説明

動揺補正装置

【課題】本発明は、衛星通信系の無線局において、アンテナの基部の変位や振動に抗して所望の通信衛星の捕捉を維持する動揺補正装置に関し、構成が大幅に変更されることなく、動揺に起因するアンテナの姿勢の変動を能動的に精度よく吸収し、所望の静止衛星の捕捉を安定に維持できることを目的とする。
【解決手段】時系列の順に計測された衛星通信用アンテナの基部の角速度ωと、前記時系列上で前記角速度ωに先行して計測された前記基部の傾斜角θに応じて前記基部に設定された基部傾斜補正角θHYB と前記傾斜角θとの差Δと、前記基部傾斜補正角θHYB との和として、前記基部傾斜補正角θHYB の更新値θHYB′を求める傾斜補正角算出手段と、前記基部に前記更新値θHYB′を新たな基部傾斜角補正角として設定する傾斜制御手段とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衛星通信系の無線局において、アンテナの基部の変位や振動に抗して所望の通信衛星の捕捉を維持する動揺補正装置に関する。
【背景技術】
【0002】
衛星通信系の可搬型の地球局では、要員の乗り降り、もしくは荷物の積み下ろしの過程で生じるアンテナの基部の動揺により車両が傾斜する。従来、このような場合に他の通信衛星に妨害を与え、あるいは通信路が遮断される最悪の事態を回避するために、車両の姿勢がジャッキによって支えられていた。
【0003】
なお、本発明に関連する先行技術としては、以下に列記する特許文献1および特許文献2がある。
(1) 「搭載される移動体の動揺角速度を検知するレートセンサと、当該移動体の動揺角を検知する傾斜センサと、レートセンサの検知出力を瀘波する第1の相補フィルタ、傾斜センサの検知出力を瀘波する第2の相補フィルタ、及び第1の相補フィルタの出力と第2の相補フィルタの出力を合成する加算器を含み、レートセンサの検知出力と傾斜センサの検知出力とを相補的に合成し所定周波数領域で平坦な周波数特性としつつアンテナ制御系に供給する相補的合成フィルタと、を備え、アンテナの姿勢又はビーム制御の基礎となる動揺角を検出する動揺角検出器において、レートセンサのオフセット値を格納するオフセット補正レジスタと、オフセット補正レジスタの格納値をレートセンサの出力に加算又は減算して第1の相補フィルタに供給する手段と、受信レベルに応じてオフセット補正レジスタの格納値を逐次漸減/漸増させるステップトラック制御手段とを備え、アンテナの受信レベルが大となるようレートセンサから相補的合成フィルタへの入力を補正する」ことによって、「安価なレートセンサを恒温槽なしで用いつつオフセット誤差を低減する」点に特徴がある「動揺角検出器」およびこの動揺角検出器が搭載された「衛星受信システム」…特許文献1
【0004】
(2) 「航空機に搭載され自身の位置と姿勢とを計測する慣性参照ユニットと、前記慣性参照ユニットから離れた前記航空機上に搭載されたアンテナ架台と、前記アンテナ架台上に設置され任意の方向に指向駆動されて通信衛星と通信するアンテナと、前記アンテナ架台の近傍に設置され前記アンテナ架台の少なくとも2次元の角速度を計測する角速度センサとを備え、前記慣性参照ユニットの計測した位置信号と姿勢信号を、前記角速度センサの角速度信号を用いて補正した位置信号と姿勢信号とにもとづき前記アンテナを制御する」ことにより、「前記航空機の機体のゆがみと前記慣性参照ユニットの計測遅れを補正する」点に特徴がある衛星追尾用のアンテナ制御装置…特許文献2
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−196475号公報
【特許文献2】特開2005−181149号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述した従来例では、可搬型の地球局が稼働すべき地点が傾斜地や悪路上である場合には、ジャッキの使用が困難であり、あるいはジャッキが使用されても既述の基部の動揺は必ずしも十分には抑制されなかった。
【0007】
