説明

加速度検出装置

【課題】 ドリフト誤差の補正精度の向上を図ることができる加速度検出装置を提供する。
【解決手段】 停車状態から走行状態へ移行する際のフィルタ13通過後のGセンサ信号Gsen-fに含まれる車体振動成分を除去する振動成分除去部20と、車体振動成分除去後のGセンサ信号Gsen-rに基づく補正値Gdによりフィルタ13通過後のGセンサ信号Gsen-fのゼロ点位置を補正するゼロ点補正部21と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加速度検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の加速度検出装置では、停車時の加速度センサ信号と当該停車状態から走行状態へ移行する際の加速度センサ信号とに基づいて、温度変化や経時変化に伴う加速度センサ信号のドリフト誤差を算出し、加速度センサ信号のゼロ点補正を行っている。この記載に関係する技術の一例は、特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−145151号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来技術にあっては、停車状態から走行状態へ移行する際の加速度信号には、ブレーキオフにより発生する車体振動成分が含まれるため、その分だけ加速度検出値が誤補正され、補正精度が低下するという問題があった。
本発明の目的は、ドリフト誤差の補正精度の向上を図ることができる加速度検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明では、車体振動成分を除去(低減を含む)した加速度センサ信号に基づく補正値により加速度センサ信号のゼロ点位置を補正する。
【発明の効果】
【0006】
よって、本発明にあっては、車体振動成分が除去された加速度センサ信号を用いて加速度センサ信号のゼロ点位置を補正する補正値を算出するため、ブレーキオフ時の車体振動によるドリフト誤差の誤補正を抑制でき、補正精度の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】実施例1の加速度検出装置を適用したニュートラル制御装置を示すシステム構成図である。
【図2】実施例1のECU4に内蔵された加速度検出装置12の構成を示す制御ブロック図である。
【図3】実施例1の加速度検出装置12で実行される加速度検出処理の流れを示すフローチャートである。
【図4】従来のゼロ点補正時における誤補正発生ロジックを示すタイムチャートである。
【図5】実施例1の誤補正抑制作用を示すタイムチャートである。
【図6】実施例2のECU4に内蔵された加速度検出装置31の構成を示す制御ブロック図である。
【図7】実施例2の加速度検出装置31で実行される加速度検出処理の流れを示すフローチャートである。
【図8】実施例2の誤補正抑制作用を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の加速度検出装置を実施するための形態を、実施例に基づいて説明する。
〔実施例1〕
[ニュートラル制御装置]
図1は、実施例1の加速度検出装置を適用したニュートラル制御装置を示すシステム構成図である。エンジン1の出力は、このエンジン1に連結された自動変速機2によって所定の変更を受けた後、アウトプットシャフト3から出力され、図外の駆動輪へ伝達される。車両には、エンジン1や自動変速機2等を後述する各種センサ等の出力信号に基づき制御するためのエンジンコントローラ(ECU)4および自動変速機コントローラ(ATCU)5が設けられている。両コントローラ4,5は、互いに通信可能である。
【0009】
車両には、アクセル開度センサ6、ブレーキスイッチ7、車速センサ8、加速度センサ(Gセンサ)9、シフトセンサ10、イグニッションセンサ11等の各種センサが搭載されている。
