説明

効率的なDNA逆位反復構造の調製方法

従来の標的配列の逆位反復構造をもつキメラ遺伝子の作成技術では、ベクター上の2箇所に標的配列をセンス方向とアンチセンス方向に挿入するため、ベクター上の挿入部位にも、標的配列両末端にも、独立した制限酵素認識配列を設けなければならず煩雑である。
任意のスペーサー配列を挟んで任意のアダプター配列及び逆位アダプター配列が配置したカセットコンストラクト、又はカセットコンストラクトを組み込んだプラスミドベクターを作製し、上記カセットコンストラクトの一方又は両方の末端に標的配列を結合させた後か、上記プラスミドベクター上のカセットコンストラクトの一方の末端に標的配列を挿入した後に、PCRを行うことで、逆位反復構造をもつキメラ遺伝子を調製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、遺伝子機能解析手段として用いられ、また機能改変した変異体動植物の作成に用いることができるRNA干渉の技術分野に関する。
さらに、本発明は、RNA干渉に用いる標的遺伝子DNA断片の逆位反復構造をもつキメラ遺伝子を効率的に調製する方法及びそのためのカセットコンストラクトを提供する。
【背景技術】
遺伝子の転写後の制御方法としては、従来から、アンチセンス法(非特許文献1)及びセンス法(非特許文献2)が知られている。しかしながら、アンチセンス、及びセンス法両者とも、形質転換体中での遺伝子制御の効率が十分なものではなかった。
近年になり、まず、線虫(Caenorhabditis elegans)で、二本鎖RNA(dsRNA)が、遺伝子の転写後発現の低下に、アンチセンスRNA、及びセンスRNAのいずれよりも効果的であることが見出された。この現象は、RNAiと呼ばれている。RNAiは、RNase III核酸分解酵素ファミリーの一種であるDicerと名付けられた酵素がdsRNAをsmall interfering RNA又はsiRNAと呼ばれる小さな断片に分解するところから始まるといわれている。
ところで、哺乳類では、ごく微量のdsRNAでも細胞内に導入すると、インターフェロンが生成し、アポトーシスを引き起こすといわれ、そのため、アポトーシスを引き起こさない手法が研究された。dsRNAのDicerによる分解により生じる短いdsRNAであるsiRNAは、アポトーシスを引き起こさず、転写後制御ができることが発見された。さらに、線虫の幾つかの遺伝子がヘアピン構造のRNAをコードしており、他の遺伝子を制御しているとの知見から、siRNAに代わるものとして、ヘアピン構造に折り畳んだ小さなRNAで特定遺伝子の機能を阻害できるか研究された。その結果、short hairpin RNA(shRNA)は、siRNAと同程度に遺伝子の発現を制御できることが見出された。
転写後の遺伝子発現の低下には、さらに、効率的に転写後発現を抑制する方法として、標的遺伝子のDNA断片が逆位反復構造(逆向きの繰り返し構造)をとるキメラ遺伝子を用いる方法(非特許文献3)が知られている。
この標的遺伝子DNA断片の逆位反復構造をもつキメラ遺伝子を生体内に安定的に導入し、それによって生体内で産生されるdsRNAを引き金とする配列特異的な内性RNAの分解方法(RNA干渉)は、遺伝子機能の有効な解析手法として、その利用が広がっている。
また、標的遺伝子DNA断片の挿入に相同的遺伝子組換を応用した技術が報告されている(特許文献1,非特許文献4)。
【特許文献1】米国特許公開20030049835号
【非特許文献1】Proc.Natl.Acad.Sci.USA Vol.83 5372−5376(非特許文献3中引用文献)
【非特許文献2】Plant Cell Vol.2 p.291(非特許文献3中引用文献)
【非特許文献3】The Plant Journal Vol.33,p.793−800
【非特許文献4】Plant J.,27,581−590,2001
【発明の開示】
ところで、従来の標的遺伝子DNA断片(標的配列)の逆位反復構造をもつキメラ遺伝子の作製技術では、任意の、主にはプラスミドベクター上の2箇所に標的配列をセンス方向とアンチセンス方向、あるいは、アンチセンス方向とセンス方向に、個別に挿入する必要がある。
