説明

加速度センサ

【目的】自己故障診断回路の回路構成を簡単なものとし、故障診断の実行時における動作時間の大幅な短縮を図ることができる加速度センサを提供する。
【構成】加速度が加わる圧電体素子10と、該圧電体素子10からの出力信号を処理する信号処理回路11と、これらにおける故障発生の有無を診断する自己故障診断回路1とを備えた加速度センサであって、自己故障診断回路1は、コンデンサ2を介して圧電体素子10に接続され、かつ、診断開始電圧v2 の入力に対応して圧電体素子10に所定の診断時電圧v3 を印加する診断電圧発生手段3と、該診断電圧発生手段3に対して診断開始電圧v2 を出力し、かつ、回路全体の動作を制御する診断制御手段4と、診断開始電圧v2 出力後の所定時間経過時ごとにおける信号処理回路11からの出力電圧v1 を測定する測定手段5と、測定結果に基づいて故障発生の有無を判断する判断手段6とを具備している。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は自動車用エアバッグ装置などに組み込んで用いられる加速度センサにかかり、詳しくは、その自己故障診断回路の構成に関する。
【0002】
【従来の技術】従来から、この種の加速度センサとしては、図3で示すように、加わった加速度の方向及び大きさを検出する圧電体素子10と、これからの出力信号を処理する信号処理回路11と、これらにおける故障発生の有無を診断する自己故障診断回路12とを備えたものがあり、信号処理回路11は圧電体素子10に接続されたインピーダンス変換手段13と、フィルタ手段14及びアンプ手段15とから構成されている。そして、この信号処理回路11からの出力電圧、いわゆるセンサ出力v101 は、測定・演算手段16を通じてエアバッグ制御手段17に取り込まれており、エアバッグ制御手段17はセンサ出力v101 に基づいて自動車用エアバッグ装置(図示していない)の全体に対して必要な動作を指示するようになっている。なお、測定・演算手段16及びエアバッグ制御手段17は、コンピュータを利用することによって構成されている。
【0003】一方、自己故障診断回路12は加速度センサの故障による重大事態の発生を防止すべく設けられたものであって、コンデンサ18を介して圧電体素子10に接続された交流信号出力手段19と、この交流信号出力手段19に対して所定数のパルスからなるタイミング信号v102 を出力するパルス発生手段20とを備えており、交流信号出力手段19からはタイミング信号v102 の周期に同期した交流信号v103 が圧電体素子10に出力される。また、この自己故障診断回路12は、圧電体素子10に交流信号v103 を入力した際に信号処理回路11から出力されるセンサ出力v101 を測定する測定手段21と、測定結果に基づいて故障発生の有無を判断する判断手段22とを具備しており、回路全体の動作は診断制御手段23によって制御されている。なお、ここでの測定手段21、判断手段22及び診断制御手段23も、コンピュータを用いて構成されたものである。
【0004】ところで、加速度センサを構成する圧電体素子10に外力として加わる加速度の周波数と、信号処理回路11からの出力電圧であるセンサ出力v101 とは、図4中の実線で示す特性曲線Aによって表されるような関係を有するのが一般的である。なお、この図4、すなわち、加速度周波数及びセンサ出力の関係を示す特性図における横軸は加速度周波数(Hz)を示す一方、その縦軸はセンサ出力(mV)を示している。ところが、この加速度センサを構成する圧電体素子10や信号処理回路11に故障が発生した場合には、図4中の仮想線分でそれぞれ示すように、この特性曲線Aにおける低域カットオフ周波数が高周波数側へとシフトしたり(矢印Bで示す)、高域カットオフ周波数が低周波数側へとシフトしたりする(矢印Cで示す)ことが起こるほか、G感度フラット域におけるセンサ出力が増加もしくは減少する(矢印D,Eで示す)ことになってしまう。
【0005】そこで、上記構成とされた加速度センサにおいては、つぎのような手順に従った故障診断が行われる。すなわち、この故障診断は自動車用エアバッグ装置が搭載された自動車の運行直前時などに行われるものであり、例えば、エンジンの始動によってエアバッグ制御手段17は自己故障診断回路12を構成する診断制御手段23に対して故障診断の実行を指示することになる。
