説明

動物において母性的に誘導される不稔性

本発明は、母性不稔構築物(MSC)、および生殖細胞を持たない不稔子孫を生じさせるための方法を提供する。MSC導入遺伝子を保有する雌性動物は、MSCがその子孫の始原生殖細胞(PGC)を特異的に排除するため、不稔世代を生じると考えられる。これらの雌は系列終末雌と呼ばれる。しかし、MSC導入遺伝子を保有する雄性動物は、稔性の子孫を生じる(その雄はMSCトランスジェニック雌に由来しないと想定される)。したがって、MSCトランスジェニック雄を用いて、そのトランスジェニック系統を繁殖させることができる。本発明は、有害生物もしくは外来種を排除するために、または有効な個体数調節を提供しかつ魚類および貝類などの養殖種の養殖成績を向上させるために、有益に適用することができる。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2009年11月23日に提出された米国仮特許出願第61/263,468号の優先権を主張し、その開示内容はその全体が本明細書に組み入れられる。
【0002】
連邦政府による資金援助を受けた研究および開発の下で行われた発明の権利に関する記述
本発明は一部、National Institute of Science and Technology Advance Technology Program(NIST-ATP)契約70NANB3H3043号およびNational Science Foundation SBIR助成金0912837号の下で、政府資金による支援を受けた。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
大量放出用の放射線誘発不稔雄に取って代わることのできる、魚類、両生類、軟体類、甲殻類および昆虫といった外来種および有害生物の防除のための技術に対しては需要がある。また、信頼性の高い不稔化手法は、形質改良(例えば、疾病抵抗性、成長または発生の改良、殺虫剤に対する抵抗性、疾病伝播機構の攪乱など)を目的とする、有益種に対する遺伝子操作の適用にも役立つと考えられる。
【0004】
従来、商業水産養殖では、不稔魚は三倍体誘導(染色体1セットを余分に追加すること)によって作製されてきた。しかし、三倍体性は一般に、多くの種の成績に有害な影響を及ぼすと考えられており、最適なプロトコールは種によって左右される。この技術の適用には手間がかかる上、そのような魚の100%が三倍体であってそれ故に不稔であることを保証することも困難である。
【0005】
より容易な解決策は、導入遺伝子または突然変異によって不稔性を媒介することであろう。不稔性を実現するためのトランスジェニックアプローチはいくつか提唱され、検証されているが、現時点では、これらの方法はせいぜいある程度成功しているに過ぎない。生理的レベル、細胞レベルおよび分子レベルでの不稔性は実証されていない(Thresher et al. (2009) Aquaculture 290:104-09およびWong & van Eenennaam (2008) Aquaculture 275:1-12)。
【0006】
大きな障害の1つは、その系統を繁殖させるために不稔性を一時的に取り消す必要があることである。各世代毎に処理を繰り返す必要のない解決策が望ましいと考えられる。
【0007】
トランスジェニック不稔魚を開発することを狙いとする研究の大半は、性腺の成長、分化および成熟に関与するホルモンを不活性化するための方法に目を向けてきた。ホルモン標的として提唱されたものには、ゴナドトロピン放出ホルモン、卵胞刺激ホルモンおよび黄体形成ホルモンが含まれる。こうした鍵となる遺伝子のサイレンシングは、原理的には、欠けているホルモンの外因性送達によって稔性を回復させることのできる、性的に未熟でかつ不稔性の魚をもたらすはずである。
【0008】
理論上は明快であるものの、このアプローチには多くの難題がつきまとう。第1の問題は、ある種の魚のゲノムには複数のホルモン遺伝子ファミリーメンバーが存在することである。加えて、これらのホルモンは、稔性の範囲を超える生物機能を有する。さらに、ノックダウン技術に依拠するモデルでは、不稔性は100%ではなく、稔性の低下は性別およびファウンダー系統によって異なる。
【0009】
内因性生殖遺伝子のサイレンシングのための代替的なアプローチは、初期胚発生のパターン形成において鍵となるシグナル伝達経路を攪乱させて胚死をもたらすように設計された遺伝子を有するトランスジェニック系統を作り出すことである。このアプローチは、アンチセンスRNAもしくはdsRNAといった遺伝子ノックダウン技術を用いるか、または形態形成遺伝子の誤発現(misexpression)を用いる。これらの胚撹乱物質を胚特異的プロモーターの制御下に配置し、胚発生の間に発現させる。
【0010】
可逆性を実現し、かつ系統の繁殖を可能にするために、極めて重要な発生遺伝子のプロモーターと撹乱物質との間に配置された細菌レプレッション系を有する構築物を設計する。このシステムは、市販のTet応答性PhCMV*-11プロモーターを用いる。理論上は、撹乱物質遺伝子の発現を阻止して生殖の可逆的制御をもたらす薬物(例えば、テトラサイクリンまたはその誘導体)を胚形成の間に短時間適用すると、魚を飼育下で交配させることができる。現在までのところ、不稔系統を作製するための取り組みは不首尾に終わっている。これらの系統を作り出す上での難題は、Tet応答性プロモーターが当てにならず、その結果、胚撹乱物質遺伝子の発現および以後のファウンダー系統の作出に対する選択のレベルが低くなるためである。このシステムはまた、細菌遺伝子およびプロモーター系の使用も必要とし、そのために商業化のための規制当局の審査過程が複雑になる。このアプローチのもう1つの欠点は、テトラサイクリン(またはその誘導体)を用いる必要があることであり、そのために生産コストが高くなり、環境ハザードが生み出されると考えられる。
【0011】
本発明は、以前の研究の欠点の多くを解決する。本発明は、脊椎動物および無脊椎動物のさまざまな種を効率的に不稔化することのできるトランスジェニック技術プラットフォームを提供する。しかも、このトランスジェニック系統は、有毒または有害な恐れのある薬剤を用いずに容易に繁殖させることができる。本技術は、有益な種の商業生産をより収益性の高いものにし、環境にも優しい。例えば、養殖水生動物種の不稔化は:1)養殖非在来種による野生集団への遺伝子流動および新たな生息地の定着を防ぐ(生物学的隔離(bioconfinement));2)改良された遺伝的性質を有する、価値のある系統を保護する;3)生腺発生および性分化に費やされるエネルギーを減らすことによって、またはすべてが雄の集団が生じることを可能にすることによって、成績を向上させる。すべてが雄の集団は、種の雄が雌よりも早く成長するならば有利な可能性がある。本質的に100%有効である不稔化方法は、リスクの低いトランスジェニック技術の開発を可能にし、現在の封じ込め技術を上回る著しい改良を保証すると考えられる。
【0012】
したがって、本発明は、以下のものを含む、著しい利点を提供する:(i)100%の有効性;(ii)他のアプローチと比較してより低いコスト(系統の繁殖または不稔化のために労力も処理も全く要しない);(iii)発現された遺伝子産物が宿主の成績に悪影響を及ぼさないか、または健康上もしくは環境上のリスクの恐れのある毒素遺伝子もしくは薬剤の使用を必要としない;(vi)この戦略をさまざまな生物に幅広く適用しうること;(vii)同じ構築物を用いる標的種の範囲が広いこと;および(viii)トランスジェニック系統の繁殖の容易さ。
【発明の概要】
【0013】
本発明は、不稔子孫世代を生じると考えられるトランスジェニック系列終末雌(transgenic lineage ending female)を作製するための組成物および方法を提供する。トランスジェニック雄を用いてトランスジェニック系統を繁殖させるための組成物および方法も同じく提供する。
【0014】
いくつかの態様において、本発明は、母性不稔構築物(MSC)、すなわち、以下のもの:(i)MSCプロモーター;(ii)始原生殖細胞(PGC)を除くことのできるポリヌクレオチド配列;および(iii)少なくとも1つの生殖細胞特異的シス作用性エレメントを含み、ここで(i)(ii)および(iii)が機能的に連結されている発現構築物を提供する。いくつかの態様において、MSCプロモーターは母性プロモーター、例えば、askopos(kop)遺伝子またはzona pellucida(zpc)遺伝子由来のプロモーターである。いくつかの態様において、生殖細胞特異的シス作用性エレメントは、生殖細胞系列遺伝子の3'UTR配列、例えば、dead-end(dnd)遺伝子またはnanos(nos)遺伝子由来の3'UTR配列を含む。
【0015】
いくつかの態様において、PGCを除くことのできるポリヌクレオチド配列はアポトーシス促進配列である。いくつかの態様において、アポトーシス促進配列は、PGCがアポトーシスを起こすように直接的に作用し、かつBax、Bak、Bok、Bad、Bik、Puma、Noxa、またはエフェクターカスパーゼなどのアポトーシス促進タンパク質をコードする。いくつかの態様において、アポトーシス促進配列は、例えば、bcl-2、bcl-xl、bcl-wなどの抗アポトーシス遺伝子の発現を低下させることによって間接的に作用する。いくつかの態様において、アポトーシス促進配列は、PGCの適正な移動または特異化のために必要な遺伝子、例えば、CXCR4-β、インスリン様受容体1b、fox c1またはnanosなどの発現を低下させることによって間接的に作用する。
【0016】
いくつかの態様において、本発明は、上記のMSCを保有するトランスジェニック動物を提供する。いくつかの態様において、MSCトランスジェニック動物は系列終末雌である。いくつかの態様において、MSCトランスジェニック動物は、以下のものからなる群より選択される:魚類、軟体動物、甲殻類、両生類、昆虫および節足動物。いくつかの態様において、MSCトランスジェニック動物は、別の導入遺伝子を少なくとも1つ保有する。
【0017】
いくつかの態様において、本発明は、系列終末雌を生じさせる方法であって、以下の段階を含む方法を提供する:(1)MSCを動物始原細胞(例えば、胚細胞)に導入して、生殖細胞内にMSCを保有するMSCトランスジェニックファウンダー動物を作製する段階;(ii)段階(i)によるMSCトランスジェニックファウンダー動物を交配して、ヘミ接合性MSCトランスジェニック雄を生じさせる段階;(iii)MSCトランスジェニック雄を、MSCを持たない雌と交配する段階;および(iv)段階(iii)によるMSCトランスジェニック雌性子孫を選択して、系列終末雌を得る段階。いくつかの態様において、本方法はさらに、段階(iv)による系列終末雌を雄と交雑させて不稔子孫世代を生じさせる段階も含む。いくつかの態様において、系列終末雌は、別の導入遺伝子を少なくとも1つ保有する。
【0018】
いくつかの態様において、本発明は、動物の不稔世代を生じさせる方法であって、系列終末雌を雄と交雑させて不稔子孫を生じさせる段階を含む方法を提供する。いくつかの態様において、不稔子孫は別の導入遺伝子を少なくとも1つ保有する。
【0019】
いくつかの態様において、MSCを遺伝によって受け継ぐのは系列終末雌の子孫の半分に過ぎないが、子孫はすべて不稔である(図1)。非トランスジェニック性であるが不稔である動物の集団には価値がある可能性があるため、いくつかの態様において、本方法は、MSCの存在を検出する段階、およびMSCトランスジェニック不稔子孫をMSC非トランスジェニック不稔子孫から分離する段階をさらに含む。いくつかの態様において、MSC導入遺伝子は蛍光マーカーまたはカラーマーカー(例えば、マーカー用の別のコード配列をMSC導入遺伝子に付加することによる)を用いて検出される。いくつかの態様において、MSC導入遺伝子は、MSCトランスジェニック不稔子孫の死亡を介して検出される(例えば、条件的プロモーターまたは発達段階特異的プロモーターの制御下にあるMSC導入遺伝子に致死性コード配列を付加することによる)。
【0020】
いくつかの態様において、本発明は、MSCトランスジェニック動物を繁殖させる方法であって、以下の段階を含む方法を提供する:(i)MSCを動物始原細胞に導入して、生殖細胞にMSCを保有するMSCトランスジェニックファウンダー動物を作製する段階;(ii)段階(i)によるMSCトランスジェニックファウンダー動物を交配して、ヘミ接合性MSCトランスジェニック雄を生じさせる段階;(iii)MSCトランスジェニック雄をMSCを持たない雌と交配する段階;および(iv)段階(iii)によるMSCトランスジェニック雄性子孫を選択して、別の世代のMSCトランスジェニック動物を交配および繁殖させる段階。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】不稔動物を作製してMSCトランスジェニック系統を繁殖させる一例を描写している流れ図を示す。
【図2】導入遺伝子を保有するトランスジェニック雌由来の生きている胚におけるPGCの初期標識を示す。(A)askopos:eGFP-dnd 3'UTR;または(B)zpc:eGFP-dnd 3'UTR。これらの胚はトランスジェニック雌と野生型雄との交雑に起因する。GFPは、楕円期(oblong stage)まで、胚盤中に均等に分布する(AおよびB1〜2)。生殖細胞を体細胞と識別することのできる最初の時点は原腸形成初期である(受精4時間後、A2およびB2)。A3、B3:体発生後期の胚、およびA4、B4:受精30〜48時間後(hpf)の胚。
【図3】トランスジェニック雌の蛍光顕微鏡画像を示す。(A)1カ月齢雌(zpc:eGFP-dnd 3'UTR)の側面図は、体壁を通して見たGFP性腺を示している。(B)&(C)3カ月齢雌(askopos:eGFP-dnd 3'UTR)由来の切離した卵巣、卵母細胞のI期およびII期にはここで最も強いGFP発現が観察される。
【図4】Baxを介したPGCの除去を示す。(A)合成キャップ付きbax:dnd mRNAの発現のために用いたLitmus 28i bax:dnd 3'UTR構築物の描写。(B)アガロースゲル上に描出された(A)由来のBax:dnd mRNA。(C)アポトーシス促進性ゼブラフィッシュBaxは、用量依存的な様式で死滅を誘導する。(D-G)24hpf胚(D&F)および48hpf胚(E&G)の蛍光画像。(D&E)はモック注入胚(対照群)を示している。(F&G)は、合成bax:dnd 3'UTR mRNAを注入した胚(試験群)を示している。(H-J)試験群の胚における体節形成初期の間のPGCクラスターの微速度撮影の画面。膜ブレブ形成(H)を示唆する細胞辺縁上のびまん性GFP、およびその後の、アポトーシス小体に特徴的な小さな細胞断片への分割(I、J)に注目されたい。(K)対照群および試験群における胚20個の分析に基づく性比。(L)3カ月齢の対照注入胚由来の切離した性腺。(M)bax:dnd 3'UTR RNA注入胚由来の切離した性腺。
【図5A】MSCzpc構築物およびMSCkop構築物の略図を示す。baxとdndとの間の接合部でのPCRを、qRT-PCRによるトランスジェニック魚の同定のために用いた。
