説明

動弁機構の潤滑構造

【課題】動弁機構の良好な潤滑を可能とする動弁機構の潤滑構造。
【解決手段】ランクケース3から上方に向けて、前傾して延出するシリンダブロック41と、シリンダブロックの上方に取り付けられたシリンダヘッド42とシリンダヘッドカバー143で形成された動弁室70とを備えた内燃機関1動弁機構6の潤滑構造であって、シリンダヘッドカバー内面に、バルブステムエンド87a,bまたは動弁機構のカム65a,bと上下に対向する位置に複数のオイル滴下部194a〜dを備え、シリンダヘッドカバーの内面の上方に位置しシリンダヘッド内の油路91と連通するオイル吐出口188と、その下方に設けられた第2のオイル吐出口201と、両オイル吐出口を上下に連結しオイル滴下部を上下に並べて連結するオイル通路ボス202とを備え、両オイル吐出口はオイル通路203で連通され、オイル滴下部はオイル通路ボス上に下方に向けて垂下突出して形成された
【選択図】図

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載される内燃機関における動弁機構の潤滑構造に関し、特に、良好な潤滑と、所要オイル容量の低減を可能とする動弁機構の潤滑構造に関する。
【背景技術】
【0002】
動弁機構の潤滑構造として、シリンダヘッドに設けられたタペットクリアランス調整用開口を塞ぐ蓋部材内面に、潤滑用のオイルを収集するためのV字型のリブを設け、V字状に形成された溝に溜めたオイルをバルブステムエンドに滴下する構造が、下記特許文献1に示されている。
また、シリンダヘッドカバー内面に複数のオイル吐出口を設け、そのオイル吐出口をオイル通路にて連結した潤滑構造が、例えば下記特許文献2に示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−283623号公報(図8、図9)
【特許文献2】実開平6−83910号公報(図1、図2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に示されるV字型のリブの場合、V字型のリブが他のリブと連結していないため、V字状の溝から溢れたオイルが蓋部材に付着したままとなり、オイルがオイル戻し通路に到達するまでに時間を要し、延いては所要オイル容量を増大させる問題があった。
また、上記特許文献2に示されるものでは、上下方向についての記載はないが、図1、2のオイル吐出口24bの吐出方向から、シリンダヘッド2は略垂直に配置され、そのシリンダヘッド上方で長手方向に水平に延びる導油路(オイル通路)24に設けられ、下方に向け拡径するオイル吐出口24bより、下方の動弁機構へ向けてオイルを吐出していると考えられる。また、オイル供給手段はオイル吐出口24bのみである。
したがって、特許文献2のものは、オイル吐出口でオイルの滞留、偏流のおそれがあり、オイル吐出口から所望の潤滑箇所に対して的確な潤滑を行なうことが困難となるおそれがあった。
【0005】
本発明は、動弁機構の良好な潤滑を可能とすると共に、内燃機関の小型軽量化を可能とし、所要オイル容量を低減できる動弁機構の潤滑構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、車両に搭載された内燃機関のクランクケースから上方に向けて、垂直よりも前傾して延出するシリンダブロックと、同シリンダブロックの上方に取り付けられたシリンダヘッドとシリンダヘッドカバーで形成された動弁室とを備えた内燃機関における動弁機構の潤滑構造であって、前記シリンダヘッドカバーはその内面において、バルブステムエンドまたは動弁機構のカムと上下に対向する位置に複数のオイル滴下部を備え、前記シリンダヘッドカバーの内面の上方に位置し前記シリンダヘッド内の油路と連通するオイル吐出口と、同オイル吐出口の下方に設けられた第2のオイル吐出口と、前記オイル吐出口と前記第2のオイル吐出口を上下に連結するとともに、前記オイル滴下部を上下に並べて連結するオイル通路ボスとを備え、前記オイル吐出口と前記第2のオイル吐出口とは、前記オイル通路ボス内に形成されたオイル通路で連通され、前記オイル滴下部は前記オイル通路ボス上に下方に向けて垂下突出して形成されたことを特徴とする動弁機構の潤滑構造である
【0007】
請求項に記載の発明は、請求項に記載の動弁機構の潤滑構造において、前記シリンダヘッドには、排気バルブを開閉する排気ロッカーアームのロッカーアーム軸を回転可能に支持する排気ロッカーアーム軸支持部が形成され、前記第2のオイル吐出口は、排気バルブステムエンドの直上に位置され、前記排気ロッカーアーム軸支持部にオイルを噴射するように配向されたことを特徴とする。
【0008】
請求項3に記載の発明は、請求項1または請求項2に記載の動弁機構の潤滑構造において、前記複数のオイル滴下部は、前記オイル通路ボスの上下方向中間部に配置されたものを含むことを特徴とする。
【0009】
請求項4に記載の発明は、請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の動弁機構の潤滑構造において、前記複数のオイル滴下部の内、少なくとも一つのオイル滴下部が前記オイル吐出口の近傍に配置されて直接オイルを受けることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
請求項1の発明の動弁機構の潤滑構造によれば、オイル吐出口が複数設けられたことで、各潤滑箇所へのオイルの供給と潤滑が良好となり、更に二つのオイル吐出口とオイル滴下部を上下に連結するオイル通路ボスが設けられたので、シリンダヘッドカバーの重量増大を抑制しつつ、オイル滴下部を配置することができ、垂下突出したオイル滴下部により、所望の潤滑箇所に的確にオイルを滴下できる。
また、上下に二つのオイル吐出口を連結して形成されるオイル通路ボスは、オイル誘導ボスとして働き、オイル通路ボス上に付着したオイルが下方に向かって流動し易く、オイル滴下部に導かれ易くなり、滴下排油されるので、潤滑箇所への良好なオイル供給とともに、オイルがクランクケースに戻る時間が短縮され、それによって所要のオイル容量が低減して、内燃機関の小型軽量化が可能となった。
【0011】
請求項2の発明によれば、請求項1の発明の効果に加え、第2のオイル吐出口から吐出されるオイルが排気ロッカーアーム軸支持部に当たり飛沫となるので、排気ロッカーアームでオイルが遮られることなく、排気バルブステムエンドを潤滑できる。
【0012】
請求項3の発明によれば、請求項1または請求項2の発明の効果に加え、オイル通路ボスが誘導リブとして機能し、その上下方向中間部に配置されたオイル滴下部へ良好にオイルを導くことができる。
【0013】
請求項4の発明によれば、請求項1ないし請求項3のいずれか一項の発明の効果に加え、少なくとも一つのオイル滴下部は、シリンダヘッドカバーの内面に付着した飛沫オイルのみならず、オイル吐出口からのオイルを直接潤滑箇所に導くことができ、良好な潤滑を行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態、および本発明者が検討した他の発明である第1検討例に係る内燃機関の要部の左側面断面図であり、内燃機関が車両に搭載された状態の姿勢で示される。
