近離間力発生装置の各々が、電磁モータを有し、その電磁モータの力に依拠して車輪と車体との接近・離間に対する抵抗力を発生させる電磁式ショックアブソーバである(3)項に記載の加速度センサ軸線傾き量測定方法。
【0022】
現在検討されている電磁式ショックアブソーバを備えたサスペンションシステムは、各車輪に対応して車体に取り付けられたばね上上下加速度センサの検出値に基づいて、各電磁式ショックアブソーバが制御されるようになっている。したがって、そのようなサスペンションシステムでは、既に車両に配備されている装置によって、車体に第1姿勢,第2姿勢をとらせることができるため、車両に特別な装置を配備することなく、それら加速度センサの軸線の傾き量を測定することが可能となる。
【0023】
(5)上下加速度センサとして車体に取り付けられて自身の軸線の方向の加速度を検出する加速度センサによる上下加速度の検出方法であって、
当該加速度センサの軸線の傾き量を認識する工程と、
車体に生じている前後加速度および横加速度を取得する工程と、
当該加速度センサの出力値と、認識された当該加速度センサの軸線の傾き量と、取得された前後加速度および横加速度とに基づき、当該加速度センサの取り付けられている部位における上下加速度を算出する工程と
を含む上下加速度検出方法。
【0024】
前述したとおり、上下加速度センサは、それのセンサ軸線と上下軸線とが一致するように車体に取り付けられないと、予定検出方向である上下方向の加速度を正確に検出することができない。また、車両の走行中においては、車両の加減速に起因する前後加速度,車両の旋回に起因する横加速度も生じるため、上下加速度センサの軸線が傾いている場合には、それら前後加速度,横加速度も、上下加速度センサの検出値に影響を与えることになる。本項の態様の上下加速度の検出方法によれば、上下加速度センサの軸線が傾いていたとしても、その傾き量を把握していれば、その傾き量と、前後加速度,上下加速度に基づくことにより、上下加速度を正確に検出することが可能となる。
【0025】
なお、本項にいう「加速度センサの軸線の傾き量を認識する」とは、センサ軸線の傾き量を測定するという狭い概念ではなく、広く解釈するものとする。つまり、既に測定してあるセンサ軸線の傾き量を、上下加速度の算出において利用可能な状態にすること等をも含む概念である。また、本項にいう「前後加速度および横加速度を取得する」とは、例えば、前後加速度センサ,横加速度センサ等を用いて検出すること、前後加速度,横加速度を推定可能なパラメータを検出し、そのパラメータに基づいて前後加速度,横加速度を推定すること等を意味する。
【0026】
本項の態様における上下加速度の算出手法は、それの具体的な態様が特に限定されるものではない。例えば、上下加速度センサが取付けられている車体の部位に上下加速度が、車体に前後加速度,横加速度が、それぞれ生じている場合に、加速度センサが傾いているときには、加速度センサの軸線の延びる方向(以下、「センサ軸線方向」という場合がある)におけるそれら加速度の成分(以下、「センサ軸線方向成分」という場合がある)を合わせたものが、当該加速度センサの検出値となる。そのことに鑑み、上下加速度センサの出力値から、センサ軸線が傾くことによって生じる前後加速度と横加速度のセンサ軸線方向成分を差し引き、その差し引いた後の値をセンサ軸線の傾き量に基づいて補正するという手法を、採用することができる。
【0027】
(6)当該上限加速度検出方法が、さらに、車体のピッチ量およびロール量を取得する工程を含み、
前記上下加速度を算出する工程が、さらに、取得された車体のピッチ量およびロール量に基づき、当該加速度センサの取り付けられている部位における上下加速度を算出するものである(5) 項に記載の上下加速度検出方法。
【0028】
車両の走行中には、車体がピッチしたり、ロールしたりする。車体がピッチ,ロールすれば、上下加速度センサの検出値は、それらピッチ,ロールによる当該加速度センサのセンサ軸線の傾きの影響を受けることになる。本項の態様によれば、さらに車体のピッチ量,ロール量を加味して上下加速度が算出されるため、上下加速度がさらに正確に検出できることになる。
【0029】
本項の態様における上下加速度の算出手法は、それの具体的な態様が特に限定されるものではない。例えば、上下加速度センサの出力値から、センサ軸線の傾き量と車体のピッチ量とに基づいて得られた前後加速度のセンサ軸線方向成分と、センサ軸線の傾き量と車体のロール量とに基づいて得られた横加速度のセンサ軸線方向成分とを差し引き、その差し引いた後の値を、センサ軸線の傾き量,ピッチ量,ロール量に基づいて補正するという手法を、採用することができる。
【0030】
(7)3以上の部位において車体に取り付けられ、それそれが軸線の方向の加速度を検出する3以上の加速度センサによって、前記3つ以上の部位の各々における上下加速度の検出方法であって、
当該3以上の加速度センサの各々の軸線の傾き量を認識する工程と、
車体のピッチ量およびロール量を取得する工程と、
当該3以上の加速度センサの各々の出力値と、認識された当該3以上の加速度センサの各々の軸線の傾き量と、取得された車体のピッチ量およびロール量とに基づき、前記3つ以上の部位のうちの少なくとも1つの部位における上下加速度を算出する工程と
を含む上下加速度検出方法。
【0031】
本項の態様は、車体の3以上の部位の各々に上下加速度センサが取り付けられている場合において、その3以上の部位のうちのいずれかの部位における上下加速度を検出する方法である。各加速度センサが傾いていたとしても、その傾き量が把握されていれば、その傾き量と車体のピッチ量,ロール量とに基づき、いずれかのセンサが取り付けてられている車体の部位の上下加速度を、正確に検出することができる。本項の態様において上下加速度を算出する手法は、それの具体的な態様が特に限定されるものではないが、例えば、以下のような手法を採用することができる。
【0032】
車体には、それを並進移動させようとする加速度(以下、「並進運動加速度」という場合がある)が生じる。この並進運動加速度の前後方向,左右方向,上下方向の各成分は、車体の部位の位置によらず、どこの位置においても同じ大きさとなる。一方、車体の各部位には、ピッチ,ロールする場合には、そのピッチ,ロールさせようとする力に依存した加速度(以下、「ピッチ・ロール依存加速度」という場合がある)が生じる。この加速度の前後方向,左右方向,上下方向の各成分は、車体の部位の位置に依存した大きさとなる。つまり、上下加速度センサが取り付けられている部位には、それら並進運動加速度とピッチ・ロール依存加速度とが生じており、それらの各々の上下方向成分を合計したものが、その加速度センサによって検出されるべき上下加速度と考えることができる。
【0033】
上記のような考えの下、まず、取得されたピッチ量,ロール量、詳しくは、それらピッチ量,ロール量の変化に基づいてピッチ・ロール依存加速度の前後方向,左右方向,上下方向の各成分を、3つ以上の上下加速度センサの各々が取り付けられている部位ごとに算出する。次いで、並進運動加速度の前後方向成分,左右方向成分,上下方向成分の各々を変数(未知数)として設定し、それら並進運動加速度の各成分および算出されたピッチ・ロール依存加速度の各成分のセンサ軸線方向成分、つまり、それら各成分から傾き量,車体のピッチ量,ロール量に基づいて導出されるセンサ軸線方向成分を合計したものが、上下加速度センサの出力値に等しいという方程式を、3つ以上の上下加速度センサの各々についてたてる。そして、その3つ以上の方程式を連立方程式として解くことによって、未知数の1つである並進運動加速度の上下方向成分を求め、求められた並進運動加速度の上下方向成分と、各部位ごとに先に算出されているピッチ・ロール依存加速度の上下方向成分を足し合わせることで、各部位のうちの1以上の部位において検出されるべき上下加速度を算出する。このような手法によって、正確に、上下加速度を算出することができるのである。
【0034】
