説明

動力伝達装置の制御装置

【目的】 エンジン回転速度が連続的に共振回転数近傍まで低下したとき、補機負荷を低減させてエンジン回転速度を上昇させ、動力伝達装置の共振を防止して動力伝達装置の減衰装置本体やエンジン本体の信頼性や耐久性を向上させる。
【構成】 エンジン本体11aにバネ15、減衰機構16を介してトルクコンバータ17を結合し、エンジン回転速度NE を検出するエンジン回転速度センサ12と、エアコンリレー13と、電気負荷制御リレー14とを制御装置10に接続する。制御装置10は、エンジン回転速度NE が所定値Nx以下となる状態を所定時間以上継続した場合、エアコンプレッサ20および電気負荷23をOFFにして補機負荷を低減させる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、エンジンおよびトルクコンバータ間にトーショナルダンパが配置される構成の自動変速機または、2分割フライホイールの制御を行う構成の手動変速機に適用し得るようにした動力伝達装置の制御装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】この種の動力伝達装置の制御装置の従来例としては、例えば、実開昭60−28650号公報、特公昭59−26823号公報に記載されたものがある。実開昭60−28650号公報には、エンジンクランクシャフトに装着したサブプレートに設けた矩形孔に弾性部材を挿入し、前記サブプレートの前後にエンジンクランクシャフトに遊嵌するサイドプレートおよび自動変速機に結合されるドライブプレートを設け、両プレートを前記弾性部材に係合させるとともに、両プレートを前記サブプレートに対し所定角度範囲内で相対回転可能に結合した車両用自動変速機のトルクダンパが開示されている。
【0003】特公昭59−26823号公報には、エンジンクランクシャフトに装着したフライホイールの回動が弾性部材を介してクラッチディスクに対接したトランスファプレートに伝達され、前記フライホイールおよびトランスファプレートには互いに対をなすフリクションリングが装着され、両フリクションリング間はスプリングの押圧力により互いに圧接されるようにした車両用動力伝達装置が開示されている。この車両用動力伝達装置は、低回転時に弾性部材の捩れ作動に対し一時的に摩擦抗力を発生させることにより、エンジン回転の全回転域において伝達系のトルク変動伝達率を低減するようにしている。
【0004】また、他の従来例としては、本願出願人が先に出願した特願平6−33605号明細書に記載されたものがある。この動力伝達装置は、相互に駆動結合すべき2回転体(例えばエンジン出力軸およびトルクコンバータ)の一方(例えばトルクコンバータ)に結合されたハブプレートおよび該ハブプレートに同軸隣合わせに配して他方の回転体(例えばエンジン出力軸)に結合されたサイドプレートと、これらハブプレートおよびサイドプレート間で動力伝達を行うよう円周方向に配したトーションスプリングと、ハブプレートおよびサイドプレートの一方に摩擦接触するよう押圧され、他方に対し円周方向制限範囲内での相対移動後に衝接して係合する摩擦ブロックとを有するトーショナルダンパ等を具えて成る。この従来例は、トルク変動に対する所定の緩衝機能や、共振によるトーショナルダンパの回転振動に対する減衰作用が得られる他、摩擦ブロックとサイドプレートまたはハブプレートとの衝接時に大きな金属音が発生したり、反発に伴い振動が発生する問題を解消することができる。
【0005】しかし、上記各従来例の動力伝達装置にあっては、エンジン回転速度(エンジン回転数)がアイドル回転数(例えば700〜800rpm)以下の領域(例えば400〜600rpm;図8参照)に共振点を有するような構成となっているため、エンジンの不調や補助空気導入装置(オートエアコンバルブ(AAC/V);日産自動車(株)1993年8月発行の「新型車解説書 NISSANブルーバード(F007718 )」のB−7ページを参照のこと)の故障等が生じた場合には、エンジン回転数が上記共振回転数相当の400〜600rpm程度まで低下し、共振状態が連続的に続くことになる。この場合、トーショナルダンパが著しく大きく相対変位し、エンジン本体の回転速度変動も図9に示すように大きくなり、以下のような不具合を招く。