一般的に、この標的配列の挿入は制限酵素によるDNAの切断反応とリガーゼによる結合反応によって行われるが、標的配列をセンス方向とアンチセンス方向あるいはアンチセンス方向とセンス方向に正確に挿入するためには、ベクター上の2箇所の標的配列挿入部位にそれぞれ独立した制限酵素認識配列が存在し、標的配列にも標的配列挿入部位に対応する制限酵素認識配列が存在しなければならない。
そのため、標的配列の塩基配列によっては画一的な処理での標的配列の逆位反復構造をもつキメラ遺伝子の作製が困難な場合があり、網羅的な遺伝子機能の解析には適していない。
また、標的配列の挿入に相同的遺伝子組換を応用した技術が報告されている(Wesley et al.,Plant J.,27,581−590,2001;米国特許公開20030049835)。この技術では、標的配列の両端に一対の相同的遺伝子組換酵素の認識配列を付与する必要があり、標的配列の両末端の塩基配列に特異的なオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いるPCRを行うか、ベクター上の一対の相同的遺伝子組換酵素認識配列の間に標的配列を挿入しなければならない。そして、この相同的遺伝子組換酵素の認識配列が付与された標的配列を用いて逆位反復構造をもつキメラ遺伝子を作製するためには、標的配列ごとに個別に相同的遺伝子組換え反応を行わなければならない。
はじめに、任意のスペーサー配列を挟んで任意の塩基配列(アダプター配列)及び当該アダプター配列の逆位に反復した塩基配列(逆位アダプター配列)が配置したDNA構築物であるカセットコンストラクト、又は当該カセットコンストラクトを組み込んだプラスミドベクターを作製する。次に、カセットコンストラクトの何れか一方又は両方の末端に標的遺伝子のDNA断片(標的配列)を結合させる、又は当該プラスミドベクター上のカセットコンストラクトの何れか一方の末端の外側に標的配列を挿入する。さらに、標的配列を結合した当該カセットコンストラクトを鋳型とし、標的配列の何れかの末端部分に対応する一種類のプライマーを用いてPCRを行う、又は、標的配列が挿入された当該プラスミドベクターを鋳型として、上の標的配列挿入部位のさらに外側のプラスミドベクターの塩基配列に対応するプライマー(プライマーA)および標的配列挿入部位とは逆側のアダプター配列または逆位アダプター配列とスペーサー配列の一部を含む塩基配列に対応するプライマー(プライマーB)を用いてPCRを行う。このPCRの際に生成される一本鎖のPCR産物の一部でアダプター配列と逆位アダプター配列の部分が一時的に同一分子内でアニーリングし投げ縄構造をとるか、2分子間で相互にアニーリングし、さらに、引き続いて起こる伸長反応とPCRにより、標的配列が逆位反復構造をとるキメラ遺伝子が二本鎖のPCR産物として得られる。(図1〜5参照)
本発明によれば、はじめに、任意のスペーサー配列を挟んで任意の塩基配列(アダプター配列)及び当該アダプター配列の逆位に反復した塩基配列(逆位アダプター配列)が配置したDNA構築物であるカセットコンストラクト、又は当該カセットコンストラクトを組み込んだプラスミドベクターを調製しておけば、標的遺伝子の塩基配列に依存することなく、効率的に、同一の手法で、図1に示すような標的配列の逆位反復構造をもつキメラ遺伝子を効率的に調製することができる。
今後、RNAi法により、種々の遺伝子を大量にノックアウトする場合には、同一手法で、簡便に標的配列の逆位反復構造をもつキメラ遺伝子を作成できることが必須であるところ、本件発明は、これを可能とする、極めて有意義な発明である。
本明細書は本願の優先権の基礎である日本国特許出願2003−330569号の明細書及び/又は図面に記載される内容を包含する。
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明によって作り出される標的配列の逆位反復構造の模式図
図2は、カセットコンストラクトの調製手順その1
図3は、カセットコンストラクトの調製手順その2
図4は、カセットコンストラクトを組み込んだ標的配列の逆位反復構造作成用プラスミドベクターの調製手順
図5は、標的配列の逆位反復構造を有するキメラ遺伝子の調製手順
図6は、標的配列結合容易化カセットコンストラクト1の説明図
図7は、標的配列結合容易化カセットコンストラクト2の説明図