【図2】図1のII−II断面展開図である。なお、図1は本図中I−I矢視断面図に相当する。
【図3】図2中III−III矢視による、第1検討例に係るシリンダ部要部の拡大された右側面断面図であり、動弁機構と、シリンダヘッドカバーの内面のオイル吐出口、リブ等との位置関係の説明図である。
【図4】図3中IV部におけるカバー側およびホルダ側オイル供給油路およびオイル吐出口の説明図である。
【図5】(a)は、図3中Va−Va矢視による、シリンダヘッドカバーの内面図であり、(b)は本図(a)中Vb−Vb矢視によるシリンダヘッドカバー断面図である。(c)は本図(a)中Vc−Vc矢視によるシリンダヘッドカバー断面図であり、(c)中D部は、本図(a)中Vd−Vd矢視断面を示す。
【図6】(a)は、図5中VIa−VIa矢視による、シリンダヘッドカバーの拡大部分断面図であり、(b)は、図5中VIb−VIb矢視による、シリンダヘッドカバーの拡大部分断面図である。
【図7】(a)は、図3中VIIa−VIIa矢視による、シリンダヘッドカバーを外したシリンダヘッドの頂面図であり、動弁機構と、シリンダヘッドカバーを取り付けた場合のオイル吐出口、各誘導リブ等との位置関係の説明図である。(b)は、図3中VIIb−VIIb矢視による、本図(a)と同じ方向で示すシリンダヘッドカバーの外面図であり、シリンダヘッドカバーの内面のオイル吐出口、各誘導リブ等の配置の説明図である。
【図8】図2中III−III矢視による、本発明の実施形態に係るシリンダ部要部の拡大された右側面断面図であり、動弁機構と、シリンダヘッドカバーの内面の各オイル吐出口、リブ等との位置関係の説明図である。
【図9】図8中IX−IX矢視による、シリンダヘッドカバーの内面図である。なお、図8は、本図中VIII−VIII矢視とVIII′矢視とを合成した断面図に相当する。
【図10】(a)は、図8中Xa−Xa矢視による、シリンダヘッドカバーを外したシリンダヘッドの頂面図であり、動弁機構と、シリンダヘッドカバーを取り付けた場合の各オイル吐出口、オイル通路ボス、各誘導リブ等との位置関係の説明図である。(b)は、図8中Xb−Xb矢視による、本図(a)と同じ方向で示すシリンダヘッドカバーの外面図であり、シリンダヘッドカバーの内面の各オイル吐出口、オイル通路ボス、各誘導リブ等の配置の説明図である。
【図11】(a)、(b)は、本発明に関連して本発明者が検討した他の発明である第2検討例の動弁機構の潤滑構造例に係るシリンダヘッドカバーの説明図であり、図5(a)、(b)に対応した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1から図11に基づき、本発明の実施形態に係る内燃機関の動弁機構の潤滑構造、および本発明に関連して本発明者が検討した他の発明である第1、第2検討例の動弁機構の潤滑構造につき説明する。
なお、各図の機器、構造部に付記された小矢印は、潤滑用のオイルの流れ方向を模式的に示すものである。
【0016】
また、本明細書の説明における前後左右上下等の向きは、実施形態および検討例に係る内燃機関を自動二輪車等の車両に搭載した状態での車両の向きに従うものとする。
図中矢印FRは車両前方を、LHは車両左方を、RHは車両右方を、UPは車両上方を、それぞれ示す。
【0017】
図1から図7は、本発明に関連し本発明者が検討した他の発明である第1検討例に係るものであり、図1に、本検討例の内燃機関1を、図示しない車両に搭載された状態の姿勢で示す。内燃機関1は4ストロークサイクル単気筒内燃機関であって、本検討例において車両はスクータ型自動二輪車である。
【0018】
図1に示されるように、内燃機関1は、車両に搭載された状態において、クランク軸2の軸線Yを車両の前後方向に直交させて、車体幅方向に配向させると共に、クランクケース3から上方に向けて、垂直よりも前傾して突出するシリンダ部4を有する。シリンダ部4は、クランクケース3の斜め上方に、シリンダブロック41およびシリンダヘッド42が順次重ねられて一体に締結され、シリンダヘッド42の上にはシリンダヘッドカバー43が被せられて構成される。
【0019】
44は、シリンダブロック41とシリンダヘッド42とを、クランクケース3に共締めで締結するスタッドボルトであり、シリンダ軸線X方向に貫通して穿たれたスタッドボルト孔45(図4)に挿通されている。46は、シリンダヘッドカバー43をシリンダヘッド42に締結する締結ボルトである。
【0020】
図2に示されるように、クランクケース3は、左クランクケース3Lと、右クランクケース3Rの左右割りで構成される。左クランクケース3Lと右クランクケース3Rとを一体化結合することで形成されるクランク室31内には、クランク軸2と、変速機構5が配設される。クランク軸2は、左クランクケース3Lと右クランクケース3Rに、主軸受21A,21Bを介して回転自在に軸支される。
【0021】
一体化結合した左、右クランクケース3L,3Rの上部の開口に合わせて取り付けられるシリンダブロック41と共に、シリンダヘッド42が、クランクケース3にスタッドボルト44により共締めされ、その下面には燃焼室10が形成され、燃焼室10に臨むようにスパークプラグ11が装着される。
【0022】
クランク軸2は、クランク室31に左右のクランクウエブ22L、22Rが位置し、クランクピン23によって一体化され、左クランクケース3L、右クランクケース3Rの左右外側に左、右クランク軸部24L、24Rが突出し、その外側を左右のクランクケースカバー32L、32Rが覆っている。
左クランクケースカバー32Lは、左クランクケース3Lの左側面にボルト止めされ、右クランクケースカバー32Rは、右クランクケース3Rの右側面にボルト止めされる。
【0023】
また、クランクピン23には、コンロッド7aを介してピストン7が接続され、このピストン7は、シリンダブロック41内に一体成型されたシリンダライナー41aの中でシリンダ軸線X方向に往復運動する
【0024】
左側クランク軸部24Lには、主軸受21A近傍に動弁駆動系の駆動スプロケット61が嵌着され、左端にはACジェネレータ13が設けられ、駆動スプロケット61とACジェネレータ13との間に始動機構の被動ギア14が嵌着されている。
右側クランク軸部24Rには、遠心式オイルストレーナ15が設けられている。
【0025】
一方、シリンダヘッド42には動弁機構6が構成され、シリンダヘッド42の上部に一体的に形成されたカム軸ホルダ62に挟まれるようにしてカム軸63が、クランク軸2と平行に車体幅方向に指向し、左右のカム軸受64A、64Bを介して、カム軸ホルダ62に軸支されている。
【0026】