【0006】(a)トーショナルダンパの相対変位が大きくなることに伴い、トーショナルダンパ内部の摺動部品の磨耗が大きくなり、耐久性が劣化するとともに、摺動部品等から摺動音が発生して騒音となる。
(b)トーショナルダンパに特公昭59−26823号公報のような共振レベルを低下させるための減衰機構を設ける場合、その減衰機構からの発熱量が著しく大きくなり、トーションスプリング等が焼き鈍しと同等の作用により高温となり、バネ特性が著しく劣化する他、多数の機能部品が熱劣化してしまう。また、上記減衰機構を設ける場合には、減衰機構の発熱量が大きくなるが、温度上昇を抑制するためには熱容量を大きくする必要がある。そこで、熱容量を大きくすると、減衰機構自体が著しく大型化するため、車載性が劣化したり、コストアップを招いてしまう。
(c)減衰機構を設けない構成の場合には、トーショナルダンパの相対変位が著しく大きくなることにより、トーショナルダンパのスプリング本体や、エンジンおよびトルクコンバータとの結合部品等が劣化するおそれがある。
(d)エンジン回転速度変動の増加に伴い、動弁駆動系や補機および補機駆動ベルト等の耐久性が劣化してしまう。
【0007】このような不具合を解消するためには、図7R>7のモデル図において、I1 ;エンジン側の慣性モーメント(kg・m2 )、I2 ;トルクコンバータまたはフライホイールの慣性モーメント(kg・m2 )、K;トーショナルダンパの捩り剛性(捩りバネ定数;N・m/rad)としたときに、次式
【数2】


で表わされる共振点(共振回転速度;図8参照)ωn を、さらに低回転数側(例えばエンジン回転数=300rpm以下)に移動することが考えられる。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】共振点ωn を低下させるためには、慣性モーメントI1 ,I2 を大きくする、つまりエンジンまたはトルクコンバータの慣性モーメントを増加させる方法と、ダンパ装置の捩りバネ定数Kを小さくする、つまりトーショナルダンパの捩り剛性を小さくする方法とがある。しかし、エンジンまたはトルクコンバータの慣性モーメントを増加させた場合には、エンジンからパワートレインに至る間の慣性モーメントが増加するため、パワートレインの耐久性の劣化を招いてしまう。また、捩り剛性を小さくするためには、トーショナルダンパ自体やその構成部品(トーションスプリング等)が大型化し、車載性の劣化、重量増、コストアップ等の不具合を招いてしまう。
【0009】本発明は、このような従来の問題点に着目してなされたものであり、エンジン回転速度が連続的に上記共振回転数の近傍まで低下したとき、補機負荷を低減させてエンジン回転速度を上昇させたり、あるいはエンジンの燃焼爆発力を低下させて加振力を低減させることにより、上記問題を解決することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】この目的のため、本発明の請求項1の構成は、互いに同軸に配置され、かつダンパ装置の作用に抗して互いに相対回転可能な少なくとも2つの慣性体によって内燃機関のトルク変動による回転衝撃を補償する装置であって、前記2つの慣性体の一方が内燃機関に結合可能であり、他方が変速機入力軸に結合可能である動力伝達装置において、内燃機関の回転速度を検出する回転速度検出手段と、該回転速度検出手段で検出された回転速度が所定値Nx以下となる状態を所定時間以上継続した場合、補機負荷を低減させる補機負荷低減手段と、を設けたことを特徴とするものである。
【0011】上記において、前記補機負荷低減手段は回転速度が所定値Nxに所定値ΔNを加えた値以上になった場合、前記補機負荷の低減を解除するようにするのが、動力伝達装置にとって全く問題とならない実用上の走行時において一旦非作動にした補機負荷を再び作動させることにより、車両としての快適性や車両の機能を確保するとともに、動力伝達装置への入力トルクを低減して動力伝達装置の耐久性を向上させる上で好ましい。
【0012】上記において、前記所定値Nxは、
【数3】


