説明

化粧用塗布体

【課題】軸より突出した幅広扁平形状のスパチュラの表面をフロッキー植毛した塗布部を有する化粧用塗布具であって、繰り返し使用した場合にも、フロッキー植毛がシゴキパーツとの摩擦によって剥離することがない化粧用塗布具を提供する。
【解決手段】塗布部を扁平な板状とし、根元部16を軸4に装着する円柱形状とし、円柱形状の根元部と扁平形状の塗布部とを徐々に円柱形から板状に変形させてなるスパチュラ7の表面を静電植毛した塗布体6であって、該スパチュラ7は該根元部16から該塗布部の間に前記軸の外径より外方に突出する突出部18を形成し、該突出部18と該根元部16との間を植毛しない部分とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化粧用塗布体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、口紅やリップグロス、アイシャドー、コンシーラーなど液状、ペースト状またはゲル状の化粧料には、化粧料を充填する収納部と塗布具を取り付けたキャップからなる容器が知られている。これらの容器は収納部の化粧料を塗布具で取り出し、唇等に化粧料を塗布して使用するものであり、携帯性に優れるとともに、使用性にも優れることから広く用いられている。
【0003】
特に、近年では、唇に光沢感を付与する化粧方法が好まれ、一回で充分な量の化粧料を塗布できるよう、塗布体の形状は扁平で、軸より突出した幅広のヘラ形状としたり、化粧料を掬い取り易くするために、塗布体表面を静電植毛(フロッキー加工)し、化粧料を含漬し易くした塗布具が採用されている。
【0004】
一方、塗布体に必要以上の化粧料が付着すると、唇に塗布する際、意図しない部分にはみ出るなど、化粧操作に支障を来す。このことから、容器の取り出し口には、塗布体をしごき、余分な化粧料を掻き落とす、シゴキパーツを設置する。
【0005】
しかしながら、扁平で、且つ、静電植毛した塗布体を有する塗布具では、軸より張り出した部分は、シゴキパーツとの摩擦力が大きいため、植毛が剥がれてしまうという問題が生ずる。
【0006】
特に、塗布体の軸との接合部から突出部に至る、いわゆる塗布部の肩に相当する部分は、化粧用塗布具を収納部から引き抜く際、シゴキパーツとの摩擦力が最も大きくなるため、植毛が剥離するなど損耗が激しく、塗布具の機能を損なう原因となる(図6)。
【特許文献1】特開2006−346469号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、軸より突出した幅広扁平形状のスパチュラの表面を静電植毛した塗布体であって、繰り返し使用した場合にも、静電植毛がシゴキパーツとの摩擦によって剥離することがない化粧用塗布体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明は、塗布部を扁平な板状とし、根元部を軸に装着する円柱形状とし、円柱形状の根元部と扁平形状の塗布部とを徐々に円柱形から板状に変形させてなるスパチュラの表面を静電植毛した塗布体であって、該スパチュラは該根元部から該塗布部の間に前記軸の外径より外方に突出する突出部を形成し、該突出部と該根元部との間を植毛しない部分としたことを特徴とした化粧用塗布体である。
【0009】
第2の発明は、突出部と根元部との間の全周をマスキングすることにより植毛しない部分としたことを特徴とした化粧用塗布体体である。
【0010】
第3の発明は、根元部から塗布部の間に軸の外径より外方に突出する突出部と、該突出部より幅広の最大突出部を塗布部に形成し、該最大突出部から根元部の間を植毛しない部分としたことを特徴とした化粧用塗布体である。
【0011】
第4の発明は、塗布部の板状面が軸に対して所定の角度を有することを特徴とする化粧用塗布体である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、軸の外径より突出した幅広扁平形状のスパチュラの表面を静電植毛することによって得られる塗布体であって、繰り返し使用した場合にも、シゴキパーツとの摩擦によって植毛が剥離するなど損耗が生ずることがない化粧用塗布体を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】化粧用容器断面図
【図2】シゴキパーツの(a)正面図、(b)断面図、(c)側面図
【図3】スパチュラと保持部の(a)側面図、(b)正面図
【図4】本発明に係る化粧用塗布体(第1実施形態)を組み込んだ化粧用塗布具の(a)側面断面図、(b)正面断面図、(c)側面図、(d)正面図
【図5】本発明に係る化粧用塗布体(第2実施形態)を組み込んだ化粧用塗布具の(a)側面断面図、(b)正面断面図、(c)側面図、(d)正面図
【図6】従来の化粧塗布体のフロッキー植毛が剥離した図(図面代用写真)
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の化粧用塗布体の形態について図面を用いて詳しく説明する。
【0015】