【0006】すなわち、故障診断の実行に際しては、診断制御手段23からパルス発生手段20に対してタイミング信号v102 の出力が指示されることになり、まず最初には、図4で示した特性曲線Aにおける低域カットオフ周波数近くの周波数f1 を有するタイミング信号v102 がパルス発生手段20から交流信号出力手段19に対して出力される。すると、この交流信号出力手段19からはタイミング信号v102 の周期に同期した交流信号v103 が出力されて圧電体素子10に加わることになり、信号処理回路11からは加わった交流信号v103 に対応した出力電圧としてのセンサ出力v101 が出力される。そして、このセンサ出力v101 は測定手段21によって取り込まれることになり、判断手段22においては測定結果に基づく故障発生の有無、すなわち、特性曲線Aにおける低域カットオフ周波数近くの周波数f1 が高周波数側へとシフトしているか否かが判断される。
【0007】また、引き続いて、図4で示した特性曲線AにおけるG感度フラット域及び高域カットオフ周波数近くの周波数f2,f3を有するタイミング信号v102 がそれぞれパルス発生手段20から出力されて上記同様の動作が繰り返して行われた後、同様の手順に従って判断手段22による故障発生の有無が判断される。そして、上記いずれの周波数f1〜f3を有するタイミング信号v102 によっても、加速度センサを構成する圧電体素子10や信号処理回路11における故障が検出されなければ自動車の運行がそのまま開始されることになり、また、故障の発生が検出された場合には必要な処置が採られることになる。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】ところで、前記従来構成とされた加速度センサは、交流信号に基づいて故障診断を行う構成とされているのであるが、この交流信号の安定化には長時間を要するのが通常であるため、故障診断の実行時における動作時間が長くかかることになって実用的でないという不都合が生じていた。さらに、自己故障診断回路12におけるパルス発生手段20は周波数の異なる3種類のタイミング信号を出力しなければならず、また、その測定手段21が交流信号の繰り返し波形を細かくサンプリングしうるものでなければならないから、これらの実体回路が大変に複雑な構成となってしまい、その構成に際しては多大な手間を要するという不都合もあった。
【0009】本発明は、これらの不都合に鑑みて創案されたものであって、自己故障診断回路の実体回路構成を簡単なものとすることができ、しかも、故障診断の実行時における動作時間の大幅な短縮を図ることができる加速度センサの提供を目的としている。
【0010】
【課題を解決するための手段】本発明にかかる加速度センサは、このような目的を達成するために、加速度が加わる圧電体素子と、該圧電体素子からの出力信号を処理する信号処理回路と、これらにおける故障発生の有無を診断する自己故障診断回路とを備えており、自己故障診断回路は、コンデンサを介して圧電体素子に接続され、かつ、診断開始電圧の入力に対応して圧電体素子に所定の診断時電圧を印加する診断電圧発生手段と、該診断電圧発生手段に対して診断開始電圧を出力し、かつ、回路全体の動作を制御する診断制御手段と、診断開始電圧出力後の所定時間経過時ごとにおける信号処理回路からの出力電圧を測定する測定手段と、測定結果に基づいて故障発生の有無を判断する判断手段とを具備している。
【0011】
【実施例】以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
【0012】図1は本実施例にかかる加速度センサの概略構成を示す回路ブロック図、図2は各出力電圧の波形を示す説明図であり、図1における符号1は自己故障診断回路を示している。なお、この自己故障診断回路1を除く加速度センサの全体構成は従来例と基本的に異ならないので、図1において従来例を示す図3と互いに同一となる部分には同一符号を付すこととし、ここでの詳しい説明は省略する。
【0013】この加速度センサは、図1で示すように、加速度が加わる圧電体素子10と、この圧電体素子10からの出力信号を処理する信号処理回路11と、これらにおける故障発生の有無を診断するための自己故障診断回路1とを備えており、信号処理回路11からは加速度に対応した出力電圧としてのセンサ出力v1 が出力されるようになっている。