図8は、標的配列結合容易化カセットコンストラクト3の説明図
図9は、標的配列結合容易化カセットコンストラクト4の説明図
図10は、標的配列結合容易化カセットコンストラクト5の説明図
図11は、標的配列結合容易化カセットコンストラクト6の説明図
図12は、カセットコンストラクトを組み込んだ標的配列の逆位反復構造作成用プラスミドベクターの修飾例
図13は、pGEMA及びpGEMASの調製法
図14は、pRNAiの調製法
図15は、標的配列Z8755のpRNAiへの挿入
図16は、標的配列Z8755の逆位反復構造を有するキメラ遺伝子の調製
【発明を実施するための最良の形態】
1.カセットコンストラクト
まず、本発明は、任意の配列(スペーサー配列、又は介在配列)を挟んでこれとは別の任意の塩基配列(アダプター配列)及び当該アダプター配列の逆位に反復した塩基配列(逆位アダプター配列)が配置したDNA構築物(カセットコンストラクト)を包含する。(図2〜3参照)
1−1.スペーサー配列(介在配列)
スペーサー配列は、標的配列とアダプター配列とは関連しない(試験管内及び生体内で標的配列又はアダプター配列と相補的に結合しない)塩基配列でなければならない。例えば、キメラ遺伝子の増幅で行う非対称PCRの際に標的配列やアダプター配列と相補的にハイブリダイズしない任意の配列をスペーサ配列として用いることができる。スペーサー配列は(一本鎖DNAまたは一本鎖RNAの状態で同一分子内の逆位に反復したアダプター配列同士が容易に相補的に会合するように、また、大腸菌内で容易に増幅するように)好適には10ヌクレオチド以上の10000ヌクレオチド以下、さらに好適には、50ヌクレオチド以上、2000ヌクレオチド以下の塩基長である。スペーサー配列として用いることができるものとしては、具体的には、オワンクラゲの緑色蛍光タンパク質(GFP)や大腸菌のβ−グルクロニダーゼ(GUS)の構造遺伝子の部分断片、さらに好適には、(植物やショウジョウバエなどの生体内でスプライシングにより取り除かれるように)イントロン配列、具体的には、シロイヌナズナの脂肪酸不飽和化酵素(FAD2)遺伝子やショウジョウバエのABCトランスポーター遺伝子のイントロンを挙げることができる。
1−2.アダプター配列
アダプター配列および逆位アダプター配列は、標的配列、スペーサー配列、さらには用いるプラスミドベクターの塩基配列とは関連しない(試験管内および生体内で、標的配列、スペーサー配列、さらには用いるプラスミドベクターの塩基配列と相補的に結合しない)塩基配列である。好適には、通常のPCRのアニーリング条件でアダプター配列と逆位アダプター配列が会合できる配列を用いる。具体的には、通常18〜28ヌクレオチド長で、GC含量が50〜60%、Tm値が55〜80℃になるように設計する。さらに具体的には、Koらによるローン・リンカーの一方の配列をアダプター配列とし、その相補配列を逆アダプター配列として用いることができる。(Ko,M.S.H.ら、Nucleic Acids Res.,18,p4293−4294,1990)
なお、逆位アダプター配列は、アダプター配列の完全な逆位配列でなくとも用いることは可能であるが、キメラ遺伝子の増幅で行う非対称PCRの際に標的アダプター配列と相補的にハイブリダイズできることが必要である。
2−1.カセットコンストラクトの調製
上記カセットコンストラクトは、周知の手段で、調製することができる。好適には、まず、図2に示されるように、両端に平滑末端を有するスペーサー配列を調製する。さらに、その両端にアダプター配列および逆位アダプター配列として、ローン・リンカーと呼ばれる非接着性の突出末端と平滑末端を持ったリンカー配列を結合することができる。ローン・リンカーとしては、例えば、LL−Sse8387Iとして、LL−Sse8387IA(5’−GAGATATTACCTGCAGGTACTC−3’)及びLL−Sse8387IB(5’−GAGTACCTGCAGGTAATAT−3’)、あるいは、LL−SalIとして、LL−SalIA(5’−ATTGACGTCGACTATCCAGG−3’)及びLL−SalIB(5’−CCTGGATAGTCGACGTC−3’)を用いることができる(Ko,M.S.H.ら,Nucleic Acids Res.,18,p4293−4294,1990)。LL−Sse8387IA,B、あるいは、LL−SalIA,Bをリン酸化し、アニーリングさせる。このアニーリングしたLL−Sse8387I、あるいは、LL−SalIを平滑末端末端を有するスペーサー配列に結合させる。このように調製されたカセットコンストラクトはPCR法により、例えば、LL−Sse8387I、あるいは、LL−SalIAをプライマーとして増幅することができる。
