説明

化学物質評価方法及び暴露装置

【課題】 化学物質による生物への影響を的確に評価できる化学物質評価方法及びそれに用いる暴露装置を提供すること。
【解決手段】 ホルモンに対する応答性を有し、かつ内因性の前記ホルモン濃度が低値である時期に、両生類への化学物質の暴露を開始する。これにより、化学物質がホルモン軸に影響を与えるものであれば、両生類に形態学的乃至組織学的変化が生じるので、この変化に基づいて、化学物質を評価することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ある化学物質が内分泌かく乱作用を有しているか否かのスクリーニングをするための化学物質評価方法及びこれに用いる暴露装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、内分泌かく乱化学物質(いわゆる環境ホルモン)によって人や野生生物の内分泌系がかく乱され、人の健康や生態系へ影響を及ぼす危険性が懸念されている。内分泌かく乱化学物質に関しては未解明な点が残されているものの、一方で、こうした懸念を科学的に検証し、生物に対する内分泌かく乱作用の影響を確認するためには、化学物質の評価方法を標準化しなければならない。
【0003】
現在までに、化学物質の内分泌かく乱作用を評価する方法として、受容体結合試験、レポーター遺伝子発現試験、細胞増殖試験等の試験管内試験、哺乳類を用いた繁殖試験、生殖毒性試験、海産魚、魚類等を用いた各種動物試験が考案されている。
【非特許文献1】内分泌撹乱化学物質の生物試験研究法:シュプリンガー・フェアラーク東京。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述のような各種試験が考案され、多くの知見が集積されつつあるが、いまだ標準化された試験方法はない。
【0005】
特に、化学物質が、甲状腺ホルモン軸に影響を与える化学物質であるか否かをスクリーニングする方法の開発は緒についたばかりである。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みなされたものであり、化学物質による生物への影響を的確に評価できる化学物質評価方法及びそれに用いる暴露装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の主たる観点に係る化学物質の評価方法は、ホルモンに対する応答性を有し、かつ内因性の前記ホルモン濃度が低値である時期に、両生類への化学物質の暴露を開始することを特徴とする。
【0008】
本発明のこのような構成によれば、評価対象となる化学物質にホルモン軸に影響を与える作用があれば、両生類の変化として該作用が顕著に現れるため、高感度かつ容易に評価可能となる。上記時期は、例えば、ホルモンに応答できるだけのホルモンレセプターの発現が認められる一方で、内因性のホルモン濃度(分泌量)が低値である時期、として選定することができる。こうしたホルモンとして、例えば、甲状腺ホルモン(T3およびT4)レセプターとしては、甲状腺ホルモンレセプター(αおよびβ)があげられる。
【0009】
本発明の一の形態によれば、前記時期は前変態期であることを特徴とする。前変態期(Premetamorphosis)では、甲状腺ホルモンレセプターの発現は認められるが、内因性のホルモンの分泌量はほとんど認められないので、上記時期として好適である。
【0010】
本発明の一の形態によれば、前記ホルモンは甲状腺ホルモンであることを特徴とする。 両生類の変態の過程では、甲状腺ホルモンが重要な役割を果たしているため、化学物質の甲状腺ホルモン軸への影響を評価する方法として本発明の評価方法は適している。
【0011】
本発明の一の形態によれば、前記両生類はXenopus属乃至Silurana属に属し、前記時期は発生段階51であることを特徴とする。一般に、両生類では、幼生は水生、生体は陸生と1世代で2つの環境を生き抜くため、環境指標性が他の動物郡に比べ高いと言われており、また、変態過程では、成長や発達などに重要な役割を担う甲状腺ホルモンの作用が明快に現れる。特に、Xenopus属に属するアフリカツメガエル(Xenopus laevis)、Silurana属に属するSilurana tropicalis等は、基本的に水中生活を営むが、基本的な特徴は他の無尾両生類と共通であり、またホルモン注射により、通年、採卵できることから、両生類の試験動物として世界的に活用されている。試験動物として、Xenopus属に属するアフリカツメガエル(Xenopus laevis)、Silurana属に属するSilurana tropicalisを活用する場合には、発生段階51において暴露を開始することが適切である。
