説明

化学物質の発生毒性及び胚性毒性のinvitro試験のためのタンパク質バイオマーカー

現在、化学薬品の毒性学的評価は主としてin vivoで種々の動物種を使用して、更にヒトの臨床的、生化学的、病理学的及び形態学的データを考慮して実施される。過去数年にわたり、幾つかの物質が子供に特に有害であることが次第に明らかになり、したがって発生中のヒトの脳の特殊な脆弱性に対して焦点が当てられている。一方で、既知の神経毒性又は催奇形性(特に神経催奇形性)危険性を有する物質を更に胚毒性についても試験するようにとの勧告がある。その上、アメリカ環境保護庁(EPA)は農薬についての胚毒性試験を要求している。物質が医薬として使用されるものである場合には更なる試験が要求される(S7A Safety Pharmacology Studies for Human Pharmaceuticals, Guidelines of the International Conference on Harmonization, ICH, 2001)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の詳細な説明
背景技術
現在、化学薬品の毒性学的評価は主としてin vivoで種々の動物種を使用して、更にヒトの臨床的、生化学的、病理学的及び形態学的データを考慮して実施される。過去数年にわたり、幾つかの物質が子供に特に有害であることが次第に明らかになり、このようにして発達中のヒトの脳の特殊な脆弱性に対して焦点が当てられている。一方で、既知の神経毒性又は催奇形性(特に神経催奇形性)危険性を有する物質を更に胚毒性についても試験するようにとの勧告がある。その上、アメリカ環境保護庁(EPA)は農薬についての胚毒性試験を要求している。物質が医薬として使用されるものである場合には更なる試験が要求される(S7A Safety Pharmacology Studies for Human Pharmaceuticals, Guidelines of the International Conference on Harmonization, ICH, 2001)。
【0002】
化学薬品の発生神経毒性の検査は、アメリカEPA(試験ガイドライン870.63000)のガイドライン及びOECD(OECDガイドライン426)のドラフトガイドラインにより規制されている。これらガイドラインによるin vivo研究は、試験動物(通常ラット)の脳の形態学的検査、一連の挙動試験、若年動物(成年段階まで)の発達の検査、グリオーシス及び細胞毒性についてのバイオマーカーの測定、及びその上更なるバイオマーカーの検査を含む。これら毒性試験は極めて多数の試験動物を必要とする:約140匹の母系動物及び1000匹のその子孫が各物質につき3〜4ヶ月で消費されるだろう。技術的及びロジスティック的要求のために、これらin vivo試験は極めて人員及びコスト集約的である。しかしながら、決定的な点は、相応するガイドライン及び動物においては信頼性がありかつ疑いのない終点が明らかに定義されることができないことである。この現在の試験が中枢神経系のヒト発生及び関連する毒性について正しく予測するものであるかは分からない。USにおいてはこの状況のために動物権の請願及びPETAのような保護団体によりガイドラインOPPTS870.6300が撤回された。
【0003】
現在では、約100000の化学物質がEU市場で提供されている。しかし、信頼できる毒性学的データは、これら物質の少ないパーセンテージにだけ提供されている。とりわけ1981年前に市販された化学薬品については安全性データが欠失している。したがって、従業員、消費者及び環境のための危険性は包括的に評価されることができない。この満足のいかない状況を改善すべく、欧州委員会はRegistration, Evaluation and Authorization of Chemicalsを表すいわゆるREACHコンセプトを提出した。REACHの狙いは、年間1トンより多い体積で生産、使用又は輸出される化学物質の危険性をシステマチックに評価することである。化学薬品の安全性の証明は製造者及び二次加工業者に負担を課すものである。ヨーロッパでのREACH立法化及びUS及び日本での類似のなりゆき(Schrattenholz and Klemm, 2006及び2007)に関して、発生神経毒性について化学薬品を試験するようにとの要求により、予期できる将来には試験動物の消費が極めて増加するようになるだろう。