【図5B】種々のF0雄ファウンダー(太字)から樹立したトランスジェニックMSC系列の表示である。縦のバーは、MSC導入遺伝子のみ(黒)またはMSC導入遺伝子およびGFP導入遺伝子の両方(緑および黒(back)の二重線)に関して陽性であるF1子孫の遺伝子型を表している。F1子孫の表現型性別および数は以下のように指し示されている:雄(m1、m2、m3...)および雌(f1、f2、f3...)。種々のF1系統に由来するF2雄性子孫のパーセンテージおよびF2子孫の総数(n)を指し示している。図中で丸で囲んでいるF1雌の子孫を、PGC(GFPを発現)に対する母性遺伝の影響を検討するために選択した。
【図5C】(C1)膜ブレブ形成(細胞の辺縁上のびまん性GFP)およびアポトーシス小体(矢印によって示されている)の形成を伴う、アポトーシスを来している細胞を示している、F1雌MSCzpc3由来の胚におけるPGCを示す。(C2)F1雌MSCzpc11(f1)に由来する、アクリジンオレンジで処理した胚の蛍光顕微鏡検査を示す。
【図5D】PGCにおけるさまざまな度合いの欠陥を示している、F1雌(f2)MSCzpc3由来の24hpf胚および48hpf胚の蛍光画像を示す。48hpfの時点で、A群の胚は正常なPGC数を呈したが、B群はPGC数の減少を示し、C群には視認しうるPGCがなかった。
【図5E】種々のMSC系統の子孫におけるGFP標識PGCの平均数を示す。MSC雌(左)由来の胚はPGCの有意な減少(最大90%)を示したが、MSC雄(右)由来の胚は正常なPGC数を呈した。試験する各トランスジェニック系統ごとに、およそ20個の胚を用いてPGCの平均数を算出した。縦のバーは標準偏差を表している。
【図6】雄の魚における性腺の外観を示す。(A)不稔(MSCzpc22)魚、および(B)正常な対ではなく一方の側のみに正常性腺を示す、0〜3個のPGCを有するMSCzp3群の受精率の低い魚。(C-N)ヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)で染色した性腺の組織切片。(C)不稔性、(D)野生型および(E)萎縮性の性腺の横断面。組織は基底膜によって取り囲まれた小管状に構成される。小管の内部には、精子(S)を、野生型魚では高密度で、部分的に稔性の魚では低密度で見ることができるが、一方、不稔個体の精小嚢内腔(lobule lumen)には精子を全く検出することができない。セルトリ細胞は小管内に認められ、ライディッヒ細胞は間質腔内に認められる。(F-N)F1 MSCzpc9雄(F)および同胞の雌(I、L)、F1 MSCzpc22雄(G)および同胞の雌(J、M)、ならびにF1 MSCkop2雄(H)および同胞の雌(K、N)由来の、齢数を一致させたF2不稔子孫およびF2稔性子孫の縦断面。
【図7】不稔表現型の評価を示す:(A)生殖細胞が枯渇した成体性腺(系統MSCzpc22におけるF2不稔魚から切離)は、雄特異的マーカーsox 9aの発現を野生型精巣と同程度のレベルで呈した。対照的に、本発明者らは、卵胞マーカーcyp19a1aの発現を検出しなかった。各実験は3つずつ行った。(B&C)生殖細胞系を欠損した成体性腺は、生殖細胞特異的マーカーvasaの発現を示さない。(B)4匹の野生型魚(雄2匹および雌2匹)および3匹の不稔魚から切離した性腺組織でのsox9a遺伝子およびvasa遺伝子に関するRT-PCR分析。逆転写酵素(RTなし)を含まない陰性対照をレーン1に示している。(C)Q-RT-PCR分析を、6匹の不稔雄、稔性の低い雄5匹、ならびに野生型の雄対照および雌対照から切離した性腺に対して行った。本発明者らは、試料間のRNAレベルを正規化するためにハウスキーピング遺伝子β-アクチンを用いた。不稔魚由来の試料ではvasaの発現は全く検出されなかった。稔性の低い魚からの性腺におけるvasa発現の相対レベルは、野生型の雄および雌よりも60〜90%低かった。(D)F1 MSCzpc9、MSCzpc22およびMSCkop2雌の子孫による受精率。赤のバー(上の部分、存在する場合)は受精卵の数を指し示しており、青のバーは未受精卵を指し示している。
【図8】(A1&A2)ゼブラフィッシュdnd 3'UTRおよびnanos 3'UTRと融合させたGFPレポーター遺伝子構築物。(Z1-4)60pgの合成キャップ付きRNA eGFP:dnd(Z1:20hpf-Z2:24hpf)およびeGFP:nos1 3'UTR(Z3:4hpf、Z4:48hpf)を注入したゼブラフィッシュ胚の蛍光画像。(T1-4)200pgの合成キャップ付きRNA eGFP:dnd(T1、T2)およびeGFP:nos1(T3、T4)を受精時に注入した30日齢マス胚。(S1、S2)200pgのキャップ付きRNA eGFP:nos1を注入した20日齢サケ胚**。矢印は、自己蛍光を示す消化管(DT)からみて背側位置にあるGFP-PGCを指し示している。30日齢の発眼期(eyed-stage)マス胚*および20日齢の卵黄除去(deyolked)サケ胚**の側面図を示している。胚発生が進行するにつれて、体細胞は蛍光の漸減を示したが、一方、PGCでは継続的および漸増性のGFPが観察される。(C1)ゼブラフィッシュnos1 3'UTRと融合させたタイセイヨウサケ(Salmo salar)baxを作動させる発現ベクターの略図。(C2)GFP雌性種親対照(モック注入)からのゼブラフィッシュ胚、またはおよそ10pgの合成キャップ付きRNA ssbax:nos1を24hpfおよび48hpfの時点で注入したゼブラフィッシュ胚の蛍光画像。(C3)24hpfおよび48hpf時点での対照(青のバー、右)ゼブラフィッシュ胚およびssbax:nos1(赤のバー、左)を注入したゼブラフィッシュ胚のPGCにおけるPGCの平均数(n=8)。縦のバーは標準偏差を表している。
【発明を実施するための形態】
【0022】
発明の詳細な説明
I.序論
本発明は、不稔動物を経済的に効率的な様式で作り出すための組成物および方法を提供する。この技術は、発生過程にある胚における始原生殖細胞(PGC)を排除する導入遺伝子産物の空間特異的および時間特異的送達を用いる。生殖細胞がなければ、胚は成熟して不稔動物となる。不稔性を導入するこの導入遺伝子は、以下の3つのエレメントを要する母性不稔構築物(MSC)である:PGCを除くことのできるポリヌクレオチド配列を作動させるMSCプロモーターを、生殖細胞特異的シス調節エレメント(例えば、3'UTR)と融合させたもの。雌におけるMSC導入遺伝子の存在は、雄親がMSC導入遺伝子を保有するか否かにかかわらず、その子孫を不稔にさせると考えられる。MSCトランスジェニック雄を野生型雌と交雑させてその系統を繁殖させることができ、かつこれらの子孫は不稔である。
【0023】
図1は、MSC導入遺伝子をいかにして維持しうるか、またはそれをいかにして用いて不稔動物を生じさせうるかを図示している。段階1で、導入遺伝子を始原細胞(例えば、胚性幹細胞)に導入して、MSCトランスジェニックファウンダー動物を生じさせる。MSC導入遺伝子の生殖細胞系伝達を行いうるファウンダー動物をMSC陰性動物と交雑させて、MSCトランスジェニック動物のF1世代を作製する(段階2)。子孫における導入遺伝子の存在は、標準的な方法、例えばPCRにより、または容易に視認しうる形質をコードする遺伝子をMSCに付加することにより、検出することができる。
【0024】
ヘミ接合性MSCトランスジェニック雄を用いて、その系統を繁殖させる(段階3)。これは、PGCを除くことのできる配列が雄性生殖細胞では発現されないためである。MSCトランスジェニック雄の子孫は生殖細胞を正常に発生させ、かつ稔性である。
【0025】
MSC導入遺伝子を保有する雌は系列終末雌である。本明細書において説明および例証しているように、PGCを除く配列は、母親の生殖細胞において、卵母細胞特異的プロモーターから発現される。PGCを除く産物はその母親の子孫に伝えられ、その結果、生殖細胞を持たない子孫がもたらされる。系列終末雌は、父親のMSC状態とは無関係に、不稔子孫を生じると考えられる。系列終末雌の子孫は、それらがMSC陰性、ヘミ接合性またはホモ接合性であるならば、不稔性であると考えられる。
【0026】
より詳細には、開示される系は、まず卵母細胞における、後には(同じ卵に由来する発生過程にある胚の中の)PGCにおける、死滅促進性(pro-death)ポリヌクレオチド配列の発現の空間的および時間的な制御を可能にする。卵母細胞アポトーシスは、複数のアポトーシス促進性および抗アポトーシス性シグナル伝達経路によって調節される(例えば、Morita et al. (2000) Nat. Med. 6:1109-14;Sasaki and Chiba (2004) Mol. Biol. Cell 15:1387-96;Andersen et al. (2009) EMBO 28:3216-27を参照)。卵母細胞は多くの細胞種よりもアポトーシスに対する抵抗性が高く、baxのみの異所性過剰発現では、卵母細胞アポトーシスを促進させるために不十分である。したがって、この導入遺伝子は、両方の細胞種において発現されうるが、PGCの除去しかもたらさない。
【0027】
さらに、アポトーシス促進活性を、生殖質RNAの3'UTR中に存在するシス作用性RNAエレメントを有するPGCのみに限定することもできる。これらのエレメントはRNA翻訳をPGCに標的化する。第1に、それらは生殖質と呼ばれる特化した細胞質領域にmRNAを局在させることを可能にする。この領域は将来のPGCに遺伝するほか、それらの特異化のためにも必要である(Yoon (1997) Development 124:3157-65;Koprunner et al (2001) Genes & Dev. 15:2877-85;Weidinger et al. (2003) Cur. Biol. 13;1429-34)。第2に、それらは正しく局在して体細胞に移動することのできなかったmRNAの生産的翻訳を阻害する。第3に、それらは体細胞ではmRNAの急速な分解を可能にする一方で、PGCでは同じmRNAを安定化する(Wolke et al. (2002) Cur. Biol. 12:289-94)。
【0028】
PGC内部で母性生殖細胞mRNA翻訳を担う機構は進化的に保存された性質を持つため、生殖細胞の3'UTRの使用は、特定の異種mRNAをPGCに送達するために特に魅力的であり、かつこのアプローチを広範囲の宿主標的種に適用することを可能にする。
【0029】
本発明は、集団封じ込めのための有効な手段を提供する。養殖種の場合、MSCトランスジェニック雌は複数世代にわたる不稔子孫を生じることができ、一方、MSCトランスジェニック雄は、稔性のMSCトランスジェニック集団を繁殖させるために用いることができる。外来種および有害生物種の場合、稔性のMSCトランスジェニック雄を集団内に一回限り放出することは、放出される個体の数および内在集団のサイズに応じて、数世代以内での顕著な枯渇または根絶を引き起こす。この状況下で、MSCトランスジェニック雄は「トロイの遺伝子(Trojan gene)」を保有しており、それはMSCトランスジェニック雌の後続世代を可能にし、それ故に不稔雄の継続的生成を可能にする。不稔雄は雌をめぐって非トランスジェニック雄と競合し、その次の世代はサイズが減少する。不稔雄、例えば、MSCトランスジェニック雌の不稔子孫の大量放出を用いて、同様の結果を達成することができる。不稔雄の大量放出は、放射線照射を不稔化方法(昆虫不稔法(Sterile Insect TechniqueまたはSIT)として用いて、いくつかの昆虫種(例えば、ラセンウジバエ(Screw-wormfly)、ミバエ(Medfly))の集団を減らすために成功裏に用いられている。
【0030】
II.定義
本明細書で用いる場合、「発現構築物」とは、宿主細胞における特定の核酸の転写を許容する一連の特定された核酸エレメントを有する、組換えまたは合成によって作製された核酸構築物のことを幅広く指す。発現ベクターは、プラスミド、ウイルスまたは核酸断片の一部分でありうる。典型的には、発現ベクターは、プロモーターと機能的に連結された、転写対象の核酸を含む。
【0031】
「母性不稔構築物」(MSC)とは、その生殖細胞内にMSCを保有する稔性の雌性動物の子孫に不稔性を付与する発現構築物を指す。MSCは以下の3つのエレメントを含む:PGCを除くことのできるポリヌクレオチド配列(例えば、アポトーシス促進配列)の発現を作動させる卵母細胞特異的プロモーター、および少なくとも1つの生殖細胞特異的シス作用性エレメント、例えば、生殖細胞特異的遺伝子の3' UTR中に存在するもののなど。生殖細胞特異的遺伝子の3'UTR中のシス作用性エレメントは、mRNAを卵母細胞/接合体の中の生殖質へと導き、続いてPGCに導く。雌性生殖細胞におけるMSCの存在は、その子孫の始原生殖細胞(PGC)におけるアポトーシスを引き起こし、その結果、不稔世代をもたらす。
【0032】
「プロモーター」とは、核酸の転写を導く核酸制御配列のことを指す。プロモーターは、必要な核酸配列、例えば、II型ポリメラーゼプロモーターの場合はTATAエレメントを、転写開始部位の付近に含みうる。プロモーターは、構成性、誘導性または組織特異的でありうる。
【0033】
「MSCプロモーター」は、卵形成の間に、機能的に連結されたポリヌクレオチド配列の発現を作動させる。MSCプロモーターには2つのタイプがある:i)母性遺伝子のプロモーター、およびii)卵形成のためのプロモーター。母性遺伝子(vasaおよびaskoposなど)は卵形成の間に母親によって発現され、遺伝子産物(mRNAおよびタンパク質)は成熟卵の中に蓄積するかまたは貯留される。母性遺伝子産物は初期発生における細胞運命の決定および基本的細胞機能に関与する。卵形成のためのプロモーター(例えば、zona pellucidaプロモーター)は卵形成の間に発現されるが、それに伴う遺伝子産物は初期胚の機能のために必要でない。本明細書で用いる場合、MSCプロモーターにはまた、昆虫ナース細胞由来のものも含まれうる。いくつかの昆虫種では、卵母細胞はナース細胞と接続されており、それは細胞質架橋を介して、かなりの量のRNAおよびタンパク質を卵母細胞に与える。
【0034】
「始原生殖細胞(PGC)を除くことのできるポリヌクレオチド配列」とは、MSC導入遺伝子から発現された際にPGCの死滅をもたらすポリヌクレオチド配列のことを指す。そのようなポリヌクレオチドは、例えば、baxなどのアポトーシス促進遺伝子をコードすることによって直接的に作用することができる。また、ポリヌクレオチドが間接的に作用することもできる。いくつかの態様において、ポリヌクレオチド配列には、bcl-2などの抗アポトーシス遺伝子の発現を特異的に低下させるアンチセンスポリヌクレオチドまたは阻害性ポリヌクレオチド(例えば、siRNAまたはdsRNA)が含まれる。また、適正な移動または発生を阻止し、それによってアポトーシスを引き起こすことにより、PGCを間接的に排除することもできる。したがって、PGCを除くことのできるポリヌクレオチド配列には、例えば、ケモカイン受容体の発現を低下させるポリヌクレオチド、およびドミナントネガティブケモカイン受容体をコードするものが含まれる。
【0035】