なお、本項にいう「加速度センサの軸線の傾き量を認識する」とは、先の態様と同様、センサ軸線の傾き量を測定するという狭い概念ではなく、広く解釈するものとする。つまり、既に測定してあるセンサ軸線の傾き量を、上下加速度の算出において利用可能な状態にすること等をも含む概念である。また、本項にいう「車体のピッチ量およびロール量を取得する」とは、例えば、車体傾斜計等を用いてピッチ量,ロール量を検出すること、各車輪についての車体車輪間距離等、ピッチ量,ロール量を推定可能なパラメータを検出し、そのパラメータに基づいてピッチ量,ロール量を推定すること等を意味する。
【0035】
(8)前記上下加速度を算出する工程が、
当該3以上の加速度センサの各々の出力値と、認識された当該3以上の加速度センサの各々の軸線の傾き量と、取得された車体のピッチ量およびロール量とに基づき、前記3つ以上の部位のうちの少なくとも1つの部位における上下加速度とともに、車体の前後加速度と横加速度との少なくとも一方をも算出する工程である(7)項に記載の上下加速度の検出方法。
【0036】
本項の態様は、上下加速度センサの軸線が傾いていることを利用して、車体の前後加速度,横加速度をも検出する態様である。各上下加速度センサの軸線の傾き量を把握することによって、本項の態様によれば、前後加速度センサ,横加速度センサを備えていない車両においても、車体の前後加速度,横加速度を検出することが可能である。
【0037】
本項の態様において、前後加速度,横加速度を算出する手法は、それの具体的な態様が特に限定されるものではない。例えば、先に説明した上下加速度の具体的算出手法、つまり、並進運動加速度,ピッチ・ロール依拠加速度に基づく算出手法を採用する場合には、未知数として設定されている前述の並進運動加速度の前後方向成分,左右方向成分が、それぞれ、車体の前後加速度,横加速度に相当するため、前述の3つ以上の連立方程式を解くことによって、前後加速度,横加速度を算出することができる。
【実施例】
【0038】
以下、請求可能発明が特定の車両用サスペンションシステムに適用された場合の例を、請求可能発明の実施例として、図を参照しつつ詳しく説明する。なお、請求可能発明は、下記実施例の他、前記〔発明の態様〕に記載された態様を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した種々の態様で実施することができる。
【0039】
≪車両用サスペンションシステムの構成≫
図1に、請求可能発明が適用される車両用サスペンションシステム10を模式的に示す。本サスペンションシステム10は、前後左右の車輪12の各々に対応して、独立懸架式の4つのサスペンション装置を備えており、それらサスペンション装置の各々は、サスペンションスプリングとショックアブソーバとが一体化されたスプリング・アブソーバAssy20を有している。車輪12,スプリング・アブソーバAssy20は総称であり、4つの車輪のいずれに対応するものであるかを明確にする必要のある場合には、図に示すように、車輪位置を示す添え字として、左前輪,右前輪,左後輪,右後輪の各々に対応するものにFL,FR,RL,RRを付す場合がある。
【0040】
スプリング・アブソーバAssy20は、図2に示すように、車輪12を保持する車輪保持部材としてのサスペンションロアアーム22と車体に設けられたマウント部24との間に、それらを連結するようにして配設されており、電磁式ショックアブソーバとして機能する電磁式のアクチュエータ26と、それと並列的に設けられたサスペンションスプリングとしてのコイルスプリング28とを備えている。アクチュエータ26は、後に詳しく説明するが、自身が発生する力によって車輪12と車体とを接近・離間させることができるため、接近離間力発生装置としても機能する。
【0041】
アクチュエータ26は、アウターチューブ30と、そのアウターチューブ30に嵌入してアウターチューブ30の上端部から上方に突出するインナチューブ32とを含んで構成されている。アウターチューブ30は、それの下端部に設けられた取付部材34を介してロアアーム22に連結され、一方、インナチューブ32は、それの上端部に形成されたフランジ部36においてマウント部24に連結されている。アウターチューブ30には、その内壁面にアクチュエータ26の軸線の延びる方向(以下、「アクチュエータ軸線方向」という場合がある)に延びるようにして1対のガイド溝38が設けられるとともに、それらのガイド溝38の各々には、インナチューブ32の下端部に付設された1対のキー40の各々が嵌まるようにされており、それらガイド溝38およびキー40によって、アウターチューブ30とインナチューブ32とが、相対回転不能、軸線方向に相対移動可能とされている。
【0042】
また、アクチュエータ26は、ねじ溝が形成されたねじロッド50と、ベアリングボールを保持してそのねじロッド50と螺合するナット52とを含んで構成されたボールねじ機構と、電磁モータ54(3相のDCブラシレスモータであり、以下、単に「モータ54」という場合がある)とを備えている。モータ54はモータケース56に固定して収容されるとともに、そのモータケース56の鍔部がマウント部24の上面側に固定されており、モータケース56の鍔部にインナチューブ32のフランジ部36が固定されていることで、インナーチューブ32は、モータケース56を介してマウント部24に連結されている。モータ54の回転軸であるモータ軸58は、ねじロッド50の上端部と一体的に接続されている。つまり、ねじロッド50は、モータ軸58を延長する状態でインナチューブ32内に配設され、モータ54によって回転させられる。一方、ナット52は、ねじロッド50と螺合させられた状態で、アウタチューブ30の内底部に付設されたナット支持筒60の上端部に、固定支持されている。なお、アウターチューブ30には、その外周部に環状の下部リテーナ62が設けられており、コイルスプリング28は、この下部リテーナ62と、マウント部24の下面側に付設された防振ゴム64を介して設けられた環状の上部リテーナ66とによって挟まれる状態で、配設されている。
【0043】
車体と車輪12とが接近・離間する場合、アウターチューブ30とインナチューブ32とは、アクチュエータ軸線方向に相対運動する。その相対運動に伴って、ねじロッド50とナット52とが軸線方向に相対運動するとともに、ねじロッド50がナット52に対して回転する。モータ54は、ねじロッド50に回転トルクを付与可能とされ、この回転トルクによって、車体と車輪12との接近・離間に対して、その接近・離間を阻止する方向の抵抗力を発生させることが可能とされている。この抵抗力が、車輪12および車体のそれらの接近・離間方向における振動を減衰する減衰力となることで、アクチュエータ26は、ショックアブソーバとして機能する。すなわち、アクチュエータ26は、自身の発生させる力であるアクチュエータ力を、減衰力として作用させることが可能とされているのである。また、アクチュエータ26は、アクチュエータ力によって、車体と車輪12とを接近・離間させる機能をも有している。この機能により、車両旋回時の車体のロール、車両加減速時の車体のピッチ等による車体の姿勢変化を効果的に抑制することが可能とされている。つまり、アクチュエータ力を車体の姿勢を制御する力である姿勢制御力として発揮させることも可能とされているのである。
【0044】
図1に示すように、本サスペンションシステム10には、アクチュエータ26の作動、つまり、アクチュエータ力を制御する制御装置として、アクチュエータ電子制御ユニット(ECU)80が設けられている。このECU80は、CPU,ROM,RAM等を備えたコンピュータを主体として構成されているコントローラ82(図1では、「CONT」と表されている)と、各アクチュエータ26が有するモータ54の駆動回路である4つのインバータ84(図1では、「INV」と表されている)とを有している。各モータ54は、対応するインバータ84を介して、電源としてのバッテリ86(図1では、「BAT」と表されている)に接続されている。また、コントローラ82は、各インバータ84に接続されており、各インバータ84がコントローラ82の指令に従ってモータ54の通電電流を制御することとで、各アクチュエータ26は、モータ54の通電電流に応じた大きさのアクチュエータ力を発生させる。
