説明

効率マップ生成装置および効率マップ生成方法

【課題】移動体走行時の各輪のトルク配分を反映したモータの効率マップを作成できること。
【解決手段】効率マップ生成装置100は、移動体の駆動輪に接続された複数個のモータMの効率マップを生成し、複数個のモータMに対して入力された全トルク指令値を検出する全トルク指令値検出部111と、全トルク指令値に基づいて、複数個のモータMの各々に対し複数の組み合わせでトルクを配分するトルク配分部112と、モータMの消費電力を検出する消費電力検出部113と、モータMの回転数を検出する回転数検出部103と、複数の組み合わせにおけるトルク、消費電力、および回転数に基づいてモータ効率マップ115を生成する効率マップ生成部114と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、移動体に設けられるモータの効率マップを生成する効率マップ生成装置および効率マップ生成方法に関する。ただし、この発明の利用は、上述した効率マップ生成装置および効率マップ生成方法には限られない。
【背景技術】
【0002】
従来、移動体である電気自動車(EV)にモータを設け、駆動輪(車輪)を駆動する構成において、効率マップを用いてモータを効率的に制御するものとして、下記の各技術が開示されている。
【0003】
一つめの技術は、電池の充電状態(SOC)に応じて効率マップを選択し、選択された効率マップに基づき効率が最良となるようギヤ段を選択する。そして、SOCの変化に伴いモータの出力特性が変化し、実際の効率マップが変化した場合でも、変化後の効率マップまたはこれに近い効率マップによりギヤ段を選択でき、常に電気自動車の駆動装置のトータル効率を最良にすることができるというものである(下記特許文献1参照。)。
【0004】
二つめの技術は、走行モータの力行時のモータ効率がモータ回転速度Nmotと、モータトルクTmotとに基づいて、予め実験により効率マップとして設定され、モータ単体効率Emotはモータ回転速度NmotとモータトルクTmotに応じて効率マップより求めている。そして、走行モータの回生制動時のモータ効率についても同様に予め実験により設定され、回生制動時にはこの効率マップからモータ単体効率Emotを求めている(下記特許文献2参照。)。
【0005】
三つめの技術は、有効磁束に関する複数の回転電機効率ηマップを有し、要求回転数および要求トルクにおける効率値(回転電機の出力パワー/入力パワー)を複数の回転電機効率ηマップより取得し、複数の回転電機効率ηマップより得られる複数の効率値のうち最も効率の高い値を示す有効磁束を選択するというものである(下記特許文献3参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−168109号公報
【特許文献2】特開2001−231102号公報
【特許文献3】特開2010−213429号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記の特許文献1〜3に記載の技術は、モータの効率マップの生成について具体的な開示がない。いずれの技術も予め効率マップを用意して運用する構成であり、実際の走行中に効率マップを生成、あるいは更新することができなかった。
【0008】
また、特許文献1〜3のいずれも、単一のモータで移動体を駆動する構成であり、複数のモータに対するトルク配分を変化させながら各モータに個別の効率マップを運用するという思想がなく、駆動輪毎にモータを設け、独立したモータ制御を行う移動体には適用できない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決し、目的を達成するため、この発明にかかる効率マップ生成装置は、移動体の駆動輪に接続された複数個のモータの効率マップを生成する効率マップ生成装置であって、前記複数個のモータに対して入力された全トルク指令値を検出する全トルク指令値検出手段と、前記全トルク指令値に基づいて、前記複数個のモータの各々に対し複数の組み合わせでトルクを配分するトルク配分手段と、前記モータの消費電力を検出する消費電力検出手段と、前記モータの回転数を検出する回転数検出手段と、前記複数の組み合わせにおける前記トルク、前記消費電力、および前記回転数に基づいて前記効率マップを生成する効率マップ生成手段と、を備え、前記トルク配分手段は、前記複数の組み合わせにおいて、前記組み合わせの2つの点における前記モータの効率の差異が所定未満の場合は、前記2つの点の間隔を長くし、前記2つの点における前記モータの効率の差異が所定以上の場合は、前記2つの点の間隔を短くする組み合わせとすることを特徴とする。
【0010】
また、この発明にかかる効率マップ生成方法は、移動体の駆動輪に接続された複数個のモータの効率マップを生成する効率マップ生成方法であって、前記複数個のモータに対して入力された全トルク指令値を検出する全トルク指令値検出工程と、前記全トルク指令値に基づいて、前記複数個のモータの各々に対し複数の組み合わせでトルクを配分するトルク配分工程と、前記モータの消費電力を検出する消費電力検出工程と、前記モータの回転数を検出する回転数検出工程と、前記複数の組み合わせにおける前記トルク、前記消費電力、および前記回転数に基づいて前記効率マップを生成する効率マップ生成工程と、を含み、前記トルク配分工程は、前記複数の組み合わせにおいて、前記組み合わせの2つの点における前記モータの効率の差異が所定未満の場合は、前記2つの点の間隔を長くし、前記2つの点における前記モータの効率の差異が所定以上の場合は、前記2つの点の間隔を短くする組み合わせとすることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施の形態1にかかる効率マップ生成装置の機能的構成を示すブロック図である。
【図2】効率マップ生成装置による効率マップ生成処理の手順を示すフローチャートである。
【図3】移動体の構成を示す概要図である。
【図4】効率マップ生成装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
【図5−1】単相モータの消費電力取得にかかる構成を示す図である。
【図5−2】三相モータの消費電力取得にかかる構成を示す図である。
【図5−3】モータの回転数取得にかかる構成を示す図である。
【図6】4輪駆動の移動体モデルを示す説明図である。
【図7】ユークリッド空間中のトルク範囲立方体Bと、平面CとDで挟まれた領域Eと、切断面Aを示す図である。
【図8】トルクT1−T2平面上の離散化ポイントを示す図である。
【図9−1】各駆動輪のモータ効率マップ生成を示す図である(その1)。
【図9−2】各駆動輪のモータ効率マップ生成を示す図である(その2)。
【図9−3】各駆動輪のモータ効率マップ生成を示す図である(その3)。
【図9−4】各駆動輪のモータ効率マップ生成を示す図である(その4)。
【図10】モータ力行効率のトルク依存性を示す図である。
【図11−1】各駆動輪のモータ効率マップ生成を示す図である(その1)。
【図11−2】各駆動輪のモータ効率マップ生成を示す図である(その2)。
【図11−3】各駆動輪のモータ効率マップ生成を示す図である(その3)。
【図11−4】各駆動輪のモータ効率マップ生成を示す図である(その4)。
【図12】実施例1による効率マップ生成処理を示すフローチャートである。
【図13】実施例2によるトルクT1−T2平面上の離散化ポイントを示す図である。
【図14−1】各駆動輪のモータ効率マップ生成を示す図である(その1)。
【図14−2】各駆動輪のモータ効率マップ生成を示す図である(その2)。
【図14−3】各駆動輪のモータ効率マップ生成を示す図である(その3)。
【図14−4】各駆動輪のモータ効率マップ生成を示す図である(その4)。