「アポトーシス促進性ポリヌクレオチド配列」とは、細胞内で発現された時に、その細胞におけるアポトーシスを引き起こすポリヌクレオチド配列のことを指す。アポトーシス促進性ポリヌクレオチド配列は、アポトーシス促進因子(例えば、Bax)のコード配列、または抗アポトーシス因子(例えば、Bcl-2)の阻害性ポリヌクレオチド配列を含みうる。
【0036】
「生殖細胞特異的シス作用性エレメント」または「生殖細胞特異的3' UTR」とは、転写される配列の翻訳されない区間であって、その転写物をPGCに引き継がれる細胞の一部に物理的に導くもののことである。例えば、生殖細胞特異的3' UTRを含み、卵母細胞内で産生される転写物は、将来のPGCに遺伝する細胞質の一部(生殖質)に導かれると考えられる。合成3'UTRを作り出して、または複数の異なる出所の3'UTR由来の生殖細胞特異的シス作用性エレメントの新規な組み合わせを用いて、同じ効果を達成することが可能である。
【0037】
「機能的に連結された」という用語は、核酸発現制御配列(プロモーター、または一並びの転写因子結合部位など)と第2の核酸配列との間の機能的連結のことを指し、ここでその発現制御配列は、第2の配列に対応する核酸の転写を導く。
【0038】
「をコードする核酸配列」という語句は、特定のタンパク質もしくはペプチドの一次アミノ酸配列、特定の遺伝子の発現を特異的に阻害する阻害性ポリヌクレオチド配列、またはトランス作用性調節物質の結合部位に関する配列情報を含む核酸のことを指す。この語句は、特定の宿主細胞におけるコドン選好性に適合するように導入しうるネイティブ性の配列の縮重コドン(すなわち、単一アミノ酸をコードする種々のコドン)を明確に範囲に含む。
【0039】
阻害性ポリヌクレオチド配列とは、標的とした特定の遺伝子の発現を阻害するもののことである。阻害性ポリヌクレオチドには、以下にさらに詳述するように、アンチセンス構築物、または逆方向配列(例えば、siRNA、shRNA)およびアプタマーを発現する構築物が含まれる。
【0040】
細胞、または核酸、タンパク質もしくはベクターなどに言及して用いる場合の「組換え」とは、細胞、核酸、タンパク質またはベクターが、異種性の核酸もしくはタンパク質の導入、またはネイティブ性の核酸もしくはタンパク質の変更によって改変されていること、または細胞がそのように改変された細胞に由来することを指し示す。したがって、例えば、組換え発現ベクターは、非組み換え細胞では近接して認められない配列エレメントを含みうる。
【0041】
「系列終末雌」とは、その生殖細胞内にMSC導入遺伝子を保有する動物のことである。系列終末雌の子孫は不稔性である。
【0042】
「トランスジェニック動物」という用語は、そのゲノム中に、当技術分野で熟知されている組換え手法によって意図的に導入された異種ポリヌクレオチド配列(導入遺伝子)を保有する動物のことを指す。導入遺伝子は一般に、宿主生物のゲノム中への挿入を可能にする配列エレメント、プロモーターおよび/または他の発現エレメント、別の遺伝子の発現を阻害するタンパク質または配列(例えば、アンチセンス配列)をコードする遺伝子またはcDNA配列を含む。
【0043】
「ファウンダー動物」とは、胚または他の始原細胞への導入遺伝子の組換え導入に起因する第1世代の動物のことを指す。ほとんどの場合、そのような動物はモザイク性であり、その結果、細胞の一部のみがトランスジェニック細胞に由来する。しかし、単細胞、またはすべてが導入遺伝子を含む細胞集団から、動物を作り出すことが可能である。ファウンダー動物が「生殖細胞系の形質転換を受けている」ならば、またはその生殖細胞内に導入遺伝子を保有するならば、それはトランスジェニック子孫を生じることができる。
【0044】
「ヘミ接合性」および「ホモ接合性」という用語は二倍体生物を指して用いられ、トランスジェニック動物を指すことができる。本明細書で用いる場合、ヘミ接合性トランスジェニック動物は、導入遺伝子が挿入された染色体の一方のコピーを保有するが、適合する染色体は導入遺伝子を有しない。場合によっては、ヘテロ接合性という用語は、トランスジェニック染色体の1つのコピーを保有する動物に言及する場合には、ヘミ接合性と互換的に用いられる。導入遺伝子に関してホモ接合性である動物では、染色体の両方のコピーが導入遺伝子を含み、その結果、その動物はトランスジェニック染色体の2つのコピーを保有する。
【0045】
本明細書で用いる場合、「野生型」という用語は、MSC導入遺伝子を保有しない動物を全般的に指す。
【0046】
「不稔」という用語は、齢数、種などが同じ正常個体と比較して、子孫を生じる能力が有意に低下した個体または個体の集団のことを指す。
【0047】
「阻害する」または「活性化する」または「モジュレートする」という用語は、発現または活性に言及している場合、絶対的用語ではないものとする。例えば、ある作用物質がある所与の活性を「阻害しない」または「活性化しない」ならば、それは一般に、その作用物質が、対照または対照の範囲などと比較して、有意な効果を有しないことを意味する。「減少させる」、「誘導する」および「増加させる」ならびに類似の相対的用語は、本明細書において、対照値と比較した減少、増加などを指して用いられる。当業者は、状況毎に適切な対照を決定することができる。例えば、ある作用物質が遺伝子Xの発現を阻害すると言う場合、その作用物質の存在下におけるX発現のレベルは、その作用物質の非存在下におけるレベルと比較して低下している。ある作用物質がある所与の集団において不稔性を誘導すると言う場合、不稔性のレベルは、その作用物質の非存在下におけるレベルと比較して、その作用物質の存在下において増加しているであろう。
【0048】
「対照」試料または値とは、被験試料との比較のための参照、通常は公知の参照として役立つ、1つの試料または一組の条件のことを指す。例えば、本発明において適切な対照試料は、例えば、野生型動物由来の性腺または性腺細胞でありうる。そのような対照を、続いて、MSC導入遺伝子もしくはその構成要素を保有する動物、またはMSC導入遺伝子もしくはその構成要素を保有する疑いのある動物から得た試料と比較することができる。また、対照が、類似した個体、例えばプロフィール、齢数、体重などが類似した野生型動物の集団から集められた平均値であることもできる。当業者は、任意のいくつかのパラメーターの評価のために対照を設計しうることを認識しているであろう。また、対照を、インビトロ用途のために、例えば培養細胞におけるさまざまな構築物の活性の検査のために設計することもできる。
【0049】
III.組換え手法
本発明は、MSCの調製などのための、組換え遺伝学の分野における慣例的な手法を含む。本発明において有用な一般的方法を開示している基本的な教科書には、Sambrook & Russell, Molecular Cloning, A Laboratory Manual (3rd Ed, 2001);Kriegler, Gene Transfer and Expression: A Laboratory Manual (1990);およびCurrent Protocols in Molecular Biology (Ausubel et al., eds., 1994-1999)が含まれる。
【0050】
真核細胞および原核細胞を、ルーチンのクローニングおよび発現のために用いることができる。これらには動物細胞、昆虫細胞、細菌、真菌および酵母が含まれ、その多くは市販されている。単離された核酸または異種核酸の導入および発現のための方法は周知であり、例えば、前記の一般的参考文献に記載がある。したがって、本発明はまた、本明細書に記載の核酸配列を含む宿主細胞および発現ベクターも提供する。
【0051】
MSCおよびMSC構成要素(以下にさらに詳述する)を含む核酸は、標準的な組換え手法または合成手法を用いて作ることができる。核酸は、RNA、DNAまたはそれらのハイブリッドであってよい。当業者は、機能的に同等な核酸、例えば同じポリペプチドをコードする核酸などを含む種々のクローンを構築することができる。これらの目的を達成するためのクローニング方法、および核酸配列を検証するための配列決定方法は、当技術分野において周知である。
【0052】
いくつかの態様においては、核酸をインビトロで合成する。デオキシヌクレオチドを、Beaucage & Caruthers, Tetrahedron Letts. 22(20):1859-1862 (1981)によって記載された固相ホスホルアミダイトトリエステル法に従い、例えば、Needham-VanDevanter, et al., Nucleic Acids Res. 12:6159-6168 (1984)に記載されたように、自動合成装置を用いて化学合成してもよい。他の態様において、所望の核酸配列を、PCRなどの増幅反応によって得てもよい。
【0053】
当業者は、所与のポリヌクレオチドまたはポリペプチド配列の改変物または変形物を生成するための他の多くの様式を認識しているであろう。アポトーシス促進因子および抗アポトーシス因子、組織特異的プロモーターならびにシス作用性エレメントに関して本明細書に言及された配列ならびに当技術分野において容易に入手可能な知識に基づく、本発明の所望の核酸またはポリペプチド。
【0054】
所望の配列(例えば、PGCの除去をもたらす配列)の高レベルの発現を得るためには、転写を導くためのプロモーター、転写/翻訳終結因子、翻訳開始のためのリボソーム結合部位などのエレメントを含む発現ベクターを構築する。適した細菌プロモーターは当技術分野において周知であり、例えば、本明細書中で上記に引用した、発現クローニング方法およびプロトコールを提示している文献中に記載されている。リボヌクレアーゼを発現させるための細菌発現系は、例えば、大腸菌(E. Coli)、バシラス属種(Bacillus sp.)およびサルモネラ(Salmonella)において利用可能である(Palva, et al., Gene 22:229-235 (1983);Mosbach, et al., Nature 302:543-545 (1983)も参照)。そのような発現系のためのキットが市販されている。哺乳動物細胞、酵母および昆虫細胞のための真核生物発現系が当技術分野において周知であり、市販もされている。
【0055】
プロモーターに加えて、発現ベクターは典型的には、宿主細胞における核酸の発現のために必要な別の要素すべてを含む、転写ユニットまたは発現カセットを含む。このため、典型的な発現カセットは、タンパク質または阻害性ポリヌクレオチドをコードする核酸配列と機能的に連結されたプロモーター、ならびに転写物の効率的なポリアデニル化、リボソーム結合部位および翻訳終結のために必要なシグナルを含む。
【0056】
上述したように、発現カセットは、効率的な終結をもたらすために構造遺伝子の下流に転写終結領域も含むべきである。終結領域は、プロモーター配列と同じ遺伝子から得てもよく、または異なる遺伝子から得てもよい。
【0057】
細胞内への遺伝情報の輸送のために用いられる具体的な発現ベクターは特に重要でない。真核細胞または原核細胞における発現のために用いられる従来のベクターの任意のものを用いることができる。標準的な細菌発現ベクターには、pBR322ベースのプラスミド、pSKF、pET15b、pET23D、pET-22b(+)などのプラスミド、ならびにGSTおよびLacZなどの融合発現系が含まれる。簡便な単離方法がもたらされるように、6-hisなどのエピトープタグを組換えタンパク質に加えることもできる。これらのベクターは、コード配列を含む発現カセットに加えて、T7プロモーター、転写イニシエーターおよびターミネーター、pBR322 ori部位、blaコード配列ならびにlaclオペレーターを含む。
【0058】
MSC核酸配列を含むベクターは、大腸菌、他の細菌宿主、酵母、ならびにCOS、CHOおよびHeLa細胞株および骨髄腫細胞株などのさまざまな高等真核細胞を含む、種々の宿主細胞において発現させることができる。細胞のほかに、トランスジェニック動物によってベクターを発現させることもできる。
【0059】
本発明の発現ベクターまたはプラスミドは、大腸菌のための塩化カルシウム形質転換、および哺乳動物細胞のためのリン酸カルシウム処理、リポソーム融合またはエレクトロポレーションといった周知の方法によって、選ばれた細胞内に移行させることができる。プラスミドによって形質転換された細胞は、プラスミド上に含まれる遺伝子、例えばamp、gpt、neoおよびhyg遺伝子などによって付与される抗生物質に対する耐性によって選択することができる。
【0060】
遺伝子の発現レベルは、mRNA、タンパク質、または活性を、当技術分野において公知の手法に従って検出することによって決定することができる。例えば、mRNAレベルは、ノーザンブロット法、逆転写PCR(RTPCR)または定量的RTPCR(リアルタイムPCRとも時に呼ばれる)を用いて検出することができる。そのような手法は、例えば、VanGuilder et al. (2008) Biotechniques 44:619およびReal-Time PCR: Current Technology and Applications, Caister Academic Press (2009)に概説されている。タンパク質レベルは、抗体ベースのアッセイ、例えば、ウエスタンブロット法またはELISAによって検出することができる。いくつかの態様において、タンパク質発現は、機能的に連結されたタンパク質のレベル、例えば、GFP、6-ヒスチンまたはビオチンを検出することによって、検出することができる。
【0061】
IV.阻害性核酸
阻害性核酸には、アンチセンス技術およびワトソン-クリック対合に基づくもの、ならびにアプタマーが含まれる。アプタマーとは、標的とした分子と非ワトソン-クリック相互作用を介して結合する短い配列(通常20〜200塩基長)のことであり、これには修飾核酸が含まれうる。標的特異的アプタマーの設計および選択は、例えば、米国特許第5270163号、第5567588号および第5475096号、ならびにKlug and Famulok (1994) Mol. Biol. Reports 20:97-107に記載されているように、当技術分野において公知である。アプタマーは、公知の方法に従って、抗体と同じように、抗アポトーシスポリペプチドと選択的に結合してそれを阻害するように設計することができる。
【0062】
「アンチセンス核酸」は、RNA-RNAまたはRNA-DNAまたはRNA-PNA相互作用によって標的RNAと結合して、標的RNAの活性を変化させる非酵素性核酸分子である(概説については、Stein and Cheng (1993) Science 261:1004およびWoolf et al., 米国特許第5,849,902号を参照)。典型的には、アンチセンス分子は、アンチセンス分子の単一連続配列に沿って、標的配列に対して相補的である。アンチセンス戦略の概説については、Schmajuk et al. (1999) J. Biol. Chem., 274, 21783-21789, Delihas et al. (1997) Nature, 15, 751-753, Stein et al. (1997) Antisense N. A. Drug Dev., 7, 151, Crooke (2000) Methods Enzymol., 313, 3-45;Crooke (1998) Biotech. Genet. Eng. Rev., 15, 121-157, Crooke (1997) Ad Pharmacol, 40, 1-49を参照。加えて、DNA-RNA相互作用によってRNAを標的とし、それにより、二重鎖の中の標的RNAを消化するRNアーゼHを活性化するためにアンチセンスDNAを用いることもできる。アンチセンスオリゴヌクレオチドは1つまたは複数のRNアーゼH活性化領域を含むことができ、それは標的RNAのRNアーゼH切断を活性化することができる。アンチセンスDNAは化学合成することができ、または一本鎖DNA発現ベクターもしくはその同等物の使用を介して発現させることもできる。