上記カセットコンストラクトの別な調製方法として、周知の手段で、プラスミドベクター上にカセットコンストラクトを構築し、カセットコンストラクト部分を制限酵素反応などによって切り出すか、PCR法によって増幅する方法を採用することができる。プラスミドベクター上にカセットコンストラクトを構築する方法としては、例えば、図3Aに示されるように、スペーサー配列を挿入したプラスミドベクター上のスペーサー配列の両端にアダプター配列と逆位アダプター配列を、周知の手段、すなわち制限酵素反応とライゲーション反応で順次挿入することができる。或いは、図3Bに示されるように、アダプター配列と逆位アダプター配列が連続し、その中央部に任意の制限酵素の認識配列が設けられたオリゴヌクレオチド及びその相補鎖からなるオリゴヌクレオチドを調製し、これらをアニーリングさせた逆位反復アダプター配列を任意のプラスミドベクターに組み込み、その後に、上記任意の制限酵素を用いて逆位反復アダプター配列の中央部にスペーサー配列を挿入することができる。上記制限酵素としては、アダプター配列、プラスミドベクター、スペーサー配列には認識部位が存在しない制限酵素を用いることができるが、好適には、挿入するスペーサー配列の両末端と付着末端となる制限酵素を用いることができる。上記プラスミドベクターとしては、上記オリゴヌクレオチドの3’末端に1ヌクレオチドのアデニン(A)を付加しておけば、好適には、TAクローニング用のプラスミドベクター、具体的には、pGEM−T Easy Vector(Promega社)などを用いることができる。
2−2.カセットコンストラクトが組み込まれた標的配列の逆位反復構造調製用プラスミドベクターの調製
カセットコンストラクトが組み込まれた標的配列の逆位反復構造調製用プラスミドベクターは、周知の手段で調製することができる。例えば、図3に示されたプラスミドベクター3A及びプラスミドベクター3Bのカセットコンストラクトに近接したプラスミドベクター上に標的配列を挿入できる制限酵素認識部位を設けておくことにより、これらをカセットコンストラクトが組み込まれた標的配列の逆位反復構造調製用プラスミドベクターとして用いることができる。或いは、図4で示したように2−1で調製したカセットコンストラクトを任意のプラスミドベクターに組み込むときにカセットコンストラクトに近接したプラスミドベクター上に平滑末端を生じる制限酵素認識部位を設けておくこと等により、標的配列を簡単に挿入できる標的配列の逆位反復構造調製用プラスミドベクターを設計することができる。
また、カセットコンストラクトを組み込んだプラスミドベクターは、任意の動植物のcDNA、好適には均一化したcDNAを基にした多種類の遺伝子DNA断片が逆位反復構造をとるキメラ遺伝子のプールの調製に用いることができる。
2−3.標的配列のカセットコンストラクトへの結合及びカセットコンストラクトが組み込まれた標的配列の逆位反復構造調製用プラスミドベクターへの挿入
標的配列は、[特許文献1]に従い選択することができる。例えば、標的配列は、表現型の発現を抑制しようとする標的となる遺伝子のDNA断片を用いることができる。標的配列の長さは10ヌクレオチド長から標的遺伝子の表現型発現が抑制されるのに十分なヌクレオチド長、好適には、最低19ヌクレオチド長、最低21ヌクレオチド長、最低25ヌクレオチド長、最低約50ヌクレオチド長、最低約100ヌクレオチド長、最低約150ヌクレオチド長、最低約200ヌクレオチド長又は最低約500ヌクレオチド長で、可能ならば約1000ヌクレオチド長の標的配列を用いることができる。
