説明

医療介護リスクマネージメントシステム、その方法及びプログラム

【課題】医療・介護に従事する医師や看護士(作業提供者)と患者・被介護者(作業享受者)との双方を考慮した総合的なリスクをマネージメントする。
【解決手段】医療・介護リスクマネージメントシステム(100)は、医療・介護における複数の作業、作業に関連する少なくとも1つの要素からなる作業マスターテーブルと、要素に関連する危険源およびそれに関連付けられた危険情報が規定されている危険源マスターテーブルとを格納する記憶手段(110)と、作業情報を入力する入力手段(12)と、作業マスターテーブル(112)および危険源マスターテーブル(114)を参照して、入力された作業情報に基づき、作業情報に関連する少なくとも1つの要素を選択し、選択した要素に関連する危険源とその危険情報を含むリスク評価データを演算手段を使用して生成するリスク評価データ生成手段(130)とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療・介護(福祉)の病院、機関、会社などを対象とした医療介護リスクマネージメントシステム、その方法及びプログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ISO9001とは、品質マネージメントシステムの国際規格であり、国際標準化機構(International Organization for Standardization)により1987年に制定されたものである。この規格は日本規格協会ウェブサイト(非特許文献1を参照されたい。)に詳細が記述されている。また、ISO9001は、当初は製造業や建設業を対象とした規格であったが、2000年からは医療や介護産業を含むサービス業まで広く適用できるように改定され、医療・介護事業所での実施も求められている。
【0003】
労働安全衛生マネージメントシステムOHSAS(Occupational Health and Safety Assessment Series)18001は、国際的な規模で認証を行っている諸機関(例えば、ロイド、SGS、日本規格協会)などが参加した国際コンソーシアムが策定した労働安全衛生マネージメントシステムの規格である。この規格は、企業などの組織内での労働衛生災害リスクを最小化し、将来の発生リスクを回避する活動を継続的に改善しているかどうかをチェックするためのものである(非特許文献2を参照されたい。)。
そして、建設業界を対象にした労働安全衛生マネージメントシステムが開発されている(特許文献1を参照されたい)。
【0004】
また、OHSAS18001は、ISO14001規格と同様に、計画、実施及び運用、点検及び是正処置、経営層による見直し、という、プラン(計画)−ドゥー(実行)−チェック(点検)−アクション(見直し)から成るいわゆるデミングサイクルで構成されるものであり、OHSAS18001の求めるマネージメントシステムでは、このサイクルの実施が求められている。そして、医療・介護を対象にした品質マネージメントシステムが開発されている(特許文献2を参照されたい)。
【0005】
上述した特許文献1、2の技術は、労働安全衛生分野と品質マネージメント分野における管理システムとしてはそれぞれ優れたものである。上記の従来の医療・介護用の品質マネージメントシステムは、医療・介護の品質の向上を図るためのものである。しかしながら、医療機関や介護施設では、医師、看護士、介護士など(以下、作業提供者、従事者などと称することがある。)の労働安全衛生をも担保しなければならないが、従来の医療・介護用の品質マネージメントシステムは労働安全衛生を主たる対象とはしない。また、上述した従来の建設業界用の労働安全衛生管理システムは、建設・土木業界に特化したシステムであり、医療・介護の労働安全衛生に適用することは困難である。
【0006】
また、医療・介護組織において、ISO9001に準拠(登録審査、維持審査、更新審査に合格)するためには、事業活動のすべてを網羅して、サービスに対する品質、すなはち当該患者らの安全衛生を担保するための文書を記録しなければならない。また、当該組織では、ISO18001に準拠(登録審査、維持審査、更新審査に合格)するためには、事業活動のすべてを網羅して当該従事者の労働安全衛生をも担保しなければならない。しかしながら、手作業でも、コンピュータを用いるにしても、手際よく、定量的に処理する方法を模索しているのが現状である。このような状況において、企業が独自に当該規格連の書類を整えその登録を受けることは非常に困難であり、一般的には、専門の規格認証取得コンサルタントに依頼して書類を作成してもらう必要があった。さらに、この規格は一定の周期で維持審査や更新審査があり、規格で要求される文書を作成し続ける必要もある。
【0007】