【0063】
短鎖干渉性RNA(siRNA)は、抗アポトーシス遺伝子の発現を阻害するために用いることができる。HIV-1 rev転写物を標的とするsiRNAがヒト細胞において成功している(Nature Biotechnol. 20:500-505;Miyagishi M, and Taira K. (2002))。ウリジン4個の3'突出を有するU6プロモーター作動性siRNAは、哺乳動物細胞における、標的とした遺伝子発現を効率的に抑制する(Nature Biotechnol. 20:497-500;Paddison et al. Genes & Dev. 16:948-958;Paul et al. (2002) Nature Biotechnol. 20:505-508;Sui et al. (2002) Proc. Natl. Acad. Sci USA 99(6):5515-5520;Yu (2002) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 99(9):6047-6052。
【0064】
「二本鎖RNA」または「dsRNA」とは、所定の遺伝子配列にマッチし、その遺伝子の対応するメッセンジャーRNA転写物を分解する細胞酵素を活性化することのできる二本鎖RNAのことを意味する。これらのdsRNAは短鎖干渉性RNA(siRNA)と称され、遺伝子発現を阻害するために用いることができる。本明細書で用いられる「二本鎖RNA」または「dsRNA」という用語はまた、短鎖干渉性RNA「siRNA」を含む、RNA干渉「RNAi」を行うことのできる二本鎖RNA分子のことも指す(例えば、例えば、WO 00/44895号;WO 01/36646号;WO 01/29058号;WO 00/44914号を参照)。
【0065】
本発明の阻害性核酸分子は約10〜100ヌクレオチド長であってよい。例えば、本発明のRNAi核酸分子は、約15〜50ヌクレオチド長、より好ましくは約25〜40ヌクレオチド長であってよい(例えば、Jarvis et al. (1996) J. Biol. Chem., 271, 29107 29112を参照)。当業者は、核酸分子が、その核酸分子がその標的と相互作用するのに十分な長さおよび適したコンフォメーションであることが、必要なことのすべてであることを認識しているであろう。
【0066】
V.トランスジェニック手法
トランスジェニック動物を作製する方法は、数多くの種について公知である。一般的な参考文献には以下のものが含まれる:Transgenesis Techniques: Principles and Protocols, Clarke ed. 2002;Germ Cell Protocols: Sperm and Oocyte Analysis, Schatten ed. 2004;およびFish Development and Genetics: The Zebrafish and Medaka Models, Gong & Korzh ed. 2004。
【0067】
手短に述べると、導入遺伝子を含む発現構築物を、精子細胞、胚性幹細胞または他の始原細胞といった、動物を生み出す細胞内に導入する。これは例えば、微量注入または電気泳動の手法を用いて達成することができる。続いて、導入遺伝子を保有する始原細胞を培養して、導入遺伝子を保有する動物を生じさせる。
【0068】
ほとんどの場合、ファウンダー動物は細胞の一部のみに導入遺伝子を保有しており、その結果、その動物はモザイク性であると考えられる。しかし、いくつかの方法では、導入遺伝子を保有するように安定して形質転換された単一の始原細胞から、動物を直接成長させることができる。後者の場合には、動物はモザイク性でないと考えられる。ファウンダー動物はしばしばF0世代と称される。ファウンダー動物を交雑させて、ファウンダーの生殖細胞系形質転換が起こると仮定すれば、F1世代が生じ、これらの子孫の一部は導入遺伝子を保有すると考えられる。
【0069】
トランスジェニック魚を作製するための方法は、例えば、Mori & Devlin (1999) Mol. Cell. Endocrin. 149:129およびCollas & Alestrom (1997) Mol. Mar. Biol. Biotechnol. 6:48-58に開示されている。昆虫のトランスジェニック形質転換は、例えば、Kaiser & Goodwin (1990) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:1686-90に記載されている。トランスジェニック軟体動物を作製するための方法は、例えば、Boulo et al. (1996) Mol. Mar. Bid. Biotechnol. 5:167-74に開示されている。トランスジェニック節足動物を作製するための方法は、例えば、Presnail & Hoy (1992) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:7732-36に記載がある。トランスジェニック両生類(ツメガエル(Xenopus))を作製する方法は、Beck et al. (2001) Genome Biol. 2:1029に開示されている。
【0070】
MSC導入遺伝子の存在は、例えば、導入遺伝子配列に対して特異的な標準的なPCR法またはハイブリダイゼーション法を用いる、導入遺伝子の直接検出によって追跡することができる。本明細書に記載の例と同じように、baxとdead-end 3'UTRとの間の接合部に対して特異的なプライマーを用いることができる。この接合部は野生型魚ゲノムには存在しない。また、導入遺伝子を、容易に検出可能な標識または形質をコードする優性遺伝子マーカーを含むように設計することもできる。例えば、色調、色素沈着、または体形に影響を及ぼす遺伝子、または条件的選択を可能にする遺伝子を用いることができる。
【0071】
1つのアプローチは、MSCと連結した優性遺伝子を保有する個体の除去(死滅)を結果的にもたらす選択過程である。例えば、優性遺伝子を保有する個体の死滅を結果的にもたらす刺激もしくはストレスの適用、または導入遺伝子の維持のために必要な刺激/条件の除去。遺伝子導入体(transgenic)を選択するためのもう1つの方法は、導入遺伝子を保有する個体の同定が可能になるように優性遺伝子に蛍光性タンパク質を発現させる、蛍光スクリーニング法を用いて行うことができる。
【0072】
VI.MSCプロモーター
本発明に従って用いうるMSCプロモーターは、卵形成の間に活性があるものである。MSC用のプロモーターの選択は、系列終末雌および不稔子孫を生じさせる上でのMSCの容易さおよび有効性を決定づける可能性がある。卵形成の間に産生され、かつ受精時に卵内に存在する、母性的に与えられた転写物の発現を作動させるプロモーター(母性遺伝子のプロモーター)を、初期胚におけるPGCを標的化するために用いることができる。本発明に従って用いうる、そのほかのプロモーター(卵形成(oognesis)のためのプロモーター)には、卵形成の間に卵母細胞において特異的に活性があるもの、およびその産物が胚発生のために必要でないものがある。有用なMSCプロモーターは、i)雌に限られたプロモーター活性を有する、ii)卵形成の間に活性がある、およびiii)好ましくは、その動物において空間的または時間的に別のところでは活性がない。
【0073】
母性遺伝子の産物(mRNAおよびタンパク質)は成熟卵の中に貯蔵され、そこでそれらは初期発生における細胞運命の決定および基本的細胞機能に関与する。これらの遺伝子産物は一般に、中期胞胚変移の時点の接合体ゲノムの活性化の前に活性がある(Kane and Kimmel (1993) Dev. 119:447-56)。厳密な母性遺伝子は卵形成の間に発現され、この母性発現は初期胚における遺伝子の機能を実行するために必要かつ十分である。したがって、厳密な母性遺伝子は、胚および父親の遺伝子型とは独立して機能する。ゼブラフィッシュでは、このカテゴリーの遺伝子には、futile cycle、janus、nebelおよびichabodなどの遺伝子が含まれる。
【0074】
時間的および空間的に卵母細胞に限局される、適切な3' UTRと連結したMSCプロモーターは、以下の理由から有利である:1)PGC集団が小規模な場合、卵母細胞に対する転写物の母性寄与は胚発生中の初期にPGCを標的とし、それは完全に排除することができる、かつ2)雌のみでの発現により、トランスジェニック雄を介した不稔系統の繁殖が可能になる。MSCを保有するトランスジェニック雄は導入遺伝子を発現せず、稔性を維持すると考えられる。したがって、このアプローチは、不稔性を取り消す何らかの機構の必要性を解消する。卵母細胞における導入遺伝子の発現は減数分裂が生じる前に起こるため、導入遺伝子の産物は、ヘテロ接合性トランスジェニック雌によって産生されるすべての卵に存在すると考えられる。導入遺伝子を遺伝するのはMSC雌の子孫の半分のみであるが、子孫はすべて不稔性であると考えられる。
【0075】
以下の例は、MSCに用いるための、母性特異的遺伝子askopos(4.623kb:kop)および卵形成特異的遺伝子zona pellucida(634 bp:zpc3b)の上流調節領域の使用を説明している(Baler et al. (2005) J. Cell Sci. 118:4027-38;Onichtchouk et al. (2003) Dev. Dynamics 228:393-404)。
【0076】
他の生殖質特異的遺伝子のプロモーターを含む、遺伝子プロモーターのいくつかの他の候補を、母性発現を実現するために用いることもできる。zorgおよびOORP-T(Dai et al. (2009) Theriogenology 71:441-49;Ramachandra et al. (2007) Mol. Reprod Dev. 74)などの卵形成特異的プロモーターを用いることもできる。
【0077】
ショウジョウバエでは、母性遺伝子のプロモーターの例には、bicoid遺伝子、hunchback遺伝子、nanos遺伝子およびcaudal遺伝子に由来するものが含まれる。これらの遺伝子は体軸および生殖細胞系の樹立にかかわる。ゼブラフィッシュでは、発生を司る母性特異的遺伝子が、機能的遺伝子スクリーニング、またはインサイチューハイブリダイゼーション後の遺伝子機能のノックダウン分析のいずれかによって同定されている(例えば、askopos)。
【0078】
無脊椎動物および脊椎動物においてさらに広範囲にわたって研究された遺伝子から、母性遺伝子の幅広いカテゴリーのプロモーターを得ることができる。これらはmRNAが生殖質中に見いだされている生殖細胞系特異的遺伝子であり、以下のものが含まれる:nanos、dead-end(dnd)、DazL、GasZ、granulito、tudor、bruno-like、vasa、oskar、tudor(TDR7)、ziwi、zorg、germ-cell-less(gcl)(Strasser et al. (2008) BMC Dev. Biol. 8:58;Suzuki et al. (2000) Mech. Dev. 93:205-09)。
【0079】
ガンビアハマダラカ(Anopheles gambiae)では、vasaプロモーターの特性決定が行われており(Papathanos et al. (2009) BMC Mol Biol. 10:65)、甲殻類vasaタンパク質の研究により、母性寄与が確認されている。ツメガエルでは、母性遺伝子にはVg-1およびVegT、Xcat2、XpatおよびXdazlをコードするものが含まれる。
【0080】
本発明に従って用いうる、卵形成のためのそのほかのプロモーターには、卵形成の間に卵母細胞において特異的に活性があるもの、および産物が胚発生のために必要でないものがある。このカテゴリーに含まれる多くの遺伝子は単一のプロモーターの制御下にあって、卵形成、卵胞形成および受精のために不可欠なタンパク質をコードし、これには例えば、Zona pellucidaタンパク質、OORP-T、生殖細胞系における因子α(Factor in Germline alpha)(FIGLa)、増殖因子9(GDF9)および骨形成タンパク質15(BMP-15)などがある。zona pellucida(zpc)遺伝子ファミリー由来のプロモーターを用いることができる。緑色蛍光タンパク質(GFP)と連結されたゼブラフィッシュzpc3プロモーターの安定的に組み込まれたコピーを含むトランスジェニックゼブラフィッシュが作製されており、内因性zpc遺伝子のものに類似したパターンでGFP発現がもたらされている。第1のトランスジェニック系統は、単一コピーのzpc3相同体のATGコドンの上流にある412bp配列を用いた(Onichtchouk D. et al., 2003;Del Giacco L. et al., 2000))(Liu X. et al., 2006)。縦列に並んだゼブラフィッシュzpc2遺伝子およびzpc3遺伝子の保存的CCAAT配列エレメントが、発生中の卵母細胞におけるこの発現のために必要である(Mold et al., 2009)。遺伝子のもう1つのカテゴリーには、体細胞プロモーターから卵形成プロモーターに切り替わるもの、例えば、卵母細胞および体細胞組織において別々のプロモーターから転写されるツメガエルTFIIIA遺伝子が含まれる(Kim et al. (1990) Genes Dev. 4:1602)。
【0081】
本明細書において言及した配列は多くの種に関して特性決定が行われており、それらの配列は、例えばGenbankで公開されている。当業者は、どの配列(例えば、種間相同体、わずかな変異体)を、各状況において必要以上の実験を行わずに有利に用いうるかを判定することができる。
【0082】
候補プロモーターが特定の段階で遺伝子発現を導く能力は、当技術分野において公知の方法に従って、例えば、上記の参考文献中に開示された方法などによって判定することができる。理想的には、公知の細胞マーカーを用いて、細胞の実体(例えば、系列および発生段階)も同時に検出する。例えば、実施例に記載しているように、GFP発現構築物を用いてPGCを標識することができる(zpcプロモーター-egfp-dnd 3'UTR)。例えば、RTPCR、qRTPCR、ノーザンブロット法またはウエスタンブロット法などの標準的な分子生物学手法を用いて、候補プロモーターの下流にある転写物またはタンパク質産物の発現を検出することができる。または、検出可能なように標識されたプローブまたは抗体を用いて、転写物またはタンパク質産物を顕微鏡下で検出することもできる。例えば、候補プロモーターを、GFPまたは類似の蛍光性タンパク質をコードする配列と連結させて、卵母細胞などの細胞の集団に挿入する。続いて、プロモーターからの発現を追跡して、例えば、公知のプロモーターからの発現と比較する。