標的配列は、カセットコンストラクトの何れか一方又は両方の末端に結合される。このとき、好適には、標的配列として両末端が平滑でリン酸化されていないものを用いることができる。このような標的配列は、5’末端が脱リン酸化されたプライマーのセットと3’末端に(dA)を付加しないタイプの耐熱性DNAポリメラーゼを用いたPCRを行う、或いは、通常の耐熱性ポリメラーゼを用いてPCRを行った後3’末端の(dA)突出を周知の手段で除去し、更にPCR産物を脱リン酸化する、或いは、5’末端がリン酸化されたプライマーのセットと3’末端に(dA)を付加しないタイプの耐熱性DNAポリメラーゼを用いてPCRを行った後PCR産物の5’末端を脱リン酸化することで、調製することができる。
標的配列は、カセットコンストラクトが組み込まれた標的配列の逆位反復構造調製用プラスミドベクターのアダプター配列又は逆位アダプター配列の外側に挿入される。好適には、プラスミドベクター上のカセットコンストラクトの一方の外側にのみ認識配列が存在する制限酵素を用いて、カセットコンストラクトの一方の外側に、標的遺伝子のDNA断片を挿入する標的遺伝子のDNA断片を挿入する。さらに好適には、カセットコンストラクトのいずれか一方の直近の外側に標的遺伝子を挿入する。例えば、平滑末端を形成する制限酵素の認識配列がアダプター配列の外側に存在する場合は、当該制限酵素で、プラスミドベクターを切断し、平滑末端を有する標的配列とリガーゼで結合させることができる。もちろん、アダプター配列の外側に他の制限酵素認識配列が存在する場合、プラスミドベクターと標的配列を同じ制限酵素で処理して、付着末端同士で結合させればよい。
2−4.カセットコンストラクトの修飾(カセットコンストラクトの一方又は両方の末端への標的配列の結合のための前処理)
標的配列のカセットコンストラクトへの結合を容易にするため、また、標的配列を結合したカセットコンストラクトを鋳型としたPCRによる標的配列の逆位反復構造の作製を容易するために、カセットコンストラクトの一方又は両方の末端に前処理として修飾を施すことができる。
このような標的配列結合容易化カセットコンストラクトとしては、次のものがある。
図6に示す標的配列結合容易化カセットコンストラクト1(以下CC1と略)は、両5’末端をリン酸化することによって、両末端が脱リン酸化された標的配列の結合が可能になるよう設計されている。これは3’末端に(dA)を付加しないタイプの耐熱性DNAポリメラーゼ、例えばKOD−Plus−(TOYOBO社)を用いれば、容易に調製できる。図7に示す標的配列結合容易化カセットコンストラクト2(CC2)は一方の末端のみをリン酸化することでカセットコンストラクトの一方にしか両末端が脱リン酸化された標的配列が結合しないように設計したものである。
また、図8中の標的配列結合容易化カセットコンストラクト(CC3)は、CC1の両3’末端に(dT)を付加することによって、カセットコンストラクトの両3‘末端に、3’末端に(dA)を付加する通常の耐熱性DNAポリメラーゼで増幅した両末端が脱リン酸化された標的配列が結合するように設計されている。
図9中の標的配列結合容易化カセットコンストラクト(CC4)は、一方の3’末端のみに(dT)の付加とリン酸化を施すことによって、カセットコンストラクトの一方の3‘末端にのみ、3’末端に(dA)を付加する通常の耐熱性DNAポリメラーゼで増幅した両末端が脱リン酸化された標的配列が結合するように設計されている。
図10中の標的配列結合容易化カセットコンストラクト(CC5)は、一方の3’末端のみにトポイソメラーゼI(Invitrogen社)の付加とリン酸化を施すことによって、カセットコンストラクトの一方にのみ標的配列が容易に結合するように設計されている。
図11中の標的配列結合容易化カセットコンストラクト(CC6)は、一方の3’末端のみに(dT)とトポイソメラーゼIの付加とリン酸化を施すことによって、カセットコンストラクトの一方にのみ、3’末端に(dA)を付加する通常の耐熱性DNAポリメラーゼで増幅した両末端が脱リン酸化された標的配列が結合するように設計されている。
2−5.カセットコンストラクトが組み込まれた標的配列の逆位反復構造調製用プラスミドベクターの修飾
カセットコンストラクトが組み込まれた標的配列の逆位反復構造調製用プラスミドベクターへの標的配列の挿入を容易にするために、逆位反復構造調製用プラスミドベクターを制限酵素等で開裂し、その末端に、標的配列の挿入を容易化する処理を施すことができる。具体的には、図12中のpRNAi/blantのように開裂末端を平滑化する、図12中のpRNAiTのように開裂末端の3’末端に(dT)を付加する、図12中のpRNAiTPのように開裂末端の3’末端にトポイソメラーゼIを付加する、図12中のpRNAiTTPのように開裂末端の3’末端に(dT)とトポイソメラーゼIを付加する、ことができる。