アクセル開度センサ6は、アクセル開度を検出し、アクセル開度信号をECU4に出力する。ブレーキスイッチ7は、ブレーキペダルが踏まれているときON、踏まれていないときOFFとなるブレーキスイッチ信号をECU4に出力する。車速センサ8は、各車輪に設けられた車輪速センサにより得られる各車輪の回転角度に基づいて、車両の走行速度(車速)を検出し、車速信号をECU4に出力する。Gセンサ9は、車両に作用する前後方向加速度を検出し、Gセンサ信号をECU4に出力する。シフトセンサ10は、自動変速機2のシフトポジションを検出し、シフトポジション信号をATCU5に出力する。イグニッションセンサ11は、イグニッションスイッチがONのときON、OFFのときOFFとなるイグニッション信号をECU4に出力する。
【0010】
ECU4は、自動変速機2のシフトポジションが前進走行ポジションであって、アクセル操作が行われず、ブレーキ操作により車両が停止状態であって、かつ、路面勾配が所定角度以下(降坂路、登坂路共に5[%]以下)である場合、車両の発進時に係合される自動変速機2のクラッチ(発進クラッチ)を開放する要求をATCU5に出力し、車輪側への駆動力の伝達が切り離されたニュートラル状態とするニュートラル制御を実施する。
すなわち、ECU4は、シフトセンサ10からのシフトポジション信号が前進走行ポジションであり、アクセル開度センサ6からのアクセル開度信号がゼロであり、ブレーキスイッチ7からのブレーキスイッチ信号がONであり、車速センサ8からの車速信号が所定値(≒0)であり、Gセンサ9からのGセンサ信号に基づき算出した加速度検出値が5[%]以下の路面勾配に相当する加速度である場合、上述のニュートラル制御を実施する。
ECU4は、ニュートラル制御実施中にブレーキスイッチOFF等、上記ニュートラル制御実行条件が不成立となった時点でニュートラル制御を終了し、自動変速機2の発進クラッチを締結する要求をATCU5に出力する。
【0011】
[加速度検出装置]
図2は、実施例1のECU4に内蔵された加速度検出装置12の構成を示す制御ブロック図であり、実施例1の加速度検出装置12は、フィルタ13と、振動成分除去部(振動成分除去手段)20と、N制御入り時G算出部14と、N制御抜け時G算出部15と、ΔG算出部16と、G→勾配変換部17と、ΔG推定部18と、補正値算出部19と、ゼロ点補正部(ゼロ点補正手段)21と、を備える。
フィルタ13は、Gセンサ信号Gsen[g]に含まれるノイズ成分(約20〜30Hz)を除去するノイズカットフィルタである。なお、実施例において、「除去」とは、「低減」を含むものとする。
【0012】
振動成分除去部20は、停車状態から走行状態へ移行する際のフィルタ13通過後のGセンサ信号Gsen-fから、ブレーキオフ時の車体振動成分を除去したGセンサ信号Gsen-rを出力する。実施例1では、カットオフ周波数を3Hz程度に設定した一次遅れフィルタを用い、フィルタ13通過後のGセンサ信号Gsen-fにフィルタ処理を施し、Gセンサ信号Gsen-fに含まれる車体振動の周波数成分を除去する。車体振動成分の詳細については後述する。
N制御入り時G算出部14は、ニュートラル制御開始時点から所定時間経過後におけるフィルタ13通過後のGセンサ信号Gsen-fに基づいて、N制御入り時加速度Gin[g]を算出する。ここで、所定時間は、停車時に発生する車体振動が十分に収束し、Gセンサ信号Gsenに当該停車に伴う車体振動成分が含まれていないと予測できる時間とする。
【0013】
N制御抜け時G算出部15は、ニュートラル制御終了直後から自動変速機2の発進クラッチ締結開始により車輪側へ駆動力が伝達され始めるまでの期間における車体振動成分除去後のGセンサ信号Gsen-rに基づいて、N制御入り時加速度Ginと最も開きのあるN制御抜け時加速度Gout[g]を算出する。つまり、N制御抜け時加速度Goutは、所定勾配以上の坂路でニュートラル制御を実施したとき、ニュートラル制御終了直後の車両のずり下がり時に発生する加速度の絶対値の最大値である。