【0045】
コントローラ82には、車両走行速度(以下、「車速」と略す場合がある)を検出するための車速センサ88,ステアリングホイールの操作角を検出するための操作角センサ90,車体に実際に発生する横加速度である実横加速度を検出するための横加速度センサ92,各車輪12に対応する車体の各マウント部24の上下加速度(ばね上部上下加速度)を検出するための4つの上下加速度センサ94,車体に実際に発生する前後加速度である実前後加速度を検出するための前後加速度センサ98,各スプリング・アブソーバAssy20において車輪と車体との離間距離を計測するための4つのストロークセンサ100も接続されている。(図1では、それぞれ、「v」,「δ」,「Gy」,「Gz」,「Gx」,「St」と表されている)。さらに、車室内には、運転者によって操作されるセンサ傾き量側処理開始スイッチ102(図1では、「Sw」と表されている)が設けられており、このスイッチ102もコントローラ82に接続されている。なお、コントローラ82のコンピュータが備えるROMには、後に説明するところのアクチュエータ制御プログラム,上下加速度センサ軸線傾き量測定プログラム,各種のデータ等が記憶されている。
【0046】
≪サスペンションシステムの制御≫
本サスペンションシステム10では、4つのアクチュエータ26をそれぞれ独立して制御することが可能となっている。つまり、アクチュエータ力が、それぞれ、独立して制御されて、車輪および車体の振動を減衰する制御(以下、「振動減衰制御」という場合がある),車体のロールを抑制する制御(以下「ロール抑制制御」という場合がある),車体のピッチを抑制する制御(以下、「ピッチ抑制制御」という場合がある)が実行される。上記振動減衰制御,ロール抑制制御,ピッチ抑制制御は、アクチュエータ力を、それぞれ、減衰力,ロール抑制力,ピッチ抑制力として作用させることによって実行される。詳しく言えば、振動減衰制御,ロール抑制制御,ピッチ抑制制御の各制御ごとのアクチュエータ力である減衰アクチュエータ力成分,ロール抑制アクチュエータ力成分,ピッチ抑制アクチュエータ力成分を合計した目標アクチュエータ力を決定し、アクチュエータ26が、その目標アクチュエータ力を発揮するように制御されることで、通常、一元的に実行される。以下に、振動減衰制御,ロール抑制制御,ピッチ抑制制御の各々を、それら各々におけるアクチュエータ力成分の決定方法を中心に詳しく説明するとともに、アクチュエータ力を制御するためのモータ54の作動制御を詳しく説明する。
【0047】
i)振動減衰制御
振動減衰制御では、車輪および車体の振動を減衰するために車輪および車体の振動の速度に応じた大きさのアクチュエータ力を発揮させるべく、減衰アクチュエータ力成分FGが決定される。車体のマウント部24の上下方向の動作速度、いわゆる、ばね上速度(ばね上絶対速度)VUに基づいて、次式に従って、減衰アクチュエータ力成分FGが演算される。
FG=CU・VU
ここで、CUは、車体のマウント部24の上下方向の動作速度に応じた減衰力を発揮させるためのゲイン、つまり、いわゆる減衰係数である。上記式から解るように、本振動減衰制御は、スカイフックダンパ理論に基づく制御を行うようにされているのである。なお、上記ばね上速度VUは、上下加速度センサ94の出力値に基づいて検出されたばね上上下加速度Gzに基づき、算出される。このばね上上下加速度Gzの検出については、後述する。
【0048】
ii)ロール抑制制御
ロール抑制制御では、車両の旋回時において、その旋回に起因するロールモーメントに応じて、旋回内輪側のアクチュエータ26にバウンド方向のアクチュエータ力を、旋回外輪側のアクチュエータ26にリバウンド方向のアクチュエータ力を、それぞれ、ロール抑制力として発揮させる。具体的に言えば、まず、車体が受けるロールモーメントを指標する横加速度として、ステアリングホイールの操舵角δと車両走行速度vとに基づいて推定された推定横加速度Gycと、実際に生じている車体の横加速度である実横加速度Gyrとに基づいて、制御に利用される横加速度である制御横加速度Gy*が、次式に従って決定され、
Gy*=KA・Gyc+KB・Gyr (KA,KBはゲイン)
そのように決定された制御横加速度Gy*に基づいて、ロール抑制アクチュエータ力成分FRが決定される。コントローラ82内には制御横加速度Gy*をパラメータとするロール抑制アクチュエータ力成分FRのマップデータが格納されており、そのマップデータを参照して、ロール抑制アクチュエータ力成分FRが決定される。なお、上記実横加速度Gyrは、横加速度センサ92の出力値に基づいて検出されるものであってもよく、後に説明するように、上下加速度センサ94の出力値、当該センサのセンサ軸線の傾き量、取得されたピッチ量およびロール量に基づいて算出されることによって検出されるものであってもよい。
【0049】
iii)ピッチ抑制制御
ピッチ抑制制御では、車体の制動時等に発生する車体のノーズダイブに対しては、そのノーズダイブを生じさせるピッチモーメントに応じて、前輪側のアクチュエータ26FL,FRにリバウンド方向のアクチュエータ力を、後輪側のアクチュエータ26RL,RRにバウンド方向のアクチュエータ力をそれぞれピッチ抑制力として発揮させることで、そのノーズダイブが抑制され、車体の加速時等に発生する車体のスクワットに対しては、そのスクワットを生じさせるピッチモーメントに応じて、後輪側のアクチュエータ26RL,RRにリバウンド方向のアクチュエータ力を、前輪側のアクチュエータ26FL,FRにバウンド方向のアクチュエータ力をピッチ抑制力として発揮させることで、そのスクワットが抑制される。具体的には、車体が受けるピッチモーメントを指標する前後加速度として、実際に生じている車体の前後加速度である実前後加速度Gxが採用され、その実前後加速度Gxに基づいて、ピッチ抑制アクチュエータ力成分FPが、次式に従って決定される。
FP=KC・Gx (KCはゲイン)
なお、上記実前後加速度Gxは、前後加速度センサ98の出力値に基づいて検出されるものであってもよく、後に説明するように、上下加速度センサ94の出力値、当該センサのセンサ軸線の傾き量、取得されたピッチ量およびロール量に基づいて算出されることによって検出されるものであってもよい。
【0050】
iv)アクチュエータ力とモータの作動制御
上述のように減衰アクチュエータ力成分FG,ロール抑制アクチュエータ力成分FR,ピッチ抑制アクチュエータ力成分FPが決定されると、次式に従って目標アクチュエータ力FAが決定され、
FA=FG+FR+FP
決定された目標アクチュエータ力FAを発揮するようにアクチュエータ26が制御される。目標アクチュエータ力FAを発揮させるためのモータ54の作動制御は、インバータ84によって行われる。詳しく言えば、決定された目標アクチュエータ力FAを発生させるためのモータ54の通電電流についての指令が、インバータ84に発令される。
【0051】
v)アクチュエータ制御プログラム
上述のようなアクチュエータ26の制御は、図3にフローチャートを示すアクチュエータ制御プログラムが、イグニッションスイッチがON状態とされている間、短い時間間隔(例えば、数msec)をおいてコントローラ82により繰り返し実行されることによって行われる。以下に、その制御のフローを、図に示すフローチャートを参照しつつ、簡単に説明する。
【0052】
アクチュエータ制御プログラムは、4つの車輪12にそれぞれ設けられたスプリング・アブソーバAssy20のアクチュエータ26それぞれに対して実行される。以降の説明においては、説明の簡略化に配慮して、1つのアクチュエータ26に対しての本プログラムによる処理について説明するが、いずれのアクチュエータに対する処理であるかを明確にする必要のある場合には、車輪位置を示す添え字を付して説明する場合がある。