【0014】自己故障診断回路1は、所定の容量値をもつコンデンサ2を介して圧電体素子10に接続された診断電圧発生手段3と、コンピュータを利用して構成されることによって回路全体の動作を協調的に制御する診断制御手段4とを具備している。そして、この診断制御手段4から診断電圧発生手段3に対してはデジィタル信号「1」で示される例えば5vの診断開始電圧v2 が出力される一方、反転アンプを用いて構成された診断電圧発生手段3からは入力された診断開始電圧v2 に対応したステップ電圧v4 が出力されるようになっており、このステップ電圧v4 によって圧電体素子10に診断時電圧v3 が印加されることになる。なお、ここで、圧電体素子10に診断時電圧v3 が印加されることになるのは、この圧電体素子10に対し、コンデンサ2を介して接続された診断電圧発生手段3から出力されるステップ電圧v4 が瞬間的に切り換わる際の過渡現象によるのである。そして、このとき、診断電圧発生手段3が反転アンプからなるものに限定されないのは勿論である。
【0015】ところで、この診断時電圧v3 は信号処理回路11からのセンサ出力v1 に対応した値となるよう予めトリミングされたものであり、また、故障診断実行時以外における診断制御手段4からはデジィタル信号「0」で示される例えば0vの診断停止電圧が診断電圧発生手段3に対して出力されている。なお、図1では省略しているが、診断電圧発生手段3と診断制御手段4との間に直流電圧出力手段を設けておき、診断制御手段4からの指示に基づく診断開始電圧v2 または診断停止電圧を直流電圧出力手段から診断電圧発生手段3に対して出力する構成としてもよいことはいうまでもない。
【0016】さらに、この自己故障診断回路1は、診断開始時電圧v2 を出力後の所定時間経過時ごとにおける信号処理回路11からの出力電圧v1 を測定する測定手段5と、測定結果に基づいて故障発生の有無を判断する判断手段6とを具備しており、これらの測定手段5及び判断手段6もコンピュータを利用して構成されている。
【0017】つぎに、出力電圧それぞれの波形を示す図2R>2に基づいて上記構成とされた加速度センサにおける故障診断の実行動作を説明する。なお、この図2における横軸は経過時間(ms)を示す一方、その縦軸はセンサ出力(V)を示している。
【0018】この加速度センサにおける故障診断は自動車用エアバッグ装置が搭載された自動車のエンジンが始動されることによって行われることになり、自己故障診断回路1を構成する診断制御手段4に対してはエアバッグ制御手段17から故障診断の実行が指示される。
【0019】故障診断の実行が指示されると、まず、診断制御手段4から診断電圧発生手段3に対して図2(a)で示すような5vの診断開始電圧v2 が出力されることになり、この診断開始電圧v2 が入力した診断電圧発生手段3からは図2(b)で示すようなステップ電圧v4 が出力される結果、圧電体素子10にはステップ電圧v4 の出力に対応して診断時電圧v3 がコンデンサ2を介して印加されることになる。なお、故障診断実行時以外における診断制御手段4からは0vの診断停止電圧が診断電圧発生手段3に対して出力されており、この加速度センサにおける故障診断が実行されていないのは勿論である。
【0020】そして、この圧電体素子10に印加された診断時電圧v3 は信号処理回路2を通過して処理されることになり、この信号処理回路2からは図2(c)で示すようなステップ応答波形を有するセンサ出力v1 が出力されることになる。ところで、このステップ応答波形を有するセンサ出力v1 と、図4で示した加速度周波数及びセンサ出力の関係を示す特性図中の特性曲線Aとは互いに対応した特定関係を有しているのであり、ステップ応答波形中における初期の電圧値αを示すセンサ出力v1 は周波数f3 のタイミング信号v102 を加えた場合、また、次の電圧値βを示すセンサ出力v1 は周波数f2 のタイミング信号v102 を加えた場合、さらに、後期の電圧値γを示すセンサ出力v1 は周波数f1 のタイミング信号v102 を加えた場合におけるセンサ出力v101 のそれぞれと互いに対応していることになる。そこで、診断開始電圧v2 出力後の所定時間経過時ごと、すなわち、図2(c)におけるt1,t2,t3 経過時ごとにおけるセンサ出力v1 を測定手段5によって測定したうえ、得られた測定結果を判断手段6によって判断すれば、図4で示した特性曲線Aのシフト状態に基づく故障発生の有無が明らかとなる。なお、ここでは、t1,t2,t3 のそれぞれを0.2ms,2.5ms,50msと設定している。
