説明

化成処理溶液および化成処理方法

【課題】自然環境に優しく充分な耐食性や皮膜強度が得られ、安定した色ムラの無い黒色化成皮膜を形成可能な化成処理溶液と、この化成処理液による化成処理方法を提供する。【解決手段】亜鉛めっきまたは亜鉛合金めっきの表面に黒色の六価クロムフリー化成皮膜を形成するための化成処理溶液であって、重亜硫酸塩と、硫酸アルミニウムまたはゼラチンとを含む化成処理溶液。60〜100g/リットルの重亜硫酸塩と、5〜30g/リットルのゼラチンとを含み、pH2〜5に調整された化成処理溶液。安定剤として3〜5g/リットルの塩化ニッケルを含んでもよい。これらの化成処理溶液に、亜鉛めっきまたは亜鉛合金めっきされた基材を接触させる工程を含む化成処理方法。50〜75℃の処理溶液に基材を5〜10秒間浸漬する工程と、浸漬後の基材を60〜65℃で湯洗する工程とを含む化成処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜鉛めっきまたは亜鉛合金めっきされた基材の表面に、黒色化成皮膜を形成するためのノンクロメート化成処理溶液(6価クロムを含まない化成処理液)と、この化成処理溶液を用いた化成処理方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
亜鉛めっきまたは亜鉛合金めっきされた基材の表面の化成処理としては、耐食性および塗膜付着性向上を目的とし、6 価クロムを含む化成処理溶液によって、黒色化成皮膜を形成する表面処理が施されていた。
【0003】
しかし、近年では、6価クロムによる環境問題への配慮が求められているので、6価クロムを含まないノンクロメート化成処理溶液が広く使用されている。
【0004】
従来より、このようなノンクロメート化成処理溶液としては、例えば3価クロム化合物を用いたり、金属化合物を用いたりする化成処理溶液が提案されている。
【特許文献1】特開2003−268562号公報
【特許文献2】特開2004−346360号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記従来の6 価クロムフリーの化成処理溶液の場合、充分な耐食性や皮膜の強度が得られない状況にあった。また、色ムラの無い安定した黒色化成皮膜が得難いといった不都合があった。
【0006】
また、6価クロムは含まないが、3価クロム化合物や他の金属化合物を必須成分としているため、環境問題への配慮が充分であるとは言い難く、排水処理に経費が嵩むこととなる。
【0007】
本発明は、かかる実情に鑑みてなされたものであって、自然環境に優しく、充分な耐食性や皮膜の強度が得られ、安定した色ムラの無い黒色化成皮膜を形成することができる化成処理溶液と、この化成処理液による化成処理方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための本発明の化成処理溶液は、亜鉛めっきまたは亜鉛合金めっきの表面に黒色の六価クロムフリー化成皮膜を形成するための化成処理溶液であって、重亜硫酸塩と、硫酸アルミニウムまたはゼラチンとを含むものである。
【0009】
また、上記課題を解決するための本発明の化成処理方法は、亜鉛めっきまたは亜鉛合金めっきされた基材を、上記化成処理溶液に接触させる工程を含むものである。
【0010】
本発明において、重亜硫酸塩は、化成処理溶液中に浸漬した基材の表面に黒色化成皮膜を形成するために用いられる。この重亜硫酸塩は、60〜100g/リットル、好ましくは60g/リットルの濃度で使用される。重亜硫酸塩が60g/リットル未満の場合には、安定した色ムラの無い黒色皮膜が形成され難くなり、重亜硫酸塩が100g/リットルを越える場合には、効果が飽和するので経済的に無駄になる。
【0011】
本発明において、ゼラチンは、重亜硫酸塩による基材表面の黒色化に対して緩衝する作用を発揮し、黒色皮膜形成後の安定的な皮膜表面の持続性を得るために用いられる。このゼラチンは、5〜30g/リットル、好ましくは10〜20g/リットルの濃度で使用する。ゼラチンが5g/リットル未満の場合には、ゼラチンによる黒色の発色を向上させる効果が十分に得られず、ゼラチンが30g/リットルを越える場合には、後工程で基材の表面に付着した余剰なゼラチン成分を落とす工程が煩わしくなる。なお、ゼラチンの替わりに、硫酸アルミニウムを用いても良い。この場合、硫酸アルミニウムは、0.5〜1.0g/リットルの濃度で使用することができる。
【0012】
本発明においては、化成処理速度の調節と、得られた黒色化成処理皮膜の平滑性を向上させるために、化成処理溶液に塩化ニッケルを加えてもよい。この場合、塩化ニッケルは、多く用いると化成皮膜の黒色化を阻害することとなるので5g/リットル以下の濃度で使用する。この塩化ニッケルを加えることで、黒色化成皮膜は、硬さが増して平滑性が向上することとなる。黒色化成皮膜の硬さが必要でない場合、この塩化ニッケルは、用いなくても良い。
【0013】
化成処理溶液のpHの範囲は、2〜6であることが好ましい。この範囲となるように、本発明においては、酢酸が用いられる。したがって、酢酸の使用量は、化成処理溶液のpHに応じて決定される。
【0014】
本発明の化成処理に供される対象素材としては、表面に亜鉛めっきまたは亜鉛合金めっきを有するものであれば、特に限定されるものではなく、鉄、ニッケル、銅、アルミニウムなどの各種の金属およびこれらの合金などを用いることができる。亜鉛合金めっきとしは、例えば、亜鉛−鉄合金めっき、亜鉛−ニッケル合金めっき、亜鉛−コバルト合金めっき、錫−亜鉛合金めっきなどが挙げられる。また、対象素材の形状は、特に限定されるものではなく、例えば、板状、棒状、線状、管状、球状、直方体、円柱状、その他、各種形状に成形加工されたものなどに適用できる。