図1は、本発明の化粧用塗布体を組み込んだ化粧用容器全体の構成を示す。化粧用容器(1)は化粧料を充填する収納部(5)とキャップ(2)からなり、キャップ(2)には、化粧料を取り出すとともに、化粧料を唇等に塗布するための化粧用塗布具(3)が設けられている。この化粧用塗布具(3)は、軸(4)と塗布体(6)が接合してなり、軸(4)の一方の端部はキャップ(2)に接合し、他方の端部は塗布体(6)と接合している。軸(4)と塗布体(6)との接合は、塗布体(6)の端に設けた保持部(10)を軸の端部に設けた保持孔(11)に挿入し固定して行う。また、この化粧用塗布具(3)は、キャップ(2)が収納部(5)に螺合すると、収納部(5)に充填されている化粧料に含浸するように、キャップ(2)に取り付けられている。
【0016】
シゴキパーツ(15)は、収納部の化粧料の取り出し口付近に設置し、化粧用塗布具(3)を収納部(5)から引き抜く際、軸(4)および塗布体(6)に付着した余分な化粧料は、シゴキパーツの内孔縁(20)によって掻き落とされる。また、図2に示すように、シゴキパーツ(15)の内孔(19)は、キャップを回転して化粧用塗布具を引き抜くため、方向性を持たない円形とする。化粧用塗布具(3)の塗布体(6)は、幅広の扁平形状であるため、内孔縁(20)との摩擦力が必要以上に大きくならないようにするため、シゴキパーツ(15)の内孔(19)にはスリット(21)を設けている。シゴキバーツ(15)の材質は、ニトリルブタジエンゴム(NBR)であるが、これに限定されるものではない。
【0017】
図3に、塗布体(6)の基台となるスパチュラ(7)の形状を示す。スパチュラ(7)は、扁平な板状の塗布部(17)と円柱形状の根元部(16)からなる。円柱形状の根元部(16)と扁平形状の塗布部(17)とは、徐々に円柱形から板状に変形し、根元部(16)から塗布部(17)の間に軸の外径より外方に突出する突出部(18)を形成する。塗布部(17)を幅広扁平形状とすることで、充分な量の化粧料を掬い取ることができるとともに、唇等に塗布する際も塗り広げ易くすることができる。また、スパチュラ(7)には軸(4)に挿入固定するための保持部(10)が一体的に成型される。
【0018】
塗布体(6)は唇の形状にフィットする必要があるため、スパチュラ(7)は適度な弾力性のある素材を選定する必要がある。また、化粧料と常時接触する部位であるため化粧料に対して相互作用のない化学的に安定な素材である必要がある。したがって、スパチュラ(7)を形成する素材としては、エラストマー樹脂であることが好ましく、このようなエラストマー樹脂として、例えば、熱可塑性エラストマー又はポリウレタンエラストマーが好ましい。
【0019】
スパチュラ(7)は、化粧料を掬い取り唇等に塗布する操作のし易さから、幅は約4.1〜6.0mm、長さは約12〜18mm、厚さは約0.9〜4mmであることが好ましいが、化粧料の種類によってこれに限定するものではない。また、スパチュラの塗布部は扁平面方向に傾斜し、軸に対して所定の角度をもたせてもよい。角度は化粧操作のし易さから約10〜30度が好ましい。
【0020】
塗布体(6)は、スパチュラ(7)を基台とし、その表面に静電植毛(フロッキー加工)を施したものであるが(図4)、スパチュラの平滑な表面に植毛を施すことによって化粧料を含漬することができ、化粧料を比較的広い範囲で均一に塗り広げることが可能となる。使用の際には、塗布体(6)で収納部(5)の化粧料(9)を掬い取った後、化粧用塗布具(3)を収納部(5)から引き抜くとともに、軸(4)や塗布体(6)に付着した余分な化粧料をシゴキパーツ(15)の内孔縁(20)によってしごき落とした後、唇等に塗布する。
【0021】
静電植毛(フロッキー加工)に使用する繊維は、材質、太さ、長さについて、特に限定されるものではないが、化粧用具の静電植毛に一般的に用いられている、太さ約0.9〜3.3T(デシテックス)、長さ約1mmのナイロン又はポリエステル樹脂製の繊維であることが好ましい。
【0022】
シゴキパーツ(15)は軸(4)や塗布体(6)に付着した余分な化粧料を掻き落とすものである。したがって、シゴキパーツの内孔(19)の直径は、軸(4)の外径より若干小さく設定するものであり、化粧用塗布具を引き抜く際、塗布部(17)の軸(4)の外径より突出した部分は、シゴキパーツの内孔縁(20)との間に生じる摩擦力は大きくなる。このため、この部分に静電植毛を施した場合には、図6のように植毛が剥離するなどの損耗が生ずる。尚、シゴキパーツの内孔(16)の直径は約3.6mm、軸(4)の外径は約4mmである。
【0023】