【0053】
本プログラムに従う処理では、まず、ステップ1(以下、単に「S1」と略す。他のステップについても同様とする)において、ステアリングホイールの操舵角δと車両走行速度vとに基づいて上述した推定横加速度Gycが推定される。次いで、S2において、上述したばね上上下加速度Gz,実横加速度Gyr,実前後加速度Gxが検出される。それらの加速度の検出は、加速度検出サブルーチンが実行されることによって行われる。各加速度の検出に関する手法,具体的なプロセスについては、後に詳しく説明する。
【0054】
次に、上述した振動減衰制御を実行するため、S3において、S2で検出されたばね上上下加速度Gzに基づいて、ばね上速度VUが算出され、S4において、そのばね上速度VUに基づいて上記減衰アクチュエータ力成分FGが決定される。続いて、ロール抑制制御を実行するため、S5において、S1で推定された推定横加速度Gycと、S2で検出された実横加速度Gyrとに基づいて、上記制御横加速度Gy*が算出され、S6において、その算出された制御横加速度Gy*に基づいて、上記ロール抑制アクチュエータ力成分FRが決定される。さらに、ピッチ抑制制御を実行するため、S7において、S2で検出された実前後加速度Gxに基づいて、上記ピッチ抑制アクチュエータ力成分FPが決定される。
【0055】
続いて、S8において、S4で決定された減衰アクチュエータ力成分FG,S6で決定されたロール抑制アクチュエータ力成分FR,S7で決定されたピッチ抑制アクチュエータ力成分FPが合計されて、上記目標アクチュエータ力FAが決定される。目標アクチュエータ力FAが決定された後に、S9において、決定された目標アクチュエータ力FAに対応する制御信号が、インバータ84に送られ、インバータ84によりモータ54が制御される。それらの処理により、アクチュエータ26は、決定された目標アクチュエータ力FAを発生するように作動制御される。
【0056】
≪上下加速度センサの構造と軸線の傾きによる影響≫
本システムで使用されている上下加速度センサ94は、図4に示すような外観をなしており、前後左右4つの車輪に対応して、車体に4つ取り付けられている。上下加速度センサ94の内部構造は、図5に模式的に示すようになっている。具体的には、上下加速度センサ94は、下端が開口する箱状の上部ケース110と、上端が開口する箱状の下部ケース112とが合わさったケース体114を有し、ケース体114は、上部ケース110と下部ケース112とが、図における上下方向に相対移動可能とされていることで、伸縮可能とされている。下部ケース112の内部には、それの底部に錘116が固着されており、また、上部ケース110には、それの天井部に、1対の電極118とそれらに挟まれた圧電素子120とからなる圧電素子ユニット122が、固着されている。ケース体114の内部には、1対の引張コイルスプリング124が、ケース体114を上下方向に収縮させる方向に弾性力を発揮する状態で配設されており、それらスプリング124の弾性力によって、錘116は圧電素子ユニット122に押し付けられている。なお、この上下加速度センサ94は、上部ケース110に設けられた1対のブラケット126において、車体に取り付けられる。
【0057】
このような構造から、上下加速度センサ94は、当該上下加速度センサ94に上下方向の加速度が生じている場合に、その加速度の大きさに応じて、錘116が圧電素子ユニット122を押し付ける力が変化し、その変化によって、圧電素子120の変形が変化し、その変化に応じた電圧が1対の電極118の間に生じることになる。この電圧が、すなわち、当該上下加速度センサ94の出力値であり、その電圧に基づいて、上下加速度を検出することができるのである。ちなみに、車両が静止しているときには、上下加速度センサは、重力加速度に応じた出力値を出力することになり、この重力加速度を除いた加速度が、車体の運動に依拠して生じる上下加速度となる。
【0058】
図5に示す1点鎖線は、上下加速度センサ94の軸線、つまり、センサ軸線SLであり、図の上下方向に延びている。このセンサ軸線SLの延びる方向がセンサ軸線方向であり、上下加速度センサ94は、この方向の加速度を出力値として出力するようになっている。ところが、上下加速度センサ94は、必ずしも車体に対して正確な向きにに取り付けらるとは限らず、不可避的に、取り付け誤差が発生することも考えられる。
【0059】
例えば、図4に示すように、上下加速度センサ94が傾いて取り付けられているとする。図に示すベクトルは、センサ軸線の延びる方向を示すセンサ軸線方向ベクトルSである。ここで、上下加速度センサ94の傾き量を規定するために、図に示すところの互いに直交する3つの軸、x軸,y軸,z軸を定義する。ちなみに、それらの軸の軸線は、車両が水平な面上に静止している標準状態において、それぞれ、車両の前後方向,左右方向,上下方向に延びる軸線であり、それぞれ、車体の前後軸線,横軸線,上下軸線と呼ばれるものである。以下の説明では、上下加速度センサ94の傾き量は、上記x軸,y軸,z軸を基準に考え、それぞれの軸線に対してセンサ方向ベクトルSがなす角度、つまり、対前後軸線角ρx,対横軸線角ρy,対上下軸線角ρzと規定することとする。
【0060】
上下加速度センサ94は、上下方向の加速度を検出することを目的とするセンサであり、言い換えれば、予定検出方向を上下方向とするセンサである。ところが、図4に示すようにセンサ軸線SLが傾いている場合には、上下加速度センサ94は、上下方向の加速度を正確に出力しないことになる。詳しく言えば、ある大きさの加速度が上下方向に生じている場合でも、センサ軸線方向に沿った成分、つまり、センサ軸線方向成分に応じた出力値しか出力されないことになる。また、前後方向,左右方向に加速度が生じている場合には、それらの加速度のセンサ軸線方向成分に応じた大きさの出力がされることになる。このような場合、上下加速度センサ94の出力値に基づく上記振動減衰制御は、適切に行われないことになる。
【0061】
なお、車体がピッチする場合には、車体がy軸回りに回転することで、x軸,z軸自体が傾き、車体がロールする場合には、車体がx軸回りに回転することで、y軸,z軸自体が傾くことになる。これらの場合も、上下加速度センサ94のセンサ軸線SLも傾き、やはり、同様に、上下方向の加速度に対して、正確な出力が得られないことになる。つまり、上下加速度センサ94の出力値は、センサ軸線SLの車体の軸線に対する傾きの影響をうけるだけてなく、車体のピッチ,ロールによる影響をも受けることになるのである。
【0062】
ちなみに、以下の説明では、図4に示すように、ピッチ量は、x軸線の水平面に対する傾き角であるピッチ角θpとして,ロール量は、y軸線の水平面に対する傾き角であるロール角θrとして、それぞれ規定するものとする。
【0063】
≪上下加速度センサの軸線の傾き量の測定≫
本車両用サスペンションシステム10では、上下加速度センサ94により、上下方向の加速度を正確に検出するため、上下加速度センサ94の傾き量を測定するようなっている。以下に、その方法を説明する。
【0064】
車両が停止状態にある場合、上下加速度センサ94の取り付けられている車体の部位には重力しか作用していないと考えることができる。その場合、上下加速度センサ94の出力値Gs(以下、出力値は加速度換算されたものとして扱う)は、重力加速度gとなるべきである。ところが、上下加速度センサ94のセンサ軸線SLが、車体の3つの軸線に対して、対前後軸線角ρx,対横軸線角ρy,対上下軸線角ρzだけ傾いており、かつ、車体が、ピッチ角θp,ロール角θrとなるように傾斜した姿勢にある場合、出力値Gsと重力加速度gとの関係は、下記式(1)のようになる。
【数1】
一方、対前後軸線角ρx,対横軸線角ρy,対上下軸線角ρzは、三平方の定理から、下記式(2)の関係が成立する。
【数2】