カム軸63には、左に吸気カム65a、右に排気カム65bが一体に設けられている。左のカム軸受64Aの外径より、両カム65a、65bの最大径は小さく、またそれらより右のカム軸受64Bの外径は小さく設定されている。したがって、両カム65a、65bを備えたカム軸63は、左右のカム軸受64A、64Bがアセンブルされた状態で、図2図示上、左側からカム軸ホルダ62に挿入し、取り付けられる。
カム軸63の左端には、動弁駆動系の駆動スプロケット61の2倍の径を有する従動スプロケット66が嵌着されている。
【0027】
なお、68は、カム軸ホルダ62に、カム軸63に対して垂直に螺入されたカム軸抜け止めボルトであり、その突き出た先端68aが左のカム軸受64Aの外輪左側面に当接するようにしてある。これにより左のカム軸受64Aはカム軸ホルダ62から抜け出ることなく取り付けられ、しがって、カム軸63はカム軸ホルダ62に保持される。
【0028】
従来は一般に、左のカム軸受64Aの左側面を押さえる押さえ部材を当てて、左方からカム軸63と平行に向けた止めボルトで、押さえ部材をカム軸ホルダ62に締結することで、カム軸63の抜け止めをしたが、本検討例の場合は、一本のカム軸抜け止めボルト68でカム軸63の抜け止めができるので、抜け止め構造の簡素化、部材数の低減が図られている。
【0029】
動弁機構6は、シリンダヘッドカバー43に覆われて、シリンダヘッド42とシリンダヘッドカバー43とで形成された動弁室70に収容されている。
カム軸63に嵌着された従動スプロケット66と、クランク軸2に嵌着された駆動スプロケット61との間に、無端状の伝動チェーンであるカムチェーン71が架渡されて、クランク軸2の回転が、半分の回転速度になってカム軸63に伝達される。
これにより、吸気カム65a、排気カム65bが回転し、シリンダヘッド42のカム軸ホルダに揺動自在に軸支された吸気ロッカーアーム75a(図3参照)、排気ロッカーアーム75b(図3参照)を駆動して、燃焼室10内で吸気バルブ76a(図3)、排気バルブ76b(図3)を所定のタイミングで開閉させる。
【0030】
カムチェーン71は、シリンダヘッド42とシリンダヘッドカバー43とで形成された動弁室70と、シリンダブロック41、およびクランクケース3に連通する空間、すなわち動力伝達室としてのカムチェーン室72に収容されるように配設される。
シリンダブロック41におけるカムチェーン室72(72a)には、駆動スプロケット61と従動スプロケット67との中間の径を有するガイドローラ73が回転自在に軸支されて、カムチェーン71の前側と後側の回動を案内している。
【0031】
左クランクケース3Lにおけるカムチェーン室72(72b)は、左クランクケースカバー32LによりACジェネレータ13が覆われるACG室17と共通の空間を構成している。
クランク室31の後方に形成される変速機構5のミッション室51は、カムチェーン室72(72b)の後方にまで左方に膨出して形成されている。
なお、図1における18は、左クランクケース3Lにおけるカムチェーン室72(72b)およびACG室17の下部をクランク室31に連通させるオイル戻し通路であり、カムチェーン室72(72b)から、クランクケース3内の下部に設けられた図示しないオイルパンに、オイルを流下させる通路となる。
【0032】
したがって、カムチェーン室72は、動弁室70、シリンダブロック41、クランクケース3に連通する空間をなし、動弁室70等からオイルを、クランクケース3内のオイルパンに戻すオイル戻し室を形成する。
なお、カムチェーン71に代えて、内燃機関1のクランク軸2の動力を動弁機構6に伝達する他の種の動力伝達部材、例えば、プッシュロッド等を用いた場合は、それを収容する動力伝達室を、動弁室70、シリンダブロック41、クランクケース3に連通する空間をなすオイル戻し室として用いてもよい。または、動弁室70、シリンダブロック41、クランクケース3に連通する空間をなすオイル戻し室を別途設けてもよい。
【0033】
動弁機構6への動力伝達部材、例えばカムチェーン71、プッシュロッド等、を収容する空間をオイル戻し室とすれば、別途のオイル戻し用の油路(オイル戻し室)を設ける必要がなく、シリンダブロック42を小型化できる。また、動力伝達部材からの飛沫オイルも効率よくクランクケース3に戻すことができる。
【0034】
図2に示すように、変速機構5のメイン軸54の右側には、シフトチェンジ用の変速クラッチ8が組み付けられている。クランク軸2の回転動力は、クランク軸2側のプライマリ駆動歯車52、変速クラッチ8側のプライマリ従動歯車53を介して変速クラッチ8に伝達されるが、変速クラッチ8は、変速機構5のギア切換え中にはクランク軸2の回転動力を変速機構5に伝達せずにニュートラル状態とし、変速機構5のギア切換えが終了するとともにクランク軸2の回転動力を変速機構5に伝達するように構成されている。
【0035】
変速機構5は、図1、2に示すように、メイン軸54と、カウンタ軸55と、図示しないフォーク軸と、シフトドラムと、それらに設けられた歯車群56等から構成され、各軸はクランク軸2に平行に配置される。
変速機構5の歯車群56により変速された回転動力は、左クランクケース3Lから左方に突出したカウンタ軸55の左端部に嵌着された車輪駆動スプロケット57に取り出され、動力伝達チェーン58により、図示しない車両の車輪へ伝達される。自動二輪車の場合は、後輪に一体に設けられた車輪従動スプロケットと車輪駆動スプロケット57との間に動力伝達チェーン58が架渡されて内燃機関1の回転動力が後輪に伝達される。
なお、図2中、59はキック軸である。
【0036】
すなわち、本検討例の内燃機関1のクランクケース3には、変速クラッチ8、変速機構5が設けられ、内燃機関1とそのクラッチケース3は、所謂パワーユニット100を構成する。したがって、カウンタ軸55は、パワーユニット100の出力軸である。
【0037】
次に、図2、図3を参照して動弁機構6とその潤滑機構について、さらに説明する。
図3に示すように、動弁機構6は、シリンダヘッド42とシリンダヘッドカバー43とで形成された動弁室70に収納されている。シリンダヘッド42には、動弁室70内の上部と吸気ポート77aとを連通する吸気バルブステムガイド78aと、動弁室70内の上部と排気ポート77bとを連通する排気バルブステムガイド78bとが組み付けられている。
【0038】
吸気バルブステムガイド78aには、吸気バルブ76aの吸気バルブステム79aが燃焼室10側から挿通され、排気バルブステムガイド78bには、排気バルブ76bの排気バルブステム79bが燃焼室10側から挿通される。また、両バルブステムガイド78a、78bの動弁室70側では、両バルブステム79a、79bに、ステムシール80と、ばねシート81と、バルブばね82と、2分割のコッタ83と、リテーナ84とが、それぞれ組み付けられる。
【0039】
各ロッカーアーム75a、75bのカム側と反対側の先端には、アジャストスクリュー85がねじ込まれロックナット86で固定されている。各バルブ76a、76bの各バルブステムエンド87a、87bには、アジャストスクリュー85の先端部が当接している。
【0040】