【0012】
本発明の一の形態によれば、前記時期から21日間暴露を行い、暴露最終日に前記両生類の変化に基づいて前記化学物質を評価することを特徴とする。暴露期間に関しては、発生段階51から21日間とするとともに、暴露最終日(21日目)に両生類の変化に基づいて前記化学物質を評価すると、化学物質の甲状腺ホルモン作用および抗甲状腺ホルモン作用等を確実に評価することができる。
【0013】
本発明の一の形態によれば、前記両生類の変化は、発生段階、後肢長、全長、湿重量、頭胴長、甲状腺の量的変化、および甲状腺の質的変化からなる群より選択された少なくとも1つの指標により評価されることを特徴とする。
【0014】
発生段階、後肢長、全長、湿重量、頭胴長については、いずれも、容易に計測/測定ができるので、実務上、指標(エンドポイント)として好適である。生物学的に、発生段階は、動物個体の発達を総合的に評価できる指標として活用できる。さらに、両生類の変態前期においては、特に、甲状腺ホルモンレセプターβが後肢に多く発現するため、化学物質が甲状腺ホルモン軸に影響を与えるものであれば、その影響が後肢長に顕著に現れる。このため、甲状腺軸に対する化学物質の影響を明瞭に評価できるエンドポイントの1つである。また、全長、湿重量、頭胴長に関しては、特に、試験動物の成長が正常であるか否か、例えば、化学物質の直接的あるいは間接的作用による成長不良が生じているかなど、甲状腺軸に対する影響とは異なる作用影響を見積もり、エンドポイントに変化が生じている場合、該作用が甲状腺ホルモン軸に対するものか否かを判断するための重要な情報を提供する。
【0015】
また、上記発生段階、後肢長、全長、湿重量、頭胴長の他、両生類の甲状腺の量的変化、および甲状腺の質的変化に代表される組織学的検証により、確実に化学物質を評価することができる。すなわち、化学物質の特性により、その影響は必ず形態に反映されるわけではない。例えば、化学物質によっては、形態学的な指標に影響は認められないが、組織学的な検証により、はじめて、その影響を推測できる場合があるからである。したがって、組織学的検証は重要である。
【0016】
本発明の他の観点にかかる暴露装置は、上述の評価方法に用いる暴露装置であって、前記化学物質を含有する飼育水及び前記両生類を収容する収容器と、前記収容器内に対し供給するための前記化学物質の複数濃度を含む前記飼育水を生成する生成装置とを具備することを特徴とする。
【0017】
本発明の構成によれば、化学物質の複数濃度による暴露試験を行うことができる。
【0018】
本発明の一の形態によれば、前記生成装置は複数個あることを特徴とする。これにより、複数種の化学物質について、複数濃度の飼育水を生成することができ、一度に、複数種類の化学物質について、両生類に対する影響を評価することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の化学物質評価方法は、ホルモンに対する応答性を有し、かつ内因性の前記ホルモン濃度が低値である時期に、両生類への化学物質の暴露を開始するため、両生類の形態変化乃至組織学的検証により、高感度かつ容易に化学物質を評価できるという利点がある。
【0020】
また、本発明の暴露装置は、複数濃度の化学物質を含む飼育水を生成かつ供給する生成装置を具備することにより、両生類に対し暴露試験を実施できるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
<本実施形態における化学物質評価方法>
【0022】
以下に、本実施形態における化学物質評価方法について説明する。
【0023】
本実施形態における化学物質評価方法では、試験動物として両生類、例えばアフリカツメガエル(Xenopus laevis)を用い、これに化学物質を暴露することによって、アフリカツメガエルの幼生にどのような形態学的及び組織学的変化が生じるかを観察する。これにより化学物質の内分泌かく乱作用を評価する。
【0024】