【図15】モータ力行効率のトルク依存性を示す図である。
【図16−1】各駆動輪のモータ効率マップ生成を示す図である(その1)。
【図16−2】各駆動輪のモータ効率マップ生成を示す図である(その2)。
【図16−3】各駆動輪のモータ効率マップ生成を示す図である(その3)。
【図16−4】各駆動輪のモータ効率マップ生成を示す図である(その4)。
【図17】実施例2による効率マップ生成処理を示すフローチャートである。
【図18】本発明の実施の形態2による回生トルク配分を示す図である。
【図19−1】回生トルク発生時のモータ効率マップ上でのトルク範囲を示す図である。
【図19−2】モータ効率マップの高トルク領域の取得を示す図である。
【図20】4輪駆動の移動体モデルを示す説明図である。
【図21】ユークリッド空間中のトルク範囲立方体B’と、平面C’とD’で挟まれた領域E’と切断面Aを示す図である。
【図22】トルクT1−T2平面上の離散化ポイントを示す図である。
【図23−1】各駆動輪のモータ効率マップ生成を示す図である(その1)。
【図23−2】各駆動輪のモータ効率マップ生成を示す図である(その2)。
【図23−3】各駆動輪のモータ効率マップ生成を示す図である(その3)。
【図23−4】各駆動輪のモータ効率マップ生成を示す図である(その4)。
【図24】モータ力行/回生効率のトルク依存性を示す図である。
【図25−1】各駆動輪のモータ効率マップ生成を示す図である(その1)。
【図25−2】各駆動輪のモータ効率マップ生成を示す図である(その2)。
【図25−3】各駆動輪のモータ効率マップ生成を示す図である(その3)。
【図25−4】各駆動輪のモータ効率マップ生成を示す図である(その4)。
【図26】実施の形態2による効率マップ生成処理を示すフローチャートである。
【図27】回生効率マップ生成の他の手法を示す図である。
【図28】力行効率と回生効率の対応関係を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に添付図面を参照して、この発明にかかる効率マップ生成装置および効率マップ生成方法の好適な実施の形態を詳細に説明する。以下の説明において、「回転速度」とは「駆動輪回転速度」であることとして説明する。
【0013】
(実施の形態1)
(効率マップ生成装置の構成)
図1は、実施の形態1にかかる効率マップ生成装置の機能的構成を示すブロック図である。実施の形態1にかかる効率マップ生成装置100は、移動体を走行させながら複数の駆動輪に対するトルク配分を制御し、駆動輪を駆動するモータの効率マップを生成(および更新)する。効率マップの情報は、モータの回転速度に対するトルクの特性である。
【0014】
トルク配分制御部101は、移動体に設けられる複数個nのモータM1〜Mnに対するトルク配分を制御する。このトルク配分制御部101は、移動体の駆動を統括制御するコントローラ(ECU)の一部の構成として設けられている。
【0015】
複数のモータM1〜Mnは、直流電源の電源供給を受け、インバータ回路(INV)102は、トルク配分制御部101の制御信号Sに基づき、配分された各トルクで各モータM1〜Mnを駆動する。
【0016】
モータM1〜Mnの回転数は、回転数検出部103によってそれぞれ検出され、トルク配分制御部101に出力される。また、モータM1〜Mnの各電源ライン上において、インバータ回路102の前段には電圧検出部104と、電流検出部105が設けられ、それぞれ検出した電圧と電流はトルク配分制御部101に出力される。
【0017】
トルク配分制御部101は、全トルク指令値検出部111と、トルク配分部112と、消費電力検出部113と、効率マップ生成部114と、モータ効率マップ115とによって構成される。
【0018】
全トルク指令値検出部111は、移動体を駆動するための全トルク指令値を取得する。すなわち、駆動輪にそれぞれ設けられた複数個nのモータM(M1,M2,…Mn)を駆動するためにアクセルペダル操作により入力された全トルク指令値に基づき、移動体を駆動する駆動力を算出する。なお、この実施形態において、複数個のモータMは、同じ種類のモータを使用することを前提として説明する。
【0019】
トルク配分部112は、全トルク指令値検出部111で検出された全トルク指令値に基づいて、複数個nのモータM1〜Mnの各々に対して複数の組み合わせでトルクを配分し、制御信号Sによりインバータ回路102を介して配分したトルク配分値で各モータM1〜Mnを駆動する。
【0020】
効率マップ生成部114は、トルク配分部112により配分された複数の組み合わせにおけるトルク配分値と、消費電力検出部113で検出された各モータM1〜Mnの消費電力と、回転数検出部103で検出された各モータM1〜Mnの回転数に基づいて各モータM1〜Mnのモータ効率マップ115を生成する。このモータ効率マップ115はメモリに記憶される。
【0021】
(効率マップ生成処理について)
図2は、効率マップ生成装置による効率マップ生成処理の手順を示すフローチャートである。はじめに、全トルク指令値検出部111により、駆動輪にそれぞれ設けられた複数個のモータM1〜Mnを駆動するためにアクセルペダルから入力された全トルク指令値Tを検出する(ステップS201)。
【0022】
以下に説明する処理により効率マップを生成する際には、モータ効率マップ生成モードにして行う。このモータ効率マップ生成モードは、モータを搭載する移動体におけるモータ効率向上のために行うものであり、任意の時期あるいは定期的に行うことができる。たとえば、移動体の出荷後の試運転時、表示されている燃費が悪いと感じたとき、等にユーザが任意に行ったり、効率マップ生成装置100がある一定時間経過毎(たとえば1ヶ月毎)に起動要求をユーザに報知して行うことができる。このモータ効率マップ生成モード時には、
1.移動体は一定速度で走行させる。
2.移動体の重心まわりのモーメントを0にする。
以上の2つを条件とする。
【0023】
つぎに、トルク配分部112は、全トルク指令値検出部111で検出された全トルク指令値に基づいて、複数個nのモータM1〜Mnの各々に対して複数の組み合わせでトルク配分する(ステップS202)。このトルク配分は、初期値であり予め定めた配分割合とする(たとえば全モータM1〜Mnに対して均等にトルクを配分する等)。この際、消費電力検出部113により、モータM1〜Mnの消費電力を検出し(ステップS203)、回転数検出部103により各モータM1〜Mnの回転数を検出する(ステップS204)。
【0024】
これにより、効率マップ生成部114は、トルク配分部112により配分された複数の組み合わせにおけるトルクと、消費電力検出部113で検出された各モータM1〜Mnの消費電力と、回転数検出部103で検出された各モータM1〜Mnの回転数に基づいて、あるトルク配分における各モータM1〜Mnのモータ効率マップ115を生成する(ステップS205)。厳密には効率マップ生成のための情報である、モータ効率のトルク依存特性を得ることができる。
【0025】
そして、上記条件1.2.を満たしながら、トルク配分部112により、モータM1〜Mnに対するトルク配分の割合を異なるトルク配分に変化させる(ステップS206)。このトルク配分の変化は、たとえば駆動輪(モータ数)が4のとき、駆動輪を4輪選択した場合(1通り)、3輪を選択した場合(4通り)、2輪の選択(6通り)、1輪だけの選択(4通り)、で示される駆動輪選択でトルク配分を変化させることができる。すなわち、アクセルペダル踏み込み量で設定されるある一定な全トルク指令値に対して、一つのモータあたり4種類のトルク値のデータを得ることができる。
【0026】