ところで、ISO9001およびISO18001(以下、当該規格)を医療行為や介護サービスに適用するとき、その範囲には全ての医療・介護の行為やサービスが含まれるが、その種類や膨大で、簡単にシステムを構築するのは困難であり、当該規格で厳格に要求される「文書化」と「評価記録」などを実行することはかえって業務の非効率化を引き起こす。さらに、医療や介護の現場での品質低下は患者の生命や生活の質にかかわるために、結果は重大である。
【非特許文献1】日本規格協会ウェブサイト(http://www.jsa.or.jp/default.asp)
【非特許文献2】吉沢正監修、労働安全衛生マネージメントシステム−OHSAS18001・18002−対訳と解説(出版社:日本規格協会、発行年月2004年03月)
【特許文献1】特開2006-59332号公報
【特許文献2】特開2007-207034号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、労働安全衛生、或いは品質保証を個別に解決する従来の管理システムがある。このような個別の管理システムも有効であるが、医療・介護分野では事情が異なる。即ち、患者や非介護者に対するサービス、即ち品質の保証も大切であるが、一方、当該施設で働く医療・介護の作業提供者(医師、看護婦、介護士など)の労働安全衛生の確保も重要である。このように、医療・介護分野は、当該組織における作業提供者と、医療・介護のサービスを受ける患者・被介護者(以下、作業享受者と称することがある。)の「双方のリスク」を管理するという視点が必要とされる。しかしながら、従来の管理システムにおいては、品質保証のみ、或いは、労働安全衛生のみを対象としたものしか存在せず、作業提供者者と作業享受者の双方のリスクを考慮した総合的なリスクをマネージメントする視点や仕組み(システム)は開発されていない。
【0009】
上述した諸問題に鑑みて、医療・介護に従事する医師や看護士(作業提供者)と患者・被介護者(作業享受者)との双方を考慮した総合的なリスクをマネージメントするシステム、方法、およびプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した諸課題を解決すべく、第1の発明による医療・介護リスクマネージメントシステムは、
医療・介護における複数の作業、および、該作業に関連する少なくとも1つの要素からなる作業マスターテーブルと、前記要素に関連する危険源およびそれに関連付けられた危険情報が規定されている危険源マスターテーブルとを格納する記憶手段と、
作業情報を入力する入力手段と、
前記作業マスターテーブルおよび危険源マスターテーブルを参照して、前記入力された作業情報に基づき、該作業情報に関連する少なくとも1つの要素を選択し、該選択した要素に関連する危険源とその危険情報を含むリスク評価データを演算手段を使用して生成するリスク評価データ生成手段と、
を有する。
【0011】
また、第2の発明による医療・介護リスクマネージメントシステムは、
前記リスク評価データを編集して、国際標準(ISOなど)に準拠する危険源評価表として出力する出力手段、
をさらに有することを特徴とする。
【0012】
また、第3の発明による医療・介護リスクマネージメントシステムは、
前記作業情報が、
電子カルテ情報(病名、体重、身長、検査項目やその頻度など)、および/または、電子介護情報(介護の項目やその頻度、介護の必要度、持病、体重、身長など)を含む、ことを特徴とする。
【0013】
また、第4の発明による医療・介護リスクマネージメントシステムは、
前記作業情報は、クリニックプラン情報および/またはケアプラン情報を含み、
前記リスク評価データ生成手段は、
前記危険源マスターテーブルを参照して、前記入力された作業情報に含まれるクリニックプラン情報および/またはケアプラン情報に含まれる少なくとも1つの要素を選択し、該選択した要素に関連する危険源とその危険情報を含むリスク評価データを演算手段を使用して生成する、ことを特徴とする。
【0014】
また、第5の発明による医療・介護リスクマネージメントシステムは、
前記作業情報は、作業享受者属性情報(患者、被介護者などの数および属性)および/または作業提供者属性情報(医師、看護婦、ケアスタッフなど数および属性)を含む、
ことを特徴とする。
【0015】
また、第6の発明による医療・介護リスクマネージメントシステムは、
前記出力手段が、
作業享受者のみに対する危険源とその危険情報を含むように前記リスク評価データを編集し、出力することを特徴とする。
また、好適には、前記出力手段が、この作業享受者のみを対照とするリスク評価データを編集して、国際標準(ISOなど)に準拠した医療・介護プランとして出力する。
【0016】
また、第7の発明による医療・介護リスクマネージメントシステムは、
前記出力手段が、
作業提供者のみに対する危険源とその危険情報を含むように前記リスク評価データを編集し、出力する、ことを特徴とする。
【0017】
