説明

医用画像記録装置

【課題】 記録媒体の保持に係わる部材を鉛を使用せずに構成しかつ鉛と同等のX線遮蔽・後方散乱防止機能を得ることのできる医用画像記録装置を提供する。
【解決手段】 この医用画像記録装置10は、被写体30を透過した放射線画像を記録する記録媒体12を内蔵し、記録媒体の保持に関する部材19が鉛を除く重金属を1種以上含む複合材料から構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線画像を記録する記録媒体を内蔵する医用画像記録装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
医用の分野においては、X線や放射線の遮蔽のために従来から鉛箔(シート)が広く用いられている。この鉛という材料は、X線や放射線の遮蔽機能上からは好ましい材料であるが(下記特許文献1参照)、環境影響上は好ましい材料ではなく、一般部品・一般機器等では使用が厳しく制限されており、鉛を有する医療部品・医療機器等においても、「管理された廃棄」が要求されており、鉛代替材料の探索は、特に医療機器関係では急務である。
【0003】
また、上記鉛シートは、一般的に記録媒体の周辺の各部材に貼付けられて使用されており、記録媒体と鉛シート表面との距離は均一になるように構成されている。例えば、医療用X線撮影のカセッテにおいても、従来から、撮影時の後方散乱線の影響を除去するため、シートフィルムや輝尽性蛍光体プレート等の記録媒体とカセッテのバック板との間に鉛シートを配置していた。
【0004】
この鉛シートは、カセッテバック板に両面テープ等で貼付けられているが、均一に貼付けられずに空気泡が部分的に発生すると、画像ヘ影響を与えるので、貼付け直しになる。このとき、一旦剥がした鉛シートは、もはや平面状態を維持していないので、再貼り付けには使用できず、新たな鉛シートを使用せねばならなかった。その結果、廃棄すべき鉛シートが生じてしまう。
【特許文献1】特開昭59−17198号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上述のような従来技術の問題に鑑み、記録媒体の保持に係わる部材を鉛を使用せずに構成しかつ鉛と同等のX線遮蔽・後方散乱防止機能を得ることのできる医用画像記録装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明による医用画像記録装置は、被写体を透過した放射線画像を記録する記録媒体を内蔵する医用画像記録装置であって、前記記録媒体の保持に関する部材が鉛を除く重金属を1種以上含む複合材料から構成されていることを特徴とする。
【0007】
この医用画像記録装置によれば、放射線画像を記録する記録媒体の保持に関する部材が鉛を除く重金属を1種以上含む複合材料から構成されているので、鉛を使用せず、かつ、鉛と同等のX線遮蔽・後方散乱防止機能を得ることができる。
【0008】
上記医用画像記録装置において前記複合材料が樹脂材料またはゴム材料に1種以上の重金属を分散させた材料であることが好ましい。分散させる金属の種類としては、タングステン、銅、モリブデンなどが適する。なお、一部を硫酸バリウム等の化合物に置き換えてもよい。
【0009】
この場合、前記重金属単体が4.0g/cm以上の比重を有することが好ましい。また、前記複合材料は3〜15g/cmの比重を有することが好ましい。
【0010】
図1に各種金属のX線透過率(管電圧100kVp)を厚さとの関係で示す。図1に示すように、タングステン(W)等の比重の高い金属であればX線遮蔽率(減衰率)は従来の鉛(Pb)よりも大きく、タングステンを含む複合材料にしても鉛よりも厚みを薄くもしくは同等にすることが可能である。また、銅(Cu)やモリブデン(Mo)など鉛よりも比重の低い金属の場合は、鉛よりも厚くなる。
【0011】
また、前記複合材料はシート状に構成され、その複合材シートは成膜された後よりも比重が高くなっていることが好ましい。複合材シートは膜状に形成された後に圧縮処理等により比重が高くなっているので、複合材シートのX線遮蔽率をその厚さに比してより大きくできる。この圧縮処理のとき、樹脂材料またはゴム材料の軟化温度または融点以上の温度で圧力を加えることが好ましい。
【0012】
また、前記複合材料に含まれる比較的高価なタングステン等の重金属の一部を比較的安価な物質、例えば硫酸バリウム、鉄、銅等に置き換えることで、複合材料を安価に提供できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の医用画像記録装置によれば、記録媒体の保持に係わる部材を鉛を使用せずに構成しかつ鉛と同等のX線遮蔽・後方散乱防止機能を得ることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための最良の形態について図面を用いて説明する。
【0015】
最初に、本実施の形態の医用画像記録装置に適用して好ましい複合材料について図2を参照して説明する。図2は、タングステンを含む複合材料のX線透過率(管電圧90kVp)の厚さによる変化を示す図である。図2には比較のため鉛の場合も示している。
【0016】
図2に示す複合材料は、樹脂材料にタングステン粉末を分散し、全体の比重を例えば3.5としたものである。この複合材料はタングステンの厚さ0.1mm分の粉末をスチレン系エラストマに分散しシート状にした複合材シートであり、図2から鉛当量0.13mmを満足する複合材シートの厚さは0.5mmである。このタングステン粉末をスチレン系エラストマに分散した複合材シートにより、鉛を使用せず、かつ、鉛と同等のX線遮蔽・後方散乱防止機能を得ることができる。なお、複合材シートは、押し出しや成形等で成膜でき、このとき、適当なバインダが適宜添加される。