そして、効率マップ生成完了までの間は(ステップS207:No)、ステップS202に戻り、上記条件1.2.を満たしながら、ステップS202〜ステップS206の処理を継続して行う。これにより、ある一定速度でトルク配分を変えたときのモータ効率マップ115生成の情報(マップ上のプロット点)を得ることができる。
【0027】
上述の説明では、ある一定速度についての処理を説明したが、この一定速度を異なる速度に変化させて、この新たな一定速度についても同様に処理を行う。そして、速度別にトルク配分が異なる情報を全て得ることにより、モータ効率マップ115の生成が完了し(ステップS207:Yes)、処理を終了する。
【0028】
以上説明した実施の形態1にかかる効率マップ生成装置100は、実際に移動体を走行させて複数のモータのモータ効率マップ115を生成する。これにより、複数のモータM1〜Mnが搭載された移動体を実際に走行駆動させたモータ効率マップ115を得ることができ、モータ効率マップ115の信頼性を向上できるようになる。このモータ効率マップ115は、各モータM1〜Mnに対するトルク配分を変化させて生成しているため、モータ効率のトルク依存特性をモータ効率マップ115上に正確に反映させることができる。そして、生成されたモータ効率マップ115を用いることにより、以降の走行時にモータを高効率で制御でき、燃費向上できるようになる。
【0029】
なお、本発明の実施の形態1では、モータ効率マップ115を移動体を走行させながら生成する構成としたが、予め所定のモータ効率マップ115を用意し、走行時にこれを読みながら、データを更新する構成とすることもできる。また、同一の車種で異なる移動体であれば他の移動体で生成されたモータ効率マップ115をそのまま利用することも可能である。
【実施例】
【0030】
(実施例1)
以下に、本発明の実施例1について説明する。本実施例1では、4つの駆動輪にそれぞれ組み込まれ、独立して駆動されるインホイール型のモータを搭載した車両等の移動体に効率マップ生成装置を適用した場合の一例について説明する。この場合、モータMの個数は、M1〜M4の4個を用いる。モータMとしては、三相交流モータやDCモータを用いることができる。以下の実施例では4つの駆動輪に同一のモータを用いる。なお、後述のように、駆動輪は、4つに限られず、2つ、3つ、あるいは5つ以上にも本発明を適用することが可能である。
【0031】
(移動体の構成)
図3は、移動体の構成を示す概要図である。移動体300は、左右の前駆動輪FL,FRと、左右の後駆動輪RL,RRを有する4輪駆動車である。これら4つの各駆動輪FL,FR,RL,RRには、それぞれインホイール型のモータM1〜M4が設けられ、独立に駆動される。
【0032】
これらモータM1〜M4には、それぞれモータ駆動用のインバータ回路INVが設けられ、各インバータ回路INVはコントローラ(ECU)301の制御に基づき、モータM1〜M4を駆動する。このコントローラ301には各種情報が入力され、トルク配分された結果、各モータM1〜M4を駆動する。
【0033】
コントローラ301に対する入力としては、以下がある。ハンドル302からは操舵角が入力される。アクセルペダル303からは、全トルク指令値が入力される。ブレーキペダル304からはブレーキ量が入力される。サイドブレーキ305からはサイドブレーキ量が入力される。ギヤ306からはR,N,D等のシフトポジションが入力される。
【0034】
また、各駆動輪FL,FR,RL,RRには、それぞれ回転速度Vを検出するセンサ307a〜307dが設けられ、各駆動輪FL,FR,RL,RRの回転速度Vfl,Vfr,Vrl,Vrrがコントローラ301に入力される。また、各駆動輪FL,FR,RL,RRには、それぞれタイヤが地面から受ける垂直抗力Nを検出するセンサ308a〜308dが設けられ、各駆動輪FL,FR,RL,RRの垂直抗力Nfl、Nfr,Nrl,Nrrがコントローラ301に入力される。
【0035】
また、移動体300には、加速度センサ309が設けられ、検出した加速度がコントローラ301に入力される。また、移動体300には、ヨーレートセンサ310が設けられ、検出したヨーレートがコントローラ301に入力される。
【0036】
コントローラ301は、上記の入力に基づき、各駆動輪FL,FR,RL,RRを駆動する。駆動のための制御信号は、各駆動輪FL,FR,RL,RR毎に適切にトルク配分され、インバータ回路INVを介して各モータM1〜M4に供給される。
【0037】
バッテリ312は、移動体300全体に対して電源供給する。特に、インバータ回路INVを介して各駆動輪FL,FR,RL,RRのモータM1〜M4を駆動するための駆動源となる。このバッテリ312としては、ニッケル水素、リチウムイオン等の二次電池や燃料電池などが適用される。
【0038】
上記のインバータ回路INVは、移動体300の回生時に、モータM1〜M4が発電した交流電圧を直流電圧に変換し、その変換した直流電圧をバッテリ312へ供給することができる。この回生とは、移動体300を運転するドライバによるブレーキペダル304の操作による発電や、走行中にアクセルペダル303の踏み込みを緩和することによる発電を示す。
【0039】
(効率マップ生成装置のハードウェア構成)
つぎに、効率マップ生成装置400のハードウェア構成について説明する。図4は、効率マップ生成装置のハードウェア構成を示すブロック図である。図4において、効率マップ生成装置400は、CPU401、ROM402、RAM403、通信I/F415、GPSユニット416、各種センサ417を備えている。各構成部401〜417は、バス420によってそれぞれ接続されている。
【0040】
CPU401は、効率マップ生成装置400の全体の制御を司る。ROM402は、ブートプログラム、トルク配分プログラムなどのプログラムが記録され、また、モータ効率マップなどを保持することができる。RAM403は、CPU401のワークエリアとして使用される。すなわち、CPU401は、RAM403をワークエリアとして使用しながら、ROM402に記録されたプログラムを実行することによって、効率マップ生成装置400の全体の制御を司る。
【0041】
通信I/F415は、無線を介してネットワークに接続され、効率マップ生成装置400およびCPU401のインターフェースとして機能する。ネットワークとして機能する通信網には、公衆回線網や携帯電話網、DSRC(Dedicated Short Range Communication)、LAN、WANなどがある。通信I/F415は、たとえば、公衆回線用接続モジュールやETCユニット、FMチューナー、VICS(Vehicle Information and Communication System(登録商標))/ビーコンレシーバなどである。
【0042】
GPSユニット416は、GPS衛星からの電波を受信し、移動体の現在位置を示す情報を出力する。GPSユニット416の出力情報は、後述する各種センサ417の出力値とともに、CPU401による移動体の現在位置の算出に際して利用される。現在位置を示す情報は、たとえば、緯度・経度、高度などの、地図データ上の1点を特定する情報である。
【0043】
モータ効率マップ115を移動体外部のサーバ等から取得する場合は、通信I/F415を用いる。各種センサ417については、車体速度と垂直抗力の検出に用いる。車体速度は、たとえば以下の方法により検出する。
1.加速度センサの出力を積分
2.非駆動輪の回転速度から算出
3.光学的な位置センサから算出
【0044】
また、垂直抗力を検出するためには、各タイヤにそれぞれ設けた荷重センサを用いるか、あるいは以下の方法により検出する。
1.加速度センサ出力から重心位置のずれを求めて、前輪と後輪の荷重バランスを算出
2.角速度センサ出力から重心位置のずれを求めて、右輪と左輪の荷重バランスを算出