ΔG算出部16は、N制御入り時G算出部14で算出されたN制御入り時加速度GinからN制御抜け時G算出部15で算出されたN制御抜け時加速度Goutを減算して加速度変化量検出値ΔG[g]を算出する。
G→勾配変換部17は、N制御入り時G算出部14で算出されたN制御入り時加速度Ginを路面勾配A[%]に変換する。実施例1では、登坂路の勾配を正(+)、降坂路の勾配を負(-)とする。
【0014】
ΔG推定部18は、G→勾配変換部17で変換された路面勾配A[%]に基づき、勾配−加速度変化量算出マップを参照して加速度変化量推定値ΔG^[g]を算出する。路面勾配とN制御終了時の車両のずり下がりにより発生する車両の加速度変化量との関係は、同一の車両では一定であるため、勾配−加速度変化量算出マップは、あらかじめ実験等により求めることができる。
補正値算出部19は、ΔG算出部16で算出された加速度変化量検出値ΔGからΔG推定部18で算出された加速度変化量推定値ΔG^を減算して補正値Gd[g]を算出する。補正値算出部19は、イグニッションスイッチがONされた後、新たに補正値Gdを算出する都度、補正値Gdを更新して記憶し、イグニッションスイッチがOFFされた場合、記憶した補正値Gdをリセット(=0)する。
ゼロ点補正部21は、フィルタ13通過後のGセンサ信号Gsen-fに補正値算出部19で算出された補正値Gdを加算してGセンサ信号Gsenのドリフト誤差を補正した加速度検出値Gを算出する(ゼロ点補正)。
上述したように、算出された加速度検出値Gは、ニュートラル制御の実行可否判定に用いられる。
【0015】
[加速度検出処理]
図3は、実施例1の加速度検出装置12で実行される加速度検出処理の流れを示すフローチャートで、以下、各ステップについて説明する。この制御は、イグニッションスイッチがONされている間、所定の演算周期で繰り返し実行される。
ステップS1では、イグニッションスイッチがOFFされたか否かを判定し、YESの場合にはステップS11へ移行し、NOの場合にはステップS2へ移行する。
ステップS2では、ニュートラル制御が開始されたか否かを判定し、YESの場合にはステップS3へ進み、NOの場合にはステップS10へ移行する。
ステップS3では、N制御入り時G算出部14において、N制御入り時加速度Gin[g]を算出する。
ステップS4では、ニュートラル制御が終了したか否かを判定し、YESの場合にはステップS5へ進み、NOの場合にはステップS4を繰り返す。
【0016】
ステップS5では、振動成分除去部20において、フィルタ13通過後のGセンサ信号Gsen-fから車体振動成分を除去したGセンサ信号Gsen-rを算出する。
ステップS6では、N制御抜け時G算出部15において、N制御抜け時加速度Gout[g]を算出する。
ステップS7では、ΔG算出部16において、ステップS3で算出されたN制御入り時加速度GinからステップS6で算出されたN制御抜け時加速度Goutを減算して加速度変化量検出値ΔG[g]を算出する。
ステップS8では、ΔG推定部18において、G→勾配変換部17で変換された路面勾配A[%]に基づき、勾配−加速度変化量算出マップを参照して加速度変化量推定値ΔG^[g]を算出する。
ステップS9では、補正値算出部19において、ステップS7で算出された加速度変化量検出値ΔGからステップS8で算出された加速度変化量推定値ΔG^を減算して補正値Gd[g]を算出する。よって、補正値Gdは、ΔG>ΔG^の場合は正の値、ΔG<ΔG^の場合は負の値となる。
【0017】
ステップS9では、ゼロ点補正部21において、フィルタ13通過後のGセンサ信号Gsen-fに補正値Gdを加算し、Gセンサ信号Gsenのドリフト誤差を補正した加速度検出値Gを算出する。ここで、ステップS9から本ステップへ進んだ場合は、ステップS9で算出された補正値Gdを用いて加速度検出値Gを算出し、記憶された補正値Gdを更新する。一方、ステップS2から本ステップへ進んだ場合は、記憶された補正値Gdを用いて加速度検出値Gを算出する。