したがって、ピッチ量とロール量との両方において互いに異なる2つの姿勢、つまり、第1姿勢と第2姿勢とのそれぞれについての上記式(1)と、上記式(2)とからなる3つの連立方程式を解けば、対前後軸線角ρx,対横軸線角ρy,対上下軸線角ρzを算出することができるのである。なお、上下加速度センサが上下逆さに取り付けられるような場合はないと考え、対前後軸線角ρx,対横軸線角ρy,対上下軸線角ρzは、それぞれ、0≦ρx、ρy≦π、0≦ρz≦π/2となることを前提として、連立方程式を解けばよい。
【0065】
なお、車体がピッチだけをしている姿勢にある場合には、ロール角θrが0であることから、上記式(1)は、下記式(3)のように、また、車体がロールだけをしている姿勢にある場合には、上記式(1)は、下記式(4)のように、それぞれ、簡素化できる。
【数3】
【数4】
【0066】
このような考えの下、本サスペンションシステム10では、車両が標準状態にある場合の車体姿勢、つまり、傾斜していない姿勢(以下、「水平姿勢」という場合がある)から、まず、図6(a)に示すように、第1姿勢として、車体がピッチだけをしている姿勢とする。この第1姿勢は、水平姿勢から、前輪側の2つのアクチュエータ26に、互いに同じ方向のアクチュエータ力を発生させ、かつ、後輪側の2つのアクチュエータ26に、前輪側のアクチュエータ26とは反対の方向にアクチュエータ力を発生させることによって実現される。ちなみに、図では、前輪側がバウンドし後輪側がリバウンドするようにして、車体をピッチさせている。
【0067】
この第1姿勢を維持した状態で、各上下加速度センサ94の出力値Gs、つまり、第1センサ出力値Gs1を取得する。それとともに、前輪側の2つのストロークセンサ100の出力値の平均から、水平姿勢からの車体前輪側の上下方向の変位量である前輪側変位量Stfrを取得し、また、後輪側の2つのストロークセンサ100の出力値の平均との差から、標準状態からの車体後輪側の上下方向の変位量である後輪側変位量Streを取得する。そして、予め把握されているホイールベースLに基づき、下記式(5)に基づいて算出することにより、車体のピッチ角θpを取得する。
【数5】
【0068】
次いで、第1姿勢から、図6(b)に示すように、第2姿勢として、車体がロールだけをしている姿勢とする。この第2姿勢は、右輪側の2つのアクチュエータ26に、互いに同じ方向にアクチュエータ力を発生させ、かつ、左輪側の2つのアクチュエータ26に、右輪側のアクチュエータ26とは反対の方向にアクチュエータ力を発生させることによって実現される。ちなみに、図では、右輪側がバウンドし左輪側がリバウンドするようにして、車体をロールさせている。
【0069】
この第2姿勢を維持した状態で、各上下加速度センサ94の出力値Gs、つまり、第2センサ出力値Gs2を取得する。それとともに、右輪側の2つのストロークセンサ100の出力値の平均から、標準状態からの車体右輪側の上下方向の変位量である右輪側変位量Striを取得し、また、左輪側の2つのストロークセンサ100の出力値の平均との差から、標準状態からの車体左輪側の上下方向の変位量である左輪側変位量Stleを取得する。そして、予め把握されているトレッドTに基づき、下記式(6)に基づいて算出することにより、車体のロール角θrを取得する。
【数6】
【0070】
上述のようにして取得された第1センサ出力値Gs1とピッチ角θpとに基づき、上記式(3)に従う第1方程式を立て、第2センサ出力値Gs2とロール角θrとに基づき、上記式(4)に従う第2方程式を立て、それら2つの方程式と上記(2)式との連立方程式を解くようにして、各上下加速度センサ94についての対前後軸線角ρx,対横軸線角ρy,対上下軸線角ρzが算出される。このようにして、各上下加速度センサ94のセンサ軸線SLの傾き量が測定されるのである。
【0071】
なお、本システム10では、上述のようにして、各上下加速度センサ94のセンサ軸線SLの傾き量を測定するようにしているが、例えば、車体に、第1姿勢,第2姿勢をそれぞれ複数回ずつとらせ、各回ごとに各上下加速度センサ94の出力値Gsを取得し、それらを平均処理等することによって、各上下加速度センサ94のセンサ軸線SLの傾き量を測定してもよい。また、第1姿勢,第2姿勢とはピッチ量,ロール量において異なる1以上の姿勢をさらにとらせ、それらの姿勢ごとに、各上下加速度センサ94の出力値Gsを取得し、各上下加速度センサ94のセンサ軸線SLの傾き量を測定してもよい。このように、各上下加速度センサ94の出力値Gsの取得回数を増やせば、より精度のよい測定が可能となる。さらに、上記第1姿勢,第2姿勢は、それぞれ、ピッチのみ,ロールのみしている姿勢であるが、ピッチもロールもしているような姿勢であってもよい。
【0072】
本システム10において、上述した上下加速度センサ軸線傾き量の測定は、運転者によるセンサ傾き量側処理開始スイッチ102の操作をトリガとして、コントローラ82が、図7にフローチャートを示すセンサ軸線傾き量測定プログラムを実行することによって行われる。以下に、このプログラムに従う処理を、説明する。
【0073】
まず、S21において、4つのストロークセンサ100の出力値をモニタしつつ、4つのアクチュエータ26のアクチュエータ力を制御して、車体を水平姿勢にする。次いで、S22において、4つのアクチュエータ26に所定のアクチュエータ力を付加することによって、車体を上記第1姿勢とする。第1姿勢が実現された後、S23において、上述のようにしてピッチ角θpが取得され、続く、S24において、各上下加速度センサ94の出力値Gsを、第1センサ出力値Gs1として取得する。次いで、S25において、車体を水平姿勢に戻した後、4つのアクチュエータ26に所定のアクチュエータ力を付加することによって、車体を上記第2姿勢とする。第2姿勢が実現された後、S26において、上述のようにしてロール角θrが取得され、続く、S27において、各上下加速度センサ94の出力値Gsを、第2センサ出力値Gs2として取得する。その後、S28において、取得したピッチ角θp,ロール角θr,第1センサ出力値Gs1,第2センサ出力値Gs2に基づき、上述した算出手法に従って、対前後軸線角ρx,対横軸線角ρy,対上下軸線角ρzが算出される。算出の後、S29において、測定されて得られた対前後軸線角ρx,対横軸線角ρy,対上下軸線角ρzは、コントローラ82のROM,RAM等の記憶領域に記憶される。そして、S30において、各アクチュエータ26のアクチュエータ力が解除され、本プログラムに従う処理が終了する。
【0074】
なお、上記センサ軸線傾き量測定プログラムの実行による処理は、S22,S24における処理が、車体を第1姿勢とし、その姿勢における当該加速度センサの出力値である第1センサ出力値を取得する第1センサ出力値取得工程に相当し、S25,S27における処理が、車体をピッチ量およびロール量において第1姿勢と異なる姿勢である第2姿勢とし、その姿勢における当該加速度センサの出力値である第2センサ出力値を取得する第2センサ出力値取得工程に相当し、S28における処理が、第1センサ出力値および第2センサ出力値と、第1姿勢および第2姿勢の各々におけるロール量およびピッチ量とに基づき、当該加速度センサの軸線の傾き量を算出するセンサ傾き量算出工程に相当するものとなっている。
【0075】
≪傾斜量に基づくばね上上下加速度の検出≫
先に説明したように、アクチュエータ26の制御において、ばね上上下加速度Gz,実横加速度Gyr,実前後加速度Gxが検出され、それらに基づいてアクチュエータ力が決定される。本車両用サスペンションシステム10では、ばね上上下加速度Gzは、上下加速度センサ94の出力値と、上述のようにして測定された上下加速度センサ94の傾き量等に基づいて算出される。この算出の手法については、後述する3つの手法が採用可能である。以下に、それぞれの手法に基づく検出処理ついて説明する。なお、ばね上上下加速度Gz,実横加速度Gyr,実前後加速度Gxの検出は、アクチュエータ制御プログラムのS2において行われるため、そのS2を構成する加速度検出サブルーチンの説明をも合わせて行う。