上述したように本発明の解決手段をシステム(装置)として説明してきたが、本発明はこれらに実質的に相当する方法、プログラム、プログラムを記録した記憶媒体としても実現し得るものであり、本発明の範囲にはこれらも包含されるものと理解されたい。なお、下記の方法やプログラムの各ステップは、データの処理においては必要に応じて、CPU、DSPなどの演算処理装置を使用するものであり、入力したデータや加工・生成したデータなどを磁気テープ、HDD、メモリなどの記憶装置に格納するものである。
【0018】
例えば、本発明を方法として実現させた第8の発明による医療・介護リスクマネージメント方法は、
医療・介護における複数の作業、および、該作業に関連する少なくとも1つの要素からなる作業マスターテーブルと、前記要素に関連する危険源およびそれに関連付けられた危険情報が規定されている危険源マスターテーブルとを記憶手段に格納するステップと、
作業情報を入力する入力ステップと、
前記作業マスターテーブルおよび危険源マスターテーブルを参照して、前記入力された作業情報に基づき、該作業情報に関連する少なくとも1つの要素を選択し、該選択した要素に関連する危険源とその危険情報を含むリスク評価データを演算手段を使用して生成するリスク評価データ生成ステップと、
を有することを特徴とする。
【0019】
また、第9の発明による医療・介護リスクマネージメント方法をコンピュータに実行させるための医療・介護リスクマネージメントプログラムは、
医療・介護における複数の作業、および、該作業に関連する少なくとも1つの要素からなる作業マスターテーブルと、前記要素に関連する危険源およびそれに関連付けられた危険情報が規定されている危険源マスターテーブルとを記憶手段に格納するステップと、
作業情報を入力する入力ステップと、
前記作業マスターテーブルおよび危険源マスターテーブルを参照して、前記入力された作業情報に基づき、該作業情報に関連する少なくとも1つの要素を選択し、該選択した要素に関連する危険源とその危険情報を含むリスク評価データを演算手段を使用して生成するリスク評価データ生成ステップと、
を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、医療・介護に従事する作業提供者と患者・被介護者(享受者)との双方を考慮した総合的なリスクをマネージメントすることが可能となる。また、既存の外部システムで作成されたクリニックプランや電子カルテなどの情報を利用することによって、低コストかつ簡便にリスク評価データを自動作成することが可能となる。また、人手やコストをかけずに、ISO9001で要求される文書記録・評価の手段として、簡易かつ簡便に医療・介護プラン(いわゆるクリニックプラン、ケアプランなど)を自動作成したり、外部システムで作成済みの医療・介護プラン、電子カルテ、電子介護情報を入力することによって、自動的にリスク評価データを生成することも可能となる。また、危険源評価書として使用できる文書やデータを出力することも可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以降、諸図面を参照しながら、本発明の実施態様を詳細に説明する。図1は、本発明の一実施態様による医療・介護リスクマネージメントシステムの基本的な構成を示すブロック図である。図に示すように、医療・介護リスクマネージメントシステム100は、記憶手段110、入力手段120、リスク評価データ生成手段130、出力手段140、編集制御手段150、受信手段160、及び更新手段170を具える。医療・介護リスクマネージメントシステム100は、CPU,DSPなどの演算手段(図示しない)をさらに具える。医療・介護リスクマネージメントシステム100は、インターネット、WAN、LAN、有線・無線電話回線網などのネットワーク200を介して端末122、クリニックプラン作成・管理システム、ケアプラン作成・管理システム、電子カルテ作成・管理システム、PDA、携帯機器、携帯電話などの外部システム210と接続されている。また、端末122の一部は本システム100に直接ローカルで接続されている。
【0022】
記憶手段(装置)110は、医療・介護における複数の作業、および、該作業に関連する少なくとも1つの要素(各要素、および、要素の単位数量あたりの標準数値などの標準統計情報を含む)からなる作業マスターテーブル112と、要素に関連する危険源およびそれに関連付けられた危険情報が規定されている危険源マスターテーブル114とを格納している。さらに、記憶手段110は、医療・介護の各要素に関連する設備(MRI、CT、PETなどの検査装置、手術室、検査室、入院ベッド、特殊な手術器具(ガンマナイフなど)、介護器具など)、人員(執刀医師、麻酔科医師、看護士、検査技師、介護士など)の少なくとも1つのスケジュール情報を含むスケジュールマスターテーブル116を格納している。
【0023】