垂直より前傾したシリンダ部4の動弁室70内においては、図3に示されるように、吸気ロッカーアーム75aのアジャストスクリュー85とロックナット86は、排気ロッカーアーム75bのアジャストスクリュー87とロックナット86より、上方に位置している。
また、シリンダヘッドカバー43は、後方部分43aの方が、前方部分43bより、上方に位置している。
【0041】
シリンダヘッドカバー43の後方部分43aの内面、すなわちシリンダヘッドカバー43の上部の内面には、オイル吐出口88を有するノズル部88aが備えられ、その下方に連なってカバー側ボス部89が形成されている。カバー側ボス部89の内部には下流端がオイル吐出口88に開口するカバー側オイル供給油路90が穿たれて設けられている。カバー側オイル供給油路90の上流端は、カバー側ボス部89のシリンダヘッド42との合わせ面89aに開口し、合わせ面89aにおいてシリンダヘッド42のホルダ側オイル供給油路91と連通している。
【0042】
図7に、シリンダ部4の頂部を車両方向前方から後ろ向きに見下ろして(図3中VIIa矢視、図1中VII矢視)示すように、スタッドボルト44は、シリンダ部4の前後左右の四隅にそれぞれ締結されるが、後方右側のスタッドボルト44Aのスタッドボルト孔45Aには、動弁機構6の潤滑のための油路が設けられている。
【0043】
すなわち、図4に詳細を示すように、シリンダヘッド42のカム軸ホルダ62の後方右側部62aには、後方右側のスタッドボルト44Aを通すスタッドボルト孔45Aが穿たれ、スタッドボルト孔45Aの方向に対して側方に向け延在し、シリンダヘッドカバー43との合わせ面92aにおいて、シリンダヘッドカバー43のカバー側ボス部89と対峙するホルダ側ボス部92が設けられている。
【0044】
ホルダ側ボス部92の内部には、上流端が後方右側(図7参照)のスタッドボルト孔45Aに連通し、下流端が合わせ面92aに開口すると共に、合わせ面92aにおいてシリンダヘッドカバー43のカバー側オイル供給油路90と連通できるホルダ側オイル供給油路91が穿たれて設けられている。
【0045】
ホルダ側オイル供給油路91が連通するスタッドボルト孔45Aは、その内面とスタッドボルト44Aの外面との間のボルト孔間隙部93を油路として、さらに図示しないオイル供給油路を介してクランクケース3内の図示しない潤滑オイルポンプの吐出口まで連通しており、潤滑オイルポンプから潤滑用のオイルの一部が動弁機構6の潤滑用のオイルとしてオイル吐出口88まで供給される。
【0046】
シリンダヘッドカバー43は、図3に示すように、吸気バルブステムエンド87a、吸気カム65a、排気カム65b、および排気バルブステムエンド87bと上下に対向する位置に、吸気バルブオイル滴下部94a、吸気カムオイル滴下部94b、排気カムオイル滴下部94c、および排気バルブオイル滴下部94dを備えている。そして、その内面に沿って突出する誘導リブ95a〜95eを備えている。
【0047】
シリンダヘッドカバー43の内面は、図5(a)に示すように、その後方部分43aが上方に位置し、その内面の上部右側部には、オイル吐出口88を有するノズル部88aが備えられ、オイル吐出口88から上方に接続して動弁室70へ垂下する(図3参照)吸気バルブ滴下誘導リブ95aが設けられて、その先端が吸気バルブオイル滴下部94aとなる。吸気バルブオイル滴下部94aは、上述のように、吸気バルブステムエンド87aと上下に対向する位置に設けられる。
吸気バルブオイル滴下部94aは、オイル吐出口88から直接受け、カバー側ボス部89を伝わり、あるいは飛散してシリンダヘッド43内面に付着した飛沫オイルを吸気バルブ滴下誘導リブ95aが収集したものを、吸気バルブステムエンド87a側に、図3、図5中に破線矢印で示すように滴下する。
【0048】
また、シリンダヘッドカバー43の内面には、オイル吐出口88から下方に連なってカバー側ボス部89が形成されており、カバー側ボス部89には、上述のようにシリンダヘッド42のホルダ側ボス部92と対峙する合わせ面89aが設けられて、カバー側オイル供給油路90が穿たれて設けられている。
オイル吐出口88、ノズル部88a、カバー側ボス部89、カバー側オイル供給油路90、吸気バルブ滴下誘導リブ95a、吸気バルブオイル滴下部94aの詳細な配置は、図6(a)、(b)に示すとおりである。
【0049】
図5に示すように、シリンダヘッドカバー43の内面には、そのカバー側ボス部89に連なって、オイル吐出口88を囲むように形成されたカム滴下誘導リブ95bが設けられている。その下方部分は、同リブ95bを下方に向けて凸のV字型に配置され、その凸部を動弁室70へ垂下突出させて形成された(図3参照)、吸気カムオイル滴下部94bと排気カムオイル滴下部94cが設けられている。吸気カムオイル滴下部94bと排気カムオイル滴下部94cは、上述のように、それぞれ吸気カム65a、排気カム65bと上下に対向する位置に設けられる。
吸気カムオイル滴下部94bと排気カムオイル滴下部94cは、カバー側ボス部89を伝わり、あるいは飛散してシリンダヘッド43内面に付着した飛沫オイルをカム滴下誘導リブ95bが収集したものを、吸気カム65a、排気カム65b側に、図3、図5中に破線矢印で示すように滴下する。
【0050】
さらに、シリンダヘッドカバー43の内面の、吸気カムオイル滴下部94bと排気カムオイル滴下部94cより下方には、下方に向けて凸のV字型に配置された排気バルブ滴下誘導リブ95dが設けられ、その凸部を動弁室70へ垂下突出させて形成された(図3参照)、排気バルブオイル滴下部94dが設けられている。排気バルブオイル滴下部94dは、上述のように、排気バルブステムエンド87bと上下に対向する位置に設けられる。
排気バルブオイル滴下部94dは、飛散してシリンダヘッド43内面に付着した飛沫オイルを排気バルブ滴下誘導リブ95dが収集したものを、排気バルブステムエンド87b側に、図3、図5中に破線矢印で示すように滴下する。
【0051】
滴下したオイルは、その周辺を潤滑して流下するか、動弁機構6の作動に伴って飛散し、その飛沫オイルの一部は再度、シリンダヘッドカバー43の内面に付着する。
【0052】
また、シリンダヘッドカバー43の内面上には、吸気カムオイル滴下部94bに連結し、その左側下方へ向けて延在する上部排油誘導リブ95cと、排気バルブオイル滴下部94dより下方において、右側上方から左側下方に延在する下部排油誘導リブ95eが設けられている。上部排油誘導リブ95cは、吸気カムオイル滴下部94bを介してカム滴下誘導リブ95bと排気カムオイル滴下部94cとも連なる。
両排油誘導リブ95c、95eの下端96c、96eは、シリンダヘッドカバー43の内面の左側下方端部(すなわち、前方端部)まで到達して設けられている。
【0053】
上記のような、シリンダヘッドカバー43を、シリンダヘッド42に取り付けた状態を、図7によって説明する。