ここで、本実施形態の評価方法に用いる試験動物として、アフリカツメガエルを選択したのは、両生類一般として環境指標性が他の動物郡に比べ高いと言われていること、変態過程では、成長や発達などに重要な役割を担う甲状腺ホルモンの作用が明快に現れること、そして、特に、Xenopus属に属するアフリカツメガエル(Xenopus laevis)、Silurana属に属するSilurana tropicalis等は、ホルモン注射により、通年、採卵できることから、両生類の試験動物として世界的に活用されているからである。
【0025】
本実施形態の化学物質評価方法では、前変態期(Premetamorphosis)にあたる発生段階51から、アフリカツメガエルの幼生に対して暴露を開始する。暴露は、後述する暴露装置の、化学物質を含有した飼育水が収容された収容器としての水槽内に、アフリカツメガエルの幼生を入れた状態で行う。暴露装置は流水式である。飼育水の調整にあたっては、活性炭により塩素除去した水道水を準備し、この脱塩素水をコントロール(以下、コントロール)の飼育水とし、一方。試験区には、この脱塩素水に対し化学物質を加えた飼育水を用いる。水温は22±1℃、水のpH値は7.0±0.5、飼育水の溶存酸素濃度は飽和酸素濃度の40%以上、飼育水の流速は25ml/分とした。餌は粉末飼料(sera micron、sera GmbH)を用い、1日に1匹に対して30mgの餌を与えた。明暗周期は12:12時間とした。
【0026】
試験期間は、暴露開始から21日間とし、最終日となる21日目における、発生段階、体重、全長、頭胴長、後肢長、後肢長と全長の比、後肢長と頭胴長との比、甲状腺組織を評価した。
【0027】
発生段階は、双眼実体顕微鏡(商品名SMZ645、株式会社ニコン製)下で、アフリカツメガエルの発生段階表に基づいて決定し、統計による検定は、各水槽の中央値を用いて、まずクラスカル・ウォリスの検定を行い、差を確認した場合には、更に詳細に検討するため、ダンの検定を行った。
【0028】
一方、体重については、電子天秤(商品名BP221S、ザルトリウス株式会社製)を用いて湿重量を測定し、また、全長、頭胴長、後肢長に関しては、写真撮影(商品名EOS D60、キャノンン株式会社製)により各個体の画像を取得し、画像解析ソフト(商品名Image-Pro Plus version 4.0、Media Cybernetics,Inc.製)を用いて測定した。体重、全長、頭胴長、後肢長、後肢長と全長の比及び後肢長と頭胴長との比については、はじめに1標本コルモゴロフースミルノフ検定によりデータの分布の正規性を、ルビーンの検定によりデータに等分散性が認められかを検定し、分布の正規性が確認できたデータについては、各水槽の平均値を代表値として、濃度依存性を調べるため、ウィリアムズの方法を用いた。分布の正規性が確認できなかった場合には、ヨンクヒールの検定を行った。
【0029】
また、組織学的検証は、甲状腺の中央部を通るように厚さ6μmの組織切片を作製して行った。甲状腺の断面積は、画像解析ソフト(商品名Image-Pro Plus version 4.0、Media Cybernetics,Inc.製)を用いて測定し、はじめに、1標本コルモゴロフースミルノフ検定によりデータの分布の正規性を、ルビーンの検定によりデータに等分散性が認められるか検定し、全てのデータの分布の正規性を確認した後、ダネットの検定を行った。なお、有意差検定にあたっては、危険率を5%未満とした。甲状腺組織の評価では、甲状腺の量的変化及び甲状腺の質的変化を評価した。
【0030】
なお、前変態期(Premetamorphosis)、変態始動期(Prometamorphosis)、変態最盛期(Climax)は、両生類の発生を変態から見たひとつの分類形式である。前変態期(Premetamorphosis)は甲状腺ホルモンに依存せず到達できる段階までを指し、変態始動期(Prometamorphosis)は甲状腺ホルモンにより前足が出現する段階までを指し、変態最盛期(Climax)は尾を失って幼若ガエルになるまでを指す。発生段階は、Niewkoop, P.D. and Faber、J.(1994):Normal Table of Xenopus laevis(Daudin)基づいており、前変態期(Premetamorphosis)は発生段階46〜53、変態始動期(Prometamorphosis)は発生段階54〜57、変態最盛期(Climax)は58〜65に相当する。