【0083】
VII.始原生殖細胞を除くことのできるポリヌクレオチド配列
本発明は、PGCにおいて発現される、PGCを除くエレメントを含む。しかし、発現は卵母細胞および初期胚でも起こる可能性がある(図2のA1〜2およびB1〜2、ならびに図3中のレポーター遺伝子構築物で例証されているように)。PGCのみを特異的に除くためには、エフェクター遺伝子は、卵母細胞、および初期胚の中の体細胞に対して全く影響を及ぼさないか、または限られた影響しか及ぼさない必要がある。このことを考慮すると、卵母細胞および原腸形成前の胚はアポトーシスに対して生得の抵抗性があることから、本発明者らの系においてアポトーシス遺伝子の調節因子には特に関心が持たれる。
【0084】
本明細書において言及したポリヌクレオチドおよびポリペプチドは、多くの種に関して特性決定が行われており、それらの配列は、例えばGenbankで公開されている。当業者は、どの配列(例えば、種間相同体、わずかな変異体)を、各状況において必要以上の実験を行わずに有利に用いうるかを判定することができる。例えば、Bcl-2ファミリーメンバーを記載している公開データベースは、bcl2db.ibcp.fr/site/にある。
【0085】
本明細書に記載の諸検討は、PGCにおいてアポトーシスを促進する遺伝子としてbaxに依拠している。代わりになるアポトーシス促進遺伝子には、baxファミリーの他のメンバー、例えばbakおよびbok、ならびにBH3のみのタンパク質クラス、例えばBad、Bik、PumaおよびNoxaが含まれる。予備実験において、本発明者らは、zbik-dnd 3'UTR mRNAが、bax-dnd 3'UTR mRNAを用いて行った実験で観察されたものと同様に、注入24時間後の胚におけるGFP標識PGCの消失を誘導しうることを見いだした。
【0086】
アポトーシスは下流カスパーゼの活性化によって生じる。不活性プロカスパーゼのエフェクターカスパーゼへの変換により、特異的な基質切断、DNアーゼの活性化および細胞の崩壊が誘導される。このため、エフェクターカスパーゼを本発明に従って用いて、PGCを特異的に除くことができる。しかし、卵母細胞および初期胚体細胞のアポトーシスに対する抵抗性がその経路のより早い段階(例えば、シトクロムc放出の前)に由来するのであれば、これらの細胞もアポトーシスを来す恐れがある。
【0087】
アポトーシスは、アポトーシス促進分子と抗アポトーシス分子との間の均衡によって調節されている。細胞のアポトーシス閾値は、アポトーシス促進遺伝子の発現増大、または生存促進遺伝子の発現低下のいずれかによって破棄することができる。そのため、bcl-2、bcl-xlまたはbcl-wなどの抗アポトーシス遺伝子の標的化ダウンレギュレーションも細胞死を招きうる。抗アポトーシス遺伝子の標的化ダウンレギュレーションは、阻害性核酸(例えば、アンチセンス)を用いて達成することができる。抗アポトーシス性のBcl-2ファミリータンパク質はbaxおよび他のアポトーシス促進タンパク質とヘテロ二量体を形成することができ、アポトーシス経路の上流で機能しうる。このアプローチはそれ故に、非PGCを保持するためのプロカスパーゼ遺伝子戦略にとって好ましい。
【0088】
始原生殖細胞の除去を、それらの移動または特異化に関与する機構の変更を通じて間接的に達成することもできる。正常な移動の間に、不適切に移動した生殖細胞は死滅するが、これはそれらが生存を可能にする胚の領域に到達することができないためである。ゼブラフィッシュPGCを将来の性腺に向かって誘引する原因となる分子は、体細胞によって分泌されるケモカインであるSDF-1αである。PGCは、それに対応する受容体であるCXCR4βを発現する。卵母細胞特異的プロモーターによる受容体のダウンレギュレーションはPGC移動を変化させて、これらの細胞におけるアポトーシスの活性化を招くと考えられる。この場合も、PGCにおける特異的遺伝子のダウンレギュレーションは、アンチセンスなどの阻害性核酸を用いて達成することができる。アンチセンスアプローチでは余分なタンパク質は発現されないため、規制当局の審査過程は容易になるであろう。この戦略の成功の可否は、初期発生の間にダウンレギュレートされた遺伝子によって遂行される余剰な機能も別の機能もないことにかかっている。PGC移動と関連づけられていて、本発明にとって有用である他の遺伝子には、ggt1、hmgcrおよびdead-endが含まれる。PGCの特異化と関連づけられている遺伝子には、例えば、vasaおよびnanosが含まれる。
【0089】
PGCを除くためのもう1つの戦略は、c-kit膜受容体またはCXCR4βのドミナントネガティブ突然変異型アレルの発現である(Fleischman (1992) J. Clin. Invest. 89:1713;Spritz et al. (1992) Am. J. Hum. Genetics 50:261)。PGCにおけるドミナントネガティブ受容体の発現は、steel増殖因子およびSDF-1αを介したシグナル伝達のそれぞれを擾乱させると考えられる。
【0090】
PGCを除く候補エレメントがPGCにおける細胞死を引き起こす能力は、公知の方法に従って検査することができる。PGCを除くポリヌクレオチド配列の候補をインビトロでPGCの集団において発現させ、以下のものと比較する:(i)発現を伴わないPGCの集団、および/または(ii)PGCにおける細胞死を引き起こすことが知られた配列、例えばbaxを発現するPGCの集団。
【0091】
アポトーシスによる細胞死は一般に、細胞を観察するための顕微鏡を用いて検出可能である。アポトーシスは、特有に認知しうるいくつかの影響を細胞において引き起こす:収縮、表面上の泡状ブレブ、クロマチン分解、ミトコンドリア崩壊およびシトクロムc放出、膜で囲まれた小さな断片への分断、細胞表面上のホスファチジルセリンの露出。炎症は、IL-10およびTGF-βなどを分泌する局所食細胞によって阻害される。これらのアポトーシス徴候の多くは容易に観察され、市販のキット、例えば、ELISAキットおよびTUNELアッセイキットなどを用いてアポトーシスを検出することもできる。
【0092】
VIII.生殖細胞特異的3'UTR
シス作用性エレメントは、翻訳が開始される前の、転写物の細胞質における局在を決定づける可能性がある。これらのシス作用性エレメントは一般的には3'非翻訳領域(3'UTR)の中に位置する。3'UTRの中の配列は、例えば、分子モーターまたは隔離タンパク質によって認識され、それに応じて方向づけられる。シス作用性エレメントの概説は、例えば、Jambhekar et al. (2007) RNA 13:625-42に記載がある。
【0093】
この現象が最初に認知された例の1つは、ショウジョウバエbicoidタンパク質であった。bicoid転写物は発生中の卵母細胞の一方の端に導かれ、翻訳されるとbicoidは細胞の前方部分に局在する。このことは、発生中の胚における頭部および胸部形成のためのbicoid活性の適正な局在を可能にする。
【0094】
ある種の3'UTRエレメントは卵母細胞におけるmRNA局在に関与し、転写物を生殖質に導くが、それは発生して始原生殖細胞になる。これらのエレメントは生殖細胞特異的3'UTRである。生殖細胞特異的3'UTRの配列は、動物において進化上高度に保存されており、生殖細胞は母性遺伝決定因子によって特定される、すなわち、プレフォーメーション(preformation)である(Extravour and Akam (2003) Development 130:5869-84)。ゼブラフィッシュdead-endの3'UTR(dnd 3'UTR)およびnanos1遺伝子の3'UTR(nanos 3' UTR)を用いて、PGCにおける特異的発現を実現することができる。ゼブラフィッシュでは、この両方の遺伝子が、始原生殖細胞に局在する母性mRNAとして最初に同定された(Koprunner et al. (2001) Genes & Dev. 15:2877-85;Weidinger et al. (2003) Curr. Biol. 13:1429-34)。この局在はおそらく、それらの3'UTRにおけるシス作用性RNAエレメントの作用によるものと考えられる。
【0095】
dead-endおよびnanosのものに加えて、生殖質特異的mRNAに属する他のいくつかの3'UTRをこの系に用いることもできる。これらには、DazL、GasZ、vasa、tudor7、bruno-likeおよびgranulitoのものが含まれる。
【0096】
生殖質RNAの翻訳抑制、および安定性の違いは、マイクロRNAおよびマイクロRNAのリプレッサーによって調整されている。マイクロRNAおよびそのリプレッサーは、生殖質RNAの3'UTR中のシス作用性モチーフとともに、魚類からカエルまでの範囲にわたる下等脊椎動物の間で進化上保存されており、機能的に互換性であることが見いだされている(Knaut et al. (2002) Cur. Biol. 12:545-66)。
【0097】
生殖細胞特異的シス作用性エレメントの高度に保存されている性質から、これらの配列を、例えば、公知のエレメントの断片から合成によって設計することができる。mRNA転写物を生殖質またはPGCに導くことのできる任意の非翻訳領域を、本発明の方法に従って用いることができる。
【0098】
生殖細胞特異的な局在活性は、公知の方法に従って検出することができる。例えば、生殖細胞特異的シス作用性エレメントの候補を含むmRNA転写物の局在を、mRNA転写物の部分配列に対して特異的な、検出可能なように標識されたオリゴヌクレオチドプローブなどを用いるハイブリダイゼーション手法を用いて、検出することができる。または、タンパク質産物を、例えば、GFPなどのタンパク質標識を用いて検出することもできる。特定の配列が遺伝子産物を生殖質に導く能力は、被験配列をGFPまたは他の何らかの検出可能なタンパク質をコードする配列と連結させて、顕微鏡法を用いて描出することによって検査することができる。
【0099】
IX.本発明の動物および適用
上記に説明したように、本発明は、不稔動物集団を作製するために用いることができ、商業的養殖種、ならびに外来種または有害生物種に対して有益なように適用される。
【0100】
本発明は、生殖細胞が、母性遺伝決定因子により、「プレフォーメーション(pre-formation)」過程に従って特定される動物に対して用いることができる。これらの母性決定因子は、進化上は遠縁の生物(例えば、セノラブディティス・エレガンス(Caenorhabditis elegans)、キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)、ゼブラフィッシュおよびアフリカツメガエル(Xenopus laevis))の卵細胞の細胞質中に認められるゾーンである、生殖質(または極質)中に存在する。したがって、本発明は、例えば、魚類、両生類、貝類、甲殻類、軟体動物、昆虫および他の節足動物などに用いることができる。接合体が有糸分裂を行うにつれて、生殖質は最終的には胚の少数の細胞に限局される。これらの生殖細胞は続いて性腺に移動し、ついには機能的な卵または精子に分化する。
【0101】
魚類および貝類が主な焦点になっているのは、これらの動物が、(i)野生環境で生殖して生存することができ、かつ野生集団を樹立する傾向がある、(ii)天然の近縁種(native relative)がいるため、それらへの遺伝子流動またはそれらとの競合の可能性が高い、(iii)遺伝的に改変されて、成長速度、疾病抵抗性または食品換算率が改良された系統が作製される可能性がある。GlowFish(登録商標)などの知的所有権の保護も、ある種の水族館種または観賞魚種にとっては重要である。この技術は、ホルモン処理(環境的理由から望ましくない)を行わずに雄のみの単性集団を作製するための手段を提供する。全雄集団は、雄が雌よりも早く成長する種(例えば、ティラピア)では有利である。
【0102】
不稔魚には経済上の利点がある。不稔魚は養殖成績を改善する。最新の、ひれのある魚(fin-fish)の水産養殖では、成長速度の高さにより、飼育される(captive)魚は、野生型動物よりも早くかつ魚が市場性のある最適なサイズに達する前に、成熟する。早期性成熟は成長を低下させ、魚の品質(色、味および食感)を悪化させ、かつ死亡率を高める。不稔魚は決して性成熟を来さず、その結果として、(i)エネルギーが性腺発生で失われないことによる、より優れた食品換算比;(ii)成長速度がより大きい;および(iii)生殖時期を通じて維持される優良な出荷状態を有する。
【0103】
昆虫はもう1つの重要な適用対象である。大量放出用の放射線誘発不稔雄(SIT)に取って代わることのできる、有害昆虫の防除のための技術が、至急必要とされている。放射線照射に依拠するSITの欠点には、(i)反復放出の必要性;(ii)雌性昆虫(これは往々にしてヒト、家畜および農作物に対して有害な影響を及ぼす)の放出を回避するための時間のかかる性分離;(iii)電離放射線は往々にして雄の健康状態、寿命および交尾適応度に影響を及ぼし、そのためにそれらが野生雄と競合する能力が低くなる;(iv)この手法は種特異的である、ならびに(v)高額の費用、が挙げられる。
【0104】
本発明の母性的に誘導される不稔法は、放射線照射施設の必要性をなくす;雄のみの単性不稔集団の安価な生産を可能にする;適合した健康な不稔雄をもたらす;かつ多様な種に適用しうる。
【0105】
顕著なこととして、本発明による不稔個体の単回放出を用いることで、有害生物および外来種を防除しうると考えられる。例示的な標的種には、軟体動物(例えば、カワホトトギスガイ、リンゴガイ(Ampullariidae)、ビシニア・テンタクラタ(Bithynia tentaculata)、マルタニシ(Cipangopaludina chinensis)、フルミネア(Corbicula fluminea)、ゼブラガイ(Dreissena polymorpha)、コモチカワツボ(Potamopyrgus antipodarum)、アカニシ(Rapana venosa))、魚類(例えば、エールワイフ(Alosa pseudoharengus)、ライギョ(Channa argus)、コイ(Cyprinus carpio)、ギュムノケファルス・セムース(Gymnocephalus cemuus)、ハクレン(Hypophthalmichthys molitrix)、コクレン(Hypophthalmichthys nobilis)、タウナギ(Monopterus albus)、ラウンドゴビー(Neogobius melanostomus)、ブルーティラピア(Oreochromis aureus)、ウミヤツメ(Petromyzon marinus)、ナマズ(Pylodictis olivaris))および昆虫(例えば、半翅目昆虫(ツヤコバチ(Aphis melinus))、双翅目昆虫(カおよびハエ、例えばツェツェバエ、リンゴミバエ(Rhagoletis pomonella)、チチュウカイミバエ(Ceratitis capitata)、メキシコミバエ(Anastrepha ludens)など)、鱗翅目昆虫(例えば、アグロティス・ムンダ(Agrotis munda)、ユーキソア・アウキシリアリス(Euxoa auxiliaris))および鞘翅類昆虫(例えば、マウンテンパインビートル(mountain pine beetle)であるマツノザイセンチュウ(Dendroctonus ponderosae)、ハギキクイムシ(Xyleborus glabratus)、ジアプレペス・アブレフィアツス(Diaprepes abbreviatus)など)が挙げられる。