さらに、記憶手段110は、作業享受者属性情報(患者、被介護者などの数および、体重、身長、嗜好、性格などの属性)および/または作業提供者属性情報(医師、看護婦、ケアスタッフなど数および体重、身長、嗜好、性格、ストレス、勤務状況などの属性)を含む、人的属性情報118をさらに格納している。出力手段140または編集制御手段150が、スケジュールマスターテーブル116を参照して、リスク評価データを編集して、医療・介護プランとして出力することもできる。例えば、医療現場などでは、検査装置、空きベッド、執刀医師、麻酔科医師などのスケジュールによって、クリニックプランの具体的な日時が左右されることになるが、本発明によれば、これらのスケジュールに応じた、より実用的である具体的な日時が設定されたクリニックプランや介護プランなどを簡易かつ自動的に作成することが可能となる。また、反対にこのようにして具体的な検査装置や作業提供者や享受者などのスタッフや患者を割り当てたクリニックプランに基づき、より実態に即した信頼し得る高精度なリスク評価データを作成することもできる。
【0024】
入力手段120は、ローカル接続された、或いはネットワークを介して接続された端末122を介して評価対象の作業情報(リスク評価の対象となる作業、例えば「虫垂切除の入院作業」など)の名称およびその数量(この場合は人数)を入力する。リスク評価データ生成手段130は、記憶手段110に格納されている作業マスターテーブル112を参照して、入力された評価対象の作業情報に基づき、評価対象の作業に含まれる各要素およびそれらの数量を含む中間データを演算手段(例えばMPU、CPUなど。図示せず)を使用して生成する。さらに、リスク評価データ生成手段130は、生成された中間データに基づき、危険源マスターテーブル114を参照して、危険有害要因データおよび事故型分類データを含むリスク評価データを演算手段を使用して生成する。即ち、中間データに含まれる情報と合致する情報が危険源評価データの項目に含まれる場合は、その項目を抽出し、さらにこの項目に関連付けられている事故型分類データの項目も抽出して、これらをリスク評価データとする。
【0025】
出力手段140は、リスク評価データを編集し、ISOなど国際標準に準拠する形式の危険源評価表(書)として端末122に出力したり、或いは、エクセルなどの表計算アプリケーションに準拠したファイルとして出力したり、さらにはプリンタ(図示せず)に印刷したりする。
【0026】
受信手段160は、外部システム210から、電子カルテシステムなどから作業(病名或いはそれに対する治療策、例えば、虫垂切除手術など)および作業に含まれる各要素(術前検査、血液検査、術後検査、入浴、食事、など)の含む電子カルテ情報などをネットワーク200を介して受信する。即ち、本システム100は、受信手段160を使って、外部システム210から、評価対象の作業および作業に含まれる各要素の実数値を含むデータをネットワーク200を介して受信し、これを入力手段の入力に使用することができる。このように外部システムから評価対象の作業情報を受信する構成をとれば、何ら人手を介さずに既存の外部システム上に構築された、医療・介護関連データを有効活用して、煩雑で膨大な労力がかかるリスク評価(典型的には危険源評価表)を容易かつ自動的に作成することが可能となる。
【0027】
図2は、本発明による労働安全衛生マネージメントシステムにおける処理ステップの一例を説明するフローチャートである。図に示すように、ステップS11では、端末122のキーボードやシステム100の入力手段120は用いて、作業情報を入力する。この入力を受け、システム100は、ステップS12にて、作業マスターテーブル112および危険源マスターテーブル114を参照して、入力された作業情報に基づき、作業情報に関連する少なくとも1つの要素およぼその付属データ(数量など)を中間データとして選択/生成する。ステップS13にて、リスク評価データ生成手段が、選択/生成した中間データ(要素)に関連する危険源とその危険情報を含むリスク評価データを演算手段(図示せず)を使用して生成する。ステップS14にて、出力手段140(或いは編集制御手段150)が、リスク評価データを編集、例えば、国際標準(ISOなど)に準拠する危険源評価表、品質管理用の評価表、或いは、作業提供者側用の、即ち労働安全衛生用の評価表、作業享受者側用の評価表などのフォーマットに編集する。ステップS15では、出力手段140が、編集したデータや表をプリンタ、端末などに出力する。
【0028】
図3は、リスクマスターテーブルのツリー構造インターフェイス(医療用)の一例を示す図である。図に示すように、ツリー構造部Trのルートには「医療行為」と「介護行為」があり、例えばルート「医療行為」は、内科、外科、小児科などのように分野別の子要素を持つ。そして、内科はさらにその子要素として「点滴」B1、「ガーゼ交換」B2などを持つ。ここで点滴B1をクリックすると、リスクテーブル部Rtの要素として点滴リスクRt11,Rt12が表示される。Rt11が患者(作業享受者)のリスクであり、Rt12が作業者(作業提供者)のリスクである。