【0031】
暴露開始から21日目では、コントロールは発生段階57乃至58に到達するが、発生段階57は変態始動期(Prometamorphosis)、発生段階58は変態最盛期(Climax)の範囲に位置することになる。
【0032】
<暴露装置>
【0033】
上述の評価方法に用いる暴露装置について図1及び図2を用いて説明する。
【0034】
図1は暴露装置の概略斜視図であり、図2は図1の暴露装置の一部である希釈装置の概略図である。
【0035】
図1に示すように、暴露装置1は、複数の収容器としての水槽300と、これら水槽300を収容した暴露チャンバ200と、暴露チャンバ200の側面に設けられた生成装置としての希釈装置100とを有する。
【0036】
水槽300は、アフリカツメガエルの幼生と飼育水を収容するガラス製の容器であり、飼育水は流水式となっている。水槽300内へ供給される飼育水は希釈装置100で生成され、図示しない供給管によって水槽300内へ供給される。また、水槽300内の飼育水を外部に排出する排出管(図示せず)も設けられている。
【0037】
暴露チャンバ200は、複数、ここでは20個の水槽300を収容する。水槽300内の飼育水を水温22±1℃に保持するために、暴露チャンバ200内には水温22±1℃の水が張られ、この水に水槽300が浸かっている。暴露チャンバは斜側面がスライド式に開閉可能となっており、この斜側面を開けることによって、水槽300内の試験個体にアクセス可能となっている。
【0038】
複数の水槽300内へは、希釈装置100から化学物質の含有濃度が異なる飼育水が供給される。
【0039】
希釈装置100は、化学物質の含有濃度が異なる複数の飼育水を生成する装置である。
【0040】
希釈装置100は、図2に示すように、化学物質用セル(TC:Toxicant cell)111と、水用セル(WC:Water cell)112と、希釈セル(DC:Dilution Cell)120と、フローブースターセル(FBC:Flow booster cell)130と、フロースプリッターセル(FSC:Flow splitter cell)140とを有している。
【0041】
化学物質用セル111は、評価対象の化学物質が供給/収容されるセルであり、このセルには化学物質供給管T1(符号113)が取り付けられている。化学物質供給管T1(符号113)からは例えば100ml/分の割合で希釈セル120に化学物質が供給される。
【0042】
水用セル112は、活性炭により塩素除去した水道水が収容されるセルであり、このセルには、4つの給水管W1(符号114)、W2(符号115)、W3(符号116)、W4(符号117)がそれぞれ間隔をおいて取り付けられている。給水管W1とW2との距離及び給水管W2とW3との距離はそれぞれ等しく、給水管W3とW4との距離は、給水管W1とW2との距離よりも広くなっている。3つの給水管W1(符号114)、W2(符号115)、W3(符号116)からは例えば50ml/分の割合で希釈セル120に水が供給される。給水管W4(符号117)からは例えば100ml/分の割合で希釈セル120に水が供給される。
【0043】
化学物質用セル111及び水用セル112は隣接しており、本実施形態においては、1つのセル110を1枚の仕切り板によって空間的に分離して、化学物質用セル111と水用セル112を設けている。セル110には、化学物質用セル111と水用セル112と連結する非常用排出口160が設けられている。
【0044】
希釈セル120は、1つの直方体状のセル内の上面及び底面に互い違いに複数の仕切り板121が設けられて構成されている。本実施形態においては、上面に設けられた仕切り板121は8枚、底面に設けられた仕切り板121は8枚である。
【0045】
希釈セル120には、5つの濃縮供給管C1〜C5及び濃縮供給管C4とC5との間に水排出管161が取り付けられている。隣り合う濃縮供給管の間には、底面に仕切り板が2枚づつ設けられている。更に、濃縮供給管C1とC2の間、濃縮供給管C2とC3の間、及び濃縮供給管C3とC4の間には、それぞれ上面に仕切り板が2枚、底面に設けられた仕切り板と互い違いになるように設けられている。濃縮供給管C4とC5の間には上面に設けられた仕切り板はない。また、5つの濃縮供給管C1〜C5を挟み込むように、両脇にそれぞれ1枚づつ上面に仕切り板が設けられている。