【0106】
容易に繁殖しうる不稔昆虫系統は、有益な種(例えば、ミツバチ)の、望ましい形質(疾病抵抗性、殺虫剤抵抗性)を改良するための、または疾病伝播を擾乱させる機構をカもしくは他の媒介昆虫に導入するための、遺伝子操作も可能にすると考えられる。これらの用途における背景については、例えば、Genetically engineered organisms: assessing environmental and human health effects (2002)中のそれぞれ251ページおよび315のBraig & YanおよびSpielmanの論文;ならびにWimmer (2003) Nat. Rev. Gen. 4:225-32を参照されたい。
【0107】
本発明はまた、進化上遠縁の種に由来する生殖細胞の移植用の宿主として役立てるための、内因性PGCを持たない胚を作製するために用いることもできる。PGCは容易に標識することができ(本明細書に記載のように)、かつ生きている生物から単離することができる(例えば、酵素的組織解離およびフローサイトメトリーを用いて)。また、PGCを胚の中に移植して、レシピエント生物の体内で機能的な精子または卵へとさらに分化させることもできる。異種移植は成功裏に実施されており、移植されたPGCが内因性配偶子と同調して発生を行うこと、および機能的であることが示されている(Ciruna et al. (2002) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 99:14919-24;Takeuchi et al. (2004) Nature 430:629-30;Saito et al. (2008) Biol. Reprod. 78:159)。
【0108】
宿主種が性成熟に至るまでに必要な時間がドナー種よりも短いならば、または宿主種をより効率的に育てることができるならば(より小さなサイズ、より容易な養育法)、この技術は、商業的水産養殖のための種苗生産に伴う時間、費用、養成空間および労力を軽減させることができる。その上、異種移植を遺伝子保存のために用いることもできる。この技術の大規模適用のためには以下が必要である:(i)完全な生殖細胞系の置き換え、および(ii)移植用の宿主胚の安価および効率的な生産。これらのどちらの要件も、本明細書に記載のMSC技術を用いることで満たされる。
【0109】
本明細書に記載された実施例および態様は例示のみを目的とすることが理解される必要がある。当業者は、ここに開示された本発明に対するさまざまな修正および変更が、本開示の趣旨および範囲、ならびに添付の特許請求の範囲に含まれることを了解するであろう。本明細書中に引用された刊行物、特許および特許出願はすべて、それらの全体が、目的を問わず、参照により本明細書に組み入れられる。
【実施例】
【0110】
X.実施例
材料および方法
動物の維持、産卵および受精:ゼブラフィッシュ(野生型系統およびトランスジェニック系統)は、再循環式飼育システムの中で維持し、28.5℃の馴化水の中で明14時間/暗10時間のサイクル下にて養成した。成体ゼブラフィッシュにはフレーク状飼料(TretraMin)を毎日与えた。自然産卵によって入手した胚には、生きているブラインシュリンプを1日2回与えた。胚の採取および時期分類は記載の通りに行った(Kimmel et al (1995) Dev. Dyn. 203, 253-310)。実験はすべて、承認済みのIACUCプロトコールに準拠して実施した。ニジマス(0. mykiss)およびタイセイヨウサケ(Salmo salar)については、配偶子を最長4日間、酸素存在下にて4℃で維持した。毎日、1つ〜2つのバッチの卵を受精させた(卵25mlに対して精子1〜2ml)。精子の活性化および受精は、卵膜の硬化を防ぐためにリンゲル液中で行った。注入を行った卵の各バッチに対して、微量注入を行わない卵をおよそ100個ずつ、受精に関する対照として残した。注入した卵および注入しない卵を、本発明者らの孵卵/養成システム(8〜10℃の水を再循環させる)に入れた。受精からおよそ20日後に、対照卵のバッチにおいて受精率/生存をアッセイした。
【0111】
構築物:ベクターI-SceI zpc:zbax:dnd(MSCzpc)およびI-Sce I kop:zbax:dnd(MSCkop):本発明者らの予備的検討に用いるために開発したベクター(Litmus 28i-bax:dnd)から、bax:dnd 3'UTRを含む1093bpのNcoI-PstI断片を消化処理によって得た上で精製した。この精製断片を、NcoI-PstIで消化処理した上でゲル精製したベクター骨格I-SceI zpc:egfp:dndまたはkop:egfp:dnd中にサブクローニングした。連結物を10F' コンピテント細胞(Invitrogen)中に形質転換導入し、プレーティングした上で、形質転換体コロニーをスクリーニングして、I-SceI部位に挟まれたBax発現カセットを有するプラスミドを2つ同定した。
【0112】
ベクターLitmus 28i-eGFP:nos1:610pb nanos 1 3'UTR(nos1)を増幅するために、オリゴヌクレオチドプライマー:(センス:

およびアンチセンス

)を設計し、これらのいずれにもプライマー末端に制限部位HindIIIを含めた。ゼブラフィッシュのゲノムDNA(20ngおよび600ng)を用いてPCRを行った。反応は以下の温熱条件下で30サイクル行った:94℃を30秒間、56℃を30秒間、および72℃を55秒間。このPCR産物をPCR-TOPO2.1プラスミドベクター(Invitrogen)中にクローニングした。続いて、nanos 1 3'UTRをLitmus 28i-eGFP:dndのHindIII部位の間にサブクローニングして、Litmus 28i-eGFP:nos1を作製した(図3A2)。nos1を正しい向きで有するプラスミド(SphI制限消化分析)を、転写反応のために選択した。
【0113】
Litmus 28i-ssbax:nos1:bax タイセイヨウサケ配列(NCBIアクセッション番号BT048648)に隣接するオリゴヌクレオチドプライマーを、Primer Selectを用いて設計し

それを用いて615pbのssbaxコード配列を増幅した。筋肉、下垂体(pituary gland)および脾臓組織から作製したタイセイヨウサケcDNA(20ngおよび600ng)を用いてPCRを行った。反応は以下の温熱条件下で30サイクル行った:94℃を30秒間、60℃を30秒間および72℃を40秒間。脾臓cDNAを含む反応物からのアガロースゲル上で、予想されたサイズのPCR産物が同定された。このPCR産物をPCR-TOPO2.1プラスミドベクター(Invitrogen)中にクローニングした。このおよそ620pbのssbax EcoRI断片をTOPOベクターから消化処理によって得て、ゲル精製した上で、EcoRIであらかじめ線状化しておいたLimus 28i-eGFP:nos1中に連結させ、ゲル精製して、アルカリホスファターゼで処理した。インサートをセンスおよびアンチセンスの向きに有する、その結果得られた新たな構築物(Litmus 28i-ssbax:nos1)を、コンピテント大腸菌細胞(Invitrogen)に形質転換導入した。クローニングしたプラスミドを制限消化(Hind III)によってスクリーニングして、適切な発現ベクターを選択した。
【0114】
微量注入:ゼブラフィッシュ胚への微量注入は、加圧Microinjector(FemtoJet, Eppendorf, Germany)による確立された技術を用いて行った。微量注入の前に、2つのMSC構築物を増幅し、精製して(Qiagen Maxiprepキット(Qiagen, USA))、IsceI(New England Biolab)によって線状化した。1細胞期の胚の細胞質中に、卵膜を貫通して、2つのプラスミドの微量注入を、I-SceIメガヌクレアーゼ(DNA:10μg/μl;市販のメガヌクレアーゼ緩衝液(New England Buffer, USA):0.5mlのメガヌクレアーゼ I-SceI:1単位/μl;0.1%フェノールレッド)とともに行った。
【0115】
qRT-PCRによるMSC導入遺伝子およびGFP導入遺伝子の検出:およそ1カ月齢まで育てた注入後のゼブラフィッシュすべてに麻酔を施し、ひれを切り取り、1匹ずつ小型の広口瓶に入れた上で、その間にそれらのひれのDNAを抽出し(R Corbett robotic system)、定量的リアルタイムPCR(qRT-PCR)を用いて遺伝子型判定を行って、モザイク性の魚を同定した。モザイク性の雄と野生型雌との交配による受精卵を採取して、胚7個ずつのバッチ3つからDNAを抽出した。baxとdndとの間のMSC特異的接合部を増幅するために設計したプライマー(bax fwd:

、dead end rev:

)を用いて、規定条件(94℃、30秒間;58℃、30秒間、72℃、45秒間)下でDNAをPCR増幅した。GFP導入遺伝子は、GFP特異的プライマーセット

を用いて検出した。β-アクチンをコードするDNAを内部参照標準物質として用いた。プライマーセットはすべて、市販のソフトウエアパッケージ(Primer Select DNAstar)により、同程度のサイズのアンプリコンが生成されるように同一のパラメーターを用いて設計した。
【0116】
インビボでの過剰発現実験:eGFP:dnd、eGFP:nos1、zbax:dndおよびssbax:nos1(z:ゼブラフィッシュ由来、ss、タイセイヨウサケ由来)を含むプラスミドをNcoI消化によって線状化し、インビトロ転写反応を製造元の指示(Message Machine 17 Kit(Ambion Inc., Austin, TX))に従って行った。合成されたキャップ付きキメラRNAをフェノール/クロロホルムで抽出し、エタノールで沈降させた上で、RNアーゼ非含有水に最終濃度100〜300ng/ulで溶解させた。合成キャップ付きセンスmRNAを1細胞期のゼブラフィッシュ胚に注入した。タイセイヨウサケおよびニジマスについては、受精から10分後〜4時間後の間に、およそ2〜20nlのRNA溶液を胚の受精孔を通して胚盤の中に微量注入した。注入を行わなかった受精卵は、好首尾な受精/生存に関する対照として、卵養育システム内に置いた。ゼブラフィッシュbaxの機能性をアッセイするために、処理した タイセイヨウサケ胚に、eGFP:nos1 mRNA(50pg/胚)およびzbax:nos1 mRNA(50〜150pg/胚)を同時注入した。対照胚にはeGFP:nos1 mRNAのみ(50pg/胚)およびzbax:nos1 mRNAのみを注入し、野生型(WT)胚には注入を行わなかった。
【0117】
PGC発生分析:PGCをまず、PGCの95%超が生殖隆起領域に移動しているprim-5期(およそ24hpf)の胚で分析した。生きている胚を蛍光顕微鏡検査によって描出し、生殖隆起の両側にあるPGCの数および異所性PGCの数を計数することによって、PGCの発生を分析した。アクリジンオレンジ(AO)染色のためには、生きている胚を24hpf時点で手作業で卵膜除去し、胚培地中に16.7 #g/mlとしたAOの中に20分間置いた。胚に0.0003%の3-アミノ-安息香酸中にて麻酔を施し、分析のために蛍光顕微鏡下に置いた。
【0118】
組織検査:組織検査のためには、組織をブアン固定液(Sigma)中に一晩置いて固定し、脱水して、パラフィンを浸透させた。パラフィン切片を0.5μmで切り出し、ヘマトキシリンおよびエオシンで染色した(Pacific Histology, San Diego, CA)。
【0119】
qRT-PCRおよびRT-PCR:2〜3カ月齢の、不稔性の、部分的に稔性の、および野生型の雄性および雌性ゼブラフィッシュから性腺を単離した。組織をTrizol試薬(Sigma)中で採取し、製造元の指示に従ってRNAを抽出した。MNLV逆転写酵素を第一鎖cDNA合成のために用いた。逆転写酵素を含まない対照反応を同時並行して行わせた。qRT-PCR用に調製したRNAをDNアーゼIで処理した。以下のプライマーを、RT-PCR反応(大文字)およびqRT-PCR(小文字)のために用いた:

【0120】
データ解析:PGC総数は生殖隆起部PGCおよび異所性PGCの合計に相当する。平均総PGCおよび平均異所性PGCを独立t検定を用いて統計学的に比較し、P<0.05を有意と設定した。
【0121】
実施例1:ゼブラフィッシュを用いた原理証明(Proof of principal)
モデル生物における母性不稔構築物(MSC)の機能性を評価し、PGCの除去を実証するために、本発明者らは、卵母細胞特異的なzona pellucidaプロモーターまたはaskoposプロモーターのいずれかの制御下にあるbax-dnd 3'UTR RNAを産生するトランスジェニックゼブラフィッシュを作り出した(図5A)。卵形成の間に母性寄与によるbax-dnd 3'UTR RNAが発現され、卵の中に存在したままであれば、胚発生の結果として、生殖細胞を持たない個体がもたらされると考えられる。その結果、不稔世代、または孫なし(grandchildless)表現型と呼ぶことのできるものが得られると考えられる。
【0122】
PGCを除くために、本発明者らは、ゼブラフィッシュアポトーシス促進遺伝子baxの異所性過剰発現による内在性アポトーシス機構の活性化に依拠した。Baxはアポトーシスの重要なタンパク質調節因子のファミリー(Bcl-2ファミリー(van Delft & Huang (2006) Cell Res. 16:203-13))に属し、これには抗アポトーシス性メンバー(例えば、Bcl-2およびBcl-XL)およびアポトーシス促進性メンバー(例えば、Bax、Bik、Bad)の両方が含まれる。これらの分子の比は細胞運命の極めて重要な決定要因である。抗アポトーシス遺伝子の発現増大は細胞の生存延長に有利に働き、一方、アポトーシス促進遺伝子の発現レベルの上昇は細胞死を早める。異常な、誤って配置された、または過剰なPGCを除去するように細胞死が正確に制御されることは、生殖細胞系の継続性および完全性を維持するために必須であり、これは生殖細胞が性腺以外の場所に定着することを防ぐ。Baxは、ラットおよびマウスの雄性性腺および雌性性腺における生殖細胞アポトーシスに関与することが示されている(Knudson et al. (1995) Science 270:96;Perez et al. (1999) Nature Gen. 21:200-03;Yamamoto et al. (2000) Soc. Study Reprod. 63:1683-90;De Felini et al. (1999) Cell Death and Diff. 6:908-15)。また、Baxおよび他のアポトーシス促進遺伝子は、ゼブラフィッシュ、マスおよびマウス胚において起源部位から性腺に向けての移動中に誤った方向に導かれたPGCの死滅にも関与することが示されている(Stallock et al. (2003) Development 130:6589-97)。しかし、Baxの異所性発現、またはトランスジェニック性に送達された他のいずれかのタンパク質によるPGCの除去は報告されていない。