同図(a)は、シリンダヘッド42と動弁機構6を、シリンダヘッドカバー43を取り付けずに、車両前方から後ろ向きに見下ろした状態(図3中VIIa矢視)を示し、2点差線で、シリンダヘッドカバー43の各オイル滴下部94a、94b、94c、94dと、各誘導リブ95a、95b、95c、95d、95e等の位置を示している。
【0054】
同図(b)は、シリンダヘッドカバー43を、(a)と同じ向きで見下ろした状態の、その外面(図3中VIIb矢視)を示し、破線で、各オイル滴下部94a、94b、94c、94dと、各誘導リブ95a、95b、95c、95d、95e等の位置を示している。
【0055】
図7(a)に示すように、後方右側のオイル吐出口88は、各バルブステムエンド87a、87bや各カム65a、65bを挟んで、左側下方のカムチェーン室72と反対側で、シリンダヘッドカバー43の上部内面に位置しており、動弁室70の上部に位置する吐出口88からオイルが吐出されるので、動弁機構6の上部の潤滑を良好とできる。また、各オイル滴下部94a、94b、94c、94dから滴下するオイルが、それぞれ破線矢印で示すように、目的とする滴下箇所である、吸気バルブステムエンド87a、吸気カム65a、排気カム65b、および排気バルブステムエンド87bに向けて滴下し、各部の潤滑を良好に行うことのできる配置となっている。
【0056】
また、上部排油誘導リブ95c、下部排油誘導リブ95eは、図7(a)に示されるように、各オイル滴下部94a〜94dから下方に向け且つ、その下端96c、96eが、シリンダヘッドカバー43左下部に位置して、上述したオイル戻し室となるカムチェーン室72に向けて延びている。
【0057】
したがって、シリンダヘッドカバー43内面から余剰となって排出されたオイルは、図5、図7に示すように、各排油誘導リブ95c、95eを伝わって流下し、その下端96c、96e経由、シリンダヘッド42の前方内壁42bを伝わり、オイル戻し室としてのカムチェーン室72に流れ込み、動弁機構6の他の箇所から排出されたオイルと共に、カムチェーン室72をクランクケース3まで流下して、クランクケース3下部のオイルパンに戻される(図3、図1参照)。
【0058】
すなわち、本検討例の動弁機構6の潤滑構造によれば、動弁機構6の潤滑を良好に行いつつ、オイル滴下部94b、94cから余ったオイルがカム滴下誘導リブ95b、排油誘導リブ95cを伝ってオイル戻し室としてのカムチェーン室72に落とされることで、オイルがクランクケース3に戻る時間が短縮され、それによって所要のオイル容量が低減して、内燃機関1の小型軽量化が可能となった。
【0059】
動弁機構6への動力伝達部材であるカムチェーン71を収容する空間、カムチェーン室72がオイル戻し室となるので、別途のオイル戻し用の油路を設ける必要がなく、シリンダブロック41を小型化できた。また、カムチェーン71からの飛沫オイルも効率よくクランクケース3に戻すことができた。
【0060】
また、各バルブステムエンド87a、87bや各カム65a、65bを挟んで、カムチェーン室72と反対側で上方に位置するシリンダヘッドカバー42の上部の内面に、シリンダヘッド42内のホルダ側オイル供給油路91と連通するオイル吐出口88を設けて、動弁室70の上部のオイル吐出口88からオイルが吐出されるので、動弁機構6の上部の潤滑を良好とできた。
そして、オイル吐出口88を囲むように、オイル滴下部94a〜94dの上流側の各誘導リブ95a、95b、95dを配置し、特に、吸気バルブオイル滴下部94a、吸気カムオイル滴下部94b、排気カムオイル滴下部94cの上流側の吸気バルブ滴下誘導リブ95a、カム滴下誘導リブ95bは、オイル吐出口88を囲むように形成したため、シリンダヘッドカバー43上部内面に飛散した飛沫オイルを集め、オイル滴下部94a〜94dに導くことができた。それとともに、余ったオイルを各誘導リブ95c、95eにより下方のオイル戻し室としてのカムチェーン室72側に導けるので、各部の潤滑を良好としつつ、オイルの戻し時間を短縮できた。
【0061】
また、オイル吐出口88から下方に連なりカバー側オイル供給油路90を内設したカバー側ボス部89が形成され、同ボス部89に連なって各誘導リブ95a、95bが形成されたので、カバー側ボス部89の表面を介して各誘導リブ95a、95bに飛沫オイルを導けるため、簡単な構成でオイル戻りが良好となった。
【0062】
以下、本発明の実施形態に係る動弁装置の潤滑構造を、図8〜図10に基づき(図1〜図7も参照し)説明する。実施形態は、シリンダヘッドカバーの内面の配置、構造が一部異なるほかは、第1検討例と同様であり、第1検討例と異なる点を主に、以下説明する。
第1検討例と同様な部分については、同符号を付すとともに、説明を省略する。
また、実施形態において第1検討例と対応するが異なる部分には、第1検討例と同じ符号を下2桁とする100番台の符号を付して、対応関係を明確にした。
【0063】
本実施形態においても図8に示されるように、前述の第1検討例同様に、シリンダヘッドカバー143は、後方部分143aの方が、前方部分143bより、上方に位置している。
シリンダヘッドカバー143の後方部分143aの内面、すなわちシリンダヘッドカバー143の上部の内面には、オイル吐出口188を有するノズル部188aが備えられ、それに連なってカバー側ボス部189が形成されている。カバー側ボス部189の内部には、下流端がオイル吐出口188に開口するカバー側オイル供給油路190が穿たれて設けられている。カバー側オイル供給油路190の上流端は、カバー側ボス部189のシリンダヘッド42との合わせ面189aに開口し、合わせ面189aにおいてシリンダヘッド42のホルダ側オイル供給油路91と連通している。シリンダヘッド42のホルダ側オイル供給油路91は、第1検討例で説明したと同様である。
【0064】
シリンダヘッドカバー143は、図8に示すように、吸気バルブステムエンド87a、吸気カム65a、排気カム65b、および排気バルブステムエンド87bと上下に対向する位置にそれぞれ、吸気バルブオイル滴下部194a、吸気カムオイル滴下部194b、排気カムオイル滴下部194c、および排気バルブオイル滴下部194dを備えている。そして、その内面に沿って突出する誘導リブ200a〜200eを備えている。
【0065】
シリンダヘッドカバー143の内面は、図9に示すように、その後方部分143aが上方に位置し、その内面の上部右側部には、オイル吐出口188を有するノズル部188aが備えられ、オイル吐出口188から上方に接続して動弁室70へ垂下する(図8参照)吸気バルブ滴下誘導リブ200aが設けられて、その先端が吸気バルブオイル滴下部194aとなる。吸気バルブオイル滴下部194aは、上述のように、吸気バルブステムエンド87aと上下に対向する位置に設けられる。
吸気バルブオイル滴下部194aは、オイル吐出口188から直接受け、カバー側ボス部189を伝わり、あるいは飛散してシリンダヘッド143内面に付着した飛沫オイルを吸気バルブ滴下誘導リブ200aが収集したオイルを、吸気バルブステムエンド87a側に、図8〜図10中に破線矢印で示すように滴下する。
【0066】