図4は、本発明の化粧用塗布体の実施形態を示す。スパチュラ(7)は根元部(16)から塗布部(17)の間に軸(4)の外径より外方に突出する突出部(18)を形成することにより、幅広の扁平形状の塗布部を可能とする。また、突出部(18)と根元部(16)との間においては植毛しない部分を設けており、この部分は基台のスパチュラ(7)の表面が露出し平滑な面となっている。塗布体(6)がシゴキパーツ(15)の内孔(19)を通過する際、塗布体(6)の根元部(16)から突出部(18)との間は、シゴキパーツの内孔を押し開く部分となり、摩擦力が最も大きく働く箇所であるため植毛の剥離が著しい(図6)。したがって、この部分を平滑面とすることによって植毛の剥離を防ぎ、塗布体の損耗を防止するものである。塗布体(6)をこのような構造とすることにより、幅広扁平形状のスパチュラを静電植毛した化粧用塗布具でありながら、繰り返し使用した場合にも、植毛がシゴキパーツとの摩擦によって剥離することがない化粧用塗布具を提供することが可能となる。
【0024】
また、塗布部(17)の板状表面が軸(4)に対して、所定の角度を有する場合には、塗布具を引き抜く際、塗布体(6)の根元部(16)から突出部(18)の間が、シゴキパーツに引っかかり易く、シゴキパーツから受ける摩擦力は更に大きく損耗が激しいため、この部分を植毛せずに平滑面とすることによる効果は大きい。
【0025】
本発明の化粧用塗布体を量産するにあたっては、根元部(16)から突出部(18)までの全周をマスキングすることによって、静電植毛の際のマスキング工程を簡略化しながら、根元部(16)から突出部(18)までの間を平滑面とすることが可能となる。
【0026】
静電植毛(フロッキー加工)は、被対象物に接着剤を散布しこれに強い電界を掛けて短繊維(パイル)を植え付けビロード状の仕上がりを得る表面加工技術である。被対称物に静電植毛を行う部分と行わない部分がある場合には、接着剤が付着しないよう静電植毛を行わない部分にマスキングを施す工程が必要となり、また、マスキングすべき箇所が複数ある場合や微細である場合には、工程がさらに複雑となり、作業性や生産コスト等において問題となる。したがって、量産化においては、このマスキング工程をいかに簡略化するかが重要となる。
【0027】
本発明の化粧用塗布体は、平滑面とすべき箇所、すなわち根元部(16)から突出部(18)を全周で覆うようにマスキングをすることによって、マスキングする箇所を、少なく且つ簡単な形状とすることが可能となり、量産での効率性を向上させることができる。
【0028】
化粧用塗布体の量産においては、塗布体(6)の根元部(16)から突出部(18)の間の全周を覆うマスキング工程の後、接着剤を散布するが、マスキングする位置がずれたり、マスキングの隙間から接着剤が浸入しスパチュラに付着するなど、量産でのばらつきを考慮する必要がある。したがって、量産でのマスキング工程においては、根元部(16)から突出部(18)までの間への接着剤の付着を確実に防止するため、円筒から扁平形状に変位し始める部位までを覆うよう、更に突出部分(18)から先端(22)方向に約1〜3mmの位置までの全周を覆うことが好ましい。
【0029】
スパチュラの形状が、根元部(16)と塗布部(17)との間に形成された突出部(18)よりも幅広であり、最も幅広となる最大突出部(23)を塗布部に形成する場合があるが(図5)、この場合は、根元部(16)から最大突出部(23)までの間を植毛せず平滑面をする。根元部(16)から最大突出部(23)までの間は、シゴキパーツとの摩擦による植毛の損耗が激しく、これを防止するものである。
【符号の説明】
【0030】
1 化粧用容器
2 キャップ
3 化粧用塗布具
4 軸
5 収納部
6 塗布体
7 スパチュラ
8 静電植毛
9 化粧料
10 保持部
11 保持孔
12 固定部
13 雄ネジ
14 雌ネジ
15 シゴキパーツ
16 根元部
17 塗布部
18 突出部
19 内孔
20 内孔縁
21 スリット
22 先端
23 最大突出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗布部を扁平な板状とし、根元部を軸に装着する円柱形状とし、円柱形状の根元部と扁平形状の塗布部とを徐々に円柱形から板状に変形させてなるスパチュラの表面を静電植毛した塗布体であって、該スパチュラは該根元部から該塗布部の間に前記軸の外径より外方に突出する突出部を形成し、該突出部と該根元部との間を植毛しない部分としたことを特徴とした化粧用塗布体。
【請求項2】
突出部と根元部との間の全周をマスキングすることにより植毛しない部分としたことを特徴とした請求項1記載の化粧用塗布体。
【請求項3】
根元部から塗布部の間に形成した軸の外径より外方に突出する突出部より幅広の最大突出部を塗布部に形成し、該最大突出部から根元部の間を植毛しない部分としたことを特徴とした請求項1又は2記載の化粧用塗布体。
【請求項4】
塗布部の板状面が軸に対して所定の角度を有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の化粧用塗布体。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−229655(P2011−229655A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−102181(P2010−102181)
【出願日】平成22年4月27日(2010.4.27)
【出願人】(000001959)株式会社 資生堂 (1,748)