【0004】
この背景では、毒性関連スクリーニングのための、高度に予測性の、時間効率的なin vitro試験の開発がますます重要である。細胞培養モデルは、多くの論議を引き起こし、問題を含む、時には不快な動物実験に対する代替策として位置づけられるだろう。この目的は、極めてコスト及び時間集約的である、神経毒性、特に神経発生毒性の評価のための立法化により現在要求される動物試験を代替することである。
【0005】
in vitroモデルは数年にわたり薬理学的産業の分野において利用されてきている。この多くの現在のin vitroアッセイは、胚性幹細胞を使用する分化モデルを伴う。胚性幹細胞試験(EST)は極めて期待できる結果を示してきており、この試験は、強力な催奇形性物質を中程度の胚性毒性の又は非胚性毒性の化合物と区別することができた(Spielmann et al., 1997)。ESTは、in vitroでの胚性毒性を試験するために、培養中に分化するマウス胚性幹細胞の能力を利用する。このモデルは一部限定されており、というのも、毒性学的終点が心臓分化を損なう化合物についてのみ定義されるからである。
【0006】
このようにして、化学薬品及び医薬品の毒性を、信頼性をもって決定するための改善したin vitro方法について当分野で要求が残っている。特に、発生毒性のための、新規の、迅速かつインテリジェントなin vitro試験戦略を提供することについて当分野で要求がある。
【0007】
本発明の課題は、化学物質の毒性、特に発生毒性をin vitroスクリーニングするための方法及び試薬を提供することである。
【0008】
発明の詳細な説明
本発明者らは、特定のタンパク質バイオマーカーが化学薬品及び医薬品化合物の発生毒性のために診断的であることを見出した。これらバイオマーカーに対する物質の影響力は、この物質の発生毒性について予測するものである。前記影響力は、細胞試料(その際少なくとも1のタンパク質バイオマーカーが生じる)を物質と接触させ、この物質に対する曝露の結果として細胞試料中での前記タンパク質バイオマーカーの変動を測定することにより測定されることができる。
【0009】
一観点において、本発明は、
(i)細胞試料を物質に曝露する工程、及び
(ii)この細胞試料中の1又は複数のタンパク質バイオマーカーの変動をこの物質に対する曝露の結果として検出する工程を含む、
物質の発生毒性の測定のためのin vitro方法を提供する。
【0010】
本発明の「タンパク質バイオマーカー」は、ヒートショックタンパク質ベータ1(HspB1)、Ras−GTPアーゼ活性化タンパク質SH3ドメイン結合タンパク質(G3BP)、Ran結合タンパク質5(RanBP5)、カルレティキュリン(Calr)、ジヒドロピリミジナーゼ様2(DRP2)、ストレス誘発性ホスホタンパク質1(STIP1)、U2af2タンパク質(U2AF)、カルシウム結合タンパク質39、アイソフォームCRA_b(Cab39)、NmrA様ファミリードメイン含有1(NMRL1)、及びこの後翻訳アイソフォームからなる群から選択される。
【0011】
本発明のバイオマーカーは良く知られたタンパク質である。このタンパク質の一般的な命名法は表1にまとめてある:
【0012】
表1
【表1】

【0013】
「発生毒性」との用語は、妊娠の間に誘発されるか親の曝露の結果としての全ての有害作用に関する。特に、発生毒性は胚毒性を包含する。
【0014】
本発明の方法における使用に適した「細胞試料」は、細胞又は細胞成分であって少なくとも1の上述のタンパク質バイオマーカーを生じることができるものを含む全ての試料である。細胞試料は、例えば、器官、器官試料、組織、体液、細胞又は細胞ライセートから選択されてよい。
【0015】
細胞試料は好ましくは脊椎動物由来である。特に好ましいのは哺乳類の細胞試料であり、特にヒト由来である。
【0016】
好ましい一実施態様によれば、細胞試料は幹細胞を含む。幹細胞は、全能性(omnipotent)、万能性(pluripotent)、多能性(multipotent)及び/又は複分化性幹細胞(oligopotent)であってよい。特に好ましいのは胚性幹細胞である。最も好ましくは幹細胞はヒト胚性幹細胞(hESC)である。
【0017】