本発明は、構成が大幅に変更されることなく、動揺に起因するアンテナの姿勢の変動を能動的に精度よく吸収し、所望の静止衛星の捕捉を安定に維持できる動揺補正装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の発明では、傾斜補正角算出手段は、時系列の順に計測された衛星通信用アンテナの基部の角速度ωと、前記時系列上で前記角速度ωに先行して計測された前記基部の傾斜角θに応じて前記基部に設定された基部傾斜補正角θHYB と前記傾斜角θとの差Δと、前記基部傾斜補正角θHYB との和として、前記基部傾斜補正角θHYB の更新値θHYB′を求める。傾斜補正手段は、前記基部の傾斜を前記更新値θHYB′に基づいて補正する。
すなわち、衛星通信用アンテナの基部の傾斜は、その基部に生じた振動や動揺の成分が上記加速度ωとして速やかに反映され、かつ時系列上で先行して用いられた基部傾斜補正角θHYB の前記傾斜角θに対する格差(=Δ)も反映された更新値θHYB′に基づいて補正される。
請求項2に記載の発明では、請求項1に記載の動揺補正装置において、前記傾斜補正角算出手段は、前記基部の構成と、前記基部の機械的な特性との双方または何れか一方で定まる係数k(<1)で前記差Δを重み付けすることにより、前記更新値θHYB′を求める。
すなわち、係数kが予め好適な値に設定されるならば、更新値θHYB′に上記差Δが重み付けられることなく含まれることに起因して、傾斜補正手段によって補正される基部の傾斜に過渡的に「過度の跳躍」と「好ましくない誤差」との何れもが生じることが回避される。
請求項3に記載の発明では、請求項2に記載の動揺補正装置において、係数記憶手段には、前記基部の構成と、前記基部の機械的な特性との組み合わせ、または前記構成と前記機械的な特性との何れか一方に対して好適な値が前記係数kの候補として予め記憶される。前記傾斜補正角算出手段は、前記基部の構成と、前記基部の機械的な特性との双方または何れか一方に対応して前記係数記憶手段に記憶されている値を前記係数kとして適用する。
すなわち、衛星通信用アンテナの基部の傾斜は、その基部の多様な構成や特性に柔軟に適応した形態で補正される。
請求項4に記載の発明では、請求項1ないし請求項3の何れか1項に記載の動揺補正装置において、前記傾斜補正角算出手段は、前記時系列の順に先行して求められた複数の角速度ωと差Δとの双方または何れか一方を前記時系列の順に大きく重み付けすることにより、前記更新値θHYB′を求める。
すなわち、前記更新値θHYB′には、1つの角速度ωおよび差Δのみではなく、時系列の順に先行して求められた複数の角速度および差が新しいものほど大きな比率で反映される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、衛星通信用アンテナの基部の振動や動揺は、傾斜角θのみに基づいて補正される場合に比べて、遅れることなく吸収される。
また、本発明によれば、衛星通信用アンテナの基部の振動や動揺は、応答性と精度との均衡がとれた好適な形態で吸収される。
さらに、本発明によれば、構成の標準化が図られることによって、通信用アンテナの基部の多様に異なる構成や特性に対する柔軟な適応と低廉化とが性能の低下を来すことなく可能となる。
また、本発明によれば、衛星通信用アンテナの基部の傾斜が精度よく安定に吸収される。
【0010】
したがって、本発明が適用された衛星通信系では、地球局が設置されるべき地点の地形や地物に関する制約の大幅な緩和が可能となり、かつ通信衛星を介する通信路の確保が安価に、かつ速やかに達成される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態を示す図である。
【図2】本実施形態におけるシーケンサの動作フローチャートである。
【図3】本実施形態の作用および効果を説明する図である。
【図4】テンポラリレジスタの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態について詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態を示す図である。