3.傾斜センサ(ジャイロ)出力から重心位置のずれを求めて、前輪と後輪および右輪と左輪の荷重バランスを算出
【0045】
図1に示した効率マップ生成装置100のトルク配分制御部101の各構成は、上述した効率マップ生成装置400におけるROM402、RAM403、等に記録されたプログラムやデータを用いて、CPU401が所定のプログラムを実行し、効率マップ生成装置400における各部を制御することによってその機能を実現する。
【0046】
つぎに、モータの消費電力取得にかかる構成を説明する。図1に示した消費電力検出部113における消費電力検出のための情報は、図示のように電流計と電圧計の検出出力を用いることができる。
【0047】
図5−1は、単相モータの消費電力取得にかかる構成を示す図である。モータMに直列に電流計Iを設け、並列に電圧計Uを設けてそれぞれ瞬時電流Iと瞬時電圧Uを検出する。消費電力検出部113では、消費電力P=(瞬時電力I×瞬時電圧U)の積分、により求める。
【0048】
図5−2は、三相モータの消費電力取得にかかる構成を示す図である。2電力計法により、モータMの2相に直列に電流計I1,I2を設け、2相間に並列に電圧計U1,U2を設けてそれぞれ瞬時電流I1,I2と瞬時電圧U1,U2を検出する。消費電力検出部113では、消費電力P=P1(瞬時電力I1×瞬時電圧U1)の積分+P2(瞬時電力I2×瞬時電圧U2)の積分により求める。
【0049】
図5−3は、モータの回転数取得にかかる構成を示す図である。図示の構成例は、光学式パルスエンコーダであり、モータMの回転軸にスリット板500を設け、このスリット板500の一方からLED501から光を照射させ、スリット板500の他方でLED501の光、すなわち回転するスリット板500を透過したパルス光を受光素子(PD)502で受光する。受光素子502で検出したパルス光は、図1に示した回転数検出部103に出力され、回転数検出部103は、単位時間あたりのパルス数に基づきモータMの回転数を検出する。
【0050】
モータの回転数取得の構成は、図5−3に示した構成に限らず、他に磁気式パルスエンコーダを用いたり、レゾルバを用いる等、各種方法が考えられる。
【0051】
(モータ効率マップ生成の概要)
つぎに、モータ効率マップ生成の概要について説明する。図6は、4輪駆動の移動体モデルを示す説明図である。タイヤ有効半径r=0.22m、最大モータトルク=100Nm、車両中心軸と前輪との距離(WF)=0.60m、車両中心軸と後輪との距離(WR)=0.40m、トレッド幅前後比ρ=WF/WR=1.5である。
【0052】
そして、現在の車輪速度V=40km/h=11.11m/sとすると、各車輪の回転数は、ω=V/r=50.505rad/sとなる。また、ドライバのアクセル操作による全トルク指令値から車両にかかる駆動力F=500Nとする。
【0053】
各駆動輪で発生する駆動力の総和が移動体にかかる駆動力Fに一致する。
F1+F2+F3+F4=F
車両にかかる重心まわりのヨーモーメントが0であれば、
W1×F1+W2×F2+W3×F3+W4×F4=0となる。
【0054】
各車輪のモータが発生するトルクに換算すると、以下のような4元一次連立方程式となる。
T1+T2+T3+T4=r×F …(方程式1.1)
W1×T1+W2×T2+W3×T3+W4×T4=0 …(方程式1.2)
(W1−W4)×T1+(W2−W4)×T2+(W3−W4)×T3+r×F×W4=0
【0055】
図7は、ユークリッド空間中のトルク範囲立方体Bと、平面CとDで挟まれた領域Eと、切断面Aを示す図である。領域Eがモータのトルク値が取り得る領域を示す。T1,T2,T3は、それぞれトルク軸である。
ここで、W1=+WF、W2=−WF、W3=+WR、W4=−WRとすると、
(1+WF/WR)×T1+(1−WF/WR)×T2+2×T3=r×F
(1+ρ)×T1+(1−ρ)×T2+2×T3=r×F …平面A
【0056】
ここで、各車輪のモータは、全て同等の仕様を持つと仮定すると、各車輪を駆動するモータが発生できるトルク範囲は、以下の連立不等式で示される。
0<T1<100、0<T2<100、0<T3<100、0<T4<100
【0057】
0<T1<100、0<T2<100、0<T3<100 …立方体B
T1+T2+T3=r×F …平面C
T1+T2+T3=r×F−100 …平面D
【0058】
上記の連立不等式は、立方体Bの内部でかつ平面CとDで挟まれた領域Eを示す。したがって、各車輪のモータは、平面Aで切り取られた領域Eの切断面上の任意の点(T1,T2,T3)のトルク値を取ることができる。
【0059】
図8は、トルクT1−T2平面上の離散化ポイントを示す図であり、図9−1〜図9−4は、各駆動輪のモータ効率マップ生成を示す図である。平面AのT1,T2面への射影を領域801で示す。この領域801のうち領域EのT1−T2面への射影を領域802で示した。そして、T1−T2面上をΔT=10Nmで離散化した。たとえば、図9−1のようにT1=30Nmのとき、領域Eに含まれるポイントは、図9−2のようにT2=0、10、20、30、40Nm(図示の●)である。このとき、平面Aの方程式および方程式(1.1)からそれぞれ、図9−3のようにT3=17.5、20、22.5、25、27.5Nm、図9−4のようにT4=62.5、50、37.5、25、12.5Nmである。
【0060】
つぎに、車輪速度V=40km/h、すなわち、ω=50.505rad/sのとき、上述したトルク配分のポイントで、それぞれのモータ効率を測定する。たとえば、T1=30Nm、T2=20Nm、T3=22.5Nm、T4=37.5Nmと分配したとき、各モータの電流と電圧から瞬時消費電力P1,P2,P3,P4を計測する。このとき、各モータの力行効率ηi=Ti×(ω/Pi)となる。
【0061】
図10は、モータ力行効率のトルク依存性を示す図である。T2=0〜40Nmまで変化させたとき、モータ2の力行効率η2のトルク依存性を示す。
【0062】
つぎに、車速が任意の離散化ΔV=10km/h分だけ変化したときに、同様の手順でモータ力行効率を計測し、これを車速毎に繰り返すと、効率マップ全体を構築することができる。図11−1〜図11−4は、各駆動輪のモータ効率マップ生成を示す図である。
【0063】
そして、複数個のモータMが同じ種類のモータを使用する場合は、図11−1〜図11−4で生成された効率マップを1つの効率マップに合体させることにより、効率マップを高速に生成することが可能となる。つまり、モータ効率マップは駆動輪毎ではなく、モータの種類毎に生成されるからである。
【0064】
(効率マップ生成装置による効率マップ生成処理)
図12は、実施例1による効率マップ生成処理を示すフローチャートである。本実施例の効率マップ生成装置400による効率マップ生成処理について説明する。下記の処理は効率マップ生成装置400のCPU401(図3のコントローラ301)が実行処理する。
【0065】
はじめに、効率マップ生成モードへの移行指示があると、効率マップ生成装置400は、効率マップ生成モードに移行してよい状況か判断する(ステップS1201)。たとえば、効率マップ生成に必要なデータを収集するまでの期間、一定速度で走行可能な状態であるかを判断する。より具体的には、地図情報や渋滞情報を取得し、今後の走行経路が所定期間、直線道路である一定速度で走行可能であるかを判断する。効率マップ生成モードに移行してよい状況であれば(ステップS1201:Yes)、ステップS1202以下の処理を実行し、効率マップ生成モードに移行できない状況であれば(ステップS1201:No)、モード移行を中止し、終了する。
【0066】