ステップS11では、ゼロ点補正部21において、補正値Gdをリセット(=0)し、リターンへ移行する。
【0018】
次に、作用を説明する。
[ずり下がり時の加速度変化量に基づくゼロ点補正作用]
坂路でニュートラル制御を実施中にドライバがブレーキペダルから足を放すと、自動変速機2の発進クラッチが締結を開始するまでの間、車両は坂路をずり下がる。実施例1の加速度検出装置12では、このずり下がりにより発生する加速度変化を利用し、Gセンサ信号Gsenのドリフト誤差を補正する。具体的には、Gセンサ信号Gsenの変化(N制御入り時加速度Gin - N制御抜け時加速度Gout)に基づく加速度変化量検出値ΔGと、車両の停車時におけるGセンサ信号Gsenから推定した加速度変化量推定値ΔG^とを算出し、両者の偏差に基づいて、Gセンサ信号Gsenのドリフト誤差を補正する補正値Gd算出し、Gセンサ信号Gsenのゼロ点補正を行う。
Gセンサ信号Gsenに温度変化や経時変化に伴うドリフト誤差が生じている場合、Gセンサ信号Gsenに基づいて算出されるN制御入り時加速度Ginは、真値(実際の加速度)からドリフト誤差分だけずれが生じている。一方、N制御入り時加速度GinとN制御抜け時加速度Goutとの差分である加速度変化量検出値ΔGは、ドリフト誤差の影響を受けない(ドリフト誤差を含まない)。よって、加速度変化量検出値ΔGと加速度変化量推定値ΔG^との差分を取ることで、Gセンサ信号Gsenのドリフト誤差を無くす補正値Gdを精度良く求めることができ、より正確なゼロ点補正を実現できる。
【0019】
[車体振動による誤補正抑制作用]
図4は、従来のゼロ点補正時における誤補正発生ロジックを示すタイムチャートであり、車両が登坂路で停止した場合を想定している。
時点t1では、ニュートラル制御実行条件が成立し、ニュートラル制御を開始する。
時点t2では、ニュートラル制御開始時点から所定時間経過後におけるフィルタ13通過後のGセンサ信号Gsen-fに基づいて、N制御入り時加速度Ginを算出する。
時点t3では、ドライバがブレーキペダルから足を離したため、ニュートラル制御を終了し、時点t3からt4までの期間では、車両のずり下がりが発生する。
時点t4では、時点t3からt4の期間内に得られたフィルタ13通過後のGセンサ信号Gsen-fのうち、N制御入り時加速度と最も開きのあるGセンサ信号Gsen-fをN制御抜け時加速度Goutとして加速度変化量検出値ΔGおよび加速度変化量推定値ΔG^を求め、両者の差分から補正値Gdを算出し、以降、次のニュートラル制御が終了するまでの間、当該補正値Gdによりドリフト誤差を補正した加速度検出値Gを用いてニュートラル制御の勾配判定が行われる。
【0020】
ここで、時点t3からt4の期間、すなわち、停車状態から走行状態へ移行する際のGセンサ信号Gsenには、ブレーキオフにより発生する車体振動成分が含まれる。この車体振動成分としては、以下の2つが想定される。
(a) ブレーキオンにより停車した際の生じたパワートレインのねじれがブレーキオフにより解放されることに起因する振動(約5Hz)
(b) 上記(a)またはずり下がりによる車両姿勢変化時のサスペンションストローク変位の変動に伴うサスペンション振動に起因する振動(約12〜13Hz)
これらの車体振動成分は、Gセンサ9の後段に配置したノイズカット用のフィルタ13では除去されず、フィルタ13通過後のGセンサ信号Gsen-fに含まれるため、フィルタ13通過後のGセンサ信号Gsen-fは、図4に示すように大きく振動し、そのピーク点のうちN制御入り時加速度Ginと最も開きのある点がN制御抜け時加速度Goutとして選択されることで、加速度変化量検出値ΔG(Gin-Gout)は車両のずり下がりにより生じる値よりも小さくなり、過大な補正値Gd(ΔG-ΔG^)が算出される。この結果、時点t4以降は、加速度検出値Gが実際の路面勾配に相当する加速度よりも小さく補正されるため、平坦路であっても5%を超える坂路と誤判定されてニュートラル制御が許可されない機会が多くなることで、燃費の悪化を招く。