ただし、I1 ;2つの慣性体の一方(例えばエンジン側)の慣性モーメント(kg・m2 )、I2 ;2つの慣性体の他方(例えばトルクコンバータまたはフライホイール)の慣性モーメント(kg・m2 )、K;ダンパ装置の捩り剛性(捩りバネ定数;N・m/rad)、a;エンジン気筒数やエンジン形式により決定される定数により規定されるようにするのが、補機負荷の低減を行うか否かの判定を内燃機関の回転速度が所定値Nxを下回ったか否かに基づいて行う上で好ましい。
【0013】上記において、エンジン負荷検出手段を設け、前記回転速度の所定値Nxを変更するのが、内燃機関(エンジン)の負荷および内燃機関の回転速度に基づいて補機負荷の低減を行うか否かの判定を行う上で好ましい。
【0014】
【作用】本発明の請求項1の構成によれば、互いに同軸に配置され、かつダンパ装置の作用に抗して互いに相対回転可能な少なくとも2つの慣性体の一方が内燃機関に結合可能であり、他方が変速機入力軸に結合可能である動力伝達装置によって内燃機関のトルク変動による回転衝撃を補償する際には、回転速度検出手段により検出された前記内燃機関の回転速度が所定値Nx以下となる状態を所定時間以上継続した場合には、補機負荷低減手段により補機負荷が低減される。
【0015】
【実施例】以下、本発明の実施例を図面に基づき詳細に説明する。図1は本発明の動力伝達装置の制御装置の第1実施例の構成を示す図であり、図中10は制御装置を示す。制御装置10には、内燃機関であるエンジン11の回転速度NE を検出するエンジン回転速度センサ12(回転速度検出手段)が接続されるとともに、補機負荷低減手段としてのエアコンリレー13および電気負荷制御リレー14が接続されており、制御装置10およびエアコンリレー13には夫々、電源電圧+Vccが印加されている。制御装置10は、エアコンリレー13および電気負荷制御リレー14に夫々、ON−OFF制御のためのエアコン制御信号および電気負荷制御信号を供給する。
【0016】上記エンジン回転速度センサ12は、互いに同軸に配置されかつトーショナルダンパの作用に抗して互いに相対回転可能な2つの慣性体の一方であるエンジン11の本体(または第1フライホイール)11aの近傍に設置されている。本体(または第1フライホイール)11aには、バネ15および減衰機構16を介して、前記2つの慣性体の他方であるトルクコンバータ(または第2フライホイール)17が結合され、トルクコンバータ(または第2フライホイール)17には変速機入力軸18が結合されている。エンジン本体11aにはさらに、補機ベルト19を介してエアコンプレッサ20およびオルタネータ21が結合されており、エアコンプレッサ20には上記エアコンリレー13が接続されている。また、上記オルタネータ21にはバッテリ22および上記電気負荷制御リレー14の一端が接続され、電気負荷制御リレー14の他端はデフォッガ等の電気負荷23に接続されている。
【0017】なお、図1中に一点鎖線で包囲した部分に示した24は、後述する第2実施例で使用するエンジン負荷センサとしてのエアフローメータである。また、上述したエンジン回転速度センサ12、エアコンリレー13およびエアフローメータ24の詳細については、前述した「新型車解説書 NISSANブルーバード(F007718)」のB−41ページを参照のこと。
【0018】図2は、第1実施例において制御装置10により実施される制御プログラムを示すフローチャートである。まず、図2のステップ1ではエンジン回転速度(エンジン回転数)NE をエンジン回転速度センサ12より読み込むとともに、エアコンリレー13に供給されているエアコン制御信号および電気負荷制御リレー14に供給されている電気負荷制御信号を読み込む。次のステップ2では、エアコン制御信号および電気負荷制御信号が両方共ONであるか否かを判定し、YES(両方共ON)であれば制御をステップ3に進め、NO(両方共OFF)であれば制御をステップ4に進める(なお、本実施例では、エアコンおよび電気負荷は同時にONまたはOFFとなるよう制御するものとする)。