効率マップの生成処理が開始されると(ステップS1202)、はじめに、アクセルペダル操作による全トルク指令値から車両の駆動力F[N]を算出する(ステップS1203)。そして、算出された駆動力に基づいて、上記方程式(1.1)および平面の方程式Aを決定する。そして、駆動力に基づいて、力行トルク範囲を示す領域Eを決定する。そして、領域Eに含まれる平面Aの切断面を算出し、射影領域を算出する(ステップS1204)。
【0067】
つぎに、射影領域内のトルクについて、ある一定基準で離散化し、平面の方程式Aおよび方程式(1.1)から、各モータのトルク配分を決定する(ステップS1205)。そして、決定したトルク配分で各モータのインバータ回路INVに、トルク指令値を与える(ステップS1206)。この各モータのトルク指令値は、タイヤ有効半径を考慮して決定する。この際、各モータの電流を計測する(ステップS1207)。
【0068】
そして、各モータの回転数を計測する(ステップS1208)。そして、各モータのトルクと回転数から仕事率を算出する(ステップS1209)。
【0069】
また、ステップS1208の処理と並行して、各モータの電圧を計測する(ステップS1210)。そして、各モータの電流と電圧から消費電力を算出する(ステップS1211)。
【0070】
この後、ステップS1209により算出された仕事率と、ステップS1211により算出された消費電力から力行効率を算出する(ステップS1212)。そして、力行効率のトルクおよび回転数の依存性データ(図11−1〜図11−4)が揃ったか判断し(ステップS1213)。揃っていなければ(ステップS1213:No)、トルク配分を変えたデータを収集すべくステップS1205以下の処理を繰り返し、力行効率のトルクおよび回転数の依存性データが揃えば(ステップS1213:Yes)、処理を終了する。
【0071】
上記の実施例1では、移動体を走行させながら速度一定とし、重心まわりのヨーモーメントを0にする条件の元で、各モータのトルク配分を変化させることにより、ある回転数(走行時の車速)におけるモータ効率のトルク依存性を計測可能となる。これを各回転数で計測することにより、移動体の効率マップを自車で容易に生成することができるようになる。
【0072】
(実施例2)
本実施例2では、効率マップの生成をより効率的に行う構成である。上記図10に示したように、モータはトルクに対する力行の特性(効率曲線)の変化が急であったり、穏やかであったりする。このため、変化が穏やかな箇所では、離散の間隔を粗くし、変化が急な箇所では離散の間隔を密にし、離散の間隔を効率曲線の変化に応じて変更する構成とする。この際、離散化された隣接する一対のモータの効率の差異が所定未満であるか否か所定の閾値を用いて判断する。
【0073】
実施例2における4輪駆動の移動体モデルは図6同様であるとする。また、図7に示した、ユークリッド空間中のトルク範囲立方体Bと、平面CとDで挟まれた領域E、切断面Aの関係についても同様であるとする。
【0074】
図13は、実施例2によるトルクT1−T2平面上の離散化ポイントを示す図である。平面AのT1,T2面への射影を領域1301で示す。この領域1301のうち領域EのT1−T2面への射影を領域1302で示した。効率マップ上での効率変化は、周辺部で急峻であり、中心部で穏やかとなるため、トルク離散化の差分を周辺部では密に、中心部は疎にすることにより、効率的な計測が可能になる。
【0075】
たとえば、T1=30Nmのとき、領域Eに含まれるポイントをT2=0、4、10、18、30Nmとする。このとき、平面Aの方程式および方程式(1.1)からそれぞれ、T3=17.5、18.5、20、22.25Nm、T4=62.5、57.5、50、40、25Nmが得られる。
【0076】
図14−1〜図14−4は、各駆動輪のモータ効率マップ生成を示す図である。これら各モータ効率マップは、上記の粗密で離散化したポイントを示してある。
【0077】
つぎに、車輪速度V=40km/h、すなわち、ω=50.505rad/sのとき、上述したトルク配分のポイントで、それぞれのモータ効率を測定する。たとえば、T1=30Nm、T2=18Nm、T3=22Nm、T4=40Nmと分配したとき、各モータの電流と電圧から瞬時消費電力P1,P2,P3,P4を計測する。このとき、各モータの力行効率ηi=Ti×(ω/Pi)となる。
【0078】
図15は、モータ力行効率のトルク依存性を示す図である。T2=0〜40Nmまで変化させたとき、モータ2の力行効率η2のトルク依存性を示す。図示のように、変化が穏やかな箇所では、間隔を粗くし、変化が急な箇所では間隔を密にすることで、必要十分な離散化ポイントで滑らかな効率マップを生成できるようになる。
【0079】
つぎに、車速が任意の離散化ΔV=10km/h分だけ変化したときに、同様の手順でモータ力行効率を計測し、これを車速毎に繰り返すと、効率マップ全体を構築することができる。図16−1〜図16−4は、各駆動輪のモータ効率マップ生成を示す図である。そして、複数個のモータMが同じ種類のモータを使用する場合は、図16−1〜図16−4で生成された効率マップを1つの効率マップに合体させることにより、効率マップを高速に生成することが可能となる。
【0080】
(効率マップ生成装置による効率マップ生成処理)
図17は、実施例2による効率マップ生成処理を示すフローチャートである。本実施例の効率マップ生成装置400による効率マップ生成処理について説明する。下記の処理は効率マップ生成装置400のCPU401(図3のコントローラ301)が実行処理する。
【0081】
はじめに、効率マップ生成モードへの移行指示があると、効率マップ生成装置400は、効率マップ生成モードに移行してよい状況か判断する(ステップS1701)。たとえば、効率マップ生成に必要なデータを収集するまでの期間、一定速度で走行可能な状態であるかを判断する。より具体的には、地図情報や渋滞情報を取得し、今後の走行経路が所定期間、直線道路である一定速度で走行可能であるかを判断する。効率マップ生成モードに移行してよい状況であれば(ステップS1701:Yes)、ステップS1702以下の処理を実行し、効率マップ生成モードに移行できない状況であれば(ステップS1701:No)、モード移行を中止し、終了する。
【0082】
効率マップの生成処理が開始されると(ステップS1702)、はじめに、アクセルペダル操作による全トルク指令値から車両の駆動力F[N]を算出する(ステップS1703)。そして、算出された駆動力に基づいて、上記方程式(1.1)および平面の方程式Aを決定する。そして、駆動力に基づいて、力行トルク範囲を示す領域Eを決定する。そして、領域Eに含まれる平面Aの切断面を算出し、射影領域を算出する(ステップS1704)。
【0083】
つぎに、射影領域内のトルクについて、ある一定基準で離散化し、平面の方程式Aおよび方程式(1.1)から、各モータのトルク配分を決定する(ステップS1705)。この際、射影領域内のトルクについて、効率変化が大きい条件では密に、小さい条件では疎になるように離散化して行う。そして、決定したトルク配分で各モータのインバータ回路INVに、トルク指令値を与える(ステップS1706)。この各モータのトルク指令値は、タイヤ有効半径を考慮して決定する。この際、各モータの電流を計測する(ステップS1707)。
【0084】
そして、各モータの回転数を計測する(ステップS1708)。そして、各モータのトルクと回転数から仕事率を算出する(ステップS1709)。
【0085】
また、ステップS1708の処理と並行して、各モータの電圧を計測する(ステップS1710)。そして、各モータの電流と電圧から消費電力を算出する(ステップS1711)。
【0086】