また、シリンダヘッドカバー143の内面には、オイル吐出口188の下方に設けられた第2のオイル吐出口201と、オイル吐出口188と第2のオイル吐出口201とを連結するオイル通路ボス202とが設けられ、オイル吐出口188と第2のオイル吐出口201とは、オイル通路ボス202内に形成されたオイル通路203で連通されている。
【0067】
シリンダヘッド42のカム軸ホルダ62には、図8に示すように、排気バルブ76bを開閉する排気ロッカーアーム75bの排気ロッカーアーム軸74bを回転可能に支持する排気ロッカーアーム軸支持部62bが形成され、第2のノズル部201aは、排気バルブステムエンド87bの直上に位置されるとともに、排気ロッカーアーム軸支持部62bにオイルを噴射するように配向されている。
【0068】
そのため、第2のオイル吐出口201から吐出されるオイルが排気ロッカーアーム軸支持部62bに当たり飛沫となるので、排気ロッカーアーム75bでオイルが遮られることなく、排気バルブステムエンド87bを潤滑することができる。
【0069】
オイル吐出口188、ノズル部188a、カバー側ボス部189、カバー側オイル供給油路190、吸気バルブオイル滴下部194a、吸気バルブ滴下誘導リブ200a、第2のオイル吐出口201、オイル通路ボス202、オイル通路203の詳細な配置は、図9に示すとおりである。
【0070】
図9に示すように、シリンダヘッドカバー143の内面には、カムチェーン室72(図10参照)上方の内面172aにおいて、上方から下方に向けて延在し、下端部で吸気カムオイル滴下部194bに連結するカムチェーン上方誘導リブ200bが備えられている。
また、カムチェーン上方誘導リブ200bに連結し、その連結部200b′から下方に向けて延在し且つカムチェーン室72側に向けて延びるカムチェーン上方排油誘導リブ200cが備えられている。
【0071】
オイル通路ボス202の上下方向中間部には、吸気カム65a、排気カム65bと上下に対向する位置の外面上にそれぞれ、吸気カムオイル滴下部194b、排気カムオイル滴下部194cが配置されている。
【0072】
吸気カムオイル滴下部194bは、カムチェーン上方誘導リブ200bの下端部においてオイル通路ボス202の外面側部に接続して形成され、下方に向けて凸のV字型に配置され、その凸部を動弁室70へ垂下突出させて形成されている(図8参照)。したがって、カムチェーン71から飛散しカムチェーン71(カムチェーン室72)上方のシリンダヘッドカバー143の内面172aに付着してカムチェーン上方誘導リブ200bが収集した飛沫オイルのほか、オイル通路ボス202に付着しその外面を流下したオイルも、吸気カムオイル滴下部194bに収集され、吸気カム65a側に、図8〜図10中に破線矢印で示すように滴下する。
【0073】
排気カムオイル滴下部194cは、オイル通路ボス202の外面上に下方に向けて凸のV字型リブ状に配置され、その凸部を動弁室70へ垂下突出させて形成されている(図8参照)。したがって、シリンダヘッドカバー143の内面に付着してオイル通路ボス202の外面を流下したオイルは、排気カムオイル滴下部194cに収集され、排気カム65b側に、図8〜図10中に破線矢印で示すように滴下する。
【0074】
また、オイル通路ボス202の下端部で第2のオイル吐出口201を形成するノズル部201aは、上記のように排気バルブステムエンド87bの直上、排気バルブステムエンド87bと上下に対向する位置に配置され、その下部を動弁室70へ垂下突出させて形成されている(図8参照)。
したがって、ノズル部201aの下部は、オイル通路ボス202の外面を伝い流下したオイルを収集し、排気バルブステムエンド87b側に、図8〜図10中に破線矢印で示すように、オイルを滴下する排気バルブオイル滴下部194dとなる。
【0075】
すなわち、オイル通路ボス202は、各オイル滴下部194a〜194dと連結し、誘導リブとして働く。
滴下したオイルは、その周辺を潤滑して流下するか、動弁機構6の作動に伴って飛散し、その飛沫オイルの一部は再度、シリンダヘッドカバー143の内面に付着する。
【0076】
また、シリンダヘッドカバー143の内面上には、カムチェーン上方誘導リブ200bに連結するカムチェーン上方排油誘導リブ200cのほかに、吸気バルブオイル滴下部194bと吸気カムオイル滴下部194cより下方において、オイル通路ボス202に連結し、その左側下方へ向けて延在し且つカムチェーン室72側に向けて延びる中部排油誘導リブ200dと、排気バルブオイル滴下部194dより下方、すなわちオイル通路ボス202より下方において、右側上方から左側下方に延在し且つカムチェーン室72側に向けて延びる下部排油誘導リブ200eが設けられている。
【0077】
中部排油誘導リブ200dは、図9に示すように、オイル通路ボス202の右側で右上方に延在する部分200d′を有するが、それは主に強度上の目的のためである。ただし、オイル通路ボス202の右側のシリンダヘッドカバー143の内面に付着したオイル飛沫をオイル通路ボス202に導き排出し、排気バルブオイル滴下部194dに供給する働きがある。
【0078】
各排油誘導リブ200c、200d、200eの下端204c、204d、204eは、シリンダヘッドカバー143の内面の左側下方端部(すなわち、前方端部)まで到達して設けられている。
【0079】
上記のような、シリンダヘッドカバー143を、シリンダヘッド42に取り付けた状態を、図10によって説明する。
同図(a)は、シリンダヘッド42と動弁機構6を、シリンダヘッドカバー143を取り付けずに、車両前方から後ろ向きに見下ろした状態(図8中Xa矢視)を示し、2点差線で、シリンダヘッドカバー143の各オイル滴下部194a〜194dと、各誘導リブ200a〜200e等の位置を示している。
【0080】
同図(b)は、シリンダヘッドカバー143を、(a)と同じ向きで見下ろした状態の、その外面(図8中Xb矢視)を示し、破線で、各オイル滴下部194a〜194dと、各誘導リブ200a〜200e等の位置を示している。
【0081】
図8、図10に示すように、後方右側のオイル吐出口188は、各バルブステムエンド87a、87bや各カム65a、65bを挟んで、左側下方のカムチェーン室72と反対側で、シリンダヘッドカバー143の上部内面に位置しており、動弁室70の上部に位置するオイル吐出口188からオイルが吐出されるので、動弁機構6の上部の潤滑を良好とできる。
【0082】
上述したように、カム軸ホルダ62には、排気ロッカーアーム軸74bを回転可能に支持する排気ロッカーアーム軸支持部62bが形成され、第2のノズル部201aは、排気ロッカーアーム軸支持部62bにオイルを噴射するように配向されているので、第2のオイル吐出口201から吐出されるオイルが排気ロッカーアーム軸支持部62bに当たり飛沫となるため、排気ロッカーアーム75bでオイルが遮られることなく、動弁室70の下部に位置する排気バルブステムエンド87bを良好に潤滑することができる。
【0083】