【0046】
濃縮供給管C1とC2の間に位置する4枚の仕切り板の内、中央の2枚の仕切り板の間に給水管W1(符号114)からの水が供給されるように、給水管W1(符号114)が設けられている。同様に、濃縮供給管C2とC3の間に位置する4枚の仕切り板の内、中央の2枚の仕切り板の間に給水管W2(符号115)からの水が供給されるように、給水管W2(符号115)が設けられている。濃縮供給管C3とC4の間に位置する4枚の仕切り板の内、中央の2枚の仕切り板の間に給水管W3(符号116)からの水が供給されるように、給水管W3(符号116)が設けられている。5つの濃縮供給管C1〜C5を挟み込むように両脇にそれぞれ1枚づつ上面に設けられた仕切り板よりも外側にそれぞれ化学物質供給管T1(符号113)からの化学物質が、そして給水管W4(符号117)からの水が供給されるように、化学物質供給管T1(符号113)及び給水管W4(符号117)が設けられている。濃縮供給管C1とC2との距離、C2とC3との距離、C3とC4との距離は、それぞれ等しく、C4とC5との距離はC1とC2との距離よりも狭くなっている。
【0047】
セル110から供給された化学物質及び水は、図に示す矢印のように、仕切り板121によって設けられた流路を通って流れていく。これにより、濃縮供給管C1(符号122)からは希釈されていない化学物質からなる飼育水がフローブースターセル130に供給される。濃縮供給管C2(符号123)からは、濃縮供給管C1(符号122)から排出されなかった化学物質が給水管W1(符号114)からの水によって希釈されて、フローブースターセル130に供給される。濃縮供給管C3(符号124)からは、濃縮供給管C2(符号123)から排出されなかった飼育水が給水管W2(符号115)からの水によって更に希釈されてフローブースターセル130に供給される。濃縮供給管C4(符号125)からは、濃縮供給管C3(符号124)から排出されなかった飼育水が給水管W3(符号116)からの水によって更に希釈されてフローブースターセル130に供給される。濃縮供給管C4(符号125)から排出されなかった飼育水は、水排出管161を介して外部に排出される。濃縮供給管C5(符号127)からは、給水管W4(符号117)から供給された、化学物質を含有しない水からなるコントロールとして用いられる飼育水が、フローブースターセル130に供給される。濃縮供給管C5(符号127)から排出されなかった飼育水は、水排出管161を介して外部に排出される。例えば、濃縮供給管C1(符号122)からは濃度6.0mg/L、濃縮供給管C2(符号123)からは濃度3.0mg/L、濃縮供給管C3(符号124)からは濃度1.5mg/L、濃縮供給管C4(符号125)からは濃度0.75mg/Lというように、前段にある飼育水が倍に希釈された飼育水が排出される。
【0048】
このように、希釈セル120において、底面及び上面に仕切り板を設け、化学物質を1箇所から、水を複数箇所から供給することにより、1つのセル内で段階的に複数の異なる化学物質濃度の異なる飼育水を生成することができる。
【0049】
フローブースターセル130は5つのセル131〜135からなり、各セル131〜135に毛細管131a〜135aが取り付けられている。各セル131〜135には化学物質濃度が異なる飼育水が希釈セル120から供給され、セル131〜135に供給された飼育水は毛細管131a〜135aを介してフロースプリッターセル140に供給される。
【0050】
フロースプリッターセル140は5つのセル141〜145からなり、各セル141〜145の底部にはそれぞれ4つづつ穴が設けられている。この穴は分配収容器146〜150と連結しており、各分配収容器146〜150は図示しない供給管に連結されている。セル141〜145にはそれぞれ化学物質濃度が異なる飼育水が供給され、フロースプリッターセル140によって5種類の化学物質濃度が異なる飼育水は各濃度毎に4つづつ分配収容器146〜150に分配される。そして、暴露チャンバ200内の1槽の水槽300に対して1つの分配収容器が割り当てられ、供給管を介して各水槽300内に飼育水が供給される。従って、5種類の化学物質濃度が異なる飼育水を収容した水槽が、各濃度毎に4つづつ設けられることとなる。
【0051】