3.キメラ遺伝子の増幅
図6〜11に示すように標的配列がカセットコンストラクトの何れか一方又は両方の末端に結合したDNA生成物を鋳型として、任意の遺伝子増幅法により、特に好適には、標的配列の一方の末端に特異的なプライマー(Primer IまたはII)のみを用いたPCR法により、標的配列がカセットコンストラクトを挟んで逆位反復構造をとるキメラ遺伝子を調製することができる。具体的には、熱変性による一本鎖DNA構造物の生成、Primer I又はIIを用いたPCR、を行えばよい。また、これら図6〜11では標的配列に特異的なプライマーを用いたPCRの例を示したが、周知の手段でcDNAやゲノムDNAのDNA断片の両端に相互に異なるリンカー(又はアダプター)を結合させることができ、この場合、標的配列に特異的なプライマーの代わりにリンカー(又はアダプター)部分のプライマーセットを使うことができる。
また、標的配列がカセットコンストラクトのどちらかの外側の一方に挿入されたプラスミドベクターを鋳型として用いて、任意の遺伝子増幅法により、特に好適には、非対称PCR法(一方のプライマーを他方のプライマーに対して過剰に使用して行うPCR、標準技術集「核酸の増幅及び検出」4−1−2−6 非対称的増幅)により、標的配列がカセットコンストラクトを挟んで逆位反復構造をとるキメラ遺伝子を調製することができる。プライマーとしては、(1)挿入した標的配列に対し当該カセットコンストラクトとは反対側のプラスミドベクター部分、及び(2)アダプター配列又は逆位アダプター配列のいずれか一方であって当該標的配列から遠い方の配列およびそれに隣接するスペーサー配列の一部を含むように設計されたオリゴヌクレオチド、のセットを用いる。非対称PCR法を用いる場合には、上記(1)のプライマーを(2)のプライマーよりも、好適には5倍以上、あるいは10倍以上、あるいは約100倍以上使用することができる。
なお、キメラ遺伝子の増幅後に種々のベクターへの組み込みが容易になるように、プライマーの5’側には数塩基の任意の配列を含んでいてもよい。
上記の非対称PCRを行うことにより、標的配列、アダプター配列、スペーサー配列、逆位アダプター配列が順次連結した一本鎖のPCR産物が過剰に増幅される。この一本鎖のPCR産物に含まれるアダプター配列と逆位アダプター配列の部分が一時的に同一分子内でアニーリングし投げ縄構造をとるか、2分子間で相互にアニーリングし、さらに、引き続いて起こる伸長反応と上記プライマー(1)のみによるPCR増幅により、標的配列が逆位反復構造をとるキメラ遺伝子が二本鎖のPCR産物として得られる。
また、非対称PCRを行わずに標的配列が逆位反復構造をとるキメラ遺伝子が二本鎖のPCR産物を得ることができる。例えば、通常のPCR(対称PCR)を行い、その後、上記プライマー(1)から伸長した一本鎖のPCR産物、すなわち、標的配列、アダプター配列、スペーサー配列、逆位アダプター配列が順次連結した一本鎖のPCR産物のみを回収して、上記プライマー(1)のみによるPCRを行うと、この一本鎖のPCR産物に含まれるアダプター配列と逆位アダプター配列の部分が一時的に同一分子内でアニーリングし投げ縄構造をとるか、2分子間で相互にアニーリングし、さらに、引き続いて起こる伸長反応と上記プライマー(1)のみによるPCR増幅により、標的配列が逆位反復構造をとるキメラ遺伝子が二本鎖のPCR産物として得られる。
4.発現ベクターへの組み込み・形質転換体の作成
上記の標的配列の逆位反復構造を含む増幅物は、適宜の発現ベクターに組み込むことができる。
組み込まれた発現ベクターは、宿主細胞、例えば、植物細胞に導入することができる。
以下に実施例により具体的に説明する。
ただし、本発明、本実施例により限定されるものではない。
【実施例】
[実施例1]
本発明による、標的遺伝子のDNA断片(標的配列)の逆位反復構造をもつキメラ遺伝子作製の一実施例として、図1に示すキメラ遺伝子を以下の工程(1)−(3)の通り作製した。
(1)pRNAiの作製