【0017】
また、上述のタングステン粉末をスチレン系エラストマに分散した複合材シートは柔軟性があり、X線遮蔽のために部材面に密着して貼り付けることができ、また部材面に対する貼り付けや剥がし等が比較的容易である。
【0018】
また、上述の複合材シートを押し出しや成形等で成膜した後にカレンダーロールやプレス機により圧縮処理し、これにより比重を高くすることで、より厚さの薄い複合材シートのX線遮蔽率を大きくできる。
【0019】
〈第1の実施の形態〉
【0020】
図3は第1の実施の形態による医用X線画像記録装置を概略的に示す側面図である。
【0021】
図3に示すように、医用X線画像記録装置10は、装置前面側に配置され輝尽性蛍光体から構成された矩形平面状の放射線画像記録パネル12と、放射線画像記録パネル12に対しレーザ光を励起光として主走査しながら照射する光走査部13と、光走査部13からのレーザ光により励起されて発生した輝尽発光光について集光しガイドする光ガイド部14と、光ガイド部14からの光を検出する光電子増倍管を備えた光検出部15と、を筐体11内に備える。
【0022】
放射線画像記録パネル12は筐体11の前面側に配置され、X線源20からのX線を被写体30に照射し、その被写体30を透過して強度分布のあるX線が放射線画像記録パネル12に潜像として記録される。
【0023】
図3の医用X線画像記録装置10の筐体11内には、放射線画像記録パネル12、光走査部13の一部及び光ガイド部14を含む図3のハッチングで示す空間を包囲するように矩方体状のX線遮蔽部19が配置されている。X線遮蔽部19の外面または内面に図2のようなタングステン粉末を分散した複合材シートが貼り付けられている。放射線画像記録パネル12は、その外周が筐体11の前面側でX線遮蔽部19に保持されている。
【0024】
光走査部13及び光ガイド部14・光検出部15がボールねじ等からなる副走査ガイド部16により図3の上下方向に副走査移動しながら、X線画像の記録された放射線画像記録パネル12にレーザ光を光走査部13から主走査し照射する。このレーザ光の照射により発生した輝尽発光光が光ガイド部14を通して光検出部15の光電子増倍管に入射し、光電変換されて電気信号が光検出部15から出力する。
【0025】
上述のようにして放射線画像記録パネル12からX線画像を読み取り、得られた電気信号は、画像処理部17で画像処理され、画像出力部18から画像信号として出力する。この画像信号は、例えば、データベースサーバに送られ保存されたり、プリンタに送られてフィルムに画像を形成して出力する。
【0026】
以上のように、放射線画像記録パネル12をX線遮蔽部19で保持する医用X線画像記録装置10によれば、X線遮蔽部19内を鉛シートと同等にX線遮蔽することができ、X線照射による後方散乱線を遮蔽し、X線の後方散乱を防止できる。
【0027】
従来、X線遮蔽部19には鉛シートが両面テープ等で貼付けられていたが、X線遮蔽部19内でのメンテナンス等のために鉛シートを剥がした場合には、平面状態を維持できず、新たな鉛シートを貼り直していたので、廃棄すべき鉛シートが増える結果となっていたのに対し、本実施の形態のように図2のようなタングステン粉末を分散した複合材シートを用いることで、複合材シートの再貼り付けも可能であり、また、廃棄すべき場合でも、複合材シートは鉛のような規制は受けない。
【0028】
なお、図3において、X線遮蔽部19を特に設けない場合は、筐体11の外面または内面に図2のような複合材シートを貼り付けるようにしてもよい。
【0029】
〈第2の実施の形態〉
【0030】
図4は第2の実施の形態による医用X線撮影用カセッテを示す要部断面図である。
【0031】
図4のように、医用X線撮影用カセッテ40は、フロント部材50とバック部材60とから構成され、フロント部材50とバック部材60との間に形成された内部空間41内に矩形平面状の放射線画像記録パネル28を収容している。放射線画像記録パネル28は輝尽性蛍光体から構成され、X線画像を潜像として記録し、記録後に読取装置内で、図3と同様にして読み取られる。
【0032】
医用X線撮影用カセッテ40は、フロント部材50側に被写体が位置した状態で放射線画像記録パネル28の表面28aにX線が照射されるようにして使用されるが、放射線画像記録パネル28の裏面28bには、図2のようなタングステン粉末を分散した複合材シート27が貼り付けられている。複合材シート27は、放射線画像記録パネル28とともに、端部に配置された複数の台座61で保持され固定されている。また、フロント部材50の内面には不織布等からなる平面状の緩衝材29が貼り付けられている。
【0033】
以上のように、図4の医用X線撮影用カセッテ40によれば、放射線画像記録パネル28を保持するように複合材シート27がその裏面28bに貼り付けられているので、カセッテ40を鉛シートと同等にX線遮蔽することができ、X線照射による後方散乱線を遮蔽し、X線の後方散乱を防止できる。
【実施例】
【0034】
次に、本発明を実施例1及び2より説明する。実施例1は複合材シートを成膜後に圧縮処理し比重を高くしたものである。実施例2はタングステン粉末の一部を硫酸バリウムに置き換えた複合材シートである。
【0035】
〈実施例1〉
【0036】
スチレン系エラストマ樹脂にタングステン粉末を分散し、厚さ0.5mm、比重3.5の複合材シートを成膜した。次に、カレンダーロールを用いて150℃、圧力4.9×10〜3.9×10N/cmで、圧縮後の厚さが0.4,0.3,0.25mmになるようにそれぞれ圧縮し、3種類の複合材シートを得た。各複合材シートの厚さと比重は次の表1のとおりであった。
【0037】
【表1】