図において、車外装置10は、所定のケーブルを介して接続された車内装置20と共に車両等の移動体に搭載される。
車外装置10は、以下の要素から構成される。
【0013】
(1) 所望の静止衛星との間に無線伝送路を形成する平面アンテナ11
(2) 平面アンテナ11の給電点に接続され、上記無線伝送路を介して送受信される無線信号を中間周波帯またはベースバンドにおいて車内装置20に引き渡す送受信部12
【0014】
(3) これらの平面アンテナ11および送受信部12から構成される無線部10RFを物理的に可動させることにより、上記無線伝送路の方位角、仰角および偏波をそれぞれ可変するサーボ機構13AZ、13E、13P
(4) サーボ機構13AZによって可変される方位角を所定の範囲(例えば、0〜2πラジアン)に制限するリミットスイッチ14
(5) GPSを利用することにより平面アンテナ11(無線部10RF)が位置する地点Pの緯度latおよび経度lonを得る測位部(GPS)15
【0015】
(6) 平面アンテナ11の基部の水平面に対する傾斜角θをその基部のロール方向とピッチ方向との成分θr、θpとして計測する傾斜計16
(7) 上記送受信部12、サーボ機構13AZ、13E、13P、リミットスイッチ14、測位部15および傾斜計16にそれぞれ接続された入出力ポートに併せて、車内装置20との連係に供される通信ポートを有するシーケンサ17
【0016】
また、車内装置20は、以下の要素から構成される。
(1) 送受信部12と相互に中間周波帯またはベースバンドで既述の無線信号を引き渡し、かつ既定のフレーム構成に基づくフレームの列をシンボル列として出力する信号処理部21
(2) 信号処理部21およびシーケンサ17と連係することにより、操作者に所定の情報を提供し、その操作者によって行われる操作にかかわる仲立ちをする表示装置部22
【0017】
図2は、本実施形態におけるシーケンサの動作フローチャートである。
図3は、本実施形態の作用および効果を説明する図である。
以下、図1〜図3を参照して本実施形態の動作を説明する。
【0018】
以下、本実施形態の特徴的な動作の前提となる各部の一般的な動作および連係を説明する。
シーケンサ17は、始動時に、傾斜系16を介して水平面に対する平面アンテナ11の基部の傾斜角θを計測する。シーケンサ17は、その傾斜角が所定の精度で0度でない場合には、表示操作部22を介してその旨を操作者に通知し、可能である場合には、傾斜補償機構(図示されない。)を駆動することにより、上記基部の水平面に対する傾斜を補償する。
【0019】
また、シーケンサ17は、「静止軌道上における該当する静止衛星(以下、「目的静止衛星」という。)を示す識別子IDn」が表示操作部22を介して操作者によって指定されると、以下の処理(以下、「衛星捕捉処理」という。)を行う。なお、以下に示す「衛星捕捉処理」の詳細な手順については、例えば、本願と同一の出願人に係る特願2009−258157号(発明の名称:衛星捕捉装置)に開示された手順、あるいは他の多様な手順により代替可能である。
【0020】
(1) 目的静止衛星の経度LATi、目的静止衛星から到来する無線信号の占有帯域Bi、この無線信号の変復調に適用される変復調方式Mi、このような変復調方式Miに基づいて上記無線信号として伝送されるフレームのフレーム構成Fi、目的静止衛星からダウンリンクを介して到来する無線信号の偏波POLiを取得する。
【0021】
(2) 送受信部12に、これらの占有帯域Bi、変復調方式Mi、フレーム構成Fiに基づく無線信号の送受信、変復調を指示する。
【0022】
(3) 測位部15によって得られた緯度latおよび経度lonに併せて、上記経度LATiを所定の座標系に適用することにより、平面アンテナ11(無線部10RF)が位置する地点Pから目的静止衛星の方向を示す方位角θazおよび仰角θeを算出する。
【0023】
(4) 上記緯度latおよび経度lonに基づいて既述の偏波POLiを補正することにより、目的静止衛星から地点Pに到来する無線信号の偏波POLi′を特定する。