本発明の方法において、工程(i)において細胞試料が発生毒性について試験すべき物質に曝露される。好ましくは、細胞試料を試験すべき物質と接触させる前に、この1又は複数のバイオマーカーのベースライン値がこの試料中で測定される。
【0018】
続いて、工程(ii)において、細胞試料中の1又は複数のバイオマーカーの変動を物質に対する曝露の結果として検出する。
【0019】
この検出は、1又は複数のタンパク質バイオマーカーの定性的及び/又は定量的な測定を含んでよい。本発明のバイオマーカーは良く知られたタンパク質であり、この検出はこの分野の通常の知識内にある。例えば、この検出は、免疫学的アッセイ又はイムノアッセイを利用して実施されてよい。イムノアッセイにおいて1又は複数のタンパク質バイオマーカーの存在がその抗原に対する1の又は複数の抗体の反応を用いて決定される。このアッセイは、その抗原に対する抗体の特異的結合を利用する。本発明のタンパク質バイオマーカーの検出において、このバイオマーカーは抗原を提示する。好ましくは、これら検出のためにモノクローナル抗体が使用され、というのもこれらは通常は特定分子の一部位にだけ結合し、したがって、他の分子の存在によりあまり容易く混乱されない、より特異的かつ正確な試験を提供する。
【0020】
本発明の1又は複数のバイオマーカーの検出のためには、この細胞試料と試験すべき物質が接触したときのこの活性、特にこの活性の変動を測定することもできる。
【0021】
本発明のタンパク質バイオマーカーの量は、この分野において知られている種々の方法により達成可能である。例えば、イムノアッセイにおいて抗体がこのタンパク質バイオマーカーのためにラベル化されていてよい。このラベルは、酵素、放射性同位体、磁性ラベル又は蛍光ラベルからなってよい。本発明のタンパク質バイオマーカーの検出のための他の適した技術は、ウェスタンブロット及びELISAを含む。
【0022】
本発明の好ましい一実施態様において、試験すべき物質を細胞試料と接触させたときの1又は複数のバイオマーカーの変動が連続的に検出される。連続アッセイのための例は、分光光度アッセイ、蛍光的(fluorimetric)アッセイ又は化学発光アッセイである。又は、試験すべき物質と細胞試料との接触後に、1又は複数のタンパク質バイオマーカーが不連続的に1回又は複数回測定される。例えば細胞試料又はこの抽出物は、クロマトグラフィ分離、例えば2又は3次元ゲル電気泳動、例えばSDS−PAGEにかけられてよい。この分離されたタンパク質は染色により可視化されてよい。このタンパク質の分子アッセイは、例えば質量分析により実施されてよい。
【0023】
本発明の方法の好ましい一観点によれば、少なくとも1の更なるバイオマーカーが測定される。この1又は複数の更なるバイオバーカーは好ましくは、一般的な細胞毒性のためのマーカーである。このようにして、発生毒性と一般毒性を区別できる。物質適用とは独立して挙動するが、EC50測定に相関している例示的なマーカーは次のものである:ヒートショックタンパク質8(HSP8)、ストレス誘発性ホスホタンパク質1(P−アイソフォーム2)、ファシンホモログ1アクチン束形成タンパク質(Fscn1)、異質核リボ核リボ核タンパク質A/Bアイソフォーム2、及びこの後翻訳アイソフォーム。この好ましい更なるバイオバーカーの一般的な命名法は表2にまとめてある:
【0024】
表2:一般的な毒性についてのマーカー
【表2】

【0025】
本発明の更なる一実施態様は、物質の発生毒性の評価のためのマーカーとしての上で定義した通りの1又は複数のタンパク質バイオマーカーの使用に関する。このタンパク質バイオマーカーは、毒性、発生毒性又は胚性毒性(embryotoxicity)について、全ての知られたin vivo又はin vitroモデルにおいてモニターされてよい。
【0026】
本発明の別の観点は、1又は複数の細胞試料を含む物質の発生毒性の測定のためのキットであり、その際好ましい試料は上で定義した通りである。このキットは更に、1又は複数のタンパク質バイオマーカーの測定のための手段を含む。本発明の好ましい一実施態様によれば、このキットは更に、少なくとも1の更なるバイオマーカーを測定するための手段を含む。この1又は複数の更なるバイオバーカーは好ましくは、一般的な細胞毒性のためのマーカーである。最も好ましくは、このキットは、この更なるマーカーの測定のための手段を含み、これはヒートショックタンパク質8(HSP8)、ストレス誘発性ホスホタンパク質1(P−アイソフォーム2)、ファシンホモログ1アクチン束形成タンパク質(Fscn1)、異質核リボ核リボ核タンパク質A/B(Heterologous nuclear ribonuclear ribonucleoproteinA/B)アイソフォーム2、及びこの後翻訳アイソフォームである。