【0029】
同様に、ガーゼ交換B2をクリックしてもガーゼ交換リスクRt21,Rt22が表示される。リスクテーブルには、準拠させたい国際標準や編集して出力したい項目や管理表などに応じて、発生状況(事故型分類)、発生要因(危険有害要因)、重大性、発生の可能性、作業頻度、評価値、ランク、防止対策、作業を行う者の項目があり、それぞれ、文章、数値、記号、ランキング記号などの情報を持つ。また、リスクテーブルはイラストなどの図式表示部があり、理解し易いユーザインターフェイスとなっている。このツリー構造インターフェイスは、編集可能であり編集を所望する箇所をクリックして情報を修正したり、イラストを差し替えたりすることが可能である。本願発明によるシステムはこのリスクテーブルをマスターとして参照してリスク評価データを作成する。
【0030】
図4は、本発明によるシステムで出力した医療・介護リスク評価書の一例(医療用)を示す図である。図4の(a)に示すように、この場合には点滴とガーゼ交換に対しての医療リスクが集計されて表示されている。この医療・介護リスク評価書は、医療行為を受ける側(即ち患者や介護を受ける者)のリスク評価書として使用することもできるが、看護士、介護者、医師などの労働者側の労働安全のリスク評価書としても使用できる。例えば、図に示した搬送時のつまずきは、看護士のけがにもなり得るし、搬送されている患者のけがになり得る。また、この医療・介護リスク評価書は、ISO9001の教育用資料としてもそのまま利用することが可能である。図4の(b)は、要素「手術」について看護士のリスクを評価した表である。このように、本システムによれば、様々な視点でリスク評価を行うことが可能となる。
【0031】
図5は、本発明によるシステムで使用するインターフェイスで用いるツールボックスの一例を示す図である。本システムで使用するインターフェイス(例えば、リスクマスターテーブルのツリー構造インターフェイス)の図式表示部にこのツールボックスのイラストを選択して貼り付けることができる。
【0032】
本発明によるシステムで使用する要素別に前提要素情報を規定した表の一例を下に示す。表に示すように、前提要素情報パターン1では、「abcdef」という1つのクリティカルパスの順序しか生成することができない。前提要素情報パターン2の場合には、2つの順序パターンを生成することが可能であり、パターン3の場合には5つの順序パターンを生成することが可能である。これら生成した順序パターンをラウンドロビン方式で順番に選択してプランを作成しても良いが、後述するように医師や設備などのスケジュール情報に基づき最も効率的な順序パターンを選択することが好適である。
【0033】
【表1】

【0034】
下の表は、本発明によるシステムで出力した(或いは外部システムから作業情報として入力される)医療・介護プランの一例を示す表である。この表は、通常の虫垂切除手術に関する医療プランであり、本システムは、虫垂切除手術という名称だけの対象医療・介護情報に基づき、当該手術に関連する術前検査や手術などの要素を抽出して、それらの前後関係に基づき医療プランを作成する。表に示すように、手術の一般的な一連の医療行為の要素としては、少なくとも1回の術前検査、麻酔や消毒などの複数の術前処置、手術、点滴や抜糸などの複数の術後処置、経過観察などの診察、少なくとも1回の術後検査から構成される。通常は、各要素は前記のような時間的前後関係を持つクリティカルパスを形成するため、各要素で前後を入れ替えることはできない。しかしながら、例えば、要素「術前検査」はさらに詳細には血液検査、CTに分かれているが、これらは通常は順番を前後させても問題がないので、CTなどの希少な検査機器のスケジューリングがうまく機能するようにCTと血液検査の順序や日時を決定する事が好適である。
【0035】
【表2】

【0036】
プラン作成の際には、スケジュールマスターテーブルを参照して、執刀医、麻酔医、CTなどの人的、設備的な資源の空きスケジュールに基づき、実際の日時スケジュールが記載された医療・介護プランを本システムが自動で作成することが可能である。また、この医療プランが確定した場合には、この医療プランで消費される人的、設備的な資源が当該日時には割り振り済みである情報をスケジュールマスターテーブルに登録する。
【0037】
下の表にスケジュールマスターテーブルの一例を示す。表に示すように、人員や設備別に、空き(利用可能資源であることを示す)、割り振り済み、休日などのスケジュール情報が規定される。また、既に資源が割り振られた場合には、該当する項目に割り振り先のプラン番号を記入しておくことが好適である。
【0038】
【表3】

【0039】