【0021】
これに対し、実施例1の加速度検出装置12では、N制御抜け時G算出部15の前段に、フィルタ13通過後のGセンサ信号Gsen-fにフィルタ処理を施すことでGセンサ信号Gsen-fに含まれる車体振動の周波数成分を除去する振動成分除去部20を設けた。フィルタ処理のカットオフ周波数は3Hz程度に設定しているため、上記パワートレインのねじれ解放に起因する振動の周波数成分(約5Hz)およびサスペンション振動に起因する振動の周波数成分(約12〜13Hz)を除去したGセンサ信号Gsen-rを得ることができる。よって、時点t3から時点t4の期間における振動成分除去部20通過後のGセンサ信号Gsen-rは、車体振動成分が除去されたものとなるため、ブレーキオフ時の車体振動による過大な補正値Gdの算出が抑えられ、加速度検出値Gが実際の路面勾配に相当する加速度に対して過度に小さく補正されるのを抑制できる。
【0022】
実施例1では、イグニッションスイッチがOFFされた場合、補正値Gdをリセット(=0)する。一般的に、イグニッションスイッチがOFFされてから次にONされるまでの間、Gセンサ9の雰囲気温度は変化するため、Gセンサ信号Gsenのドリフト誤差も変動している。ここで、仮に補正値Gdをリセットしない場合、ニュートラル制御が実施されるまでの間、実際のドリフト誤差と乖離した補正値GdによってGセンサ信号Gsenが補正されてしまうおそれがある。よって、イグニッションスイッチがOFFされる都度、補正値Gdをリセットすることにより、次回走行時にGセンサ信号Gsenが誤補正されるのを抑制できる。
【0023】
次に、効果を説明する。
実施例1の加速度検出装置12は、以下に列挙する効果を奏する。
(1) 停車状態から走行状態へ移行する際のフィルタ13通過後のGセンサ信号Gsen-fに含まれる車体振動成分を除去する振動成分除去部20と、車体振動成分除去後のGセンサ信号Gsen-rに基づく補正値Gdによりフィルタ13通過後のGセンサ信号Gsen-fのゼロ点位置を補正するゼロ点補正部21と、を備えた。
これにより、ブレーキオフ時の車体振動によるドリフト誤差の誤補正を抑制でき、補正精度の向上を図ることができる。
【0024】
(2) 振動成分除去部20は、パワートレインのねじれが解放されることに起因する車体振動成分(約5Hz)を除去するため、パワートレインのねじれ解放に起因する車体振動成分を除去したGセンサ信号Gsen-rに基づく補正値Gdを算出でき、ドリフト誤差の誤補正を抑制できる。
【0025】
(3) 振動成分除去部20は、サスペンション振動に起因する車体振動成分(約12〜13Hz)を除去するため、サスペンション振動に起因する車体振動成分を除去したGセンサ信号Gsen-rに基づく補正値Gdを算出でき、ドリフト誤差の誤補正を抑制できる。
【0026】
(4) 振動成分除去部20は、停車状態から走行状態へ移行する際に得られた複数のフィルタ13通過後のGセンサ信号Gsen-fにフィルタ処理を施すため、フィルタ13通過後のGセンサ信号Gsen-fから車体振動成分を効果的に除去できる。
【0027】
〔実施例2〕
実施例2は、補正値Gdの算出方法が実施例1と異なる。
[加速度検出装置]
図6は、実施例2のECU4に内蔵された加速度検出装置31の構成を示す制御ブロック図であり、実施例2の加速度検出装置31は、フィルタ13と、振動成分除去部(振動成分除去手段)33と、N制御入り時G算出部14と、N制御抜け時G算出部15と、ΔG算出部16と、加速度推定部32と、補正値算出部19と、ゼロ点補正部21と、を備える。