このように、本実施形態においては、希釈装置100によって複数の化学物質濃度の異なる飼育水を生成することができる。
【0052】
また、本実施形態においては、1つの暴露チャンバに対して1つの希釈装置を設けたが、1つの暴露チャンバに対して複数の希釈装置を設けてもよい。これにより複数種の化学物質各々について、複数濃度の飼育水を生成することができ、1つの暴露チャンバ内で複数種類の化学物質について評価することができる。
【0053】
尚、本実施形態においては、試験動物としてアフリカツメガエルを用いたが、これに限られるものではなく、Xenopus、Silurana、Rana属等に属する各種無尾両生類、有尾両生類等、種々の両生類に適用可能である。また、必要に応じて、魚類等、各種水生生物に対して活用できる。
【0054】
次に、本実施形態について、具体的な試験を参照しながら説明する。
【0055】
<試験1>
【0056】
上述の化学物質評価方法では暴露開始時期を発生段階51とし、評価時期を暴露最終日である21日目としているが、これは、発生段階54に達したアフリカツメガエルの幼生を14日間暴露した試験と、発生段階51に達したアフリカツメガエルの幼生を21日間暴露した試験とを比較し、その結果に基づいて設定された。
【0057】
試験は、化学物質として抗甲状腺ホルモン作用があるPTU(Propylthiouracil)と、甲状腺ホルモンであるT(Thyroxine)の2種類を用い、上述した暴露装置により実施した。
【0058】
まず、発生段階54に達したアフリカツメガエルの幼生を200匹と、発生段階51に達したアフリカツメガエルの幼生を200匹用意した。発生段階54に達したアフリカツメガエルの幼生には14日間、発生段階51に達したアフリカツメガエルの幼生には21日間に渡り試験を行った。
【0059】
飼育水としては、化学物質を含有しない脱塩素水道水(以下、コントロール)、該脱塩素水道水を用いて、2.5mg/L、5mg/L、10mg/L、20mg/Lの4種類の濃度となるようにPTU(プロピルウラシル)を添加した飼育水、0.25μg/L、0.5μg/L、1.0μg/L、2.0μg/Lの4種類の濃度のTを添加した飼育水を使用した。水槽1槽あたり20匹の幼生を入れ、コントロールとして14日試験及び21日試験それぞれ2連用意し、同様に、各化学物質毎、各濃度毎、14日試験及び21日試験毎に、2連用意した。試験終了後、試験最終日に全長、体重、発生段階、後肢長を測定した。なお、測定結果の評価は、上述の統計方法を用いて行った。
【0060】
PTUに関しては、コントロールと比較して、全長は、14日間試験、21日間試験ともに差がなかった。体重は、14日間試験では全ての濃度で差がなく、21日間試験では5mg/L、10mg/L及び20mg/Lで差が確認された。発生段階は、14日間試験と21日間試験ともに、20mg/Lで発生の抑制が確認された。後肢長は、14日間試験では20mg/Lにおいて差があり、21日間試験では5mg/Lと20mg/Lで差が確認できた。更に、5mg/Lと20mg/Lとを比較すると20mg/Lの方が顕著に成長を抑制していた。
【0061】
以上から、14日間試験、21日間試験ともに、発生段階及び後肢長において、PTUの影響を確認することができた。しかし、20mg/Lにおいて、21日間試験では、14日間試験と比較して、コントロールとの差が大きかった。すなわち、21日試験において、より顕著にコントロールとの差を確認できたことから、弱い抗甲状腺ホルモン作用を持つ化学物質を対象とした場合を想定すると、21日試験で評価すべきと結論した。
【0062】
一方、Tに関しては、コントロールと比較して、全長は、14日間試験では全ての濃度において、21日間試験では2.0μg/Lにおいて短くなった。体重は、14日間試験、21日間試験において、一定の傾向を確認することができなかった。発生段階は、14日間試験では2.0μg/Lで促進された。また、21日間試験でも1.0及び2.0μg/Lにおいて促進された。後肢長は、14日試験では0.25μg/Lと1.0μg/Lで差が確認できたが、0.5μg/Lと2.0μg/Lにおいて差が認められず、明確な結果を得られなかった。一方、21日間試験では、1.0μg/Lと2.0μg/Lにおいて差が確認された。
【0063】
以上から、14日間試験では全長、発生段階において、21日間試験では全長、発生段階、後肢長においてTの影響を評価することができた。