また、本システムでは、例えば、麻酔や点滴を伴う医療行為の場合には、対象者の属性情報として、性別、体重、年齢などがあれば、これらの情報に基づき、必要な麻酔薬剤量、点滴量、回数、頻度が規定されたマップを参照して医療・介護プランに含ませることも可能である。例えば、男女別で小児、子供、成人など規定したマップを用意しておき、これら患者属性情報に基づきマップを参照して各要素での詳細を決定することができる。また、医療処置(行為)の他の属性情報に基づき、例えば、対象部位別に規定されたマップや重傷度別に規定されたマップなどを参照して、各要素で必要とされる属性情報(数値、頻度、薬剤の種類など)を本システムは自動的に医療。介護プランに含ませることも可能である。
【0040】
図6−8は、本発明によるシステムで出力した医療・介護プランの一例(医療用)を示す図である。或いは、図6−8のデータを作業情報として入力して、これに基づき、直接、リスク評価データを作成してもよい。図に示すように、これはそれぞれ患者用および病院用のクリニックプランであり、同時に、ISO9001での記録文書として使用できる。また、図7に示すように、発生可能性があるリスクはチェックボックスが表示されており、実際に事故が起こった場合にはこれらのチェックボックスをクリックしてチェックを追加して簡易に事故報告ができる。また、新たな事故をこの表に追加する編集機能を具える。図8は、作業者(作業提供者)のリスクを編集して抽出した表である。このように、本システムによれば、様々な形式の評価表を出力することが可能である。
【0041】
図9は、医療の現場において経験した患者(作業享受者)に対する事故・ヒヤリハットを集計した図である。図10は、医療の現場において経験した医療作業者(作業提供者)に対する事故・ヒヤリハットを集計した図である。本システムは、これら実際の事故、或いは、実際に経験したヒヤリハット事例を含むリスク実績データを入力する入力手段を含むため、この図のような集計表を実績データとして出力したり、入力されたリスク実績データに基づきリスク評価マスターテーブルを更新したりすること可能である。
また、図11は、本システムによって虫垂切除入院に関して集計された事故(リスク)の集計内訳を示す図である。
【0042】
上記説明や参照図面は医療作業を対象としたものであるが、本発明は介護作業に対しても同様に適用可能である。図12は、リスクマスターテーブルのツリー構造インターフェイス(介護用)の一例を示す図である。図13、14は、本発明によるシステムで出力した医療・介護プランの一例(利用者用/作業享受者用、院内用/作業提供者用)を示す図である。図に示すように、これはそれぞれ患者用および介護事業所用のケアプランであり、同時に、ISO9001での記録文書として使用できる。
【0043】
図15は、本発明によるシステムで編集・出力した介護リスクの一例(作業提供者用)を示す図である。図に示すように、デイサービスという作業において、作業提供者は、介護時の転倒、腰痛などのリスクがあることが分る。
【0044】
図16は、本発明によるシステムで出力した介護リスク評価書の一例を示す図である。図17は、介護の現場において経験した、利用者(作業享受者)に対する事故・ヒヤリハットを集計した図である。図18は、介護の現場において経験した、作業者(作業提供者)に対する事故・ヒヤリハットを集計した図である。図19は、本システムによってデイサービスに関して集計された事故(リスク)の集計内訳を示す図である。このように、本発明は介護用に用いることが可能である。
【0045】
外部システムから送信される電子カルテ情報、電位介護情報、クリニックプラン、ケアプランなどは、予め外部システムにおいて、本システムに対応したフォーマットに変換したり、対応フラグを付加したりした後で送信することが望ましい。対応フラグの一例を挙げる。
D15:医師15人
N50:看護士が50人
P75:入院患者75人
PP1=65kg,170cm,胃潰瘍,温厚
PP75=90kg,180cm,盲腸,神経質
ND8:人間ドック受診8人
MOP9:虫垂炎除去手術9人
【0046】
本システム100は、構文解析手段および/または形態素解析手段(これらは図示しない)をさらに具える。本システムは、外部システム210から受信した作業情報に、本システム用にフォーマット変換されていない「生の電子カルテ情報やクリニックプラン」などが含まれる場合には、構文解析手段や形態素解析手段によって、「生の電子カルテ情報やクリニックプラン」を構文解析や形態素解析を実行することによって、患者の病名や実行した作業や、これから実行すべき作業(検査、手術など)、および、患者や医師などの人的属性情報(体重、身長、性向、既往歴など)などを抽出し、これらを利用して、リスク評価データを作成することができる。
【0047】