振動成分除去部33は、停車状態から走行状態へ移行する際のフィルタ13通過後のGセンサ信号Gsen-fから、ブレーキオフ時の車体振動成分を除去したGセンサ信号Gsen-rを出力する。実施例2では、ニュートラル制御終了直後から自動変速機2の発進クラッチ締結開始により車輪側へ駆動力が伝達され始めるまでの期間内であって、N制御入り時加速度Ginと最も開きのあるGセンサ信号Gsenが得られると予測される一定期間に得られた複数のGセンサ信号Gsen-fの平均値をGsen-rとして出力する平均化処理を行う。
【0028】
N制御抜けG算出部15は、振動成分除去部33から出力された車体振動成分除去後のGセンサ信号Gsen-rをN制御抜け時加速度Goutとする。
加速度推定部32は、ΔG算出部16により算出された加速度変化量検出値ΔGに基づき、加速度変化量−勾配相当加速度算出マップを参照して加速度推定値G^[g]を算出する。N制御終了時の車両のずり下がりにより発生する車両の加速度変化量と路面勾配との関係は、同一の車両では一定であり、路面勾配は加速度に変換できるため、加速度変化量−勾配相当加速度算出マップは、あらかじめ実験等により求めることができる。
補正値算出部19は、加速度推定部32で算出された加速度推定値G^からN制御入り時G算出部14で算出されたN制御入り時加速度Ginを減算して補正値Gd[g]を算出する。
【0029】
[加速度検出処理]
図7は、実施例2の加速度検出装置31で実行される加速度検出処理の流れを示すフローチャートで、以下、各ステップについて説明する。なお、図3に示した実施例1と同一の処理を行うステップには、同一のステップ番号を付して説明を省略する。
ステップS20では、振動成分除去部33において、フィルタ13通過後のGセンサ信号Gsen-fから車体振動成分を除去したGセンサ信号Gsen-rを算出する。
ステップS21では、加速度推定部32において、ステップS6で算出された加速度変化量検出値ΔGに基づき、加速度変化量−勾配相当加速度算出マップを参照して加速度推定値G^[g]を算出する。
ステップS22では、補正値算出部19において、ステップS21で算出された加速度推定値G^からステップS3で算出されたN制御入り時加速度Ginを減算して補正値Gd[g]を算出する。
【0030】
次に、作用を説明する。
[ずり下がり時の加速度変化量に基づくゼロ点補正作用]
実施例2の加速度検出装置31では、Gセンサ信号Gsenの変化(N制御入り時加速度Gin - N制御抜け時加速度Gout)に基づく加速度推定値G^と、N制御入り時加速度Ginとの偏差に基づいて、Gセンサ信号Gsenのドリフト誤差を補正する補正値Gdを算出し、Gセンサ信号Gsenのゼロ点補正を行う。
Gセンサ信号に温度変化や経時変化に伴うドリフト誤差が生じている場合、Gセンサ信号に基づいて算出されるN制御入り時加速度Ginは、真値からドリフト誤差分だけずれが生じている。一方、N制御入り時加速度GinとN制御抜け時加速度Goutとの差分から算出する加速度推定値G^は、ドリフト誤差の影響を受けない(ドリフト誤差を含まない)。よって、加速度推定値G^とN制御入り時加速度Ginとの差分を取ることで、Gセンサ信号Gsenのドリフト誤差を無くす補正値Gdを精度良く求めることができ、より正確なゼロ点補正を実現できる。
【0031】
[車体振動による誤補正抑制作用]
図8は、実施例2の誤補正抑制作用を示すタイムチャートである。
時点t1からt3の期間は、図4および図5と同じであるため、説明を省略する。
時点t3では、ドライバがブレーキペダルから足を離したため、ニュートラル制御を終了し、時点t3からt4までの期間では、車両のずり下がりが発生する。
時点t4では、時点t3からt4までの期間のうちN制御入り時加速度Ginと最も開きのあるGセンサ信号Gsenが得られると予測される一定期間内に得られたフィルタ13通過後のGセンサ信号Gsen-fの平均値をN制御抜け時加速度Goutとして加速度変化量検出値ΔGおよび加速度変化量推定値ΔG^を求め、両者の差分から補正値Gdを算出し、以降、次のニュートラル制御が終了するまでの間、当該補正値Gdによりドリフト誤差を補正した加速度検出値Gを用いてニュートラル制御の勾配判定が行われる。