また、各オイル滴下部194a〜194dから滴下するオイルが、それぞれ破線矢印で示すように、目的とする滴下箇所である、吸気バルブステムエンド87a、吸気カム65a、排気カム65b、および排気バルブステムエンド87bに向けて滴下し、各部の潤滑を良好に行うことのできる配置となっている。
【0084】
また、カムチェーン上方排油誘導リブ200c、中部排油誘導リブ200d、下部排油誘導リブ200eは、図10(a)に示されるように、各オイル滴下部194b、194c、および194d下方から下方に向け且つ、その下端204c〜204eが、シリンダヘッドカバー143左下部に位置して、上述したオイル戻し室となるカムチェーン室72に向けて延びている。
【0085】
したがって、シリンダヘッドカバー143内面から余剰となって排出されるオイルは、図8〜図10に示すように、各排油誘導リブ200c〜200eを伝わって流下し、その下端204c〜204e経由、シリンダヘッド42の前方内壁42bを伝わり、オイル戻し室としてのカムチェーン室72に流れ込み、動弁機構6の他の箇所から排出されたオイルと共に、カムチェーン室72をクランクケース3まで流下して、クランクケース3下部のオイルパンに戻される(図1参照)。
【0086】
すなわち、本実施形態の動弁機構の潤滑構造によれば、動弁機構6の潤滑を良好に行いつつ、オイル滴下部194b〜194dから余ったオイルが中部排油誘導リブ200d、下部排油誘導リブ200eを伝ってオイル戻し室としてのカムチェーン室72に落とされることで、オイルがクランクケース3に戻る時間が短縮され、それによって所要のオイル容量が低減して、内燃機関1の小型軽量化が可能となった。
【0087】
また、動弁機構6への動力伝達部材であるカムチェーン71を収容する空間、カムチェーン室72がオイル戻し室となるので、別途のオイル戻し用の油路を設ける必要がなく、シリンダブロック41を小型化できた。また、カムチェーン71からの飛沫オイルも効率よくクランクケース3に戻すことができた。
【0088】
そしてさらに、カムチェーンの回転に伴って飛散し、ヘッドカバー内面に付着した飛沫オイルを、カムチェーン上方誘導リブ200bによって吸気カムオイル滴下部194bに供給することができ、吸気カムオイル滴下部194bへのオイル供給がさらに良好になった。
また、カムチェーン上方誘導リブ200bに連結し、その連結部200b′から下方に向けて延在するカムチェーン上方排油誘導リブ200cを備えたので、カムチェーン71からの飛沫オイルをカムチェーン上方排油誘導リブ200cを介して効率よく回収することができた。
【0089】
また、シリンダヘッドカバー143はその内面において、各バルブステムエンド87a、87b、または、吸気カム65a、排気カム65bを挟んでオイル戻し室としてのカムチェーン室72の反対側で上方に位置し、シリンダヘッド42内のホルダ側オイル供給油路91と連通するオイル吐出口188を備える他に、オイル吐出口188の下方に設けられた第2のオイル吐出口201と、オイル吐出口188と第2のオイル吐出口201とを連結し且つ各オイル滴下部194a〜194dと連結するオイル通路ボス202とを備える。そして、オイル吐出口188と第2のオイル吐出口201とは、オイル通路ボス202内に形成されたオイル通路203で連通され、各誘導リブ200a〜200dはオイル通路ボス202に連結されたので、オイル吐出口188、201が複数設けられたことで、各潤滑箇所へのオイルの供給と潤滑が良好となり、オイル通路ボス202が誘導リブの一部として働くので、オイルの戻りがさらに良好となった。
【0090】
また、オイル通路ボス202上から各カム65a、65bに向かって垂下する吸気カムオイル滴下部194b、排気カムオイル滴下部194cが設けられ、オイル通路ボス202によって各オイル滴下部194b、194cへオイルを導けるので、シリンダヘッドカバー143の重量増大を抑制しつつ、各カム65a、65bの近くに各オイル滴下部194b、194cを配置することができ、良好な潤滑ができた。
【0091】
また、シリンダヘッド42には、排気バルブ76bを開閉する排気ロッカーアーム75bのロッカーアーム軸74bを回転可能に支持する排気ロッカーアーム軸支持部62bが形成され、第2のオイル吐出口201は、排気バルブステムエンド87bの直上に位置され、排気ロッカーアーム軸支持部62bにオイルを噴射するように配向されたので、第2のオイル吐出口201から吐出されるオイルが排気ロッカーアーム軸支持部62bに当たり飛沫となるため、排気ロッカーアーム75bでオイルが遮られることなく、排気バルブステムエンド87bを良好に潤滑することができた。
【0092】
次に、本発明に関連し、本発明者が検討した別の発明である第2検討例の動弁機構の潤滑構造につき、図11を参照して、簡単に説明する。
第2検討例の動弁機構の潤滑構造は、上記第1検討例のものと、シリンダヘッドカバーの各誘導リブの配置が異なる他は、第1検討例と同様である。
【0093】
すなわち、本検討例のシリンダヘッドカバー343においては、吸気カムオイル滴下部94bと排気カムオイル滴下部94cに連結するカム滴下誘導リブ395bは、第1検討例のカム滴下誘導リブ95bと異なり、オイル吐出口88を、完全に囲まず、シリンダヘッドカバー343の後方部分343a側の内面を開放するように形成されている。
【0094】
また、第1検討例における上部排油誘導リブ95cを設けず、吸気カムオイル滴下部94bおよび排気カムオイル滴下部94cと、排気バルブオイル滴下部94dとの間で、カムチェーン室72上方のシリンダヘッドカバー343の内面372aにおいて、左上方から右下方に延在し、その下端396fが排気バルブオイル滴下部94dの上方に位置する中部誘導リブ395fを設けている。
【0095】
そして、さらに、排気バルブオイル滴下部94dを形成するように下方に凸状に設けられた排気バルブ滴下誘導リブ395dは、第1検討例の排気バルブ滴下誘導リブ95dと異なり、左側部が左上方に延在し、カムチェーン室72上方のシリンダヘッドカバー343の内面372aを通過し、シリンダヘッドカバー343の左内面端に達している。
【0096】
上記のようなカム滴下誘導リブ395bの配置によって、吸気カムオイル滴下部94bおよび排気カムオイル滴下部94cは、カムチェーン71から飛散、付着したものも含め、シリンダヘッドカバー343の内面から多くのオイルを収集でき、各カム65a、65bへのオイルの滴下供給を十分に行うことができる。
【0097】
中部誘導リブ395fの配置によって、カムチェーン71が掻き上げ、カムチェーン室72上方のシリンダヘッドカバー343の内面372aに付着した飛沫オイルは、中部誘導リブ395fに収集され流下し、その下端396fから、その下方に位置し下方に向け凸状に設けられた排気バルブ滴下誘導リブ395d上に流れ込み、排気バルブオイル滴下部94dに供給される。