この後、ステップS1709により算出された仕事率と、ステップS1711により算出された消費電力から力行効率を算出する(ステップS1712)。そして、力行効率のトルクおよび回転数の依存性データ(図16−1〜図16−4)が揃ったか判断し(ステップS1713)。揃っていなければ(ステップS1713:No)、トルク配分を変えたデータを収集すべくステップS1705以下の処理を繰り返し、力行効率のトルクおよび回転数の依存性データが揃えば(ステップS1713:Yes)、処理を終了する。
【0087】
このように、実施例2によれば、移動体を走行させながら速度一定とし、重心まわりのヨーモーメントを0にする条件の元で、各モータのトルク配分を変化させることにより、ある回転数(走行時の車速)におけるモータ効率のトルク依存性を計測可能となる。これを各回転数で計測することにより、移動体の効率マップを自車で容易に生成することができるようになる。さらに、実施例2では、モータのトルクに対する力行の効率曲線の変化に応じて離散の間隔を変更する構成としたので、効率マップを生成するために必要かつ十分な測定ポイント数を効率的に得ることができ、効率マップを効率的に早く生成することができるようになる。
【0088】
(実施の形態2)
つぎに、本発明の実施の形態2について説明する。実施の形態2は、モータ効率マップの高トルク領域の生成に関するものである。高トルク領域のデータを取得するために、回生輪で制動させながら駆動輪で駆動する構成とする。これにより、アクセルペダル操作による全トルク指令値以上のトルクを駆動輪に与えることができるため、高トルク領域のデータを得ることができるようになる。
【0089】
実施の形態2における効率マップ生成装置の構成は、実施の形態1と同様であるが、図1に示したトルク配分部112が複数個のモータのいずれかに回生トルクを発生させる制御を行う点が異なる。
【0090】
図18は、本発明の実施の形態2による回生トルク配分を示す図である。全トルク指令値Tは、各駆動輪に配分される(a)〜(c)。ここで、走行姿勢安定化のため、左右輪のトルクは同じ値に設定する。そして、回生トルク発生時には、T=TFR+TFL−TRR−TRLで配分される(d),(e)。回生トルクは、力行トルクと方向が逆である。
【0091】
図19−1は、回生トルク発生時のモータ効率マップ上でのトルク範囲を示す図である。回生トルクにより、移動体が速度ωおよび全トルク指令値Tで走行しているとき、全トルク指令値Tを一定にしたまま、前輪もしくは後輪トルクを0.5T<Tx<Tmaxの範囲(ただし回生トルクの範囲)で変化させることができる。
【0092】
図19−2は、モータ効率マップの高トルク領域の取得を示す図である。上記により、図19−2に示すように、ある走行パターンDに沿ってトルクが変化する場合、最大トルクの1/2から最大トルクまでの効率マップに必要なデータ1901を取得できるようになる。特に、通常走行では取得できない高トルク領域Hのデータを取得できるようになる。
【0093】
(回生分を含めたモータ効率マップ生成の概要)
つぎに、回生分を含めたモータ効率マップ生成の概要について説明する。図20は、4輪駆動の移動体モデルを示す説明図である。タイヤ有効半径r=0.22m、最大モータ力行トルク=100Nm、最大モータ回生トルク=70Nm、車両中心軸と前輪との距離(WF)=0.60m、車両中心軸との距離(WR)=0.40m、トレッド幅前後比ρ=WF/WR=1.5である。
【0094】
そして、現在の車輪速度V=40km/h=11.11m/sとすると、各車輪の回転数は、ω=V/r=50.505rad/sとなる。また、ドライバのアクセル操作による全トルク指令値から車両にかかる駆動力F=500Nとする。
【0095】
各駆動輪で発生する駆動力の総和が移動体にかかる駆動力Fに一致する。
F1+F2+F3+F4=F
車両にかかる重心まわりのヨーモーメントが0であれば、
W1×F1+W2×F2+W3×F3+W4×F4=0となる。
【0096】
各車輪のモータが発生するトルクに換算すると、以下のような4元一次連立方程式となる。
T1+T2+T3+T4=r×F …(方程式1.1)
W1×T1+W2×T2+W3×T3+W4×T4=0 …(方程式1.2)
(W1−W4)×T1+(W2−W4)×T2+(W3−W4)×T3+r×F×W4=0
【0097】
図21は、ユークリッド空間中のトルク範囲立方体B’と、平面C’とD’で挟まれた領域E’と切断面Aを示す図である。領域E’がモータのトルク値が取り得る領域を示す。T1,T2,T3は、それぞれトルク軸である。
ここで、W1=+WF、W2=−WF、W3=+WR、W4=−WRとすると、
(1+WF/WR)×T1+(1−WF/WR)×T2+2×T3=r×F
(1+ρ)×T1+(1−ρ)×T2+2×T3=r×F …平面A
【0098】
ここで、各車輪のモータは、全て同等の仕様を持つと仮定すると、各車輪を駆動するモータが発生できるトルク範囲は、以下の連立不等式で示される。
−70<T1<100、−70<T2<100、−70<T3<100、−70<T4<100
【0099】
−70<T1<100、−70<T2<100、−70<T3<100 …立方体B’
T1+T2+T3=r×F+70 …平面C’
T1+T2+T3=r×F−100 …平面D’
【0100】
上記の連立不等式は、立方体B’の内部でかつ平面C’とD’で挟まれた領域E’を示す。したがって、各車輪のモータは、平面Aで切り取られた領域E’の切断面上の任意の点(T1,T2,T3)のトルク値を取ることができる。
【0101】
図22は、トルクT1−T2平面上の離散化ポイントを示す図であり、図23−1〜図23−4は、各駆動輪のモータ効率マップ生成を示す図である。平面AのT1,T2面への射影を領域2201で示す。また、領域E’のT1−T2面への射影を領域2202で示した。そして、T1−T2面上をΔT=10Nmで離散化した。たとえば、図23−1のようにT1=30Nmのとき、領域E’に含まれるポイントは、図23−2のようにT2=−20、−10、0、10、20、…、100Nm(図示の●)である。このとき、平面Aの方程式および方程式(1.1)からそれぞれ、図23−3のようにT3=12.5、15、…、42.5Nm、図23−4のようにT4=87.5、75、…、−62.5Nmである。
【0102】
図示のように、回生分をマイナスのトルク軸方向に生成することができる。以上の方法で、駆動力一定、かつヨーモーメントの発生なしの条件で回生分を含めたトルク配分ができるようになる。
【0103】
つぎに、車輪速度V=40km/h、すなわち、ω=50.505rad/sのとき、上述したトルク配分のポイントで、それぞれのモータ効率を測定する。たとえば、T1=30Nm、T2=−20Nm、T3=12.5Nm、T4=87.5Nmと分配したとき、各モータの電流と電圧から瞬時消費電力および回生電力P1,P2,P3,P4を計測する。このとき、各モータの力行効率(および回生効率)ηi=abs(Ti)×(ω/Pi)となる。
【0104】
図24は、モータ力行/回生効率のトルク依存性を示す図である。T2=−30〜100Nmまで変化させたとき、モータ2の力行効率η2のトルク依存性を示す。
【0105】
つぎに、車速が任意の離散化ΔV=10km/h分だけ変化したときに、同様の手順でモータ力行効率および回生効率を計測し、これを車速毎に繰り返すと、効率マップ全体を構築することができる。図25−1〜図25−4は、各駆動輪のモータ効率マップ生成を示す図である。図示のように、マイナスのトルク軸に回生効率のトルクのデータが生成される。そして、複数個のモータMが同じ種類のモータを使用する場合は、図25−1〜図25−4で生成された効率マップを1つの効率マップに合体させることにより、効率マップを高速に生成することが可能となる。
【0106】
(回生トルクを含めた効率マップ生成処理)