【0021】すなわち、この加速度センサを構成する圧電体素子10や信号処理回路11における故障の発生は、従来例と同じく、図4で示した特性曲線Aにおける低域カットオフ周波数近くの周波数f1 や高域カットオフ周波数近くの周波数f3 がシフトする、及び、G感度フラット域におけるセンサ出力が増加もしくは減少することによって検出されるのであり、f1 が高周波数側へとシフトしている場合には図2(c)中の電圧値γがある特定の所要値よりも下がり、また、f3 が低周波数側へとシフトしている場合には電圧値αが所要値よりも上がることになる結果、判断手段6によって故障が発生しているとの判断がなされる。なお、このとき、f1 が0(ゼロ)であれば電圧値γは所定の一定値となり、このf1 が低周波数側へとシフトしていれば前記一定値に近づくことになる一方、f3 が∞(無限大)であれば電圧値αは所定の一定値となり、このf3 が高周波数側へとシフトしていれば前記一定値に近づくことが起こる。
【0022】さらに、G感度フラット域におけるセンサ出力が増加して矢印Dに沿ってシフトしている場合には図2(c)中の電圧値βがある特定の所要値よりも上がることになる一方、センサ出力が減少して矢印Eに沿ってシフトしている場合には電圧値βが下がることになる。そして、これらの測定結果も判断手段6に取り込まれたうえで判断されることになり、故障の有無が明らかとなる。そして、いずれの電圧値α,β,γにおいても、加速度センサを構成する圧電体素子10や信号処理回路11における故障が検出されなければ自動車の運行がそのまま開始されることになり、また、故障の発生が検出された場合には必要な処置が採られることになる。
【0023】
【発明の効果】以上説明したように、本発明にかかる加速度センサはステップ電圧を基準として故障診断を行う構成とされており、安定化に長時間を要する交流信号は用いないのであるから、故障診断の実行時における動作時間の大幅な短縮を図ることができる。さらに、自己故障診断回路を構成する診断制御手段はただ1つの診断開始信号を出力すればよく、また、その測定手段はステップ応答波形上の3点のみをサンプリングして測定すればよいのであるから、これらの実体回路構成が簡単なものとなり、構成に要する手間の削減が図れるという効果もある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本実施例にかかる加速度センサの概略構成を示す回路ブロック図である。
【図2】本実施例における各出力電圧の波形を示す説明図である。
【図3】従来例にかかる加速度センサの概略構成を示す回路ブロック図である。
【図4】従来例における加速度周波数及びセンサ出力の関係を示す特性図である。
【符号の説明】
1 自己故障診断回路
2 コンデンサ
3 診断電圧発生手段
4 診断制御手段
5 測定手段
6 判断手段
10 圧電体素子
11 信号処理回路
1 センサ出力(出力電圧)
2 診断開始電圧
3 診断時電圧

【特許請求の範囲】
【請求項1】加速度が加わる圧電体素子(10)と、該圧電体素子(10)からの出力信号を処理する信号処理回路(11)と、これらにおける故障発生の有無を診断する自己故障診断回路(1)とを備えた加速度センサであって、自己故障診断回路(1)は、コンデンサ(2)を介して圧電体素子(10)に接続され、かつ、診断開始電圧(v2 )の入力に対応して圧電体素子(10)に所定の診断時電圧(v3 )を印加する診断電圧発生手段(3)と、該診断電圧発生手段(3)に対して診断開始電圧(v2 )を出力し、かつ、回路全体の動作を制御する診断制御手段(4)と、診断開始電圧(v2 )出力後の所定時間経過時ごとにおける信号処理回路(11)からの出力電圧(v1 )を測定する測定手段(5)と、測定結果に基づいて故障発生の有無を判断する判断手段(6)とを具備していることを特徴とする加速度センサ。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図3】
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【公開番号】特開平6−58954
【公開日】平成6年(1994)3月4日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−212790
【出願日】平成4年(1992)8月10日
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)