中央にスペーサー配列を挿入できる塩基配列を有し、逆位反復構造をもつオリゴヌクレオチドを逆位反復アダプター配列、すなわち、連続した任意のアダプター配列とその逆位アダプター配列を合成する。ここでは、中央に制限酵素SmaIの認識配列CCCGGGを有し、3’末端にAを付与したオリゴヌクレオチド(5’−GAGATATTACCTGCAGGTACTCACCCGGGTGAGTACCTGCAGGTAATATCTCA−3’)を合成し、このオリゴヌクレオチドをアニーリング後(図13B)、プラスミドベクターにクローニングした。ここでは、アニーリングにより両3’末端に(A)突出ができるため、これを市販のTAクローニングベクターpGEM−T Easy Vector(Promega社)(図13A)にクローニングし、pGEMAを作製した(図13C)。さらに、クローニングした逆位反復配列の中央にスペーサー配列を挿入した(図13D〜F)。ここでは、制限酵素SmaIによりpGEMAの逆位繰返し配列の中央を切断し(図13D)、スペーサー配列としてシロイヌナズナFAD2遺伝子のイントロン配列を含むDNA断片(図13E、配列番号4)をPCRにより増幅後、T4 DNAリガーゼにより挿入し、pGEMASを作製した(図13F)。続いて、カセットコンストラクトを含む領域をpGEM−T Easy Vector上のオリゴヌクレオチドのクローニングサイトの両側に認識配列が存在する制限酵素EcoRIで切り出し、pBluescript II KSプラスミドベクター(Stratagene社)のEcoRI開裂部位にT4 DNA ligaseを用いて挿入連結し、カセットコンストラクトのアダプター配列側の外側に制限酵素EcoRVの認識配列が存在するpRNAiを作製した(図14)。続いて、周知の手段でpRNAiの塩基配列を確認した。
(2)標的遺伝子DNA断片(標的配列)のpRNAiへの挿入
pRNAi上のカセットコンストラクトの一方の外側に標的配列を挿入した。ここでは、pGEM−T Easy Vector(Invitrogen社)にクローニングされたヒャクニチソウのレセプター型プロテインキナーゼ遺伝子のcDNA(Z8755,DDBJ Accession No.AU293996、T.Demura他:PNAS,99,15794−15799)の一部をアダプター配列の外側に挿入した。まず、ベクター上のクローニングサイトの外側の配列に対応するプライマーのセット、Forward primer(TGTAAAACGACGGCCAGT)およびReverse primer(CAGGAAACAGCTATGACC)、を用いてPCRによりZ8755のcDNAを含むDNA断片を増幅し、制限酵素AfaIを用いて平滑末端をもつ部分DNA断片を調製した(配列番号5)。これをpRNAiの制限酵素EcoRV開裂部位にT4 DNA ligaseを用いて挿入連結した(図15)。
(3)標的配列の逆位反復構造をもつキメラ遺伝子の作製
標的配列を挿入したプラスミドを鋳型として、標的配列挿入部位のすぐ外側のベクターの塩基配列をもとにしたプライマー(プライマーA)及びスペーサーの一部とDNA挿入部位とは逆側の逆位反復構造を含む塩基配列をもとにしたプライマー(プライマーB)を用いてPCRを行った。この際、プライマーAをプライマーBに比べて過剰に用いることで、標的配列がカセットコンストラクトを挟んで逆位反復構造をとる二本鎖のPCR産物がつくられた。この現象は、PCRの際に生成される一本鎖のPCR産物の一部でアダプター配列と逆位アダプター配列の部分が一時的に同一分子内でアニーリングし投げ縄構造をとるか、2分子間で相互にアニーリングし、さらに、引き続いて起こる伸長反応とPCRにより引き起こされると考えられる。ここでは、図16に示したように、プライマーAとして、pBluescript II KSの制限酵素EcoRV認識部位の直近の外側の塩基配列(CCCCTCGAGGTCGACGGTATCGATAAGCTTGAT)とその5’末端にpENTR/DTOPO vector(Invitrogen社)にクローニングするための配列(CA)を付加したオリゴヌクレオチドRNAiF(CACCCCTCGAGGTCGACGGTATCGATAAGCTTGAT)を0.6μmol/lの最終濃度で、プライマーBとしてスペーサーの3’末端(CACCC)と逆位アダプター配列の塩基配列(GGGTGAGTACCTGCAGGTAATATCT)の相補鎖をもとに合成したオリゴヌクレオチドRNAiR(GATTGAGATATTACCTGCAGGTACTCACCCGGGTG)を0.06μmol/lの最終濃度で用いた。