【0019】ステップ3では、エンジン回転数NE が所定値Nx未満であるか否かを判定し、NE <Nxであれば制御をステップ5に進め、NE ≧Nxであれば制御をそのまま終了する。ステップ5では、NE <Nxの状態が所定時間ΔT以上継続したか否かを判定し、所定時間ΔT以上継続した場合にはステップ6でエアコン制御信号および電気負荷制御信号を両方共OFFにして補機負荷の低減を行い、所定時間ΔT以上継続しない場合には制御をそのまま終了する。一方、ステップ4では、エンジン回転数NE が所定値Nxに所定値(ヒステリシス)ΔNを加えた値以上になった否かを判定し、NE ≧(Nx+ΔN)であれば制御をステップ7に進めてエアコン制御信号および電気負荷制御信号を両方共ONにして補機負荷の低減を解除して補機負荷を再び作動させ、NE <(Nx+ΔN)であれば制御をステップ6に進めてエアコン制御信号および電気負荷制御信号を両方共OFFにして補機負荷の低減を行う。
【0020】次に、この第1実施例の作用を図3を用いて説明する。本実施例の制御対象となる動力伝達装置の共振点(共振回転速度)ωn は図7のモデル図において、I1 ;エンジン側の慣性モーメント(kg・m2 )、I2;トルクコンバータまたはフライホイールの慣性モーメント(kg・m2 )、K;トーショナルダンパの捩り剛性(捩りバネ定数;N・m/rad)としたときに、次式
【数4】


で規定される。
【0021】ここで、共振点ωn からエンジン回転速度(rpm)を求めるための変換定数(エンジンの気筒数や2サイクル、4サイクル等の形式により決定される)をaとすると、エンジン回転数NE が、Nx=a×ωn ×(1.1〜1.2)(rpm)、つまり共振回転数の1.1〜1.2倍相当の回転数(アイドリング回転数)未満である状態(例えば500〜600rpm)が所定時間継続したか否かが補機負荷の低減を実施するか否かの判定条件となる。よって、NE <Nxの状態が所定時間継続した場合(図3に左向きの矢印で示すOFF領域の場合)には、図2のステップ6の実行によりエアコン制御信号および電気負荷制御信号が共にOFFになり、補機負荷が軽減される。補機負荷が軽減されると、エンジン回転数が上昇したり、あるいはエンジンの加振力が低減されるため、図3に示すようにトーショナルダンパの相対変位を小さくすることができる。
【0022】一方、エンジン回転数NE が、実用上の走行時の回転数Nx+ΔN以上になった場合には(ΔNはヒステリシス回転数(例えば300rpm程度)であるためNx+ΔNは例えば800〜900rpmとなる)、図3に示すようにトーショナルダンパの相対変位が小さいため補機負荷の軽減は必要ないことから、図2のステップ7の実行によりエアコン制御信号および電気負荷制御信号が共にONとなり、補機負荷の軽減が解除される。
【0023】上記図2の制御においては、ヒステリシス回転数ΔNを用いているため、以下の作用効果が得られる。
(1)エアコン等の補機負荷のON−OFF制御によってエンジン回転数が所定値Nxの近傍でハンチングを起こすことが防止される。
(2)トーショナルダンパにとって全く問題とならない実用上の走行時において、一旦非作動にしたエアコンおよび電気負荷を再び作動させることにより、車両としての快適性や車両の機能を確保することができる。
(3)前記実用上の走行時において、エアコン等の補機負荷を作動させることによりトーショナルダンパへの入力トルクを低減し、トーショナルダンパの耐久性を向上させることができる(補機負荷を常時OFFとすると、補機負荷分のトルクがトーショナルダンパに入力されるため、通常よりも大きなトルクの入力となり、耐久性が悪化してしまうため、好ましくない)。
【0024】図4は第2実施例において制御装置10により実施される制御プログラムを示すフローチャートである。この第2実施例の上記第1実施例との相違点は、図1の一点鎖線で包囲した部分に示すエンジン負荷検出手段としてのエアフローメータ24を追加したことと、それに伴い第1実施例のステップ1を図4のステップ1aおよびステップ1bに置き換えたことと、ステップ3,4を夫々図4のステップ3a,4aに置き換えたことであり、それ以外は第1実施例と同様に構成する。