【0032】
実施例2の加速度検出装置31では、N制御抜け時G算出部15の前段に、フィルタ13通過後のGセンサ信号Gsen-fに平均化処理を施すことでGセンサ信号Gsen-fに含まれる車体振動成分を除去する振動成分除去部33を設けた。Gセンサ信号Gsen-fを平均化処理することで、パワートレインのねじれ解放に起因する振動およびサスペンション振動に起因する振動を除去したGセンサ信号Gsen-rを得ることができる。よって、ブレーキオフ時の車体振動による過大な補正値Gdの算出が抑えられ、加速度検出値Gが実際の路面勾配に相当する加速度に対して過度に小さく補正されるのを抑制できる。
【0033】
次に、効果を説明する。
実施例2の加速度検出装置31は、実施例1の効果(1)〜(3)に加え、以下の効果を奏する。
(5) 振動成分除去部20は、停車状態から走行状態へ移行する際に得られた複数のフィルタ13通過後のGセンサ信号Gsen-fに平均化処理を施すため、フィルタ13通過後のGセンサ信号Gsen-fから車体振動成分を効果的に除去できる。
【0034】
(他の実施例)
以上、本発明を実施するための形態を、実施例に基づいて説明したが、本発明の具体的な構成は、実施例に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等があっても本発明に含まれる。
フィルタ処理に用いるフィルタは一次遅れフィルタに限らず、例えば、二次遅れフィルタやバンドパスフィルタを用いてもよい。
平均化処理の方法は相加平均に限らず、例えば、相乗平均、調和平均を用いてもよい。
本発明の加速度検出値Gの補正方法は、ニュートラル制御の終了時に限らず、アイドルストップ制御の終了時にも適用でき、実施例と同様の効果を奏する。
【符号の説明】
【0035】
9 加速度センサ
12,31 加速度検出装置
20,32 振動成分除去部(振動成分除去手段)
21 ゼロ点補正部(ゼロ点補正手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
停車状態から走行状態へ移行する際の加速度センサ信号に含まれる車体振動成分を除去する振動成分除去手段と、
前記車体振動成分除去後の加速度センサ信号に基づく補正値により加速度センサ信号のゼロ点位置を補正するゼロ点補正手段と、
を備えたことを特徴とする加速度検出装置。
【請求項2】
請求項1に記載の加速度検出装置において、
前記振動成分除去手段は、パワートレインのねじれが解放されることに起因する車体振動成分を除去することを特徴とする加速度検出装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の加速度検出装置において、
前記振動成分除去手段は、サスペンション振動に起因する車体振動成分を除去することを特徴とする加速度検出装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の加速度検出装置において、
前記振動成分除去手段は、停車状態から走行状態へ移行する際に得られた複数の加速度センサ信号にフィルタ処理を施すことを特徴とする加速度検出装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の加速度検出装置において、
前記振動成分除去手段は、停車状態から走行状態へ移行する際に得られた複数の加速度センサ信号に平均化処理を施すことを特徴とする加速度検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−78267(P2012−78267A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−225351(P2010−225351)
【出願日】平成22年10月5日(2010.10.5)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)