上述してきたように、医療・介護の分野では、患者や利用者などの作業享受者の属人的データ、例えば、既往症、感染症、暴力的性癖、セクハラ的性癖、体重過多、高齢などの人的ファクターは、医療・介護の作業の品質や労働安全衛生の危険因子に強く影響を及ぼす。同じく、各作業提供者の属人的データ、例えば、体重、性別、身長、体力、ストレス耐性、既往症(腰痛履歴、アレルギーなど)、作業履歴(過剰業務、長時間勤務など)、などの人的ファクターも医療・介護の作業の品質や労働安全衛生の危険因子に影響を及ぼす。従って、このような人的ファクターを反映させることによって、その施設や組織の総合的なリスクを適正に評価することが可能となる。この属人的データは、個々人の正確な情報があればなお良いが、必須ではない。例えば、介護施設では、入浴サービスを受ける人で体重70kg以上の作業享受者の人数などといった情報であってもよい。さらには、作業提供者の性別、体重などの属人的データがあれば、入浴サービスに対して、作業提供者、作業享受者の双方の属人的データを考慮した、より適正なリスク評価や作業品質の評価を行うことが可能となる。特に、介護サービスは力仕事が多く、普通の対格の男性であれば容易にできる作業であっても、女性の場合には極めて重労働であり、リスクが高い作業となるものがある。従って、男女(性別)という属人的データも極めて有効なデータとなる。
【0048】
本願発明者らは、このような事実に着目し、作業提供者、作業享受者の人的属性情報を記憶手段に保持しておき、これらの情報を利用したより、適正かつ正確なリスク評価データを出力することを可能とする。即ち、本発明によれば、よりきめの細かい医療・介護のリスク評価データなどが自動作成でき、医療・介護品質および医療・介護労働安全衛生の質の向上ができる。
【0049】
本発明を諸図面や実施例に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形や修正を行うことが容易であることに注意されたい。従って、これらの変形や修正は本発明の範囲に含まれることに留意されたい。例えば、各部、各手段、各ステップなどに含まれる機能などは論理的に矛盾しないように再配置可能であり、複数の手段やステップなどを1つに組み合わせたり、或いは分割したりすることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の一実施態様による医療・介護リスクマネージメントシステムの基本的な構成を示すブロック図である。
【図2】本発明による労働安全衛生マネージメントシステムにおける処理ステップの一例を説明するフローチャートである。
【図3】リスクマスターテーブルのツリー構造インターフェイス(医療用)の一例を示す図である。
【図4】本発明によるシステムで出力した医療・介護リスク評価書の一例(医療用)を示す図である。
【図5】本発明によるシステムで使用するインターフェイスで用いるツールボックスの一例を示す図である。
【図6】本発明によるシステムで出力した医療・介護プランの一例(医療用)を示す図である。
【図7】本発明によるシステムで出力した医療・介護プランの一例(医療用)を示す図である。
【図8】本発明によるシステムで出力した医療・介護プランの一例(医療用)を示す図である。
【図9】医療の現場において経験した患者(作業享受者)に対する事故・ヒヤリハットを集計した図である。
【図10】医療の現場において経験した医療作業者(作業提供者)に対する事故・ヒヤリハットを集計した図である。
【図11】本システムによって虫垂切除入院に関して集計された事故(リスク)の集計内訳を示す図である。
【図12】リスクマスターテーブルのツリー構造インターフェイス(介護用)の一例を示す図である。
【図13】本発明によるシステムで出力した医療・介護プランの一例(利用者用/作業享受者用、院内用/作業提供者用)を示す図である。
【図14】本発明によるシステムで出力した医療・介護プランの一例(利用者用/作業享受者用)、院内用/作業提供者用)を示す図である。
【図15】本発明によるシステムで編集・出力した介護リスクの一例(作業提供者用)を示す図である。
【図16】本発明によるシステムで出力した介護リスク評価書の一例を示す図である。
【図17】介護の現場において経験した、利用者(作業享受者)に対する事故・ヒヤリハットを集計した図である。
【図18】介護の現場において経験した、作業者(作業提供者)に対する事故・ヒヤリハットを集計した図である。
【図19】本システムによってデイサービスに関して集計された事故(リスク)の集計内訳を示す図である。
【符号の説明】
【0051】
100 医療・介護リスクマネージメントシステム
110 記憶手段
112 作業マスターテーブル
114 危険源マスターテーブル
116 スケジュールマスターテーブル
118 人的属性情報
120 入力手段
122 端末
130 リスク評価データ生成手段
140 出力手段
150 編集制御手段
160 受信手段
170 更新手段
200 ネットワーク
210 外部システム
B1 点滴
B2 ガーゼ交換
Rt リスクテーブル部
Rt11 点滴リスク
Rt21 点滴リスク
Tr ツリー構造部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