【0027】
本発明のタンパク質バイオマーカーは良く知られたタンパク質である。しかしながら、本発明は、特定のタンパク質が化学薬品及び医薬品化合物の発生毒性のための診断性バイオマーカーであることを初めて説明する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】図1は、ESTモデルにおいて物質処理によりディファレンシャルに影響を受けるタンパク質のクラスター分析を示す図である。
【0029】
実験的背景
本発明者らは、発生毒性に関連した齧歯類及びヒト試料からのタンパク質バイオマーカーの定量的及び統計学的分析にディファレンシャルプロテオミクス技術を適用している。これら試料は次のものを含んだ:
・2の独立した実験室におけるEST試験のバリデーションについて実施した種々の実験からのタンパク質ライセート。標準化したプロトコル(ECVAMバリデーションされた代替試験)によりマウス胚性幹細胞から分化した心筋細胞を、既知の胚毒性効力を有する一連の物質に曝露し、用量依存的に機能制御した。
・既知の胚毒性物質に対する曝露後にマウス胚性幹細胞から分化した、神経細胞培養物からのタンパク質ライセート。
・既知の胚毒性物質に対する曝露後にヒト胚性幹細胞から分化した、神経細胞培養物からのタンパク質ライセート。
【0030】
神経性に分化したヒト胚性幹細胞からの高品質ライセートをこのタイプのディファレンシャルプロテオミクス分析にかけた。このhESC培養物をメチル水銀及びバルプロ酸で処理した。試料(処理済み及び未処理の未分化hESC及びそれぞれの神経性前駆体を含む)を放射線標識し、前もって説明されているように、高解像度2D−PAGEを用いたディファレンシャル定量パターン分析にかけた(例えば、Schrattenholz & Groebe 2007; Groebe et al., 2007; Wozny et al., 2007):177タンパク質スポットがこの処理によりディファレンシャルに影響を受けることが見出され、そのうち多くの重複(redundant)後翻訳アイソフォームが、自動化高スループットMALDI−TOFF質量分析を用いてこれまでに同定されている。同定したタンパク質のうち、核の、細胞骨格の、細胞外のマトリックス及びストレスタンパク質、及びタンパク質ターンオーバーに関連するタンパク質が存在する。これら知見の重要性は、mESC(心筋細胞、EST試験及びmESC神経)からの材料から得られた相応する結果の文脈において見受けるべきであり、以下において説明される。
【0031】
同様にして、パートナーにより神経細胞へと分化した、MgHgCl処理されたmESCからのライセート、及び、心筋細胞へと分化したmESCからのライセート(バリデーションされたEST試験のデータベースの拡張からの材料)であって異なる実験室において物質−処理後に得られたものを検査した。mESC神経細胞については、93のディファレンシャルスポットが見出され、同定された。この相応するバイオマーカーシグネチャーの生物学的重要性を以下において、更なる、しかし類似しかつ近接する、心筋細胞からのデータの文脈において説明する。
【0032】
最大のデータセットが2つの独立した実験室でESTモデルにおいて物質試験からのライセートを用いて、及び、前もって成功して試験し、公開されたプールスキーム(pooling scheme)を適用して獲得された。この戦略の鍵は、2D−PAGE又は多次元LCによる複雑な生物学的試料の分析後のタンパク質スポット及び/又はピークの複雑なパターンの定量的かつ統計学的に信頼性のある制御である(Groebe et al., 2007, Soskic et al., 2008)。
【0033】