また、排気バルブ滴下誘導リブ395dの左側部は、左上方に延在し、上記シリンダヘッドカバー343の内面372aを通過し、シリンダヘッドカバー343の左内面端に達しているので、排気バルブ滴下誘導リブ395dによっても、カムチェーン71が掻き上げ、上記シリンダヘッドカバー343の内面372aに付着した飛沫オイルが収集され、排気バルブオイル滴下部94dに供給される。
そのため、本検討例は、従来オイル供給上改善の余地のあった、排気バルブステムエンド87bへのオイル供給が十分になされることに特徴がある。
【0098】
検討例においても、各誘導リブ95a、395b、395f、395dを伝え流れ、各オイル滴下部94a〜94dから滴下した後、余剰となったオイルはシリンダヘッドカバー343の内面を流下し、下部排油誘導リブ95eによって、その下端96eから、シリンダヘッド42の前方内壁42bを経由して、カムチェーン室72に流れ込み、クランクケース3まで流下し、その下部のオイルパンに戻される(図3、図1参照)。
【0099】
以上本発明に係る実施形態を示したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。
例えば、上記の実施形態では、内燃機関1に4ストロークサイクル単気筒内燃機関を使用した場合を示すが、本発明はこれに限定されず、多気筒内燃機関を使用した場合にも、同様の効果を得ることができる。
また、車両として自動二輪車の場合、特にスクータ型自動二輪車の場合に好ましく適用した場合を示すが、本発明はこれに限定されず、シリンダ部4が垂直より前傾する度合いも図示のものに限定するものではなく、種々の態様の自動二輪車、自動三輪車等において同様の内燃機関、パワーユニットを使用した場合にも、動弁機構の潤滑構造として適用し、同様の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0100】
1…内燃機関、2…クランク軸、3…クランクケース、3L…左クランクケース、3R…右クランクケース、4…シリンダ部、5…変速機構、6…動弁機構、7…ピストン、8…変速クラッチ、10…燃焼室、17…ACG室、18…オイル戻し通路、31…クランク室、41…シリンダブロック、42…シリンダヘッド、43…シリンダヘッドカバー、43a…後方部分、43b…前方部分、44、44A…スタッドボルト、45、45A…スタッドボルト孔、61…駆動スプロケット、62…カム軸ホルダ、62b…排気ロッカーアーム軸支持部、63…カム軸、65a…吸気カム、65b…排気カム、66…従動スプロケット、70…動弁室、71…カムチェーン、72、72a、72b…カムチェーン室、74b…排気ロッカーアーム軸、76a…吸気バルブ、76b…排気バルブ、87a…吸気バルブステムエンド、87b…排気バルブステムエンド、88…オイル吐出口、89…カバー側ボス部、90…カバー側オイル供給油路、91…ホルダ側オイル供給油路、92…ホルダ側ボス部、93…ボルト孔間隙部、94a…吸気バルブオイル滴下部、94b…吸気カムオイル滴下部、94c…排気カムオイル滴下部、94d…排気バルブオイル滴下部、95a…吸気バルブ滴下誘導リブ、95b…カム滴下誘導リブ、95c…上部排油誘導リブ、95d…排気バルブ滴下誘導リブ、95e…下部排油誘導リブ、100…パワーユニット、143…シリンダヘッドカバー、172a…内面、188…オイル吐出口、190…カバー側オイル供給油路、194a…吸気バルブオイル滴下部、194b…吸気カムオイル滴下部、194c…排気カムオイル滴下部、194d…排気バルブオイル滴下部、200a…吸気バルブ滴下誘導リブ、200b…カムチェーン上方誘導リブ、200b′…連結部、200c…カムチェーン上方排油誘導リブ、200d…中部排油誘導リブ、200e…下部排油誘導リブ、201…第2のオイル吐出口、201a…ノズル部、202…オイル通路ボス、203…オイル通路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載された内燃機関(1)のクランクケース(3)から上方に向けて、垂直よりも前傾して延出するシリンダブロック(41)と、同シリンダブロック(41)の上方に取り付けられたシリンダヘッド(42)とシリンダヘッドカバー(143)で形成された動弁室(70)とを備えた内燃機関(1)における動弁機構(6)の潤滑構造であって、
前記シリンダヘッドカバー(143)はその内面において、バルブステムエンド(87a,b)または動弁機構(6)のカム(65a,b)と上下に対向する位置に複数のオイル滴下部(194a〜d)を備え、
前記シリンダヘッドカバー(143)の内面の上方に位置し前記シリンダヘッド(42)内の油路(91)と連通するオイル吐出口(188)と、
同オイル吐出口(188)の下方に設けられた第2のオイル吐出口(201)と、
前記オイル吐出口(188)と前記第2のオイル吐出口(201)を上下に連結するとともに、前記オイル滴下部(194a〜d)を上下に並べて連結するオイル通路ボス(202)とを備え、
前記オイル吐出口(188)と前記第2のオイル吐出口(201)とは、前記オイル通路ボス(202)内に形成されたオイル通路(203)で連通され、
前記オイル滴下部(194a〜d)は前記オイル通路ボス(202)下方に向けて垂下突出して形成されたことを特徴とする動弁機構の潤滑構造
【請求項2】
前記シリンダヘッド(42)には、排気バルブ(76b)を開閉する排気ロッカーアーム(75b)のロッカーアーム軸(74b)を回転可能に支持する排気ロッカーアーム軸支持部(62b)が形成され、
前記第2のオイル吐出口(201)は、排気バルブステムエンド(87b)の直上に位置され、前記排気ロッカーアーム軸支持部(62b)にオイルを噴射するように配向されたことを特徴とする請求項1に記載の動弁機構の潤滑構造。
【請求項3】
前記複数のオイル滴下部(194a〜d)は、前記オイル通路ボス(202)の上下方向中間部に配置されたもの(194b,c)を含むことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の動弁機構の潤滑構造。
【請求項4】
前記複数のオイル滴下部(194a〜d)の内、少なくとも一つのオイル滴下部(194a)が前記オイル吐出口(188)の近傍に配置されて直接オイルを受けることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の動弁機構の潤滑構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−76404(P2013−76404A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−274247(P2012−274247)
【出願日】平成24年12月17日(2012.12.17)
【分割の表示】特願2009−270947(P2009−270947)の分割
【原出願日】平成21年11月30日(2009.11.30)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】