医療・介護における複数の作業、および、該作業に関連する少なくとも1つの要素からなる作業マスターテーブルと、前記要素に関連する危険源およびそれに関連付けられた危険情報が規定されている危険源マスターテーブルとを格納する記憶手段と、
作業情報を入力する入力手段と、
前記作業マスターテーブルおよび危険源マスターテーブルを参照して、前記入力された作業情報に基づき、該作業情報に関連する少なくとも1つの要素を選択し、該選択した要素に関連する危険源とその危険情報を含むリスク評価データを演算手段を使用して生成するリスク評価データ生成手段と、
を有することを特徴とする医療・介護リスクマネージメントシステム。
【請求項2】
請求項1に記載の医療・介護リスクマネージメントシステムにおいて、
前記リスク評価データを編集して、国際標準に準拠する危険源評価表として出力する出力手段、
をさらに有することを特徴とする医療・介護リスクマネージメントシステム。
【請求項3】
請求項1または2に記載の医療・介護リスクマネージメントシステムにおいて、
前記作業情報が、
電子カルテ情報、および/または、電子介護情報を含む、
ことを特徴とする医療・介護リスクマネージメントシステム。
【請求項4】
請求項1または2に記載の医療・介護リスクマネージメントシステムにおいて、
前記作業情報は、クリニックプラン情報および/またはケアプラン情報を含み、
前記リスク評価データ生成手段は、
前記危険源マスターテーブルを参照して、前記入力された作業情報に含まれるクリニックプラン情報および/またはケアプラン情報に含まれる少なくとも1つの要素を選択し、該選択した要素に関連する危険源とその危険情報を含むリスク評価データを演算手段を使用して生成する、
ことを特徴とする医療・介護リスクマネージメントシステム。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の医療・介護リスクマネージメントシステムにおいて、
前記作業情報は、作業享受者属性情報および/または作業提供者属性情報を含む、
ことを特徴とする医療・介護リスクマネージメントシステム。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の医療・介護リスクマネージメントシステムにおいて、
前記出力手段が、
作業享受者のみに対する危険源とその危険情報を含むように前記リスク評価データを編集し、出力する、
ことを特徴とする医療・介護リスクマネージメントシステム。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の医療・介護リスクマネージメントシステムにおいて、
前記出力手段が、
作業提供者のみに対する危険源とその危険情報を含むように前記リスク評価データを編集し、出力する、
ことを特徴とする医療・介護リスクマネージメントシステム。
【請求項8】
医療・介護における複数の作業、および、該作業に関連する少なくとも1つの要素からなる作業マスターテーブルと、前記要素に関連する危険源およびそれに関連付けられた危険情報が規定されている危険源マスターテーブルとを記憶手段に格納するステップと、
作業情報を入力する入力ステップと、
前記作業マスターテーブルおよび危険源マスターテーブルを参照して、前記入力された作業情報に基づき、該作業情報に関連する少なくとも1つの要素を選択し、該選択した要素に関連する危険源とその危険情報を含むリスク評価データを演算手段を使用して生成するリスク評価データ生成ステップと、
を有することを特徴とする医療・介護リスクマネージメント方法。
【請求項9】
医療・介護リスクマネージメント方法をコンピュータに実行させるための医療・介護リスクマネージメントプログラムであって、
医療・介護における複数の作業、および、該作業に関連する少なくとも1つの要素からなる作業マスターテーブルと、前記要素に関連する危険源およびそれに関連付けられた危険情報が規定されている危険源マスターテーブルとを記憶手段に格納するステップと、
作業情報を入力する入力ステップと、
前記作業マスターテーブルおよび危険源マスターテーブルを参照して、前記入力された作業情報に基づき、該作業情報に関連する少なくとも1つの要素を選択し、該選択した要素に関連する危険源とその危険情報を含むリスク評価データを演算手段を使用して生成するリスク評価データ生成ステップと、
を有することを特徴とする医療・介護リスクマネージメントプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2009−110414(P2009−110414A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−283837(P2007−283837)
【出願日】平成19年10月31日(2007.10.31)
【出願人】(501263809)株式会社コンピュータシステム研究所 (26)