2つの場で試験された物質は、ジノセブ、ニトロフェン、オクラトキシン−A、ロバスタチン、MAM、β−アミノプロプリオニトリル、メトクロプラミジン(Metoclopramide)、ドキシラミン、D−ペニシリルアミン、プラバスタチン、ワルファリン及びフロセミドを含んだ。各物質処理ESTライセートについての個々のディファレンシャル分析にわたって、380のディファレンシャルタンパク質が見出され、自動化高スループットMALDI−TOF質量分析により同定した。広範な後翻訳修飾を示す重複タンパク質アイソフォームのかなりの数が存在した。このディファレンシャル定量データをクラスター分析にかけ(以下の図1に示される)、これによりこの物質を極めて意義深く分類する3つのクラスターが明らかになった:クラスター1は、主として高度に胚毒性の物質を、クラスター2は非胚毒性の物質を、クラスター3はむしろ中程度の胚毒性の物質を含む。この生物学的側面が数の観点でなくIC50値の観点においてだけ制御されるにもかかわらず、活性増幅及び細胞種のパーセンテージ、i.e.は、極めて大きい程度の異質性及び確率性を有することは留意すべきであり、にもかかわらず多量の分子データは以下のことを明らかにする:
1.この分子シグネチャーは物質作用を分類できる。
2.これらは失敗したか又は極めて異常(aberrant)な実験を示すのにも役立つ。
3.約15〜20のタンパク質バイオマーカーだけが有意に振る舞い、全ての物質について代表的である。
4.これらの幾つか及び興味深いことに主として細胞骨格タンパク質が、物質又はクラスターとは独立して、全ての条件について均一な挙動を示す。我々はこれを一般的な細胞毒性又は細胞ストレスについて一層代表的なものと解釈する。
5.しかし、幾つかの重複アイソフォームにおいて存在する数種のタンパク質バイオマーカーは、物質の想定される胚毒性に依存して段階的な様式で明らかに挙動する。これらはras経路の制御因子及び小GPTアーゼまた同様にカルシウム依存性IP3経路の制御因子も含む。これら経路及びタンパク質は胚形成において十分確立された役割を有し、かつ、胚毒性の文脈において極端にもっともらしい。
6.進行するバイオインフォマティクス努力及びデータマイニングは、これらわずかな(>10)バイオマーカー候補が胚毒性のための真のマーカーである可能性を有することを示す。
【0034】
MgHgCl及びバルプロ酸で処理されたhESC及びmESC由来のニューロンから同定されたタンパク質とこれらシグネチャーとの部分オーバーラップが存在し、これは一般的な胚毒性について基礎となるマーカーの一般的な重要性を指し示す。
【0035】
胚毒性のためのこの測定されたタンパク質バイオマーカーは表3に示されている。
【0036】
表3:胚毒性のためのタンパク質バイオマーカー
【表3】

【0037】
クラスター1は、高度に胚毒性である物質ジノセブ、オクラトキシン、ニトロフェン、ロバスタチンを用いたESTモデルの処理後の相応するマーカータンパク質の変化を示す;クラスター2は、このモデルにおいて非胚毒性物質が使用された場合(β−アミノプロプリオニトリル、メトクロプラミジン、ドキシラミン、D−ペニシルアミン)の状況を、クラスター3は中程度の胚毒性である物質、例えばプラバスタチン及びフロセミドの適用の作用を示す。これらマーカーの組み合わせにより物質のin vitro胚毒性特性を区別することが可能になる。
【0038】
物質適用とは独立して挙動するがESTモデルにおいてEC50測定と相関しているマーカーはむしろ一般的な細胞毒性を代表し、表4に示される。
【0039】
表4
【表4】

【0040】
これらタンパク質に関連する文献にはこの表中のGene bank受託番号を使用してアクセスできる。特に、Ras−GTPアーゼ活性化タンパク質SH−3ドメイン結合タンパク質(G3BP)、ジヒドロピリミジナーゼ−関連タンパク質2(DRP2)及びRan結合タンパク質5(RanBP5)は、発生、神経発生及び胚形成において報告された役割を有する。G3BPについては胎児成長及び胚形成における決定的な役割が示されており(Zekri et al., 2005; Lypowy et al., 2005)、重要な発癌経路、例えばp53腫瘍サプッレサー経路における関連のように、ヒトの腫瘍発生における決定的な工程である(Kim et al., 2007)。レセプターチロシンキナーゼ(RTK)/Ras GTPアーゼ/MAPキナーゼ(MAPK)シグナリング経路が多くの様々な生物学的プロセスを制御するために発生の間に普遍的に使用される。Rasスーパーファミリーの小GTPアーゼは多様な細胞性及び発生性事象、例えば分化、細胞分裂、ベシクル輸送、核アセンブリー、及び、分化の間の細胞骨格の制御の鍵となる調節因子である(最近のいくつかの総説: Omerovic et al., 2007; Wodarz and Naethke, 2007; Kratz et al., 2007)。