【0076】
i)センサ軸線の傾き量に基づく上下加速度の検出処理1
本検出処理では、取得されている実横加速度Gyr,実前後加速度Gxを利用してばね上上下加速度Gz(以下、単に、「上下加速度Gz」という場合がある)が算出される。具体的には、各上下加速度センサ94が取り付けられている部位の上下加速度Gzは、各上下加速度センサ94の出力値を、Gsとすれば、下記式(7)に従って算出される。
【数7】
上記式に従う算出手法は、簡単に言えば、上下加速度センサ94のセンサ軸線SLが傾くことによって生じる実前後加速度Gxのセンサ軸線方向成分,実横加速度Gyrのセンサ軸線方向成分を、それぞれ、対前後軸線角ρx,対横軸線角ρyに基づいて認定し、その認定された各センサ軸線方向成分を、上下加速度センサ94の出力値Gsから差し引き、その差し引いた後の値を、対上下軸線角ρzに基づいて補正するというものである。
【0077】
本検出処理は、図8にフローチチャートを示す第1加速度検出サブルーチンが実行されることによって行われる。このサブルーチンに従う処理では、まず、S41において、対前後軸線角ρx,対横軸線角ρy,対上下軸線角ρzが、上述した記憶領域に記憶されている値が読み出されることによって認識される。次いで、S42において、前後加速度センサ98の出力値に基づいて、実前後加速度Gxが取得され、S43において、横加速度センサ92の出力値に基づいて、実横加速度Gyrが取得される。続いて、S44において、上下加速度センサ94の出力値Gsが取得される。そして、S45において、認識された対前後軸線角ρx,対横軸線角ρy,対上下軸線角ρz、取得された実前後加速度Gx,実横加速度Gyr、取得された上下加速度センサ94の出力値Gsに基づいて、上記式に従って、上下加速度センサ94の取り付けられている部位の上下加速度Gzが算出される。このS45の処理を実行して、当該第1加速度検出サブルーチンによる処理が終了する。
【0078】
ii)センサ軸線の傾き量に基づく上下加速度の検出処理2
本検出処理では、取得されている実横加速度Gyr,実前後加速度Gxを利用し、さらに、車体のピッチ角θp,ロール角θrをも利用して、上下加速度Gzが算出される。具体的には、各上下加速度センサ94が取り付けられている部位の上下加速度Gzは、各上下加速度センサ94の出力値を、Gsとすれば、下記式(8)に従って算出される。
【数8】
上記式に従う算出手法は、簡単に言えば、上下加速度センサ94のセンサ軸線SLが傾くことによって生じる実前後加速度Gxのセンサ軸線方向成分,実横加速度Gyrのセンサ軸線方向成分を、それぞれ、対前後軸線角ρx,対横軸線角ρy,対上下軸線角ρz,ピッチ角θp,ロール角θrに基づいて認定し、その認定された各センサ軸線方向成分を、上下加速度センサ94の出力値Gsから差し引き、その差し引いた後の値を、対前後軸線角ρx,対横軸線角ρy,対上下軸線角ρz,ピッチ角θp,ロール角θrに基づいて補正するというものである。式としては、複雑になるが、ピッチ角θp,ロール角θrの影響も加味して算出されるため、上下加速度Gzをより正確に検出することが可能である。
【0079】
なお、ピッチ角θpは、先に説明した前輪側変位量Stfr,後輪側変位量Streに基づき、上記式(5)に従って算出されることにより取得される。また、ロール角θrは、先に説明した右輪側変位量Stri,左輪側変位量Stleに基づき、上記式(6)に従って算出されることにより取得される。
【0080】
本検出処理は、図9にフローチチャートを示す第2加速度検出サブルーチンが実行されることによって行われる。このサブルーチンに従う処理では、まず、S51において、対前後軸線角ρx,対横軸線角ρy,対上下軸線角ρzが、上述した記憶領域に記憶されている値が読み出されることによって認識される。次いで、S52において、前後加速度センサ98の出力値に基づいて、実前後加速度Gxが取得され、S53において、横加速度センサ92の出力値に基づいて、実横加速度Gyrが取得される。さらに、S54において、4つのストロークセンサ100の出力値に基づいて、ピッチ角θpが取得され、S55において、4つのストロークセンサ100の出力値に基づいて、ロール角θrが取得される。続いて、S56において、上下加速度センサ94の出力値Gsが取得される。そして、S57において、認識された対前後軸線角ρx,対横軸線角ρy,対上下軸線角ρz、取得された実前後加速度Gx,実横加速度Gyr,ピッチ角θp,ロール角θr、取得された上下加速度センサ94の出力値Gsに基づいて、上記式に従って、上下加速度センサ94の取り付けられている部位の上下加速度Gzが算出される。このS57の処理を実行して、当該第2加速度検出サブルーチンによる処理が終了する。
【0081】
iii)センサ軸線の傾き量に基づく上下加速度の検出処理3
絶対空間における車両の前後方向軸をX軸,左右方向軸をY軸,上下方向軸をZ軸とし、車両が標準状態にある場合の絶対空間における上下加速度センサ94の取付位置を、u0=(x0、y0、z0)とした場合、車体がピッチ角θp,ロール角θrだけピッチ,ロール動作をしたときには、その上下加速度センサ94の位置は、u=(x、y、z)となると考える。そのuは、変換行列R(θr、θp)を用いて、下記式(9)のように表すことができる。なお、X軸,Y軸,Z軸は、車両が標準状態にある場合において、上述の車体のx軸,y軸,z軸と一致する。また、x0、y0、z0の値は、車両設計に関する諸元であり、既知の値である。
【数9】
また、車体のピッチ,ロール動作時において、上下加速度センサ94が取り付けられている車体の部位に生じている加速度は、上記式(9)を時間に関して2階微分することによって、下記式(10)のようなベクトルの形式で表すことができる。ちなみに、「・・」は、時間に関する2階微分を行ったものを表している。
【数10】
【0082】
上記式(10)に示される加速度のX軸方向,Y軸方向,Z軸方向の成分は、下記式(11),(12),(13)のように表すことができる。ちなみに、「・」は、時間に関する1階微分を行ったものを表している。
【数11】
【数12】
【数13】
なお、ピッチ角θp,ロール角θrは、上述のように、4つのストロークセンサ100の出力値に基づいて取得することができ、また、それらピッチ角θp,ロール角θrは、短い時間間隔をおいて取得されるため、時間に関するそれらの1階微分値つまりピッチ角速度,ロール角速度、2階微分値つまりピッチ角加速度,ロール角加速度も、それらの変動の様子から取得することが可能である。したがって、上記式(11),(12),(13)で示される加速度のX軸方向,Y軸方向,Z軸方向の成分は、算出することが可能である。
【0083】
上記式(10)で示される加速度は、車体のピッチ,ロール動作させようとする力に依存した加速度であり、ピッチ・ロール依存加速度と考えることができる。その一方で、走行中の車両において、車体には、車両の加減速,車両の旋回等に起因して、車体を並進移動させようとする加速度、つまり、並進運動加速度が生じている。したがって、上下加速度センサ94が取り付けられている車体の部位に生じている加速度をGとすれば、その加速度Gは、ベクトルの形式として、下記式(14)のように表すことができる。ちなみに、G0は、並進運動加速度である。
【数14】
【0084】
上記式(14)に示すの加速度Gのうち、上下加速度センサ94の出力値となる成分、つまり、センサ軸線方向成分を、Gsとすれば、センサ軸線方向成分Gsは、センサ軸線SLの傾き量が上述の対前後軸線角ρx,対横軸線角ρy,対上下軸線角ρzとなっている場合、下記式(15)のように表すことができる。
【数15】
ちなみに、GX0、GY0、GZ0は、それぞれ、並進運動加速度G0のX軸方向成分,Y軸方向成分,Z軸方向成分である。
【0085】