【0025】まず、図4のステップ1aでは、エンジン回転速度(エンジン回転数)NE をエンジン回転速度センサ12より読み込むとともにエンジン負荷TFをエアフローメータ24より読み込み、さらに、エアコンリレー13に供給されているエアコン制御信号および電気負荷制御リレー14に供給されている電気負荷制御信号を読み込む。次のステップ1bではNxの設定を行う。このNxの設定は、例えば、X,Y,Z軸を夫々、エンジン回転数NE 、トーショナルダンパの相対変位およびエンジン負荷TFとして表わした図5の3次元テーブルのテーブルデータに基づいて行うものとする。この3次元テーブルは、エンジン負荷TFが大きくなるにつれてそのエンジン負荷に比例してトーショナルダンパの相対変位が大きくなることに対応するように構成されている。
【0026】次のステップ2では、エアコン制御信号および電気負荷制御信号が両方共ONであるか否かを判定し、YES(両方共ON)であれば制御をステップ3aに進め、NO(両方共OFF)であれば制御をステップ4aに進める。ステップ3aでは、エンジン回転数NE が図6のテーブルに実線で示したOFF線の左側(OFF領域)か否かを判定し、OFF領域であれば制御をステップ5に進め、OFF線の右側(ヒステリシス領域)であればれば制御をそのまま終了する。ステップ5では、OFF領域の状態が所定時間ΔT以上継続したか否かを判定し、所定時間ΔT以上継続した場合にはステップ6でエアコン制御信号および電気負荷制御信号を両方共OFFにして補機負荷の低減を行い、所定時間ΔT以上継続しない場合には制御をそのまま終了する。
【0027】一方、ステップ4aでは、エンジン回転数NE が図6のテーブルに点線で示したON線の右側(ON領域)か否かを判定し、ON領域であれば制御をステップ7に進めてエアコン制御信号および電気負荷制御信号を両方共ONにして補機負荷の低減を解除し、ON線の左側(ヒステリシス領域)であれば制御をステップ6に進めてエアコン制御信号および電気負荷制御信号を両方共OFFにして補機負荷の低減を行う。
【0028】この第2実施例においては、補機負荷の低減を実施するか否かの判定条件を、図3のテーブルの代わりに図6のテーブルを用いて決定するようにしているため、上記第1実施例の作用効果に加えて以下の作用効果が得られる。すなわち、エンジン負荷TFが所定値TF0 以下の領域では補機負荷の低減を実施するか否かの判定条件は第1実施例と同一であるが、エンジン負荷TFが所定値TF0 を越えて最大値TFMAX に達する領域では、エンジン負荷TFが大きくなるにつれてそのエンジン負荷に比例してエンジン回転数NE の大きい方向にON領域およびOFF領域を移動したため、図6に斜線で示したヒステリシス領域も同様に移動されることになる。したがって、この第2実施例では第1実施例よりも補機負荷の低減が実施され易くなっており、エンジン回転数NE がNxの近傍のときにエンジン負荷TFを増加させてもエンジン回転数NE が上昇しないような場合には、エアコン等の負荷がOFFにされることになり、エンジン回転数NE の上昇が早まることになる。
【0029】なお、上記第1および第2実施例においてエンジン回転数やエンジン負荷に応じて補機負荷を制御する技術は、本願出願人が先に提案した「エアコンカット制御」の技術(日産自動車(株)1992年9月発行の「新型車解説書 NISSANプリメーラ(F009698 )」のB−54ページを参照のこと)と一見類似しているように見える。しかしながら、上記「エアコンカット制御」は、エンジンの始動性や車両の加速性能の向上およびエアコン本体の過回転防止を目的としており、エンジンの始動時(および始動直後)やエンジン回転数の高回転時(例えば6000rpm以上)やエンジン全開負荷時に制御を実施するように構成されているのに対し、本願の各実施例の発明は、動力伝達装置の共振対策を目的としており、第1実施例ではエンジン回転数がアイドリング回転数未満のとき(例えば500〜600rpmのとき)に制御を実施し、第2実施例ではエンジン回転数がアイドリング回転数未満のときおよびエンジンのスロットル開度の全閉時相当(エンジン負荷小)のときに制御を実施するように構成されており、両者は全く異なるものである。
【0030】