(5) サーボ機構13Pを介して平面アンテナ11(無線部10RF)の姿勢を調整することにより、その平面アンテナ11の偏波を上記偏波POLi′に一致させる。
【0024】
(6) サーボ機構13Eを介して無線部10RFの姿勢を調整することにより、水平面に対する平面アンテナ11の主ローブの仰角を上記仰角θeに設定する。
(7) サーボ機構13AZを介して0ラジアン〜2πラジアンに亘って無線部10RFの方位角θazを可変しつつ、上記送受信部12によって既述の占有帯域Biを介して無線信号が受信された時点における無線部10RFの方位角の全てθaz1、θaz2を特定する。
(8) 所定のアルゴリズムに基づいて、これらの方位角θaz1、θaz2の内、一方を目的静止衛星の方位角θazとする。
(9) 送受信部10RFに、占有帯域Bi、変復調方式Mi、フレーム構成Fiに基づく無線信号の送受信を指示する。
【0025】
したがって、平面アンテナ11(無線部10RF)の主ローブの仰角や方位角の初期値が如何なるものであっても、目的静止衛星の方位角は、既述の位置Pにおいて既知である目的静止衛星の仰角に対して静止軌道に交叉する2つ方位の内、既知である現用の静止衛星の配置に基づいて選択された一方の方位として特定される。
以下、既述の「一般的な動作および連係」を前提として、本実施形態の特徴的な構成および動作を説明する。
本実施形態では、車外装置10には、図1に点線で示すように、平面アンテナ11の基部において、その基部のロール方向とピッチ方向とにおける角速度ωr、ωpをそれぞれ計測する角速度計18が備えられる。
また、シーケンサ17の主記憶の所定の領域には、図4に示すように、既述の傾斜角θr、θpと、後述する傾斜補正角θrHYB 、θpHYB とが一次的に格納されるテンポラリレジスタ17TRが配置される。
シーケンサ17は、目的静止衛星の捕捉を完了した後に、以下の処理(以下、「動揺補正処理」という。)を行う。
(1) 所定の周期Tで、角速度計18を介して角速度ωr、ωpを計測し、かつ傾斜計16を介して既述の傾斜角θr、θpを計測する(図2ステップS1)。
(2) 動揺補正処理を起動した直後には、このようにして計測された傾斜角θr、θpを後述する傾斜補正角θrHYB、θpHYBの初期値と見なし、これらの傾斜角θr、θpおよび傾斜補正角θrHYB、θpHYBをテンポラリレジスタ17の対応するレコードに格納する(図2ステップS2)。
(3) このようにしてテンポラリレジスタ17の内容が初期化された後には、既述の周期Tで新たな角速度ωr、ωpと、新たな傾斜角θr、θpとの計測が完了する度に、以下の処理(3-1)〜(3-4)を行う。
(3-1) テンポラリレジスタ17に格納されている傾斜補正角θrHYB、θpHYBを読み出し(図2ステップS3)、これらの傾斜補正角θrHYB、θpHYB、上述した新たな角速度ωr、ωp、新たな傾斜角θr、θpおよび既定の係数(定数)k(<1)に対して下式で示される傾斜補正角θrHYB′、θpHYB′を算出する(図2ステップS4)。
θrHYB′=θrHYB+ωr+(θrHYB−θr)・k … (a)
θpHYB′=θpHYB+ωp+(θpHYB−θp)・k … (b)
(3-2) 上記新たな傾斜角θr、θpと、算出された傾斜補正角θrHYB′、θpHYB′とをテンポラリレジスタ17TRに格納する(図2ステップS5)。
(3-3) これらの傾斜補正角θrHYB′、θpHYB′に含まれる既述の偏波POLi′、仰角θeおよび方位角θazの成分δPOL、δe、δazを算出する(図2ステップS6)。
(3-4) サーボ機構13P、13E、13AZを介して設定されるべき平面アンテナ11の偏波POLi′、仰角θeおよび方位角θazを下式で示すように補正する(図2ステップS7)。
POLi′=POLi′−δPOL
θe=θe−δe
θaz=θaz−δaz
ところで、上式(a)、(b)の右辺の第一項および第二項は、先行して求められた傾斜補正角θrHYB、θpHYBに対する最新の角速度ωr、ωpの加算(積分)を意味する。したがって、要員の乗り降りや荷物の積み下ろしに起因して車外装置10に生じた動揺は、これらの項の和として、傾斜補正角θrHYB′、θpHYB′に周期Tで反映される。