ここで、車体には、前後左右の車輪に対応して、4つの上下加速度センサ94が取り付けられている。そこで、それら4つの上下加速度センサ94のうちの3つについて、上記センサ軸線方向成分Gsを式で表せば、各上下加速度センサ94のセンサ軸線方向成分Gsは、下記式(16),(17),(18)のようになる。ちなみに、添え字「1」,「2」,「3」は、3つの上下加速度センサ94の各々のものであることを示している。
【数16】
【数17】
【数18】
【0086】
各上下加速度センサ94のセンサ軸線方向成分Gs1,Gs2,Gs3は、各上下加速度センサ94の各々の出力値であるため、したがって、上記式(16),(17),(18)を連立方程式として解くことにより、並進運動加速度G0のX軸方向成分GX0,Y軸方向成分GY0,Z軸方向成分GZ0を算出することができる。それらのうちのZ軸方向成分GZ0と、上記式(13)に基づいて算出される各上下加速度センサ94についてのピッチ・ロール依存加速度のZ軸方向成分とを加算することにより、下記式(19),(20),(21)のように、各上下加速度センサ94が取り付けられている車体の部位の上下加速度Gz1,Gz2,Gz3が算出される。
【数19】
【数20】
【数21】
【0087】
本システム10では、4つの上下加速度センサ94が設けられており、それら4つのうちの1つ対象センサとし、その対象センサと隣り合う位置にある2つセンサ(対角位置にないセンサ)とによって、対象センサが取り付けられている部位の上下加速度Gzを検出するようにしている。そして対象センサを変更することにより、4つの上下加速度センサ94の各々が取り付けられているすべての部位の上下加速度Gzを検出するようにしている。
【0088】
なお、上述のようにして算出された並進運動加速度G0のX軸方向成分GX0,Y軸方向成分GY0は、それぞれ、上述した実前後加速度Gx,実横加速度Gyrに相当するものであることから、本検出処理によれば、前後加速度センサ98,横加速度センサ92によらずとも、実前後加速度Gx,実横加速度Gyrを検出することが可能なのである。
【0089】
本検出処理は、図10にフローチチャートを示す第3加速度検出サブルーチンが実行されることによって行われる。このサブルーチンに従う処理では、まず、S61において、対象となる上下加速度センサ94および他の2つの上下加速度センサ94についての対前後軸線角ρx,対横軸線角ρy,対上下軸線角ρzが、上述した記憶領域に記憶されている値が読み出されることによって認識される。次いで、S62において、4つのストロークセンサ100の出力値に基づいて、ピッチ角θpが取得され、S63において、4つのストロークセンサ100の出力値に基づいて、ロール角θrが取得される。続くS64において、ピッチ角速度,ロール角速度,ピッチ角加速度,ロール角加速度が、算出されることにより取得される。そして、S65において、検出対象となる上下加速度センサ94および他の2つの上下加速度センサ94の出力値Gsが取得される。続くS66において、認識された対前後軸線角ρx,対横軸線角ρy,対上下軸線角ρz、取得されたピッチ角θp,ロール角θr,ピッチ角速度,ロール角速度,ピッチ角加速度,ロール角加速度、取得された上下加速度センサ94の出力値Gsに基づいて、上記算出手法に従って、対象となる上下加速度センサ94が取り付けられている車体の部位の上下加速度Gz,実前後加速度Gx,実横加速度Gyrが算出され、さらに、θp,S56において、上下加速度センサ94の出力値Gsが取得される。このS66の処理を実行して、当該第3加速度検出サブルーチンによる処理が終了する。
【0090】
≪コントローラの機能構成≫
上述のアクチュエータ制御プログラムが実行されて機能する本サスペンションシステム10のコントローラ82は、その実行処理に依拠すれば、制御ブロック図である図11に示すような機能構成を有するものと考えることができる。その図から解るように、コントローラ82は、S3,S4の処理を実行する機能部、つまり、減衰アクチュエータ力成分FGを決定する機能部として、減衰力決定部150を、S5,S6の処理を実行する機能部、つまり、ロール抑制アクチュエータ力成分FRを決定する機能部として、ロール抑制力決定部152を、S7の処理を実行する機能部、つまり、ピッチ抑制アクチュエータ力成分FPを決定する機能部として、ピッチ抑制力決定部154を、それぞれ有している。そして、S8の処理を実行する機能部、つまり、それら減衰アクチュエータ力成分FG,ロール抑制アクチュエータ力成分FR,ピッチ抑制アクチュエータ力成分FPを合計して目標アクチュエータ力FAを決定する機能部として、目標アクチュエータ力決定部156を有している。
【0091】
また、コントローラ82は、S2の処理を実行する機能部、つまり、各上下加速度センサ94が取り付けられている車体の部位のばね上上下加速度Gz,車体の実横加速度Gyr,車体の実前後加速度Gxを検出する機能部を有している。この機能部は、上下加速度センサ94のセンサ軸線SLの傾き量、つまり、対前後軸線角ρx,対横軸線角ρy,対上下軸線角ρzに基づいて、各上下加速度センサ94が取り付けられている車体の部位のばね上上下加速度Gzを検出する機能部であることから、コントローラ82は、センサ軸線傾き量依拠上下加速度検出部158を有しているのである。さらに、コントローラ82は、上述のセンサ傾き量測定プログラムをも実行することから、そのプログラムに従う処理を実行する機能部として、センサ軸線傾き量測定部160を有しているのである。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】請求可能発明が適用される車両用サスペンションシステムの全体構成を示す模式図である。
【図2】図1の車両用サスペンションシステムが備えるスプリング・アブソーバAssyを示す正面断面図である。
【図3】図1の車両用サスペンションシステムにおいて実行されるアクチュエータ制御プログラムを示すフローチャートである。
【図4】図1の車両用サスペンションシステムに配備されている上下加速度センサの外観およびそれのセンサ軸線の傾きを示す概念図である。
【図5】図4の上下加速度センサの内部構造を示す模式図である。
【図6】図4の上下加速度センサのセンサ軸線の傾きを測定する際の車体の姿勢を示す模式図である。
【図7】図1の車両用サスペンションシステムにおいて図4の上下加速度センサのセンサ軸線の傾きを測定するために実行されるセンサ軸線傾き量測定プログラムを示すフローチャートである。
【図8】図3のアクチュエータ制御プログラムにおいて上下加速度を検出するために実行される第1加速度検出サブルーチンを示すフローチャートである。
【図9】図3のアクチュエータ制御プログラムにおいて上下加速度を検出するために実行される第2加速度検出サブルーチンを示すフローチャートである。
【図10】図3のアクチュエータ制御プログラムにおいて上下加速度を検出するために実行される第3加速度検出サブルーチンを示すフローチャートである。
【図11】図1の車両用サスペンションシステムの制御を司るアクチュエータ電子制御装置の機能を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0093】
10:車両用サスペンションシステム 20:スプリング・アブソーバAssy 26:アクチュエータ 54:電磁モータ 80:アクチュエータ電子制御ユニット(ECU) 82:コントローラ 88:車速センサ 90:操作角センサ 92:横加速度センサ 94:上下加速度センサ 98:前後加速度センサ 100:ストロークセンサ 102:傾き量側処理開始スイッチ 150:減衰力決定部 152:ロール抑制力決定部 154:ピッチ抑制力決定部 156:目標アクチュエータ力決定部 158:センサ軸線傾き量依拠上下加速度検出部 160:センサ軸線傾き量測定部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下加速度センサとして車体に取り付けられて自身の軸線の方向の加速度を検出する加速度センサの軸線の傾き量を測定する方法であって、