【発明の効果】以上説明したように、本発明の動力伝達装置の制御装置の請求項1の構成によれば、回転速度検出手段により検出された内燃機関の回転速度が所定値Nx以下となる状態を所定時間以上継続した場合、補機負荷低減手段により補機負荷が低減されるから、実走行上の補機の機能を低下させることなく動力伝達装置の共振を防止することができ、動力伝達装置の減衰機構(トーショナルダンパ)本体および内燃機関(エンジン)本体の信頼性や耐久性を著しく向上させて摺動摩耗や熱劣化、破損等を防止することができる。さらに、共振対策用の減衰機構の発熱量を極めて小さく抑制することができるため、減衰機構の小型化およびコストダウンが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の動力伝達装置の制御装置の第1実施例および第2実施例の構成を示す図である。
【図2】第1実施例において制御装置により実施される制御プログラムを示すフローチャートである。
【図3】第1実施例の作用を説明するための図である。
【図4】第2実施例において制御装置により実施される制御プログラムを示すフローチャートである。
【図5】第2実施例で使用する、X,Y,Z軸を夫々、エンジン回転数、トーショナルダンパの相対変位およびエンジン負荷として表わした3次元テーブルを例示する図である。
【図6】第2実施例において補機負荷の低減を実施するか否かの判定条件を決定するためのテーブルを例示する図である。
【図7】動力伝達装置の共振回転速度を求めるための モデル図である。
【図8】従来技術を説明するための図である。
【図9】従来技術を説明するための図である。
【符号の説明】
10 制御装置
11 エンジン(内燃機関)
11a エンジン本体(または第1フライホイール)
12 エンジン回転速度検出手段(エンジン回転速度センサ)
13 エアコンリレー(補機負荷低減手段)
14 電気負荷制御リレー
15 バネ
16 減衰機構
17 トルクコンバータ(または第2フライホイール)
19 補機ベルト
20 エアコンプレッサ
21 オルタネータ
23 電気負荷
24 エアフローメータ(エンジン負荷センサ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】 互いに同軸に配置され、かつダンパ装置の作用に抗して互いに相対回転可能な少なくとも2つの慣性体によって内燃機関のトルク変動による回転衝撃を補償する装置であって、前記2つの慣性体の一方が内燃機関に結合可能であり、他方が変速機入力軸に結合可能である動力伝達装置において、内燃機関の回転速度を検出する回転速度検出手段と、該回転速度検出手段で検出された回転速度が所定値Nx以下となる状態を所定時間以上継続した場合、補機負荷を低減させる補機負荷低減手段と、を設けたことを特徴とする動力伝達装置の制御装置。
【請求項2】 前記補機負荷低減手段は回転速度が所定値Nxに所定値ΔNを加えた値以上になった場合、前記補機負荷の低減を解除するようにしたことを特徴とする請求項1記載の動力伝達装置の制御装置。
【請求項3】 前記所定値Nxは、
【数1】


ただし、I1 ,I2 ;2つの慣性体の慣性モーメント、K;ダンパ装置の捩りバネ定数、a;エンジン気筒数やエンジン形式により決定される定数により規定されることを特徴とする請求項1または2記載の動力伝達装置の制御装置。
【請求項4】 エンジン負荷検出手段を設け、前記回転速度の所定値Nxを変更したことを特徴とする請求項1〜3の何れか1項記載の動力伝達装置の制御装置。

【図5】
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【図6】
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【図1】
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【図2】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図3】
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【図4】
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