図26は、実施の形態2による効率マップ生成処理を示すフローチャートである。はじめに、効率マップ生成モードへの移行指示があると、効率マップ生成装置400は、効率マップ生成モードに移行してよい状況か判断する(ステップS2601)。たとえば、効率マップ生成に必要なデータを収集するまでの期間、一定速度で走行可能な状態であるかを判断する。より具体的には、地図情報や渋滞情報を取得し、今後の走行経路が所定期間、直線道路である一定速度で走行可能であるかを判断する。効率マップ生成モードに移行してよい状況であれば(ステップS2601:Yes)、ステップS2602以下の処理を実行し、効率マップ生成モードに移行できない状況であれば(ステップS2601:No)、モード移行を中止し、終了する。
【0107】
効率マップの生成処理が開始されると(ステップS2602)、はじめに、アクセルペダル操作による全トルク指令値から車両の駆動力F[N]を算出する(ステップS2603)。そして、算出された駆動力に基づいて、上記方程式(1.1)および平面の方程式Aを決定する。そして、駆動力に基づいて、力行トルク範囲および回生トルク範囲を示す領域Eを決定する。そして、領域Eに含まれる平面Aの切断面を算出し、射影領域を算出する(ステップS2604)。
【0108】
つぎに、射影領域内のトルクについて、ある一定基準で離散化し、平面の方程式Aおよび方程式(1.1)から、各モータのトルク配分を決定する(ステップS2605)。そして、決定したトルク配分で各モータのインバータ回路INVに、トルク指令値を与える(ステップS2606)。この各モータのトルク指令値は、タイヤ有効半径を考慮して決定する。この際、各モータの電流を計測する(ステップS2607)。
【0109】
そして、各モータの回転数を計測する(ステップS2608)。そして、各モータのトルクと回転数から仕事率を算出する(ステップS2609)。
【0110】
また、ステップS2608の処理と並行して、各モータの電圧を計測する(ステップS2610)。そして、各モータの電流と電圧から消費電力を算出する(ステップS2611)。ここで、回生分のモータについては、回生電力を算出する。
【0111】
この後、ステップS2609により算出された仕事率と、ステップS2611により算出された消費電力および回生電力から力行効率および回生効率を算出する(ステップS2612)。そして、力行効率および回生効率のトルクおよび回転数の依存性データ(図25−1〜図25−4)が揃ったか判断し(ステップS2613)。揃っていなければ(ステップS2613:No)、トルク配分を変えたデータを収集すべくステップS2605以下の処理を繰り返し、力行効率および回生効率のトルクおよび回転数の依存性データが揃えば(ステップS2613:Yes)、処理を終了する。
【0112】
このように、実施の形態2によれば、移動体を走行させながら速度一定とし、重心まわりのヨーモーメントを0にする条件の元で、各モータのトルク配分を変化させ、この際一部のモータを回生制御することにより、ある回転数(走行時の車速)におけるモータ力行効率および回生効率のトルク依存性を計測可能となる。これを各回転数で計測することにより、移動体の力行効率マップに加えて回生効率マップも自車で容易に生成することができるようになる。加えて、高トルク領域のデータを取得するために、回生輪で制動させながら駆動輪で駆動する構成としたので、アクセルペダル操作による全トルク指令値以上のトルクを駆動輪に与えることができるため、高トルク領域のデータを得ることができるようになる。
【0113】
つぎに、実施の形態2の変形例について説明する。ここでは、生成した力行効率マップを、回生効率マップを生成するための初期値として用いる構成について説明する。図27は、回生効率マップ生成の他の手法を示す図である。図示のように、回生効率マップの特性形状は、力行効率マップと同様と仮定し、初期値として使用する。具体的には、変換手段は、回転軸ωを中心として力行効率マップηpをトルクのマイナス軸方向に反転させたものを回生効率マップηrの初期値とする。
【0114】
図28は、力行効率と回生効率の対応関係を説明する図である。力行時には、インバータ回路INVを介してモータを駆動し、モータトルクTを与える。この際、前輪を駆動して前輪にモータトルクTFRとTFLを生じる。このとき、後輪のモータで回生させることにより、逆のトルクTRRとTRLを生じモータからインバータに対し、回生電流が生じる。モータ回生効率は、機械エネルギーを電気エネルギーに変換する効率である。
【0115】
したがって、回生効率マップの生成方法としては、
1.回生トルク配分による効率マップ生成と同時に回生効率も測定しておく。
2.力行効率マップと回生効率マップは、理想的には、同等のトルク特性を有するため、力行効率マップを反転させて回生効率マップの初期値として使用する。
3.上記2.で得た回生効率マップのうち、上記1.で測定できた範囲を更新する。
4.通常走行時に、回生制動を利用する毎に、回生効率マップを更新していく。
【0116】
以上説明したように、実施の形態2によれば、移動体を走行させながら、モータ効率マップとして力行効率マップと回生効率マップをそれぞれ生成することができるようになる。特に、走行時に一部のモータを回生制動させることにより、力行効率マップの高トルク部分の特性を取得できるようになり、高トルク部分を含む力行効率マップを生成できるようになる。高トルク部分は、走行頻度が少ないため、移動体を走行させてもデータ取得が困難であるが一部のモータの回生制動を利用することにより、走行しながらしかも高速走行せずに他の力行時のモータに対する高トルク部分のデータを取得できるようになる。
【0117】
なお、上記各実施の形態では、効率マップは、モータMが接続されるインバータ回路INV(インバータ回路102)も含んだ効率マップとしている。すなわち、図1に示すように、インバータ回路102の前段で電圧および電流を検出した場合には、インバータ回路INVも含んだ効率マップとなる。これに限らず、インバータ回路INV(インバータ回路102)の後段で電圧および電流を検出した場合にはインバータ回路INVを含まずモータMの効率マップを生成できるようになる。
【0118】
なお、本実施の形態で説明した効率マップ生成にかかる方法は、予め用意されたプログラムをパーソナル・コンピュータやワークステーションなどのコンピュータで実行することにより実現することができる。このプログラムは、ハードディスク、フレキシブルディスク、CD−ROM、MO、DVDなどのコンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録され、コンピュータによって記録媒体から読み出されることによって実行される。またこのプログラムは、インターネットなどのネットワークを介して配布することが可能な伝送媒体であってもよい。
【符号の説明】
【0119】
100,400 効率マップ生成装置
101 トルク配分制御部
102 インバータ回路
103 回転数検出部
104 電圧検出部
105 電流検出部
111 全トルク指令値検出部
112 トルク配分部
113 消費電力検出部
114 効率マップ生成部
115 モータ効率マップ
300 移動体
301 コントローラ
307a〜307d (回転速度)センサ
308a〜308d (垂直抗力)センサ
309 加速度センサ
310 ヨーレートセンサ
312 バッテリ
FL,FR,RL,RR 駆動輪
M(M1〜M4) モータ
INV インバータ回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体の駆動輪に接続された複数個のモータの効率マップを生成する効率マップ生成装置であって、
前記複数個のモータに対して入力された全トルク指令値を検出する全トルク指令値検出手段と、
前記全トルク指令値に基づいて、前記複数個のモータの各々に対し複数の組み合わせでトルクを配分するトルク配分手段と、