車体を第1姿勢とし、その姿勢における当該加速度センサの出力値である第1センサ出力値を取得する第1センサ出力値取得工程と、
車体を、ピッチ量およびロール量において第1姿勢と異なる姿勢である第2姿勢とし、その姿勢における当該加速度センサの出力値である第2センサ出力値を取得する第2センサ出力値取得工程と、
前記第1センサ出力値および前記第2センサ出力値と、前記第1姿勢および前記第2姿勢の各々におけるロール量およびピッチ量とに基づき、当該加速度センサの軸線の傾き量を算出するセンサ傾き量算出工程と
を含む加速度センサ軸線傾き量測定方法。
【請求項2】
前記第1姿勢と前記第2姿勢との一方が、車体がピッチしかつロールしていない姿勢であり、前記第1姿勢と前記第2姿勢との他方が、車体がロールしかつピッチしていない姿勢である請求項1に記載の加速度センサ軸線傾き量測定方法。
【請求項3】
当該加速度センサが車体に取り付けられた車両が、前後左右4つの車輪に対応して設けられ車輪と車体とを接近・離間させる力を発生させる4つの接近離間力発生装置を有しており、
前記第1センサ出力値取得工程および前記第2センサ出力値取得工程が、前記4つの接近離間力発生装置の作動によって車体を傾斜させて、前記第1センサ出力値および前記第2センサ出力値を取得する工程である請求項1または請求項2に記載の加速度センサ軸線傾き量測定方法。
【請求項4】
前記4つの接近離間力発生装置の各々が、電磁モータを有し、その電磁モータの力に依拠して車輪と車体との接近・離間に対する抵抗力を発生させる電磁式ショックアブソーバである請求項3に記載の加速度センサ軸線傾き量測定方法。
【請求項5】
上下加速度センサとして車体に取り付けられて自身の軸線の方向の加速度を検出する加速度センサによる上下加速度の検出方法であって、
当該加速度センサの軸線の傾き量を認識する工程と、
車体に生じている前後加速度および横加速度を取得する工程と、
当該加速度センサの出力値と、認識された当該加速度センサの軸線の傾き量と、取得された前後加速度および横加速度とに基づき、当該加速度センサの取り付けられている部位における上下加速度を算出する工程と
を含む上下加速度検出方法。
【請求項6】
当該上限加速度検出方法が、さらに、車体のピッチ量およびロール量を取得する工程を含み、
前記上下加速度を算出する工程が、さらに、取得された車体のピッチ量およびロール量に基づき、当該加速度センサの取り付けられている部位における上下加速度を算出するものである請求項5に記載の上下加速度検出方法。
【請求項7】
3以上の部位において車体に取り付けられ、それそれが軸線の方向の加速度を検出する3以上の加速度センサによって、前記3以上の部位の各々における上下加速度の検出方法であって、
当該3以上の加速度センサの各々の軸線の傾き量を認識する工程と、
車体のピッチ量およびロール量を取得する工程と、
当該3以上の加速度センサの各々の出力値と、認識された当該3以上の加速度センサの各々の軸線の傾き量と、取得された車体のピッチ量およびロール量とに基づき、前記3つ以上の部位のうちの少なくとも1つの部位における上下加速度を算出する工程と
を含む上下加速度検出方法。
【請求項8】
前記上下加速度を算出する工程が、
当該3以上の加速度センサの各々の出力値と、認識された当該3以上の加速度センサの各々の軸線の傾き量と、取得された車体のピッチ量およびロール量とに基づき、前記3つ以上の部位のうちの少なくとも1つの部位における上下加速度とともに、車体の前後加速度と横加速度との少なくとも一方をもを算出する工程である請求項7に記載の上下加速度の検出方法。
【請求項1】
上下加速度センサとして車体に取り付けられて自身の軸線の方向の加速度を検出する加速度センサの軸線の傾き量を測定する方法であって、
車体を第1姿勢とし、その姿勢における当該加速度センサの出力値である第1センサ出力値を取得する第1センサ出力値取得工程と、
車体を、ピッチ量およびロール量において第1姿勢と異なる姿勢である第2姿勢とし、その姿勢における当該加速度センサの出力値である第2センサ出力値を取得する第2センサ出力値取得工程と、
前記第1センサ出力値および前記第2センサ出力値と、前記第1姿勢および前記第2姿勢の各々におけるロール量およびピッチ量とに基づき、当該加速度センサの軸線の傾き量を算出するセンサ傾き量算出工程と
を含む加速度センサ軸線傾き量測定方法。
【請求項2】
前記第1姿勢と前記第2姿勢との一方が、車体がピッチしかつロールしていない姿勢であり、前記第1姿勢と前記第2姿勢との他方が、車体がロールしかつピッチしていない姿勢である請求項1に記載の加速度センサ軸線傾き量測定方法。
【請求項3】
当該加速度センサが車体に取り付けられた車両が、前後左右4つの車輪に対応して設けられ車輪と車体とを接近・離間させる力を発生させる4つの接近離間力発生装置を有しており、
前記第1センサ出力値取得工程および前記第2センサ出力値取得工程が、前記4つの接近離間力発生装置の作動によって車体を傾斜させて、前記第1センサ出力値および前記第2センサ出力値を取得する工程である請求項1または請求項2に記載の加速度センサ軸線傾き量測定方法。
【請求項4】
前記4つの接近離間力発生装置の各々が、電磁モータを有し、その電磁モータの力に依拠して車輪と車体との接近・離間に対する抵抗力を発生させる電磁式ショックアブソーバである請求項3に記載の加速度センサ軸線傾き量測定方法。
【請求項5】
上下加速度センサとして車体に取り付けられて自身の軸線の方向の加速度を検出する加速度センサによる上下加速度の検出方法であって、
当該加速度センサの軸線の傾き量を認識する工程と、
車体に生じている前後加速度および横加速度を取得する工程と、
当該加速度センサの出力値と、認識された当該加速度センサの軸線の傾き量と、取得された前後加速度および横加速度とに基づき、当該加速度センサの取り付けられている部位における上下加速度を算出する工程と
を含む上下加速度検出方法。
【請求項6】
当該上限加速度検出方法が、さらに、車体のピッチ量およびロール量を取得する工程を含み、
前記上下加速度を算出する工程が、さらに、取得された車体のピッチ量およびロール量に基づき、当該加速度センサの取り付けられている部位における上下加速度を算出するものである請求項5に記載の上下加速度検出方法。
【請求項7】
3以上の部位において車体に取り付けられ、それそれが軸線の方向の加速度を検出する3以上の加速度センサによって、前記3以上の部位の各々における上下加速度の検出方法であって、
当該3以上の加速度センサの各々の軸線の傾き量を認識する工程と、
車体のピッチ量およびロール量を取得する工程と、
当該3以上の加速度センサの各々の出力値と、認識された当該3以上の加速度センサの各々の軸線の傾き量と、取得された車体のピッチ量およびロール量とに基づき、前記3つ以上の部位のうちの少なくとも1つの部位における上下加速度を算出する工程と
を含む上下加速度検出方法。
【請求項8】
前記上下加速度を算出する工程が、
当該3以上の加速度センサの各々の出力値と、認識された当該3以上の加速度センサの各々の軸線の傾き量と、取得された車体のピッチ量およびロール量とに基づき、前記3つ以上の部位のうちの少なくとも1つの部位における上下加速度とともに、車体の前後加速度と横加速度との少なくとも一方をもを算出する工程である請求項7に記載の上下加速度の検出方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−112793(P2010−112793A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−284410(P2008−284410)
【出願日】平成20年11月5日(2008.11.5)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年11月5日(2008.11.5)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
[ Back to top ]