また、反応条件は、反応液50μl中に、約2ngの標的配列(Z8755の部分配列)を挿入したプラスミド(pRNAi−Z8755)、1μlの耐熱性DNAポリメラーゼ(KOD−Plus−)、5μlの10×バッファー、2μlの25mM MgSO、5μlの2mM dNTP(以上TOYOBO社)、3μlの10μM RNAiF、3μlの1μM RNAiRが含まれ、94℃で2分の熱変性のあと、94℃15秒と68℃3分30秒を50サイクルのPCRとした。
(4)標的配列の逆位反復構造をもつキメラ遺伝子のサブクローニング
上記(3)のPCRによって増幅されたPCR産物を、周知の手段で、プラスミドベクターにサブクローニングして、標的配列が逆位反復構造をとっていることを塩基配列の決定により確認した。ここでは、プラスミドベクターとしてpENTR/DTOPO vector(Invitrogen社)を用い、塩基配列の決定はサイクルシーケンス法を用いた。
【産業上の利用可能性】
本発明は、RNAi技術により形質転換体、ノックアウト動物、植物を作出する技術分野において用いることができる。
本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。
【配列表フリーテキスト】
配列番号1は、アダプター配列及びその逆位配列の連結物である。配列番号2及び3は、プライマーである。配列番号4は、シロイヌナズナFAD2遺伝子のイントロン配列を含むDNA配列である。配列番号5は、ヒャクニチソウcDNA(Z8755)の部分DNA配列である。
【配列表】




【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】

【図14】

【図15】

【図16】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アダプター配列、スペーサー配列、及びアダプター配列の逆位配列からなる標的配列の逆位反復配列調製用カセットコンストラクト。
【請求項2】
スペーサー配列が、イントロン配列である請求項1記載のカセットコンストラクト。
【請求項3】
一方又は両方の末端に標的配列の結合のための前処理がなされた請求項1〜2いずれか1項記載のカセットコンストラクト。
【請求項4】
一方又は両方の末端に標的配列が結合してなる請求項1〜3の何れか一項に記載のカセットコンストラクト。
【請求項5】
請求項4に記載のカセットコンストラクトを鋳型として、標的配列のどちらか一方の末端の配列に由来する単一のプライマーを用いたPCRを行い、標的配列の逆位反復構造を含む増幅産物を調製する方法。
【請求項6】
請求項4記載のカセットコンストラクトを鋳型として、PCRにより標的配列の逆位反復構造を調製する方法。
【請求項7】
請求項4記載のカセットコンストラクトを組み込んだプラスミド。
【請求項8】
請求項7記載のプラスミドを鋳型に、PCRを行い、標的配列の逆位反復構造を調製する方法。
【請求項9】
PCRが非対称PCRである請求項8記載の標的配列の逆位反復構造を調製する方法。
【請求項10】
PCRで用いるプライマーの一方の3’末端がスペーサー部分を含む請求項8又は9記載の方法。
【請求項11】
請求項5,6,8、9又は10いずれか1項記載の方法で調製された標的配列の逆位反復構造を含む発現ベクター。
【請求項12】
請求項11記載の発現ベクターにより形質転換された宿主細胞。

【国際公開番号】WO2005/028646
【国際公開日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【発行日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−514145(P2005−514145)
【国際出願番号】PCT/JP2004/014308
【国際出願日】平成16年9月22日(2004.9.22)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【Fターム(参考)】