前記モータの消費電力を検出する消費電力検出手段と、
前記モータの回転数を検出する回転数検出手段と、
前記複数の組み合わせにおける前記トルク、前記消費電力、および前記回転数に基づいて前記効率マップを生成する効率マップ生成手段と、
を備え、
前記トルク配分手段は、前記複数の組み合わせにおいて、前記組み合わせの2つの点における前記モータの効率の差異が所定未満の場合は、前記2つの点の間隔を長くし、前記2つの点における前記モータの効率の差異が所定以上の場合は、前記2つの点の間隔を短くする組み合わせとすることを特徴とする効率マップ生成装置。
【請求項2】
前記移動体の複数の速度に対して、速度毎に
前記トルク配分手段、前記消費電力検出手段、前記回転数検出手段、及び、前記効率マップ生成手段を繰り返して前記効率マップを生成することを特徴とする請求項1に記載の効率マップ生成装置。
【請求項3】
前記複数個のモータは同じ種類のモータであり、
前記効率マップ生成手段は、前記複数個のモータの各々に対して生成した前記効率マップを1つの効率マップに合体することを特徴とする請求項1又は2に記載の効率マップ生成装置。
【請求項4】
移動体の駆動輪に接続された複数個のモータの効率マップを生成する効率マップ生成方法であって、
前記複数個のモータに対して入力された全トルク指令値を検出する全トルク指令値検出工程と、
前記全トルク指令値に基づいて、前記複数個のモータの各々に対し複数の組み合わせでトルクを配分するトルク配分工程と、
前記モータの消費電力を検出する消費電力検出工程と、
前記モータの回転数を検出する回転数検出工程と、
前記複数の組み合わせにおける前記トルク、前記消費電力、および前記回転数に基づいて前記効率マップを生成する効率マップ生成工程と、
を含み、
前記トルク配分工程は、前記複数の組み合わせにおいて、前記組み合わせの2つの点における前記モータの効率の差異が所定未満の場合は、前記2つの点の間隔を長くし、前記2つの点における前記モータの効率の差異が所定以上の場合は、前記2つの点の間隔を短くする組み合わせとすることを特徴とする効率マップ生成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5−1】
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【図5−2】
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【図5−3】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9−1】
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【図9−2】
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【図9−3】
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【図9−4】
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【図10】
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【図11−1】
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【図11−2】
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【図11−3】
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【図11−4】
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【図12】
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【図13】
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【図14−1】
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【図14−2】
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【図14−3】
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【図14−4】
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【図15】
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【図16−1】
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【図16−2】
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【図16−3】
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【図16−4】
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【図17】
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【図18】
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【図19−1】
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【図19−2】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23−1】
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【図23−2】
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【図23−3】
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【図23−4】
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【図24】
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【図25−1】
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【図25−2】
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【図25−3】
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【図25−4】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【公開番号】特開2012−191831(P2012−191831A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−290164(P2011−290164)
【出願日】平成23年12月28日(2011.12.28)
【分割の表示】特願2011−554337(P2011−554337)の分割
【原出願日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(000005016)パイオニア株式会社 (3,620)
【Fターム(参考)】