また、上式(a)、(b)の右辺の第三項に含まれる(θrHYB−θr)、(θpHYB−θp)は、先行して算出された傾斜補正角θrHYB、θpHYBの「傾斜計16によって先行して計測された傾斜角θr、θp」に対する偏差を意味する。
さらに、これらの第三項に含まれる係数(定数)kは、このような偏差が傾斜補正角θrHYB′、θpHYB′にそれぞれ反映されるべき比率であって、その反映が時系列の順に周期Tで行われるべき速度を意味し、車外装置10の構成と機械的な特性との何れに対しても好適な値に予め設定され、あるいは所望の要因に適した値に適宜変更することが可能である。
すなわち、車外装置10に備えられた傾斜計16が、温度や経年変化による特性の劣化が生じ難く、かつ安定に傾斜角を計測可能な液面型の傾斜計であっても、急峻な動きを角速度として計測可能な角速度計が併用され、かつ既述の単純な反復演算が行われることにより、以下の事象が確度高く緩和される。
(1) 傾斜計16によって計測された傾斜角θr、θpに含まれる雑音(図3(1))がサンプリング誤差として累積されること
(2) このようにして累積された誤差に起因して、通信衛星の捕捉の維持が損なわれ、あるいはその捕捉の精度が著しく低下すること
このように本実施形態によれば、要因の乗り降りや荷物の積み下ろし等に起因して車外装置10に振動や動揺が生じている期間(図3(2))であっても、その動揺が従来例のように遅れることなく、かつ安価に精度よく吸収される(図3(3))ため、通信衛星の捕捉状態が安定に維持される。
さらに、本実施形態によれば、衛星通信用の(可搬型)地球局が設置されるべき地点の地形や地物に関する制約が大幅に緩和される。
なお、本実施形態では、係数kは、既述の偏差(θrHYB−θr)、(θpHYB−θp)が傾斜補正角θrHYB′、θpHYB′に反映される速度が優先され、このような反映に伴う誤差の吸収が別途図られる場合には、「1」に設定されてもよい。
また、本実施形態では、例えば、想定され得る車外装置10の構成や機械的な特性に対応した係数kの好適な値が予め登録されたテーブルが備えられ、その車外装置10の実際の構成や機械的な特性に対応してこのテーブルに登録されている値が係数kとして設定されることにより、構成の標準化が図られてもよい。
さらに、本実施形態では、上式(a)、(b)の右辺には、時系列の順に先行して得られた1つのみの角速度ωr、ωpおよび偏差(θrHYB−θr)、(θpHYB−θp)が含まれている。
しかし、本発明はこのような構成に限定されず、例えば、上式(a)、(b)の右辺には、時系列の順に先行して得られた複数の角速度および偏差と、時系列の順に大きな値との重みとの積和として含まれることにより、応答性と精度との間における均衡が図られてもよい。
また、本実施形態では、傾斜計16および速度計18は、車外装置10の筐体やラック、あるいは平面アンテナ11の開口面を機械的に支持する基部(サーボ機構13AZ、13E、13Pを介して可動する部位や機構を除く)に直接取り付けられてもよい。
さらに、本実施形態では、周期Tの長さは、所望の応答性および精度で通信衛星の捕捉と、その捕捉の維持とが実現されるならば、如何なる値であってもよい。
また、本発明では、シーケンサ17によって行われる処理の手順および演算対象は本実施形態と同じでなくてもよく、所望の応答性および精度で静止衛星の捕捉と、その捕捉の維持とが実現されるならば、如何なるものであってもよい。
さらに、本実施形態では、既述の処理は、シーケンサ17のみによって行われている。
しかし、このような処理は、シーケンサ17に相当するマルチプロセッサ、あるいはそのシーケンサ17と他のプロセッサとの連係の下で機能分散や負荷分散が図られてもよい。
また、本実施形態では、平面アンテナ11の主ローブの方向が方位角および仰角の組み合わせによって設定され、かつ可変されている。