【0038】
表1から各複合材シートは圧縮率が異なり、より薄く圧縮されたものほど比重が高くなっていることが分かる。
【0039】
本実施例で得た複合材シートは、図4の医用X線撮影用カセッテ40の放射線画像記録パネル28の裏面28bに配置した複合材シート27に適用でき、例えば、カセッテ40の厚さが制限されている場合には、より薄くし高い比重の複合材シートを用いることでカセッテ40の厚さをより薄く構成できる。また、同じ厚さでより大きな比重の複合材シートを用いることで、より大きなX線遮蔽効果を得ることができる。また、同様にして図3のX線遮蔽部19に適用してもよいことは勿論であり、より薄い複合材シートまたはより大きなX線遮蔽効果のある複合材シートを適宜用いることができる。
【0040】
〈実施例2〉
【0041】
スチレン系エラストマ樹脂にタングステン粉末を分散し更に硫酸バリウムを加えてから、放射線遮蔽効果を有する高比重の複合材シートを成膜した。タングステン粉末と硫酸バリウムの重量%は次の表2のとおりであり、2種類の複合材シートを得、更に硫酸バリウム(0%)に置き換えない複合材シートを得た。
【0042】
【表2】

【0043】
本実施例の複合材シートは、タングステンと、その一部を置き換えた硫酸バリウムとを含むが、その価格と厚さは表2のようになって、タングステンは高価であり、硫酸バリウムはかなり安価である一方、比重が小さいので、硫酸バリウムを多くするほど厚くかつ安価になり、少なくするほど薄くかつ高価になる。従って、価格と厚さの比較により、適宜硫酸バリウムの含有率を決定することが好ましい。
【0044】
以上のように本発明を実施するための最良の形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で各種の変形が可能である。例えば、図4のカセッテ内に収容される記録媒体としては、X線撮影用にフィルムであってもよいことは勿論である。また、実施例2では、タングステンの一部を、硫酸バリウムに代えて、硫酸バリウムと同様に比較的安価な物質でありかつ比較的X線遮蔽性のある鉄や銅に置き換えてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】各種金属のX線透過率(管電圧100kVp)を厚さとの関係で示す図である。
【図2】本実施の形態によるタングステンを含む複合材料のX線透過率(管電圧90kVp)の厚さによる変化を示す図である。
【図3】第1の実施の形態による医用X線画像記録装置を概略的に示す側面図である。
【図4】第2の実施の形態による医用X線撮影用カセッテを示す要部断面図である。
【符号の説明】
【0046】
10 医用画像記録装置
12 放射線画像記録パネル(記録媒体)
19 X線遮蔽部
40 X線撮影用カセッテ
27 複合材シート
28 放射線画像記録パネル
28b 裏面
41 内部空間
61 台座


【特許請求の範囲】
【請求項1】
被写体を透過した放射線画像を記録する記録媒体を内蔵する医用画像記録装置であって、
前記記録媒体の保持に関する部材が鉛を除く重金属を1種以上含む複合材料から構成されていることを特徴とする医用画像記録装置。
【請求項2】
前記複合材料が樹脂材料またはゴム材料に1種以上の重金属を分散させた材料であることを特徴とする請求項1に記載の医用画像記録装置。
【請求項3】
前記重金属単体が4.0g/cm以上の比重を有することを特徴とする請求項1または2に記載の医用画像記録装置。
【請求項4】
前記複合材料は3〜15g/cmの比重を有することを特徴とする請求項1,2または3に記載の医用画像記録装置。
【請求項5】
前記複合材料はシート状に構成され、その複合材シートは成膜された後よりも比重が高くなっていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の医用画像記録装置。
【請求項6】
前記複合材料に含まれる重金属の一部を硫酸バリウムに置き換えることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の医用画像記録装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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