【0041】
RanBP5の場合に同じことが当てはまり、というのはRanも同様に、上述のように処理された小GTPアーゼのRasスーパーファミリーの一員であるからである(Lundquist 2006)。
【0042】
RanBP=カリオフェリン又はトランスポーチンは非常に多数のRNA結合タンパク質を核結合基質中へと細胞質中で移入し、これらを核孔複合体を通じてターゲット化し、ここでRanGTPは核中へとこれらを解離させる(例えばCansizoglu and Chook 2007)。重ねて、分化、発生及び発癌に対する役割は明白である(Teng et al., 2007)。
【0043】
当初はヒト中で同定されたDRP遺伝子ファミリーの4つのメンバーが哺乳類及びニワトリの胎児及び新生児脳中で主として発現されることが見出され、そして、神経系の発生における細胞内シグナル変換器であると示唆されてきた(Kitamura et al., 1999; Arimura et al., 2004; Schmidt and Strittmatter, 2007;)。DRP−2は脳の発達の間に成長する軸索の経路探索に寄与すると報告されてきている(Weitzdoerfer et al., 2001 ; lnagaki et al., 2000)。DRP2は、神経性ストレスに対する応答において役割を果たすことも示されている(例えばSommer et al., 2004; Butterfield et al., 2006)。
【0044】
興味深いことに、HspB1についても、栄養膜細胞の分化における鍵となる役割が最近報告されており、これは胎盤の適切な確立のための決定的なプロセスであり、したがって胚発生の維持に必要である(Winger et al., 2007)。HspB1は、マイトジェン活性化タンパク質キナーゼ(MAPK)経路の一部であり、幾つかの重要な細胞プロセスを媒介し、これは着床前の発生を調節しているようである(Natale et al., 2004)。
【0045】
まとめると、胚形成及び新生児発育において見出されたタンパク質の役割は極めて確からしく、本出願により明らかにされるこの詳細な分子的情報はin vitroでの可能性のある胚毒性物質の影響力を予想するのに役立つだろう。
【0046】
図面
図1は、ESTモデルにおいて物質処理によりディファレンシャルに影響を受けるタンパク質のクラスター分析を示す。赤はタンパク質ライセートにおける発現の上方制御を、緑は下方制御を示す。全ての条件にわたり物質−及びクラスター−依存的に明らかに挙動するタンパク質はわずかしかなかった;これらは胚毒性のマーカーのための期待ができる候補である。
【0047】

【0048】

【0049】

【0050】

【0051】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
物質の発生毒性の測定のためのin vitro方法であって、
(i)細胞試料をこの物質に曝露する工程、及び
(ii)この細胞試料中の1又は複数のタンパク質バイオマーカーの変動をこの物質に対する曝露の結果として検出する工程を含み、
その際、タンパク質バイオマーカーが、ヒートショックタンパク質ベータ1(HspB1)、Ras−GTPアーゼ活性化タンパク質SH3ドメイン結合タンパク質(G3BP)、Ran結合タンパク質5(RanBP5)、カルレティキュリン(Calr)、ジヒドロピリミジナーゼ様2(DRP2)、ストレス誘発性ホスホタンパク質1(STIP1)、U2af2タンパク質(U2AF)、カルシウム結合タンパク質39、アイソフォームCRA_b(Cab39)、NmrA様ファミリードメイン含有1(NMRL1)、及びこの後翻訳アイソフォームからなる群から選択されるin vitro方法。
【請求項2】
細胞試料が器官試料、組織、体液、細胞、及び細胞ライセートからなる群から選択される請求項1記載の方法。
【請求項3】
細胞試料が脊椎動物細胞、特に哺乳類細胞、例えばヒト細胞を含む請求項1記載の方法。
【請求項4】