しかし、本発明は、上記主ローブの方向の設定および可変が如何なる座標系に基づいて行われる場合であっても、同様に適用可能である。
さらに、本実施形態では、既述の「動揺補正処理」は周期Tで定常的に実行されなくてもよく、例えば、乗員の乗り降り、荷物の積み下ろしのように、基部が動揺し、あるいは振動する要因が発生する期間に限って起動されてもよい。
また、本実施形態では、平面アンテナ11(無線部10RF)の基部の動揺のピッチ方向およびロール方向の成分に対して「動揺補正処理」が施されている。
しかし、本発明はこのような構成に限定されず、例えば、上記ピッチ方向とロール方向との何れか一方における動揺が著しく小さく、あるいは許容される場合には、「動揺補正処理」は、他方の方向における動揺の成分のみに対して施されてもよい。
さらに、このような「動揺補正処理」が行われるべき動揺の方向については、互いに直交する方向であるならば、上記ピッチ方向とロール方向との何れにも該当しない方向であってもよく、さらに、互いに直交する3つの方向であってもよい。
【0026】
また、本発明は、静止軌道上にある通信衛星にアクセスする地球局に限らず、例えば、地球以外の惑星等に配置され、その惑星の静止軌道上に位置する通信衛星を捕捉する無線局にも、同様に適用可能である。
【0027】
また、本発明は、上述した実施形態に限定されず、本発明の範囲において多様な実施形態の構成が可能であり、構成要素の全てまたは一部に如何なる改良が施されてもよい。
【符号の説明】
【0028】
10 車外装置
10RF 無線部
11 平面アンテナ
12 送受信部
13AZ,13E,13P サーボ機構
14 リミットスイッチ
15 測位部(GPS)
16 傾斜計
17 シーケンサ
17TR テンポラリレジスタ
18 加速度計
20 車内装置
21 信号処理部
22 表示操作部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
時系列の順に計測された衛星通信用アンテナの基部の角速度ωと、前記時系列上で前記角速度ωに先行して計測された前記基部の傾斜角θに応じて前記基部に設定された基部傾斜補正角θHYB と前記傾斜角θとの差Δと、前記基部傾斜補正角θHYB との和として、前記基部傾斜補正角θHYB の更新値θHYB′を求める傾斜補正角算出手段と、
前記基部の傾斜を前記更新値θHYB′に基づいて補正する傾斜補正手段と
を備えたことを特徴とする動揺補正装置。
【請求項2】
請求項1に記載の動揺補正装置において、
前記傾斜補正角算出手段は、
前記基部の構成と、前記基部の機械的な特性との双方または何れか一方で定まる係数k(<1)で前記差Δを重み付けすることにより、前記更新値θHYB′を求める
ことを特徴とする動揺補正装置。
【請求項3】
請求項2に記載の動揺補正装置において、
前記基部の構成と、前記基部の機械的な特性との組み合わせ、または前記構成と前記機械的な特性との何れか一方に対して好適な値が前記係数kの候補として予め記憶された係数記憶手段を有し、
前記傾斜補正角算出手段は、
前記基部の構成と、前記基部の機械的な特性との双方または何れか一方に対応して前記係数記憶手段に記憶されている値を前記係数kとして適用する
ことを特徴とする動揺補正装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3の何れか1項に記載の動揺補正装置において、
前記傾斜補正角算出手段は、
前記時系列の順に先行して求められた複数の角速度ωと差Δとの双方または何れか一方を前記時系列の順に大きく重み付けすることにより、前記更新値θHYB′を求める
ことを特徴とする動揺補正装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−49887(P2012−49887A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−191041(P2010−191041)
【出願日】平成22年8月27日(2010.8.27)
【出願人】(000004330)日本無線株式会社 (1,186)
【Fターム(参考)】