【0064】
以上、PTUとTの両方を評価できたのは、21日間試験であり、発生段階、後肢長は有効なエンドポイントと考えられた。変態始動期(Prometamorphosis)にあるステージ54では、甲状腺ホルモンレセプター(TRβ)の発現が上昇しつつあり、かつ甲状腺ホルモンの分泌量も増加し始めているが、前変態期(Premetamorphosis)にあるステージ51では、甲状腺ホルモンレセプター(TRβ)の発現はほとんど認められないものの、該ホルモンに対する応答性は備わっており、かつ内因性の甲状腺ホルモンの分泌もほとんど認められない。したがって、ステージ51で暴露を開始した方が、ステージ54で暴露を開始した場合と比較して、化学物質の影響が反映されやすいと考えられる。なお、ステージ51以前、例えば、ステージ48/49でも暴露は可能であるが、甲状腺ホルモン軸に対する感受性がステージ51と比較して劣るため実際的ではない。したがって、アフリカツメガエルの幼生の場合、暴露開始時期を発生段階51と設定した。
【0065】
また、試験期間を21日間と設定したのは、上述したように、化学物質の甲状腺ホルモン作用はもちろん、抗甲状腺ホルモン作用をより明確に評価できたからであり、特に、弱い抗甲状腺ホルモン作用を持つ化学物質を評価するには21日間の試験が必要と考えられる。
【0066】
<試験2>
【0067】
以下の試験により、試験1において設定した試験条件について検証した。
【0068】
化学物質として、甲状腺ホルモンであるT、甲状腺ホルモン合成阻害作用があるPER(Perchlorate)、モノデイオディナーゼ(monodeiodinase)の阻害作用を持つIOP(Iopanoic acid)の3種類を用いて、上述の暴露装置で暴露した。
【0069】
まず、発生段階51に達したアフリカツメガエルの幼生を400匹用意した。飼育水としては、化学物質を含有しない飼育水(以下、コントロール)、0.75mg/L、1.5mg/L、3.0mg/L、6.0mg/Lの4種類の濃度のIOPを含有した飼育水、0.25μg/L、0.5μg/L、1.0μg/L、2.0μg/Lの4種類の濃度のT4を含有した飼育水、62.5μg/L、125μg/L、250μg/L、500μg/Lの4種類の濃度のPERを含有した飼育水を使用した。水槽1槽あたり20匹の幼生を入れ、コントロールは4連、同様に、化学物質毎、濃度毎に4連用意した。そして、幼生を21日間に渡り暴露した。そして、暴露開始7日目及び21日目における、発生段階、体重、全長、頭胴長、後肢長および甲状腺を評価した。また、統計による検証は、上述したとおりに行った。
【0070】
(T試験)
【0071】
発生段階は7日目と21日目のいずれにおいても差が認められなった。体重は21日目の1.0μg/L、2.0μg/Lの濃度において、全長及び頭胴長については、21日目の2.0μg/Lの濃度でのみ差があり、これらの濃度ではいずれも統計学的に有意な低値が認められた。7日目においては、いずれも差が認められなかった。後肢長は、7日目の全ての濃度、21日目の1.0μg/L、2.0μg/Lの濃度において、統計学的に有意な高値が認められた。
【0072】
体重、全長および頭胴長で認められた差は、いずれもTによる尾の退縮の影響を捕らえているものと思われる。また、後肢の伸張は、尾の退縮とは異なり、暴露を開始する発生段階51において既に始まっており、またTにより、甲状腺ホルモンレセプターの発現も促進されるため、7日目において、Tの作用が明確に現れたと考えられる。したがって、後肢長は甲状腺ホルモンレセプターを介した甲状腺軸かく乱作用を評価するために、非常に適したエンドポイントと考えられる。また、組織切片より、甲状腺の断面積を測定して検証した結果、コントロールと比較して、甲状腺の肥大や縮小は認められなかった。以上、Tの暴露試験においては、体重、全長、頭胴長及び後肢長でTの影響を検出できた。
【0073】
(PER試験)
【0074】