細胞試料が幹細胞、特に全能性、万能性、多能性及び/又は複分化性幹細胞を含む請求項1記載の方法。
【請求項5】
細胞試料が胚性幹細胞を含む、胚毒性の決定のための請求項1記載の方法。
【請求項6】
工程(ii)が1又は複数のバイオマーカーの定性的な又は定量的な測定を含む請求項1記載の方法。
【請求項7】
細胞試料中の1又は複数のタンパク質バイオマーカーの変動を連続的に測定する請求項1記載の方法。
【請求項8】
1又は複数のバイオマーカーの測定が免疫学的アッセイ、活性アッセイ、及び/又は分子アッセイを含む請求項1記載の方法。
【請求項9】
1又は複数のバイオマーカーの測定が蛍光検出を含む請求項1記載の方法。
【請求項10】
更に、ヒートショックタンパク質8(HSP8)、ストレス誘発性ホスホタンパク質1(P−アイソフォーム2)、ファシンホモログ1アクチン束形成タンパク質(Fscn1)、及び異質核リボ核リボ核タンパク質A/Bアイソフォーム2、及びこの後翻訳アイソフォームを含む群から選択される少なくとも1の更なるタンパク質バイオマーカーの測定を含む請求項1記載の方法。
【請求項11】
物質の発生毒性の測定のためのバイオマーカーとしての、ヒートショックタンパク質ベータ1(HspB1)、Ras−GTPアーゼ活性化タンパク質SH3ドメイン結合タンパク質(G3BP)、Ran結合タンパク質5(RanBP5)、カルレティキュリン(Calr)、ジヒドロピリミジナーゼ様2(DRP2)、ストレス誘発性ホスホタンパク質1(STIP1)、U2af2タンパク質(U2AF)、カルシウム結合タンパク質39、アイソフォームCRA_b(Cab39)、NmrA様ファミリードメイン含有1(NMRL1)、ヒートショックタンパク質8(HSP8)、ファシンホモログ1、アクチン束形成タンパク質(Fscn1)、ヘテロ核リボ核タンパク質A/Bアイソフォーム2(hnRNP)からなる群から選択される1又は複数のタンパク質の使用。
【請求項12】
胚毒性の測定のための請求項11記載の使用。
【請求項13】
1又は複数の細胞試料、及び
ヒートショックタンパク質ベータ1(HspB1)、Ras−GTPアーゼ活性化タンパク質SH3ドメイン結合タンパク質(G3BP)、Ran結合タンパク質5(RanBP5)、カルレティキュリン(Calr)、ジヒドロピリミジナーゼ様2(DRP2)、ストレス誘発性ホスホタンパク質1(STIP1)、U2af2タンパク質(U2AF)、カルシウム結合タンパク質39、アイソフォームCRA_b(Cab39)、NmrA様ファミリードメイン含有1(NMRL1)及びこの後翻訳アイソフォーム、ヒートショックタンパク質8(HSP8)、ファシンホモログ1、アクチン束形成タンパク質(Fscn1)、ヘテロ核リボ核タンパク質A/Bアイソフォーム2(hnRNP)からなる群から選択される1又は複数のタンパク質バイオマーカーの測定のための手段
を含む、物質の発生毒性の測定のためのキット。
【請求項14】
細胞試料は胚性幹細胞、特にヒトの胚性幹細胞を含む請求項13記載のキット。
【請求項15】
更に、ヒートショックタンパク質8(HSP8)、ファシンホモログ1、アクチン束形成タンパク質(Fscn1)、ヘテロ核リボ核タンパク質A/Bアイソフォーム2(hnRNP)からなる群から選択される少なくとも1の更なるタンパク質バイオマーカーの測定のための手段を含む請求項13記載のキット。

【図1】
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【公表番号】特表2011−522265(P2011−522265A)
【公表日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−512024(P2011−512024)
【出願日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際出願番号】PCT/EP2009/004016
【国際公開番号】WO2009/146915
【国際公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【出願人】(508362608)プロテオシス アクチエンゲゼルシャフト (4)
【氏名又は名称原語表記】ProteoSys AG
【住所又は居所原語表記】Carl−Zeiss−Strasse 51, D−55129 Mainz, Germany
【Fターム(参考)】