【0123】
本発明者らのアプローチの実現可能性を最初に実証するために、本発明者らは、T7プロモーターの制御下にある、ゼブラフィッシュdnd遺伝子の3'UTRと融合させたゼブラフィッシュbax-1を有するプラスミドを作製した(図4A)。本発明者らは、インビトロでこの構築物からキャップ付き合成bax-dnd 3'UTR mRNAを調製し(図4B)、注入さまざまな濃度(80pg〜2ng)で、プロモーターzpcからdnd-3'UTRを伴ってGFPを発現するトランスジェニック雌由来の1〜2細胞期のゼブラフィッシュ胚に注入した(図2に示されているように、このトランスジェニック系統はGFP標識PGCを産生する)。
【0124】
各mRNA用量につき、15〜20個ずつの胚の群を用いた。最も低い濃度では、mRNA注入群と非注入対照との間に特異な差は観察されなかった。より高濃度では用量依存的な胚死亡が誘発され(図4C)、これは中期胞胚変移の直後の割球および卵黄の崩壊によって特徴づけられた。このことは高用量のBax-1が胚におけるアポトーシスを誘導することを示唆する。bax-dnd-3'UTR mRNAの注入量を減らすと、その結果、死亡率の低下がもたらされる。400pgのRNAを注入した後に、原腸形成期を生き延び、表現型の上で正常な外観であった胚を蛍光顕微鏡検査によって分析し(図4 F&G)、PBSを注入した同胞胚と比較した(図4 D&E)。
【0125】
その結果から、bax-dnd 3'UTR RNAを注入した胚ではPGCが死滅に向かうことが実証された:(i)48hpf(受精後の時間)胚では、RNA処理胚における蛍光性PGCは数が顕著に減少するかまたは完全に存在しなくなった、かつ(ii)受精後18〜24時間のRNA注入胚におけるPGCは形態学的変化を呈し、これにはプログラム細胞死を来している細胞に特徴的な膜ブレブ形成およびその後のアポトーシス小体の形成が含まれた(図4 H、I、J)(Rich et al. (1999) Nat. Cell. Biol. 1:E60-71)。これらの胚は、それらが発生を続ける間に体細胞欠陥を全く示さなかった。本発明者らが20個のRNA注入胚を成体になるまで育てたところ、そのすべてが正常な雄性挙動を呈する表現型上の雄(図4K)へと発生したことが見いだされた(野生型雌とつがいにした場合に産卵が誘発された)。PBSを注入した対照同胞では雄性子孫および雌性子孫の両方が生じ、性比はおよそ50%であった(図4K)。加えて、baxで処理した魚20匹中12匹は、交配を3回続けてそれらの卵が受精不能であったことから判断して、完全に不稔であった。不稔表現型を確かめるために、本発明者らが不稔雄の性腺を切離したところ、稔性の雄で認められる卵形の不透明構造の代わりに、半透明な管状構造(図4M)が見いだされた(図4L)。
【0126】
実施例2:生殖細胞系伝達を行いうるトランスジェニックゼブラフィッシュ
本発明者らは次に、本発明者らの2種類の母性不稔構築物、zpc:zbax:dnd(MSCzpc)およびkop:zbax:dnd(MSCkop)を保有するトランスジェニックゼブラフィッシュを作り出した(図5A)。受精卵200個ずつのバッチ2つにベクターを注入した。微量注入から3日後に記録された生存率は60〜70%であった。1カ月齢の時点で、導入遺伝子を保有する個体を検出するために、生存している胚(およそ50%)のひれを切り取った。MSCkopおよびMSCzpcに関してスクリーニングを行った80匹および66匹の魚のうち、それぞれ25匹(37%)および34匹(42%)が陽性の検査結果であった。残りのPCR陽性の魚を性成熟期まで育てて、性別を判定し、識別された雄を野生型の雌性種親と交雑させ、それらが構築物をそれらの子孫に伝達する能力を判定した。MSCkopおよびMSCzpcに関してスクリーニングしたそれぞれ11匹および13匹の雄のうち、2匹および4匹が、PCR陽性胚の少なくとも1回分の同時孵化卵を生じた(各々の親のつがいについて、3回分の同時孵化卵の胚7個をスクリーニングした)。
【0127】
生殖細胞系伝達を行いうるこれらの6匹の雄性ファウンダーを、zpc:eGFP:dnd(GFPzpc)構築物またはkop:eGFP:dnd(GFPkop)構築物のいずれかを保有するヘテロ接合性雌と交雑させた。生殖細胞評価のためのマーカーを確立するために、これと同じGFP系統をその後のすべての交雑に用いた。これらの交雑による子孫(およそ10〜50個の胚/ファウンダー/構築物)をおよそ1カ月齢まで育て、MSC導入遺伝子およびGFP導入遺伝子を保有する魚を同定するためにPCRによってスクリーニングした。検査した胚10個のうち平均3個がMSCに関して陽性であり(33.5%+/-9%)、このことはMSC生殖細胞系モザイク性の度合いが比較的低いことを指し示している。これらのF1魚を成熟するまで育て、性別を判定した。全体として、本発明者らは、MSCに関して陽性である19匹のF1雄および20匹のF1雌を同定した(図5B)。トランスジェニック雄ファウンダーに由来するF1子孫では均等な性比が観察され、このことは性決定に対して導入遺伝子の父性効果も接合体効果もないことを示唆する。本発明者らは、各系統からのF1雄および雌を用いて、次世代のMSCトランスジェニック魚を生じさせた。
【0128】
実施例3:発生中のF2胚におけるPGC除去の確認
1つの系統につき最大3匹のF1雄および3匹のF1雌を、系列の樹立のために用いた。GFP導入遺伝子およびMSC導入遺伝子の両方を保有する雌に由来するF2胚を蛍光顕微鏡検査によって分析し、PGC数(すなわち、GFP陽性細胞)を受精24時間後および48時間後(hpf)の時点で記録した。導入遺伝子が真に特異的母性発現下にあるならば、F1 MSC雌は、対照胚(すなわち、雌性GFP種親)に比してPGCが減少しているかまたは存在しない胚を生じると本発明者らは予想している。MSCzpc22系統およびMSCzpc9系統のF1雌由来の胚全体のうちそれぞれ90%超および70%超が、視認しうるGFP+細胞を完全に欠いていた。対照的に、系統MSCzpc11およびMSCzpc3由来のF1雌は、GFP+細胞が検出不能な胚を5〜10%しか生じなかった。系統MSCkop2の3匹のF1雌も、GFP+を伴わないパターンの胚を30〜80%生じた。その上、GFP MSC雌によって生じた他のすべての胚では、PGC数が正常のものから著しく減少したものまでの範囲にわたった。各F1雌から採取した胚1個当たり(n=20)のPGCの平均数を図5Eに示している。
【0129】
F1 MSC雄または野生型雄と交雑させたGFP雌性種親によって生じたF2胚は、正常な個数であるおよそ30個のPGCを有し(図5E)(Yoon et al. (1997) Development 124:3157)、このことはPGCの生存に対するMSC導入遺伝子の父性効果も接合体効果も存在しないことを示唆する。
【0130】
PGCの最早期欠陥の分析.PGCが欠陥を持つようになる時期をより正確に明らかにするために、本発明者らは、24hpfおよび48hpf時点のPGC個数が正常からゼロまでの範囲にわたる胚を生じた雌MSCzpc3由来の胚をモニターした(それぞれA群、B群およびC群(図5D))。被覆原腸胚形成30%の時点(原腸形成の間に細胞層が薄化して広がる、およそ5hpf)で、本発明者らはすべての胚においてGFP細胞を見いだした(図5C1)。およそ10hpfの時点で、PGC数が減少した胚の群を明らかに同定することができた。
【0131】
アポトーシスによるPGCの死滅.GFP+細胞が最終的に消失した胚において、本発明者らは、膜ブレブ形成およびその後のアポトーシス小体の形成といったアポトーシスの形態学的徴候を有するPGCを検出した。GFP構築物を持たないMSC F1雌(図5C2、系統MSCzpc11)に由来する胚を、生体染色色素アクリジンオレンジ(AO、塩化アクリジウム・ヘミ-(塩化亜鉛))によって染色し、蛍光顕微鏡検査にて分析した。図5C2に示されているように、性腺原基の中に緑色蛍光細胞が塊として見える。この観察所見は、不稔性が始原生殖細胞の早期アポトーシスに起因することを示唆する。母性効果-不稔表現型がbax誘導性アポトーシスに起因することのさらなる裏づけが、下記のように、レスキュー実験によって示された。
【0132】
ゼブラフィッシュにおいて、Bcl-XLの過剰発現は、最小致死量のBaxによって誘導されるアポトーシスを阻止する(Kratz et al. (2006) Cell Death & Differentiation 13:1631-1640)。本発明者らは、合成キャップ付きBcl-XL:dnd 3'UTR mRNAを作製して、この転写物の用量調整物(titration)を、MSC雌に由来する1細胞期の胚に微量注入した。注入後に生き延びた胚10個のうち、8個が雄になり、2個が雌になった。この10匹すべてが稔性であった。注入を行わなかった対照同胞(n=20)はすべて雄であり、それらの90%は不稔性であった。48hpf時点でGFP発現が存在しないことが、不稔性の信頼性の高い指標であるか否かを検証するために、本発明者らは、系統MSCzpc3およびMSCkop2におけるGFP陽性胚およびGFP陰性胚を選別し、それらを性成熟に至るまで別々に育てた(およそ3〜4カ月齢)。本発明者らはさらに、系統MSCzpc3由来の胚を、PGCが0〜2個;3〜6個;および7〜13個の群に分けた(図5D)。本発明者らは、成体における不稔性と胚において観察されるPGCの数との間に明らかな相関を見いだした。
【0133】
実施例4:成体における母性的に導かれる機能的不稔性の実証
MSCトランスジェニック雌は雄性子孫を選好的に生じる.性分化の前に生殖細胞が減少しているかまたは存在しない魚の胚(ゼブラフィッシュおよびメダカ)は、雄として発生する(Houwing et al. (2007) Cell 129:69-82;Slanchev et al. (2005) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 102:4074-79;Kurokawa et al. (2007) Proc. Natl. Acad. Sci. 104:16958-63)。本明細書では、雄を、体形、色調、および泌尿生殖乳頭の欠如に基づき、視認によって同定した。本発明者らの系統のすべてで、本発明者らは、雄性発生側への強い偏りを観察した。雄性側への偏りは系統ごとにさまざまであったものの、野生型雄と交雑させた少なくとも6匹の異なるMSC F1雌の子孫において、雄の数は常に70%を上回った(図5B)。興味深いことに、最も高度のPGC欠陥を有する胚を生じるMSC F1雌(系統MSCzpc9、zpc22由来の胚ではPGC個数の減少率が85%を上回る、図5E)は、雄への偏りも最も高度であった(雄が90〜100%)(図5B)。子孫の雄性化は、F1 MSC雄と野生型雌との交雑からは観察されず(MSC父性遺伝を有する雄は雄性子孫を50%、雌性子孫を50%生じる)、子孫は稔性であった(図5B)。孫なし表現型の浸透レベルがさまざまであることは、異なる系統間での、ゲノム中への導入遺伝子の組み込み部位、コピー数、または導入遺伝子の発現レベルに最終的に影響を及ぼす後生的過程の違いに起因する可能性がある。
【0134】
本発明者らは、PGC個数別にあらかじめ選別したMSCzpc3の子孫の性別を判定した。PGCが3個未満であった胚(n=12)はすべて雄として発生した。PGCが3〜6個のものでは、結果的に胚の70%が雄として発生した(n=10)。PGCが7〜13個であった胚は、PGC個数の著しい減少にもかかわらず、正常な性比で発生した。したがって、48hpf時点でPGCの減少が90%を上回れば、すべてが雄のゼブラフィッシュ集団が生じると考えられる。
【0135】
MSCトランスジェニック雌は不稔子孫(孫なし表現型)を生じる.PGCの数の減少および/または完全な除去が、その結果として、受精率の低下および/または不稔魚をもたらすか否かを明らかにするために、本発明者らは、3つの系統(MSCzpc9、MSCzpc22およびMSCkop2)からのF2雄性子孫を調べた。これらの雄はすべて、野生型雌に産卵を誘導することに成功した。交配を2〜3回続けた後に、受精卵および未受精卵のすべての合計を記録した(図7D)。本発明者らは、これらの3つの系統が呈する「孫なし」表現型の浸透度がさまざまであることを見いだした。系統MSCzpc22における14匹のF2雄のうち、生存しうる子孫を生じたのは1匹のみであった。この雄の受精率はおよそ15%と低かった。系統MSCzpc9では、雄の33%(12匹中4匹)が、生存しうる子孫を生じた。それらの受精率は20〜80%の範囲にわたった。なお、系統MSCkop2における、すべてがGFP陰性の胚(視認しうるPGCを有しないもの)は不稔個体として発生し、一方、GFP陽性胚はすべて(10匹中10匹)は稔性の成体になった。視認しうるPGCがわずか1〜3個である選別されたGFP陽性胚は稔性になったが、このことは、生存している少数の生殖細胞が性腺を再増殖させることに成功したことを指し示している。本発明者らは、種親GFP雌と交雑させたMSCトランスジェニック雄の子孫では、稔性に関する欠陥を認めなかった。
【0136】
導入遺伝子の母性発現は不稔性のために必要かつ十分である.GFP種親系統を用いた本発明者らの予備的検討により、導入遺伝子の接合体発現を伴わない卵母細胞特異的発現(野生型雌と交雑させたGFPzpc雄またはGFPkop雄由来の胚ではGFPが全く検出されない)が指し示された。そのため、MSC F1雌からも、本発明者らは、稔性のF2魚と不稔性の同胞F2魚との間にも導入遺伝子の同様の分布を予想する必要があった。qRT-PCRにより、本発明者らは、系統MSCkop2由来のGFP陰性胚(n=36、不稔性である可能性が高い)およびGFP陽性胚(n=34、稔性である可能性が高い)において、MSC陽性率がそれぞれおよそ65%およびおよそ68%であることを見いだした。このことは、両群における導入遺伝子の2つのコピーのメンデル遺伝(75%)を示唆する。本発明者らは、F2不稔魚12匹中の4匹が導入遺伝子を持たない系統MSCzpc22において、非トランスジェニック不稔成体の存在を確認した。これらの結果は、不稔性のためには母性遺伝だけで十分であることをさらに裏づける。したがって、MSC導入遺伝子の母性遺伝は、その結果として、トランスジェニック性および非トランスジェニック性の両方をもたらす。
【0137】
不稔ゼブラフィッシュにおける性腺構造.不稔性を細胞レベルおよび分子レベルで確認するために、本発明者らは、F2不稔魚および齢数を一致させた稔性の対照個体における性腺の全体的形態および細胞構造を評価した。対照魚は正常な形状であり、対になった性腺を有していた。対照的に、不稔魚は腹腔の両側に半透明の管状構造の対を有していた(図6A)。この観察所見は、本発明者らのmRNA bax-dnd 3'UTR注入実験の結果と合致する(図4M)。ヘマトキシリンおよびエオシンで染色した組織切片により、不稔魚の性腺は、精巣特異的なセルトリ細胞およびライディッヒ細胞に似た細胞で構成される、精巣に似た秩序立った小管を有することが明らかになった。これらの管状精巣は生殖細胞を完全に欠いていた(図6C)。