発生段階、全長、頭胴長、後肢長においては、7日目と21日目のいずれにおいても差が認められなかった。体重については、21日目の500μg/Lの濃度において、統計学的に有意な高値が認められた。一方、組織切片より、甲状腺の断面積を測定して検証した結果、コントロールと比較して、全濃度において甲状腺の肥大が認められた。PERは、ヨウ化ナトリウム共輸送体(sodium/iodide symporter)を阻害することで、甲状腺ホルモンの合成を阻害し、甲状腺ホルモンのレベルを減少させ、TSH(Thyroid stimulating hormone;甲状腺刺激ホルモン)の分泌を促進させる。このため、全濃度において甲状腺の肥大が生じたと考えられる。なお、組織学的検証では、甲状腺の肥大が認められるとともに、甲状腺の濾胞上皮細胞において、250μg/Lと500μg/Lで過形成が認められた。
【0075】
(IOP試験)
【0076】
IOPの暴露試験においては、発生段階を決定できない個体が生じた。アフリカツメガエルでは、T4からT3への変換を担うタイプIIモノデイオディナーゼと、T4からrT3への変換を担うタイプIIIモノデイオディナーゼの2つのモノデイオディナーゼが知られており、これら2タイプのモノデイオディナーゼは、組織や発生段階によって発現量が異なっている。IOPは、これら2タイプのモノデイオディナーゼのどちらの働きも抑えることから、発生段階が決定できない個体が生じたと思われる。また、体重、全長、頭胴長及び後肢長について、全濃度で統計的に有意な低値が認められた。また、組織切片より、甲状腺の断面積を測定して検証した結果、コントロールと比較して、1.5mg/Lと3.0mg/Lの濃度において甲状腺の肥大が認められた。なお、甲状腺の濾胞上皮細胞について、病理学的な異常は認められなかった。
【0077】
以上より、試験1において設定した試験条件において、化学物質の甲状腺ホルモンかく乱作用を評価することができた。また、エンドポイントに関しては、形態学的なエンドポイント(発生段階、後肢長、全長、湿重量、頭胴長等)と、組織学的エンドポイント(甲状腺の量的変化、甲状腺の質的変化等)とを適宜組み合わせることがより望ましいと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】暴露装置の概略斜視図。
【図2】図1の一部である希釈装置の概略図である。
【符号の説明】
【0079】
1・・・暴露装置
100・・・希釈装置
200・・・暴露チャンバ
300・・・水槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホルモンに対する応答性を有し、かつ内因性の前記ホルモン濃度が低値である時期に、両生類への化学物質の暴露を開始することを特徴とする化学物質評価方法。
【請求項2】
前記時期は前変態期であることを特徴とする請求項1記載の化学物質評価方法。
【請求項3】
前記ホルモンは甲状腺ホルモンであることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の化学物質評価方法。
【請求項4】
前記両生類はXenopus属乃至Silurana属に属し、前記時期は発生段階51であることを特徴とする請求項1から請求項3いずれか一項に記載の化学物質評価方法。
【請求項5】
前記時期から21日間暴露を行い、暴露最終日に前記両生類の変化に基づいて前記化学物質を評価することを特徴とする請求項1から請求項4いずれか一項に記載の化学物質評価方法。
【請求項6】
前記両生類の変化は、発生段階、後肢長、全長、湿重量、頭胴長、甲状腺の量的変化、および甲状腺の質的変化からなる群より選択された少なくとも1つの指標により評価されることを特徴とする請求項5記載の化学物質評価方法。
【請求項7】
請求項1から請求項6いずれか一項に記載の評価方法に用いる暴露装置であって、
前記化学物質を含有する飼育水及び前記両生類を収容する収容器と、
前記収容器内に対し供給するための前記化学物質の複数濃度を含む前記飼育水を生成する生成装置と
を具備することを特徴とする暴露装置。
【請求項8】
前記生成装置は複数個あることを特徴とする請求項7記載の暴露装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−139098(P2008−139098A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−323977(P2006−323977)
【出願日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【出願人】(000223104)東和科学株式会社 (9)