【0015】
本発明の化成処理方法の処理温度としては、50〜75℃、好ましくは60〜65℃である。処理温度が室温( 例えば50℃) 未満の場合には、皮膜生成速度が遅いため、化成処理溶液自体を高濃度にしなければならず経済的に不利である。処理温度が75℃を越える場合には、温度維持に多大なエネルギ−を必要とするため、経済的に不利である。
【0016】
本発明の化成処理方法の処理時間は、化成処理液の組成、処理温度によって異なるが、一般的には5〜10秒の範囲で適宜に決定することができる。処理方法としては、上記化成処理溶液の処理浴中に対象素材の製品等を浸漬することによって行われる。
【0017】
化成処理した後の基材は、60〜65℃の湯洗により基材表面に付着した余剰のゼラチン成分を洗い流した後、乾燥させる。
【0018】
その後、後処理工程を経て化成処理を完了する。
【0019】
この後処理工程としては、例えば、耐食性をさらに向上させる目的で、上記湯洗の後、防錆処理することが行われる。この防錆処理としては、例えば、防錆剤として松脂を含んだ界面活性防錆剤によりpH9〜10に調整した水溶液を用意し、この水溶液に上記湯洗の後の黒色化成皮膜が形成された基材を浸漬し、その後上記界面活性防錆剤を二倍に希釈した水溶液に、再度基材を浸漬し、その後、水切りした基材を70〜80℃で乾燥させることによって行うことができる。
【0020】
この工程を守ることにより、黒色化成皮膜内にしみ込んだ防錆剤が皮膜内部で定着し、塩水噴霧試験においても72時間以上の耐食性が得られることとなる。一般に両性金属とりわけ亜鉛めっきにおいては、アルカリ性溶液に浸漬し、乾燥させると白錆が発生し易いとされるが、上記防錆処理槽では黒色化成皮膜との間で何らかの結合を起こして防錆効果が高まるものと思われる。さらにそれを助けるものとして松脂系の界面活性防錆剤が含まれることで、防錆剤の接着性が向上し、膜の強度を幾分高めると思われる。この防錆処理は、防錆剤が基材に形成された黒色化成皮膜にしみ込んでしまい、外観上はそのような二次処理を行ったような変化を感じさせることなく処理することができる。
【発明の効果】
【0021】
以上述べたように、本発明の化成処理溶液によると、黒色6 価クロメート皮膜と同等もしくはそれ以上の充分な耐食性や皮膜の強度が得られ、安定した色ムラの無い黒色化成皮膜を形成することができる。また、3価クロム化合物や他の金属化合物を必須成分としないので、自然環境に優しく、排水処理などの経費を削減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下に、実施例を挙げ、本発明の効果をより具体的に説明をする。ただし、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
実施例1
幅5cm×長さ8cm×厚さ1mmの鋼板の表面に厚さ8μmの亜鉛めっきを施した試験片を用意し、この試験片を以下の化成処理水溶液に浸漬した。
【0023】
化成処理水溶液は、重亜硫酸ソーダ(商品名:ソービス)60g/リットル、ゼラチン10g/リットル、塩化ニッケル3g/リットルを加え、酢酸でpH4に調整されたものを使用した。化成処理水溶液の温度は60℃とし、浸漬時間は8秒とした。
【0024】
浸漬後の試験片は、60℃の湯で洗浄し、表面に付着したゼラチン成分を落とした後、後処理を行った。
【0025】
後処理は、界面活性防錆剤(商品名:JSB−1)によりpH9〜10に調整した水溶液を用意し、この水溶液に試験片を浸漬し、その後上記界面活性防錆剤を二倍に希釈した水溶液に、再度試験片を浸漬し、その後、水切りした試験片を70〜80℃で10分乾燥させることによって行った。
【0026】
このようにして得られた試験片の外観を目視により確認した。その結果、試験片の表面には、色ムラの無い均一な黒色の化成皮膜が形成されていた。
【0027】
また、試験片に、ISOキャス試験機(スガ試験機)を用いて35℃で濃度5%の塩水を24時間、48時間噴霧し、耐食性を確認した。その結果、24時間までは白錆も発生せず、48時間でも白錆発生面積 5%以下の優れた耐食性を確認することができた。
【産業上の利用可能性】
【0028】
家電製品の外装材、機械部品、建材、金具などの亜鉛めっきまたは亜鉛合金めっきされた各種の基材の表面に、ノンクロメート化成処理によって黒色化成皮膜を形成する場合に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛めっきまたは亜鉛合金めっきの表面に黒色の六価クロムフリー化成皮膜を形成するための化成処理溶液であって、
重亜硫酸塩と、硫酸アルミニウムまたはゼラチンとを含むことを特徴とする化成処理溶液。
【請求項2】
60〜100g/リットルの重亜硫酸塩と、5〜30g/リットルのゼラチンとを含み、pH2〜5に調整された請求項1記載の化成処理溶液。
【請求項3】
安定剤として3〜5g/リットルの塩化ニッケルを含む請求項1または2記載の化成処理溶液。
【請求項4】
亜鉛めっきまたは亜鉛合金めっきされた基材を、請求の範囲第1項から第3項のいずれか一項に記載の処理溶液に接触させる工程を含むことを特徴とする化成処理方法。
【請求項5】
50〜75℃の処理溶液に基材を5〜10秒間浸漬する工程と、浸漬後の基材を60〜65℃で湯洗する工程とを含む請求項4記載の化成処理方法。

【公開番号】特開2006−322048(P2006−322048A)
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−147016(P2005−147016)
【出願日】平成17年5月19日(2005.5.19)
【出願人】(505184919)有限会社スリージー技研 (1)
【Fターム(参考)】