【0138】
PGC数の減少した胚における性腺発生.受精率の低下を示した、PGCが1〜3個である群から選択した魚は、比較的小さいもの正常な形状を有する同一の性腺の対を有するか、または、腹部の一方の側のものはサイズが小さく、2つ目の性腺は不稔個体で観察されるものに類似している二形性性腺を有するかのいずれかであった。サイズの小さい性腺は、野生型雄性性腺と比較して、精小嚢内腔内に精子をごく少数しか含まなかった(図6E)。
【0139】
生殖細胞を有しない性腺は精巣である.不稔魚における切離した管状構造が雄性性腺であることを確かめるために、本発明者らは、定量的リアルタイムPCR(qRT-PCR)によって、セルトリ細胞の特異的遺伝子マーカーであるsox9a(Chiang et al. (2001) Dev. Biol. 231:149-163)の発現レベルを測定した。Sox9aは不稔魚の性腺において野生型精巣と同程度のレベルで発現されたが、これはセルトリ細胞が存在することを指し示している(図7A、青のバー)。雌性組織が全く存在しないことをさらに確かめるために、本発明者らは、卵巣では発現されるが精巣では発現されないcyp19a 1aをアッセイした(Kishida & Gallard (2001) Endocrinology 142: 740)。野生型雄の精巣の場合と同じく、本発明者らはcyp19a 1aの発現を検出できなかった(図7A、赤のバー)。PGCに対する導入遺伝子の影響を分子レベルでさらに評価するために、本発明者らは、不稔ゼブラフィッシュ、部分的に稔性のゼブラフィッシュおよび野生型(完全に稔性の)ゼブラフィッシュの切離した性腺における生殖細胞特異的遺伝子マーカー(vasa)の発現レベルを比較した。不稔魚において、vasaの発現はqRT-PCRによって検出不能であった。本発明者らは、野生型魚では高発現を観察し、稔性の低下した魚では中間的な発現レベルを観察した(図7C)。これらの結果により、不稔魚には生殖細胞系が存在しないという組織学的な観察所見が裏づけられた。3匹の不稔魚および4匹の野生型魚(雄2匹および雌2匹)の切離した性腺におけるsox9a、vasaおよびβ-アクチン遺伝子の発現に関するPCR分析により、不稔魚における切離した組織は精巣特異的体細胞(sox 9a陽性)を含むが、生殖細胞(vasa陰性)は含まないことがさらに指し示された(図7B)。
【0140】
実施例5:不稔性表現型はMSC導入遺伝子のレベルと関連しており、かつ遺伝しうる
本発明者らは、母性的に誘導される表現型の重症度(雄および不稔子孫の%)が、受精卵における母性bax-dnd 3'UTR mRNAのレベルとよく相関することを見いだした(qRT-PCRによって測定)(表1)。雄への偏り/不稔表現型が最も高度であるMSC系統(例えば、MSCzpc22)は、最も高レベルのbax-dnd 3'UTR'mRNAを発現した。軽度の雄への偏りおよび大部分が稔性である子孫を有するトランスジェニック系統(例えば、MSCzpc3)は、MSC導入遺伝子を極めて低レベルでしか発現しなかった。中間的表現型を有する系統は、中間的レベルの発現を有した。この相関性は母性表現型の強度の指標として極めて有用であり、最も浸透度の高い孫なしMSC系統を初期スクリーニングで選択するために用いることができる。
【0141】
【表1】

MSC雌の以後の2世代(F1およびF2)から生じた胚(F2、F3)におけるMSC mRNAのレベルと、a)雄性子孫およびb)不稔子孫のパーセンテージとの間の相関。雄性子孫および不稔子孫のパーセンテージは、各系統についてのn(所定数)個の成体の検査によって導き出される。初期胚におけるbax:dnd 3'UTR mRNAのレベルを、各系統の少なくとも雌2匹について平均4回分の同時孵化卵から、q-PCRによって決定した。発現のレベルはハウスキーピング遺伝子β-アクチンに対して正規化し、系統MSCzpc22で測定された最も高い発現レベルに対するパーセンテージとして表した。SD:標準偏差。
【0142】
不稔表現型は遺伝しうる.雄性系列を通して繁殖したトランスジェニック系統は強い不稔表現型を少なくとも2世代にわたって維持した。本発明者らは、F1雌およびF2雌によって生じた胚(表1、F2胚およびF3胚)におけるMSC mRNAレベルが非常に類似していることを見いだしたが、このことは不稔表現型が以後の世代間で維持されることを示唆する。事実、少数の例外を除き、本発明者らは、F1およびF2 MSC雌(同じ系統のF0雄およびF1雄から生じたもの)が、同程度の雄への偏りおよび同等の不稔表現型を呈する子孫を生じることを確かめた。以後の世代におけるMSC mRNAレベルの低下、および表現型の強度の低下を本発明者らが観察した稀なケースは、導入遺伝子の複数の組み込み体のメンデル遺伝に伴うMSC導入遺伝子のコピー数の減少に起因した可能性が高い。すなわち、本発明者らは、F1およびF2のMSC雌からのF2子孫およびF3子孫において同程度の雄性表現型および不稔表現型を見いだした。
【0143】
実施例6:ひれのある他の魚における適用
サケ類におけるPGC発現の標的化.ゼブラフィッシュおよびサケ科魚は異なる魚類クレード(それぞれ骨鰾類(ostariophyan)および正真骨魚(euteleost))に属しており、生殖質RNAの局在機構は異なるように進化した可能性がある。本発明者らは、ゼブラフィッシュdead end(dnd)およびnanos1(nos1)の3'UTRが、サケ類であるタイセイヨウサケ(Salmo salar)およびニジマス(Oncorhynchus mykiss)において、RNA翻訳を生殖細胞に標的化しうるか否かを明らかにしようと試みた。この検討にはゼブラフィッシュnanos1(nos1)3'UTRを用いたが、これはRNA局在化に関するその役割が、魚類の系統樹の主要なクレードのすべてに属する真骨魚類種(パールダニオ、キンギョ、ドジョウ、ニシン、メダカおよびシロウオ)の中で保存されているように思われるためである(Saito et al. (2006) Dev. Biol. 50:691)。このために、本発明者らは、dnd遺伝子およびnos1遺伝子の3'UTRと融合させたeGFPを作動させる高収量転写ベクターを作製した(図8A1〜2)。
【0144】
本発明者らは、インビトロでこれらの構築物からキャップ付き合成eGFP:dndおよびeGFP:nos1 mRNAを調製し、さまざまな濃度で、1細胞期のゼブラフィッシュ(対照)胚、ならびに受精したニジマス卵およびタイセイヨウサケ卵(10分〜3hpfの間)に注入した。微量注入後に、ゼブラフィッシュ胚ではすべての割球で遍在性GFP発現が観察された(図8Z3)が、体細胞では発現が急速に減衰した(図8Z1)。PGCではそれらの特異化の直後に強いGFPが認められた(図8Z1)。2日齢ゼブラフィッシュ胚ではGFP標識PGCを明らかに視認することができた(図8Z4)。
【0145】
本発明者らは、eGFP:nos1(図8S1〜2)を注入した20日齢サケ胚(図8S1)、およびeGFP:nos1(図8T3〜4)またはeGFP:dnd mRNA(図8T1〜2)のいずれかで処理した30日齢マス胚(図8T3)におけるGFP発現パターンを検討した。本発明者らは、検討した胚全体のおよそ30%が、2つの系統で、消化管と腹腔の背側との間に位置する高輝度蛍光の円形細胞を呈したことを見いだした(図8S&T)。このGFP発現パターンは、eGFP:vasa RNAを投与されたニジマス胚で観察されたものに類似していた(Yoshizaki et al. (2005) Biologly of reproduction 73:88)。この結果は、ゼブラフィッシュdndおよびnos1 3'UTRが、mRNAおよびその後に異種タンパク質発現をマウスおよびサケのPGCに送達しうることを裏づける。PGC内部での母性生殖細胞mRNA翻訳を担う機構の進化的に保存された性質により、生殖細胞の3'UTRの使用は、特定の異種mRNAをPGCに送達するために特に魅力的であり、かつこのアプローチを広範囲にわたる標的種に適用することを可能にする。
【0146】
PGCの除去.導入遺伝子が遠縁種で機能しうることをさらに実証するために、本発明者らは、ゼブラフィッシュおよび/またはタイセイヨウサケ由来のbaxの異所性過剰発現によって、タイセイヨウサケおよび/またはゼブラフィッシュのそれぞれにおいてPGCを除きうるか否かを検証した。本発明者らは、ヌクレオチドおよび翻訳されたアミノ酸配列が、オンラインで公開されているアポトーシス調節因子Baxと94%および99%同一である新たなタイセイヨウサケcDNA(ssbax)をPCR増幅して、サブクローニングした(Salmo salar, Leong et al. cGRASP)。本発明者らは、ssbaxをゼブラフィッシュnanos1 3'UTRと融合させて、このカセットを転写ベクター中に配置した。この構築物(図8C1)から本発明者らは合成キャップ付きRNA ssbax:nos1を作製して、1細胞期のゼブラフィッシュ胚にさまざまな濃度で注入した。本発明者らは雌性GFP種親由来の胚に微量注入して、処理胚および処理しなかった胚におけるGFP発現パターンを比較した。
【0147】
本発明者らは、モック注入対照と比較して、微量注入胚におけるPGC個数の顕著な減少を観察した(図8C3)。検出可能なPGCを有しなかった胚は体細胞欠陥を全く示さなかった。これらの結果は、これらの遠縁の真骨魚類におけるプログラム細胞死の機序がよく保存されているという見方を裏づける。この主張をさらに確実なものとするために、本発明者らは、線状化したプラスミド(Litmus 28i-T7:bax:dnd 3'UTR)からゼブラフィッシュbax:dnd mRNAを作製した。受精した1細胞期のサケ胚を3群に分けて、以下のものを微量注入した:(i)zbax:dndおよびeGFP:nos1 mRNA(GFP mRNAを生殖細胞標識のために用いた)、(ii)eGFP:nos1 mRNAのみ、ならびに(iii)zbax:dnd mRNAのみ。この検討における受精卵のバッチは生存率が非常に低かったため(表2参照)、GFP分析は小規模な標本数で行った。にもかかわらず、eGFP:nos1で処理した9個の胚のうち3個は検出可能なGFP細胞を呈したが、eGFP:nos1;zbax:dndで処理した6個の胚のいずれにおいてもGFPシグナルは全く観察されなかった(表2)。
【0148】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)母性不稔構築物(Maternal Sterility Construct)(MSC)プロモーター;
(ii)始原生殖細胞(PGC)を除くことのできるポリヌクレオチド配列;および
(iii)生殖細胞特異的3'非翻訳領域(UTR)
を含む、単離された発現構築物であって、
(i)、(ii)および(iii)が機能的に連結されている、発現構築物。
【請求項2】
(ii)のポリヌクレオチド配列がアポトーシス促進性ポリヌクレオチド配列である、請求項1記載の発現構築物。
【請求項3】
アポトーシス促進性ポリヌクレオチド配列が、bax、bak、bok、bad、bik、puma、noxa、およびエフェクターカスパーゼからなる群より選択されるタンパク質をコードする、請求項2記載の発現構築物。
【請求項4】
アポトーシス促進性ポリヌクレオチド配列が、bcl-2、bcl-xl、およびbcl-wからなる群より選択される遺伝子の発現を低下させる、請求項2記載の発現構築物。
【請求項5】
生殖細胞特異的3' UTRが、deadendおよびvasaからなる群より選択される遺伝子由来の3' UTRである、請求項1記載の発現構築物。
【請求項6】
請求項1記載の発現構築物を含む母性不稔構築物(MSC)導入遺伝子を保有する、トランスジェニック動物。
【請求項7】
魚類、軟体動物、甲殻類、両生類および昆虫から選択される、請求項6記載のトランスジェニック動物。
【請求項8】
さらなる非MSC導入遺伝子を少なくとも1つ保有する、請求項6記載のトランスジェニック動物。
【請求項9】
系列終末雌(lineage ending female)である、請求項6記載のトランスジェニック動物。
【請求項10】
系列終末雌を生じさせる方法であって、以下の段階を含む方法:
(i)請求項1記載の発現構築物を動物始原細胞に導入して、該発現構築物をその生殖細胞内に保有する母性不稔構築物(MSC)トランスジェニックファウンダー動物を作製する段階;
(ii)段階(i)によるMSCトランスジェニックファウンダー動物を交配して、ヘミ接合性MSCトランスジェニック雄を生じさせる段階;
(iii)MSCトランスジェニック雄を、MSCを持たない雌と交配する段階;
(iv)段階(iii)によるMSCトランスジェニック雌性子孫を選択して、系列終末雌を得る段階。
【請求項11】
系列終末雌がさらなる非MSC導入遺伝子を少なくとも1つ保有する、請求項10記載の方法。
【請求項12】
系列終末雌を雄と交雑させて不稔子孫を生じさせる段階(v)をさらに含む、請求項10記載の方法。
【請求項13】
母性不稔構築物(MSC)トランスジェニック動物を繁殖させる方法であって、以下の段階を含む方法:
(i)請求項1記載の発現構築物を動物胚に導入して、該発現構築物をその生殖細胞内に保有する母性不稔構築物(MSC)トランスジェニックファウンダー動物を作製する段階;
(ii)段階(i)によるMSCトランスジェニックファウンダー動物を交配して、ヘミ接合性MSCトランスジェニック雄を生じさせる段階;
(iii)MSCトランスジェニック雄をMSCを持たない雌と交配する段階;
(iv)段階(iii)によるMSCトランスジェニック雄性子孫を選択して、MSCトランスジェニック動物を交配および繁殖させる段階。
【請求項14】
系列終末雌を雄と交雑させ、それによって不稔世代の動物を作製する段階を含む、不稔世代の動物を生じさせる方法。
【請求項15】
少なくとも1方の親がさらなる非MSC導入遺伝子を少なくとも1つ保有する、請求項14記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図5D】
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【図5E】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2013−511286(P2013−511286A)
【公表日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−540158(P2012−540158)
【出願日】平成22年11月23日(2010.11.23)
【国際出願番号】PCT/US2010/057863
【国際公開番号】WO2011/063409
【国際公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【出願人】(512133225)アクアバウンティ テクノロジーズ インコーポレイテッド (1)
【Fターム(参考)】